■本研究のベネチアンスタッコの定義
Carlo Scarpa 研究 2013
「ベネチアンスタッコ」=伝統的な技術に基づく Carlo Scarpa の使用した左官仕上げおよび磨き壁を総じる。
ベネチアンスタッコに見る Carlo Scarpa の建築思想
古谷誠章研究室
1X10A079 佐野優
■目次
■研究背景・目的
■序論
手仕事にこだわり創作を続けた Carlo Scarpa の復活させた歴史的素材、ベネチアン
・Scarpa の扱ったベネチアンスタッコは主に三つ
本研究は、多くの建築家たちが建築の工業化を進めようと活動した中で、出身の地で、
0-1 研究背景
スタッコを研究する事で、Scarpa の建築家としての思想に迫ろうとするものである。
0-2 研究目的 0-3 対象選定
「歴史的な素材。 わたしたちはそれを無視できない。 かといって、 そっくり真似ることもできない。
0-4 研究方法 0-5 論文構成 ■第一章 Carlo Scarpa と手仕事 1-1 ガラスデザイナーとしての20年 1-2 職人との恊働について 1-2-1 ディテールについて 1-3 考察 創作への姿勢 ■第二章 Carlo Scarpa と素材 2-1
素材決定へのプロセス
2-2
伝統素材への考え方
マルモリーノ Marmorino 主原料:石灰 砂(海や川の) 顔料
スタッコルチド Stucco Lucid 原料:顔料チョークの粉 膠 油
カルチェラザータ Calce Rasata 主原料:石灰 大理石粉末 顔料
わたしが常に、 気に掛けてる問題だ。 (Carlo Scarpa)」 この言葉に表れるように、何か新たな ■作品分析 Scarpa の新たな扱い方 :模造大理石ではない、ベネチアンスタッコそのものの質を活かす 扱い方があったのではないだろうか。 2. パネル化 3. 着色 4. 光 5. 密度と距離 1. 装飾排除 ■ベネチアンスタッコの歴史(マルモリーノ) □古代ローマ時代
□ 14 世紀 - 16 世紀 ルネッサンス
古代ローマ時代には既に確立される
Raffaello Santi1 と Giovanni da Udine が復活 させる。
□ 20 世紀
Calce Rasata( アイボリー)
Scarpa が復活させる。
明暗によるラインの強調 自然光による明るさを作り出す
Calce Rasata
2-3 素材の開発
片側にだけ配置
2-3-1 日本旅行写真に見る素材への探求 2-4 考察 素材の探求
開口 (自然光)
片側にだけ配置
開口 (自然光)
ポンペイに見られる磨きの壁
アンドレア・パラーディオ ラ・ロトンダ
オリベッティショールーム 階段を照らす
■小結 素材と寸法に関して ■第三章 Carlo Scarpa と ベネチアンスタッコ 3-1-1 ベネチアンスタッコの定義
■研究対象・方法
研究は、重要な関係者5人へのインタビューと、現地調査による作品分析を主とする。さ らにインタビューの補足的資料の翻訳、MAK への模型写真、図面の収集を行った。
3-1-2 ベネチアンスタッコの材料
3-3 左官職人 Eugenio De Luigi 3-4 ベネチアンスタッコの開発 3-5
作品調査 空間分析
3-6
現代に於けるスカルパの左官について
3-7 考察
・現地調査・作品分析
亀裂・剥離への工夫
第三章 3-5 現地調査 データシート
アカデミア美術館(1945-1946) アバテリス宮(1953-1954 )
n
0
オリベッティショールーム(1957-1958 )
自然光を反射させ最大限
既存躯体と切り離す
に活かす
亀裂・剥離への工夫
■職人との開発
Museo di Castel Vecchio
8m
写真1
カノーヴァ石膏彫刻陳列館(1956-1957) カステルベッキオ美術館(1958-1964)
■結論
配色によるオマージュ
表現方法の開発・偶然性から生まれたスタッコルチド
3-2 Scarpa の蘇らせたスタッコとその歴 史
既存躯体と切り離す
絵画装飾などの排除
写真2
配合の開発 ・油のコストを下げる
左官職人 De Luigi の
スタッコルチドに配合す
アクシデントから生まれ
る油を亜麻仁油から
た表情に
オリーブオイルへ替え
Scarpa が美しさを
コストを抑え、より広く
見いだした、新たな技法。
扱えるようにした。
コレール美術館(1960)
