修士計画「ゆるやかな共同体の風景」(2008年度)

Page 1

□ 研究目的 「中山間地域における新しい地域自給型共同体モデル」 本研究は、地域共同体の維持が困難になっている中山間地域の集落における新たな地域自給型の共同体のあり方のモデルを、地域住民同士、近隣集落間、都市部と集落間との相互扶助的連携を通して模索するものである。 私は、研究室に在籍している期間を通して、中山間の地域計画のプロジェクトに継続して関わってきた。半ば地域に住み込みながら研究を進める中で、このような中山間地域においてもグローバリゼーションが大きく生活に影響を与えていることを実感し た。特に山間の集落においては若者が一人また一人と減ってゆき地域共同体の維持が困難になった現場を目の当たりにした。独居のお年寄りのお宅を訪問した際には、お店も病院もなくなり、困ったときに頼れる知り合いもいなくなったこの地域で生活す ることへの不安とそれでも地域に住み続けたいという声を聞いた。そのような、社会の現状に私は疑問を感じざるを得ない。またこれは他人事ではなく、自分の周囲でも同様のことが起こっている。 修士計画のテーマを決めるにあたって、未だ短期間ではあるが自分が実感してきたことを発展させ、将来の自分の設計活動への第一歩として中山間地域で可能な新しい地域共同体のあり方を考えたいと思った。 なお、本計画は地域住民の方々の協力を得ながらワークショップなどの現地での活動を行い、参与型の修士計画として行ったものである。

2007

5月

初視察

8月

都市再生モデル調査

2008

12月

中間報告会

2月

多根小学校調査

4月

3月

最終報告会

8月

さくらまつり準備

10月

9月

掛合町まちづくり協議会

□ 研究背景 「共同体の維持が困難になる中山間地域」/「食と農、生命への関心の高まり」

16,000

中山間地域は、一般的に「平野の周辺部から山間部に至る、まとまった耕地が少ない地域(農業白書) 」とされている。高度経済

14,000

成長期以後、中山間地域では都市部への人口流出や農林業の急速な衰退などが進行し、大きな社会問題となってきた。また、近

12,000

年では農村社会学者大野晃による「限界集落」という言葉に表されているように、集落共同体の維持が困難になり消滅する集落

10,000

が多くあると言われる。

8,000

その対策として、都市部と集落との連携や交流で集落を維持する等の取り組みが見られ、近年の帰農への関心の高まりを背景と

6,000

11月

2009

12月

古民家調査・設計・湯村地区調査

1,635 736 2,270

13,291 11,984

1,357

10,050

して一定の成果をあげているものもある。またもう一方では、集落の維持が困難な場合は撤退やむらおさめも検討するべきであ

4,000

319

るという主張もなされるようになってきている。

2,000

3,366

613 302 1,644

5,046

417 216 1,440

2,813

北 陸

中 部

2,229

13 241

0

その他 4%

北 海 道

12% 限界集落

東 北

首 都 圏

近 畿

中 国

四 国

九 州

沖 縄

fig.4 地方ごとに見た 限界集落と非限界集落の割合

2,000

過疎地域の 集落総数 62,273

機会があればそのような

地域のことは地域で行うべ

積極的にそのような地域(集

地域(集落)に行って、農

きであり、農作業や環境保

落)に行って、農作業や環境

作業や環境保全活動・お

全活動・お祭りなどの伝統

保全・お祭りなどの伝統文化

祭りなどの伝統文化維持

文化の維持活動に協力した

の維持活動に協力したい

活動に協力してみたい

いとは思わない

1,200 1,000

その他 60.8

10年以内に消滅する可能性のある集落数

800

84% 非限界集落 19.0

いずれ消滅する可能性のある集落数

1,600 1,400

わからない

総数 (3,144人)

361

400 200

5.0

12.9

600

0

2.3

19

2

fig.1 日本の現存集落の限界集落と非限界集落の割合 20.5

352

54

平地

中間地

山間地

fig.5 地域区分別 集落消滅の可能性

4.2

16.4

57.2

98

14

都市的地域

[ 性 ] 男性 (1,455人)

1,736

1,800

1.8 女性 (1,689人)

