パタゴニア プロビジョンズ Journal 2020

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山小屋で朝食をとるフィン・

ゼ ウグ スウェッタ ー。150

年 前 に建てられた 小 屋 は、 水 道 も 電 気 もなく、あるの

は牛と共用している泉だけ。

オーストリア、東チロル Bernd Zeugswetter



はじめに

正しく食べる By イヴォン・シュイナード、パタゴニア創業者

16歳の頃、ひとつだけ確信していたことがあ

我々が学んでいることは、大部分を工業型農

ルーズについて紹介する。

る。それは、野 生の地で素 晴らしい冒険をし

業 製 品に頼って生きている世 界にとって、憂

シェフのダン・バーバーは、主 要な野 菜の

な がら人 生 を 送りたい、ということだ。そし

慮すべき悪い知らせである。工業型農業は気

種 子 栽 培 農 家 たちと対 談し、土 壌 の 健 康と

て、それを「安 全 な」食 物 や 都 市 近 郊 の 衛 生

候変動の最大の要因のひとつとなっているだ

栄 養 価 の 向 上、そして風 味 の 関 係 について

基準を満たす水がないという理由で尻込みし

けでなく、より個 人 的 なレベルでは、食 物 か

示す。

たくはなかった。その頃、私はしょっちゅうメ

ら必須栄養素を奪うと同時に、風味も奪って

私の友 人であるダン・オブライエンは、厳

キシコでサーフィンをしていた。当時、メキシ

いる。さらに悪いことに、単 作 の 食 料 生 産と

しい吹 雪 が 牧 場を襲ったときのことを語る。

コを訪れるほぼすべての人が体調を崩し、旅

化 学 農 薬 への依 存は、自然な腸 内 微 生 物の

近 隣では10万 頭もの牛 が 死んだが、グレー

行 者 は 果 物や野 菜を避け、生 水 は 絶 対 に飲

多様性を低下させる可能性があり、その結果

トプレーンズの気 候に生まれつき順 応してい

むなと忠 告されていた。もちろん私は手に入

我々は、さまざまな健康問題の影響を受けや

たダンのバッファローは生き延びたのだ。

れたすべての果物や野菜を食べ、道端の怪し

すくなる。パタゴニア プロビジョンズの目標

エムラン・メイヤー 博 士は、腸内 微 生 物の

げな屋 台のシーフードは言うまでもなく、水

は、これらの懸 念を共 有する農 家や牧 場 主、

重 要 性を解 説し、人 体の内 部 生 態 系と地 球

道 水もためらわずに飲んだ。そして当 然、具

漁師、その他の食品生産者をサポートするこ

の生 態 系の間にある重 要なつながりを証 明

合が悪くなった。避けがたい痛みに襲われた

とだ。このジャーナルでは、我々自身と故郷で

する。腸にとって良いものは、地球にとっても

ときは、一般的に処方される抗生物質の代わ

ある地 球 の 両 方を、枯 渇させるのではなく、

良いことがお分かりいただけるだろう。

りに、焚き火で残った木炭と塩を混ぜた水道

再生させる食品を生産するために行われてい

リサ・アベンドはスペインのガリシア州 の

水を飲んで胃を癒やした。そうやって私は生

る魅力的かつ美味しいいくつかの取り組みを

海 岸 へと我 々をいざなう。そこでは、責 任あ

き延びた。その経 験はどれほどひどかったっ

取り上げる。

る漁 業と養 殖に対する先 駆 的な取り組みに

て? 30歳以上の人にはおすすめしない、とだ

リズ・カーライルは、再 生 型 農 法を通して

よって150年の歴史を誇る家族経営を救い、

け言っておこう。

土壌の質を高め、気候変動と戦うモンタナ州

さらに市場で最高品質のシーフードを生産し

当時 は 腸 内 微 生 物や免 疫システムについ

の農 家のボブ・クインと、多 年 生 穀 物と窒 素

ている。

て何も知らなかったが、地元の人たちが気に

を固 定 化するマメ科 植 物が 人 間と環 境の双

これらのストーリーは多くの重 要なテーマ

することなく食事をし、健康を維持しているこ

方に与える利 点に重 点を置いた研 究を行う

を共 有している。1つ目は、現 代 の 産 業 型 の

とは分かっていた。つまり、メキシコの食べ物

〈ランド・インス ティテュ ート〉の ティム・ク

フードシステムは破綻しているということだ。

や水に本質的な問題はなく、むしろ商業的に 生 産された食 品や塩 素 処 理された水を習慣 的に摂 取してきたアメリカ人の消 化 器 官が、 自然に発 生する微 生 物に対する耐 性を鍛え ていなかったのだ。覚えておいてほしい、当時 全盛だった化学企業によって推し進められた 「化学を通してより良い生活を」 という価値観 が今なお受け継がれていることを。  今日、我々はより多くのことを知っている。 4

「これらの選択は、味や栄養価だけでなく、 我々の生存にも関わることなのだ」


ダグ・トンプキンス(右) と、セロ・デ・ラ・パスに登る前のシーカヤックの旅にて。 1989年、パタゴニア、チリ  Rick Ridgeway

5


収穫量を最大化するため、数十年にわたる 耕起、化学肥料、農薬によって有機物や微生 物が 枯 渇した土 壌で育てられた現 代の食 物 は、その 栄 養 価を失っている。 『Journal of the American College of Nutrition』 に掲 載された研 究で、43種 類の作 物の栄 養 素 を1950年と1999年 で 比 較 したところ、 現代の野菜がたんぱく質、カルシウム、ビタミ ンB2、鉄、ビタミンCなどの主 要な栄 養 素の 「信 頼 性のある減 少」を実 証した。我々も、放 牧されたバッファローと肥育場で飼養された バッファローや牛を比較し、同様の結 果が得 られた。言い換えれば、今夜出される食事は、 50年 前に両 親や祖 父 母が 取っていたものと 同じものであっても、栄 養 価ははるかに低い と考えられる。

焼 却 炉を片付け、そこに住み、ティトン

山脈でひと夏を過ごした。1958年、ワ

イオミング州ジャクソン Lorraine Bonney

右:食料が少なくなり、何よりも切望し

ていたのがパンだった。焼きたてのパン を 缶 詰 のヨ ー ロピ アンバタ ーと 一 緒

に! 1968年、フィッツ・ロ イの ベ ース

キャンプ

Chris Jones

6


証 拠 は 次 々と 挙 が って い る。 『Mother

風 味 を、肥 育 場で 育てられた 風 味 が ない 不

に水やりをしたが、それでもミミズは出てこな

Earth News』が実施した調査では、種子や

味いバッファローや牛の肉と比べてみてほし

かった。その後ふとひらめいて、市が加えてい

昆虫、ミミズ、植物などさまざまなものを食べ

い。風味豊かな食品の方が、栄養価もはるか

る塩素を除去するために庭のホースにフィル

る放し飼いのニワトリの卵は、市 販されてい

に高いとうことは当然だ。マイケル・ポーラン

ターを取り付けた。すると数か月のうちに、庭

る従来の卵よりもコレステロールと飽和脂肪

が 言うように「我々の体 は、食 べ 物 が 食 べた

にミミズが 姿を見 せはじめ、フィルターを使

が3分 の1少 なく、オメガ3脂 肪 酸 は2倍、ビ

ものでできている」のだ。

いつづけることで、その 数 は 驚くべきものに

タミンE、ベ ー タカ ロ チン、ビタミンDは3倍

最 後に、このジャーナルに掲 載している記

なった。

だった。ウイルスの大 発 生により世 界 中でミ

事 が 提 示 することは、新しい 食 料 の 生 産 方

必ずしも人に勧めることではないが、個 人

ツバチが 死んでいる理 由のひとつに、我々が

法、つまり人 間と地 球にとってより良い方 法

的 に 私 は、産 卵 を 終 えて 腐りか けたサ ケで

食べている換金作物を摂取したミツバチの免

に目を向けると、多くの 場 合、その 解 決 策 は

いっぱいの川を除いて、釣りをする川の水を

疫システムが弱体化しているという説もある。

昔 ながらのやり方であるということだ。我々

そのまま飲む。メキシコを旅していた10代の

恐ろしい「炭鉱のカナリア」のシナリオだ。

は、土壌の健康を築き、土地の侵食を止める

頃から、私は免疫力と今では腸内微生物と呼

工業的な食料生産で地球の大部分を台無

古 代の多 年 生 穀 物を探す。土 地 固 有の家 畜

ば れているものの 多 様 性 を築 きつづ けてき

しにした今、我々は地 上で犯したすべての過

を選んで自由に歩き回らせ、そこでともに進

た。アフガニスタンやパキスタンやインドのバ

ちを海に持ち込もうとしている。網で囲んだ

化してきた在来の草を食べさせて健康を増進

ザールや青空市場で食事を取り、発酵したヤ

サケの養殖場では、化学殺菌剤や糞便、寄生

させる。数 百 年も前から行われてきた釣り針

クのミルク、昆虫、エビの頭、カニの内 臓、あ

虫、ウイルスが公共の水域に自由に流れ出す

と糸のみを用いた漁 法で元 来 豊 富な種であ

らゆる種 類の生のシーフード、さらに鮮 度の

のを放 置するだけでなく、陸上の飼育場と同

るサバを捕 獲することで、個 体 数を健 全に保

レベルすら特定できないさまざまな肉も食べ

様に低 栄 養、高 化 学 物 質の食 品 が 生 産され

ち、混獲を防ぐ。

てきた。ほとんどの場合、そのすべてを美味し

ている。さらに悪いことに、我々が食べるべき

農 業、牧 畜、漁 業、水 産 養 殖 …よく考える

くいただいた。私は釣りをする川の水は喜ん

食 物 連 鎖 の 下 位 にいる小さな 魚 が、家 畜 化

と、これらの言葉はそれぞれ正反対な性質を

で飲むが、なるべく塩素入りの水道水は飲ま

されたこれらの養殖魚の

として大量に利用

表している。農 業とは、化 学 肥 料や農 薬にま

ないようにしている。

されている。その結 果、良質な食 物の代わり

みれた10,000エーカーの遺伝子組み換えト

進むべき道はかなり明確だ。メイヤー博士

に我々に残されたのは、ホルモン剤や薬剤が

ウモロコシの単 作を指すこともあれば、多 年

が思い出させてくれるように、我々人間にとっ

投与された風味のない、栄養価に乏しい代替

生 穀 物、被 覆 作 物、堆 肥を使用したリジェネ

て良いものは、地球にとっても良いものだ。両

品だ。

ラティブ・オーガニック農 業を指すこともあ

者を救うための 最 善 策 は、食 料 の 生 産 方 法

ダン・バーバーや他のシェフたちが証言す

る。牧 畜は、何 千もの動 物が自らの糞 尿の中

を変えることだ。環 境を再 生して、生 物 多 様

るもう1つの共通のテーマは、アグリビジネス

に閉じ込められた工業的畜産を指すこともあ

性を促進し、最も多くの栄養を提供する食物

業 界 がスピード、効 率、サイズに重 点を置い

れば、草 原を復 元するバッファローの放 牧を

は 同じであることを我 々は 知っている。そし

ているために、食物本来の強い風味を失って

指すこともある。漁 業は、大 量の混 獲 魚を廃

て、少 なくとも 私 にとって、何 よりも良 い 点

しまったということだ。食 料 品 店に並んでい

棄しながら無差別に海底をこそぎ取る底引き

は、それらが最も素晴らしい風味を持つ食物

るこぶし大のイチゴは、発 泡スチロール製の

網漁を指すこともあれば、野生魚の個体群の

でもあるということだ。なんと良い知らせだろ

緩 衝 材と同じような 味しかしない。また、現

再 構 築に役 立つ、古 来の選 択 的 収 穫を行う

う。さあ、正しく食べよう。

代 のニワトリは 約40日で 市 場 に出せる大き

漁 法を指すこともある。水 産 養 殖とは、汚 染

さに成 長する。非 常に短 時 間で多くのニワト

を引き起こし、化学物質を大量に消費するサ

2020年1月

リを生 産できるが、ケージ に閉じ込められ、

ケの養殖場を指すこともあれば、実際に水質

カリフォルニア州ベンチュラ

市販の

を与えられた鶏肉は味がなく、水っ

を改善するムール貝をロープを使って養殖す

ぽい。これに対し、私 は 以 前、有 機 土 壌で 栽

ることを指すこともある。いずれの場合も、私

培され、二度の厳しい霜を耐え抜くまで収穫

は後 者の定 義を選ぶ。これらの選 択は、味や

されなかったニンジンを食べたことがあるの

栄 養 価だけでなく、我々の生 存にも関わるこ

だが、深みがあり、濃 厚 なその味にとても驚

となのだ。

いた。ぜひ、ダン・オブライエンが放し飼いに

家庭菜園をはじめた当初、我が家の庭には

しているバッファローの、その

ミミズ が いなかった。その 理 由 が 分 からず、

となっている

多 様な在 来 植 物から得られる豊かで絶 妙な

有機堆肥を大量にまき、輪作を行い、定期的 7


アラスカ州クック湾

ワイルド・ソッカイ・サー モン:責任ある漁法

アラスカ州ヤクタット

ワイルド・ソッカイ・サー モン:責任ある漁法

ワシントン州ラミ島

カナダ

ワイルド・ピンク・サ ー

モ ン お よ び ワ イル ド・

モンタナ州、ウルム

ワシントン州スカジットバレー

レンティル:天 然の

モンタナ州ビッグサンディ

66ページ

65ページ

ン小麦:有機栽培された古

窒素肥料となる。

ソバ:花粉媒介者の食料。

オレゴン州ポートランド

米国

ロング・ルート・ペールエール

およびロング・ル ート・ウィッ

ト:多 年 生 穀 物 であるカ ーン モンの生 息 流 域の保 護を目的

としたサーモン・セーフ認証を

世 界 で 初 めて受 けた 醸 造 所、

ホップワークス・アーバン・ブ

ルワリーで醸造。 20ページ

サウスダコタ州、

ラピッドシティ

バッファロー(バイソン) :草

ンズを再生。 35ページ オレゴン州

ウィラメットバレー

パンプキンシード:

Kamut(カムット)コーラサ 代穀物。 11、63ページ

をはむことでグレートプレー

ザ を最 初 に商 用 利 用し、サ ー

ハワイ州モロカイ

大 麦:再 生 型 農 法 を 使

用する有 機 農 場で生 産。 66ページ

ソッカイ・サーモン:

ハ チ ミ ツ:理 想 的

カナダ、サスカチュワン

カンザス州、サライナ

カ ーン ザ:土 壌 を 育 てる多年生穀物。 11、20ページ

コロラド州、イートン

ヘンプ:土 壌 を 回 復 さ

せ、雑草を抑制。

害虫や病 気を最 小 限

に抑 えるために他 の4

作物との輪作で栽培。

なミツバ チ の 保 護 区で生産

ニカラグア ニカラグア、サンマルコス

マンゴー:生 物 多 様 性を促

今号では これらは私たちが原材料を調達している場所です。 それぞれの場所で、食料供給に関する問題や切羽詰 まった状況に対する解決策を提供しています。初号 となる今号では、彼らがどのように解決策を実行し ているかのストーリーをお伝えします。地球を回復 させる、美味しくて有望な手段です。

8

進するアグロフォレストリー

システムで栽培


スペイン、カンタブリア

タイセイヨウサバ:地 域 の 豊

富な漁場、乱獲された魚に代

わる選択肢。 39ページ

スペイン、

ガリシア州

スペイン

ムール貝:環境

ガーナ

修復型養殖

北ガーナ、バオバブ:

生 態 系とコミュニティを 支える木

アルゼンチン、サルタ 地方

アヒ・モリド(粉 末 唐 辛 子) :農 場 で は 水

アル ゼンチンで 初 め

てUSDAオ ー ガ ニッ

ク認証を取得。

マネージング ディレクター: バーギット・キャメロン ̶​̶​̶​̶​̶

ジャーナル エディター: マーゴ・トゥルー ̶​̶​̶​̶​̶

アルゼ ンチン

ジャーナル クリエイティブ・

ディレクター:ウィリアム・ミラー

イラスト:William Miller

を ほ と ん ど 不 使 用、

9



土壌を 育てる 足元の地中に潜む数十億もの微生物 が、気候変動の逆転に役立つかもしれ ません ̶ 私たちがそれらを適切に扱 うことができれば。

政治家の議論 が気候危機におよぶと、小麦生産者のボ ブ・クインは首を横に振り、 「 農家には気候変動について 議 論する余 裕などない」 と話します。 「我々は気 候 危 機に 対応しなければならないのだ」 と。  私 は、モンタナ 州 北 中 部 にあるクイン の4,000エー カーのオーガニック農場を訪れています。果てしなく広が る空の下、ゆるやかに起 伏する広 大な草 原に、黄 金 色の 穀物畑と、スイートクローバーやアルファルファの被覆作 物畑があります。クインは、作物を枯らす長い夏の干ばつ や、1日で穀物をダメにしてしまう真冬の寒暖差に対処し なければなりません。 カ ーンザ の 根とマメ科

根 粒でいっぱいの健 康

な 土 壌。根と根 粒 は 何

百 万もの土 壌を回 復し

てくれる微生物を育む。 カンザス州中部 Amy Kumler

言 葉 通り、彼はこのような新たな課 題に対して諦める ことはありません。代わりに、化学物質を使用せずに土壌 を豊かにすることのできるリジェネラティブ・オーガニッ ク農 法を採用することで、隣 人たちの多くが 災 害 手当以 外に何も収穫できない状況に陥った天候さえも乗り越え てきました。

By リズ・カーライル

11


クインは 手を土 に入 れて「ここには 多くの 微

動 が 悪 化するにつれ、農 家や科 学 者 は 土 壌

生 物 がいる」 と、一 握りのモンタナの 土 を見

有 機 物 が 持つ別の力にさらなる関 心を寄せ

せ「地球全体の人口よりも多い数だ」 と話しま

ています。それは、二 酸 化 炭 素を地中に貯め

かな土だけでも数 十 億にもなる

込 む 能 力です。土 壌 の「炭 素 貯 蔵」への 期 待

微小な生物こそが、彼の作物を支え、過激な

はとても魅力的です。地 球 全 体では、土 壌は

天 候から農 場を守っているのです。そしてク

大 気の約3倍の炭 素を貯 留しており、そのほ

インは、これらの生物こそが気候変動の攻撃

とんどは 土 壌 の 表 層1メートル 内 にあるた

をかわす、人 類にとって最 善の希 望になり得

め、土 地 管 理の影 響を直 接 受けます。2015

ると考えているのです。

年 に20か 国 の 科 学 者 た ち が は じ め た「4

した。その

per Mille(フォー・パー・ミル)」イニシアチ

土壌を築く者

ブは、世界的な取り組みによって土壌有機物

ーーーーーーーーーーーーー

をたった0.4%増加させることができれば、人

微 生 物 が 非 常 に 重 要 な の は、土 壌 有 機 物

間 活 動 由 来の温 室 効 果ガス排 出 量の20 ∼

(soil organic matter, SOM) と呼 ば れる

35%を相 殺するのに十 分な炭 素を隔 離でき

ものを作り出す役割を果たしているからです。

る可能性が高いと推定しているのです。

SOMは、豊かな黒い土のように見え、例えば 堆肥の山を作ったときや植物の根が土中で分

健全な土壌、 健全なビジネス

解される際など、微生物が植物や動物の残渣

ーーーーーーーーーーーーー

物を分解するときに形成されるものです。  農 家 は、この 炭 素 に富 む有 機 物 が 健 康 な

12

クインは、土壌(もちろんその中にいる微生物

植物を育てることを昔から理解していました。

も)を育てるために、小 麦 のような 換 金 作 物

だからこそ、有 機 物マルチングや堆 肥、被 覆

と、窒 素 固 定を行う、アルファルファのような

作物が何千年ものあいだ採用されてきたので

マメ科 植 物とを交 互に作 付けします。彼の説

す。そのような再 生 型 農 法によって増 加した

明によれば、マメ科植物は根に共生する根粒

土 壌 有 機 物 が 無 数の微 生 物を育み、それら

菌と呼ばれる細 菌と共に働きます。この細 菌

の微 生 物が 農 家の作 物へと養 分を供 給しま

は大気から窒素ガスを吸収し、それを植物が

す(14ページの図 解を参 照)。ある微 生 物が

利 用 可 能 な 栄 養 形 態 に変 換します。そのた

死ぬと、その体はほかの微生物をさらに豊か

め、マメ科植物は化石燃料を大量消費してい

にします。土 壌 有 機 物に富む土 壌は、水 分を

る化学肥料に代わる、気候に優しい代替策で

多く保持し、土壌に吸収されずに流れ去る雨

す。つまり、クインの土壌微生物が、分解され

水(表 面 流 去 水)を減らす優れた機 能を発 揮

ている植物から窒素と炭素を摂取すると同時

しつつ、病気や害虫を抑制します。つまり、健

に、彼 の 作 物 は 豊 か に 実 る の で す。ま さ に

康な土壌の

ウィンウィンです。

は土壌有機物であり、ボブ・ク

インの手の中にいる数十億の微生物によって

クインにとって、健 全な土 壌は健 康な植 物

実現可能になるのです。

にとってだけではなく、健全なビジネスにとっ

しかし、それだけではありません。気 候 変

ても重 要でした。マメ科 植 物を利 用すること

リジェネラティブ・オーガニック農業の 主な歴史

紀元前10,000年:

