半透明空間研究
■ 目次
奄美群島徳之島における集落構成と空間運営の研究
第 1 章 序論 1-1. 研究背景と目的 1-2. 既往研究との位置づけ 1-2.1. 半透明空間の定義 1-2.2. 半透明空間を形成する要素 1-2.3. 半透明空間の性質 1-2.4. 既往研究と本研究
環境調整の仕組みに見る活動形態の比較を通して
1X10A174-8 山下唯
古谷誠章研究室
参考文献
第 2 章 奄美群島徳之島について 2-1. 奄美群島概要 2-2. 奄美群島の伝統住居 2-3. 調査対象集落選定 2-4. 調査対象集落概要
第 3 章 調査概要 3-1. 対象住居選定 3-2. 調査概要 調査内容 調査結果 3-3. データシート 集落配置図 住居配置図 平面図 / 立面図 魚眼写真 アンケート 環境計測 道写真
第 4 章 構成要素にみる集落の比較と要素抽出 4-1. 集落構成要素の比較分析 4-2. 集落構成要素の比較考察と要素抽出 4-3. 小結
第 6 章 環境特性から見る住人の活動形態 6-1. 住居における住人の活動形態 6-2. 集落における住人の活動形態 6-3. 小結
第 5 章 集落形態および住居形態にそなわる環境特性 5-1. 集落形態にそなわる環境特性分析 5-2. 住居形態にそなわる環境特性分析 5-3. 小結
第 7 章 結論 参考文献 謝辞
□徳之島 < 民俗文化、集落構成 ( 祭祀空間 )> ・ 『徳之島の民族文化』松山光秀 南方新社 2009.2 ・ 『徳之島採集手帖』鹿児島短期大学付属南日本文化研究所 1996.3 ・ 『伊仙町誌』横山信忠 1978.12 < 生業 > ・ 『徳之島におけるソテツ景観の意味』金城達也、寺林暁良 1998.10
第1章 序論
■調査対象集落概要−金見集落
第4章 構成要素にみる集落の比較と要素抽出
■研究背景と目的
・位置/地形 島の北端に位置し、傾斜地に住宅が並ぶ。 ・集落形成 村は道路拡張部分を除き、明治の初めに作られた字 絵図のままに残されており、古風な雰囲気が漂う。 以前は海側にのみ住居があり、山側は畑だったが、 徐々に山側に住居が建つようになったという。 ・人口 101人(男52人、女49人)、47世帯(平成25年7月 末現在) 昭和33年より急激に人口が減っているが、世帯数と しては変化はほとんどない。
集落構成、住居構成に見る台風災害への対応
世界各地で多発している環境問題から、開発によって自然を押さえ込むのではな く、自然環境を受容し、自然とうまく折り合いをつけること、それによる持続可能 な社会への転換が見直されている。自然と人との共生には、建築や社会基盤など物 理的対応の他、人々のもつコミュニティもまた大きく役割を担っており、両者はと もに重要な要素となる。 島国である日本には数多くの離島がある。それらの地域で人々は厳しい自然環境下 で生活を営んでおり、本土との隔絶性や地理的条件・社会基盤整備の不備等の様々 な要因によって、地域独自の周辺環境への対応が必要である。自然と共生し、集落 構成と空間利用が相互に影響を及ぼし合うことで、その土地にあった暮らしを持 続、促進させるのではないか。
■調査対象集落概要−古里集落
本論で取り上げる奄美群島は、台風の常襲性を含めた 風環境、日射、湿度等の点 で、日常的に厳しい自然環境におかれている。その地 理条件、歴史的背景から経 済発展、社会基盤整備が立ち後れ、振興事業は現在も 尚続いている。 以上の背景をもつ奄美群島の2つの集落を選定し、外 的環境によって決定された集落構成とそこでの空間利 用の相互関係を分析することで、特異な環境の中で、 人がいかに生活し、 集落を維持管理しているか明ら かにすることを目的とする。
・位置/地形 島の南に位置し、比較的平坦な地形である。 ・集落形成 明治時代、面縄港が栄えていたころ、古里集落は商 店街としてにぎわっていたというが、現在はその面 影はない。当時、現公民館より東側に他の集落から 人が集また、以前は海岸線が内陸側にあったとい う。海と住居群に段差はほとんどなく、一続きに なっていたという。 ・人口 128人(男66人、女62人)、65世帯(平成25年3月 末現在) 昭和45年より急激に人口が減っているが、世帯数と しては変化はほとんどない。