■終わりに
クエリーニスタンパリア財団(1961-1963)
■謝辞
ブリオン家の墓地(1970-1975)
■参考文献
gray
素材詳細写真
gray
素材詳細写真
German black
日付:2013/9/6 天候:快晴 場所 : 障壁 図面に記載 調査者:佐野優 照明環境:自然光 (照明) 素材: grasello calce
色:German black(ドイツの黒) gray (umber sienna, German black)( 灰色) エントランスの出入り口を分けるこの障壁は、裏と表で黒と灰色を施されている。 美術館に入るときには、明るめの灰色の壁に迎えられ、美術館から帰るときには暗い空間から外の明るさへと 切り替わる。 写真1の面が灰色、写真2の面が黒である。 NO.1
■資料編 インタビュー
・インタビュー
翻訳資料:現地調査データシート
■結論
Scarpa は単なる復活ではなく、歴史的な素材の伝統的な
カルロ・スカルパ作品集 / カルロ・スカルパ エー・アンド・ユー , 1985.10
扱い方をしている。
テクトニック・カルチャー : 19-20 世紀建築の構法の詩学 / ケネス・フランプトン 著
・表現→職人との恊働、現場を大切にしていたことが表れている
MAK 写真資料
・配合→美術品ではなく一般のものにする(質をおとさず) ・使用方法→スタッコそのものの特性をいかす
「柱頭や円柱をつくる事なしに伝統の中に身を置いていたいという大きな欲望 のことであり、 なぜならそうしたものはもはやつくり得ないからである。」 Scarpa
Carlo Scarpa[1906-1978 ]
Francesco Paolo Zanon 氏 鉄工職人
日本に技術を持ち帰った職人の視点
A n g e l o R e n z o Guid Pietropoli 氏 Alba di Lieto 氏 Zardini 氏 弟子 研究者 左官職人
恊働した職人の視点
弟子・研究者の視点
SD 選書 207 カルロ・スカルパ AF マルチャノ編 浜口オサミ訳 鹿島出版会 1989.2 「建築の詩人カルロ・スカルパ」斉藤裕 TOTO 出版 1997.7
質を失わず、歴史を背負いながらも、時代に即した独自の
フロッタージュ資料
久住章氏 左官職人
■参考文献
質感が Scarpa の歴史の一つの表現であった。 スカルパの建築の歴史性は空間を体験する事によって、 理解できるものとなっていたと考えられる。
現代イタリアの名匠 カルロ・スカルパ / 鹿島出版会 /SD 1977 年 6 月号 ; 松畑強 , 山本想太郎 訳 TOTO 出版 , 2002.1 ウィトルーウィウス建築書 / ウィトルウィウス [ 著 ] ; 森田慶一 訳註 東海大学出版会 , 1969.3 ルネッサンスの黄昏 : パラーディオ紀行 / 渡辺真弓 著 丸善 , 1988.10 アンドレア・パラディオ : 1508-1580 / SD 編集部 編 鹿島出版会 , 1982.3 フレスコ画への招待 / 大野彩 著 岩波書店 , 2003.8 フレスコ画の制作 : 基本技法から壁画制作まで / 丹羽洋介 著 美術出版社 , 1979.9 ポンペイの壁画展 : 2000 年の眠りから甦る古代ローマの美 図録 / 横浜美術館 編集 「ポンペイの壁画展」日本展実行委員会 , 1997.4 序 左官教室:1999 年 11 月号 / 黒潮社 :1991 年 4 月号 / 黒潮社:2001 年 4月号 / 黒潮社 The art of plasterer by George P. Bankart London B.T.Batsford 1908 CARLO SCARPA TheCraft of Architecture」/MAK/Hatje Cantz Pub; N.-A. 版 (2004/07) CARLO SCARPA & CASTELVECCHIO by Richard Murphy 」/ Architectural Press (1991/01) 既往研究論文 卒業論文:VENETIAN STUCCO 古代ローマより伝わるスタッコあるいは模造大理石に関する研究 牧野令 2007 年度卒業論文:Carlo Scrapa 研究スケッチから読む質感差異 / 渡邉祥代 Carlo Scarpa 研究 2010 : ガラス器デザインに見る創作の発露 / 田村 正