Carlo Scarpa 研究 2012 カノーヴァ石膏彫刻陳列館 ( Gipsoteca della Canoviana ) における「絵画的効果」とその設計意図 古谷誠章研究室 1X09A091 菅野 正太郎
序論 -1. 既往研究考察 -2. 研究背景/目的 -3. 研究対象選定 -4. 研究概要 第一章 アントニオ・カノヴァと カノヴァ石膏彫刻陳列館 -1. カノヴァ石膏彫刻陳列館の概要 -2. アントニオ・カノヴァ -3. カノヴァ石膏彫刻陳列館における アントニオ・カノヴァの作品 第二章 カルロ・スカルパと カノヴァ石膏彫刻陳列館 -1. 講演録翻訳 -2. ドローイング資料 -3. カノヴァ石膏彫刻陳列館図面資料 -4. 共同設計者グイド・ピエトロポリ氏への インタビュー -5. 考察
開口 C-4 における時間ごとの変化
1. 開口と自然光
「可能ならば私は自然光のコンセプトを支持する。だが、それを自然な方法で獲得するのは不可能だ。 当然、私が言っているような部屋を明るくしてくれる窓があるとしたら、絵画は壁二面のみにかける事に なる。3つ目の壁においてはフレスコ画のみが許容できるような光の反射があるからだ。 油絵及び水彩 画には投じてはいけない類いの光が射込まれていれば、フレスコ画の展示は簡単にできる。言わんとし ているのは、 彫刻にも、絵画的効果があるという事である」 (1976年1月13日カルロ・スカルパ講演録出典)
■ 目次
■ 考察
開口から入る自然光のパターンを分析する と、時間ごとに変化することが分かった。 これらを壁面反射の回数で分類し、 0回反 射の「直接光」 /1回反射の「間接光」/複数回 以上反射の「拡散光」 と定義した。
直接光 (0 回反射)
間接光 (1 回反射)
拡散光 (複数反射)
彫刻 B-7 における時間ごとの変化
■ 研究背景・目的 本研究は、カルロ・スカルパの1976年1月13日にポサーニョのカノヴァ石膏彫刻陳列館の増築計画に ついて、スライドショーを使用して生徒達に行った講演録のなかから得られた言説である 「絵画的効 果」の意図を明らかにすることを目的としたものである。
■研究対象選定/研究概要・方法 スカルパの言説が残るカノヴァ石膏彫刻陳列館について、講演録から得られた着眼点をもとに、ドロー イング資料、スカルパの弟子グイド・ピエトロポリ氏へのインタビュー、現地写真といった、資料を精査し たものと合わせて考察項目を抽出。 その項目をもとに、実空間を検証・分析し、カノヴァ石膏像陳列館に おける結論へ至る。その後、他の美術館作品(アバテリス州立美術館、 カステルヴェッキオ美術館)と比較 し、スカルパの設計・展示手法の発展過程を考察する。
2. 単一彫刻と背景 「単一の彫刻」とその「背景」の見え方を観察 すると、時間経過によって見え方も変化して いくことが分かった。 また、それらの見え方は幾つかのパターンに 分類出来、 それぞれを「消失」 ・ 「輪郭(部分 的輪郭)」 ・ 「全体」と定義した。 特に、 「輪郭」に関しては、既存棟には見られ ず、増築等独特の見え方であることが発見 された。
09:04
10:47
消失
輪郭
13:54
14:27
部分的輪郭
15:52
16:46
全体像
3. 鑑賞者の位置と見え方 第三章 カノヴァ石膏彫刻陳列館-実空間分析 -1. 分析概要 -1. アクソメ図による分析 -2. 定点観測(通常,広角)による撮影 -3. 視認性画像変換による解析 -2. データシート -2. 開口分析-資料 -3. 単一の彫刻と背景の時間変化-資料 -4. 複数の彫刻と空間の時間変化-資料 第四章 考察 -1. 開口と自然光 -2. 単一彫刻と背景の時間変化 -3. 鑑賞者の位置と見え方 -4. シークエンス
展望 -1. アバテリス州立美術館から カステル・ヴェッキオ美術館へ
カノヴァ石膏彫刻陳列館 (1955-57)
カステルヴェッキオ美術館 (1956-74)
向きの変化による明暗の反転
当然のごとく、 石膏などの白い物体を際立たせようとするには、 背景を濃い 色にする必要があり、それ が自然である。 そこで、私は自問した。 どのような色をそこに使用するべきか?黒か?いや、 あり得ない。 それでは光が全く反射されない。ならば濃い茶色だろうかと考えたが、 それも非常に暗い部屋では結局 のところ陳腐である。私は、白が最高だろうと思った。 (1976年1月13日カルロ・スカルパ講演録出典) 講演録より"カルロ・スカルパのカノヴァ石膏 彫刻陳列館における「絵画的効果」 とは、 「光」 によって 「彫刻」 を「背景」から 「際立たす」こと である"という仮説を立てる。 また「光と物質」 「展示物と背景」、 、 「展示物と 配置」という着眼点を抽出し、 4つの考察項目 を導いた。
4. シークエンス
9 時の各シーン
カノーヴァ石膏彫刻陳列館において鑑賞者 は、彫刻が際立って見える視点を追うように してシークエンスを辿る。 また、同じ動線においても際立つ像が変わ ることでシークエンスが変化する。
12 時の各シーン
考察項目 16 時の各シーン
1.「開口と自然光」
着眼点
■ 結論
「光と物質」 2.「単一の彫刻と 背景の時間変化」
「展示物と背景」
結論 1.「絵画的効果」とは 彫刻、光、背景の三要素が、鑑賞者に視点を与えることである。
3.「観察者の 位置と見え方」
「展示物と配置」 4.「シークエンス」
資料 -1. 撮影資料 -2. 翻訳文献 -1. 参考文献 -2. 謝辞
■ 実空間分析 - データシート 開口と自然光
単一彫刻と背景の時間変化
彫刻群と、空間の変化
背景 光
1, アクソメ図 3, 彫刻写真 2, 開口写真
カルロ・スカルパ (1906-1978)
遠近の変化による彫刻の浮立
■ 講演録考察 - 仮説/着眼点抽出
言 説
結論 -1.「絵画的効果」とは -2.「絵画的効果」とその設計意図
アバテリス州立美術館 (1953-54)
鑑賞者の視線の向きが変わると、 彫刻と背 景の明暗が反転して見える現象が起こる。 ま た、彫刻に近づくにつれて像が浮き立って現 われる現象も起きる。
1, アクソメ図 3, 空間写真 2, 彫刻写真
1, 視認性画像※ 2, 輝度画像
3, 彫刻写真 4, 空間写真
彫刻
1, 視認性画像※ 3, 彫刻写真 2, 輝度画像 4, 空間写真
※視認性画像 ... 視覚弱者における視認度の指標を得るために使われる画像で、一定の露光量から得られた写真を 輝度画像に変換した後、被験者の視認性評価の平均値から求めた係数を掛けあわせたものを用いる。
視点が与えられる
結論 2.「絵画的効果」によってもたらされる現象 カノーヴァ石膏彫刻陳列館におけるスカルパの設計意図とは、 「絵 画的効果」によってもたらされる多くの視点を、 鑑賞者が結びつけ ながら体感してゆく空間をつくることであったと結論づける。