第二回山田幸司賞_自己推薦文_大栁友飛

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2021.07.15 第二回 山田幸司賞 自己推薦文 大栁友飛


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自己推薦文

大栁友飛

私は、2019 年度の第一回山田幸司賞に応募を

ての材料は乾式工法を用いて接合されているた

しました。そこから 2 年、世界はいまだかつて

め、ビエンナーレが終わったあと、他館からで

ない様相を呈し、不確実性の時代というテーマ

た廃材を転用し、ふたたび座面のマテリアルと

が全面化しています。しかし、私自身のテーマは、 前回から変わらず、われわれにとってゆたかさ とは何か?をテーマを掲げ、一貫した制作およ び活動を行っています。とはいえ、ゆたかさと はなにか、という根本的なフレームそのものは、

なって組み込まれ、ベンチ自体が動的なメディ アとして運動し続ける状態を狙いました。

广 ( まだれ ) と格子

portfolio p.5-6

さまざまな機会を通じて再考せざるを得ず、自 らの輪郭を書き直し、再定義に追われた二年で した。今回は、その二年間で培われた制作物や 活動など通じ、それをもって自己推薦にしたい と考えています。

Material carpet

portfolio p.3-4

广(まだれ)と格子は、パンデミックにおける ヘアサロンのニューノーマル、および、半屋外 での施術空間という提案です。感染症が流行す る以前に受けたプロジェクトでしたが、その最 Material Carpet は、ヴェネツィア・ビエンナー レに際し、ビエンナーレのキュレーター達が開 催したコンペティションに向け、制作されたベ ンチです。各館のパビリオンから出た廃材を用 いて、座面を構成し、さまざまマテリアルがフ ラットに並ぶベンチを提案しました。世界を覆 う感染症や、政治の分断など、かつてなく境界 線が明確となった現代ですが、ビエンナーレお よびこのコンペでは、その境界線を超え、連帯 をうながす存在としてのベンチが求められてい ると捉えました。そこで、廃材をフラットに並 列させ、各館で異なるマテリアルたちを、ビエ ンナーレを象徴する色である赤く染まった紐を 使い、それらを縫い合わせるというコンセプト を掲げました。それにより、各館のパビリオン の廃材は等しく座面となり、さまざまな感触を ユーザーに与えることとなります。また、すべ

中、感染症が拡大し、プロジェクトそのものの 見直しが図られました。バルコニー部分のエク ステリアとして、小屋を制作してほしいという 依頼を受け、風通しのよい屋外でも施術が可能 な、半屋外空間とプログラムをセットで提案し ました。その上で考えるべき条件が2つ表れま した。1. 建物自体に手を加えることなく、自立 した構築物を作ってほしいということ。2. 敷地 が福井県に位置しており、ときには豪雪があり うる場所であるということ。これらを鑑みて、 恒久的な構築物ではなく、柔軟に可変できる構 築物のすがたを考えることにしました。以上の 条件に対し、屋外用の大きなカーテン ( 广 ) を 垂れ下げること、および、バルコニーの内側に 構築物 ( 格子 ) を設けることを提案しました。 それにより屋外で、多少天候が荒れたとしても フレキシブルに対応できる空間が生まれました。 广と格子では、漢字のように、部首とつくりの


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大栁友飛

関係性によって、意味がころころ変わるような 空間性を目指しました。たとえば、屋外カーテ

Peice Seal

portfolio p.8

ン ( 广 ) を格子に引っ掛けることによって、半 屋外空間が 生まれたり、その下で、格子を用い て待合用のベンチがつくられたり、さらには、 鏡を設置することによって施術が可能となった りと、さまざまな使われ方が展開されます。構 築物がある単一の機能に限定されてしまうのでは なく、その可能性をさまざまに展開できるような つくりを目指しました。ユーザーに対してあらか じめオープンエンドなつくりとし、そのモノたち の新しい使われ方が発掘されるような、モノの可 能性が無限へと開かれるすがたを狙いました。

