路上の建築から学ぶ建築の可能性 −路上生活者の生活思想から始まる建築実践を通じて−
Possibility of Architecture , Learning from Street Architecture - Through Architectural Practice Based on Life Thought of Street People -
松岡 大雅 Taiga Matsuoka
はじめに 狛江の家
3
路上生活者の家ギャラリー
4-9
フィールドワークノート Research1
新宿駅西口
10-
山岸奨学金 研究計画書
Research2
大阪あいりん地区
Research3
川崎〜武蔵小杉
Research4
多摩川〜二子玉川
Research5
加藤さん 1(等々力)
Research6,7
釣り + 加藤さん 2
Research8
新宿駅
Research9
加藤さん 3
Research10
狛江 1
Research11
狛江 2
Research12
狛江 3
Research13
狛江 4
Research14
狛江 5
Research15
狛江 6
Research16
狛江 7
Research17
狛江 8(1 泊目)
Research18
狛江 9(2 泊目)
Research19
狛江 10(3 泊目)
Research20
狛江 11
Research21
狛江 12
Research22
加藤さん 4
Research23
狛江 13(4 泊目)
Research24
狛江 14
Research25
狛江 15(5 泊目)
Research26
狛江 16
Research27
狛江 17(6 泊目)
Research28
狛江 18
Research29
狛江 19(7-9 泊目)
ゴミ(=資源)ネットワーク ネットワークマップ
68-
12 のネットワーク
路上生活メソッド
24 の建築方法論
76-
12-13 14-15 16-17 18-20 21-22 23-24 25-26 27-29 30-31 32-33 34 35 36-37 38-39 40-41 42 43-44 45 46-47 48-49 50 51-52 53 54 55 56-57 58-59 60-62 63-67
70-71 72-75
78-83
狛江の家ギャラリー
84-92
おわりに
93
Building By ReBuilding 第 4 刷によせて
94-97 98
はじめに 狛江の家 本プロジェクトでは、日本の都市空間で暮らす路上生活者の生活を読み解きながら、 建築的な思想や手法を学び、再度ヒューマンスケールの建築設計を行った。 新宿(東京都) ・あいりん地区(大阪府) ・多摩川河川敷(東京都+神奈川県)の路上生 活者を半年間かけリサーチしてきた。特に等々力の多摩川河川敷で路上生活を送る加藤さ んには何度もヒアリングをさせていただきながら、路上生活における建築手法から生活思 想までを学ばせていただいた。加藤さんはぼぼゼロ円で生活を送っている。家も例外では なく、ほぼゼロ円で建設をしてそこに暮らしている。構造となっている鉄パイプは近所の 引退した鳶さんから。壁や屋根に使われているシートは花火大会やお花見の後に回収した もの。床やテーブルとかで使われている木材は建設現場から譲り受けたもの。それらを施 工するための工具や針金などは燃えないゴミから収集したもの。このように加藤さんの資 材集めの方法論は見事に確立されている。 このように加藤さんのヒアリングを通して学んだことを参考に、自分も燃えないゴミを 漁り、建設現場を回り、工具を拾い、建築に必要なものをかき集めた。その後、加藤さん の家よりも 7km 上流に位置する狛江市の多摩川河川敷の敷地を選び、実際にそこを拠点 に生活を送りながら自らの住居をブリコラージュした。家の構造となる部分には、河川敷 の構造物を活かしながら、建設現場の大工さんから頂いた端材や解体屋さんから譲っても らった廃材を利用している。また、工具はのこぎりしか手に入らなかったため、釘打ちは ハンマーの代わりに河原に転がっていた石で行なっている。施工開始から試行錯誤をし、 2週間ほどで夜間の寒さから身を守れる寝室を完成させた。その後、寝室だけでは日中の 活動が十分にはできないので、立って活動することを想定したリビングリームをデザイン した。材料が足りないことや、施工に手間取ることは日常的なことで、建築の授業のよう に思い描いた通りに形が再現されるのは難しいことだった。さらには時々、国土交通省の パトロールに捕まり事情聴取を受けた。ちゃんと働きなよ、と父親世代のパトロールの人 に促された日もあった。リビングの施工を終えた頃、 パトロールの人から退去を命ぜられ、 河川敷での生活を始めてから約 1 ヶ月後に解体・撤収を行い、私の路上生活は終了した。 このリサーチブックは、本プロジェクトで自分が行ってきたフィールドワークや資材集 め、施工などを時系列にまとめたのち、完成した家に用いた資源のネットワークを俯瞰し、 自らがどのような制約と気づきの中でブリコラージュ的に家を構築していったかをメソッ ドとしてまとめている。全てが嘘偽りのない路上のリアルであり、建築の可能性だとぼく は本気で思っている。まだまだまとめきれていない部分もあるが、様々な解釈ができてし まう本プロジェクトのどっちつかず感を楽しんでもらえたら何よりだと思っている。
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フィールドワークノート
路上の建築を知るために、路上生活者のリサーチをしてきた。この 分野には、偉大なる大先輩坂口恭平氏がいるが、フィールドワークで 分かることは同じだとしても、 感じることは違う。ぼくはぼくの足で、 ぼくの目で見たことだけを、感じるままに記述したのがこのフィール ドワークノートだ。 ただひたすら路上生活者が多いエリアに行き、チャンスがあれば声 をかけて、といった様に進めていたフィールドワーク。その後、等々 力で加藤さんというとても優しくて知恵が豊富な路上生活者に出会 い、より建築的な路上生活論を知った。そこで得た知見を活かして、 1 ヶ月ではあるが、自分も路上生活を行い、0 円で自分の家を建てて みた。 日々の体験を振り返りながら、日記調に残していったこの5万字を 超えるフィールドワークノートを俯瞰することで、新たな気づきが得 られるだろう。
Research1
のと、ガードレールにいろいろな機能を持たせるこ
西口地下広場
とができるようだ。比較的空間をカスタマイズして いる例が多い。写真は電話ボックスと該当までの一
日時: 2018.5.27(日)
畳くらいのスペースを家にしている。日中のリサー
1:00 - 5:00
チをしていないのでまだわからないが、 先ほどの 「モ
場所: 新宿駅周辺
バイル・ホームレス」よりか場所への依存が高い。
天気: 晴れ(18 - 20°C)
また、新宿の西側(都庁周辺)は比較的静かなた め、ホームレスにとっては閑静な住宅街となってい
土曜日の終電に乗って新宿に向かった。
るのだと思う。
小田急線の最終電車のため西口改札口は 閑散としていて、少し静かな都市を感じ ることができる。 今回の目的はひとまず夜の都市の様相を
小田急の地下改札を出て早速、ホームレスを発見
探ること。そして、今後のリサーチ手法
した。手前の肌色の高級感あるタイルは小田急の場
や場所などを改めて考える気づきを獲得
所。そこから奥のグレーのゾーンがどうやら自由に
することであった。
寝泊まりできるスペースのようだ。
西武新宿
5 月もあと少しで終わり、夜でもそこまで冷え込 むことはないためか、かなり軽装備だ。日中はこの エリアはサラリーマンや買い物客などでごった返 し、そこにホームレスの姿はない。ここで寝泊まり する人たちは「モバイル・ホームレス」と言えるか も知れない。
自分にとって新宿のホームレスのイメージはこ こだった。日中のこの場所で何度かキツイ匂いのす るホームレスを見たことがあったからだ。 しかしながら、今日の夜は数人しか寝ていなかっ た。写真をみれば一目瞭然だが、この大ガードをく ぐると繁華街だ。この雑踏は生活には向いていない 2 時間くらいかけて新宿駅周辺を 1 周したあとに、
のかも知れない。
再び西口地下広場に戻ってきた。2 時間前に比べて ホームレスの数は増えていて、ざっと 100 人はこの 広場で一晩を過ごしている。雨風を凌ぐことができ
歌舞伎町+新宿 2 丁目
るいい環境がここにはあるのだろう。多くの人はダ
ここはもうなんというか、ホームレスと関係がな
ンボールを下に敷き、その上に寝袋か毛布をまとっ て寝ている。
い。 (と今の所思っている。 ) 2:00 くらいの歌舞伎町と新宿 2 丁目はホットス ポットだ。とにかく人が多いし、とにかく明るい。 都市を観察するという点においてすごく面白かった
東京都庁の近く
(実際小 1 時間歩き回った)が、今回はそれには触 れないことにする。
新宿南 新宿の新しくできた施設といえば、バスタ新宿や NEWoMan だろう。これらができたことによって、 新南口はとっても綺麗だ。ここではまた違う形態の 路上生活があった。 それはバス待ちの路上生活だった。ホームレスと 地下広場から都庁方面に移動すると、高架下に
はまた違うため、とりあえずは分けて考えることに
点々とホームレスの家がある。高架下は雨が防げる
するが、 「ワンデイ・ホームレス」とでも呼べるか
12
もしれない。
一部のホームレスはダンボールの上から傘を広 げている。雨からも守れるし、なんだか心理的に熟 練している感が出ている。ホームレス的なファサー ドの考え方かもしれない。写真にはないが、ブルー シートを天井にかけた家もあった。
1 フロア上がるとそこにはタクシー乗り場がある のだが、ここの椅子でもたくさんの人が寝ていた。 雨風は凌げるし、近くに綺麗なトイレもある、さら には警備員がいるため治安もいい。ただし誰もダン ボールで作られたような家を持たない。 「ワンデイ・ ホームレス」どうやら忍耐で生きているのかもしれ ない。
駅
最近できただけある新南口の施設は、ランドス
駅で寝られたらどれだけいいだろう。公共交通
ケープやパブリックスペースの考え方がしっかりさ
機関の深夜の公共性はなかった。シャッターは閉ま
れている。たくさんのベンチ、綺麗な間接照明、心
り、その寝心地が良さそうな空間は明かりがついて
地よい自然がある。だけど、今や定番の寝させない
いるだけの虚空だった。気になったので、駅前で座
ための突起があったり、とても意地悪だ。 (この辺
り込んで何時にシャッターが空くのかを確かめたと
のことについてはまた別で書きたい。 )
ころ、JR は 4:00 で私鉄が 4:20 だった。 (4:20 にホー ムにいったものの、泊まっている小田急線の電車の ドアは一向に開かず、ぼくはホームで寝ていた。 )
夜の新宿についての雑感 ホームレスは集まって住む。意図せずとも、都市 は優しさと厳しさがアンバランスに撒き散らされて いる。新宿で言えば、ホームレスにとっては西側が 睡眠に適した場所だった。一方で、 「ワンデイ・ホー ムレス」にとっては南側が生き延びるには適した場
新宿西口(小田急ハルク) 今回歩いている中で、もっともホームレスが多 かった私有地がこの小田急ハルクだった。道路に面
所だったのかもしれない。そしてそういったホット スポット的な場所は限られているがため、ホームレ スは集まって住む。おそらく、集まることによって 守られる治安もあるのだろう。
する 1 階は、入り口のくぼみが良質な空間を生み出
新宿は思った以上に流動的な生活スタイルだっ
し、2 階のショーウィンドウ沿いは少し飛び出た庇
た。この人たちの生活思想を知るには、日中の動き
がちょうど雨を防ぐ様子だった。かなり作り込まれ
にも目を凝らす必要がある。また、多摩川のホーム
たダンボールハウスが多く、古くからの居住地の可
レスとは何が違うのか、そういったところも分析し
能性がある。
たいと思った。 13
山岸学生プロジェクト支援制度 研究計画書 1
路上の建築から学ぶ建築設計の可能性
所属:小林博人研究会 学部:環境情報学部 学年:4 年
- 路上生活者の生活思想から始まる社会的建築実践を通じて -
研究の概要 本研究では日本の都市の路上生活者の生活を読
研究の背景と 思想 現在、建築に限らず、日本全体として 縮小社会に向けた舵取りが必要な時代を 迎えている。そしてその舵取りを担って いく世代が私たちと言える。空き家問題 を例に挙げると、現在日本の空き家率は 13.5 %(総 務 省;2013)で あ り、今 後 人 口 減 少 を 避 け ら れ な い 日 本 に と っ て、 たくさんの新築を作ることは合理的では ないはずだ。しかし、家は人々が「生き 延 び る た め」と い う 側 面 よ り も、「人 生 のステータス」として資本や権力などの象徴とし て捉えられることが多い。一方で、都市の最下層 に漂着しホームレスになった人たちは「生き延び るため」の住宅を自ら作り出して、所有している。 建築では、半世紀以上前に「建築史の正系から 外れていた建築の未知の世界を紹介することに よって、建築芸術についての私たちの狭い観念を 打 ち 破 る こ と を 目 指 し」(バ ー ナ ー ド・ル ド フ ス キー;1964)ヴァナキュラー建築をまとめ、その 後の建築界に多大な影響を与えた。ここでは「自 然」の中で生きる人々が生み出してきた建築につ いてルドフスキーが取り上げてきた。その後、ル フェーブルが、都市は資本主義が生み出した「第
二の自然」(アンリ・ルフェーブル;1974)とい う視点を提示し、都市空間と資本主義の関係性に ついて整理をした。日本では 1990 年代以降から、 「第二の自然」である都市の中に生活空間を求め、 時に住居を建ててきたホームレスによる「ヴァナ キュラー建築」が生み出されてきた。本研究では、 「建 築 家 な し の 建 築」か ら 半 世 紀 以 上 が 経 っ た 現 代 の「ヴァ ナ キ ュ ラ ー 建 築」の リ サ ー チ を 行 い、 空間として提案する。この一連のプロセスを通し て、今後の縮小社会の建築を考える一助となるこ とを目指す。
新宿 ヴァナキュラー建築
み解き、建築的な思想や手法のみならず、その生 活思想を学び、再度ヒューマンスケールの建築設 計を行い住宅を問い直す。ホームレスと呼ばれる 住居を持たない人たちも、生きるために必要な空 間を作っている。その空間は実際に生きるための 必要最低限をクリアし、住む人を持っているのだ から、住居と呼べるのではないだろうか。このミ ニマムな空間とそこから見て取れる居住者の生活 思想から、家とは何かを再構築することを目指す。 Homeless(ホ ー ム レ ス) か ら 導 か れ る Home-ness (ホームネス=「家性」)を定 義していく。 最終的には仕組みとして、 ホームレスのための住宅シ ス テ ム を 私 が 設 計 し、社 会 にインストールすることを 試みる。
氏名:松岡大雅
2 0 1 8
▲東京都庁前高架下の家
▲新宿駅西口地下広場の集落
▲小田急ハルク前の傘の家
山岸学生プロジェクト支援制度 研究計画書 2
研究の方法 本研究は大きく 3 つのフェーズに分かれる。 1. リサーチ 4 月∼8 月 都市のホームレスの生活や住居についてリサー チを行う。 (参照;新宿 2018ヴァナキュラー建築) 住 居 へ の 工 夫 や そ の 際 に 使 わ れ て い る 材 料 な ど、 実際に現地で観察・ヒアリングを行う。それらリ サ ー チ の 結 果 は 都 度 記 述 し、web 上 (https://note.mu/taigamatsuoka)で ア ー カ イ ヴし て い く。こ れ ら の 作 業 を 通 じ て、「Home -ness」を定める。 2. 設計・モックアップ 8 月∼11 月 「Home-ness」から 1:1 のヒューマンスケー ルで建築を設計する。建築の材料としては路上生 活 で 手 に 入 り や す い も の を 用 い る。そ の モ ッ ク アップをもとに自身が路上生活を行う。そこでの 住環境についての実践的なフィードバックを通し て、設計をデベロップする。この作業を繰り返し 行 い、最 終 的 に は「Home-ness」か ら 導 き 出 さ れる最適解を求める。
3. 仕組みのインストール 11 月∼1 月 これらの建築のデザインを完成させ、ホームレ スとともに施工をする。材料は都市で求められる も の で あ る た め、一 度 設 計 の 技 術 を 身 に つ け た ホームレスが他者の建築を施工することが可能に なり、都市の広域にホームレスの家が普及してい く仕組みを実装する。
期待される効果 このプロジェクトによって、ホームレス自身が 住環境を改善していけるようになる。こうするこ とで、プロフェッショナルの関わりが途切れたあ とでも、自律的に住居をつくり続けることができ る。ま た ホ ー ム レ ス が 建 築 に 興 味 を 持 つ こ と に よって、就労する機会を獲得できるかもしれない。 加えて、この手法は被災地や途上国における家づ くりにおいても応用可能であり、都市から派生し て様々な空間的社会問題への適応が進めば、諸問 題の解決につながることが期待される。
フィードバックを得る
リサーチ / フィードバック を元に設計する リサーチする
2
プロジェクトのフロー とシステムのモデル
1
自ら使ってみる
ホームレスと協働で 施工する
3
都市の住環境が改善される
ホームレスが作り方を覚えて 他のホームレスにも教える
Research2
まだ朝方のため空いている商店は少ないが、予想
新今宮駅を降りて
よりも多くのお店が道路沿いに軒を連ねている。
日時: 2018.9.4(火)
7:00 - 8:00
場所: 大阪・あいりん地区 天気: 晴れ / くもり(26°C)
福島の設計・施工プロジェクトの合間を 縫って、弾丸で大阪に向かった。 関西を中心に猛威をふるった台風 21 号 が直撃するというタイミングでの大阪訪
中はたくさんのホームレスの住居がフェンス沿
問になったため、朝方のちょっとの時間
いに360度配置されていて、真ん中のスペースは
しかリサーチに費やすことができなかっ たが、とても有意義なものとなった。 そもそもあいりん地区は日本一危険な街 とも言われていて、ホームレス・ドラッ グ・犯罪などで溢れかえっていると言わ れている。それなりにビビりながらのリ サーチとなった。人が多い場所や生活風
新今宮駅を降りて駅の南側に向かうといきなり
空いていた。まるで先住民族の集落のようであり、
要塞のような建物が現れる。これが「あいりん労働
真ん中のスペースでは彼らの団欒が起こっていた。
福祉センター」だ。ここの1階部分には日雇い労働 者と雇用主がたくさん集まって、異様な雰囲気を出 している。
(人が多かったために写真撮影は断念した。 ) 日中には炊き出しが行われているとか。今回は台 風接近で 10 時には JR が止まるというアナウンス を聞いていたためその様子を見ることができなかっ
景が映り込むような場面では写真が撮れ
たが、公園という場所が彼ら公共の中心となってい
ていない部分が多い。
ることはとても素晴らしいことだと思った。渋谷の みやした公園とどっちが素晴らしいんだろうか。
警察署
あいりん労働福祉センターの周りにはたくさん のホームレスが路上を占拠していた。前回のリサー チで、新宿のホームレスはあまり物を持たず、移動 型のスタイルを取っていることに気づいた。一方あ いりん地区のホームレスは定住型なのだろう。多く の物を自分が占拠する敷地に積み上げていた。新宿 だでは見ることのできなかった白物家電などを所有 しているホームレスもいた。 四角公園の周りをうろついていると、パトカーが
四角公園へ
やってきた。 「え、もしかして事件!?」と怯えたのだが、実 は公園の隣には警察署があった。警察署といっても 周りは高い塀に囲まれていて、パトカーが中に入る 際には写真のような鉄扉をその都度開け閉めするほ どの厳重さだ。 調べたところ、この付近では度々警察と市民 (ホームレスとか危ない人たち)の衝突が起こって きたらしい。 警察署はおそらく10階建でこの付近では群を
この場所の朝は早いのか、たくさんの人たちが
抜いて高い建物となっている。別に監視塔の役割は
路上をウロウロしている。おそらくほとんどの人が
ないと思うのだが、その存在感と街のパワーバラン
ホームレス、もしくはドヤ(安宿)に住んでいる生
スはパノプティコンを思い起こさせる。
活保護受給者だろう。 16
けれども仕事もあれば仲間もいる。彼らの社会の枠
自転車の存在
組みでみると、 (決して良いとは言えないが)循環 しているのだ。 卒制完成までに再び訪れる機会があるかわから ないが、次回はドヤに泊まり、ここの生活を経験す る必要があるだろう。
今後に向けて 新宿・あいりん地区などを見ていくと多くの移動 あいりん地区の路地はだいたいこのような姿を している。一泊 500 円〜 1000 円くらいで泊まれる
型ホームレスの住居では、ダンボールやブルーシー トが用いられていることが多い。
安宿が立ち並び、道にはたくさんの自転車が停めら
一方で本格的な定住型ホームレスの住居は木材
れている。おそらく自転車撤去のような取り組みは
が使われていたりする。今回のリサーチではより家
行われていないのだろう。そもそも誰の自転車なの
らしい家に出会うことができたことが収穫であっ
だろうか。行政による管理があまりされていない地
た。
区なのだろう、と感じることができる場であった。 今後は、自宅からの距離的にリサーチがしやすい 場所、かつ定住型の住居が多い場所として多摩川河
再び駅の方面へ
川敷に注目しようと思う。
いたって普通のマンション(というより団地みた い?)な建物もあったが、その1階部分にはホーム レスが屋根を利用して家を作っていた。主となる材 料はダンボールであったが、普通の敷布団を持って いる方もいた。 このまま駅の方に向かい、今度はあいりん労働福 祉センターの中を通ってみることにした。日雇い労 働者に若い人はおらず、ぱっと見で 60 歳以上のお じさんたちが多い。 「兄ちゃん、仕事あるで!」 ぼくはまだ若いし体つきがいいからだろうか、た くさん仕事の紹介を受けた。本当はリサーチとして 1日くらい労働してみるのもありだな、と思ったの だが、今日中に大阪を出なきゃならなかったため仕 事は断ってきた。 どんな現場に連れてかれるのかわからないし、何 をさせられるのかわからないけど、ここに住む人た ちはそれで生計を立てているのだ。 あいりん地区は新宿なんかよりもはるかにたく さんのホームレスがいたし、危険に満ちていた。だ 17
Research3
(原広司) 」にも「Architecture without Architect
地形を活かす
(Bernard Rudofsky)」にも取り上げられていない が、それに準ずる魅力がある気がする。改めて自分
日時: 2018.10.7(日)
がホームレスの住居に興味を持った原点を思い出さ
15:00 - 17:30
せてくれた。
場所: 多摩川河川敷(神奈川県)
川崎 - 武蔵小杉
天気: 晴れ(31°C) 10 月にしては珍しい暑さのなか、川崎 駅に向かった。今回は多摩川ホームレス のメッカとも言われている下流域の河川 敷をリサーチするのが目的だ。なんせ初
川崎駅から北に 10 分ほど歩くと、多摩川の河川
めての多摩川下流域であるため、できる
敷に出ることができる。このあたりでは土留めの上
だけ広域をリサーチし、どこにどんな感
に列をなしてホームレスの住居が建ち並んでいた。
じでホームレスが生活しているのかを確
近くには中高層のオフィスビルやマンションがあ
かめたい。 今回選んだルートは川崎駅から多摩川に 出て、武蔵小杉の近くまで河川敷を上っ ていくというものだ。ぼくの想像以上の ホームレスの集落が形成されていた。河 川敷はスゴいぞ。
り、河川沿いの幹線道路を挟んだあっちとこっちの ギャップを感じた。
レギュレーションを活かす この集落を散策していると、インパクトドライ
ここでは行政によって造られた構築物をうまく
バーの音が聞こえてきた。家がまさに施工している
利用して家が建てられていたのがとても興味深かっ
瞬間に遭遇したのである。 これはびっくり。 そのおっ
た。河川敷の堤防を含めたランドスケープをうまく
ちゃんに色々と話を聞いてみると、まさかのこれは
生かし、河川の氾濫からも身を守りつつ、とても合
倉庫らしい。そしてそのおっちゃんは元大工で依頼
理的な集落を形成している。家と道路の間には低木
主のために作っているだけらしい。そして「ぼくら
が植わっている花壇のようなものが置かれ、緩衝地
はこんなところ住まんよ」と言い放った。
帯が設けられている。これによって一定のプライバ
つまりはホームレスが黙認される状況の中で、そ
シーは守られていそうだったし、その花壇にロープ
の黙認するというゆるいレギュレーションを活か
を巻きつけることで家を補強していた。家へのアク
し、自分の倉庫を建設してしまう人がいるのだ。確
セスは比較的人通りの少ない(というか一般人が通
かにレンタル倉庫は高いし、これなら無料だけど、
りにくい雰囲気になっている)道路から 2m ほど降
ええ〜いいのぉ・・・って思っちゃった。冷静に考
りた歩道からで、入り口にはハシゴがかけられてい
えて見たら、ホームレスがよくて、これがダメって
る。
いるロジカルな根拠はないんだけど。
本当によくできている集落だ。 「集落の教え 100
18
ともかく、ホームレスのためのセーフティネット
を転用することが可能だということ(多分ぼくもそ
こっている。
れに近いことをこの後やる) 。 そういったレギュレー ションを活かすことで、都市の風景は新しく耕され る(≒荒れる)可能性があるということ。この辺の
第二京浜の橋の下で
気づきは面白い。 (写真撮っていい?って聞いたら、持ち主がいる ときにしてくれ、って言われたから写真は撮ってい ない。だけどいつか持ち主の話を聞いて見たい。 )
対岸の集落 対岸の東京側を見渡すと、河川敷のグラウンドの 奥(川より)に集落が形成されているのがわかる。 正直神奈川側よりも東京側の方が多い気がした。 近くに寄ってみないとわからないことが多すぎ 橋はホームレスにとって重要なストラクチャー である。雨風がある程度防げるし、目隠しにもなっ ている。第二京浜の陸橋の下には橋下のスペースを 活かして生活する家があった。 3面が堅牢な鉄筋コンクリート造の家だ。上は幹 線道路だし、構造は間違いなく最強。入り口はあら ゆるテキスタイルで覆われていた。人工斜面地に段 ボールを何重にも敷き詰め、その傾斜をフラットに るが、このように川辺に隣接する形で多くの集落が
していた。
形成されていることは伝わってくる。次回は対岸を リサーチしてみようと思う。
グラウンドの先 第二京浜周辺から武蔵小杉まで、広々としたグラ
上流へ向かう
ウンドやサイクリングロードが河川敷を構成してい
川崎駅周辺での収穫に満足して、その調子で上
る。サイクリングロードは河川敷の全景を見渡すに
流へ向かい河川敷のサイクリングロードを歩く。と
はもってこいの高台なのだが、ホームレスが住んで
ころがここからめっきりホームレスの数が減ってし
いる川辺周辺には背の高い雑木林があってあまり把
まった。というかほぼゼロだ。
握することができない。 この日は日曜日だったので、サイクリングを楽し む人やサッカー・野球少年たちがたくさんいた。も う少し上流ではあるが、河川敷沿いの街で生まれ 育った自分としてはとても馴染みある風景だし、大 好きな空間だ。 子どもたちが野球・サッカーしている脇を抜け て、川辺の茂みに接近すると、そこにある生活の様 子がなんとなく見えてくる。
すごい茂みの先にポツリと一軒の家があったり するものの、集落を形成している様子はなかった。 ホームレスの収入源は様々だが、空き缶拾いが多い し、生活に必要なものも買うのではなく拾ってくる ことがほとんどらしい。そう考えると、都市部に人 口が集中するということなのだろう。加えて彼らの 移動手段は基本的に自転車だ。そう考える立地の良 し悪しが河川敷にもあって、自然と「都市化」が起 19
茂みの中に何かあるな、と思ったら番猫(?)が
河川敷の中でも、グラウンドとかがある堤防より
現れた。普通に近付こうとすると、尻尾をピンと立
は低いけど、川よりも高い位置のことを高水敷(こ
て威嚇モードに入られてしまった。潜在的にネコへ
うすいじき)というらしい。これがどれくらいの広
の謎の恐怖心があるぼくは遠目から観察してその場
さがあるか、がホームレスが集落を作る際のポイン
から退散することになった。ここで面白かったのは
トになっている気がした。
ネコの餌を入れるお皿が置いてあることだった。こ
ここは特に高水敷が狭い地帯で、ホームレスの住
のネコは明らかに飼いネコで、飼い主はここに住む
居が全くない。川の構造として、高水敷が狭いとこ
ホームレスに違いない。
ろ=河川による侵食が激しい、から危険ということ
こことは違う場所だが、ネコを抱えて可愛がって
なのだろうか?