63.9

17.8

5.7

9.9 2.7

[ 年 齢 ] 20 ∼ 29歳 (260人) 11.2

71.5

20

2.3

13.8

30 ∼ 39歳 (425人)

13.9

72.0

1.6

11.3

16

1.2 40 ∼ 49歳 (536人)

12

0.9 50 ∼ 59歳 (705人)

21.1

60 ∼ 69歳 (685人)

22.0

70 際 以上 (533人)

23.1

62.0

1.7

8 6.0

14.0

54.9

8

6

4.1

4

12.8

14.1

45.2

11

10

3.0

12.2

15

14

2.6

12.1

68.1

16.2

19

18

1.2

2

4.9

0 0

fig.2 日本の中山間地域/限界集落の可能性を有する地域

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100 (%)

平成1∼4年

平成5∼8年

fig.3 農業・農村の維持活動に対する意識

□ 研究対象地 「島根県雲南市 木次町湯村地区」

平成9∼12年

平成13∼16年

fig.6 集落の消滅ペース

島根県雲南市

54,000 52,000

・島根県雲南市

51,379

51,477 50,981 49,612

50,000 48,248

平成16年に市町村合併で生まれた島根県雲南市を対象とする。雲南市は以下の3点の特徴を持ち、日本全国の中でも地方の諸

48,000

問題を抱える典型の地域と言える。 (1)合併特例法が施行された1995年以降に市町村合併した地域であること。 (2)農林

46,323

46,000 44,403 44,000

水産省が区分する地域類型の「中山間地域」に該当する地域であること。 (3)少子化が高いレベルで進行している地域であること。

42,000

この雲南市において研究を行うことで今後、他の中山間地域などにも応用できるものとする。

40,000

雲南市概要:雲南市は島根県東部に位置し、平成16年11月1日に大東町・加茂町・木次町・三刀屋町・吉田町・掛合町の6

昭和50年 昭和55年 昭和60年

平成2年

平成7年

平成12年 平成17年

fig.7 雲南市 過去30年間の人口推移(国勢調査)

町村の合併により発足した市である。以下に雲南市の概要を示す。

100%

・木次町湯村地区

24.6%

28.8%

29.6%

57.1%

56.9%

30.1%

32.5%

56.8%

54.5%

80%

34.2%

34.7%

34.7%

老年人口

53.1%

52.8%

53.2%

生産年齢人口

年少人口

研究対象集落として雲南市の中でも最も高齢化の進行している地域のうちのひとつ木次町湯村地区を選定する。湯村地区は雲南 60%

市の市街地からおよそ 20 キロの位置にある集落である。出雲風土記に記載されているほど古くから豊かな温泉が沸き出しており、 昭和初期までは山陽と出雲地域を結ぶ山道の宿場町として栄えた地域である。だが、鉄道や国道などの交通網の発達に伴って宿 泊客が大幅に減少し、旅館が次々に廃業した。さらに、もう一方の基幹産業であった農林業や養蚕も高度経済成長以後急速に衰 退し、集落の周囲を囲む山は沈黙の森となり、耕作放棄地が集落の中心部にも広がっている。また、地域の高齢化が進行し地域 の高齢化率が 58 パーセントとなるとともに、空き家や耕作放棄地が増加している。