土壌を回復させるさまざまな手法は、数千年にわたって農業システムの一部でした。1950年代

作物を植えて農場を改

初 期 のスコットランド 人が、堆 肥の山に直 接

と1960年 代の工 業 型 農 業の台 頭、特に化 学 合 成 窒 素 肥 料の使用により、このような手 法なし

善 さ せ たこと が 考 古

でも農業を行うことが初めて可能になりました。化学的にではなく、生物学的に土壌を育てるこ

学 的 な 証 拠 から

とが賢明な道であると主張する人々が、旧来の農法を基にして、今日のリジェネラティブ・オーガ

示 唆 されて

ニック農法を開発しました。

います。


によって土を肥沃にすれば、肥料を購入する 必 要 がなくなります。また、土 壌 有 機 物を増 やし、作 物の多 様 性を維 持することで、乾 燥 地域のモンタナ州北中部でますます頻発して いる干 ばつや気 候 異 常による莫 大な損 失を 抑 えて い ま す。 「リジェ ネラ ティブ・オ ー ガ ニック農業では、州内での最高収量は得られ ない」 とクインは話します。 「しかし、天候のい い年には州の平均程度になるし、天候の悪い 年には平 均を上 回る。全 体として、我々の収 穫 量はより安 定している」。工 業 型 農 業 がま だ完全に定着していない世界の一部地域、ア ジアやアフリカの広 大な地 帯で、クインはこ の農 業のあり方に可 能 性を見出しています。 なぜなら、工 業 型 農 業 向けの資 本 投 資 が 不 要だからです。 「彼らはすでに土 壌を育 む方 法を知っているが、輸出市場向けに単一作物 を増やすことは、伝統的な知識の一部を失う ことを意 味してきた。もし彼らの祖 先が 実 践 していたようなリジェネラティブ・オーガニッ ク農法に戻ることができれば、長期的な平均 収穫量を2 ∼ 3倍にできると調査が示してい る」 とクインは話します。

自然を模範に

ーーーーーーーーーーーーー 一方、カンザス州サライナでは、アグロエコロ ジストのティム・クル ーズ が、微 生 物 の 繁 殖 を助ける別の方法を試みています。多年生作 モンタナ州 北中部にある農 場で、緑の春 小 麦の畑の中

にいる農家のボブ・クイン。クインは1990年に〈カムッ

ト・インターナショナル〉を設立し、アメリカおよびヨー

ロッパでの古代メソポタミアの小麦品種の普及に貢献。 Courtesy of Hilary Page

物です。デモンストレーションとして彼は、リ サーチ・ディレクターを務める〈ランド・イン スティテュート〉を 訪 れ た 人 たちを、ワウホ ブ・プレーリーと呼ばれる小さな区画に連れ て行きます。そこは、原 生プレーリー が 手つ かずのまま残されている数少ない場所のひと つです。多年生の草や鮮やかな黄色のヒマワ イラスト:William Miller

紀元前3000年∼現在:

紀 元 前2000年 ∼ 紀 元1950

アメリカ先 住 民が、三 姉 妹 農 法と呼

年代:

クレオパトラはミミズを神聖なもの

ば れる混 作を実 践。トウモロコシが

有 機 物 マル チング、堆 肥、およ

とし、人々が 害を与えたり、取り除 い た り す る こ と を 禁 じ ま し た。

紀元前69年∼ 30年:

豆のつるを支え、豆は肥料となり、カ

び 複 雑 な 輪 作 が4,000年 近く

ボチャは 雑 草 を防 ぎます。これら三

にわたって、中国の農 業を支え

1949年、米 国 農 務 省(USDA)は、

姉妹が

ました。

ナイルバレーの驚 異 的な肥 沃さは

うと、たんぱく質や、豊富な

食物繊維、炭水化物、ビタミンおよび

ミミズの糞によってもたらされたこ

ミネラルの完全な栄養源となります。

とを発見しました。

13


1

2

3

4

7

6

土壌微生物が 炭素を 固定する 仕組み

光合成を通して

土壌有機物を形成して

1. 植 物 は 大 気 か ら 二 酸 化 炭 素

4. 植物は炭素を豊富に含んでおり、

(CO ² )を吸 収し、酸 素(O ² )を放 出します。

2. 葉でCO ² は糖質の炭素化合物に 変 換 され ます。この 化 合 物 は 植

物 内 を 下 に 移 動し、根 から滲 み

出ます。

3. 土壌微生物がその流出液を摂取 します。

14

5

シーズンが 終 わると分 解 が はじ まります。多 年 生 植 物 は 一 年 中

生きつづけますが、葉や茎、根の

一部は季節に合わせて枯れます。

5. 微 生 物 は、これらの 植 物 体 を炭

素に富む土 壌 有 機 物へと分 解し

ます。

6. このプロセスによって、植 物が利

用可能な形態で養分(窒素、カリ

ウム、硫黄)が放出されます。

7. この 養 分 は、新しい 植 物 や 既 存

の 植 物と同 時 に、微 生 物 も育 み

ます。


リ、紫色のエキナセア、マメ科植物、その他数 十もの 種 が 太ももの 高さにまで 密 集して生 え、土地を完全に覆っています。 「これらの植 物たちが、農業の頼りとなる土壌を作り上げ

土壌微生物が

てきたのです。これこそが、私たちが努力して 達 成しようとしている生 態 系 なのです」 とク

窒素を

ルーズは話します。

固定する

研究所でクルーズは、小麦のように毎年植 え替える必要のあるほとんどすべての栽培穀

仕組み

物ではなく、根 付いたままでいる穀 物、つま り多 年 生の穀 物の栽 培に野 心 的にチャレン ジしています。一 年 生 作 物の単 一 栽 培は、時 間の経 過と共に多くの農 地の土 壌 有 機 物を 劇 的 に減 少させているとクル ーズ は 話しま す。雑 草 防 除のために一 年 生 作 物 は 毎 年 の

1

耕起を必要とし、それが土壌有機物量のレベ ルを大 幅に減 少させる可 能 性があるのです。 また、一 年 生 作 物の浅い根や比 較 的 少 ない 微 生 物 群では、多 年 生 作 物ほどの土 壌 有 機

3

物を土 壌 に加えることができません。 「多 年 生 作 物から一 年 生 作 物 への切り替えや耕す

2

ことを行ってきたことで、私たちは土 壌 有 機 物の25∼70%を失ってきました。そして、化 学 肥 料は、真の土 壌 健 全 性のためには不 十 分な代用品です」  クルーズは、複数の多年生植物を組み合わ せて栽培する取り組みも行っています。このよ うな多年生植物の混作により、年間を通じて 根の多様性を土壌中に保てる、と彼は説明し ます。次に、その豊かな根のネットワークが、 同様に多様な微生物群を引きつけ、その微生 物群も年間を通じて有機物を作り上げていき ます。根 が 継 続 的 に 土 壌 中 に 存 在 すること で、土 壌 微 生 物 群はより成長でき、炭素の安 定 化や土 壌中での長 期 間の炭 素 隔 離といっ

マメ科植物の場合

1. 窒素ガス(N ² 、地球の大気の約80%を占める)が地中に浸透します。 2. マメ科植物の根にある根粒に生息する根粒菌が、N ²を植物にとって の天然肥料(NH ² )に変換します。

3. シーズンが終わると植物は死に、微生物によって分解されることで、

た働きをより効果的に行えるようになります。

周囲の植 物や微 生 物が利用できる形 態の窒 素(NH 4 ) として放出さ

れます。

イラスト:William Miller

主な歴史のつづき 産業革命前:

1700年∼ 1850年:

ナイジェリアのヨルバ 族 は、アグ ロ

イギリスの農学者チャールズ・タウ

フォレストリーを実 践し、草 本 植 物

ンゼンドは、小 麦および大 麦(換 金

や低 木を樹 木と合わせて間 作し、空

作物)、クローバー(マメ科植物、肥

いた森林空間を最大限に活用しまし

沃 化と土 壌 被 覆の役 割)、カブ(放

た。この 方 法 はまた、土 壌 侵 食 を防

牧 動 物用の作 物、動 物の糞 尿も畑

ぎ、土壌の肥沃度を維持します。

を肥 沃 化する)を含む、4つの 畑を 使用した輪作を普及させました。

15


に向けた展望とは、農地土壌を私たちが最初

比べれば、いくつかの優れた利点が見込めま

に耕しはじめる前の状態、つまり植物の90%

す。クル ーズは、コロラド州 立 大 学 の 土 壌 生

以 上が 多 年 生であった状 態への復 元を意 味

態学者フランチェスカ・コトルフォや、その教

します。 「課 題は、穀 物にプレーリーのような

え 子 で 博 士 課 程 の 学 生 ロ ー ラ・ファン・デ

草原の役割を担わせ、それでもなお食料の収

ル・ポールと共 同 研 究を行っています。彼ら

穫ができるかどうか」だと、彼は話します。

は、窒素を高めるアルファルファとカーンザの

クル ーズ が 師と仰ぐ、 〈ランド・インスティ

組み合わせが、土 壌中で形 成される、より安

テュート〉の創設者であるウェス・ジャクソン

定した炭素の量を増加させるかどうかを調べ

は40年 以 上も前にこの問 題に取り組みはじ

ています。窒 素と炭 素を混 ぜるとより多くの

め、研 究チームはごく最 近、初めての商 用 作

微 生 物 量を維 持できるからです。その 他 に、

物を発表しました。金色で細く、ナッツのよう

博士号を取得したリズ・コジエルとトム・マッ

な味 わいのカーンザと呼 ば れる多 年 生 穀 物

ケナが率いるカンザス大学の共同研究グルー

です。カーンザは、ポートランドにある〈ホップ

プは、間作農法における微生物のバランスが

ワークス・アーバン・ブルワリー〉 とパタゴニ

病 原 菌の増 殖を有 意に減 少させるかどうか

ア プ ロビ ジョンズ が 共 同 で 開 発した「ロン

を調査しています。

グ・ルート・ペールエール」 という名のビール

しかし、カーンザとアルファルファの混作に

に醸 造され、2016年(日本では2017年)に

関してクルーズが見出した最 大の発 見は、農

初 めて世 に出ました(20ページ を参 照)。こ

業に関連する別の強力な温室効果ガスである

の 深く根 を 張 る 食 用 の 穀 物 に 喜 び つつも、

亜 酸 化 窒 素(N 2 O)に関するものでしょう。1

カーンザのみの畑が目標ではないとクルーズ

分子あたりで比較すると、亜酸化窒素は二酸

は強 調します。微 生 物の多 様 性を促すことの

化炭素の300倍もの熱を吸収します。 「毎年、

できる混 作は、穀 物の多 年 草 化と同じくらい

作付けを行う農法では、多くの窒素を失う可

重要なのです。

能性がある」 とクルーズは説明します。 「もし、

最 初の実 験として、クル ーズは2種の作 物

1年のうちに地中に根が 存 在せず、吸 収され

の 混 作 を研 究しています。カーンザ の 列 に、

ない期間があると、窒素は土壌中に蓄積され

ボブ・クインが大気から窒素ガスを「固定」さ

て、下 方の地 下 水に移 動するか、上に向かっ

せるために使用したマメ科の多 年 生 植 物、ア

て大 気 中に放出される傾 向がある。一 方で、

ルファルファの列を混 ぜ 合 わせたのです。次

もし微 生 物によってミネラルとして土 壌中に

に、これらの畑の周囲に花を付ける作物を植

放出される窒 素を吸い上げる植 物の根があ

えることにより、花 粉 媒 介 者と有 益な昆虫を

れば、過剰な硝酸が蓄積されることはない」

-

引きつけることができると彼は話します。 〈ラ

この自然な同 調 性こそが、 〈ランド・インス

ンド・インスティテュート〉の植物育種家たち

ティテュート〉がパタゴニアのために栽培して

が取り組んでいるヒマワリと同じ系 統の多 年

いるカーンザとアルファルファの2種混作のも

生植物、シルフィウムが適任かもしれません。

とで起きていることだとクルーズは理 解して

しかし、カーンザとアルファルファの2種 混

います。

微生物の集合住宅 カ ーンザ の 大 規 模 な 根 系 は、あらゆる種類の微生物 に理 想 的 な 生 息 地を提 供 します。 「デンマークのコペ ンハーゲン大学で行われて いるディープフロンティア・ プロジェクトとカンザス州 の〈ラ ン ド・イ ン ス テ ィ テュート〉の研究により、何 がどこに住んでいるかを垣 間 見 ることが できます。ど の深さでも類似した種類の 生 物が住んでいますが、表 層 近くが 最 も多 様 性 に 富 み、より多くの微 生 物 が 生 息しています。 深さ4インチ(約10センチ):

表土

土壌1グラム当たり: 5億 の 菌 類(1,800種 類、ほとんど が 子 嚢 菌 門に属し、ペニシリンな どの 多くのヒト用 医 薬 品の源) 15億 の 細 菌(少 なくと も12の主要な種類があ り、そのうちの1つは バ クテロイデス属で、栄養 素 を 分 解し、人 間 の 消 化管にも存在します) 5.5フィート(約170センチ) : 下層土

土壌1グラム当たり: 3億の菌 類(アンズタケ や ポ ル チ ーニ などキノ コ類の菌糸を含む) 5億の細 菌(バクテロイ デス属が増加) 9フィート(約270センチ):

深層土

土壌1グラム当たり: 2億5千万の菌類 6億の細菌

イラスト:William Miller

主な歴史のつづき 1900年代初頭:

1924年:

1924年∼ 1931年:

タスキーギ大学教授のジョージ・

ルドルフ・シュタイナーの教えに

インドのインドールでは、病 気を

ワシントン・カーバー は、被 覆 作

基づき、動 物、作 物、土 壌を単 一

抑 制し収 穫を増やすインドール

物、有 機マルチング、そして落 花

の 生 物として扱って全 体 的 な 多

式 堆 肥 化プロセスが 正 式 に開

生 のようなマメ科 植 物 を組 み 入

様性を促進するデメター・バイオ

始。インドの農家の手法を評価し

れた 輪 作 を奨 励し、南 部 の 黒 人

ダイナミック・システムをベルリン

た農学者のアルバート・ハワード

農家たちにこれらのアフリカ発祥

で創始。

の農法実践を推奨しました。

16

の尽力もあって、堆肥化は世界 中で採用されています。

Deepfrontier Project, University of Copenhagen, Denmark; and The Land Institute, Salina, Kansas

作だけでも、毎年行われる単年栽培の農法と

Kernza Research Courtesy of Annemette Lyhne-kjærbye and Mette Nicolaisen,

クルーズにとって、再 生 型 農 業の真の実 現


紐 に吊るしたカ ーンザ の

根を誇らしげに見つめる、

〈ランド・インスティテュー

ト〉創 設 者 のウェス・ジャ クソン。従来の小麦の根の

長 さ3フィート (約90セン

チ) とは 異 なり、土 の 中 に 最 長で12フィート (約3.7

メ ートル)にまで 伸 び る、 ひげのようなカーンザの根

は、貴 重 な 表 土 をそ の 場

に 維 持 したり、有 益 な 微

生 物 の 生 息 地となったり

するなど、さまざまな方 法

で土壌を再生している。

カンザス州サライナ Jim Richardson


カーンザの根はアルファルファが 放出する

たことは、いくらお金をかけても、土壌が自然

窒素を吸収するため、窒素は温室効果ガスの

に行っているほどに効果的には作物を育てる

問題物質に変換されずに、資源として利用さ

ことはできない、ということだ」 とクインは話

れています。ミネソタ大学やウィスコンシン大

します。 「もし私 が 肥 料と除 草 剤 を使って作

学 の 同 僚と共 にクル ーズ は 現 在、カンザ ス

物を育てようとしたら、それは 延 々とつらい

州、ウィスコンシン州、ミネソタ州の9人の農

単調な作業をつづけ、次から次へと負け戦に

家と協力して、カーンザとマメ科 植 物の2種

資金を投じていくようなものだ。けれども、土

混 作で栽 培し、より多くのデ ータ収 集を行っ

の中の生命を育てることを軸に農法をデザイ

ています。

ンすれば、その生きている土 壌が、健 康で耐 久力と回復力のある作物を育ててくれる」  「投 資を行うのと同じことだ」 と続け、土 壌

土壌への投資、 未来への投資

を育むオーガニックな管 理 農 法を行って30

土壌を近くで 観察 土壌の断面をスライスし、拡大してみ たら、何が見えるでしょうか?  「まさに足元に宇宙が広がっていま す。世界の生物多様性の4分の1が存 在しているのです」 と、カリフォルニア 大 学デ ービス校の 土 地・空 気・水 資

ーーーーーーーーーーーーー

年 近くになる畑に目を向けます。その土 壌は

ボブ・クインも、自身の農場の小さな研究区画

柔らかく、弾 力 性 があり、足を踏み出すたび

されるウェブサイト 「Soil Life」の 制

でカーンザを栽培し、この多年生植物が北部

に跳ね返す力を感じます。 「時間はかかる。被

作者でもあるジェシカ・チャータスは

のグレートプレーンズでも同様に成長するかを

覆作物を最初に栽培した直後や、輪作をより

話します。

確かめています。まだ大 量の穀 粒を収 穫する

多 様にした最 初の年は劇 的な改 善は見られ

には至っていませんが、クインは実のなる穂よ

ない。けれども5年∼10年 経てば、土 壌の有

りも、根の構造により関心を寄せています。

機 物の割 合が1%や2%から3%や4%に増 加

「畑 に 対 する 考 え 方 は2通りある」クイン

し、この驚くべき生体系がその先を引き継ぎ、

は、苦 労していた地 元のコミュニティを活 性

自然界でつねに行われていることを実行しは

化させるために、彼自身が 立ち上げ、成 功さ

じめる。それは、自力での持 続、自立だ。自然

せた5つの企 業すべての基 盤となったシンプ

を模 倣すればするほど、農 家としてより成 功

ルなビジネス哲 学をかみ砕いて話してくれま

するようになる。私が気 候カオスと呼ぶ気 候

した。 「ひとつは、自分はこの土地から何を得

変動の問題に対して、これが唯一の実行可能

ることができるのかという考え方。もうひとつ

な真の選択肢だと思う」

源 学 部 博 士 課 程の学 生で、近く公 開

「皆さんが今までに摂 取したことの ある抗 生 物 質のほとんどは土 壌 微 生 物 に由 来しています。また、私たちは 存 在 するすべての 生 物 の1 ∼ 5%を 「同 定」したに 過 ぎ ません。私 たち 人 類は答えを見つけようと宇宙を探しつ づ けていますが、本 当の 最 後 の 未 開 の地は足元にあるのです」

砂 シルト(沈泥)

は、自分はこの土 地に何を還 元できるのかと いう考え方だ」

粘土

リズ・カーライルは、カリフォルニア大学サンタバー

クル ーズとクインの 両 者 にとって、エネル

バラ校 環境学プログラムの助教授。彼女は、フード

ギーとお 金を消 費しながら他 の 場 所 から有

システムにおける持続可能性への移行に関する研究

機物を運び込むやり方ではなく、彼らの農法 を通じて土 壌を育むということが、大きな違 いを生むのです。  「オーガニック農 業をやりはじめて気 付い

土壌有機物

を行い、農 家と協 力して、農 地 のアグロエコロジ ー

な管 理を拡 大するための障 壁と可 能 性の理 解を深

空気

めています。著書に『Lentil Underground(豆農 家の大 革 命:アメリカ有 機 農 業の奇 跡)』、ボブ・ク

微生物

インと共著で『Grain by Grain』がある。

主な歴史のつづき

18

1940年代:

1960年代:

不 耕 起 農 業 が ア メ リ カ で は じ ま り、

フランスの生化学者であり農家でも

ルドルフ・シュタイナーの教えを受

1980年代には勢いを増していきました。

あるアンドレ・マルセル・ヴォワザン

けたアラン・チャドウィックがカリ

不耕起は土壌のかく乱を最小限に抑え、

は、土地を保護しながら、動物に十

フォルニア大学サンタクルーズ校に

土 壌 侵 食 を減らします。しかし、不 耕 起

分な

を与えることができる移 動

着 任し、バイオダイナミック農 業の

は一 般 的に除 草 剤に依 存しているため、

式の輪換放牧を提唱しました。この

フレンチ・インテンシブ 農 法 を 主

不耕起のオーガニック栽培研究が求めら

方 法は、アラン・セイボリーの全 体

導。小さな区 画での生 産 性を向 上

れています。これはいまだに、単年栽培の

論 的 管 理 を含 む、その 他 多くの 放

させました。

農業では達成できていない理想です。

牧システムに影響を与えています。

1967年:


5

3

1

6 2 3

ほとんど

1

2

死ん

物の混合物。団粒構造内

5. マメ科 植 物を含 む、植 物

や、根 の 侵 入、細 菌 の 繁

て引き寄せられるため、炭

様性は、地下の生物多様

が 歩く 「安 定 し た」地 面

なく、土壌内に隔離された

により、水と空 気 の 移 動

殖 が 可 能 になります。人

の電気を持つ粒子によっ

ま ま に な り ま す。ま た、

ペースとなっている可 能

で、表 面 流 水や土 壌 侵 食

性があります。

2. 団 粒 構 造(砂、シルト、粘

土 などの 鉱 物と、有 機 物

の混 合 体)。これらは、生

物が生きるための適切に

構造化された環境を作り

出します。

3. 豊富な土壌有機物

(SOM)。栄 養 素に富み、 炭素を多く含む、分解され

た植物資源と死んだ微生

の多様性。地上の生物多

性の発達を促します。マメ

素は大気中に戻るのでは

は、その土 が 健 康であれ

ば、50%が オ ー プ ン ス

1. 多 孔 性 の 開 放 的 な 構 造

4

4

5

科植物は窒素固定を行う 細 菌 を引きつけ、細 菌 は 大気内の窒素をその植物

SOMは水を吸収すること

の肥 料へと変 換させるの に役立ちます。

を防ぎ、植 物 が 最も必 要

としている場所である土壌 に水分を維持します。

壌 1.