いるホームレスがいた。彼らのペットとしてノラネ コが飼われているんだなぁ。そしておそらく結構な 癒しとして生活を支えてくれている存在なのだと思 う。今度はそういったインタビューもしてみたい。
すごすぎる生垣 ただ、高水敷が狭い地帯を抜けると、その後は普 通にホームレスが生活している。ここはもう武蔵小 杉が目前のエリアだが、このようにたくさんのホー ムレスが生活をしている。
今後に向けて 河川敷がホームレスの生活地帯として利用され ここもグラウンドの先なのだが、もはや庭のよう
ていることが明確になった。そして彼らが周辺環境
でもある。背の高い雑草は水平に柵が作られ、右手
をうまく活用して、集落を形成していることがわ
から川辺に出られるようになっている。手前には柑
かった。自分が求めていた光景は河川敷にあった。
橘系の実がなっていたり、この住人が植えたに違い
今回は河川敷全体を見渡してみる、というふうに
ない樹木が見て取れた。
神奈川側の長距離のリサーチを行った。同時に東京
居住空間は左手に青く見えるところで、川辺に出 る道からアクセスができる。
側の様子は対岸からでもよく観察できた。中でも六 郷土手周辺・第二京浜の下流側には面白そうな集落 ができあがっていた。今後リサーチしたいのは
先月家族旅行で行った軽井沢には、こんな感じの ランドスケープに近い別荘がたくさんあった。 川崎駅近くや陸橋下の構築物を利用した家と同
・全域を見るという目的で、武蔵小杉〜登戸のエ リアを歩く ・集落を解像度をあげて観察するという目的で、
様に、周りの自然環境を利用した家としてとても優
今回注目した2ヶ所に行く
秀だし、本当にすごいと思う。そしてこういう感じ
といった感じだろうか。
でうまく土地を分割して、この地帯では 1km 弱の
おもしろくなってきたぞ!
川辺に生活の様子が見て取ることができる。
川の形が生活を変えている?
20
Research4 日時: 2018.10.15(月)
15:30 - 17:30
場所: 多摩川河川敷(東京都)
多摩川 - 二子玉川
天気: くもり(21°C) 前回に引き続き、多摩川河川敷を上るよ
より下流と比べると
暗い遊歩道を歩く。
前回のリサーチと比べてみると、やや上流に行っ ただけでここまでも変わるのか、というくらいに ホームレスの姿が見えない。 今回は大きく丸子橋周辺(神奈川)と尾山台・等々 力周辺(東京)に集落をみることができた。しかし、 第三京浜を超えてから二子玉川までの 1km くらい は一切ホームレスの姿が見えなかった。
うにリサーチをした。前回のゴールが武 蔵小杉であったことと、今回は東京側を 歩くことを考え、多摩川駅から二子玉川
尾山台・等々力周辺
駅までの 5km ほどを歩くことにした。
丸子橋周辺 多摩川駅を降りて少し河川敷を歩いたところか ら、神奈川側の河川敷をみるとこのように集落が広
遊歩道が終わるとうっそうとした茂みが始まる。
がっている。この辺りは多摩川の川幅が狭く、対岸
というか遊歩道を通すことができないくらいに高い
からでも比較的どのような家になっているのか確認
草木が生えている。このような茂み(というのか藪
しやすい。
というのか)はホームレスにとっては最高の生活空 間だ。このような場所は前回のリサーチでも平間〜 向河原の間の河川敷でもみることができた。そして その茂みを切り拓くようにして、住居が建てられて いる。
前回のリサーチで見た家よりも広々とスペース を取っている印象があった。 中には増築を繰り返し、 3 軒くらいの小屋が連なったような家(写真右)を 確認することができた。これらの要因はよくわから ないが、後ほど出会った加藤さんの話では、上流ほ
写真のように、ホームレスの家なのか?と疑うほ
ど多くの昔から住む人たちがいるらしい。彼らもベ
どに整った入り口を持ってる家もあった。中は砂利
テランホームレスで、かなりの年月をかけてこのよ
が日本庭園風に敷かれたりしていたので、もうよく
うなリッチな生活をしているのかもしれない。
わからない。こんなの大学生が下宿している 1K の マンションよりもいいじゃないか! このように外からは見えない家が、この一帯に
薄暗さは彼らの住みやすさ?
は10軒くらいあるのではないだろうか。ただ、こ
しばらく歩いていくと、川沿いに遊歩道(アス
の入り口はびっくりするほどに入りにくい。勝手に
ファルトとかで整備されているわけではない)が出
入るのも気がひけるし、まだどこか恐怖心があって
現する。このような薄暗さはやや恐怖を感じるが、
入っていくことができない。
ホームレスにとってはこういった自然環境を活かし て生活を営んでいる場合が多い。というわけでこの 21
を進めるにあたって、彼らに「スバラシイモノ」を
加藤さん
提供することに意味があるのか、わからなくなって
その茂みが終わった先に、ゴミの山のような場所
いるのが現状だ。
があった。なにやらおじさんが作業をしてたので声 をかけてみると、雨が降ってきそうだからパラソル を広げている最中だそう。
例えばソーシャリー・エンゲイジド・アートの文 脈でぼくのプロジェクトが考えられないだろうか。 そんな作品が卒業設計で今まで現れたのかどうかわ からないが、コンセプトには親和性を感じる。こん なの建築じゃなくてアートじゃないか、と言われる かもしれないが、 「建築を考えるアート」と建築・ 建築家は果たして無縁だろうか。混迷しながらも制 作する中で何かを紡ぎ出したいと思っている。
優しそうな顔立ちで、年齢は60歳過ぎくらいだ ろうか。とても気さくで元気な方だった。 かなりの広いスペースに色々なものが置かれて いる。小屋があるエリア、パラソルのあるエリア、 茂みが開拓されてものを置きになっているエリア。 多摩川の桂離宮かと思わせるほど。 (それは流石に 冗談だけど) (加藤さんの時間のスケール感はわからないのだ が)ちょっと前までは 3 人でこの一帯に住んでいた らしい。しかし 2 人は施設に入り、今は一人で暮ら しているそう。茂みのエリアのホームレスとは友達 だと言っていた。 立ち話を十数分ほどすると、 「あ、加藤といいます。よろしく。 」 と名前を告げられ、その場は解散となった。 最後に名前を相手から言われたことは今までの リサーチの中ではなかったので、率直に嬉しかった し、もっと色々と聞いてみたいと思わせてくれる人 だった。加藤さんはこれからぼくの制作のキーパー ソンになってきそうな人だ。
今後に向けて やっぱり河川敷は面白い。色々な家があるし、あ の茂みでできた生垣の世界に入ってみたい。 今回お話できた加藤さんをもう一度訪問しよう と心に決めた。今月中にはビールでも持って行って 一緒に飲むことでもしようか。 (今日ちょうどビー ルの話もしたところだし。 ) 一方で当初の研究計画とは少しズレてきている ことも事実だ。ホームレスの家一軒一軒を見ている と、その素晴らしさに毎度驚かされる。彼らの家の 多くはもう十分なクオリティを持っているだろう し、彼らの多くは生活に満足をしている。リサーチ 22
Research5 日時: 2018.11.4(日)
14:30 - 16:30
場所: 多摩川河川敷(等々力)
加藤さん邸
天気: 雨(16°C) ホームレスの建築についての解像度を上
害の教訓を活かして今回は地面から 50cm ほど高い
3週間ぶりの再会
位置に家を建てようと計画していた。人工地盤とで
ダウンベストを着た加藤さんが、前回会った時と 全く同じ場所で立っていた。奥にはもう一人の男性 がいる。後から聞いた話だが、彼は近所で植木屋を 営む男性らしい。暇さえあれば加藤さんのところに 世間話をしにくると言っていた。 「加藤さん!お久しぶりです。松岡です!覚えて いますか?」
も言うべき加藤さんの家の土台はすでに鉄パイプで 組み上げられていた。 「この鉄パイプは?」 鉄パイプが街中で落ちていることなんて見たこ とがなかったため、どこから調達して来たのかとて も不思議に思ったのだ。 「これは近所の引退した鳶のおっちゃんから貰っ
げていくために、広域のリサーチではな
と前のめりに話しかけに行くと、ああ覚えてる
く「加藤さん」に注目したリサーチを行
よ!ってニコリと笑いながら言ってくれる。本当に
加藤さんは平然とそう答える。近所のおっちゃん
う。加藤さんは前回のリサーチで出会っ
覚えているのかはわからないが、とにかく気さくな
と仲がいいホームレスというのも驚きだが、それを
たホームレスの方であり、等々力駅から
人だ。
無料で貰ってしまう彼の人望は凄まじい。
多摩川に出たあたりに住んでいる。とて も明るく気さくな方であり、これからの ぼくのリサーチのキーマンとなるのでは ないだろうか、と思っている。
たよ」
家の部材がどこから供給されているのか、とて 今回のリサーチの目的はない。とにかく今は加
も気になったが、どれも全て貰い物らしい。工事現
藤さんと仲良くなって(打算的ではなくてぼくは心
場に落ちている木材は、大工さんに言えばくれると
から仲良くなりたいし) 、彼らの生活と家に触れる
言っていた。 「大工さんも産廃にしちゃお金がかか
ことを大事にしている。今日は加藤さんの生活に
るからね笑」と、加藤さんは建設業のシステムにも
ついてざっくりと話しながら(=非構造化インタ
明るいようだ。
ビュー?)楽しい時間を過ごせれば、 と思っていた。
優しさとして黙認する
新居を建てる
「でもな、新居とは言っても、そんな凄いのは作
加藤さんは新居の施工の準備を始めている。今
らないよ。 」
はまだ蚊がいて本格的な施工ができていないと言っ
加藤さん(ホームレス)とぼく(建築家)が合わ
ていたが、これからもう少したてば施工を一気に行
さればかなり凄いものが作れそう、とハッと思った
なっていくようだ。
のだが、加藤さんは凄いのは作らないと言う。その
ぼくは 10 月のリサーチで多摩川の河川敷の台風
理由は大きくて丈夫なのを作ってしまうと、国土交
被害を目の当たりにしていた。彼らの住居がひしめ
通省の「黙認」の範囲を超えてしまうからだと言っ
く川面沿いの低地には浸水の跡があった。加藤さん
ていた。なんと国土交通省の職員さんが毎日このエ
の住居もその被害を受けたという。前まで住んでい
リアを巡回してくるらしい。そして加藤さんは家を
た家はもう使い物にならないと言っていた。その災
新築しようとしていること、どんな仕様であるか、 いつ頃作るのか、そう言った ことを全て職員さんに伝えて いるらしい。 台風が来るときにはその職 員さんが貼紙をしに来てくれ るし、ダムの放水とかも知ら せに来てくれると言う。 この世の社会システムは ホームレスたちを救えている のか? と疑問に思っていたが、末 端の現場では以外にも優しさ を感じることができた。新宿 やあいりん地区でも同様に感 じたことだが、そこは社会の 最底辺と呼ばれる場所かもし れないが、そう言った人たち にも等しく人生があるし、コ
23
ミュニティ・人間関係がある。その中で生き延びて
ティスペースらしい。仲間たちがそこに集い、タバ
いるホームレスは、最もポリス的な動物と言えるか
コをふかし、世間話をするらしい。
もしれない。
ウナギとスッポン
お金の得かた
松岡くんはどこが田舎なの?と聞かれ、すぐそこ
そんな人のつながりで生きているように思える 加藤さんではあるが、 最低限のお金は必要なはずだ。 だって結構タバコ吸うし。お酒も飲むらしい。
の狛江ですよ!と答えると、狛江はウナギのいい漁 場だ!と熱く語ってくれる加藤さん。 今や国産の天然ウナギなんて超高級魚。そんなの が家から徒歩 10 分のところで獲れるの?って感じ
そんな加藤さんは金属を売ってお金を得ている と言う。いわゆる空き缶拾いが加藤さんの職業。早
だが、加藤さんのキャリアから考えるとこれは本当 の話だ。
い時は深夜から街に出て、ゴミ収集車がやって来る
ウナギは調理前に氷水の中に入れるといいらし
8:30 くらいまで拾い続けると言っていた。深夜から
い。仮死状態で動かなくなり、捌きやすいと。捌き
街に出るのは、一人暮らしの若者はゴミ収集車が来
方気になって今見たけど、こんなのできる訳ないだ
るよりも早く起きるのが苦手で、深夜にゴミ出しを
ろ。 。 。って感じだけど。
するためらしい。なんとも若者事情をわかってらっ しゃること。
それとたまにスッポンも獲れるかも、だそう。 スッポンは綺麗に洗って、そのまま茹でる。そして
空き缶拾いは他のホームレスとの競合だと言っ
また綺麗に洗って、肩や足のところの甲羅に切れ目
ていた。 「先に持ってかれちゃったら一文無しよ笑」
を入れて剥いでいくらしい。簡単に言うものの、難
と笑いながら言うが、どうやら加藤さんはそうそう
しすぎるだろう。 。 。
負けないらしい。加藤さんは10年以上この街に住 み、ほぼ毎日街に出て空き缶を集めているのだ。彼
困惑しているぼくに、加藤さんはちょっと待って
の視点で見た街はとてもユニークだろうし、この街
てな。と言って自宅の資材置き場を漁り始めた。な
の誰よりも解像度が高そうだ。
んと加藤さんはぼくに結構いい感じの釣竿をくれた
時にはゴミ袋をナイフで切り、そのまま空き缶を
のだ。 これでウナギとスッポンを捕まえてこい!と。
持っていくホームレスがいるらしい。そう言ったこ
とんでもないが、なんだか弟子入りした気分だ。
とをするとホームレス全体の街への信用が落ちると
次に加藤さんに会うためににはまず、釣りに行かな
嘆いていた。 加藤さんは常に空のゴミ袋を持ち歩き、
くてはならない笑
他のホームレスが粗相をしていたら注意し、自分の 持っている袋と交換すると言っていた。彼の人柄の 良さを本当に感じることができる。そしてそう言っ
これから
た場面を住人が見ていた場合には、加藤さんのファ
釣竿をもらい、それじゃ行ってこい、って感じで
ンになってくれるそうだ。そう言った日々の積み重
加藤さんと別れたぼくは、その釣竿を手に持ちなが
ねが功を奏して、いつも空き缶をくれる家もあるら
ら日曜日の家族連れで賑わう二子玉川へ向かった。
しい。というか空き缶以外にもいろんなものを貰っ ているとにこやかに話していた。
まずは釣りをせねばならない。ホームレスの生活 を知るためにも、 加藤さんに認めてもらうためにも。
空き缶以外にもダメになったフライパンなど、金 属があれば集めて、ある程度溜まったらそれらを売 りに行くと言っていた。金属全般を買い取ってくれ る会社があるらしい。 その会社は川崎にあるらしく、
スッポンの1匹でもサプライズで差し入れをしたい ものだ。 一旦建築は忘れて、ひとまずは釣りに没頭しよう と思う。 (これもリサーチだ)
なんと往復自転車で2時間かかると言っていた。加
とか言ったものの、 、 、
藤さん、70歳にして恐るべき体力だ。
やはり自分の生活圏内でどこまでの資材が手に
ただ、毎日行くわけではない。溜まってきたら行 くし、仲間が行く時にはついでに持って行ってもら うと言っていた。もちろん謝礼付きだ。そうやって 加藤さんは色々な面からもコミュニティを作り上げ ている。
入るのかは、リサーチをしてみる価値はある。 ・工事現場から廃材をもらうことは可能か ・朝のゴミ拾い(空き缶・その他使えそうなもの) はどんなものか は実験してみようと思う。
彼の家の玄関前にはキャンプ用の折りたたみ椅 子が整然と並べられていて、そこは一種のコミュニ 24
※一緒に釣りしてくれる人、募集中!
