分析1 霊安室の現状 <霊安室の設置状況>
「病院における看取り後の空間 ̶緩和ケア病棟を対象とした霊安室及び動線に関する調査̶」
目次 第1章 序論 1節 研究背景および研究目的 1-1-1.研究背景 1-1-2.既往研究 1-1-3.研究目的
調査対象中、95% の病院が霊安
早稲田大学創造理工学部建築学科 古谷誠章研究室 1X07A035-9 大森葉月
第2章 基本情報 1節 医療施設・緩和ケア病棟における基本情報 2-1-1.医療施設の基礎情報 2-1-2.日本医療の歴史・法的背景 2-1-3.日本における緩和医療・ホスピス
霊安室建築年と霊安室面積の比 したがって、増加傾向にある。
研究背景 日本の死生学の第一人者 死生学者 アルフォンス・デーケンの言葉
<霊安室使用状況>
「生と死は、どちらかだけで存在するものではなく、決し て切り離せない表裏一 体のことです。」
PCU において日常的に霊安室を
「よく生き よく笑い よき死と出会う」アルフォンヌ・デーケン 2003 新潮社
3節 看取りから埋葬までの基本情報 2-3-1.日本人の死生観 2-3-2.日本における葬儀の種類と方法
研究目的
1節 調査対象の選定 2節 調査項目 3-2-1.病院概要 3-2-2.図面 3-2-3.医療従事者へのヒアリング 3-2-4.写真によるシークエンス撮影 3-2-5.葬儀社へのヒアリング
室を持っていた。■ 較をしたところ、近年になるに
2節 霊安室について 2-2-1.霊安室の定義 2-2-2.霊安室の配置計画
第3章 調査方法
<霊安室築年数と霊安室面積の比較> 霊安室面積は増加傾向にある
霊安室の使用目的 [ 実質的理由 ] 1. 家族を待つための時間調整の場 所 2. 解剖までの安置場所 3. 葬儀社との話し合い 4. 生活保護・身寄りの無い人の安 置場所
解剖や生活保護者の安置などの
利用しているのは、約 2 割であ
為、年に数例であっても、霊安
り、霊安室が存在しているのに、
室の機能は必要なものである。
使用している数は少ない。 本研究では、死者を病院から送り出す最後の場所として、霊安室 を取り上げる。遺体を安置する霊安室・緩和ケア病棟における看 取り・病室から退院までを結ぶ動線に注目し、看取り後の空間を
[ 精神的理由 ] 4. 祈りの場所 5. 家族の気持ちを整理する場所 6. 家族を労う場所 7. 医療従事者が患者を見送る場所
分析する。霊安室から退院までの過程を観察することで、霊安室 及び病室から霊安室までの動線の利用実態を把握する。 一般病棟の方が、作業の効率性、患者の回転率の良さ、病院経営 をより考えなくてはならない状況である為、「死」に対して意識し た空間設計がなされていないのではないだろうか。一方、緩和ケ
第4章 調査結果
期間も長い為、より生活環境に近い空間設計がなされている事例
2節 データシート 4-2-1. a病院 4-2-2.NTT東日本関東病院 4-2-3.宗教法人救世軍 救世軍ブース記念病院 4-2-4.独立行政法人国立病院機構 西群馬病院 4-2-5.医療法人社団珠光会 聖が丘病院 4-2-6.社会福祉法人聖隷福祉事業団 聖隷佐倉市民病院 4-2-7.医療法人佑和会 木村病院 4-2-8.総合病院国保旭中央病院 4-2-9.独立行政法人 国立がん研究センター東病院 4-2-10.東芝病院 4-2-11.国保直営総合病院 君津中央病院 4-2-12.公立富岡総合病院 4-2-13.社会福祉法人賛育会 賛育会病院 4-2-14.立正佼成会附属 佼成病院 4-2-15.栃木県立がんセンター 4-2-16.栃木県済生会宇都宮病院 4-2-17.日本赤十字社医療センター 4-2-18.医療法人 つくばセントラル病院 4-2-19.川崎市立 井田病院 4-2-20.筑波メディカルセンター病院 ・筑波県地域がんセンター 4-2-21.桜町病院 4-2-22.ピースハウス病院
が多く、両者の看取り方や死を迎える場所としての態度には違い
3節 ヒアリング 4-3-1∼4-3-20 訪問した各病院 4-3-21葬儀社 第5章 調査結果分析・考察 1節 霊安室について 5-1-1.霊安室の使用状況について 5-1-2.霊安室の配置計画について 5-1-3.霊安室に対する意識について
