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ファインダー
Finder
どこをどう通って、どういう経緯でここへ辿り着き、そしてどこへ行ったのだろう。 1500 年 4 月 22 日にポルトガル人によりブラジルが発見され、 長い年月を経て少しずつ開拓され今のブラジルの姿に至ったのはわざわざ言うまでもないが、 歴史ある建造物が突如として現れると当時の様子を想像し思いにふけってしまう。 当時の人々が今のブラジルを見ると一体何を想うのだろうか。
鶴田成美（つるたなるみ）フリーカメラマン。福岡県出身、サンパウロ育ち。デモの撮影をきっかけに人やそ の人生に興味を持つようになり、個人で撮影・取材している。
ピンドラーマの Youtube チャンネル→ www.youtube.com/user/editorakojiro/videos
3
い
みん
移 民 史
しょう ぞ う
しゃしん
ぶん
まつもと こう じ
写真・文 松本 浩治
つじ いみん
【辻移民の西尾八州子（にしお・やすこ）さん】 せんご
つじ こたろう いみん
しゅう
おじ きょうだい
い
おお
ゆめ いだ
戦後の「辻 小 太郎移民」として、アマゾナス州マナカプ
叔父の兄 弟がブラジル行きに大きな夢を抱いたという。
ルーのベラ・ビスタ 植 民 地 に 入 植 した西尾八州子さん
叔父たちのブラジルへの思いが日増しに高まる中、15 歳
しょくみんち にゅうしょく
ほっかいどうしゅっしん
ねん がつ
にしお やすこ
にち
まる
（65、 北 海 道 出 身 ）。1954 年 7 月 31 日に「ぶらじる丸」 こうべこうしゅっぱつ
どう がつ
にち
つ
おじ
おも
いじょう ろうどうりょく
にん いじょう
ひま
たか
なか
さい
こうせい かぞく
以 上 の 労 働 力 が 3 人 以 上 いないと 構 成 家 族ができな とうじ
さい
やすこ
しらは
や
む
で神戸港を出 発し、同 8 月 27 日にベレンに着いたという。
いため、当時 18 歳だった八州子さんに白羽の矢が向けられ
父・正 雄さんは 鳥 取 県 出 身 で、富 山県 出 身 のかほる
た。その頃、帯 広市内に住んでいた八州子さんは父を早く
さんと結 婚後、 北 海 道 開 拓 団 の 一 員 として極 寒の地
に亡くしたこともあり、母と姉との 3 人暮らしの生活が長
ちち まさお
とっとりけん しゅっしん とやまけん しゅっしん
けっこんご ほっかいどう かいたくだん いちいん
わた
とち
せま
ごっかん ち
ぷんけ
に渡っていた。しかし、「土地が狭いことから、分家させら じょうきょうなかどうちょう なんべい
いじゅうはなし き
れない」 状 況 の中、道 庁から南米への移住の話を聞いた
4
ころおびひろしない
な
こと
す
はは あね
おじ
やすこ
ちち はや
にん ぐ
せいかつなが
せわ
く、事あるごとに叔父たちの世話になっていたという。 ひごろ おんがえ
きも
「日頃の恩返しができるものならという気持ちもありました
ピンドラーマのホームページ→ www.pindorama.info
移 民 史 ほんとう
い
おも
が、まさか本当にブラジルに行くとは思ってもいませんで
う。
した」
当 時、トメアスーはピメンタ（コショウ）景 気で賑 わ
おじ きょうだい
かぞく いっしょ こうべ
い
やすこ
叔父 兄 弟 の 2 家族と一緒に神戸まで行った八州子さん と はく ちょくぜんしゅうようじょ
しゅうかんせいかつ す
は、渡 伯 直 前 の 収 容 所 での 2 週 間 の生 活を過 ごすに はじ
たいへん
こうかいよる
とうじ
けいき にぎ
きむら そういちろう
のうきょう くみあい ちょう
い、木 村 総 一 郎 というトメアスー 農 協 の 組 合 長 が
けいえい のうじょう やすこ
かぞく はたら
ねんご
やすこ
経 営 する農 場で八州子さん家族は働いた。2 年後、八州子 くみあい
はたらにしお し ちょうなん
かずお
けっこん
つれ、初めて「大変なことになってしまった」と後 悔。夜
さんは組合で 働 く西尾氏の長 男だった一夫さんと結婚し
になると 収 容 所 の前の夜汽車を眺めては、「あの汽車に乗
たが、1 年後には体 重が 10 キロも減っていた。
って北 海道に帰りたい」と思い続けたという。ブラジルに
結婚して数年は景気も良く、労 働者も使用するなどして
行く船の中でも船酔いがひどく、約 1 か月間の食事は粥と
いたが、60 年 代 後 半 にピメンタに病 気が入 り、八 州子さ
梅 干 だけで、ほとんど寝てるだけの生活だった。
んのところも全滅。その後、すぐに金銭につながる養鶏や
しゅうようじょまえ よぎしゃ なが
ほっかいどう かえ
い
ふね なか
きしゃ
の
おも つづ
ふなよ
やく
うめぼし
ね
やすこ
げつかんしょくじ かゆ
せいかつ
い
とうじ
ねんご
けっこん
たいじゅう
へ
すうねん けいき
よ
ろうどうしゃ しよう
ねんだい こうはん ぜんめつ
ご
びょうき はい
やすこ
きんせん
ようけい
さいばい
八州子さんたちが行くことになったマナカプルーは当時、
マラクジャ（パッションフルーツ）を栽 培したりしたが、
ベラ・ビスタ植 民地とアグア・フリア植 民地の 2 つに分か
労 働 者 を雇 う余 裕もなく、除 草、伐 採、施 肥など自 分た