Research6 日時: 2018.11.10(土)
19:00 - 22:00
場所: 多摩川河川敷(狛江) 天気: 曇り時々雨(15°C)
Research7 日時: 2018.11.11(日)
16:00 - 17:00
場所: 加藤さん邸 天気: 晴れ(18°C) 前回いただいた釣竿を用いて、ウナギ釣 りに挑戦する。加藤さんからのアドバイ
れる気配もなく、初めてのウナギ釣りはボウズに終
エサは自然から
わった。
加藤さんからのアドバイスでは、エサは釣具店で 買うよりも自然から採った方が安上がりかつ、魚の 食いもいいとのこと。まずはドバミミズと言われる
再び加藤さんの元へ
一般的なミミズを捕まえるところから始める。
ぼくの思い描いていたビジョンでは、ウナギや
加藤さんにはその辺の土をひっくり返したらい
スッポンを持って加藤さんのところに報告に行くは
るよ。 と言われていたものの、 その辺の河川敷をひっ
ずだった。しかしながら、何も釣れない、っていう
くり返してもなかなかミミズが見つからない。自分
報告も悔しいけど話のネタとしてはいいものだな、
の幼少期の経験から、ミミズは畑の柔らかい土の中
と開き直って翌日さっそく加藤さんの元を訪れた。
にいたり、落ち葉下の湿った場所にいるような印象 があった。河川敷を一旦出て、西河原公園という隣
夕日が綺麗な時間帯に、加藤さん邸前のベンチ
接する公園に向かう。ツツジの低木の下にミミズが
に座る釣り人風のおじさんと、子猫の世話をする優
いそうなポイントを発見。さっそくスコップで掘っ
しげなおばさん。ぼくが到着して間も無くマウンテ
てみると、ドバミミズがすぐに7匹もゲットするこ
ンバイクで颯爽とやってきたおじさん。加藤さん含
とができた。
めて 5 人が偶然にも集うこととなった。 (やはり加 藤さんの人望は厚い。 )ホームレスの家の前で、加
ス通り、うなぎ針13号(¥578)を購
藤さんを中心に 4 人の一般人が集まっているこの状
入した。暗くなると危ないと思いヘッド ラ イ ト(¥1599) も 購 入 し た。 家 の 庭
況。リサーチ以前にぼくが想像してホームレスのイ
からスコップとバケツを持っていく。今
メージとはかけ離れすぎている。
回は加藤さんの指示通りに、試行錯誤し ながら釣ってみることを大事にした。
ウナギもスッポンも釣れませんでした。といっ て、 ぼくの家の庭で採れた柿を3つプレゼントする。 加藤さんは喜んで受け取ってくれたが、すぐさま他 に来ていた人たちにおすそ分けしていいか?と聞い て来る。ただでさえ、そんな裕福な食生活を送って いないだろうに、他の人とシェアしようという想い
本当にウナギはいるのか? エサの準備ができ、さっそくウナギを釣ってやろ うと意気揚々と河川敷に戻った。がしかし、釣り経 験がないぼくは、まずミミズの付け方に迷った。ド
はとても豊かさを感じる。 その後、どれくらいやったんだ?と聞かれ、ぼく は2時間くらいですかね。と答えた。 加藤さんは 10 日くらい通わなきゃダメだ。じゃ
バミミズは体長が10cm くらいの大きなミミズだ。
ないとウナギは警戒して食べてくれん。と笑いなが
どこに針を刺せばいいのか、どうやって針を通せば
ら言って来る。そして、ちょっと待ってな、と言っ
いいのか、何もわからないがとりあえず刺して川の
て家の資材置き場から仕掛けと針を持って来て、今
中に沈めた。
度はこれを使ってみな!とぼくに新しいアイテムを
加藤さんはテトラポットみたいな岸にある構築
持たせてくれた。
物にウナギが潜んでいると言っていた。テトラポッ
そして、そこからはベンチに座っていたおじさん
トはどうやら狛江付近には無かったが、写真のよう
に色々と釣りの極意について教わった。高度経済成
な護岸壁がある場所で釣りを試みた。
長の時に多摩川は汚染され、生き物は姿を消したら しい。でもそれから川は徐々に綺麗になり、たくさ んの魚たちが戻って来たと言う。そのおじさんは多 摩川の魚のことならなんでも知っているようだ。 子猫の世話をしていたおばさんだが、彼女はどう やら捨てられていた子猫をさっき拾ったらしい。な んて酷いことをする人間がいるのだろう。 途方に暮れていたところ、加藤さんのことを近く にいた人から聞いて、連れてきたという。加藤さん
90 分ほど粘るが、一向に竿はピクリともしない。 おそらく場所が悪かったのかもしれない。食いつか 25
の人脈は本当に広い。どうやら自分では飼えないら しく、加藤さんに任せようとのこと(それはそれで
無責任だなぁと思った。 )だが、加藤さんはとても 頼もしい。大丈夫だから!とおばさんを励まして、 育てることを即決していた。 日が暮れはじめ、徐々にみんな家に帰って行っ た。 最後に残ったのは子猫の世話をする加藤さんと、 釣り人のおじさん、そしてぼくだ。ぼくらはまだ釣 り談義をしていたが、 おじさんももう帰ると言った。 ぼくは最後に加藤さんに挨拶をした。 すると加藤さんは、 「この子(子猫)の面倒見な きゃいけないからさ、あんま話せなくてごめんな」 と人間のぼくのことも気遣ってくれている様子だっ た。なんて優しい人なのだろう。どんなデザインの スキルよりも、これこそサバイブする力だなぁと 思った。
釣りのリサーチに ... 加藤さんとのコミュニケーションはとても楽し い。ぼくの知らない世界に連れて行ってくれるし、 その世界はこれが卒業制作とか関係なかったら一番 興味がある世界だ。 しかしながら、これは制作を軸にしたリサーチ だ。今後は(加藤さんの家について探るために)釣 りをしながらも、もっと建築論に迫っていきたい。 同時に他の場所も開拓してみる必要もありそう だ。ヒアリングする分には、隅田川などに行ってみ る価値はあるだろう。とにかくどうやって都市のゴ ミを資源に転用しているのか、そのノウハウを探っ ていきたい。同時に、建設現場で出るゴミなど、そ ういったものを収集する作業もしていきたい。
26
Research8 日時: 2018.12.1(土)
16:00 - 24:00
場所: 新宿駅(主に西口) 天気: 晴れ(日中 13°C
利用しているのを目撃した。終電が終わると使用で
路上生活とトイレ
きなくなるが、都市空間には公共設備が多く、それ
若干風邪気味のため、まずは鼻をかむために ティッシュを探す。前見たときは、トイレットペー
らの力を利用しながら生活を営んでいる言えるだろ う。
パーをロールで持っている人が多かったため、地元 駅ではあるもののトイレに駆け込んでみた。
/ 夜 9℃)
移動と荷物 ぼくはリュックひとつの身軽な移動であるが、 ホームレスの方々は自分の寝床になるダンボールハ
プロジェクトについてだいたいの方向性 がたった。「都市のヴァナキュラー」 に
ウスや布団、さらには着替えといったある程度の大
ついて考察することを視野に入れ、そし
きな荷物を管理しなくてはならない。日中の西口地
て 自 身 が 定 義 づ け た 移 動 型・ 定 住 型 の
下広場はたくさんの人でごった返すため、そのまま
ホームレスの差異にも迫るべく、新宿と
放置しておくわけにもいかないし、ずっと持ち歩く
多摩川河川敷(狛江〜等々力)の2ヶ所
のも大変だ。そこでホームレスの人たちはかの有名
で制作行う。
な坂倉準三の建築をうまく利用している。
ということで、今回は半年ぶりの新宿に 行ってきた。 ・「移 動 型 路 上 生 活」 が ど の よ う な 生 活 をしているのかを知る(自分も持ち物に
なんの変哲も無い、よく公共空間にあるタイプの
制限をかけ、生活を感じる)
トイレには、このようにあらかじめ補充ができる装
・家をどうやって建てているのかを学ぶ
置がついている。
・新宿の資源を把握する の3本を大まかな目的としたい。
しかしながら、このトイレットペーパーは取り出 すことができない。使い切らない限り次のトイレッ トペーパーをスライドして挿入ができないシステム になっている。おそらく、トイレットペーパーを盗
ここは新宿西口地下ロータリーの中央の空き地
む人が多いのだろう。そのためのデザインだ。 (デ
(?)である。右手に見える岩みたいなのは人口の
ザインってなんだ?いったい?って思ったけど、こ
滝で、あまり目立たないが、小さな庭になっている。
こでは割愛する。 )
この道路を左手に進んでいくと、都庁の真下に出る という、新宿西口都市開発の軸線とも呼べるような 場所だ。 そこのフェンスにこのようにたくさんのものが
持ち物:観察セット(スケッチブック・
置かれている。これらは決してポイ捨てされたゴミ
ペン・コンベックス・スマートフォン・
ではない。ホームレスの荷物なのだ。フェンスに挟
スタビライザー・充電器)・防寒着(ダ ウンジャケット・タイツ) ・財布(定期券・
まっているダンボールはそのまま家になるし、スー
保険証・学生証・1000円) ・救急キッ
ツケースの中には布団や着替えが入っている。いわ
ト・リュック
ばここはホームレスの押入れだ。 同じようなトイレは新宿中央公園にも存在した。 全国的にこう行った「工夫」がされているのだろう。 横になれないベンチと同じような施策だ。
このように日中は荷物をこの場所に預けること によって、身軽な移動を可能にしている。 夜、広場にやってきたホームレスの方に話を聞く
ここでトイレについて、新宿と多摩川の違いを考
と、 日中はみんなそれぞれ時間を潰しているらしい。
える。想像できるように、多摩川は河川敷の草むら
図書館に行く人・公園でのんびりする人・高島屋の
はどこでもトイレである。加藤さんはよく、ぼくと
屋上でくつろぐ人など、 その過ごし方は多様らしい。
の会話中に背中を向けてその辺でおしっこをしてい る。一方で新宿はなかなかそこら中でトイレをして いい場所ではない。そうした都市空間の中では、こ
都庁とホームレス
のような公共のトイレが重要になってくる。ホーム
先ほど述べたように、都市計画上、新宿中央公
レスのために整備された訳ではないが、公園のトイ
園〜都庁〜駅の軸線はかなり重要なジェスチャーと
レや駅のトイレは綺麗につくられていて、清掃も行
なっているだろう。この軸線を基準として、北に1
き届いている。
本、南に1本の道路が走っている。このうち南の道
小田急線の西口地下広場にアクセスできる通路
路には、都庁の広場と大きな範囲で立体交差をする
にあるトイレは、多くのホームレスが夜の時間帯に
特徴的なエリアがある。ここが新宿随一のホームレ
27
スのメッカだ。
都庁付近にある移動型は、厳密に言えば移動もで きるが、基本的には建てっぱなしという点で特徴的 だ。これと対照的なのが、最初に述べた夜になると やってきて朝になっていくと去っていくタイプだ。 今回はそれの作り方をリサーチするために 21:30 〜 24:00 の西口地下広場をじっくりと観測した。 今回のリサーチで3種類の進化系統とも考えら れる移動型ダンボールハウスを発見した。 ①布団型→②囲型→③個室型 この流れはダンボールハウスの系譜として位置 付けることができるのではないだろうか。そしてそ の中でもとりわけ③個室型を展開しているおじさん
詳細にはリサーチできていないが、堅牢な構造体
に密着してみた。
を用いることはせず、ダンボールをメインに、ある 程度強度がありコンパクトな家をつくっている。ブ ルーシートや傘などといったビニール製の材料で、 ダンボールをカバーをしているのも印象的だ。
移動型ダンボールハウス (個室型)を施工する
写真の上部の鉄骨が支えているのは、都庁のふれ
今回密着させてもらったおじさんは、ヨドバシ
あいモールという広場だ。この一層上に上がるだけ
カメラが牛耳る西口の繁華街エリアにある洋服の
で、そこには近代的な広場が広がっていることがア
AOKI の入り口で本日の家を施工していた。
イロニーだ。ぼくにとってはこの地下のホームレス 同士のふれあいの方が俄然おもしろく感じるのだけ ど。
3種の移動型ダンボールハウス
だいたい同じサイズのダンボールを4つ持って いたおじさんは、それらのうち1つの底を閉じて、 そこに他の2つの箱を勝ち負けを交互につけながら 連結させていった。残る1つは入り口の壁として用 いるようだ。
完成。かと思いきやおじさんは家を離れどこかに 向かった。その先はオムライス屋さん。別にオムラ イスを食べるとかではなく、その店頭に出ていたダ ンボールがお目当てであった。23 時を過ぎた新宿 では閉店準備を始めるお店がちらほらと出ていた。 28
これらが閉店間際に出すダンボールを獲得するため
西口のラーメン屋さんの前にあるダンボール
に、おじさんは家を離れたようだった。
植栽の中に置かれる歩道を挟んで向かいにある 店舗のダンボール 持ってきたダンボールは、継ぎ目の上に置かれ、 隙間風を防ぐ役割を担っているようだ。また、入り 口付近にも新たにダンボールを敷き、床からの断熱 をさらに図っていた。
思い出横丁にもたくさんの資源がある このようにダンボールは都市の中で大量に消費 されている。とりわけ新宿のような商業エリアでは たくさんの梱包材がゴミとして捨てられている。こ れらのダンボールを転用して、ホームレスは生きて いるのだ。 このように③個室型であれば、風と視線、そして
そしてぼくも今回わずかながらダンボールを使
寒さをある程度凌ぐことができる。そしてこの進化
わせていただいた。観察時の座布団として使用した
系が都庁付近の集落とも言える。彼らはダンボール
が、とても暖かかった。地面の温度を感じなくて済
ハウスの周りにブルーシートでカバーをしたり、紐
むのは、この季節のとても大事なポイントだった。
を用いてより強固にダンボールとシートを繋いでい る。
今後の展望 ダンボールハウスに関していえば、作ってみるし
資源を探してみる
かないだろう。③個室型の発展系の模索や、都庁で
ここまでのリサーチで、繁華街のゴミの特性や、
集落を成している人たちへのヒアリングが必要だ。
ホームレスの生活の特徴から、基本的に家の資材は
そしてそれらの人々から制作についてアドバイスを
ダンボールであることがなんとなくわかってきた。
もらいたいと思う。
そこで、これからの制作を見据え、自分自身でダン ボールを探すことにする。先ほどのおじさんの施工 の観察からも、繁華街の夜はダンボールがたくさん 出ることはわかったのだが、ここに事例をいくつか 消紹介する。
29
そして同時に多摩川河川敷での制作も進めてい きたい。制作あるのみ!
Research9
夫なものは外に野ざらしにされている。
加藤さんの家
この写真で言えば右手の赤い椅子が置いてある
日時: 2018.12.2(日)
ところが玄関のような空間だ。そしてさらにその奥
15:00 - 16:30
にリビングルームがある。実測はしてないが、今回
場所: 多摩川河川敷(等々力)
のリサーチでだいたいの寸法感覚がわかった。
天気: 晴れ(14°C)
約2m が基本単位となって、空間を区切ってい る。残念ながら居室を拝見することはできなかった
うなぎは釣れていないものの、加藤さん
が、全貌は何となくわかってきた。
にしっかりと、模倣して制作したいとい
スケッチに方角を入れるのを忘れてしまったが、
う旨を伝えるのが今回の目的だ。
右手前方向が北だと言う。北風を凌ぐことと、キッ
結果的に今までにないくらいにじっくり と話し込む結果となったが、純粋にとて
等々力駅から徒歩 20 分くらいの河川敷に加藤さ
チンを安全に使うために、北側のファサードには普
も楽しかったし、加藤さんとの距離が一
んの家はある。ご覧のようにものが多い加藤さんの
通のブルーシートよりも丈夫な防炎シートを用いて
気に縮まった気がする。
家なのだが、 本人的には宝の山なのだと言っていた。
いる。そして日当たりのいい南面は居室という、何
どこに何があるかはだいたい把握しているらしい。
とも環境に適合した間取りである。
もうぼくは驚かないのだが、結構散らかっているの でパトロールの人にはいい加減片付けろと注意を受 けたらしい。加藤さんは笑いながら片付けが苦手だ
加藤さんの人生
と言っていた。
ぼくが訪れた時、加藤さんは大音量でラジオを聞 いていた。申し訳ないが、せっかく来たので入り口 で加藤さんの名前を3回くらい呼ぶと、ようやく返 事が返ってきた。 加藤さんはコーヒーでも飲みに行こうか、と言っ た。こんなところにコーヒーがあるんですか?と驚 くと、あるよ。と返す。 堤防の階段に腰掛けてて、とぼくに言い残し、加 藤さんは街の方へ向かった。まさか、とは思った が、加藤さんは当たり前のように両手に缶コーヒー
前回まではなかったブルーシートの屋根がとて
を持ってこっちに戻ってきた。
も目立つ。 どうやら増築したようだ。 そのブルーシー
ぼくは今までにないくらいに奢ってもらってい
トの下はまるで土間だ。たくさんのものが散らかっ
いのか、 、 、と悩んだが、ここは潔くお礼をいい、コー
ているが、だいたいこの辺にあるのは生活に必要な
ヒーをいただくことにした。 (おそらく加藤さんに
ものか、やや大切なものだ。濡れてしまっても大丈
とってこれは日常だ。贈与のシステムがここにはあ
30
る。ただの缶コーヒーでそのシステムをぼくとの間 に芽生えさせてくれる加藤さんの力は半端じゃな い。 )
加藤さんは完成したら見に行くから教えてね。と ぼくに言い、解散した。
堤防の階段に腰掛けて小一時間。加藤さんの人生 の話をベースに、ぼくたちはたくさん話した。生ま れた山梨県の話、育った横浜の話、やんちゃをやっ た話、仕事の話、 、 、 (ここには書けない話も) たくさんの話を聞いたが、なぜホームレスになっ たかは話さなかった。聞いたら答えてくれるだろう けど、ぼくも聞こうとも思わなかった。ぼくらは親 子みたいな感じだった。父さんが昔の武勇伝とか、 仕事の話とかを延々とするじゃない。加藤さんはま さにそういう父さんだった。 太陽が沈んでいき、徐々に河川敷に寒さがやって くる。コーヒーもとっくに冷めてしまって、この環 境の厳しさを肌身を持って体感する。 加藤さんはトイレに行きたくなったのだろう。そ ろそろ戻ろう、と言ってきた。そして歩いていると 茂みに入っていき、いつも通り堂々とおしっこをす る。
制作について 最後に、加藤さんのように路上生活者の人たちの 手法を真似て家を建てたいと進言した。加藤さんは 面白そうに話を聞いてくれた。もちろんやってみる といいよ、と。だけど、狛江(ぼくの住んでいる場 所)でやりな、と言ってくれた。そっちの方が収集 が楽だし、面白いよとのこと。 ぼくのメンターは加藤さんだ。 この加藤さんの言葉を信じて、ぼくはもえないご みの日の朝に町を巡回して、建設現場では資材のは し切れをもらう。こうやって彼らは家をつくってい るのだ。ここの建築家は図面も模型もつくらない。 あるもので家を建てる。それが楽しみであり、生き 抜くことでもあるのだ。建築家や職人さんやゼネコ ンの人たちにとって、建てるという行為は楽しみで あって生き抜くことであるのと一緒だ。 31
Research10 日時: 2018.12.5(水)
14:00 - 16:00
場所: 狛江市西部 天気: 晴れ(17°C)
Research9 で加藤さんから指南された
加藤さん的な建築論 加藤さんとのやりとりから、現時点での建築論 (資材を集める方法論)を箇条書きすると 1.(小さい資材は)もえないごみの日の朝にゴ
の家」をつくることができる。安価で買うことがで き、日本はある程度雨が降ることから、傘は大量生 産大量消費されている物の代表と言えるだろう。ダ ンボールと傘は都市空間で容易に見つけることがで きる。
ミ袋を漁る 2.(大きい資材は)建設現場の大工さんからも らう
傘を見つけ、そういったことを考えていたもの の、他の資材があまり見つからない。資材と資材を
3. 近所の仲良くなった人から譲ってもらう
繋げるためにヒモが利用できるだろう、と思ってい
めから、狛江市内の多摩川河川敷での施
4. 物々交換をして欲しいものを手に入れる
たので、 ヒモに注意しながら自転車を漕いでいたが、
工を行うことにした。
5. 落ちているものを拾う
結局1本も見つからなかった。
今回はその1回目として、狛江市西部を
といった感じだ。 (12/2 現在)
ように、狛江(ぼくの地元)での資材集
た。都市の中にある資源(=ゴミ)を探
この建築論にしたがって、加藤さんと同じく自転
す視点で街を動いてみることで見えてく
車で街を巡る。この日は特に2と5にフォーカスを
る世界がある。そして都市があまりにも 多くのゴミを生み出していることがわか
まだ決めつけるのは時期尚早かもしれないが、狛 江において、ただ落ちている、という状況はあまり
中心に自転車で動き回ってみることにし
当てながら行う。
ないのかもしれないと思った。
建設現場は資材の宝庫
る。
あらゆる場所で建築がつくられ
そんな中、今回は外装と内装が同時に進んでいる 一戸建ての現場に突撃してみた。職人さんたちがタ バコを吸いながら休憩をしていたので、そこに思い
ている
切って話しかけてみた。 (職人さんたちは結構見た
当たり前のことかもしれないが、あらゆる場所で 建築がつくられている現実にまず驚いた。今回巡っ
目がイカつく、正直話しかけるに相当な勇気が必要 だ。 )
た 8 キロくらいの範囲でも、 大小 8 の現場があった。 もちろん工程は皆違うので、解体作業中の現場、基 礎工事中の現場、外装・内装を同時にやっている現 場、塗装中の現場など、様々な現場がある。
現場の廃材とか捨てられたゴミとかを集めなが ら、小さな家を建てようとしている。 そう伝えて、廃材をくれないかとお願いすると、 職人さんたちは面白がりながら、そこにあるやつ
こう感じてみると、やはり建築周りのビジネスは
持って行っていいよ、と言ってくれるのだ。そこに
規模も範囲も大きい。この8キロの中で数億という
はフローリングや角材の端材がたくさんあり、自分
お金が動いているのだ。 資本を身をもって実感する。
が持てるだけのものを持って帰らせてもらうことに した。
日本は綺麗なのかもしれない とにかく自転車をゆっくり漕ぎながら、地面や周 囲を見渡して使えそうなゴミがないか探す。一番多 く見つかるのは傘だ。そこら辺のフェンスにかかっ ている傘がたくさんある。忘れ物か、ポイ捨てされ たものなのか、それは定かではないけれども、ほと んどゴミと認識してしまっていいだろう。おそらく 一般人にとってはゴミでしかない。
最初に話しかけたのは内装屋さんだが、ゴミを集 2018.5.27 @新宿 Research1 傘の家
めているぼくをみて、外装屋さんが声をかけてくれ
こういった傘を集めれば、上の写真のような「傘
た。
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どれくらいのサイズが欲しいんだい? ぼくが長ければ長いほどいい、と伝えると、じゃ あまた1週間後に来てくれと言ってくれた。それま でにとっておけたらとっておいてくれるそうだ。 というわけで写真のようにフローリングの端材 がだいたい1畳分くらいと、30cm くらいの角材が 5本手に入った。 ここからわかることは建設現場はたくさんのゴ ミが出ていることとも言えるし、今回のプロジェク トにおいて現場から物資をもらうことがかなり鍵に なってくるように思えた。次回は外装屋さんから資 材をもらうのと、他の地域もみていきたいと思う。
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Research11 日時: 2018.12.13(木)
14:30 - 16:00
場所: 狛江市西部+南部 天気: 曇り / 雨(10°C)
Research10 で 廃 材 を 快 く 譲 っ て く だ さった現場に再び行き、外装屋さんから 廃材をもらうことと狛江市南部も探索す ることが今回の大まかな目的だ。
現場の流れがある とりあえず現場に向かう。外装屋さんからどんな 材料がもらえるだろう、と心弾ませていた。外装屋 さんはどうやらぼくの顔を覚えていてくれていたよ うで、廃材ね、って言ってくれた。 (ヒゲの長さに 感謝だ) しかしながら、廃材は作業台の土台として使われ ていて、今から作業台を使うようだった。また明日 取りに来てくれ、と言われた。
狛江の航空写真
当然ではあるが、現場の流れにぼくは身を任せな
途中で予想よりも強い雨が降ってしま
くてはならない。職人さんたちは見た目のほか優し
い、採集を諦めることとなったが、今回
いが、 仕事にはとても熱心だ。とてもじゃないけど、
は道端に捨てられているゴミからも収穫
何か世間話をするような雰囲気ではなかった。今日
があった。
は引き上げてまた明日取りに来るといい、ぼくは現 場を後にした。
南部へ Research10 では狛江市西部を回ったので、今回
等々力の航空写真
は南部の方を巡ることにする。和泉多摩川駅を中心 に閑静な住宅街がたくさん建ち並ぶエリアだ。商業
写真の中の茶色い土地が農地だ。この比較だけで
は駅前の商店街くらいで、本当に静かなエリアだ。
わかるように、狛江には農地が多く、農業が盛んな ことがわかる。そして採集できた緑の棒だが、これ
またそのほかにも農地が多いのが特徴的だ。狛
は農業に用いる「イボ竹」と呼ばれる支柱だ。幹や
江産の野菜は東京の中ではなかなか有名なものもあ
茎を支えたり、ビニールシートをかぶせたりと言っ
るらしい。ぼくの知り合いでパクチー専門店のオー
た目的で用いられているものだ。今回は農家さんか
ナーをしている方が、狛江産パクチーを仕入れてい
ら大量にもらったのではなく、家庭菜園をやってい
ると昔言っていた。
る方から譲り受けたが、これはある意味で狛江の ヴァナキュラーと呼ぶことができる。 今後、農家さんにお願いをして譲ってもらったり などができれば、家の支柱としても十分な機能を果 たしてくれるだろう。 そしてこの等々力にはなく狛江にある素材を利 用するのは、都市のヴァナキュラー性について言及 できる手段にもなる。これはかなり重大な発見だ。
