建築トークイン上越2009 ブックレット

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目 次

4 ー  5

はじめに

6 ー  7

概要

8 ー

参加者紹介

9

10 ー 13

課題文

14 ー 15

トーク風景

16 ー 17

企画構成

18 ー 25

レクチャー

27 ー 43

一日目ラウンドテーブル

45 ー 61

二日目ラウンドテーブル

62 ー 77

トークを終えて 学生

78 ー 79

トークを終えて 講師

80 ー 81

編集後記


1 はじめに

ごあいさつ

文明と文化について  僕がこのイベントに大きな期待を寄せるのは近年、東京、名古屋、大阪といっ た太平洋岸の大都市に見られる絶望的なまでの混乱に対して、日本海沿岸のい くつかの都市で静かに、けれど持続性のある対話の中から、身の丈にあった可 視的な小さな仕掛けを考え続けることが可能ではないかという思いからであっ た。  それは今から 20 数年以前、今は亡き美術史家の中山公男さん達と共に立ち 上げた 「岩室の会」 という小さなサークルに身を置く一人としての実感でもあっ た。  ある時こうした思いを在京の大学で指導的な立場にある教授達に話しかけた ところ、幸いにも共感をいただき、その後はさらに北から南まで、この輪が広 がり今日の運びとなった。  言うまでもなく、こうした思考と行動は持続する事こそが生命である。今後 の静かなそしてさらに力強い活動を見続けたいという思いは強い。  最後になったが、このイベントの為に戴いた上越市浦川原の皆様のご尽力に 対し厚く御礼を申し上げます。

平成 21 年 11 月 27 日 高橋 䧢一

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建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」


1 はじめに

はじめに

『 学 生 た ち が 中 心 と な っ て 、 都 市 や 文 化 を 考 え 議 論 す る 場 を も と う 』 と い う 建 築 家 高 橋 䧢一 氏( 大 阪 芸 術 大 学 名 誉 教 授 、 建 築 ト ー ク イ ン 上 越 企 画 委 員会委員長)の呼びかけに応じて、上越市浦川原区に 12 大学 72 人の学生 が 集 ま り 、20 09 年 1 0 月 1 7 日( 土 )と 1 8 日( 日 )に「 建 築 ト ー ク イ ン 上 越 」 が開催された。  17 日(土)の午後には、グローバリゼーションの中で地方都市および地 方文化のあり方を問うという大きな課題に対して、木下庸子、千葉学、小 嶋 一 浩 、山 代 悟 ( 発 表 順 ) の 4 名 の 建 築 家 か ら 課 題 提 起 の 発 表 が 行 な わ れ 、 そ れ ぞ れ の 発 表 者 を 19 名 の 学 生 が 取 り 囲 ん で、 4 つ の ト ー ク イ ン が 同 時 進 行 し た。 翌 18 日( 日 ) の 午 前 は 学 生 が 中 心 と な っ て ト ー ク イ ン を 進 め る と い う か た ち で 、2 日 間 で 2 回 ( 合 計 8 つ ) の ト ー ク イ ン が 行 な わ れ た 。 ラウンドテーブル型の会議(トークイン)がどのような成果をもたらしう るかは未知数だったが、17 日夜は参加学生のほとんどが月影の郷(旧月影 小学校。法政大学、早稲田大学、日本女子大学、横浜国立大学の 4 研究室 が浦川原村(当時)の依頼を受け 2005 年に宿泊施設に改修)に宿泊した こ と で、 そ れ ぞ れ の グ ル ー プ で 議 論 を 深 め る 時 間 を も て た こ と が 日 曜 日 の 議論に厚みをもたらした。  どのような議論がなされたのかについてはこの冊子を紐解いていただく こ と し て 、映 像 や イ メー ジ の 先 行 し が ち な 時 代 に 、 「 言 葉 で 語 る こ と 」を テ ー マに掲げたこのトークインが今後どのように展開していくか期待したい。

渡辺真理 建 築 家 、 法政 大 学 教 授 、 建 築 ト ー ク イ ン 上 越 企 画 委 員 会 副 委 員 長

建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」

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2 概要

岩 室塾 特別 企画

建築トークイン上越 2009 浦川原文化振興事業

高 橋䧢一 橋 一

木下庸子

千葉学

小嶋一浩

地 方都 市を 救う建築

山代悟

渡辺真理

コメンテーター

発表者

発表者

高橋䧢 一

木下庸子

千葉 学

建築家

建築家

建築家

大阪芸術大学名誉教授

工学院大学教授

東京大学准教授

発表者

発表者

司会者

上 越市浦川原区で開催 さ れ る「 る 「 建 築 ト ー ク イ ン 上 越 」で 」では、グロ ー バリゼーションの中 で の 地 方 都 市 お よ び 地 方 文 化の あ り 方 を 、 建 築・都市・文化など 多 方 面 で 活 躍 す る 方 々 を 迎 え、 大 学 生 ら と と もに議論、検証をし て い き ま す 。

日 時 :2 0 0 9 年 10 月 1 7 日   午 後 1 時より 4 時まで 1 8 日   午前 1 0 時より正午まで 会 場 : 上越市浦川原地区公民館

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小嶋一浩 主催 :岩 室 塾 実 行 委 員 会 ( 岩 室 の 会 ・ 岩 室 の 会 う ら が わ ら )

山代 悟

渡辺真理

建築家

建築家

建築家

後援 :上 越 市 ( 浦 川 原 文 化 振 興 事 業 )

東京理科大学教授

建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」

法政大学教授


2 概要

建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」

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3 参加者紹介

講師紹介

□ 高橋 䧢一/コメンテーター 建築家 第一工房 代表/大阪芸術大学名誉教授

□ 木下 庸子/発表者 建築家 設計組織ADH 代表/工学院大学教授

□ 千葉 学/発表者 建築家 千葉学建築計画事務所 主宰/東京大学准教授

□ 小嶋 一浩/発表者 建築家 C+A パートナー/東京理科大学教授

□ 山代 悟/発表者 建築家 ビルディングランドスケープ共同主宰

□ 渡辺 真理/司会者 建築家 設計組織 ADH 代表/法政大学教授

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建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」


3 参加者紹介

12 univ.

tohoku geijutu kouka univ.

nigata univ. nagaoka zokei univ. jouetu city

shinshu univ. maebashi kouka univ. tokyo univ. kogakuin univ. hosei univ. nihon joshi univ. waseda univ.

参加者紹介

□東京理科大学(10)  井上 雄貴  今城 瞬

tokyo rika univ.

yokohama kokuritsu univ.

長谷川 千紘  矢作 沙也香  吉田 邦彦

□工学院大学(11)

木村 周平

秋山 照夫

佐々木 俊一郎

□日本女子大学(4)

伊藤 慎太郎

佐々木 玲奈

青柳 有依

宇賀神 亮

高山 祐毅

石井 千絵

小南 聡美

中村 大地

加藤 悠

近藤 巨房

松本 透子

布留川 真紀

佐藤 央一

村山 圭

時田 寛子

吉川 潤

長谷川 公彦  濱田 真理子  別府 拓也

□長岡造形大学(5)

□横浜国立大学(4)  砂越 陽介  佐藤 賢太郎  中山 佳子  山内 祥吾

□早稲田大学(7)  伊坂 春   梶田 知典   小堀 祥仁

□法政大学(9)

杉本 和歳   墓田 京平

伊澤 実希子

矢尻 貴久

氏家 健太郎

吉田 遼太

ケ・エム・イフテカル・タンヴィル

円城寺 香奈

佐藤 舞

郡 謙介

長谷川 孝文

小野 裕美

□信州大学(5)

吉田 知剛

小畠 卓也

小倉 和洋

渡辺 宣一

菊地 悠介

□建築トークイン上越

熊谷 浩太

実行委員会

山内 響子

大日方 由香  香川 翔勲  工藤 洋子  立野 駿

□東北藝術工科大学(2)

福井 健太

黒田 良太  山本 将史

□新潟大学(7)

斉藤 拓海

小林 成光

高田 彩実

斎藤 淳之

藤本 健太郎

佐藤 貴信

横川 美菜子

高坂 直人

高橋 ユミ  中村 俊子

□前橋工科大学(4)  木村 敬義

□東京大学(4)

(敬称略50音順)

外崎 晃洋  中村 達哉  武曽 雅嗣

□参加者  坂下 加代子 /東京理科大学助教  川口 とし子 /長岡造形大学教授

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4 レクチャー内容

k i n o

s i t a

y o     k o

木下 庸子  20 世紀後半にあたる戦後、ひたすら高度成長という定量的な価値観のなか で経済躍進とグローバリゼーション化を果たしてきたわが国も、成熟期に入っ た 21 世紀では、環境や景観、あるいは真の意味でのバリアーフリーと介護な どといった、定性的な価値が見直される時代となった。下記に取り上げるふた つの社会的な出来事 (CASE) とそのコメント、そしてそれに関連する設計組織 ADH のふたつの建築作品を紹介を通して、議論のきっかけにつなげたい。

CASE 1:去る 10 月 3 日のニュースで、広島県福山市の景勝地・鞆 ( とも ) の 浦 * の埋め立て計画が、広島地裁で差し止めを命じられたということが報道さ れた。わが国では 2005 年に景観法(2004 年公布、2005 年全面施行)が制 定されたが、建築基準法や都市計画法などによって景観をコントロールしてき たかつての手法に替わって、景観を正面から評価しようという点で、鞆の浦の 判決は重要な意味を持っていると思われる。 * 鞆の浦は古くは万葉集にも詠まれた自然の景色が美しい地であり、最近では 宮崎駿監督のアニメ映画「崖の上のポニョ」を生み出した土地。

作品1:桜川市多目的複合施設−「サンプリング」と「アセンブリー」でつく る景観建築伝統的建造物が集積し歴史的な街並みの、旧真壁町に位置する施設 の設計にあたり、街並みの景観づくりのツールとなり得る設計手法はないだろ うか。伝統的な建築物のプロポーションをサンプリングし、それを基本として アセンブルしながら、現代の技術に則って施設の設計を行うという設計プロセ ス。設計要求から生じるさまざまな調整を可能にしながらも、町の特徴を生か

theme:

した、この地ならではの建築物が創出できることを目指している。

「現代社会の課題とは、そして建築家ができることとは?」 CASE 2:2005 年に日本の人口は、1899 年に統計を取り始めて以来、初めて 出生率が死亡率を下回り、文字通り少子高齢化時代を迎えることとなった。わ が国が「平均寿命世界1位」を誇るようになったのは、すでに 1977 のことで あるが、その後増え続ける高齢者に対して「バリアーフリー」などという標語 の基に、手すりや段差解消などのハード面での対応が図られてきた。しかし今 後はハード面における対策を超えて、高齢者が建築設計の前提条件となるよう な住まいが考えられる必要があるのではないだろうか。

作品2:白石市営鷹巣第二住宅−「介護予防」としてのシルバーハウジング 高齢者、高齢者夫婦、身障者、子どもを持つ家族向けの住まいが 18 戸ある小 規模な集合住宅。年齢とともに近隣や地域を重視する傾向が強まったり、地域 の人々との日常的なつきあいや世代間の交流を求めるようになる(国民生活白 書 2001 年度より)高齢者のための居住空間に、おしきせでなく、自然発生的 なコミュニケーションを生み出す関係を住まいと住まいの間につくり上げるこ とを考えた。「ソトマ」 「エンドマ」 「コニワ」 などの造語が空間構成のキーとなっ ている。(参考:新建築 2003 年5月号)

ここに示されているいくつかのキーワードをピックアップして調べ、自分な りの意見を整理することで、ラウンドテーブルの議論につなげてもらえばと 思っている。

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4 レクチャー内容

k o   j i m a

k a z u

h i r o

小嶋 一浩 建築が都市を救えるのか?

難しい話である。 どのような脈絡・どのような次元で議論を始めればいいのか? そもそも、ふつうの市民たちは、建築にそんなことを期待しているのか? 「コンクリートから人へ」のスローガンが、まことにもっともに聞こえるほど、 この何十年建築(正確には建設)業界は、ろくなことをしてこなかったのでは ないか? 「ビルバオ・グッゲンハイム」に代表されるアイコニック建築神話もリーマン・ ショックとともに消え去ってしまった後に、さて何ができるのだろう。

金沢は「創造都市」戦略が、うまくいっているという。都市間競争というの は、EU以降のヨーロッパで言われ出したようだ。そんな中から生まれてきた ヨーロッパ発の言葉らしい。

「シビックプライド」という言葉もある。「市民が都市に対してもつ誇りや愛 着をシビックプライドと言うが、日本語の郷土愛とは少々ニュアンスが異なり、 自分はこの都市を構成する一員でここをよりよい場所にするために関わってい るという意識を伴う。つまり、ある種の当事者意識に基づく自負心と言える。」 (「※1シビックプライド」P164 伊東香織)というのが簡単な定義のようだ。

theme:

「建築 の 持 つ

この本の中には、たまたま私たちが設計した小学校がプライドの拠り所となっ

ちから

とは?」

ているという話が出てきて驚いた。(幕張ベイタウン 千葉市立打瀬小学校・美 浜打瀬小学校のケース)  「創造都市」も「シビックプライド」も「建築が都市を救う」などという直 接的な話とはぜんぜん違う。でも、そうした意識を経た先に生み出される建築 は、なにか今までの建築より「ちから」を持つような気もするのである。

最近西沢大良さんから聞いた話であるが、コロンビアにできあがった内藤廣 さん設計の図書館は、2 つのグループの間の戦闘(戦争)を止めたそうである。 そこでは、今も建築には文字通り、あるいはそれ以上の「ちから」があるようだ。 私たちが参加する UCA(Universityof Central Asia)プロジェクトも戦争と まではいかないがかなり特別な文脈の上で進んでいるプロジェクトである。他 でも、特に海外のプロジェクトでは、実にいろんなことを考えさせられる。

今回のミニレクチャーでは、そんなことを具体的に携わっているプロジェク トを通して紹介することで議論のきっかけを提供できればと思います。

こうした観点から見て成功していると思われる建築の事例をお互いにリスト アップすることから始めるのがとっかかりやすいかもしれません。

※1 シビックプライド ̶都市のコミュニケーションコミュニケーションをデザインするー 2008 年 11 月 28 日初版発行 監修 伊藤香織+紫牟田伸子 編者 シビックプライド研究会 企画制作 読売広告社都市生活研究局 発行者 小端進

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4 レクチャー内容

c h i

b a

m a n a b u

千葉 学  日本盲導犬総合センターの建つ敷地は、かつてオウム真理教が総本部を構え ていた場所です。  その土地は、オウムの事件がひとまずの終結を迎えた後も、忌まわしい歴史 を背負った土地として誰からも見向きもされず、長いこと放置されたままでい ました。たまたま縁があったことと、そしてこの場所が盲導犬の訓練の場所と して最適であったという理由(東京から2時間程度の距離であることと、周辺 に比較的人家が少なく、しかも自然環境に恵まれていること)で、日本盲導犬 協会がそこにこのセンターを建てることを決意して計画が実現したのですが、 できあがってみて、2つの象徴的出来事が僕にとってはとても嬉しく、また印 象深いことです。  一つは、この地域に住む中学生が、「これまでは自分がどこに住んでいるの かを言うのが嫌だったが、今では胸を張って盲導犬センターのあるところだと 言える。 」という言葉です。もう一つは、ここで毎年 1500 人規模の自転車の イベントが開催されていることです。もちろん盲導犬の訓練の場所としても十 分に愛され使われ続けているのですが、そこを拠点に富士山を自転車で一周す るというイベントが、たまたま僕の思いつきがきっかけで始まったことです。 この2つに印象的な出来事は、どんな建築でも担わなくてはならない「公共性」 に関わることだと思いますが、それは以下の2つの概念に大きく関わっている のではないかと考えています。

□冗長性

theme:

簡単に言えば、建築の空間がどれだけ長い年月にわたって使われ続けるか、と

「建築に何 が 可 能 か 」

いうことです。 空間のフレキシビリティと言ってもいいと思います。ただそのフレキシビリ ティは、20 世紀に数多く作られたオフィスビルに象徴される均質空間ではな く、むしろもっと不均質で淀みや窪みに充ちた、言わば地形のような空間です。 プログラムを超えて、その都度使われ方が再発見されていくような空間の在り 方が、先のような自転車のイベントすら成立させてしまうのだと思います。こ の使われ方と空間との会話のようなものが、公共性を育むことになると思って います。

□象徴性 建築にとっては古くからあるテーマですが、ここで言う象徴性は、建築の形が 何か直接的に意味を発してしまうような意味での象徴性ではなく、むしろ建築 があることによって炙りだされる土地や自然現象を言っています。このことは、 農耕の風景が一つのヒントになると思っています。 つまり農業は、その土地の自然を前提にそこで最大限の収穫を得るという人間 の欲望のための技術ですが、それが結果的にはどの国に行っても、どの地域に いっても、その場所らしい風景をつくり出しています。その土地らしいとか自 然に近いとか、そういうことは本来このような農業的なスタンスによって生ま れるのではないかと思っています。そしてそれは、建築にも可能なこと なの だと考えています。

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4 レクチャー内容

y a m a s i r o

s a t o r u

山代 悟   私 こ と、 山 代 悟 は 大 学 院 生 時 代 に 友 人 た ち と 結 成 し た ア ー ト ユ ニ ッ ト Responsive Environment を通じて 16 年間に渡ってインスタレーションやパ フォーマンスを企画・制作してきました。東京、伊豆などの国内をはじめ、オー ストリア、スロベニア、中国、オーストラリアなどの国外での活動も意欲的に 行ってきました。  これは主として照明や映像、音響、身体などを時間の上でコントロールし ながら、仮設の環境を作り出す方法論を考え、実践してきたものです。同時 に、いくつかのワークショップやまちづくりの経験を通じて、Responsive Environment で実践してきたインスタレーションなどのイベントのデザイン が、まちづくりを進めていく上での一つの方法論として有用なのではないかと 考えるようになりました。ある場所の可能性を読み取り、議論し、将来像をイ メージしながら仮設的にイベントをデザインしてみる。そのイベントを皆で体 験し、すぐれた体験を共有する中で議論をより深めていこうというものです。 今回のミニレクチャーではそういった考えに連動する、いくつかのイベントを 紹介したいと思います。

□ Responsive Environment:: インスタレーション http://responsiveenvironment.com □ buildinglandscape:: 建築設計、アーバンデザイン http://buildinglandscape.com □ urban dynamics laboratory:: アーバンデザインの研究実践

theme:

http://www.urban-dynamics.com

「Responsive Environment, urban dynamics」 ■ Urban Island プロジェクト(2006 年、オーストアリア・シドニー) 2006 年 8 月にシドニー大学の短期集中の国際スタジオの一環として実施した ワークショップ。建築家の日高仁さんと二人で 10 名ほどの学生の参加するス タジオを担当しました。廃墟となったシドニー湾に浮かぶコッカトー島に残る 魅力的な産業遺産を背景に、この場所を味わうためのイベントをデザインして もらいました。ワークショップの後半には参加者全員で一つのイベントを実際 に作り出しました。 http://www.youtube.com/watch?v=7j20IkIKiqg

■ City Switch 出雲 2008(2008 年、島根県出雲市) 2008 年 8 月に島根県出雲市で実施したまちづくりのワークショップ。出雲市 内の 3 つの異なる背景を持つ地域を再生させるためのイベントのデザインを テーマとした。国内外の異なる大学、大学院、高専から学生が出雲に集まった。 準備期間 4 日間ほどで小さなイベントを実施したグループも。 http://www.urban-dynamics.com/city_switch_2008_izumo/ http://www.youtube.com/watch?v=xdc-ofU-NeU

■ Candle Night at Kandagawa(2008 年、東京都中央区) 2008 年の東京理科大学工学部建築学科の設計製図の授業の一環として実施し たイベント。東日本橋の都市再生を考える課題の中で、ハードの整備の提案と、 それを事前に実験・体験できるイベントの両方を提案することを求めた。最終 的に履修者全員で一つのイベントを企画、実施した。 ペットボトルを再生した特製のキャンドルスタンドを 700 個製作し、柳橋か ら浅草橋へかけての神田川の岸辺を演出した。イベントの中では学生による都 市再生の提案パネルや模型、 ビデオなども展示し、来場者の人々に提案をアピー ルした。 http://d.hatena.ne.jp/syamashiro0531/20090205/1233801026 http://www.youtube.com/watch?v=CbtkENaqAVs

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5 トーク風景

T A L K

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O U T …


5 トーク風景

T A L K

I N

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!

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6 会場設営

建 築 ト ー ク イ ン 一日目

lecture first talk

木下庸子、千葉学、小嶋一浩、山代悟らによるショートレクチャー

Par t1>議論 4つのグループそれぞれにに講師が一人ずつ配置され議論が行われる Par t2 >まとめ 各講師による議論のまとめ

懇親会 新潟の地酒や新米のおにぎり 各大学の紹介、活動の発表

懇親会Ⅱ @月影の郷

月影の郷の展示見 学 フリートーク

M id n ig h t ト ーク イ ン

学生だけの建築フリートーク

䧢 山 荘 見学 会 岩室の郷「䧢 山 荘」の見 学

建 築 ト ー ク イ ン 二日目

second talk

Par t1>fir st tal kとは異なる講師と共にラウンドごとでの議論 Par t2 >まとめ 各ラウンドの学生コーディネーターによる議論の発表

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6 会場設営

会場平面図

stage

A group

16150

B group

C group D group

infomation

W.C.

student teacher audiance

14200

S=1:150

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7 レクチャー

lecture 1

桜川市の多目的複合施設俯瞰

「現代社会の課題とは、そして建築家ができるこ ととは?」 木下 庸子  確か8月頃でしょうか。高橋先生のお宅に今回のメンバーとお邪魔しまして、 先生のお話しを伺いました。 「20世紀後半の我が国は高度成長の時期であり、 ひたすら数字を追いかけて経済躍進、グローバリゼーションを遂げた。どうい う結果が出るかなど、当時は分かり得なかった。今振り返ってみると、定量的 な数字に気を取られているうちに、定性的なものに目を向けることを怠ってし まったのではないだろうか。 」先生は確か

文明

文化

という2つの言

葉で語られたと思います。 文明 とは、 例えば高度成長やグローバリゼーショ ン。一方 文化 はその土地が持っている固有のもの、あるいは伝統など。そ して今こそ、手遅れにならないうちに文化について真剣に考えなければならな いとおっしゃった。先生が長い間関わられてきたこの上越の地において、文化 というものを語るセッションを持とうではないかという主旨のお話しだったと 記憶します。後は他のメンバーに補足していただくとして、あの8月の時点で は「地方都市を救う建築」という、今回のトークインのおよその方向づけがな されました。  私は社会における2つの出来事を通して問題提起をしたいと思います。1つ 目は2005年に全面施行された景観法に関するケース、そして2つ目が少子 高齢化社会に関するケースです。この2つに対して私が建築家としてできるこ とはないのだろうかという思いを、私の事務所の作品を紹介するなかでお伝え し、後ほどのディスカッションにつなげていければと思っています。

104 棟の登録有形文化財のある桜川市

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建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」


7 レクチャー

̶ サンプリング と アセンブリーでつくる新しい景観建築̶

かれており、一日の生活のなかで何度となく立つキッチンからソトマを経由し て他の住人への気遣いが果たせるように考えられています。

まず、ケース1は去る10月3日に広島県の福山市鞆の浦の埋め立て計画が

文責:伊坂春

広島地裁で差し止めを命じられたという出来事です。景観については、UR 都 市機構おける2年間都市デザインチームでの仕事を通してずいぶん考えさせら れました。景観法が施行されたことで意味を持つことは、それまでは建築基準 法や都市計画法のみでコントロールされてきた都市景観に対する反省をもっ て、真剣に景観について議論しようという動きにあると思われます。鞆の浦の ケースも、社会が景観に正面から取り組もうという意識の現われといえるわけ です。  そこで、私の事務所で現在関わっている桜川市の多目的複合施設のプロジェ クトを紹介します。コンペが実施されたのが2007年ですので私の2005 年からの UR 都市機構の仕事を通して、景観を担保する設計のガイドラインに ついていろいろと模索していた時期です。タイトルにあるように、ここでは サ ンプリング と アセンブリー でつくる新しい景観建築というテーマでこの コンペに臨みました。桜川市というのは3つの街が合併して出来た市で、3町 のひとが真壁町でした。真壁町には伝統的建造物が多く残っており、ここに示 されているように登録有形文化財が104棟存在していました。コンペの際に この場所に作る建築はどのようにつくられるべきかを議論するなかで景観づ くりのツールとなりうるような設計手法として考えたのが サンプリング と アセンブリー でつくるという手法でした。  サンプリング、つまり既存の建築のプロポーションをサンプリングする、そ してそれをアッセンブルしてつくることで既存の街並みと調和する景観建築づ くりが果たせないだろうか、ということでした。ただ、昔の技術でつくるので はなくて、現代の21世紀の技術を用いる。この建物は木造ではなく鉄板構造 の建築です。プロジェクトは現在実施設計が終わった段階です。2700平米 という建築規模も、この手法を用いて設計することで住宅地のなかに建つ建築 物としてふさわしいプロポーションとスケールを持つ建物となる。そのように 考えたのがこの桜川市のプロジェクトです。

̶介護予防としてのシルバーハウジングー̶  ケース2は2005年に日本の人口が、1899年に統計を取り始めて以来、 初めて出生率が死亡率を下回ったという事実です。つまり、文字どおり少子高 齢化の時代を迎えたことになります。そこで私たちが2003年に設計した白

白石市のシルバーハウジング外観

石市営鷹巣第二住宅というシルバーハウジングを紹介します。シルバーハウジ ングとは高齢入居者の生活を支援する Life Support Advisor(略称LSA)と 呼ばれる生活援助員の配属される高齢者住宅のことをいいます。ここは身障者、 高齢者単身者、高齢者夫婦、一般家族向けの住まいが合計18戸ある小規模な 集合住宅です。 まず、高齢者が建築設計の前提条件になるような集合住宅を設計できないかと 考えました。コンペ段階でいろいろヒアリングをする中で分かったことは、高 齢者施設における問題のひとつに認知症の発生率が高いということがありまし た。これに対して建築家が設計する空間を通して何か提案できないかと思いま した。高齢者福祉のエキスパートの方からのヒアリングを通して私たちは、下 町のような隣近所がお互いに声をかけあうような環境では認知症の発生率を低 くおさえられるという経験則について知りました。そこで「ソトマ」と「エン ドマ」と「コニワ」という3つのプライバシーの度合いの違う外部空間を用意 しました。敷地内は3つのブロックに別れており、さまざまなカテゴリーの居 住者の住戸が適当に混ざりながらちりばめられています。各ブロックは6ない しは7戸の住戸のグルーピングとなっています。ソトマは各グルーピングの中 心にある共用空間で、ここに玄関が面しています。エンドマは玄関前の外部空 間、そしてコニワが誰の視線も気にせずに使える自分専用の外部空間となって おり、この3つが住棟構成の基本となっています。 住戸計画についてはソトマ、エンドマに向けて開放性の高い公室を配置し、コ ニワ側には寝室などの私的要素の強い室を設ける「ツールーム」型の住戸形式 です。また住戸内のキッチンは必ずソトマに向けて視線が通るような位置に置

