CBRE Japan - マーケットアウトルック2023

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REPORT Market Outlook Intelligent Investment 202 3 JAPAN REAL ESTATE CBRE RESEARCH ASIA PACIFIC 不動産マーケットアウトルック 2023

マクロ経済 個人消費ならびに企業の設備投資が牽引役となり、今後も日本経済の緩やかな回復基調は続くとみられる。しかし需給ギャップは 未だマイナスであることから、日本銀行は当面のあいだ金融緩和政策を継続する姿勢を明確にしている。経済の回復が続き、企業 収益のみならず実質賃金も上昇する中で物価が緩やかに上昇する状況となれば、金融引き締めへの転換も視野に入ってこよう。た だしそのタイミングは早くても2023年の後半というのが多くの市場関係者の見方である。

オフィス

2022 年に入り、グレードアップを目的とした移転は増加。ただし減床や集約の動きも多く、空室率は全体的に上昇基調。ハイブリッ ドワークを志向する企業が増加する中、今後もオフィスに対するテナントの選定基準は厳しくなりそうだ。多くの都市で新規供給 の増加が見込まれ、当面は賃料の下落基調が続こう。

リテール

2023年、銀座エリアの賃貸市場は、昨年に引き続きラグジュアリーブランドが出店ニーズを牽引するだろう。ハイストリート賃料は

2 CBRE RESEARCH © 2022 CBRE, INC 不動産マーケットアウトルック 2023 Asia Pacific Real Estate Market Outlook 2023 | Japan Contents
既に底入れしており、現在は底這いで推移している。 2022 年Q4には上昇に転じ、その後もゆるやかな上昇傾向が続くと考える。 ロジスティクス デベロッパーが物流施設の開発に比重を移した結果、これまでにないボリュームの新規供給が全国で訪れる。需要は底堅いものの、 4大都市圏全てで空室率は上昇すると予想される。 投資 2022 年通年の日本における商業用不動産への投資額は前年をやや下回る見込み。とはいえ、期待利回りは低下傾向が続き、投資家の 意欲は依然として旺盛だった。海外金利の上昇および欧米の景気後退懸念を背景に、慎重姿勢に転じる投資家が一部で見られてい る。しかし、日銀が金融引き締め方向に大きく舵を切ることは当面は考えにくく、2023年も、日本の不動産市場に対する投資家の需 要は総じて高い状態が続くだろう。 01 02 03 04 05
Economy マクロ経済 01 個人消費ならびに企業の設備投資が牽引役となり、今後も日本経済の緩やかな回復基調は続くとみられ る。しかし需給ギャップは未だマイナスであることから、日本銀行は当面のあいだ金融緩和政策を継続 する姿勢を明確にしている。経済の回復が続き、企業収益のみならず実質賃金も上昇する中で物価が緩 やかに上昇する状況となれば、金融引き締めへの転換も視野に入ってこよう。ただしそのタイミングは 早くても2023年の後半というのが多くの市場関係者の見方である。

2022 年 Q3 の実質 GDP は対前期比の年率換算値でマイナス 0.8 % だったものの、 マイナスとなった主因は一時的なサービス輸入の増加によるもので あった。個人消費も企業の設備投資もプラス成長は続いており、 Q4には再び経済全体 でもプラス成長に戻るものと予想される。 ただし、 GDP の規模は依然としてコロナ禍前の水準を下回っている。直近のピークで あった消費税増税前の 2019 年 Q3 の 557 兆円に対し、 Q3 時点の GDP 水準は 546 兆円であっ た。日本では、厳格な都市封鎖こそなかったものの、緊急事態宣言やまん延防止等重 点措置などの規制が2022 年 3月末まで続き、他国に比べて経済の再開で出遅れた。また、 入国規制の解除も他国に遅れをとっていた。

4 CBRE RESEARCH © 2022 CBRE, INC 不動産マーケットアウトルック 2023 Asia Pacific Real Estate Market Outlook 2023 | Japan 出所:内閣府
月 Figure 1: GDPの四半期毎の伸び率ならびに主要項目の寄与度 日本経済は、 2020 年に対前年比マイナス 4.3%と後退したが、 2021年以降は一進一退な がらも総じて緩やかな回復傾向が続いている( Figure
)。特に、 3月下旬にはまん延防 止等重点措置が全面解除となり、 2022 年 Q2 には個人消費が拡大、企業の設備投資もプ ラスに転じた 。 直近の
はインバウンド需要の回復が期待できよう。ただし、コロナ禍前に消費額では訪日外 国人の 4 割近くを占めていた中国からの訪日客の本格回復がみられない限り、訪日客 数も訪日客による消費額もコロナ禍前の水準を回復するのは難しい。一方、国内の家 計はコロナ禍で貯蓄を積み増したため、購買力は十分にある。個人消費は今後も景気 全体の牽引役となろう。ただし生活必需品の物価上昇により、伸びのペースは鈍化す るとみられる。企業の設備投資も、コロナ下での過少投資によるペントアップ需要が 今後も顕在化するとみられる。 日本経済は緩やかな回復基調が続こう Figure 2: GDPの動向 出所:内閣府 CBRE予想, 2022年11月 01 マクロ経済 -0.6% 1.3% -1.8% 4.9% -1.8% 4.5% -0.8% -5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5 6 Q1 2021 Q2 2021 Q3 2021 Q4 2021 Q1 2022 Q2 2022 Q3 2022 個人消費 企業設備投資 輸出 輸入 GDP (対前期比、年率換算、%) 500 510 520 530 540 550 560 -5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 2014-2018 平均 2019 2020 2021 2022 2023 実額(右軸) 対前年比 % 兆円 Forecast
CBRE, 2022年11
1
10 月 11 日に一日の入国者数の上限の撤廃や個人旅行の解禁が実施されたことで、今後

因とするものとは言い難い。企業物価と消費者物価の伸び率に大きな差異があること 自体、企業がコスト上昇分を製品価格に転嫁することが難しいことを物語っている。

このような状況を受け、日本銀行は依然として金融緩和政策を継続している。日本の 需給ギャップは依然としてマイナスであるため、金融政策を引き締めるような環境に ないというのが日銀の見立てだ。長期金利については、-0 25%から+0 25 %の変動幅 に納めるよう調節している。 主要各国の中央銀行がインフレ抑制のための金融引き締めを継続している一方で、日 本銀行は当面の間は金融緩和政策を継続することを言明している。しかし今後、経済

9%

6%

3%

0%

-3%

%

0.20

0.15

0.10

0.05

12% 2017.01 2017.04 2017.07 2017.10 2018.01 2018.04 2018.07 2018.10 2019.01 2019.04 2019.07 2019.10 2020.01 2020.04 2020.07 2020.10 2021.01 2021.04 2021.07 2021.10 2022.01 2022.04 2022.07 2022.10 企業物価指数 消費者物価指数(生鮮食品を除く) -0.05

0.25 2021.01 2021.02 2021.03 2021.04 2021.05 2021.06 2021.07 2021.08 2021.09 2021.10 2021.11 2021.12 2022.01 2022.02 2022.03 2022.04 2022.05 2022.06 2022.07 2022.08 2022.09 2022.10

0.00

5 CBRE RESEARCH © 2022 CBRE, INC 不動産マーケットアウトルック 2023 Asia Pacific Real Estate Market Outlook 2023 | Japan 出所
金融緩和は当面続くとみられる 全国の消費者物価指数(生鮮食品を除くコア指数)は直近の 10 月実績で前年同月比+ 3.6 %と、約 40 年振りの上昇率となっているものの 、米国の 7.1 %( 11 月実績)、英国の 11.1%( 10 月実績)に比べて極めて低位にとどまっている。また、日本の物価上昇の 7 割 以上はエネルギー価格や食料品価格によるものであり、米国のように需要の過熱を主
Datastream, CBRE, 2022年11
Figure 3: 物価動向
めるというのが 、 現在の日銀のスタンスだ。 しかし、 欧米で景気後退の可能性が高 まっている中、日銀による金融引き締めへの転換は早くても 2023年の後半というのが 多くの市場関係者の見方である。
01 マクロ経済
の回復が続き、企業収益のみならず実質賃金も上昇基調となれば、物価が緩やかに上 昇する好循環となることも考えられる。そうなった場合にこそ金融政策の正常化を進
Figure 4: 10年国債利回り 出所 Datastream, CBRE, 2022年11月
6 CBRE RESEARCH © 2022 CBRE, INC 不動産マーケットアウトルック 2023 Asia Pacific Real Estate Market Outlook 2023 | Japan 出所 CBRE, 2022年11月 Figure 5: 欧米のGDP成長率 地政学リスクの高まり、ならびにエネルギー価格の高騰を初めとする物価上昇、そし てそれを抑制するための金利引き上げの影響で、 2023 年には欧米を中心に景気後退に 陥るとCBREでは見ている( “Global recession still expected next year despite modest decline in U.S. inflation”, November 16, 2022)。ただし、米国においても欧州においても経済の後退 幅は限定的と予想される。そのように考えられる主な理由は以下の通り:
• IT 関連への企業の投資意欲は高く、デジタル経済の成長は今後も続くとみられる。 また、ライフサイエンスやバイオテクノロジー分野においても企業の投資意欲は 引き続き旺盛。 米国では、利上げの影響により 2023 年の経済成長はほぼ横ばいにとどまると予想され る。金融危機のような事態にならない限り、失業率が現在の 3.7 %を大きく上回って過 去のリセッション時のように 6 %を超えるようなことにはならないだろう。しかし欧 州については、エネルギー価格高騰の影響がより大きいため、経済は米国に比べて弱 含むと予想される。一方、アジア太平洋地域においては、欧米に比べて物価上昇率が 抑制されていること、ならびに政府による経済対策も期待されることから、総じて欧 米に比べて堅調に推移することが予想される。 世界的には緩やかな景気後退を予想 Figure 6: アジア太平洋地域のGDP成長率 出所 CBRE, 2022年11月 01 マクロ経済 -2% 0% 2% 4% 6% 8% 10% 2021 Q3 2021 Q4 2022 Q1 2022 Q2 2022 Q3 2022 Q4 2023 Q1 2023 Q2 2023 Q3 2023 Q4
Q1
Q2
Q3
Q4 米国 ユーロ圏 英国
0% 1% 2% 3% 4% 5% 6% 7% 2021 Q3 2021 Q4 2022 Q1 2022 Q2 2022 Q3 2022 Q4 2023 Q1 2023 Q2 2023 Q3 2023 Q4 2024 Q1 2024 Q2 2024 Q3 2024 Q4 日本 韓国 オーストラリア 中国
• これまでの物価ならびに金利の上昇にも拘わらず、足元では個人の消費行動や企 業の設備投資などの経済活動は依然として堅調に推移している。 • 一部の大手 IT 企業がレイオフに踏み切った事例がみられているものの、人材不足 が世界的な問題であることに変わりはない。従って極端なレイオフの波が他の業 種にも広がるとは考えにくい。そうであるならば、欧米でも個人消費が大きく落 ち込むことはないと考えられる。
2024
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Forecast
Forecast
Office オフィス 02 2022年に入り、グレードアップを目的とした移転は増加。ただし減床や集約の動きも多く、空室率は全体 的に上昇基調。ハイブリッドワークを志向する企業が増加する中、今後もオフィスに対するテナントの 選定基準は厳しくなりそうだ。多くの都市で新規供給の増加が見込まれ、当面は賃料の下落基調が続こう。

