また、コーリン・ロウはヘイダックについて以下のように述べていた。
John Hejduk研究2013
早稲田大学創造理工学部 建築学科 古谷誠章研究室
初期作品における創作態度とヨーロッパ的思想
「Hejdukは、合成の立体派のパリおよび構成主義のモスクワの両方に加入を祈るように見えます。」 Hejduk seems to wish affiliation both to Synthetic Cubist Paris and Constructivist Moscow. (『FIVE ARCHITECTS』Colin Roweより)
田代 晶子
ヘイダックはロウによって立体派(キュビスム)や構成主義的だとされている。 ■研究背景/目的 もくじ
■第二章 ヘイダックの絵画と建築の使い分け ヘイダックは「Photographs Five Architect」 という 「Five Architects」の写真集の中でイントロダクションとして The Flatness of Depth
■序論
という論文を残しており、その中で二次元と三次元の関係について論じていた。 また、ヘイダックの言説の中でたびたびキュビスムに
ヘイダックはドローイングに関して以下のような言説を残している。
研究背景/目的
ついて論じていた。 これより、ヘイダックは空間という三次元のものと絵画などの二次元のものの関係性について特に興味があったと
「『Ambiguity-Separated House』のドローイングは奇妙である。最初は、それは平面のドローイングと解釈されることができるが、それ
研究対象
考えられる。
からそのドローイングをずっと見ていると(『MASK OF MEDUSA』frame4より)、それは平らな立面図の景色で浮いているセクションに
研究概要/構成 キュビスムや二次元三次元の関係に強い興味を示していたヘイダックは、三次元の建築をどのような視点で見て、 また建築家として二
仮説
なる、そして、それはパースペクティブな風景画の中に動いているオブジェクトになる。ドローイングは、3種類の空間に形態を与える。
次元と三次元の関係をどのように建築を通して表現しようとしていたのか。 また、そのようなキュビストやコルビュジェを意識していた
平面図、断面図とパースペクティブ。それは、曖昧さ、しかし、全くアメリカ的な曖昧さを成し遂げる。」
ヘイダックは、 アメリカからどのようにヨーロッパを見ていたのだろうか。 ヘイダックの創作過程とその思想について探求する。
(『MASK OF MEDUSA』frame4より)
Ambiguity House sketchs
■第一章 背景にあるもの 1.1 John Hejdukの建築を通して一貫した思想 1.2 ヘイダックの捉えるアメリカ建築と ヨーロッパ建築 1.3 キュビスムからの影響 1.4 コルビュジェとモダニズムからの影響 1.5 考察
■第三章 初期作品
■研究対象
CCA(Canadian Centre for Architecture)のJohn Hejdukアーカイブを調査し、ここで見ることのできた資料のスケッチ分析を行った。 ヘイダックは彼の作品集『MASK OF MEDUSA』の中で以下のように述べている。
『MASK OF MEDUSA』
「人は、人の内部の有機体(人の心理) の一部になる人生の初期に、何かを見ます。 」 A person sees something early in life which then becomes a part of a person's internal
1.6 小結
organism, his psychology. ■第二章 ヘイダックの絵画と建築の使い分け 2.1 二次元と三次元 2.2 ヘイダックにとっての絵画の意味 2.3 建築と都市
(『MASK OF MEDUSA』frame4より) 『Five Architects』
ヘイダックは人生の初期に、 自分自身を形成する心理的なものが形成されると述べている。 この事 から、本研究のテーマであるヘイダックの創作態度に潜むキュビスムやヨーロッパへの意識を探求 するため、彼の初期作品を研究対象とする。 翻訳資料として 『Photographs Five Architect』 と 『Five Architects』 を扱い、対象作品もこれらの作
2.4 考察
品集に載っている、3/4HOUSEと1/2HOUSEと、それより以前に発表されたダイヤモンドハウスの3
2.5 小結
つを対象とする。 『MASK OF MEDUSA』 では、上記のよう なプランやアクソメの図面しか掲載さ れていなかった。 『Photographs Five Architects』
■第三章 初期作品 3.1 ニューヨークファイブ 3.2 作品分析 3.2.1 ダイヤモンドハウス
プランの中でセクションを考えているようなスケッチがあった。
3.2.2 3/4HOUSE 3.2.3 1/2HOUSE ■考察 キュビスムの考え方とヘイダックの創作への関係性
3.3 考察 3/4HOUSE
3.4 小結
Diamnd House