白石市のシルバーハウジング:ソトマとエンマとウチマ

建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」

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7 レクチャー

lecture 2

千葉市立打瀬小学校

「建築の持つ

ちから

とは?」 小嶋 一浩

地方都市を救う建築 ̶建築が都市を救えるというのは、本当でしょうか? 新政権になって、 コンクリートから人へ というキャッチフレーズが出てい ます。今は都市をもっと良くしていこうという場合にも、建物というハードじゃ ないところから始めようという話が多い。でも僕は建築家ですから、そうした 流れも多少は見聞きして知っていたとしても、自分の実践としてはなかなか話 に食いこみづらい。むしろ、若い皆さんの方がコンクリートや鉄を使って出来 る建物じゃないところからのアイディアをいっぱい考えているのではないかと 思っています。だから今日は反対に皆さんからいろいろと話を聞けたらと思い ます。 ̶シビック・プライド̶  ところで建築が持つ ちから とは、 どんなものでしょう。この場合の 建築

千葉市立美浜打瀬小学校

とは敷地に建てる狭い意味での 建築 にとどまらないと思います。具体的な トピックスとして幕張ベイタウンと呼ばれている街を紹介します。そこが『シ ビックプライド』 (※1)という本の中で取り上げられていることを最近知り ました。ちょうど10年の時を隔てて、偶然私たちはこの地区の2つの学校を

※1 シビックプライド

設計しました。幕張ベイタウンの敷地は84ha あって、2万6千人の計画人

̶都市のコミュニケーションコミュニケーションをデザインする̶ 2008 年 11 月 28 日初版発行

口を持っています。最初に作ったのは打瀬小学校です。打瀬小が出来た 1996 年にはここに6つ、中庭型のパティオスという住棟があって、これとこの打瀬 小だけが埋め立て地の砂漠のような中に建っていました。その後人がたくさん

監修 伊藤香織+紫牟田伸子 編者 シビックプライド研究会 企画制作 読売広告社都市生活研究局

集まってくるようになって、当時はできないだろうと言われていた3校目の小 学校も作ることになり、これも私たちが設計しました。

20

建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」

発行者 小端進


7 レクチャー

シビック・プライド という言葉があります。ヨーロッパの街に行くと都

市間競争というものがあって、どうやってそれぞれの都市のアイデンティティ を作っていくかということを色々と論じています。私たち建築をやっている人 間からすると、この本には取り上げられていない事柄、例えばビルバオという スペインの都市にグッゲンハイム美術館をフランク・O・ゲーリーがつくった ら、とても人が来るようになったということの方が都市間競争としてはリアル に感じるのですが、この本で扱われているのはアイコニックな建築をつくるよ り、もう少し違ったコミュニケーションデザインのようなことも含めた話をし ています。  同じ本からの抜粋ですが、まず、都市に対してどんな評価指標があるのかと 中央アジア大学ナリンキャンパス計画 1

いうと、 「愛着」 「誇り」「共感」「自分が住みたい」「人に勧めたい」等が挙げ られています。本の一節では、具体的に函館、高松、新潟という大きな街と人 工的な街である、先ほどの幕張ベイタウン(千葉市ではなくこのエリアだけを 取り上げている)とを比較しています。ニュータウンというのは普通住んでい る人にとって愛着のない、たまたまそこが安かったという理由で人が集まって くるものだと思っていたのですが、この本の指標を見ると、ずいぶんそこが、 「愛着」 「誇り」 「共感」等の項目の結果が高くなっています。また、 「公共建築」 や「学校教育のあり方」のポイントが結構高いというのはレアなケースのよう です。僕らが設計したからだということではなく、結果としてそうしたことが 今起こっています。  打瀬小の開校後、ここでのソフトウェアとしての教育のあり方が建築と併せ てテレビ等で取り上げられて、ずいぶんと話題になりました。そうこうするう ちに、自分達の子供をここに通わせたいという人達が増えて来ました。学校の 中にも道があって通り抜けることができる。 (これを普通に言うと 開かれた 学校 になるらしいです。でも開かれたっていうのはオールマイティな言葉な ので自分たちではあまり使いませんが。)

中央アジア大学ナリンキャンパス計画 2

3つめの小学校を設計した時には既に多くの住民の方がいましたから、相当 な量の対話をしています。 「池田小」のような学校を取り巻く様々な事件があっ た後でしたが、 「住民たちが子供たちを見ているからフェンスなんか作らない で欲しい」という議論のもと打瀬小と同じ、フェンスや校門のない建築形式で 成立しています。アメリカ等の建築家をここへ案内すると、建物のデザインの 話よりも、何故東京という大都市のすぐ近くで、こんな学校のあり方が成り立 つんだと、社会現象として不思議がっています。 先に紹介したシビック・プライドとつながる話として幕張ベイタウンを紹介し ましたが、建築にも何か都市を救える力があるとしたら。と思って今日はこれ から皆さんと話しをしていきたいと思います。 ̶社会のカルティベーション̶  時間が短いのでもうひとつだけ、もう 5 年関わっている、中央アジアの3 中央アジア大学ナリンキャンパス計画 3

カ国で3つの大学を作る構想を紹介します。アフガン国境に近い所やパキスタ ンの淵に近い、つまり世界ニュースにしょっちゅう出てくるようなところに、 基本的に寄付をもとにして、英語による教育の国際水準の学校を作ろうという プロジェクトです。  これはつまり社会のカルティベーションです。このような地域では、そう いうカルティベーションをやっていかないと若者は麻薬と原理主義に入って いってしまうようなエリアです。こういうところにどうやって種を蒔いていく か。この場合、建設工事自体がこの地域の再興の種になります。何の技術も持 たない人たちが失業者としてたくさんいますが、その人たちが建設作業に参加 できるように、設計の仕方から考えなければなりません。現在はようやく造成 工事が始まって、眺望等の確認をしたり、セレモニーがあったり、インフラを 入れたりという段階です。    でも「地方を救う建築」というテーマで話がシルクロードまで行ってしまう と話が拡散するので(笑)今日は日本の話をできればと思います。  文責=杉本和歳

中央アジア大学ナリンキャンパス計画 4

建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」

21


7 レクチャー

lecture 3

日本盲導犬総合センターで開催される富士山一周の自転車のイベント

「建築に 何が可能か」 千葉学 ―象徴性と冗長性―  建築の設計をやりながらいつも考えるのは、建築がいかにして地域をサポー トすることができるのか、そしてその建築がいかにして公共性を担うことがで きるのか、ということです。少し建築的な言葉に翻訳すると、それは「象徴性 と冗長性」ということになるのではないか、というのが今日のお話です。象徴 性というと、建築の形態的シンボリズムをイメージしてしまいますが、私がこ こで言う象徴性は、むしろ場所の象徴性とも言うべきものです。建築が建つこ とによって、その場所が素晴らしい場所であったことが発見される、そんな意 味での象徴性です。もう一つの冗長性は、空間が様々な使い方を喚起しながら 長い時間にわたって使い続けられていくような建築の在り方のことを言ってい ます。建築はある特定の目的のために作られますが、それが様々なかたちで使 われ続ける、そのような両面を持つ建築こそが公共性を担いうるのではないか と思うのです。

―日本盲導犬総合センター―  この2つのことを、日本盲導犬総合センターの仕事を通じてお話したいと思 います。  この建築は、盲導犬を訓練するための施設で、富士山の裾野に建っています。 目の不自由な方、そして盲導犬にとっての良好な環境を作ることが第一の目的 ですが、同時にたくさんの人に訪れてもらい、盲導犬を通じた福祉活動をなる べく多くの人に知ってもらうということも、この施設の大きな役割でした。そ

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建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」

盲導犬センターとは異なる用途で使われる様子


7 レクチャー

の意味では、守られた環境と開かれた環境という、一見すると相矛盾した状況

ではないかと思います。

を同時に成立させることが大きなテーマになっています。

ここで注目したいことの一つは、このイベントのために何か新しく作ったも

日本のみならず、世界でも前例のない施設なので、プログラムを理解するこ

のは何もなく、すでにこの地域にあったものを様々なかたちで紡いでいったこ

とも、また設計の手がかりもなかなか見えない状況だったのですが、最終的に

とにあります。様々なモノや場所や人との関係性をデザインすることがそもそ

は実にシンプルな建築の形式に収斂しています。それは、いくつかの点在する

も設計だと思いますが、その意味では、このイベントも、広い意味での場所の

小屋と、それらを緩やかに繋ぎとめる蛇行した回廊でできた有機体のような形

魅力を顕在化させる設計であったということです。もう一つは、この盲導犬セ

式です。何故このような形式になったのか、その最大の理由は、この土地の特

ンターに 1500 人ものサイクリストが集まって全く別の目的に使われても、建

質にあります。ここはかつてオウム心理教の総本部があったという忌まわしい

築は十分に機能したといいうことです。思い返せば、そもそもこの設計におい

歴史を背負った場所ですが、さらに遡れば、牧畜によって開拓されたのどかな

て、小屋相互の関係性や距離のデザインが中心的テーマになっていたわけです

場所だったわけです。まわりには、牛舎や鶏舎などの小屋が点在していて、そ

が、その人の集まり方にも通じる設計が、結果的に建築を様々なかたちで使え

れがこの地域独特の風景をかたちづくっています。そこで私たちは、この牛舎

るタフなものにしたのではないかと思うのです。

や鶏舎のような素朴な小屋が、ほんの少しだけ密度高く集まることで、全く新

どんな建築であっても、その根本には、人が集まるために作るという側面が

しい空間ができないかと考えたわけです。ごくありふれた、日常的な要素を使

あると思います。そのような観点で設計することで、建築は長い年月にわたっ

いながら、それが新しい秩序を持つことだけで全く別のものに生まれ変わる、

ていかようにでも使っていくことができる、その冗長な空間の在り方が、最終

そのことに興味があったわけです。このようなスタンスは、私が日頃とても興

的にその地域における拠点として、また公共性を育んでいく器としての役割を

味を持って見ているランドアートの作品にも通じるところがあります。特に

果たすことになるのではないか、そう思うのです。

ウォルター・デ・マリアの「稲妻の平原」は、ありふれたステンレスの棒をグ

文責=伊坂春

リッド状に並べただけの作品ですが、これは結局避雷針としての機能を果たし ているのです。つまり、この地域は雷雲がよく発生するのですが、そこに更に 雷が落ちやすい環境を生み出し、そのステンレスの柱に雷が落ちている風景を 作品にしているのです。アーティスト自身が作ったものはありふれたものであ りながら、それがこの場所の特質を炙り出す、その関係性のデザインに惹かれ るのです。  どこにでもありそうな小屋の集まり方をデザインするだけで、この富士山の 裾野という素晴らしい場所の魅力を顕在化させる。そしてその場所が、盲導犬 のための場所でありながら、同時に誰もが自由に訪れることのできる場所にも なる、それはまさに都市そのものの在り方なわけですが、それが形態的なシン ボリズムとは違うかたちで場所に象徴性を与えることになるのではないかと考 えたのです。   「以前はどこに住んでいるのかを友達に教えるのが嫌だったが、今は胸を張っ て盲導犬センターのところと言える。それが嬉しい。 」これは、この地域に住 む中学生から聞いた言葉ですが、建築によって、場所の意味がこれほど大きく 変わるということを実感した瞬間でもありました。

̶地域の拠点としての建築̶  この盲導犬総合センターは、もちろん盲導犬の訓練という極めて特殊な用途 のために作られた建築ですが、それが今では、全く異なる用途にも使われてい ます。そのことは、先の冗長性に通じることです。  この建築が完成した際に、たくさんの人に出会いました。そのうちの一人、 富士宮の市長からは、是非将来の富士宮の街の活性化に協力して欲しいという 言葉をいただきました。もう一人は、自転車振興会の会長です。この施設は基 本的に多くの方々からの寄附によってできている建物なのですが、自転車振興 会もその一団体です。その時私はとっさに「ここで自転車のイベントをやりま しょう。」という話をしました。もちろん個人的に自転車が大好きだというこ ともありますが、様々なことが一気に繋がっていくのではないかと直感的に 思ったからです。それが直接的な契機かどうかは定かではありませんが、あっ という間にこの盲導犬総合センターをスタートとゴールにした富士山一周の自 転車のイベントが実現することになったのです。富士山を一周するとちょうど 100 キロ、その沿道には清水国明さんの学校があったり、工藤夕貴さんの家が あったりしますが、 そういった様々な拠点がエイド・ステーションとして関わっ たり、また富士山周辺の自治体がお互いに協力したりと、このイベントが結果 的には様々なものをつないでいくことになったわけです。そこでは環境フォー ラムのようなものも開き、参加者の皆さんとこの地域のことや盲導犬につい て考える場を設けたりもしています。今年で 3 年目になりますが、参加者は 1500 人にもなりました。街づくりの基本は、人がそこに集まることだと思い ますが、その意味では、このイベントも富士宮の街に少しは貢献できているの

富士山を一周するイベントのスターティングポイント

建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」

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7 レクチャー

lecture 4

Urban Islands プロジェクト/島俯瞰図 Urban Islands プロジェクト

「 都 市 を 遊 ぶ Responsive Environment, Urban Dynamics」 山代悟

コビッチの 3 人の建築家によって組織され、シドニー大学などが参加して行 われました。この島は、もとは監獄の島であり、写真で島の様子を示してい る 1944 年当時はこの島では軍艦を建造していました。島のまわりのシドニー 湾ではサメが泳いだりしていたそうです。20 世紀中頃までは造船の島として 知られていた訳ですが、次第にそれが寂れて、90 年代には廃墟になり何も使

今回は「都市を遊ぶ Responsive Environment, Urban Dynamics」とい

われていない状況になりました。この場所をどのように再生し、使っていく

うタイトルでお話をしたいと思います。私は普段建築家として建物の設計を仕

かがこのワークショップのメインテーマとなります。

事にしているのですが、同時に学生時代からインスタレーションアートやパ

このワークショップでは三つのスタジオが開かれました。私は RE を一緒に

フォーマンスの環境をデザインしているグループの活動を、ずっと続けてきま

やってきた建築家の日高仁さんと一緒に一つのスタジオを担当することにな

した。一回目のイベントで、今日も講師をされている小嶋一浩さんにお話して

りました。他の二つのスタジオは建築的なアプローチをとることが分かって

いただいたのを懐かしく思い出します。それから 16 年ほどが経ちました。最

いたので、イベント的なもののデザインをテーマとしました。最初の 1 週間

近はこの Responsive Environment というグループで行ってきた活動を、市

は個人作業で色々なアイデアを出しあい、2 週間目にはスタジオの参加者全

民参加型のアーバンデザインをすすめていく時の手法として展開する可能性に

員で実際に何か 1 つイベントをやってみましょうということではじめました。

ついて意識的にとりくんでいます。時間もありませんので、建築家としての建

実際にイベントをやってみる場所として選んだのは、長さ 100m、幅が 20m、

物の設計の話は割愛して、おもにこのイベント=仮設環境のデザインと、アー

高さが 25m くらいある、昔はタービンをつくっていた大きな空間です。その

バンデザインの連携の可能性について主にお話ししたいと思います。

空間で何をできるだろうかと考えたはじめたところ、実は制作に使えるお金 が 200 ドルくらいしかない事が分かりました。最初は呆然としましたが、そ

ーシドニーでのワークショップ Urban Islands プロジェクト ー

れでもなお、美術館等でも出来ないような、荒削りでもインパクトのあるも のが出来ないかと学生と議論をしました。

最初に、私が講師として参加したイベントを紹介します。「Urban Islands

実際につくったものはとても単純です。この建物は普段から雨漏りもして

プロジェクト」というもので、2006 年にオーストラリアのシドニーで参加し

いるような場所であり、幸運なことに消火活動用の水栓が生きていました。

ました。シドニーは深い入江のあるランドスケープの美しい都市です。このイ

普段から雨漏りしているくらいなので、水は撒いてもタダでかまわないとい

ベントでこの地に初めて行きましたが、大好きになって、この 3 年で 7 回く

うことになりました。どんどんと床に水を撒いていくと、100mX20m という

らい訪問しました。この美しい湾の中にあるコッカトー島という島がワーク

巨大な水盤が出来ます。その水盤上に、何百個かのロウソクを買ってきて配

ショップの対象敷地で、この島の再生を考えるのがワークショップのテーマで

置していきました。薄暗い空間の中で、水面は鏡面をつくりだすので、高さ

した。このワークショップはトム・リバート、オリビエ・ハイド、ジョアン・ジャ

25m の空間は、さらに高さを増し、高さ 50m の空間の宙に浮いているよう な状態になります。普段身を置くことのない特異な空間ができあがり、大き

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建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」


7 レクチャー

な入り口から見える外の夕焼けの景色も取り込みながら、非常に美しい状況

ルイベントに来てくれた人々や地区の人々にアピールすることができました。

が出現しました。さらには、ビデオプロジェクターで光の動きのパターンを

都市再生像の構想、その効果を体験できる仮設環境としてのイベントのデザ

投影したり、音の演出も加えることで、より効果的な環境を作り上げること

インと実施、人々へのアピールというプロセスを体験することができました。

ができたいと思います。

この時は準備期間が短く、イベントは河の中央区側でしか行うことができま

このワークショップの最終講評イベントには、ワークショップの参加者だ

せんでした。しかし、実際にこのイベントをみた台東区側の人々の中で、次

けでなく、島の将来に興味を持っている市民や都市計画家、建築家等たくさ

回は台東区側でも実施してほしいという声があったと聞いています。これは

んの方々に参加してもらいました。我々のスタジオの発表は、もちろん模型

とてもうれしい反響でした。来年以降実現できればと楽しみにしています。

やパネルの展示ではなく、実際に作り上げたその空間を体験してもらうこと でした。その際、色々な感想や意見をもらいましたが、とても面白かったのは、

ー都市を遊ぶー

このつくった環境自体を生かして、そのままこの場所をレストランにしたら 楽しいのではないか、アート作品を置く場所にしたらどうか、美術館として

最後に、私が最近考えている事は「都市を遊ぶ」という言葉についてお話

この建物を再生するのはどうか、この空間をホテルのエントランスにしたら、

ししたいと思います。我々も文章を寄せた大野秀敏先生(東京大学大学院教授)

などなど、 皆が勝手に話し始めたのです。ある場所に身を置いて場所を経験し、

の「シュリンキング・ニッポン」という本の中で、大野先生が書かれている言

感じ取り、めいめいが勝手に想像を膨らませながら夢を語り合う。そういっ

葉です。これは、高度成長期には建設する対象であった都市を、現在は利用

た場面に立ち会えたのは非常に印象的でした。こういった、共有体験可能な

する対象としての都市、としてとらえるということではないでしょうか。今

場所をつくりだし、それによって人々の対話の基礎となる経験をつくりだす、

までは私たちは準備された娯楽を消費するという受け身の楽しみに慣らされ

これは我々が 16 年間イベントをデザインしてきた可能性の 1 つだと改めて感

てきたといえますが、これからは都市を使ってこちらが遊んでやる。そういっ

じました。

たまちを舞台に主体的に遊ぶことのできる人々が増えてくれば、活気のある

少し言い換えると、「可能性のプレゼンテーション」といういい方をするこ

社会になるのではないでしょうか。RE で取りくんできたようなイベントの実

ともあるのですが、ある場所の可能性を読み取って議論し、将来像をイメー

践も、このような「都市を遊ぶ」一環としてとらえることができるのではな

ジしながら「仮設環境」をデザインしてみる。将来像を議論して図面やパー

いかと考えています。 文責=伊坂春

スに描いて終わるのではなく、実際に体験を共有することで、失敗の経験も 含めて、どのように良くしたらいいかという議論につなげていく。そういっ たことができるのではないかと思います。こういったアプローチは、社会実 験といって交通行政などやまちづくりの活動の中で、政府も推進しようとし ています。そういった流れとも連動する者であると言えると思います。

ー Candle Night @ Kandagawa ー

次に紹介する東京の神田川で行ったイベントは、このような仮設環境のも つ可能性により意識的に取り組んだものです。東京理科大学工学部の 3 年生 の設計製図の授業の一環として、私と同じく日高仁さんが講師として担当し たものです。元々はこのあたりは豊かな水辺空間をもち、商業的なポテンシャ ルも高い地区ですが、現在は様々な問題を抱えています。この地域のなかか ら三つの地区を取り上げ、その再生を考えるという課題です。第一段階では、 それぞれの学生がひとつの地区を選んで建築の増改築を含む地域の再生像を 設計し、同時にその場所の魅力を市民や行政に対してアピールするための仮設 環境もセットでデザインするという課題です。第二段階では三つの地区毎に 8 人ひとつのグループをつくり、その提案をブラシュアップしました。スライド で紹介している提案の場合は、元々建て詰まっているビルを部分的に減築し、 周密な街区の中に路地を挿入して、この場所に路地の楽しさを作るにはどう したら良いかを考えたものです。仮設環境としては、路上に布でできたタワー 状のボリュームをいくつもつくりだし、そのボリュームのすき間に、路地で つくられるであろう空間を出現させようというものでした。  第三段階では、実際にイベントを実施することにしました。時間的にも制 約がありましたので、三つの地区全てではなく、約 24 人で 1 つのイベントを 作り上げることに決めました。場所は神田川の柳橋と浅草橋に挟まれたかい わい。柳の並木と屋形船の船宿が特徴的な地域です。これも、もともとの予 算は 0 円です。模型材料などで普段の設計課題でもかかるであろう 1 人数千 円のお金を出し合い、全体で 10 万円ほどの予算を工面して実施に踏み切りま した。この予算のなかでイベントのチラシなども作成するので、インスタレー ション自体にはかけられるお金は 2、3 万円です。将来像をまとめて提示する グループ、インスタレーション自身をデザインし製作するグループ、それを 広報し地元の協力をとりつけるグループの三つのチームが編成され、準備を 進めました。最終的には、ペットボトルを再利用した特製キャンドルスタン ドを 700 個ほど用意し、点灯するイベントになりました。会場には学生によ るこの神田川の水辺の改修提案のパネルや模型、ビデオを展示し、キャンド

Candle Night @ Kandagawa

建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」

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8 一日目ラウンドテーブル

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建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」


8 一日目ラウンドテーブル

建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」

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8 一日目ラウンドテーブル

A

group   山 山代悟

「建築を遊ぶ/建築家に求められる活動範囲」 可能性と難しさの境界線

山代悟氏(以下山代):自己紹介を受けて、何らかの形で特定のある対象地域 を持って活動している人が多い印象を受けました。おそらく地域について何か

T

講師/山代悟

C

早稲田大学/修士2年/墓田京平

やっていかなければならないという認識、展覧会みたいな様々なイベントなど を既にされていると思います。重要性に関してはみなさんの中に共通理解とし

C

横浜国立大学/修士1年/中山佳子

てあると思いますので、 その先の議論に進みたいと思います。僕は 「遊びましょ う」という話をしましたが、実際に遊んでいるだけではお金はもらえません

工学院大学/修士1年/宇賀神亮

工学院大学/学部4年/近藤巨房

信州大学/修士2年/小倉和洋

信州大学/修士2年/大日方由香

東京大学/修士2年/高田彩実

東京理科大学/修士1年/松本透子

立ちそうかどうかも含めて聞かせて下さい。

東京理科大学/修士1年/井上雄貴

長岡造形大学/修士1年 /ケ・エム・イフテカル・タンヴィル

山本:数年前に廃業した元旅館という空き物件がありまして、そこの中をリノ

東北藝術工科大学/学部4年 /山本将史

新潟大学/修士1年/斎藤淳之

新潟大学/修士1年/高坂直人

日本女子大学/修士1年/石井千絵

した。

法政大学/修士1年/菊地悠介

法政大学/修士1年/郡謙介

山代:例えばそういったことは自分、あるいは後輩が今後生業として継続され

前橋工科大学/修士1年/木村敬義

早稲田大学/学部4年/吉田遼太

(笑) 。 みなさんは学生なので、 まさにこれから就職してゆくという時期です。 「遊 ぶ」といいましたが、今街に入って行っているようなプロジェクトを近い将来 職業や仕事の中でやっていくことを考えたときに、それが持つ可能性と感じて いる難しさについて議論してゆきたいと思います。せっかくなので月影の話は あとで必ず聞きますが、東北芸術工科大学の山本君、山形県の R 不動産の事 例はどんなことをやっていて、仮に自分が職業として近い将来職業として成り

ベーションし、芸術工科大学出身の芸術家をそこに住まわせるというプログラ ムを考えた物件があります。僕の大学は芸術学校なので、卒業後も作品を制作 する人もすごく多くて、住みながら地域住民に自分の作品を公開し始めていま す。最近はワークショップやイベントという形での地域交流が最近増えてきま

てゆくイメージはできますか。

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建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」


8 一日目ラウンドテーブル

山本:できます。リノベーションを施したことが山形県内での認知が次第に広 がってきていて、同じケースを抱える人からの要望が増えてきています。うち も空いているからなんとかしてくれ、っていうお声がかかるようになってきま した。それを一つずつこなしてゆけば、その活動は点的な広がりが面的な広が りに移行してゆく可能性があるのではないかと考えています。

山代:山形でやっていく可能性、あるいは難しさはありますか?

山本:やりにくさといえば、情報が広まるのが遅いのかな。今なぜ山形の中心 市街地の空洞化が発生しているのかを考えると、若い世代が仙台や東京へと抜 けていってしまうんです。そうすると中心市街地としての機能を果たせなく なってきていて、もう一度その年代層を引き寄せるために、市街地に魅力を取 り戻したいと考えています。

山代:新潟大学のお二人のどちらかでいいんだけど、今回のイベントはちょっ

山形 R 不動産/東北芸術工科大学

と不思議で、東京からの大挙して人がやってきて地方都市の再生について語

山形 R 不動産リミテッドとは東京 R 不動産の制作ディレクターである馬場正尊が、東北

るっている不思議な構図があるじゃない?(笑)地元組としてどのような感想

芸術工科大学で特任准教授として指導をすることになり、 「山形 R 不動産リミテッド」を実

を持っていますか?

験的、時限的に行う運びとなりました。 「山形 R 不動産リミテッド」は、東北芸術工科大学 建築・環境デザイン学科が、東京 R 不動産の力を得て運営しているサイトです。運営してい

斉藤:新潟県は南北に長い土地を持っていて、その中で注目されることはたく

るのは主に東北芸術工科大学の学生たちで、実践的な教育の一環としての意味合いがありま

さんあります。例えば、中越地震や限界集落といったある社会現象、そこから

す。「山形 R 不動産リミテッド」は、 「不動産」という名称がついていますが、実際は不動産

派生した大地の芸術祭というイベント、雪と建築という地域性などが挙げられ

仲介は行わず、中心市街地の建物に対する使い方やデザイン、及びライフスタイルを提案す

ます。しかし、そういったものは自分たちでは気がつくことがなかなかできな

ることを主な目的としています。不動産仲介の有無という違いはありますが、都市や建物の

いんです。集落に関して研究し、ワークショップへ参加していても感じること

新しい使い方、可能性を発見し、提示して行くという意味で、東京 R 不動産と目的を共有し

だが、外部からやってきた人がみることで気付きが生まれます。そういった意

ています。また、東京 R 不動産が培ってきたノウハウが地方都市の中心市街地の再生に、ど

味では有意義なイベントであるように感じます。

のように貢献できるかを検証する狙いもあります。このような活動を通して、具体的なビジ ネスや活性化手法の発見につながっていけば幸いです。

山代:学生のときは論文が書ければよいかもしれないが、近い将来像の取り組 みのイメージはできますか?

