Contents
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プロジェクト概要
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8 裏山の木
①鉄筋加工 ②丸太加工
COLUMN6:
COLUMN1:
採取した木々を正確に読み取る
倉庫のバス停
ゴンジロウ塾Ⅰ期
③型枠 COLUMN10:
地域の活動とテレワーク
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計画地
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COLUMN7:
COLUMN2:
木々の強さを計測する
西岬海辺の里づくり協議会
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デザイン・施工体制 COLUMN3:
NPO ゴンジロウ
構造設計
停留所のデザイン COLUMN4:
裏山の風景をバス停に COLUMN5:
台風で壊れないバス停とは
ゴンジロウ塾Ⅱ期 ①独立基礎・型枠 ②土間基礎・立ち上がり
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施工方法・施工手順
③柱 ④梁・木材加工
COLUMN8:
⑤ベンチ
行政審査と建築デザイン
⑥屋根
COLUMN9:
PHOTOS
活動を知ってもらう
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CREDIT / SP THANKS
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プロジェクト概要 COLUMN1
千葉県館山市の塩見区にある上り ( 館山駅 ) 方面の停留 所の新築工事である。2018 年の強風により壁が抜けた こと、劣化や雨漏りが激しかったことから、住民が建て 替えを発案したことが初まりであった。
倉庫のバス停 サビなど老朽化に加え問題点も多く あったため、新たなバス停はこれらの 問題点を解決する事も目指された。 ・視認性が悪く、風雨が激しい時以外 内部が機能していない ・吹き溜まりがあり内部環境がよくない ・段差でつまづく危険性がある
建材の入手、住民と建物のデザインの決定に 1 年、行 政審査・クラウドファンディング・施工に 1 年を費や し 2020 年 12 月に竣工・完成した。
プロジェクト開始
デザイン方針決定 台風被害
デザイン決定
施工開始
竣工
木材 3D スキャン
デザイン提案
裏山の木
クラウドファンディング
詳細検討
材料実験
構造計算 建築審査会
事前協議
行政申請
確認申請
施工
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計画地 館山市 - 塩見区
千葉の先端に位置し、東京から東京湾アクアラインを利用し 2 時間程度で着くリゾート地である。 塩見区は館山市の中心部から西へ車で 15 分ほどの距離に位 置する西岬地区の中の集落の一つで、半農半漁の営みに加え 旅館業が行われていた場所である。高齢化率も 47.9% と館 山市の他の地域よりも高い割合であるが、交通の便がよいこ とから新規移住者 や別荘所有者が増加し、人口の 4 割近く 占めていることが特徴である。
東京
安房塩見バス停 館山 2h
塩見
15min
休暇村
ゴンジロウ
館山
安房塩見バス停
運行本数が少なく長時間停留所で待つこともあるため物理的 にも心理的にもより使いやすいものに変える必要があった。 住民だけではなく観光客も利用するため「デザイン性の高い もの」へのニーズもあり、機能性との両立を目指した。 強烈な西日
COLUMN2 西岬里づくり協議会 茅葺き民家「ゴンジロウ」を借りたことを きっかけに地元住民有志、市職員、教員、 学生をメンバーとして設立された。 地域コミュニティに基づく美しい里山の景 観を維持しながら、新しいコミュニティ運 営の形を探ることを目標に活動している。 ケア活動以外にもテーマについて話し合う かや談義、餅つきといった活動をメンバー と 地域住民と協働している。
バスと人の見合
館山駅
SHINRA
西側からの強風
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デザイン・施工体制 協議会で建て替えプロジェクトが発足し、建築デザインを行 う筆者 FY と区の現状や要望を伝える住民、建築家・教員・ 大工といったアドバイザーをコアとする体制でデザインを 進めた。施工は、旅する大工いとうともひさを代表とする NPO ゴンジロウにより、建築を学ぶ学生が参加するゴンジ ロウ塾の一環として進めた。
