日本の リテール&ホテルマーケット 回復への道 鍵となるのは国内需要 CBRE RESEARCH SEPTEMBER 2021 Creating Resilience VIEWPOINT
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2 © 2021 CBRE, INC.RESEARCH Creating Resilience 日本のリテール&ホテルマーケット回復への道 1. COVID 19による需要消失 リテール及びホテルマーケットは、 新型コロナウイルスの感染拡大の甚大な影響を受けた。 リテール マーケットでは、感染拡大抑制のための営業自粛の要請や、不要不急の外出自粛の要請があった。ホテ ルマーケットでは、県をまたいだ移動が抑制されたことなどから、観光旅行や出張需要が激減した。ま た、水際対策として日本国内への入国制限措置が執られたことで、インバウンド需要も消滅している。 昨年( 2020 年) 7 月から 10 月にかけて、日本政府は段階的に入国緩和策を取っていたが、国内での感染拡 大の状況に鑑み、12月末には一時停止をしている。 Figure 1は、各国における 2021年 9 月時点での入国規制のレベルを示している。レベル
の
ち、日本はいちばん厳しいレベル 4の「国境閉鎖」となっている。今後、感染拡大の収束が見えてくるこ とで、入国制限は段階的に緩和されるだろう。ただし、国内外の感染状況に鑑みながら慎重に進める必 要があることなどから、入国制限の解除には一定の時間を要する可能性が高い。 Figure 1: 入国規制のレベル 出所:Oxford COVID 19 Government Response Tracker、CBRE、2021年9月 Level 0 1 2 3 4 対策なし スクリーニング ハイリスク地域 からの到着者を 検疫 ハイリスク地域 からの入国禁止 国境閉鎖 国・地域 ドイツ スペイン 中国 香港 台湾 韓国 米国 カナダ 英国 フランス イタリア トルコ シンガポール オーストラリア ニュージーランド 日本
ことにする。新型コロナウイルス感染拡大防止を目的とする入国制限の解除の時期が見通せない中、また 解除されるとしても段階的に進むとみられる中で、当面、国内のリテールマーケットならびにホテルマー ケットを支えるのは国内需要だ。では、日本における国内需要の厚みは、主要国と比較してどれほどになる だろうか。各地域のマーケット回復のポテンシャルを比較するうえで重要であることから確認してみたい。 Figure 2~ Figure 4は、主要地域における国内需要層の割合を、人口、小売売上高、宿泊者数*の観点から算 出したものである。原則として新型コロナウイルス感染拡大前の 2019 年の統計データを参考にしている。 このうちリテールマーケット及びホテルマーケットの国内需要の割合を直接的に示すのは、 Figure 3 と Figure 4だ。ただし、統計データが揃わない地域もあるため、参考として Figure 2に人口とインバウンド数 を合計した人数を当該地域における潜在的な顧客の総体とみなし、そのうち人口の占める割合を算出した。 * ここでいう「宿泊者数」とは、実宿泊者数を指す。一回の旅行で一泊以上した人数の合計。延べ宿泊者数の集計と異なり、人数に泊 数は乗じない。比較し得る統計データを最も多くの地域で取得可能であったのが実宿泊者数であるためこの指標を参考とした。 また国境が陸続きの国では国境を跨ぐ日帰り旅行客も多い。そのため単に旅行客に占める国内客とせず、宿泊者数を参考とした。
3 © 2021 CBRE, INC.RESEARCH Creating Resilience 日本のリテール&ホテルマーケット回復への道 2. 日本のリテール・ホテルマーケットの需要層 訪日外客数は 2012 年まで年間 1,000 万人を下回る水準で推移していたが、ここ数年で増加の一途を辿り、 2018 年には初めて 3,000 万人を突破した 。 ここ数年は、 インバウンドが日本のリテール及びホテルマー ケットの需要の増加を牽引してきたことは間違いない。訪日外客数の増加に伴ってリテールマーケット では出店ニーズが拡大して賃料が上昇し、ホテルマーケットでは稼働率が向上した。 一方で、需要を底堅く下支えし続けてきたのは日本人を中心とする需要層だ。これを「国内需要」と呼ぶ
Figure 2: 潜在的な国内需要層の割合(2019年) 0% 25% 50% 75% 100% 米国 カナダ ドイツ トルコ 英国 イタリア スペイン フランス 中国 日本 韓国 オーストラリア 台湾 ニュージーランド シンガポール 香港 アメリカ大陸 ヨーロッパ・中東 アジア太平洋地域 出所:Oxford Economics、OECD、UNWTO、CBRE、2021年8月 算出式:潜在的な国内需要層の割合 = 人口 / (人口 + 国際観光到着数) 注:フランス、トルコ、中国、タイは2018年のデータ。人口は推計も含む