N
第2章 奄美群島徳之島について
■集落構成/風環境
■本節の目的 古里集落、金見集落でみられた特徴について比較分析し、両集落の空間運営の差異 に影響している要素として台風時の強風、砂被害対策として考えられる要素を抽出 する。 ■分析概要 配置図における建物を以下の要素において分類し、分布図を作成、そこから分布の 傾向や特徴を比較する。 ・方角 / 地形 / 住居配置 / 村路形態 ・住居配置 / 庭空間利用 ・道路構成 ・建設年代 / 増築 ・空家 / 空地 ・住居素材 / 屋根 ・敷地の高さ ・壁面開口率 / 住居内快適性 ・塀 / 植栽 ・ 間取り / 玄関 ・道路と敷地の境界 ・居住者構成 ・居住者出身地 / 集落内交流度
N
■集落構成 < 金見集落 >
東側に海
平均傾斜率:約8.8%
地形
道
■調査内容 調査地 :鹿児島県奄美群島 徳之島 金見集落/古里集落 対象住居:金見集落 16軒、古里集落 18軒 期間 :2013 . 08 . 07̶2013 . 08 . 15 調査方法:1)実測調査、各戸配置図・平面図・立面図の作成、集落配置図の作成 2)風速・風向計・温湿度計による計測 3)8mm 魚眼レンズによる撮影 4)アンケート・ヒアリング調査 5)各住戸外観写真、道路写真撮影 調査結果:1)住宅 23 戸(金見集落 13 戸 / 古里集落 10 戸) 2)不在宅 / 空き家 3)集落(金見集落 / 古里集落) 4)環境計測
実測調査、各戸配置図・平立面図の作成、集落配置図の作成 あてはまる□にチェック□をいれてください。
□自宅にこもる □親戚の家に避難 □近所の人の家に避難 □公共施設に避難
2. 年齢 □∼19 才 □20 代 □30 代 □40 代 □50 代 □60 代 □70 代 □80 代∼ ( 才)
( ) (c-4) 最近、台風、その他の災害(豪雨など)で、家屋損傷等の被害はありましたか? □あった □なかった
(副業) □学生 □会社員 □主婦 □農業 □何もしていない □その他( ) 5. 職場 □お住まいの集落 □他集落( 町 集落) □島外( 県 市)
6. 出身地 □お住まいの集落 □他集落( 町 集落) □島外( 県 市) →出身地が「他集落、島外」の方は、なぜここに引っ越してきましたか?
A(2)
(c-3) 台風のための準備は、家族以外の人と共同で備えることがありますか?
3. 性別 □男性 □女性 4. 職業 □学生 □会社員 □主婦 □農業 □何もしていない □その他( )
台 風 に 関 し て
「あった」と答えた方にお聞きします。その被害はいつごろのことですか? 黒田広助
( )
・図示する手順(図示+言葉で書いてください)
その修理、改修は誰に頼みましたか?
場所 → 「公民館」や「〇〇さん宅」などの名前と、
□工務店 □近所の人 □自分で □その他( )
7. 一緒にお住まいの方の続柄と年齢をお書きください。
(c-5) 台風後、庭や農地の掃除は家族以外の人も手伝いますか?
頻度 → (a)毎日
佐武
□はい □いいえ
黒田
元山
(c-6) 台風後、ご自分の敷地外で、家族以外の方と協力して掃除等をしますか? →最初の 1 軒目のみ
( )
人口:101 人
なだらかな斜面
平坦な地形
曲がりくねった道
直線にひかれた道
母 母間 母間集落
世帯:47 世帯
住 宅 に 関 し て
(例)居間に気持ちのよい風が通るようにした など (e-1) 他に、住宅を建てる際の、昔からある習わしや言い伝えをご存知ですか?
(例)南向きに建てる / 南東の方向に大きな木を植える / 間取り など (b-3) 石垣、塀、植木はどのような目的で設置していますか?(設置していない場合、省略)
寿山
太良
<交流に関するアンケート> ①普段よく行く(月1回以上)場所、通っている場所がありますか?