南部での収穫はこんなところだ。時間帯的にもゴ ミ出しの時間ではないので収穫は少ないが、面白い
路上に落ちているゴミから
アイテムたちだ。
それ以外にもアルミ製の壊れたサッシとまだま だ使える折りたたみ式の椅子を手に入れた。これら は路肩の植栽に投げ込まれるような形で捨てられて
農地の家
いたものを採集した。
今回の採集で気づいたのが、農地の可能性だ。加 藤さんは農地のことについては全く触れていなかっ
このサッシは長さが 1.5m くらいあり、梁などと
た。気になって Google Earth Pro で狛江の土地利
して有効活用できそうだ。ただ、このような長もの
用と等々力の土地利用をざっくりと俯瞰してみる。
を運ぶ際に自転車では大変不便だ。後ろに台車をつ けているホームレスを見かけることがあるが、あれ はものを運ぶ上では非常に大事な装置だということ がわかった。
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Research12 日時: 2018.12.14(金)
14:30 - 16:30
場所: 狛江市西部(建設現場)
河川敷の一軒家 まずは現場に行ったのだが、職人さんが作業中 だったので河川敷に向かった。Research6 で釣りを した際に見かけた家を見ようという狙いである。
天気: 晴れ(9°C)
今 回 は 前 日 の Research11 で 収 集 で き なかった建設現場の廃材を取りに行く。 同時に狛江市多摩川河川敷のホームレス の家を確認できたので、そのリサーチも 行った。今日は自転車を用いず、徒歩で 採集を行った。
今まで見た自立型の路上建築の中でも最大級の 大きさと言えるだろう。910mm くらいのパレット を所々に用いながら家が建てられている。まるで
ハウスメーカーの家ではかなり一般的で、シー
ツーバイフォー工法のようだ。左手に寝室、右手に
リング材で貼っていくだけで壁が出来上がるのだか
は居室がある。左手の寝室にだけブルーシートの屋
ら、工期短縮・工費削減に一役買っているようだ。
根がかぶさっている。木材はあらゆるところから集
その代償としてこのように端材が出て、産廃が生ま
められたのか、家の周りにたくさんのストックがあ
れる。大量生産がもたらすメリットは計り知れない
る。短い角材もうまく生かしながら、継ぎ接ぎをし
が、ゴミを増やしている側面を無視することはでき
ながら長い部材を作っている。材はビスで止められ
ない。
ていた。 長いものだと 2m 強のもの(写真下)から 1m 前 後のもの(写真中央)を合計 12 枚をいただいた。 中でも長いものから徒歩で運んでいたが、片道 15 分くらいを思いサイディングを運ぶのはかなり厳し い。2 往復したのち、 最後は車の力に頼らせてもらっ て、資材置き場に運び入れた。
また物資の運搬にはこのような自転車を用いて いた。自転車の後ろに台車のようなものを、ゴム チューブのようなもので固定している。これがあれ ばかなり長手の部材も運搬することができそうだ。 実際にこのあと運んだ外装材は大きくて重かっ た。 普通のママチャリに乗る範囲ではなかったので、 歩いて運んだが、かなり限界だった。 この日はあいにく住人の方は留守だったようで、 お会いすることができなかったが、いずれお話を聞 いてみたい。かなり建築的な素養がありそうな家で あった。
外装材を採集 今回手に入れたのはこんな感じのサイディング と呼ばれる外装材だ。普通の家だと防水シートの上 にこんなものが貼られ、仕上げとなっている。 35
Research13 日時: 2018.12.21(金)
8:30 - 10:00
/14:30-15:30
場所: 狛江市和泉本町 4 丁目 ,
中和泉 2 丁目 ,
東野川 2・3・4 丁目
もえないごみと資源 狛江市は2週間に1回、もえないごみの日があ る。火曜・木曜・金曜に隔週で決められた地域を収
ということで午前中はせっかく早起きして 13km
集車が回っている。今回は和泉本町 4 丁目 , 中和泉
も自転車を漕いだというのにボウズという結果に終
2 丁目 , 東野川 2・3・4 丁目のエリアが対象だ。当
わってしまった。 このままでは今日が勿体無いので、
たり前ではあるが、住人がゴミを出してから、ゴミ
この前たまたま電信柱に広告を載せていた土建屋さ
収集車がそれを回収するまでの時間が勝負だ。
んに電話をかけてみることにした。この土建屋さん は地域の解体業をよくやっているそうなので、産廃
/ 土建屋さん+河川敷
天気: 晴れ(7/14°C)
土建屋さんとの出会い
自分のイメージでは結束できるものと長めの部
に出す木材がたくさんあるはずだ。
材を探そうといった狙いを持ちながら採集に出かけ 今回は卒制での中間講評会を終え、いよ
た。2軒に1軒くらいの割合でもえないごみが家先
電話で出てくれた小林さんというおばちゃんは
いよ施工への最終準備段階へと移る。上
に出されている。この時期だからか、大掃除で出た
とても優しく、そんなら今から来なよ、っていうテ
記の地区でもえないごみの日である今日
10袋近くのゴミ袋がまとめて置かれているところ
ンションだった。
は 朝 か ら 自 転 車 を 走 ら せ て、 採 集 に 向
もあった。
かった。また午後には嬉しいことに、解 体をやっている土建屋さんと出会い、廃 材の一部をもらうことができた。ここに 来 て、 生 活 を す る 上 で 足 ら な い も の が 徐々に見えてきた。
早速土建屋さんに向かい、小林さんに挨拶をし
加藤さんは結束できるものの例として、農業で使 う針金と言っていた。そんなものがあるんだろうと 思っていたが、一向に見当たらない。色がついたゴ ミ袋に入れられてしまうので、外からその中身が見 にくくなっている。
た。 「ついこの前、木材はたくさん持って行っちゃっ たんだ。年末だからね。 」 どうやら山のようにあった廃材はもう捨てられ てしまったようだった。しかしまだ少しだが廃材が
また、長めの部材も見当たらない。みな、ゴミ袋
残っている。結局のところ産廃に出すのもお金がか
のサイズに合わせて折ったり、切ったりしているよ
かるので、ぼくが持っていく分には全く構わないと
うだった。今日は 13km も自転車で街を動いたが、
言っていた。
その中で見つかったもので一番長いのは傘だ。傘程
小林さんは自分が何か作ろうと思ってストック
度の部材しか見当たらなかったのは結構精神的に疲
しておいた木材もくれた。そしてまた日を置いて来
れる。
な、と言ってくれた。1 月のはじめには木造を一件 壊すらしい。
はじめて 30 分くらいで布団を出している家を見 つけた。布団は使える、 と思ったがとにかく大きい。 今持ってしまったら、これから採集を続けるのに支 障を来すことは想像がつく。 となれば、 ここからもっ と遠いエリアを見てから帰り際にもらって帰ればい いのだろうと思った。 自宅から離れた東野川のあたりを採集していた 時だ。青くて大きな車とすれ違った。それはゴミ収 集車であった。まずい。もうすでにゴミ収集車がも えないごみの回収をはじめてしまっていた。ぼくは 慌てながらも布団があったところに戻ってみたが、 もうそこには布団がなかった。 完全なる判断ミスだ。 先週、何時ころに収集車が来るかを見ていたら 13 時くらいだった時があったのだ。油断している と、せっかくの資源がゴミになってしまう。この教 訓はこれから活かそうと思う。 というわけで、今日ゲットしたのは写真の木材た しかし、もえないごみは面白いものがいっぱい取
ち。特に 2m くらいある2本の木材は貴重だ。寝室
れるかもしれないが、偶然の出会いを見つけに行く
の床下に根太のような形で仕込めそうだ。小林さん
ような感覚に近いのだと思った。
がくれた板は、ちょっとしたところを塞ぐ時に使え
加藤さんは置物とかももらってきては玄関先に
そうである。
飾っていた。そういった一期一会で生活を充実させ ているのだろう。家自体はやはり現場から端材をも らってくるのが一番だと感じだ。 36
Research12 のサイディングの時もそうだったが、 この大きな部材になると運搬がとてつもなく大変で
ある。河川敷の路上生活には台車付きの自転車の大 切さが身にしみてわかる。だが、そうもいかないの で、今回は 1km くらいの道のりを大きな木を持っ て歩いた。これが結構大変だ。
狛江市のルール 狛江市の河川敷には路上生活者が一人いる。今回 はその方に実際に建設していいかを聞くこと、そし てその時のアドバイスをもらいたいと思い、土建屋 さんの後に突撃した。 家を見たことはあるが、実際に本人と話すのは初 めてだったので、とても緊張したが、おじさんはと ても親切な方だった。加藤さんほどではないが、こ のあたりでのルールを教えてくれた。 ルール:橋から 20m 以上離れたところに家を建 てること どうやら橋の下には、水道・ガス・電気のインフ ラが仕込まれているようで、それらが損傷したら大 規模な影響を与えてしまうようだ。路上生活におい て火を使ったりなどが考えられるため、橋の下での 生活は禁じられている。そして橋から 20m 以上離 れたところに家を建てなくてはならない。 これは今のぼくにとって致命的なルールだ。だっ てまだ屋根がないから。 今日の当初の計画では、橋の下で寝ながら、ど んどんと家を建てようというのが狙いだった。しか しそれができなくなったのは計画変更せざるを得な い。 このおじさんを無視して橋の下で寝るようなこ とをしたら、いい関係性を築けないだろう。とにか く屋根の目処がつくまでは資材集めを徹底するしか なさそうだ。
というわけで とにかく屋根になるものを探しています。 傘を使ってみる、シートを探す、等ありますがど うなることやら。 27 日〜 31 日に何らかの形で建築化して、そこで 生活するということに踏み込んでみようと思ってい ます。寒波らしいので、気をつけなくては。
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Research14 日時: 2018.12.26(水)
15:15 - 17:00
場所: 狛江市多摩川河川敷 天気: 晴れ(12°C)
前 回 の Research13 で わ か っ た 多 摩 川 河川敷のルールに則り、場所を探してみ ようと思う。また建設現場を何箇所か担 当している兄の力も借りて、廃材を集め た。今回はついにシートも手に入れたた め、 あ る 程 度 の 屋 根 に は な り う る だ ろ う。
ストラクチャーをつかう 狛江市の多摩川河川敷には2本の橋がかかって
かと考えた。 ひとまず何も言われない限りはここに家を建て ようと思う。
いる。一つは小田急線の陸橋、もう一つは世田谷通 りが走る多摩水道橋だ。狛江に住む路上生活者の方 は多摩水道橋から上流に20m 離れたところに住
第二の自然における旬
んでいる。また、多摩水道橋と小田急線の間は貸し
第二の自然(ルフェーブル )については、あま
ボート屋さんが営まれており、なんとなくテリト
り詳しくは書いてないけど、研究計画書を見てくだ
リーを感じる。また、小田急線より下流には野球グ
さい。
ラウンドが2面あり、市民のためのオープンエリア として使われている。
都市空間は自然と違って、旬とかないのかな、っ て思っていたけど、最近はその考え方も変わってき
ということで、路上生活者の家よりも上流、もし
た。例えば年末の今頃だと、みんな大掃除をしてゴ
くはグラウンドよりも下流に建てるべきだろうと考
ミを大量に出し始める。これって第二の自然におけ
え2回に渡って敷地を観察してみた。
る旬ということもできる。いわば収穫期が年末と言
結果から言うとグラウンドよりも下流の水門の 前に建てることにした。まず路上生活者の家の上流
えるのかもしれない。花火大会があればブルーシー トが手に入るのも、旬と言えるだろう。
はかなり高水敷が狭く、これは Research3 での考 察では危険地帯だ。また、グラウンドよりも下流の エリアは写真のようなストラクチャーが存在してい る。
南から北を撮った写真で、要するにこのストラク
そして今回手に入れた旬の素材は、凧糸だ。写真
チャーが、構造としてというよりも北風を防ぐ意味
の奥にぼやけて見えるのは木に絡まった凧だ。おそ
で有効活用ができるのではないか、 と考えた。また、
らくピークは正月だろうが、このように河川敷の木
午後からこのコンクリート壁に太陽が当たり続ける
に引っ掛けてしまって、泣く泣く放置された凧は珍
ため、かなり熱をもつ。うまくこの熱を使えれば、
しくない。そして必ずと言っていいほど、それには
寒い夜の暖房機能として活かせるのではないだろう
凧糸がついている。今回は2個もゲットした。
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凧糸は結構強いし、元を結びつける上でとても有 効活用できそうなアイテムだ。このように施工する のに必要なものも見つけていかなくてはならない。
のこぎりとの出会い と考えていたら、なんと狛江水辺の楽校という河 川敷の広場を散策している途中にのこぎりを見つけ た。
かなり古いものだが、木を切ることは可能だった ので、角材の使う幅が広がる。かなり偶然の出会い だが、案外落ちているものなんだとびっくりした。 のこぎりと出会ってみて改めて必要そうな道具 が思い浮かぶ。 木の切断や加工が可能になったため、 それらを接合する釘が必要だ。木の端材から回収し た釘があるが、今のストックはたったの2本しかな い。バールもないため、釘を抜くのは結構大変だっ た。ひとまずあとは釘さえ見つかればなんとかなり そうな気がする。
明日は… いよいよ施工を始める。まずは膨大な量の資材を 運び出すところから。これが気の遠くなる作業にな りそうだ。 そして 27 日 28 日と作業をして、30 日くらいに は初めての寝泊りをしてみたい。大寒波が来るらし いがそれに耐えられる建物を作りたいと思う。
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Research15 日時: 2018.12.27(木)
11:00 - 18:00
場所: 狛江市多摩川河川敷 天気: 晴れ(7-13°C)
いよいよ建設に突入する。まずはコツコ ツと貯めてきた資材たちを多摩川に移動
モビリティーと家のバランス 車に乗り切らない荷物(サイディングの長いや つ)を運ぶために徒歩で 1 往復(3 キロくらい) 。 残りは車で現場から 400m くらいの公道まで運び、
がポイントになってきそうだ。
中間領域について考える 建築の世界においてよく出てくる言葉である中
そこから運搬。これはちょうど 10 往復だった。11
間領域だが、ある意味で河川敷の路上生活者はとて
時から始めて、全てが運び終わったのが 16 時くら
もうまくそれを創り出している。彼らは寝るための
い。かなりの重労働だ。
空間とそれ以外の空間を分けて設計していることが 多い。寝室は完全なプライベート空間として閉じら
させるところから。なんと父親が手伝う
新宿などに多い、移動型の路上生活者は1回で運
れ、雨風が入ってこないように密閉されている。一
と言ってくれ、自家用車に乗る分は現場
べるサイズの家を持っている。一方河川敷に多い定
方でダイニング空間のような場所は土間のように
から 400m ほどのところまで運んでく
住型は、かなりの量の素材を使っていることがわか
なっていて、屋外と屋内を繋いでいる空間になって
れ た。 お か げ で か な り の 時 短 に な っ た
る。軽トラに乗せてしまえば1回だが、自転車や徒
いる。
が、 そ れ で も 約 5 時 間、 ず っ と 荷 物 を
歩ではかなり大変な量だ。モビリティーと家のバラ
運ぶ修行のような時間を過ごした。
ンス感は、路上生活(所有権に囚われない生活)を 送ってみるととても考えさせられるポイントだ。
路上生活者たちはこの空間の作り方が秀逸だ。加 藤さんの家を公(=河川敷の広場)〜私(=寝室) のシークエンスで見てみる。すると、
にしても、サイディングが想像以上に重い。短い やつでも 5 キロはあるだろう。それが 10 枚とかあ
公
るので、 運ぶのが異常に大変だった。一方木は軽く、
↓
持ち運びは便利だ。
加藤さんの物が置かれ始める空間(=河川 敷の側道。イスなども置かれており、まちにひ らいている)
とりあえずの家
↓ 加藤さんしか入れないが外から見える空間 (=側道に面した庭のような場所。加藤さんの アイテムの中で使い道がわかっているものが 置かれているイメージ) ↓ 外から見えないが庭とつながる開放的な室 内空間(=キッチン機能や椅子なども置かれて いて、土間のような空間。シートに覆われてい るが、屋根はあまりしっかりかけられていな
施工風景はタイムラプスで撮っているので追々
い。 )
動画として公開したいが、今日でたどり着けたのは
↓
ここまでだった。
私
資材を運び終わってから2時間くらいの作業時 間だったが、できたことは
といった感じに、グラデーションを作られてい る。彼らは無意識的に都市空間に染み込むような生
・床を貼る(角材を基礎がわりに並べる→長
活を営んでいる。こういった中間領域の独特な考え
手の木材をその上に置く→その上に短い板材
方はとても面白いし、近年建築界隈で人気な、 「ま
を置く→フローリングの端材を貼る)
ちにひらく」というコンセプトの体現者とも言える
・内壁を立てる(角材でつっかえをつくり、 サイディングを立てかける)
かもしれない。 (一方で出来るだけ自分の土地を確 保するための戦略的侵略とも言えるかもしれない
・防水する(ブルーシートを二重に壁面・屋
が、 、 、 )
根面にかける) ・外壁を立てる(ブルーシートの上から再び サイディングを立てかける)
ゆくゆくはこの「狛江の家」も中間領域をうまく 作っていく必要があるだろう。そこに建築家として の腕が試されているような気がする。
といったところだ。寝ることはできるが、まだ全 然空間になっていない。生活空間をうまく作ること 40
年の瀬なので 建設現場もそろそろ休みに入ったり、ごみ収集が 休みになる関係で、今は資材を獲得する術があまり ない。その中でどうやって資材を見つけていくかが 問われている。 多摩川の漂着物にも可能性がありそうだ。本プロ ジェクトの場合施工と資材集めは平行して行われる ものだ。普通の建築だったら事前に発注してるし、 もし何かあったらホームセンターに駆け込むことも できる。この違いに身体的に気づいてきている。設 計図があって、材料を用意して、施工する。そんな ことはできるはずがなく、 材料があって、 構想があっ て、施工する、という順番でやらなくてはならない。 この違いは建築家の誕生前後の違いと似ている気が する。ここから学ぶことがあれば、Home-ness に ついての新しい気づきが得られそうだ。
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Research16 日時: 2018.12.28(金)
13:00 - 18:00
場所: 狛江市多摩川河川敷 天気: 晴れ(6-8°C)
前 回 の リ サ ー チ で は 囲 い を 立 て て、 ブ ルーシートを被せただけの簡易的なもの
とまず垂木は乗せているだけといった状況だ。
可動式の屋根 ブルーシートの面積はかなり広く持ち上げたり するのが大変だ。そこで、屋根となるブルーシート の膜を簡単な操作で可動できるようなものにするこ とを考えついた。 またこの場所で作業していると、気温以上の暖か さを感じることができる。それは北側に配置されて いるストラクチャーが冷たい北風を防いでくれてい
だった。今回はより空間を確保するため
て、なおかつ午後は太陽の光を直で受けるためだ。
に屋根の施工に挑戦する。
午後の暖かい時間は下着と薄手の上着の2枚で施工 ができるほどに暖かい。 この時間帯の熱を貯めることができたら、夜も少
切妻+片流れの家?
しは快適になるのでは、と考え、屋根は滞在前に何 らかの形で完成させたい。 二つ折りにしたブルーシートは、それでもまだ 3m くらいの幅がある。この幅に長手のポールのよ うなものを巻きつけることで、ブルーシートを一人 でもうまく操作できるのではないかと考えた。 しかしながら、ここにはまだ3m を超える長手 の資材はない。ここで工事現場からいただいた角材 をつなぎ合わせることを考えた。幸いにも釘が2本 あるので、釘でつなげることが可能だ。
そして最終的な形はこんな感じだ。正面はサイ ディングが高く立てられているので、見た目は奥に 流れていく片流れのよう。そして奥は棟木がしっか
今回は2本の角材の先端部分だけを半分のこぎ りで削り、そこを合わせて釘を打つことで長くする
りと現れて切妻のよう。ハイブリットな住居が完成 した。奥から入る妻入りの住宅になっている。
ことを考えた。シートを巻きつける際に、角はシー
それに加えて、周りのランドスケープを若干い
トを傷つける危険性があり、角は極力ないほうがい
じった。門(ペット用ゲージ)を置き、入り口まで
いと考えたためだ。
の道に色の違うサイディングを並べた。徐々にでは
この日1日では全ては終わらなかったものの、ゆ くゆくは 3m を超えた長手の棒材が生まれる予定 だ。それをロールカーテンの軸のように使えたらと 考えている。
棟木・垂木を架ける 雨が降った時のことも考えると、ブルーシートを 囲いの上に乗せているだけでは家として機能しなく なってしまう。真ん中に水が溜まってしまったら排 水も大変だし、何よりブルーシートが破れたりして しまいそうだ。 というわけで、棟木と垂木を架けようと考えた。 2本の角材を河川敷に落ちていたマジックテー プで留め、X 字の棟木が乗る柱を作る。そこにツー バイフォーの 2m 以上ある木材を架ける。片方はサ イディングにそのまま乗せている。これで大体高さ は 70cm くらいだろうか。 そして棟木からサイディングに向かって垂木を 架ける。これからの計画変更もありそうなので、ひ 42
あるが、家のらしくなってきている。
Research17 日時: 2018.12.30(日)
13:00 - 17:00
/22:00-7:00
場所: 狛江市多摩川河川敷 天気: 晴れ(5-9/1-2°C)
釘の採集
和泉多摩川駅の商店街は一見廃れている。ぼくも
泊まるにあたって、前回完成させられなかった屋 根の芯となる角材を作る作業をする。まだ釘が1本 足らないので、まずはそれを探す作業をしたいと思 う。
家が近いので、何度もきたことがあったが、あまり 魅力的ではない商店街だ。 その商店街の真ん中くらいに、店先で威勢よく接 客するおじちゃんと、裏で黙々と仕出しをするおば
がしかし、これがかなり厳しかった。12/30(日)
ちゃんが営む青果店があった。その店の脇には高く
は世間的には休みであるから、どの工事現場も誰も
青果が入っていたであろうダンボールが積み上げら
いなかった。そのフェンスの向こうには釘がたくさ
れていて、それをもらおうとぼくは思ったのだ。お
ん落ちているが、勝手に入って取るわけにはいかな
じちゃんにお願いすると、自由に持っていきな、と
住居となるだろう)が、これからどうし
い。そこで、のこぎりを見つけた河川敷のエリアに
いただけることになった。 (そう考えるとダンボー
ていくかも踏まえてとりあえず泊まるこ
行ってみることにする。ここならもしかすると釘も
ルをくれなかった新宿のマックは何なんだったんだ
とが大事だ、と考えた。
落ちているかもしれない。
ろう笑)
今日はいよいよ宿泊する日だ。まだまだ 建物は完成していない(というか未完の
ダンボールを選んでいるとおばちゃんがやって が、しかし、結局釘は見つからなかった。いや厳
きて、自転車に積むのかい?と言ってぼくに梱包ひ
密には刺さっている釘は見つかったが、石の力では
もをくれた。これで自転車に縛りつければたくさん
抜くことができなかった。道具ですら落ちているも
運べるだろう。と言ってくれた。これはありがたい。
のなので、バールなんていうものは持っているはず
そのひもは再利用可能だし、そもそも自転車に運び
がないため、釘を抜くのも一苦労だ。結局1時間く
たいものをひもをつけて運ぶなんてことを、恥ずか
らいかけて釘を探したものの、 見つからず断念した。
しながら思いつかなかったのだ。 この青果店で大きめのダンボールを5個貰い、家
いつ屋根が完成するの
のフローリングに敷いてみたところ、かなりの断熱
もともと持っている釘が2本だったので、この日
効果がある。これはすごい。どの路上生活者も実践
ものこぎりを使って、2本目の長手の部材を生成し
してる基本的なテクニックだが、それゆえにやはり
た。ひとまず 2m 弱の角材が2本できたので、それ
効果は高い。
らを使ってブルーシートを巻き上げてみる。圧倒的 に巻くのは楽になり、ブルーシートをまとめること は成功した。 しかし、それを屋根にかけるとなると話は別だ。
いざ寝てみる 一旦実家に帰り、夜再び出直した。
2 人で作業すればできそうなものも、1人ではなか
ゴミとして持っていた布団は敷布団+掛け布団
なか難しいものだ。結局ストラクチャーの上から
のセットだったが、これだけだと不安だったので、
せっかく作った部材をブルーシートごと落としてし
ぼくが持っていて使っていないちゃっちい寝袋も
まい、釘が緩んでしまった。結構大変な思いをして
持っていった。本来は全部ゴミからやりたいところ
