サステナ総集編2012/2013

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(かけした ともゆき)

環境イノベーションへの挑戦 掛下知行

循環型・安全安心社会などといった、社会 が目指すべきビジョンに対して、個別の有 望な科学技術シーズを戦略的に結び付け、 環境イノベーションを促進するための理論 的・実践的研究を行っています。本学が有 する太陽光利用技術、資源循環技術、熱電 変換技術、グリーンITなど多様な技術シ ーズを具体例として取り上げ、これら有望 なシーズを確実に社会ビジョンに結びつけ ていくための研究や、社会実験も踏まえた 実証的な研究を進めています。 もう一つの重要な柱は、環境イノベーシ ョン分野を今後担っていく人材の育成、教 育プログラムの提供です。ビジョンと個別 の技術シーズの双方に対して知見を有し、 持続可能社会形成に向けてイノベーション

政策科学から

(なかがみ けんいち)

サステイナビリティ学への展開

仲上健一

に値する。これらは、政策の科学化の領域

を超えた真の「問題発見」であろう。

問題を発見することにより、問題を解決

できるという保障は存在しない。今日の社

会においては多様なステークホルダーのも

とでの複雑な調整や、さらには意思決定は

簡単ではない。そこには、多くの論争があ

り、意思決定過程をめぐる利害対立は鮮明

である。政治・政策・官僚・民主主義とい

う領域においては、まさに「 〈決め方〉と

〈決まり方〉 」の科学が求められるのである。

サステイナビリティ学は、自然科学・社

会科学・人文科学の融合を可能とする新し

い学問パラダイムであり、客観主義であっ

た科学に人間性を、真理探究中心であった

スタイルに問題解決的志向を組み込むもの

研究・教育活動をスタートさせました。学

(CEIDS)を全学組織として設置し、

大学環境イノベーションデザインセンター

大阪大学では、二〇一〇年一〇月に大阪

ません。

域の壁を越え英知を結集していかねばなり

の課題群に対処していくためには、研究領

形で顕在化してきています。複雑かつ喫緊

可能社会の基盤を脅かす事象がさまざまな

地球温暖化や資源枯渇の脅威など、持続

を総合化し、また地域・国際連携を通じ多

大学に存在するさまざまな科学技術シーズ

動も同時に展開しています。当センターは、

とのサステイナビリティの実現に向けた活

エネの推進のための評価と実践など、足も

加えて、大学キャンパスの低炭素化や省

と教養を備えた人材育成を図っています。

やサステイナビリティに関わる俯瞰的視野

ナビリティ学入門」を開講する中で、環境

学」 、そして学部共通教育科目「サステイ

ログラム「環境イノベーションデザイン

たとえば、全学に開かれた大学院高度副プ

政策科学の出発点として「問題の発見」

戦」はこれからも続くであろう。

難さは一層増しつつあり、 「政策科学の挑

課題の規模は拡大し、解決を図るための困

ムの転換等々があげられる。これらの政策

太平洋地域諸国の政治・社会・経済システ

震災・福島第一原発事故、さらにはアジア

害、民族紛争、また日本における東日本大

世紀に入り顕在化した地球温暖化、極限災

ことに特徴がある。政策課題として、二一

合して、問題解決のための政策を構築する

政策科学は関連する学問領域を横断・融

効である。この超学際的科学同士の共通

イナビリティ学の発展にとっても極めて有

さらには政策科学を学んだ人材は、サステ

政策科学の六〇年以上にわたる学問的蓄積、

認識は、政策科学とも共通するものであり、

サステイナビリティ学における時代状況

性を乗り越えるための目的性が求められる。

門科学に基盤を立脚しながらも、その限界

ィ学の研究対象領域は、それぞれ個別の専

ことを出発としている。サステイナビリテ

示されている。まず「有限性」を認識する

いための超学際的科学」の第一ステップが

可能性と限界性を認識しながら、 「死なな

である。そこには、 「類としての人間」の

内のさまざまな部局からの協力を得つつ、

がある。足尾鉱毒事件の田中正造や、神社

立命館大学政策科学部教授 (専門は水資源環境政策)