しょくみんち
しょくみんち
わ
とうちゃくごじょうりく
れていた。ベレン到 着後も 上 陸 することなく、マナウス い
ふね
の
か
ふね
じかん
行きの船に乗り換え、マナウスから舟でさらに 4 時間かか どうち
とうちゃく
どうち
こいし おお
るという同 地にようやく 到 着。しかし、同 地は小 石が多 とち
なに
おじ
ろうどうしゃ やと よゆう
じょそうばっさい せひ
り
じぶん
むすこ
やすこ
ちでやるしかなかった。2 人 の息 子をもうけていた八 州子 ねん
さい
ちょうなん はっけつびょう しぼう
さんだが、64 年 に 5 歳 だった 長 男 が 白 血 病 で死 亡。
じなん
さい
じなん
次男のジョージさん（38）は 1 歳だったが、 「もし次男がい にほん かえ
やすこ
とうじ
い土 地で、「こんなところで何 ができるか」と叔 父たちも
なければ、日本に帰るところでした」と八州子さんは当時
呆 然 となった。
の思いを吐露する。
ぼうぜん
だい かいめ にゅうしょく
やすこ
つ
とき
おも
とろ
のち
やすこ
ははいもうと
いじゅう
第 3 回目の 入 植 となった八州子さんたちが着いた時は、
後に八州子さんの母の 妹 がブラジルに移住し、ベレンに
椰 子の葉 で囲 った隙 間だらけの家 が 2 軒 あるだけで、そ
住んでいたこともあり、11 歳になっていた次男をその叔母
やし
は かこ
すきま
いえ
けん
かくだん
た
す
さい
あず
ご
ねん
じなん
おば
やすこ
で
れでもないよりは格段にマシだった。食べていくためには
に預けた。その後、91 年に八州子さんもベレンに出て、す
作 物 を植えなければならず、米、マンジョカ芋、グァラナ
でに成 人となっていたジョージさんが経 営する美 容院の
等を植えた。しかし、恐ろしいのは 畑 仕事を終え、夕方に
助 手 として働いた経験もある。
なる頃。毎日、蚊の大群に悩まされ、「身体中、隙間もない
八州子さんはこれまで何度か日本に一時帰国しているが、
ほどにかまれ、特に、夜にトイレに行くのは死に物狂いで
今でも日本に帰って暮らしたいという望 郷の念は強い。 「フ
した」と八州子さんは当時の生活を振り返る。
ィルムみたいに巻き戻せるなら、ブラジルに行く前の時代
さくもつ う
こめ
など う
おそ
いも
はたけしごと
ころ まいにち か たいぐん なや とく
からだ
よる
やすこ
お
い
とうじ せいかつ ふ
ゆうがた
すきま
し ものぐる
かえ
しょくみんち けっきょくだい かいめ にゅうしょく さいご
せいじん
じょしゅ
けいえい
はたら
やすこ
いま
なんど にほん いちじきこく
にほん かえ
く
ま
もど
びよういん
けいけん
ぼうきょうねん つよ
もど
やすこ
い
かぞく
まえ じだい
おも
植民地は 結 局 、第 4 回目の 入 植 が最後となり、その
に戻りたい」—。八州子さんは家族のことを思いながらも、
頃になると準備する家すらも建っていない 状 況 だったそ
どうしようもない現 状を思いつめながら涙を 拭 った。
ころ
じゅんび
いえ
げんしりんばっさい
た
じょうきょう
しゅう はいきゅう
き
うだ。原始林を伐採し、州から配 給されたグァラナの木に まいにち みず
せいかつ つづ
しょうらいせい
げんじょうおも
こじん
なみだ ぬぐ
ねん がつしゅざいねんれい とうじ
（故人、2001 年 6 月 取 材、年齢は当時のもの）
毎 日 水 をかける生 活が続 いた。 将 来 性 もなく、このま いのこ
しかた
かぞく
ま居残っても仕方がないと、ベラ・ビスタの 4 家族とアグア・ かぞく けい かぞく いっしょ
ねん
がつ
フリアの 1 家 族の計 5 家 族が一 緒になり、55 年 11 月 パラ しゅう
てんじゅう
よに
じょうたい
ー州トメアスーに転 住。ほとんど夜逃げの状 態だったとい
note.com でもピンドラーマ → note.com/pindorama
松本 浩治（まつもと こうじ） 在伯 25 年。 ＨＰサイト「マツモトコージ写真館」
http://www.100nen.com.br/ja/matsumoto/
5
Pindorama vol. 178 7 ポルトガル語ワンポイントレッスン 文＝リリアン トミヤマ 8 医療 開業医のひとりごと 文＝秋山 一誠
3
4
ファインダー
移民の肖像
鶴田 成美
松本 浩治
10 カメロー万歳 文 = 白洲 太郎
12
ブラジル版 百人一語 岸和田 仁
15
クラッキ列伝 下園 昌記
☆表紙写真 : 撮影 : 鶴田成美（つるたなるみ）フリーカメラマン。福岡県出身、サンパウロ育ち。デモの撮影をきっかけに人やその 人生に興味を持つようになり、個人で撮影・取材している。 Pindorama（ピンドラーマ）とは、ブラジル先住民のトゥピー語が起源で、「椰子の国」という意味です。1500 年にポルトガ ル人がブラジルを発見した当時、現在のブラジルに当たる地方は、アンデス（インカ帝国）やパンパの部族たちから「椰子の国 Pindorama」と呼ばれていました。
note.com でもピンドラーマの記事が読めるようになりました !! 最新号ほかバックナンバーの記事も続々アップしています。 → note.com/pindorama
月刊ピンドラーマのホームページ開設 !!
