Transition Design for Solving Sociotechnical Problems | 複雑化するデザインの未来を語る

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CHAPTER 1

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複 雑 化 するデ ザインの 未 来を語る

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Transition Design for Solving Sociotechnical Problems –– 物 井 愛 子+田 中 堅 大+江 原 満 怜+渡 邊 光 祐+田 村 祥 子+金 川 和 実

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Aiko Monoi+Kenta Tanaka+Misato Tanaka+Kosuke Watanabe+Shoko Tamura +Kazumi Kanagawa –– ––

2 016 TRANSITION DESIGN

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金川‖総合政策学部2年の金川です。今学期に研究会

––

に入ったため研究会の所属歴は浅いです。所属してか

田村‖本日は、2016 年度に研究会で開催されたブッ

らは主にファッションデザインの領域で実践に取り組み つつ、Transition Design のような新しい概念について

デザイン理論、Transition Design[1]についての座談

も興味があります。

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クレビュープロジェクトを経て提示された新しい学際的

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会を開催したいと思います。この座談会を通して、水野 大二郎研究室がどんな領域に興味関心があり、どのよ

渡邊‖環境情報学部3年の渡邊です。私が研究会に

うな実践がなされているのかを改めて明確にすることが

入ったのはちょうど1年前で、もともとデザインコンサル

できればと思います。また、座談会に参加していただい

ティングファームでバイトをしていたのがきっかけで水野 研究室を希望しました。そのためビジネス領域における

Transition Designをそれぞれの視点から議論してい

デザインの寄与に特に関心があり、キーワードとしてデ

くことで、本研究会の現況や今後の展開についても射

[3]やデザインストラテジー[4] ザインマネジメント と言

程にいられたらいいなと思います。さてそこでまずはブッ

えます。

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たメンバーは研究会所属歴も目指す方向性も違うので、

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はじめ に

クレビュープロジェクトに関して説明すると、毎年開催さ れるGDZ[2]という他大建築系研究会と一緒にフィー

江原‖総合政策学部3年の江原です。研究会の所属は

2 年目にはいっていてで、現在は都市計画や参加型デ

ルまでを二日間で行う合同ゼミに備え、関連書籍を読も

ザイン[5]、海路に興味があります。

TRANSITION DESIGN

ルドワークからアイディエーション、デザインプロポーザ う」 という話がそもそものきっかけです。初回は全員で読 み、その後に研究会の本棚から自分の興味関心と関連

田中‖環境情報学部4年の田中です。研究会履修歴は

すると思われる書籍を1冊選んで毎週発表する、という

休学期間含め3年目で、現在は卒業プロジェクトで都市

新規メンバーのリテラシー向上も目的としたプロジェクト

/音楽/メディアをキーワードに都市のリズム分析と再

でした。当初は選定された書籍を出版年と分野の2軸

表象、そして参加型デザインについて研究しています。

で分類し、整理することで研究会で扱われる領域の理 解を深めようとしていたのですが、結果として2軸では

物井‖総合政策学部4年の物井です。水野研究室は

扱いきれないほど多様になりました。そこでそうした「複

休学期間を含めると4年目です。私の卒業プロジェクト

雑化する社会におけるデザイン」をうまく理論的に整理

のキーワードはファッション/伝統継承/難民で、社会

した論文を見つけました。それが 2015 年、米・カー

問題を製品やサービスのデザインによって解決したいと

ネギーメロン大学で発表された Transition Design の

思っています。

関する論文だったのです。そこで本日はブックレビュー を介して得られた多 様な文 脈を前 提 に、Transition

田村‖ありがとうございます。それではTransition Design

Designをその中心に据えて本日の座談会を進めてい

についての座談会を始めたいと思います。

ければと思います。それではまず座談会参加者に自己 紹介をしていただき、その後早速ディスカッションを始め ていきましょう。私は環境情報学部2年の田村です。研 究会に入ったのは今年の1月、つまり先学期からです。 電子工作などにも興味関心があります。

[ 1 ]————— 米・カーネギーメロン大学スクール・オブ・デザインにおいて、今日のデザイン対象の 複雑性を取り扱い得る教育過程を指針を提示するために当該教授陣によって書かれた論文。 [ 2 ]————— 東京大学・東京藝術大学・慶應義塾大学・明治大学・日本大学・東洋大学から7 つの研究室から年に1 回開催される合同ゼミ活動。 [ 3 ]————— デザインの方法論を活用した経営手法。 [ 4 ]————— デザイナーの思考過程をビジネスにおける戦略意思決定や事業開発に活用するビジネスとデザインが重なった領域。 [ 5 ]————— スカンディナヴィア地域における労働者と雇用者の労働環境を巡る対話プロセスに端を発する、 多様な利害関係者を包摂した上での意思決定やシステム設計を目指すデザイン領域。

