Creating Resilience VIEWPOINT
リテーラーに 選ばれる都市、東京
魅力ある東京の リテールマーケットを紹介
CBRE RESEARCH AUGUST 2023
1. はじめに
世界の主要なリテールマーケットでは、リテーラーの出店ニーズが回復している。理由として、世界各 国で経済活動が再開されたことが挙げられる。東京のリテールマーケットでも、 2022 年下期ごろから出 店ニーズが増えている。既存リテーラーによる店舗数の拡大のほか、海外リテーラーによる日本初進出 もみられている。コロナ前と変わらず、東京はリテーラーにとって出店戦略上の重要なエリアとなって いる。本レポートでは、世界の主要なリテールマーケットとの比較を通じて、東京のリテールマーケッ トの魅力を改めて紹介する。ピックアップしたのは、アメリカ:ニューヨーク、イギリス:ロンドン、 フランス:パリ、イタリア:ミラノ、韓国:ソウル、中国:上海、香港、シンガポールである。いずれ の都市・地域も、リテーラーの出店エリアとして東京と比較されることが多い。
本レポートで掘り下げるのは、リテーラーにとって、東京あるいは日本全体の魅力として考えられる以 下の3つのポイントである。
1. 東京:都市GDP に比べて、賃料がリーズナブル
2. 日本:小売販売額総額に対して、EC化率が低い
3. 日本:インバウンドの旅行者数&消費額の伸びが大きい
2. 東京:都市GDPに比べて、賃料がリーズナブル
東京のプライム賃料* 1 は、都市GDP に比べてリーズナブルと言える。すなわち、小売業販売額を含む都市 の経済規模に対して、実店舗を賃借する際の賃料が低く抑えられている。そのため、世界の主要なマー ケットに比べて、東京は実店舗の利益を上げやすい環境と言えそうだ。 Figure 1 は、 2023 年の都市・地域
別GDP(Oxford economics予測)と、 2023年Q 2時点のプライム賃料を示している。 GDPの規模はニューヨー
クが約126兆円と最も大きく、東京は111兆円で世界第 2位となっている。以下、ロンドン、上海、ソウルの 順。一方、プライム賃料が最も高いのはロンドンの約 121 万円(月/坪)で、ニューヨークの 73万円が続 いた。以下、パリ、ミラノと続き、東京の 40万円は5 位という順位になっている。
東京は、世界ないしはアジア地域に向けた旗艦店舗を出店するエリアとして、リテーラーに支持されて いる。 6月には、歴史あるアメリカの楽器ブランドが、東京・原宿エリアに「世界初」の旗艦店舗を出店 した。また 7 月には、グローバルに展開するファッションブランドが、同じく原宿エリアに「アジア初」 の旗艦店舗を出店した。東京は、世界有数の都市としてファッションやカルチャーのトレンド発信地と なっている。 今後も 、 ブランドのコンセプトを発信する旗艦店舗のエリアとして 、 東京を選ぶリテー ラーは多くみられるだろう。
*1 プライム賃料とは、ハイストリートの中でも好立地にある、各都市の最も高い想定成約賃料を指す。1Fの面積200㎡基準として、 関連する賃貸事例や弊社営業の意見に基づく市況感を反映し、算出している。
3. 日本:小売販売額総額に対するEC化率が低い
日本の EC 化率 *2 は、他の主要国・地域に比べて依然として低い。前項で、東京は実店舗が利益を生み出 しやすい環境だと述べたが 、EC 化率の低さも関連している 。 Figure 2 は 、 国別に 2022 年の EC 化率 ( Euromonitor 予測)を示している。韓国の 43 5 %が最も高く、次に中国の 31 4 %となっている。以下、イギ リス、アメリカ、香港の順で、日本の14.7%*3 はシンガポールに次ぐ7位だった。前項でみたとおり東京で は経済規模の割に賃料が低く抑えられていることに加え、実店舗での購買率が高いことも、実店舗が利 益を生み出しやすい環境であることを示唆している。
*2 EC化率とは、小売販売額総額に対するEコマース販売額の比率を指す。
*3 本レポートでは、世界の主要なマーケットと同じ基準で比較するため、Euromonitorが集計している数字を使っている。現地通貨 ベースのオンライン/オフライン販売額を、割合に変換しているため。経済産業省の数値とは異なっている。
日本の消費者の実店舗志向が強いことは、 CBRE 独自の調査結果にも表れている。 CBRE が、 2022 年初夏に おこなったアンケート調査「CBRE Global Consumer Survey」*4 の結果にもとづき、日本の消費者がどのよう に買い物しているかをまとめてみた。 Figure 3は、商品別に、オンラインではなく実店舗で購入するとし た回答者の比率を国・地域毎に示している。日本は、 10 商品中 7 商品で、実店舗での購入の方を好むとい う結果となった 。また 、 日本では、 実店舗での購買意欲の方が高いという商品の数が 、 世界の主要な マーケットに比べて多い。実店舗での購入の方を好む回答者の比率を商品別でみると、 DIY、ならびに子 供服&子供靴は日本は 1位、家具用品/家具・インテリア等、ならびに衣類 & 靴は 2 位、生活必需品、高級 品/宝飾品は3位となっている。
*4 2022年6月21日から7月26日におこなった。有効回答者数は21,096件、うちに日本は1,621件
日本の消費者が、実店舗で購入したい理由として多く挙げていたのは、「購入前に商品を見て試すこと ができる」、「商品をすぐに入手できる」の2点だった。コロナ禍で、消費者はオンラインでの買い物を 余儀なくされた。そのことを通じて、オンライン購入における豊富な品揃えや価格比較の容易さなどの 利便性を再認識したであろう。それにもかかわらず、日本の消費者はなお「実際に見て・触れて・すぐ に購入できる」というリアルな体験を重視していることが、調査結果からうかがえた。テクノロジーを 使った新しい買い物体験はこれからも出てくるだろう。しかし、日本の消費者がリアルな体験に価値を 求める傾向は、当面は変わることはないのではないか。
