都市の遺場所 ~墓地の代謝から読み解く都市の更新~
都市に新たな墓地を開発することが困難な今、墓地の代謝と周辺環境との相関から、これからにおける建物の更新と墓地の更新を再考する。
そして、未来における墓地を人々の共同体としての遺場所(オープンスペース)へと転換していく。
用途 墓地・オープンスペース 期間 B�後期 受賞
敷地 大阪府大阪市上本町 せんだいデザインリーグ����卒業設計日本一決定戦 ��位 日本建築学会 全国大学・高専卒業設計展示会出展 第��回学生設計優秀作品展 -建築・都市・環境-(レモン展)出展 第��回「街並みの美学」トラベルスカラシップ �選 近大展���� 優秀賞(芦田賞)
��.オープンスペースとしての墓地
敷地は大阪上本町の寺町。墓地を各寺院が境内に所有し、機能を持ったオープンスペースとして残り続けている。
墓地に面して、都市開発により住宅、マンション、事務所ビル、店舗などさまざまな用途の建築物が建てられている。南面であればベランダや大きな開口を設け、北面であれば小さい開口、裏の機能を設けるなど、都市のボイドに対す るさまざまなふるまいを見せている。
��.墓地と墓地に面する建物
��.墓地と固定的・流動的な周辺敷地
墓地と周辺との関係を見るために、まず、����年~����年の航空写真、住宅地図などを使いそれぞれの敷地の変化 を追った。その結果、墓地の敷地内変化はほとんどないことがわかり、周辺敷地は寺や参道など変化が少ない固定的 な敷地と、マンションや事務所ビルなど都市開発によって変化が大きい流動的な敷地の�つに分けられた。
固定的な敷地は比較的、立地環境が良く、騒音も少ない。対して、流動的な敷地は日当たりや風通しが悪く、騒音も 多い建築用途がみられる。
墓石の裏に刻まれている建立年を調べ、墓地内における墓石の建立年の分布化を行うことで、建立年の関係性を可視化した。 墓地内のみでの建立年の傾向や、法則などは見られなかったため、周辺環境との関係性から分析を試みる。
墓石年代:均一<混在 細かく年代が分かれ様々な年代の墓石がみられる。
周辺環境:固定的<流動的 南側には寺と庭がみられ、北側には住宅や店舗、事務所ビル、 マンションなど、更新の頻度が高い建物が建つ。
墓石年代:均一>混在 比較的新しい墓石がまとまって建ち並んでいる。
周辺環境:固定的>流動的 南側に人道理の少ない道、東西を寺で囲まれている。
墓地内における墓石の古さを分布化させた。そのうえで、周辺環境との関係をみるた め立面をアイソメ化し、墓石の年代との相関を見ていく。
墓石の裏に刻まれている建立年を調べ、墓地内における墓石の古さを分布化させた。
着目した点は ・墓石の年代の均一化・混在化
・周辺環境においては更新頻度(固定的・流動的な敷地) に加え、建物用途である。
平成��~平成��年(����~����)
昭和��~平成��年(����~����)
昭和��~昭和��年(����~����)
大正��~昭和��年(����~����)
明治��~大正��年(����~����)
明治�~明治��年(����~����)
嘉永�~明治�年(����~����)
文政�~嘉永�年(����~����) 享和�~文政�年(����~����) ~寛政(~����)
墓石年代:均一>混在 広い範囲で古い墓石が均一的に建ち並んでいる。
周辺環境:固定的>流動的 北側は住職の方の家、東側はお寺の施設で築年数が浅い。
墓石年代:均一<混在 敷地全体に様々な年代の墓石が混在する。
周辺環境:固定的<流動的 マンション、事務所ビルなど更新が流動的な建物が多くみられる。
墓石年代:均一<混在 狭い範囲に比較的新しい年代の墓石から古い年代の墓石まで幅広く混在している。
周辺環境:固定的<流動的 南・東側は事務所ビルが建ち流動的な敷地に多く面しているといえる。
墓石年代:均一>混在 広い範囲で比較的古い墓石が均一的にみられる。
周辺環境:固定的>流動的 南側は三階建ての事務所ビルが建つ流動的な敷地。 北側は寺と庭に面する固定的な敷地。
墓石年代:均一<混在
新しい年代の墓石から古い年代の墓石まで細かく様々な年代の墓石がみられる。
周辺環境:固定的<流動的
南側のマンションと空き地がある敷地は流動的な敷地であり、高層の建物が建ちやすい。
墓石年代:均一<混在 新しい年代の墓石から古い年代の墓石まで混在している。
周辺環境:固定的<流動的
南側はもともと駐車場があったが現在は住職の住宅が建てら
れている流動的な敷地。 北側は寺と庭の固定的な敷地。
墓石年代:均一>混在 細かく年代は分かれているが全体に比較的均一な年代の墓石が建つ。
周辺環境:固定的>流動的 南側は流動的な敷地で倉庫が建つが人通りは少なく騒音も少ない。