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いながら患者の治療スケジュールを決める難しさをXと

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いう問題として提示しています。そのような複雑な要因が

田中‖では早速、私の方からTransition Designを提

絡み合うシステム全体を変数としての「X」 とし、いかにし

唱したキャメロン・トンキンワイズ( Cameron Tonkinwise )ら

てデザイン領域からアプローチし得るのか、それをノー

の論文を考えていきたいと思うのですが、この論文で

マンらは思索しています。そしてその結果として 「漸進的 に一つの段階毎に一歩ずつ全体で合意形成をしていく ことで最終的な全体の不満度合いを最低限にすること

あり、その目的は「ライフスタイルの全てを特定の場所

が可能なのではないか」と仮説を提示していました。漸 進主義的設計プロセスを採用する背景には、ホルスト・

の取れたものへと再発明することを提唱すること」と説

リッテルが指摘したWicked Problem[7]が挙げられ

明 されています。しかし、これだけでは Transition の

るのではないでしょうか。リッテルはある問題に対して全

具体的な実践のあり方や言葉の意味も明確であると

てを解決する明確な解は存在せず、加えてその解がま

はいえません。実践的な例や言葉の意味を再考して、

た新しい問題の兆候になったりする 「意地悪な」性質が

Transition の上手い翻訳の検討が重要ですが、論文

存在することを指摘しました。そしてリッテルはこうした

においてもその Transition の意 味 は明 確 でないため

性質を前提に、デザイナーはこうした状況でもその解に 責任を持たなければならいことを提示しました。昨今で

我々水野大二郎研究室におけるTransition Design の

は、デザイン領域でもその設計対象がプロダクトからイン

それぞれの受容の仕方について考えてみてはどうでしょ

タラクション、そしてサービスから社会的制度にまで拡張

うか。僕は Transition Design の受容の仕方には主に

することで「意地悪な」性質がより強調されています。そ

三つあると思います。第一はドナルド・ノーマンらが発表

のことは DesignXとして著されたことからもわかるでしょ

した『DesignX: Design and complex sociotechnical

う。そこでそうした複雑な状況を解決するには、製品/

systems』[6]という論文への回答としての Transition

サービス/システムを状況に応じて移り変わらせながら

Design 。第二には次世代のデザイナーを育てる高等

問題に対して向き合っていくことが必要だというものが

教育の手法としての Transition Design 。そして第三は

Transition Design の特徴ではないでしょうか。

TRANSITION DESIGN

慎重になる必要があるでしょう。そこで、今回は最初に

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に根ざし、生き生きとした、参加型で、自然環境と調和

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Transition Designとは「デザイン主導によるサステナ ブルな未来への社会的移行、変化を提案すること」と

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トランジション・デ ザインの 解 釈

fig. 0 1

水野研究室のような領域横断的デザインの展望を検討 するための視点としての Transition Design です。当然

そこで第二、第三の Transition Design の受容の仕方

これらの Transition Design の受容の仕方は、相互に

が明らかとなります。大学をはじめとした高等教育にお

関係し合っています。

いてはこれまでのように一つの分野に特化するのでは なく、Transition Design のように領域横断的、あるい

第一の点についてより詳しく言及すると、ドナルド・ノー

は各要素が相互に関係しあう複雑な全体に対処できる

マンは 2014 年の「DesignX」において、政治や医療、

人材を育てる必要があり、そのために提供される教育

輸送システムのような複雑な問題を取り扱うときに、今日

プログラムの再検討が必要となります。恒常的に移行

のデザインがどう太刀打ちでき得るのかを述べています。

期にある学際的領域を専門性として獲得することは、

その例としてこの論文ではガンの放射能治療のプロセ

研究室内でもでよく紹介される水野教授のダイアグラ

スを取り上げ、その多様な利害関係者が複雑に絡み合

ム[fig. 01] のように、製品やグラフィックのようにモノだ

[ 6 ]————— 中国、同済大学に2015 年より新設されたデザイン・アンド・イノベーション学部における教育理念の策定を目的にドナルドA.ノーマン 氏がアドバイザーとなって 「デザインが果たし得る役割」が議論されたカンファレンスを基に書かれた論文。 [ 7 ]————— 『一般理論設計におけるジレンマ』によって提唱された問題解決におけるその性質を以下の 9 点から説明された。 1. 明確に問題が定 式化できない、2. 問題の定式化は解についての考え方から決まってくる、3. 終了規則をもたない、4. 解についていえるのは、良いか悪 いかである、5. 問題を解く手続きの完全リストは存在しない、6. 問題にはいくつもの説明が可能である、7. すべての問題は他の問題の 兆候とみなしうる、8. すべての問題はユニークである、9.しかし責任はもたなければならない。 デザインの方法論を活用した経営手法。 [ 8 ]————— 主に人間とコンピューターの関係性を設計対象とするデザイン領域。 [ 9 ]————— 人間中心設計。人間の深層ニーズや身体的特性、認知に基づく設計手法