中村
奥村
佐武
□はい □いいえ
金見荘
→「はい」とお答えの方は、その場所に×と、名前、頻度、 佐武
・維持管理に関わっているか? → その内容を記入(掃除 / 管理なし など)
訪れる目的をお書きください。(複数回答可)
寿原
柳
寿山
・訪れる目的(職場、学校、店、普段集まる場所、お酒を飲む場所 等)
宮内
・訪れる頻度(番号を書き込む) → (a) 毎日 (b)3 日に 1 度 (c)1 週間に 1 度 d)2 週間に 1 度 (e) それ以下
金見集落、古里集落ともに、海沿いに位置する集落である。 ・古里集落:南に海、北に山がある。海岸と住居群は高度差があり、 住居群沿いに防風林が植え られている。住居群は比較的平らな台地上にある。海岸線と平行に道がグリッド状に通ってお り、道の方向に沿って住居が並ぶ。 ・金見集落:東に海、南西に山があり、斜面上に住居が並んでいる。海岸、住居群はなだらかに 連続しており、極端な高度差はない。 道路は入り組んで通っており、住居は、向きや並びなどラ ンダムに 配置されている。道の一部は地形に沿っているものもあるが、他の 細い小道は住居配置 にともなってつくられた道であると考えられる。 < 金見集落 >
伊仙集 集落 集 落
物置
< 古里集落 >
住居と塀が一体化
住居を塀で囲む
・古里集落:芝のひかれている道路付近に砂 が多く見られた。現在、強風時に砂がとんで くるなどの被害はほとんどないという。 ・金見集落:台風などの強風時に、風ととも に砂も飛んでくるという。 調査時、砂は道路 や敷地の隅、空地などの開けている場所にた まっ ており、掃除される場所と掃除されない 場所があることがわかった。
構造
< 古里集落 >
=
木造 53%
RC 造 47%
木造 75%
>
RC 造 25%
トイレ
南、東、西側は
海 玄関
開口が多い
物置
開口
S=1:200
南、西側は開口が多い
0
1
2
3
海
⇨住居自体が強風、砂被害、塩害対策
⇨住居自体は強風、砂被害対策をとらない
■小結
N 0
50
N
100m
0
50
100m
台風対策として、金見集落では住居の集まり方、つまり集落構成でもって対応し ていた。一方、古里集落では各々の敷地内、つまり住居形態でもって対応してい ることが明らかになった。
風
風
砂
< 金見集落 >
< 金見集落 >
集落
N 0
< 古里集落 >
< 古里集落 >
50
住居の集合 が
地形 が強風、
強風被害を防ぐ
砂被害を防ぐ
N
100m
空家が多い ⇨強風対策のため、空家を残す
0
50
100m
空地 が多い ⇨空家は建て壊す傾向がある
住居
住居そのもの が
住居
庭
強風対策をする
庭
□よくする □する □たまにする □あまりしない □しない
住居
会話をする場所に☆と名前をおかきください。(複数回答可)
③●から×に行くときなど、普段使用する道を線で結んでください。
■集落構成/風環境
< 調査範囲 >
世帯:65 世帯 < 調査範囲 >
古里集落
RC 造 25%
東側は開口が少ない
■集落構成/砂被害
④日常的に、お住まいの集落外
豊受神社
人口:128 人 面縄 面縄集落 面 縄 縄集落 集落 集 落 阿権集 集落 集 落
玄関
< 金見集落 >
< 古里集落 >
(複数お書きください)
100 m
< 集落全体 > 母間集落 母間集落
>
塀や植栽 が
→「する」とお答えの方は、同じ集落の方と交流をする場、
40
・古里集落
阿三集落 三集落 集落 集落
木造 75% トイレ
N
②日常的に、お住まいの集落内の方と交流、会話をしますか? 金見公民館
太良
20
住居:16 軒
糸木 糸木名 木名集 木名 名集落 名集 名 集落 集落
RC 造 47%
< 金見集落 >
・古里集落:最も大きく開口を開けているの は南側であり、次に東、西側の壁面の 開口が 大きい。北側は開口が少ない。 ・金見集落:最も大きく開口を開けているの は南側であり、次に西側の壁面の開口 が大き い。東側、北側は開口が少ない。
金見荘
元田
太良
宮内
配置図 S=1/1500
03 8
○1 日の活動場所 ○最も長くいる場所
人口:約 30 人 井之川集 井之川 井之川集落 之川集落 之川集落 川集落 落
=
木造 53%
グリッド上に整列
(職場、学校、店、普段集まる場所、 お 酒 を 飲 む 場 所 等)
佐武
宮内
太良
永田
永田
住宅用アンケート項目
構造
■住居構成/構造、開口
N
□よくする □する □たまにする □あまりしない □しない
( )
塀
塀を高さごとにわけてプロットした。高さ は、人の目線を基準に設定。植栽は、防風林 としての役割のものの位置をプロットした。 両集落と も 500mm 1500mm の高さの塀が 多いが、金見集落の方が高い塀が設置される 傾向にある。さらに、塀や植栽の目的につい て、ヒアリングを行った。古里集落では強風 対策として、金見集落では敷地境界として設 置し ていると回答した人が多かった。
崎島
バス停 太良
× : 普段よく行く ( 月 1 回以上)場所、通っている場所(〇〇さん宅) □特にない
・日常的に、お住まいの集落外の方と交流、会話をしますか?
