ジャパンビューポイント - オーナーの柔軟性が、リテーラーを救う

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Creating Resilience VIEWPOINT

オーナーの柔軟性が、 リテーラーを救う

リテーラーの 出店ニーズが回復。 ただし、新規出店に伴う 賃貸条件には慎重な姿勢

CBRE RESEARCH FEBRUARY 2023

1. はじめに

新型コロナウイルス感染症( COVID-19 )拡大の影響を受け、多くのリテーラーが売り上げを落とした。 しかしここへきて、リテーラーの売り上げが回復しつつある。それに伴い、主要なリテールエリアに路 面店舗を出店したいというリテーラーのニーズが増えている。ただし、出店に関わる賃貸条件に対して は、慎重な姿勢をみせるリテーラーが少なくない。なぜなら、経済の先行き不透明感が今後も続くとみ られるためだ。本レポートでは、 CBRE が実施するリテーラー/オーナー向けのアンケート結果を元に、 オーナーに求められる柔軟性について分析する。さらに、 CBRE が日々のリーシング活動から得た、出店 の実例を踏まえた契約内容の勘所も考察する。

2. リテーラーの売り上げが回復

2022 年は、コロナ禍以降はじめて行動制限のないゴールデンウィークや夏休みとなったことで、リテー ラーの売り上げが回復した。Figure 1は、主要なリテールエリア* 1 に路面店舗を出店しているリテーラーを

対象 *2 に、 CBRE が四半期毎に実施をしているアンケート結果となる。これによると、前年同期比で売り 上げが「上がった」回答者の割合は、ゴールデンウィークがあった 2022 年 Q2 には 86 4%となった。対前 期比で 24.7ポイント上昇している。多くの人が夏休みをとったと考えられる 2022 年Q3には、対前期比で4.2 ポイント下落の82 2%となったものの、8割を維持している。

Figure 1: 前年同期比で売り上げが上がったリテーラーの割合

Q1 2022 (n=60)

Q2 2022 (n=44)

Q3 2022 (n=45)

出所:CBRE、Q3 2022

上がった 変わらない 下がった

さらに 、 コロナ禍前 ( 2019 年 12 月 ) の売り上げに戻る時期は 、 「 2023 年下期 」 という回答者の予想が 26 7%と最も割合が高い。次に「既に戻っている」の 20 0 %、「2023年上期」と「2024年下期」の13 3%と いう順になっている。コロナ禍が収束することで経済活動がさらに活性化し、 2023- 2024年にはコロナ禍 前の売り上げに戻ると考えるリテーラーは6割を超える。

*1 銀座、表参道、原宿、新宿、渋谷、心斎橋、京都、神戸、栄、天神 *2 エリアの範囲は、P8-9のAppendix参照

2 © 2023 CBRE, INC. RESEARCH Creating Resilience オーナーの柔軟性が、リテーラーを救う
61.7% 86.4% 82.2% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

3.リテーラーの出店ニーズも回復

売上回復を背景に、 主要なリテールエリアに路面店舗を出店したいというリテーラーが増えている 。

Figure 3 は、所有物件の路面店舗区画でテナントを募集しているオーナーに対して、 仲介業者やリテー ラーからの問い合わせ件数を訊いている。前期に比べて問い合わせが「増えた」という回答者の割合は、 2022年 Q2 で 40 0 %と対前期比1 5 ポイント上昇した。2022 年Q3は 42 4%と、同2 4ポイント上昇している。緩 やかではあるものの、リテーラーの出店ニーズが増えていることが伺える。

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2022
出所:CBRE、Q3 2022 13.3% 26.7% 13.3% 8.9% 6.7% 20.0% 8.9% 0% 5% 10% 15% 20% 25% 30% 2023年上期 2023年下期 2024年上期 2024年下期 2025年以降 既に戻っている その他 38.5% 40.0% 42.4% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 2022 Q1 (n-52) 2022 Q2 (n=55) 2022 Q3 (n=59) 増えた 変わらない 減った
Figure 2: 売り上げがコロナ禍前(2019年12月)の水準に戻ると予想される時期 出所:CBRE、Q3 Figure 3: 前期と比べた問い合わせの件数

募集中の路面店舗区画への問い合わせのみならず、仲介業者やリテーラーが実際に内見をした件数も増 えている(Figure 4)。前期に比べて内見が「増えた」という回答者の割合は、 2022年Q2で 44.2%と対前

期比14.2ポイント上昇した。2022年Q3は 41.4%と同 2.8ポイント下落したものの、 4割を維持している。この ように、リテーラーによる出店活動は緩やかながら活発化しつつある。ただし、出店に関わる賃貸条件 に対して、慎重な姿勢をみせるリテーラーは少なくない。なぜなら、経済の先行き不透明感が必ずしも 払拭されたわけではないからだ。

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Figure 4: 前期と比べた内見の件数 出所:CBRE、Q3 2022
30.0% 44.2% 41.4% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 2022 Q1
2022 Q2
n=52
2022 Q3(n=58
増えた 変わらない 減った
(n=50)