斉藤:将来像というかは、現在進行形のプロジェクトで面白いと思うものがあ ります。新潟美少女図鑑というフリーペーパーのプロジェクトなんですが、最 近メディアにも頻繁に取り上げられ、 全国に広がりつつあります。 ちょっと違っ た目線でとらえるときれいにみえるという代表例であると思います。

山代:今回小嶋さんの課題図書で提示されたシビックプライドに通ずるところ がありますね。アイアムステルダム。っていうシャレが入っていて、個人の認 識レベルになっている。つまり新潟というものを行政区域で捉える方法でもな く、それより小さな地域で捉える方法でもなく、しかし一度個人という人がい るあたりまで掘り下げて、そこから全体を再構築するという観点が面白いです ね。

自分は島根県の出雲の出身で、去年出雲市を舞台にワークショップを展開しま した。その隣で早稲田の古谷研究室が雲南市を舞台に活動を展開していたが、 その活動について触れてゆきたいと思います。

墓田:最初に活動が始まったのが国交省の内閣府から委託された都市再生モデ ル調査という活動であり、地方都市の再生におけるある方針を指し示すという 目的から始まったものでした。僕たちが最初に行った活動は遊休化した公共施 設を巡り、現状把握から始めました。なぜ遊休化するのかという理由を分析 し、そこから様々な活動に展開させている段階です。活動の取り組み方として は人を介在させた地域性というものに主眼を置くことや、都市を俯瞰した視点 を持つなどして将来的な像を描きながら取り組んでいます。そのような基礎を 築いた後、二つ目に行った活動はイベントと連動した仮設空間の展開です。雲 南市の木次町というさくらの名勝地があり、商店街はそのさくら並木通りに並 行関係にあります。その商店街は空き店舗が少しずつ増加しており、ゆくゆく

古民家改修(オーベルジュ UNNAN / 2010 年 3 月オープン予定)計画

建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」

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8 一日目ラウンドテーブル

はシャッター商店街になる可能性がある商店街です。現状で空いてしまってい る店舗や土間のガレージをお借りして仮設的にリノベーションを施し、毎年春 先に行われるさくらまつりというイベントと連動させました。合併以後の合同 のコミュニティ事業として大きな成果を挙げ、今年は三年目を向かえます。そ して現在展開している活動は、築 100 年の古民家を改修し簡易宿泊所付きレ ストランを設計する計画や、地域の廃校をコミュニティ交流施設として再生さ せる計画に取り組んでいます。

山代:古谷研が雲南市と関わっているのは何年ぐらいですか?

墓田:三年目です。

山代:三年やってみて個人としてもあるいは研究室としてでもよいですが、継 続的なものとして展開してゆくことの難しさはどこにありますか。

墓田:率直にいうと難しいと感じています。まず、フットワークの軽さを発揮

I 小学校改修(コミュニティ交流施設)計画

しづらい状況が一つ要因に挙げられます。都市から地方に移動し何かの活動を

雲南プロジェクト 古民家改修計画/早稲田大学古谷研究室

展開するという点において労力がかかりすぎるという点。そしてもう一つに大

2007 年より島根県雲南市を舞台として活動する一連のプロジェクト。少子高齢化を背景

学機関という入れ替わりが激しい性質を持っていて、継続させることの難しさ

とした市町村合併の起こる中山間地域において公共施設やこれに準ずる施設のあり方とし

があります。

て、新しい像を発見しようとする試みである。内閣府より受託した「都市再生モデル調査を 事業」からスタートした一連のプロジェクトである。前ページの写真は、古民家(2010 年

山代:街の人にとってどう思われているの?

3 月オープン予定)を宿泊所付きレストランに改修する計画の外観写真。既存の軸組を活か した再生方法の検討、街の明かりとしての照明計画、地場産業の優良素材利用、学生による

墓田:最初は何だこいつらみたいに、受け入れられなかったんですけど、雲南

セルフビルド等、中山間地域でできる新たな建築像を目指して様々な活動を展開している。

市の方は基本的にはとても穏やかで優しいので、受け入れてくれる体勢では下

上の写真は、I 小学校の改修計画に際したワークショップ風景。こちらは伝統芸能の保存、

地としてありました。しかし、3年という経験の蓄積が以外と重要で、都市へ

既存空間の保存など、住民の意見を拾いながら計画を進行させている。

与える程のインパクトとなるためには、ある程度の時間が必要であるのだと感 じました。

山代:今、月影でやろうとしていることの可能性と難しさはどうですか?法政 大学の菊池くん。

菊池:月影の郷が誕生するまでの経緯として、10 年プロジェクトが続いてきて、 来年度の 10 月で一度終了となります。地域の人々と外部から訪れる人々を結 ぶ学生が媒体としていなくなってしまうことに対して、今後どのように活動を 展開させてゆくかを考えてゆく必要があります。今までは現地で発生する作業 に学生が参加させてもらう受け身の体勢であったのに対し、そうではなくて月 影の郷が主体的、意識的に地域の人々と関係を持ってゆくことが大事であると 思います。そうすることで自立した後にも施設と地域の連動性が生まれるので はないかと考えており、そのような状況が生まれることを目標として現在未改 修の3階をリノベーションするプロジェクトを進めています。  難しさとして感じる点は、建築が持つ力が都市部と地方で異なる点にあるか と思います。集落訪問で地域を巡る際に、小学校周辺の方々しか認知していな い状況を目の当たりにしてきました。月影の郷という一つの建築が地域にさら されたときに、都市部の建築の影響の与え方と少し異なるのではないかと感じ ています。銀座のように密集した中で象徴的な建築が都市に与える影響は大き いと思うんだけれど、都市としての景観として考えた場合、地方の建築はそう したものを持ちにくい。そうした状況を改善するためにワークショップのよう なイベントを展開しているんですけど、やはり認知させるためには多大な労力 が必要とされるとプロジェクトを通して感じました。

山代:他の月影関係者の方は?早稲田大学の吉田くん。

吉田:自分はまだプロジェクトに関わって日が浅いが、地域の方にヒアリング していて気になるコメントがありました。それは宿泊施設としては運営されて いるが、周辺に住んでいる人は本当に関わっているのかという点を指摘されま した。建築を構築してゆく側の価値観と地域の方々の価値観を擦り合わせてゆ

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建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」


8 一日目ラウンドテーブル くことは、関わってゆく側の姿勢では解決しきれない部分もあるし、そこは難 しいと考えています。関わってゆく側はそうしたことを理解しながらも、それ でも深く関わってゆかなければならないと最近は考えていますね。

山代:今日のディスカッションは現在行っているプロジェクトの可能性と難し さについて主軸を置いてきました。皆さんの意見は可能であるという意見が多 かったですが、継続していって欲しいという気持ちが半分と、少なくとも全て の地域においてうまくゆくとは限らないという現実的に考えなければならない という気持ちが半分あります。人が減少してゆく時代において人の賑わいを創 り出すことを商売として展開するのはなかなかならないかもしれません。 「遊ぶ」というキーワードを提案しましたが、僕は楽しみとしてやればよいと 考えています。例えば、島根県出雲市の中に江戸の末期の街並みが今も残り観 光地としても注目され始めている木綿街道という通りがありますが、それは誰 かが意識的に町おこしを始めた訳ではなく、お月見をすることを楽しむグルー プがもともとあったことから始まりました。その活動の延長として、のれんを つくり、それが街並みの景観を作っていった。それが実はとても大事なことで

月影プロジェクト/法政大学・早稲田大学・横浜国立大学・日本女子大学

はないかと考えています。できれば明日の朝に向けてそれを個人に置き換えて

本作品は豪雪地域の屋根形状をモチーフとして、河川公園に 170 個のコンクリート模型を

考えて欲しいのが一つ、それから、この街でお金を使わずにどんな街の遊びが

展開した作品であり、それぞれの模型は敷地である浦田地区の住居を一軒一軒再現されてお

ありえるか。その2点を考えて欲しいと思います。

り、浦田の縮図となるよう配置されています。

例として、設計事務所のパートナーに山形県東北芸術工科大学のプロダクト デザインを教えている西沢孝雄がいるが、彼は山形の赤湯温泉付近にある斜面 地型のぶどう畑に仮設型のレストランを学生と建設しました。それは将来的に 本設のレストランが造れたら良いというのが前提にあるんだけれども、最初の 段階として一種の遊びに仕立てることを狙っています。どういうことかという と、ぶどう畑の上に仮設場を建設し、そこで本職のシェフの人が料理を振る舞 うという形式ですが、そこに辿り着くまでに2時間程度のウォーキングツアー を行うというものを企画しています。これも一種のまちおこしではあるが、高 尚なものではなく欲望に素直な遊びであると思うんです。そのような活動の中 が本当の地域振興につながれば良い。 その場所の魅力を抽象的なもので片付けるのではなく、具体的な魅力を発見し てゆくことを一つのテーマとしてやってもらいたいです。 文責:墓田京平

建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」

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8 一日目ラウンドテーブル

B

group   木 木下庸子

「景観と『らしさ』/高齢化と暮らし」 木下:2つの話について若い人たちに聞いていきたいと思います。ひとつは景 観の話。街並みにしろ景観にしろ、今後どうやって建築家として取り組んでい くのか。どのようなきっかけで景観づくりに貢献していけるのか。もうひとつ

T

講師/木下庸子

C

工学院大学/修士1年/小南聡美

は高齢化社会の中でどういう形で増加する高齢者を社会が支えていくか、これ も身近なところから考えていってほしい。白石市営鷹巣第二住宅はソーシャル ミックスということも考えました。高齢者だけをまとめるのではなく意図的に 多世代をミックスしてグルーピングしました。そういったことを前提にフリー

工学院大学/修士1年/時田寛子

C

法政大学/修士1年/小畠卓也

トークをしてもらいたいです。 信州大学/修士2年/工藤洋子

工学院大学/学部4年/佐藤央一

東京理科大学/修士1年/今城瞬

東京大学/修士2年/藤本健太郎

長岡造形大学/学部4年/佐藤舞

東京理科大学/修士1年/木村周平

新潟大学/修士1年/矢作沙也香

長岡造形大学/学部3年/吉田知剛

日本女子大学/学部3年/加藤悠

新潟大学/修士1年/長谷川千紘

法政大学/学部4年/伊澤実希子

法政大学/学部4年/福井健太

横浜国立大学/修士1年/山内祥吾

前橋工科大学/修士1年/中村達哉

早稲田大学/修士2年/矢尻貴久

早稲田大学/修士2年/杉本和歳

小畠:景観に関してですが、学部までいた京都では景観法などにより行政側が 主導で景観を考えていました。建築家が主導でやっていけるようにすべきだと 思いますが、どのようにして建築家に発言力を持たせることができるのでしょ うか。

木下:景観法はあまりこうしなければいけないというルールは作られていない。 むしろ行政に持ち込む形で地域の景観形成を行うように考えられています。本 当はもっと有効なはずなのだが、 それがまだ活用されていない現状があります。 鞆の浦の判決が一つの意味を持ったのは、市民あるいは住民の「景観をそこに 残そう」という動きが裁判で認められたことが第一歩だと思います。それでは いったい何ができるのでしょうか。 シビックプライドの話の時に小嶋さんが触れたように、自分の街にもつプライ ドが重要なのでしょうか。都はある イメージ があります。歴史やイメージ が強いと、ヨーロッパの街もそうだが、建築家が新しい試みをできない場合が あります。しかしそれがまちのアイデンティティを作っているともいえます。 では幕張のニュータウンがプライドを獲得しているのはなぜなのでしょうか。

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建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」


8 一日目ラウンドテーブル

これだ、という答えはないところが難しい。そこでまず皆さんの原風景が何か 聞いてみたいです。 小畠:子供のころは関東のベッドタウンに住んでいて、生まれたころは畑が広 がっていました。都市的なところもあり、都市計画道路などが大きくとられて いたりしていて、もしかしたらそれが建築に興味を持ったきっかけなのかもし れません。

杉本:僕は実は鞆の浦のある福山市のとなりの笠岡市の出身です。島が 100 以上あり、海が原風景だったのかもしれないが実際にはそこにプライドがある などと考えたことはありませんでした。それを思えるようになったのは東京に 出てきて色んな人と話すようになってからです。

木下:客観的にみるという視点は重要。中にいては見えないものがありますね。

佐藤 ( 長岡造形 ):私は生まれも育ちも日本でも数少ない妻入りの街並みを持っ ている新潟県の出雲崎町出身です。ただ、自分の生まれた家の周囲はこのあた

笠岡市の風景

りの風景に近い。視界の広がるのどかな風景と、過密度の妻入りの風景、2つ が自分の中にあります。妻入りの街並みは景観を守る条例がなく、着々と失わ れていっている。町の人たちはプライドを持っていて、守りたいと思っている が町の人たちだけではうまく行かない現状があります。

矢尻:生まれも育ちも東京の世田谷ですが、少し下町のような場所で、家と家 の隙間の路地で遊んだりしていました。木造密集地帯だったが、最近では街並 みが整理されて、恐らく一般的にはいい環境になっています。でも、住んでい た人間としては寂しい気持ちもある。一般的な感覚と、その地域に住んでいる 人の感覚をどうすり合わせていくのか。シビックプライドと繋がることだと思 うが、どういうところが自分の町の魅力なのかを喚起していくのかが建築家の 仕事になるのではないでしょうか。

木下:町の魅力を抽出するのが仕事であると?

矢尻:一時的なもので見せるのかもしれないし、具体的な建築を立てて行くの かもしれない。その手法はまだ分かりませんね。

木下:この中に東京生まれ東京育ちはほかにもいますか?

佐藤(工学院):世田谷の鶴巻の宿舎の1階に住んでいました。陽が入らない

出雲崎(新潟県)の風景

暗い環境だったが、それが普通だったので暗いということがネガティブな要素 に今も感じていません。

木下:生まれ育った環境が好きであると。ならば街並みはどうでしょうか?

佐藤(工学院):中学校に仙台に移ったが、その時に自然が少なかったことが 分かりました。

木下:街の魅力を抽出するということに興味があります。自分の街の魅力はこ れだ、と言うことは出来ますか?

矢尻:大通りから1本入ったところに住んでいました。閑静な住宅地というと 違和感があるが、静かな時間が流れていて、狭い路地などを歩いて行くと開け た場所に出たりと少し移動するだけで色々な場所がありました。

木下:ヒューマンなスケールが好きだったということですか? 佐藤君の場合 はどうですか?

佐藤 (工学院) :高校生の時に町に帰ってきたら本当に小さい町だと感じました。 仙台などの地方都市に比べると道路幅も狭い。しかし魅力と言われると答えづ

世田谷の風景

建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」

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8 一日目ラウンドテーブル

らいですね。

中村:実家は石川県の金沢。金沢の魅力ということを考えると近江町市場の活 気を思い出します。人と人との関わりや賑わいというものが魅力だと感じてい ました。しかし最近再開発され一つのビルになってしまった。以前と同じ道幅 のはずだが、以前の魅力が失われてしまったように感じます。再開発のメリッ トもあるが、古くからあった良さが失われてしまったのではないでしょうか。

木下:再開発で建てられた建物はどこにでもあるような建物で、一口で言って しまえばグローバル化に通じるもの。採算や数値で計算されたもの、金沢だか ら建てられた建物というものではない。以前の近江町市場は「金沢らしさ」を 持ったユニーク(固有)な市場で、それが人にとって魅力に感じたのではない でしょうか。

今後の高齢化社会にどんな考えを持っていますか? 前橋ビルインタビュープロジェクト/前橋工科大学 小南:白石市営鷹巣第二住宅を通じて建築が介護予防の一つの手法になるとい

戦災復興の一貫として主要幹線街路に対して建設が行われた耐火建築物。しかし長い年月

うことが分かりました。町の景観や生活空間を生まれ育った環境、 「らしさ」

の経過によって、建物の老朽化や居住者不在等のことから、まちの景観に対して大きな影響

を残すほうが認知症などの予防になるということを論文で知っいました。建築

を与えている。

の空間を作ることで、ハードよりもソフトで介護予防をすることが高齢化社会 で必要な手法なのではないでしょうか。

木下:ここでも「らしさ」が出てきますね。つまり、どちらも非常にソフトな 話。だからこそ難しい。ハードな点に嵌っていってしまうと、 「手摺はこの高 さにすればいい」など一応最低限のルールは出来るが、もう一歩踏み込んだと ころで建築家は考えていかないとなりません。 昔の生活空間を変えないほうが高齢者の記憶の継続に繋がるということなので しょうね?

小南:学生の研究なのでまだ結論には至っていないようですが、そのまま残す ことよりも「らしさ」を残すことが認知症予防の上で重要らしいです。今はそ の「らしさ」がなんであるかを空間レベル、コミュニティレベル、都市レベル で研究しています。

伊藤:ソフトという考え方に関連して、僕たち側から高齢者の施設をつくると いう分け方ではだめなのではないでしょうか。高齢者でも活動的で働くことが できる人が多いにも関わらず、高齢者という一括りで考えてしまっています。 人口の重心は高い世代に移っているので、建築の標準的なスタイルもそういっ た人たちを取り込んだ形にしないといけない。考え方をシフトしないといけな いのではないでしょうか。

木下:元気な高齢者はそれでもいいのだけれども。高齢者だけを囲ってしまう のは私も反対ですが、体の衰えた人たちはどうしたらよいのか。高齢者と何人 かのシングルマザーを一緒に住まわせるアメリカの集合住宅の例は面白いで す。働けない高齢者が、働かないといけないシングルマザーの子供を見守り、 彼女らが高齢者のための買い物など、生活の援助をする。ある意味で社会的な 弱者をドッキングさせた、ソフト面でうまくいっている企画でした。 標準というのがなんなのかは定義しにくいが、日本でも核家族が標準とされて いた時代は長かった。でも今は社会が徐々にシフトし始めています。 みなさんはあまり祖父母と住んだ経験はありませんか?

長谷川:私は実家で祖父母と住んでいました。祖母はまだ全然元気で畑仕事を しているが、家はバリアフリーではなく、両親が共働きで、今後さらに歳を重 ねた時にどうなるのかを心配しています。家の雰囲気が気に入っているので介 護施設に入れるような形にはしたくなく、今建築の勉強をしている私が高齢者 に何がしてあげられるのかを考えたいですね。 木下先生に質問したいのですが、高齢者と普通の家族が一緒になったときにお

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8 一日目ラウンドテーブル

互いがどう反応しますか?

木下:白石市営鷹巣第二住宅はシルバーハウジングで集合住宅です。同じ住宅 ではなく、住んでいる住宅自体が違うんですよ。

長谷川:特に直接コミュニケーションを取るわけではないのですか?

木下:基本的にはお隣さん。エンドマはセミパブリックな外部空間で、そこで 高齢者が日向ぼっこしていると隣の家族の子供が遊びにきたりしてお互いに声 を交わすことを意図しています。 また実際にそのように使われているようです。

杉本:キッチンを通じてコミュニケーションができると言っていたのは?

木下:ヨーロッパとアメリカのコレクティブハウジングを視察して、設計者に

白石市営鷹巣第 2 住宅/設計組織 ADH /渡辺真理+木下庸子

話を聞くと、設計のポイントの一つが「必ずキッチンから共用空間に視線が行 くこと」が挙げられました。そもそもコレクティブハウジングの起こりは子育 てをしている女性が、同じ年齢層の別の家族と住むことでお互いに助け合うこ とだった。女性が新聞の投書で協力者を求めたのが原型。そうするとコモン空 間で遊んでいる子供たちをガッチリとではなく、柔らかく監視するためにキッ チンがそちらを向いていることが重要な設計のポイントだった。私もキッチン を介した人間関係を高齢者の住宅の中でも使おうと考えました。

「共食」という考え方はコレクティブな住まいで重要視されています。1日ほ とんど顔を合わせなくても、食事をするときに話すことでコミュニケーション が成立する。「食」を取りまくダイニング・キッチンは高齢化社会を考える上 でもっと重要視されなければならないのかもしれませんね。

これらの課題については更に議論していきたいです。今晩に是非つなげてほし いですね。 文責=矢尻貴久

建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」

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8 一日目ラウンドテーブル

C

group p   小 小嶋一浩 浩

「コミュニケーションから生まれること」 小嶋:順番に発表してゆくのも調子が出ないと思いますので、4つのプレゼン テーションを聞いてどのような切り口でも構わないので話しやすいところから 議論を進めて行きましょう。

学生(梶田):研究室に入って島根県の雲南市で行っていることがあるのです

T

講師/小嶋一浩

C

東京理科大学/修士1年/吉川潤

が、そこはいわゆる過疎化で高齢化の地方で6つの町が合併してできた新しい 市なので元々あった公共施設などが余っていて、私達はそれをどう生かそうか

工学院大学/研究生/別府拓也

C

日本女子大学/修士1年/布留川真紀

という活動をしています。そのなかで、ある町の商店街で祭りが行われている 工学院大学/学部4年/伊藤 慎太郎

工学院大学/学部4年/濱田真理子

東京大学/修士1年/斉藤拓海

信州大学/修士1年/香川翔勲

東京理科大学/修士1年/佐々木玲奈

東京理科大学/修士1年/高山祐毅

長岡造形大学/学部4年/星野智世

長岡造形大学/修士1年/渡辺 宣一

究室とかいろんなレベルがあると思うのですが、活動している方はいますか?

新潟大学/修士1年/小林成光

新潟大学/修士1年/吉田邦彦

学生(砂越):松原商店街という横浜市にある栄えている商店街があるのです

法政大学/修士1年/氏家健太郎

法政大学/修士2年/ 円城寺香菜

横浜国立大学/修士1年/砂越陽介

前橋工科大学/修士1年/外崎晃洋

早稲田大学/修士1年/伊坂春

早稲田大学/修士2年/梶田知典

のですが、その祭りで町を活性化させようというというプロジェクトがありま す。今年で3年目なのですが、初めの年はこちらからいろいろ提案したことを やってもらうという状況で、それはそれで成功はしたのですが、ただそれは街 として自立させるためには私達がどこまで関わって行くのかということがとて も気になりまして、課題となりました。そして2年目では3年目からは徐々に 地元の方々だけでできるように引き継ぐ方向を考えて活動しています。 しかし、 なかなかうまくやるのは難しい。

小嶋:いきなり実践している人の話が出て来ました。この中で他にも実際に研

が、今商店街で栄えている所は結構珍しい。そこがなぜ栄えているのかという ことを調べつつ、今のままでは持続してゆくことは難しいだろうということ で、11月から12月にかけて毎年商店街でイベントがあるのですが商店街と YGSA と共同でイベント自体の企画であったり、未来ビジョンという商店街自 体を50年後をみつめてどのようにしてゆくか模型を YGSA で作って町の人

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建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」


8 一日目ラウンドテーブル

達に見てもらおうというプロジェクトがあります。 やっぱり商店街の人と学生が密接に関わってゆくことが大切だと思いました。 具体的にどんなことをやっているかと言いますと、商店街の天井がアーケード ではなく青空で、 そこに三角旗が5色くらいカラフルにかかっているのですが、 この旗自体をブランディングに活かせないかということを考え、色を統一する ことを提案したりしました。

小嶋:結構直接商店街の人と学生達が話をしながらやってゆくのですか?

学生(砂越) :そうですね。先程の山代さんのお話しにもありましたが、可能 性をプレゼンテーションして共有し合うことの重要性を実際の活動を経験して 感じました。

学生(渡辺) :私は1人の建築家ができることには限界があると思うんです。

小嶋:それは十分に感じています。 (笑)

松原商店街プロジェクト/ YGSA  「濱のアメ横」と呼ばれる松原商店街において、横浜国立大学の地域実践センターと Y-GSA の学生によって歳末イベントをトータルコーディネートした。神奈川県の「商店街・

学生(渡辺):そういった発想とかアイディアはいかに実現可能にするのかと いうのは、やっぱり多くの人が共感してやることだと思うし、そういう意味で 例えばこんなに自分たちの町はでかくなったんだとかそういった可能性をプレ ゼンテーションするのは効果的なんじゃないかと思います。

大学・地域団体パートナーシップモデル事業」として、建築・グラフィックデザイン・経済 的観点から、松原商店街に潜在する魅力を可視化する 10 個の展示とイベントを約 1 ヶ月に わたって行った。写真は、十字形をした松原商店街にある交差点に着目し、仮設の天井をか け、その下でイベントを行うことで松原に広場を作り出した。また、松原のシンボルであっ た三角旗の色をピンクに統一することでその存在感を引き出し、商店街に一体感を与えた。

「共有することをデザインするということ」

小嶋:でも大抵の場合良いのって、例えば松代の MVRDV のだとか、ひとつ の強い案が形をつくって環境を変えることができていますが、そういうのはど うでしょう?あまりにも多くの人達の意見を聞きながら建築を作ろうとする と、できあがったものが弱くなっている気がするけど弱くてもいいのでしょう か?

学生(渡辺):私は弱くはなっていないとも思います。実現可能の状態にする ということは共有するということが大切だと思うんです。やはり1つのアイ ディアというよりもまとまっているということが強くすることもあるのではな いかと思うんです。意見がバラバラになっているとそれはまとまっている状態 ではなくて、アイディアが弱くなっていると思うんですけど、共通した意見で まとめていければ、よりやろうとしている方向が固まっていくんじゃないかと 思います。

小嶋:迷走しないようにすること自体が大事でデザインしなくてはいけない。

学生 ( 小林 ):雁木というのがあるのですが、積雪が多い地域なので冬には歩 道も歩けないくらい雪が積もります。そこで屋根をかけるのですが、自分の家 を公共に出してあげ、それが繋がり屋根の続いた歩行空間ができるというもの です。しかしそれも今では全てが繋がっていなく歯抜けになっているとことが あります。それを学部の3年生が毎年ひとつずつ埋めていってあげようという 活動を10年前からしていて、それは50人程でコンペをし、実際に作り、数 が増えかたちに残してゆくことで地域の方に愛着や誇りを与えられるんじゃな いかなと思っています。 そうしてなるべく自分たちが関わるようにしています。

学生(渡辺) :東京の学生にはわかりにくいと思いますが、雁木はいわゆるアー ケードとはちょっと違っていて、公共で作られた物ではなく、雁木は自分たち の敷地の中で歩行空間のためにつくっているというところに大きな違いがあ る。なぜ今歯抜けになっている場所があるのかというと近代化に伴って、元々 自分の土地で建物を建てるのは自由だからという理由などで、そうするとずっ と一連で繋がっていたがんぎが途切れてしまったり、あるいは空き地になって しまったりしています。地方都市を救う建築という観点から、がんぎも建築だ と考えると地方の都市の生活を助ける建築ととらえることができると思いまし

建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」

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8 一日目ラウンドテーブル

た。

小嶋:割と共通しているのが直接商店街の人達だったり、雁木で町の人を交え てコンペしてたり、 地元の人達と話をしていることにやる気がでていて、 ちょっ と意外に感じました。そういったプロジェクトに若い人が入るということは今 までなかったように思います。

学生(佐々木) :結構逆パターンかもしれないのですが私の地元の話なのですが、 茨城県の守谷市に廃校になった小学校でアーティストインレジデンスを設置し て活動してるという団体があるのですが、地元の人が直接触れ合うというより は外部から来て数ヶ月間そこで滞在し、展示をしてそれ以外の期間はあまり開 かれてなくてたまにその展示はやっています。私はすぐ近くに住んでいるので すがそれをあまり身近に感じたとこはなくって建築とか勉強し始めてそういう ものに興味を持ち始めて自分からアプローチしにいかなければそういうものに 触れられない環境でした。プレゼンとか広め方とかが地方都市のイベントでは 守谷小学校アーティストインレジデンス

が大切なのかなと思いました。

学生(渡辺):大地の芸術祭というのがあって、著名な芸術家の方々を呼んで いて、広い範囲にアートを点在させてそこに多くの人が訪れるというやり方を しています。

小嶋:地元の人達にとってみればあれは成功していると言えるのでしょうか?

