クローズアップ不動産戦略
社外向けコラボレーションスペースを新設。
ワークプレイス戦略の新たな一手、
CBRE本社「居ながらリノベーション」の道のり。
シービーアールイー株式会社
2023 年 12 月、CBREのワークプレイス戦略は新たなステージに突入した。現在運用している 千代田区丸の内「明治安田生命ビル」の17~18階に加え、新たに21階を増床。加えてハイブリッ ドワークを前提とした環境構築や外部パートナーとの価値共創が可能な「CBRE Idea Lab」 の新設など、大幅なリノベーションを実施したのだ。どのような狙いがあるのか、CBREのエグ ゼクティブディレクターでありプロジェクトマネジメント(以下、PJM)に携わる梶浦久尚と、 ワークプレイスストラテジー(以下、WPS)シニアコンサルタントの遠矢敏靖に話を訊いた。
移動可能な什器で構成されたIdea Labはレイアウトを柔軟に変更し、外部パー トナーとの協業や最新テクノロジーの体験会、セミナー、日常的な執務といった フレキシブルな使い方が可能。利用者へ新たな発見をもたらすとともに、社内に おいてはイノベーティブなマインド醸成も期待されている。
レセプションは石や左官塗装、そしてメリハリのある照明などにより、広がりや重厚感を感じさ せる空間にリニューアル。VIPや役員層などを含めた幅広い来客をおもてなしできる空間、そし て業界のプロフェッショナルとしての信頼感をより一層体現する場として生まれ変わった。
21階:レセプション
カジュアルな商談や休憩、食事といったコミュニティ活動を行える Rise Cafe 。旧オフィスでは従業員の執務スペースに近接する18階 に設けられていたが、社外とのコラボレーションをより意識し、カス タマースペースを集中した 21 階へ移設。幅を約 1.4 倍に拡張し、カ フェとカフェカウンターを分離して独立した空間を創出するなど、イ ベントスペースとしての活用もより一層期待される。
2014 年に ABW を導入 高成長の原動力に
当社の近年におけるワークプレイスの変革は、2014年4月に実施し た丸の内への本社移転に始まります。それまで運用していた浜松町の 旧本社を含む首都圏の4 拠点を、丸の内「明治安田生命ビル」の17 ~ 18 階の2フロアへ統合したのです。移転計画の骨子としたのが経営ビ ジョンに基づく六つのコンセプトで、第1に掲げたのが「CBREのブラン ドのショーケース」となることでした。当時、他社に先駆けていち早くア クティビティベース型ワークプレイス(以下、ABW)を導入し、先鋭的な フリーアドレスオフィスを目指しました。お客様を対象に、これまで延べ 数万人規模でオフィスツアーも実施し、多くの方々に良い意味で驚いて もらえたと思います。
そのほかにも「お客様中心」や「グローバルなつながり」、弊社の理念 である「RISE(Respect / Integrity / Service / Excellence)バ リューの実現」「自律的な組織文化を」「優秀な人材の獲得」をコンセプ トに掲げました。世界中の企業とのリレーションをより一層深めるとと もに、不動産マーケットにおける一流のプレーヤーを世界中から当社 に迎え入れられ、これまでの成長の原動力となったと実感しています。
コロナ禍でオフィストレンドが変化 ハイブリッドワークへの対応などが課題に
さて、2014 年の本社移転から10 年近くが経ち、社会やマーケットが 変化していくなかで、ワークプレイスをめぐる新たな課題が見えてきま した。まず何より、多くの企業がABWを導入している昨今、CBREのオ フィスが最先端のショーケースとは言えなくなっていたのです。
階:会議室でのミーティング
防音性を高めるなどの機能向上を図った会議室を計11室配置した。それ
ぞれの会議室には「Fuji」「Akaishi」といった日本の山の名前が付けら れ、日本文化を感じさせるとともに、CBREとしてさらなる高みを目指す 意志を表している。エントランスから会議室へ向かう経路を複数設け、で きるだけ来客の動線を交錯させないなどの配慮もなされている。
2020 年から始まった新型コロナウイルスの感染拡大にも、大きな 影響を受けました。ABWの導入、ITインフラの拡充によりリモートワー クができる土壌を整えていたものの、従業員の在宅勤務の比率を上げ ていくなかで、自宅とオフィス以外のサードプレイスで仕事を行うなど のフレキシビリティが求められてきたのです。しかし当時のオフィスは、 ハイブリッドワークに必要な要件を完全に満たしてはいませんでした。 例えば物理的な設備だけを見ても、オフィスからオンライン会議を行う 機会が増えるなかでフォンブースの数が足りていないなどの問題があ りました。
