□ 研究目的 「中山間地域における新しい地域自給型共同体モデル」 本研究は、地域共同体の維持が困難になっている中山間地域の集落における新たな地域自給型の共同体のあり方のモデルを、地域住民同士、近隣集落間、都市部と集落間との相互扶助的連携を通して模索するものである。 私は、研究室に在籍している期間を通して、中山間の地域計画のプロジェクトに継続して関わってきた。半ば地域に住み込みながら研究を進める中で、このような中山間地域においてもグローバリゼーションが大きく生活に影響を与えていることを実感し た。特に山間の集落においては若者が一人また一人と減ってゆき地域共同体の維持が困難になった現場を目の当たりにした。独居のお年寄りのお宅を訪問した際には、お店も病院もなくなり、困ったときに頼れる知り合いもいなくなったこの地域で生活す ることへの不安とそれでも地域に住み続けたいという声を聞いた。そのような、社会の現状に私は疑問を感じざるを得ない。またこれは他人事ではなく、自分の周囲でも同様のことが起こっている。 修士計画のテーマを決めるにあたって、未だ短期間ではあるが自分が実感してきたことを発展させ、将来の自分の設計活動への第一歩として中山間地域で可能な新しい地域共同体のあり方を考えたいと思った。 なお、本計画は地域住民の方々の協力を得ながらワークショップなどの現地での活動を行い、参与型の修士計画として行ったものである。
2007
5月
初視察
8月
都市再生モデル調査
2008
12月
中間報告会
2月
多根小学校調査
4月
3月
最終報告会
8月
さくらまつり準備
10月
9月
掛合町まちづくり協議会
□ 研究背景 「共同体の維持が困難になる中山間地域」/「食と農、生命への関心の高まり」
16,000
中山間地域は、一般的に「平野の周辺部から山間部に至る、まとまった耕地が少ない地域(農業白書) 」とされている。高度経済
14,000
成長期以後、中山間地域では都市部への人口流出や農林業の急速な衰退などが進行し、大きな社会問題となってきた。また、近
12,000
年では農村社会学者大野晃による「限界集落」という言葉に表されているように、集落共同体の維持が困難になり消滅する集落
10,000
が多くあると言われる。
8,000
その対策として、都市部と集落との連携や交流で集落を維持する等の取り組みが見られ、近年の帰農への関心の高まりを背景と
6,000
11月
2009
12月
古民家調査・設計・湯村地区調査
1,635 736 2,270
13,291 11,984
1,357
10,050
して一定の成果をあげているものもある。またもう一方では、集落の維持が困難な場合は撤退やむらおさめも検討するべきであ
4,000
319
るという主張もなされるようになってきている。
2,000
3,366
613 302 1,644
5,046
417 216 1,440
2,813
北 陸
中 部
2,229
13 241
0
その他 4%
北 海 道
12% 限界集落
東 北
首 都 圏
近 畿
中 国
四 国
九 州
沖 縄
fig.4 地方ごとに見た 限界集落と非限界集落の割合
2,000
過疎地域の 集落総数 62,273
機会があればそのような
地域のことは地域で行うべ
積極的にそのような地域(集
地域(集落)に行って、農
きであり、農作業や環境保
落)に行って、農作業や環境
作業や環境保全活動・お
全活動・お祭りなどの伝統
保全・お祭りなどの伝統文化
祭りなどの伝統文化維持
文化の維持活動に協力した
の維持活動に協力したい
活動に協力してみたい
いとは思わない
1,200 1,000
その他 60.8
10年以内に消滅する可能性のある集落数
800
84% 非限界集落 19.0
いずれ消滅する可能性のある集落数
1,600 1,400
わからない
総数 (3,144人)
361
400 200
5.0
12.9
600
0
2.3
19
2
fig.1 日本の現存集落の限界集落と非限界集落の割合 20.5
352
54
平地
中間地