(b-4) 石垣、塀、植木の位置や高さは、どのようにして決めましたか?(設置していない場合、省略
(c)1週間に1度 d)2週間に1度
太良 元田
佐武
奥村
斜線: 集落内で風通しの良いと感じる場所 □特にない
□よくする □する □たまにする □あまりしない □しない
□その他( )
(b)3日に1度
(e)それ以下 (番号を書き込む)
①ご自宅に●をかいてください。
寿島
佐武
武
☆ : 日常的に、お住まいの集落内の方と交流、会話をしますか?
□強風を防ぐため □敷地の境界線として □外から覗かれないようにするため
(例)日光が入るように、窓が少し出るようにした / 屋根の高さまで塀を設置している など
佐武
佐武
佐武 太良
中村
● : 自宅 ▲ : 親戚 ( )
・古里集落:ほとんどが木造であり、RC 造は あまり見られない。 ・金見集落:木造と RC 造は同程度の割合で見 られた。特に、海岸に近い住宅 ほど RC 造が 多い。RC 造にすることによって、住居に熱が こもり、 快適でなくなってしまうという。
< 古里集落 >
⇨塀による強風対策
ランダムな配置
・古里集落:空家同集落内、または集落外に 住む親戚が管理しており、集落内で の空家、 空地の管理は基本的には行わない。 ・金見集落:同集落内の親戚、または親戚が いない場合、集落内で管理を行う。 空家が古 くなったり、危険と判断した際には集落の住 風速・風向計・温湿度計による計測 人が協力して 建て壊しを行っている。また、 空家を住人たちの集まりの場に使用 している 事例もみられた。
県道
花徳集落
□はい □いいえ
< 図示する手順(図示+言葉で書く)>
<基本情報>
(前面道路、空き家、空き地、共有農地など)
配置図用アンケート項目
・場所 → 「公民館」や「〇〇さん宅」などの名前と、その位置
キク
(b-1) ご自宅は何年前に建てましたか? □∼5 年 □∼10 年 □∼20 年 □∼ 30 年 □∼40 年 □∼50 年 □50 年∼ ( 年) (b-2) ご自宅を建てる際、台風や風通し、雨、日射に対して工夫をしたことがあれば、お書きください。
柳
宮内 宮内
その他( )
< 集落全体 >
佐武
□妻( 才) □旦那( 才) □父( 才) □母( 才) □祖父( 才) □祖母( 才) □子供( 才) □孫( 才) □
岡前集 岡前 岡前集落 岡 前集落 前集 前 集落
その位置の記入をお願いします。
太良
□結婚 □仕事 □その他( )
県道
事前調査では主に島内各地の集落 調査、住人・現地資料館へのヒアリ ング、資料収集をおこない、集落選 定の上、島の北に位置する金見集 落、南に位置する古里集落を選定し た。砂の被害の有無がみられたこと から、これは集落の管理に関係する ものと考えます。ここでは、特に環 境への対応が顕著に見られる海側の 住居群を対象範囲としました。
(c-2) 台風がきている時、どこで過ごしますか?