北側は庭、西側は人通りの少ない道と固定的な敷地に囲まれている。
墓石年代:均一<混在
狭い敷地に古い年代の墓石から新しい年代の墓石まで混在している。
周辺環境:固定的<流動的
東側の高層建築が日当たりや風通しを悪化させていると考えられる。
西側には車通りの少ない固定的な敷地がある。
墓石年代:均一>混在
比較的古い年代の墓石が均一的に建ち並んでいる。
周辺環境:固定的>流動的
西側は車どおりの少ない道、北側は寺の施設と固定的な敷地が多い。
��.墓地の代謝と周辺環境との関係
墓石も建物と同様によりよい立地環境を選ぶ。また、建物と墓石は建て替わるスパンが異なり、周辺環境の変化が墓地の代謝に影響を与えて いると考えられる。
そのことを考慮し、周辺環境と墓地の年代の相関関係を見ていった結果以下のような仮説が立てられる。
墓も建築同様、 日当たりや風通しなどの立地条 件の良い場所 に多く建てられる
固定的な周辺環境 の場合
流動的な周辺環境 の場合
空地に新たな墓が建てられやすい 墓地の代謝が時間をかけて進む 墓石の年代が 均一化 する
空地に新たな墓が入りにくく 墓地の代謝が滞る
立地環境の向上により 墓地の代謝が進む 墓石の年代が 混在化 する
現状の墓石年代と周辺環境の関係から、これからにおける墓地とその周辺建物の更新を提案する。更新に合わせて境内は地域の人々にとって も訪れやすい共同体としての遺場所へと転換されていく。
数年後 提案
墓石年代:均一 ≒
周辺環境:固定的
墓石年代:混在
周辺環境:流動的
無縁墓の増加+墓石の老朽化により 墓地に大きな空地 ができる
ストック活用により 改修による周辺環境の流動性 が生まれる
固定的な敷地(寺や道)は残り続ける 墓石の空地がまだらなため 墓石用地として更新を続ける
新たな墓として樹木葬とランドスケープを用い 祈りの場と生活の場が融和した遺場所 を計画する
改修に合わせ墓石の墓地同士を建物の低層部がつなぎ 墓参りに来た人々や、地域の人が集える遺場所 を計画する
既存の墓石のモジュールから生まれるグリットと空地のスケールから生まれる構築物が、墓石の墓地と周 辺の建物、自然葬のそれぞれの遺場所をつなぐ。
��.設計手法コールテン鋼の屋根が墓石の空きとともに構築され、流動的な建物の低層部も改修に合わせて新たな遺場所へと変化していく。
現状
墓石年代の均一化 墓石年代の混在化
経年変化に合わせて人々に受け入れられる新たな更新の風景となる。
大きな空き地に樹木葬とコールテン鋼 の屋根がかかる。
・・・固定的な敷地
・・・流動的な敷地
墓石年代が均一化していた場 所は大きな空き地ができる。
屋根がかかる可能性のある墓地の道に柱が建 てられる。柱自体も墓標として感じられる。
建物に貫入した屋根は部分的に上下をつなぐ動 線、家具としての機能を持つ。
また、墓地のスケールと建築スケールを緩やか につなぐ。
墓石と樹木葬が入り混じる墓地も形 成されていく。
屋根の重なりとコールテン鋼の経年変化が墓地 の記憶を伝える新たな墓地の風景となる。
墓地が新たな都市の共同体としての遺場所となる
樹木葬を眺めながら腰掛け ることのできる場。
地形のくぼみが樹木と屋根に囲ま れた祈りの場を創出する。
��.樹木葬として更新される新たな墓地
既存墓地のグリット上にかかる構築物が膨らみを持ちランドスケープと合わせて屋根のかかった遺場所 が形成される。
墓石建立年が均一な 既存墓地のグリット
墓地グリッドを手掛かりに、
人の居場所を拡張させる膨
らみを持った屋根がかかる
ランドスケープを用いて屋根の 下に腰掛けれるような場、樹木 葬の有機的な地形は祈りの場を 形成している。
既存墓地グリットにかけられた屋根が膨らみを持ち、居座れる場と動線をつなぐ。 塀で囲われていた境内が街に対して開かれた遺場所へと変わる。
地形の変化と屋根の重なりによって、豊かなシークエンスが生まれる。
ランドスケープ、地形、屋根の重なりが祈りの場と日常の場を緩やかにつなげる。
��.墓地における人々の遺場所として更新された新たな建物
流動的な敷地の建物の改修に合わせて既存墓地グリットを内部に引き込み、人々が集える遺場所が形成 される。
流動的な敷地に面した墓地 既存墓地グリッドを 内部に引き込む
墓地のモデュールに即した
ヒューマンスケールの居場 所が形成される
既存墓地のグリットから生ま れる家具スケールの場。
上層部は従来の建物用途として機能し、屋根が家具や棚としての機能を持つ。
建物の低層部に土間と畳の遺場所が既存墓地グリットのスケールで広がる。
建物の柱梁と屋根の柱が空間に抑揚をつけ、拠り所となる。
マンションと墓地のバッファーにあたり、テラスや住戸への建て動線としての機能を持つ。