さらにコロナ禍は、社内外とのコミュニケーションの面でも大きな 障害となりました。2020~2021年にかけて、在宅勤務をメインとする 従業員の比率が徐々に増え、メンバーのほとんどが自宅で執務を行う 部署さえありました。サービスのクオリティは維持できていたものの、 テクノロジーの進化により社会が加速度的に変化していくなか、社内 外の人が集まり協働して生まれるイノベーション、そして組織としての さらなる成長をイメージしづらい状況でした。関連して、メンタリティの 醸成という観点からも課題はありました。他者と対面での協働が少な くなるなかで、従業員一人ひとりがワールドクラスの人材であるという 自負を抱けるかという点においても、経営層からは懸念の声があった のです。当時、社長であった坂口が「従業員に、オフィスへ戻ってきてほ しい」と話していたのが、強く印象に残っています。
21 21階:Rise Cafe満足度の高かった丸の内オフィスで 増床・リノベーションを決断
このような背景により、PJMならびにWPSの両輪で、2021年後半か ら新たなワークプレイス戦略に向けて始動。再びオフィスを移転するか、 現在のオフィスを増床・リノベーションするかの2案を基本線とし、同時 並行で検討を進めていきました。
プロジェクトの難易度が高いのは居ながらの改修・増床です。検討に あたっては、従業員の通勤の利便性などを考えて東京駅直結の最新の オフィスビルなど、複数の物件を訪問。一部物件はオーナーとの交渉も ある程度進めていました。一方で費用を抑えられるのもオフィスの改修 です。移転と比較して工期は同程度ながら費用は30%以上のコスト削 減が可能でした。現在入居中の17~18階よりも上階、21階を増床先の候 補と考え、こちらも水面下でフロアの関係者と調整を進めていました。
検討にあたって重要な要素となったのは、多くの従業員が丸の内と
いう現在の立地にブランドバリューを感じ、ABW も高く評価していた 点です。2021 年当時に実施したWPSの調査では、本社全社員のうち 実に76%がオフィスに満足していました。より多くの費用をかけてでも 移転の必要があるのかを慎重に考え、最終的には既存のオフィスを増 床・リノベーションする決断をしました。
CBRE のカルチャーを体現すべく インハウスでオフィスデザインに挑戦
2022 年 3 月からプロジェクトの戦略策定のため、WPSにて従業員 アンケートのほか、スペース利用率調査、経営層インタビュー、部門長 をメインとした社員ワークショップを順次実施。各種調査により、先ほ ども触れた現状のオフィスの課題が改めて浮き彫りとなりました。経 営層からは主に、従業員のプロフェッショナリティを高める場や健康に 配慮した空間、多様なクライアント・外部パートナーに対し、協業やお もてなしがしやすい場所を拡充したいとの声が。一方で従業員からは、 ハイブリッドワークの推進やオフィスの快適性向上のほか、他部署との 連携を加速させる場がほしいという意見が寄せられました。
これらを集約し、プロジェクトの3 大方針として「ハイブリッドワーク への対応」「社外との更なる協業」「従業員の快適性・健康に配慮した 環境設備」を策定。それぞれの方針に基づき、2022 年 6 月ごろからオ フィスデザインに着手しました。これを担ったのは、2021年にPJM おいて設立されたデザインコレクティブチーム。新設部署のためポテン
シャルが未知数な部分もありましたが、我々CBREのカルチャーを体 現する場所だからこそ、インハウスで内装設計を進めたいという思い が強くありました。
新たなオフィスのコンセプトは「Co-Evolution」としました。「Co」に は「共同に」「相互に」という意味があり、これに進化を表す 「Evolution」をかけ合わせた言葉です。人・文化・関係性を高め、成長 させ、発展させるワークプレイスを目指す決意を示しています。
ソロワークステーションは上下昇降デ スクやエルゴノミックチェアなどを採 用し、様々な働き方に対応可能な執 務スペースとしている。
メインのオフィスフロアは改修前のレイ アウトをベースとしつつも、120 度デスク やワイドモニターの設置など、家具・設備 を全体的にアップグレードした。
18階:執務スペース
あらかじめセッティングされたミーティング以外にも、偶発的な コラボレーションの機会を取りこぼすことなく、CBREコミュニ ティを最大化させるため、小~大規模のコラボレーションスペー スを増設した。Small Spacesは2~4人程度の利用を想定。もと もと来客用だったエリアを転用したMedium Spaces は 6 ~ 8 人、旧Rise Caféを改修したLarge Spaces(名称:Terminal) では10人弱のメンバーが専有できる。Terminalの専有利用にあ たっては予約が必要で、大規模なミーティングやワークショップ など、用途や参加人数に応じてオーガナイズ可能だ。