59.3%

湯村地区

40%

20% 16.1%

14.1%

13.4%

13.1%

13.0%

12.8%

12.5%

12.1%

2000

2005

2010

2015

2020

2025

2030

0% 1995

fig8 雲南市 年齢別人口の推移

fig.9 湯村地区のパノラマ写真

01 は じ め に

2008年度修士計画 「ゆるやかな共同体の風景」 古谷誠章研究室  丸山傑


□ インタビュー

□ 現地調査

01. 竹上輔さん 12/11

<調査概要>

90 代の夫婦の 2 人暮らし。戦時中から今に至るまでの話を聞かせて頂いた。

本研究では、 「地域住民同士、あるいは他の集落や都市部との相互扶助的連携を行うことで集落の維持は可能である」という仮説に基づき、次の3つの調査方法により現

戦後しばらくして農林業で食べていけなくなり、大阪に出稼ぎに出た。子供

地調査を行った。

中に入ったところに住んでいた。いつの頃からかサルとイノシシに田畑を荒

は皆よそへ出てしまったが元気でやっている。昔はここから2km くらい山の らされ住めなくなり、ここに越してきた。現在は近くに農地を借りて、農薬

(1)集落空間の利用状況の調査:集落を起点とした地域計画を行う上で基礎情報として集落空間の利用状況を把握するために現地調査を行った。なお、集落空間の現状

を全く使わずおいしい野菜をつくっている。家庭菜園であり特に出荷などす ることはない。

を総合的に把握するために、建築物だけではなく農地も調査対象とした。 (2)集落の住民、周辺集落の住民へのインタビュー調査:地域住民の生活の視点で集落内外の 共同体の現状を把握するため、漆仁集落の住民のうち調査に応じて頂いた 11 世帯を対象に訪問インタビュー調査を行った。 (3)周辺集落との連携の可能性を模索する

02. 柏木浩二さん 12/11  60 代の夫婦と 80 代のおばあさんの 3 人暮らし。おばあさんは毎日畑にいく。 かつては、温泉場で近所の人との交流があったが、今はほとんどなくなった。

ため、隣接する集落の代表者へのインタビュー調査を行った。

隣に住んでいる人が病気になってもわからないという関係になった。出雲地 方の習慣で、朝の 10 時と昼の 15 時に家族や近所の人とお茶を飲むというも のがあり、今でも続けている。

03. 本田照子さん 12/11  70 代の女性の 1 人暮らし。車で 1 時間ほどの地方都市に娘が住んでおり、 行き来をしている。かつて川の向こうにある国民宿舎でパートの仕事をして いた。現在でも、散歩を兼ねてそこの温泉に入りにいっている。温泉場がな くなり、家庭に風呂を作ってからは同じ集落の人との交流はあまりなくなっ た。集落に思い入れはあるが、足が悪くなると生活できない不安があるので ずっと住み続けるかはわからない。

04. 西村直彦さん 12/09  90 代のおばあさんの一人暮らし。70 代の息子さんが車で 1 時間の地方都市 に家庭をもっているが、おばあさんの介護と畑の手入れのために週日はこの 集落で生活している。集落の活性化をしたいという気持ちはあるが、高齢者 ばかりになった現状では誰が運営するのかという点が課題だと思っている。 集落に愛着はあるが、現在別な地域に家庭生活があるので住み続けるかはわ からない。

05. 本田洋子さん 12/09  80 代のおばあさんの一人暮らし。地域で生まれ育ち、一度も地域の外で生 活したことはない。地域の歴史に詳しく様々なことを教えて頂いた。かつて は温泉場が川の向いの集落の住民も含めて地域全員の交流の場になっていた こと、昭和初期には旅館が 8 軒あり7月の丑湯祭りのときは歩けないほどの 人でにぎわい映画の上映もあったり劇団が来たりしたこと、これからの地域 づくりのヒントになることばかりであった。お茶が大変お好きで伺うたびに お茶をたてて頂いた。

06. 西村満幸さん 12/14  80 代の夫婦とその息子夫婦、その子供 3 人の世帯。地域で1軒だけ残る旅 館を経営し、共同温泉を管理する地域のキーパーソンである。地のものを活 かした料理やもてなしにこだわっており遠方からも固定のお客さんがある。 地域づくりについても非常に積極的であるが、不況の中で自分の旅館以外の ことをする余裕がないという不安もある。おじいさんとおばあさんからは地 域の歴史について多くのお話を頂き、資料を見せて頂いた。子供たちは非常 に人懐っこく元気だった。

07. 藤原昭子さん 10/24  80 代のおばあさんの一人暮らし。車で 1 時間ほどの地方都市に娘が住んで いる。生まれはこの場所ではないが、この集落に暮らし始めて 60 年以上にな る。老人会の会長などをやっている関係で中心市街地まで頻繁に出掛けるが、 バスに少し不便を感じている。一人暮らしなので、夜などに少し寂しくなる と家のはす向かいにある温泉場のロビーで番台のおばさんや入浴に来ている 知り合いと話をしたりする。