まさに領域の壁を越えた学際的な研究教育

様な主体(ステークホルダー)と協働しつ

点・相違点を明確にすることにより、両者

大阪大学環境イノベーションデザインセンター長・ 工学研究科長 (専門は材料科学)

活動を進めているところです。具体的には

合祀反対運動すなわち自然保護運動の南方

( 『サステナ』第 号)

つ、環境イノベーションデザインに関わる

以下のような活動を展開しています。

「問題の発見」であり、その先見性は驚嘆

の発展の可能性が広がるものと思われる。 ( 『サステナ』第 号)

熊楠らの超人的な警鐘が一〇〇年以上前の

をけん引しうる人材の育成を進めています。

巻頭エッセイ

分野をリードしていきたいと考えています。

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28

一つは、 「環境イノベーション」を先導 していくための研究の実施です。低炭素・

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巻頭エッセイ


(うめだ やすし)

持続可能な社会への イノベーション (やまなか やすひろ)

学生による小さな第一歩

山中康裕

化がイノベーションである。今では、北大

構内の教職員や札幌市内の環境に関心のあ

る方々への挨拶として、 「自転車タクシー

を動かしていたものです」と言い出せば、

広く認知されている。学生は、資金調達や

「あれですか……」と答えてくれるように、

走行許可を得るための交渉、ドライバー学

生への研修などから、 「小さな成功と数多

くの失敗」を得てきた。まさに、 「実験の

場としてのキャンパスを利用した、持続可

能な社会のための人材育成」を行ってきた

と思う。

学生は、一人が持続的に長時間、あるい

は、多数が短時間、社会人に比べて時間を

投入できることは言うまでもないが、学生

やり方が結構異なる。日本の家電リサイク

非なるもので、それに応じてリサイクルの

気電子機器指令)がある。この両者は似て

は、一種のガラパゴスなんだろうか? 優

質な家電リサイクルだと思う。しかしこれ

いて、世界に冠たる、高い技術による高品

ィーがリサイクル工程にもそのまま生きて

高品質なものづくりを目指すメンタリテ

りもずっと高い数字を実現している。

進展し、省令で決まっている再商品化率よ

由来のプラスチックのリサイクルが大きく

てきたのは、自転車タクシーが、当初考え

間で九一八名の方々を乗せた。そこで見え

ー二台を運行してきた。二〇一一年は二週

の実践として、キャンパスで自転車タクシ

テイナビリティウィークにあわせて、学生

成」では、北海道大学が開催しているサス

合フィールド環境科学の教育研究拠点形

我々のグローバルCOEプログラム「統

今までの経験では、大学内や大規模リゾー

成功と数多くの失敗」が得られる場である。

い。そこで重要なのが、学生でも「小さな

題には、学生はそう簡単に太刀打ちできな

(ときには世代を超えて)かかるような課

見られる。しかし、状況が複雑で、長時間

がらみ(発想の限界)を超えていくことが

やすいということによって、これまでのし

ぬ無邪気さと、地域社会から受け入れられ

とが極めて本質的である。社会の掟を知ら

として、EUにはEU指令WEEE(廃電

となり、コストはメーカーが負担し、価格

めて、ありとあらゆる電気電子製品が対象

らない限り、グローバル競争下で、我が国

題の好例であって、この良さが世界に伝わ

スにおける、まさに技術と社会の関係の問

なんら新しい技術開発は含まれていない。

ることである。自転車タクシー自身には、

は、まさにイノベーション、社会を変革す

「単なる思いつきから実現させること」

歩が行われるのである。

て、ほんの小さな一歩だが何かを進める一

がそうである。そこで、学生や社会にとっ

に対して教育的な人々が含まれるような場

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り、できるだけ人手をかけず、基本的には 破砕中心で分解しないリサイクル工程が主 流となった。一方日本は、もちろんコスト も重視するが、リサイクルできず埋立処分 場に行く量の削減を大きな目的としている。 そのために、破砕する前に手で分解したり、 リサイクルできるプラスチック部品を回収 したりしている。 欧州の家電リサイクル処分場は、不燃ゴ ミ処理プロセスの延長線上にあり、日本の 家電リサイクル工場は、製造工程の延長線 上にある気がする。後者は、メーカーが運 営しているだけに、ものづくりマインドに 富み、清掃と日々の改善をモットーとした リサイクル工程になっている。結果として、