山間地
fig.5 地域区分別 集落消滅の可能性
4.2
16.4
57.2
98
14
都市的地域
[ 性 ] 男性 (1,455人)
1,736
1,800
1.8 女性 (1,689人)
63.9
17.8
5.7
9.9 2.7
[ 年 齢 ] 20 ∼ 29歳 (260人) 11.2
71.5
20
2.3
13.8
30 ∼ 39歳 (425人)
13.9
72.0
1.6
11.3
16
1.2 40 ∼ 49歳 (536人)
12
0.9 50 ∼ 59歳 (705人)
21.1
60 ∼ 69歳 (685人)
22.0
70 際 以上 (533人)
23.1
62.0
1.7
8 6.0
14.0
54.9
8
6
4.1
4
12.8
14.1
45.2
11
10
3.0
12.2
15
14
2.6
12.1
68.1
16.2
19
18
1.2
2
4.9
0 0
fig.2 日本の中山間地域/限界集落の可能性を有する地域
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100 (%)
平成1∼4年
平成5∼8年
fig.3 農業・農村の維持活動に対する意識
□ 研究対象地 「島根県雲南市 木次町湯村地区」
平成9∼12年
平成13∼16年
fig.6 集落の消滅ペース
島根県雲南市
54,000 52,000
・島根県雲南市
51,379
51,477 50,981 49,612
50,000 48,248
平成16年に市町村合併で生まれた島根県雲南市を対象とする。雲南市は以下の3点の特徴を持ち、日本全国の中でも地方の諸
48,000
問題を抱える典型の地域と言える。 (1)合併特例法が施行された1995年以降に市町村合併した地域であること。 (2)農林
46,323
46,000 44,403 44,000
水産省が区分する地域類型の「中山間地域」に該当する地域であること。 (3)少子化が高いレベルで進行している地域であること。
42,000
この雲南市において研究を行うことで今後、他の中山間地域などにも応用できるものとする。
40,000
雲南市概要:雲南市は島根県東部に位置し、平成16年11月1日に大東町・加茂町・木次町・三刀屋町・吉田町・掛合町の6
昭和50年 昭和55年 昭和60年
平成2年
平成7年
平成12年 平成17年
fig.7 雲南市 過去30年間の人口推移(国勢調査)
町村の合併により発足した市である。以下に雲南市の概要を示す。
100%
・木次町湯村地区
24.6%
28.8%
29.6%
57.1%
56.9%
30.1%
32.5%
56.8%
54.5%
80%
34.2%
34.7%
34.7%
老年人口
53.1%
52.8%
53.2%
生産年齢人口
年少人口
研究対象集落として雲南市の中でも最も高齢化の進行している地域のうちのひとつ木次町湯村地区を選定する。湯村地区は雲南 60%
市の市街地からおよそ 20 キロの位置にある集落である。出雲風土記に記載されているほど古くから豊かな温泉が沸き出しており、 昭和初期までは山陽と出雲地域を結ぶ山道の宿場町として栄えた地域である。だが、鉄道や国道などの交通網の発達に伴って宿 泊客が大幅に減少し、旅館が次々に廃業した。さらに、もう一方の基幹産業であった農林業や養蚕も高度経済成長以後急速に衰 退し、集落の周囲を囲む山は沈黙の森となり、耕作放棄地が集落の中心部にも広がっている。また、地域の高齢化が進行し地域 の高齢化率が 58 パーセントとなるとともに、空き家や耕作放棄地が増加している。
59.3%
湯村地区
40%
20% 16.1%
14.1%
13.4%
13.1%
13.0%
12.8%
12.5%
12.1%
2000
2005
2010
2015
2020
2025
2030
0% 1995
fig8 雲南市 年齢別人口の推移
fig.9 湯村地区のパノラマ写真
01 は じ め に
2008年度修士計画 「ゆるやかな共同体の風景」 古谷誠章研究室 丸山傑