08. 杉本孝さん 12/08  70 代の夫婦の 2 人暮らし。車で 2 時間程度の地方都市に息子さんと娘さん が住んでいる。ご主人さんはこの地域で生まれ育った。昔の写真を見せて頂 き当時の話を聞かせて頂いた。昔から何度か洪水によって村が流されており、 その度に住民が協力して村を再建した話を伺った。川や山を使った昔の子供 の遊びについての話も大変面白く伺ったが、最近子供が少なくなったと不安 も口にされた。

09. 青砥由夫さん 12/08  70 代の夫婦と 90 代のおばあさんの 3 人暮らし。近隣の地方都市に娘が2 人生活している。おばあさんがかつて温泉場の番台で働いておりよく手伝い などした記憶がある。その当時の温泉場は、地域の人たちの会話で溢れ、子 供心にも温泉に行くのが毎日の楽しみだった。いまでも地域住民のための温 泉場に入りにいくが、昔のような地域住民同士の交流はなくなった。家に一 人でいるときなどは寂しさを感じることがあるが、趣味の切り絵をするなど している。

10. 石田興義さん 12/07  70 代の夫婦とその息子夫婦とその子供 2 人の世帯。ご主人の興義さんはか つて役場に勤めていた。地域づくりについても積極的な意見をもっておられ た。特に集落が高齢化し、若い人が何かやりたいと思っても意見を言う場が ないということに問題意識をもっている。家では家庭菜園をつくっている。 かつては本格的に農業をやっていたが、農作業機械の費用などを考えると続 けられなくなった。近隣に集落営農をやっている集落があるので協力できな いかと思っている。

11. 松原茂治さん 12/07  70 代の夫婦とその息子夫婦とその子供 3 人の世帯。ご主人さんと奥さんは 仕事をリタイアしてからは本格的に農業を始めた。今では家の食卓に上るも ののほとんどは自給できている上に、お米は一部農協に出荷している。燃料 もできるだけ自給できるように、炭焼き小屋をつくっている。炊飯も薪を使っ たかまどでやっておりその方がおいしいと思う。周辺の農家が離農していく 中で、地域にかつてあった風習や文化がなくなっていっているのでせめて自 分の家では続けようと思い、季節ごとにいろいろな行事を行っている。

12. 西村昌幸さん 12/14 60 代の夫婦の2人暮らし。温泉地区と田井地区の2カ所で診療所を開いてい る医師である。数年前までは横浜でクリニックを営んでいたが、この地域で

N

地域医療に力を尽くしていた義父が急病で他界したことをきっかけに、横浜

湯村地区

のクリニックを知り合いに引き継ぎ、地域に医師として帰ってきた。ただで さえ多忙な時間の合間をぬって、診療所通信を発行したり、地域のお年寄り

フィールドノート Scale:1/1000

の住宅を訪問したりと地域に密着した医療を工夫して行っている。調査で現 地滞在するにあたって、空家をお貸し頂き多くのご好意を頂いた。

<分析/調査から計画へ>

□ 地域住民とのワークショップ

「 川を挟んで一望にできる谷間の地形 」

集落住民の地域計画への潜在的希望を把握するた

斐伊川を挟む海谷集落と漆仁集落は、それぞれ属する行政区分も小学校区も異なるため昔からあま

めに、参加に応じて頂いた 15 名の地域住民との

り交流などが行われていなかった。しかし、地域にかかる橋の上に立ってぐるりと 360 度その両側

ワークショップを行った。

を眺めると、この集落同士は谷間の地形を活かしてひとまとまりの風景を形成し得るポテンシャル

テーマ: 「まちの使い方を発見する。まちを楽しむ。 」

を秘めていることが一目瞭然になる。

漆仁地区のみちや建物などの新しい使い方や楽し

「 家庭菜園と家庭料理 」

み方を一緒に考える。それを通して、参加者全員

そのリサーチを行う過程で発見した魅力の一つが、インタビューに伺うそれぞれの家庭で出される

が地区の今後を考えるきっかけをつくる。

煮しめや漬け物などのおいしい家庭料理である。その料理に使うほぼ全ての野菜は、家の庭先にあ

目的:地域に住んでいる方、地域の出身で帰省し

る畑でとれたものである。

ている方を対象に今後の地域づくりを一緒に考え

「 リタイヤした高齢者 」

る。地域住民自身の地域計画への潜在的希望を知

湯村地区には、仕事をリタイヤした高齢者が多く住んでいる。 「 温泉 」

る。この機会を通して住んでいる地域への関心を 高める一助とする。

湯村地区には、出雲風土記に記載されているほど古くから豊かな温泉が湧いている。かつては、集

ワークショップの成果

落全員が共同浴場を利用し洗濯なども共同の洗濯場で行っていたため温泉が地域の情報交換の場に なっていた。各家庭に風呂を持つようになり、温泉は地域コミュニティの核ではなくなったが、現