間が 減 少し、圧 縮され

た構造。

2. 団 粒 構 造 が ほ ぼ 不 在: 土壌の主な鉱物である粘

土、シルト、および砂がほ

ぼ分離されています。

3. 微 生 物を育て、助ける植 物や根が少量。

6. たくさん の 根。特 に多 年

4. 藻 類、菌 類、原 生 動 物、 細 菌など、豊 富な微 生 物

からなる小 宇 宙。微 生 物

(およびミミズや昆虫など の 生 物)は、植 物 を 土 壌

有 機 物 に分 解します。微

生 物 が 死 ぬと、その 体も

生植物の根はそのままそ

の 場 所 に 残ります。根 は

糖分やその他の化合物を

4. 微 生 物 の 個 体 数と 多 様

性が低下し、土壌有機物

(SOM)を 作 り 出 す こと が ほ と ん ど、あ る い は

まったくで きま せ ん。天

然の窒素肥料も作りだせ

ません。

5. 土 壌 有 機 物 が 少 なくな り、炭 素や窒 素の安 定 化

および貯蔵量が減少しま

す。水 の 吸 収と保 持 能 力

も低下します。

発 生させ、それが 微 生 物

にとっての

となります。

根 は、土 壌をその場 所に

維持し、侵食を防ぎます。

SOMになります。

イラスト:William Miller

1976年: 〈ランド・インスティテュート〉がカンザ ス州サライナに設立され、一年生農業

2020年:

リジェネラティブ・オーガニック認証

何世紀にもわたる賢明な伝統に基づいて、志を同じくする企業(パタ

の欠点に対処する方法として多年生作

ゴニア プロビジョンズを含む)が集まり、土 壌の健 康と労 働 者およ

物による混作の促進を開始。

び動物の福祉を修復する農法の高い基準を作成しました。最初に認 定された食品例:ドライマンゴーにチリパウダーとライムジュースで 味 付けしたパタゴニア プロビジョンズのRO チリ・マンゴー、ドク ターブロナーのオーガニック・バージン・ココナッツオイル。

19


飲み干して 取り込もう ロング・ルート・ビールの製造 私たちは少量生産のクラフトビールを醸造し

外にも、小麦やトウモロコシ、米なども一年生

ています。グレープフルーツのようなホップの

です。一年生植物は毎年の植え付けを必要と

風 味 と、ドラ イで 爽 や か な 後 味 の ロン グ・

し、その作 業には、炭 素と窒 素が大 気中に放

ル ート・ペールエール 、そして、伝 統 的なベ

出され、表 土が侵 食されます。しかし、ほとん

ルギー白ビールをアレンジし、コリアンダーと

どの野生植物は多年生植物で、たくさんの食

オレンジの皮を加えて製 造したロング・ルー

物を生み出すわけではありませが、毎 年同じ

ト・ウィットです。どちらもトップクラスのビー

場所にとどまり土壌を乱すことはありません。

ルで、ロング・ルート・ペールエールは2019

カーンザは、再 生 型 農 業のイメージキャラ

年、アメリカ国 内のグッド・フード・アワード

クターとも呼ぶべき多 年 生 植 物です。あごひ

を受賞しました。

20

げのような 巨 大 な 根 は、長 さが12フィート

しかし、真のストーリーはそれぞれの缶に

(約3.7メートル) と、通 常 の 小 麦 の 少 なくと

入っている美 味しいドリンクのことではあり

も2倍に達することがあります。この強力な根

ません。ビールを醸 造するために調 達してい

が、表土を維持し、数百万もの有益な微生物

る穀物についてです。

を育み、大気から炭素を取り込んで地中に封

私たちは何 年も前からカーンザについて、

じ込めます。しかもカーンザのほっそりした穀

そしてウェス・ジャクソンや〈ランド・インス

粒には、スパイシーなナッツのような素 晴ら

ティテュート〉の 活 動 について知っていまし

しい風味があります。

た。1976年にカンザス州サライナでウェスが

私たちが2013年にウェスや彼のチームと

設立したこの研究所では、多年生作物を栽培

初 めて 会 ったとき、彼 らは すで に 何 十 年 も

する方 法を研 究しています。穀 物の収 穫 高と

カーンザに取り組んでいて、この穀 物の大き

野生植物の生態学的な安定性を組み合わせ

さや収 穫 量を向 上させていました。彼らは製

た画期的なアイデアです。主な食用作物は一

品の市場への発売はまだ先のことだと考えて

年生であり、標準的なビール用穀物の大麦以

いましたが、地球を再生させる食物をサポー


トする事 業を展 開していた私たちは、カーン

ビールを生産していました。

ということです。HUBの 創 設 者であり、醸 造

ザ は 変 化 を起こす 即 戦 力であると考えまし

2016年(日 本 で は 2017年)、私 た ち は

家のクリスチャン・エッティンガーは、 「カーン

た。この注目すべき植 物が 発 展すれば、他の

カーンザを使 用した初めての 製 品、ロング・

ザが、醸造に使用する他の原材料穀物におい

さまざまな食 用 穀 物も多 年 生 植 物に移 行す

ル ー ト・ペ ー ル エ ー ル を 世 に 出 しまし た。

て、将 来 性のある議 論の道を切り開いてくれ

る道が 開ける可 能 性があります。そのために

2019年 には ロング・ル ート・ウィットを 発

ることを期待している」 と話します。この驚くべ

私たちができることは何かと考え、大々的に、

売。どちらも、カーンザの需要を増大させ、よ

き穀物は、人間の食生活の基本である小麦か

より広く、そして変 化を促したいと思いまし

り多くの栽培と研究への資金提供につながり

ら米まで、あらゆる作物の栽培方法を根本か

た。では、そのための最善の方法は?

ましたが、最も素晴らしいことは、カーンザが

ら変化させる推進力となるかもしれません。

その答えがビールでした。供給量の限られ

より大 規 模に発 展していくのを見られたこと

ロング・ルート・ビールの缶を開けるとき、

るカーンザを風 味やスパイスとして、醸 造の

です。 〈ゼネラル・ミルズ〉では、シリアルやそ

それは未来に向けた乾杯となるのです。

主原料である大麦に組み合わせることができ

の他の用途で使用するために、現在カーンザ

た の で す。オレゴ ン 州 ポ ー トランド に あ る

を栽培しています。また、アメリカ国内および

̶ バーギット・キャメロン

〈ホ ップ ワ ー ク ス・ア ー バ ン・ブ ル ワ リ ー

ヨーロッパの農場でもカーンザの栽培地が広

パタゴニア プロビジョンズ、

(HUB)〉が、自然な流れでパートナーになり

がっています。

マネージング・ディレクター

カーンザ は〈ランド・インスティテュート〉

̶​̶​̶​̶​̶​̶​̶​̶​̶​̶​̶​̶​̶

ン〉のメンバーであるHUBは、サー モンの 生

の活動の正しさを証明すると私たちは信じて

ロング・ルート・ビールの詳細は、

息 流 域の保 護を目的としたサーモン・セーフ

います。つまり、多年生植物は、地球を再生さ

patagoniaprovisions.jp/pages/why-

認 証 を 初 めて受 けた 醸 造 所 で、素 晴らしい

せる農法として素晴らしく理にかなっている、

beer をご覧ください。

ました。パタゴニアと同じ〈Bコーポレーショ

Kern Ducote

21


風味を第一に考える 〈ロウ7シード〉の共同創設者であるシェフのダン・バーバーが、 育種家の第一人者たちと作物の風味や栄養の秘訣、そして地 元産の野菜が未来への道であるべき理由について語ります。

2018年 に 設 立 さ れ た〈ロ ウ7シ ー ド〉は、

22

信から、オーガニックの非遺伝子組み換え種

シェフと農 家と育 種 家を結びつけ、オリジナ

子 のみを生 産しています。また、 〈 ロウ7シ ー

ル品 種の美 味しい果 物や野 菜の開 発に取り

ド〉の共同研 究 者は、被 覆 作 物や輪 作などの

組む初の種子会社で、種子からはじめる新た

再 生 型 農 法 で 管 理 され た 健 全 な 有 機 土 壌

なアプローチでフードシステムを変えること

は、植物の栄養とその風味を高め得ると考え

を目標としています。

ています。土 壌の健 康と、風 味や栄 養の豊 富

保 存 可 能 期 間や均 一 性といった従 来の種

さは、相 互に関 連しあう同じテーマである可

子 企 業の優 先 事 項を満たす植 物を作る代わ

能性があります。

りに、 〈 ロウ7シード〉は何よりも風味を優先さ

この考えをより深く探るため、バーバー は

せます。これは、他のビジネス上の意 思 決 定

オ ーガニック野 菜 の 育 種 家 で あり、 〈 ロウ7

にも反 映されています。たとえば、最も風 味

シード〉の共同創設者のマイケル・マズレック

豊かで歯ごたえのある植物は、化学物質の力

を招き、国内における育種家の第一人者であ

ではなく、時 間とともに進 化してきた遺 伝 子

るアー ウィン・ゴ ールドマンとビ ル・トレー

を受け継ぎ、自力で育つ植 物であるという確

シーとともに座談会を開きました。


左ページ:試験栽培したスクワッシュを味わうシェフのダン・バーバーと育種家のマイケル・マズレック。

本ページ:発芽した898スクワッシュ。ニューヨークのフィンガーレイクス地域にある〈ロウ7シード〉の倉庫にて。 Row 7 Seed Company


24


ダン まず、風味や栄養と土壌の健康の関連を探る ということからはじめよう。風 味、栄 養、土 壌 のあいだに関連性はあるだろうか。 ____ アーウィン 根菜に関しては、風味と生産環境には何らか の 関 係 があると思 われる。たとえば、オーガ ニックのニンジンの食 味テストで、食 べた人 はそれがオーガニック農場で作られたものだ

マイケル・マズレック

と気 付いたんだ。なぜかは分からないが、そ

〈ロウ7シード〉の共 同 創 設 者。コー

のような環境では植物にかかるストレスが少

ネル 大 学 の 植 物 育 種 学 / 遺 伝 学 の

ないのかもしれない。

准教授。

____

マイケルは、子 供のころに家 庭 菜 園

で育てていたのと同じ品種を専門に

ダン

している。生 化 学 の 研 究 から、植 物

そのことについてはレイチェル・カーソンが

が 持 つファイトケミカ ル の 重 要 性

詳しく書いていた。ニンジンはスポンジのよう

や、植物が人間の健康に対して果た

す 保 護 的 な 役 割 に 注 目するように

に化学物質を吸収するらしい。科学的説明は

なった。彼は現在、ファイトケミカル

あるのかな。

含 有 量 を 増 加 させる 野 菜 を 育 て、

____

人々に自らの技術を教えている。

アーウィン 分からない。答えはひとつじゃないかもしれ ない。  たしか に50年 以 上 も 前 に、レイチェル・ カ ーソンは『沈 黙 の 春』で、化 学 農 薬 を 使っ て栽 培されたニンジンはその 農 薬を吸 収す

ロビンズ・ コギナッツ・ スクワッシュ カボチャと似た、甘くて滑らか

で、クリーミーな肉 質。熟すと

ブロンズ 色 になるため、収 穫 時期が分かります。

食べてみよう:スクワッシュを 半分に切ります。種をスプーン

で取り除きます(種は炒っても 可)切り口を下にして、190℃

の オ ーブ ン で45分 間 焼 きま

Row 7 Seed Company 右上 : Amy Kumler

す。ひっくり返し、オリーブ オ

イルを少々振りかけ、柔らかく なるまでさらに10 ∼ 15分ほ

ど 焼 きます。お 好 み の 味 付 け でお召し上がりください。

ると書 いている。これ はほ ぼ 間 違 いなく、す べての根 菜にもあてはまるだろう。従 来の農

オーガニック農場の最も大きな特長のひと

業 生 産システムでは、ニンジンを守るために

つは、土 壌の健 康レベルがとても高いという

化 学 物 質を使用しているが、ほとんどの生 産

ことで、それは高レベルの有 機 物 量と活 発な

システムで作 物は害虫と農 薬からもストレス

土壌微生物に起因する。ニンジンの根の質は

を受けている。農薬は植物を守ると同時に害

土 壌の健 康によって左 右されるため、オーガ

をおよぼしている可 能 性がある。人 間も強力

ニック農法で栽培されたニンジンの方がより

な薬によって副 作用を起こし得るというのと

良い食 味を提 供するのだろう。根 菜について

似ている。

は一般的に、土壌の健康と根の質との密接な

消 費 者 がオーガニック環 境で 栽 培された

関係性について調査する価値があると思って

ニンジンの方を好む理由のひとつに、根自体

いる。

にかかったストレスが 少ないことが 考えられ

____

る。ストレスは不 快な味を引き出す場 合が多

ダン

く、ニンジンの根に含まれる苦いテルペノイド

マイケル、このことについて君はどう考えるか

によってテレビン油のような味がすることが

い?

ある。この収れん性を持つ化合物は植物に備

____

わる自然防御の一部で、風味のことを気にせ

マイケル

ず 害虫防 除を行ったところ、ニンジンの自然

数年前にコーネル大学で実験をしたときのこ

防 御 反 応 によってテレビン 油 味 になってし

とだ。温室を1つ引き継ぎ、同じ種類のルッコ

まったことがある。

ラを異なる土壌に植えた。片方は普通の表土 25


26


に化 学 肥 料を加えたもので、もう片方は同じ 表土にオーガニックの堆肥を混ぜ、同じ養分 レベルにしたものだ。両 方が同じ状 態になる ように努めたよ。  サンプルを「ブルー・ヒル」のキッチンに持 ち込んでランダムに味見をしたところ、シェフ たちは「これはオーガニックで自分たちが 農 家 から 仕 入 れてい る 味と 似 てい る、そして こっちは仕入れを避ける方だ」 と当てたんだ。 化学肥料を加えた土壌で栽培したルッコラを

アーウィン・ゴールドマン

試 食した全 員が、辛くてピリピリすると言っ

ウィスコンシン 大 学 マ ディソン 校

た。一方、オーガニックの方は甘くて、辛みが

農学部園芸学科長

鼻に抜けていくってね。それで僕は考えを改

アーウィンの研 究 室では、主にニン

めたよ。

ジン、タマネギ、ビートなどの他家受 粉させた野 菜 作 物の 育 種と遺 伝 学

アーウィンが 言うように、環 境 的 なストレ

に 焦 点 を 当 て、そ の 栄 養 価 や 色、

スが関 係している面もあるが、他にも植 物同

味、形に重 点を置いている。彼 は 有

士のコミュニケーションという面もある。同じ

機的な種子生産とオープンソースの 育種を支持している。

畑に植えられた植 物は化 学 的な信 号を発し ていて、同じ環境に何が植えられているのか、 それにどう反 応すべきかを察 知している。そ れらの多くの要素が、風味や栄養面に影響し ていて、野 菜を味 わうときは、その 会 話を盗 み聞くということになる。 ____ ビル オーガニック農 法では作 物を輪 作するので、

ハバナダ・ ペッパー フルーティで、花のような深み の ある、辛くな い ハ バ ネロ 唐

違ってくる。すべての健 康 的な有 機 農 場でさ まざまな 作 物 が 輪 作 されていて、植 物 の 健

ジンは、適 切な土 壌からしか 得られない。そ

康という面で、トウモロコシ、マメ、ニンジン

のほとんどが有 機 土 壌だ。いま僕はこの国を

など 前 に 栽 培 されていた 作 物 が、その 次 に

代 表する3人の育 種 家と話をしているのだけ

植えられる作 物 に大きな 影 響 を与えている

ど、基 本 的に皆、遺 伝 子 発 現のために、今 後

食 べ て み よ う:ピ ク ル ス や

ことはたしか だ。これ は 再 生 型 農 業 の 重 要

は土壌環境にもっと注意を向ける必要がある

あるいはそのままかじって食

な要 素だ。

と言っているのかな。

____

____

は、種を取り除いて薄くスライ

アーウィン

バージンオリーブ オイルで 弱

素 晴らしい指 摘だね。ビーツのような野 菜を

全員 その通り。

同じ畑で続けて何 年も育てている生 産 者 が

____

大勢いることに驚くよ。いまだにそんなことを

マイケル

辛子。噛み応えがあり、ジュー

シー。

ピューレにしたり、焼 いたり、 べ ても。ピュー レにする 場 合

スしたハバナダを、エクストラ Row 7 Seed Company 右上 : Aviv Goldman

養 分の利 用 可 能 性という点において全 体 が

火で焦げ目を付けないように

しっかりと柔らかくなるまで炒

めます。塩で味 付けし、滑らか

になるまで少 量の水と混ぜま

す。スプーンを使ってチキンや

焼いた魚の上にかけたり、スー

プに加えたり、パンやチーズと

一緒にお召し上がりください。

しているなんて。病 気を招くよ、ひどい話だ。

土壌がどうあるべきかについての筋書きはひ

多様化した有機農業システムではあり得ない

とつだけではない。より高いレベルの風 味と

ことだね。

栄 養を生み出すためには土 壌 生 態 学が必 要

____

となるが、どうすればいいかの指 示リストは

ダン

ひとつとは限らない。農家の技術や農法に対

それに、そういうことが 風 味に大きく影 響す

する知識、土地への理解で、その方法を最適

ることが 分かっている。本当に美 味しいニン

化していくことができるだろう。 27


28


大量生産野菜の欠点 ダン

育 種 に 話 を 戻 そ う。シ ェ フ や 楽 し み に 待 つ デ ィ ナ ー 客 に と っ て、斬 新 さ だ け で な く、純 粋 で 凝 縮 さ れ た 風 味 も 食 の 魅力だ。それぞれの育種の仕事で、ある 植物の祖先にあたる野生種から得た遺 伝 子 を 用 い て、そ の 味 に 近 づ け よ う と 考えた人はいるかな。 ____

ビル

多くの点で野生種の栽培化やその後の 現 代 的 な 育 種 は、そ う い う も の の 多 く を 最 小 共 通 分 母 化、つ ま り 大 衆 向 け に し て き た と 言 わ ざ る を 得 な い。多 く の 人 が 好 む も の に す る た め に ね。そ う す る た め に は、苦 み な ど い く つ か の 味 は 取 り 除 く こ と に な る。一 部 の 人 は そ の

ビル・トレーシー

〈クリフバー〉および〈オーガニックバ

レー〉、ウィスコンシン大学マディソ ン校 有機農業のための育種学教授

ビルは耕種学と生物学を教え、大学 院 生によるスイートコーン改良の育

種プログラムを指 導している。彼の

研 究 分 野には、トウモロコシにおけ

る病 害 虫 抵 抗 性 の 開 発、参 加 型 育

種、および有機作物生産のための農 場での研究が含まれる。

要 素 が 好 き か も し れ な い が、で き る だ け多くの市場に向けて販売したいと考 えれば、育種の伝統や条件というのは、 それらの要素をできるだけ最小限にす ることだろう。たとえば、果物や野菜は 有 益 な 抗 酸 化 物 質 を 多 く 含 む が、こ れ らの多くが苦みや渋みのもとになる分

野 イ チ ゴ は 二 倍 体 だ。つ ま り、2組 の 染

解 生 成 物 を 含 ん で い る。中 に は そ の よ

色体を持っている。一方で、カリフォル

う な 風 味 に 惹 か れ る 人 も い る が、大 抵

ニアとメキシコからやってきた現代の

の 場 合 は 不 快 感 を 与 え る。私 は 長 年 に

栽培イチゴは八倍体で、8組の染色体を

わ た っ て、多 く の 熱 帯 ト ウ モ ロ コ シ の

持 っ て い る。私 た ち は 倍 数 の レ ベ ル を

生殖細胞をスイートコーンに組み込ん

上 げ て イ チ ゴ を 巨 大 化 さ せ て き た。そ

できた。多くの場合、変わった味と香り

れにより二倍体の品種よりもはるかに

食 べ てみよう:茹 でるだけで

が す る た め、大 量 市 場 向 け に は 適 さ な

風 味 の 劣 る も の に し て し ま っ た。こ れ

さです。ポイントは、塩 をたっ

いので通常それらは除外している。

は イ チ ゴ に 起 き た 滑 稽 な 話 だ。そ れ で

____

も、それを実行した理由は明らかだ。二

を鍋 に入 れ、浸るまで 水 を加

ダン

倍 体 か ら 四 倍 体 へ、あ る い は 四 倍 体 か

ように塩を加えます。沸騰した

商 品 シ ス テ ム へ の 供 給 を 考 え て 、そ う

ら 八 倍 体 へ、と い う よ う に 染 色 体 の 組

いう潜在性を無視してしまうのはお

数 を 増 や せ ば、植 物 の 細 胞 が 大 き く な

か し い こ と だ ね 。ビ ル が 言 う よ う な 大

り、果物が大きくなるからだ。大きな果

衆 向 け の 育 種 は 、食 物 の 風 味 や 栄 養 を

物 は 消 費 者 に 人 気 が あ る か ら ね。し か

薄めているということを意味するの

し、サ イ ズ が 大 き い こ と が 必 ず し も 料

だから。

理 の 質 に 反 映 さ れ る わ け で は な い。イ

____

チ ゴ の ケ ー ス で 言 え ば、染 色 体 数 を 増

アーウィン

や す と い う 驚 く べ き 成 果 は、植 物 育 種

イ チ ゴ が い い 例 だ。植 物 育 種 家 は 染 色

界 に と っ て は た し か な 功 績 だ が、そ の

体操作を通じて、風味を落としてきた。

成果には食味の質や栄養の向上が伴っ

アップステート・ アバンダンス・ ポテト 驚くほどコクがあり、ナッツの

ような 風 味と、真 っ白 な 中 身 でクリーミーな肉質。

も信じられないほどの 美 味し ぷりと水に加えること。ポテト

Row 7 Seed Company 右上 : Shawn Linehan

え、海 水ぐらい の 濃 度 になる

ら弱 火 にし、フォー クで 簡 単

に刺せるくらいに柔らかくなる

まで約10分茹でます。

29



ていなかった。収穫量は増えたけどね。 ____

ダン

では、僕たちはどうやってそのシステム を 変 え て い け る だ ろ う か。興 味 深 い と 思ったのは、ビルが話した栄養的に重要 な成分には、苦みなどのような、より複 雑 な 風 味 が あ る と い う こ と だ。こ れ は シェフにとっても最も魅力的なことだ。 人びとがルッコラやブロッコリーレイ ブを好むようになったのと同じように、