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カーネギーメロン大学では学士/修士/博士とコース

ザインするようなインタラクションデザイン[8]やヒューマ

毎に段階的に学ぶことができるようですが、1960 年代 にアメリカ西海岸を中心として都市空間に出現したス

インや空間デザインのようなこれらモノと経験や感情が

ケーターたちは、すでにここで示される教育プロセスと

複数登場する階層、そして最後に社会的制度設計の階

似たようなことを自ら学び取って行ったと思うんです。例

層からなる三角形の4階層の相互作用が「今日の人工

えば『スケートボーディング、空間、都市―身体と建築』 [イアン・ボーデン, 2006] )では、スケーターがコンクリートを

と思います。

人工の波と見立て、都市空間のあらゆる場を狡猾に転

江 原‖私 が Transition Design において最も興 味を

を規制する法が登場するなどしスケートボーダー自らを、

ひかれたのは、 「日常的な実践」にも着目している点

都市を、法律を変遷的に改造していく形で Transition

です。私は人口減少や少子高齢化が社会問題とし

を実現していたのではないでしょうか。このようによく考

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物の設計対象や領域である」 という話にも関連している

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ン・センタード・デザイン[9]の階層、更にサービスデザ

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けに特化したデザインの階層、人間の経験や感情をデ

用していたことに着目しています。結果としてスケーター

えると他の分野でもすでにTransition Designで言われ

公共サービスをどんどん縮退させていく中で、小さな

るような段階的な変遷による複雑体系の変革や問題解

空 間 の設 計を通して住 民たちがそれに対して抗う方

決がすでに起こっているんじゃないかと思いました。

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て如実に現れ、経済的に困窮している地方の財政が

法を参与観察を通して得た知見から提案をするとい 渡邊‖スケーターの話はインフォーマルな日常的実践

た。Transition Design の論文においては「Everyday

から上がっていって最終的に法律というフォーマルなシ

Life」や「Cosmopolitan Localism」というキーワードを

ステムのところまで辿り着く力学だと思います。ですが、

用いながら、日常生活に影響を及ぼすことが肝心だと

僕の興味関心領域であるデザインマネジメントやデザイ

論文の中で論じています。普段の私たちの暮らしの中

ンストラテジーは、セルトーによる 『日常的実践のポイエ

に変化をもたらすために、現在日常生活で利用される

ティーク』[10][ミシェル・ド・セルトー , 1987]で説明された

ようなありふれた製品やサービスも見過ごしてはいけな

概念を借りると、戦術(タクティクス)に対しての戦略(スト

い。Transition Design ではデザインリサーチ・メソッド

ラテジー)からの力学であり、考え方が先のスケートボー

がそんな日常的実践を分析、理解するための手法とさ

ディングの話とは逆といえます。ただストラテジーは確

れていますが、自分たちが研究会で取り組んでいるリ

かに原則的には上から下と意思決定が下っていくもの

サーチメソッドの研究が Transition Designers に求め

ですが、かといって今日の複雑な社会構造の中では一

られているんだ、ということも改めて気づきました。

TRANSITION DESIGN

うプロジェクトMicro Social Agent に携わってきまし

方方向ではいられないでしょう。そこでメタデザイナー [11]は下から上、上から下と、どのようにその役割を担

田中‖その視点はすごい大事だと思います。Transition

うのかが課 題 です。また Transitionalなあり方 は PSS

Design の中で印象的な部分は、持続可能な未来をデ

[12]と密 接な関 係をもって説 明できるかと思います。

ザインをしましょう、と宣言していることです。デザインに

PSS はサービスやシステムの複合的な設計によって、環

関するあらゆる問題は持続可能性を前提にすること、そ

境コストをいかに低減させるシステムを実現するかとい

して不確定な未来に対して試作/思索することが必要

う環境政策系の分野から登場したため、サステナビリ

となることをこの Transition Designでは示 しています。

ティと相性がいいわけです。そこでデザイン領域の拡張

[ 1 0 ]————— 国家や企業が提示する 「政治的、経済的、科学的な合理性」に応じた規則化や規格化が「戦略( strategy ) 」であるとし、それに対抗し ながら権力管理の眼を逃れ、さまざまなな知恵に応じて 「なんとかやっていく ( faire avec ) 」方法を 「戦術( tactics ) 」 として言及された。 [ 1 1 ]————— 非デザイナーであった人々のデザイン行為を高次的に支援する設計を目指すメタデザインを行うデザイナー

Product Service System の略。経営学領域の解釈では従来の製品単体の販売からそれらに付随するサービスやメンテナンスも含めて [ 1 2 ]————— 設計/取引することで、持続可能な社会の実現と新たな価値創造を目指したビジネスモデル。

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[ 1 3 ]————— レーザーカッターや 3Dプリンタなど、コンピュータを併用し 情報を物質として出力する様々なデジタル工作機器を用いた個人単位でのものづくり。 [ 1 4 ]————— 半商品性。経済社会学者・渡植彦太郎によって指摘された主に金銭的な等価交換構造ではない市場原理では説明し得ない商品価値。 [ 1 5 ]————— レーザーカッターや 3Dプリンタなど、コンピュータを併用し情報を物質として出力する様々なデジタル工作機械を用いたものづくりのこと。 『野生の思考』[レヴィ=ストロース, 1967] のなかで示された、ありあわせの材料と道具を用いた即興的創作行為という概念。

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田中‖『日常的実践のポイエティーク』[ミシェル・ド・セ

をもってサステナビリティを目指す動きは至極当然の文

ルトー , 1987]において、日常的実践としてのブリコラー

脈かと思います。とりわけデザインとビジネスが交差す

ジュによって人々をもっと生き生きさせるために、デザイ (設計者)ができることはいろいろあ ナーやアーキテクト

体レベルでの話が進んできました。そうした製品が今日

るといった記述がありました。そもそも日常的実践を戦

ではデジタルデバイスと紐づくことでサービスとの密接

術/戦略で捉えたのがこの本の特徴なんですが、この [16] 思想を発展させたシチュアシオニスト というフラン

くなってきています。そこで、事業としての持続性を担保

スの芸術集団は、都市をもっと画期的に歩くために漂

する観点で製品/サービス/システムを組み合わせた

流/転用/流用というようなキーワードをもとに都市空 間を捉えて、イヌのマットを追いかけたり、手触りだけ

Transition Design は PSSなどのビジネスモデルの変

で行く方向を決めたりすることによって、いつも見ている

化とも切り分けられない重要な視点を提示してくれてい

ものから解放されて都市を経験しようとするなど、その

ると思います。

空 間を遊び倒していました。また、Center for Urban

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複雑な設計が求められているでしょう。そうした意味で、

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な関係性が生まれ、ただの物質としての製品は売れな

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る領域ではユーザー中心設計の観点から主に製品単

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としてPSS が用いられ、Transition Designという概念