競争力の高いビルに対する需要は底堅い 2022 年に入り、テナントの動きはより活発になった。 2021 年に比べ、ビルのグレード アップや立地改善移転、業容拡大による拡張移転が増加。オフィスとリモートを併用 したハイブリッドワーク導入を契機とした移転も増え、成約面積はすでにコロナ禍前 の水準に達した(Figure 1)。 中でもグレード A をはじめ競争力の高いビルに対する需要は底堅い 。 2022 年 Q1 のグ レード A の空室率は対前期比- 0.5 ポイントの 2 .0 %と、 2020 年 Q2 以来、約 2 年ぶりに低 下。 2022 年Q3の空室率は新規供給を主因に3.8%まで上昇したものの、2020年Q4以降、 一貫して他グレードに比べて低い水準が続いている。一方、減床や集約の動きは引き 続き多く、競争力の低いビルではまとまった空室が発生した。オールグレードの空室 率は、 2020 年 Q2 以降上昇が続き、 2022 年 Q3 には 1 年前と比べて 1.3 ポイント高い 4.9 %と なった。 賃料については、 2023 年に大量供給を控え、競合する大型ビルを中心に需要獲得のた めの賃料調整が進んでいる。

8 CBRE RESEARCH © 2022 CBRE, INC 不動産マーケットアウトルック 2023 Asia Pacific Real Estate Market Outlook 2023 | Japan
2020 年 Q1のピークから 2022 年 Q3 までの下落率は、オール グレードで-8.6%。これに対し、グレード Aビルは同-10.9 %と下落幅が大きく、割安 感が出ているビルもある。グレード A の空室率上昇が抑えられているのは、市場全体 に比べ賃料調整が進み、需要の裾野が広がったことも要因とみられる。 東京 Figure 1: 東京23区の成約面積の推移(指数) 02 オフィス * 成約面積は2015年から2019年の各期の平均を100とした場合の指数。延床面積500坪以上、旧耐震ビルを含む 出所:CBRE, 2022年Q3 0 20 40 60 80 100 120 2019Q4 2020Q1 2020Q2 2020Q3 2020Q4 2021Q1 2021Q2 2021Q3 2021Q4 2022Q1 2022Q2 2022Q3

東京(続)

テナントはオフィスの選別を強める傾向

オフィスに対するテナントの選定基準は厳しくなっており、立地やグレードに優れ、 賃料も割安なビルに対するニーズは従前以上に高まっていると言える。空室の増加で 移転先の選択肢が増えていることや、原材料高を背景に企業のコスト意識が高まって いるためだ。また、コロナ禍対応でリモートワークが一気に普及したことを受け、多 くの企業が必要なオフィスの規模や機能を見直した。この結果、殆どの企業が完全出 社をしていた従前に比べ、オフィスに対する要求レベルは高まったと言える。オフィ ス移転の際に重視する項目では、ハイブリッドワークを導入した企業と、引き続き完 全出社を志向している企業とで傾向に違いが見られる。前者のほうがいずれの項目も 回答割合が高く、より条件の良いビルを求める傾向が見られる(Figure 2)。

90% ビルのセキュリティ

80% 快適性 ( 、 照度等 )

70% ( 知名度 、 業務集積度 )

30%

60% 交通利便性 ( 営業活動 )

50% コスト ( 、 光熱費 、 管理等 )

40% ( )

交通利便性 ( 、

ビルのグレード感人材採用時の優位性

感染症対策

ビルの耐震性 ビルの BCP ビルの管理体制

(n=221) BCP

全体 ハイブリッドワーク予定企業 完全出社予定企業

9 CBRE RESEARCH © 2022 CBRE, INC 不動産マーケットアウトルック 2023 Asia Pacific Real Estate Market Outlook 2023 | Japan
02 オフィス
Figure 2: 移転先ビル選定の重視項目(ハイブリッドワーク予定企業と完全出社予定企業の違い)
出所:CBRE, 2022年3月「オフィス利用に関する意識調査2022 」
1位 2位 4位 3位 5位 6位 8位 7位 9位 10位 11位
1位 2位 3位 5位 4位 6位 7位 12位 10位 10位 12位 20%
10 CBRE RESEARCH © 2022 CBRE, INC 不動産マーケットアウトルック 2023 Asia Pacific Real Estate Market Outlook 2023 | Japan 出所:日本経済新聞社イベント・企画ユニット
2022 年8月 69.7% 8.7% 21.6% 0% 20% 40% 60% 80% 100% 継続する 継続しない 検討中
リモートワーク実施企業の入居中ビルにおける現在と将来の出社率(予定) 出所:日本経済新聞社イベント・企画ユニット 調査:日経リサーチ 調査協力:CBRE 「オフィスの利用状況に関する調査」2022年8月 02 オフィス 0% 2% 4% 6% 8% 10% 12% 14% 16% 18% 20% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 現在(2022年7-8月) 将来(現在から2~3年後) 現在( 2022年 7-8月) 将来(現在から 2~3年後) 中央値 70% 70% (n=132) (回答率) (出社率)
調査:日経リサーチ調査協力:CBRE 「オフィスの利用状況に関する調査」
Figure 3: リモートワーク実施企業のうち、今後のリモートワークの継続予定 リモートワークの定着によるオフィス需要の減退は限定的 引き続き多くの企業が、オフィスワークを中心に考えつつも、ハイブリッドワークを 今後も継続するとみられる。首都圏の企業を対象としたオフィスに関する意識調査で は、今後もリモートワークを継続すると回答した企業は7割であった(Figure 3)。ただし、 リモートワークを継続すると回答した企業の現在のオフィスの出社率 ( 中央値 )は 70 %で、 2 ~ 3年後も同水準で想定されている( Figure 4)。この事は、リモートワーク の定着によるオフィス需要の減退は限定的であり、より条件の良いビルが求められる 傾向が続く可能性を示唆している。 東京(続) Figure 4:

オフィスニーズは多様化・高度化が進む

加えて昨今、企業においてもサステナビリティに対する関心が高まっている。サステ ナビリティに関する重視項目では 、 従業員の健康と幸福を第一に考える企業が多い (Figure 5)。人材の獲得や離職防止、または生産性向上のため、社員のウェルビーイ ングに配慮したオフィス環境を構築する企業はますます増えるだろう。オフィスに対 するテナントのニーズは従前以上に多様化・高度化していくとみられる。 他方、日本経済は今後も緩やかな回復傾向が続くと予想される。これに伴って、ビル のグレードアップ移転や業容拡大による拡張移転は今後さらに増えるとみられる。た だし、経済の回復に伴うオフィス需要の増加ペースは、コロナ禍前に比べて緩やかに なるだろう。その主因は、ハイブリッドワークの普及が、オフィスの拡張需要をやや 抑制することである。ハイブリッドワーク環境下では、一定程度の人員増であれば在 宅勤務などで出社率を調整し 、オフィス面積を広げずに済む。 実際、 ハイブリッド ワークの導入により、オフィスの拡張面積をコロナ禍前より少なく計画する企業が増 えている。

11 CBRE RESEARCH © 2022 CBRE, INC 不動産マーケットアウトルック 2023 Asia Pacific Real Estate Market Outlook 2023 | Japan
東京(続) 出所:日本経済新聞社イベント・企画ユニット 調査:日経リサーチ 調査協力:CBRE 「オフィスの利用状況に関する調査」2022年8月 Figure 5: 事業活動におけるサステナビリティの優先事項(3つまで選択) 02 オフィス 52.0% 39.3% 38.9% 30.2% 29.0% 15.9% 4.0% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 従業員の健康と幸福の向上 (ウェルビーイングの向上) 温室効果ガス排出量の削減 エネルギー排出量に関する目標 事業活動において、サステナビリティ の優先順位は設定していない 社会的流動性、社会正義、平等性
大気、水、または土地の汚染の削減 地元サプライヤーの利用の促進
および/または多様性の向上

グレードAの大量供給がオフィスの移転需要を喚起 今後の空室率は、グレード A については大量供給が控える 2023 年をピークに、その後 は低下するとみられる。2023年のオールグレードの新規供給は過去年間平均より 3割多 い 24 万坪が予定されている。このうちグレード A は 80 %を占める 19 万坪で、同グレー ドの過去年間平均の約 2 倍に相当する。今のところ、グレード Aビルのプレリーシング の進捗は鈍く、空室を残して竣工するビルは多いとみられる。また、既存のグレード Aビルでも二次空室が一定程度発生することが見込まれ、 2023年Q4のグレード A の空室 率は、2022年Q3の実績値に比べて+1 4ポイントの 5 2%を見込む。 しかし、グレード A ビルは、多様化・高度化するオフィスニーズの受け皿として今後