ピンドラーマ掲載の紙媒体の記事がそのまま読めます。 オンラインショップ近日開設！！ 弓場農場の味噌、鴻池さんの深谷ネギ、生ハチミツ他多数用意しております。 → www.pindorama.info
vol.178 2021 年 4 月 5 日発行 発行元： コジロー出版 代表： 川原崎 隆一郎 編集長： 布施 直佐 印刷： ファースト・プリンティング
Publicação : EDITORA KOJIRO LTDA. Diretor Responsável : RYUICHIRO KAWARAZAKI Editor Chefe : NAOSUKE FUSE Impressão : Fast Printing Shop
Rua da Glória, 332 - 3ºand.- Sala 31 - Liberdade - São Paulo - SP - BRASIL CEP : 01510-000 Tel : (11) 3277-4121 e-mail : ed.kojiro@gmail.com
6
ピンドラーマの Youtube チャンネル→ www.youtube.com/user/
リリアン・トミヤマ Lilian Tomyama
～「話は変わるけど」～ トム・ジョビンのことを話すとき、まず思いつくの
A と B が会話しています。
は『イパネマの娘（Garota de Ipanema） 』ですね。でも、
A: As ruas estão cheias de buracos. A prefeitura
このほかにとても興味深いストーリーを持った曲があ りますので、それをみなさんと共有したいと思います。
precisa fazer alguma coisa. （道路が穴だらけだよ。市役所が何とかしてくれな
それは『リジア（Ligia） 』という曲です（スタン・ゲッ
いとねえ。）
ツがジョアン・ジルベルトとレコーディングしたもの
B: Mudando de assunto, você já renovou o seguro
もあります）。多くの音楽史家が言うには、この歌に登 場する女性は、ジョビンの親友のひとりで作家のフェ ルナンド・サビーノ（Fernando Sabino）の奥さんリジ
do carro? （話は変わるけど、自動車保険更新した？）
ア（Lygia）だとのことです。
C と D が会話しています（C は新聞を読んでいま
それで、ごまかすために「y」を「i」に取り替えた
す）。
というのです（Lygia → Ligia） 。 歌詞は大変面白くて、否定を通じて自分の愛を表現 しています。 ～ Eu nunca sonhei com você（君のことを夢に見たこと はない）～ ～ O seu nome eu não sei（君の名前を僕は知らない）～ でも、タイトルそのものがまさにその反対を示して います。彼は彼女の名前を知っていますよね。 トム・ジョビンはこう言っています。この歌の中に あるものが示しているのは、ある物事をとても強く否 定すると、現実にはその反対で、愛の告白になってし まうということだ、と。 結局のところ、この曲はトム・ジョビンの偉大な天 才的な曲のひとつだということで、「ステイホーム」の 今、私のおすすめはこの美しい歌を家で聴くことです。 ここで話題を変えてポルトガル語について話しま しょう。「話は変わるけど」はどう言うでしょうか？ 「Mudando de assunto」と言います。 会話例をいくつか見てみましょう。
C: Olhe que notícia interessante! （ほら、面白いニュースがあるよ！） D: Vou ver depois. Mudando de assunto, eu estou pensando em comprar flores para decorar a casa. O que você acha? （後で見るよ。話は変わるけど、家を飾るのに花を 買おうと思うんだけど、どう思う？） 今月もお読みいただきありがとうございました。今 回の表現の発音を練習したければ、エンリケ & ジュ リ ア ー ノ（Henrique e Juliano） の「Mudando de Assunto」という曲があります。彼らはブラジルでは有 名なコンビです。ブラジルの 2020 年ストリーミング トップ 10 に彼らの曲が 2 曲入っています。YouTube で、 「Henrique e Juliano - Mudando de Assunto (DVD Ao vivo em Brasília) [Vídeo Oficial]」で検索してみて下さい。 また次回。お互い健康に気を付けましょう。 リリアン・トミヤマ USP（サンパウロ大学）卒、ポルトガル語学・言語学専攻。 ナンシー大学（フランス）卒、フランス語学・文学のスペシャ リストでもある。 e-mail : lilidomi@uol.com.br HP : www.pogotogo.blogspot.com Facebook: www.facebook.com/liliansensei
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童話：癌が良い？抗癌剤が良い？ むかしむかし、あるところにヒトがいました。
ヒトはなんと便利だと喜んで生活に取り入れました。
普通の所で、普通の生活をする、普通の人でした。普通の所