Pedagogy( CUP )[17]という私の好きなニューヨーク 物井‖製品の価値が製品単体からサービス全体に移行

の NPO があるんですが、一般市民とグラフィックデザ イナーやニューヨークの都市計画を考える人が一緒に なって都市の使い方を考えるワークショップや、難民の

における製品の個別固有性も含め、半商品化[13]した

人や他国から来た人がどうやってニューヨークでベン

経済は人々の需要や欲望によって今後さらに変化してい

ダーを開くかというワークショップを開くことで、都市へ

くことでしょう。そして消費者だった人が生産者となる手

のリテラシーを上げるような活動をしています。CUP は

段を容易に入手できる時代が来ると、社会としてのサス

ボトムアップでやっていくためのシステムをトップダウン

テナビリティはさらに増すだろうという議論が『Design,

的に教え、それを最終的にメディアとして公開している

When Everybody Designs』[Ezio Manzini, 2015]

ので、研究会として必ず押さえておくべきですね。

でなされています。パーソナル・ファブリケーションもま た、Transition Design の1つの表 れではないかと思う

物井‖ちょっと戻ってサステナビリティに関してファッショ

のです。普通の人が日常で必要なものをつくるときに、

[ケイト・ ンの観点から話をすると、 『循環するファッション』

すでにある材料や手段を限定された環境の中でありあ

フレッチャー , 2014]においてフレッチャーは 「消費主義社

わせでつくる行為のことをレヴィ =ストロースは「ブリコ

会の負の側面が顕著に現れている中で、デザイナーの

ラージュ」[15]と呼びましたが、このようなボトムアップ

役割は変容せざるを得ない」 とデザイン教育に示唆を与

型ブリコラージュがインターネットやデジタル工作機械と

える言及をしています。つまり見た目のデザインのみな

接続し、結果として物質の消費を抑制するという意味で

らず、生産や流通のことまでを考えて広義のデザインが

環境のサステナビリティを高めることにつながるかもしれ

できるような人材としてのデザイナーを育てるべきだとい

ません。

うことです。例えば、スボンのボタンに金属の金具がつ いていることでリサイクルができないという事実を最初 からデザイナーが知っていて、それを他のパーツに代

[ 1 6 ]————— 1952- 72 年にヨーロッパの広範囲にわたる芸術・政治活動を展開したアヴァンギャルド・グループのことで、ギー・ドゥボールに代表さ れる。彼らは市民の消費の舞台である日常に着目しながら、創造的な実験社会を実現するために漂流/転用/流用といった概念をつ くりだし、都市を使い倒すさまざまな実験的実践を行なった。 [ 1 7 ]————— ニューヨークを拠点とする非営利団体であり、デザインとアートの力を援用することで、一般市民の都市への介入を手助けすることを目 的としている。都市計画立案者やデザイナーと一般市民が協働でワークショップを行うことで、都市で実際に暮らす一般市民に「まちの 使い倒し方」 を思索させることを促している。

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替することができればリサイクル率はぐっと上がるはず

ます。それに紐づく理論や態度の変化に関しては、一

です。パーソンズ美術大学のティモ・リサネンらが提唱

般市民やユーザーがどのように理解するかという二次

するゼロ・ウェイストファッション[18]もそうですが、広

的理解が大事なポイントだと思いますし、そこには IoT

義のデザインの 1 つとしてデザイン倫理に関する教育が

[19]を利活用した形でのエスノグラフィ[20]やデータ

できたらいいんじゃないかと思っています。

アナリシスとの融合など、変化中や移動中の世界を理 解、認識する方法論が求められるのではないかと考え

田中‖Transition Design の論文の中には Transition

られます。

Design Framework[ fig. 02]があります。これは変 化 をもたらすにはまずその視点が必要で、そのために理 論も変化させる必要があり、その変化した理論によって 人々の態度に変化を引き出すにはは新たなデザイン方 法論も必要となるということを説明する円環状に表現さ れた枠組みです。視点とデザイン方法論という観点で は、デジタルファブリケーションの登場でローカルで小 さな経済圏で生きながらもグローバルなインターネット に接続することが可能になったことがその好例だと思い

[ 1 8 ]————— 生地を使い切るようなパターン設計や何通りも着れるパターンで消費活動を抑制することで、 衣料品を生産する際に出るゴミや無駄を削減するファッションデザインプロセスにおける動き。

Internet of Things の略。Cisco Systems 社が提唱した通信/情報技術のみではなく日用品がインターネットに接続され相互通信を行 [ 1 9 ]————— うことで自動認識や自動制御、遠隔計測などが可能となるモノのインターネット化と呼ばれる概念。 [ 2 0 ]————— 文化人類学で主に用いられた質的調査における記述手法。状況や振る舞いを具体的に記述することで地域特有性を明らかにするため などに持ちられた。デザインの領域では設計に関する洞察を得るためのリサーチ手法として、これを簡素化したものがしばし用いられる。