も堅調に空室を消化していくとみられる。今後の新築ビルには、商業、ホテル、医療 施設や学校など多様な利便施設を備え、ウェルネスなどの環境認証、高レベルの BCP 機能、再生可能エネルギーの供給などに対応したビルも多い。この結果、グレード A の空室率は、 2025 年には供給要因で再び上昇するものの、 2023 年をピークに概ね低下 傾向を辿るとみられる。 2025 年 Q4のグレード Aの空室率は 3グレードの中で最も低く、 2022年Q3の実績値に比べて+0 .7ポイントの 4.5%を予想。

東京(続) 出所:CBRE, 2022年Q3

マイナス空室率(右軸) グレードB空室率(右軸) オールグレード空室率(右軸)

12 CBRE RESEARCH © 2022 CBRE, INC 不動産マーケットアウトルック 2023 Asia Pacific Real Estate Market Outlook 2023 | Japan
Figure 6: 東京 新規供給と空室率 02 オフィス 3.6% 4.5% 6.1% 6.9% 5.3% 6.4% 5.1% 6.1% 0% 2% 4% 6% 8% 10% 12% 0 50,000 100,000 150,000 200,000 250,000 300,000 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023 2024 2025 グレードA 新規供給 グレードA以外 新規供給 グレードA空室率(右軸) グレードA
Forecast

賃料はいずれのグレードも緩やかな調整が続く

一方、他グレードの空室率は 2025 年にかけて上昇が続くと見込む。特にグレード A マ イナスは、グレードA新規供給の影響を最も強く受けるため、競争力の低いビルでは まとまった二次空室を抱えるビルも出てこよう 。 同グレードの 2025 年 Q4 の空室率は

2022 年 Q3 実績に比べて 1.1 ポイント上昇し、 3 グレードの中で最も高い 6.9 %と予想する。 グレード B は、入居企業の規模を問わず需要の裾野が広い。それでも、競争力の低い

ビルでは二次空室や集約などによる空室が増加するとみられる。 2025 年 Q4のグレード

Bの空室率は 2022 年 Q3 実績に比べて+ 1 5 ポイントの 6 4 %と、 3 グレードで最も大きい 上昇幅を見込む(Figure 6)。

賃料については、グレードを問わず下落トレンドが続くとみられる。ただし、下落幅 はグレードが高いほど小さくなると予想。 2025 年 Q4 時点におけるグレード A の想定成

約賃料は 2022 年 Q3 比- 10 .4 %の 31,150 円/坪。グレード A マイナスは競争力の低いビル を中心に賃料を引き下げる動きが続くとみられ、同- 11 0%の21,350円/坪。グレードB は2025年にかけて空室率の上昇幅が 3グレードの中で最も大きい。このため、賃料は同 12.0 % の 19,050 円/坪と他グレードに比べやや下落幅が大きくなると予想する (Figure 7)。

Figure 7: 東京 想定成約賃料

円/坪

45,000

40,000

35,000

30,000

02 オフィス 34,450 31,150 23,800 21,350 21,550 19,050 21,460 19,260 15,000

東京(続) 出所:CBRE, 2022年Q3

25,000

20,000

50,000 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023 2024 2025 グレードA グレードAマイナス グレードB オールグレード

13 CBRE RESEARCH © 2022 CBRE, INC 不動産マーケットアウトルック 2023 Asia Pacific Real Estate Market Outlook 2023 | Japan
Forecast

万坪を含む 5.2 万坪と、過去年間 平均の 2 倍となった。一方、 2021 年に続き大型需要は弱含み、新築ビルの殆どが空室を 残して竣工した。2022 年 Q3 のグレード A 空室率は対前年同期比+ 2 .8 ポイントの 4.7 %と なった。空室消化の動きは 2022 年も中小型面積が大半を占めた。立地やグレードに対 し割安な中型ビルを中心に、グレードアップや拡張移転などで空室が消化された。 2022 年に入り、オフィスの環境改善に対する企業の意欲は高まっており、好立地、高 グレードビルに対する需要は増えた。足元では、グレード A をはじめ、空室を抱える 高額賃料帯のビルで賃料調整が進んでいる。このため、今後はグレード A ビルでも引 き合いは徐々に増えるだろう。 2023年にグレード Aの供給はないため、グレードA空室 率は同年Q4に3.6 %まで低下すると予想。しかし、2024年にはオールグレードで過去最 大の9 .3万坪の新規供給が控える。このうちグレード A は 8万坪と、同グレードの既存ス トック 36万坪の 2割超に相当する。空室を残して竣工するビルは多いとみられ、 2024年 Q4のグレード A空室率は10.2 %を予想。2025 年も 2.7万坪の供給が見込まれ、同年Q4の空 室率は2022年Q3実績に比べて+5 .7ポイントの10.4%と、高止まりが続く見通し。 一方、グレード B の 2022 年 Q3の空室率は、対前期比- 0 .4ポイントの 3.2 %と 2 年半ぶりに 02 オフィス Forecast

0 10,000 20,000 30,000 40,000 50,000 60,000 70,000 80,000 90,000 100,000 大阪 出所:CBRE, 2022年Q3

Figure 8: 大阪 新規供給と空室率

12% 坪 2024年の大量供給により、グレードAの空室率は10%台へ上昇 2022 年のオールグレードの新規供給は、グレード Aの 3.8

6%

3%

6.4% 0%

9% 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023 2024 2025 グレードA 新規供給 グレードA以外 新規供給 グレードA空室率(右軸) グレードB空室率(右軸) オールグレード空室率(右軸)

15% 低下した。今後のグレード B の新規供給は、既存ストック 100 万坪に対し、 2025 年まで の向こう 3年間で 1.8 万坪にとどまる。グレード Aの供給による二次空室の発生も想定さ れるものの、競争力の高いビルを中心に今後も堅調に空室を消化するだろう。グレー ドBの 2025 年Q4の空室率は対2022 年Q3比+2 .1ポイントの5 .3%と、グレード Aに比べ上昇 幅は小さいと予想(Figure 8)。

14 CBRE RESEARCH © 2022 CBRE, INC 不動産マーケットアウトルック 2023 Asia Pacific Real Estate Market Outlook 2023 | Japan
4.6%
10.4% 3.8% 5.3% 4.0%

今後の賃料の下落幅はグレードBの方が大きいと予想 需給の緩和により賃料は下落が続くとみられる。直近ピークから 2022 年 Q3 までの賃料 下落率は、グレード Aで対2020年Q1比-7.7%に対し、グレードBは対 2020 年Q3比-4.2 % となった。グレード A の下落率の方が大きかったため、両グレードの賃料差は縮小し ている。このため、今後の下落幅はグレード B の方がやや大きくなる可能性が高い。 2025 年

15 CBRE RESEARCH © 2022 CBRE, INC 不動産マーケットアウトルック 2023 Asia Pacific Real Estate Market Outlook 2023 | Japan
年 Q3 比-
.0 %の
Forecast
Q4 のグレード A の想定成約賃料は対 2022
9
22 ,250 円/坪、グレー ドBは同-11.1%の13,150円/坪を予想(Figure 9)。 大阪(続) 出所:CBRE, 2022年Q3 24,300 22,250 14,750 13,150 14,170 12,910 9,000 11,000 13,000 15,000 17,000 19,000 21,000 23,000 25,000 27,000 29,000 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023 2024 2025 グレードA グレードB オールグレード 円/坪 Figure 9: 大阪 想定成約賃料 02 オフィス

2022年後半はやや大型の引き合いが増加 2022 年に入っても、テナントのコスト意識はメーカーを中心に依然として高い状況が 続いた。このため、テナントの動きはグレードや立地に照らして賃料が割安な中型ビ ルが中心。そのようなビルでは、グレードアップ移転や、拡張、建て替え移転などで 空室が消化された。 2022 年 Q2 のグレード B の空室率は 2020 年 Q1以来、約 2 年ぶりに低下 し、対前期比-0.5ポイントの4.6%となった。ただし、依然として減床などの動きも多 く、市場全体では需給緩和が進んでいる。 2022 年 Q3のオールグレード空室率は対前年 同期比+ 2 0 ポイントの 5 8 %となった。 2023 年はオールグレードで過去年間平均より 3 割多い約 2 万坪の供給が予定されており、当面、空室率は上昇基調が続くとみられる。 足元では、グレード A をはじめとする高額賃料帯のビルで賃料を引き下げる動きが増 えている。この結果、従前まで動きの鈍かったグレード A でも、やや大型の引き合い が増加。今後は、拠点の集約やビルのグレードアップ移転などで、グレードAの空室 の消化も進むとみられる。グレード A は 2023 年上期まで供給がないため、 2023 年 Q2 の 空室率は 2022 年 Q3 実績に比べて- 1.1 ポイントの 7.4 %

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まで低下すると予想 。 ただし 、 2023年Q3と 2024年Q1にはそれぞれ 1棟ずつ、計1.8万坪の新規供給が控える。これら新築 ビルは一定程度空室を残して竣工するとみられ、グレード A の空室率は再び上昇し、 2024年Q4には8 5%を予想する。 名古屋 出所:CBRE,
年Q3
02 オフィス
2008 2009 2010
2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023 2024 2025
坪 Forecast
2022
Figure 10: 名古屋 新規供給と空室率
8.2% 6.5% 4.9% 5.7% 5.7% 5.7% 0% 3% 6% 9% 12% 15% 0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000 30,000 35,000 40,000 45,000 50,000
2011
グレードA 新規供給 グレードA以外 新規供給 グレードA空室率(右軸) グレードB空室率(右軸) オールグレード空室率(右軸)

名古屋(続)

需給緩和により高額帯のビルを中心に賃料調整が進む

一方、グレードBは、2023年から 2025 年にかけて1.4万坪の新規供給が控えており、競争

力の低いビルでは二次空室の発生も想定される。とはいえ、足元でグレード B の需要

は底堅く、今後もこの傾向は続くとみられる。このため、 2024年Q4の空室率は6.6%と、 グレードAに比べて低い水準を予想。

2025 年下期には新規供給は一服し、その後はいずれのグレードも空室率は低下する見

通し。 2025 年 Q4 の空室率はグレード Aで対 2022 年 Q3比- 2.0 ポイントの 6.5 %、グレード

Bで同+0.6ポイントの5.7%を予想(Figure 10)。

需給の緩和による賃料調整は 、今後も高額賃料帯のビルを中心に進むとみられる。

2025 年 Q4 のグレード A の想定成約賃料は対 2022 年 Q3 比- 11.4 %の 23,750 円/坪を予想。

一方、依然として賃料に割安感のあるビルの多いグレード B の賃料は、グレード Aに比 べて緩やかな調整にとどまる見通し。グレード B の想定成約賃料は同- 3.8%の 13,750 円 /坪を予想(Figure 11)。