1. 名前 (ふりがな)
回 答 者 基 本 情 報
・金見集落
< 金見集落 >
建物
調査地:鹿児島県奄美群島 徳之島 期間:2013年6月27日-年6月30日 目的:調査対象集落の選定 内容:島内各地集落調査 ヒアリング(住人/現地資料館)
与名 名間集 名間集落 名 間集落 間集 間 集落
■住居構成
■住居構成/塀の設置
南側に海 N
N
■集落構成/空家、空地
□調査対象集落
住居には強い風が直接あたる
方角 N
砂
金見集落
風は住居群によって分散される
⇨ 台風等の強風時、金見集落の方が住居に 強い風があたることを防げている
南端に位置
■奄美群島徳之島 事前調査
手々 手々集 手々集落 手 々 々集落 集落
・古里集落:集落全体に流れる風は、基本的 に東南東から北西にほぼ直線上にぬけてい る。 住居にあたる風は、各々の住居がもつ塀 によって一度風が弱まるが、住居にはある程 度の風があたっている。 住居によって弱めら れた風は、弱い状態のまま北へぬけ、住居群 を 通った後は再び風が強まる。 ・金見集落:集落を流れる風は、大きく 2 種 類ある。東南東から北 西にほぼ直線上にぬけ る風と、道に沿って流れる 風である。 道を流 れる風は、住居群の隙間を抜け、分散されな がら道全体にぬけていく。
< 古里集落 >
開口
北端に位置
第3章 調査概要
N
< 金見集落 >
< 古里集落 >
■奄美群島徳之島概要 徳之島は、周囲 89.1km、面積 247.77km² の島で、人口は 25,587 人(H22 年国 勢調査より)。島の面積は日本の主な有人離島の中で、8 番目に広い。行政区域とし ては、徳之島町、天城町及 び伊仙町の3町で島を形成している。 地質学上は、山地・森林・河川が多い「高島」に分類され、北東部は主として古成 層とこれを貫く火成岩からなる急峻な山陵性の地形 で、海岸線は変化に富み、河川 はいずれも短小急流である。 気候は、亜熱帯海洋性で温暖多雨、年平均気 温は 21.6°C で年変動が小さい。年降水量平 均は 2837.7mmと、日本では有数の多雨地帯 である。降水量のほとんどが台風からもたら されるもので、台風の接近がない場合は降水 奄美群島 量が極端に少なくなり、少雨により干ばつが 起こりやすい。 奄美群島は「台風銀座」とよばれる地域であ り、日本において台風接近数が多く、 威力も 強い状態で上陸する。台風時、幹線道路がた びたび通行止めとなり、島や 本土との船・飛 徳之島 行機の便も途絶えることが珍しくない。
□南西諸島 / 奄美地方 < 民家 > ・ 『南西諸島の民家』野村孝文 相模書房 1961.5 ・ 『奄美大島における住居の研究ー住居形態の変遷と住まい方の変化に着目してー』 雪聖子 2002.3 ・ 『分棟型住居の変容ー奄美大島における居住空間とモノの現在的様態』清水郁郎 2011.8 ・ 『与論島の民家の空間構成』永田 隆昌 2007.2 < 集落構成 > ・ 『喜界島における集落構成と空間継承 - 構成要素のは位置関係と領域関係』石渡辰也 2010.9 ・ 『奄美大島与路島における集落・民家の変容』市川壮一、須田眞史、村尾充宏、初見学 2001.9 ・ 『奄美・花富の集落空間に関する考察』小野利明、畑聴一、加治福樹 1991.9 ・『奄美大島西部地域 6 集落の空間概念ー奄美の空間構成に関する研究』永田 隆昌 , 高見 敞志 2002.3 < 環境工学的視点 > ・ 『沖縄県竹富島の集落景観と風環境調整機能の関係性』三浦詩乃、川添善行、中井祐 2010.12 < 文化 > ・ 『奄美文化誌』長澤和俊 西日本新聞社 1964
人口:約 35 人 住居:18 軒
アンケート・ヒアリング調査
8mm 魚眼レンズによる撮影
・古里集落:各々の住居の塀により一度風が 弱まるが、住居にはある程度風があたってい る。住居により弱められた風は、弱い状態の まま北へぬけ、住居群を通った後再び風が強 まる。 道に着目すると、風が強く吹いている 場所とあまり吹いていな い場所とがある。 ・金見集落:集落内の道に沿って風が流れて いることがわかる。密集した住居群 のある場 所では風が吹いておらず、道には風が吹いて いる。
<金見集落>
<古里集落>
敷地外部
強風対策をする
敷地外部
台風時の強風、砂被害の対策として、集落形態や住居形態での対応の 取り方がそれぞれの集落で異なっていることが明らかになった。 0m/s /s