4. リテーラーが賃貸条件に慎重な理由 経済の先行き不透明感としては

、現在の物価上昇に対して実質賃金が下落していることが挙げられる (Figure 5)。厚生労働省の毎月勤労統計調査*3 によると、 2022年11月は物価変動を考慮した1人当たりの実 質賃金が前年同月比で 3 8 %減少している。減少は 8カ月連続となったほか、下落幅は 2014 年 5 月の 4 1%に 次ぐ大きさとなった。資源価格の高騰や円安などで上昇する物価に対して、賃金の伸びが追いついてい ない状況が今後も続けば、回復傾向にある消費が底割れする懸念が高まる。そのためリテーラーは、新 たな実店舗を出店する際に、目標とする売り上げが達成できるか否かを、不安視していることが示唆さ れる。言いかえれば、消費者マインドの低下によって、自らのブランドが消費者に選ばれなくなる可能性 を危惧している。

また 2022 年は、資源価格の高騰や円安などに伴い、新たな実店舗を出店する際の建築費や内装費といっ た初期投資コストが、コロナ禍前に比べて上昇した。そのため、目標とする売り上げを達成し、契約期 間内に初期投資コストを回収できるか否かを不安視していると言えそうだ。こういった背景から、出店 に関わる賃貸条件に対して慎重な姿勢をみせるリテーラーが少なくない。そのため、オーナーが柔軟性 を持つことは、出店ニーズのあるリテーラーが出店しやすい環境を整えることになる。

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-3.8% -5% -4% -3% -2% -1% 0% 1% 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 2021 2022 出所:厚生労働省、CBRE 2022年12月 *3 確定、従業員5名以上
Figure 5: 実質賃金指数の推移(前年同月比)

5.オーナーに求められる柔軟性

Figure 6 は、リーシング活動を進めるために、オーナーが実施または実施を検討する施策を表している。 すなわち、出店ニーズのあるリテーラーが出店しやすい環境作りの一つと言えるだろう。最も割合が高 かったのは「フリーレントをつける」で、回答者の 63 1%を占めた。上昇する初期投資コストを抑える施 策であり、リテーラーが出店を実現しやすくなることは想像に難くない。また、内装資材の調達に時間 が掛かることを背景に、契約締結から内装工事に着手するまでの期間が、コロナ禍前に比べて長くなっ ている。リテーラーからは、その期間のフリーレントを求められるオーナーがみられている。初期投資 コストを抑える施策としては、「空調を設置する」( 15 4%)も挙げられる。フリーレントは 3- 4か月、空調 の設置は、室内の形状や使い方(物販、飲食、サービスなど)によって異なる。また、内装を重視する リテーラーは、設計と平行してオーナーと相談しながら空調のデザインを決めたいという志向がある。 「募集区画を分割する」( 30 0 %)は、賃貸面積を縮小することで賃料総額を抑える、つまり店舗運営コ ストを抑える施策となる。実際に、賃貸区画の分割対応をはじめたことで、リテーラーの引き合いが増 えたケースがみられている。背景として、現在リテーラーは実店舗の面積を必要最低限にすることで、 店舗運営コストを抑えたいという意向が強いことが挙げられる。路面店舗の区画が 100 坪以上ある際には、 2 または 3分割をすることでリテーラーの引き合いが増えたケースがみられている。立地にもよるが、 3050 坪程度であれば時計やジュエリーブランド、 50- 80 坪程度であればファッションやアウトドア・スポー ツ、 リユースブランドなどの出店ニーズがみられるだろう。 賃貸面積を分割することは 、オーナーに とってもメリットがある。面積が縮小し賃料総額が抑えられることで、より高い坪単価をリテーラーが 容認する場合がある。さらに、リテーラーの引き合いが増えることで、空室リスクが軽減されるとも言 えそうだ。エリア特性などを鑑み、それぞれの立地で適正な賃貸面積を見極めた上で、リーシング戦略 を立案することが重要となる。

フリーレントをつける

募集区画を分割する

空調を設置する

コロナ禍収束までリーシングをしない

*4 エアコンの強さを表す際にに使われる単位

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出所:CBRE、Q3 2022 63.1% 30.0% 28.5% 15.4% 2.3% 5.4%
Figure 6: リーシング活動を優位に進めるために実施または実施を検討する施策(n=130)
特になし
その他 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70%

さらに、リテーラーとの契約に盛り込むことを検討する項目をみると、オーナーに求められる具体的な 柔軟性が分かる( Figure 7 )。最も割合が高かったのは、「契約期間の短縮」で 36 9 %。初期投資コスト

の回収が可能な最も短い期間の契約をと考えているリテーラーが、一定数いることが伺える。コロナ禍 以降は、契約期間 5 年、解約不可期間 3 年、という定期借家契約がみられるようになった。業績が芳しく ない状況が続く際に、長い契約期間に縛られずに退去できるというメリットがある。一方、オーナーに とっても、コロナ禍で下落した賃料水準が回復した際には、今よりも高い賃料水準に早く戻しやすいと いうメリットがある。次に割合が高かった「早期解約に関する条項」( 31 5 %)や「解約不可期間の短縮」