28,000 Forecast

26,000

24,000

22,000

20,000

18,000

16,000

14,000

12,000

円/坪 グレードA グレードB オールグレード

26,500 23,750 14,250 13,750 13,720 13,220 10,000

30,000 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023 2024 2025

出所:CBRE, 2022年Q3

17 CBRE RESEARCH © 2022 CBRE, INC 不動産マーケットアウトルック 2023 Asia Pacific Real Estate Market Outlook 2023 | Japan
02 オフィス
Figure 11: 名古屋 想定成約賃料

新規供給ボリュームが今後の空室率を左右

2022年に入り、地方都市では拡張や新規開設、オフィスの環境改善といった前向きな 需要は増えた。足元で空室率が上昇している都市は低下している都市に比べ依然多い ものの、上昇要因の多くは新規供給によるものである。消化された空室のボリューム そのものは、2021年に比べて増えている。

しかし、三大都市と同様、テナントのビルに対する選定条件は厳しくなっている。コ ロナ禍以降、空室増加により移転先の選択肢が増えていることや、多くの企業が必要 とされるオフィススペースを見直したためだ。そのため、立地やグレードに照らして 賃料が割高とみられるビルはテナントからの引き合いが少ない。一方、賃料が割安な ビルでは空室が出ても後継テナントは早期に決定している。経済の先行きに対する懸 念もあるため、移転需要の急激な回復は考えにくい。従って、各都市の空室率の動向 は、今後も新規供給のボリュームに左右されるとみられる。

18 CBRE RESEARCH © 2022 CBRE, INC 不動産マーケットアウトルック 2023 Asia Pacific Real Estate Market Outlook 2023 | Japan
金沢、高松では2023年から2025 年にかけて新規供給の予定がない(Figure 12)。また、 京都、神戸はともに現在のストックの2 %未満の供給量にとどまる。そのため、これ ら5都市では空室率は緩やかに低下すると予想する( Figure 13)。 地方都市 出所:CBRE, 2022年Q3 3.2% 0.3% 2.9% 3.2% 4.8% 5.5% 5.6% 0.8% 0.8% 4.1% 2.0% 5.7% 2.0% 2.5% 1.3% 1.3% 6.1% 5.5% 2.6% 1.6% 0.3% 0.4% 0.7% 1.0% 3.4% 5.5% 0% 4% 8% 12% 16% 23区 名古屋 さいたま 2023 2024 2025 23 Figure 12: 2022年Q3時点のストックに対する新規供給の割合(オールグレード) 02 オフィス

一方、札幌、仙台、さいたまでは、 2023 年から 2025 年にかけて、いずれも既存ストッ クの6 %程度に相当する新規供給が見込まれている( Figure 12 )。2022 年Q3時点で札幌 の空室率は 1.0 %と、全国 13 都市の中で最も低い。再開発に伴う移転やコールセンター の旺盛な需要により、コロナ下でも空室率は極めて低い水準が維持されてきた。今後 は新規供給の影響で空室率は上昇するとみられるものの、 2025 年Q4でも2 .0 %と依然低 い水準にとどまると予想する。仙台は新規供給のほとんどが 2023年 Q2 から 2024年 Q1に かけての期間に集中する。このため、空室率は 2024年 Q2 に 4 0 %まで上昇するものの、 その後は低下し、2025 年 Q4 には 2 .2 %を見込む。さいたまは 2023 年 Q2 から 2024Q2 にかけ て新規供給があるため、空室率は 2024年 Q2 に対 2022 年 Q3比+ 2 .2 ポイントの 4.4%を見込 む。その後は低下し、2025年Q4には3.6%と予想する(Figure 13)。 横浜と福岡においては 、 向こう 3 年間の新規供給は既存ストックの 10 % を超える (Figure 12)。そのため空室率の上昇幅は他の都市より大きくなるだろう。横浜の新規 供給は 2023年と 2024年に集中するため、空室率は 2024 年 Q3に対 2022 年 Q3比+ 5.0 ポイン トの 8.0 %まで上昇すると見込む。しかしその後は低下に転じ、 2025 年 Q4 には 5 .9 %を 予想。福岡は足元で新規開設や立地改善のための移転需要が堅調で、全国で唯一、成

19 CBRE RESEARCH © 2022 CBRE, INC 不動産マーケットアウトルック 2023 Asia Pacific Real Estate Market Outlook 2023 | Japan
約面積はコロナ禍前の水準を2021年Q3以降5 四半期連続で上回っている。しかし、向こ う 3 年間はストックの 4 ~ 5 %の新規供給が毎年予定されることから、 2025 年 Q4 の空室 率は対2022年Q3比+5.8ポイントの9.0%を予想( Figure 13) 。 地方都市(続) 出所:CBRE, 2022年Q3 Figure
2022 年Q3~2025年Q4) 02 オフィス 0% 2% 4% 6% 8% 10% 12% 14% 16% 23区 名古屋
Q3
Q4 2025 Q3 2022 Q4 2025 23
13: オールグレード空室率(
さいたま
2022 -

02 オフィス

賃料はほぼ全ての都市で下落 2025 年 Q4の想定成約賃料は、2022 年 Q3に対し地方都市 10 都市のうち、高松を除く 9都市 で下落を予想( Figure 14)。高松については、 2021年 Q3からみられている空室率の低下 基調が今後も続き、 2024年 Q2 には賃料は緩やかな上昇に転じると見込む。その他の都 市では、空室率は足元で上昇または横ばいで推移している。このため、賃料は当面緩 やかな下落が続くとみられる。ただし、今後、空室率が低下に転じる都市では、賃料 の下落ペースは徐々に鈍化すると予想。 札幌と仙台は足元の空室率の水準が低く、 2023 年 Q3 までほぼ横ばいで推移する。そのため、賃料の下落が予想されるのは 2024 年 以降で、下落幅は他都市に比べ小さいと見込む。横浜と福岡は、他都市に比べ空室率 の上昇幅が大きいため、賃料の下落幅も大きくなると予想する。

20 CBRE RESEARCH © 2022 CBRE, INC 不動産マーケットアウトルック 2023 Asia Pacific Real Estate Market Outlook 2023 | Japan
地方都市
出所:CBRE, 2022
Q3 Figure 14: オールグレード想定成約賃料( 2022年Q3~ 2025年Q4、指数)
85 90 95 100
Q3 2022 - Q4 2025 Q4 2025 2022年Q3 =100
(続)
名古屋 さいたま
Retail リテール 03 2023 年、銀座エリアの賃貸市場は、昨年に引き続きラグジュアリーブランドが出店ニーズを牽引するだろ う。ハイストリート賃料は既に底入れしており、現在は底這いで推移している。2022年Q4には上昇に転じ、 その後もゆるやかな上昇傾向が続くと考える。

だし、水際対策の段階的な緩和によってインバウンド需要が戻りつつあるなど、改善 の兆しがみられている。 4-6 月期( Q2 )の実質国内総生産( GDP )は対前期比 1.1 %増と、 1-3 月期の同 -0.5 %増から 1.6 ポイント増加した。 GDP の過半を占める個人消費は同 1.7 %増と、対前期比 2 .7 ポイン ト増加( Figure 1 )。大型連休を行動制限なく過ごしたことなどで、宿泊や外食などの サービス消費が伸びたほか、自動車などの耐久財や衣服などの半耐久財の消費が増え ている。

22 CBRE RESEARCH © 2022 CBRE, INC 不動産マーケットアウトルック 2023 Asia Pacific Real Estate Market Outlook 2023 | Japan 出所:内閣府、CBRE、2022年12月 Figure 1: 実質国内総生産(GDP)と家計最終消費支出(対前期比) 小売や百貨店売上は回復基調も、物価上昇で消費マインドは低下傾向 2022 年のリテール関連指標は、新型コロナウイルス感染拡大に伴うまん延防止等重点 措置が延長された 2 月を除けば、前年同月比プラスで推移した。一方、コロナ禍前の 2019 年と比較をすると、全国百貨店売上高などマイナス基調が続く指標もあった。た
月の小売業販売額は、対前年同月比 4.3 %増( Figure 2 )。8カ月連続のプラスとなった。 経済活動が正常化し、外出機会が増えたことなどが主因。 10 月の全国百貨店売上高は、 同 11.4%増と前月に続き二桁の伸びを示した。全国旅行支援などによる人流の増加があ り、物産展などの催事が盛況だった。また、高額品の売り上げが好調だったほか、秋 冬アイテムの動きが本格化した。 2022年の小売関連のマクロ指標
出所:経済産業省、全国百貨店協会、CBRE、2022年11月 03 リテール -0.1 0.3 -0.5 1.2 -0.5 1.1 -0.2 -1.7 0.1 -1.3 3.2 -1.0 1.7 0.1 -2.0 -1.0 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 2021 2022 国内総生産 民間最終消費支出 -150 -100 -50 0 50 100 150 200 -15 -10 -5 0 5 10 15 20 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 2020 2021 2022 小売業販売額 全国百貨店売上高(右軸) 前年同月比 % 前年同月比 %
10
Figure 2: 小売業販売額 vs 全国百貨店売上高(対前年同月比)

10 月の訪日外客数は

万人と、対前月比で約 2.5倍となった(Figure 4)。10月の全国百貨店売上高を顧客

335 2 %増となっている。政府が 10 月 11 日付で水際対策を大きく緩和( 1 日当たりの入国者数上限を撤廃すると共に、訪

3:

出所:内閣府、CBRE、2022年12月

23 CBRE RESEARCH © 2022 CBRE, INC 不動産マーケットアウトルック 2023 Asia Pacific Real Estate Market Outlook 2023 | Japan
Figure
消費者態度指数 一方、 11 月の消費者態度指数(二人以上の世帯、季節調整値)は、対前月比 1.3 ポイン ト低下の 28.6 と 3 カ月連続で悪化( Figure 3)。電気や食料品など生活関連の物価上昇や、 新型コロナの感染者数が増加傾向になったことが影響した 。 指数を構成する 4 項目 (「暮らし向き」「収入の増え方」「雇用環境」「耐久消費財の買い時判断」)すべてが 悪化。特に「耐久消費財の買い時判断」は過去最低水準となった。 インバウンド需要は、水際対策の緩和によって回復しつつある。
49.86
別にみると、インバウンドの売り上げが対前年同月比
日客の個人旅行を解禁)したことが、さっそく売り上げにも反映した。円安も追い風 となって、インバウンド需要は今後も増えることが見込まれる。 2022年の小売関連のマクロ指標(続) Figure 4: 訪日外客数 出所:日本政府観光局(JNTO)、CBRE、2022年11月 03 リテール 20 25 30 35 40 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 2020 2021 2022 17,766 16,719 66,121 139,548 147,046 120,430 144,578 169,800 206,500 498,600 0 100,000 200,000 300,000 400,000 500,000 600,000 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 2022 人

トリートの中央通りにある複数の新規開発物件では、いずれもラグジュアリーブラン

ンドもみられている。

24 CBRE RESEARCH © 2022 CBRE, INC 不動産マーケットアウトルック 2023 Asia Pacific Real Estate Market Outlook 2023 | Japan 61.7% 86.4% 82.2% 0% 20% 40% 60% 80% 100% Q1 2022(n=60) Q2 2022(n=44) Q3 2022(n=45) 上がった 変わらない 下がった Figure 5: 各期の売り上げは、前年同期と比較してどうでしたか 比較的大型の空室がハイストリート空室率を上昇させるも、賃料は既に底入れ 2022年のリテール賃貸市場は、前年に比べて新型コロナウイルス感染拡大の影響は緩 和した。行動制限のない大型連休や夏休みなど迎えたことで既存店舗の売り上げが増
アの終了で比較的大型の空室が発生した。また、引き合いはあるものの、賃貸条件の 交渉にやや時間が掛かっている募集物件では、従前のテナントが退出したため空室が 顕在化した。 2022年のリテールマーケット Figure 6: 銀座ハイストリート空室率 2022年Q3より、空室率の調査対象フロアを「店舗ニーズの高い1階に限定」から「1階を含む賃貸区画のすべて」に変更、 またデータは遡って修正している 出所:CBRE、2022年Q3 03 リテール Q3 2021 Q4 2021 Q1 2022 Q2 2022 Q3 2022 銀座 7.4% 6.5% 6.4% 6.4% 7.7% CBREが実施している主要なリテールエリアに路面店舗を出店しているリテーラーを対象としたアンケート 「リテーラー意識調査2022年Q3」からの調査結果 出所:CBRE、2022年11月
えたテナントが多くみられた(Figure 5 )。日本初出店を含む出店ニーズが増えたほか、 立地改善や拡張の積極移転が複数あった。一方、営業不振を理由とした店舗の閉店も 一部でみられた。 銀座では、前年に引き続きラグジュアリーブランドが出店ニーズを牽引した。ハイス
ドの出店が内定している。成約賃料の水準は、概ねオーナーが希望する相場並みと なっている。数年先の竣工を予定している物件への出店を決めたラグジュアリーブラ
2022 年Q3の銀座ハイストリート空室率は、対前期比1.3ポイント上昇の7.7%( Figure 6)。 既存店舗の建て替えに伴う移転の需要などが空室を消化した一方、ポップアップスト
25 CBRE RESEARCH © 2022 CBRE, INC 不動産マーケットアウトルック 2023 Asia Pacific Real Estate Market Outlook 2023 | Japan 新型コロナウイルス感染拡大の状況を鑑み、2020年Q1はハイストリート賃料の集計をおこなっていない。 成約事例の大幅な減少により、賃料想定が困難になっていたことによる。 出所:CBRE、2022年Q3 230,000 235,000 240,000 245,000 250,000 255,000 260,000 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 2019 2020 2021 2022 Figure 7: 銀座ハイストリート賃料(円/坪) 銀座ハイストリート賃料は、2017年から 2019年にかけて上昇基調が続いたものの、コ ロナ禍の影響で
年上期にかけて下落した。ただし、
銀座エリアで出店ニーズがあるラグジュアリーブランドの中には、 4丁目の交差点に 近い稀少な一等地の物件には、高額な賃料を支払ってもよいと考えるリテーラーが存 在している。そのため、2022年 Q3のプライム賃料は40 万円と 28期連続の横ばいとなった (Figure 8)。前年に引き続き、好調な売り上げを背景に高級時計や宝飾品などの出店 ニーズがある。 2022年のリテールマーケット(続) Figure 8: 東京プライム賃料【銀座】(円/坪) 出所:CBRE、2022年Q3 03 リテール Q3 2021 Q4 2021 Q1 2022 Q2 2022 Q3 2022 銀座 400,000 400,000 400,000 400,000 400,000
2020年から2021
2021年Q3には底を 打ち、2022年Q3まで底這いで推移している(Figure 7)。出店ニーズの減少を背景に、 賃料が弱含んでいた国内リテーラーが集積するエリアでも、賃料が下げ止まっている。

ラグジュアリーブランドが市場を牽引、中には積極移転のニーズも

2023年の銀座エリアの賃貸市場は、前年に引き続きラグジュアリーブランドが出店ニーズを牽引することになりそ うだ。直近では、ハイストリートにある新規開発物件に申し込みを入れたものの、内定から漏れた複数のラグジュ アリーブランドが再探索をはじめている。また、既存店舗からの立地改善や面積拡張といった積極移転を検討して いるところもある。

そのほかの業種では、コロナ禍で業績を伸ばしているジュエリーやリユース、ショールームなどの出店ニーズがあ る。銀座エリアに路面店舗がないリテーラーの出店ニーズのほか、建て替えによる立ち退き移転のニーズもある。 ショールームの中には、富裕層向け商品を扱うリテーラーがあるほか、自社商品を使ったサービス店舗の併設を検 討するところもある。

銀座エリアへの出店ニーズがあるリテーラーの中には、業種を問わず、インバウンド需要の回復を見据えていると ころもある。水際対策の大幅な緩和によって、コロナ禍前は訪日外国人の76.6%を占めていた個人旅行の受け入れが 解禁された。さらに、円安によって訪日外国人の購買力が上昇している。今後は、高額品を中心とした需要喚起に 繋がることが考えられる。 一方、出店に際しては内装費の高騰を背景に、フリーレントを数か月分付与するケースが引き続きみられそうだ。

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資材の調達が予定より遅れるケースもあり、中には契約開始日を後ろ倒しにするなどの柔軟な対応をしているオー ナーがみられている。そのほか、比較的大型の募集物件ではリテーラーのニーズに応じた区画の分割を求められる ケースもありそうだ。 2023年の出店ニーズ 03 リテール

賃料は2022年Q4に対前期比0.6%上昇、その後は緩やかな上昇基調へ

銀座ハイストリート賃料(Figure 9)は2016年Q2をピークに下落したが、 2017年Q3には 底入れした。その後しばらく横ばいが続き、2018年Q4と 2019年Q3 にそれぞれ上昇。し かし2020年に入ってコロナ禍の影響を受け、2021年Q3に掛けて6.4%下落した。ただし その後は4期連続横ばいとなり、 2022年Q3は 24.15万円/坪となった。

賃料は既に底入れしており、今後は 2022年Q4に対前期比0.6%上昇し、 24.30万円/坪 になると予測。まず、ハイストリートの中でも好立地にある複数の募集物件では、既 にラグジュアリーブランドの出店が内定している。成約賃料は、概ねオーナーが希望 する相場並みの水準、ないしはリテーラー同士が競合したことで、現在の相場を超え るコロナ禍前の水準もみられた。 募集物件が複数ある、ハイストリートの中でも中心地から離れたエリアでも、リテー ラーが内定、ないしは内定に向けて交渉が進んでいるところがある。中には、現在の 相場を超える、コロナ禍前の賃料水準で交渉をしているケースが含まれている。こう した物件で内定が進むことで賃料に上昇圧力が掛かり、 2022年Q4には24.30万円/坪に なると予測する。

Figure 9: 銀座ハイストリート賃料(円/坪)2022年 Q4-2023年Q3

258,000

256,000

254,000

252,000

250,000

248,000

246,000

03 リテール 240,000

アウトルック 出所:CBRE、2022年Q3

244,000

242,000

260,000 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 2018 2019 2020 2021 2022 2023 2024

27 CBRE RESEARCH © 2022 CBRE, INC 不動産マーケットアウトルック 2023 Asia Pacific Real Estate Market Outlook 2023 | Japan
Forecast
28 CBRE RESEARCH © 2022 CBRE, INC 不動産マーケットアウトルック 2023 Asia Pacific Real Estate Market Outlook 2023 | Japan 背景には、高額品に対する国内需要層の底堅い購買意欲がある。 2022 年 9 月の全国百貨店売上高で、 高額品に該当する「美術・宝飾・貴金属」カテゴリーは20カ月連続して前年同月を上回った。これは、 過去最長の更新となる。また、コロナ禍によって消滅していたインバウンド需要は、個人旅行の受け 入れ解禁によって今後も回復基調が続くとみられる。 インバウンド需要の回復が追い風となり、向こう 2 年間で賃料は 2022 年 Q3 と比べて 3.3 %上昇、コロナ 禍前の 2019 年 Q4 に比べて 3.3 %減まで回復すると予測する。なお、銀座 4丁目交差点付近の超一等地を 対象としたプライム賃料は、今後も横ばいの推移を予想する。稀少な好立地に対して、出店に前向き
アウトルック(続) 03 リテール
なラグジュアリーブランドが常にいるためだ。
Logistics ロジスティクス 04 デベロッパーが物流施設の開発に比重を移した結果、これまでにないボリュームの新規供給が全国で訪 れる。需要は底堅いものの、4大都市圏全てで空室率は上昇すると予想される。