作った部材が一瞬にして壊れたのはかなり辛かっ
だが、今回に限っては自分の持ち物を一旦ゴミとし
た。継ぎ合わせていく方式は結構難しいのかもし
て扱う。
れない。本来は3m クラスの部材(例えば洗濯竿) をどこかで拾ってくるのがいいのかもしれない。可 動式屋根の芯を作るのはまだ時期尚早だったのかも しれないと思った。
おばちゃんとダンボール 結局これといった進捗が生めない(学びはあっ た)まま、夜を迎えようとしている。この前フロー リングに横になって思ったのは、とにかくその冷た さだった。暖房を切った家のフローリングが冷たい のと一緒で、そこに直で、ましてや外気は2℃とか の場所で寝るのは命の危険がありそうなレベルだ。 というわけで、ダンボールが絶対必要だと思い、 一番近くの商店街へ出向いてみた。 43
この時間の気温はだいたい2℃くらい。連日 ニュースになっている大寒波の中、ぼくは河川敷に 寝ることになる。かなりクレイジーだと、自分でも 思うが、これを含めて全てがぼくの大事なプロジェ クトだ。 地面から浮かせた床(フローリング)+ダンボー ル+敷布団のおかげで地面からの寒さは全くない。 しかしながら、掛け布団+ちゃっちい寝袋はかなり 寒い。ぼくは足を玄関に向けて寝ていたため、足の ある場所はほとんど外気と同じはずだ。つまり今日 なら2℃だ。そりゃ寒い。 ここから学べることは、どうにか寝室を閉じる必 要があるということだ。断熱性能次第ではあるが、 寝室を外から閉じることができれば、自分の体温 だったり、何らかの暖房器具(例えば太陽熱であっ ためたタンクとか)を置くだけで、暖かくすること も可能だと思う。 一方で、壁として使っているサイディングはおそ らくセメントみたいなもので作られている。これが かなり冷たくなるため、室内の断熱性能を下げてい ると考えられる。サイディングは羽根付きのため、 簡単に列ねることができ、隙間風の心配をする必要 はない。 その点ではメリットだが、 やはり冷たくなっ てしまうのは難点だ。 一般家庭でも窓で冷やされた空気が下降気流と して足元に流れてくるコールドドラフトという現象 が起こっている。そのため窓サッシを金属製からプ ラスチック製に変えたりだとか、窓自体を2重にし たりといった対策をして断熱性能を高めている。 このままでは寝ているぼくの体に下降気流が直 撃してかなり顔周辺が寒くなる。ここからしなくて はならないのはサイディングの内側に何らかの断熱 を仕込む必要性があるだろう。ダンボールでいいだ ろうし、他にも可能性があればチャレンジしてみた い。 ただ全体として、寝心地は悪くなかった。寝付 くまでに1時間くらい時間はかかったが、朝の 6:30 くらいまで寝ることができた。 草が風になびく音、川の水が流れる音、小田急線 が走る音、遠くで鳴いている鳥の音、そういった音 たちは、孤独感も感じさせてくるが、慣れてしまえ ば環境の豊かさも教えてくれる。キャンプが好きな 自分にとって、とても大切な時間と近い。 ルフェーブル は都市は第二の自然だと言った。 立派な論をもって、そう言ったのであるが。なるほ ど。ぼくは感覚的に都市は第二の自然だと思うこと ができた。 44
Research18 日時: 2019.1.2(水)
21:00 - 7:00
場所: 狛江市多摩川河川敷 天気: 晴れ(1-3°C)
大晦日・お正月と日中の活動はできてい なかったため、何も改善できていないが とりあえず宿泊しようとやってきた。寒 さ・寝心地という点では特に前回と同じ ような印象だが、今回はルールとの関わ りについて考えさせられる場面があった ため、それについて記述したい。
加藤さんからは、貼り紙はされるけど、適当にご
壊れていた家
まかすしかないよ。と教わっていたので、特に気に
2 日ぶりに家に帰ってみると、こんな感じで壁と
することもなく、そのまま家を再建した。まだ家と
屋根が崩壊していた。 簡易的な造りであるとはいえ、
呼べるほどのものではないが、住宅街に建ち並んで
サイディングは結構頑丈に組めていたし、壊れ方か
いる普通の家とは違って、再建だって 10 分もあれ
らして、自然の壊れ方ではないと思った。
ばできるものだ。
ストラクチャーに立てかけてあったサイディン グにはこんなシールが貼られていた。
移動の必要性 どうやらこの河川敷では「どんど焼き」というイ ベントが行われるらしい。毎年多くの人が河川敷に やってくる正月恒例のイベントだ。その際にぼくが 生活しているエリアは駐輪場として使われているら しい。 もしかするとそういう意味でも撤去してくれ、 と言われかねない。 言われたら移動するしかないが、 それはかなりの重労働である。 この辺のルールにも従いながら、どんな家になっ ていくか楽しみである。
なんと国土交通省からのお達しだ。ストラク チャーの上に位置するサイクリングロードからだと 見えにくい場所にも関わらず、どうやらバレてし まったようだ。 こういった貼り紙をされることは加藤さんから 既に聞いていたため、あまり驚かなかったが、黄色 の背景を赤い枠で縁取り、黒いゴシック体で書かれ ているあまりにも刺激的なグラフィックには驚い た。結構攻撃的な印象である。 45
Research19 日時: 2019.1.6(日)
13:00 - 18:00
/22:00 - 7:00
場所: 狛江市多摩川河川敷 天気: 晴れ(6-7/-1-2°C) 今日は角材を用いた寝室と、日中に活動 できる空間(土間のようなイメージ)を
大きいダンボールを探して Research17 では青果店からダンボールを獲得し た。そこで得られたダンボールはそこまで大きくな く、5枚をフローリングの上に敷き詰めて断熱して いる。 青果店のおじちゃんは 「大きなダンボールだっ たら薬局のトイレットペーパーとかティッシュペー パーが入っているやつがいいだろう。 」とアドバイ スをくれたので、今回は同じ商店街にあるドラッグ ストアに伺って、譲ってもらうことに。
作ってみたいと思い活動した。まだ十分
このように工事現場から獲得した木材を4カ所
な量の木材がない中で、ヒモをどう使い
で留めて四角の木枠をつくる。本来ならここに構造
こなせるかがポイントだった。
となる板材を貼るわけだが、今回はそういったもの
また作ってみた空間で活動をしてみて、
はないのでダンボールで代用し、断熱性能を高める
どういった改善点があるかを考えてみた
狙いだ。
い。
ちなみに釘はまだ休業中の現場に(勝手に)入っ て落ちて曲がっているやつを数本もらってきた。不 揃いだが、さほど問題はなかった。
ドラッグストアのお母さんにお願いしたら、店の 奥から大きいダンボールを4つ持ってきてくれた。 やはり大きいダンボールはペーパー類が入っていた ものだ。これらのダンボールのひとつは下の写真の ように、寝る際に足元を覆うように利用した。これ は新宿の路上生活者が行なっていたテクニックだ。
このようにすることでダンボールとダンボール の間に層ができるので、断熱効果がありそうだ。こ の中に落ち葉や新聞紙を入れたらなおさら性能が上 がりそうだ。これはプロトタイプではあるが、とり あえず寝室の頭側の内壁として利用した。これは Research17 でも触れた冷たい風の下降気流に悩ま されているので、とりあえずそこを防ごうと考えた こうすることで、今までよりも足元が暖かく、今
ためだ。
回の滞在では靴下を脱いで寝ることができた。 実際に寝てみると、下降気流による寒さは随分と
ツーバイフォー工法
軽減されたと実感できた。 顔に直接風が来ないので、 その寒さで目が覚めるようなことはなく、このよう
木造建築を代表する工法として、在来とツーバイ
にサイディング(=外壁)と木枠+ダンボール(=
フォーがある。ざっくりと、在来は木の柱と梁を立
内壁)をうまく利用していく方向性は良さそうだ。
てていくものでツーバイフォーは壁を立てていくも のだ。加藤さんの家は鉄パイプを組み上げているた め、在来工法のような考え方であるし、狛江に住ま
内部空間を充実させるために
れている方は角材を駆使している在来工法のような
なんとなく寝室の方向性が掴めてきたところで、
考え方だ。一方でぼくの場合はまだ木材が足りない
寝室と外部をつなぐ土間のような空間をどう作れる
ので、一面だけツーバイフォーのように壁を作って
かを考えていこうと思う。加藤さんの場合はゴミに
みて実証してみようと思う。
なっているパラソルを使っていたりするが、そんな ものは今のぼくにはない。いま寝室にだけかけてい るブルーシートをうまく利用して、空間を拡張させ 46
ようと考え、ヒモの張力を活用することを考えた。
い。そのためにはさらに角材が必要だし、さらに釘 が必要だ。 今は釘を打つのに河原の石を使っていて、 かなり非効率的なので、できることなら金槌もゲッ トしたい。 それに加えて断熱性能も高めていく必要がある。 今日は外気が深夜2時頃にマイナスに突入したらし い。幸いにも寒さにめちゃくちゃ苦しむことは今の ところないが、朝起きた時の顔はとてつもなく冷え ているし、布団から出た後は室内なのに本当に厳し
Research11 で拾った壊れたサッシのような何か を活かした。先端部には拾った軍手を被せ、ブルー シートを傷つけないようにし、それにブルーシート を巻きつける。これの接合にも拾ってきた変なパー ツについていたマジックテープを活用している。ま た、このサッシのような何かにはいい具合に穴が空 いているので、その穴にヒモを通して固定すること ができる。手前には自生している木があり、その幹 にヒモを固定し、奥にはストラクチャーの上にある フェンスに固定している。
今ではこれが限界だが、寝室の隣に屋根のある空 間ができあがった。イスに座れば、ちょうど入れる くらいの高さだ。もう少し屋根を高くしたいのでそ こは今後の課題だ。現在寝室にかけている屋根を動 かすことで、この空間を作ったりできるのではない かと考えている。
次回に向けて
夜間や外出時はこのようにコンパクトな片流れ の家になり、日中のくつろぐ時間には先ほどのよう に広く展開する家を目指したい。そのためにも寝室 の内部空間を角材を利用してうまく組んでいきた 47
い環境が待ち受けている。この点を改善する必要も あるだろう。
Research20 日時: 2019.1.10(木)
10:30 - 17:30
場所: 狛江市多摩川河川敷 天気: 晴れ(2-4°C)
解体屋さんとお風呂屋さん
合ができない。 この段階で現場を 2 ヶ所回ったが、そこで手に
年 始 に 一 軒 解 体 す る か ら、 と 解 体 屋 さ ん に
入った釘は 6 本だけだ。なかなか簡単には手に入ら
Research13 で言われたのを思い出し、今日も何か
ない。今までの活動で手に入った釘は合計 10 本く
の木材が手に入るかな?と期待して電話をしてみ
らい。いくら木材があっても組み上げていくのが難
た。
しいの現状だった。
すると今回も小林さんという気さくなおばちゃ んが電話対応をしてくれた。今度は近所のお風呂屋
そこでここ数日目をつけていた建設現場を訪れ
さんが大量に廃材を持って行ってしまったとのこと
てみた。その現場かなり広い新築工事を行なってい
取りたいと思う。木材と釘を見つけ、ど
だった。薪でお風呂を沸かしているところらしく、
て、現場の地面に釘が転がっているのが外から見え
んどん木を組んで、空間を作っていきた
廃材はその人たちからしたら大事なエネルギー資源
たのだ。
い。
だ。 思えば昔はどの家も薪で湯を沸かしていたはず。
今日はお手伝いを呼んで、撮影をしても らいながら、施工する時間をみっちりと
それがいつの間にガスとか電気に変わってしまった のだ。 その一方で木材は廃材として処分されている。 もしかすると昔の時代も、ゴミになった木材とかが 使われていたのかもしれない。剪定した枝とか、間 伐された木とか。
大工さんがちょうど外にいたので、落ちている釘 をもらえないかと聞いてみる。 「釘っていっても、何本欲しいの?」 ぼくは落ちているのが何本なのかわからないが 希望を込めて
そのように社会が失ったサイクルも、こうやって 解体屋さんとお風呂屋さんところで繋がっていると 思うと面白い。お互い win-win な関係だし、環境 にも良い。
「2,30 本くらいあったら嬉しいですね、 、 、笑」 と答えた。すると大工さんは自分の工具箱から長 めの釘を出した。 「これくらい?」 「いや、ちょっと長いですね。家の側面の地面に
とはいえ今回もいい感じに木材をいただいた。特
落ちてるんですが、 、 、 」
に端が斜めにカットされている角材はブレースを連
どうにか落ちている釘が欲しいため、おう、拾っ
想させてくれた。このように、木材をみて新しい設
ていいぞ。と言ってもらえないか期待を込めて伝え
計が思いつく、という普通とは違った建築の流れが
る。しかし大工さんは今度は車の荷台から白い釘を
生まれたのは、とても面白いことだ。
持ち出してきた。 「これは?」
それに加えて、板も手に入れた。この板は屋根 面と壁面に使用することで建物全体で剛性が生まれ
「いい長さですね!」 「両手を出して。 」
た。またこの板の長さがちょうど自分の身長より
ぼくが両手を出すとそこに山盛りの新品の釘を
ちょっと長かったので、この板のサイズを寝室の長
注いでくれた。感動的瞬間だ。何を作るかとかまだ
さとしてモジュールを決めた。素材から寸法が決
何も言っていないのに、ただゴミの釘を欲しいと
まっていくのも、とても面白いことだ。
言っているぼくに、新品の釘を山盛りにくれる寡黙 な大工さんは本当にかっこよかった。ここ数回釘不 足に悩まされていたにも関わらず、ここで一発逆転 だ。木材が足りないくらいだ。
写真のように箱の形を再設計して、床にはサイ ディングを敷いた上でフローリングを貼った。手前 と奥の正方形の面には1本ずつ前述したようにブ レースを入れた。
大量の釘
後ほど河川敷に戻って本数を数えたところ、な
ただ、木材は手に入っても、釘がないとうまく接 48
んと 94 本ももらえたようだ。こんなにも嬉しいこ
とはない。その大工さんからしたら、会社の経費で 買っている釘なのかもしれないが、そういったもの を見ず知らずの人に分けてくれる精神に触れられる のは、こういったプロジェクトをやっている中での 最大の喜びだ。
堅牢な寝室
木材をくれた解体屋さんと釘をくれた大工さん
壊の危険性はほぼないだろう。今後はこれに増築す
のおかげで、寝室を作るための材料は揃った。そし
るようにして、居間のような空間を作れるかもしれ
てお手伝いの力も借りて、一気に寝室の箱ができあ
ない。そのためにも木材などの資源が必要だ。次回
がった。
以降、再び木材を探す旅に出る必要がありそうだ。
正面は無柱空間にして、日中は川の方の景色を望 むことができる。ストラクチャーに接する面に板を 貼ったため、その隙間にダンボールを入れることが できる。 このダンボールが断熱効果を高めてくれる。
柱は細いが、ブレースと板が全体の剛性を高め、 かなり堅牢なボックスだ。 右手に屋根をキャンチさせて、その空間は縁側の ような場所になっている。 水平と垂直が強調されて、 まるでミースのような存在感である。 手間の面にはサイディングを立てて今日の施工 を終わらせた。全体として頑丈な家になったので倒 49
Research21 日時: 2019.1.12(土)
13:30 - 17:30
場所: 狛江市多摩川河川敷 天気: 晴れ(5-6°C)
今日は土曜日なのでどの現場も休みだ。 木材や金物が新たに手に入る見込みは薄
片流れの屋根
ツーバイフォー材が寝室の縦寸法よりも長いた
Research20 で長方形のボックスのような寝室が
め、せり出した庇のようなものを連想させる。ここ
完成した。今回はその屋根に勾配をどうにかしてつ
から着想を得て、後面には庇付きの資材置き場をつ
けるところから始まる。ツーバイフォー材が2本あ
くることにした。
るので、この長い部材を屋根にかけていく作戦だ。 ただ、一つはブルーシートを巻き上げるのに利用し ているので、これらをうまく使いやすくつくること が大事になってくる。
そのためにはツーバイフォー材の出っ張りと同 じ長さ分の出っ張りが必要だ。 そこでこのように木材を延長させることにした。 方杖をつけることで、 キャンチをもたせようとした。 しかしながらそれだけでは弱く、最終的には側面
いので、現場での施工を進める。予報で は夜に雪が降るようだ。午前中にもすで
から補強を加えて安定させた。 これがなかなか良く、
に降っていたので屋根に勾配をつけるの
さらに空間に広がりをもたせることができた。
が急務だ。
写真のように木を組んでいく。前回ゲットした 釘を使い、強固に組み上げていく。右手のツーバイ フォー材は壁からややオフセットしていて、ブルー シートを巻き込んだもう一本のツーバイフォー材が ぴったり入るように設計した。
はじめての雨 東京は 18 日連続で雨が降っていない。ちゃんと した部屋の形をつくってからははじめての雨(もし かしたら雪)が今晩やってくる。風に関する検証は 断面で見るとこんな感じだ。垂木の上にはまだ屋 根になるような板がないため、真ん中はやや水が溜 まりそうだが、ひとまず勾配はついた。
資材置き場と縁側 側面のブルーシートを持ち上げれば、このように 茂み越しの多摩川と登戸の街が見える。縁側を彷彿
なんとなくできているが、雨はまだ全く検証できて
とさせる、なかなかリッチな空間である。
いないので不安が残る。
一方前面は前回の全体写真を見てわかるように、 サイディングを2枚重ねて積み上げてフィックスし ている。
今まで通り都市と対峙しながら、そしてこのよう に自然と対峙しながら設計施工生活を進めていきた い。 1/27 を内覧会と設定し、それまでにぼくがどれ ほどの家をつくることができるかが試されている。
50
Research22 日時: 2019.1.13(日)
14:00 - 17:00
場所: 多摩川河川敷(等々力) 天気: 晴れ(7-10°C)
昨夜は雨が降ったことと、今日は河川敷 でどんど焼きをやっているため、狛江の
色が綺麗だから閉じたくないのだけど、とりあえず
雨が溜まる屋根
加藤さんのアドバイスを聞いてみることにした。
昨日垂木のようなものをかけてみたが、その効果 は完璧とは言えず、中央に雨水が溜まってしまって いた。 このように雨水が溜まらないようにするには、 ちゃんとした板を屋根全体にかける必要がありそう だ。 一方でどんど焼きの影響は全くなく、人は多かっ たが特に気にならなかった。
家を一旦確認する。その後久しぶりに加 藤さんに会いに行き、今の家の現状を報 告し、アドバイスをもらおうと思う。
側面のシートが開閉式になったため、日中は前よ りも暖かい太陽の日差しを浴びることができる。昼 寝が気持ちよさそうな陽気だった。 側面はやはりこのまま何も置かずに、茂み越しの 川のビューを見ていたいし、太陽の光も差し込んで 欲しいので、これから作るものはその邪魔にならな い場所を想定して作っていきたい。
1 ヶ月ぶりの加藤さん 最 後 に 加 藤 さ ん に あ っ た の は 12/2 に 行 っ た Research9 の時のことだ。もう 1 ヶ月以上前の話だ。 今日の加藤さんはアウトドアチェアを出して、友 人とふたりで飲み会をしていた。カップラーメンや スナック菓子を食べた痕跡が残っている。 加藤さんは鋭く、遠くからでもぼくの顔をわかっ てくれた。 「寒いから酒でも飲もう(笑) 」
加藤さんのドローイングだ。まずは角を 45°に
と加藤さんはぼくに酒を勧めてくれた。加藤さん
カットした角材を4本用意してそれぞれを釘でつな
が飲んでいたのはいいちこだ。新しいのか古いのか
ぎ、木枠を作るとのこと。そこに板を貼って扉にし
わからない紙コップに注がれる。
ろと言ってくれた。 いたって普通の話だが、 こうやっ
「酒強いか?何かで割る?」
て紙とペンを使って熱心に説明してくれたことは嬉
と聞かれたので、割ってくださいと返した。あま
しい。
り安酒を飲まないので、ストレートは嫌だった。す ると地面に置いてあった十六茶が少し残ったペット ボトルを取り出し、お茶割りを作ってくれた。
扉の重要性をここまでいうのは、おそらく大事な ものを盗まれないようにしろということだろう。入 り口は自分が入れればいいんだから、 と言っていた。
半分以上がいいちこの濃いお茶割りは確かに体
そしてまた今度来た時に蝶番探しておくから、とま
を温めてくれた。どんどん沈んでいく太陽の光を受
で言ってくれた。加藤さんにかかればどんなもので
けながら、ぼくは加藤さんと加藤さんの友人に混ぜ
も街に落ちているらしい。そしてちゃんと鍵をかけ
てもらって飲み会をした。
ろと言ってきた。そしてぼくはどこかで拾った自転 車のチェーンをもらった。
加藤さんのエスキス 加藤さんをお手本に家を建ていることを伝え、今 現在の家の写真を見せた。 加藤さんはめちゃめちゃ褒めてくれた。すごいす ごい!と。 そして今前回の側面に扉をつけるのはどうか? と提案してくれた。ぼく個人としてはここは川の景 51
いと言っていた。確かに健康的な食事は過酷な生活
お金の話
には大事な要素になるだろう。
その後話はどんどん路上生活の方法について進 展していった。そこでお金の話を初めて聞くことが できた。
多摩川にも春にはのびるが育つので、そういうの を収穫して生活すると言っていた。そしてそう言っ たものを近所の人たちにおすそ分けして、そのお返
アルミ缶は 1kg で 120 円
しに色々なものをもらって生きていると言ってい
真鍮は 1kg で 370 円
た。そのように贈与のサイクルで加藤さんは生きて いることを改めて思い知らされた。
これらが金属売りの今の相場らしい。真鍮は水道 管のパイプとかで使われているらしく、アスファル
ちなみに野草の勉強も、ゴミに出ていた図鑑でし たそうだ。すごい
トとかに擦り付けてみて、金色になったら真鍮だと わかると教えてくれた。もえないごみの日に真鍮を 見つけることができたらラッキーらしい。
お土産のいいちこ 日が沈み、寒さが増したので、僕たちは解散する
ただ、もえないごみを漁るときは注意が必要だ。 私有地に入らないように作業をすることだ。必ず公
ことにした。加藤さんは 「帰り道で飲みなよ」
道に出て作業をしないと警察に捕まる可能性がある
とぼくにいいちこをくれようとする。ありがたく
と言っていた。また、収集車はどこに置いてあって
いただくことにすると、転がっていた先ほどの十六
も地区内だったらゴミ回収してくれるようなので、
茶のペットボトルにいいちこを詰めて持たせてくれ
最悪同じ場所に返さなくてもいいと言っていた。怖
た。
そうな住民の人の家の前でゴミ袋を開けるのは流石 の加藤さんでも嫌だと言っていた。
等々力駅までの 20 分くらいの徒歩の帰り道に、 いいちこを飲んだ。
またこれに付随して、自転車の手に入れ方も学ん だ。
ペットボトルで飲むいいちこなんて経験したこ とがない。でも、安酒でもこんなにも美味いもんな
使ってなさそうな自転車が置いてある家の住人 に声をかけ、自分の状況を素直に伝えて譲ってもら えないか聞いてみるようだ。そしてもし譲ってくれ るようだったら、それを譲渡することがわかるよう な紙を書いてもらうことが重要だという。こうする ことで警察に職務質問されても問題は起こらない。
食事の話 そして次第に話は食生活の話になっていった。加 藤さんは路上生活者の中ではリッチな方かもしれな いが、そんなにお金を持っているわけではない。 やはり廃棄になる食べ物を狙うらしい。 例えば町の八百屋さんとかなら、朝一で行くと ゴミ箱に時間がたった野菜が入っていたりするよう だ。腐る野菜もあるが、この時期なら長持ちするも のも結構あるという。 そのほかにもスーパーも狙えるという。スーパー は専門の業者がやってきて処分するらしいが、朝の 4時くらいに行けばその業者もいないんじゃないか と言っていた。 加藤さんは野菜の大切さを訴えていたが、野菜は 高くて買えたもんじゃないから、廃棄を狙うしかな 52
んだな、と気づくことができたリサーチだった。
Research23
転車を漕いだところ、目ぼしい現場を見つけること
二世帯住宅
ができた。とりわけ今必要な木材は、一般的な住宅 を作る際に柱梁を建てた後くらいに出ることが考え
日時: 2019.1.14(月祝)
12:30 - 17:00
23:00 - 9:00
られる。 また内装をやっている現場でも木材は出る。 このような現場が 3 件ほど見つけることができたの で、次回以降の資材集めで生かされてくるだろう。
場所: 狛江市多摩川河川敷 天気: 晴れ(6-10/0-3°C)
リビングルームの設計
寝室+資材置き場は竣工したため、リビ ングルームの設計を考えている。それに
圧倒的に木材が足りないので、まだどんな形のも
しても木材が足りないので、木材を収集
のができるのかわからないが、なんとなく今描いて
してから現場に向かう。しかし今日は成
今現在のぼくの家はこんな感じで、レンガ風の
人の日で祝日のためどの現場も休みだっ
サイディングをところどころに活かしている。そし
た。結果的には目ぼしい現場を把握する
てこのサイディングをもらってきた家がほぼ竣工し
だけになった。
て、囲いが取れていた。まるでぼくの家とこの家は
その夜には現在のボックス型になってか ら初めての滞在を行った。
いるイメージを書いておこうと思う。
子どもと親の関係のようで、建材が2段階に及んで 使われている「二世帯住宅」と呼べるかもしれない。
寝室の側面はブルーシートをあげると、川への ビューが素晴らしい。そのためその視界は遮らない ように、写真の木材が置かれている場所にデッキを 貼ることを考えている。そのデッキの上にテーブル とイスを置き、PC 作業やコーヒーを飲んだりする この立派な(?)戸建住宅の施主さんには申し訳 ないが、似たような表面を持つ家が河川敷にある。