・ローカルな連携への関心の高まり

在でも、およそ 1 日 50 人の入浴者がある。

ワークショップを通して、地域住民と共同でいく

「 空き家 」

つかの提案を考えた。これらに共通するのは、集

地域の人口転出の進行に比例して、地域の空き家は徐々に増加してきている。他の地域の空き家の

落単体だけのことを考えるのではなく、その集落

住替えが進まないのと同様に、この地域でも一度空き家になると再活用されることなく廃屋化して

を取り巻く自然環境や近隣集落に目を向けて地域

いく傾向がある。

計画を考えようとしているという点である。

「 耕作放棄地 」

当日考えられた提案

農家の高齢化などにより、海谷集落には現在およそ 5ha の耕作放棄地が生じている。現在は牧草を

温泉を観光資源として活かし、それ以外の地域資

生やすなどの粗放管理がなされているが、この先更に農家の高齢化が進行すればさらに悪化するこ とも予想される。

源と組み合わせることでその魅力をさらに高める

「 宿場町の衰退(地域に生業がなくなっている) 」

提案。川を子供の遊び場にする提案。河原や竹林 を遊歩道として整備し、地域の回遊散策路やサイ クリングコースをつくる提案。川を挟んだ海谷集 落の耕作放棄地を市民農園化し日本版ダーチャを

スライドで古谷研究室が取り組んできた活動の紹介

具体的に漆仁地区の中の 3 つの敷地ごとにチーム(5∼7 人)

チームごとに全員の前で成果を発表し、全員で共有し、そ

1)ワークショップの事例(アンパンマンミュージアム・中

に分かれ、それぞれのチームには一人ずつ進行役(早稲田)

の後で早稲田が考えた農家レストランの案をプレゼンテー

里)

がついた。敷地見学を通して、チームごとにその敷地の問題

ションを行った。全ての案を張り出し、自由に意見交換をし

2)建築の転用再生・まちの利活用の事例(月影小学校・さ

点や魅力を話し合った。大きな地図に付箋と写真を貼付けて

た。終了後、可能な場合は農家レストランの敷地見学。

くらまつり)

いった。チームごとにその敷地の新しい使い方を発見し、そ

漆仁集落は、かつて広島と出雲地域を結ぶ山道の宿場として栄え、7∼8 軒旅館が軒を連ねていた。 しかし、モータリゼーションの進行とともに宿場としての役割を終え旅館は次々と廃業を余儀なく された。こうして、地域に生業がなくなっていった。

の場所を楽しむ提案を考えた。チームごとに提案を模造紙 1

つくる提案。

02 フ ィ ー ル ド ワ ー ク

枚にまとめた。

2008年度修士計画 「ゆるやかな共同体の風景」 古谷誠章研究室  丸山傑


ゆ る や か な 共 同 体 の 風 景  このまま何もしなければ衰退して消えていってしまうかもしれない集落を次の代に繋ぐために今できることは何か。 まず、地域住民同士や隣の集落との連携という小さな共同体をつくることから始める。そして、徐々に共同の輪を広げ、 地縁や血縁を越えて多くの人がこの集落をめぐり相互扶助の「ゆるやかな共同体」を形成していくことを計画する。

03 ゆ る や か な 共 同 体 の 風 景

2008年度修士計画 「ゆるやかな共同体の風景」 古谷誠章研究室  丸山傑


□ 集落の新陳代謝(30年/1世代) 30年/1世代

ある夫婦が集落に住んで子供を生む。やがてその子供も成長して大人になり子供を生む。このサイクルが集落の新陳代謝を生む。 新陳代謝を助けるための集落施設の提案をする。 2010