クラウドファンディング
資金支援
利用
地域住民 観光客
デザイン
安房塩見バス停
施工
西岬海辺の里づくり協議会
COLUMN3 NPO ゴンジロウ NPO 法人ゴンジロウは 2019 年の台風 19 号を受 け発足した。職人による建物の復興が追いついてい ないことを乗り越えるチャレンジを行っている。 房総半島で長期的に、地域の人たち、地域の力にな る外部の人たちに建築を教えるゴンジロウ塾という 建築塾を開校して災害で被災してもしなやかに対応 できる地域づくりを目指している。
バス停利用者
116名
NPO ゴンジロウ
地元住民
学生メンバー
専門家・教員
多能工 大工
参加者
停留所の問題 区の現状・要望
具体的な提案 模型化・図面化
専門家の視点 実現性の視点
参加者への技術教育 施工の請負
大工技術習得 施工協力
利用者視点の指摘
設計・デザイン
専門家視点の指摘
施工スキルの教育
施工スキルの体験・実践
プロジェクトチーム
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停留所のデザイン 協議会において、約 1 年をかけてデ この場に相応しい停留所を考えた時、 ザイナーと住民が議論を重ね最終的な 住民から提案された裏山の木を活かす 形を決めていった。木造は初期から決 ことがその第一歩となった。自然に生 まっていたものの、具体的な形は決め えている木を建材化する試みの中で 手を欠き「決定的な何か」が足りない 「森の中にいるようなバス停」という まま提案を続けていくことに限界が コンセプトが生まれ、方向性が出来た。 あった。 同時に、日本を巨大な台風が襲った。
既存のバス停は強風で倒壊した。壊れ ていた周囲のバス停を観察すると、通 常風除けとしてある壁があまりの強風 で壊れたことが倒壊の引き金になって いた。そうして「台風を受け流す」構 成が生まれた。
これらの決定的な方向性と構成によっ てデザインはある形へと向かった。形 の決め手は協議会のメンバーから提供 された裏山の木であり、住民・デザイ ナー双方が「納得感」を持ったデザイ ンとなった。
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COLUMN4
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木々の配置をバス停に 何度も山に木を見にいくと、次第に木々が作る柔らかな空間の作り方に魅了さ れた。実際の木々の配置を写し、敷地とバス停の機能に合うよう最適化した。
選定した木
木々の配置
COLUMN5 台風で壊れないバス停とは 壁や屋根などが強風に抵抗していたことが倒壊した原因と分かったため、風を 受け流す抵抗面の少ない建築を目指した。
倒壊した既存バス停
倒壊した周辺のバス停
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裏山の木 裏山の木とは集落の奥にある山に生えるヒノキのことである。 協議会メンバーでゴンジロウの所有者でもある方からバス停建 設のためならと昔植えた木々を提供していただいた。 裏山の手前は休耕地となっており、近くに行くことすら困難な 状態であった。再度道を作り確かにそこに植わっていることを 確認した後、約 1 年をかけ材木屋、木こり、学生など沢山の方々 に手伝っていただきながら建材化していった。
STEP.01 事前調査
STEP.02 木々の乾燥を促す皮むき
2019.5
2019.1 材木屋さんに木々をみてもらう。急勾配の土地で
立ち木による自然乾燥を目指し皮むき間伐を行う。
あり人力による搬出を見据え細い木々を選ぶ。
約 3 ヶ月後には葉が茶色くなり十分乾燥された木々になる。
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COLUMN6 採取した木々を正確に読取る 製材を行わず自然の状態の木々を使うこと になってからどの木をどこに使うのか、ど う見せるのかが重要になった 木々を搬出するまではスケッチを行い大ま かに使う部分を把握、搬出後は 3d スキャ ンを行い実際の木々の枝ぶりを細部まで読 み取りデザインに活かした。 木の特徴を把握するスケッチ
木の特徴を正確に把握する 3D スキャン
STEP.03 木こりさんと行なった伐採
STEP.04 山から木々を搬出
2019.8
2019.11
木こりさんに木々を伐採してもらう。但し、乾燥が思いの外
十分に乾燥が進み木々もかなり軽くなったため搬出。山で 3m 前後に
進んでおらず搬出は延期、追乾燥を行うことにした。
切り滑り出しで山から下ろした。7 本の木々から 17 本の建材が取れた。
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構造