ことができれば最高だ。 Research14 でのこぎりを見つけているので、写
そしてなんとフローリングまで一緒だから、是非と
真のような変形の場所でも板を加工すればデッキを
も一度多摩川の方の家にもきてほしいと思う。この
つくることは可能だろう。
家から材料を手に入れた詳しい内容は Research10 と Research12 を参照。
というわけで、次回以降はこの設計を念頭に置い て、使えそうな木材を入手していきたいと思う。加 えて釘もおそらく足りなくなるため、入手できれば
目ぼしい建設現場を見つける 家を出てから気づいたのだが、今日は成人の日
と思う。
で世間的には祝日だ。大手の中規模の現場は工事を
滞在
行っていたが、端材をくれる戸建住宅の工事は行っ
今日は全体としては 4 回目、木材で堅牢に寝室が
ていなかった。だが、狛江市内を 15km に及んで自
作れてからは初めての滞在となった。 今回の滞在では、今までよりもちゃんと空間が確 保されていることを感じることができた。箱自体が 自立していることは、 中で寝ていても恐怖心がない。 そして圧迫感もないので、程よいサイズ感で設計す ることができた。 一方寒さは厳しい。寝るまではいいのだが、朝起 きた時の寒さは結構キツい。外は 3℃の世界なので、 布団から出ちゃっている部分(顔とか、手とか)は かなり冷え込んでしまう。 客観的なデータとして、室内の気温がどうなって いるかを次回以降は測定したいと思う。
53
Research24 日時: 2019.1.16(水)
16:00 - 17:30
場所: 狛江市+多摩川河川敷 天気: 晴れ(6-8°C)
今日は遅くからのスタートとなってし ま っ た が、Research23 で 目 星 を 付 け
平日はひたすら資材を集め、週末に施工する。そ
下見が成功
ういったサイクルを今週は送りたい。なので明日・
自宅よりも西側の狛江市西和泉・中和泉といった
明後日といかに資材を集められるかが鍵となってき
エリアに2軒の新築物件を把握している。中でも建 て方が終わったくらいの現場があり、そこは木材が 豊富にありそう(=たくさん捨てられていそう)だ と考えていたので、その現場に向かった。 立ち馬に登って作業をしている大工さんに恐る
た工事現場に行き、廃材をどうにかして
恐る声をかけると、その大工さんは優しく返答して
譲ってもらいたい。とりわけ木材をたく
くれた。現場の裏にある廃材置き場のやつはもうい
さん使う段階にありそうだった現場に向
らないから好きなだけ持って行ってくれとのこと
かう。
だった。 かなりの木材の山の中から、長さと形がいい感じ のものを選び自転車に積み込む。ぼくが使っている ママチャリでは積める量は限界があるが、これでも かとばかりに荷台のカゴに積み込んだ。
というわけで、今回の戦利品はこのような感じ だ。 柱梁の端材(右)はかなり頑丈なため、土台にも 作業台にも活かせそうだ。 小梁(?)の端材(中央)は上部だが手頃なサイ ズ感なので、床を貼ったり、補強したりなど様々な 用途に使えそうだ。 角材(左)はいつもと同じサイズのものだ。たく さん集まれば柱にだってなるだろう。 あまり長い部材は手に入らなかったが、なかなか 今日は当たりなものも手に入った。特に太い部材は 建て方にでしか出ない廃材なので貴重だ。これらを 基礎がわりにリビングルームを建てていきたい。
資材集めの平日と施工の週末 やはり現場を回れば回るだけ、資材は集まるもの だ。大工さんの作業のタイミングなどもあり、必ず しも現場に行ったからといって材料が手に入るわけ は当然ないのだが、時間をかければ結果はついてく る。これは平日の特徴かもしれない。 一方で週末はどこの現場も休みであるため、基本 的に資材は手に入らない。ということは平日と週末 でやることを変えていくのが合理的だ。 54
そうだ。
Research25 日時: 2019.1.17(木)
13:30 - 17:30
/24:00 - 9:00
場所: 狛江市+多摩川河川敷 天気: 晴れ(8-12/2-4°C)
超大物との出会い まずは自転車を西に走らせてチェックしていた 現場を回る。Research24 でもマークしていた現場 のうち、まだ声をかけていない方の現場の大工さん は現在休憩中だった。若くてヒゲを生やしたコワモ テ大工さんだったので、結構ビビったが、なんと予 期せぬ大物をぼくにプレゼントしてくれた。
今日も日中の活動時間は資材集めに費や し た い と 思 う。 ま だ 木 材 が 足 り な い 状
このようにふたつの現場からこういった材料が
況 は 変 わ り な い の で、 こ こ か ら 2 日 間 ひたすら自転車を漕いで木材を集める。
手に入った。今までは木材の端材が多かったが、新
Research23 で チ ェ ッ ク し た 建 設 現 場
しいテイストの材料が加わったことによって、新し
中心に資材を集めたい。
い案が生まれそうだ。
取引先との出会い これらの荷物を資材置き場に整理していると、も 資材をまとめて運ぶときに使われるパレットだ。
う太陽が沈みかけていた。ダメもとで河川敷から近
しかも2個。これはリビングルームの土台になる。
い2つの現場を回ることにした。一つの現場は大工
2個並べると1畳分のスペースが取れるので、想定
さんが中で作業をしていたため、捕まえることがで
通りのちょうどいいサイズだ。
きなかったが、もう一つの現場でいい出会いが生ま れた。この現場は Research23 で写真を載せていた
しかし想像よりも大きく、自転車で運ぶのは至
現場だ。
難の技だ。ヒモを使って結びつけるも、現場まであ と 1km くらいの場所でパレットが崩れてしまった。
快く廃材を譲ってくれたのはもちろんのこと、ぼ
これ以上自転車で運ぶのは困難であったため、急遽
くが廃材で家を建てると言ったら相当面白がってく
車を使用させてもらい、現場まで運んだ。
れた。そんなこと考えるやつがいるんだな笑、と言 い、来週くらいに来たらもっと廃材が出てるからま
綺麗なボードとブルーシート その次に訪れた現場は狛江駅から徒歩 3 分ほど
た来なよ、と教えてくれた。
の好立地にある戸建住宅だ。外装工事以外はほとん
風の音と睡眠
ど完成に近そうなこの現場は、前々からボードがた
今晩はいつもより風が強く感じた。家の中に風が
くさん廃材置き場に捨てられているのを確認してい
入り込むことはないのだが、草木を揺らす風の音が
た。ちょうど玄関付近で休憩をしている大工さんが
気持ちよくもあり、うるさくもある。珍しく睡眠中
いたため、声をかけると廃材置き場のものならなん
に 2 回も目が覚めた。寒さではなく、音のせいだ。
でも持って行っていいとのこと。
寝室と河川敷を隔てているのは、四重にしたブルー シートだけだ。 これでは全く遮音できるはずがない。
廃材を漁ると、ボードにもたくさんの種類のもの があることがわかる。吉野石膏のタイガーボードの
ただ、遮音することが本当にいいことなのだろう
端材の中にツルツルとした加工がされている大きめ
かという疑問はある。もともと人間は睡眠中でも獣
のボードがあった。正直どこに使われているものな
の足音とかを聞き、防衛して過ごしていただろう。
のかわからなかったが、テーブルなどに活かせそう
それがこの堅牢な住居に住むようになってから、ど
だ。
んどん人間の感性が鈍くなっていった。一方で、獣
そしてボードを漁っていると、思わぬ出会いが。
の足音を聞くような自然に戻るわけにはいかない
ブルーシートである。粗目なので、生活空間の雨を
が、自分の最寄駅のアナウンスで目が覚めるという
防ぐことはあまり期待できないが、それでも何かに
都市の睡眠術のようなものは存在するとも言えるだ
カバーをするときに使えるだろう。本来の使われ方
ろう。
通りに、地面に敷いて使ってみてもいいかもしれな
都市の音には自然の音とは違う人間との関係性 がありそうだと、気付かされた。
い。 55
Research26 日時: 2019.1.18(金)
13:00 - 17:30
場所: 狛江市+多摩川河川敷 天気: 晴れ(7-10°C)
昨日と同様に資材集めからスタートす る。一回資材が集まったら現場にてリビ
お昼休憩後の現場 普段大工さんに声をかける時は、家の外に出てき ていて声をかけるのに無理がないタイミングを狙っ ている。作業の邪魔にならないようにするのがポイ ントだ。 (というか作業の邪魔をしてまで声をかけ るほどの勇気がない。 ) 今日のリサーチ開始時間は 13 時だったので、工
ングルームの施工に入ろうと思う。リビ
事現場はちょうど昼休憩を終えたばかりだった。大
ングルームにはテーブルとイスがおける
工さんは見事にみんな仕事に集中していて、休憩を
スペースを作り、日中くつろげるような
とっているような現場は一つもなかった。14 時過
場所にしたいと考えている。
ぎくらいまで様々な現場を回っていたが、今日はあ
とイスを置いて食事から PC 作業までできるような 空間をイメージしている。
いにくヒットするような現場は見つからなかった。 いくつかの目ぼしい現場は把握できたが。 このことからわかるように大工さんのタイムス ケジュールは 12:00 〜 13:00 お昼休憩
Research25 の3つ目の現場で譲ってもらったベ
13:00 〜 14:30 作業に集中
ニア板の端材を敷き詰めると、パレット1個分のほ
といったことがなんとなくわかった。すなわち現
とんどが埋まったため、床材にはベニア板を用いる
場で廃材を手に入れるには、12:00 〜 14:30 は外し
ことにする。両端を釘でパレットに打ち付け、板を
た方がいいということだ。これは今後の資材集めに
貼る。そしてテーブル高さの木材をサイドからパ
も活かせる情報だ。特に夕方はみんなそれなりに疲
レットに打ち付けると、リビングのイメージが湧い
れていて、休憩をとっている現場がたくさんある。
てくる。
拾えるものたち
川の方角のビューを意識するようにしてテーブ ルを設けている。このリビングルームが寝室とは違 う角度に振っているのも、より静かな川の景色を取 り入れるためである。そしてこのテーブルの脚に というわけで、今日の資材集めは道に落ちている ものを拾うことになった。
天板を受ける角材を打ち付ける。そしてその上に Research25 の2番目の現場でもらってきた光沢の
ゲットしたのはかけたコンクリートブロックが 2個と、30cm くらいの角材が1本だった。コンク リートブロックは何かを支えたり、基礎として使え そうだ。ただ、昨日に比べれば収穫は圧倒的に少な く、残念である。
リビングルーム リビングルームの場所は寝室よりもやや奥に 入ったところである。写真のパレットが並べられて いる場所に立って動ける空間を作り上げていく。だ いたい1畳くらいのリビングルームでは、テーブル 56
ある大き目のボードを載せるとテーブルの完成だ。 (まだ強度に問題があるが、最終的にはリビングの 支柱とつなげたり、つっぱりを入れたい。 )
その後、このテーブルを設置した場所は後ろに十 分な広さがなく圧迫感があったため、パレットを入 れ替えた。そしてもう一方のパレットには余ってい たサイディングを敷き詰めて床とした。サイディン グの裏側のマテリアル感も合間って、玄関とリビン グのようなシークエンスが誕生した。 本日の最終形態が上の写真だ。 うん。なかなかにかっこいいぞ。先にも書いたが、 マテリアルの切り替えがリズムを生んでいる。さら にルーバー等を設置して、同じようにリズムをうめ たらなかなか豊かな空間になりそうな気がする。 ただ、ここで問題は全体を覆う柱梁を作れるほど の材料がないという点だ。そもそも全体を覆う必要 があるのか、そこから検討する必要があるだろう。 残りの資材と相談しながら今週末の施工に取り組み たいと思っている。
57
Research27 日時: 2019.1.19(土)
14:30 - 17:30
/23:30 - 9:00
場所: 狛江市+多摩川河川敷 天気: 晴れ(7-11/1-5°C) 午前中は卒業制作の敷地模型のための材
まだ強度には不安が残るものの、この後にリビン
土曜日の現場
グルームの柱を立てたりするので、それとテーブル
家を出て河川敷に向かう途中に大和ハウスの現
の脚を固定しあったりすれば頑丈になってくれると
場がある。どうやら今日は土曜日にも関わらず職人
計算している。
さんたちが働いている。先週が3連休だったことが 関係しているのかはわからないが、もしかすると他 の現場もやっているのでは?と思い、Research25
柱を立てる
の3番目の現場を再訪してみることにした。ここの
いよいよ柱を立てる時がやってきた。まずは柱に
棟梁は優しく、また来てよと言ってくれてたのだ。
なる材を作らなくてはならない。
料を買いに御茶ノ水に出かけた。久しぶ りに都会に行ったので、なんだかそわそ
ぼくの予想はあたり、この現場も普通に仕事して
わした。今日は急遽佐野くんも手伝って
いた。 みんな働き者だ。 たいして廃材が出ていなかっ
くれるということで、一人では打てない
たが、それでもかなり太い角材たちをゲットするこ
釘などをしっかり打ちながら、柱を立て
とができた。
られたらと思う。
角材の一部を切って、そこに釘を両方向から打ち 付けることで、ジョイントになるのではないかと思 い試作した。しかし釘が上手く刺さらないことと、 一点に力が集中してしまうことからこのやり方を諦 め、サイドを他の木材で固定することにした。そう して出来上がった2本の柱を立てるとこのように空 間のイメージが湧いてくる。
レールのようなものがついた木材は、引き戸のガ イドに使えるかもしれない。ただ、これらの木材に 釘を打って固定するには今持っている釘よりも長い ものが必要になってくる。来週以降の課題として、 長い釘を集めるということがありそうだ。
テーブルの補強
ただ、これがなかなか大変だ。今手元にある木材 まだテーブルがグラつくので、脚元に解体屋さん
が全体的に太すぎるのと、 釘を上手く打てないので、
にもらった堅木を打ち付ける。石のハンマーではこ
これらを一つの大きい箱に仕上げるのはなかなか労
れが一苦労で、堅木に釘が刺さらない。
力がかかりそうだ。
結局佐野くんが来てから、広い場所で協力して組
とりあえず明日一日を使って壁を一面だけでも
み立ててから、現場に移した。プレファブのような
作れればと思っているが、果たしてどうなるのだろ
感じだ。
うか。
58
6泊目 今日で滞在は6泊目だ。最初の頃に比べれば、室 内空間はかなり良くなっているし、寝心地もかなり 良い。今日は 1 時くらいに寝て、自然と 8 時くらい に目が覚めた。室内の気温も結構高いのではないだ ろうか。次回の滞在では温度計を室内と屋外に設置 して、客観的に比較してみようと思う。
59
Research28 日時: 2019.1.20(日)
9:00 - 15:00
場所: 狛江市多摩川河川敷 天気: 晴れ(4-12°C)
モスバーガー 和泉多摩川駅前にあるモスバーガーは朝 7 時から 開店している。就寝時間にもよるが、7 時は河川敷 の生活とマッチした時間帯かもしれない。今回は 9 時くらいに入店したが、朝からご飯を食べて暖をと れるのはありがたい。
今日は朝起きてから家には帰らず、街の どこかで朝食を食べてまた河川敷に戻っ てみようと思う。都市には色々な昨日が 分散していて、それらを繋ぎ合わせれば 大きな家のようである。 また、お昼の時間には研究会の教授が来
とはいえ気にせずずっと作業をしていると、14
てくれる。そこでエスキスを受けて最後
時すぎくらいに国土交通省のパトロールの人がぼく
の1週間に繋げたい。
の家にやってきた。初めての対面だ。 夜に使ったスマホやパソコンの充電をしたいと 思っていたら、このようにコンセントがある座席を
パトロールの人は思っていた以上に物腰が柔ら かい人で、ぼくを諭すような語り口だった。
発見した。特に注意書きとかはなかったので、遠慮
「ここに造作物を無断で置くことは法律で禁止さ
なく一つはスマホへ、 もう一つはパソコンへ繋いだ。
れているから、 撤去して欲しいんです。 あなたはホー ムレスですか?仕事はありますか?」
電気は欠かせない存在だ。河川敷で生活している 路上生活者でさえも、ソーラー発電やバッテリーを 駆使して何かを動かしたりしている。 加藤さんは昔、 発電機そのものを持っていたらしい。そのようなリ ソースが身近に手に入る例として、今朝のモスバー ガーは最適なものだった。
ぼくは卒業制作でやっているとは言わずに、 「身を寄せる家はあります。仕事はないです。こ こでは週の半分くらい泊まっています。 」 と嘘ではない範囲で答えると、パトロールの人は 色々と想像力を働かせてくれて、 「まぁ色々と事情はあるでしょうからね。でも早 く仕事を見つけて、ここに住むのをやめなさい。 」 と言ってくれた。親心に溢れた人だ。
多摩川の権利
ここで気になっていた疑問をぶつける。 「あの橋の向こうにも住んでいる人がいますよ ね。あの人は撤去しなくてもいいんですか?ぼくが ここでホームレスですと答えたらここにずっと住め るんですか?」 「ホームレスの人も本当はダメだし、生活保護と 施設の案内も出して、路上生活をしないように促し てるんだけどね。やっぱり生活保護とか施設とかを 嫌う人もいる。そういう人には、名前とか生年月日 とか出身地とか諸々の情報を書いてもらって、ホー ムレスとして登録している。 」 という回答だった。つまり、河川敷のホームレス モスバーガーから帰ると、国土交通省のパトロー
に関しては、オリジナルの住民票のようなものがあ
ルの人がぼくの家の前にいた。遠くからその様子を
り、そこで全部を管理しているのだ。やはりブラッ
観察してみると、家の写真をたくさん撮ったり、な
クの中のホワイト、グレーゾーンの施策がされてい
にやら情報を書き込んでいたり、警告のステッカー
るのだ。
を貼ったりなどしていた。12/31 に一回やられたの で、今回が 2 回目ということになる。
「でも、1月いっぱいはどうしてもここに住まな きゃならないんです。 」
相変わらず攻撃的なステッカーだ。
そう伝えると、案外あっさり 「わかりました。上司にそう伝えておくので、そ
60
の代わり1月中に撤去してください。あと、これ以 上の増築はやめてください。寝室さえあれば寝泊ま りには困らないでしょ?」
も、壁としても) ・寝室の作り方とリビングの作り方の違いが明確 だと面白い。 (張力を使ってみたら?)
と釘を刺しながら、ぼくの要求を飲んでくれた。 家がなくて困っている人は、すぐに出て行けと言わ
90 分間みっちりとフィードバックを受けながら、
れても路頭に迷うだけだ。なんだか出て行かなきゃ
ぼくの家で小林さんが買ってきてくれたコンビニ弁
ならないのは悲しいことだが、本当に家がない人た
当を一緒に食べた。
ちを守るためのルールでもあるんだと思うと、従わ ざるを得ない。 帰り際にパトロールの人は 「ところでお名前は?」 と聞いてきた。なんかに登録されるのかな、嫌だ なと思いながらも 「松岡と言います。 」 と答えたら、 「私はタケウチです。よろしくお願いします。 」 と返してくれた。最後は登録されるのかもしれな いけど、その柔らかいコミュニケーションになんだ
張力で壁を立てる
か心が暖かくなった。
エスキスを生かして、そしてタケウチさんからの
「君はまだ若そうだよね。30 歳にもなっていない
注意を生かして、リビングルームは張力を用いて建
んじゃないかな?まだ 20 代なら仕事もいっぱいあ
設し、即興的に展開できるものにしたいと考えた。
るよ。頑張ってね。 」
屋根も常にある必要はなく、必要な時にかけられる
そう言い残して、タケウチさんは去っていった。
ようなシステムを作れればいいと思う。
ストラクチャーのフェンスとコンクリートブ ロックを用いて、ヒモの張力で壁を立てた。他にも
エスキス
柱を立てて、空間の全体像を浮かび上がらせること
お昼すぎに小林さん(ぼくが所属している研究会
ができた。
の教授)が来訪してくれた。研究会活動を通して 3 年間お世話になっていて、この路上生活者のリサー チも 1 年間卒業プロジェクトとして見守ってくれた 恩師だ。 小林さんからのフィードバック ・ブリコラージュはひとつひとつの意思決定の積 み重ね。計画なしの建築だから、なぜそうなったか を説明できることが大事。 ・プライバシーについて考えること。
張力を用いるのはかなり実用的なアイデアだ。壁
・一般の人たちが通る道との関係性が大事。 (パ
を2箇所くらいに立てることができれば、それでも
ブリック→セミパブリック→セミプライベート→プ
うなんとなく空間として区切ることができそうだ。
ライベート)
これ以上の恒常的な増築はできないが、仮設的な
・ストラクチャーをもっと生かす。 (構造として 61
増築は可能になりそうだ。なので、壁にボードなど
を貼っていって、もっともっとプライベートにして いきたいと思う。
壁の生かし方 小林さんからのフィードバックにもあった、ス トラクチャーの壁としての使い方について考えてみ る。ここには紙とペンはないので、設計のスケッチ や図面のようなものを書いておくためのスペースと してダイナミックに利用できるのではないか、との ことだった。
確かに中央に学校の黒板のような広いスペース があるため、この壁を利用して設計図のようなもの を書いた。結構イメージが膨らむし、ダイアグラム などもこの場所で整理できる。これからは計画など も随時メモしていきたいと考えている。 (個人的に 結構気に入った。 )
残り1週間 路上生活も残すところ1週間となった。27 日に は内覧会を行い、その場で解体して撤去、大学に搬 入するつもりだ。水曜日までは大学に行かなければ ならないので、水曜日の夜からまた再びこの場に 戻ってきたいと思う。長い釘を探したり、張力を用 いたリビングの設計を行ったりしていきたいと思 う。
62
Research29 日時: 2019.1.24(木)
23:00 -
2019.1.27(日)
17:00
場所: 狛江市多摩川河川敷 天気: 晴れ / 曇り(-1-10°C)
1 泊目(1/24 の夜) 大学での作業もあり、土曜日の夜ぶりの中 4 日開 けての滞在となった。久しぶりに夜の河川敷に戻る
ドナルドに 「コーヒー0円」 のポスターが貼ってあっ た。0円と聞いて行かないわけにはいかない。ハン バーガーも注文したが、もちろんコーヒーはタダで いただいた。
と、川が流れる音や草木が風になびく音が大きく感 じる。初めて滞在した時はこの音が怖く感じて眠れ なかったことを思い出した。
マクドナルドの中は暖かかった。ソファ席に座る と、河川敷の固い布団との違いに驚く。カウンター 席にはコンセントまである。
Research28 で張力を活かして立てた壁は、4 日
マクドナルドは0円でコーヒーを提供している
たってもまだ何事もなかったかのように立ち続けて
こともすごいが、暖かくて休めて充電もできる空間
ンジする。資材を集め、まだ完成してい
いた。張力という考え方はかなり有用だということ
を0円で提供しているとも言える。これは普段の生
ないリビングの完成を目指す。最終日と
を身を持って知ることができた。この結果からもう
活では普通のことかもしれないが、このような路上
なる 27 日はプロジェクトに興味を持っ
1枚壁を張力で立てることを決めた。2枚の壁を張
生活をしていると気づかされることである。
てくれた人たちを招待して内覧会を行
力で立て、それによってリビングの空間をデザイン
い、意見交換をしようと企んでいる。基
することにした。
撤去前最後の滞在は3泊の連泊にチャレ
本的には日没〜就寝の時間は実家に戻 り、 パソコンで作業などをしていたが、 それ以外の時間は河川敷での作業をして いた。
行きつけの現場へ
さらに今晩は100円ショップで買ってきた温
マクドナルドで一息ついたあとは、Research25
度計を室内と室外に設置して、明け方の温度の差を
で知り合ってから仲良くしてくれている現場に向
測ってみようと思う。 (しかし、 温度計が壊れていた。
かった。この前ちょうど壁を貼り始めていたので、
朝なのに 17 度とかを指していたので、おそらく不
おそらく面材が手に入るのではないかという期待を
良品だ。 )
込めた。
この日、現場に行く前にとある工事現場を訪れ た。そこは仮囲いがない場所で、結構公道に資材を はみ出しているテキトーな業者さんがやっている現 場だ。釘が大量に手に入る前にも来たことがあり、 この現場の周辺には何本か釘が落ちていて、それを 調達したことがあった。今回ももしかしたら何かが 落ちているかもしれない、と思い行ってみると、近 くのコンクリートブロックの上に電動釘打ち機用の 釘が置いてある。置いてある場所的に窃盗にはなら
今回の収穫はこんな感じだ。目当ての面材に加え
ないが、間違いなくここの大工さんのものだ。それ
て、太くて長さのある角材、そしてたくさんの釘が
を取るかどうか迷ったが、釘がもう少しないと家が
刺さった面材が手に入った。
建たないので、いただくことにした。
今日も職人さんはとてもよく接してくれて、他の 職人さんにぼくのことを面白いことを考えているや つとして紹介してくれた。
現場に帰ったあとは、面材に刺さっていた釘をひ たすら抜く作業をしていた。裏から石で打てば、そ
マクドナルドに関するミニ考察
れなりにスムーズに釘を抜くことができる。曲がっ ているものが多いが、合計で 30 本くらいの釘が一
朝起きて、朝ごはんを求めに街に出た。前回はモ