学生(渡辺) :実際のところ、私はどう思っているのかというと、あれは広範 囲すぎて動くのがすごく大変でした。

小嶋:話を聞いていると今の建築学科の学生は上から目線じゃなくなっていま すね。

学生(渡辺):設計だとかコンペだとかそういう思想はみんな持っていると思 います。

小嶋:昔だときっぱりデザイン系の人と計画系の人とはっきり分かれていまし た。だから都市計画とかまちづくりとかある種建築計画をやってる人と建築家 になりたい人というのは早い段階から分かれていたのですが、今は建築家教育 している学校が商店街とかで現地の人達と話をしながら設計したりしています ね。

学生(砂越) :商店街のコミュニケーションなのですが、商店街の人達とコミュ ニケーションしながら案をつくってゆくのですが、そのときに伝わることが伝 わらなかったり、 伝える力を学んでゆくというかそういう大切さを学びました。

「建築家の専門性とは」

小嶋:建築家じゃない人達がいっぱいチームの中にいて1人だけ建築家のあな たが居たときに専門性を出すというのは重要なことと思います。いろんな断片 的でどうしようもない状況をまとめて無理矢理でも答えに導きビジュアルなも のとか他の人が見てわかるようなものをつくる能力は大切です。一方で今の現 役で大学に居るとそういうトレーニングをほとんどしていない。

学生(濱田):引っ張って行くようなデザインを作って、誰もがつくって行き たくなるようなものを作るということと実際に求められているものを考えつつ 作って行くていうのは、私の経験からすると何を求めているかとうことを考え て、経験して取り入れてデザインしていくといいと思います。

小嶋:我々のところではこの後のロングランの議論のキックオフのような感覚

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建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」

守谷小学校アーティストインレジデンス


8 一日目ラウンドテーブル

でしゃべっていたのでまとめることは難しいのですが、ただいろいろ話してい て私にとって面白かったのは商店街だったり歯抜けになった雁木を毎年コンペ して実際に施行するところまでつくってるっていう話だったり、いろんなケー スがあったのですが、実際にその場所にいる人達とコミュニケーションしなが らなにかやってるという人が思いのほか多かった。なんとなく全員の話はまだ 聞けてないですけれども、他の人達もそういうことに対して非常に積極的であ るということにビックリしました。私の方からはまず都市計画とか町づくりの 学科の人もいるのかと聞いたのですが全員建築学科の学生で、そうすると卒計 日本一バトルとかもやっているんですよねと質問したらそういう世界の人達ば かりでした。それとは別になにか相手がいてコミュニケーションしていく中か らなにかが実現していくということに対してすごく積極的だなと思いました。 まあそのことをコミュニケーションと言っているのですが、コミュニケーショ ンをしながらデザインしていくということも聞いてそれは僕らの世代と比べて 全然違う、そういうことはもう当たり前で前提としているし、そうでないと実 現しないんだという認識をみんな持っている。ただ、いろんな地域で彼らをど んどん引っ張り込めば、学生達が自分たち自身でプロが入るよりいいんだと。 僕の方からはクオリティーはどうなるのかということをみんなに問いかけまし た。いろんな人達が地域に入って来るときに建築をやってる人が地域に入ると 建築の専門家としてのプロフェッショナリティとかレベルとか考えるとみんな の期待に応えられないんじゃないかと、だからもう一回戻ってくると大学のト レーニングに繋がる。ただ単に他者と違うより目立つものを作るということで はなくて、実際の商店街や或は雁木ってものは個人の物で個人のクライアント と話をするということは、社会に出てから体験するであろう大変な出来事をど んどん先取りしてそれをも含めてデザインしていくということを今の人達は やっているんじゃないかなということをお話ししました。それで、これからの 長い時間で話してもらいたいことは地域に入って行くなどいろんな話があった のですが今度はそれをどういう形でハンドオーバーして手渡して行って持続で きるのかという話までしてもらいたいです。個人でできることと持続させるた めの具体的なことがらをふまえながら話すってところから始めれば今の議論が 発展して行くんじゃないかと期待しています。以上です。 文責:吉川潤

建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」

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8 一日目ラウンドテーブル

D

grroup   千 千葉学

「小さな景観」 千葉学先生(以下・千葉)  景観に対しどう思うか、建築家の職能が広がって いていること。即効性のあるような提案もあればものすごく長期に渡ることも あるし時間軸というのは建築にとっては重要だと思います。 また都市のように成熟して様々な他者が集まってできている街だと遊ぶという 関わり方もできるのだけど、この場所で果たしてどのような関わり方や遊び方

T

講師/千葉学

C

東京大学/修士2年/横川美菜子

があるか。都市の場合に比べると、全く違う観点が求められるだろうと思いま す。今あげた4つの話で意見を交わしていけたらと思いますがどうでしょう。

C

東京理科大学/修士1年/村山圭

工学院大学/研究生/秋山照夫

工学院大学/学部4年/山内響子

う思っているのかみんなに聞きたい。

工学院大学/学部4年/長谷川公彦

信州大学/修士1年/立野駿

千葉 ガイドライン的にある同一的なもので作ってしまい、それがある種の善

東京理科大学/修士1年 /佐々木俊一郎

東京理科大学/修士1年/中村大地

長岡造形大学/学部3年/長谷川孝文

東北藝術工科大学/修士1年 /黒田良太

新潟大学/修士1年/佐藤貴信

日本女子大学/学部4年/青柳有依

法政大学/修士2年/小野裕美

法政大学/修士1年/熊谷浩太

前橋工科大学/学部4年/武曽雅嗣

横浜国立大学/修士1年/佐藤賢太郎

早稲田大学/学部4年/小堀祥仁

早稲田大学/OB/丸山傑

横川 どこにでもあるような集合住宅や、オフィスビルが建っていたり、マッ ク、ジャスコといったよくあるものに浸食されていっている。それについてど

であるという風になると思うんです。ゲーリーはどこでも同じような建築を建 てているわけだから、マクドナルドに近いことをやっているけど、ビルバオの 街にとっては起爆剤になっていることも事実だし、景観という言葉はどっちに も触れそうな難しい概念です。

村山 新潟では普段見慣れている開口の位置に窓があいていると雪で埋もれ て、光が入ってこないとか、積もっていた時にその先に外に出て行ったりでき ないとか、屋根の勾配が違っていたりといったことが生み出す景観。経験的景 観もあると思います。

千葉 盲導犬センターを市の人に見せた時に " 東京の人の設計だね " って言わ れたんです。向こうの人は富士山なんかどうでもいいんです。富士宮市ってい

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建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」


8 一日目ラウンドテーブル

うのは富士山の南西に位置するので、 南の太陽がほしい。 家は南西に向いて立っ ている。南西に向いて開放的なので富士山を背にして建っている。富士山は素 晴らしいっていうのは、東京の人の感覚だって言われたんです。

千葉 屋根のカタチは切り妻でなくてはいけないっていう条例になっているん です。知らないで設計して途中で気がついて、切り妻でなくてはいけないのは 納得いかなかったので、市と相談して争ったんです。

高橋てい一先生(以下・高橋)  条例っていうのは守らなくていいの?

千葉 守らないと基本的にはだめなんです。あの地域は屋根、壁の色とか、屋 根の形も決められているんです。

高橋 それみんな破ったの?

千葉 ほぼ破っています。屋根の形は切り妻じゃなくて刀割れですし、色も茶

郊外の風景

色じゃなきゃだめだったんです。

横川 条例の通りに作れば、そこにあってもおかしくないような建物は建つと 思うのですが、周りのルールを少し歪ませる時に起こるものっていうのもまた 新しい景観になるのかなと。

高橋 景観条例はその市民のコンセンサスをとってできているのか?

千葉 条例が市民のコンセンサスを得られていないと思います。条例っていう のは市民がみんなのために作ったものではないですし。

高橋 役所はそれが得られていると思っているんだよ。

千葉 桜川のコンペで僕はファイナリストに残っていたんですけど負けたんで す。そのときの議論は、瓦屋根の江戸時代の建物が残っているんですけど、あ の建物らしからぬものを設計したんです。僕たちなりにその場所を解釈したん ですけど、結果的には歴史家とか審査員の方の反発を食らったんです。" いっ たいこの場所の歴史をなんだと思っているんだ " っという感じですよ。でも、 平成の素晴らしい建物も作っていかなきゃいけないと思います。時間って空間 に蓄積されていかないと本来の歴史じゃないと思うので、その江戸時代の建物 にならって作る必要はないんじゃないかと思うんです。今の時代に何が出来る かっていうことを考えることも一方で重要ですね。

千葉 もう一つ、景観という言葉があまり好きではなくて、むしろまだ風景の 方が好きなのは、景観という言葉に人の営みとか入っていない感じがするんで すね。

高橋 言葉としてね。ものすごくよくないね。

千葉 人の生活があって、様々な出来事やアクティビティがあって、それも含 めて本来は街のことって考えないといけないので、景観という言葉は、すごく 建物の外見だけの話に成りがちになるので、言葉は変わっていくのかなって思 います。

横川 形ばっかりを風景と言ってしまいがちなのですが、ビルが建っている前 に人がぎゅうぎゅう詰めになっていて、それが形としてビルになっているし、 谷間、川、家があるってことで風景ができていると思いがちだけれども、本当 はそこに人が住んでいることがそこの風景を作っているふうに。

高橋 全体のランドスケープね、土地の形状とか、自然の余剰権っていうのが ありますね。

建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」

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8 一日目ラウンドテーブル

井原 MVRDV、キョロロ、内藤さんの図書館、キナーレ、平田さんの桝屋本店。 著名な建築家が地域の気候、雪の対策、景観を考えられて、情熱をこめられた ものがまったく全然違う見え方をして建っている。それが面白い状況でこっち にくる動機付けになっています。いいとか悪いっていう景観法律みたいな話で はなく好みで構わないので、そのへんどうですか。

黒田 キョロロは実際行ったことはないけど、訪れる人とか住んでいる人たち がうまく使ったりするだけでもいいと思っている。都心のオフィスビルが建 つっていうことがいいか悪いかって言ったら、外観だけだと悪いと思われるか もだけど、生活の仕方によっていい悪いが決まるのかなと思います。

武曽 新潟だったら雪が降るし、海側だから海風も強いので、考慮した家の建 ち方をしなくちゃいけなかったんですけど、昔からの景観でいいのだろうか、 それとも新しい技術を取り込んだ新しい景観を作るべきなのかが疑問です。そ れと景観の条例っていうのは何年続くのか、何百年続くのかっていうのも疑問

リバーサイドノード/新潟大学岩佐研究室

です。いつか絶対変わるときも来るし、そういった判断を誰がするのかってい

2009 年に新潟市で開催された「水と土の芸術祭」の出展作品。信濃川の舟運を活かした水

うのも気になるなと。

上バス、水上タクシーと、市内に多くの拠点を持つベロタクシー、レンタサイクルを結びつ ける交通の結節点 ( ノード ) を制作した。街と水辺を結びつけ、車依存の進む新潟において

立野 エッフェル塔だって時間が経過する事で人々に愛されるものになってい

新しい都市の体験方法を提案した。柵を転用したロングカウンター、各交通のインフォメー

る。こういう時代だったんだっていう後に残るものとしてそういう建築があっ

ションボード、サイクルマップの作成やレンタサイクルの運営などを行った。

てもいいと思う。

千葉 僕も今の時代にできることをやったほうがいいと思う。敷地をおさえて やりましょうということは、僕はあんまり意味がないと思います。ただその一 方で、ロードサイドの風景はびっくりしますね。東名高速を降りて富士宮に 入っていくと、パチンコ屋、吉野家、ラーメン屋の看板が並んでいるわけです よ。 あれを見るとさすがにないだろうと思うんです。 富士山が世界遺産だと言っ ている脇であんな風景を作っていることがだめだと思うんですけど、ただそれ は簡単に答えが出ないと思うんですよね。それを一気に全部茶色い建物にしま しょうみたいになるのは非常に貧しい景観論だと思います。建築ってどっかで 人を惹き付けたり、人が集まるために作るものなので、魅力がないといけない と思うんです。

山内 MVRDV がなかったらただの景色がこの町の人とっても、愛着がもてた んじゃないかなって思うんです。それを中心にまた新たな景観がでてきていい 街になるんじゃないかなって思います。

長谷川 3年に一度の会期でない時になるとどうしても人が寂しくなって、建 築を建てちゃうとそれがその期間ポツンと残ってしまう状況があって、寂しい 風景になっちゃってて、自分の中で嫌だなって。

千葉 イベントの期間以外に使われないものっていうのはを使うっていう企画 もない?

長谷川 古民家再生で古民家に手を加えるとか。すごい安い値段で実際に宿泊 できたりするんですけど、本当に山間なので来ないときは来ない。

佐藤貴 研究室で川沿いの仮設制作を毎年繰り返しています。仮設っていう手 法とサイクルがあるっていうのは地域に対して有効だと思います。景観ってい うことが大きすぎて、一個人が何もできないっていうのはあるんだけど、ちっ ちゃい景観だったら僕らにもできるなって感じで。

佐藤謙 トリエンナーレは住民や学生、ボランティアの方々がいて、面的に地 域を使っているイベントだと思うんですよ。イベントとしての風景があるのが 建物だけでみられていないのでビルバオの状況とは少し違う状況でもあるん じゃないかなって思います。

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建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」


8 一日目ラウンドテーブル

佐々木 小さい景観があげられたと思うんですけど、景観本体にも賞味期限が 迫っていることが一方ではあると思います。またもう一つは東京の人から見た 富士山を見たいっていう話と、地元の人のそっぽ向く矛盾点があると思うんで す。そのちっちゃいレベルの矛盾みたいなところに小さい景観というものを考 えるポイントがあると思います。

千葉 都市部あるいは地方都市では景観というのはどのように考えてくことが できるのか。それから建築家の町への関わり方というのは建築を設計するだけ ではなくて、町に介入していくことができるかという職能について、どんな風 な関わり方をイメージしてるのかがもう一つですね。次に関わり方には時間軸 が重要なファクターとしてあるのではないか、 つまり今すぐできるようなこと、 短期的に繰り返して行われること、何年かのサイクルで街に関わること、長期 的な永続的な関わり方、そういったことに対してどう考えていくことができる のか。最後に都市のようにかなり成熟した、あるいは様々な人たちが関わって 作り上げた環境で遊ぶということと、自然が豊かで建築もそれほど作られてい ないような環境においてはどう展開できるのかを投げかけました。議論は景観 の話に時間を費やしてしまって、結論や切り口が出たわけではないんですが、 ビルバオのグッゲンハイムのような都市に刺激を与える関わり方もある一方 で、 ガイドライン的に全体を統合していくがある。 このエリアではトリエンナー レが開かれていて、 点でしかもそれぞれの建築家が自分たちなりに考えた建築。 それに対してみんながどう受け止めているのかという議論。今の時代を映し出 すような建築を作っていくことに価値を見出したいという意見だったり、トリ エンナーレで作られた建築も、3 年のサイクルでの行事、活動、人の集まりと ともに起きてくるということ、そういったものと一体になってできていく中で 場所に対する愛着であったり、 記憶も関わって受け入れられるのではないかと。 議論は収束せず、 景観というのは大きすぎて、 むしろ一人一人の学生が町に様々 な形で関わる、 それはトリエンナーレやワークショップを通じて関わっていく。 個人のレベルですが作り出せる小さな景観。そういう可能性というのがあるの ではないか。小さな景観と時間軸を絡ませた作り方に対して、新しい切り口が 見えたら可能性に繋がるのではないか、景観というと建物の形、色がクローズ アップされがちで、本来はそこにあるはずの生活、活動が排除されがちである 中、小さい景観、時間軸も含めた景観を考えていくこと。さらに継続的にして 建築家がどう関わっていくのか見えてくるといいなと思います。 文責=村山圭

建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」

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9 二日目ラウンドテーブル

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建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」


9 二日目ラウンドテーブル

「 地 方 都 市 の 建 築 像 」 4つの学生グループ

「 た ね 」=「 こ た え 」

建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」

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9 二日目ラウンドテーブル

A  ggrouup

「自分たちの世代の建築への認識」 求められる建築家 中山:建築家は内々の言語だけにとどまってしまったあまり、一般社会との乖 離があまりに大きくなってしまったように思います。これから建築家はいかに 社会性をもつことができるのかが、私達の世代の建築観であることを共有して いることが分かりました。その例として、 シビックプライド、 象徴性の変化(シ ンボリックな形から、市民とのプロセスの共有をはじめとする心の中の象徴性

T

講師/木下庸子

C

早稲田大学/修士2年/墓田京平

C

横浜国立大学/修士1年/中山佳子

へ)についての議論が挙げられると思います。 工学院大学/修士1年/宇賀神亮

工学院大学/学部4年/近藤巨房

信州大学/修士2年/小倉和洋

信州大学/修士2年/大日方由香

東京大学/修士2年/高田彩実

東京理科大学/修士1年/松本透子

東京理科大学/修士1年/井上雄貴

長岡造形大学/修士1年 /ケ・エム・イフテカル・タンヴィル

東北藝術工科大学/学部4年 /山本将史

新潟大学/修士1年/斎藤淳之

新潟大学/修士1年/高坂直人

日本女子大学/修士1年/石井千絵

法政大学/修士1年/菊地悠介

法政大学/修士1年/郡謙介

前橋工科大学/修士1年/木村敬義

早稲田大学/学部4年/吉田遼太

墓田:象徴性の変化として、ワークショップ(以下 WS)等の活動が挙げられ ますが、現在はほぼ大学の研究室など非営利団体の活動になっています。それ らは今後どのようなシステムで関わる可能性がありえるのか。それに関して、 それぞれの活動から派生する具体的アイディア、 またこれからの建築家の職能・ 建築家像について踏み込んでいきたいと思います。

―昨日のディスカッションを踏まえて、現在の建築への認識について問う。そ のひとつに地方都市と都市部の二項対立論があるが、2つの異なる視点からみ た建築家への認識・建築の価値観とは?

小倉:これからの建築家像として、東京一極集中でなく、地方に根付き、介入 する人材が必要だと思います。地方は東京に対してのコンプレックスがありま すが、それぞれに異なる良さを持っています。建築家が一回きりのプロジェク トで地方都市に介入するのではなく、一生をかけて都市を作り上げ、体験して いく姿勢が必要だと思います。そのとき、その地方都市を相対化する視点を持 つことも重要で、 グローバリゼーションを理解する必要があるように思います。

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建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」


9 二日目ラウンドテーブル

それから、建築家の職能として形を決定していく際、WS 等を通して市民が主 体的に介入していく体制が必要だと思います。 中山:一方 WS は、方法の選択によっては、建築家の大義名分のような形式 だけのものになってしまう可能性がありますよね。前日にでた、古谷研の実践 する WS の事例のように、建築家によって建築家の領域・市民が踏み込むこ とが可能な領域を計画することが重要だと思います。

墓田:WS によって市民の意識をスイッチできるかがとても重要ですね。形式 だけでない WS にするには、 建築家が他分野に切り込んでいく姿勢が必要です。 現在、古谷研の桜山小学校のプロジェクトにおいて、教育学の専門家と建築家 が協力して WS を進めていますが、 異分野の人々が協力して WS を行うことで、 建築言語を一般の人々へ開放していくことができるんですね。

・地方都市においては地方に根付き、介入する建築家のあり方が重要になって くる。その方法論の1つとして、形式だけでない WS の可能性があると考え られる。 高崎市立桜山小学校建設に伴うワークショップ/早稲田大学古谷研究室 ―次に、都市部に住んでいる学生から、意見を伺う。都会から提示できる建築 家像とは?

群馬県高崎市堤ヶ岡小学校の分離新設校として、計画された桜山小学校。2005 年にプロポー ザルで設計を委託されてから、2009 年 4 月の竣工・開校までの期間中全 4 回に渡り、両校 の児童と教職員を対象として、教室と、オープンスペーの再現空間での授業のシュミレーショ

菊池:都市部の建築家は自身の理論を実践できる機会に恵まれますが、地方都 市においては、既存のストックを活かしたリノベーション等の活動を意識的に

ン・仮想ミュージアムでの新設校に関する展示等を通し、新概念の小学校の活用方法を探る ワークショップを実施している。

行うことが重要になってくるんだと思います。MVRDV の農舞台が、まつだい に適合したものであるかどうかは疑問で、建築家が新しい形態を求めることだ けでない姿勢が、より地方都市においては必要であると思います。

中山:地方都市と都市部の建築家が選択する手法は異なることを、自覚的に認 識する意識が必要なのでは。

―ここで「都市を遊ぶ」テーマについて議論をもどしていきたい。今それぞれ が行っている活動をベースに、持続可能性として、学生の立場を抜け出したと きにどのような「遊び」の展開の仕方があるように考えるか?

小倉:イベントは形のない象徴性を持ちえると思いますが、地方には祭りがあ るのに、なぜ新しい象徴性を作る必要があるのでしょうか?そもそも建築家は 形をつくり、建物を建てる存在であり、まちがどうあるべきかを考えるのかは、 建築家の職能ではなく市民ではないのでしょうか?

坂下:だからこそ今、建築家が職能として介入すべきなのだと思います。建築 家が放置した結果、大手の資本が介入して画一的な地方都市の現状ができあ がってしまっているんです。

小倉:しかし建築家はそれほど大きな存在なんでしょうか?建築家は「建築家」 としてではなく、建築の知識をもった一市民として関わるべきであると考えて います。建築家の職能には限界があると思います。

坂下:それを考える必要がると思いますね。例えば、アートポリスは、建築家 が必死に市民の中に介入してトライアルした事例です。飛躍的に変えることは できませんが、挑んでいかなくては何も始まらないと思うんです。

木下:ここで、建築が都市を変えることのできた新たな事例をもとに、具体的 に議論をすすめていってはどうでしょうか。先程挙がった、古谷さんの事例も 非常に興味深かったですね。

墓田:現在、古谷研究室では新しい小学校の建設に際して、独善的なものでな い WS の新たな可能性について考えています。建築家はまず形を提案し、使

建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」

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9 二日目ラウンドテーブル

い方を家具レベルで検討していく際に、建築家とエンドユーザーの間に、WS において所員や学生がワンクッションはいることで、 市民・児童からのアイディ アを吸い上げ空間的言語に変換することができます。それをさらに建築家がア イディアとして構築するんです。それは現在、誰もが満足する手法として成立 しようとしていると思いますね。

吉田:千葉さんの盲導犬センターにおいて、サイクリングイベントの紹介があ りましたが、建築家が提案したことに意味があると思います。建築家が、建築 をたてること以外の領域へ積極的に関わっていく姿勢が、その事例を通じて大 切であると感じました。

高田:先日くまもとアートポリスを訪れた際、乾久美子さんの駅前オブジェを 見に行ったんです。オブジェとして家型のフォルムの印象が強かったですが、 実際に訪れるとそこに朝方農業仕事帰りのおばあさんがピクニックをしている 光景を発見しました。盲導犬センターの事例のように、市民の人々によって予 期せぬ使われ方をしていたことは、建築のできる可能性を強く感じましたね。

木下:建築家の職能について、建築家が作る建築が、人と人を繋げる役割を果 たしていることがキーのように思います。打瀬小学校の例では、建築家の提案 した形とプログラムが塀のない小学校をうみだして、それに周辺住民が成功に つながりました。

斉藤:新潟に長谷川逸子さんの「りゅーとぴあ」があり、それは音楽文化ホー ルとその周辺に、横の神社や公園とリンクした空中庭園が設けられているんで すね。空中庭園は、長谷川さんの思想の1つですが、その説明をする際、新潟 に存在した屋外活動の場である河川の浮島から着想したという説明の方法を用 いていて、実際その空中庭園は常時お花見やバンド活動など人々の活動の舞台 として利用されています。都市部を拠点に活躍する建築家の思想と、地方都市 の特性をいかすこと・地域性を読むことが上手くリンクしたとき、良い建築や 場所が生まれる可能性を感じさせる、非常に良い実例だと思います。

中山:地方の特性を活かす事と同時に、逆にそれまでその都市に存在しなかっ た視点を、市民が獲得できる可能性が建築にはあると思います。FOA の大桟 橋ターミナルが評価されたのは、その造形というより大方が産業専用区で閉ざ されている横浜の海際を公園として開放し、埠頭の先端から見る横浜の美しい 風景を市民が獲得したことにあると聞いたことがあります。都市の新たな視点 の獲得という意味で、空間や建築の力を信じることのできる事例だと思います ね。

高田:今の 2 つのアイディアは、どちらも場の特性を読んで作られているこ とが共通していますね。

墓田:ただ、いつもそれが功を奏するとは限らないと思います。今の話に関し て示唆的な事例として、穂積先生の学会賞を受賞した中学校(田野畑中学校及 び寄宿舎)があります。敷地は農村と漁村のあいだにあり、その両者には大き なギャップが存在していました。建築家は、その両者が親しみ、交じり合うよ うな広場をダイアグラム的に解き考案しましたが、結果的にその問題は解決し ませんでした。その上、取り壊しに際して反対をする市民はいなかったそうで す。建築界で認められ、ダイアグラム的に解かれた作品が、実際には効果をも たなかった象徴的な事例です。そういった意味で、WSは泥臭い手法であるが ダイアグラム的に解くこととは異なる段階の手段であり、建築を理論や図式を 用いて考察するならば、それをわかりやすい言語で伝達しなければいけない時 代へ突入していると感じました。

木下:この 1 時間半、良い議論がいくつかあがったように思います。建築家 の職能を、今日 1 つの解として提示することは難しいですが、先ほど中山さん、

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建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」

熊本アートポリス 新八代駅前モニュメント/乾久美子建築設計事務所設計


9 二日目ラウンドテーブル 斉藤くんのあげた事例のように、地方の特性と、新しい可能性を提示できるこ とは建築家の職能として非常に重要なことだと思います。

中山:やはり建築家はものをつくる職業であり、それによってできる可能性は たくさんあります。その力に限界があると嘆くのではなく、空間や場をつく ることによって信じることができることを明確にしたいと思いまして、その 1 つが先述の事例でした。

吉田:それが、建築家が意図していたこと以上のことを発揮するといいですね。 「遊び」とは提供するものではなく発見的に楽しむ行為で、多様な価値観をも つ市民に建築が還元されたとき、市民が「遊ぶ」ように使い方を発見していく ことで、さらに良い作品へ向かっていくことができると思います。

新潟市芸術文化会館りゅーとぴあ/長谷川逸子計画工房

中山:その方法論の1つが、きちんと練られたWSの可能性であるように思い ます。

―議論のまとめに入りたいと思う。

中山:私たちのチームでは、建築家の職能や、都市を「遊ぶ」態度といったテー マをもとに、いくつか面白い議論を交わす事ができました。テーマに対して、 具体的な 1 つの結論を導く形にはならなかったですが、自身の観点から今ま での議論をまとめたいと思います。 昨日までの段階で、目指す建築家像のあり方が、私たちの世代において変容し てきているという共通認識がありました。これまで建築家の議論は内にとどま ることが多く、建築の形のみを言及する傾向が強かったために、一般社会との 乖離が進みすぎてしまいました。地方と都市部で異なる建築家像の認識と、2 つのこの先の方向性の違い、地方都市へ都市部の建築家が関わる際の態度の問 題等の議論を踏まえた上で、私達の世代が目指す建築家像のありかたは、建築 家はより市民へ建築言語を翻訳し、伝達する姿勢をもち、その存在がより社会 性を獲得しなければならないことを共有していたように思います。建築家の職 業領域について議論が交わされましたが、そこで今一度、私達は建築家のもの をつくる職業としての可能性を、都市や社会に希望を与えたいくつかの建築の 事例をもとに、明確にしたいと考えました。建築家の思想が、地方の特性をさ らに強める形に働き、市民がその場を発見的に利用している例として、乾久美 子さんのオブジェなどについての事例、また、場所性を読み込んだ上で、そこ