ル法は、大型家電六品目だけが対象であり、

ていた低炭素社会の乗り物ではなく、スロ

ト、小規模な自治体などの比較的シンプル

という以外に社会の肩書きがないというこ

消費者が廃棄時にリサイクル料金を支払い、

秀なこのシステムを中国やアジアの国々に

ーライフ・バリアフリー社会の乗り物だと

なステークホルダーの集まりであり、学生

北海道大学サステイナビリティ学教育研究センター長 (専門は地球温暖化、および地域活性)

家電メーカーが引き取って処理をする。そ

持って行ったときに、機能するのか、また、

いうこと。実験をしてみないと分からない

日本の家電リサイクル法に対応するもの

の際のリサイクル率(正確には再商品化

ことがあることを実感した。

に転化する仕組みである。

の持続可能なものづくりの将来はないと思

EEでは、電子レンジや電気ひげそりを含

そうするとリサイクル工程で何が起きる

それを受け入れる社会の人々の気持ちの変

( 『サステナ』第 号)

うのだけれど……。 (『 サステナ』第 号)

かというと、欧州では、コストが重要とな

これは、サステイナビリティ・サイエン

社会的に受け入れられるのだろうか?

欧州ではほぼ全くやられていない電気製品

巻頭エッセイ

率)が省令で規定されている。一方、WE

大阪大学大学院工学研究科教授 (専門はライフサイクル工学、サステイナビリティ・ サイエンス)

