733:望みがない人などいない!--好地由太郎の人生の奇跡

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アクティベート ・ リーフ No.733

望みがない人などいない! -- 好地由太郎の人生の奇跡

こうち

治 15 年のことです。好 地 よしたろう 由太郎という極悪犯が投獄 され、牢の中でも頭として幅を利 かせていました。ある日、一人の 青年が新たな囚人として連れてこ られると、その青年を見るなり、 由太郎はどすの効いた声で怒鳴り ました。 しゃば

「おまえ、娑婆で何をしてきた!」 どんな悪事を働いたのだという この問いに対して、青年は「私は 何もしていません」と答えます。 その答えに激怒した由太郎らは、 青年を袋叩きにしました。 由太郎は、慶応元年(1865) 、 現在の千葉県君津市に生まれ、家 は海産物業を営み裕福だったので すが、不漁や災難が続いて全てを失い、一家は離散してし まいました。母と二人切りになった由太郎には更なる不幸 が襲いました。母親が死んでしまったのです。まだ 10 歳 の由太郎は近所の農家に引き取られ、父親の残した借金返 済のために 4 年もの間、奴隷のように働かされました。 心に怒りを抱えたまま 14 歳で上京した由太郎は、ある 店へ奉公に出されましたが、18 歳の時に奉公先の女主人 を強姦し、それを隠蔽するために殺害・放火して逮捕され たのでした。 そんな由太郎のいた牢に入所してきたのが、このおとな しそうな青年でした。その青年はなんと、殴られながらも、 こう祈りはじめたのです。 「私は今ここで殺されても、天国に行くことができます。 でも、ここにいる方々はまだ信仰を知らない人たちです。 どうか、この方々の罪を赦してください。 」 青年は涙を流 しています。 実はこのクリスチャンの青年は、路傍伝道をしていた時 に、警察からやめろと言われたのに、そのまま続けたこと で逮捕されたのですが、何かの手違いで重犯罪者の房に入 れられてしまったのです。間違いが分かり、30分後には 釈放されましたが、そのわずかな時間にこの青年と出会っ

築紫 裕子 たことが、由太郎の人生を大きく 変えたのでした。青年の涙と祈り の言葉を、由太郎は忘れることが できませんでした。 牢獄での騒ぎを聞きつけてやっ てきた看守が、青年を他の房に移 そうとした時、由太郎は青年に尋 ねました。 「どうすれば、おまえのような 心になれるのか教えてくれ!」 すると青年は、次の一言を残し て、由太郎の元を去って行きまし た。 「キリスト教の聖書をお読みな さい。 」

この時以来、由太郎の心には、 聖書を読んでみたいという強い願望 が生じました。そこで、由太郎の姉 が面会に来た時、聖書の差し入れ を願ったのです。姉夫婦にとって、これはまさに祈りの答えで した。というのも、すでにクリスチャンになっていた姉は、由 太郎の魂の救いのために祈り続けていたからです。当時の監獄 では、聖書の差し入れは非常に困難でしたが、多くの人の熱心 な努力のおかげで実現されました。 しかし、もう一つ問題がありました。由太郎は文字を読めな かったのです。それで、同房の友人に読んでもらったのですが、 聖書が、罪を悔い改め、正しい生活をするようにと語っている 事を知った由太郎は、それを受け入れられず、聖書を看守に預 けてしまいました。 明治17年3月の判決で、由太郎は、未成年であったことか ら死刑を免れて無期懲役となり、それは嬉しいことでしたが、 監獄での日々に希望を見出せず、何度も脱獄を試み、その度に 失敗しました。 そのうちに、由太郎の気持ちに少しずつ変化があらわれまし た。悪事をする事だけが、人間の本能ではないと考えるように なり、少しは良い事をしようと思って、監獄で骨身を惜しまず 働き、模範囚として信用されるまでなったのです。 ところが、2年ほどが経ち、明治20年の初春に、北海道に 流されるという噂を聞くと、再び心が騒ぎ、脱獄してしまいま した。今回は成功し、暫くは捕まる事も無く、仕事にも就きま