■結論
1/2HOUSE
■仮説
結論
考察1:ヘイダックは実際、 ダイヤモンドハウスを作る過程で、セクションやエレベーションのスタディをし、図面を書いていたことがわかっ た。 このことから、ヘイダックは意図的に、作品集ではプランやアクソメしか発表しなかったことが考えられる。 これは、ヘイダックの言説やス ケッチから、ヘイダックはプランの中でもセクションを考えていたことなどから、セクションを発表する必要性を感じていなかったのではない かと考えることができる。 考察2:ヘイダックは「the flatness of depth」の中で、抽象的なノーテーション(記譜法)において、抽象化する意味は第三者である読者の意 思がそれに付加されると述べている。 それは、ヘイダックがモンドリアンに対して残した言説からわかる。
ヘイダックの以下の言説から、彼の建築に対するひとつの大きな思想が読み取れる。 「プランは一種のセクションである。セクションが集められると空間を作る。 もしル・コルビュジェがプラン上の平面に起こる現象に関心 を抱いているとするならば、セクションの上にもまた同様のことが起こってもよいわけである。 」 A plan is a section - and when sections are put together they make space. If Le Corbusier is interested in the phenomenon of
「オランダ人の友達がチューリップ畑を見たいかと聞いた。内心僕はチューリップ畑などまったく見たくなかった。赤、黄、白、紫といったたくさ んのチューリップを見るのはうんざり、 と思ったなどいくつか理由はある。 とにかく、チューリップを見たいとは思わなかった。友達は一緒に行 こうと強く誘った。彼がそうしてくれたことを嬉しく思う。彼は僕をその景色の真っ只中に連れて行った。チューリップ畑を突っ切る道に沿って 進むにつれ、僕はモンドリアンのことを理解し始めた。僕は彼のことをいつもインターナショナルな画家だと思ってきたが、彼がオランダ人の 画家であることに気付いた。 」 ジョン・ヘイダック 『ダッチ・グレイ』 (『10+1』No.32(80年代建築/可能性としてのポストモダン)pp.39-46より)
the flat plane in plan, it could follow that the vertical sections might operate in a similar way. (『a+u』1975年5月 「時間から空 間へ」 より) このヘイダックの言説から、ヘイダックはプランとセクションを同等のものと捉えていたと仮定する。 1929 - 2000
John Hejduk
ニューヨーク、 ブロンクス生まれ
つまり、ヘイダックはモンドリアンの抽象的な絵画に、第三者としての感情や作者の意図を明らかにしているのである。
■結論
また、 このように建築を地面に対して垂直に見た時と、水平に見た時の二つの角度から見たものを構成することで空間をつくられると いう思考、19世紀から20世紀にかけて起こった、 ヨーロッパでできたキュビスムの考え方と共通するのではないか。
1947-1950 クーパー・ユニオン建築学科
ヘイダックは新しい建築におけるノーテーション(記譜法) を表現しようとしていた。 それはいくつもの断 片としてのスケッチから、徐徐にヘイダックが第三者に意図を読み取ってもらうために必要最低限の情 報だけを発表していたと考えられる。
1950-1953 シンシナティ大学建築学科 1952-1953 ハーバード大学建築学科大学院
■第一章 背景にあるもの
1953 ローマ大学に留学 ピエール・ルイジ・ネルヴィにつく 1947-1952 ニューヨークの様々な建築事務所に務める
ヘイダックのキュビスムに関する言説
1956-1958 I・M・ペイ・アンドパートナーズ事務所に勤務
「時間上ではなく空間上の出来事の相互関係こそが重要なのである。この意味において,ル・コルビュジエのハーヴァード
1954 テキサス大学 1958 コーネル大学 1961 イエール大学 1964 クーパー・ユニオン
視覚芸術センターはある一つの理念のもついまだに失われていない力を示している。それは建築におけるキュビスト的空間 の理念である。」 (「時間から空間へ」より)
それは、ヘイダックがキュビスムに着目していたことに関係する。 19世紀から20世紀にかけて、絵画の画法がパースペクティブ(遠近法)からキュビスムに変化すると いう、 ノーテーション(記譜法)の変化に着目していたと考えられる。 キュビスムの絵画は、第三者の思考や感情があって成り立つものである。 また、 その第三者の意図を組 み込む余地を与えるのは、 キュビスムの絵画が抽象的であるからである。 ヘイダックはこれらのキュビスムの考えを参照し、建築の新たなノーテーション(記譜法) として、図面を 抽象化した。 そしてヘイダックの建築(ノーテーション)は、図面の中で第三者の思考が付加されることで図面として 意味を持つのである。