ふたつの顔をもつ印鑑

portfolio p.7

日本社会において、印鑑は、特定主体の責任の 所在を明確化する道具として機能してきました。 では、情報化時代において、ある主体における 責任の所在を証明する道具はどのような姿にな りうるのでしょうか。それは、インターネット 上のアカウントにおける、ID とパスワード、あ るいはブロック チェーンにおいては、数十 - 百 桁の英数字からなる秘密鍵などが考えられます。 それらパスワードや秘密鍵を忘却、あるいは紛 失しないための手段として、アナログなセキュ リティ キーや、コールドウォレットと呼ばれる、 物理メディアが重用される場面は多く、ひとつ のアカウントの中に何十億もの資産が保存され ることが珍しくない現在、物理メディアにおい ても、そのあり方を再考することが必要だと考

社会の中で、ふたつの姓を使い分けながら生活を する人々がいます。キャリアを積んだ後に結婚を したため、旧姓を使いながら働く人。国際結婚を し、夫婦別姓となった人。論文が追跡しやすくな るよう著者名を一貫させ、そのために旧姓を使い つづける人。ふたつの顔をもつ印鑑は、そのよう な人々に向けた、ひとつの印鑑にふたつ の姓が 同居し、複数のシーンで使用することが可能な印 鑑です。ふたつの姓を隣り合わせることで、どち らの姓も等しく重要な存在とし、頭頂部を球状に して斜めにカットし、正円が現れる形状を採用し ました。それにより、 印鑑を斜めに持つことでホー ルドしやすく、かつ、名前が自然を上を向くため、 押しやすい形となりました。

えました。PieceSeal は、物理メディアを分散 保存するという提案です。透明なアクリルのピー スに、パスワードや秘密鍵などを刻印し、異な る場所へ保存。情報技術において分散保存がス タンダードとなるなか、物理メディアにおいて も同じしくみを適用した提案です。

mixture

portfolio p.9-10


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大栁友飛

CS Design Award での受賞作品。コンペのテー マ は、青 山 ス パ イ ラ ル 35 周 年 を 記 念 し た 「35th Aniversary (or 35)」で あ り、青 山 ス パ イ ラルのコンセ プトである「日常とアートの融合」 をうけ、35 年の節目に、それを体現するよう なグラフィックを考えました。青山スパイラル から見える「青山通りの日常」と、アートが展 示されている「青 山スパイラルの風景」。そして、 「そこを訪れる人」が、ガラスの境界面で混ざり 合う。その現象こそが、青山と、青山スパイラ ルの 35 年なのではないのかと捉え、グ ラフィッ クを提案しました。通常の鏡はその特性上、ガ ラスの物性に影響を受け、ある程度の大きさが 必要となります。しかし、反射素材のカッ ティ

します。歩道橋としての機能はそのままに、残 余空 間を民間業者が介入することが可能に改定 します。「2. 用途を複合化する」横断する機能 だけではなく、周辺の状況に合わせた用途を付 加す します。例えば、川沿いでは水害時に避難 高台として機能するなど、複合的な価値をもっ た歩道橋としてアップデートを行います。 「3. 歩道橋と周辺の再構成」歩道橋周辺に散らばる 要素を元に歩道橋の設計を行います。無機質に 点在する歩道橋ではなく、周辺のコンテクスト から立ち上がるユニークな歩道橋のすがたを考 えました。

「それもデザイン?」展

portfolio p.29-30

ングシートを用いると、通常の鏡では不可能な 動きのある造形が可能になり、独特な表現が生 まれる。こ れを、カッティングシートでしか生 まれない、固有の表現であると考えました。

Rebridge

portfolio p.11-12

若手のクリエイター、とくにインハウスデザイ ナーなどに多い問題として、関与したプロジェ クトに対するクレジットが公開されないという ものがあります。雇用の流動化が進む社会にお いて、作品のクレジットやプロジェクトのどこ に関与したなどの情報が、個人のキャ リアに とってより一層重要になるなか、先述した問題 「Rebridge」とは、人と社会と歩道橋の新しい関 係性を架け直す取り組みの総称です。モノ、経済、 制度、イメージの 4 つの観点から歩道橋を捉え 直し、再設計を行いました。また単なる歩道橋 単体 のデザインではなく、仕組みも含めて提案