梅田 靖

ものづくりマインドと リサイクル

巻頭エッセイ

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水も、細かいことは申しませんが、合理的

サイクルして使いましょう。食料・木材・

エネルギーが少なくてすみます。金属はリ

リサイクルした方が原石から取り出すより

ースでも鉄でもアルミニウムでも、金属は

です。鉱物資源はどうでしょうか。レアア

ーだけでなく、ほかの資源も自給すること

プラチナ社会の条件の第三は、エネルギ

ものに開かれていること。頑固な人は駄目

会に参加したりすること。四番目が新しい

番目は運動。三番目が、人と話をしたり社

うものが科学的にわかってきています。二

須アミノ酸か酵素のサイクルとか、そうい

えました。一番目は栄養。微量元素とか必

手はありません。幸せな加齢の五条件を考

は、人間の体の科学です。これを使わない

題の解決です。世界の科学の最先端の一つ

プラチナ社会の第四の条件は、高齢化問

北のポイントだと思います。東北のプラチ

して、そこにプラチナ社会をつくるのが東

でも神戸の一部でも経験しています。復旧

せん。その難しさを、三宅島でも山古志村

ます。若い人たちは仕事がなければ帰れま

若い人が帰らないと、高齢化が一気に進み

年ぐらいしてから帰りました。そのときに

旧して、さあ帰りましょうと、災害から三

志村も三宅島も、大きな災害がおこり、復

ら復旧しても、復興にはなりません。山古

東日本大震災に目を向けますと、災害か

源を増やすことにつながっていくからです。

をきちんと回復させてやることが、漁業資

が大きくなる場合もあります。干潟や藻場

生態系を再生させた方が、生態系サービス

ービスをよく考えた復興計画が必要です。

三陸海岸では、流域レベルでの生態系サ

恵みが「生態系サービス」です。

物につながっているわけです。そのような

場所でもあります。それらがおいしい食べ

の生物が卵を生む場所であり、稚魚が育つ

みても、干潟や藻場は、魚やいろいろな海

モデルになるのです。

な背景があって自給率を高めることができ

〇パーセントになります。

ます。私も小学校のときに習いましたのは、

復興に向けていくつかの提案をしていま

す。第一に、生態系の機能を活用した災害

九〇歳ぐらいで亡くなります。しかし、ず

から何か健康を悪化させることがあって、

代の七割ぐらいの方は七〇代の後半ぐらい

用していくのかということを考える必要が

からどのようにして、持続的なかたちで利

な被害を受けましたので、海の恵みをこれ

きく依存してきました。海の生態系が大き

産業あるいは生業として、海の生態系に大

ットワークを提唱し始めました。プラチナ

私は東大から外に出て、プラチナ構想ネ

潟は、水質浄化機能が非常に高いといわれ

ればできますし、大きな川の河口にある干

気候の緩和や洪水の調節も、広い干潟があ

態系サービス」という言葉で表しています。

すというのではなくて、場合によっては、

防をつくって土を入れてもう一回農地に戻

まって復元が難しいようなところでは、堤

沈下でかなり広い面積が海の下に沈んでし

地の地力を回復させます。あるいは、地盤

ましょう。たとえば、湿地の力を借りて農

などさまざまな産業をつくろうと、私は一

ナ社会に合うような自然エネルギーや林業

新しいことを記憶できるとか、新しい知恵

のリスクを和らげる土地利用をもっと考え

です。それから前向き思考です。

が付くとか、脳の可塑性を保っていけます。

(なかしずか とおる)

東北大学大学院生命科学研究科教授

中静 透

生態系・生物多様性を生かした 震災復興

講演

生懸命に努めています。

日本は天然資源のない国だから、それを輸 と。いまでも新聞などはそういっています。

この五つが揃うと何がいいのかというと、

そのようなことで二〇五〇年を生きられま

私も六七歳になって高齢者のなかに入りま

入するために製品を売ってお金を稼ぐのだ

すか。これからの世界は何でも高くなりま

したので、そのようなことは希望です。 東大の高齢社会総合研究機構の秋山弘子

す。足りなくなるからです。自給が世界の

さんが六〇〇〇人の高齢者を対象にして、 人間の能力がどう落ちていくかということ

っと元気な方もいます。高齢社会というと、

宮城県も岩手県も、この地域の方たちは、

みんなが介護を思い浮かべますが、幸せな

あります。

を二〇年間調べたデータがあります。七〇

加齢の五条件を満たすようにもっていくこ

社会をつくっていく運動は、市民中心でや

ています。また、水産資源ということから

生態系が与えてくれる恵みのことを「生

るものです。自治体の集合体をつくり、大

とが、持続社会の大事な条件です。

学もコミットすべきだと考えています。

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公開シンポジウム

豊かで安全な日本を考える サステイナビリティ・サイエンスの挑戦

主催:サステイナビリティ学連携研究機構(IR3S)/一般社団法人サステイナビリティ・サイエンス・コンソーシアム(SSC) 後援:日本経済新聞社 日時:2012 年 2 月 11 日(土)13:00~17:00 会場:東京大学安田講堂

開会挨拶

住 明正 (すみ あきまさ)

東京大学サステイナビリティ学連携研究機構教授/ 地球持続戦略研究イニシアティブ統括ディレクター

サステイナビリティ学連携研究機構(I R S)が発足した二〇〇六年から毎年一

講演1

(こみやま ひろし)