Forecast Forecast

新規供給 空室率 実質賃料 前年比増減率

円/坪

4,500

4,000

3,500

300,000 600,000 900,000 1,200,000 1,500,000 4%

3,000

8.4% 1.4% 4.7% 9.4% 16.3% 3.2% 7.4% 0% 5% 10% 15% 20% 25% 2%

5,000 2018 2019 2020 2021 2022 2023 2024 首都圏 近畿圏 中部圏 福岡圏

8%

6%

の 5 年間は年率+ 0.3 %と賃料上昇は抑えられており、今後もほぼ横ばいにとどまると 予想する。一方で、近畿圏と福岡圏は、緩やかではあるが、上昇傾向を維持すると予 0%

2,500

Figure 1: 新規供給と空室率 全国で供給が増加、空室率は4大都市圏全てで上昇を見込む 首都圏大型マルチテナント型物流施設( LMT )の新規供給は、 2023年に過去最大の91.3 万坪となり、 2024 年も 65 . 3 万坪と、高水準の供給が 2021年から 2024 年まで 4年間続くこ とになる。需要は底堅いものの、供給増大に追い付かず、空室率は 2023 年末に 8.1 %に 上昇する予想である。これは直近の空室率のピークとなった 2015 年の 6.9 %を上回り、 2010 年の 11.7 %以来の高い水準となる。その背景には、コロナ禍における物流特需も重 なって 2019 年から 2021 年にかけて需給が逼迫したことから、デベロッパー各社が物流 施設の開発に比重を移した影響もある。同時期に、首都圏以外の大都市圏での大型開 発を増やしたデベロッパーも多く、中部圏、福岡圏は 2023年に、近畿圏も 2024 年に過 去最大の新規供給となる見込みだ。空室率の水準にばらつきはあるものの、いずれの 都市圏も2022年に比べて需給は緩むと予想される。 実質賃料は、空室率の高低を反映した動きとなる。 2023 年の首都圏は、 2016 年に対前 年比- 2 2 %となって以来の下落(同- 0 4%)を予想。中部圏の 2018年から 2022 年まで 坪 % 4,540 4,490 4,140 4,200 3,590 3,600 3,380 3,480 -2%

10% 2,000

30 CBRE RESEARCH © 2022 CBRE, INC 不動産マーケットアウトルック 2023 Asia Pacific Real Estate Market Outlook 2023 | Japan
想する。他の都市圏に比べて空室率の水準が低いこと、それぞれの中心部で空室不足 感が強いことがその理由である。ただし、いずれの都市圏も新興立地での開発や局地 的に供給が集中するケースがあるため、それらの物件のリーシングが想定以上に時間 がかかるようであれば、賃料は我々の予想を下回る可能性もある。 物流施設マーケット サマリー Figure 2: 実質賃料と実質賃料増減率 出所:CBRE、2022年Q3 04 ロジスティクス 5.2%
0
出所:CBRE、2022年Q3 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023 2024 首都圏 近畿圏 中部圏 福岡圏

大量供給を背景に、2022年は空室率が4年ぶりに5%越え

首都圏の空室率は 2020 年末の 0.5 %から、 2021年末には 2.3%に上昇していたが、 2022 年 中にさらに上昇し、 Q3 時点で 5.2 %となった。首都圏の空室率が 5 %を超えるのは 2018 年Q3以来、4年ぶりだった。 空室率上昇の主な理由は、 2019 年から 2020 年にかけて新規供給が需要に対して不足し たこと、さらにコロナ禍で物流施設の安定性が投資家やデベロッパーから高く評価さ れ、多くの開発計画が進められたことだ。 2021 年後半以降、これらの計画に基づく新 しい物流施設が次々と竣工し、新規供給が高水準で推移している。 2022 年の新規供給 は Q3 までの累計で 55 1 万坪となり、前年同期の実績を 22 %上回った。これに対して、 同期間の新規需要は 38.5 万坪、前年同期比 10 %増だった。コロナ禍特需が剥落して以 降も、物流企業や e コマース(EC)事業者を中心にテナント需要は底堅く推移している。 しかし、新規需要を上回るペースで新規供給が増えており、空室率は上昇している。 そして、需給の緩みを背景に、リーシングのペースは減速している。 2022 年 Q3 時点で、 向こう一年間に竣工する予定の物件の内定率は

31 CBRE RESEARCH © 2022 CBRE, INC 不動産マーケットアウトルック 2023 Asia Pacific Real Estate Market Outlook 2023 | Japan
18.2 %にとどまり、これまでのピーク だった 2020 年 Q3 時点での内定率( 62.3 %)から大きく低下。新規物件の竣工時稼働率 は、 2020 年の 97 %に対して2022 年は Q3までの実績で 60 %にとどまっている( Figure 3)。 ペースダウンの理由は、物件の選択肢が多く、 2019 年や 2020 年頃のような需給の逼迫 感がないことから、テナントが先々の物件の契約締結を急いでいないことにある。物 価上昇などによる企業業績の先行き不透明感を背景に荷主側が意思決定を先延ばしに するケースもあることから、物流会社が必要以上の面積を積極的に借りる環境ではな いことも、理由として挙げられよう。 首都圏 * 2022年の竣工時稼働率はQ3まで 出所:CBRE、2022年Q3 Figure 3: 超過供給・需要量と竣工時稼働率(首都圏) 04 ロジスティクス 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% -200,000
0
2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 超過供給・需要量(新規供給ー新規需要)(左軸) 竣工時稼働率(右軸) 坪 供給超過 需要超過
-150,000 -100,000 -50,000
50,000 100,000 150,000 200,000
32 CBRE RESEARCH © 2022 CBRE, INC 不動産マーケットアウトルック 2023 Asia Pacific Real Estate Market Outlook 2023 | Japan 出所:CBRE、2022年Q3 Figure 4: 需給バランスと空室率(首都圏) 2023年は空室率がもう一段上昇し、Q4時点で8.1%になると予想 2022 年通年の新規供給は、対前年比 8.8 %増の 68.1 万坪の着地となる予定。2023年はそれ を大幅に上回る過去最大 91.3 万坪の新規供給が予想される。そして、2024 年も 65.3 万坪 と高水準の新規供給となる見込みである。2021 年から 2024 年まで、
)。日本ではコロナ禍後も家計のオンライン消費額が増加し ていることから、首都圏の物流施設に対する需要は底堅く、今後も新規需要の拡大基調
率上昇が顕著となるだろう(Figure 5 )。そして、 2024年においても供給が多くなる見込 みであることから、 2024 年 Q4 時点の首都圏全体の空室率は 8.4 %で高止まりすると、 CBRE では考えている。建築資材の納期の遅れや建築費高騰を受けて後倒しとなる開発 計画が出てきた場合には、空室率の上昇は多少抑えられるだろうが、供給が多いとい う状況は中期的にみて変わらない。そのため、テナントがより選別的になることで、 立地やスペック、オーナーの運営方針によって個々の物件の稼働率の違いがさらに鮮 明になることが想定される。今後、すでに供給が多く空室率が上昇している神奈川方 面で竣工する超大型物件などが想定以上にリーシングに苦戦すれば、首都圏全体の空 室率が我々の予想を超えて上昇する可能性もある。 首都圏(続) Figure 5: 新規供給と空室率(首都圏、エリア別) 出所:CBRE、2022年Q3 04 ロジスティクス 5.2% 8.4% 0% 2% 4% 6% 8% 10% 0 200,000 400,000 600,000 800,000 1,000,000 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023 2024 新規供給 新規需要 空室率 坪 9.5% 4.6% 3.6% 3.6% 5.6% 9.0% 4.8% 11.3% 0% 4% 8% 12% 16% 20% 0 200,000 400,000 600,000 800,000 1,000,000 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023 2024 東京ベイエリア 外環道エリア 国道16号エリア 圏央道エリア 坪 Forecast Forecast 新規供給 空室率
4 年連続で大量供給 が続くことになる( Figure 4
は継続することが見込まれるが、それでも大量の新規供給を消化するには不十分だろ う 。供給過多の状態が継続し 、4 年連続で空室率が上昇を続ける見込みとなるのは 、 2004年にCBREが大型マルチテナント型物流施設の統計を取り始めて以来、初めてである。 CBRE では 2022 年 Q4 の首都圏全体の空室率を 5 .2 %と、 Q3 から横ばいを予想するが、そ の後はもう一段上昇して 2023 年 Q4 時点で 8.1 %となると予想している。エリア別では、 2023年の首都圏の新規供給の約9 割が集中する国道16 号エリアと圏央道エリアでの空室

なお、大量供給の影響は既存物件の空室率にも波及している。 2022 年 Q3時点で、既存 物件(竣工後一年以上)の空室率は 1.7 %で、依然低い水準ではあるものの、 2021 年 Q1に 過去最低の 0 .2 %を付けて以来継続的に上昇している。また、既存物件の二次空室の埋め 戻しや、新規物件のリーシングに時間がかかるケースが出てきている。 2022 年 Q1 に竣 工した物件の多くが未だ空室を消化できずにいることから、これらの物件が竣工後一 年以上となる2023年Q2からは既存空室率が一段と上昇することが想定される。 圏央道エリアの供給増を反映して、首都圏全体の実質賃料は微減と予想 2022 年 Q4 時点の首都圏の実質賃料は 4,540 円 / 坪と、対前年比+ 1.6 %で着地する見込み ( Figure 6 )。ただし、これは 2022 年中の新規供給が相対的に賃料の高いエリアに集中 したからである。 2023年 Q4 の実質賃料については、対前年比- 0 .4 %の 4,520 円 / 坪と予 想。 2022 年とは逆に、 2023 年は賃料水準の低い圏央道エリアでの新規供給が多くなる ことが影響する。2024年Q4時点では対前年比-0 .7%の 4,490円/坪と予想する。 首都圏全体では、大量供給を背景に賃料の上昇は見込めないものの、大幅に調整する