COLUMN7 木々の強さを計測する
「地震で倒れないこと」 「強風で倒れないこと」の 2 点が重視された。 地震に耐える方法として、停留所の重要な機能である座椅子を建築 と一体化する方針が取られた。強風対策は強い引き抜き力が発生す ることが考えられたため、十分重い基礎にすることとした。柱ごと に受ける力が違うため、それに応じた大きさの異なる独立基礎を採 用した。構造解析で部材の安全性も確認しており、木々の枝振りも ブレース材と同様の効果を果たしている。
採取した木々にどれくらいの強度があるのか知るた めに強度実験を行った。丸太から心材と辺材を角棒 の状態で取り出し曲げ負荷をかけた。結果として、 市販の角材と同等又はそれ以上の耐力があることを 確認した。
角材の取り出し
座面ブレース
水平力を負担する構造材
枝振りブレース
自然の造形を構造に活かす
独立基礎
引き抜き力に耐える
基礎天端
土間部分よりレベルを高 くし、腐食を防ぐ
構造概念図
構造解析図
強度実験
断面詳細図
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施工方法・施工手順 各種申請、クラウドファンディングを行い建設フェーズに 入った。施工はゴンジロウ塾のメンバーを中心に 2 期に分 けて行われた。Ⅰ期ではゴンジロウで各種部材の事前加工、 Ⅱ期には敷地で建設を行い、約1ヶ月の作業を経て竣工した。
工事開始
各種申請
ゴンジロウ塾Ⅰ期
ゴンジロウ塾Ⅱ期
・占用許可申請
・鉄筋 / 丸太加工
・独立基礎 / 型枠
・建築許可申請
・型枠
・土間基礎 / 立ち上がり ・柱
・建築確認申請
・梁 / 木材加工 クラウドファンディング
COLUMN8 行政審査と建築デザイン 敷地が県道なので行政との調整ごとが多く、 デザインへの制約もあった。最もデザインに 影響したのは高さ制限であった。 歩行者や自転車が危なくないように軒下を 2.5m 以上にする必要があった。雨の吹き込 みを極力抑えるために天井面を低く設計して いたが変更することとなった。 協議を繰り返し行い相互に妥協点を模索する 必要があったが、千葉県と館山市から建設の 許可を取ることが出来た。
COLUMN9 活動を知ってもらう 行政手続きを進めている最中にクラウドファン ディングを開始した。資金調達は勿論のこと、ク ラウドファンディングを通して塩見や館山のこ と、台風のこと、私たちの活動のことなどを知っ てもらうキッカケとなることを考えた。また、施 工開始から竣工まで、地元有力紙である房日新聞 に 3 回の連載として取り上げていただいた。 これらの活動によって今まで接点の無かった人に 声をかけてもらえたり、バス関係者に支援をもら えたりと幅広く協力が得られた。
・ベンチ ・屋根
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ゴンジロウ塾 Ⅰ期 ①
鉄筋加工
今回独立基礎は、650 角、450 角、 350 角、240 角の 4 種類に分かれ ているため、それらに合わせて鉄筋 をカットした。 それらを OGURA 君という愛称の 付いたベンダーを用いて曲げ、ハッ カーを使って結束する。 元施工管理士の宮内さんがアドバイ スをしてくれたことにより、効率良 く作業を進めることができた。
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ゴンジロウ塾 Ⅰ期 ②
丸太加工
材の表面を金だわしで磨くことで綺 麗な表面に仕上げるこできたので、 丸太が持つ風合いをそのまま活かす ことが決まった。 仕上がりを綺麗にするために手ノコ で底部を切りそろえた。中身の詰 まった木材を切り出すのは重労働 で、手作業の大変さを実感したほか、 少しのずれで地面との隙間ができて しまうため、細かい部分が見た目や 仕上がりに大きく影響するというこ とが分かった。
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ゴンジロウ塾 Ⅰ期 ③
型枠
材料確認してから桟木とコンパネを 切り出していく。図面から必要な型 枠の寸法を割り出し、必要なピース を拾っていった。ここで風車のよう に桟木とコンパネの組み方を調整す ることで、同じ作業の繰り返しでで きるように工夫した。 自分らで主体的に考えながら、施工 性や強度などの優先順位を判断し て、施工の仕方を工夫しながら決め ていく良いトレーニングとなった。
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COLUMN10 地域の活動とテレワーク コロナによってテレワーク・リモート授業が促進 されパソコンとネット回線さえあれば何処でも働 けて学べるようになった。そのため、今まで出来 なかった平日に地域の活動に参加することが可能 となった。今回のゴンジロウ塾では実際に新しい 日常生活と地域活動の両立の一例となる試みを行 うことが出来た。