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するのは、消費の対象が物質から経験に変わったことに よるものですよね。パーソナル・ファブリケーション[14]


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–– 物井‖ここまで、様々な立場からデザインに対する態度

Designとして複雑な社会的問題に対して行政や企業 の人はどう立ち向かうのか、そして私たち水野研究室は たいと思います。

上でここまで、 「漸進的な移行プロセスを設計する」や 「日常的実践を尊重する」といった話が出てきていまし た。ただこうした行為を持続的していくにはやはりビジョ ンが必要で、そのビジョンを考えるためにスペキュラティ ヴ・デザイン[21]のような概念を活用しながら企業や一 般市民との協働を生成するという新しい役割がデザイ

ザイナーという職能が広義な意味を持つようになったと しても、そういう人はディレクターに留まらない技術があ ると思います。そうやって狭義のデザインから出発しつ つも、広義のデザインにたどり着くんじゃないでしょうか。 田中‖私も大量生産前提の製品をデザインできるわけ じゃないし、留学中にグラフィックの勉強をしたり個人で 雑誌も出版、販売しましたが、だからといってグラフィッ クデザイナーでもないです。でもどんなデザインプロジェ クトをやっていても、カルチュラルプローブ[23]など ユーザリサーチのツール設計を考えなきゃいけない場 面などが出てきますし、プロジェクトを遂行する中で出て

渡邊‖確かにスペキュラティヴ・デザインは社会的革新

ファッションやインタラクション、建築、サービスなどの既

います。ただ、それを扱えるデザイナーって社会的認識 として結局なんなんだろうってなりそうですよね。ビジョ ンを示して、プロダクトも設計し、サービスもシステムも 同時に構築して始めて、 「この人はどこまでやるんだ」 と戸惑われる気がします。もし企業の中にこういう人が いたら、人事からすると 「謎の人」でしかないでしょう。 概して集団として人事的な観点でマネジメントされると いうことは、 「その人が何ができる人なのか」 という職能

TRANSITION DESIGN

ナーに期待されていると思います。

くる様々な課題を解決するには横断的なデザイン力が

を検討するにあたってのビジョン共有に有効だと私も思

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田村‖領域横断的で複雑な課題に立ち向かっていく

を実践に応用する人はグラフィックや建築、ファッション、 インタラクションなどを最初に学んでもいるわけです。デ

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どういうデザイナーとして振る舞うか、という話もしてみ

思っています。というのも、新しい概念を生み出し、それ

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や手法が話題としてあがりましたね。ここで Transition

物 井‖私 は基 本 的 には全 部 できなくてはいけないと

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領 域を横 断 するデ ザイナー

問われます。しかし、問題を具体的に解決するためには 存の領域を学ぶことで得られた技術や感性を前提に出 発するしかないのではないでしょうか。自分のポジショ ンを見つけて専門性を身につけるのみならず、他分野 へと拡張し、統合することも考えなきゃいけない。私の 場合はその領域が主にグラフィック/都市・建築/音 楽/メディアにありますが、それをいかに統合させるか 思い悩んでいます。自分が主体的に関わったプロジェ クトで得た知見や手法、技術や感性を 「統合すること」 が、自分の力になるのではないでしょうか。

を科学的要素として決定し、既存の組み合わせに最適 化されることを意味します。これは 20 世紀初頭の初期 経営学における 『科学的管理法』[22][ Taylor, 1911] の時代から根本的には変わりません。組織として最適 分業をして生産性を上げているのに、一人が急に複合 的にやり始めても周りからはやはり理解されにくいでしょ う。この問題は水野研究室が外から見たら何をやって いるのか分からないと思われる構造とあまり変わらない 気がします。研究室に所属する自分たちでもその研究 領域を一言で説明できない難しさ、もどかしさを感じて います。統合的にやるにしてもやはりどこに専門性があ るのかというデザイナーとしての「信条」を明かすことが 必要で、それが未来のデザイナーの課題になるのでは と思いますが、みなさんはいかがでしょう。

Hertzian Tales』 [ 2 1 ]————— [ Dunne, 1999]から端を発する批評的な 「問いとしてのデザイン」 。もともとはクリティカル・デザインという名称であっ たが『Design Noir: The Secret Life of Electronic Objects[ 』Dunne and Raby, 2004]頃からスペキュラティヴ・デザインとして普及した。 [ 2 2 ]————— 産業革命による資本家と労働者の対立を前提にstupid workerと呼んだ未熟錬工でも高い生産性を発揮するために、生産過程研究や マニュアル制度、タスク管理、段階的賃金制度、職能別組織を提唱した組織行動論の先駆け的位置づけにある論文。 [ 2 3 ]————— 英・王立美術大学( RCA )のインタラクション・デザインの教員であったWilliam W. Gaverらによる 『Cultural Probes and the Value

of Uncertainly』で提唱されたリサーチ対象者のデザイナーによる創造性喚起から設計に応用し得る知見の収集を目指す調査手法。

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Transition Designを読んでサステナブルな社会をつく

––

ろうと声を上げる人たちと、実際に社会を構成する人と

金川‖デザイナーという言葉もすごく紛らわしくて混乱

のギャップが生まれ大きな障壁になることでしょう。

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の種ですよね。この座談会の中でデジタルファブリケー ションを前提に誰でもデザイナーになれる時代が来ると