ダン・バーバー

〈ロウ7シード〉の 共 同 創 設 者。レス

そういう味も評価して楽しめるように

トラン「ブルー・ヒル」や「ブルー・ヒ

促すのが僕たちの責任だと思う。僕たち

ル・アット・ストーン・バーンズ」の

は、人びとが欲しがる食べ物の定義を広

シェフ兼共同オーナー。

ニューヨークタイムズのベストセラー 本

げる手助けができるのだから。

『The Third Plate:Field Note on

the Future of Food(食 の 未 来 の た

めのフィールドノート:「第 三の皿」をめ

ざして 上 下 巻)』の 著 者 であるダンは、

ローカルに根差した生産

優れた農 業の理 念を直 接 食 卓に届けら

れ るように 努 めている。2017年、リー

____

ダーシップ・アワードを含む6つのジェー

マイケル

ムズ・ビアード財団賞を受賞。

植 物 の 育 種 に は、維 持 し た い こ と や 改 善 し た い こ と と、減 ら し た い こ と の リ ストがある。つまり、好ましい特性と好 ま し く な い 特 性 と い う こ と だ。僕 た ち は物事をどちらか一方のグループに入

バジャー・ フレーム・ビーツ 細 長く、鮮 やか な 黄 み が かっ

たオレンジ色のビーツ。土臭さ はなく、甘くてマイルド。

食 べ てみ よう:このビー ツは 焼いて食べるのが 美 味しいで

す が、甘くて 野 菜らしい 風 味

は生で食べるのが一 番 感じら

れます。ビーツの 皮をむき、ス

ライサーを使って薄くスライス

Row 7 Seed Company 右上 : Alex Boerner

しま す。生 の ま ま、塩、こしょ う、レモン汁、オリーブ オイル を少々かけて食卓へ。

れ よ う と す る が、物 事 を プ ラ ス か マ イ

な く、さ ま ざ ま な シ ス テ ム や 異 な る 地

ナ ス に 分 類 す る 過 程 に は 弊 害 が 伴 う。

域でこのような評価をはじめる機会に

けれども育種家がこれまで無視した

もなるということだ。たとえば、独特な

り、逆 の 選 択 を し て き た 特 性 の い く つ

風味が特徴のスイートコーンの品種が

か が 見 直 さ れ て き て い る よ う に 思 う。

で き た と し よ う。そ う し た ら こ う 言 え

た と え ば コ ー ヒ ー の よ う に、人 び と が

る わ け だ。 「こ の 品 種 は、ウ ィ ス コ ン シ

その複雑な味の良さが分かるように

ン 州 マ デ ィ ソ ン に 適 応 し た も の で、ま

な っ た の と 同 様 に、野 菜 に も そ れ が で

さにマディソンの有機土壌で起こって

き る と し た ら?そ れ を 実 現 す る た め に

いることだ」とね。このようなことに関

は、今 よ り も は る か に 持 続 可 能 な 土 地

する科学はまだはじまったばかりだと

利 用 を サ ポ ー ト す る 必 要 が あ り、そ れ

思う。私たちは、さまざまな農業システ

は長期的によりよく機能するシステム

ムが風味にどのような影響を与えるか

へとつながるだろう。

に つ い て、今 ま で 十 分 に 注 意 を 払 っ て

____

こなかった。

ビル

____

そ れ が こ の 会 話 の 素 晴 ら し い 点 だ ね。 個人的には、皆もそうだと思うが、キャ

ダン

そ れ は、食 品 業 界 が 目 指 す 正 し い 方 向

リ ア の ほ と ん ど の 間、い わ ゆ る 工 業 生

だね。より地元に根ざし、より栄養価が

産 用 の 育 種 を し て き た。こ の よ う な 会

高く、そして100%より美味しく。その

話 を 通 し て 今 起 こ っ て い る こ と は、風

実 現 に 向 け て、そ し て こ の 会 を 手 伝 っ

味を第一に考えた育種をするだけでは

てくれた皆に乾杯。 31


過去と未来は 種子の中に By マイケル・マズレック 種まきはシンプルな 行 為です。土で 覆い、水 をまいて、待つだけ。同時にそれは、大きな意 味も持ちます。私たち自身や家 族を養い、先 祖伝来の大切な種を守り、景観を美化し、子 供の教 育にもなります。多くの意 味が 込めら れているこの1つの 行 動 が、種 を 育 て、種 を 守ってきた数 千 年 以 上の 何 世 代もの 人々と 私たちとを結び付けているのです。  野 菜の育 種 家として私は、変わりゆく世 界 や人びとに合わせて植物が変容していく様子 を目の当たりにし、その進 化に参 加してきま した。種を植えるとき、私は先駆者たちの「選 択」を見ます。あるエンドウ豆の種子はざらざ らして、しわが 寄っています。これは、でんぷ ん質を減らし、甘さを選 択した結 果です。一 方、被 覆 作 物用のマメのような他の種は、病 原 菌に抵 抗するファイトケミカルの色で黒く なっています。種を植えることで、可能性も見 えてきます。色や歯ごたえ、サイズ、そして風 味の違いの中に、選 択すべき新しい特 徴や、 追及すべき新たな多様性、そして私たちの食 生活や風景を改善できる新しいチャンスが見 えるのです。しばしば 素 晴らしい成 分は土 壌 に由来すると考えられていますが、実 際には 種子からはじまるのです。  さて、種を植えてみたくなりましたか?種ま きは簡単にできますが、栽培には忍耐と経験 が 必 要 です。種 を育 てるには、土 壌 や 水、日 光などの共 通 項はあるにせよ、多くの細かな 調 整 は、作 物 やさらにはその 品 種 の 特 性 に よって異 なります。ほとんどの 場 合、種 の 袋 に、成 熟日数(植えてから収 穫までにかかる 日数)から草性(生い茂るのか、つるになるの か、あるいは遺伝的に花芽数が決定している か、していないか)にいたるまでのあらゆる栽 培 指 示 が 記 載されています。しかし、実 際の 作業手順は種自体に埋め込まれています。そ れぞれの種が 未 来 への設 計 図です。つまり、 創 造したいフードシステムを思い描き、実 行 に移す機会なのです。 32

コショウの 苗、 〈 ロウ7シ ード〉 の温室にて。

Row 7 Seed Company



数千年にわたって、祖先たちがして い た の と 同 じ よ う に、グ レ ー ト プ レーンズを自由に歩き回るワイル

ド・ア イ デ ア・バ ッ フ ァ ロ ー。生 態 系へ大きな影響を与える中枢種であ るバッファローは、草を食む草原す

べてを再生し、蹄で固有の草の種を 植え付け、肥料を与えている。 Jill O Brien

34


フィールドからの記録

アトラスの怒り By ダン・オブライエン

ノー ザン・グレートプレーンズは、まるで 美

いうことを、風 がポプラの古 木を揺らしはじ

しく狂おしい恋 人のような、心を打ち砕くか

めるなか私は兄に話した。翌 朝、台 所の窓の

のごとく気ままな愛すべき土 地だ。どの季 節

外 で ポプ ラは ま だ 大 きく揺 れていて、コ ー

にもそれぞれの魅力があるが、悲惨な目にあ

ヒーを飲みながら私たちは、このちょっとした

う可 能 性もある。冬には危 険なほど寒くなる

悪 天 候のおかげで 挑 戦 的 な 狩りになるぞと

ことがあり、風は数 分で肌を凍らせることが

冗談を言い合っていた。その日は一日中風が

できる。春は洪 水で知られ、夏にはそれらの

吹き、突風に乗って雪も激しくなっていった。

増 水した 川 が 埃 へと変 わる。訪 問 するなら

翌日、目を覚ますと、木々は雪の重みで曲が

秋をお 勧めする。葉 が 色づき、バッファロー

り、私たちの冗 談は途 絶え、やがて木々の枝

は太っていて幸せそうで、鳥の数も最 高 潮に

が折れはじめた。

達する。  2013年9月の終わりごろに兄 が 訪 ねてき た。我が家を囲むポプラの葉が黄金色に変わ り、日中は穏やかで、夜は涼しい時期だった。 私 たちはシャイアン 川 を 見 下 ろすテラスに 座ってライチョウ狩りの計画を立てながら道 具を整え、猟 犬たちはそよ風に鼻をひくひく と動かしていた。天気予報が気温の低下と風 の強まりを知らせていたが、私たちは注 意を 払わず、日暮れには雪が降りはじめた。  私 は 牧 牛 地 帯に住んでいるが、25年 ほど 前にバッファローに切り替えた。バッファロー は、数 千 年もの間この草 原を歩き回り、過 酷 なグレートプレーンズの気候に合わせて行動 や身体的な特徴を進化させてきた。寒さや暑 さ、洪 水、干 ばつにほとんど影 響されない動 物になった。我が家の使 命は、土 地の自然の バランスを回復させることで、目標はまずバッ ファロ ー だった。2013年 まで に、家 の 上 の 平らな場所に400頭のバッファローを放し飼 いし、バッファロー はそこで私たちが 植え替 えた固 有 種の草を食べていた。バッファロー はこの土地の気まぐれな気候に対応できると

ダン・オブライエンと妻のジルは、1998年に〈ワイル

ド・アイデア・バッファロー〉を設立。現在は娘のジリ アン・ジョーンズと夫のコルトン・ジョーンズが 経 営

を引き継 ぎ、オブライエン夫 妻 はサウスダコタ州 の

シャイアン・リバー・ランチでバッファローを飼育して

いる。牧場主であり、鷹匠であることに加え、オブライ エンは野 生 生 物が 専 門の生 物 学 者であり、6編の小

説と4つ のノンフィクション 作 品 の 著 者 で もある。 John Levitt

35


右:2013年10月、サ ウ ス ダ

コタ州を襲った異 常 に早い 時

期の猛吹雪「アトラス」は、フェ

ンスや 送 電 線 をな ぎ 倒 し、数 万頭の牛を死に追いやった。

右奥:グレートプレーンズの過

酷な気 候に完 全に対 応してい

る放 牧 のワイルド・アイデア・ バッファローは、氷の

間から

草を食べることができる。 Jill O brien

我が家から数キロメートル北に住んでいる娘

したその 時、吹 き溜 まりの 中 から、バッファ

夫 婦 は、嵐 が 襲ったとき、ネブラスカ州の夫

ローの黒い角が1本 突き出ていることに気 付

の実 家を訪ねていた。ハイウェイが 封 鎖され

い た。口 に は 出 さ な か っ た が、そ の 夜 か ら

て家に帰れずにいたが、2人には

ずっと不安に苛まれていた。

を必 要と

する乳牛や豚、犬、それに納屋に住む数匹の

その3日後、ようやく雪 をかき分 けて外 に

猫がいた。兄と私は家の私 道から出かけよう

出てみると、その吹き溜まりに8頭のバッファ

としたが、巨 大 なポプラの 折 れた 枝 が90セ

ロー(所有する群れの約2%)が埋まっている

ンチもの吹き溜まりの中で絡まりあい、通り

のを発見した。気が重くなったが、北に1キロ

抜けることができなかった。風がうなり、私た

メートルほどの場所で残りの群れが雪の中で

ちはかろうじて家 に戻ることができた。家 に

穏やかに草を食 べている姿 に元 気づけられ

入るや否や、明かりが2回 点 滅してから消え

た。私たちがどれほど幸 運だったか、分 かる

た。その 夜 は 一 晩 中、暗 闇 の中に座り、風 の

までに数日かかった。気 象 予 報 士がアトラス

音を聞いていた。

と名 付けたこの嵐で、群れのすべてを失った

翌日、吹き溜まりの深さが180センチまで

隣 人もいたのだ。合 計で10万 頭を超える牛

に達していたが、私 はバッファローを信じて

が死んだ。

いた。彼らの 遺 伝 子 は、このような 戦いをこ

翌 週、私たちはショベルカーをひっきりな

れ まで に 経 験してきた の だ。隣 人 たちの 牛

しに動かして隣 人たちの動 物を埋 葬した。最

は、話が違う。近隣の牧場には何千頭もの牛

後 に 埋 めたの は 私 たちの バッファロ ー だっ

が いた。外 部との 連 絡 は 一 切 取 れ なかった

た。娘 婿 が そ ば に 来 て、こう 言 っ た。 「あ の

が、これだけの深さの吹き溜まりの中では深

バッファローたちのことで不 思 議なことに気

刻な死 亡 数になるだろうということはラジオ

付いた?」気が沈んでいた私は、雪の上に積

を聞かなくても分かった。

まれた土の山を見つめて立ち尽くし、首を横

4日目の朝には、娘の家の動物たちが心配

に振った。 「どれも年 老いたメスだった」 と彼

で、居ても立ってもいられなかった。雪 は 弱

は話した。 「子供たちはみんな生き延びたよ。

まっていたが、風 はまだ荒 れ 狂っていた。兄

死 んだの は、オオカミにやられ たんだろう」

と私は、とにかく娘たちの家まで歩いて行っ

彼は私の肩に手を置くと、ショベルカーに乗

てみることにした。それまでに挑 戦したどん

り込んだ。 「オオカミか」私は暖かいそよ風に

なハイキングよりも困 難なものになった。肺

呟いた。目を上げると、ホソオライチョウの群

が 凍るような北 風の中、太ももまで積もった

れが 淡い青 空を飛び 去って行った。 「完 璧な

雪 をかき分 け、2時 間も歩 いた。動 物 たちに

世界だ」 と、私は思った。

を与え、追い風を受けながら家に戻ろうと 36


37


スペイン 北 部 カンタブリア 沖 のビ スケ ー 湾 で、釣り針

と糸のみを用いる漁を行う 家 族 経 営の漁 船がタイセイ

ヨウサバを求めて出航する。


未 来を 釣り上げる スペイン流の 方法 ガリシア州の海岸では、 先駆的な会社が数世紀にわたる伝統を 現代に取り入れています。

友 人 のナンシー は納 得がいかないようでした。私は半 年に一度のマドリード訪問中で、今回は、輝く皿に盛られ たルビー 色の生ハムや、甘みがあっていい塩 加 減のグリ ルした美 味しいエビが 楽しめるいつものタパスバーでは なく、この明るすぎる新しいバーで会おうと強く誘ったの です。隣のテーブルは騒がしく、安っぽいスペインポップ スが流れていました。私が注文した油まみれのタイセイヨ ウサバの塊が乗った厚切りのパンがテーブルに運ばれる と、ナンシーは疑わし気に皿を見て「これがあなたが食べ たかったものなの?」 と尋ねました。 「缶詰の魚が?」ナン シーが疑問に感じるのはよく分かります。私自身もかつて はそうだったからです。缶詰のサバの印象はつねに、塩辛 く、不愉快な魚臭さがあり、たっぷりの油に漬けられてい るのにパサパサしている、というものでした。しかしそれ は、私が缶詰への考えを改める前のことです。  はじまりはスペインの北 西 海 岸にあるガリシア州のビ ラノーバ・デ・アロウサからでした。窓を閉めたままこの 町をドライブすると、この場 所だと気 付くことはほとんど ないでしょう。アロウサ湾に位 置し、地 元の作 家ラモン・ マリア・デル・バリェ=インクランに関する博 物 館、悪く ない海 辺の遊 歩 道、そして単 調なブロック型の工 場が多

By リサ・アベンド 全写真:Amy Kumler

39


左 上:サントーニャの 魚 市 場

「ペスカドス・パリ」で、朝のひ と仕事を終えたラファエル・ル

イス・ランサとマリー・デル・

ピラール・プラサ・ルイス。

右 上:塩 気を含んだ大 西 洋の 嵐で 濡 れたサントーニャの 通

概 念 を再 定 義しました。そして、私 のサバ の

バ・デ・アロウサ最 大の特 徴がすぐに明らか

概念も間違いなく変わりました。

になります。それらの工 場から放たれる揚げ

「私 たちは、スペインにおける先 駆 者 だっ

りの上にそびえる山と霧。

たニンニク、酢、そしてシーフードの魅惑的な

た」 と、創 設 者の孫で同 社のCEOを務めるフ

右ページ:市 場に並ぶ 地 元の

香りが、まるで香 水の雲のように街を漂って

アン・ペレス・ラフエンテは 話します。 「当 時

いるのです。

は持続可能な漁法が何を意味するのか、誰も

ガリシア沿 岸の他の町と同 様に、ビラノー

知らなかった。だが 私たちは、それが 特 定の

漁 船から水 揚げしたばかりの

タイセイヨウサバ。

バ・デ・アロウサは缶 詰 食 品を支える拠 点で

魚だけを捕 獲するということを学んだ。それ

す。スペイン語ではさまざまな意 味 が「缶」に

がサバだったんだ」

「隙間市場に

含まれていますが、ここガリシアでは 漁 業 は

その決定の背後にあるのは、世界経済の変

気付いたんだ。

主な経済活動であるだけではなく、実質的な

化は言うまでもありませんが、同時に数 世 紀

しかし、まったく 新しいシステムを 考え出す必要が あることも 意味していた」 ̶ フアン・ペレス・ラフエンテ

40

く並びます。しかし、車から降りると、ビラノー

宗教でもあり、マテガイからマグロまであらゆ

にわたるスペインの歴史があります。保存食と

るシーフードの缶詰を意味しています。それは

しての魚は、1800年代にスペインで初めて産

スペインの食 卓に欠かせないもので、海から

業 化され、漁 業の深い歴 史を持つガリシアは

遠く離 れた内 陸 地 域に運 ば れる海の味であ

その中心となりました。当初、塩と日光のみで

り、バゲットに乗 せて、簡 単で 素 朴 な 食 事 の

魚を乾燥させるシンプルな保存方法の「サラソ

源となるものでもあります。

ネス」に特化していたこの地方で、技術の進化

最近、この地域を代表していた缶詰食品に

により次第に缶詰も重要な手法となっていき

いくつかの変化が起こりました。マドリードで

ました。フアンの高 祖 父はその新しい知 識を

訪れたような、保 存 食しか提 供しないレトロ

利 用し、やがて提 供する製 品を多 様 化させ、

スタイルのタパスバーの出現も原 因のひとつ

その中に缶 詰が含まれていました。彼の子 供

です。しかし、一部では〈コンセルバス・アント

たちが成人するころには缶詰事業は好調にな

ニオ・ペレス・ラフエンテ〉のような会 社の努

り、兄 弟たちとのもめ事もあって、フアンの祖

力のおかげでもあります。2005年、同社は持

父アントニオがその事業を会社から切り離し、

続可能な漁法に転換した初のシーフード缶詰

自分で事 業をはじめました。 「残りの家 族は、

生産者として缶詰を現代に持ち込み、品質の

サラソネスを手に入れた」 とフアンは話します。




左(左 から順 に) :プ ロビジョ

ンズのサントーニャ・サバ・オ

リーブ オイル 漬 のレモンケイ

パー、スパニッシュパプリカ、

そしてロ ーストガ ーリック。ビ

スケー 湾で 釣り針と糸を使っ

て捕獲した天然魚を使用。

左下:カンタブリアにあるバー

では、缶 詰を使った 軽 食 が 含

まれています。スペ イン、サン

トーニャ付近。

アントニオのタイミング は 完 璧でした。第

かった。でも、昔からの顧 客は減っていたし、

一 次 世 界 大 戦で、スペインは中立を保ちまし

缶 詰の店も姿を消しつつあった。この家 業を

た。つまり、前線から離れた場所にあるガリシ

確 実に存 続させるにはどうしたらいいのだろ

アの製 缶 所はそのまま残り、一 方でヨーロッ

う?」その答えは、伝 統にとらわれたガリシア

パの他の多くの地 域は廃 墟と化したのです。

にとって、無 謀とも思われるほど大 胆な改 革

20世 紀 を 通して、業 界 は 成 長しつづ けまし

でした。フアン は 持 続 可 能 な 漁 業とオ ー ガ

た。 「50年代と60年代は、町全体が漁業と缶

ニック食品に転換することを選んだのです。

詰 製 造 業で 暮らしを立てていた」 とフアンは

当時、欧州連合が減少種の漁獲に対し、割

話します。 「市 庁 舎にサイレンがあり、収 穫が

当量の削 減や全 面 的な一 時 停 止さえも課し

あると鳴って、人びとに缶 詰 工 場 に行くよう

はじめていて、種の脆 弱 性に関する認 識が広

知らせていた」

がっていました。ガリシアの海岸線の多くがダ

最近では、サイレンが鳴るのは特 別な場 合

メージを受けた2002年のプレスティージュ

だけです。漁業と缶詰製造業は今でも町の主

号の原 油 流出が、その認 識をさらに高めまし

要 産 業ですが、多くの人々が大 都 市へと移っ

た。同じ時 期 に、オーガニックおよび 持 続 可

ていきました。そして機械化が進み、徐々に職

能な製品のヨーロッパ最大の消費国であるド

人 的 企 業 が 工 業 的 企 業 に変 わると同 時 に、

イツへの輸出事業を開始したばかりだったフ

大 企 業が 昔から続く家 族 経 営の会 社を買収

アンは、別のやり方を実 行する機 会になると

しはじめました。1970年 代 にガリシア 沿 岸

確信しました。 「

に並んでいた約500もの缶 詰 会 社は、1990

フアンは当時を振り返ります。 「いくつかの点

年代までに100社に減少しました。 「今では、

でそれは、私たちがつねに行ってきたことの

40か50社しか残っていない」 とフアンは話し

継 続を意 味していた。つまり、地 元 産 のもの

ます。

を利 用し、職 人 が 丁 寧 に加 工をする、という

今 世 紀の初めに父 親が他 界したとき、フア

ことだ。しかし、まったく新しいシステムを考

ンは 決 断 を迫られました。 「売 却 はしたくな

え出す必 要 があることも意 味していた。独自

間市場に気付いたんだ」 と

小さな魚を食べよう 世界的に大きな魚が姿を消す中で、その

となる小さな魚について考えてみましょう。はるかに個体数が多い小型魚は、大型魚に蓄積されるよ

うな高レベルの有害物質が含まれず、またたんぱく質やビタミンB12の優れた供給源です。味も素晴らしく、濃厚で力強い味からあっさりしたマ グロのような口当たりの良さまでさまざまな味がします。小さい魚を選ぶ説得力のある理由ばかりです。ほとんどが缶詰として販売されています が、季節によっては鮮魚店で生魚として入手できる場合もあります。• 特定の魚の漁獲量は年ごとに変化し、捕獲方法もさまざまなため、購入 前にその両方を確認することをお勧めします。自分で捕獲する方法については、patagoniaprovisions.com/catch-baitをご覧ください。