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ゴンジロウ塾 Ⅱ期 ①
独立基礎 型枠
道路脇の作業であるため、掘削は手 掘りで行った。土がサラサラなため、 650 角独立基礎の下端に合わせて 90cm ほど掘ると決めた。その深さ は、道行く人にホテルが立つのかと 冗談を言われるほどである。 そこに捨てコンを打ち、墨出しを行 う。その上に型枠と鉄筋を配置した。 コンクリ打設時にずれないよう、自 具を作り配筋、パイプを固定。打設 も同様、手運びで行った。暗くなる までの作業が終わると、第一関門を 突破したことに皆安堵した。
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ゴンジロウ塾 Ⅱ期 ②
土間基礎 立上がり
打設面が乾かないよう、土間基礎と 立ち上がりは同日に打設した。 配筋を行い、コンクリを打設。ハッ カーの扱いに慣れてくると作業ス ピードも上がる。車通りの少ない時 間帯を狙い、短時間で生コン車から 直接土間に流し込んだ。 立ち上がりの小さいところでのコン クリートの扱いは難しく、コテを使 いながら丁寧な作業が必要だった。
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ゴンジロウ塾 Ⅱ期 ③
柱
柱下部はパイプの径に合わせたボア ビットを用いて丸太の中心に穴を開 ける。予め径の小さいドリルビット で複数の穴を開けておくことで、道 具に優しく作業効率を上げることが できた。 道具は誤った使い方をすると駄目に なってしまうため、道具の仕組みを 理解したうえで正しく使うことが大 切だと感じた。 また、柱の下端のホールダウン金物 が取り付く部分をノミで削り、平ら にした。この作業は、コンクリート 打設の際に生じた柱固定用のアン カーボルトの位置のずれを納めるこ とにもつながった。
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ゴンジロウ塾 Ⅱ期 ④
梁 木材加工
丸太は水平器を用いて高さを合わせた 後、施工の手間や部材のズレを減ら すため、丸太は倒さずに立てたまま チェーンソーで切りそろえた。 これまでの施工過程で発生した誤差を 埋め合わせるため、梁の位置は現場で 合わせ、垂木を挿す切り欠きの角度も 現場で見ながらノミで切り欠いた。長 手方向の梁を設置した後、順に上から 短手方向の梁を打ち込み、金物を取り 付けた。ノミで切り欠く際は、予め丸 鋸でラインに切り込みを入れること で、施工性と完成度を上げた。
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ゴンジロウ塾 Ⅱ期 ⑤
ベンチ
曲面であるため丸太周りの加工は難 しい作業であった。横材両端に来る 柱面を予め形を合わせたベニヤに光 つけし、それをあてがって卓上糸鋸 で加工した。 接合部は梁と柱の両方にほぞ穴をド リルであけ、鉄パイプを噛ませるこ とで固定した。施工性と正確さを考 えての判断である。そしてブレース の設置、接合部の金物による固定を 行った。 座面は柱材である檜に合わせ、針葉 樹の中でも粘り気があり、座り心地 の良い杉を選んだ。
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ゴンジロウ塾 Ⅱ期 ②
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屋根
屋根は垂木の上に野地板とアスファ ルトルーフィングを敷き、ガルバリ ウム波板で葺いている。野性的な柱 と大梁に対してシャープな納まりが 対照的な設計となっていた。 野地板の小口と端を押さえる桟木に波 板と同系色の亜鉛メッキ塗料を塗って 存在感をすっきりと見せる工夫をして いる。高所での作業であることに加え てこれまでに比べて少ない手数で収め る工程であり、屋根に上る前の周到な 段取りが肝心であった。
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Credit 西岬海辺の里づくり協議会メンバー 荒井毅 飯沼宏太郎 飯沼武 飯沼肇 岡部明子 小金晴男 鈴木信雄 鈴木守
NPO ゴンジロウメンバー 井関瑞生 伊藤智寿 河村佳萌 菊池裕斗 杉浦匡 田中翔太 日比野遼一 矢野裕一朗
建築デザイン
岸田一輝 あわデザインスタジオ 東京大学大学院岡部明子研究室 福田泰之
構造デザイン
佐藤淳構造設計事務所 東京大学大学院佐藤淳研究室
佐藤淳 都筑碧 金澤亮磨
ブックレットデザイン 福田泰之 矢野裕一朗
SP Thanks
荒井毅 飯沼信宏 高木俊 國江悠介 森下裕介