度に手に入った。こっちの釘が 50mm で、昨晩ゲッ
スバーガーだったので、今回はどこか違うところに
トした釘が 75mm なのでうまく使い分けることが
行ってみようと思い自転車を走らせていると、マク
できそうだ。
63
河川敷のぼくの家のちょっと手前の場所に釣り
壁の施工
をしている人がいた。深夜の河川敷で人とすれ違う
壁はまだフレームしかできていないため、ここに
と想像以上にびっくりする。顔も見えないので、も
板材を貼って、 ルーバーのような機能を持たせたい。
し何かあったらどうしよう、 という不安に襲われる。
そうすることでリビングのプライバシーがある程度 は保たれるだろうと考えた。
しかし、睡眠はとてもよかった。深夜に -1℃に達 していたらしいが、9 時頃まで全く目が覚めずに過 ごすことができた。この日は前日の壊れた温度計を 見捨て、自宅にあった温度計付きの目覚まし時計を 持ち込んだ。室内は 7.2℃、この時間の室外もそこ まで変わらなかった。このことからわかることは、 ブルーシートの壁は対して保温性がないということ かもしれない。 しかし、体感は外より室内の方が暖かい。これは
Research25 でゲットした石膏ボードの端材と、 先ほど釘が刺さっていた面材(構造用のボード)を
おそらく風を完璧に防ぐことに成功しているからと 言えるだろう。
等間隔にリズムよく配置して壁としてデザインし た。ルーバーを意識したのはもちろんのこと、下段 の構造用ボードには、先ほど石で打つだけでは抜け なかった釘がそのままフックとして活用されている のがポイントだ。
しかしこの壁はボードをたくさんつけすぎたが
最後に現場をまわる
ために、かなり重くなってしまった。今まで支えて
明日は内覧会の準備等で何もできないと思った
いたコンクリートブロックでは壁の重さを支えるこ
ため、この日の午前中に、今まで資材をもらった現
とができずに壁が倒れてしまった。 その結果として、 Research21 で頑張って制作したキャンチレバーの
場を写真を撮ることも含めて、 再び回ろうと考えた。 (ログは一番前を確認してほしい。 )
上に壁が崩落して、ぶっ壊れてしまった。制作当時 はかなり苦労して釘を打ったり、のこぎりで 45 度
端材をくれた建設現場:7ヶ所
にカットしたりとしたためかなり悲しかった。
廃材をくれた解体屋さん:1ヶ所 ダンボールをくれたお店:2ヶ所 これらの方々のおかげで、今回の狛江の家は着々 と完成に近づいている。中には複数回お世話になっ ている場所もあるので、本当に感謝しなくてはなら ない。また、このプロジェクが終わった後でも来な よと言われているため、是非とも端材・廃材を再資 源化する挑戦もしていきたいと思う。
結局翌日にここはデザインを変えて治し、壁を支 える重りには川岸で拾った魚釣り用のバケツに石を たっぷりと詰めて使用した。
2 泊目(1/25 の夜) 2連泊自体が初めてなので、体に疲れが残ること が心配だが、それこそ経験してみないとわからない ことなので今晩も河川敷に向かう。 64
一つの参考として、昨日も訪れた贔屓にしてくれ る現場を挙げる。
思う。木と木の接合は釘さえあれば可能だが、アル ミとアルミの接合はそうはいかない。石でアルミ同
玄関の壁
士を打ち付けて、ある程度接合したのち、紐で 90
昨日作った壁に加えて2枚目の壁(玄関の壁)を
度になるように結んだ。水平方向のアルミは長さが
制作したいと思う。こちらは玄関なので人が歩いて
足りないので、 もらってきた麻紐を巻きつけながら、
通過できるようなつくりで、門型のものをにしよう
水平と垂直がしっかりと出るように長さを調節して
と思う。
壁に結びつけた。
まずは短い角材を繋げていって、1800 くらいあ る柱を作る。文章にしてしまえば簡単だが、相変わ らず石で釘を打っているので、 かなり時間がかかる。
リビングルーム
角材の場合、 つなぎ目に垂直な面は合計で4面ある。
以上に加えて余ったサイディングのテクスチャ
この4面のうち、対角同士ではない2面に当て木を
から連想して、リビングの前にレンガの玄関のよう
して釘を打てば強固に接続される。
なものを設けた。
こうしてリビングルームが完成し、寝室と繋がり ながらも、寝室の眺めを邪魔せずに違う風景が楽し めるリビングが完成した。フックが導入されたり、 このように接合した柱の上にツーバイフォー材
梁を何かを掛けるために利用できたりなど、空間と
を上から打ち付け、短い斜めの材で補強することに
して立ち上がるとイメージを超えた使い方が思いつ
よって、門型で強固な構築物を作った。この門型の
いたりする。
玄関と、昨日制作した壁を垂直に結びつけると、リ ビングルームの全貌が見えてくる。
以上の制作をもって、ぼくの狛江の家の施工は終 了、すなわち竣工となった。
アルミで風景を切り取る窓 リビングには一番最初に作ったテーブルがある。 このテーブルからの眺めを重視して、窓をつくりた いと思った。とはいえガラスのような透明の資材は 持っていないので、フレームで風景を切り取るよう な窓を目指す。
3 泊目(1/26 の夜) いよいよ河川敷で寝泊まりする最後の夜となっ た。 実はこの日の日中も国土交通省のパトロールが やってきて注意を受けたのだ。Research28 の時に タケウチさんが本部にしっかりと伝えたのだろう。
ここまで木材をよく使っていたので、今回はアル
おそらくこの場所に不法占拠している若者がいると
ミでパキッとしたフレームを作って、人工物で切り
パトロールの人たち全員が知ることとなったのだ。
取られる自然の風景のコントラストを楽しみたいと
もういよいよ退去しなくてはならない。そういう意
65
味で、本当に河川敷のこの場所で寝るのは最後にな るだろう。
路上生活の終わり というわけで、ぼくの路上生活が幕を閉じた。最
家のベッドがなくなったとしても、別になんとも
後は内覧会に来てくれた人たちで狛江の家を解体し
思わないだろう。しかし、自分が資材を集めるとこ
て、軽トラックに積み込んだ。軽トラが1台満杯に
ろからつくり、ここが良い・悪いと自分でフィード
なるくらいの資材があった。これらの資材を人力で
バックしてブリコラージュしてきた作品がなくなる
ここまで運び込んで来たのだと考えると、自分の努
と思うととても悲しい。
力に驚くと共に、ふと加藤さんだったらどうなって いるのだろうと考える。多分 2t トラック数台分の
ぼくはいつも以上に多摩川の水や草木の音、集め
荷物があるだろう。
てきた資材の匂い、ゴミを重ねて作ったベッドの柔 らかさ、を感じながら眠りについた。一から資材を 集めるのも、長い距離運搬するのもごめんだけど、
路上生活は都市空間との対話だ。 ホームセンターに行ってお金を払い、規格化され
またいつかこんな生活がしたいと心の底から思って
た資材を購入する。産業主義的社会の儀礼的行為は
しまった。本当にこの場所には感謝しかない。
もはやぼくらの世界では当たり前だが、路上生活者 にとっては違う。何があるかわからない都市に出て いき、その時その時の目利きで材料を入手する。自
内覧会
分が直接必要なものでなくとも、間接的な使い方を 瞬時に発想する力がある。彼らはそうやって、ぼく らの裏側の都市の恩恵を受けて生き抜いている。そ して、ぼくはこの裏側の世界にデザインの余地があ ると確信するようになった。 路上生活を終えるにあたって、ぼくが話しかけて 快くコミュニケーションを取ってくださった全ての 路上生活者のみなさまに感謝したい。特に加藤さん は、 ぼくを自分の息子か孫のように可愛がってくれ、
翌日のお昼過ぎに内覧会を行なった。このプロ
自分が知らないことをたくさん教えてくれた。加藤
ジェクトに興味をもってくれている人たちがなんと
さんがいなかったら、このプロジェクトはもっと平
11 人も来てくれた。内覧会ではぼくが加藤さんか
凡なものだったかもしれないし、自分が家を本当に
らいただいた、いいちこの十六茶割を振る舞った。
建てようなんて思えなかったかもしれない。加藤さ
自分で作ってみて思ったが、ぼくが飲んだ時のこれ
ん、本当にありがとうございました。 そして、ぼくを指導してくださった小林さん。親
はとっても濃かったのだ。 その後にぼくの活動についての話をしたり、家そ
身に相談に乗ってくださり、そしてどんどん現場に
のものの建築的な話をしたり、みんなと一緒に研究
行くように後押しをしてくださったことは、自分が
に関しての議論をしたりなど、 充実した時間だった。
プロジェクトを進める上で大切なギアのような存在 でした。河川敷まで遊びに来てくださり、本当に嬉
今日もまたパトロールの人が来た。本当にマーク
しかったです。ありがとうございました。
されているんだな、と思うと同時に、こういう国で
そして両親。狛江生まれ狛江育ちで実家暮らしの
安全だなと心の底から思う。もしホームレスになっ
ぼくが、突然狛江のホームレスになるなんて、びっ
ても、こうやって生き延びる方法は自分で見つける
くりしたに違いないです。このプロジェクトのこと
ことができるし、誰かが見守ってくれているのだ。
をうまく伝わるように説明できなかったけど、全力
このまま嘘をつき続けるのも嫌だったので、自分 の身分と何をやっているかをパトロールの人にお伝
でサポートしてくれてありがとう。 そして関わってくれた友人たちにも感謝したい。
えして、今日中にちゃんと撤去するということを伝
高校時代からの友人が現場に遊びに来てくれたこと
えた。パトロールの人はぼくが大学生で建築の勉強
はとても嬉しかった。そして大学の人たちの中でも
をしていて、その制作物だというと驚いていたが、
特に、寺内さんと佐野くん。このふたりはぼくの良
それ以上にぼくに帰る家があることにホッとしてく
き理解者であり、優秀なサポーターであり、刺激的
れているようだった。
なライバルのような存在です。プロジェクトに一番 近い目線でこのように手伝ってくれたこと、心から 感謝しています。ありがとう。 66
67
68
ゴミ(=資源)ネットワーク
狛江の家を建てるにあたり使用した資源はもともとどんなゴミで、 どこから排出されたのかをまとめる。そちら側では同じ物質がゴミと して扱われ、こちら側では資源として扱われる。このプロジェクトを 中心に添えた時に、その突然変異がどこで起きているのかを概観する ことができるのが、このネットワークマップである。 自分の家を建てるにあたって、多くの突然変異が建設現場のゴミ置 場で起こっていた。 これはまさしく建築の功罪である。 たくさんの人々 の夢としてマイホームを贈る建築の裏では、ゴミが大量に捨てられて いる。そして、さらにその一方で、それらのゴミを再度資源化して生 き抜く路上生活者がいて、まさにパラレルに物質が動いているのがこ の建設現場であった。 この整理しきれない混沌としたネットワークはから、私たちは何を 享受することができるのか。そしてデザイナーは何を変えることがで きるのか。それらを真剣に考えるきっかけになることを願う。
ゴミ(=資源)ネットワークマップ
C D
多摩川
A
H
路上生活者の家
喜多見駅
世田谷通り
E 狛江駅
H B
F G
和泉多摩川駅
J I 狛江の家
家 小田急線陸橋
K
L
A
狛江市元和泉2丁目の新築建設現場1 最初に声をかけた建設現場で、現場では多くのゴミが出 ているということを直接教えてくれた。木材以外のもの が手に入った。路上生活が終わる頃にはもうほぼ竣工し ていた。河川敷の家と同じファサードを持つ。
風が強く吹き付ける
レンガから連想して
面の壁として利用
庭の道として敷く フローリングは床に サイディングは床を支え る根太のように使う
手に入れたもの
家からの距離と運搬手段
サイディングの端材× 12
1.2km 徒歩+自転車+車(サイディ
フローリングの端材(× 13
角材の端材× 5
訪れた日
B
ングの運搬)
2018.12.5 12.13 12.14
狛江市元和泉の土建屋さん 藤原土建 古い民家などを解体する仕事をしている土建屋さん。廃 材置き場には常にたくさんの資源が置かれていたため、 気になって電話をしてみたことが始まり。以後とても優 しくしてくださり、行くたびに廃材を譲ってくださる。 お風呂屋さんもボイラーの薪で廃材を利用するらしい。 天井と壁をベニア板で
角材のあまりは柱の
つくり剛性を高める
一部として利用
長めの角材でブ
堅木でテーブルの脚元を固定
レースを入れる 屋根をかけるための 垂木のようなもの
手に入れたもの
家からの距離と運搬手段
立派な廃材(長さ 2000mm くらい)× 2
0.9km 徒歩+自転車+台車(借り物)
板材の廃材(釘が刺さっている)×5
訪れた日
角材の廃材(1800mm くらい)×2
2018.12.21 2019.1.10
3 ×6板の廃材× 2 堅木の廃材(長さ 900mm くらい)×1
C
フローリングを支えるための根太
調布市国領(ほぼ狛江)の新築建設現場 集めている最中は気がつかなかったが調布市国領にあ る、2軒同時に施工している現場だ。大工さんは自由に もっていっていいよ、といったスタンスで廃材置き場を 漁るぼくのことを空気のように扱ってきた。黙々と作業 をする優しいおじさんだった。
細い角材は柱の一部として利用 太い角材は独立する柱の脚 元に打ち付けて安定させる 2× 4 材は使いどころが難 しく、結構余ってしまった
手に入れたもの
家からの距離と運搬手段
角材の端材(大)×3
3.1km 自転車
角材の端材(小)×2
訪れた日
2× 4 材を 当て木とし て用いる
2× 4 の端材(長さ 500mm くらい) 2019.1.14 1.16 ×7
72
D
狛江市中和泉5丁目の新築建設現場 若くてイカついヒゲのお兄さんが 2 人で回している現 場に勇気を振り絞って突撃すると、なんとパレットを頂 けた。絶対元ヤンキーだが、偏見を吹き飛ばしてくれる ような現場だった。とはいえ目つきとか恐ろしいけど。
細い角材は柱の一部として利用 パレットはそのままリビ ングの基礎として並べて 一畳の空間を作った
手に入れたもの
家からの距離と運搬手段
パレット(900mm)× 2
2.4km 自転車+車
2 × 4 の端材×1
訪れた日
角材の端材(20mm × 30mm)×1
2019.1.14 1.17
E
狛江市中和泉1丁目の新築建設現場 狛江駅から近くにあるこの建設現場は敷地が狭く、道路 から手を伸ばせば届くようなところに廃材置き場があ る。ちょうど内装の工事が進んでいた頃で、ボード類の 端材がたくさん捨てられていた。
サッシはアルミの 窓枠として使用
大きいボードは
手に入れたもの
家からの距離と運搬手段
石膏ボードの端材 ( 細長)× 6
1.7km 自転車
石膏ボードの端材(大)×1
訪れた日
ブルーシート×1
2018.1.14 1.17
ブルーシートはリビングの屋根に
テーブルの天板
使えるように資材置き場に保管
として利用
アルミサッシ×1
F
狛江市元和泉1丁目の新築建設現場 フェンスの外から現場を覗き込むと地面に釘が何本か落 ちいていたため、職人さんに声をかけたところ、なんと 新品の釘を両手にドバッとくださった。人の恩恵も受け ながらプロジェクトが進んでいくことの象徴的な現場 だった。
狛江の家の接合部の多くにこの 現場でいただいた釘を使用
手に入れたもの
家からの距離と運搬手段
釘(50mm)× 94
1.2km 自転車 訪れた日 2019.1.10
73
細長いボードは壁に貼り 付けてルーバーに
G
狛江市駒井町2丁目の新築建設現場 30 代っぽい若い棟梁が仕切っている現場で、初めて訪 れた時には建て方が終わったくらいのタイミングだっ た。家を建てる時にでた廃材から家を建てる、というコ ンセプトを面白がってくれて、何度も廃材をいただきに 行った。 角材を延長させる 何本か余るくらい大量
テーブルの脚とし 角材でトラ
てベニアの端材を
スを作る
使用
の木材をいただいた ベニア板をパレッ トに打ち付けて床
屋根としてボードを利用
を貼る
手に入れたもの
家からの距離と運搬手段
角材(太め)×たくさん
1.0km 自転車
ベニア板の端材× 7
訪れた日
ウッドボード×4
2018.1.14 1.17 1.19 1.25
ボードを壁に 貼りつける
釘×約 20
H
当て木や横サンに角材を用いる
狛江市元和泉2丁目の新築建設現場2 資材集めをしているときにまだ基礎工事をしていた現 場。道路からの距離があまりなく、仮囲いがされていな いため、釘を採集するのによく利用させてもらった。釘 の種類はタイミングによってバラバラなのでおもしろ い。
75 ミリの釘(青い釘)は 主要な柱や梁の接合に利用 序盤に拾った落ちていた 釘は寝室のフレームに利用
手に入れたもの
家からの距離と運搬手段
釘(バラバラ)
1.2km 自転車 訪れた日 2019.1.6 1.24
I
和泉多摩川商店街の八百屋さん 地域に根ざした八百屋さんの裏側には野菜が入っていた だろうダンボールが積み上げられていた。優しそうなお じさんに声をかけると快く譲ってくれた。その後おばさ んがひもをくれて、ダンボールを自転車に縛り付ける手 伝いをしてくれた。
フローリングと布団の間に断熱と してダンボールを敷きつめている
手に入れたもの
家からの距離と運搬手段
ダンボール× 6
0.6km
PP ひも(5m くらい)×1
訪れた日 2018.12.30
74
J
和泉多摩川商店街のドラッグストア 八百屋さんに、さらに大きいダンボールが欲しければド ラッグストアに行くといいと紹介されたところ。 薬剤師のおばさんが丁寧に対応してくれた。
サイディングが冷えたことに
ダンボールをストックしつつ、
よって吹き下す冷たい風を防ぐ
壁から吹き下す冷たい風を防ぐ
ためにフレームの隙間に挟む
手に入れたもの
家からの距離と運搬手段
大きめのダンボール×4
0.6km 訪れた日 2019.1.6
K
狛江市で捨てられたり落ちていたり貰ったりしたゴミ もえないごみの日には様々な資材が家先に並ぶ。しかし ながらそのどれもがゴミ袋に入るように折られていたり 曲げられたりしている。そうなるとなかなか建材として は使いにくい。また、もえないごみの他にも不法投棄さ れたものの中にも使えるものがある。貰い物も多い。 ダンボールをストックしつつ、 のこぎりや折りたたみ椅子、 ひもなどは無くならないよう に資材置き場に収納しておく
友人からもらった壊れ
壁から吹き下す冷たい風を防ぐ
ているスーツケース 拾った鉄パイプ
園芸用支柱はサ
(使い道なし)
イディングを止 めるのに利用
手に入れたもの
布団
アルミフレーム
ひも など
園芸用支柱 折りたたみ椅子
訪れた日
のこぎり
2018.12.13 12.21 12.26
L
河川敷に落ち ていたほうき
河原で拾った
で掃除する
石はハンマー の代わり
兄が担当している神奈川の建設現場のゴミ ぼくの兄は一級建築士で、現在は工務店の現場監督をし ている。担当している現場でゴミとして出た、いくつか の木材やブルーシートをいただいた。結構いいやつばか りくれたので重宝した。
ブルーシートは屋根や壁面を覆
同じサイズの角材を延長させて
うためのファサードとして利用
一本の長い柱にする 角材は長さが揃っていたため、 ロの字のフレームをつくる
手に入れたもの
家からの距離と運搬手段
角材× 12
? 車+電車
ブルーシート
訪れた日 2018.12.25
75
76
路上建築メソッド
自分が路上で建築実践をするにあたり、建築家としてこだわった点 をメソッドとしてまとめている。ここに設計図はなく、あるのは拾っ てきたものと、 自分の身体だけである。究極にシンプルな状態で、 日々 より良い暮らしをあるだけのもので叶えることが、路上の建築設計が 目指すところである。 このブリコラージュ的な建築実践は、あの時この材料があったらこ うできたのに、というような振り返りはナンセンスなものとして排除 している。ただ、このようにあるものだけでぼくは家を建てることが できた、ということの表明であり、その方法論の話である。 買えばなんでも揃うような時代に生まれ、市場経済に親しいぼくら には縁がない話だと、本当に思うヤツらは見る必要がない。ぼくらが CAD で建たない建築の図面を書いている間に、あなた方が貯金をし てマイホームを夢見ている間に、路上生活者は自分の家を手に入れて いる。それもなかなかに立派なやつだ。 ぼくがただ満足のいく家を建てる際に生み出された24の路上建 築メソッドが、次なる建築論に接続することを期待している。
同じ長さで下側から受ける
ブレースで強くする
1
2
施工日 2019.1.6 Research19 資材採集場所 H,L
同じサイズで同じ長さの角材を見つける。
施工日 2019.1.10 Research20 資材採集場所 B,H
解体屋さんから貰った廃材は、工事現場
規格材から、ある長さの材料を複数つく
の端材と違い新品のものではない。その
る と、 同 じ 数 だ け( 規 格 材 ー あ る 長 さ )
代わり、もともと家に使われていたため、
の廃材が生まれる。この廃材の長さは路
端材とは違い長さがある。端材は建築に
上生活を規格するモジュールとなり、今
とってネガであるのに対し、廃材はポジ
回の場合寝室の奥行きと高さを決めるポ
であったものである。この長さを活かし
イントとなった。地面は平坦ではないた
て、1でつくったフレームにブレースを
め、下にくる木材が受けになるように釘
つける。こうすることでフレーム自体が
を打つ必要がある。
とても強くなる。
角を極める
剛性を高める
5
6
施工日 2019.1.10 Research20 資材採集場所 A,B,L
4のサイディングを並べる際に、柱にぴっ
施工日 2019.1.10 Research20 資材採集場所 B,F
解体屋さんから貰ってきたベニア板の
たりくっつくように並べる。こうするこ
廃 材 を 寝 室 の 屋 根 面・ 壁 面 に 用 い る。
と で、 3 の 廃 材 と 4 の サ イ デ ィ ン グ で
1820mm の規格に合った材のため、複
90 度 の 角 を つ く る こ と が で き る。 こ れ
数枚あっても、同じように面材として用
が1でつくった木枠の柱にぴったりと当
いることができる。すなわち寝室の長さ
たるようにすることで、釘を用いずに床
は 1820mm にするのが最も合理的であ
の重さで木枠を自立させることができる。
る。屋根面・壁面の2ヶ所にベニア板を
今回は奥にはコンクリート壁があったた
用 い る こ と に よ っ て 剛 性 が 大 き く な る。
め、柱の最大3辺を極めることができた。
こ う す る こ と で 1 面 を 無 柱 空 間 に な り、 広々と川の眺めを楽しむことができる。
78
長い板を渡す
平坦をつくる
3
4
施工日 2019.1.10 Research20 資材採集場所 B
同じく解体屋さんで貰った 2m の廃材は
施工日 2019.1.10 Research20 資材採集場所 A
3 で敷いた廃材の上に 90 度回転させて
寝室の床下に利用する。主に浸水と防寒
サイディング(外壁材)を裏返して敷く。
と防湿のために、河川敷では床を地面か
これはこの上にフローリングを敷き詰め
ら浮かせることが重要である。こうする
るための下地にもなり、また、さらに地
ことで、少なくとも角材1本分地面から
面から浮かす効果もある。サイディング
浮くため、寝室として利用しても問題な
は石膏で出来ているため硬い。一方下に
く過ごすことができる。
ある廃材は木材であり、しなやかである。 2本の木材に均等にサイディングから力 が流れるようにもなっている。
ダンボールで断熱(床)
端材で勾配をつける
7
8
施工日 2019.1.10 Research20 資材採集場所 I
4 のサイディングの上にフローリングの
施工日 2019.1.12 Research21 資材採集場所 B,F,G,K
排水するために屋根には勾配をつける必
端材を敷き詰める。しかし、フローリン
要がある。ツーバイフォー材を全体に架
ン グ に は 断 熱 効 果 が ほ と ん ど な い た め、
けることによって、高さを出す。そこに
その上にさらに断熱効果の高いダンボー
あまり使い道がない面材の端材を取り付
ルを敷き詰めて、断熱する。ダンボール
ける。こうすることでこの上のブルーシー
は路上生活にとって様々な使い方ができ
トに雨が溜まらず、しっかりと排水する
るアイテムである。ひとまず敷いておけ
ことができる。粗くて安いブルーシート
ば体温が床から奪われることはない。
では完全に防水することはできないので、 雨水などを溜めないようにすることが大 切である。
79
ブルーシートを収める
北風から守る
9
10
施工日 2019.1.12 Research21 資材採集場所 K,L
ツーバイフォー材にブルーシートを巻き
施工日 2019.1.13 Research22 資材採集場所 A,K
コンクリート壁が北風の多くを防いでく
つけて、ロールカーテンのような仕組み
れるが、それでも時間帯や日にちによっ
をつくる。コンクリート壁と8でつくっ
て家に冷たい風が強く吹きつけてくるこ
た屋根の機構の間にこのロールブルー
と も あ る。 そ の 面 に 強 固 な 壁 を と し て、
シートを挟み込む。こうすることで、ブ
従来の住宅にも用いられているサイディ
ルーシートの長さを自在に調整できるよ
ングを立ち上げる。崩れる可能性がある
うになり、アクティビティに合わせた可
ため、園芸用の支柱を外側に立てて、上
動式のファサードが完成する。
部で柱と結びつける。この面は入り口の 方角に面しているため、建物の顔はレン ガ調のファサードとなる。
素材でリズムをつける