分析2 PCU から霊安室までの動線 について 分析 2-1. 計画時と現状のルート変更と動線距離の変化
ア病棟は、対象が余命の宣告を受けた終末期の患者であり、入院
1節 データシートA Eの見方
3節 霊安室面積からみた分析 5-3-1. 調査対象病院における霊安室面積と病床数の関係 5-3-2.霊安室建築年からみた総床面積に対する霊安室 面積の割合の推移 5-3-3.霊安室建築年と一床当たりの霊安室面積
調査対象 緩和ケア病棟入院料届け出受理施設は、全国に 197 施設 3907 床あ り (2010 年 5 月 1 日現在 )、関東地方では 45 施設ある。 その中で、今回は調査・見学を 20 施設、インタビュー・セミナー 参加を 2 施設、計 22 施設を訪問した。 (目次のデータシート項目 参照) データシート C
PCUにおける看取りの過程
調査方法 PCU平面図
・病院概要 PCU病室写真
分析 2-1. 計画時と現状のルート変更と動線距離の変化
看取りに関するヒアリング
・図面
謝辞 参考文献
分析 2-2. 計画時と現状の表動線と裏動線の変化
PCU 出口 PCU
0 8.国保旭中央病院
10
30
40
12.公立富岡 総合病院 (現状)
へのヒアリング
70
80
90
100
110
120
130
外来患者の入れるエリア
140m
入院患者の入れるエリア
EV
廊下
前室
62m
1. A病院
?
2.NTT東日本関東病院
?
霊安室 前室
廊下
EV
廊下
駐車場
36
6
(計画時) (現状)
経路変更ー裏動線の廃止
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
5.聖ヶ丘病院
62
45
?
3.救世軍ブース記念病院
4.西群馬病院
物や廃棄物があるエリア EV
117m 17.日本赤十字社 (計画時) 医療センター (現状)
EV
114m 6.聖隷佐倉 (計画時) 市民病院 (現状) ND
EV
55m
4
8
25
21
18
32
29
42
56
86
0
4
8
25
21
18
90
94
97
108
113
EV
折
(計画時)
6.聖隷佐倉市民病院
(現状) 7.木村病院
55
32
29
117
折
EV
すごく長い、EV ご 何台か乗ったかも っ
8.国保旭中央病院 0
18
13
2
39
23
73
114
106
EV
9.国立がん研究センター東病院 110
10.東芝病院 11.君津中央病院
11.君津中央病院
74m
0
14
17
49
23
4.西群馬病院
53
63
64
67
74
折 56
41
(計画時) 66m (現状)
52
58
EV V 5
ング
60
裏動線
0
データシート A
・葬儀社へのヒアリ
50
(計画時) ND
・薬剤師・事務職員 )
エンス撮影
20
動線 距離 ND
スタッフが使うエリア
チャプレン
・写真によるシーク
PCU 病室 廊下
表動線
( 医師看護師 ・ボランティア
霊安室 駐車場
霊安室
・医療従事者
第6章 結論 1節 結論 2節 展望・提案
1. 老朽化 2. 病棟からの動線の長さ 4. 葬儀業者到着時間の短縮 3.「暗い」「怖い」などイメージ の悪さ 5. 線香を焚く、など儀式の必要性 の低下 6. 死後処置は病室で完了すること (PCU) 7. 死後から退院まで時間的余裕が あること (PCU)
変化している事例
があるのではないかと考え、調査を行った。
0
2節 動線について 5-2-1.動線 5-2--2. 動線の距離・曲がり数
霊安室を使用しない理由
61
66
12.公立富岡総合病院
(計画時) (現状)
13.賛育会病院 0
8
14.佼成病院 0
49m
EV V
3.救世軍ブース 記念病院
47m
EV V
15.栃木県立 がんセンター 20.筑波メディカル センター病院
47m
EV V
18.つくば セントラル病院
30m
13.賛育会病院
30m
3
↓
外部を歩く 部
8m
10.東芝病院
↓
ホール ー
27
10 0
34
49
折
?