日本「再創造」 プラチナ社会の実現に向けて

小宮山 宏

てきました。一般社団法人サステイナビリ

回、私たちはこの安田講堂で公演会を行っ

こと、そうしなければ間に合わないだろう

しゃった通り、アクション、行動をおこす

私がいいたいことは、いま住さんがおっ

ます。現在の四日市はすっかりきれいにな

一部の途上国でいま同じような状況にあり

一般社団法人サステイナビリティ・サイエンス・コン ソーシアム理事長/東京大学総長顧問/三菱総合研究 所理事長/プラチナ構想ネットワーク会長

ティ・サイエンス・コンソーシアム(SS

ということです。

りました。公害の克服の延長の先に、生物

日本の過去を振り返ってみますと、経済

どに使っているのは四二パーセントです。

用とで五八パーセントです。ものづくりな

と、車などの輸送と、家やオフィスでの使

変化する世界のなかで、日本はどうすれ

成長、公害克服、エネルギー問題の克服、

家庭・オフィス・輸送でどれだけ減らせる

ろから、科学的に問題を解明するだけでな

第二の条件はエネルギーの自給です。エ

多様性の保全があるのでしょう。

二〇一一年三月一一日に、大きな地震・

それから長寿社会の実現と、さまざまな課

か、大切なポイントです。省エネによって、

ばいいのでしょうか。日本が抱えている課

津波・原発災害が発生しました。甚大な被

題を解決してきました。これらは人類が目

二〇五〇年までにガソリンの消費量がいま

題は、実は世界が間もなく抱える課題です。

害を受け、われわれのものの見方も大きく

指してきたところで、いま途上国が求めて

より五五パーセント減るというのは、極め

く、具体的に行動する時期になったと考え

影響されました。この出来事を、新しい社

いるのもこれでしょう。日本はそれらの課

て合理的なモデルです。人口が九〇〇〇万

て、実際の場で問題解決に取り組んでいく

会づくり、新しい未来の建設に生かしてい

題を克服して、新しい二一世紀の課題であ

人に減るのなら、エネルギー消費は六五パ

ネルギーをどこで使っているかといいます

くことが非常に大事だと思います。今回の

る知識の爆発であるとか、地球規模の問題

日本は課題先進国です。

シンポジウムでは、その点に焦点をしぼり、

とか、高齢化の課題を抱えるに至りました。

界第三の大国です。林業を復活させると、

新しい二一世紀の日本をつくりあげていく

安いバイオマスが自然に出てきます。これ

方向を見出したいと思っています。

われわれはこれからどういう社会が欲し

らの五つのエネルギーで、いまを一〇〇と

ーセント減ります。新エネルギーを増やし

いのか。私は「プラチナ社会」だと定義し

して三二ぐらいのエネルギーをつくれると

日本は解決する力をもっています。それ

ました。プラチナ社会の条件の第一は公害

ていきましょう。太陽光、風力発電、地熱、

の克服です。四日市は一九五〇年代は公害

するのは極めて合理的です。エネルギー消

は事実が示しています。日本は解決力をも

に苦しんでいました。北九州でも、東京で

費は全体として減りますから、自給率は七

バイオマス、水力です。地熱では日本は世

も、水や空気がものすごく汚れていました。

つ課題先進国なのです。

努力をしてきました。

C)が誕生しましたのが二年前で、そのこ

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の集落をベースにして、森から海までを同

そのようなことで、彼は一生懸命に、自分

でをしていく機会でもあるということです。

新たな構造でまちづくりから社会づくりま

いろいろと考えさせてくれる機会であり、

あると。自然界と人間社会とのかかわりを

今回の震災はある意味で絶好のチャンスで

解を招きやすい発言かもしれないのですが、

訪ねました。畠山さんがよくいうのは、誤

ます。みんなが一緒になってコミュニティ

リーンアップグループに分かれて、出掛け

て、ペットボトルをもらって、それぞれク

漁港に集まってきます。まずハンコを押し

付けのために、年齢を問わずみんなが朝、

のが、皆さんの絆の強さです。がれきの片

があります。ここにきてまず感銘を受ける

ます。小さい漁村でありながら、非常に力

宮古から車で一時間ぐらいのところにあり

と、そのように方針を決めたのでした。

だから、自然界に合わせた生き方をしよう

としたら最終的に自分たちの首を絞める、

われは勝てない、周りの自然界を変えよう

然養殖の道でいくのかで、自然界にはわれ

模を拡大化する道でいくのか、それとも天

大きな船を入れて大きな漁港をつくって規

にどういう決心をしたのかといいますと、

自分たちが生きる道について、そのとき

思えます。

なか入りづらい部分があるのではないかと

ょっとしたらサステイナブルな道にはなか

ます。気仙沼のような大きなところは、ひ

いまは分かれ道に立っているような気がし

に戻したい気持ちは、本当にわかります。

マがあると思います。自分の生活を早く元

したいという声が多いです。そこにジレン

ました。いまはとにかく元のように早く戻

ことを、畠山さんはこれまでも訴えていま

一組合長を始めとして、漁師のリーダーの

ここのリーダーがすごいのです。伊藤隆

ラルドグリーンの非常に綺麗な海です。津

っと大事にしてきました。重茂の海はエメ

また、以前から植林活動をし、魚付林をず

ワカメが中心で、鮑や貝もとっています。

進んでいくでしょう。

で生かしてきたところは、今後もその道に

村で、割と陸とのつながりを昔からの伝統

せる大きな機会だと思います。小規模の漁

この震災は、陸と海の人間活動を考えさ

した。震災をチャンスとして生かそうとい

方々がみんな共通の意識をもっています。

波からの復興は、一匹狼のような漁業をす

漁港は小規模で、天然養殖を進めました。

をもう一度つくり直そうとしているのをこ

うことで、間伐材を使って養殖の施設を作

彼らがよく言っているのは、今回立ち上が

るのではなく、みんなが共同で漁業をして

こでは強く感じます。

り直そうとしていますし、周辺にある自然

れた大きな鍵は、昭和四〇年代に、この村

いこうとしています。三世帯が一隻の船を

里山・里海連携による 三陸復興国立公園(仮称)の展開

(わたなべ つなお)

