江田直紀, 田中俊, 松井実, 小野健太, 蘆澤雄亮, 渡邉誠.(2012).植物工場の普及に向けたブランディングデザインの提案.日本デザイン学会第59回研究発表大会.

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植物工場の普及に向けたブランディングデザインの提案 Brand Design Proposals for Plant Factory Vegetables 江田 直紀1) 田中 俊1) 松井 実1) 小野 健太2) 蘆澤 雄亮2) 渡邉 誠2) Eda Naoki Tanaka Shun Matsui Minoru Ono Kenta Ashizawa Yusuke Watanabe Makoto 1)千葉大学大学院 2)千葉大学

Abstract : In this article the package design for vegetable products grown experimentally in Faculty of Horticulture at Chiba University is introduced. The current situation of the market of vegetables grown in plant factories and the existing package design for various kinds of vegetables are researched and then analysed. Branding requirements for the plant-factory-

grown-vegetables are established, namely safety, feeling of security, and high quality. As the result of the requirements, four different types of branding designs with different concepts, package designs and package structures, targeting different kinds of consumers, simulating different places to be sold.

Key Words : Plant Factory, Package Design, Branding 1 研究の背景と目的

植物工場とは水耕栽培技術と環境管理システムを組み合わ せた先進的な作物の栽培方法である.栽培領域の省スペース 化,栽培工程の簡略化といった様々な利点を持っているため, 農家の減少や食の安全問題などの農業問題の解決策として, 注目を集めている.一方で,その人工的な栽培環境のため, マイナスイメージを持たれることも多く,これまでもそれら

( 図 1 包装する作業場の様子 )

を払拭すべく,その産業展開の方法が検討されてきた.しか し,植物工場で生産される野菜の販売に関するブランディン

2.2 路地物野菜の流通

グは検討されていない.野菜の普及において,消費者が販売

現状の野菜に関する流通ルートを調査した.植物工場では

方法やパッケージから受ける影響は大きい.そのため,野菜

栽培の場所に高い自由度があるため,消費者に近い場所での

の販売に対するブランディングは植物工場の普及に大きな役

栽培が可能である.そのため,流通コストが削減できると

割があると考えられる.

いう特徴がある.路地物の野菜では流通経費が小売価格の

そこで本研究では野菜の販売時におけるイメージ改善を目

50%強を占めているので,生産の費用に問題のある植物工

的に,千葉大学で実際に生産・販売される植物工場野菜のブ

場野菜では流通の面で価格の低下を図ることができる.

ランディング及びパッケージのデザイン提案を行う. 2 現状調査 植物工場野菜のブランディングを考えるうえで,出荷後の 包装作業から消費者の手に届くまでの過程を明らかにし,そ こから要点の抽出を行った.調査対象として,植物工場野菜 の包装工程,路地物野菜の流通,既存パッケージ,消費者の

( 図 2 小売価格に占める流通経費の割合 )

意識の 4 つを抽出し、調査を行った.以下に調査の結果と考 察を示す.

2.3 既存パッケージの分析 現在販売されているトマトとレタスのパッケージを収集

2.1 植物工場野菜の包装工程

し,それぞれの傾向を分類した.トマトのパッケージでは日

植物工場野菜を販売しているメーカーの資料をもとに包装

常料理用,こだわりの料理,贈答用,生食用の4つに分類さ

工程や包装に使われる素材などを調査した.

れた.レタスでは高価なものになるに従って,無包装からビ

植物工場野菜では,安全,安心の野菜を実現するため,低

ニール,プラスチックのパックの順に分類された.

細菌と無農薬を販売の売りにしているものが多い.今回の調

査では,包装をする作業者は抗菌の作業着を全身に纏い,か つエアシャワーで全身を洗浄して作業にあたっていることが 明らかになった.また,包装する作業場もビニールで覆った うえで空調管理し,滅菌を徹底していた.野菜のパッケージ においても密閉性を重視した構造にしていた.

日常料理

こだわり の 料理 サラ ダ・ 生食 用

贈答 用 高 特別なシ ーン

一般

( 図 3 トマトとレタスのパッケージの分類 )

BULLETIN OF JSSD 2012 日本デザイン学会 デザイン学研究

特殊


2.4 消費者の意識調査

提案 2「おりこう野菜」

植物工場の野菜と野菜の購入に関する意識調査を行った. 調査対象は野菜の購入に最も関わる家庭の主婦,また単身で 暮らす大学生を対象にヒアリングを行った.その結果,植物 工場については認知度が低く,曖昧な情報から間違ったマイ ナスイメージを多く持っているという現状が明らかとなっ た.野菜の購入に関しては主婦層は鮮度や産地を重視し,単

最先端の技術で生産される高品質の野菜を「おりこう」と

身者は価格を重視するという結果になった.また,東日本大

いう言葉で表現したブランドである.「おりこう」という馴

震災前後の変化として,両者とも「産地を気にかけるように

染みやすい言葉を使うことで,科学的なマイナスイメージを

なった」という意見が多く得られた.これらの結果から,消

持たせることなく高機能性をイメージさせるブランディング

費者が最も注目する鮮度や安全の面において植物工場野菜は

を展開した.

非常に適しているが,その認知度の低さから,その利点を活 かせないでいると考えられる.

提案 3「大人野菜」

( 図 4 植物工場の認知度と購入における判断基準の調査) 2.5 調査結果の考察

植物工場野菜の高品質性に注目し,コンビニで売るための

調査の結果から植物工場野菜のブランディングの要点とし

ブランディングを考えた.ターゲットを一人暮らしの会社員

て,安心と安全,高品質,高付加価値という 3 点を抽出した.

に設定し,使いきりや保存性を考えたパッケージデザインを

これらの要点に注目し4つのアイデアでブランディングを展

展開した.トマトは個包装にし,結球レタスは保存用のパッ

開した.

クに入れる.リーフレタスは枚数を減らし薄いプラスチック の容器を使っている.

3 提案 提案 4「大學野菜」 調査から出た植物工場のメリットを活かし,パッケージ, 及びポスター,ブロッシャーなどの販促物のデザイン展開を 4つ提案した.

2

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1

1

提案 1「博士の野菜」

大学産である安心感を強調したブランド提案した.大学産 の安心・安全を一貫して訴求し,他の植物工場野菜と差別化 を行っている.アイコンとして大学の式帽をモチーフにし, 大学さんの安心感をひと目で分かるようにデザインした. 安心感を表す象徴として正式な研究機関の大学を象徴にし

4 まとめ

たブランディングの提案である.博士のキャラクターをモ

チーフにし,大学で作られた野菜をイメージさせるアイコン

今回の提案で植物工場野菜の特徴を生かした販売方法を提

を作成した.パッケージの開封方法も工夫し,色のついた部

案することができた.特に,植物工場野菜の利点を活かすブ

分を引くことで,密閉を保ちつつ,容易に開封できる構造に

ランディングを複数提案したことで,植物工場の可能性を広

なっている.

げられたと考えられる.

日本デザイン学会 デザイン学研究 BULLETIN OF JSSD 2012


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