?
15.栃木県立がんセンター 16.栃木県済生会宇都宮病院
9
0
13
45
47
17.日本赤十字社医療センター 0
38m
0
3
6
41
12
38
18
EV V
47
(計画時) (現状)
19.川崎市立井田病院 18
30 0
22
EV
20.筑波メディカルセンター病院 21.総合病院桜町病院
18
25
折
↓
↓
↓
18.つくばセントラル病院
30 0
22.ピースハウス病院
経路変更ー職員動線との衝突のため廃止
(分析 3-1)
分析 2-2. 計画時と現状の表動線と裏動線の変化 PCU 病室 廊下
EV
廊下
霊安室 前室
前室
廊下
EV
廊下
駐車場
遺体搬出時の場所の配置を、年代順に見てみると、隔離された配置から、 地下、地上へと変化し、空間的にも向上していることが分かる。病院設計
6.聖隷佐倉市民病院
(計画時)
↓
(現状)
者側も、死への配慮がなされているのではないか、と考えられる。
↓
(分析 3-2) RI 機械室
霊安室周辺の室との関係を分析する。
医療ガス 機械室 医療ガス ボンベ室
対外計測室 負荷室
計画時動線
遺体搬出口▶
パターンに分類でき、霊安室のみのもの、前室を抜けて霊安室に入るもの、
女子ロッカー室 免疫応答検査室 女子ロッカー室
霊安室
現状動線 脱衣室
遺体動線
家族控え室
家族動線
汚物処理室
前室
前室
霊安室
前室、家族室を抜けて霊安室に入るものがある。
女子ロッカー室 RI 管理室
検査科 技師長室 兼当直室
清掃員控室 撮影室
操作室 機械室
解剖室 臓器保管室 X-TV 室
洗浄滅菌室
清掃用具庫 操作室
無菌検査室 検査科 事務室
X-TV 室
前室
操作室
検査科倉庫
分析まとめ
生化学検査室
撮影室
操作室
操作室
コンビニ 読読室 食堂 前室
MRI 機械室
MRI 機械室 放射線科 当直室
介護用品 自販機コーナー 展示コーナー
放射線科 事務室
病理検査室 便所 便所
倉庫
訪問看護 ステーション
倉庫
分析1 霊安室は存在するが、使 用されていない。
X-TV 室
読読室
般撮影室
分析 3. 霊安室とその周辺配置について 分析 3-3. 遺体搬出時の場所の配置
実質的な要求として霊安室は なくならない しかし使われていないという 現状がある
家族控え室 前室 霊安室 別棟 (1970 ∼ 1979)
家族動線 遺体動線
ドライエリア (1984 ∼ 1988)
13.社会福祉法人賛育会 賛育会病院(1970)
4.独立行政法人国立病院機構 西群馬病院(1979)
20.筑波メディカルセンター病院・茨城県地域がんセンター(1984)
地下 (1993 ∼ 1996)
15.栃木県立がんセンター(1986)
地上 (2000 ∼ 2010)
分析2 動線選択には、距離以外 にも、動線が表か裏かが 絵依拠を与える。
死への意識の変化 空間的にも配慮が見られ、死 を隠さない方向へと向かって きている
分析3 遺体搬出場所は地下から 地上へと変化している。
6
12.公立富岡総合病院(1988)
10.東芝病院(1993)
16.栃木県済生会宇都宮病院(1996)
18.医療法人 つくばセントラル病院(2000)
ヒアリング結果まとめ
11.国保直営総合病院 君津中央病院(2003)
3.宗教法人救世軍 救世軍ブース記念病院(2003)
6.社会福祉法人聖隷福祉事業団 聖隷佐倉市民病院(2005)
<霊安室の使用目的>
<霊安室を使用しない理由>
[ 実質的理由 ] 1. 家族が待つ場 2. 解剖を待つ場 3. 葬儀社との話し合いの場 4. 生活保護者の安置場所