をしています。自然界に従うのがまず大事

ら、みんなで平等に分かち合うようなこと

めませんから、競争の刺激を受け入れなが

せん。彼らもやはり競争がなければ前に進

デルがここでつくられているのかもしれま

んなで分かち合う社会主義国家の一つのモ

資本主義の競争の多い世界のなかで、み

期目標に位置付けられました。その長期ビ

と自然の共生というビジョンが、世界の長

果がありました。日本の提案を受けて、人

めて、新しい歴史をつくるような大きな成

関して、名古屋議定書が決まったことも含

立した議論が続いてきた遺伝資源の利用に

は、生物多様性条約ができてからずっと対

性条約第一〇回締約国会議(COP )で

二〇一〇年に名古屋で行われた生物多様

環境省自然環境局長

渡邉綱男

だということも含めて、重茂はサステイナ

いられない」と。震災直後の四月には、わ

において、環境省と国連大学が共同で、生

「愛知目標」の達成に向けて、COP

目標、 「愛知目標」も合意されました。

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森林の再生と海の再生を同時にしていく

時に本当に再生していこうとしています。

素材を使って、新たなまちづくり、コミュ

を存続させるのに何が大事かといろいろ考

もって、収入も分けていこうとしています。

講演

ニティづくりをしていこうとしています。

えたことにあると。

重茂は震災前から注目していた漁村です。

自然界が回復するまで、人間の欲望を抑え

ビリティのモデルではないかと思います。

ジョンの下で、二〇二〇年までの具体的な

なければいけないということです。

気仙沼でよく耳にする言葉が、 「待って れわれ人間は自然に対して謙虚に生きてい

10 かなければいけないという声が多く聞かれ

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4


講演

リアス式の険しい海岸です。両者では、復

松島を挟んで南側は砂浜の海岸で、北側は

います。

ではみられなかった生き物が多少出てきて

たくさんいた生き物がだいぶ減り、いまま

調べると、生き物の種類が変わっています。

果が残っていいます。震災後に同じ方法で

は福島県最大の干潟で、震災前に調べた結

してまずモニタリングがあります。松川浦

すと、研究者としては、自分たちの領分と

いまわれわれに何ができるのかといいま

のオプションとしてありうるのではないで

の資源として活用するようなことも、復興

な観光資源にもなります。エコツーリズム

ケが上がってくると期待できますし、新た

でしょうか。自然に戻せば、たくさんのサ

川に戻すということもありうるのではない

は、復興を考えるよりも、自然の状態の河

も出てくるでしょう。そのようなところで

っては非常に人が少なくなってしまう場所

はないかという予想もあります。流域によ

震災をきっかけに、人口がもっと減るので

から過疎化が問題になっていました。この

いうこともあります。三陸地方は震災の前

小流域を自然性の高いものに再生すると

被害があり、一番深刻なのは四〇〇キロの

です。津波で六〇〇キロほどの沿岸海域で

えたいと思っています。漁港は漁村の心臓

私は、漁村を中心にして三陸の復興を考

がいっぱいありました。

北で震災がおきたときには、個人的な思い

陸海岸を行ったり来たりしましたので、東

りをしてきました。季節が変わるごとに三

拠点にして、農村で暮らしながら、漁村巡

してきました。一九九〇年代から宮城県を

縄まで、日本の漁村でフィールドワークを

私はこの二〇年間ぐらい、北海道から沖

うことはあまり多くありません。それでも

第二の提案は、流域全体の生態系からの

興のパターンが違います。高台移転という

しょうか。

範囲です。そのなかに漁港が三一九ありま

たらされるものを活かしていくのが、三陸