街を歩いていると、大きな絵画に出会いました。絵は綺麗な
とは、他の人もいっぱいいる街でした。普通の生活とは、皆と
人が口から煙り吐いてます。ヒトは思いました。「自分も煙吐い
同じように朝起きて、朝ご飯ぬいて、仕事行って、お昼ご飯は
たら、綺麗になるんだ」
外食して、夜はお酒飲んで帰る毎日でした。普通の人とは、平
煙吐く習慣も採用することにしました。でも、そのうち、大
均的な身長、平均的な体重、平均的な嗜好、平均的な思考、平
きな絵画の綺麗な人がなにやら見たことのない装置を手に持つ
均的な志向、平均的な学歴をもつヒューマンでした。
ようになりました。よく観察すると、絵画に字が書いてあります。 「煙吐くの身体に悪いよ。こちらの装置は同じ効果で健康的で
黒い板が言いました。
す！」
「これ食べたら甘くて美味しいよ」 ヒトは食べてみたら美味しくて、とても好きになりました。
ヒトは身体に悪いモノは嫌なので、早速いわれた装置に変え
違う黒い板が言いました。
ました。
「これ甘くて、油っぽくてもっと美味しいよ」 ヒトはそちらも食べてみたら、もっと美味しくて虜になりま
白い箱が言いました。 「歩いたり、動いたりするの、面倒でしょ？この中で分身を作っ てあげるから、分身が歩いたり動いたりしてあげます」
した。
ヒトは考えました。
また違う黒い板が言いました。 「こちらは、肉汁と脂がいっぱい出て、信じられない美味しさよ」
「分身が動いてくれて同じ生活ができるのであれば、絶対便利だ
一回目に食べた時は胃にもたれたのだけど、ヒトは口を通過
ぞ」
していく時の美味しさが忘れられなくなりました。
それで、歩いたり動いたりは白い箱の中の分身にまかせる事
さらに違う黒い板が言いました。
にしました。
「美味しいだけではなく、直ぐに食べられますよ。あっという
別の白い箱が言いました。 「あなたの個人情報や生活風景を言ってもらえたら、世界中の人
間！」
に発信してあげます。世界中の人とつながれますよ！」 ヒトは考えました。 「自分のことを教えたら、世界中の人とつながるんだ。これは便 利、自分の情報なんてお安いもんだ」 それで色々白い箱に教えてあげました。 黒い板が言いました。 「これ飲んだら、気持ちよくなりますよ。カッコ良いし」 ヒトは気持ち良いのは好きなので、飲んでみました。なんと とても気持ちよくなれるじゃないですか！ヒトは毎日飲むよう
(11) 98258-1358
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になりました。夜もよく寝られるし。それにカッコ良いし、言 うことなし。 そんなこんなで、美味しく、便利で、世界中の人とつながり、
新しくオープンしたパブカラオケに是⾮遊びにご来店下さい。
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8
サンパウロの生活情報を網羅 !! 「楽々サンパウロ 2019-2020 年版」絶賛発売中 !!
医 療 ヒトは楽しく生活をしていました。まあ、体重が増えて身体が
『で、ここで、普通の童話であれば、「治ったヒトはいつま
丸くなってきていたのですが、周りをみると、皆同じような感
でも幸せに暮らしました。チャンチャン」なのだが、相手
じだし、体調も春に鼻がグズグズするくらいで、別に問題はあ
は癌なのでそうは問屋がおろさない』
りません。幸せです。チョー幸せです。 仕事で予防が大事と言われたので、色々検査をすることにな
幸せな生活をしてたら、また癌が再発しました。再発なので、
りました。ヒトは自分は幸せな生活をしているので、全部大丈
初回より悪質の癌だと言うことです。ここでヒトは選択を迫ら
夫と安心して検査しました。何日か経って、検査をした病院へ
れます。
出向くと、結果が発表されました。なんと。癌の診断です！ヒ
〜もっと苦しいキツい抗癌剤を使った治療をするか。キツいの
トはびっくりしました。
で死ぬかもしれません。〜
「えー？良いと言われた事を全部した生活してるし、体調も悪く
〜治療せず癌を進行させて、その内多分苦しんで死んでいく。〜
ないのに。ウソでしょ？」
どっちも苦しい。どっちも死ぬかも。
初めは誰でも、嫌な事実は疑いにかかります。でも、診断は
さあ、ヒトはどちらを選択したのでしょう？
正しく、ジタバタしても、結果は変わりません。そこで、癌の 治療をすることになりました。抗癌剤を使った治療です。 ヒトは抗癌剤治療を始めました。病院へ行って、体内に薬を 注射する治療です。一回目が終わった時にヒトは思いました。
完 『このコラムの 24 人の読者様はどうされます？ キツい選 択ですね。どちらも嫌ですね。一番良い答えは、ここまで
「なんだ、しんどいとか聞いていたけど、全然大丈夫じゃない。
行かない、つまり、癌にならない、でしょう。癌の発生要
これだったら楽勝楽勝」
因は生活だけではないのですが、癌になりやすい生活とい
二回目、三回目と回数を重ねていきます。
うものは判明してきてます *1。コロナ禍で癌の話をするの
初めは大したことないと思っていたヒト。段々しんどくなっ
もなんですが、今医療が逼迫してますから、癌だけではなく、
てきます。吐き気はするし、眩暈はするし、不整脈がでるし…
入院のお世話になるような疾病は現在診てもらえない可能
皮膚は痒いし、頭髪はぬけるし… 食欲はでないし、倦怠感
性が高いので、できる限りさけるにこしたことはないと思