は小さくない影響があります。そのような問題 に対し、若手のクリエイターたちにとってモチ ベーティブに制作を行える 環境の構築を試みま した。単にコミュニティを作るのでは持続性や 発展性がないため、プロジェクトを立ち 上げる ことが求められました。そこで、まちなかにあ

をしました。具体的には、つぎのとおりに再設

る残余空間を発見し、その場所の利活用 のプロ

計を行いました。「1. 管理制度の見直し」歩道

デュースを企図する代わりに、クリエイターの

橋を構造部分と通路部分と階段裏部分とに分解

制作展示の場所として割安で利用する企画を立


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大栁友飛

ち上げ、具体的に実践および運営を行っていま

面と線というふたつの思想が内在しており、そ

す。好評をうけ、企画は場所を変え、継続して

の思想が現在に至るまで、商業建築のありかた

開催されることになっています。

に影響を及ぼしているのではないか、という仮

digging design

portfolio p.31

説を立て研究を進めています。クリスタルパレ スおよび、万博において、思想的下敷きとなっ た百科全書や啓蒙思想、あるいは博物学は、超 越的な視点からのパースペクティブによって、 無限に広がる平面を嗜好してきました。その思 想を面的なものと捉え、その代表的な存在とし てデパート / 百貨店を位置づけます。同時に、

デザインを学ぶメンバーが集い、週一回程度の ペースで行われたデザインに関連するラジオ。 2017 年か ら 2019 年まで 2 年間弱、Youtube に

クリスタルパレスはもう一つ、パサージュやフ ラヌール、あるいは、トマス・クックによって 動員された大量の観光客など、線的な類型や移

て計 43 回の放送を行いました。コンテンツと

動する主体を内包していた事実があります。そ

して、メンバーそれぞれ のデザインに関わるヒ

れら思想は、ウィンドウショッピングや、現在

ストリーを紹介したり、デザインで用いられて

のショッピングモールの原型と呼ばれる、ガレ

いる言葉について取り上げ、その輪 郭をたどる 「現場のコトバ」、限られた時間の中で、即興で アイデアをブレインストーミングする様子を 放 送した「h/our idea」、当時話題になっていたト ピックを取り上げ議論する「design news」、さ らには、放送後にその様子をまとめた放送後記

リア式の形態へと連続すると考えられます。こ のように、商業建築をおおきく2つの類型へと 整理し、それら思想が計画・生産・構法によっ ていかに構築されてきたのか、その系譜を記述 しようと試みています。

を scrap box にまとめたものなどが挙げられま す。デザインという語義そのものが広範な範囲 をカバーしているため、デザインをきっかけに しつつも、議論は縦横無尽に展開されました。 また、それを視聴するリスナーも議論に加わっ てもらい、新しい視点を獲得するなど、放送だ けに閉じない、インタラクティブなメディアの 形成に努めました。

この二年間で、建築のみならず、エクステリア、 プロダクト、コミュニティ創設、メディアの運 営など、さまざまな経験を得ることができまし た。どれも個別のテーマから生まれた知の片鱗 であると同時に、現在の社会や思想、テクノロ ジーにおける価値や意義を、浮き彫りにするよ

修士研究『わが国の戦後商業建築 における計画・生産・構法の変遷』

うなプロジェクトになったと考えています。

わが国の戦後商業建築は、百貨店とショッピン

れ、それに向けて不断の思考を紡ぎ続ける運動

グモールというタイプに、大別されます。近代

そのものなのだと考えています。今後も制作を

における商業建築のルーツは一般に、クリスタ

通じて、問題を提起し、新しい価値を探り続け

ル・パレスとされます。クリスタルパレスには、

ていきます。

わたしが考えるゆたかさとは、身の回りにある 事象がときに、普遍的な価値や議論へと接続さ



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