高級品/宝飾品 DIY (日曜大工)
家庭用品/家具・インテリア等子供服&子供靴 &靴 化粧品 電子機器 贈答品 専門的/趣味のアイテム
4. 日本:インバウンドの旅行者数&消費額の伸びが大きい
日本へのインバウンドの旅行者数、ならびにそれら旅行者による消費額が、急速に回復している。 Figure 4 は、国・地域別に、コロナ直前の 2019 年(年間)のインバウンド旅行者数と、さらにその 5 年前( 2014 年)からの伸び率を示している。 2019 年時点でインバウンド旅行者数が最も多いのはフランスの約 2 18憶 人、次にアメリカの1.65 憶人となっている。以下、中国、イタリア、香港の順で、日本の約3,200 万人はイ ギリスに次ぐ7位だった。一方、その5 年前の2014年と比べたインバウンド旅行者数の伸び率をみると、東 京の137 7%増はほかを圧倒している。全エリアの平均伸び率 26 3%を、111 4ポイント上回っている。世界の 主要なマーケットに比べて、インバウンド旅行者数そのものはまだ少ないものの、近年の伸びは目覚ま しいことが分かる。 この伸びを牽引したのが 、訪日中国人である 。 2014 年 ( 年間) の約 241 万人から、
2019年は約960万人と298.2%増えたほか、2019年の訪日客総数の 3割を占めていた。
Figure 5 は、コロナ前の 2019 年(年間)のインバウンド消費額と、その 5 年前( 2014 年)からの伸び率を国・ 地域別に示している。 2019 年時点でインバウンド消費額が最も多かったのはアメリカの約 21 6 兆円、次に フランスの約 6.9 兆円となっている。以下、イギリス、イタリアと続き、東京の約 5 兆円 * 5 は 5 位であった。 一方、その 5 年前と比べたインバウンド消費額の伸び率をみると、東京の 121 9 %増はやはり突出している。
全エリアの平均伸び率 7 9 %を、 114 0 ポイント上回っている。この伸びを牽引したのが、旅行者数と同じ く、訪日中国人である。訪日中国人による消費額は 2014年(年間)の 5,583 億円から、 2019 年は 1 兆 7,704億 円と317 1%増え、2019年のインバウンド消費額総額の4割弱を占めていた。
コロナ前の東京では、訪日中国人を中心としたインバウンド消費の取り込みを狙った出店が多くみられ ていた。業種としては、ドラッグストアや免税店のほか、化粧品やスポーツブランド、ラグジュアリーブ ランドなどが目立っていた。現在、インバウンド消費関連の出店は回復しつつあるが、 2023年 7 月末時点 で訪日中国人数の本格的な回復には至っていない。中国政府が日本への団体旅行を解禁していないこと が主因(注: 8月10日付で中国政府は日本への団体旅行を解禁すると発表)。しかし、ENJOY JAPAN社が中 国人を対象に行った「行きたい国」に関する意識調査(2023年 3月) * 6 では、回答者の76 4%が「日本」を選 択しており、ランキング第 1 位となっている。また、日本を選択した人の旅行目的では、回答者の 53 3 % が「買い物」を選択、こちらも第 1 位となっている。日本における、インバウンド需要の大きな伸びを牽 引した中国人。彼らのこうしたニーズは、今後、団体旅行が解禁されることで顕在化するだろう。
*5 国土交通省観光庁の発表では、4兆8,135億円となっている。本レポートでは、世界の主要なマーケットと同じ基準で比較するため、 国連世界観光機関(UNWTO)が発表している数字を使っている。USドルベースの金額に、弊社為替レートを使って日本円にした ものとなる。
*6 https://enjoy-japan.jp/column/inbound/chinese-overseastravel-investigation/(有効回答者数
5.さいごに
本レポートでは、魅力ある東京のリテールマーケットを、以下の3つのポイントについて掘り下げた。
1. 東京:都市GDP に比べて、賃料がリーズナブル
2. 日本:小売販売額総額に対して、EC化率が低い
3. 日本:インバウンドの旅行者数&消費額の伸びが大きい
今後、リテーラーにとっての東京の魅力をさらに高めると考えられるのが、インバウンド旅行者数と消 費額のさらなる増加である。コロナ禍があったものの、日本政府は「 2030 年の訪日外国人観光客数 6,000 万人」という目標は継続して掲げていくことを明言している。そのために、訪日プロモーションのほか、 外国人観光客の受け入れ環境の整備やバリアフリー化などに力を入れていくと、 2021 年当時の観光庁長 官が述べている。また、訪日外国人観光客数 6,000 万人という目標と合わせ、訪日外国人旅行消費額 15 兆 円という目標もある( 2019 年実績は 5 兆円)。 2019 年の訪日外国人のうち、東京を訪れた旅行者の割合は 47.24%だった。仮に 2030 年も同じ割合だとすると、 6,000 万人のうち 2,800 万人が東京を訪れ、 15 兆円のう ち 7 兆円を東京で消費することになると推計される。こうした将来性に期待し、東京のマーケットでの出 店を希望するリテーラーは、今後さらに増えることが予想される。そのため、現在は「リーズナブル」 と言える東京のプライム賃料が上昇し、東京リテール市場全体の賃料水準も押し上げられることも視野 に入れる必要があるかもしれない。
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栗栖 郁 リテールチームリーダー ディレクター
大久保 寛 リサーチヘッド