恵みを低下させない防災造成の配慮が必要

ことでは、三陸地方では、移転できるよう

海岸林も、昔のような松林だけではなく

す。そのほとんどが壊滅状態です。船は二

震災からの大切な復興のオプションを提示

だということです。このような災害がおこ

な高台がそうはありません。山を切り開く

て、自然林に近いもの、特に内側の部分は

地方がこれまでもってきた魅力を高めてい

りますと、帰化植物や侵入種が非常に入り

ことには細心の注意が必要です。砂浜だっ

自然林化を図るということを考えてみては

里海と人々の暮らしを 取りもどす

やすくなります。早く回復させるために、

たところでは、昔から人工林がありました

万隻強が流されたり壊れたりしました。

していきます。

いろいろなものを植えたいという人たちも

ので、そこを再び土盛りをして防災緑地に

どうかと思っています。

くことになるでしょう。

います。しかし、そうではなくて、昔から

し、その内側に農地のエリアをつくって、

( Anne McDonald )

土地にいたもの、土地に合ったもので回復

住宅地を多重に防御するようなイメージを

いでしょう。それによって大量の土砂が海

場所をつくるには山を削らなければならな

海岸には険しい山が迫っていて、人が住む

大規模な公共事業で元に戻そうとするので

と思っています。力づくとでもいいますか、

せていくようなことも考えていただきたい

そのような復興のなかで、干潟を回復さ

ょう。そういうことも考えた復興をやるべ

ら一〇〇パーセント近い自給ができるでし

ト自給できるとおっしゃいました。東北な

す。小宮山先生は日本全国で七〇パーセン

源量が日本のなかでも非常に高いところで

ネルギーに関して、一人あたりの可能な資

東北地方は自然エネルギー、再生可能エ

いと。若者が出てしまうと、気仙沼の立ち

いために、ここで何かをしなければいけな

んがよくいうのが、若者がここから逃げな

気仙沼漁業協同組合の佐藤亮輔組合長さ

いきたいと思います。

この二つの場所をベースにして話を進めて

カ所を、春夏秋そして冬と回っています。

私は宮城県の気仙沼と岩手県の重茂の二

おもえ

上智大学大学院地球環境学研究科教授/国連大学高等 研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット 所長

あん・まくどなるど

をさせるということを考えた方がいいだろ

描いています。

に出るようになっては、海の生態系が壊れ

はなく、もう少し柔軟なやり方も考えてい

上がりはますます行き詰まってしまいます。

宮城県の復興計画があります。宮城県は、

うと思います。高台への移転も検討されて

てしまいます。

きです。大型の土木工事だけが復興の道で 私たちも、各地の復興計画に対していろ いろ提案してはいますが、生物や生態系の

世界的に有名になっている畠山重篤さんを

復興のあり方はいろいろあると思います。

はないのだということを、われわれは強く

第三の提案は、生態系とその回復力を活 産業もそうですが、文化も生態系の恵みの

立場の人たちの主張が取り上げられるとい

かした持続可能な営みの創造です。地元の なかでできてきたものです。生態系からも

主張していきます。

いのではないかと思っています。

方がむしろいいのではないかと思います。

いますが、高台移転となりますと、三陸の

新たな自然再生の場としての利用も考えた

3

6


農林水産業を始めとする産業の担い手の減

以前から、人口の減少、高齢化が進んで、

的な被害を受けました。これらの地域は、

のは沿岸域です。とくに東北の漁村は壊滅

今回被災地のなかで深刻な被害を受けた

した。

のか、改めて考えさせられることになりま

スをどのような方向に向けていったらいい

とっても、サステイナビリティ・サイエン

昨年は東日本大震災という、 これまでにない経験をしました。私たちに 合大学副学長)