4 © 2021 CBRE, INC.RESEARCH Creating Resilience 日本のリテール&ホテルマーケット回復への道 Figure 3: リテールマーケットの国内需要層の割合( 2019年) 出所:ユーロモニター、OECD、 CBRE 、2021年8 月 算出式:リテールマーケットの国内需要層の割合 = (小売売上高 インバウンド消費額) / 小売売上高 Figure 4: 宿泊マーケットの国内需要層の割合( 2019年) 出所:OECD、UNWTO、CBRE、2021年8 月 算出式:宿泊マーケットの国内需要層の割合 = 国内居住者の実宿泊者数 / (国内居住者の実宿泊者数 + インバウンド実宿泊者数) 注:フランスとトルコは2018年のデータ 0% 25% 50% 75% 100% 米国 カナダ ドイツ 英国 フランス イタリア トルコ スペイン 中国 日本 台湾 オーストラリア ニュージーランド 香港 シンガポール 韓国 アメリカ大陸 ヨーロッパ・中東 アジア太平洋地域 0% 25% 50% 75% 100% 米国 カナダ ドイツ 英国 フランス トルコ スペイン イタリア 日本 韓国 ニュージーランド 中国 オーストラリア 台湾 シンガポール 香港 アメリカ大陸 ヨーロッパ・中東 アジア太平洋地域 これによると、日本はリテールマーケットの国内需要層の割合は95 4%、宿泊マーケットの国内需要層の 割合は90.7%で、グラフに挙げた主要地域の中でも相対的に高い割合を示している。したがって、主要地 域との比較において、日本は国内需要のみでも高い回復力を有する国といえるだろう。
6 9 兆円から 36 0 兆円に膨
いうよりも、消費の単価を上げる(少し贅沢な消費、観光を行う)形で表れやすいと考えられる。 こうした見通しを背景に、リテーラーや宿泊事業者は、インバウンド需要が本格的に再開するまでの間、 国内需要の回復に備えた準備を進めている。リテールマーケットにおいては、ラグジュアリーブランド
においては、リゾート地における開発や、都市型のラグジュアリーホテルの出店計画が着々と進行して いることが、 その現れだろう
ラグジュアリーブランド以外においても 、 リテールではブラン ディングのための新規出店や、ブランド価値向上のためのエリア内移転などがみられそうだ。ホテルで も、旅行者及びオーナーから選ばれるためのブランド力を磨くことが回復の鍵となるだろう。
また
5 © 2021 CBRE, INC.RESEARCH Creating Resilience 日本のリテール&ホテルマーケット回復への道 この記事の無断転載を禁じます。これらの記事の見解や意見は執筆者に帰属し、必ずしも CBRE の見解や意見を代表するものではありません。当社の 従業員は、中傷的な条項を作成したり、法的権利を侵害したり、侵害を許可したりしない義務があります。したがって、記事に含まれるこのような 記述に起因する損害やその他の責任について、当社は一切の責任を負いません。 © Copyright 2021 Contact 加えて、政府による各種給付金支給や、度重なる緊急事態宣言による消費の抑制によって、着実に繰り 越し需要(ペントアップ需要)は蓄積されている。 2020 年の家計貯蓄額は前年の
らんだ( Figure 5)。この蓄積された「消費のマグマ」の一部は、人流再開とともにこれまで我慢をしてい た消費や観光などに向かう可能性が高い。そして、その顕在化の仕方としては、消費の回数を増やすと
を中心に主要なリテールエリアにおける路面店舗の出店ニーズが増えつつあること、ホテルマーケット
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大久保 寛 エグゼクティブディレクター hiroshi.okubo@cbre.co.jp 栗栖 郁 ディレクター kaoru.kurisu@cbre.co.jp 五十嵐 芳生 アソシエイトディレクター yoshitaka.igarashi@cbre.co.jp Figure 5: 貯蓄額の推移 7.9 9.5 10.0 10.2 13.3 9.5 10.5 6.3 0.4 3.8 1.3 4.1 2.9 3.2 6.9 36.0 -40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40 -400 -300 -200 -100 0 100 200 300 400 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 兆円兆円 家計可処分所得(名目) 家計最終消費支出 貯蓄(右軸) 出所:内閣府、CBRE、2021年8月 注:家計には個人企業を含む