床に取り付ける
13
14
施工日 2019.1.18 Research26 資材採集場所 A,D,F,G
サイディング表(レンガ)、サイディング
施工日 2019.1.18 Research26 資材採集場所 D,F,G,K
路上の建築を建てる際に、最も強度があ
裏(コンクリート)、ベニア板端材(ウッ
るのは床だったりする。今回はパレット
ド)の3つのマテリアルをリビングの床
を獲得したので、なおさら床がとても強
材に用いる。レンガ→コンクリート→ウッ
い。家具は基本的に床に置くものである
ドといったリズムのあるシークエンスを
が、このような場合床に家具を取り付け
つくることで、寄せ集めの材料の中でも
ることも、アクティビティの幅を広げる
変化のある空間を演出する。
ために使える手法だ。今回はテーブルの 脚を床に打ち付け、天板だけを取り外し 可能なものにした。
80
ダンボールで断熱(壁)
資材を濡らさない
11
12
施工日 2019.1.13 Research22 資材採集場所 J
10 で 立 て た サ イ デ ィ ン グ は 風 を 防 ぐ こ
施工日 2019.1.12 Research21- 資材採集場所 C,F,G,H,L
路上生活では自分の持っているモノは宝
とはできるが、外気と同じくらいの温度
物である。特に資材や道具を大切なので、
になってしまって断熱効果がほとんどな
雨に濡らさないように管理することが大
いのが難点である。7と同じくダンボー
事である。寝室に被せているブルーシー
ルを用いて断熱をする。これをしないと、
トを寝室外にも延長させて、資材置き場
室内の壁際で冷やされた空気が下降気流
をつくる。盗難されることもあるらしい
として寝ている体に直撃をしてとても寒
ので、資材は出来るだけ家の奥になるよ
い思いをする羽目になるので注意が必要
うに資材置き場を設計する。
である。
材料を延長させる - 継手型
材料を延長させる - 交互型
15
16
施工日 2019.1.19 Research27 資材採集場所 B,F,L
施工日 2019.1.19 Research27 資材採集場所 A,B,D,F,G,H,L
端材を拾うだけでは長い材がゲットでき
短くて細いよく出るタイプの角材がある。
ず、なかなか柱が立たない。リビングルー
おそらく内装の下地とかによく用いられ
ムの施工にはどうしても長い柱がいるた
ているもので、特に中盤以降の工事現場
め、これを端材からつくる。のこぎりを
でよく出ている。これらを互い違いに重
用いて、互いが噛み合うように切り込み
ね 合 わ せ、 釘 を 打 っ て 延 長 さ せ て い く。
を入れ、サイドから薄い当て木で補強を
この手法は狛江のホームレスのおじさん
することで2本の木材から1本の長い材
の家から学んだものであり、とても頑丈
を手に入れることができる。
である。
81
材料を延長させる - 凸凹型
抜けない釘を活かす
17
18
施工日 2019.1.19 Research27 資材採集場所 G,H
15 や 16 の 派 生 で は あ る が、 柱 と 同 じ
施工日 2019.1.25 Research29 資材採集場所 G
釘がついた構造用合板を手に入れた。お
太さの角材を大きく切り出して、それを
そらく施工ミスをして剥がしたものだろ
2方向から打ち付けることで柱を延長さ
う。曲がった釘が等間隔に刺さっている。
せるシステムである。かなり丈夫で安定
基本的には、釘は抜いてもう一度他の場
感があるが、ゴツゴツしてしまうのが意
所 に 打 っ た り す る 形 で 再 利 用 を す る が、
匠的に問題である。とりわけ、太さがあ
なかなか抜けない釘はそれ自体をフック
る角材を延長させたい時に利用できる。
に見立てて使うことができる。リビング ルームの壁に用いて、資材や道具をかけ て使用していた。
張力で拡張する
トラス+ピン接合で強固に釘を節約
21
22
施工日 2019.1.20 Research28 資材採集場所 K
構築物をうまくハックして生活をするの
施工日 2019.1.26 Research29 資材採集場所 C,F,G,H,K
トラスを用いると、構造的に強くなるこ
が 路 上 生 活 の 上 で 大 事 な 考 え 方 で あ る。
とは当たり前の常識なので、積極的に実
コンクリート壁の上の手すりにひもを結
践するべきである。トラスのもう一つの
びつけて、もう一方を河原の砂利をつめ
利点は、ピン接合でいいという点で、こ
たバケツを置いて、張力を用いて壁を立
の 場 合 釘 を 合 計 3 本 用 い る こ と に な る。
ち上げる。路上生活はパトロールの人に
ト ラ ス を 用 い ず に 当 て 木 な ど を す る と、
注意されるので、このように張力を用い
剛接合のために4本以上の釘が必要にな
た機構だと簡単に撤収ができるので、言
る。釘の数が限られた路上生活では重要
い逃れしやすい。リビングなど、贅沢な
な強化+節約術である。
空間は張力を用いてつくると安全である。
82
細い材料で関係性をつくる
釘を打ちすぎない
19
20
施工日 2019.1.25 Research29 資材採集場所 E,F,G,H,L
端 材 と し て よ く 出 る も の の 一 例 と し て、
施工日 2019.1.25 Research29 資材採集場所 E,G,L
釘抜きを持っていないため、一度打った
910mm のものがある。中でも石膏ボー
釘 を 抜 く の は 至 難 の 業 と な っ て し ま う。
ドの細長いものが手に入ったので、それ
構造的に関係のない釘は完全には打たな
らを等間隔に、そしてそれ以外のボード
いことが、今後のフレキシビリティーを
も並べてルーバー付きの壁をつくる。リ
規定してくる大事なポイントだ。外壁の
ビング内で生活する分には外の景色が綺
ルーバーを取り付ける際には、あまり打
麗に見ることができるが、外からはあま
ちすぎずに若干材を浮かせることで、そ
り中が見えないようになり、外部と内部
の後の調整がしやすいようにしている。
の関係性をつくることができる。
床の寸法に合わせる
風景を切り取る
23
24
施工日 2019.1.20 Research28 資材採集場所 C,D,H,L
14 と 同 じ 考 え 方 で、 や は り 床 が 最 も 強
施工日 2019.1.26 Research29 資材採集場所 E,K
たまに手に入る金属は、意匠的な場面に
固なので、壁の寸法を床との相性で決め
用いると良い。基本的に廃材・端材は木
る。こうすることで、張力を用いた時に
材であることが多いため、今回の家も木
横滑りをしなかったりなど、釘を用いな
造建築らしさが現れている。そのなかで、
くても安定感のある壁が立ち上がる。さ
テーブルの先にある河原の景色を切り取
らに太い角材を渡すことで、安定感が上
るために、アルミフレームを用いた。パ
がり、無風であれば張力を用いずとも自
リッとした印象で景色を切り取ることが
立させることができる。
できるため、美しさを演出することがで きる。
83
84
85
86
87
88
89
90
91
92
おわりに ぼくはパンクロックを好きになった高校生の頃から、アンチ資本主義に傾倒していっ て、次第にヒッピーへの憧れを抱いていた。そんなぼくは目指したい社会の実現のために SFC に入ってからデザインの勉強を始めた。自分の手を動かして自分が必要なものをつ くり出す、そんな Do It Yourself の思想が大好きで、自分が着る服から、自分が使うテー ブル、自宅のウッドデッキなどを自分自身でつくってきた。あるとき、建築家と一緒に大 学のキャンパスをデザインするプロジェクトに参加したことがきっかけで、建築の魅力に 取り憑かれた。物理的にも大きく、人間に対する影響力も大きい建築の力強さ。ぼくもこ んなものをつくってみたいという思いだけで建築の世界に飛び込んだ。 建築に突っ込めば突っ込むほど、建築は資本主義に寄り添うパートナーだということを 知った。考えてみれば当然のことだが、当時のぼくにとっては受け入れ難い事実だった。 そんな葛藤を感じながら、学部 4 年生を迎え、卒業プロジェクトという自由を得た。それ は、ぼくにとって、いよいよ資本主義をただのアンチ的な目線で見るのを卒業して、その システムの中でどれだけ正しいと思えることができるかを考える時間が生まれたことに他 ならなかった。 そしてぼくは資本主義社会が生んだ格差によって生じた路上生活者が、その社会が出し ているゴミを再度資源として利用し、生き延びていることに注目することにした。このプ ロジェクトを通じて、資本主義の副作用の可能性―合理化された社会が生み出す経済的価 値がゼロになったゴミの資源となりうるのではないか―を学び、これからの自分の建築活 動はそれを基盤に行われることだろう。 いつ何時も、自分からまなざしを当てること、自分が見たものを信じること、そしてそ こから自分が学ぶことを大切に、いわゆる建築設計に収まることなく、建築を通して社会 を考えていきたい。 「建物」の力だけでは変わらない世界はあるだろうけど、 「建築」の力 でなら変えられるかもしれない世界があるだろう。
93
Building By
活は 5 年目になります。
複雑な事態から
おばあちゃんは喜寿を迎え、お父さんも古希を迎
ここはぼくの実家です。
えました。ぼくは気がつけば大学院生。母ももうア
わりかし友達を招いているので、来たことがある
ラ還間際です。
人もいるかもしれません。小田急線の狛江駅から徒
ReBuilding
歩圏内にあります。6LDK のとても立派な一戸建て
そうなってくると家の維持費とか、収入の減少と
です。ぼくが生まれてすぐに建てたらしいです。築
か、相変わらず学費がかかる息子とか、そういうの
更新:2019.6.4(火)
22 年です。
が影響して家計がピンチになる。そして築 20 年を 超えたあたりから、家自体に補修が必要な箇所とか
そんな我が家を解体し、賃貸アパートを建てるこ
が出てきて、メンテナンスコストもかかる。父が死
とになりました。マジで悲しいです。家族の記憶は
んだ時のことを考えると、相続するための税金もか
この家とともにあったし、ぼくの成長もこの家とと
かる。あと 10 年とか生きればぼくがその準備はで
もにありました。ぼくはとてもこの家が好きで、3
きるかもしれないけど、もう明日何があるかわから
年前の夏には友人たちとともにウッドデッキを自作
ないような年齢とも言える。そういう感じの終活の
して、みんなで BBQ をして遊んでました。そんな
一貫、家計のことも考えて、我が家の整理して賃貸
家が無くなります。
アパートにすることになったのです。
ぼくは我が家の 7 人目のメンバーとして、1995 年に生まれました。 母方のおじいちゃん・おばあちゃ
ぼくは全面反対しました。 が、考えてみると、学費も出してもらっているし、
ん、 お父さん・お母さん、 それにお兄ちゃん・お姉ちゃ
お金もなければ相続もできないわけだし、ぼくがこ
ん、そしてぼく、といった家族構成でした。子供達
の家のメンテナンスを DIY でやるのも無理がある。
にはそれぞれ部屋があって、祖父母の主寝室、両親
そもそもリフォームするお金もない。
の主寝室をつくって、和室も入れて、となるとそれ くらいの規模の家になるもんです。
結局のところ、家族のことを考えると、最後は賛 成するしかなかった。
ある日、お姉ちゃんが就職を機に家を離れまし た。
幸いにも立地がいいこともあって、まぁ建てて人 が入らないってことは無いだろうということなんで
またある日、お兄ちゃんが就職を機に家を離れま した。
すが、散々ぼくがディスっていた不動産投資的な建 築を我が家が建てることになるわけです。
そしてある日、おじいちゃんが亡くなりました。
とても複雑な気持ち。ぼくはダブルスタンダード で生きていかなくてはならない。大袈裟かもしれな
そうこうして、この広い家に家族 4 人での暮らし を送ることになりました。かれこれこの規模での生
94
いけど、十字架を背負って生きる気分です。 建築家として、自宅とどう向き合うかというの
ら約 2000 個分。1 年間にスカイツリー 2000 個分の 廃棄物が建設業から出ていると思うと、語彙力が低 下して、すごいとしか言えない。 ちなみに目標として、このうちの 95% をリサイ クルしようというのが環境省の指針です(2) 。リ サイクル率が上昇している傾向は見られるけど、思 えばこれは国の資料。公文書とか色々改竄してい るやつらのデータを信じられるのかはわかりませ ん。 。 。 やはりどんな物もいつかは破棄されることを考 えれば、リサイクル率が 100% に限りなく近づく未 来を目指さなければならない。地球資源の有限性を 考えれば至極当然の流れです。でも一方で、リサイ クルが行われることが免罪符に、多量のゴミを出し 続けていいのだろうか、 という疑問がぼくには残る。 は、建築に対する態度に他ならないと思います。ぼ
天然材を使っていない限り、マイクロプラスチック
くは庭のウッドデッキも自室のデスクも自分でつ
のような、生態系に影響を及ぼすどころか人体への
くってきた。 一方で、 これから我が家にショベルカー
危害までが叫ばれるほどになるゴミ関連問題がいず
がやってきて、愛着の空間を見るも無惨に壊し、均
れ次々と表出することでしょう。
質空間がちゃちゃっと作られる。それを容認して金 を稼ぐわけだから、そりゃぼくの態度は批判されて しかるべきだと思う。
そういう環境的背景を踏まえると、資源がゴミ に変わる瞬間に注目する価値があると思う。ゴミに
でも、それ以上に家族は大きい。
なって廃棄物処理場業者が持っていくと、そこはも うリサイクルのブラックボックス。ここから先は
この複雑なリアリティは、決して我が家だけの問
オーガナイズされたシステムになっている。建築が
題ではないと思う。土地所有者は、その土地を使っ
作られるという大きなシステムとゴミが処理される
てお金儲けをしようと思うのは、至極当然だ。お金
という大きなシステムの外接点がこそが「ゴミにな
があれば家計が潤って、それが自分や家族の豊かな
る瞬間」です。そこにどんな建築的アプローチがあ
生活に繋がってくる。それが格差を拡大している行
りうるのか、それこそがぼくの今の興味です。
為に他ならないとしても、その視点が家族の何より も大事なわけはない。だからこそスクラップアンド ビルトは半永久的に進んでいくし、それはもっとも
ゴミの魅力
経済的方法で行われていく。残念だけど、それが社
学部のプロジェクト「路上の建築から学ぶ建築の
会を流れる当然の力だし、そこをドラスティックに
可能性」で豊かなフィールドワークを経験してから
変えることなんて不可能だ。だからこそ、この事態
というもの、ぼくはゴミの魅力に取り憑かれている
から再び制作を始めることにしました。
と言っても過言ではないです。 ゴミの魅力はざっくり 4 つあると思っています。
建築がゴミに変わる瞬間 水道の水はシンクの底に接地した瞬間にゴミに
(投稿日現在) 1 一般的に無価値である
なる。髪の毛は頭皮から抜け落ちた瞬間に汚いゴミ
とても当たり前のことですが、最後まで誰かが無
になる。建築は解体屋さんがショベルカーを一撃入
価値だと思うから、 ゴミはゴミとして処理されます。
れた瞬間にゴミになる。
持ち主が価値があると思ったら、捨てずに取ってお
おもしろいくらいに、とある点を境に価値のある
くだろうし、売れるならメリカリで出品でもすれば
ものから無価値なものへの転換がこの世では起こっ
いい。本当に無価値で誰が何をしようと、元々の持
ている。
ち主的にはどうだっていい。だからこそ、資源とし て持って来やすい。しかもゼロ円で。これってゴミ
建設業が出している廃棄物の量は年間で約 8076
の特徴だし、ぼくは魅力だと思っています。
万トン (1) 。 もうイメージできない量で、 なんて言っ ていいかわからないけど、スカイツリーに例えるな 95
2 大量に存在する
前章でも述べたとおり、建設業だけで 8000 万ト
計手法や理論としてシステム化できないだろうか。
ンというよくわからん規模でゴミが出ています。ち
こういった点への関心を持って取り組んでいくつも
なみに産業廃棄物全般で約 3 億 8,703 万トンで、ま
りです。
たスカイツリーでいうと約 9500 個分です。やばい です。でもそれだけあるということは、何かしらの
現在の予定では、 今年の 9 月に我が家が解体され、
可能性があるということでもある。ポジティブにい
10 月からアパート新築工事が着工し、来年の 2 月
うならばリソースがめちゃくちゃあるということ。
に竣工といったスケジュールです。色々と納得はし
これをぼくは魅力だと思っています。
てないけど、軽量鉄骨造です。なので工期は在来工 法よりも短く、ただの2階建アパートだったら 4 ヶ
3 環境問題と関係している
月くらいで全部できちゃう。
これは色々なところで言及されている通りで、ゴ ミ問題ってまさしく環境問題のひとつ。そして環
とりあえず解体業者がショベルカーで解体する
境問題は 21 世紀の課題の多くを占めてくるもので
前に、できる限りぼく自身の手で解体を行います。
す。資源の枯渇や過剰搾取、地球温暖化などに真剣
ちゃんと解体したいなら大工に頼む必要があります
に取り組まないと、地球がダメになる。そういう世
が、そこまでの我が家の予算がないのと、一般的で
紀だと思います。これらにいつかは取り組まなきゃ
はなく論じにくいため、セルフリビルドできる範囲
いけない、宿命的な側面が強い。緊迫性が高い課題
での活動にします。 自邸の建設時、 ぼくは乳幼児だっ
と関係している領域だからこそ社会性が求められる
たため、どういった感じで家が建てられたのか知り
し、大義がある。そういったところもゴミの魅力だ
ません。だから、どこに何があるかとか、図面以上
と思っています。
の情報は正直なところ壊してみないとわからない。 だけど、 できる範囲でゴミになる寸前に、 ぼくが「資
4 誰かが使っていたものである
源」として回収しようと思っています。
最後に。ゴミの全体量を減らすには、捨てないと か買わないとか、色々な意識が必要になってくるも のだと思います。リサイクルのように高度に効率化
回収した資源は一時的に倉庫(多分トランクルー ム)で保管します。
をしていけばいい問題ではなく、意識改革が本質的
どうやら植栽も全部抜かれちゃうんですよね。小
には必要です。ぼくたち人間は、基本的に物に愛着
学生の時に登って遊んだ柿の木も、自分の部屋から
を抱く感性を持っています。取っておく・捨てると
見える綺麗な松の木も、秋を訪れを告げてくれる2
いった選択肢以外のリユースを充実させることが、
本の紅葉の木も、料理をしながら覗けるキッチンの
ゴミの全体量を減らすには重要なアクションだと思
窓先のツツジの木も。施工に邪魔だから、全部抜か
います。こういった歴史や記憶を継承する側面をゴ
れちゃう。だから一時的に資源を保管する場所が敷
ミが持ち合わせているのも、 魅力だと思っています。
地外に必要という感じです。
これらをうまく繋ぎ合わせながら、システムを設 計することができれば、ゴミの利活用に一歩踏み出
最後に何をどう施工するかですが、まだ何も決 まってません。
せるのではないだろうか、と思ってます。 ① 一番自由度が高いのは、竣工後のアパートの庭部
Building by ReBuilding
分にモデルハウスのようなものを施工すること。こ
前置きが長くなりましたが、ここからがプロジェ
れは全部自分の意思決定で、材料と向き合いながら
クトの中身です。まだまだ構想段階なものも多いの
プロジェクトを進めることができます。 仮説ですが、
で、全体的にふわっとしてます。
わかることとしては、どんな廃材がどう転用できる のか、という材料ベースの方法論は導け出せそうで
ざっくり言うと、自邸の解体とともに生じる廃棄
す。あとは、路上生活者の家くらいの規模になるの
物を用いて、再び建築を生み出します。住宅の解体
で、そういった方々にお渡しすることはできるかも
を、全てをリセットしてしまうものにせずに、それ
しれません。一方で、発展性がいまいちつかめませ
らで誰かが住まうことのできる空間を生み出せない
ん。他の人が自邸を取り壊す時に、それを有効活用
だろうか。住環境に恵まれない人(例えば路上生活
するときにこのやり方が受け入れられないでしょ
者や災害によって住居を失った方など)が住まうた
う。リテラルな材料論・施工論というニュアンスが
めの空間にできないだろうか。自分や家族の歴史を
強そうです。
廃棄物とせずに継承できないだろうか。それらを設 96
②
最後には冊子化して、また再びまとめようと思っ
家族と建設会社の了承が得られれば、アパートの 一室の内装を廃材で仕上げることも面白そう。内装 工事は一番最後に行うものなので、スケジュール的 にも無理はなさそうです。この場合、純粋に誰が住 むのか、不動産価値が下がるだろ、というような心 配があります。 それに反論することができないです。 廃材から美的価値を見出せる人はあまりいないと思 うので、普通の入居者だとしたら嫌がりそう。だか ら家族が大反対すること間違いなしです。ただ、大 きな空間が小さな空間として住居スケールに、しか もこれから長い歴史を再び生きる空間として転生す るところはかなり面白いと思います。歴史の継承の ようなニュアンスが強いでしょう。あと、一戸建て をワンルームにするという減築の考え方は聞いたこ とがないので斬新だと思います。 ③ そこらへんの空き家や築年数の古いアパートの 改修を行うこと。これはオーナーの了承が得られれ ば可能そう。だけど、了承を得るのは果てしなく難 しそう。例えば、廃材リノベという設計方法を構築 すれば、この世の建築同士を足し引きできることに なります。人口減少、空き家増加などの問題に対し て取り組める方法だとも思います。また上から2番 目の構想と同じで、歴史的なニュアンスが入ってき たり、減築の新しい考え方にもなる。方法論研究以 上のクライアントワークになる可能性が高いです が、そこのリアリティを廃材を通して経験できるの も面白いと思います。なのでそれに了承してくれそ うなオーナーさんを募集しています。 ざっくりですが、以上のような 3 つの可能性を考 えています。関係者との合意が取れるかどうか、と いうのが第一のハードルになるかと思うので、今は それをちょっとやっています。 路上のリサーチで、ぼくは建設現場で出る廃棄物 を用いて家を建てました。そこでわかったのは、そ の廃棄物は基本的に端材であるがために小さいとい うこと。結局長い部材は解体屋さんから貰ったので す。これらの気づきから、より大きな空間をつくる 場合は、施工現場よりも解体現場の方が良いという 結論に至っています。 この解体から建築を建てるという取り組みに Building by ReBuilding という名前を与えます。こ れはアートワークでもあるし、本気で取り組むべき 社会課題でもあるし、建築家としての意思表示でも あります。
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ているので、 乞うご期待。コメントやアドバイスも、 あとはヘルプも、随時募集中です!
第4刷 出版によせて ありがたいことに、自分の実践についてまとめたリサーチブック「路上の建築から学ぶ 建築の可能性」を再び刷ることができました。毎度、10 冊くらいの規模での増刷なので、 大手出版社から出ている本たちに比べてみれば足元にも及びませんが、事あるごとに欲し いと言ってくださる方がいることは、とても励みになります。 今回「HUMARIZINE」という自費出版の雑誌を仲間と刊行し、それに伴う資金集めの 一環としてクラウドファンディングに挑戦しました。それのリターンのひとつとして、本 書を設けました。嬉しいことに、そのリターンは OUT OF STOCK となり、様々な人が 自分(のリサーチ)に注目してくださっていたり、応援してくださっていることを実感刷 ることができました。本当にありがとうございます。 リサーチ当時は学部 4 年生であったぼくも、 今春から修士課程に進学し、 次なるプロジェ クトを始めています。そしてそのプロジェクトの日記も、まだ始まったばかりですが、同 様に web 上で公開しています。今回はそのうちの「Building By ReBuilding」を本書に 追加で収録させていただきました。これはぼくの修士プロジェクトの始まりを紹介した内 容になっています。叙述的な文章ですが、 これから目指す地点について書いていますので、 ぜひ読んでいただきたいです。 そして何よりも、 「HUMARIZINE」という雑誌に、本リサーチをベースにしたテキス ト「路上生活者の家から建築、そして社会へ」が集録されています。渾身の文章を書いた つもりですので、こちらもぜひ読んでいただきたいです。リサーチブックと対応させなが ら読まれると、さらに面白いと思います。雑誌ほしい方はご連絡ください。手売りでのみ の販売となっております。 今後もコツコツとリサーチを重ねて、気づきをまとめてアーカイブしていきますので、 今後ともどうぞよろしくお願いします。
2019.6.29 第 4 版 発行 編集・制作
松岡大雅
制作指導
指導教員の小林さん
等々力の加藤さん
制作・撮影協力 佐野虎太郎
寺内玲
Town
1800
600
900 30°
Bed Room
Toilet
Closet Living Room
Garden
900
Workshop
900 1800
Road Tama River
900