横浜旅大さんばし国際客船ターミナル/ foa Farshid Moussavi・Alejandro Zaera Polo

に存在しなかった新しい都市への視点を作り出し、市民がシビックプライドを もつ手がかりになったものとして、大桟橋ターミナルなどの事例が挙げられま した。その一方で、理論に基づき、建築作品として定評を得たものが、その意 図通りに受け入れられることなく、その存在自体の意義が問われた事例も挙げ られました。 場所に対して「遊ぶ」姿勢を市民が持ち、利用されていくことで建築や都市は 豊かになり、市民がシビックプライドを獲得できる可能性があります。そのた めに建築家は、市民へ建築言語を翻訳し、伝える姿勢を持たなければならない と思います。その方法論として、WSを見直す価値があります。ともすれば、 それは形式的なものに陥りかねないですが、建築家と他分野の専門家によって 練られたWSは、エンドユーザーである住民や生徒の意識をスイッチ出来る効 力を持ちえます。以上のような論点を踏まえた上で、私は改めて、建築の空間 や場所のもつ、都市や社会へ与える力の可能性を信じたいと、強く感じました。 文責:中山佳子

建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」

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9 二日目ラウンドテーブル

B

group p

「首都圏と地方の景観に対する価値観の違い」 価値観の再認識 T

講師/小嶋一浩

C

工学院大学/修士1年/小南聡美

小畠:昨日高齢化と景観について議論し、首都圏と地方都市での認識のズレが あることが分かりました。今日はそれをふまえて首都圏と地方都市それぞれの 立場で意見していこうと思います。 昨日は首都圏の学生からスタートしたので、 今日の議論は地方の意見から始めたいと思います。昨日の流れをふまえ意見は

工学院大学/修士1年/時田寛子

C

法政大学/修士1年/小畠卓也

ないですか? 信州大学/修士2年/工藤洋子

工学院大学/学部4年/佐藤央一

東京理科大学/修士1年/今城瞬

東京大学/修士2年/藤本健太郎

長岡造形大学/学部4年/佐藤舞

東京理科大学/修士1年/木村周平

新潟大学/修士1年/矢作沙也香

長岡造形大学/学部3年/吉田知剛

日本女子大学/学部3年/加藤悠

新潟大学/修士1年/長谷川千紘

法政大学/学部4年/伊澤実希子

法政大学/学部4年/福井健太

横浜国立大学/修士1年/山内祥吾

前橋工科大学/修士1年/中村達哉

早稲田大学/修士2年/矢尻貴久

早稲田大学/修士2年/杉本和歳

工藤:私は長野市で勉強しています。地方か首都圏かといえばもちろん地方で す。研究室活動として、大学キャンパスのある長野市ではなく、近隣の K 市 で、とある物件の基本設計を行いました。建築設計に伴い、敷地周辺のフィー ルドワークを始めると、その街の一部は先に他の大学が調査していることを知 りました。地方である長野のごく一部分で、 その街の人ではない都市の大学と、 地方の地元とはいえない大学がタイムラグをもって関わっていることに違和感 と、不思議さを覚えました。

小畠:他大学との見解の違いをかんじたのですか? 調査対象区域と、調査内容の違いもあり、そういうところもありました。他大 学は街並み保存・修景の研究の成果から、対象街区の修景を成功させていると 感じました。しかしそこ以外に住む人たちは自分たちの街区の風景の魅力に気 付いていませんでした。設計予定敷地はそういった街区であることもあり、私 たちは保存・修景には至らないくらいの細かい風景要素の抽出を行い、建築デ ザインに利用することを考えました。そのように風景の魅力は外から来た人が 発見し、利用することで、中に居る人たちが気づくきっかけになるのではない かと思います。

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建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」


9 二日目ラウンドテーブル

小畠:千葉大学と見解の違いを感じたのですか?

工藤:そういうところもありました。小諸市は千葉大学の研究の成果から街並 の一部はすごくきれいに整えられています。しかしそれ以外の地域の人たちは そこの風景の魅力に気づいていませんでした。風景の魅力は外から来た人が気 付かせてあげることで、気づけるのではないかと思います。

藤本:地方都市の学生に質問なのですが、卒業後どういう場所で活動していこ うと考えているのですか? 小畠:僕は神奈川出身で学部を京都で学び、大学院で東京に戻ってきました。 京都に住んでから地方について分かったことがありここで設計活動をしたいと もを考えましたが、逆に入り込んでしまったら見えないことがあると考え、東 京に戻りそこから地方をみてみることにしました。将来的にはまた地方に行き 東京を見てみたいと考えています。 K市Mプロジェクト/信州大学 矢尻:僕は三重県の四日市市出身で、 将来は東京で設計活動するのではなく戻っ て建築文化の弱いところで何かできるのではないかと考えています。現在地方 で学んでいる学生はその場所でやっていこうと思っているのでしょうか?

とある施設の基本設計。保存・修景対象には該当しないような、細かな風景要素をリサー チし、設計デザインに用いた。リサーチ結果の風景要素は、デザインに用いるだけでなく、 小冊子にまとめあげて、市民や観光客へ配布できるようにした。

工藤:私は来年から大阪で働くことになっています。周りの人を見てみると、 やはり東京に出ていく人が多いと思います。しかし長野出身の人は将来的には 戻ってきたいと言っていて、自分の出身地にポテンシャルを見いだしているの ではないかと感じています。

佐藤(舞):新潟県は建築活動している人が少なく、地方での活動が面白いと 気づいてもそこでやれない現状もあります。最終的には戻ってきたいと考えて いてもいったんは外に出ないと出来ないことがあります。

杉本:現在いないならば最初の建築家としての席を狙えば良いのでは?新潟大 学の矢作さん。

矢作:私は東京で就職したいと考えています。それは、これまで地方にいたの で首都圏に出ることでわかることがあると思うからです。しかし、最終的には それを地方に還元したいと思っています。

山内:僕は最近地方の建築家もいいなと思いました。それは、そこに住みなが ら一つの街を少しずつ良くしていくという面白さがあるからです。

工藤:面白いとは誰にとっての面白さなのでしょうか? 私たちが面白いと 感じることと住民が感じることにはギャップがあるのではないでしょうか。 ギャップを埋めるにはそこに住むしか方法がないのでしょうか?早稲田大学の 杉本くん。

矢尻:建築家は仕事があれば…安藤忠雄さんは世界各国で仕事をしているが常 に地元大阪の景観ことを考えていると聞きます。建築家にとってどこに拠点を 置くかはすごく重要なことだと思います。

小嶋: (今皆が話していることはリアリティーがあること。 )メディアに出るこ とが建築の存在感なのでしょうか。 日本の地方都市にも設計事務所はあります。 しかし建築雑誌には出ていない。それは雑誌が誠実な仕事だけでは取り上げて くれないからで、メディアにのるアーキテクトになるかどうかで生き方は全然 違います。 もう一つ、東京で一度は活動するかどうかについて。一回外に出 ると相対的に見ることが出来ると思います。もしそういう目的で動くのならば アジアの国など違う価値観に元づいた社会に出て自分が今何をやって来ている かを考えたほうが、相対的にみるには距離がある分力強くなってくるのです。 そういった意味で景観を考えるとどう対象化するのかということがテーマなり

建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」

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9 二日目ラウンドテーブル ます。対象化することの反対に踏み込まなければ分からないということがあり ます。信州大学の工藤さんの話ですが、そういうことに気づけるのは建築につ いて学びトレーニングを受けているからなのでしょう。

矢尻:早稲田大学の古谷研では島根県の雲南市でプロジェクトを行っています。 シャッター街となってしまっている街並は地元の人も問題意識をもってはいま した。1年はこちらからの提案だけでプロジェクトを進め、それなりに、賑わ いました。 それがシビックプライドのきっかけとなったのではないでしょうか。 次の年からは市民の人たち自身が話をして企画を出すようになってきました。 来年からは地元の高校生がイベントを考えるようになり自分たちが一歩引くこ とになりました。建築は作って終わりなのではなく地元のプライドを刺激し、 何が面白いのか気づかせて自分を相対化して見られるようにすることは地方都 市を救うということにつながるのではないでしょうか。

加藤:私は日本女子大で学んでいますが都市で学んでいるという意識はないで す。景観が維持できるかどうかは地元の人たちの興味を維持できるかが重要だ と考えています。直島のように成功している事例もありますが、建設から数年 すると住民の興味がなくなってしまうものもあります。地方とか都市が重要な のではなくてそこにいる人たちの興味を引き続けられるものが良い景観になる のではないでしょうか。だから、永続的に興味を引き続けられる景観を考える ことが重要なのです。

中村:今の話にすごく共感できます。前橋にある戦後から残っているビルに住 んでいる人に聞いてみても生活に不自由はなく、そこをどうかしたいという意 識がないです。建築を学んでいる学生がアドバイスすることも大切ですが、そ こに住んでいる人たちの意識レベルを高めるようなことをすることによって自 分から動けるように導くことが地方都市には必要だと思います。

小嶋:その古いビルは都市景観的に何か問題があるものなのですか?

中村:それもあります。さらにこれらのビルは使われていない階も多くあり、 窓ガラスが割れたままの場所も多いです。そこが気になりインタビューをしま した。

佐藤(舞) :ある程度の人口密度がある場所では今のようなことは大切です。 しかし中山間地域では昔ながらの美しい茅葺き屋根の風景は高齢化によって地 元の人が残したくても残せない状況にあります。そういう地域では仕方なく茅 葺き屋根からトタン屋根に変えてしまっていのです。住民の意識を高めても場 所によっては限界があります。

佐藤(央):周りの人たちも住民も残したいと思っている風景ならば残してい くべきです。しかし、住民がそこまで必要だと思っていないものは持続してい かないといます。

工藤:必要か必要でないかという話をすると、建築を勉強していない人は景観 ということを知らないのではないでしょうか。そこを私たちが必要と気づかせ ることが重要。必要よりも少し手前のいいと思わせる作業がないでしょうか。

小野:さっきの茅葺き屋根からトタンになったという話をすこし都市の立場か ら聞いていました。私たちからみるとそのトタン屋根も面白いと思っていまし た。そういうことも地元の人に気づいて欲しいです。

杉本:トタン屋根はいいか悪いかという問題より、この地域独特の屋根が最近 出来た文化であり、ここ数十年で出来た新しい景観だとポジティブにとらえて いました。

小畠:景観の分野を「相対化」といったキーワードの元で話が進められてきて

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建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」

前橋市の戦災復興の一貫として主要幹線街路に対して建設が行われた耐火建築物。しかし 長い年月の経過によって、建物の老朽化や居住者不在等のことから、まちの景観に対して大 きな影響を与えている。


9 二日目ラウンドテーブル います。そうすることで、 今までネガティブに捉えられていた事柄を、ポジティ ブな見方をすることも出来ることが分かったと思います。

小南:ひとつの事柄でも、地方の学生と首都圏の学生では、違う見方をしてい ることがわかったことは、 話としては良い方向に進んでいると思います。また、 気付かせる行為もキーワードになってきているのではないでしょうか。

小畠:地域でのシビックプライドを持ったうえで、茅葺きを残す、トタン屋根 の姿を残すといった、時代の流れの変化を受け入れて、その時の今の姿をポジ ティブにとらえていくこともありなのではないでしょうか。 文化協会の方:現状の社会変化の中で、建築家はカオスに負ける。高田地区は ガンギや、雪を道に落とすために工夫された建物での高さの変え方といった文 化景観がおもしろいです。だが、老朽化や個人意思、経済的な問題から維持が 難しいのです。建築家がなんとかしようとしても、この現状には、文化や建築 家は負けてしまう、時代の流れがあると思います。だから茅葺きが良いといっ ても、いずれはなくなるでしょう。

維持していくのが困難な茅葺き屋根

小畠:このような意見もありますが、皆さんはどう思いますか?相対的に見た ときには、多くの人は残したほうがいいという意見が出るが、実際はそういっ た現状があります。それを残すことが、地方都市を救うことなのかという話に もなるのではないでしょうか。

小南:先ほど、佐藤さん w が言ったように、維持することの難しさがあると 思います。空間として、興味を引き続けられるということは、いい景観として 維持出来ているということです。だから、カオスに負けていくなかで、私達が いいとする日本の景観をそのまま残すことがいい景観なのか、時代変化の中で 生まれた景色も含めて、いい景観と言うのか。そういった考えが出ると思いま す。

文化協会の方:上越市には古い独特なつくりの家がたくさんあり、それを、遺 族達は市に寄付したいという要望もたくさんあります。しかし市は、遺族が期 待する維持方法にはお金がかかりすぎるといったことから、維持するのは難し いと見解を持っているのです。理想と現実では、上越市の場合はやはり大変で す。だから、どんどん消えていくでしょう。町並みを維持していこうというの は難しいです。理想を討論するのはいいだが、なかなか大変なことなのです。

文責:小畠卓也、小南聡美

建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」

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9 二日目ラウンドテーブル

C

group

「完結しないデザインをデザインすること」 「ゆっくり」というキーワードから 吉川:私たちは昨日、建築を通してどのように地域の方とコミュニケーション してゆくのか、という問題提起を小嶋先生からされましたね。実際に地方都市 でプロジェクトを行っているメンバーが多かったので様々な現場の声がきけま したが、言葉がいろいろ出てきてまとまりきらなかったように感じます。そこ で、今日は昨晩の議論で多く発言されていた「ゆっくり」というキーワードを テーマとして挙げようと思います。確認すると、昨晩出てきた「ゆっくり」と

T

講師/千葉学

C

東京理科大学/修士1年/吉川潤

C

日本女子大学/修士1年/布留川真紀

工学院大学/研究生/別府拓也

工学院大学/学部4年/濱田真理子

工学院大学/学部4年/伊藤 慎太郎

信州大学/修士1年/香川翔勲

東京大学/修士1年/斉藤拓海

東京理科大学/修士1年/高山祐毅

東京理科大学/修士1年/佐々木玲奈

新潟大学/修士1年/吉田邦彦

長岡造形大学/学部4年/星野智世

法政大学/修士2年/ 円城寺香菜

新潟大学/修士1年/小林成光

前橋工科大学/修士1年/外崎晃洋

法政大学/修士1年/氏家健太郎

早稲田大学/修士2年/梶田知典

横浜国立大学/修士1年/砂越陽介

早稲田大学/修士1年/伊坂春

いう言葉には多くの意味があって、例えば、地方都市では建築が完結せず持続 してゆく、 つまり時間軸が「ゆっくり」であるということや、 地域や伝統を「ゆっ くり」ひも解く第3者としての建築家のスタンスのことでした。

高山:今朝見学した高橋先生の別荘の付近で、越後妻有トリエンナーレの話は 松代あたりまでしか波及せず伝わってきていないということを聞きました。あ る拠点があって、ある程度まで情報はゆっくり波及してゆきますが、それ以上 はインターネットなどの、最短距離で情報を得る方法が適当であると思いまし た。

佐々木: 「ゆっくり」とは、ゆっくり伝わってゆくということ、ゆっくり変化 してゆくということではないですか?後者のように、急激な変化をよしとしな いのならば、地域の中にゆっくりよりそってゆく建築の姿を目指すべきです。 例えば、ガウディのサグラダファミリアにように、少し先のビジョンを見せな がら常にゆっくりと変化し、いつのまにか誇りとして市民の心の中に根付いて いるような建築とか。

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建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」


9 二日目ラウンドテーブル

香川:地域性や地域文化を無視してきたモダニズムは、 「ゆっくり」に対して「は やい」というイメージですよね。サグラダファミリアは建築そのものがゆっく りつくられてゆくケースですが、地方都市に「はやい」宇宙船のような建築が 急に生まれてゆくことへの疑問がみんなにはあるのではないかなと思うのです が・・・どうでしょう?

吉川:そうですね。そして、そういった2種類の建築を比較してゆけば、「ゆっ くり」がより明確になるように思います。

円城寺:でも、 私はどちらの建築にも「ゆっくり」は当てはまるように感じます。 アイコニックな建物をつくってゆっくりと周辺に変化が伝わってゆくことと、 ゆっくりと変化する建築をつくることと言い換えられるのではないですか?

梶田:早稲田大学の雲南プロジェクトでは、一つの施設を建てたりするだけで はなく広い範囲を連携させてゆくことを目指しています。地方ではまわりを相 互に補完させ合うネットワークが、 「持続性」や「ゆっくり」につながってゆき、 それが大きな変化を生むのではないでしょうか。

斉藤:ネットワークのデザインと同じように、地方での「距離」や「経路」は デザインの可能性を持っていますよね。都市では高密であるために何かをひと つ作っても周辺を大きく変えることはできないですけど、ぐんま昆虫の森で安 藤さんが普通の森を昆虫の森に変えてしまったように、地方では周辺をまきこ んだデザインが可能だと思うんです。

梶田:地域全体を博物館にしてしまうエコミュージアムという概念もあります よね。この場合、建築を建てるだけではなく、ゆっくりと地域を関わってゆき 運営側にやる気を起こさせてゆかなければならない。 ぐんま昆虫の森 昆虫観察館 ( 本館・別館 ) /安藤忠雄建築研究所

佐々木:でも、 「経路」をデザインするというとマスタープランになってしまい、 都市計画のように経路や規模を先に設定してしまうと、その外へ伝わってゆか ない地域限定になってしまうのではないですか?

斉藤:僕が言った「経路」とは物理的な距離のことではなくて、例えば月影の 郷では地元の野菜で食事を運んで作ってくれるような、まわりをまきこんでゆ く経路のデザインのことです。盲導犬センターでのエコ・サイクリングも新し い経路をつくり出し、まわりをまきこんでいった手法と言ってもよいのではな いかと思っているのですが・・・千葉先生?

千葉:僕?(笑)盲導犬センターではその地域のポテンシャルをあぶりだした という印象を持っているかな。 新しく作ったものはセンターだけだったけれど、 エコ・サイクリングという新しい経路がきっかけで、ばらばらだった富士山周 辺の地域の結束が生まれて、周囲に及ぼした影響はとても大きかったと思いま す。

円城寺:月影の郷周辺の地域でも集落内での結束が強くて、私たちも集落同士 のつながりや経路をあぶりだすデザインを意識しています。

別府:あぶりだすために必要なのはコミュニケーション能力ですよね。建築家 はコミュニケーションによってきっかけを提供する立場なのではないかと思い ます。

持続してゆく建築の姿とは 千葉:このテーブルの議論の面白いところは、完結せず持続してゆく仕組みを 具体的に話しているところだと思うんだよね。建築をつくるプロセスやその後

建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」

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9 二日目ラウンドテーブル の運営のプロセスにおいて、「ゆっくり」ということはもちろんだけど、地域 のポテンシャルをあぶりだす話であったり、部分をつないで新たな経路を生み だす話であったり、月影の郷のように途中まで作ってその後はセルフビルドで 作り足してゆく話とか、多くの具体例があるはずだよ。

氏家:持続させるということは建築家の手を離れる部分が多いということで、 専門知識のない地域の人々に「どういった目的でやっているのか」を伝えるこ とがとても大切になってきますよね。

濱田:それは次につなげてくれる人と夢を共有するということではないかなと 思います。時間をかけて大きなものをゆっくり完成させてゆくサグラダファミ リアを例にするとわかりやすいと思います。

吉田:新潟大学の高架化による空き地のポケットパーク化プロジェクトでは、 里山のみどりを公園にもちこむというコンセプトで住民とともに制作活動を 行っていて、みどりや公園そのものは完結しないものであるという印象をもっ ています。

月影の郷 外装ルーバー交換 「月影の郷」外装に設置された杉のルーバーは、夏は庇、冬は雪囲いの役割を果たす。年に 2 度学生がこのルーバーを交換することで、夏仕様から冬仕様へそしてまた夏仕様へ、とい

高山:サグラダファミリアでは作り続けているという宣伝効果が生まれていま すね。実現可能かわからないけれど、建築自体が完結しない仕組み、例えばま ずは人が集まれるホールをつくって、そこからワークショップを重ねて住民が 愛着を持って作り続けて大きくなってゆく建築のような、こういった仕組みも ひとつの方法ではないかなと思います。

砂越:皆の話を聞いていて、建築が作る対象がハードからプロセスへ移行して いるのではないかと感じました。何かを完成させることが目的なのではなく、 プロセスを根付かせることが目的のデザインを私たちは目指しているのではな いかな。

氏家:プロセスのデザインに加えて、先ほど話に出てきた夢を共有するデザイ ンも目標としたいです。こういったデザインを生むためには、地域の建築・祭 りなどの文化を広い視野で見ることのできる地域の調査が必要になってくると 思います。

香川:その地域での夢とは何かを考えるということは、千葉先生の「地方のポ テンシャルをあぶりだす」ということにつながってくると思います。だからこ そ、月影の郷からサグラダファミリアまで、その地域ごとにまったく異なる夢 が形となってゆくのではないかな。

伊坂:今はプロセスとして完結しないという話をしていますが、地域の魅力を その地域だけで完結させないでまわりへ発信させてゆくという、 別の意味の「完 結しない」という考え方もありますよね。

別府:情報の発信は地方において重要度が高くて、例えば新潟では、新潟と東 京でどう情報をやりとりするのか、どのようなネットワークを組み立てるのか が大切なんです。

斉藤:先ほど話に出た「祭り」は完結しないデザインのわかりやすい例ではな いかと思いました。祭りの良さとは、完結しないものをつくるということと、 ものを完結させないものをつくるということ、どちらも成立していることだと 思って・・・月影の郷でも、小学校を完結させていないということ、さらに月 影の郷自体が地域コミュニティの核となって完結させないものをつくっていま すよね?

円城寺:月影の郷では外装のルーバーを毎年少しずつ変えてゆくことで、建築 が更新し続けていることを周囲へ伝えているんです。いま思い出したのは、古 谷先生のアンパンマンミュージアムのことで、市民がいじることのできる模型

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建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」

う変化するファサードが生まれている。


9 二日目ラウンドテーブル を展示することで建築が変化するものであることを伝えています。私たちが考 えるべきことは、建築は変化するものであり完結しないものであるということ を伝えるデザインを、いかに建築にとりいれるのかではないかなと思います。

香川:建築が完成した後も地域への影響を保ち続けることは持続性があるとも 言えて、そのために建築ではどういったことができるのかはなかなか難しいで すよね。でも、月影の郷のルーバーのように、完成した後にも完結しないデザ インというのは、地域の人の手入れをまきこむ持続の方法を実現させているよ うに感じます。

砂越:地域の人が手入れをしてゆくという話になると、白川郷の合掌造りを具 体例として思い出します。あの地域では全員で屋根を変えることが伝統として 残っていますが、そういった行為を新たなデザインにとりこんでゆくとおもし ろいものができると思います。月影の郷でも、変化する余地がある建物である という印象をうけ興味がわきました。

佐々木:一連の話を聞いていて、繰り返してゆくこと、更新してゆくこと、夢 に向かってゆっくり進んでゆくことなど、完結しないデザインのデザインは 様々であることを実感します。

砂越:月影の郷のように多くのデザイナーがいて一色に染まっていないことも ひとつの手法かもしれないですね。

吉川:変化の余地があるという話もありましたよね。

別府:地方と都市を比較すると、地方では「完結しない」ということに対し建 白川郷

築が介入できる部分が大きいのではないですか?議論してきた様々な手法、つ まり完結しないデザインは地方でより有効であると言えるのではないかと・・・。

一同: (うなづく)

千葉: 「完結させない」ということは他者へ任せる部分が多いと言えるけれど、 それは一方で作品を作りたいという建築家の意欲と相対する時もあって。皆は 実際にどういったことが建築家としてできると想像しているのか、またどう いったことに興味をもっているのか聞いてみたいな。

砂越:僕は完結しないデザインのデザインに元々興味があって、イタリアの円 形劇場の残骸にくっついている家などを見ると、完結していないということを 感じますね。

佐々木:私は様々な人が集まって地域を開発するモザイク状の開発に興味を もっています。

斉藤:私は建築だけでなくそのプログラムもつくってみたいと思います。そう いった分野でも、いかに完結させないかということを考えてみたいです。

布留川:今日の議論は「ゆっくり」というテーマからスタートしましたが、議 論を進めてゆくと、 「ゆっくり」とは建築を「完結しないデザインのデザイン」 のひとつの手法であることがわかってきました。この手法には、更新し続けて ゆくこと、繰り返してゆくこと、夢を共有すること、ゆっくりと作り続けてゆ くこと、多くのデザイナーとつくること、など様々な観点から意見が挙げられ ましたね。最終的に私たちが行きついた結論は、そういった多くの手法の前提 として建築家が第3者の視点から地域のポテンシャルをあぶりだすという行為 が必要であること、そして「完結しないデザインのデザイン」とは、都市より 地方でより有効であるのではないかということではないでしょうか。最後に千 葉先生から提起された問題は、宿題として皆それぞれに考えてゆければよいと 思います。                      文責:布留川真紀

建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」

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9 二日目ラウンドテーブル

D  group

「小さな景観」 時間軸で考える 横川:新潟大での川でのインスタレーションや越後トリエンナーレでは、一時 的なイベントであっても、繰り返し続けることによって、周りの人にだんだん と知られていきます。その場所でしかできないことをやること、その場所だけ

T

講師/山代悟

C

東京大学/修士2年/横川美菜子

ではなく広い範囲で話すことが大切なのではないでしょうか。小さな景観につ いて考えていることを議論していきたいと思います。

C

東京理科大学/修士1年/村山圭

工学院大学/研究生/秋山照夫

工学院大学/学部4年/山内響子

トリエンナーレのようになど関わり方として、ソフトなやり方もあります。

工学院大学/学部4年/長谷川公彦

信州大学/修士1年/立野駿

熊谷:自分がインターンをしていた原宿では「1日」という時間軸の中でも、

東京理科大学/修士1年 /佐々木俊一郎

東京理科大学/修士1年/中村大地

長岡造形大学/学部3年/長谷川孝文

東北藝術工科大学/修士1年 /黒田良太

新潟大学/修士1年/佐藤貴信

日本女子大学/学部4年/青柳有依

法政大学/修士2年/小野裕美

法政大学/修士1年/熊谷浩太

前橋工科大学/学部4年/武曽雅嗣

横浜国立大学/修士1年/佐藤賢太郎

早稲田大学/学部4年/小堀祥仁

早稲田大学/OB/丸山傑

佐藤賢:小さな景観を考えたときに、建築家の職能を考え、自分でできること を話していきたいです。 形として建築を作ることもできるけれど、越後妻有

都市の風景がどんどん変化していきます。例えば、お弁当を買う時間帯には人 が集まる、など。

長谷川孝:今研究室で活動をしている弥彦村(神社が有名)では、温泉があり、 ちょうちんをもって歩く、というイベントがあります。人がちょうちんを持っ て歩くだけでも風景は変わります。地方では、お祭りも「1年」というスパン の時間軸の風景の一つと言えると思います。

○○:妻有など過疎になっていく地域では、人が住まなくなり、家が汚くなっ たり壊れたりします。それを近くの人が関わりながら、アートを展示したりし ます。お祭り後も、お祭りでできたアート作品が残り、風景として蓄積されて いくのではないでしょうか。

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建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」


9 二日目ラウンドテーブル 青柳:自分が参加した「やねキノコ」では、たくさんの家の模型を並べて展示 しました。最終的には、模型を家の人にすべてあげてしまったので、何も残ら なかったけれど、まだ「そこにある」という感覚が残っています。自分がその 場所に関係していたことが残せたと思います。

横川:今までの話から、木の傷など目に見えやすい「蓄積される風景」と、や ねキノコなど消えてもそこにあるように感じる「消える風景」の二つの風景が 出てきていると思います。

山代:昨日のレクチャーの内容は「消える」方。消えるけれど残る「音楽」の ようなものという考え方もあるかもしれません。この場所で何かやってやりた い!という意欲の沸く場所を発見したり、作ったりすることが皆さんの仕事で はないでしょうか。

佐々木:1日のスパンで見ると、夜景は誰もコミットしていないけれど、実は 誰もがコミットしています。1日なら夜景、1ヶ月ならトリエンナーレという ように、あるスパンによって消えるものを考えていくとよいのではないでしょ うか。 また、棚田やカーブした道は、別の場所から来た人々にとっては新鮮で感動で きるが、地元の人にとってはどうでもよい。このギャップについて考え、お互 いがコミットしていく方法を考えていくことが大切なのではないでしょうか。

中村:地方都市では、田んぼの中にショッピングモールが突然現れる風景がよ く見られます。 高齢化社会を考えた時に、 移動手段がなければショッピングモー ルには行けないので、50 年後には廃虚になる可能性があります。ショッピン グモールを倉庫や廃墟にさせないためには、建築ができることがあるのではな いでしょうか。

村山:使われなくなっていくもの、という話が出ています。小堀君、プロジェ クトについてお願いします。

小堀:早稲田古谷研のプロジェクトで、島根県の100mの商店街に、お祭り 時に100mの長いテーブルを設置しました。一時だけれど、テーブルを介し た交流をきっかけとして、崩れかけたコミュニティを取り戻すことができるの ではないか、と考えました。イベントが話題となって、徐々に広がっていくの を感じています。

横川:このようなイベントを一点だけではなく、広げていくためにはどうすれ ばよいのでしょうか?