33 CBRE RESEARCH © 2022 CBRE, INC 不動産マーケットアウトルック 2023 Asia Pacific Real Estate Market Outlook 2023 | Japan
れる。外環道エリアと国道 16 号エリアでは、全体では概ね横ばいとなるだろう。ただ し、新規供給が集中する地域やその近隣エリア、もしくは空室消化が進まない特定の 物件については、実質賃料が弱含む可能性がある。また、圏央道エリアではより外側 の新たな立地での竣工が増えて空室率が上昇する見込みであり、結果として賃料の低 下が予想される。 首都圏(続) 出所:CBRE、2022年Q3 Figure 6: 実質賃料指数(首都圏、エリア別) 04 ロジスティクス 4,540 4,490 7,570 7,960 5,170 5,200 4,520 4,510 3,610 3,500 3,000 4,000 5,000
Q1 2017 Q2 2017 Q3 2017 Q4 2017 Q1 2018 Q2 2018 Q3 2018 Q4 2018 Q1 2019 Q2 2019 Q3 2019 Q4 2019 Q1 2020 Q2 2020 Q3 2020 Q4 2020 Q1 2021 Q2 2021 Q3 2021 Q4 2021 Q1 2022 Q2 2022 Q3 2022 Q4 2022 Q1 2023 Q2 2023 Q3 2023 Q4 2023 Q1 2024 Q2 2024 Q3 2024 Q4 2024 首都圏全体 東京ベイエリア 外環道エリア 国道16号エリア 圏央道エリア 円/坪 Forecast
状況にもないと、 CBRE では考えている。しかし、エリアごとの賃料の方向性には違い がある。東京ベイエリアの物件は引き続き希少性が高く、今後も賃料の上昇が見込ま
6,000 7,000 8,000 9,000

2 年続く。 2022 年に需要が抑制された反動から、一定量の需要 は期待できるものの、空室率は 2024年Q4に 4.7 %に上昇すると予想する。その理由は、 滋賀県、奈良県、大阪府南部など新興の立地や、兵庫県の新名神方面など周辺立地の 供給が増えるため、テナントが決定するペースが落ちると想定しているからである。 しかし、すでにテナントが内定した物件もあり、賃借ニーズは今後徐々に広がると予 想される。

実質賃料は 2023 年、 2024年ともに対前年比 0 .7 %の上昇を見込む。周辺地域で竣工する 物件が平均を押し下げる一方、中心部では空室不足が顕著なため緩やかな賃料上昇が 続く見込みである。また、ランプウェイを完備した物件が中心部で複数竣工する予定で あり、高賃料を牽引するだろう。

34 CBRE RESEARCH © 2022 CBRE, INC 不動産マーケットアウトルック 2023 Asia Pacific Real Estate Market Outlook 2023 | Japan 出所:CBRE、2022年Q3 1.4% 4.7% 0% 4% 8% 12% 16% 20% 24% 28% 0 50,000 100,000 150,000 200,000 250,000
350,000 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023 2024 新規供給 新規需要 空室率 坪 Figure 7: 需給バランスと空室率(近畿圏) 大量供給が需要を吸収、賃料は上昇基調も上下の幅は開く 近畿圏の 2022年Q3の空室率は1.7%で、 Q4時点でも1%台の低い水準を見込む。これは、 2021 年までの過去 5 年間の平均新規供給が 20.3 万坪あったのに対し、 2022 年の新規供給 が 5.8 万坪と過少だったことが主な理由である。一転して、 2023 年は 22 .6 万坪、 2024 年 は 31.5 万坪の大量供給が
300,000
近畿圏
Forecast
04 ロジスティクス
35 CBRE RESEARCH © 2022 CBRE, INC 不動産マーケットアウトルック 2023 Asia Pacific Real Estate Market Outlook 2023 | Japan 出所:CBRE、2022年Q3 9.4% 16.3% 0% 4% 8% 12% 16% 20% 0 40,000 80,000 120,000 160,000 200,000 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023 2024 新規供給 新規需要 空室率 坪 Figure 8: 需給バランスと空室率(中部圏) サプライチェーン改革が物流需要を後押しも、供給拡大に追い付かず 中部圏の 2022 年Q3の空室率は11.0 %と他の都市圏と比べて高いが、 2022 年通年の新規需 要は 13万坪超に達する見通しである。コロナ禍によるサプライチェーン分断の改善策 として製造業が中間部材の適正な在庫量を見直す傾向が、物流需要につながった。た だし 、 新規供給は 2022 年 17 .1 万坪に続いて 2023 年も
Q2から2022 年Q2まで、0.0 %の空室率が続いた。その間に竣工した7棟 すべてが満室での竣工となった。 2022 年から 2024年にかけて続く大量供給に対しても、 高水準の新規需要が期待できる。しかし、新興立地での開発物件が順次竣工するため、 空室消化にはこれまでより時間がかかる見通しで、空室率は 2024年Q4に7.4%を予測す る。一方で実質賃料は、対前年比で 2023 年+ 1.8 %、 2024年+ 1.2 %と、全国の大都市圏 では最も高い上昇率を予測する。まだストックが小さいことから、空室面積が増える とはいえ過剰感はない。しかし、+ 4.0 %と見込まれる 2022 年の賃料上昇率と比較する と、上昇ペースにはブレーキがかかることになるだろう。 中部圏 Figure 9: 需給バランスと空室率(福岡圏) 出所:CBRE、2022年Q3 04 ロジスティクス 3.2% 7.4% 0% 3% 6% 9% 12% 15% 0 20,000 40,000 60,000 80,000 100,000 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023 2024 新規供給 新規需要 空室率 坪 福岡圏 Forecast Forecast
19 .0 万坪の大量供給となるため 、 2023 年 Q4 の空室率は 16 .4 %に上昇するだろう。 2024 年末の空室率も同等水準を予想す る。実質賃料は、むこう 2 年間で+ 0.3 %とほぼ横ばいの見通しである。中部圏ではク オリティの高い物件は相対的に不足しており、空室率は上がるものの賃料を下支えす る。また、今後供給が集中する地域では賃料が弱含む局面も想定されるが、空室不足 の中心部で高めの賃料水準が維持されることで相殺されるだろう。 賃料の上昇は持続するも、ペースはやや鈍化 福岡圏では2019 年
Investment 投資 05 2022年通年の日本における商業用不動産への投資額は前年をやや下回る見込み。とはいえ、期待利回りは 低下傾向が続き、投資家の意欲は依然として旺盛だった。海外金利の上昇および世界経済の後退懸念を 背景に、慎重姿勢に転じる投資家が一部で見られている。しかし、日銀が金融引き締め方向に大きく舵を 切ることは当面は考えにくく、2023年も、日本の不動産市場に対する投資家の需要は総じて高い状態が続 くだろう。

46 %、 22%減少した。 累計投資額が減少した要因は 3 つ挙げられる。一つは、 J-REIT 投資口株価が軟調に推移 したこと。 2 つ目は、売却案件の不足。良好な資金調達環境が続きリファイナンスが 可能だったため 、 売却案件は限られた 。 3 つ目は 、 売主と買主の価格目線の乖離に よって取引成約までに時間を要するようになったこと。

37 CBRE RESEARCH © 2022 CBRE, INC 不動産マーケットアウトルック 2023 Asia Pacific Real Estate Market Outlook 2023 | Japan 10億円以上の取引を対象、J-REITによるIPO時の取得物件を除く。 出所 Real Capital Analytics、CBRE、2022年 Q3 Figure 1: 主要不動産取引(投資主体別) 2022年Q3までの累計投資額は前年同期比13%減少 海外投資家の投資額が大幅増の一方、国内投資家による投資額が減少 2022 年 Q1から Q3までの累計投資額( 10 億円以上が対象、 Figure 1)は 2 兆 3,460 億円で、前 年同期を 13 % 下回った 。 投資主体別の投資額では 、 海外投資家が前年同期に対して 54 %増加した一方、 J-REIT およびその他の国内投資家は前年同期からそれぞれ
CBRE 短観( DI 、東京 A クラスビル、 Figure 2 )によれば、「投融資取組 スタンス」 DI はコロナ禍に突入した 2020 年には大きく悪化したものの、それ以降は改 善傾向が続いていた。 2022 年 Q3には DI が悪化したものの、これは「現状を維持」と回 答した投資家割合が増加したことが主因。日本の金融政策も、日銀総裁の交代を機に 引き締め方向に転換するのではないかという懸念が高まったことで、様子見する投資 家が増加したと考えられる。 Q3 までの売買取引で最も高額だったのは 、西武ホール ディングスのホテルやゴルフ場を GIC が取得したポートフォリオ案件(1,471億円)だっ た。その他にも海外投資家が 1 棟で 1,000 億円を超えるオフィスを取得するなど、取引 価格トップ10のうち7件が海外投資家による取得だった。 2022年の投資市場 Figure 2: CBRE短観(DI):東京Aクラスビルについての投融資姿勢 出所 : CBRE、2022年Q3 05 投資 0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 2017 2018 2019 2020 2021 Q1- Q3 2021 Q1- Q3 2022 国内投資家(J-REIT) 国内投資家(その他) 海外投資家 十億円 5 10 15 20 25 2019Q4 2020Q1 2020Q2 2020Q3 2020Q4 2021Q1 2021Q2 2021Q3 2021Q4 2022Q1 2022Q2 2022Q3 現在(調査時点) 半年先の見通し DI:促進(%)ー抑制(%)
一方、投資家の意欲は引き続き堅調とみられる。CBREが国内投資家を中心に四半期毎 に実施している

9,990億円、同- 24%)だった。 物流施設は J-REIT による投資額が対前年同期比 63 %減少したことが主因。また、物流 施設の案件不足が常態化する中、海外投資家による投資額も同 68 %減少した。オフィ スについては、海外投資家の累計投資額は前年からほぼ横ばいだったものの、 J- REIT を含む国内投資家による投資額減少が影響した。ただし、 Q4には過去最大級とされる、 国内投資家による超大型案件の成約が見込まれている。この取引が予定通り成約すれ

