国際離婚 〜子どもの連れ去り問題を考える〜 アメリカで国際結婚が破綻した後、日本人の 元妻が相手の承諾なしに子どもを日本に連れ 去るという親権トラブルが相次いで起き、国 際問題に発展しています。 シアトル周辺でも過去 2 年の間に日本人の 母親による子どもの連れ去りが 2 件発生。こ こで注目したいのが、この連れ去り問題に対 する日米間の温度差です。アメリカでは、母 親が不法に子どもを国外に「拉致・誘拐」し た犯罪事件として扱われているのに対し、日 本では一般的に母親による子どもの 「 連れ帰 り」ケースとしてみなされ問題視されるこ とはほとんどありません。これは、アメリカ では離婚後、共同親権が基本であり、両方の 親が子どもの養育にかかわるのが当然である のに対し、日本は単独親権制度を取り、離婚 後は母親が子どもを養育するケースが大多数 で、もう一方の親に対する面会権が確立され ていないという、法律や文化背景の違いが大
取材・構成:岩本明子、越宮照代 きく関与していると考えられます。また日本 奈緒子さんに話を聞き、子どもの連れ去り問 は、国際結婚が破綻した夫婦間の子どもの連 題について考えてみたいと思います。 れ去りに対処するハーグ条約に加盟していま せん。よって加盟国から「不法」に子どもを 日本に連れ去っても日本の法律には違反して おらず、普通の生活を送れることから、アメ ハーグ条約 リカを始めとする欧米諸国からは「日本は子 「国際的な子の奪取の民事面に関す どもを連れ去る親の駆け込み寺になってい る条約」の通称。8 3 年発効。一方の親 る」との声も聞かれます。しかし今年に入り、 が 1 6 歳以下の子どもを居住国から不 欧米諸国による日本のハーグ条約加盟への圧 法に外国に連れ去ることを防止する目 力がますます強まり、日本政府は来年にも 的で定められた多国間条約。連れ去ら ハーグ条約を批准する方針を固めたと報道さ れた側の親が子どもの返還を訴えた場 れました。そうなると今後、日本は子どもの 合、相手国は子どもが連れ去られる前 連れ去り問題に真っ向から対処せざるを得な の居住国に迅速に帰国させる協力義務 くなると思われます。 を負う。現在、欧米を中心に 8 0 カ国以 本紙では、日本人の元妻に約 2 年前に子ど 上が加盟。日本は加盟していない。 もを連れ去られたシアトル在住のカール・ヒ ルマンさんと、国際離婚のケースを扱った経 験を持つシャッツ法律事務所の弁護士、井上 (「国際離婚」8 ページに続く)