渡邊‖Amazon の倉庫で働く人のみならず、 「アルゴリ

いう話がありましたが、例えば従来型のデザイナーと渡

ズムのしもべ」としての労働者を生むような格差の問題 は概念が複雑で抽象的になればなるほど今後至る所

は全然違う。このように「デザイナーとは何を指している

で健在化すると思っています。そうなったときに領域横 断的にメタなものを理解する高等教育を受けてきた側 の人々は自身の戦略的な創造性を多くの人の戦術的

けになると思っています。高等教育というキーワードから

な創造性を融合したり、双方を調停したりさせる能力を

も 「誰が、何を、どう学ぶのか」ということを明確にした

持つべきなのでしょう。ただ、そうしたメタな視点でのデ

デザイン教育の設計が大切になりますね。

ザイナーとして複合的能力を発揮しながら価値を生む

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のか」 、 「どうしてそのようなポジションになっているのか」 といった理解が今後、様々なシーンで格差を生むきっか

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邊さんが話していたようなストラテジックなデザイナーと

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「 デ ザイン」が 意 味 するもの

には、自身のバックグラウンドを築き分かりやすい信条 田中‖以前、サービスデザインの話をしていた時に

を明らかにする必要があると思います。未来において

Amazon が挙がりました。現在、Amazon が提供する

多様な利害関係のなかで満足がいく合意形成をし、問 題解決への Transitionalな道筋を開くにはやはり相手

ウェブであれ、その裏では、巨大な倉庫で人間がコン

にわかってもらう努力をしなければいけないでしょう。

TRANSITION DESIGN

様々なサービス、例えば IoT であれ、ドローンであれ、 ピュータのように商品を探している。それってサービスデ ザインとしては優 れいてるかもしれないけれど、そこで

物井‖具体的な話にはなりますが、海外の大学では就

働いている人のことはあまり考えられてないなと思って

職活動に際してポートフォリオ[24]の提出があります

います。Amazon の倉庫ではすでにロボットの導入も

が、日本の履歴書にはそういったプロジェクトやスキルを

検討されていますが、そうなったら社員は就業時間中、

書くスペースがそもそもありません。そういった能力を書

何をするのでしょうか。誰にとってのサービスデザインな

ける欄があるだけでも個人がもつ職能が実務に最適化

のかも考えないといけないですね。組織のサービスデ

されていいなと思います。日本では入り口としての入学

ザインとして一人の天才経営者が全部マネジメントすれ

試験から出口としての履歴書まで、判断する側もされる

ばいいのか、アルゴリズムがマネジメントするのか。労

側も 「創造性」 を評価することに課題があると思います。

働環境も変数に組み込んだサービスデザインとして、倉 庫で働く社員が成長する機会はあるのかなども考える

田村‖先ほどから使われる 「格差」は面白いキーワー

必要があるでしょう。従って「デザインはどこまで拡張し、

ドですね。インターネットの普及からデジタル・デバイ

何を対象とし、どのような手法で問題を解決していくの

ド[25]についての議 論 がなされたのと同 様 に、この

かという問題」は時代に常に即応して考えるべきことが

Transition Design のような新しい概念が出てきた時に

多い性質があると思います。

それを理解している人だけが独走して、自分たちがアク セレートするべき組織や市民を置き去りにしてしまうリス

江 原‖Transition Designを書いた人たちもその部 分

クは今後ますます大きくなると思います。その点でプロト

は分かっていて、だから漸進主義的なプロセスを採用

タイプは共通言語としての働きをしてくれそうですね。

しているのでしょうね。 渡邊‖私もデザインストラテジストの観点からしばらく 田中‖私たちはデザインといってもいろいろな設計対象

「モノを作らない」デザイナーのように議論に参加して

があることを知っていますが、世間的にはデザインって

いましたが、もちろん試作という行動には大きな意義を

「なんだかかっこいい」 ぐらいのイメージです。 「インター

感じています。というのも 「複合的な能力をもつ人材とし

ネットが何なのか」というのを理解していない人がいる

てのデザイナー」達が大規模な企業では、その経営的

のと同様に、この問題は今後とても大きな格差を生んで

意思決定に関わっていないのが不思議なんですよね。

いく気がします。この格差を埋めないと私たちのように

彼らはプロダクト/サービス/システムを複合させるた

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[ 2 4 ]————— アート・デザイン領域における文脈での自身の能力を周囲に伝えるための自己作品集。 [ 2 5 ]————— 情報格差

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渡邊‖そのとおりだと思いますね。それにしてもTransition

下請けのように土方としての扱いを受けてしまう現状に

Designぐらいになると、その言 葉を使わないでその概

すごく違和感を感じています。田村さんの共通言語とし

念を説 明 するのはすごい難しいですね。ものすごく時 間や手間がかかるのでそもそも途中で飽きられてしまう

大な影響を与えられるにも関わらず。ただやはり今日の

かもしれないですし。研究会でもよく言われていること ですけど「自分のおじいちゃんやおばあちゃんに説明で きるくらい」言い換えるのは本当に難しいですよ(笑)

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複雑すぎる環境はやはり人間の認知限界を越えている ため、合意形成という観点で試作という共通言語はより