38 CBRE RESEARCH © 2022 CBRE, INC 不動産マーケットアウトルック 2023 Asia Pacific Real Estate Market Outlook 2023 | Japan 10億円以上の取引を対象、J-REITによるIPO時の取得物件を除く。数値は対前年変動率。 出所 Real Capital Analytics、CBRE、2022年 Q3 Figure 3: 主要不動産取引(アセットタイプ別取引額) 海外投資家による大型取引が散見、年末までに国内投資家の超大型案件も 主要アセットタイプ別* の累計投資額( 2022 年と 2021年のQ1~Q3比較、Figure 3)では、 住宅のみ対前年同期比で増加( 4,350 億円、同+ 42 %)、 Q3 時点で前年投資額を 7 %上 回った。この累計投資額の 68%が海外投資家による取得で、ポートフォリオを中心と した100億円超の取引数が前年同期を大きく上回った。一方、減少幅が最も大きかった
J-REIT投資額の減少は軟調な投資口価格が主因 一方で、 J-REIT については、投資口価格が軟調に推移したことで累計の公募増資が前 年同期より 52 %減少したことが、投資額の減少にもつながった。現時点の累計投資額 は 5,290 億円で、 2022 年の総投資額が 1兆円を下回る場合は 2012 年ぶりの低水準を記録す ることになる。年初来の投資口価格の下落率が最も大きかったのは物流セクタ ( 18.5 %、 Figure 4)。金利上昇の懸念が高まる中で、(前年までの株価上昇による)配当 利回りの相対的な低さが嫌気されたとみられる。結果として、 J-REIT による物流施設 の累計投資額も前年同期から6割以上減少した。 2022年の投資市場(続) Figure 4: J-REITアセットタイプ別投資口価格 出所 : Datastream、CBRE、2022年10月 05 投資 *詳細不明のポートフォリオを除く -24% 42% 0% -55% -15% -61% 0 250 500 750 1,000 1,250 1,500 オフィス 住宅 商業施設 物流施設 ホテル その他 Q1- Q3 2021 Q1- Q3 2022 十億円 -40% -30% -20% -10% 0% 10% 20% 30% 東証リート 指数 オフィス 特化型 リテール 特化型 住宅 特化型 物流施設 特化型 ホテル 特化型 総合型 2020 2021 Q1-Q3 2022 変動率
のは物流施設( 2,110 億円、同-55 %)、次いでオフィス(
ば、通年のオフィス投資額は3年連続で前年を上回る見込み。

2022 年 Q3 頃か ら慎重姿勢に転じる海外投資家が一部で見られている。しかし、 2023年、日本の不動 産投資市場は堅調に推移する可能性が高い。日本が国内外の投資家にとって魅力的な 投資先となる理由は次の 3 つが挙げられる:①日本経済は今後も緩やかな回復傾向が 続く見込みであること。②物価上昇率が限定的な日本では、金融緩和政策が当面維持 される可能性が高い。従って、不動産投資利回りの金利に対するスプレッドは、海外 と比べて相対的に高い水準が続くと考えられる(

39 CBRE RESEARCH © 2022 CBRE, INC 不動産マーケットアウトルック 2023 Asia Pacific Real Estate Market Outlook 2023 | Japan 10億円以上の取引を対象、J-REITによるIPO時の取得物件を除く。 出所 Real Capital Analytics、CBRE、2022年11月 Figure 5: 不動産投資の実績と見通し 不確実性高まる中で資金は日本の不動産投資へ 2022 年 Q3 までの累計投資額は前年同期を 1 割強下回ったものの、投資家の期待利回り (41ページ、 Figure 9 )は低下が続いており、投資意欲が旺盛な投資家が依然として多 いことを物語っている。 Q4には大型案件の成約が複数見込まれていることから、通年 の投資額は前年を3%程度下回る水準での着地となろう( Figure
)。
Figure 6 )。③不動産ファンドの資金 は潤沢で買い意欲は引き続き高い。不動産ファンドがアジア太平洋地域内で投資する 予定の資金はコロナ禍前(2019年)を 3割上回った。 一部の海外投資家が慎重姿勢になって以降、大型案件の入札では国内投資家が優勢と なるケースが見られている。 2023年は国内投資家が市場を牽引しそうだ。ただし、オ フィスや物流施設では、首都圏を中心に大型の新規供給が見込まれており、総じて市 況は弱含む傾向が続くとみられる。キャッシュフローの上昇が期待できる物件は限定 的になる中、投資家は選別姿勢を強めるだろう。また、 2022 年にみられた 1,000 億円を 超える大型案件の投資額は調査開始以来 2番目の規模だった。 2023年に同規模の案件が 複数成約される見込みはあるものの、2022年の投資額には届かないだろう。 これらの ことから2023年の投資額は2022 年をやや下回ると予想する。 2023年の投資市場 Figure 6: 金利に対するスプレッド 出所 : Datastream、CBRE、2022年Q3 05 投資 -40% -20% 0% 20% 40% 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023 取引額 対前年変動率(右軸) 十億円 -2% -1% 0% 1% 2% 3% 4% 5% 東京 上海 シドニー シンガポール ソウル 香港 スプレッド プライムオフィス利回り 10年国債利回り Forecast
5
海外市場での金利の上昇および欧米の景気後退懸念の高まりによって、

出所:CBRE、2022年11月

Figure 7: 東京主要アセットタイプ 推定取引利回りの見通し 賃貸市場は弱含み、入念な案件精査が重要に キャッシュフローが安定しているプライム物件に対する投資家の人気は根強いものの、 投資案件は極僅か。また、キャッシュフローの上昇が期待できる物件は 2022 年よりも 限定的となろう。投資判断には、セクターやグレードのみならず、個別案件ごとの精 査がより重要となろう。CBREが推定する東京プライムアセット取引利回りの 2023年Q4 の見通しは、オフィスおよび物流施設については「上昇」(いずれも対前年比+ 5 bps)、 リテールは「低下」(同-5bps)とした( Figure 7)。 東京オフィス市場は、大量供給の影響で今後 3 年間にわたって空室率は上昇、新規賃 料は下落が続く見込み。競争力が劣る物件では取引利回りは上昇する可能性がある。 とはいえ、 2023年もオフィスに対する投資意欲が後退する可能性は低い。理由は、他 のセクターより流動性が高く、コアやバリューアッド等の投資機会が相対的に多いた め。 そのような中 、投資家が求める投資対象はテナント需要を牽引する「 グレード アップ移転」の受け皿となる物件。立地の優位性、築年数、さらにはアメニティの充 実度などによる属性での選別がより重要となろう。

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物流施設は 、特に景気の先行きに対する不透明感が高まる局面では、 キャッシュフ ローが安定したディフェンシブアセットとして、投資家の人気は根強い。とはいえ、 首都圏の新規賃料は 2023年に対前年比 0.4%下落する見込み。新規供給が集中するエリ アや競合するエリアで賃料が弱含むことが主因。従って今後は、立地や物件属性など をもとに入念に選別していくことがますます重要となっている。投資家は選別姿勢を 強めることから、現在、過去最低値となっている取引利回りは今後上昇する可能性が ある。 2023年の投資戦略 Figure 8: 東京主要アセットタイプ 新規賃料の見通し 出所:CBRE、2022年Q3 05 投資 2% 3% 4% 5% 6% オフィス (東京グレードA) 商業施設 (銀座ハイストリート) 物流施設 (マルチテナント型、 東京ベイエリア) Q1 2007 - Q3 2022 Q4 2022 予測 Q4 2023 予測 -8% -6% -4% -2% 0% 2% 4% オフィス (グレードA) 物流施設 (マルチテナント型、 首都圏) 商業施設 (銀座ハイストリート) 2021 2022 予測 2023 予測 対前年変動率

2023年も住宅への投資は堅調、リテールとホテルはインバウンド需要回復期待で注目高まる

41 CBRE RESEARCH © 2022 CBRE, INC 不動産マーケットアウトルック 2023 Asia Pacific Real Estate Market Outlook 2023 | Japan 安定したキャッシュフローで投資家の人気が高い住宅は、2020
30 ~ 38bps 低下 。最も低下幅が大きかった物流施 設( - 45bps )に次ぐ水準だっ た( Figure 9 )。東京都心では、 1 棟の大型物件で取引利回りが 2 %台という事例もみられた。 2023 年も投資家の関心は引き続き高そうだ。しかし、売主の価格目線が上昇し、買主の検 討可能な水準を上回る物件も散見されている。そのため、今後の取引利回りの低下余
年以降期待利回りが * 下限値(中央値)と上限値(中央値)の平均 出所 CBRE、2022年Q3 Figure 9: 期待NOI利回りの推移(東京) 05 投資 3% 4% 5% 6% 7% 8% Q2 2007 Q2 2008 Q2 2009 Q2 2010 Q2 2011 Q2 2012 Q2 2013 Q2 2014 Q2 2015 Q2 2016 Q2 2017 Q2 2018 Q2 2019 Q2 2020 Q2 2021 Q2 2022 オフィス(大手町) リテール(一流ブランド立地、銀座中央通り) 物流(マルチ、首都圏湾岸部) ホテル(運営委託型、東京主要5区) 賃貸マンション(ワンルーム、東京主要5区) 賃貸マンション(ファミリー、東京城南・城西)
地は限定的なものとなるだろう。 2022 年 10 月に入国規制が緩和されたことでインバウンド需要の回復期待が高まり、リ テールとホテルに対する投資家の注目が集まっている。リテールについては、 2022年 Q3時点の、主要エリアのハイストリート店舗物件の期待利回りが、コロナ禍前と同水 準のエリア (東京 ・銀座 、大阪・ 御堂筋 、福岡 ・ 天神西) や、 これを下回るエリア (東京・表参道、名古屋・栄)が出てきた。ホテルについても、 2022 年 10 月の日本人 宿泊者数(累計)は 2019 年同月の 88 %まで回復。今後、外国人宿泊者数が次第に増加 することでキャッシュフローの更なる改善が期待される。ただし、コロナ下であって も、それ以前に計画された新規供給が予定通り竣工した都市もある。エリアやホテル タイプによって投資家の関心度合いは分かれるだろう。

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Richard Barkham Ph.D. Global Chief Economist & Global Head of Research
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