もひどいです。とうとう仕事に行くことが困難になりました。
います』
ヒトは嘆きます。 「抗癌剤だけじゃないじゃない！ はき止めはいるし、降圧剤も
註１：
薬だらけ。それで、今度は抗癌剤の副作用を抑える薬の副作 用もでてきました。 ヒトはいつものとおり、白い箱の中の世界中につながってい る人達の情報をみてみました。みんな元気で、綺麗で、格好良
日本の国立ガン研究所に色色記載があります：https://ganjoho.jp/ public/pre_scr/cause_prevention/evidence_based.html
いるし、不整脈治療薬もいるし、かゆみ止めもいる」
診療所のホームページにブラジル・サンパウロの現状をコメ ントした文章を記載してますので、併せてご覧いただければ幸 いです。
くって、抗癌剤でヒーヒー言って、禿げている自分が惨めにな りました。ヒトは嘆きます。 「えー。元気だったのに。幸せに生活してたのに。なんでこんな 目に遭わないといけないんだあ」 でも、癌は治療の効果もあり、小さくなり、そのうち見えな くなりました。喜んだヒト、幸せな生活に戻ります。 「いつもやってきたことをするのが大事だと言われてるし」 抗癌剤は止めです。
秋山 一誠 （あきやまかずせい）。サンパウロで開業（一般 内科、漢方内科、予防医学科）。この連載に関するお問い合 わせ、ご意見は hitorigoto@kazusei.med.br までどうぞ。 診療所のホームページ www.akiyama.med.br では過去の「開 業医のひとりごと」を閲覧いただけます。
Pindorama の Facebook → www.facebook.com/pindorama06
9
白洲太郎の
カメロー万歳 !! 第 61 回 実録小説『神様ありがとう』 その日、白洲太郎と彼の妻になる予定のちゃぎのは
ような業態では、出店場所の選定にかなりの労力を費
隣町へと車を走らせていた。何をするのかというと、
やしていると思われるが、カメローにとってもそれは
もちろん仕事をするためである。忌まわしきパンデミッ
同様で、ポントの良し悪しによって売上はかなりの振
クによっておよそ一年にわたり隣町への行商が禁止さ
り幅で左右されることになる。
れていたが、ここ数か月、予想外の出費が嵩んでいる
もちろんポントがすべてというわけ訳ではないが、
太郎は、そろそろ自分の住む町以外でも仕事がしたく
できることなら人通りの多い、なるべく目立つ場所に
なってきたのである。
屋台を設営したいと思うのが人情というもので、その
隣町はかつて、しらす商店の売上に大きな貢献をし
折り合いがことごとくつかなかったのがこの町のフィ
ていたドル箱であり、そこからの収入が途絶えたこと
スカウなのである。めぼしい場所を見つけても、なん
は大きな痛手であった。とはいえ気楽な田舎暮らしで
やかやとイチャモンをつけられ、人が誰も来ないよう
ある。週に 1、2 回、働くだけで生活は十分に成立し
な隅の方へと追いやられる。そういうことが何度も続
ていたが、以前は週に 4 日ガッツリと行商していたし、
くと、太郎は自分だけが意地悪をされているような気
金はあるにこしたことはない。現状を確認するために
分になった。フィスカウはルールに則っているだけで、
も、隣町への視察は必須事項であった。
個人的な差別をしているわけでないことはわかってい
数か月前までは、まるで市街戦でもあったかのよう
たが、たとえそうだとしても、辺鄙な場所でわざわざ
にえぐれていた道路がキレイに舗装されている。町ま
モノを売る気にはなれない。
では約 50 キロほどの道のりであったが、太郎は鼻歌を
太郎は指定された市場内で屋台を設営するのを諦め、
歌いながら軽快に車を走らせた。天気こそ曇りであっ
フィスカウの目の届かぬ場所、つまり町中で勝手に開
たが、爽やかな風がそよいでいる。
業することにしたのであるが、これが大当たりとなっ
車を青空市場の駐車場に滑り込ませると、太郎はま
た。彼が選んだ場所は四方八方から人がやってくるプ
ず市場の管理人であるフィスカウ（fiscal）の姿を探し
チ広場のようなところで、青空市場に向かう客の通り
た。各町の青空市場には必ずといっていいほどフィス
道にもなっている。この恵まれたロケーションを最大
カウが存在しており、ショバ代の徴収から、各露天商
限に活用した太郎は、水を得た魚のごとく安物アクセ
のポント（定位置）の割当などを一手に握っている。
サリーを売りまくり、その栄華は 8 年もの間、続いた
青空市場で仕事をする以上、避けては通れない存在な
のであった。
のである。太郎とこの町のフィスカウとは長いイザコ
しかし無常の世の中である。栄枯盛衰、栄えるもの
ザの歴史があった。10 年前に初めてこの地を訪れたと
は必ず滅び、栄光が続くことなどあり得ない。
きからの因縁で、太郎とフィスカウはことあるごとに
それまでは市場の管理だけを任されていたフィスカ
衝突しては口論を繰り返してきたのである。
ウが、その枠を飛び越え、市場以外の露天にまで口を
その 1 番の理由はポントであった。露天商にとって
出すようになってしまったのである。どうやら現市長
のポント、企業などでも、モノやサービスを提供する
派である地元のコメルシアンチ（商店主）たちがプレ
10
サンパウロの生活情報を網羅 !! 「楽々サンパウロ 2019-2020 年版」絶賛発売中 !!