ヨーロッパアンチョビ

タイセイヨウニシン

イカ

タイセイヨウサバ

Engraulis encrasicolus

Clupea harengus

Doryteuthis (Loligo) Opalescens

Scomber scombrus

最 長35セン チ ほど に も な

先 端 か ら 尾 まで20セン チ

る、小 型 魚としては 最 大 の

多くの場 合、持 続 可 能な方

厚な風味が特徴。管理の行

たりのいい 柔らかい 肉 質。

獲。最 大 で30センチ。多 産

を 超 えることは ま れで、濃

き届いた、急 速 に成 長する 群れから責任ある漁法で捕 獲される場合もあります。 イラスト:William Miller

魚 の1つ。コクがあり、口当

法 で 管 理 され た 漁 法 で 捕

キッパー(塩漬けにし、木を

で繁 殖力があり、個 体 群 全

使ってコールドスモ ークし

た燻製)用に最適。

体が毎年入れ替わります。

パタゴニアのサバはスペイ

ンのビスケー 湾で捕 獲され

ます。最大で30センチ。たっ

ぷりとした身としっかりとし

た肉 感で口当たりもいいサ バ は、釣り針と糸 を 使って 捕 獲されているため、漁 師

は混 獲や乱 獲を防ぐことが

できます。

43


の基準を開発する必要があった」

44

について紹 介します。ホタは自身の缶 詰 工 場

〈グリーンピース〉や〈ワールド・ワイルドラ

経 営に加えて、ラフエンテのために魚 介 類の

イフ・フェデレーション〉などの組織との出会

バイヤーをしています。ホタが仕入れるタイセ

いは、コンセルバス・アントニオ・ペレス・ラ

イヨウサバは、ガリシアから東に数 時 間の距

フエンテが行った新たな手法の展開を助けま

離にあるカンタブリアで特に責任のある漁法

した。最初のステップとして、持続可能性が保

で捕獲されています。

証 される 種 に 生 産 を 限 定 することにしまし

ビスケー湾の曲線に打ち込まれたくさびの

た。ムール貝はガリシアで 養 殖されているう

ようなカンタブリアの町サントーニャは、スペ

え、じつはそのろ過メカニズムを介して水 の

インで一 番の(地 元の人によれば、世 界で一

浄 化 に 役 立 っているため、当 然 の 選 択 でし

番 の)アンチョビ の 生 産 で 有 名 な 漁 村 で す

た。そして、タイセイヨウサバ がもう1つの 選

が、サバも捕獲されています。通常3月下旬か

択でした。

ら5月下 旬 の 間、サバ が 南 下 するときにこの

タイセイヨウサバ (学名:Scomber scombrus)

海 域 で 大 量 の 群 れ を 作 るのです。その 期 間

は、遠 洋 性あるいは深 海 性の種で、主に幼 魚

中、欧州連合は捕獲可能な総量(量は毎年変

や小さな甲殻 類などの動 物プランクトンを摂

化) とサイズ(魚の体長は18.0cmを超えるこ

取しており、スパニッシュサバやキングサバと

と)、そして年齢(2歳以上)を規制します。

は異なります。食物連鎖の下位で捕食するた

同 様に重 要なのは、サントーニャでサバを

め、他 の 水 生 生 物 に大きな「フットプリント」

捕獲する方法です。 「ここでの釣りはすべて職

を残しません。それに対し、タイセイヨウクロ

人 的 だ。彼 らは 家 族 で あって 大 企 業じゃな

すくい上げる。

マグロなどの最上位にいる捕食者は、全体で

い。そして全員がコフラディアのメンバーだ」

ときには 1日に 8 0トンもだ。

1年 間 にその 海 域 のニシン資 源 の 最 大30%

とホタは説明します。コフラディアとは中世に

を摂 取する可 能 性 があります。サケのような

ルーツを持つ組織で、今日では組合と社会的

養 殖 魚でさえ、その体に450グラムを貯える

組織の両方の機能を果たし、独自のバーがあ

敬意を持って魚を扱い、

ために、最 大で2,268グラムも粉 砕して魚 粉

り、フェスティバルも行います。 「そしてコフラ

コントロールする」

にした 食 用 魚を必 要とします。 「食 物 連 鎖 の

ディアのメンバー はアンスエロでしか 漁をし

下位にいる魚を食べるということは、海により

ない」

多くの魚が残されることを意 味します」 と、オ

アンスエロは、ラインに最大で30個の釣り

ランダに拠 点を置き、ヨーロッパの漁 業にお

針が付いたもので、針にはサバが好む小さな

ける 持 続 可 能 性 を 評 価 す る 組 織〈グッド・

甲殻類に似せた赤いウール糸が巻き付けられ

フィッシュ・ファウンデ ーション〉のディレク

ています。つまり

ター 兼 漁 業 専 門 家であるクリスチャン・アプ

群れは非 常に大きく、またサバを釣るために

シルは話します。 「また、食べる魚に含まれる

はそれぞれ個体が針に食いつかなければなら

水 銀やダイオキシン、その他の有 害 物 質の蓄

ないため、アンスエロはトロール船や巾着 網

積が少ないことも意味します」

漁とは異なり、混 獲を確 実に減らすことがで

タイセイヨウサバは資 源 量が豊 富でもあり

きます。 「間 違って別の魚を捕まえるなどとい

ます。 「タラとは異なり、1つの種族しかありま

うことはない」 とホタは話します。 「網だと何も

は必要ないのです。サバの

せん」 とアプシルは話します。 「そしてそれは、

かもをすくい上げる。ときには1日に80トンも

アイスランドのように、以前にはいなかった地

だ。でも、アンスエロは 敬 意 を持って魚 を扱

域にまで拡 大を続けています。理 由ははっき

い、コントロールする。このやり方で種を絶滅

りとは分かりませんが、気 候 変 動が 関 係して

させることなど不可能だ」アンスエロはより高

いるかもしれません。良いことは、この種がさ

い品質も保証するとホタは言います。 「大きな

らなる圧力に耐えられることを意味している、

網では、底にいる魚はつぶされてしまう。糸を

という点です」

使った漁ではそれは起こらない。これより優

その回 復力の原 因の1つは、サバの捕 獲 方

れた漁法はないね」

法にあります。そこでホタという愛称で知られ

サントーニャでは、朝の5∼6時に小さな漁

るホセ・ラモン・フェルナンデス・デル・バル

船 が出 航し、巨 大な魚の群 れに出 会うまで、

「網だと何もかもを

でも、アンスエロは

̶ ホセ・ラモン・フェルナンデス・デル・バル


上:荒れた海を進む2 乗組員は、中世に

のサントーニャのサバ漁 船。

るコフラディア(組合)に属してい

ます。コフラディアは、ヘルスケアのような政 府 が 提

供する保証と同時に、漁 師への公 正な価 格を保 証し

ます。また、捕 獲のあらゆる要 素を記 録したハイレベ ルなトレーサビリティと品質をお客様に提供します。

左 下:カラフルな壁 画がサントーニャの町

を物語ります。

右 下:漁 場に向かうサバ漁 船サルバドル・

パードレ号の漁師、アドリアン・フェルナン

デスとルイス・ミゲル・フェルナンデス。

45



左 上:赤 い 糸 は、サバ には

たまらない小さな甲殻類を 模しています。 の 必 要 は

ありません。

右 上:12世 紀 に 建 てられ

たラ・コレジアタ・デ・サン

タ・フリアナ(聖フリアナ教

会)が、カンタブリアのサン

ティリャーナ・デル・マルの 町を美しく飾ります。

左 ページ:プロビジョンズ

の サ ント ー ニ ャ・サ バ・オ

リーブオイル 漬のスパニッ シ ュ パ プ リカ を 使 っ た 軽

食。アルバリーニョ・ワイン

とともに。

Thomas J.Story フードスタイリング: Karen Shinto

波の荒い海を進んでいきます。アンスエロを

要 だと話します。 「それ がジューシ ー になる

広げて海中に投じると、ラインが 数 十 匹のサ

理由なのだ」

バでいっぱいになるまでに時間はかかりませ

たしかにジューシーです。私は自宅で、ラフ

ん。それを繰り返し船に引き上げます。その日

エンテがプロビジョンズ用に特別に調理した

の 必 要 量 を捕 獲すると、船 は 町 に戻ります。

スパニッシュパプリカのサバの缶詰を開け、ス

岸壁で荷がおろされ、魚は即座に競売にかけ

プーンで中身をすくい、スライスしてトースト

られます。ここでホタは 初 めて魚と出 会 いま

したサワーブレッドに乗せます。缶に入ってい

す。購 入 後、魚 は 氷 詰 め に なって、ビ ラノー

たスパイスの効いたオリーブオイルがパンに

バ・デ・アロウサへ向かうトラックに積み込ま

染み込み、美しいエストレマドゥーラ産パプリ

れます。収 穫からラフエンテに到 着するまで

カの赤レンガ 色に染めていきます。まずは 一

の時間は、半日という短さです。

口。驚くほどたっぷりとした身としっかりとし

環 境と社 会の両 面に対する持 続 可 能 性の

た肉質の魚で、ローストした赤ピーマンとタマ

重 視は、工 場の入り口で終わりにはなりませ

ネギがほのかな甘みを引き立てます。気 付く

ん。洗って調理された魚は切り身にされます。

と私は、次の一切れに向かっています。

から水 産 養 殖で使 用される魚 粉 が 作ら

そして、それは 私 だけではありませんでし

れるため、何ひとつ無駄にはなりません。その

た。数 週 間 後、例 のマドリードのタパスバー

後、切り身は会 社が有する70のレシピの1つ

で、私は皿をナンシーに差し出しました。私た

に従って缶に詰められ、密封、殺菌されます。

ちの目の前にあるサバは、そのほとんどが 輸

驚くほど たっぷりとした身と しっかりとした肉質の魚で、 ローストした赤ピーマンと タマネギがほのかな甘みを 引き立てます。

この作 業 はすべて、ラフエンテ社に雇 用され

出されているラフエンテ製ではありませんが、

ている30人 ほどの 女 性 が 行います。 「ガリシ

ローストした赤ピーマンのフムスを乗せた素

アで は、この 作 業 は 昔 から女 性 の 仕 事 でし

朴なパンに、魚がちょうど良い肉 感と塩 気を

た」 と、品質管理を監督するモニカ・シルバは

加えています。 「意 外だけど」もう一 切れに手

話します。 「時間とともに近代化されるかもし

を伸ばしながらナンシーは、少し驚いた様 子

れませんが、今 のところはすべて私たちのも

で言います。 「美味しいわね」

のです」

こうして、缶 詰 への 改 心 者 が1人 増えたの

つまり、この 女 性 たちが 製 品 の 品 質 に 最

です。

終 的 な 決 定 権 を 持っていて、繊 細 な 取り扱 いが

となります。フアンは、魚 の 表 面 にあ

る薄 い 脂 肪 の 層 を維 持 することがとても重

リサ・アベンド。デンマークを拠点とするジャーナ リストで、過去10年間のほとんどをスペインで居 住、執筆し、食品や農業を取り上げてきた。

47



腸内微生物を 育てる

土壌や植物の健康と私たちの腸との間に 存在する隠れたつながり By エムラン・A・メイヤー医学博士

小 腸 内の大 腸 菌(紫)。人 間の

消 化 管で最も豊 富に存 在する 微 生 物 の1つである大 腸 菌 の

うち、ほとんどの菌 株 は、食 品

の消 化や、ビタミンKの生 成に 役立っている。色づけした走査 型電子顕微鏡写真(SEM)。 Stephanie Schuller / Science Photo Library

数十年にわたって 不明瞭なまま

たな注目に驚かされました。腸(ここでは胃、

無視されてきた後で、腸は科学者や医師だけ

られていたからです。腸は、私たちの免疫シス

でなく、一 般の人々にとっても非 常に関 心の

テムの最 大 部 分、多くのホルモン、95%のセ

高いテーマになりました。ほぼ一夜にして、腸

ロトニン(睡眠、食欲、痛みの感度、心的状態

の分 野で働いてきた医 師として私は、この新 小 腸、および 大 腸を指します)の独 特な実 態 は、長い間 限られた研 究 者コミュニティで知

の健 康は夕食 時の会 話で、あるいはメディア

を調 節する化 学 物 質)および、腸を中 心とす

やニューヨーク・タイムズ 紙のベストセラー

る特 殊 な 神 経 系 統 の 拠 点です。その 神 経 系

で人気のトピックとなり、ベンチャー投資ファ

統は、脳とは多かれ少なかれ独立して腸の機

ンドは腸の健 康 改 善や脳と関 連する腸 障 害

能 を制 御します。さらに、腸 は 私 たちを取り

の治 療を目的とするスタートアップ企 業に大

巻く環境との重要な接点でもあり、その表面

金を注ぎ込みました。

積は約42平方メートルと、肌の表面積よりも

過 去30年 にわたって、脳と腸 の 相 互 作 用

大幅に広いのです。 49


関 心 が 爆 発 的 に広 がった主 な 理 由は、約

は、私たちの腸もうまく機能するのです。

15年 前 の 腸 内 微 生 物 の 発 見 でした。これ

他 の 生 態 系と同 様 に、微 生 物 の 健 康 は 存

は、腸内に生 息し、私たちが摂 取する食 品か

在する種の多 様 性と量によって決まります。

ら数 千のシグナル分 子(代 謝 産 物)を生 成す

多様性が高いほど復元力も高くなり、病気へ

る数百兆もの微生物です。これらの代謝産物

の耐性が高まります。グレートプレーンズのア

を使 用して、腸 内 微 生 物 は、相 互 に、あるい

メリカバイソンやイエローストーンのオオカミ

は 腸 自 体 や 免 疫 系、肝 臓、さらに は 脳 とコ

のように、腸 内 微 生 物のある小さな集 団が、

ミュニケ ーションを図ります。微 生 物 は、食

生 態 系の安 定に特に重 要とされる中 枢 種だ

物を生 産する農 場を含む私たちの周 囲の世

と考えられています。健 全な中枢 種を含む非

界と私たちの健康とをつなぐ目に見えない存

常に多 様な腸 内 微 生 物は、最 適な腸の健 康

在です。

と関 連しており、2型 糖 尿 病、肥 満、認 知 機

これらの微生物の複雑な相互作用と、それ

能 低 下、パーキンソン病、うつ病などの慢 性

が私たちに与える影響について理解を深める

疾 患のリスクを下げるという概 念は、多くの

と同 時に、私たちは人 間の健 康に関する、根

研究で支持されています。

本 的 に新しい 考え 方 を取り入 れつつありま

多様性の低下

す。私たちは、この微 生 物 生 態 系を考 慮し患

ーーーーーーーーーーーーー

者の治 療を開 始しています。それは体内だけ ではなく、環境についても同じです。

同様に、復元力や病気への耐性は、多様性の 低下に伴って減少し、やがて転換点に達する

良い状態にある腸

50

と、些細な原因でさえ壊滅的な結果につなが

ーーーーーーーーーーーーー

る可能性が生じます。熱帯雨林やサンゴ礁を

健 康 な 腸 は、微 生 物 が 食 物を分 解する腸の

含む世界中の多くの生態系は、その方向に向

内側と、そのすぐ外側にあって体内の免疫細

かいつつあるか、すでにその転 換 点に到 達し

胞の約40%が存 在する腸に関 連する免 疫シ

ています。現 在、陸 上 動 植 物の25%、鳥 類の

ステムとの 間 にある、ぎっしりと詰まった 障

30%、魚 類の33%が 絶 滅の危 機に

エ ムラン・A・メイヤ ー 医 学 博 士 は、 消 化 器 専 門 医であり神 経 科 学 者、さ

ら にU C L Aデヴィッド・ゲ フィン・ス クール・オブ・メディスンの医学部(消

化器病科)および精神医学部の教授。 ま た、U C L A の G . O p p e n h e i m e r Center for Neurobiology of

S t r e s s a n d R e s i l i e n c eのディレ

してい

クターであり、同じくUCLAのCURE:

壁によって特 徴 付けられます。この障 壁は腸

ます。

内 微 生 物と免 疫 系との 直 接 接 触 を防ぎ、そ

土 壌の微 生 物 界と私たちの腸内微 生 物 界

セ ラ ー と な っ た 本『The Mind-Gut

れにより過 剰 な 免 疫 の 活 性 化を回 避してい

の双方には、この劇的な損失と目に見えない

ます。低度の免疫活性化、いわゆる代謝性内

類似点があります。長期にわたる連続的な作

毒血症ですら、メタボリックシンドローム、慢

付けと化学肥料の過剰使用により、世界の農

性 疲 労、うつ 病、退 行 性 脳 障 害 など、多くの

業 用 土 壌の約40%が 劇 的に劣 化し、同 時に

慢性疾患の発症に関与しています。健康な腸

土壌の生物多様性が大幅に低下しています。

には、スムーズに機能する腸独自の神経系も

同 様 に、北 米 の 都 市 に住 む 私たちの 腸 内 微

あり、ぜん動や、体 液の吸 収と分 泌を調 節し

生物は、工業化による影響を比較的受けてい

ます。

ない環境にあるアマゾン熱帯雨林のオリノコ

そのすべては、少なからず腸内微生物の生

川や東アフリカのリフトバレーに住む一 部の

態 系 の 健 全 性 に依 存します。腸 内 微 生 物 は

狩 猟 採 集 民 族 の 腸 内 微 生 物と比 較 すると、

相互に、またすぐ近くにある、免疫細胞、粘液

多様性が40%低くなっています。この変化は

およびホルモン産生細胞、腸機能を調節する

乳 児においても明らかで、残 念なことに不 健

神経細胞を含むその他の細胞と通信します。

康な食 生 活が 母から子に伝わる可 能 性を示

腸の生態系に含まれるこれらすべての関連要

唆しています。

素 間で 起こる通 常 の 相 互 作 用が、腸 の 健 康

1000種におよぶ 約 百 兆 個の微 生 物 が 腸

だけではなく、全身的な健康をも決定します。

に存在していることを考えると、数千を失うこ

つまり、体内にいる微 生 物の調 子がいいとき

とで大きな違いが生じるわけではないと結論

Digestive Diseases Research

Centerの 共 同 ディレクター。ベ スト C o n n e c t i o n(腸 と 脳)』 ( 2016年 H a r p e r C o l l i n s出 版 )は1 2の 言 語