2m/s 2m/
4.0m/s
第5章 集落形態および住居形態にそなわる環境特性
■温湿度計測
集落空間にそなわる快適性に見る空間利用
・古里集落の住居 最も暑い時間帯である昼間の気温は、室内の方が室外よりも低く、住人の「住居内 は風通しが良く、室外よりも快適」というヒアリング結果と一致していた。夕方以 降、気温は室外の方が低いが、これは、夕方以降に集落に風が吹かないという結果 が得られ ており、室内の気温と集落内に流れる風に相関関係があると考えられ る。各々の部屋における温度・湿度に大きな差異はなく、住居内で極端に 風の通 らない場所はない。住人が「あまり快適でないと感じる」と いう部屋の環境も、 他の部屋との大きな差異は見られない。 ・金見集落の住居 ほとんど一日中、室外よりも室内の気温の方が高く、住人の「住居内よりも道の方 が風が通り、涼しい」というヒアリング結果と一致していた。各々の部屋における 温度差はそれほど大きくない。 湿度については、住人が特に不快と感じる部屋 が、他の部屋と比 べて 10 度程度高いことが多く、実測結果からみた実際の環境特 性と住人の感覚が一致していることが明らかになった。
■本節の目的 前節において、以下のことが明らかになった。 集落全体としては、集落のおかれる位置や方角、地形、住居配置などの差異によっ て、集落での風の流れに差異がみられると考えられる。 住居に関しては、古里集落 は塀や植栽で強風対策をし、住居そのものは開放的に して風を取り入れているた め、住居内は快適である。一方、金見集落は、住宅自 体を丈夫にすることで強風や 砂の被害への対策をしており、そのため住居内での 快適性は得られていない。 本節ではこれらの考察を風環境の実測と解析という科学的な数値から検証し、集 落全体や、敷地内における環境調整のしくみについての考察を深める。 ■分析概要
■金見集落
■古里集落
会話 、交流をする場(道の陰)
道の陰で涼む 0.5m/s 毎日来客がある
休憩する場(道の陰) 毎日来客がある
浜に吹く風
3.5m/s 1.0m/s 庭で涼む
集落内の風
0.5m/s 1.5m/s
自宅での交流がある
1.5m/s 住人同士の会話 1.5m/s
空家で休憩/交流
3.5m/s
1.5m/s 1.0m/s
集落および住宅において、風環境、日射環境、温湿度環境についてを実測やシミュ レーションから分析する。 まず集落内でどのように風が流れているか、住居、道、塀の風への はたらきをみ る。次に調査対象となった住宅において、開口、壁といった要素から、 住宅が夏季 に自然環境あるいは、風環境にどのように対応しているかをみる。 < 金見集落 >
■敷地内の活動
< 古里集落 >
■風環境解析 道の陰で休憩/交流 1.5m/s
・古里集落の住居:風の方向によって、部屋毎の風通しに多少のムラができるもの の、 住居内のほとんどに風がよく通っている。最も長く活動するという 部屋は風 の方向によらず、風通しが良い。 ・金見集落の住居:住居内にはあまり風が通らないものの、最も長く活動している 部屋にはわずかに風が通っており、活動場所と風通しの良い場所が一致している。
< 金見集落 >
< 古里集落 >
風呂トイレ
風呂
部屋
台所
台所
和室
和室
和室
部屋 部屋 和室
和室
和室
和室
和室
部屋 玄関 関 縁側
玄関
(海)
縁側
公民館裏で涼む
住居以外 N
空家
3.5m/s
■金見集落
■敷地外の活動
縁側
玄関
(海)
(夕方海へ)
風呂
台所
洗面 風呂 和室
部屋
台所 和室 玄関
台所
寝室
居間
和室
玄関
縁側
部屋
デッキ 和室
倉庫 和室
部屋
和室 縁側
部屋
玄関
(海) (朝、海へ)
デッキ 風呂
和室
部屋
トイレ
和室 台所
部屋
縁側
和室
和室 和室
和室
部屋 居間
縁側
■来客の際に使用する部屋
デッキ
活動
住居内移動
住居外移動
□「住居内での交流」ヒアリング結果 古里集落 金見集落
トイレ
来客の際、使用する部屋としては、 南側の居間、客間が多かった。 親 しい友人と会話する時は、台所も使 用する住居が多く、客人によっ て 使い分けている。また、北側の部屋 に呼ぶことは少ない。 以上より、 間取りにおけるプライベート性/パ ブリック性のグラ デーションが、 活動形態としても成り立っているこ とが明らかになった。
風呂
物置
交流しない 10%
交流しない 15%
交流する 85 %