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ての試作という考え方から確かに企業の意思決定に重

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めのリサーチと思考、製作までをできるのも関わらず、

重要になってくるでしょう。 金川‖今は研究会も幅広くやっていますが、今後こうい う概念が広まったら、ひとつの研究室が一つの分野の

な役割分担としてプロジェクトマネジメントをやる人とデ

中でも細分化、特化するようになっていくと思います。そ

ザインをやる人に分かれたんですが、 「私がデザイナー

ういう状況はやがて来るのでしょうか。

2 016

江原‖確かに最近プロジェクト型の授業の際、人事的

をやります」と言うと 「じゃあスライドをお願いします」と なってしまったことがあります。これが「デザインをやる」

物井‖おそらく日本では無理なんじゃないかなあ。ヨー

ということが「見た目をつくる」という意味で誤解され、

ロッパやアメリカでは 20 年ほど前から新しいデザイン 教育のための状況がができているのに、日本は全くそう

と思いました。私はそれに納得できなくて「話し合いの

いった動きがないですよね。

TRANSITION DESIGN

グラフィックデザイナーとして即座に見られているんだな 段階からデザイナーが入り込んでいくのが協働だ」 と説 明し、他のメンバーも理解してくれました。ここから私は

田中‖まだまだ伝わってきてないんでしょうね。水野研

行動で見せることが一番なんだなって思ったのと同時

究 室 にいるからこういう情 報 が入ってきますが、SFC

に、やり方次第で誰でもできることを伝えることが必要

ですらスペキュラティヴ・デザインやデジタル・ファブリ

だなと思いました。ただし現場での経験から芽生えてく

ケーションのことを知らない人はいます。それがデザイ

るのを待つのか、事例を学ぶのか、教えることで掴んで

ナーの職能の変容とどう関係しているのか、想像できな

いくのか、意識改革と実践経験のどちらが先か、など

い人の方が圧倒的多数でしょう。私たちの「コミュ力」が

不明瞭な点も多いのが正直なところです。そもそも順番

問われていますね(笑)

などあるのかはわかりませんが。 金川‖水野研究室的なデザイナーの活動領域だった り、Transition Design のことを知っている人は確かに ごく僅かですよね。しかしこれらのことは本来もっといろ いろな人が考えるべき概念だと思うし、研究室内だけに 留まっているのはもったいないと思うんです。こういった 新しい視点はどうやったら理解してもらえるんでしょう。 田村‖それは各デザイナーの翻訳能力に関わってくると 思っています。例えばこの座談会で Transition Design という言葉を使わなくてもいいわけです。各自が内容を 理解し、こういうふうに適応できるんだって知ることで、 経営者にも職人的なグラフィックデザイナーにも伝わる 言葉が選べるようになると思うんです。デザイナーがそ れぞれのプレイヤーに合わせて翻訳することで、いろい ろな人に広めることができるはずです。

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––

田中‖世界ではTransition Design や Transformation

Design[27]など新しい学際的デザイン領域について

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の研究、実践が行われています。それを踏まえ、自分の やっているプロジェクトにどうやって包括的な視点をもた らすか、それを 「自分もいる未来の社会のデザイン」に

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さいごに

繋げることが重要だと思いました。 江原‖私はサステナブルとかインクルーシブといった概

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念を安易に使うのは気をつけたいと思っています。経験 しないと分からないことはありますし、それが人間中心 設計における共感でもあるし、UX でもある。でも、自分 の理念と現実のギャップはどうやったら埋まるんだろうと いう不安も生まれました。

TRANSITION DESIGN

物井‖持続的、包括的開発の現場に文化人類学的手 法を用いることで地域住民との意思疎通ができた、とい う例は多いと思いますが、意見を共有すること、一緒に 試作することなど、 「間」をうまく調停することの価値の 重要性を、今日は改めて認識しました。 金川‖この座談会だけで、エシカルファッションや地方 再生、スケートボーディング、PSSと多様な分野からキー ワードが出 てきていますね。Transition Design や水 野研究室の特徴だと思うんですが、サステナブルな未 来やエコシステムといった大きな枠組みで物事を考え つつ、どうやって社会をよくしていこうかという具体的な 案の実践に着地するのはやはり非常に面白いと思いま した。外から見るとバラバラでよく分からない研究会に 思われていても、ちゃんと話を聞いてみると誰もが共感 できるプロジェクトや考え方に取り組んでいるんだなと改 めて思いました。 田村‖ボトムアップでやっていきたい人もいるし、トップ ダウンでやっていきたい人いるけど、結局トップダウンで やっていきたい人もボトムアップをしやすいようにするた めのシステムをつくっていることになるし、視点は違うに しろ目指しているゴールは同じなんだ、ということを実感 しました。 みなさま、本日はどうもありがとうございました。

[ 2 7 ]————— 2004 年に英・デザイン・カウンシルによってデザイン・ドリブン・イノベーションの研究と実践を目的に設立されたREDから著された概 念であり、個人やシステム、組織間での行動や形式において、望ましい持続可能な変化をもたらす人間中心的かつ学際的なプロセスを もつ。多様な利害関係者と要素が絡み合った複雑な社会問題を、デザイン思考やデザイン技術を通して解決することを目的としている。