山代:地元の人は、 棚田の美しさに気づいていないだけ。空いている棚田を使っ て、何かできればいいのではないでしょうか。

横川:ある一点だけに何かをするのではなくて、広がる棚田に何かをすると、 頭の中で棚田のイメージが広がります。広がりを目で確認できるし、頭の中で 「ここまでが棚田の地域」など認識することもできるかもしれません。

山代:田んぼの中にイオンがある状況は、すぐには曲げられない状況です。私 は普段の買い物はイオンなど大手にまとめて買いに行くけれど、食事に関して は街の居酒屋、眺めのいいレストランなど、小規模な場所を選択します。そう いう場所に小さな景観の、リアリティのある可能性があるのではないでしょう か。

雲南プロジェクト さくらまつりイベント企画/早稲田大学古谷研究室  2007 年より島根県雲南市を舞台として活動する一連のプロジェクト。少子高齢化を背景 とした市町村合併の起こる中山間地域において公共施設やこれに準ずる施設のあり方とし て、新しい像を発見しようとする試みである。内閣府より受託した「都市再生モデル調査を 事業」からスタートし、それぞれの施設に対して行った提案の中の一つが『さくらまつり』 として実現した。商店街に並べた 100 メートルのロングテーブルの企画(写真)や、空き

消える景観 集落の安楽死

店舗を利用した内装計画やプロダクトデザインなどを行った。現在は、築 100 年以上の空 き家を雲南市の食の魅力を伝えるオーベルジュに改修するプロジェクトへと展開している。

長谷川公:トリエンナーレのようなアートイベントだけでは、都市では通用し

(2010 年 3 月オープン予定)

建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」

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9 二日目ラウンドテーブル

ても、地方では弱いと思います。実際に若者が滞在し、中に入り込むためには、 ソフトな面でのもっと力強いものが必要だと思います。アートだけでは活性化 させることはできないと思います。そもそも、この街は必要か?この街がなく なって困るのか?ということが一番初めにある問題ではないでしょうか。

長谷川孝:都会の人がやってきて棚田に感動し、この町を「残したい」と思っ ても、実際に住んでいる人は減ってきているのが現実です。山起こしでコミュ ニティセンターをつくっても、継続するのはとても難しい。中山間地で、少子 高齢化が進み、人口減少していく今、町自体を消していってもいいのではない でしょうか。必ずしも、今あるものを残す必要はないと思います。

長谷川公:人が減り、家がなくなっているっていう事実を認め、本当に残した いのであれば、もっと劇的な何かをするべきだと思います。そうでなければ、 潔く、「この街はもう要らない」と割り切り、若者は外に出て行って、高齢者 だけが残り、滅びていくのがよいのではないでしょうか。

横川:町の終わりはどのように来るのでしょうか?最後にどうしても残る人が いると考えられるが、その人たちに対してはどうするのでしょうか?

長谷川公:町が都市機能として成立しなくなるので、皆が外に出て行って終わ ります。残りたい人は自給自足で残ればよいと思います。そこには関与する必 要はないと思います。

横川:いくつかの村がなくなると、だんだんと一つの場所に集約していくと思 われますが?

長谷川孝:実際の問題としてすでに起こっています。集落は点在していて、ひ と世代しかいない集落もあります。そのような集落では、車を持っている人が 死んでしまうと、街が機能しなくなってしまいます。今は、いくつかの点在す る集落を、一つの大きな集落にまとめようという動きがあります。必ずしも今 あるものを残す必要はないと思います。

佐藤貴:長谷川さんの主張は「都市化すればよい」というように聞こえます。 場所には場所ごとのよさがあり、なんでもかんでも都市化するのがよいとは思 えません。

長谷川公:その通りだと思いますが、場所のよさは、住んでいなくても、都市 に住み、その場所に行けば感じられるものだと思います。

横川:だんだん「都市とその他」というように、二極化してくる可能性がある と思いますが?都市が線でつながっているのではなく面的に広がっている方 が、全体として成立するのではないでしょうか。間に住んでいる人がいること が安心感につながるのではないかと思います。

長谷川公:自分のように地方から都市に出た人は、その地方にいるのがいやで 都市に出ていくことが多いと思います。地方に人がいる方がいい、というのは 都市に住む人側の押し付けなのではないでしょうか。

佐藤貴:しかし、それでもその場所に住み続けたいという人はいるので、その 場所のよさについても考えるべきではないでしょうか。

長谷川公:その場合は、トリエンナーレでは少し弱いので、もっと考えるべき だと思います。「都市化」が大切なのではなく、アートだけに頼っている状況 はよくないと思います。

山代:人口を増やすためのデザインもあるが、「どう滅びていくのか」もこれ から重要なデザインだと思います。内藤廣さんも、「都市の安楽死」と書かれ

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建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」


9 二日目ラウンドテーブル ています。トリエンナーレでは、経済的効果は薄くても、土地に対する誇りが 残ることに意味があると思います。 都市の間に人が全くいなくなってしまうと、 国のシステムが破綻してしまいます。合理的すぎるモデル化は危険だと思いま す。

点としての建築から 景観のネットワークへ 村山:越後妻有トリエンナーレは、期間の間だけではなく、開催前後で変化が あることに意味があると思います。消えていくという大きな流れだけを促進す るのではなく、自分のできる小さなことから始めてはどうでしょうか。議論の 最初の方に出ていた「木に傷をつける」ような、自分がそこにいる証を作って いくこと、そのきっかけを作っていくことが今求められているのではないで しょうか。

熊谷:都市の人と地方の人の認識のギャップがあるので、アートは人を住まわ せる動きにはならないかもしれないけれど、アートが置かれることでその場所

月影プロジェクト 越後妻有トリエンナーレ やねきのこ

が認識される、というのは意味のあることではないでしょうか。

本作品は豪雪地域の屋根形状をモチーフとして、河川公園に 170 個のコンクリート模型を展 開した作品であり、それぞれの模型は敷地である浦田地区の住居を一軒一軒再現されており、

横川:今、アートイベントはある程度認知されているので、次に何をするか、

浦田の縮図となるよう配置されています。

を考えてみたいと老います。例えば、自転車やシャトルバスなどの交通を拠り 所として考えてみてはどうでしょう。

村山:場所と場所の間の風景は、普段は通り過ぎるだけで見過ごしてしまいが ちだけれど、シャトルバスなどでつなぐと、バスの中から眺める視点、走って いるバスを眺める視点など、さまざまな立ち位置が生まれます。

横川:背景の中に点だけが出てくるのではなく、 シャトルバスなどの点線を作っ たり、エリアやイベントに名前をつけたりすることで、新しい場所の認識が生 まれるのではないでしょうか。

黒田:移動と風景に興味があります。フランスからスペインの間や、四国の巡 礼路など、歴史の中で移動するという人の行為の集積がその場所の風景として 認識されています。越後妻有トリエンナーレでは、車で回ることが多いが、間 の場所を素通りしてしまっています。自動車の移動をもう少し変えられないか と考えています。

秋山:素通りの場所を認知してもらう、ということは大切なのではないでしょ うか。車であれ、シャトルバスであれ、小さいものでもよいので「見る装置」 を点在させるのはどうでしょうか。

佐藤:トリエンナーレを自転車で回ったが、急な坂、山の地形、緑の見え方な ど、車の中からでは普段意識しない部分に気づくことができます。自転車で山 を登るのは、普段やらないことではあります。

村山:自転車レースなどは、普段やらなくても、 「レース」だといえば参加す る人はいます。強制的にやらせるような装置が存在すれば、強いと思います。

山代:文明は「役に立つ必要なもの」で、文化は「役に立たない必要なもの」 と書いた人がいます。自動車は楽をするための文明で、お金にもならない自転 車レースは文化。役に立たないものを取り込んでいくことに、人間としての楽 しみがあるのではないでしょうか。 文責:横川美菜子

建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」

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10 トークを終えて 学生

建築トークイン上越がもたらしたことを語る①

〈 72 名の学生の声〉 トークを終えて。 機会に積極的に参加することで、少しずつ自分の考え、意見に自信を持って発

■工学院大学/東京都

言できるような知識と経験を身につけていきたいと思います。

小さな景観を考えて/木下研究室/長谷川公彦  私たちの4班(初日千葉先生、二日目山代先生)では、中山間部地域を救う と題した大きなトークテーマの中から「小さな景観」というキーワードをもと に話し合いました。  「小さな景観」とは、地域活性化のために一人一人ができる行為のことで、 具体例として自転車でのツーリングを通して地域ごとを繋ぎ、活性化の足掛か りにしようという案が上げられました。個人的には、この議論の中で山代先生 が述べられた「都市の安楽死」という言葉が印象的でした。この言葉は、初め から地域活性化のためにだけでなく、ゆるやかに後退させ、終わらせていくと いう新しい考え方を僕に与えてくれました。現在、経済的・社会的に逼迫した 建築トークインに参加して/木下研究室/小南聡美

地域が日本中に溢れており、このような地域を全て救うことは難しいと思いま

地方都市を考えるという大きなテーマからどんなディスカッションが生まれ

す。個々の地域において地域活性化の議論の前に、本当に再生を計るべきなの

るのだろうと楽しみに参加しました。私のテーブルでは2日間を通じて景観に

か、それとも緩やかに終わらせていくべきなのか、そこから議論を始めないと

ついて議論が行われました。今回、地方の大学の学生の方と短い時間ながら話

いけないと今は考えております。

しをし、景観という1つのテーマでこんなにも考えていることことや価値観が

最後に、議論をリードしていただいた各校の代表者の方々へ感謝を申し上げ

違うことには驚きました。話しの中で首都圏や地方や関係なく人の興味を引き

て感想とさせていただきます。

続けられるものが良い景観であるという話しがでましたが、地方と首都圏とい う違う立場から話しを続けて共通の一つの答えにたどり着けたことは大きな一 歩だったと思います。しかし、これは景観を考えるというテーマのいくつもあ

建築、人々とのコミュニケーション/木下研究室/伊藤慎太郎

る答えの中の一つでだと思う。今回のトークインは時間も短くテーブルコー

トークインに参加する前は、地方都市を救うためにはどのような方法がある

ディネーターという立場もあり、発言が少なくなってしまったのが残念です。

のか、疑問に思っていました。建築をハードとソフトという 2 面に分けて考 えると、今回はソフト面を重点的に議論したように感じます。その中で、YGS -A や早稲田大学の地域活性化プロジェクトなどの具体的な話を聞き、建築を

建築トークイン上越を終えて/木下研究室/時田寛子

作る際には住民との直接的なコミュニケーションが重要であるという事が理解

今回このようなワークショップに参加をし、今まで体験したことのないもの

できました。また、住民の話を聞き入れながら作り上げるボトムアップな進め

でしたので、たいへん貴重なものでした。まず、私達工学院大学の学生は新宿

方は、時間をかけ、皆で共有できるビジョンを少しずつ作り上げる民主主義的

という便利な地にありながら、他の大学の方々はもちろん、他の研究室の方、

な方法で良いなと感じました。建築が出来上がったらそこで完結ではなく、あ

友人とでもあまり討論というものを行ったことがないということを実感しまし

えて完結せず、更新し続けるという建築のやわらかいあり方が求められている

た。他の大学の方々は自分の意見を言い、有意義な討論の経験が豊富であり、

のだと解りました。つまり、月影の郷のような、建築と人々が絶えずコミュニ

そんな中に混じるといつもに増して緊張してしまいました。私はもともとプレ

ケーションをとり続けられる建築が、地方都市を救う一つの可能性だとトーク

ゼンテーションや人前で話をすることにとても苦手意識を持っていたので、こ

イン参加を通じて思いました 。

の機会に今後につなげることができる糧を身につけたく参加したのですが、ま だまだ勉強不足でもあり、先生方の話や皆様の意見をメモすることが精一杯と なってしまいました。

未来につながる議論/木下研究室/宇賀神亮

もうひとつ今回非常に貴重であったのは、地方都市の人々、実際に地方都市の

今回このような多大学の学生が参加するイベントに参加できたことをうれし

中、私達と同じように大学で建築を学んでいる方々の生の声を聞くことができ

く思います。

たことでした。地方都市のこと、さらには私達の接点のない都市はすべて、な

議論をする中で地方の学生の話は興味深く、東京の学生が空間論主体の建築

にも知らない事実を知りました。

設計に時間を費やしている間、彼らは地元に寄り添いながら街づくりに関わり、

人事なのか、遠い遠い国のようにしか考えてなかったのです。それはこの「建

現実の建築、地域の人々を通じて実社会と関わっていることを大変羨ましく思

築トークイン」に参加をしなければ誰しも気付かないことだったのです。

いました。

やはり今回のワークショップを終えて、苦手意識は払拭されませんが、様々な

東北芸術工科大学の方からは山形 R 不動産といった、都市再生に関わるプ

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建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」


10 トークを終えて 学生

ロジェクトの話を伺い、さらに山代悟先生から「そのようなプロジェクトが将

が中山間地で私たちができることである。話し合いの中で出てきた「シャトル

来に仕事となりえるか」という重要な課題を投げかけられました。今後、建築

バス」 。意識されていない場所を意図的に巡るというのは一つの方法としてあ

のビジネス化が進むことが期待でき、建築が地方都市にとってのキーになりえ

りえると思う。中山間地の持つ豊かな自然を通り道としてではなく意図して見

ると思いますが、それについての議論まで至らなかった点は残念でした。

せる。その手法の創造が求められているのだと感じた。

地方都市の復興と実状、今後の建築家像など未来を意識し建築を考える上で の広い視野を獲得できたことは今回のトークインでの成果だと思います。 トークイン感想/木下研究室/近藤巨房  今回のトークインは非常に勉強になりました。前もって議題が出されている 建築の可能性/木下研究室/別府拓也

課題にとって社会的な問題から建築的な問題への還元を消化しその上で先生方

「地方都市を救う建築」というテーマで始まった今回のディスカッションは

が出された取り組み姿勢に対していかにして答えるかを個人的な意見をまず持

建築の中身をどう利用するかというソフトの話が終始多く語られたように感じ

つところまでのレベルに達する事の難しさと共にそれを共有する上での楽しい

られました。単にソフトといっても実際は振れ幅が広く、いろんな話を行き来

トークを来年は出来るといいなと思います。自分の意見としては過疎化の問題

しながら討論を続けてはいたが、そのうちに地方都市の持っている首都圏にな

を定住化ではなくリピーターを求める事からの視点という意見が面白いと思っ

い可能性というものに考えが収束した手応えがあった。それは人間が手のだせ

たので、そこから地方都市の古い街並みなどは東京などと比べるとビフォアア

ない自然現象の作用で、これに対し土地性を見出すことで、改めてここでしか

フターのような体験が出来るところが魅力の一つとして取り上げます。しかし

あり得ない建築が認識され、これに対し、今そこに住まう人々がどう振る舞っ

トリエンナーレのように分散した形ではなかなかその魅力を引き出すのが難し

ていくかという行為に建築家が新しい切り口を加えられるのではと考えた。

いので交通手段として利用される車から楽しめるような点と点を繋ぐような取 り組みをしたら良いのではないのかと思いました。

議論から見えたもの/木下研究室/佐藤央一  地方都市における景観の問題。 高齢化社会にどう対処していくかという問題。

建築トークイン感想/木下研究室/濱田真理子

どちらも今後日本社会の主要な課題であり、容易に解決できないことは明白で

今回の新潟トークインは、とても有意義なものであったと思います。特に月

ある。

影プロジェクトに実際に関わっている方や新潟や長野の学生さんと議論できた

この二つの難題を投げかけられた私は当初、正直に言ってその問いかけ

ことは、今まで地方都市に対する考えをあまり深く持ったことがなかった分、

( キーワードが二つあること ) に戸惑い、思考を前に進めることができなかった。

実状を知り考える良い機会になりました。また、他校に友達の輪が広がって、

月影で交わされた議論も明日何を議論するべきかという議論が中心だったよう

全体を通して楽しむ事ができました。どのような結果に繋がるのかはよく見え

に思う。このことが何を意味しているのか。学生にのみの現象なのか。この議

ていませんが、今後も継続して地元の方々に刺激を与えられるようなトークイ

論のやりづらさの元が何に由来するのか。木下先生が出した課題は意外な問題

ンになって欲しいと思います。

点を明るみにしたように思う。

建築という活動/木下研究室/山内響子  今回のテーマである「地方都市を救う建築」という問いに対して、新潟(新 潟市)出身の私は、とても興味をもってトークインに参加しました。  私の参加したグループは、 「景観」という大きなテーマに対して、 「小さな景 観をつくる」 ことをテーマに話し合いが進んでいました。 その議論を通して、 「建 築」は、 地方都市に大きな影響力を与えることはできるが、それだけでは「救う」 という力までは持ち得ないのだと感じました。新潟の大地芸術祭のように、新 しい建築がそこに生まれることで、より多くの人を地方に呼び込むきっかけに なるかもしれません。しかし、そこを訪れた人が、その場所に魅力を感じ、愛 着を持ち、また訪れたい、さらには住んでみたい!と思えるきっかけは、そこ で生まれる人とのかかわり合いのなかにあり、その関係を「小さな景観をつく る」活動によって生み出せるのではないかと思いました。他のグループが発表 していた「ゆっくり建築をつくる」など、建築を完結した目でみるのではない 考えは新鮮で、今後も自分なりに考えを深めていきたいと思います。

目的地と通り道/藤木隆明研究室/秋山照夫  過疎化していく中山間地がどのように存在していくべきか、あるいは、どの ように朽ちていくべきか、それを「小さな景観」(個人∼研究室単位で可能な 街並みに対する働きかけ)をキーワードに考えていくなかで、地方都市には、 ある目的地と、その目的地への通り道という強い性格分けが生じていることが 問題であることが分かってきた。都市部から訪れる人にとって、中山間地は通 り道としてただ通り過ぎる場所となっている。そのただ漫然と通り過ぎる場所 をいかに意識させるか、そこにどのように「小さな景観」を形成するか。それ

建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」

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10 トークを終えて 学生

■信州大学/長野県

職業としての

遊び

/坂牛研究室/大日方由香

今回の議論の中で、山代先生から ワークショップなどの活動を職業として 続けていく事ができるか という問いかけがあった。議論全体を通して建築家 と地域の人々との関わり合いは必要なのだという意識を多くの学生たちがもっ ていたように思うが、私はそうした ソフト としての活動を 職業 とする ことは困難であるが、それは建築家としての活動に必要な 職能 という面を もっていると感じた。その他には、ワークショップの内容もよく考えられた物 でなければ意味がないという話もあった。そうした議論全体を通して、これか ら地方都市に建築を作る際に必要な工程になるであろう地域住民との交流を、 自らが先導していくこと、そしてそれを単なる形式ではなく、建築にとって意 味のあるものとして成り立たせることなど、ある意味コミュニケーション能力 といえるようなものが必要なのではないかと思った。

自分の街・他人の街/坂牛研究室/小倉和洋  討論の間、「他人の街に対して意見する意味」を時々考えていました。上越 はやはり、他人の街でしかありません(上越の話はありませんでしたが)。街 をよくすることはよいことだと思います。しかし、それが他人によってつくら れた街であるならば、テーマパークと同じです。今の時代それでいいのかもし れません。しかし、街があってそこに人が住むのか、人が住むことで街がそこ にできるのかを考えると、街とは後者のものです。そうであるならば、必要な ことは「良い街を作る」ことではなく住む人が「自分の街を良くしたい」とい う意識を持つことです。街を作るのは建築家ではなく、住む人です。  では、そのときの建築家の役割とは何なのでしょう。それは遠くの方からた まに来て何かをやるのではなく、自らも住む人間としてその街を良くしたいと 意識することだと思います。それは地方や都市という区別はなく、東京なら東 京に住み続けることが大切なのだと思います。

建築トークイン感想/坂牛研究室/香川翔勲  地方の都市と建築を考える上で、僕たちのラウンドが設定したキーワードは 「ゆっくり」でした。これは、現状の都市や周辺環境を考慮せず一足とびに建 築を作ることへの疑問から生じたキーワードであったと思う。こういったキー ワードから始まった議論を経て、今僕が必要と感じていることは「日常」の再 解釈である。ただ目にみえるものだけでなく、普段何気なく起きている全ての ことを考え直すということである。今までごく普通なものとしてあったものを 違った視点でみる必要があり、それを利用・応用していくことは僕たち、建築 を学んでいる学生にとって重要なことであるように感じた。

建築トークイン感想/坂牛研究室/立野駿  私のラウンドテーブルでは「景観」についてのディスカッションをした。そ の中では正しい答えなどはあり得ないが、東京の大学と地方の大学の学生で ディスカッションできたことは有意義であったと思う。私は学部時代、東京理 科大学に所属し、大学院で信州大学に入学したためか、特に印象に残っている ディスカッションは「地方の大学と東京の大学との差」についてのディスカッ ションであった。私なりの意見だが、地方の大学というのは、独特のフィール ドを持っており、地域と密着した活動・研究をしていると感じている。東京は、 著名な建築家が設計した建造物、建築関係の数多くの本が置いてある大きな図 書館、有名な建築事務所など地方よりも圧倒的に多く、いろいろな刺激を多く 受けられると思うが、地方だからこそできる、地方でしかできないことという 大きなメリットを信州大学に来て感じている。

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建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」


10 トークを終えて 学生

■東京大学/東京都

建築にできる「消える」デザインという点が興味深かった。私は日ごろ、何 か新しい形を「作り出す」ことで、何か変わるのではないか、と考えがちである。 インスタレーションは会期が終われば音楽のように消えてしまうが、消えた後 も記憶の集積として残る。「もの」としての蓄積だけではなく、「記憶」として の蓄積も大切なのだと意識することができた。また、山間地で少子高齢化した 集落を安楽死させるなどの意見は、「すべてを残す必要はない」という地方出 身者から出た意見だった。より現実的な同世代の価値観に接することで、自分 の立ち位置をもう一度考え直すよい機会となった。「消す」デザインの話は山 間地に関する議論からでた話だが、都市部にも当てはまる話だと思う。「作る」 と「消す」のよいバランスと方法を考えていくことをこれからの課題としたい。 最後に、つたない司会の中で発言をしてくださった皆さん、先生方、ありがと うございました。

大きな宿題/千葉学研究室/斉藤拓海  僕たちの班では、まずそれぞれが普段行っている、街と連動して行っている 設計について話し合い、そしてそれらをきっかけにして、地方都市に眠ってい るデザインの可能性はどんなことがあるかを話し合った。しかし、そのそれぞ れ異なる具体例からなんとか「完結させない」というキーワードを紡ぎだすこ とが精一杯で、今度そのキーワードがどのように実際にデザインとして実践さ れるかは話し合うことができなかった。  そのように固有解と一般解を行ったりきたりすることでデザインを考えると いうことは、思えば普段の建築の設計課題のようでもあり、僕たちはその課題 がようやく見つけられたような段階であったように思う。そのため当日は、も う少し時間がとれれば面白くなるのに、という気持ちが強かったけれど、一方 で今また冷静になってみると、大きな宿題が残されているなあとも思う。それ にどう答えていくか、これからじっくりと考えてみたい。

建築ができること/千葉学研究室/高田彩実  チームでの話し合いの過程で、他大学の方々の取り組みについてお伺いしま した。都心部の学校ばかりではなかったため、単に地方都市で活動を行うだけ でなく、それよりも身近に都市再生を考えている方がいらっしゃったのが、興 味深かったです。ただ、それぞれのプロジェクトの狙いやその意義は地域差こ そあれ共有できたのですが、短時間だったこともあり、それが実際にどう動い ているのかを見当しにくかったようです。中山間に対して、何ができるかとそ れを実行するためのマネージメントと同時に、私たちの力でできる構築的な方 法を考えてみることの難しさを感じました。どちらもとても大事なのですが、 今後様々な人と関わる上で、どのようなポジションで参加することができるの かをもう一 度問い直したいと思いました。

地方と地方都市と東京(首都圏)/千葉学研究室/藤本健太郎  議論をしてみて、興味深かったことは、地方と都市という分け方が各学生に よって違うという点であった。長岡や金沢などは東京の学生から見れば地方で あり、その近県に住んでいる学生からすれば地方都市であり、さらにその地方 の山間地域があるということだ。それらの使い分けが学生同士できてなくて学 生同士の議論が噛み合っていなかったが、小嶋一浩先生にそのことを指摘され てその後、我々のテーブルでは地方山間部の景観について議論がシフトされて いった。議論の土台となる最低限のプラットフォームは各人が発言をする前に 共有していおいた方が良いと感じた。

「消える」デザイン/千葉学研究室/横川美菜子

建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」

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10 トークを終えて 学生

性化させるために建築やアートはどうあるべきか、という文脈で語られること

■東京理科大学/千葉県

が多かったように思います。しかし、どうやらそのような方向で中山間地域を 考えるのは無理があるし、むしろ「活性化を見据えない」建築の在り方がある のではないかと考えています。この考え方は従来の建築の存在意義と大きく矛 盾します。しかし、従来の枠組みの向こう側にこそ新たな建築像があるのでは ないでしょうか。

完結しない○○/小嶋一浩研究室/佐々木 玲奈  グループでの初日のトークテーマ(「建築は都市を救えるか」)から派生した キーワード「(地方都市における建築のイメージとしての)ゆっくり」が二日 目の学生主体の議論のトークテーマとなりました。地方都市において、完結さ せない建築のデザインが都市部に比べてより有効であり、その方法の一つとし て、「ゆっくり」があるということが浮き彫りになりました。 建築家にできること/小嶋一浩研究室/井上 雄貴