に 翻 訳 され、現 在 メイヤ ー 博 士 は 食

生 活と腸 内 微 生 物に関する続 編を執

筆 中。メイヤ ー 博 士 の 活 動 の 詳 細 は

emeranmayer.comをご覧ください。


1 1

2 3

4 3

4

2

不健康な腸

健康な腸 1. 微生物の多様性が高く、慢性疾

3. 細 胞 バリアは、健 康 な 歯 のよう

1. 微生物の多様性が低く、慢性疾

2. 厚い粘液層が細胞バリアを保護

4. 微 生 物 は 腸 管 内 に 安 全 に 封じ

2. 粘 液 層が薄くて浸 透しやすいた

はありません。そのため、免疫細

でき、免疫細胞の繊毛が微生物

患のリスクが低い。

(同 時 に、免 疫 細 胞 の 繊 毛 が 微

生物と接触するのを防ぎます)。

にぎっしりと詰まっています。

込 められ、腸 壁 に漏 れ出すこと 胞は活性化されません。

付けるのは容易です。しかし、ニューヨーク大

患のリスクが高まります。

め、微 生 物は細 胞バリアに到 達

3. 弱く「漏れやすい」細胞バリア。 4. 微生物は細胞バリアを破って腸 壁 に移 動し、免 疫システムを活 性化します。

と接触します。

最適な食生活

ています。多様性を促すような食料生産方法

学 のヒューマン・バイオーム・プログラムの

ーーーーーーーーーーーーー

責 任 者であるマーティン・ブレイザー 博 士を

地球上の生物として、地球の健康と同様に私

を改 善するだけではなく、私たちの土 壌や海

はじめ、その他 多くの科 学 者が 警 告している

たちも個人の健康のための食生活ガイドライ

の健全性も改善できる可能性があるのです。

に変更すれば、私たち自身の微生物の健全性

ように、私たちの体内にいる微生物数が急落

ンを必要としています。これはアメリカ疾病予

しつづけるならば、胃腸感染症の世界的な流

防 管 理センター(CDC)による国 際 的で学 際

行、喘 息や関 節リウマチ、炎 症 性 腸 疾 患など

的 なワンヘルス運 動で 推 奨される考え 方で

ーーーーーーーーーーーーー

自己免疫疾患の継続的な増加、自閉症スペク

す。国 際 的 なEATランセット委 員 会 が 広 め、

ではどうすれ ば、ワンヘルスを実 践できるで

トラム障害が増加する可能性、肥満や代謝性

栄養学者の間で徐々に注目を集めているワン

しょうか?答えは比較的シンプルです。体内の

疾 患の長 期 的な発 生など、健 康 上の大 災 害

ヘルスの考えでは、最適な人間の健康は土壌

微生物に、成長するために必要なものを与え

が起こるときは迫っているのかもしれません。

と環境の健康に直接関連しており、その相互

ればいいのです。腸 内 微 生 物に良いものは、

幸 いなことに、それに代 わる道 があり、そ

関 係 は地 球で最も繁 栄している生 命 体であ

体全体の健康にも良いもので、土壌の健康に

の実行に多くは必要ありません。

る微 生 物によって媒 介されていると捉えられ

も利益をもたらす選択をすることになります。

微生物の育て方

イラスト:William Miller

51


52


微生物は、主に植物ベースの食生活を

好みます。そこに放牧で育ったオーガニッ

クの肉や鶏 肉、あるいは入 手 可 能であれ

ば 野 生 の 狩 猟 肉を少 量 加えます。野 菜、 果 物、ベリー 類、香 辛 料、根 菜など、旬の 幅 広い植 物を選び、異なるさまざまな食 物 繊 維を微 生 物に与えます。それぞれの 食物繊維は異なる種類の微生物によって 処 理されます。腸内 微 生 物はさまざまな 種類の食物繊維を処理するためにさらな る多 様 化を促され、多 様 化した微 生 物は 食 物 繊 維を健 康 促 進する分 子 に変 化さ せます。  植 物自身の 薬である、ポリフェノー ル

を多く含 む植 物を摂 取しましょう。病 気

や害虫から植物を守る巨大分子であるポ リフェノールは、特 定のベリー 類(ブルー ベリーやブラックベリー、およびリンゴン ベリーやシーバックソーンのような 北 欧 種を含む)や、ナッツ、コーヒー、紅 茶、オ リーブオイル、豆 類、赤ブドウ、赤ワイン、 スパイスに最も多く含まれています。これ らの分 子の多くは大きすぎて小 腸では吸 収されませんが、腸 内 微 生 物はそれらを 食べ、より小さくて吸収性があり、健康を 促進する分子に分解します。一方で、ポリ フェノールは腸内微生物の組成に有益な 影 響を及 ぼし、病 原 体を抑 制し、人 体 に いい微 生 物の成 長を促すと考えられてい ます。  シーフードや肉は、多価不飽和脂肪酸 や一 価 不 飽 和 脂 肪 酸が豊 富で、オメガ6 脂肪酸に対してオメガ3脂肪酸の比率が 高いものを選びましょう。複 数の臨 床 研 究で、これらの食 品の摂 取は腸内微 生 物

の多様性と組成に有益な効果があること が示されています。別の研究では、これら の 脂 肪 酸 には、炎 症 やうつ 症 状 の 軽 減、 心 臓の健 康の改 善など、さまざまな健 康 上の利点があることが示されています。ワ イルドサーモン、イワシ、サバ、ムール貝、 放し飼 いや 牧 草 飼 育 の 鶏 や 牛 やバイソ ン、野 生 の 狩 猟 動 物 は良い 供 給 源 です。 ヒトの微生物叢に適したさまざまな食品。 Thomas J.Story フードスタイリング:Karen Shinto

従 来の方 法で飼 育されている動 物は、含 有 量がはるかに低くなります。アボカド、 オリーブ、クルミ、あるいはフラックスシー 53


ドやチアシードからとれる植物性油にも、

促進したり、病気と闘ったりする分子、特

これらの有益な脂肪酸が含まれます。

にポリフェノールを生成させます。化学肥

精製された炭水化物を避け、糖の摂取

料を用いた従来の栽培方法で育てられた

を最 小 限に抑えます。白パン、白米、パス

タなど、自然の食 物 繊 維を除 去した食 品

物から受けるこの刺 激が 失われ、その結

や糖は、他の栄 養 素をあまり含まない高

果、病 気を防ぐために化 学 農 薬の量を増

カロリーな食 品で、小 腸の最 初の部 分で

やす必要が生じます。

急 速に吸 収されます。この急 速な吸 収に

肉に関して言えば、工 業 的な生 産だと

より、血 糖 値が 上 昇し、インスリンスパイ

家 畜 が 病 気であるかどうかに関 係 なく、

クが 起こります。また、これらの食 品は腸

日常的に低用量の抗生物質を家畜に与え

内 微 生 物を飢えさせます。腸内 微 生 物の

て成 長を刺 激します。このひそかな 抗 生

大部分は小腸の下部と大腸に生息してい

物質への曝露は、動物の微生物相を変化

るからです。

させ、抗 生 物 質 耐 性 菌の増 殖を招くだけ

抗 炎 症 作 用 が 知られている食 品 を 定

ではなく、私たち自身の腸 内 微 生 物の多

期 的に食 べるようにしましょう。ウコン、

様 性と相 対 存 在 量も抑 制します。抗 生 物

高麗人参、ショウガなどを食べると、腸内

質を投 与されていないオーガニック生 産

で起こる低レベルの免疫活性化を最小限

の動物の肉に変えることで、この問題を最

に抑えられます。

小 限に抑えることができます。また、動 物

発 酵 食 品を定 期 的に摂 取しましょう。

が 牧 草で飼 育された場 合、その肉はオメ

ヨーグルトや味

、ザワークラウト (酢で

ガ6脂 肪 酸 に対するオメガ3脂 肪 酸 の 含

酸味を加える簡単な酢漬けタイプではな

有率が高くなり、健康にとって有益です。

く、生きている細 菌で自然 な 発 酵を行う

従 来 の 方 法で 飼 育された肉や 乳 製 品

ブランドを選んでください)などの食 品す

の消 費 量を少しでも減らすことができれ

べてに、さまざまな 健 康 上の利 点と結び

ば、温 室 効 果ガスの排出削 減にもつなが

付けられている良性の微 生 物が含まれて

り、世 界中の動 植 物 種の多 様 性がさらに

います。ただし、ほとんどの食 品でその関

低下するのを防ぐことができます。

連性は管理下試験で明確に証明されては いません。  最 後 に、食 事 をとる 時 間 を 制 限 し ま

しょう。研究では、1日10時間以上、腸を 空にしておくと腸内微 生 物に大きな変 化

が生じることが示されています。その変化 には、微 生 物と腸の免 疫 系との相 互 作用 の低下が含まれ、慢性的な免疫活性化を 抑えることができます。

なぜ供給源が重要なのか ーーーーーーーーーーーーー

食物の生産方法と収穫方法は、食べる人

54

植 物は、収 穫 量は多いものの、土 壌 微 生

原材料の扱い方

ーーーーーーーーーーーーー

食品の調理で、体内の微生物が必要とす

る栄 養 素である食 物 繊 維やポリフェノー ルが 破 壊される可 能 性もあります。栄 養 素を損なわない簡単な方法をいくつか紹 介します。

まず、食 品を加 熱し過ぎないようにし

ましょう。熱 は、複 雑 な 繊 維 分 子を単 純 な炭水化物に分解し、精製された炭水化

物や糖と同様に、小 腸の最 初の部 分です ぐに吸収され、血糖値の急上昇や血糖値

の 健 康、食 物 の 栄 養 価、動 物 の 福 祉、お

スパイクの原因となります。この早い段階

よび環境に影響を与えます。

での吸 収は、消 化 管のさらに下 部で生 息

オーガニック農 業では、被 覆 作 物や輪 作

している微 生 物を飢えさせ、微 生 物の

などの環 境 再 生 型 農 法の実 践により、土

である食物繊維を私たちの健康に役立つ

壌 微 生 物 の 豊 かさや多 様 性 が 大 幅 に向

短 鎖 脂 肪 酸に変 換するのを妨 害します。

上します。健 康 な 土 壌 微 生 物 は、植 物 の

長時間の調理は、果物や野菜に含まれる

根と相 互に作 用し、根を刺 激して健 康を

ポリフェノールも破壊します。

アボカドトースト、 サーモンと ターメリックエッグ乗せ 1人前


Aubrie Pick フードスタイリング:Fanny Pan プロップスタイリング:Claire Mack

ターメリックが卵を鮮やかな夕

エクストラバージンオリーブ

プロビジョンズのワイルド・

秒炒めます。卵を割り入れ、数

焼けの色合いに染め、スパイス

オイル:小さじ1½

ソッカイ・サーモン(オリジナル

滴の水を加えます。塩コショウ

が 腸の炎 症を最 小 限に抑えま

ターメリック粉:小さじ½

もしくはレモン・ペッパー) :

で味 付けし、蓋をして、卵が好

す。植物由来の油脂(アボカド)

Lサイズの卵:1個

85グラム

み の 固 さになるまで3 ∼ 4分

とサケのたんぱく質 が、この朝

塩、コショウ

刻んだコリアンダー

加熱します。

食に持続力を与えます。新鮮な

全粒粉を使用した大きな

果 物やポリフェノールたっぷり

サワードーパン:スライス1枚

きたてコーヒーと一緒にお

召し上がりください。

2. パンをトーストし、その上につ 1. 小さめのフライパンを弱めの中

ぶ した ア ボ カド を 乗 せ ま す。

熟したアボカド:1/2個

火 にかけ、オリーブオイルを熱

サー モン、卵、コリアンダー の

フレーク状にしたパタゴニア

します。ターメリックを加え、数

順に重ねます。 55


Aubrie Pick フードスタイリング:Fanny Pan プロップスタイリング:Claire Mack

カリフラワーとひよこ豆の クスクス 4∼6人前

56

1. オリーブオイル大さじ3を大き

ゆっくりと熱 湯1カップ半を加

めの 鍋 に入 れ、中 火 で 熱しま

え、蓋 をして10分 間 置 いてお

す。タマネ ギ、スパイスとタイ

きます。フォークでふっくらと

たっぷりのプレバイオティクスと豊かな風味。お好みで、砕いて塩で味

ム、塩 小さじ½を入 れます。水

なるようにかき混ぜます。

付けしたアーモンドや干しブドウをトッピングしてお召し上がりください。

1/2カップを加え、しっかりと

3. 1.の鍋にカットした(手でつぶ

蓋をします。ときどきかき混ぜ

して も 可) トマト、トマト 缶 の

ながら約10分 間、タマネギが

ジュース、ひよこ豆とその汁を

エクストラバージンオリーブオ

各1個を種とヘタを取り除き、

イル:大さじ5(大さじ3と2

大きめの四角形にカット

柔らかく黄 金 色になるまで火

入れます。火を弱めてとろ火に

に分けておく)

大きめのカリフラワー:1/2個

を 通します。パプリカ、カリフ

し、蓋をしてカリフラワーが歯

タマネギ大:1/2個をみじん切り

を小房に切り分ける

ラワー、水1/2カップをさらに

ごたえを残しつつ柔らかくなる

クミンシード、ターメリック、

未調理のクスクス:2カップ

加え、強めの中火でさらに10

まで5分ほど煮込みます。

ドライタイム:各小さじ1/2

黒コショウ

分 ほど柔らかくなるまで 火 に

おろしショウガ:大さじ2 ∼ 3

400∼430グラムのオーガニッ

かけます。

シナモン:小さじ2

クホールトマトとオーガニッ

2. クスクスを中サイズの耐 熱 性

4. レモン汁を加え、パセリを加え ます(盛り付け用に少し残して おく)。塩 で 味 を調 整してくだ

お好きな赤唐辛子フレーク:

クひよこ豆の缶詰:各1缶

ボウルに入れます。オリーブオ

1 ∼ 2つまみ

レモン汁:大さじ1

イル大さじ2、粗 塩 小さじ1/2

粗塩

粗みじん切りにしたコリアンダー

と、黒コショウをミルで数回

野 菜 をの せて、最 後 にパ セリ

黄色とオレンジのパプリカ:

またはパセリ:3/4カップ

いた分量を混ぜ入れます。

を散らします。

さい。 5. クスクスを皿に分け、煮込んだ


同じ理由で、ほとんどの果 物や野 菜は

でください。乳 糖 不 耐 症 の 場 合 は、乳 製

生で食べるか、あるいは少しだけ調 理す

品 を減らすか 排 除してください。過 敏 性

が体内の微生物まで完全な状態で届くよ

る最適な食事療法からはじめます。次に、

うにします。乾 燥させた豆や他 の 豆 類 は

膨 満 感 や 腹 部 不 快 感 の 症 状 を一 貫して

るようにして、食 物 繊 維とポリフェノール

腸症候群の場合は、微生物に栄養を与え

当然調理が必要ですが、豆類は食物繊維

発 生させる食 品を注 意 深く特 定し、それ

を維持できます。

を排除します。体重に問題があり、メタボ

スムージ ーを作るときは、ジューサー

リックシンドローム(ボディマス指 数や血

で は なく、ブレンダー やフードプ ロ セッ

糖 値、脂 質 の 増 加 および 血 圧 の 上 昇) と

物や野 菜から食 物 繊 維を除 去し、糖だけ

を制限する食生活を医学的な指示のもと

を 残 すからです。これ まで 見 てきたよう

で試し、次に長 期 的な健 康のための最 適

に、糖 は 急 速 に吸 収され、私たちの 健 康

な食事療法に切り替えてください。

サ ー を 使ってください。ジュー サ ー は 果

診 断された場 合は、限られた期 間で時 間

や微 生 物に悪 影 響を与えます。果 物や野 菜をすべて混ぜ合わせると食物繊維が維 持され、糖 の 吸 収 を遅らせるため、腸 内 微生物が成長に必要とする食物を与える ことができます。  最 後に、ポリフェノールが 豊 富な食 品 は密閉して、熱や日光を避けてください。 赤ワインはしっかり密封するか、安価なも

のでよいので小 型なワイン真 空ポンプで 空気を排出します。しっかりと蓋を閉めた オリーブオイルは冷 暗 所となる食 器 棚ま

メイヤー博士の グリーンスムージー 1杯分(約1 1/4 カップ) 鮮やかな緑色をした滋養強壮ドリンク。 健 康 に良い 植 物 性 脂 肪、たんぱく質、 食物繊維、ポリフェノール、ビタミン、そ して舌をピリッと刺激する抗炎症作用 のあるスパイス(最初は少量からお試し

たはステンレススチール製の容 器に入れ て保管します。空気、熱、紫外線は特定の ポリフェノールを分解します。

体の内側および外側における 多様性への道 ーーーーーーーーーーーーー

多 様 性とは 普 遍 的 な 指 標で、ミクロとマ

クロの両レベルで生態系の健全性を示し ます。一 般 市 民 や 食 品 業 界、あるいは ヘ ルスケアシステムが気付かないうちに、世 界の急 速な工 業 化は大 変な犠 牲 が 強い られてきました。地球に存在するあらゆる 生 物の多 様 性 が 漸 進 的かつ加 速 度 的に 減少しているのです。その中には、土壌や 水、私たちの腸内に住む微 生 物も含まれ ています。この傾向に逆らう動きを見せて

食生活を見直して 病気に対処 ーーーーーーーーーーーーー

今日、膨 大 な 数 の 食 事 療 法 が、さまざま

いる種は人間と家畜、特にウシとニワトリ だけで、多くの野生種が衰退するなか、そ の個体数は増加しつづけています。  私たちの腸内微 生 物を含むこれらすべ ての生 態 系の衰 退は、それぞれ独 立した

ください)が含まれています。十分に滑

な症状や病気に対して推奨されています。

らかになるまでブレンドしてください。

残念ながら、これらの推奨事項の多くは、

に関 連しあっているという認 識 が 高まっ

厳 密な科 学 的エビデンスよりもビジネス

ています。私たちの腸 内や周 囲の環 境か

上の思惑で推進されています。しかし、セ

らすでに消 滅した種のいくつかは永 遠に

フラックスミルク(亜麻仁ミルク)  もしくはヘンプミルク:1カップ 刻んだ冷凍ホウレンソウ、刻んだ生の  ケール、刻んだコリアンダー:  各1/2カップ アーモンドバター:小さじ1 刻んだミントの葉:小さじ約2 おろしショウガ:小さじ1/2 ∼ 1 クローブパウダーと

きたての

リアック病や真の食物アレルギー、あるい

失 われた可 能 性 がありますが、何をどの

は過敏腸症候群などの胃腸疾患を罹患し

ように食べるかに関する私たちの意 識を

ている場 合は、医 学 的な指 示を受けた上

根 本 的に変 化させれば、私たちの体内そ

で、前 記の推 奨を各自に合うように調 整

して周囲でより多 様な世 界を回 復させる

してみてください。現 在、以 下のような方

ことに役に立つと期待されています。個人

法は広く知られています。セリアック病の

的 な 体 内 微 生 物 を育てるための 食 生 活

人は、グルテンを含む食 品を確 実に避け

が、地球を育てることにもなるのです。

黒コショウ:小さじ1/4 ∼ 1/2

てください。深刻なアレルギーに苦しんで

レモン汁と塩(適量)

いる場合は、貝類やピーナッツは触らない

イラスト:William Miller

現象として発生しているのではなく、密接

57


家でやってみよう

土壌に栄養を、自分自身に栄養を:

コンポストで完全循環

リサイクルはバークレーで発明されたわけではありません。地面に落ちた葉や枝が微生物に よって分 解され、新しい植 物の生 命を育む肥 沃な土 壌に変わる、自然の中で生まれたので す。家庭でのコンポスト作りの目標は、自宅のキッチンや庭から出た有機廃棄物を使って、そ の自然な循環を加速させることです。コンポスト作りをすることで、有機物を(メタンガスを発 生させる)埋め立て地に送らずに済みます。また、養 分の豊 富な土 壌 改良剤として菜 園に加 えれば、肥沃で生きた土壌となり、作物は強くて健康になります。キッチンに持ち込まれるそ れらの野 菜は、自分自身(と体内の微 生 物 )に十 分な栄 養を与え、そのサイクルは続きます。 By ミランダ・クロウェル

1. 準備

邪魔にならない位置に、0.3平方メートル

2. 層

ラザニアを作るときのようにコンポストの

3. 維持

程 度の場 所を選びます。まず、数 十リット

山を作ります。まず、30cmほどの茶 色の

らせますが、水 浸しにはしないでくださ

ルの材料を集めるところから開始します。

層からはじめ、次に緑の層を重ね、それを

い。時 間がたつと、コンポストの山の中で

定 期 的にコンポストの山に水を加えて湿

重要な材料は、乾燥した落ち葉、木片、ま

繰り返し積み 重 ねていきます。科 学 的 に

炭素に富む茶色と、窒素に富む緑色が熱

たは細断した段ボールなど「茶色」の材料

厳 密ではありませんが、茶 色と緑 色の比

を発しはじめ、最終的に分解されます。大

と、野 菜くず、コ ーヒー かす、刈り取った

率 が2:1になるようにします。コンポスト

きなガーデンフォークで山を混ぜ 合わせ

ば かりの 草 のような 湿った有 機 物 の「緑

の山が 少なくとも60cm程 度の高さにな

ます。空 気 が 分 解のプロセスを速めるか

色」の 材 料 です。臭 いのもとになったり、

るまでつづけます。臭いを防ぐために、緑

らです。時 間とエネルギ ー に応じて数 週

害虫を誘引する可 能 性がある肉や魚、乳

色 は 必 ず 覆 い 隠 すようにしてください。

間ごとに、あるいは年に2回 程 度だけ、コ

製品は避けてください。コンポスト容器に は、店で 購 入した容 器 や、代 用 的 な 物を

(時間の経過とともにコンポストが臭いだ したら、茶色を追加してください)。

ンポストをかき混ぜます。頻繁にかき混ぜ れば、約6か月で成果を見ることができま

使うこともできます(金 網でコンポストを

す。ぼろぼろと崩れ土の匂いのするこの土

作る人もいます)。

壌 改良剤を、ガーデナーは「黒い金」 と呼 びます。 狭いスペース向けのヒント:都心部でコンポストを作成する場

合は、店で購入でき、ベランダに置けるサイズのミミズコンポス

トを試してみてください。容器に食品廃棄物を入れると、虫(通 常はミミズで、オンラインショップや種苗店で購入可能)が集団

ミランダ・クロウェルは、 『 サンセット』誌の元編集

長。サンフランシスコ・ベイエリア出身で、ガーデ

ニングやホームデザイン、食について、さまざまな 出版物で執筆している。

で効率よく食べてくれます。ミミズの消化作用により、栄養に富 む植物用の土壌改良剤であるミミズ堆肥が作られます。 58

イラスト:William Miller


ニ カラ グ ア のリジェ ネラ ティブ・ オーガニック・マンゴー農場で堆肥

をチェックする〈リジェネラティブ・ オ ー ガ ニ ッ ク・ア ラ イ ア ン ス

(ROA)〉のエグゼクティブ・ディレ

クター、エリザベス・ウィットロー。 ROAでは食品における新しい高基 準の認証制度を導入しています。 Amy Kumler


a

b

c

d

e

優 れた種子

オーガニック栽培かつ責任ある方法で調達された種子は、 朝食のシリアルからスパイシーなチリビーンにいたるまで、 主食として私たちを支えます。 60

f

g


h

i

a) チアシード (フルーツ+アーモン ド・バー、72ページ) b) フラックスシー ド (ブレックファース ト・グレインズ、 (日 本未発売)) c) 大麦(粗びき、