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2 013

五 十 音 順 、アルファベット潤

–– 饗庭伸『都市をたたむ——人口減少時代をデザインする都市計画』花伝社、2015 年

2 014

東浩紀、北田暁大『東京から考える——格差・郊外・ナショナリズム』日本放送出版協会、2007 年 アトリエ・ワン、塚本由晴、貝島桃代、田中功起、中谷礼仁他『アトリエ・ワンコモナリティーズ ふるまいの生産』LIXIL 出版、2014 年 アンソニー・ダン、フィオーナ・レイビー『スペキュラティヴ・デザイン 問題解決から、問題提起へ。——未来を思索するためにデザインができること』 ビー・エヌ・エヌ新社、2015 年

2 015

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参考文献

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2 016

ヴァン・アベル、バス、エバーズ、ルーカス、クラーセン、ロエル、 トロクスラー、ピーター『オープンデザイン』オライリージャパン、2013 年 ヴィクター・パパネック 『生き延びるためのデザイン』晶文社、1974 年 ヴェンチューリ 『ラスベガス』鹿島出版会、1978 年 エレン・ラプトン 『万人のためのデザイン』 ビー・エヌ・エヌ新社、2015 年 貝島桃代、黒田潤三、塚本由晴『メイド・イン・トーキョー』鹿島出版会、2001 年 門脇耕三、西沢大良、千葉雅也、國分功一郎、吉村靖孝他『 「シェア」の思想/または愛と制度と空間の関係』LIXIL 出版、2015 年 岸本 章弘、中西泰人、仲隆介、馬場正尊、みかんぐみ『POST‐OFFICE——ワークスペース改造計画』TOTO 出版、2006 年 クラウス・クリッペンドルフ 『意味論的転回——デザインの新しい基礎理論』エスアイビーアクセス、2009 年

TRANSITION DESIGN

クリストファー・アレグザンダー『まちづくりの新しい理論』鹿島出版会、1989 年 黒須正明、松原幸行、八木大彦、山崎和彦『人間中心設計の基礎』近代科学社、2013 年 ケイト・フレッチャー、リンダ・グロース『循環するファッション 新しいデザインへの挑戦 FASHION & SUSTAINABILITY』文化出版局、2014 年 ジェレミー・リフキン 『限界費用ゼロ社会——< モノのインターネット>と共有型経済の台頭』NHK 出版、2015 年 ジェーン・フルトン・スーリ 『考えなしの行動』太田出版、2009 年 ジョアン・フィンケルシュタイン 『ファッションの文化社会学』せりか書房、1998 年 情報デザインフォーラム、山崎和彦、浅野智、上平 崇仁『情報デザインの教室 仕事を変える、社会を変える、これからのデザインアプローチと手 法』丸善、2010 年 ジュリアカセム、平井康之、塩瀬隆之他『インクルーシブデザイン: 社会の課題を解決する参加型デザイン』学芸出版社、2014 年 広井良典『コミュニティを問いなおす——つながり・都市・日本社会の未来』筑摩書房、2009 年 藤村龍至、チーム・ラウンドアバウト 『アーキテクト2. 0 2011 年以後の建築家像―藤村龍至 /TEAM ROUNDABOUTインタビュー集』彰国社、

2011 年 プラクティカネットワーク 『日常を変える!クリエイティヴ・アクション』 フィルムアート社、2006 年 ペーターヒューブナー『こどもたちが学校をつくる——ドイツ発・未来の学校』鹿島出版会、2008 年 トーマス・トウェイツ『ゼロからトースターを作ってみた』鳥新社、2012 年 日経デザイン 『デザイン・リサーチ・メソッド10』日経 BP 社、2009 年 水野大二郎『学際的領域としての実践的デザインリサーチ——デザインの、デザインによる、デザインを通した研究とは』 、 2014年 モニーク、三浦展、皆川典久、吉村靖孝、深澤晃平他『トーキョー・トーテム 主観的東京ガイド/Tokyo Totem –A Guide to Tokyo』 フリックスタジオ、

2015 年 山本理顕『地域社会圏主義』 、LIXIL 出版、2013 年 ヤン・ゲール『建物のあいだのアクティビティ』鹿島出版会、2011 年 吉田武夫『デザイン方法論の試み——初期デザイン方法を読む』東海大学出版会、1996 年 リチャード・フロリダ『クリエイティブ都市論——創造性は居心地のよい場所を求める』 ダイヤモンド社

、2009 年

ランドスケープ・エクスプローラー『マゾヒスティック・ランドスケープ——獲得される場所をめざして』学芸出版社、2006 年 鷲田清一『ファッション学のすべて』新書館、1998 年

Christopher Stuart『DIY Furniture: A Step-by-Step Guide』Laurence King Publishing, 2011 Ezio Manzini『Design, When Everybody Designs: An Introduction to Design for Social Innovation (Design Thinking, Design Theory)』 The MIT Press, 2015 Frederick Winslow Taylor『The Principles of Scientific Management』, 1911 Jeffrey Hou, Benjamin Spencer, Thaisa Way, Ken Yocom『Now Urbanism: The Future City is Here』Routledge, 2014 Mike Lydon, Anthony Garcia『Tactical Urbanism: Short-term Action for Long-term Change』Island Pr, 2015 PHYLLIDA BARLOW『Autoprogettazione Revisited』Beacon Press, 2009 Terry Irwin, Cameron Tonkinwise, Gideon Kossoff『Transition Design: An Educational Framework for Advancing the Study and Design of Sustainable Transitions』, 2016 Thwaites『GoatMan: How I Took a Holiday from Being Human Thomas』Princeton Architectural Press, 2016 Donald A. Norman『DesignX: Complex Sociotechnical Systems』, 2015

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