2020

2030

2040

A) 共同経営するレストラン

B) 共同菜園

C) 空家/アトリエ

A) 共同経営するレストランで働く地元住民

B) C)

A) 共同菜園を耕し農業を生業とする地元住民

B) C)

温泉をきっかけに定住し、農業やアトリエ 生活の新しい暮らしを始める新住民

A) B) C)

A) 都市に居を構えながら、セカンドハウスと して住まう二地域居住の住民

B) C)

A) 新住民のライフスタイルに共感を覚え、空 家に居を構える新住民

B) C)

1 共同経営レストランを建てる

2 共同菜園を耕す

3 朝収穫された野菜を運ぶ

4 地域のお母さんがおいしい手料理をつくる

5 共同経営のレストランが多くの人に使われる

6 地域住民と来訪者の間に交流が生まれる

7 農作業体験をするなかで交流が深まる

8 共同出資で農作業小屋をつくり、 耕作放棄地を手入れし始める

10 居を構えたい希望者がでてきて、

11 ただ同然で空家を手に入れ、地域住民と

地域住民が空家を紹介する

共同で改修して住まう

13 絵画や作品を販売することを始める

04 集 落 の 新 陳 代 謝

9 収穫期をむかえる頃には地域の顔なじみとなる

12 アトリエを増築する

14 新住民のライフスタイルが

15 次第に居を構えたい意識が高まり、

レストラン内で話題になる

別の空家を改修して定住する

2008年度修士計画 「ゆるやかな共同体の風景」 古谷誠章研究室  丸山傑


松江・出雲方面

宿泊

「 共同菜園 」 菜

/温

地域住民と協同で菜園をつくる。 と協

泉/

そこでできた野菜は農家レストランで提供さ た野

食事

れたり直売場で販売されたりして、集落の共 れ で販 同の利 の利益となる。また、農作業体験のワーク の利 た、 ショップな プなどを行うための体験農場も併設さ プな 体験

絵画/制作 物販売

れる。希望者には農地の貸し出しも行う。 者には

新住民の共同菜園

「 ある新住民の住まい 」

斐伊川

空家改修 + アトリエ

同菜

の制作などを行う。

/共

づくり、日用品、家具、絵画、などの芸術品

体験

地域住民の共同菜園 の 菜

め物工房が利用される。織物、染め物、和紙

農業

主に農閑期などには、地域のものを用いた染

食 食事 農家レストラン 見学

空家改修 + アトリエ

温泉 「 共同経営のレストラン 」

販売

湯乃上館 地産地消の田舎料理を提供

制作物

温泉入浴後の夕涼みの場。農村生活体験のた めの宿泊所。食育、料理教室なども開かれる。

絵画/

地域住民の働く場であり、来訪者との交流の 場となる。

宿

N 0

10

20

30

40

50(m)

広島方面

05 地 域 内 の 循 環

2008年度修士計画 「ゆるやかな共同体の風景」 古谷誠章研究室  丸山傑


「 地域住民同士、地域住民と都市住民を結ぶデザイン 」 共同体としてのライフスタイルを生み出す建築設計上の工夫を行っている。 共同経営のレストランは、既存の縁側を外部に延長し全面道路側に開放的なテラスをつくる。 そして、そのテラスから内部に引き込むように縁側を設け、そこに腰掛けてお茶を飲む中から 地域住民と来訪者分け隔てなく互いに会話が生まれることを期待している。

共同経営するレストラン  共同経営するレストランが湯村集落にできる。温泉を目当てにして近隣から訪れた人、遠方から 訪れた人、多くの人がこのレストランを使う。夏は夕涼みの場所、冬は暖をとる場所として多くの 人に利用され、集落一のコミュニケーションの場所になる。地域の人がかわりばんこに運営し、コ

リネン室

ンシェルジュのように地域の風土や文化のことを語ってゆく中で、農作業に興味がある人が登場す る。レストランに働くある地元人は集落の中に耕作放棄地があることを伝えると、それを種として 共同菜園を運営する話がレストランの中で膨らんでゆく。

