929:わかった気がする

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カナダのトロントを訪問した後、帰りの飛行機 に乗り込んだ時のことです。一人の紳士がiPhone で電話をしながらやってきて、隣の席に座りまし た。私はつい昨年、南アフリカで開かれた会議に 出席したところだったので、英語の訛りから南ア フリカの人であることがわかりました。

まもなく、アンドリューという名前のその人と 話し始め、飛行機を降りるまで楽しく会話をしま した。彼がいろいろなことを話してくれるので、

私は主に聞き役でしたが。彼には、野外アドベン チャーを通してチーム育成を行った経験があるこ とを知りました。何年もの間、仕事の一環として、 さまざま会社の職場仲間(多くの場合は幹部)か らなるチームを、南アフリカの未開発森林地帯で の野外アドベンチャーに連れて行っており、それ

は文字通り、参加者を極限まで追い詰めるような 経験だそうです。

アンドリューは、いかにも楽しそうに、そういっ たオフィスに閉じこもって仕事をする人たちのた めに用意する、大自然の中でのさまざまな窮地や 難題や難局について、詳しく話してくれました。 参加者は、身体的・精神的に困難な、この上なく 恐ろしい状況に遭遇することで、別人のようにな り始めるそうです。自分や同僚について、これま ではっきりと見ることも理解することもなかった ものを、新しい視点から捉え、理解するようにな ると。そこを去って、仕事に戻る頃には、ほとん どの人は、自分がそれまで抱えていた重要な問題 がすでに解決されていることを知るのです。

自分の限界を試すことで、自分や同僚の新たな

ジェシー・リチャーズ ジェシー・リチャーズ

一面を知ることができるとは、なんて素晴らしい ことだろうと思いました。それに、彼のような立 場にいることは、いかに素敵なことでしょう。興 味深くエキサイティングな場所に行って冒険がで きるというだけの理由ではなく、他の人たちの目 が開け、変わっていく様子を目撃できるのですか ら。

アンドリューのような人と話をする機会はそう そうありません。そこで私は、彼だったら、長年 に渡って多くの人と接してきた経験に基づいて、 かなり興味深い角度から、優れた秘訣や助言を与 えてくれるのではと考えました。

「何年もの間、チーム育成に携わってきたあなた から見て、人々が互いとの関係において解決すべ き問題の中で、最も一般的なものは何でしょうか。」

「コミュニケーションですよ。大抵の場合、問題 はコミュニケーションです。」

「一緒に働いている人たちが、お互い十分に話を していないということですか。」

「話は十分にしていますが、ほとんど誰もしてい ないのは、十分に耳を傾けるということです。」

それを聞いた瞬間、なるほどと思いました。そ

ういうことを知らなかったわけではないものの、 私はすべきほど耳を傾けていないという自覚はあ ります。さきほど、私は会話中、ほぼ聞き役に回っ ていたと言いましたが、それは、アンドリューの 話を聞きたい一心からでした。しかし、他の時には、 あまりよく話を聞いているとは言えません。

アンドリューはさらに、人々がお互いの伝えた いことを理解していないのなら、それはコミュニ ケーションではないと言いました。多くの場合、 人は言うべきことを言い、書くべきことを書いた から、コミュニケーションを取れたと考えます。

しかし、実際には、相手が理解してくれたかどう

か、わからないし、こちらが意図したものとはまっ たく違った捉え方をされている場合も多いのです。

自分の言いたいことをちゃんと相手に伝えられ

たのか、あるいは、相手の言いたいことを理解で きたのかを知るには、質問をすることです。そして、 もうおわかりだと思いますが、耳を傾けましょう。

つい最近、ピーター・クリーフトの「必要なこ とは一つだけ」という講話を聴いたのですが、そ れは私が学んだばかりの「耳を傾ける」という教 訓に関するものでした。その中で彼は、賢明にも こう語っています。「よい話し手になれる人は多く ありませんが、よい聞き手になることなら誰にで もできます。」私は時々よい話し手になろうと努め るあまり、人はほとんどの場合それを望んでも必 要としてもいないということを忘れてしまうよう です。

クリーフトは他にも、こう語っています。「互い の話に耳を傾けるというのは、稀なことであり、 特別なことです。耳を傾けるなら、必ず何かが起 こります。」私も、ただ口を閉じて耳を傾けるだけ で、素晴らしい発見をしたという経験をいくつか 思い出せます。残念なことに、あまり多くはあり ません。もっとそのような経験をすることもでき たはずなのですが。

もっと耳を傾けることを一生の決意とすること が現実的かどうかはわかりませんが、私は今、耳 を傾けたい相手を見つけることに意識を向けてい ます。多くの人の考えていること、特に神が考え ておられることから洞察を得られるというのに、 なぜ自分の考えだけにとらわれているべきなのか、 と思ったのです。

耳を傾けることの素晴らしさについて、もう一 つ気づいたことがあります。生きていると(そして、 私にとって今がその時なのですが)、自分には与え るものがあまりないと感じることはありませんか。 自分自身が苦闘し、やや途方に暮れているような 状態です。他の人を助けたくても、確実に助けに なるには、どんなことを言えばいいのかわかりま せん。まあ、何を言っても助けにならないような 場合もあることでしょう。それでも、誰だって話 を聞いてもらいたい、理解してもらいたいと思う ものです。私も、誰かに耳を貸すことができるなら、 それは常に何か価値あるものを与えていることに なります。その方が、私に言えるどんなことよりも、 よほど感謝されることでしょう。

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