特に議論中に出た「完結させないプロセスの設計」という言葉は非常に興味

今回の議論の中で私は、建築家が地方と都市部に対して建築を設計する際に

深かったです。それは土地固有の様々な媒体変数をくみこんで更新されていく

どのような相違が生じているのかというテーマに強い印象を抱いている。東京

ようなダイナミックなものになる予感がするからです。「完結しない」という

のような大都市と中山間地域のような地方都市とでは既存環境の意味合いも変

概念にも魅力を感じました。

わり、また景観に対する重要度が違うと考えられる。多くの仕事を都市部の中

最後になりましたが、建築トークイン上越に参加させていただき、他大学の

に抱え、活躍している建築家がこれから中山間地域に対してどのようにその地

学生の方や先生方とのセッションを体験し考え方の幅を広げられる機会に恵ま

域の住民、景観、既存環境にアプローチをしていくかが重要なテーマになって

れました。関係者の方々にこの場を借りて感謝の意を述べたいと思います。あ

くるのではないだろうか。地方の建築は地方の建築家が考えればいいという意

りがとうございました。

見が議論中で出る一方、やはり、千葉学さんの盲導犬センター、大規模な例で は熊本アートポリスが地域に密着した良い結果を生み出している。このような ことから、建築家が都市部だけでなく地方にも広い視野をもって介入していく

未完であることの可能性/小嶋一浩研究室/高山 祐毅

ことで新たな環境を作り得ることができると再認識した。

今回、「中山間地域を救う建築」という議題で 2 日間に渡りディスカッショ ンしていったわけだが、あるキーワードをもとに話は進んでいったように思う。 あれから少し時間が経ち、自分の中で「未完」という言葉が浮かんできた。そ

上越讃歌/小嶋一浩研究室/今城 瞬

れは継続性という意味の未完であり、ハードやソフトを包括した、かなり漠然

2日間にわたり議論を重ねていき、様々な問題が浮上してきました。

とした言葉である。建築家がただ建築を設計すればいいという考えはどうも通

初日の議論においては、まず参加者がテーマに対してどのような理解をして、

用しないらしい。その建築が地域にどう受け入れて貰うかとか、これからどう

どのような態度で臨んでいるのか、という意識が各大学において全く異なって

関わっていくかとか、そういった部分のデザインの重要性と手法に「未完」と

いたこと。2日間という短い時間の中でなにかを生み出そうとする時に致命的

いう言葉が絡んでくる。未完とは何か。それは手法であり、実際的に建築その

なことではないのか。

ものに地域住民が関わることのできる余地であるのかもしれない。東京のよう

やはりもう少し早い段階で、共通の意識や態度をそれぞれが確立し、トークイ

に気付くと新しいビルが建っていたというようなことでは、ここでは建築は廃

ンに臨むことが今後の課題ではないだろうか。内容に関しては、直接現地へ赴

れるだけである。

き、地元の大学の方の意思を聞き、感慨深いものがありました。1年に1度で はとてももったいないのではないでしょうか。 地方都市の風景/小嶋一浩研究室/中村 大地  地方都市について議論していく中で、地方や郊外を食い散らかすロードサイ 首都圏と地方都市/小嶋一浩研究室/木村 周平

ドの風景の話が出た。ジャスコなどの巨大ショッピングモールの出現によって、

今回、地方都市を救う建築という解決が困難な議論の中、私たちのテーブル

農村地帯が都会並みの消費生活を獲得することになった反面、中心市街地では

では首都圏と地方都市という全く異なる二つの視点から議論の収束に向かいま

商業的衰退をもたらし、その問題は年々深刻化しているという。数十年後の撤

した。

退時 には郊外の風景の中に巨大な廃墟を残すことになり、結果的に経済・景観・

その中でも、 地方都市の郷土愛に偏った意見 (住民主体の都市計画というシビッ

コミュニティーなど数多くのものを破壊する可能性があるというわけである。

クプライドとは別のもの)が中心となりましたが、各々の原風景を語り合った

人口縮減の時代をむかえはじめた今、消費システム自体の組み替えを考えてい

ように、今回は各都市から集まった若い世代の人達が解決に向かって意見を共

くと同時に、建築の側面から出来ることを提案していかなければならない時期

有することに、トークインの意義があったのだと思います。

にきているのだと強く感じさせられたトークインであった。

活性化を見据えない建築像/小嶋一浩研究室/佐々木俊一郎

建築家の職能/小嶋一浩研究室/松本 透子

ある東京の学生から発せられたトリエンナーレのようなイベントへの疑問に

建築家の職能、及びワークショップの許容範囲についての話が印象的でした。

対する、山代先生の「ゆっくりとフェードアウトさせてゆく」という言葉が印

建築家が周囲の理解を得るために開くワークショップが、学生主体になると「お

象的でした。建築やアートイベントは自動的に「活性化」を期待され担ってし

祭り」的なイベントに変わってしまいます。地方には既に祭がたくさんあり、

まう性質をもっています。そのため、これまでの議論では、元気のない町を活

これ以上のイベントは必要なく、また建築家の職能にイベントデザインは入っ

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建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」


10 トークを終えて 学生

ていないのでは、という話でした。 祭があるからイベントはいらないという考え方は極端すぎるきらいがあります が、学生主体ワークショップは「学生」である数年間を愉しむアイテムのよう になってしまっている気がします。建築事業と理解を得るためのワークショッ プ、建築を利用したイベント(ワークショップ)の関係を今一度真剣に考えな ければならないと思います。この問題を乗り越えた所に建築家の新しい道が開 けているのかも知れません。

無題/小嶋一浩研究室/村山 圭  テーマとして、景観、建築家の職能、関わり方の時間軸、都市との関わり合 いの4つの点をあがった。それベースに議論に入るのだが、大半を景観という キーワードについて話していく事になる。  都心ではなく、新潟における景観。ロードサイドにおける、画一的な建築の 存在。点で存在する建築家による建築、その建築をつなぐネットワークの在り 方。即効性のある活動、長い時間をかける活動、そして、トリエンナーレに代 表される周期性を伴った活動がもつ、時間軸。  数々のトピックへと議論が発散していくなか、個人のレベルでみる 小さな 景観 を軸に議論が発展していく。  時間軸との関係性を捉えつつ、結論がでないまま議論は終了を迎える。議論 の深みに入ろうにも、ボクら学生が持っている言葉は少なく、また話を整理し ていくのではなく、ピントがずれてしまう事に問題が生じるのではないか。  これから先に議論を深めていく機会が重要視され、その次に何をすればいい のかを考えるきっかけとなったことが今回の議論からいえるのではないか。

建築家としてのコミュニケーション/小嶋一浩研究室/吉川 潤  コミュニケーションをしながらデザインしていくということはもはや前提的 である一方で、建築家としてどういう立場で地域に入り込んで行くかという議 論に興味がありました。建築家としての専門性が地域の期待になっているので あれば、私達はどのようなことを考え設計につなげていくべきか非常に考えさ せられた。  設計もただ単に進めて行くのではなく、どういう形で建築を地域に手渡すこ とができるのか。今回のトークインでは完結しない建築の設計という結論に至 りましたが、これをどう解釈していくべきなのかいろんな意見を交えることが できたし、私達の今後の課題へ繋がる非常に感慨深い議論ができ良い経験がで きた。

建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」

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10 トークを終えて 学生

■東北藝術工科大学/山形県

地方都市で学ぶ建築学生としての役割とは/馬場研究室/山本将史  まず、今回建築トークイン上越に参加させて頂いて大変感謝しています。 日頃全く接点のない東京の学生、他県の学生と一緒にディスカッション出来た ことは自分達にとって貴重な体験となりました。 今回のテーマは「地方都市を救う建築」というテーマでしたが、上越と私がい る山形と自然環境や町の状況が似ており、そこについての意見を他の地域で生 活している学生から聞けたことは参考になったし、山形に住んでいる自分達だ から言える意見もあったと思います。こういうディスカッションが様々な地域 の学生達で行われることは地方都市にとって今後、発展の可能性が広がるので はないかと感じました。 また機会があったらぜひ参加したいと思います。

視点の違いの可能性/馬場研究室/黒田良太  とても有意義な時間だった。  地方で学び、街と関わる側にいるから、都市圏で学ぶ人との話は刺激的だっ た。また、地方と都市圏の学生が目の当たりにする地方の現実は、感じるもの が違うが、その視点や考えの違いが、地方を深く考えるには必要なものだと気 付くきっかけになった。

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建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」


10 トークを終えて 学生

■長岡造形大学/新潟県

美術館などを例あげ様々な議論を進めてきました。その中で私は、地方で学ん でいる学生と都市で学んでいる学生との間に少ないながらも考え方にズレがあ る様に感じました。それは日常的に直面している問題や日々感じている事の違 いから生まれてきた良い意味でのズレだと思っています。その影響なのか最終 的に議論をひとつに収束することは出来ませんでした。しかし多くの話を交わ す中で皆さんと意識共有することができ、参加して良かったと感じています。 このトークイベントでは、建築を学んでいる方だけではなく、様々な分野で活 動している方や地元の方と話を交わすことでたくさんの刺激を貰い、とても有 意義なものになりました。

都会と地方̶それぞれの原風景̶/長岡造形大学山下研究室/渡辺 宣一  地方大学の学生の作品はしばしば「ランドスケープ的だね」と言われる。 自然の中に在りながら建築がランドスケープとの関係を語っていなければ、む 大都市と地方の学生/長岡造形大学山下研究室/ケ・エムイフテカル・タンヴィ

しろそれこそが問題であり、建築と周囲のランドスケープとの関わりを考える

事は必然だ。それは地方で生まれ育った私達が考えていかなければいけないこ

僕はバングラデシュから参りました留学生で、建築トークインみたいな活動

とである。

に参加するのは初めてでした。経験としてはすごくいい経験だと思います。僕

しかし、都会で学んだ学生にこのような考え方をおしつけるつもりはない。

は今、地方の大学の建築を学んでいる学生なんですが自分の国では大都市の学

なぜなら、都会の学生には、彼らにしかできないやるべき事があるからだ。

生でした。日本の大都市の建築学生との交流は面白かった。言葉の問題であま

地方で建築を学んだ者には、都会で学んだ者と等しいレベルで超高層の設計

り議論ができていなかったけど、本当は私はここで自分の意見を出せない方が

ができるはずもない…他にやるべき事があるはずだ。都会で学んだ者がその設

いいと感じています。私の国で大都市以外建築の分野が無いですけど、日本で

計手法、理念を地方という環境に適用しようとすれば必ずそこにはひずみが生

は地方の建築文化はすごく強いだと感じました。だから地方は、地方的な特性

じる…他にやるべき事があるはずだ。

を持っているので、地方の事理解できない大都市の考え方は地方に持ってこな

それぞれがそれぞれの原風景を持っている。お互いがお互いのなすべき事を

いほうがいいかなと考えています。

そこでやっていけばいい。私はそう思っている。

トークイン上越/長岡造形大学山下研究室/吉田 知剛  トークイン上越でのテーマ「地方都市を救う建築」をふまえて木下庸子先生 からの問題提起の元「景観」と「少子高齢化」という二つの大きな社会的なテー マのもとで議論が進められました。都市と地方の目線に立って相対的に見たと きにどうなるか、方法論としては同じなのか、などの意見が各学生から示され ました。各々の意見が研究室の活動など実体験を踏まえたものであったのでリ アリティがあり興味深いものでした。変わりゆく地方の景観については一般論 でネガティブに捉えられることが多い中、ポジティブな見方を示す都市の学生 の意見もあり別の切り口として面白く感じました。都市から地方を見たときの 全く違ったアプローチの仕方が新鮮でもありました。

トーク in 上越より/長尾赤造形大学山下研究室/佐藤 舞  私は今回トーク in 上越に参加して得られたことは、大きく2点あげられる と思います。普段知る機会があまりない、他大学で行われていることを間近で 触れられたことと、自分の大学だけでは感じられなかった地域ごとの差を濃く 感じられたことです。  普段、インターネットなどで他大学の人たちがどんなことをやっているのか 客観的に知ることはできます。しかし、実際「月影の宿」に宿泊し実物を体感 したり、当事者の話を直接聞けると言うことはなかなかなく貴重な体験だった と思います。  また、地元の学生が多い大学で普段感じることが無かった地域による考えの 違いというのを直接感じれたということは、これから大切にしなくてはいけな いことだと改めて強く思うことができた良い機会だったと感じています。

建築トークイン上越に参加して/長岡造形大学山下研究室/長谷川孝文  私たちのグループでは越後妻有トリエンナーレやビルバオのグッケンハイム

建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」

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10 トークを終えて 学生

影プロジェクトのように地域の人と更新しながら続けていく例から、建築が地

■新潟大学/新潟県

域をゆっくり変えていく可能性を感じました。また、建築された後に自転車で 富士山を一周するイベントが開催された千葉先生の日本盲導犬総合センターの 事例のように、周りの地域を巻き込むことでものを完結させないことも重要だ と思いました。トークインを通じて、様々な大学の活動を聞き、議論できたこ とは非常に有意義でした。

地方と都市部を相対化してみて/黒野研究室/矢作沙也香  大きなテーマではあったが、1 日目はそれぞれの「原風景」など、身近なと ころから話し合いが行われた。しかし、話を進めていけばいくほど、地方の定 義が分からなくなった。更に、班内には出身地の違いもあり、地方と都市部を 相対化する上での立ち位置にも困惑し、議論が足踏みした。討論終了後も、上 越市で議論する意味を問いながら、じっくり時間を掛けて意見を交換した。2 地域活動の意義/西村研究室/小林成光

日目は、地方をフィールドにした各学生の活動を語り、地方と都市部での違い

自分たちの活動が街にどのような影響を与えているのだろうか。私の参加し

を洗い出していった。地方で学ぶ学生は、地方の抱える問題の厳しさをリアル

たグループでは、学生が行っている地域活性の取り組みを話しており、私は雁

に語る。一方、都市部で学ぶ学生は地方に新しい価値を見出す。茅葺き屋根に

木活動について話し、小嶋さんからも興味を持っていただいた。しかし、果た

トタンを被せる民家の議論が印象に残った。地方の現状をリアルに知る学生が、

してこの活動は本当に地域のシビックプライドになり得るのか。都合が付かず

一歩引いて見ることができたら、地方が変わるきっかけになる気がした。地方

1日目のみの参加となったために、深く討論することができなかった。その中

を救う上で、自分の立ち位置や、自分にできることは何なのか、この先永遠の

で、学生参加の活動が本当に良いものを残せるのか、また、ものを作った後ど

テーマとなりそうだ。

うするのかを問われ、今でも私の頭の中を巡っている。これからも続けていく 活動であり、それらを自問自答しながら活動していきたい。 地方都市の認識/岩佐研究室/高坂直人  今回参加した大学のほとんどが関東圏の大学であり、私のグループでは地元 『らしさ』とは何か/西村研究室/長谷川千紘

も関東圏の人が多い印象をうけた。地方都市について議論をかわしていくと「新

1日目、ラウンドテーブルを囲んで議論をした中で、「らしさ」という言葉

潟市・山形市」と「妻有・浦川原」といった山間地域が似たような問題を抱え

がキーワードとなった。トークインの企画主旨が中山間地域を救うということ

ていると理解されているのが非常に興味深かった。共通の知識として大地の芸

で、中山間地域をはじめとする地方を救うには「らしさ」がとても大切になっ

術祭で知られる妻有地区があり、この様な地域の抱える事情が「地方都市」の

てくると今回の議論を通じて感じた。

抱える事情として認識されているように感じた。

地方には、 その地域にしかない「らしさ」が必ず存在し、 都市部には都市部の「ら

グループ討論の際、聞いていて驚いたのが「地方 ( 新潟 ) の人はみんな近所

しさ」がもちろんあると思う。それは商店街の雰囲気かもしれないし、風景や

づきあいがあるはず」などといった発言。地方都市の問題として多く話に出た

産業かもしれない。もしかしたら具体的な形では存在しない匂いや人柄のよう

のが限界集落や農作放棄といった問題であり、非常に極端な印象をうけた。

なものもあるかもしれない。  今後、設計を行う際には、その地域がもっている「らしさ」が何なのかを見 極め、うまく引き出せるようにならなければいけないだろう。

文明・文化の二項対立を超えて/岩佐研究室/佐藤貴信   「文明は役に立つ必要なもの、文化は役に立たない必要なもの」。山代先生が 議論の中で紹介してくださった言葉ですが、私はこの言葉が最も印象に残って

地方を救う/黒野研究室/斎藤淳之

います。合理的な思考で考えると、山間部は人口が減っていき、やがては消え

深夜まで続けられた議論の中で、「地方都市を救う」という言葉への疑問が

ていく場所なのだけれど、そうではない非合理的な側面を人間は必ず持ってい

挙げられた。確かに、私たちが住んでいる「地方」と呼ばれる場所は「救われ

て、そのような側面によって地方は成り立っているのかもしれないと感じまし

なければならない」存在なのだろうか。そもそも、「地方」という言葉の認識

た。千葉先生が示された盲導犬センターを拠点に行われたサイクリングイベン

もそれぞれ異なっていたように思える。 その一つとして、 地方では地域内コミュ

トはひとつの建築がその場所の文化的側面にコミットした例として非常に興味

ニケーションが密接であるという認識が挙げられる。しかし、これは農村部な

深く感じました。今回のトークインというイベントを通して、多くの学生と議

どではあり得るが、新潟市のような都市部では一概にそうとも言えないように

論できたことはとても楽しく感じました。このイベントが継続され、「地方に

感じる。そんな中で話された、建築家の職能としてのワークショップの存在意

おける建築」というパラダイムの中心として上越が存在できたら素晴らしいこ

義に関する話題はそのギャップを埋めるような話であった。地域での活動を通

とだと思います。

じて市民の意識を変化させる、というワークショップの存在は「地方を救う」 というよりも、 「地域を少し変化させること」の可能性を感じた。

建築を通した地域との関わり/黒野研究室/吉田邦彦  私のグループでは、地方において建築がどのようなあり方が出来るのか、建 築を通して地域とどうコミュニケーションするかということについて議論が行 われていました。その中で印象に残ったのは、モゆっくりモという言葉です。月

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建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」


10 トークを終えて 学生

■日本女子大学/東京都

化に挑む「景観」という大きなテーマで挑戦するのではなく、個人が関われる「小 さな景観」から取り組んでいく事が出来るのではないだろうか。私はこの言葉 に中山間地域に対する可能性が見えると思いました。 この会場がある越後妻 有地域では、3 年に 1 度アート・トリエンナーレが開催され、地域全体で過疎 高齢化に取り組んでいるといえます。このトリエンナーレが魅力的に感じるの は、敷地が選ばれて、とって付けたようなイベントではなく、地元の人々も一 人一人誇らしげに関わっている関係であると思います。カタチだけではなくソ フトな面で残せる建築の在り方が見えたトークイベントとなりました。

終わらない建築の姿を目指す共通意識/篠原研究室/布留川真紀  わたしたちのテーブルの議論は、 「完結しない」 「持続する」 「終わらない」 といった言葉で語られることが多かったように感じました。建築というモノを 通して社会とつながろうとしているわたしたちにとって、このような「建築が 生き続けること」を示唆するキーワードはとても魅力的でした。このトークイ ンで、地方都市や地方文化のあり方について議論できたことはもちろん、同世 代の方々とそういった建築のあり方を目指す意識を共有できたことが、何より も自分自身の設計への励みになると思いました。ありがとうございました。

新しい建築/篠原研究室/石井千絵  私たちのグループの議論の中で、建築家が建てた建物が地域の交流場やイベ ントの会場など計画では意図していなかった使われ方をされているという事例 が挙げられ、人の持つ力の大きさを感じたことが印象に残っています。これか ら私たちは都市や地方というしがらみから抜け出し、人と人をつなぎ人と地域 をつなぐデザインだけではない新しい建築のあり方を考えていかなければなら ないのだと強く感じました。都市部の建築、地方の建築を建築家の職能とから めて議論するという、容易に解決できないようなテーマでしたが、普段とは異 なる環境で、様々な立場から発せられる意見はとても刺激的で、この学生生活 の中で貴重な経験になったと思います。

日本の景観をみんなで作る/ 3 年生/加藤悠  地方都市について話合うのは初めてだったのだが、地方都市の建築について の考慮が足りないと常日頃から感じていたのでとても良い機会になった。議論 の中でよく発言していた人が多かったが、私は地方学生だから都市のことは分 からないとか、またその反対とか、決めつけてしまうと狭い視野しか持てなく なる。安易に自分を都市近郊の学生と、地方都市の学生という型にはめること はよくないと感じた。日本の全体的な景観を大事にしていくことを考えると、 各地に住んで活動している人たちがお互いに情報を交換し合ってその土地に愛 着を持つことによって、自分のアイデンテティーを見つけていくことの要とも なるのではないか。私は、住民たちの興味を永く維持することがその土地の景 観を良く維持することの重要な鍵だと考えているので、住民たちがどうすれば 興味を抱いてくれるか私たち建築を学ぶものが考えるためにも情報交換が必要 だと思う。

新潟で造る小さな景観/篠原研究室/青柳有依  今回のトークインでは普段話す機会の少ない、多地域に渡る大学の考えが聞 けた事が大きかったと思います。各大学で行われているプロジェクトの説明を 聞いている中で「小さな景観」というキーワードがあがりました。上越の過疎

建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」

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10 トークを終えて 学生

増加しているアイコニックな建築が地方都市にどういった影響を与えられるか

■法政大学/東京都

などについて意見が交わされた。私のこれまでの考えとしては、トリエンナー レなどの単発な行事も地方の活性化や人々の関心を集める良いきっかけになる と漠然と思っていた。しかし、地方の学生から出た「結局、住み手が増えるこ とはない」という現実を目の当たりにし、「活性化」という単純な方向性では なく、人口減少に伴って集落がどのような道を辿っていくべきかについて、考 えていくべきであると感じた。そのためには、私たち関東圏の学生と地方都市 の学生の連携がこれまで以上になされていくことが必要であると思う。

建築家は造形論だけではない/渡辺真理研究室/郡謙介  人口が減っていく以上、限界集落や寂れた地方都市においては、滅びていく 集落、生きていく集落と、都市の未来を見据えた結果として、どのような建築 を建てていくのか考えなければならないように感じた。また、こうした問題は 『ゆっくり』というキーワード/渡辺真理研究室/円城寺香菜  私は約1年間、新潟の浦川原村を舞台に「月影小学校再生計画」というプロ

立場や価値観によって変わるため、解決するのは大変難しい問題であると同時 に、ナイーブな問題だなと感じた。

ジェクトに関わってきた。今回のイベントで、教授方や各大学の学生の皆さん とのディスカッションを通して、自分が月影で活動してきたことへの自信を得 られたような気がしている。

問題を相対化することで/渡辺真理研究室/小畠卓也

まず私が参加したグループでは、山代さんのワークショップのお話から派生

私が参加したグループでは、景観や高齢化といったキーワードでトークが行

して、 「既に地方再生のような活動をしている人はいるか」という小嶋さんの

なわれた。

質問があった。そして、 多くの学生が活動の経験があることが明らかになった。

景観や高齢化といった問題は地方、都市関係なく起こっていることだが、背

その内容を聞き、同年代の学生の中だけでもこんなにも多様な活動があるとい

景にある問題の根源や見解は異なる。

うことに驚かされた。 さらに地方再生についてディスカッションが進み、 グルー

今回のトークインのように、地方をフィールドとする人と都市をフィールド

プ内で『ゆっくり』というキーワードが挙げられた。それは『ゆっくり』地方

とする人が、互いに意見を交えることで、地方都市が抱える問題を相対化して

を理解する、 『ゆっくり』地方の信頼を得る、『ゆっくり』地方が変化する・再

とらえることが出来たように思える。

生する、など様々な意味での『ゆっくり』だ。これは実際に地域での活動を経

結論を出すには至らなかったが、まずは、問題を相対化することで、一方向

験したからこそ発見できるキーワードではないだろうか。このキーワードが出

でしか見ることが出来なかった地方都市の問題を多面的に捉えるが出来た。次

たとき、私は今までの自分の活動を走馬灯のように思い出すと共に、周りの学

は、その相対化され、共通の認識となった地方都市の問題に対して、考えを深

生の多様な活動との共通点が見つかったようでとても しっくり きた。「地

めることが出来る。数を重ねるごとに、この先の地方都市での建築のあり方が、

方都市を救う建築」という大きなテーマに対してそう簡単にかっこいい解答は

見えてくるのではないだろうか。

出せないが、同年代の学生たちと自分と、異なる活動を通して同じキーワード

そこに、建築トークインが毎年開かれていくことの意味があるのだと感じた

を感じていたことに、励まされ今までの活動に対して自信を得られた。普段な

と共に、来年度の開催が楽しみにもなった。

かなか接点のない各大学の学生の活動や考えを知ることができたという点で、 とても有意義なイベントだった。 地方と都市の原風景/渡辺研究室/小野裕美  今回の議論で特に印象深かったのは、木下先生から「原風景」を聞かれた際 「建築の伝える」ということ/渡邉真理研究室/菊池悠介

のことです。私は都市部で育ったため、団地や路地といった人工的な風景が思

地方に限らず、東京や様々な環境で建築どうして作っていくべきかというこ

い出されたのですが、地方出身の方の語る原風景は山並みや湖など環境的で大

とに加え、建築を作った後でそれを誰にどう伝えることでその建築、さらには

きな視点から捉えられたものが多かったと思います。そのような大きな秩序の

周りの環境を改善していけるのかということまでが、建築をやる人間のもう少

元にある地方の風景を羨ましく感じた傍で、「建築はカオスに負ける」という

し踏み込むべき領域のように今回のトークインに参加し感じた。

地元の方の切実な意見もありました。地方の抱える問題は多く、建築はそうし

特に東北芸術工科大の学生の山形R不動産の話のなかで、「馬場正尊さんは

た現実に負けていると言うのです。私たちは建築から地方・環境と視野を広げ

R不動産を東京とは異なった方法で、地方ならではの発信する戦略を立て、一

ていく必要性を感じる一方、都市部における環境的秩序をどのように見出して

般化して人々に建築を認識させている。」という話は東京でしか物事を考えて

いくか考えさせられる議論でした。

いない人間には新鮮だった。  それぞれ建築が建つ場所は違えど、「建築を伝える」という作業は共通して 認識すべき建築家の大きな目標であるに違いないと思う。

地方の建築への意識/渡邊真理研究室/伊澤実希子  今回の議論の中で、「地方の人の建築に対する意識の低さ」といった事が浮 き彫りになった。どの地方都市にもその地方なりの良さがある。しかし、地方