裏庭 前面道路

斐伊川

A-A 断面図 Scale:1/150 山小屋

斐伊川

A

A

A

A

農家レストラン

一階平置図 Scale:1/150

焼きサバ寿司

N 0

10

20

30

40

二階平置図 Scale:1/150

焼き魚

50(m)

配置図 Scale:1/1000

メニューイメージ

06 共 同 経 営 の レ ス ト ラ ン

建物外観写真

建物内観写真(1階大広間)

2008年度修士計画 「ゆるやかな共同体の風景」 古谷誠章研究室  丸山傑


「 食がつなぐ一連の風景 」 広めのデッキをもつことでときに共同作業場となる。また小さな調理のスペースをもつこと で、収穫した野菜などをその場で料理して食べることや、パーティを開くこともできる。耕 作放棄地に次第に鍬が入りこの共同農作業小屋が広がることで、そこに人のアクティビティ のある農村風景が生まれる。

□ 配置図 Scale:1/1000

0

新住民の共同菜園

250

0

200

共 同 菜 園

kitchen wcキッチン 0 380

0

トイレ

550

農作業小屋

room

部屋

engawa

250

デッキ

storage 0 520

0

倉庫

00 0 5

0

180

220

農作業小屋 1

共 同 菜 園

共 同 菜 園 共 同 菜 園

斐伊川 地域住民の共同菜園 +

共同菜園

農作業小屋

ただ同然の耕作放棄地を利用した共同菜園計画がレストラン内でどん どん膨らんでゆく中で、まず始めに簡易的な農作業小屋を作り、共同菜 園をつくろうという計画が挙がる。さっそく耕作放棄地の一部に鍬を入 2500

2000

れ、共同出資をした農作業小屋を建てる。最初は地元民の協力の下で週 末の農作業が始まるが、次第に関係性が深まり、農作物が収穫の時期を

kitchen wcキッチン

国道 314 線 3800

room 部屋

向かえる頃にはすっかり地域の顔なじみになる。農作業の味をすっかり

5500

トイレ

しめて親しくなった地元民に、今度はここに居を構えたいという話を持

engaw

a

ちかけると、顔なじみの人が管理している空家を紹介される。

デッキ

5200

倉庫

2200

共 同 菜 園

N

2500

storage

800

500 1

農作業小屋 2 耕作放棄地

0

07 共 同 菜 園

10

20

30

40

50(m)

2008年度修士計画 「ゆるやかな共同体の風景」 古谷誠章研究室  丸山傑


「 文化アクティビティを展示する建築 」 空家を改修した移住者の住まいもまた、外部に対して開放的な空間を持つ。増築するアトリエに 接続するように外部に広いデッキの制作スペースを設けることで、制作風景が外部にも広がって いく。そうすることで移住者と地域住民、アトリエを見学に来る来訪者との交流が生まれるきっ かけをつくる。

□ 配置図 Scale:1/1000

500

400

0 150

ある新住民の住まい(空家住み替え)

350

0

0

時間をかけて地域になじんだ結果、ある人は空家をただ同然で手に入れる。生活にリ 0

アトリエ

550

0

引き戸

0

350

ろくろ

100

500

国道 314 線

ズムが生まれてきたある時から工房を空家に連続した形で増築し、そこで制作する絵 画や作品を販売することを生業とする。食は相変わらず生産したもので自給自足をし ているから、お金はかからない。今度はそのライフスタイルがレストランの中で一番 の話題となる。都会から旅行してきたある人はその生活を偶然目の当たりにし共感を

テラス

覚える。共同菜園のコミュニティに加わり、月末に月一の頻度で訪れるようになる。 ウッドデッキ

食や作品祭などのイベントを通して次第に居を構えたい意識が高まり、地元民に相談 を持ちかけたところ、顔なじみだからという理由で他の空家を紹介された。

主 屋

このサイクルを繰り返し、耕作放棄地にはいくつもの農作業小屋が並び、多くの作物 で埋め尽くされることになる。空家は空家ではなくなり、多くの人が好きな生活を謳 歌する農村風景が広がる。

空家改修+アトリエ

□ 平面図 Scale:1/150

現況で発生している空家

空家改修+アトリエ

N 0

10

20

30

40

50(m)

08 あ る 新 住 民 の 住 ま い ( 空 家 住 み 替 え )