1. 老朽化 2. 動線の長さ 4. 葬儀業者到着時間の短縮 3. イメージの悪さ 5. 仏教儀式の必要性の低下 6. 死後処置の病室での完了 (PCU) 7. 退院まで時間的余裕 (PCU)
17.日本赤十字社医療センター(2010)
分析 3-3. 霊安室周辺の室との関係 霊安室
遺体動線
家族控え室
家族動線
前室 霊安室のみ 遺体と家族の動線が異なる 更衣室 5 非常用 常 EV ELV LV
エレベーターホール 寝台 EV E 給食用 用 EV ベッドヤード
13.社会福祉法人賛育会 賛育会病院(1970)
10.東芝病院(1993)
20.筑波メディカルセンター病院・茨城県地域がんセンター(1984)
15.栃木県立がんセンター(1986)
前室→霊安室 電気室 更衣室 1
更衣室 2
廊下
ボイラー室
[ 精神的理由 ] 4. 祈りの場 5. 気持ちの整理 6. 家族を労う場 7. 医療従事者が患者を見送る場
倉庫 1
前室 (3.7 ㎡ )
たびだちの間 た ( 霊安室 ) (7.9 ㎡ )
倉庫 3
12.公立富岡総合病院(1988)
18.医療法人 つくばセントラル病院(2000)
3.宗教法人救世軍 救世軍ブース記念病院(2003)
6.社会福祉法人聖隷福祉事業団 聖隷佐倉市民病院(2005)
前室→家族控え室→霊安室 WC
WC
パンドリー
医療従事者は遺体を霊安室に安置するのは忍びない為、避けたいとい
霊安家族待合室 (60.5 ㎡ )
霊安前室 1 (17.0 ㎡ ) 剖検準備室 (25.77 ㎡ )
霊安室 (15.57 ㎡ )
待合室
坪庭 1
(33.4 ㎡ )
う声があった。遺族に対して、霊安室の存在を伝えずにそのまま送り
霊安室 1 (25.5 ㎡ ) 廊下 (37.94 ㎡ )
廊下 (2) (86.92 ㎡ ) EP
職員シャワー (18.76 ㎡ ) 化粧室 滅菌蒸留室 (26.62 ㎡ )
無菌調整室 (48.48 ㎡ )
16.栃木県済生会宇都宮病院(1996)
済生会宇都宮病院 B1F 霊安室 scale 1:100
霊安処置室
11.国保直営総合病院 君津中央病院(2003)
17.日本赤十字社医療センター(2010)
4.独立行政法人国立病院機構 西群馬病院(1979)
(分析 2-1)計画時と現状が異なる事例の距離の変化を分析すると、変更の種
出す事例もあった。 結び
類と使用状況によって、3 グループに分類できる。
分析 1 からは、霊安室が存在しているにも関わらず使用していないと
グループ 1・2は、大幅に距離を短縮したが、グループ 3 は、距離をほとん
いう実態が分かった。分析 2 からは、PCU において、計画時の動線と
ど変えずにルートを変更している。
現状の動線が異なっている場合、動線を短くし裏を避けるように変更 していたことがあきらかになった。分析 3 からは、霊安室の配置が、
( 分析 2-2.)
年代を追って、隔離されたもの、地下から地上へと変化し、空間的に
次に、表動線と裏動線の変化を見てみると、変更後に、裏動線が減少してい
も向上していることが分かります。病院設計者としても、死への配慮
るもの、表動線が減少しているものがある。距離を変化せずに裏動線を減少
がなされているのではないか、と考えられます。
させた例として、グループ 3 を見ると、計画時は、外来患者が出入りする表
このような現状から、病院には死に対して配慮がなされているにも関
動線を通った後、スタッフの裏動線を通る。現在は、特定の外来患者がいる
わらず、分析 1 のヒアリングでは、イメージの悪さが目立っている。
エリアを通った後、限りなく表にちかい裏口から出ている。
死は生の延長であると考え、精神的な要求を満たす霊安室が望まれる。
距離ではなく、裏表の変化 ( 特性・種類 ) でルートを決定している。