地方の今後の向うべき姿/大江研究室/熊谷浩太

の人はその良さに気付いていない。そういった地方の住民の建築への意識を高

今回のトークイベントには、普段、地方都市の学生との討論や交流の場を持

めていくワークショップや今回のトークインのような活動こそが地方都市では

つ機会はめったにないので、私たちとの生活や考え方の相違点を知ることを楽

重要となるのではないだろうか。建築家が地方の建築をつくるのではなく、地

しみにして臨むこととなった。

方の人が建築をつくっていく。その援助を建築家や学生がやっていくべきだと

私たちの班では、主に景観または小さな景観、新潟のトリエンナーレや近年

思う。今回は2日間で建築家と学生によるディスカッションのみだったが、今

72

建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」


10 トークを終えて 学生

後はもっと地方の人が参加したり、月影のような具体的な活動へと発展してい けたらと感じた。

新潟トークイン参加感想/陣内研究室/氏家健太郎  まずこうしていろんな大学の方々とお話しする機会に触れることができたの は大変刺激的なことでした。また意外にも今自ら取り組んでいる問題と共通す る人も多く、議論に身を置くことで改めてその問題の解決への難しさを実感し ました。 一回目と言うこともあって、こうして問題意識を共有すると言う意味では凄く 有意義な時間でした。一方で、もしこれからの地方都市を考えていく際には、 地元に暮らす人のリアルな意見を取り入れることや、そういった人々にどのよ うに今回の外部からの専門的な解決策や問題意識を伝えるかが重要なのかなと 思います。次回以降、比較的専門の分野にいる自分たち側の意見をまとめた上 で一般の人々との交流もあれば、 より具体的な議論になるのではと思いました。

トークイン上越その後/渡辺真理研究室/福井健太  今回、このトークイン上越に参加したことによって自分にとって少し変化が あった。私は、愛媛県松山市の地方都市出身者である。このトークイン上越に おいても、地方都市を救う建築という内容で講師の先生の講義を受け学生同士 で話し合いをしたわけであるが、参加後、自分の街はどのような街なのかとい うことに改めて興味を持った。  討論では、地方都市でこのトークインをすることの意味は何なのかという一 筋縄ではいかないような問題に、より重点をおいて話し合い、私自身は自分の 考えをまとめることさえできなかった。しかし、改めて考えてみると、1泊2 日という短い期間であるが、いろいろな所から集まった学生と1晩過ごし、お 互いの意見を言ったり聞いたりし、また、上越という場所を体験することに よってこの場所でトークインすることの意味があったのではないだろうかと感 じた。  最後に、私は東京で建築を学んでいるわけだが、そのことで、地方出身であ りながらも地方と都市圏の目線で自分の故郷を見ることができるようになった ことに改めてよかったと感じた。

建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」

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10 トークを終えて 学生

■前橋工科大学/群馬県

都市の捉え方について/石田敏明研究室/武曽雅嗣 今回の建築トークインは大勢の他大学の方々とご交流出来て、とても刺激に なりました。各建築家の先生方を交えてのディスカッションは珍しい形式で貴 重な体験を経験することができました。特におもしろかったのは、都市部から 来た学生と地方から来た学生の都市の捉え方が違うというところでした。それ ぞれの都市に対する様々な考え方があって、いい意味で様々な意見が交換でき て聞けてよかったと思います。

様々な都市を感じて/松井淳研究室/中村達哉  今回の機会を通して、首都圏に住まう人とその他の地域に住まう人との認識 の違いを感じられて良かったです。人それぞれ違う生い立ちをしており、様々 な経験を通して建築の面白いと感じる話が聞けたことは、私にとって新たな発 見でもありました。各々の場所で建築を学ぶ学生だからこそ、自分の体験した ことがないことを、話す機会がいただけたことに感謝しています。首都圏やそ の他の場所での活動などを、意見交換する場を設けることによって、より良い 都市環境ができるのではないかと感じました。

トークイン感想/前橋工科大学大学院/石田敏明研究室/木村敬義  エンジンを掛けることとチェンソーの歯を回し続けることは別の仕組みで成 り立っており、本当にエネルギーを食うのは後者の段階である。そして地方の 場合は燃料が常に不足している。トリエンナーレは燃料を集めまくることに成 功している。・・・ 一方。岩室の会の方々というのはむしろ「ノコギリで切ると きれいに切れるし楽しいよ」というスタンス? 文明と文化、考えて仕掛けて 進歩していく文明と、なんだかんだで出来上がっちゃう文化。でも今回のトー クインは、パワーポイントを使った講演から酒の入った酔っ払い会議まで。文 明と文化はシームレスに繋がっているんだなあと感じた。参加させてもらえて よかったです。ありがとうございました。

トークイン感想/前橋工科大学大学院/石田敏明研究室/外崎晃洋  今回、建築トークインというイベントに参加し、初めて他校の学生とディス カッションする機会を得て、最も強く感じたのは、前橋と東京の距離、そして 地方との距離である。それが色々な思考に反映されていたと感じた。東京との 距離を少しだけポジティブに捉えることができるきっかけになったと思う。

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建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」


10 トークを終えて 学生

■横浜国立大学/神奈川県

はならないだろう。改めて、都市や社会を動かす力をもつ、建築を作ることの できる可能性を信じて、今後の活動に取り組んでいきたいと感じた。

大学生の価値観/ Y-GSA /佐藤謙太郎  私がトークイン上越に参加して強く思ったことは同じ大学生でも建築に対す る考え方が著しく異なる、ということです。初日の夜に他大学の方と一緒に建 築や、それ以外の事についても話す機会がありました。私達の日中のディベー トの班は「小さな風景」というテーマで話し合いを行いました。新潟や長野の 大学の方も参加されていたので、地方の学生と関東の学生との間で面白い議論 が生まれると思っていましたが、実際には学校の立地性や教育方針などが異な ることから、1つ1つの大学で同じ「風景論」でも意識や扱い方が違うという ことが分かりました。大学間でこのような日を跨いでのトークイベントという のは稀な経験でしたが、新潟の和やかな気候の中で建築についての他者の考え 反省/横浜国立大学/ Y-GSA /山内祥吾

を改めて知る機会になり非常に良い経験となりました。

景観と高齢者。どちらも難しいテーマである。普段大学で扱うテーマはいつ も建築のうちとそとの関係性の話や、都市でどうしようもなく起こっている状 況への問題提起などで、景観や高齢者の問題は大事だとはわかっているが触れ られないでいる。それは都市で暮らしている学生にとって景観や高齢者の問題 は日常生活で実感として湧いてこないからだろう。実感として考えていなかっ たことを議論するのは難しい。しかし地方で生活する学生は景観や高齢者は本 当に切実な問題でありみんな真剣に考えてほしいと主張する。都市と地方では 見方が異なり、相対的な視点が重要であることに気づく。都市の人が地方の住 人に対して本当に自信をもって建築を提案できるのかと弱気になるよりも、都 市の人こそ相対的な視点を持って地方に積極的に関わるべきなのである。その ためには、都市、地方に関わらず建築をもっと生々しい状況で考えなければな らないことを学んだ。

建築トークイン上越に参加して/ Y-GSA /砂越陽介  今回参加して第一に印象に残ったのは、最近の傾向として建築の学生が街や 地域のイベント、つまりプロセスのデザインにかかわることがどこの大学でも 共通になっているということだった。  基調講演でも、プロセスのデザインが目立っていたように思う。今建築が建 つだけでは無意味になってきていて、そこが使われることで地域がどう変わる かが重要性を帯びている。そういう意味では、イベントも建築も目指す所は一 緒なのだと思った。  宿泊した月影の郷のコンセプトからも感銘を受けた。毎年学生が来て、廃校 の各所を段階的にリノベーションしていき、ファサードのルーバーのつけ替え を定期的に行なう、というプロセスがここでも巧みにデザインされていた。  とにかく今回、4 人の建築家の講演や他大学の参加者や月影の郷からさまざ まな刺激を受けることができ、参加して良かったなあと思う。

建築を作ることのもつ力/ Y-GSA /中山佳子  建築トークイン上越に参加し、地方都市と都市部の学生が互いの建築観を交 わす少ない機会をもつことができた。はじめに驚いたのは、建築家は形態のみ を追及し、内輪の議論にとどまることなく、より社会へ目を向け、発信する存 在へ向かっていかなくてはならない、という建築観を世代として共通に持ちえ ていることであった。都市や社会に希望を与えた実際のエピソードをもとに、 形からプロセスへの「象徴性の変化」についての議論や、市民の意識をスイッ チするワークショップについての議論があがったが、建築や都市空間は作者の 思惑を超えて、使い手が発見的に使用し続けることで、市民がその地域へのシ ビックプライドを獲得する大きな可能性を持っている。そのためにも、今後建 築家のもつ建築言語を、より他者へ向けて翻訳し、伝達する姿勢を持たなくて

建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」

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10 トークを終えて 学生

都市と地方という立ち位置について / 早稲田大学古谷誠章研究室 / 矢尻貴久

■早稲田大学/東京都

まず率直に刺激的なイベントでした。参加した木下庸子先生のラウンドでは 高齢化社会に対して建築を学ぶ建築学生がどのように役割を果たせるのか。そ して各々の原風景を語ると共に、その町の魅力がなんであるのかという、根源 的ながら実は非常に言葉にしづらいテーマについて討論しました。夜には月影 の郷で関東以外の学生のみなさんとお互いが何を考えているのか、相手のこと をどうみているのかについてかなり白熱した議論を交わしました。私たちの研 究室は都外でのプロジェクトを多く行っているのですが、東京の研究室がなぜ 地方で仕事をしているのか、という新潟の学生からの質問を通して、ひいては それにどんな意義があるのかという今までになかった視点を得られたように思 います。こういった機会は非常に貴重であると考えていますので、ぜひ来年以 降も継続していっていただきたいと思います。お互いの立ち位置を認識しなが ら協働でプロジェクトを起こせば、シンポジウムの枠を超えたなにか面白いこ とが実現できるのではないでしょうか。 企画を通して見えたこと/古谷研究室」墓田京平  今回の企画の意義はこの感想欄で多く語られており、大旨は同じくこのよう な場が与えられたことに対して好意的な感想を抱いています。他の学生と異な る点から感想を述べるとすれば、私が記録を総括する立場から見えたことから

トークインを終えての感想/早稲田古谷研究室/杉本和歳  楽しかったです。と、一言で言ってしまって誤解があるかもしれませんので、

び所感を述べようと思います。まず、ビジュアルが見えない状態でトークのみ

「普段交わることのない人達や場所、シチュエーションが議論の後押しをして

で建築を語らなければならない点が本企画の特筆すべき点でありました。編集

くれていつもなら、できなかっただろう話し合いができて刺激的でした。」と

をしていて分かったことですが、トーク風景以外によりどころにしている挿絵

付け加えます。学生同士で話し合い何かを提案するワークショップはいくつか

がなく、全ては口から言葉を発し、相手の頭の中に建築像を描かなければ成立

経験したことがあるのですが、特に今回は何か答えを出すのではなく、どこま

しません。建築というものの価値観が都市と地方都市で異なる中で、この状況

で議論を展開できるかが目的であったところにこのトークインらしさがあると

は追い風となるのか向かい風となるのか、これは問題意識がどこまで共有でき

感じました。以上のような流れの中では学生も教授もかなり近い距離で話し合

ているかに寄るかと思います。最初から想定していたリスクでありましたが、

いが出来たのも「楽しかった」と感じた理由のひとつかもしれません。

多くの感想に目を通してそれが良くも悪くも効果的で作用したように思えま す。このような新しい建築的試みにスタッフとして参加できたことを嬉しく感 プロジェクトの相対化と相互交流/早稲田大学古谷誠章研究室/小堀祥仁

じています。

今回の建築トークイン 2009 上越に参加して、古谷研の活動を相対化して見 ることができ、非常に新鮮な経験でした。日々の活動では、研究室での直近の 都市と地方の建築家の存在/早稲田大学古谷誠章研究室/梶田知典

作業に意識が行きがちです。しかし、何年にも渡り、多くのメンバーが関わる

研究室で僕が地方でも比較的厳しい状況にある地域のプロジェクトに関わっ

継続的活動を、長いスパンの中で現在がどういったフェーズにあり、プロジェ

てきて感じるのは、やはり地方にも建築や都市について考える人が必要だと言

クトのどういった点が新しく、今何が必要とされているのか。今回の経験を通

う事だと感じました。ただ地方で考えていても土地のしがらみから逃れられな

して、自らの活動を客観的に捉えることの必要性を痛感しました。

いし、都市からやって来た建築家がアイデアだけ出して地方の問題というのは

また、今回は議論の中では都市の学生/地方の学生という構図が強かったと

解決しなくなってきている感じがします。地元で専門的な知識をもって地域を

思います。私自身、日頃から、首都圏以外の大学の方の意見や活動の内容を知

良くして行こうという人も必要だが、違う土地からやってくる人の新しいアイ

る機会があまりなく、交流の機会が持てたらと思っており、建築トークイン

デアも必要だと思います。

2010 以降も継続的な交流の場のひとつとして積極的に参加したいと思います。

そういった意味では今回のイベントは地元の大学生だけでなく、都心の学生 が一緒に地方都市について考える機会を持てた事は今後の地方都市の解決策を 発見する第一歩となったのではないかと考えています。このような貴重な機会

我々の世代がやらねばならぬこと/早稲田大学古谷誠章研究室/吉田遼太

に参加させて頂き感謝してます。ありがとうございました。

社会のあらゆる既成の概念や価値観が崩壊し、変化していく現代において 我々はそのような変化に対して敏感になり、新たな概念や価値観を提示してい かなければなりません。都心と地方の関係性においては顕著なことです。

建築学科生のエネルギー/早稲田大学古谷誠章研究室/伊坂 春

しかしそれは1人で行うのは困難なことです。その点で、異なった環境や価

今回のトークインに参加して、最も印象的だったのは、 地方地域で建築が

値観を持った人と議論し、さらに社会に発信することが可能なこのような機会

出来ること を丸一日かけて本気で考え、夜を徹して議論した事です。普段、

が与えられたことは非常に重要なことだと思います。

研究室で雲南プロジェクトに携わっていますが、プロジェクトの進行や設計の

本来我々学生の世代こそが、社会に対して敏感であり、新たな価値観を提示

方に時間がかけられがちです。今回のように、同じ建築学科同士で地方の未来

できるはずです。しかし残念ながら、今回の議論は講師の方々の価値観を踏襲

について議論する事は非常に貴重で、私自身が建築の未来について可能性を本

したにすぎません。ただ最初の一歩として考えるきっかけになる議論はできた

気で考える機会になりました。そう簡単に結論を出す事は難しいと思いました

と思います。

が、私達が少しでもこのように気にとめておく事は必要だと思います。このよ

高橋先生の言葉をお借りすれば、今後継続して行うことによって新たなムー

うな機会を与えて下さった、先生方、企画者、担当者、地元の方皆様本当にあ

ヴメントが起きることを期待し、今後も関わっていきたいと思います。

りがとうございました。是非、また参加させていただきたいです。

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建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」


10 トークを終えて 学生

建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」

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11 トークを終えて 講師

建築トークイン上越がもたらしたことを語る②

トークを終えて。〈 4 名の講師の声〉  木下庸子

小嶋一浩

この企画は上越市浦川原区で開催されたことに意義があったと 感じている。東京を初め、神奈川、群馬、長野、新潟、山形な ど、広範囲にわたる 12 の大学が一同に集い、一泊二日のなかで、 仕事や終電などを気にせずに互いの時間を共有して交わされた フェース・ツー・フェースの議論こそが最も意味あるものであっ たと思われる。   「グローバリゼーションのなかでの地方都市および地方文化の あり方」という大テーマの下、4人の講師が議論を導き出す複数 の切り口を提示したが、当然のことながら解答はすぐに見出せる ようなものでもない。それでも二日にまたがって私が接した二つ の学生グループ、約 40 人の学生間での議論のなかで登場したい くつかの発言が、地方都市と地方文化のあり方を考える今回の大 テーマに対して、次なるヒントを与えてくれたような気がしてい る。ここにそれらを記すと、地方都市の現状において「過去のも のをそのまま残すのではなく、真の意味での [ らしさ ] を追求す るなかで記憶の継承を考える。 」私が今回提示した「景観」の継 承と「高齢化社会」の住まい、双方に通じるコメントである。そ のほかには、「今まで気づかなかったもの=新しい可能性を見出 すことこそが建築家が建築を通してできることではないか」また 「今後建築家に求められることは、形を創造するだけにとどまら ず、どのように人に使われていくかを総合的に示すことである」 などがとりわけ印象に残ったものである。

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建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」

相手がいて、対話をして、そうしたプロセスの中から何かを生 み出していくこと。  そんな、手間がかかり、まどろっこしいこともたぶん多くあり、 スパッと鮮やかな設計案を示して見せるとかいったことからは遙 かに遠く見える地平。そこに興味をいだき、実践を望んでいる学 生たちが多くいることに、本当に驚いた。なにかが変わり始めて いる。そういう現場に立ち合ったのかもしれないとさえ思う。こ れはビジュアルで誰にでもわかる<事件>などではなく、もっと 深海での地殻変動のようなものなのだろう。正直なところ、モノ をつくるワークショップとは異なるトークインという形式のイベ ントに人が集まるものなのか私自身には当日までよく分からな かったのだから。  「月影の郷」をはじめ何らかの実践を研究室の活動などを通し て経験している人が多いことも、地殻が動いているのかもしれな いと思わせられた理由である。声高な議論より、具体的な場所か ら始めること。  対話は、今の若者らしく(?)慎重さに満ちていた。誰かが話 すと、いったん間が空く。しばしの沈黙を見きわめてから、次の 誰かが押しつけがましくならないように、参加している誰かを批 判・否定などしていないことがわかるように、また静かに語り始 める。そう、議論の場は静かなのである。でも、じっくりつきあっ てみると、その静けさの背後には<アツイ>想いのようなものが あるようにも思われる。今は、そうポジティブにとらえたい。


11 トークを終えて 講師

千葉学

今回の企画には、大きく二つの意味があったように思う。一つ には、もちろんこの小さな街に対し、建築家(あるいは建築を志 す者)がいかに介入することができるのかを議論を通じて見出す こと。そしてもう一つは、高橋䧢一先生を初めとする岩室の会の 方々が、初めてこの地に足を降ろした時の想いをいかに継承する ことができるのか、である。それは果たして成果を出せたのか。 今の学生も、機会さえ与えられればちゃんと議論ができるのだ、 それが最初の率直な感想である。始めは恐る恐る探り合っていた 学生たちも、一度口を開けば、面白い視点を次から次へと提示す る。僕が参加したチームの中だけでも、 「完結させない」 、 「ゆっ くり」 、「小さな公共性」など、実に興味深く、またリアリティの ある切り口が出ていた。こうした切り口を無理矢理にでも見つけ ることは、特にこうした場においては大きな成果につながる。ぼ んやりしていた考えも、具体的にいかに行動したらいいのかも、 こうした切り口があって初めて実体をもったアイデアとして結実 する。だから初めての試みとしては、十分な成果があがったと言 いたい。しかし、それでもやはり物足りなかったのは(自分自身 の関わり方への反省も込めてだが)、こうしたアイデアが、この 上越という場所とどう絡むのか、この土地の何に皆はひっかかっ たのか、その核心に迫れなかったことである。もちろん時間が足 りなかったこともあるが、高橋先生からも、もっと話しを聞き出 すべきであった。介入も継承も、まずはそこから始まるのだから。

山代悟

今回のラウンドテーブルで「いまやっているような、まちづく りの活動が、みなさんの将来の仕事として継続できそうですか?」 という、少し意地悪な質問をしてみた。学生たちからは、 「こういっ た活動は仕事になりうる」あるいは「仕事になりうるような社会 に変わるべきだ」というような発言があった。これは、会の主旨 をくんだ、心優しい返答ではあるが、現時点では難しいと思う。  レクチャーのなかで紹介した大野秀敏氏(東京大学大学院教授) の「都市を遊ぶ」という言葉がある。これは都市を与えられた娯 楽の消費の場としてではなく、自らが使い道を発見して創造的に 使う対象としてとらえ直す、という視点の提唱である。また同時 に、そういった活動自体を「遊び」として楽しむということだろ う。「まちづくりを仕事にできるか」を心配する前に、 「遊びとし てまちづくりを楽しむ」人々をいかに増やすことができるか。  ゴルフというスポーツは、多くの大人がたくさんのお金と時間 と体力を使って楽しんでいる。そして、大多数の楽しみとして参 加するアマチュアと、それを指導するレッスンプロや、そして新 しい技やスタイルをあみだす、あこがれの対象としてのプロゴル ファーがいる。そういった、層の厚さがまちづくりにもあれば、 生業としてそれに専念できる人も出てくるのではないでしょう か。僕としては、必ずしも楽しいばかりではないまちづくりの活 動の中に、一つの華としてのイベントをつくりだす、そういった ことに力を貸せるのではないかと考えています。そういった経験 を経て、明日からのまちづくりにまた元気をもって参加してもら えるような。

建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」

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12 編集後記

編集後記―来年に向けて

小畠卓也/法政大学/渡辺真理研究室

日本女子大学/篠原研究室/布留川真紀

第一回の建築トークイン。私達、学生準備メンバーは、初めて行なわれるイ

人の記憶とははかないもので、一ヶ月程たった今、静かに燃えた2日間の議

ベントに対して、手探りで準備をしていたと思う。具体的なイベントの姿や意

論はひとつのよい思い出となりつつあります。あの瞬間の気持ちを少しでもリ

義を、トークインを終えてから気づき、理解した人も多いのではないだろうか。

アルに伝え残してゆくために、こういったブックが完成したことは、第1回の

その中で、感じたことや、得た体験を(失敗したことも含む)を、共有・蓄積

運営に携わったものとして、とても喜ばしく思います。先生方と岩室の会の方々

していくことで、これからのトークインがつくられていくのだと思う。そうす

がつけてくださったこのトークインの火種を絶やさないよう、意志を引き継い

ることで、このトークインがより一層、魅力的なイベントになるのではないだ

でゆくことはもちろん、来年はさらなる盛り上がりをみせるイベントとなるこ

ろうか。

とを期待しています。

小堀祥仁/早稲田大学/古谷誠章研究室

村山圭/東京理科大学/小嶋一浩研究室

膨大なテキストと図版の山の整理に没頭した 11 月下旬の編集作業でしたが、

終えた後に感じた事は、 もっと的確に意見を伝えられる整理力と言語力を

皆さんのご協力のお陰で、何とか入稿に至りました。トークイン当日以降の作

鍛えなくては。 ということだった。物ではなく議論だけのイベントだけあっ

業を通して他大学の友達の環が増えたことは大きな収穫の一つだと考えていま

て、いかに話題に上がったことを整理できるか、臨機応変に対応できるかが進

す。また、来年は古谷がコーディネーターということもあり、身が引き締まる

行役にとって問われてくる。今年は議論がどう展開されるかよりも、会がどの

思いです。次回のトークインまでの日々を問題意識を持って、都市の様々な

ように流れていくかにウエイトをおいた。来年は今年の基盤があるのだから、

フィールドで活動する人々とコミュニケーションしていきたいです。

議論がどう展開されるかに準備の重点をおいてほしい。

小南聡美/工学院大学/木下庸子研究室  準備段階では、建築トークインという初めての試みがどのようなものになる

横川美菜子/東京大学/千葉学研究室

のだろうか想像がつきませんでした。実際に企画が始まってみると、地方都市

ラウンドテーブルでは学生も先生方も手探りの状態から始まりました。

と首都圏の学生のディスカッションはとても白熱したものとなり、この企画に

会場設営を担当させていただきましたが、20 人という人数はグループで話し

学生スタッフという立場で参加できたことは、私にとって非常に貴重な経験と

合う人数として最大限だったかなと思います。人数が多ければ、異なるプロジェ

なりました。今年は反省点がいくつか有りましたが、この刺激的で有意義な企

クトや出身地など、さまざまなバックグラウンドを持った人が集まります。逆

画を来年度はさらに良いものとし、これからも続けて欲しいと思います。

に多すぎると発言する回数も減り、話が拡散してしまいます。一般の方もうま く取り込み、来年に向けてよいバランスを見つけていきたいと思います。

中山佳子/横浜国立大学/ Y-GSA  建築や都市についてビジュアルを使わず議論のみで意見を交換するイベント

吉川潤/東京理科大学/小嶋一浩研究室

は、開始してからその新鮮な気分を実感した。専門分野に関する真剣な議論は、

建築を学ぶ私達にとってこれが現実を知るためのリアルなトークイベントと

普段同じ所属の友人と、スタジオ内や居酒屋で話すが、その時は同じ教育を受

なることを願います。近代化により、地方と都市ではますます格差が生まれる

け、共同プロジェクトを行った上での、ある程度の共通認識の上で会話が成立

一方であるこの世の中で、知識だけでは解決できない経験的な本音を交わし合

している場合が多い。学んできた環境の異なる初めての友人に、自分の考えを

える場になれば、将来建築に携わる私達に多様な考え方を与えてくれるはずで

伝える時の言葉の選び取り方や、進行役として議論をまとめていく足並みをと

す。地域の方々と建築家と学生達が現状を共有し合い、このトークイベントで

る難しさを痛感し、勉強になった。初めてのイベントを実現へ向け当初よりご

具体的に深く考えることができるような、地方と都市の交流の拠点になって欲

尽力されてきた先生方、学生スタッフの方々に感謝をしたい。

しいと思います。

墓田京平/早稲田大学/古谷誠章研究室  この企画は私の行ってきた研究興味と一致していたところも多く、関心を寄

吉田遼太/早稲田大学/古谷誠章研究室

せて参加させていただきました。学生スタッフという立場にいられたことで、

本企画は我々学生が地方についていま思うことを社会に発信する媒体である

他大学の多くの活動や個人の考え方により深く触れられたことに感謝していま

と位置付けることができると思う。今回はその試みの最初の一歩としては成功

す。今回がトークインの初回で責任ある編集を早稲田大学が担当しましたが、

したが、社会に認知される企画にするためには今後は他の人 ( 建築の学生から

本誌がより多くの人の目に触れられることを期待し、活動が一つの運動体へ

一般の人まで ) をどう巻き込んでいくかを考えるべきである。東京に住んでい

なってゆけば嬉しく思います。来年以降は企画段階から学生がバイタリティを

る人のほとんどが地方に関心がない現状を改善するのが我々の使命ではないか

持ってこの運動を大きくゆき、ゆくゆくはその活動を以てして地方都市をすく

と考える。

うものとなってゆくことを期待します。 [五十音順]

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建築トークイン上越 「地方都市を救う建築」


13 あとがき

横浜国立大学

建築トークイン上越 プロジェクトブック

早稲田大学 [五十音順]

参加講師     高橋 䧢一 [建築家/大阪芸術大学名誉教授]   渡辺 真理     [建築家/法政大学教授]        木下 庸子    [建築家/工学院大学教授]

建築トークイン上越実行委員会           岩室の会

小嶋 一浩   [建築家/東京理科大学教授]

岩室の会うらがわら

千葉 学     [建築家/東京大学准教授]

協力               上越市浦川原区、月影の郷

山代 悟             [建築家] ※敬称略

学生スタッフ    小南 聡美[工学院大学/木下庸子研究室]

参加大学                    工学院大学

村山 圭[東京理科大学/小嶋一浩研究室]

横川 美菜子[東京大学/千葉学研究室]        信州大学

吉川 潤[東京理科大学/小嶋一浩研究室]

東京大学

布留川 真紀[日本女子大学/篠原聡子研究室]

東京理科大学

小畠 卓也[法政大学/渡辺真理研究室]

東北芸術工科大学

中山 佳子[横浜国立大学/ Y-GSA]

長岡造形大学

墓田 京平[早稲田大学/古谷誠章研究室]

新潟大学        日本女子大学

編集        墓田 京平[早稲田大学/古谷誠章研究室]

法政大学

小堀 祥仁[早稲田大学/古谷誠章研究室]

前橋工科大学

吉田 遼太[早稲田大学/古谷誠章研究室]

建築トーク イン上越 「地方都市を救う建築」

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