カメロー フェイトゥーラ（市役所）に働きかけ、露天商排除条
た場所以外でモノを売ってはならず、従わない場合は
例のようなものが発令されてしまったらしい。取り締
国家権力による制裁も辞さず、という旨のことが書か
まりは厳しいものとなり、我が世の春を謳歌していた
れてあった。太郎はがっくりと肩を落とし、地面に這
太郎にもその手は伸びてきた。はじめは知らぬ存ぜぬ、
いつくばりそうになるのをじっと堪えたが、この一件
のらりくらりとフィスカウの立ち退き要請をかわして
でちゃぎのを責めるのは酷であった。遅かれ早かれ立
いた太郎であったが、日を追うごとにプレッシャーが
ち退きはさせられていたであろうし、近いうちに警察
キツくなり、無視し切れない状況に追い込まれていっ
が介入してくるという噂もしきりだったのである。
たのである。
以上の理由により、太郎は再び青空市場内で仕事を
そんな中にあっても、ドル箱の売上を手放したくな
せざるを得なくなった。空いている場所といえば、通
い太郎は頑張った。たとえ天地がひっくり返ろうとも
行量のまるでない過疎地のようなスペースしかなかっ
立ち退きには応じん。矢でも鉄砲でももってこい！わ
たが、それでもやらないよりはマシである。幸いなこ
しゃ絶対にここを動かんぞ！眼を血走らせながらフィ
とに俺にはちゃぎのがいる。二人三脚でまた頑張ろう。
スカウへの抵抗を続ける太郎であったが、旗色は著し
という前向きな姿勢が功を奏したか、辺鄙な場所であ
く悪かった。そして決定的ともいえる事件が起きてし
るにも関わらず、少しずつ客足が戻ってきたその矢先
まうのである。
に、パンデミックになってしまったのであった。
ある日。いつものように隣町の広場で屋台を設営、
数か月ぶりに隣町の青空市場を訪れた太郎は、当時
やってくる客に bijuterias（安物アクセサリー）を売り
の思い出を振り返りながらフィスカウの姿を探してい
まくり、缶ビールをガブ飲みしていた太郎であったが、
たが、場内は閑散としており、依然として部外者の規
いつなんどきフィスカウの野郎が現れるかわからない。
制が行われていることは明らかであった。当分の間、
周囲に視線を走らせ、一事が万事、警戒を怠らない態
コロナによる営業自粛が続きそうであったが、半ば予
勢を整えていたが、生理現象だけは致し方ない。客の
想していたことでもあり太郎は冷静にその事実を受け
流れが落ち着いたころを見計らって、太郎は数百メー
止めた。ちなみに当のフィスカウもコロナにかかって
トル離れた草むらまで用を足しに行った。今日も売れ
入院してるとのことである。彼とは浅からぬ因縁があ
行きは絶好調である。数か月分の家賃は楽に稼げてし
るが、早く復活してほしいものだ。そんなことを思い
まいそうな勢いで、いわゆるホクホクというやつであっ
ながら、太郎とちゃぎのはパステウを頬張った。コロ
た。小便を済ませ、鼻歌を歌いながら屋台に戻ると、ちゃ
ナで騒がしい世の中ではあるが、彼らにとってはとて
ぎのが浮かない顔で佇んでいる。さては一瞬のスキを
も平和な 1 日である。
ついて、フィスカウのガキが現れやがったか！と顔色
神様ありがとう。
を変えた太郎であったが、時すでに遅かった。
誰に言うでもなく、太郎は呟いた。
当時ポルトガル語をロクに喋れなかったちゃぎのは、
怪鳥が空高く舞い上がっていた。
フィスカウが差し出した承諾書に訳もわからずサイン をさせられてしまったのである。拒否することもでき たはずだが、いかんせんちゃぎのは気が弱い。強く言 われるがままにサインをしてしまい、そうなってしまっ ては後の祭りである。その紙切れには、今後指定され
白洲太郎（しらす たろう） 2009 年から海外放浪スタート。約 50 カ国を放浪後、 2011 年、貯金が尽きたのでブラジルにて路上起業。以 後、カメローとしてブラジル中を行商して周っている。 yutanky1102@gmail.com taro_shirasu_brasil / You Tube →しらすたろう
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岸和田 仁
イエダ・ペッソア・デ・カストロ Yeda Pessoa de Castro （民族言語学者、1937 年バイーア出身） 「ブラジルのポルトガル語の起源に関しては、学問的にきちんと論じられてきたとはいえないので、その 4 世 紀にわたる歴史の概要を改めてまとめてみようと試みているところだ。ブラジルにおけるポルトガル語の創造 に直接関与した当事者であったアフリカ黒人の話者たちの声を可視化するチャレンジを再度試みたい。別の表 現でいえば、歴史的な理由やら認識論的理屈から隠されて見えなくなっていた真実を再発見しつつある、とい うことだ。その真実とは、ブラジルのポルトガル語の共有ルーツは三つの語族にある、 ということだ。すなわち、 ①欧州からアジアにかけて広く分布したインド・ヨーロッパ語族、②南米大陸で広まったトゥピー語族、③サ ハラ以南のアフリカに起源を持ちアフリカ大陸全体に広まったニジェール・コンゴ語族、という三つの語族で ある。つまるところ、先住民インディオもアフリカ黒人もどちらも、ブラジルに定着したポルトガル系植民者 のカルチャーに深い痕跡を残したのであり、その影響の結果、ポルトガル語の新しい変異種、すなわち、ブラ ジル的混淆語が誕生したのである。」 ブラジルで一番優れた大学といえば、USP（サンパ