交流する 90%
□「来客の頻度」ヒアリング結果 古里集落 金見集落 毎日 25% それ以下 25%
週1回 29% 毎日 57%
3日に1度
3日に1度
12% 週1回 38%
14%
□「住居の快適性について」ヒアリング結果 古里集落 金見集落 11% 快適でない 比較的快適 33%
20% 快適でない 快適
快適 20%
あまり快適でない 比較的快適 20% 40%
56%
・古里集落 住人は主に住居内で活動、交流をす ることが多いことがわかっている。 住居外では、風通しの良い場として は浜という回答がほと んどであ り、住居外、道空間で一定の場所に 留まって休憩、交流をすることはほ とんどないという。 ・金見集落 住宅内部には風が通りにくく、道空 間には風が通っているという分析結 果を得ている。ほとんどの住人が、 道にでき る日陰で休憩をとった り、会話をしているということか □敷地外の活動/風環境 ら、風環境と住人の活動との相関性 が考えられる。よく休憩や交流をす るという道の日陰部分についての風 環境解析結果をみると、風が通って いる様子が分かる。 以上より、住居内の風通しが良い古 里集落では、日々の活動や交流を住 居で行い、道空間での風通しが良い 金見集落では、日々の 活動や交流 を道空間で行っていた。つまり、風 ・風通しの良い場所 の流れ方が、住人の活動形態に影響 を及ぼす 1 つの要素となっていると いえる。
< 古里集落 >
空間利用に見る集落空間の維持管理
< 古里集落 >
■本節の目的 前節において、以下のことが明らかになった。 集落全体としては、集落のおかれる位置や方角、地形、住居配置などの差異によっ て、集落での風の流れに差異がみられると考えられる。 住居に関しては、古里集落 は塀や植栽で強風対策をし、住居そのものは開放的に して風を取り入れているた め、住居内は快適である。一方、金見集落は、住宅自 体を丈夫にすることで強風や 砂の被害への対策をしており、そのため住居内での 快適性は得られていない。 本節ではこれらの考察を風環境の実測と解析という科学的な数値から検証し、集 落全体や、敷地内における環境調整のしくみについての考察を深める。
< 金見集落 >
50
N 0
50
100m
・風通しの良い場所 浜
道(陰)
公民館
公民館
0 2 4 6 8 10(人)
展望台 特になし 0 2 4 6 8 10(人)
■古里集落
気温 : 高い
気温 : 低い 毎日来客がある 1.5m/s 2.0m/s
気温 : 低い
気温 : 高い
集落および住宅において、風環境、日射環境、温湿度環境についてを実測やシミュ レーションから分析する。 まず 、集落内でどのように風が流れているか、住居、道、塀の風への はたらきを みる。 次に、調査対象となった住宅において、開口、壁といった要素から、 住宅が夏季に 自然環境あるいは、風環境にどのように対応しているかをみる。 れているのかについて、短期的な自然環境への対応として、集落構成等物理的形 態、長期的な集落空間の継承として、人々の活動形態の側面から、集落の比較調 査を通して明らかにする。 ・古里集落 芝のひかれている道路付近に砂が多く見られた。現在、強風時に砂 がとんでくるなどの被害はほとんどないという。 ・金見集落 台風などの強風時に、風とともに砂も飛んでくるという。 調査時、砂 は道路や敷地の隅、空地などの開けている場所にたまっ ており、掃除される場所と 掃除されない場所があることがわかった。
住居外移動
2m/s 2m/
4.0m/s
1.5m/s
公民館での 交流/会話
□敷地内の活動/環境 風通しが悪く、気温も高い
風通しは良く、気温は低い
していない
1.5m/s 浜で涼む 2.0m/s
□敷地内の活動/快適性 住宅の
快適 60%
していない 3.5m/s
1.5m/s 1.5m/s
快適でない 40%
快適 89%
60%
1.5m/s
浜で涼む
3.5m/s
快適性 N
□敷地内の活動/来客頻度 来客 頻度
1 回 /3 日∼ 37%
それ以下 63%
3.5m/s
1 回 /3 日∼ 71%
それ以下 29%
している 40%
31% している 69%
快適でない 11%
第7章 結論 ■結論
3.5m/s
1.5m/s 3.0m/s
毎日来客がある