2008年度修士計画 「ゆるやかな共同体の風景」 古谷誠章研究室  丸山傑


□ 一日のライフスタイル 1 つの住居や施設の中で完結するのではなく、地域全体の広がりの中で展開するライフスタイルが地域住民、新しく地域に住み始めた人、地域を訪れた人の間に相互扶助的な関係を生み出す。

0

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

12

13

14

15

16

17

18

19

20

21

22

23

24

地域住民

起床

農作業

朝食の提供

お客の送迎

お風呂の掃除

身支度

昼食

デスクワーク

旅館の掃除

お客さんの話に加わる

夕食準備・提供

食材の買い出し デスクワーク

夕食

西村満幸さん (旅館経営者) 昼食の仕込み

起床

午後の作業

休憩

休憩

地域の案内など

昼食の提供

お客さんとの話 夕食の提供

就寝

帰宅し休憩

本田洋子さん (農家レストランで働く) 起床

朝食 農作業

出荷作業 午前の農作業

夕食

休憩 昼食

午後の農作業

昼食

休憩

就寝 休憩

竹上輔さん (農業者)

新住民

起床

朝食

午前の作業 工房にて作品制作

農作業

午後の作業

家事 午後の作業

休憩 夕食

就寝

定年退職後夫婦の妻 (和紙すき工房)

外来者

起床 農家レストラン宿泊

身支度

昼食

朝食

散策

地域の散策

農作業体験

夕食 入浴

夜通し談義

若い夫婦

SCENE 01

SCENE 02

SCENE 03

SCENE 04

SCENE 05

SCENE 06

SCENE 01  「畑で農作業体験/レクチャー」

SCENE 02  「農作業小屋/みんなでお茶」

SCENE 03  「農家レストランで食事/おばあさんと知り合う」

地域のおじいさんのいつもの朝の農作業。今日は松江から若い夫婦が農業体験に

農作業が一段落して地域の習慣で 10 時のお茶の休憩。農作業小屋の縁側で風景を

おじいさんと一緒に収穫した野菜をもって農家レストランへ。そこで昼食を食べ

来ている。

眺めながらお茶を飲んで、地域のおじいさんと若い夫婦との話に花が咲く。

る。地域の畑で収穫した野菜が使われている料理。料理してくれた地域のお母さ んからメニューの話を聞いているうちに親しくなる。

SCENE 04  「おばあさんに案内されて地域を散策」

SCENE 05  「染色工房の見学」

SCENE 06  「カウンターでお酒を呑みながら夜通し談義」

親しくなった地域のお母さんから地域のいろいろな場所を案内してもらう。ここ

散策の途中で工房を発見。このアーティストも数年前までは東京で活動していた

お風呂に入り 1 日の疲れを洗い流して、農家レストランで夕食。途中から料理を

は集落全体を見下ろせる山の上の公園。観光案内や本ではわからない地域の魅力

人。この地域に魅力を感じ、空き家に作業場を増築し制作拠点にした。現在でも

終えた管理人さんも話に加わり、普段は聞けないような地域の歴史、風土の話、

を知るきっかけになる。

東京と行ったり来たりの生活をしている。

料理や食材の話、人生の話、世界情勢の話など。夜は更けてゆく。

09 1 日 の ラ イ フ ス タ イ ル

2008年度修士計画 「ゆるやかな共同体の風景」 古谷誠章研究室  丸山傑


□ 共同体文化を表現する祭事 現在は行われていないが、かつてはこの集落にも季節ごとに祭りなどがあった。神楽や歌舞伎、文楽などの郷土芸能はこの中から生まれたものであった。

1

2

3

4

5

6

7

8

七夕祭

夏祭り

9

10

11

12

FARM AREA

FACTORY AREA

RECREATION AREA 正月

工房作品展

工房作品展

さくら祭

ほたる祭

収穫祭

制作物 の布

10 共 同 体 文 化 を 表 現 す る 祭 事

2008年度修士計画 「ゆるやかな共同体の風景」 古谷誠章研究室  丸山傑


Turn static files into dynamic content formats.

Create a flipbook
Issuu converts static files into: digital portfolios, online yearbooks, online catalogs, digital photo albums and more. Sign up and create your flipbook.