よる大学設立年は 1962 年）と意外と新しい。
ウロ大学）であると相場が決まっていたが、最近は、
その大学創立 40 周年を記念したシンポジウムが
USP とほぼ同格、いや、分野によっては USP より格
2006 年 11 月 6 日から 9 日にかけて 4 日間開催され
上だとの評価を得ているのが UNICAMP（カンピーナ
たが、そのテーマは『ポルトガル語の辿った道：アフ
ス大学）である。いずれもサンパウロ州立の大学であ
リカーブラジル』であった。ポルトガル、フランス、
るが、カンピーナス大学の開学は 1966 年（州条例に
カーボ・ヴェルデ、アンゴラ、モザンビーク、そして
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文 化
《イエダ・ペッソア・デ・カストロ》
ブラジル各地か
（黒人奴隷）も植民地国内市場も地域間交流が頻繁と
ら集まった 16 人
なるにつれ、地域限定から国全体への視点・概念が生
の 歴 史 学 者、 言
まれ、ブラジルという国としての認識が出来上がり、
語 学 者、 人 類 学
「brasileiro ＝ブラジル人」となったのだ、との説明だ。
者、作家らが語っ
染色用木材集荷人だったブラジレイロが、ブラジル人
た 内 容 は、 ポ ル
に ” 進化 ” したのは 18 世紀であったとは、現代のブ
トガル語という
ラジル人の多くは忘れている。
地理的な壁を超
イエダ・ペッソア・デ・カストロ教授は、ブラジル
越した多彩な言語世界についてであった。その各論者
人（白人）としては初めてアフリカの大学（ザイール
の 発 表 内 容 は、“AFRICA-BRASIL:Caminhos da língua
国立大学）でアフリカ言語学の博士号を修得した民族
portuguesa”（Editora Unicamp,2009）に収録されて
言語学者だが、彼女の発表「ブラジルのポルトガル語
おり、いずれの論稿も極めて刺激的で面白い。
－その歴史における一つの混交」は、黒人奴隷が持ち
ルイス・フェリピ・デ・アレンカストロ（パリ大学
込んだアフリカ諸言語がどのようにブラジルの言語世
教授）による皮切り講演「ブラジルにおけるアフリカ
界に混合していったか、を概観したうえで、ブラジル
人とアフリカ諸言語」は、1500 年に「発見」された
のポルトガル語は、インドヨーロッパ語族に属するポ
ブラジルが、南大西洋圏の国ブラジルとして形成され
ルトガル語に、先住民のトゥピー系言語が加わり、さ
たのは 18 世紀以降でしかなく、奴隷貿易を通じたア
らにアフリカ諸言語（バントゥー系、ナゴ・ヨルバ系、
ンゴラとの緊密な歴史的・文化的相互関係の上に、こ
ハウサ系など）がミックスしたメスチーソ言語、新型
の国家としての実態が出来上がったのであり、それ故
ポルトガル語であることを明らかにしている。冒頭に
に、ブラジルのポルトガル語に入り込んだアフリカ言
引用したのは、この論稿の結語部分である。
語を研究する必要がある、と説いている。そのなかで
他の論者たちは、モザンビークにおける植民地主義
いくつもの歴史学者らしい事例を語っているが、（現
とポルトガル語の現地化の関係を論じたり、アンゴラ
在は首都ブラジリアの住民を意味する）「brasiliense」
やモザンビークなどで行われている現代アフリカ文学
とは、16 世紀から 18 世紀前半ごろまでは、先住民イ
を言語学の視点から再解釈している。ポルトガル語の
ンディオを意味していたし、「brasileiro」とは、ブラ
世界は一様でなく多様で広い。
ジル史において最初の経済商材であったパウ・ブラジ ル（染料用ブラジル蘇芳）の集荷人のことを指してい たのであり、ブラジル人という意味で初めて史料に登 場するのは 1706 年でしかない、との指摘には目から うろこが落ちた。つまり、18 世紀までは広大なブラ ジルでは分散した各地域が点として存在していただけ だったが、ミナスにおける金鉱の開発が進み、労働力
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岸和田仁（きしわだひとし） 東京外国語大学卒。三回のブラジル駐在は延べ 21 年間。 居住地はレシーフェ、ペトロリーナ、サンパウロなど。 2014 年帰国。著書に『熱帯の多人種主義社会』（つげ 書房新社）など。日本ブラジル中央協会情報誌『ブラ ジル特報』編集人、月刊『ラティーナ』定期寄稿者。
オーソバイト クリニック
DR. EDUARDO KEITI ISHI（USP卒, 千葉大学医学部留学研修）
診療科目： 矯正治療、セラミック治療、 レーザー治療、インプラント、 上顎矯正治療、ホワイトニング など (含大人、子供) 診療時間： 月~金曜日 8:00~19:00 土曜日 9:00~13:00 (日曜日休診) 日本語で応対いたします。