したが、海外へ逃走しようと、神奈川県の高島町の商 店を襲った時に捕まり、重罪犯として戸部監獄所に送 られました。重い鉄球を両足に付けられ、出入りも厳 重な見張りのもとに置かれたのでした。 そんな由太郎に、不思議なことが起こりました。天 使のように輝く美しい子供が現れたのです。それは、 生を大きく明治22年1月2日の夜のことでした。その子は、 「若 の涙と祈り者よ、この本を食せ。これは永遠の命を与える神の真の れることが道である。この本を必ず読め、決してこのことを忘れる な」と言いながら、書物を由太郎に渡したのでした。 つけてやっ 同房の者に揺り動かされ、目が覚めた由太郎は、そ 他の房に移れが夢である事に気が付いたものの、あまりにも鮮や は青年に尋かであったので、その夢の事を考え続けていました。 そして、夢の中で手渡された本は聖書だと気が付いた えのようなのです。 くれ!」 由太郎は、この後も同じ夢を三度体験し、これは天 一言を残しからの啓示に違いないと思い、預けてあった聖書を受 て行きましけ取って生まれて初めて神に祈ったのです。今までの 悪い行いを悔い改め、人生全てを神様に捧げますと。 をお読みな その後の由太郎は、まず読み書きの学びを始め、聖 書を一心に読み続けました。あまりの由太郎の変貌振 りに看守も驚き、同じ牢に入っている者たちも、気が の心には、 狂ったとあざ笑ったり、聖書を読むのをじゃましたり う強い願望しましたが、由太郎にとって、周囲の事は耳にも目に 由太郎の姉も入らず、ひたすら読み書きと聖書を読む事に集中す の差し入れる毎日でした。 りの答えで そのような由太郎を見て、看守長の原田は、由太郎 た姉は、由に読み書きを教えることにしました。平仮名の拾い読 当時の監獄みから始めた由太郎の聖書通読は、ついに漢字も制覇、 の人の熱心聖書の全てを読破するまでになりました。そして、イ エス・キリストの十字架が自分の罪のためである事を 字を読めな信じ、一人で信仰告白をしたのでした。 のですが、 ところが、その頃から同房の者達からの迫害はいよ 語っているいよ激しくなっていきました。殴られ蹴られる中で、 を看守に預由太郎は、最初に出会った青年のように、殴る蹴るを 繰り返す同房者の為に涙を流し、神に赦しを求めて祈 り続けました。そんな由太郎の姿に、殴る者は、一人 ったことか去り、二人去り誰もいなくなりました。そして、逆に でしたが、 由太郎の姿に惹かれ、由太郎から聖書を学び、救われ 、その度にる者が出てくるようになったのです。 その後、恩赦などもあり、23年の刑期を終えた由 らわれまし太郎は、社会復帰を果たし、残りの人生をイエス・キ えるようにリストの愛と救いを伝える伝道に捧げたのでした。 を惜しまず

「聖書は、すべて神の霊感を受けて書かれたも 、北海道に のであって、人を教え、戒め、正しくし、義に てしまいま 導くのに有益である。」 - 聖書 第二テモテ3章16 節 にも就きま

このような話を聞くと、私たちは神の慈悲深さに驚かされます。 十字架が意味するものは、罪に対する許しだけではなく、イエスの 死を通して、死ぬべき者に命が与えられたということです。何とい う恵みなのでしょう。 「神はそのひとり子を世につかわし、彼によってわたしたち を生きるようにしてくださった。それによって、わたしたち に対する神の愛が、明らかにされたのである。わたしたちが 神を愛したのではなく、神がわたしたちを愛してくださって、 わたしたちの罪のために、あがないの供え物として、御子を おつかわしになった。ここに愛がある。」 - 聖書 第一ヨハネ 4 章 9 -10 節 由太郎のような人が、これほどの変貌を遂げたのは、あの青年 の信仰と確信に満ちた行動と祈りの言葉があったからでした。青 年は、由太郎の人生を変えてやろうと思ってそのような行動を取っ たわけではありません。ただそこに居合わせた青年は、その場で必 要とされていた祈りを、愛と確信を込めてしただけなのです。でも、 それがどれほどのインパクトを与えたかは、その後の由太郎の変貌 を見ればわかります。 そのことを考えているうちに、私は日頃、どれほどの愛と確信を 持って行動しているだろうかと考えさせられました。自分はクリス チャンだと宣言し、聖書の話を事細かく説明することはできても、 神の愛と恵みを周りの人が感じられるような生き方ができている だろうかと反省させられたのです。 とっさの行動や言葉には、自分が信じていることが現れます。こ ういう影響を与えようと考えて行動するわけではなく、とっさの時 には、普段から心にあることが、そのまま表に出るのです。心が常 に神様の愛と聖霊で満ちていればいいのですが、それは口で言うほ ど簡単ではありません。人間の心には、神の愛や恵みに反するよう な感情が渦巻いているからです。だから、常に神の聖霊に満たされ ていなければ、めちゃくちゃな言動をして後悔するはめになってし まいます。 でも、だからと言って、常に聖なる者である必要があるわけでは ありません。その青年がしたのは、単にその場にいる人たちのため に祈ることでした。それが、こんなに大きな人生の奇跡を引き起こ したのです。それを考えると、ただ躊躇せずに、周りの人たちのた めに祈ったり、親切な行いをしたりすればいいのです。それには、 勇気が要る場合もあるでしょう。でも、私たちが自分の小さな役割 を果たせば、あとは神が残りの奇跡を起こしてくださいます。それ を信じて、これからも自分にできる小さなことをしていきましょう。 私の信仰の先輩が教えてくれた、いつも私に「最初の一歩」を踏み 出す勇気をくれた言葉で締めくくりたいと思います。

「あなたが勇気をもって最初の一歩を踏み出すなら、 神が次の二歩を導いてくださいます。」

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