(29.7%)も、リテーラー/オーナーの双方にメリットがあると考えられる。

「歩合賃料に関する条項」も29 7 %と、比較的割合が高い。歩合賃料はコロナ禍前はほとんどなかったが、 現状では路面店舗区画でも採り入れ、定額賃料を低く抑える実例がいくつか出ている。歩合賃料の割合 は、一定の売り上げを超えた分の 5- 8%程度という契約が多い。オーナーにとっては、収入が安定しない というデメリットがある。しかし、定額賃料 +αの最低ラインを定めておくことで、リテーラーの業績が 芳しくない際にオーナーから撤退をすすめるなど、テナント入れ替えに向けた施策を早めに進められる だろう。「賃借期間中の賃料見直しに関する条項」( 24 3 %)も、コロナ禍前の定期借家契約ではみられな かった条項である。リテーラーは業績をベースに、オーナーはマーケットの相場をベースに、双方が契 約期間中に賃料見直しを申し入れる機会が与えられる。

Figure 7: リテーラーとの契約に盛り込むことを検討する項目(n=111)

早期解約に関する条項

解約不可期間の短縮

歩合賃料に関する条項

賃借期間中の賃料見直しに関する条項 転貸に関する条項

緊急事態宣言の発出に関する条項 不可抗力による債務不履行・ 履行遅滞の免責に関する条項

その他

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出所:CBRE、Q3 2022 36.9% 31.5% 29.7% 29.7% 24.3% 20.7% 18.9% 11.7% 1.8% 0% 5% 10% 15% 20% 25% 30% 35% 40% 契約期間の短縮

6.さいごに

本レポートでは、CBREが実施するリテーラー/オーナー向けのアンケート結果を元に、オーナーに求め られる柔軟性について分析した。路面店舗の区画には必ずしも馴染みがなかったフリーレントの付与や 空調の設置等の施策が、現状ではみられるようになっている。また、リテーラーとの契約では、契約期 間の短縮、早期解約に関する条項、解約不可期間の短縮といった項目が盛り込まれる事例も増えている。

ハイストリートの中でも特に好立地の物件では複数の引き合いが見られるなど需給がタイト化しつつあ るため、上記のような事例はあてはまらない。しかし、経済の先行き不透明感が今後も続くとみられる 中、オーナー側での柔軟な対応が出店に繋がるるケースは少なくないとCBREでは考えている。

リテーラー向けアンケートの調査概要

調査対象 :主要な商業エリアのハイストリートならびに セカンダリーエリアに、路面店舗を出店する リテーラーの方々(Map参照)

調査方法 :Web調査 調査期間と 有効回答者数

: 2022年Q1=2022年4月6日~4月22日

: 2022

: 2022年Q3=2022年10月11日~10月25日

有効回答者数 : 2022年Q1=60件

: 2022年Q2=45件

: 2022年Q3=45件

オーナー向けアンケートの調査概要

調査対象 :主要な商業エリアのハイストリートならびに セカンダリーエリアに、路面店舗のある物件 を持つオーナーの方々(Map参照)

調査方法 :Web調査

調査期間と 有効回答者数

有効回答者数 :2022年Q1=166件

:2022年Q2=145件

:2022年Q3=134件

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年Q2=2022年7月6日~7月20日
=2022年4月6日~4月22日
Q2=2022年7月6日~7月20日
Q3=2022年10月11日~10月25日
:2022年Q1
:2022年
:2022年
Appendix 銀座

Contact

栗栖 郁 リテールチームリーダー ディレクター kaoru.kurisu@cbre.com

二之宮 久美子 リテールチーム アナリスト kumiko.ninomiya@cbre.com

大久保 寛 リサーチヘッド hiroshi.okubo@cbre.com

© Copyright 2023 無断転載を禁じます。本レポートは 商業用不動産市場に関するCBREの現在の見解に基づいて誠実に作成されています。CBREは その見解が本資料作成日現在の市場動向を 反映していると考えているものの、それらは重大な不確実性や偶発事象の影響を受けて変化する可能性があります。また、CBREの見解の殆どは、現在の市場環境に対するCBRE独自の分析に 基づく意見または予測であり、ここに記載された内容が記載日時以降の市場や経済情勢の状況に起因し妥当でなくなる可能性もあります。CBRE は、その意見、予測、分析、または市場環境 が後に変化した場合、本レポート中の見解を更新する義務を負いません。

本レポートは、CBRE が発行する有価証券、もしくは他社が発行する有価証券の将来的なパフォーマンスを示唆するものではありません。特定の投資や投資戦略に関してはお客様ご自身で独 自に検討する必要があります。CBREは、投資の適合性について評価する責任を一切負いません。本レポートを閲覧された方は、本レポートの情報の正確性、完全性、妥当性、あるいはその 利用に起因するCBREおよびその関連会社、役員、取締役、社員、エージェント、アドバイザー、代表者に対する一切の請求権を放棄したものとみなされます。 © Copyright 2023

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