Quiet Areaでは全席をパーテーション付 きの個人ブースとし、ミーティング・私語や 食事などを行えないようにするなど、従業 員が集中して作業可能なスペースとした。
フォンブースでのオンライン会議 簡単な打ち合わせも可能な2人用のブース
オンライン会議を行うためのフォンブースを増設。社内ニーズを調査し たうえで、2名で利用可能なタイプも新たに設けた。会議室の代わりと して、 1 on 1の打ち合わせなども行える。一部のブースにはリクライニ ングチェアを採用し、仮眠スペースとしても活用可能だ。
価値創造の場「 Idea Lab 」新設 社外とのコラボレーションを促進
レイアウトで特筆すべきは、外部との協業を推進するため、増床す る21 階に社外コミュニティの場を集中させた点です。特別感のあるレ セプションやカフェイベントスペース、そしてイノベーションの創出の 場「 CBRE Idea Lab 」の整備などを計画しました。とりわけ Idea Lab は「Co-Evolution」を実現するうえで象徴的であり、従業員が執 務を行うだけでなく、事業用不動産の最新テクノロジーとクライアント を結びつけ、様々なIT ベンダーとの協業を通じてイノベーションを創 出するスペースと位置づけています。家具はすべて移動可能な什器で 構成し、セミナーなども行えます。一方ですでに利用されている17 階、 18階は満足度の高かった現状のオフィスを活かしつつ、小~大規模の コラボレーションスペースやフォンブースの増設など、数多くのアップグ レードを図りました。
改修は2023年の年初から4段階に分け実施。新たに増床する21階 全体を工事エリアとするPhase1(~2023年7月)、21階を一部開放し つつ18 階を部分的に工事するPhase2(~ 2023 年 9 月)、18 階の未施 工部分に着手するPhase3(~2023年11月)、18階をリニューアルオー プンさせて21 階の残工事を行うPhase4(~ 2023 年 12 月)を経て、設 計通りのレイアウトに仕上げました。オフィスの出社率については、将 来の増員も見込んだ約 900 名のヘッドカウントに対して、70% 弱の ワークポイント、90%の席数を見込んでいます。
社員とともに創り上げる 時代に合わせた「可変性」あるオフィス
プロジェクトを振り返ると、特に気を配ったのは社内へのコミュニ ケーションでしょうか。例えば工事に際しては、居ながらリノベーション ということもあり、従業員に向けて各段階を丁寧に説明するよう心が けました。日々の業務で成果を出さなければならないなかで、利用し ようとしていた会議室や執務スペースがなくなっていた、などという事 態があってはいけません。事前に、工事によって出社率やオフィスの席 数の増減がどのようになるかをWPSで精査し、その結果をもとに工事 スケジュールの策定やコワーキングオフィスの活用などを戦略的に計
新たなオフィスでは実用性を追求するととも に、植栽、アート、光といった Well-being の 観点をオフィスデザインに取り入れ、心身と もに心地良いオフィス環境を目指している。
既存スペースを活かしつつ、個人が集中し て作業可能なフォーカスワークステーション を拡充した。メインスピーカーでなければ、 オンライン会議などにも利用できる。
2023年12月、無事新たなオフィスがフルオープンし、2024 月からは、従業員向けの入居後調査を複数回行っていく予定です。 しばらくは新たなオフィスの使いこなし方を各々が模索していく時期と 捉え、段階的な満足度の上昇を見込んでいます。先ほど紹介したIdea のように、新たなオフィスは自由に動かせる家具や間仕切りなど を数多く備え「可変性」を持たせたつくりになっています。これは単にイ ベントスペースの確保といった目先の利便性だけでなく、時代に合わ せて部分的にでも常にオフィスを創り変えていく、フレキシビリティを担 保するものでもあります。
2014年の本社移転時に導入したABWのように、どのような先鋭的 なオフィスも、時代とともに「当たり前」になっていく時期が必ず訪れま す。そのようななかで、当社ではこれからもワークプレイスの最先端を 自ら体現できる企業であるように、新たなオフィスに対して定量的なモ ニタリングを行いつつ、社員とともにABWのその先を創り上げていき たいと考えています。