金見集落では、集落全体の管理をする傾向が強く、古里集落では、各々 の敷地内の みを管理する傾向が強いことがわかった。 これは、金見集落では道空間での活動が多いこと、古里集落では各々の 敷地内での 活動が多いことが影響していると考えられる。
両集落の住人は集落内の快適な場を選び取って活動していることが明らかと なった。結果、古里集落では、住居内での活動が多く、自分の敷地内の管理に留 まる傾向が強く、一方、金見集落では、敷地外での活動が活発であり、集落全体 を管理する傾向が強いと言える。
毎日来客がある 1.5m/s
0m/s /s
空家
■小結
□「敷地外の掃除をしているか」
2.0m/s
住居内移動
S=1/2000
厳しい気候風土にある二つの集落において、台風や砂被害、風などの外的環境 と集落及び住居構成の関係を明らかにした。さらに、そこで生まれた集落及び住 居構成とそれを利用する人々の活動形態の相互関係を考察することで、いかに人々 が集落空間を維持管理しているか明らかにした。
古里集落 金見集落
2.0m/s
N
■台風後の掃除をする場所について(ヒアリングより) 古里集落では住人の 40% の 人が、金見集落では住人の 69% の人が 周辺道路を掃除する。 古里集落では自分の 敷地内を主に掃除していること、金見集落では 自分の住宅と敷地まわりの道路を掃 除していることがわかった。
2.0m/s 毎日来客がある
敷地内の掃除のみ
住居以外
道(陰)
特になし
敷地外の道路掃除をする
■分析概要
100m
展望台
道路上の砂
< 古里集落 >
N
0
浜
< 金見集落 >
第6章 環境特性から見る住人の活動形態
< 金見集落 >
(畑) 風 トイレ 風呂 レ 部屋
台所
(海、畑、友人宅) 玄関
活動
N S=1/2000
古里では、風通しが良く涼しい室内での活動が多い一方、 金見では、室内の風通しが悪いこと、室内より室外が涼しいこと、道空間に常に風 が流れていることから、敷地外で活動をする住人が多いことがわかった。
部屋 部屋
2.0m/s
2.0m/s
■小結
風呂トイレ
台所 和室
空家での集まり
金見では道空間で涼み、休憩する住人が多く、道に留まってする会話が多いことか ら、金見の方が敷地外での活動が活発である。ここで、先ほどの風解析結果をみる と、金見ではほぼ常に風が道に沿って流れていることがわかる。風環境と活動場所 を重ね合わせると、風が通る道空間での活動が多いことが明らかになった。
ヒアリング調査から、古里では、時間帯ごとに活動場所を変えており、活発な空 間利用がみられた。ここで、風解析、気温計測結果をみると、古里では、室内に 風が通り、室外よりも涼しくなっており、室内での快適性が得られた。 一方、金見では古里に比べて室内の快適性を得られていない。この結果に住人の 活動場所を重ね合わせると、活動の場と風が通る場が重なることが明らかになっ た。 また、来客頻度についても、古里の方が高いことから、古里は敷地内での活動、 コミュニケーションが活発であると考えられる。
□場所の移動
道の陰で休憩/交流
■敷地外の活動から
■室内活動から
住居内について、快適な場所と快適 でない場所、さらに、普段よく使用 する場所についてヒアリングをおこ なった。 どちらの集落も、快適と 感じる場所は縁側付近、大きな開口 のある 部屋の近くが多かった。 ・古里集落:活動場所が多く、時間 毎に部屋を移動している住人が多 かった。理 由としては、快適な場 所、風の通る場所にあわせて移動し ているという。快適な場所がほとん どの住居にみられ、快適でない場所 はあ まりない。 ・金見集落:古里集落に比べ、住居 内で活動場所を移動する住人が少な い。また、 住居全体か、ほとんど の部屋が快適でないと回答した住人 が半数み られた。
自宅での交流がない
2.0m/s
S=1/1500
今後、人口が減少していく中で、金見集落では、集落全体を管理するという住 人の意識が強いことから、集落があるまとまりを持った群として維持更新されて いると考えられる。空家管理など、集落の全体性の維持していくことで、長期的 な文化、風土、暮らしを継承する可能性を秘めていると言える。 一方、古里集落では、個の管理に住人意識が留まることで日本の多くの集落の ように空き地が増え続け、集落の群としてのまとまりが失われていくことが予想 される。少なくとも、集落構成の維持のため、空き地でも塀や防風林を維持管理 することで、集落全体を管理する意識の向上も可能なのではだろうか。 以上を本研究の結論、展望とする。