あるいは全粒、ブ レックファースト・ グレインズ(日本未 発売))

j

d) カーンザ (ロング・ルート・ ペールエールおよび ロング・ルート・ ウィット、20ペー ジ) e) オーツ麦(ロー

ラーで伸ばしたも の、ブレックファー スト・グレインズ(日 本未発売))

k

l

f) ブルガー小麦 (セイバリー・グレイ ンズ、63ページ)

i) 大麦(殻入り、 ツァンパ・スープ、 66ページ)

g) ヘンプシード (セイバリー・シード (日本未発売))

j) ソバの実(ブレッ クファースト・グレ インズ、 (日本未発 売) ;セイバリー・ シード・スナック (日 本未発売) ;ツァン パ・スープ、66ペー ジ)

h) ブラックビーン (ブラックビーン・ スープ、65ページ)

m

k) インゲン豆 (レッド・ビーン・チ リ、71ページ) l) グリーンレン ティル(セイバリー・ シード・スナック (日 本未発売) ;グリー ンレンティル・スー プ、65ページ)

n

o

m) Kamut(カ ムット) コーラサン 小麦(セイバリー・ グレインズ、63 ページ) n) 赤キヌア(セイ バリー・グレイン ズ、63ページ) o) レッドビーン (レッドビーン・チ リ、71ページ)

Aubrie Pick フードスタイリング: Fanny Pan

61



オーガニック・セイバリー・ グレインズ 過去からの贈り物 オーガニック・セイバリー・グレインズには、もっちりし

た歯ごたえのある丸々としたブルガー 小 麦とキヌアに、 ケールまたはマッシュルーム(ポータベラ、シイタケ、ホ

ワイトボ タン)を 加 え、さらにタマ ネ ギ、パ セリ、黒 コ ショウが入っています。

4000年 に わ たり 地 中 海 で 主 食とされてきたブル

ガ ー 小 麦は、全 粒 小 麦を使 用し、湯 がいてから乾 燥さ せて粗びきにしているため、すばやく調 理が可 能。オー

ガニックの精 製 小 麦と、1930年 代にエジプトからアメ

リカに持ち込まれた黄 金 色で粒の大きな古 代 品 種、カ ムット・コーラサン小 麦を混ぜて使用しています(伝 説

によると、この穀物はツタンカーメン王の墓で発見され

たそうです)。モンタナ州の農家ボブ・クインは、より広

範なアメリカの市 場にコーラサンを広め、カムット (古

代エジプト語で「小 麦」)の商 標を加えました。これによ

り、穀物が元の株から作られたもので、異種交配による ものでも、遺伝子組み換え作物でもなく、有機的に栽培

されていることを保 証します。もう1つの古 代 穀 物であ るキヌアはアンデス原 産です。小さなレンズ 型 の 種 子

で、独特のプチプチ感と、豊富な食物繊維や植物ベース のたんぱく質など強力な栄養素を加えます。

オーガニック・セイバリー・グレインズを調理すると、

ふっくらと軽い仕 上がりになります。優れた栄 養 源で、 一日摂取量(下記を参照)は食物繊維で43%、ビタミン Dでは100%です。さらに1袋に16グラムのたんぱく質

も含まれます。すぐに準備できるこのグレインズは、その

まま食べることも、野菜や肉や魚と合わせて満足感のあ

る一皿にすることもできます。

2種類のフレーバー:

グリーンケール、マッシュルーム。1袋2食分。¥842(税込)

一日摂取量の具体的な意味は? 「% DV」 という記 号、つまり一日摂 取 量に占める割 合とは、平 セイバリ ー・グ レ インズ(マッ

シュルーム)を作り、ソテーした

ブラウンマッシュルーム(フレッ シュタイム 少 々と玉 ねぎも)を

トッピングしました。 Aubrie Pick

フードスタイリング:Fanny Pan

プロップスタイリング:Claire Mack

均 的な人が1日に必 要とするその栄 養 素の総 量に対して、1食

分が占める割 合を示しています。 (「平 均 的な人」 とは、1日あた

り2,000カロリーを摂取する人と定義されます。)例えば、1食 あたりの栄養が5%DV以下であれば低いと見なされ、20%DV 以上は高いと見なされます。

※日本では、厚 生 労 働 省が 定める「日本 人の食 事 摂 取 基 準」に基づい て1日の栄養摂取量の目標値が示されています。オーガニック・セイバ リー・グレインズの場 合、一日目標 量に対し食 物 繊 維で29%、ビタミ ンDでは一日目安量の118%となります。

63



オーガニック・スープ 温かくて栄養豊富な植物ベースの食事を 1杯のボウルで 悪 天 候 下で屋 外にいるときや、落ち込んだ気 分で家に

いるときには、湯 気を立てた温かい1杯のスープほど効 果的なものはありません。プロビジョンズのスープは植 物 ベース100%で、オーガニック栽 培された遺 伝 子 組

み換え不 使用の全 粒 穀 物と豆 類、野 菜を使用し、幾 重

にも重なる味わいと豊 富な栄 養を提 供します。穀 物と 豆類は調理してから乾燥させているため、数分ですぐに

食べられる人 工 的な原 材 料や保 存 料を含まない「ファ

スト」フードです。豆類やレンズ豆は形を残したものとす

りつぶしたものを組み合わせているので、自家製スープ

のような素晴らしい食感と新鮮な風味を保っています。 軽 量 で 保 存 性 が 高く、ハイキング などに 重 宝します。

キッチンの棚に常備する保存食としても便利で、手早く

ランチやディナーを作ることができます。

ブラックビーン・スープとグリーンレンティル・スープ スイートコーンがたっぷり入ったスパイスの効いたオー

ガニック・ブラックビーン・スープと、心和ませるオーガ

ニック・グリーンレンティル・スープの美味しさもさるこ

とながら、その存 在にはもっと深い理 由があります。ど ちらもマメ科植物を主原料にして作られており、自らや

他の植物が栄養として利用できる形での窒素「固定」を 助けることで、枯 渇した土 壌を再 生させるのです(詳 細

は15ページを参照)。黒いんげん豆や緑レンズ豆のよう なマメ科 植 物は、リジェネラティブ・オーガニック農 法

の重 要な要 素で、私たちは生 産するすべての食 品に関

して、この最高基準を追求しています。

オーガニック・ブラックビーン・スープと

オーガニック・グリーンレンティル・スープ。 1袋2食分。¥842(税込)

上:新鮮なホウレンソウとレモンを加えたオーガニック・

グリーンレンティル・スープ。

下:コティヤチーズ、刻んだ赤タマネギ、アボカド、コリ

アンダーを加えたオーガニック・ブラックビーン・スープ。 Aubrie Pick フードスタイリング: Fanny Pan

プロップスタイリング: Claire Mack

65


1987年、モンタナ州ベアトゥース

山脈でオリジナルのツァンパミック

スを調理するイヴォン・シュイナー

ド。ヒマラヤのツァンパに近づける ため、彼 は 数 十 年 にわたり、大 麦 を含 むさまざまな 穀 物を焙

し、

乾 燥 させ た 野 菜 スープ を 加 え た

ミックスを作ってきました。やがて

そ れ が オ ー ガ ニック・ツァンパ・

スープへと姿を変えました。イヴォ

ンのお 気 に 入りのトッピング:エ

クストラバージンオリーブオイル、

ワイルドサーモン、すりおろしたパ

ルメザンチーズ(伝統的なチベット

のトッピングであるヤクバター の 代わりになります)。

ツァンパ・スープ 1970年 代、パタゴニアの創 業 者イヴォン・シュイ

ナードはネパールのシェルパたちから、ヒマラヤの

を支えてきました。

た。 「あらゆる食 べ 物 の中で 最 高 のものだと感じ

たプロビジョンズのオーガニック・ツァンパ・スー

パワーフード、ツァンパについて初めて教わりまし

ヒマラヤのツァンパからインスピレーションを得

た。ヒマラヤへの 旅 に出る前よりも健 康 になって

プは、発 芽させ、 った全 粒 大 麦とソバの実を混

ヒマラヤの文化と料理の中心にあるツァンパは、ま

ン、ケ ール、マッシュル ームを加えています。この

帰ってくるほどだった」 とシュイナードは話します。

ず 発 芽させ、次に

ってから叩いて粉にする山の

大麦です。多くの場合、お茶と混ぜてからボール状

に丸めることで、栄 養 価 が 高く、携 帯に便 利 な軽 66

食となり、何 世 代にもわたって登 山中のシェルパ

ぜ、さいの目に切ったタマネギ、ニンジン、ピーマ

スープだけでもエネルギー源となりますが、パタゴ ニアのワイルド・ソッカイ・サ ー モンやその 他 の

トッピングを加えるベースとしても最適です。

オーガニック・

ツァンパ・スープ。

1袋2食分。¥842(税込)

右ページ:Aubrie Pick フードスタイリング:Fanny Pan プロップスタイリング:Claire Mack

Rick Ridgeway


ほぐしたワイルド・ソッカイ・

サ ー モン レモン・ペッパ ー、 刻んだパセリ、オリーブオイル

を加えたオーガニック・ツァン パ・スープ。



ツァンパ・ヴィネグレットの ケールとニンジン・サラダ

カーボロネロ(黒キャベツ)

この 創 造 性 豊 か な サラ ダドレッシン グ は、プ ロ サ ー

粗塩:ひとつまみ

ファ ー で あり、湘 南 で ケ ー タリン グ 業 とグ ラノ ー ラ

エクストラバージンオリーブ

ショップ〈Natural Law〉を経 営する大 野ヒロフミ氏に よるレシピです。カリっとした食感とスパイス、そして純 粋なうま味がケールサラダをまったく新しい料理に感じ させます。まず最初にヴィネグレットを作り、サラダを用 意するあいだ水分を吸収させてください。

(中サイズ):1 束 カーリーグリーンケールもしくは  紫ケール(中サイズ):1 束

オイル:小さじ 2 ニンジン(中サイズ):1 本  (皮をむいて荒い細切れに) ツァンパ・ヴィネグレット(右の  レシピを参照) ケールの葉の柔らかい部 分を固い 芯からちぎり取り、水で洗って水気 を切ります。適当に刻んでから大き めのボウルに入れます(ゆるめに入 れて約2リットルの容 量になってい るは ず で す)。塩 を 加 え、オイル を

ツァンパビネグレット 約 1/3 カップ分

オーガニック・ツァンパ・スープ:  大さじ山盛り 2 オーガニック・グリーンレンティル・  スープ:大さじ山盛り 2 レモン汁:大さじ 2 エクストラバージンオリーブ  オイル:約 ¼ カップ お好みで塩 上 記 の 材 料 を 小 さな ジャ ー に 入 れ、5分 以 上 寝 か せて 少し 水 分 を 吸 収させます。オイルを加え、蓋を したらジャー を振って混 ぜ 合 わせ ます。味 見をし、レモンや塩をお好 みで加えてください。

かけて、しんなりするまで2分 間 ほ ど手で葉を揉みます。ニンジンを混 ぜ 合 わせ、ヴィネグレットを振りか

左ページ:Aubrie Pick フードスタイリング:Fanny Pan プロップスタイリング:Claire Mack

けます。

23キロメートルにおよぶ

スキ ーでのアプロ ー チの

あと、オ ーガニック・ツァ

ン パ・スープ で 温 ま る ス ティーブ ン・トレント。カ

ナディアンロッキーのブリ ティッシュコロンビア州と

アルバータ州の州 境 付 近

に あ る ス タン レ ー・ミッ

チェル・ハットにて。 Austin Siadak

69



救 世 主 の チリ キッチンの棚から伸びる救いの手 実話:お腹を空かせた大勢の子供とその親たちに食事

を用 意すると約 束したことを、夕食の30分 前に思い出

した 私 たちは、そ の2分 後 には 湯 を 沸 かし、チェダー

チーズを細かく切って、タマネギを刻んでいました。そ れからオーガニック・スパイシー・レッドビーン・チリ数

袋を鍋に開け、15分で夕食の準 備を整えたのです。食 事のあと、 「 素晴らしい自家製チリ」のレシピについて聞

かれました。

しかし、このチリが助けるのは、忘れっぽい料理人だ

けではありません。主な原材料である豆は、植物として

成 長するにつれて、土 壌に栄 養 素を届けます。じつのと

ころ、マメ科 植 物は、大 気 中の窒 素を天 然の窒 素 肥 料 に変換できる数少ない植物の1つです。根に存在する共 生 細 菌の助けを借りて、化 学 肥 料を必 要とせずに植 物

の成長を促します。

2種類のフレーバー:

オーガニック・レッドビーン・チリ、オーガニック・スパイシー・

レッドビーン・チリ。1袋2.5食分。¥928(税込)

チリの5変化

2種類のレッドビーン・チリはどちらも簡単に 他の料理にアレンジ可能です。

おすすめ:

ビーフ+ビーン・タコス:規定の半量の湯で濃厚なチリを作り、 炒めた牛ひき肉と混ぜ合わせます。タコシェルの中に盛り、みじ

ん切りにしたタマネギを加えます。

レッドビーン・ディップ:12オンス(355ml)缶 の エ バミル ク

(無糖練乳)を温め、コーンスターチ大さじ2とみじん切りにした

ニンニク少々を加え、お好みのホットソースを足して、とろりとす

るまで煮詰めます。チェダーチーズを加えて溶けるまで混ぜ合わ せ、調理済みのチリビーンを混ぜ入れます。

オーガニック・レッドビーン・チリ。細かく削っ

たチェダーチーズ、サワークリーム、小口切り にしたワケギ、味 付 けしたバイソンのひき肉

(タマネギのみじん切り、オレガノ、スイートパ

プリカ、塩、コショウを加えてきつね色になる

まで 炒めてあります)のトッピングとともに。

コーンブレッドが付け合わせに最適。

Aubrie Pick フードスタイリング: Fanny Pan

チリ・マカロニチーズ:レッドビーン・ディップと調理したマカロ

ニを混ぜ合わせます。

ベジ・チリ・ナチョス:コーントルティーヤの上にチリビーンを

スプーンでかけ、チーズ、刻んだ青ねぎ、サワークリーム、スライ スしたハラペーニョ唐辛子、そしてコリアンダーを散らします。

チリ・ドッグ:パンに挟んだブラットブルストやキィエルバサなど

お好みのソーセージの上にチリビーンをかけます。

プロップスタイリング: Claire Mack

71


オーガニック・フルーツ+ アーモンド・バー 責任ある方法で材料を調達した万能スナック パタゴニア プロビジョンズのバーは、マンゴー、アプリ コット、バナナ、バオバブなどオーガニックの多 年 生フ ルーツに、ローストアーモンド、チアシード、果汁を加え て作られています。人 工 甘 味 料、保 存 料、化 学 調 味 料、 遺 伝 子 組み換え原 料、食 物 繊 維 粉 末あるいはたんぱく 質 粉 末などは含まれていません。最 高 品 質のフルーツ とアーモンドだけを、すっきりとした携 帯 用スナックに 詰め込みました。サイドポケットに収まるサイズなので、 汗をかくランニングでも、凍えるなかの登山でも、足 手 まといにはなりません。  バーの原料となる多年生植物は、一年生の作物とは 異なり、毎 年同じ場 所に残ります。よく発 達したその根 系は土 壌の組 成に有 益で、保 水 性を高め、侵 食を防ぎ ます。炭素の隔離も行うので、気候変動との闘いに役立 ちます。自然の中で育つ植 物のほとんどは多 年 生です。 私たちのバーは、自然に営まれているやり方をサポート しています。

4種類のフレーバー:

アプリコット+アーモンド、マンゴー+アーモンド、 インカベリー+アーモンド、カカオ+マンゴー。

1本35g、¥345(税込)。12本入り、¥3,974(税込)

バーをさらに上げる 新 製 品のカカオ+マンゴー・バー

は、太 陽 光を利用して乾 燥させた

ローザ・マンゴーと砕いたカカオ をブレンドしたバーです。完 熟 バ

ナナの深みある味わいとアーモン

ドのカリっとした食 感を加えまし

た。マンゴーとバナナは 厳 格 なリ

ジェネラティブ・オ ーガニック認

証を取 得。この認 証は、食 品 生 産

路 上でおやつタイムを

て、土壌と労働者と動物の健康を

ビンダー。テキサス 州

において相互に関連する分野とし 重視し、その保護を行っています。

72

取るスティーブ・ファス Andrew Burr



陸や海から得られた

オーガニック・アプリコット+

オーガニック・マンゴー+

オーガニック・インカベリー+

オーガニック・モロカイ・ハニー

サントーニャ・サバ・オリーブオイル漬

サントーニャ・サバ・オリーブオイル漬

サントーニャ・サバ・オリーブオイル漬

ワイルド・ソッカイ・サーモン

ワイルド・ソッカイ・サーモン

ワイルド・ピンク・サーモン

パシフィック・ノースウェスト・

ムール貝・オリーブオイル漬

アーモンド・バー

ローストガーリック

レモンペッパー・

74

アーモンド・バー

レモンケイパー

アーモンド・バー

スパニッシュパプリカ

ワイルド・ソッカイ・サーモン (2020年冬発売予定)

(2020年秋発売予定)

オリジナル

スモーク


地球を再生する食品

ムール貝・オリーブオイル漬  レモンハーブ

レッドビーン・チリ

スパイシー・レッドビーン・チリ

オーガニック・

ロング・ルート・

ムール貝・オリーブオイル漬

オーガニック・セイバリー・グレインズ

オーガニック・セイバリー・グレインズ

ロング・ルート・

ソフリット

オーガニック・

グリーンケール+カムット

マッシュルーム+カムット

ペールエール

ウィット

私たちは、 故 郷である 地 球を救うために ビジネスを営む。 全製品は、 オーガニック・

ツァンパ・スープ

オーガニック・

ブラックビーン・スープ

オーガニック・

グリーンレンティル・スープ

patagoniaprovisions.jp

をご覧ください。

Thomas J. Story フードスタイリング:karen Shinto

75


「 牛は、1 5 ∼ 2 0 世 紀にわたって飼

「 真 夜 中を過 ぎても… 立ったまま

「『食事』を食べてください。…食事

「自然の世 界は修 正や改 善が 必 要

ら大丈夫かもしれないが、グレート

た6人の若い乗組員は、小さなボー

いっぱいにする以 上の意 味があり

果 を分 析して解 釈していくべき場

いならされてきた肥 沃な農 場でな

眠ってしまいそうなほど疲 れ 果て

プレーンズでは、まるでピンヒール

トの中央に何時間も立ちつづけ、ア

いるかのような、つねに戸 惑い、お

光の中で、蜂蜜を塗ったかのように

を履いた人が牧 草 地を通り抜けて ぼつかなく見える」

‒ダン・オブライエン著『 Buffalo for

the Broken Heart: Restoring Life to a Black Hills Ranch 』

し、数 百 種 類もの貝類 が 生 息して います。私たちはそのうちの数種類

しか食べておらず、栽培可能なもの

のうち、ほんの一部を栽培しはじめ

たばかりです。自分 がシェフで、今

ま で に 一 度 も 調 理 し たことも 味

ます。食 事は人 間 固 有の慣 例であ

ラスカの 明 け方 のバター のような

り、私 たち自身が その 言 葉 を進 化

穏やかな海から引き上げた網から

です」

魚を外している。サケが板張りされ

ていないアルミニウムの 船 体 に当

たって、ビチャリと湿った音を立て

る。それは、眠 気を気にするには美

「 海 には 1 万 を超える植 物 が 存 在

を 共 有 することは 、たんにお 腹 を

しすぎる光景だった」

‒マーク・カーランスキー著

『 Salmon: A Fish, the Earth, and

the History of Their Common Fate 』

させ、食文化と呼ぶようになったの ‒マイケル・ポーラン著『 In Defense

of Food: An Eater’s Manifesto

(ヘルシーな加工食品はかなりヤバい

―本当に安全なのは「自然のままの食 品」だ)』

「 私たちが 野 生 魚を食 べつづける としたら、市 場で 野 生 魚 を区 別 す る方 法を新たに見つけなければな

らないことになると言っておこう。 「問題の根幹は、私たちの商品に対

野 生 - 魚という二 語 からなる言 葉

する 意 識 です。そ れ がどこから来

は、魚をまず野 生 生 物として、次に

付いたと想 像してみてください。ト

どなく、個性もない標準化された商

示している。野 生 魚は、私たちの食

スなどを初 めて発 見したようなも

絶です。そのせいで、農 家は自分た

のでは 断じてない 。… 慎 重 に漁 を

わったこともない野 菜 が 世の中に

は数 千 種も存 在していることに気

て、どこに行くのかの情 報がほとん

食べ物として理解していることを暗

料となるためにこの世にやってきた

ウモロコシやルッコラ、 トマト、レタ

品の購 入と販 売によって生じる断

のです」

ちが 食 物を栽 培していることを忘

し、感 謝 の 気 持ちを込めて食 べな

‒ブレン・スミス著『 Eat Like a Fish:

れてしまいます。また消 費 者も、食

My Adventures as a Fisherman Turned Restorative Ocean Farmer 』

べているものが 農 場から来ている

ことを忘れてしまうのです」

‒ポール・グリーンバーグ著『 Four Fish: The Future of the Last Wild Food(鮭鱸鱈鮪 食べる魚の未

‒ボブ・クイン、 リズ・カーライル共著

『 Grain by Grain: A Quest to

ければならない」

来)』

Revive Ancient Wheat, Rural Jobs, and Healthy Food 』

言葉を味わう 76

な 場 所 だろうか 、それとも観 察 結

所なのだろうか。あるいは、人 間は

驚くほど複 雑で脆 弱 なシステムの

一部にすぎないのか、それともそん

な自然 界の司令 官のような存 在な

のか。本 書に登 場する農 家は観 察

者であり、自然の声に耳を傾け、コ

ントロールしようとはしない」 ‒ダン・バーバー著『 The Third Plate: Field Notes on the Future of Food

(食の未来のための フィールドノート:

「第三の皿」を目指して)』


「科学者の間では、地球にとって好

「 私は何 度か刑 務 所や千もの集 会

類 によりもたらされる新たな 地 質

を通して、強固な力に立ち向かうた

ましい 完 新 世の 時 代 が 終 わり、人

時 代 、人 新 世 に移 行したと幅 広く

に行ったことがあります。その経 験

めのツールを私たちは 持っている

意 見が 一 致しています。つまり、初

と信じるようになりました。… 本 書

星における生 命システムの将 来 的

ではなく、積 極 的 な 関 与 の中にい

めて1つの種である人類が、この惑

を読んだ方には、著 者 が 絶 望の中

な 健 全 性と生 存 に影 響を与え、さ

ることを知っていただきたいので

るのです」

‒ビル・マッキベン、 『 Falter: Has the Human Game Begun to Play Itself Out? 』

らにはそれを決 定する可 能 性があ ‒チャールズ・マシー、 『 Call of the

Reed Warbler: A New Agriculture, A New Earth 』 「 ほとんど酸 素 が 存 在しない 暗 闇 の世 界たる人 間の腸 内には、1 0 0

す」

「地球の表面に立つとき、私たちは

微生物の巨大な地下王国の上に 立っているのです。微生物がいなけ

兆 を 超 える 微 生 物 が 生 息 してい

れば、私たちが認識しているような

細胞の数にほぼ匹敵する。つまり、

かな 裏 庭 にさえ 、小さな 生き物で

る。これは 赤 血 球を含めた人 体 の

生 命 は 存 在しません 。私 のささや

人体の内部や表面に存在する細胞

あふれる巨 大 な 暗 い 海 のように、

あることになる」

のすぐ足元で、どれほど多くの営み

の1 0 %だけが、人 間由来のもので ‒エムラン・メイヤー、 『 The Mind-Gut Connection: How the Hidden Conversation Within Our Bodies Impacts Our Mood, Our Choices, and Our Overall Health(腸と脳 ― 体内の会話はいか

にあなたの気分や選択や健康を左右

するか)』

数 兆もの 微 生 物 が 存 在します。私

が行われているかを考えると、私は

そこに立っているだけで軽い船 酔

いさえ感じます」

‒クリスティン・オルソン、 『 The Soil Will Save Us: How Scientists, Farmers, and Foodies Are Healing the Soil to Save the Planet 』

「自然 が 複 雑かつ安 全に創 造する 一 方で、私たちは単 純かつ危 険に 創造する」

‒ウェス・ジャクソン、 『 Consulting

the Genius of the Place: An Ecological Approach to a New Agriculture 』

「都市を拠点とする素人の狩猟採集生活は……簡単ではない。流し 網 漁 船を混み合う地 下 駐 車 場にとめたり、高 層マンションでカニの

内蔵を捨てる場 所を探したりできるだろうか。干 潟の泥の匂いをさ

せ、ナミガイを入れたバケツを引きずりながらエレベーターに乗り込

めば、隣人は後ずさって壁に背を付け、目に恐怖を浮かべるだろう」 ‒ディラン・トミネ著『 Closer to the Ground An Outdoor Family's Year On The Water, in the Woods and at the Table 』

「私たちは地球温暖化を避けられないものとしてではなく、変化を築

き、革新し、そして達成するためのきっかけと捉えています。その変化

は、創造性や思いやり、そして才能を覚醒させる道のりでもあります。

これはリベラルでも、また保 守 的な議 題でもありません。これは人 類 の議題なのです。」

‒ポール・ホーケン (編集者)著『 Drawdown: The Most Comprehensive

Plan Ever Proposed to Reverse Global Warming 』

Thomas J. Story

77


より良いパッケージへの 取り組み 私たちにはパッケージの課題があります。 現在行っている取り組みをご紹介します。

パタゴニア プロビジョンズで 作られるすべ

たちのような企 業にとって、重 要な問 題だと

たちに食品パッケージの再開発を依頼し、提

ての食品は、環境を修復する方法で調達され

認 識しつつ誰も口に出したくない、つまり皆

案されたソリューションは、私たちが 現 在も

ており、私たちはその成 果を誇りに思ってい

それに気づいているのに見て見ぬふりをする

研究をつづけている複数のアイデアの源とな

ます。しかし、同 様 に高 い 基 準を満たすパッ

りました。再利用可能な容器や海藻から作ら

ではな ぜ 私 たちは、堆 肥 化 が 可 能 な パッ

れたフィルム、微生物用の栄養増強剤を加え

より長い道のりとなっています。

ケージを使わないのでしょうか?いくつかの

てより早くパッケージの分 解が進むようにし

私たちの食品はどれも保存期間が長く、そ

理由があります。米国で使われる堆肥化可能

た生 物 分 解 性のパッケージ、他にも多くのア

のほとんどがしなやかな袋やスリーブに収め

なパッケージのほとんどは、遺 伝 子 組み換え

イデアがあります。

られています。食品の品質維持と安全性を最

(GMO)コーンから作られています。現在のと

ま た、パ タゴ ニ ア は、堆 肥 化 可 能 な パッ

優先するため、酸素と水分の侵入を防ぐ素材

ころアメリカでは 義 務 化されていませんが、

ケ ー ジ の 製 造 に 力 を 注 ぐ 業 界 団 体〈One

を使 用しなければなりません。どちらも食 品

私たちはGMO商 品 にラベルを付 け、口にす

Step Closer to Organic Sustainable

をすぐに劣 化させてしまうからです。例えば、

る食品や購入する製品に何が入っているかを

Communities(OSC2)〉の主 要メンバーで

酸 素はフルーツ+アーモンド・バーを茶 色に

消費者が見分けられるようにすべきだと考え

もあります。この春、OSC2は、フィルム製 造

変色させ、乾燥させます。水分はスープミック

ています。従って、GMOの堆肥化可能なパッ

業 者 、食 品 製 造 業 者、流 通 業 者、小 売 店 、

スが 固まってしまう原 因になります。食 品 業

ケージは私たちにとって選択肢とはなりませ

消 費 者、廃 棄 物 管 理 会 社を含むパッケージ

界 全 体で最も広く使用され、私たちも使って

ん。その他の堆肥化可能な選択肢を試してみ

チェーン 全 体 の 関 係 者 を 対 象 に、この 種 の

いる最も効率的なフレキシブルパッケージの

ましたが、従来の素材と同じ遮断性能や密閉

試みとしては初となる革 新 的なワークショッ

素材は、複数の基材を貼り合わせて作られる

力がありませんでした。食 品 業 界にいる仲 間

プを共 同 開 催します。ペプシコのような大 手

フィルムです。一般的には、パッケージデザイ

の中には、これらの非GMOの堆 肥 化 可 能な

企 業が参 加 登 録 済みで、このワークショップ

ンを印 刷することもできる耐 熱プラスチック

代替製品を賞賛して採用した企業もありまし

がどこにつながっていくかを見るのが楽しみ

です。湿気と酸素を遮断するために非常に薄

たが、その結 果、製 品が保 存 期 間テストを通

です。

いアルミニウム層でコーティングし「金属化」

過しなかったり、棚から軽く落ちただけです

一 方 で 私 たちは、他 のOSC2企 業と共 に

させたもの、あるいは穴 が 開きにくく密 封 可

ぐに破損して開いてしまうことがありました。

知識や購買力を出し合い、また新たな素材の

能なプラスチックなど、その他 数 種 類のプラ

78

「部屋の中のゾウ」なのです。

ケージ素 材を見つけることは困 難な挑 戦で、

テストを行って多くの前進を遂げてきました。

スチックもあります。

進むべき道

残念ながら、リサイクル工場では単一基材

その代わりに私たちは、製 品ごとにより適し

の 物しか 受 け 入 れ な い ため、私 たちの パッ

たソリューションを見つけることに努力を傾

最高となる基準は、家庭で堆肥化可能なパッ

ケージ は 該 当しません。また、従 来 のプラス

けました。しかし、それには 時 間 が かかりま

ケージです。すべての自治体が堆肥化を実行

チックで作られているパッケージは、堆 肥に

す。数年にわたり私たちは、カリフォルニア大

しているわけではないからです。また、産業堆

することもできません。つまり、分 解されるの

学 バークレー 校 ハース・スクール・オブ・ビ

肥化の規則は地域ごとに異なるため、消費者

これまでの歩み

に数百年かかる埋め立て地に行くか、海の中

ジ ネ スで、パ タゴニア・ケ ース・コンペ ティ

が何をどのように堆肥化すべきかを正確に知

に流れ出るということです(2050年までに、

ションを後 援してきました。世 界中の大 学 院

ることは困難です。

海では魚よりもプラスチックが 多くなる可 能

生が 競いあって、当社が 克 服したいと願って

そこで、ここ数年にわたって私たちは、さま

性があると予測されています)。あらゆる面に

いる持 続 可 能 性を阻む障 害の解 決に挑みま

ざまな非GMOの堆 肥 化 可 能なフィルムを調

おいて責任ある食品生産に取り組んでいる私

す。2019年は、これらPhDやMBAの候補者

べてきました。最 も有 望 な 素 材 の1つは、透


左から時計回りに:ユーカリパ

ルプで 作られたスパイス用 の

NatureFlex™フィルムの 袋、

フルーツ+アーモンド・バーで

使 用 す るNatureFlexと 貼 り 合 わせた、薄 い 金 属 加 工 を施

した非GMOのバイオフィルム 1巻、スープ用に金属加工を施

したバイオフィルムの試作品。 Thomas J. Story


パッケージ用語集 基材:パッケージを構成する1つの層。 ポリマー:長 い 鎖 のように連 なる小さ な分 子で構 成される素 材。そのほとん どは 合 成(プラスチック)ですが、植 物 から製造することも可能。 金属化:微生物による分解が可能にな るように、厚さがわずか0.数ナノメート ル(1億 分 の 数 センチ)のアルミニウム 層でコーティングした素材。 NatureFlex ™:登 録 商 標のあるバイ オプラスチックで、ユーカリパルプから 製造、家庭で堆肥化可能。 生物分解性:製品が生きている微生物 によって二 酸 化 炭 素、水、土 に 分 解 さ れること。 再 生 可 能:化 石 燃 料 からではなく、植 物から製造。 バイオベース含有率:植物由来の素材 がどの程 度の割 合で含まれているかを 示すUSDA認証。 産業堆肥化:パッケージは産業施設内 で12週 間 かけてばらばらに生 物 分 解 され、重 金 属 のテストに合 格しなけれ ばならない。また残 留 物は生 態 毒 性テ ストに 合 格 する 必 要 が あり、温 度、湿 度、空気の流れは管理される。 家庭で堆肥化可能:産業堆肥化と同じ テストが用いられるが、期間は6か月以 上となり、周囲の環境は管理されない。

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明なNatureFlex ™で、これはセロハンのよう

NatureFlexにそれを貼り合 わせました。驚

な見た目で、カサカサした音を立てるユーカ

いたことに、その薄さなら、微 生 物 が 分 解 可

リパルプから作られた耐酸素性フィルムです。

能だったのです。しかし残念ながら、すべての

実 際、NatureFlexは、1908年 に 木 材 パ ル

層を組み合わせたフィルムは厚すぎて、充 填

プから発 明され、キャンディーの包 装に使わ

機を効率的に通過させることができませんで

れたオリジナルのセロハンにとてもよく似て

した。

います。ただし、セロハンは非 生 物 分 解 性 ポ リマーでコーティングされて、湿 気の遮 断や

今後の見通し

ヒ ー ト シ ー ル を 可 能 に し て い ま し た。

一方で私たちは、別の有望な素材の研究もつ

NatureFlexの 利 点 は、完 全 に 堆 肥 化 可 能

づけてきました。今はまだその正 体を明かせ

なポリマーでコーティングされていることで

な い、植 物 由 来 の 非GMOポリマーで す。金

す。これは、私たちにとって最初のゼロウェイ

属 加 工 を 施 したNatureFlexよりも30%薄

ストのパッケージであり、魅力的な循 環 性を

い素 材です。高い期 待を抱きながら、この素

備えています。ユーカリは持 続 可 能な方 法で

材をテストに加えました。

管理された農園から供給され、パッケージ自

しかし、新しい 問 題 が 発 生したのです。フ

体は分 解されて土に戻っていくのです。新し

ルーツバーの包 装では閉じ合わせた箇 所が

いスパイス製 品シリーズでNatureFlexを使

開いてしまうことがあり、スープの袋は伸びた

用し、中身を詰めた個 包 装のスパイスを、再

り、しわが 寄ったりしがちです。そこで今 は、

生紙で作られた箱に収めます。

フルーツバーの包装では閉じ目の幅を広げて

しかし、NatureFlexにも課題があります。

機 械で挟みやすくし、スープ用には新しい充

パッケージを密閉するための圧着箇所は、家

填機を構築しています。さらなる方向転換で、

庭で堆 肥 化 可 能の認 証を受けるには厚すぎ

さらに時間がかかります。しかし私たちは、決

る可 能 性があります。テストの合 格は楽 観 視

意に満ちていますし、パートナーたちも同 様

していますが、さらに何回かの試 行が必 要に

です。

な る か もし れ ま せ ん。ま た、こ の タ イプ の

機 械 の 問 題を解 決した後 は、保 存 期 間 の

NatureFlexフィルムはインクを吸 着しない

テストを開始します。これには数か月かかりま

ため、州 法で義 務 付けられているようにパッ

す。次に、堆肥化認証を申請します。その後よ

ケ ー ジ に「compostable(堆 肥 化 可 能)」 と

うやく、私たちの食 品は中身に相 応しいパッ

印刷することができません。印刷の代わりに、

ケージに収められることになります。

フィルム自体へのエンボス加工を検討してい

最 初 から適 切 なパッケージ があった製 品

ます。

もあります。ビール(リサイクル 可 能なアルミ

より強固な保護を必要とする他のフレキシ

缶を使用)、ムール貝とサバ(アルミ缶)、蜂蜜

ブルパッケージ入りの製品には、植物由来の

(リサイクル可能なガラス)、そして箱(再生さ

ラミネートで実 験を行ってきました。各 基 材

れた段ボールや板 紙を使用、箱自体もリサイ

はそれぞれ 個 別に堆 肥 化 可 能とすでに認 定

クル可能)です。今、私たちは目標を達成する

されていますが、私たちは基 材を重ねている

機 会を手 にしています。それは2025年まで

ため、この素材は産業堆肥化されなければな

に使用するパッケージを、再利用可能あるい

りません。つまり、管理された条件下で、完全

は堆肥化可能で、しかも再生された材料もし

に堆肥化されたことを確認する必要があるの

くはリサイクル材 料から作られた素 材のみに

です(左欄の「パッケージ用語集」を参照)。

することです。

私たちは約4年 前にラミネートのテストを

じつのところ、私たちにはその 予 定よりも

開始し、最上層に透明なNatureFlexを利用

はるかに早くに目標を達 成する可 能 性 があ

して、そこに堆 肥 化 可 能なインクで裏 面 印 刷

り、その発見はより広範な食品業界と共有さ

を施しました。酸 素や湿 気、そして熱 に対す

れることになるでしょう。それは長いトンネル

る強力な遮断性が必要だったため、気化した

の終わりにある光であり、例のゾウの追 放で

アルミニウムでコー ティングしたもう1層 の

もあるのです。


Amy Kumler

映画 クリス・マロイ監督の『Unbroken Ground(未開 の領 域)』は、環 境 危 機の解 決 策としての食 品につ いて掘り下げています。

さらに深く知る パタゴニアの食品やパートナー、 さらに私たちのミッションの背後にある ストーリーを紹介しています。

patagoniaprovisions.jpでご覧ください。 2019年のドキュメンタリー『Artifishal(アーティ フィッシャル)』は、養 魚 場 や 魚 の 孵 化 場 が 野 生 サーモンの個 体 数に与える影 響を取り上げていま す。無料でYouTubeからご覧いただけます。 河 川 を 荒 廃 さ せ る 不 要 な ダム の 撤 去 を 扱 っ た 『DamNation(ダムネーション)』は、YouTubeや Netflixを含むさまざまなメディアで視聴可能です。 上 記の映 画 以 外にも、パタゴニア プロビジョンズ のYouTubeチャンネルでさまざまなビデオをご覧 いただけます。j.mp/prvjpyt

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食卓を整える 「 同じことに信念を抱く人たちの 小さなグループを集める。 そして同じ方向に進めば、 どれほどのことが達成できるか驚くはずだ 」 ー イヴォン・シュイナード、パタゴニア創業者

上:ビッセル家の集まり。

カリフォルニア州スティン

ソン・ビーチ Eric Bissell

下:カリフォルニア州タト

ル・クリークのオーウェン

ズ・バレー の 高 地で 感 謝

祭 を祝うパタゴニア社 員

と仲間たち。1974年頃。 Gary Regester

誰にとっても、美味しい料理を囲みながらの集まり

必 要があります。地 球を破 壊するのではなく、再 生

は楽しいものです。大きな鍋に入ったスープと自家

させる農法を使用すると、乾いた土壌に豊かな命が

製のパンだけの質素な食事でさえ、人と共有すると

戻ることを私たちは知っています。魚の産卵場への

空腹を満たす以上の満足感があります。

道をふさぐダムを撤去すると、漁業は奇跡としか言

しかし、私たちが実行するようになった食料の栽

いようのない速さで復活します。

培方法は、近い将来多くの人を飢えさせてしまう恐

パタゴニア プロビジョンズでは、この新しい取り

れがあります。貴 重な表 土は無 価 値な泥や風に舞

組みに関わるすべての人のために、食卓を整え直し

う埃に変わり、使 用される化 学 肥 料は川に流 れ出

ています。私たちは、農家や牧場主、漁師、職人、そ

し、川を汚 染してそこに住む魚を殺します。かつて

して志を同じくする企 業を集め、自然のシステムの

地 球 上で最も肥 沃な表 土に覆われていたグレート

健全性を回復させる活動を行っています。その指標

プレーンズは、今ではそのほとんどが遺伝子組み換

として、リジェネラティブ・オーガニック認証の展開

え(GMO)作 物のコーンや大 豆を生み出す広 大 な

をサポートしてきました。リジェネラティブ・オーガ

化学畑となっています。主に持続不可能な伐採と農

ニック認 証は、食 品システム全 体を保 護し、回復さ

法が原因で、私たちは驚くべき速さで生命の網を弱

せるためにオーガニックのはるか先を行きます。土

体 化させ、さまざまな種を失い続けています。その

壌を再 生させ、水をきれいにするだけではなく、回

すべてが、あらゆる生き物の復元力や成長能力を脅

復力のある地域コミュニティを構築し、経済を活性

かす、過去に例のない気候変動の時代に起こってい

化し、動物福祉を保証することを目的としています。

るのです。

この活 動 は高い目標を掲げていますが、究 極の

新しい10年、つまり私たちの故 郷である地 球の

目標は自然が抱えている飢えと同時に、私たち自身

壊滅的な砂漠化を防ぐおそらくは最後のチャンスと

の空 腹も満たすことです。一 人 一 人、皆さんを招 待

なるこの10年が始まる今こそ、勇気を奮い起こして

します。私たちの 食 卓 に参 加してください。この

この挑戦に立ち向かい、テーブルを整え直すべきと

宴は豊かなものになるはずです。

きです。  私たちを育む地球を助けるために、私たちは自然 に抗うのではなく、自然と調 和した取り組みを行う

̶ ローズ・マーカリオ   パタゴニアCEO

83


カバー写真:

絡まったサバの釣り

糸をほどくセサル・

ベニテス。スペイン、

ビスケー湾

Amy Kumler

カタログの不要な郵送:お引越しされた場合は、旧住所と新住所をお知らせく ださい。万一このカタログが誤配されたり、複数お受け取りになった場合、ある いはカタログ郵送の停止をご希望の方も、フリーコール 0800-8887-447、 ウェブサイト pat.ag/cs までご連絡ください。 本カタログでは、米国で使用、申請、または登録されている次の商標に言及しています。1%フォー・ザ・プラネット®は、1% for the Planet社の登録商標です。FSC Logo ® は、Forest Stewardship Councilの登録商標です。カーンザ ®は、ランド・インスティテュート™の登録商標です。その他パタゴニアの商標にはロング・ルート®が含まれますが、 これに限定されません。価格は2020年12月31日まで有効です。© 2020 Patagonia, Inc. このジャーナルのデジタル版は、patagoniaprovision.jp/pages/journalでご覧いただけます。

私たちは、 故郷である地球を 救うために ビジネスを営む。

patagoniaprovisions.jp


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