Tel. (11) 3289-1309 - Cel. 99853-6655（電話での予約受付いたしております。） Av. Paulista, 2073 - HORSA 1 Cj. 910 - Cerqueira César - São Paulo – SP - CEP 01311-940 ピンドラーマのホームページ→ www.pindorama.info
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クラッキ列伝
下薗 昌記
〜 第 138 回 イポジュカン〜 大航海時代の偉大なる航海者の名をクラブ名に抱き
チに立ったイポジュカンは、エースのアデミールの決
ながらも近年、低迷が続くヴァスコ・ダ・ガマ。2020
勝点をお膳立て。優勝に貢献するのだ。
年には 4 度目のブラジル全国選手権 2 部降格を余儀な
ブラジル代表では 1952 年のパンアメリカン選手権
くされたリオデジャネイロの名門だが、王国のサッカー
で優勝に貢献したものの、ワールドカップには縁がな
史においては様々なクラッキを輩出してきた。
かったイポジュカン。
クラブ史上歴代 5 位となる 225 得点を叩き出したの
ただ、その才能の確かさをブラジルサッカー史に残
はイポジュカン。その数字はいつまでも陰りを見せる
る天才 SB のニウトン・サントスはペレに比肩する技術
ことはないが、とりわけ評価されるべきは、彼が生粋
の持ち主だったと証言している。
の点取り屋ではなかったことだっ
ヴァスコ・ダ・ガマで 5 度のリオデ
た。
ジャネイロ州選手権制覇に貢献した後、
大型化が進む現代サッカーにおい
ナイトライフもこよなく愛したボール
て、2 メートル近い身長の選手は決
の芸術家は、1954 年からポルトゥゲー
して珍しくないが、イポジュカンが
ザに移籍。1960 年までの在籍期間中に
プレーした 1940 年代から 50 年代
218 試合に出場し、52 ゴールをゲット
にかけて、190 センチの長身は、や
した。1960 年に現役を退き、ポルトゥ
はり際立っていた。
ゲーザで指導者としての道を歩み始め
コーナーキックやフリーキックな
たイポジュカンだったが腎炎に苦しめ
ど相手ゴール近くでのセットプレー
られ、1970 年には腎移植の手術を受け
ではしばしば、その長身を生かして
ているが、これは当時の南米では極め
ヘディングシュートを叩き込んだイ
て珍しいものだったという。
ポジュカンではあるが、もっとも得
かつてはマラカナンスタジアムで、
意としたポジションは中盤でのプレー。「ピッチ上の芸
そしてポルトゥゲーザのホームであるカニンデーで芸
術家」とさえ称された長身の天才は、のちにブラジル
術的なボールさばきを見せつけた左利きの天才は 1978
代表でキャプテンを務めるソークラテスの原型とでも
年 6 月、52 歳の若さでこの世を去った。
いうべき男だったのだ。
トゥピ・グアラニー語では「殺し屋」を意味する
1926 年、ブラジル北部のマセイオで生を受けたイ
と も 言 わ れ る イ ポ ジ ュ カ ン。「Ipojucã」「Ipojuca」
ポジュカンは地元クラブで、早くも頭角を表していた。
「Ypojucan」。当時の新聞では様々な名前の表記もされ
細身だが、左利きの技巧派は 11 歳にして、ヴァスコ・
た彼ではあるが、ヴァスコ・ダ・ガマとポルトゥゲー
ダ・ガマの下部組織に引き抜かれるのである。
ザの両サポーターにとっては、イポジュカンの綴りな
まだユースチームに在籍していた 1944 年からトッ
ど、どうだっていいことなのである。
プチームでのプレー機会を手にし、徐々に存在感を高
長身ながら抜群のボールタッチを見せ、ゴールも量
めていく。
産した紛れもないクラッキ。イポジュカンとはいつま
もっとも、その繊細なボールタッチ同様、メンタル
でも英雄の同義語なのだから。
面も、ひ弱でこんなエピソードが残っている。 1950 年のリオデジャネイロ州選手権の決勝戦の一コ マだ。前半、アメリカを相手に決定的なシュートをミス。 すると長身の芸術家はのちにブラジル代表を率いる名 将、フラヴィオ・コスタに対して「今日は調子が良く ない。後半はもうピッチに立ちたくない」と懇願した という。 もっとも、指揮官からハッパをかけられて後半もピッ
下薗 昌記 （しもぞの まさき） 大阪外国語大学外国語学部ポルトガル・ブラジル語学科を卒業 後、全国紙記者を経て、2002 年にブラジルに「サッカー移住」。 約 4 年間で南米各国で 400 を超える試合を取材し、全国紙やサ ッカー専門誌などに執筆する。現在は大阪を拠点にＪリーグの ブラジル人選手・監督を取材している。
ピンドラーマの Youtube チャンネル→ www.youtube.com/user/editorakojiro/videos
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