ナビリティ学連携研究機構副機構長/国際連

武内和彦[モデレータ](東京大学サステイ

ということです。これが震災の経験を踏ま

いかにしなやかな社会づくりをしていくか

ています。ものを統合的にみると同時に、

とともにレジリアンスも考えようといわれ

よくいわれています。サステイナビリティ

ジリアンスという、やや難しい言葉が最近

ことが必要ではないかということです。レ

やかな社会」をつくることだと考えてみる

重要だと思っているのは、安全とは「しな

安全ということについて、一つ私たちが

るのか、私たちはいま真剣に考えています。

が、震災復興に対してどのように貢献でき

サイエンスの統合的にとらえるという立場

ています。つまり、サステイナビリティ・

限界があるのは自明であると私たちは思っ

を考えるとか、そういったアプローチでは

能エネルギーなら再生可能エネルギーだけ

なら漁村の再生だけを考えるとか、再生可

術の街おおつち、復興まちづくり創造おお

ジェクトを挙げています。歴史・文化・芸

大槌町の復興計画では、五つの重点プロ

っていくことです。

見据えて、地域・国内・世界との連携を図

数の漁場でありますから、水産業の復興を

に解明すること。そして、三陸沖は世界有

か、この震災で何が起こったのかを徹底的

用すること。さらに、海で何が起こったの

ンターを復旧し、共同利用施設の機能を活

共同した復旧・復興を行うこと。次に、セ

は四点あります。まず地域の復旧・復興と

沿岸センターの復興に向けた基本的視点

の調査が本格的に始まりした。

す。調査船が手に入ったことで、大槌湾で

れに提供してくれて、非常に感謝していま

造船所がつくった復旧第一号の船をわれわ

槌、つまり大槌という意味です。大船渡の

ユ」と名付けました。フランス語で大きな

研究は行うということです。

げるにあたっての科学的な基盤を六番目の

新しい水産システム、三陸モデルを立ち上

つ重要な出口として、水産復興があります。

は当然科学的な成果でありますが、もう一

課題を総合したものです。この事業の出口

この第六番の課題は、第一番から第五番の

岸域の物理過程と生態系の統合モデルです。

化の様子をみること、そして、内湾から沿

の話などもありますが、森林・河川等の変

質の影響、それから、先ほどから畠山さん

過程、沿岸の物質循環の変化、環境汚染物

グシステムの構築、生態系攪乱からの回復

を立てています。沿岸広域連続モニタリン

があります。大気海洋研究所は六つの課題

そのなかの一つの重要な拠点として大槌

パネルディスカッション

少に苦しんできました。そのような傾向が、

えた新しい考え方になるのではないかと私

つち、国際海洋研究都市おおつち、スマー

東日本大震災の復興を好機として 未来に挑戦する

震災を機にますます加速化するのではない

は考えているところです。

トタウンおおつち、美しい街なみ・景観お

武内 基礎的なものと問題解決をどのよう

かと危惧されています。

おつちです。私たちの沿岸センターは、こ

東北マリンサイエンス拠点形成事業が動

海洋研究センター・センター長)

き始めました。これは東北大学を代表とし

大竹二雄(東京大学大気海洋研究所国際沿岸

す。センターも被災しました。センターで

て、大気海洋研究所、それから海洋研究開

震災復興を考えるときには、地域に活力

の津波の高さは一二・二メートルで、三階

発機構が副代表として参画し、岩手大学、

のある状態を取り戻していくことが非常に

建ての建物の三階の窓付近まで水没しまし

東京海洋大学、北里大学、東海大学が連携

の国際海洋研究都市おおつちの中核となる

た。当時、教員・職員・学生、それから共

し、さらに全国のさまざまな大学が協力し

私どもの 沿岸センターは、今回の大震災で非常に大

同利用研究員の一六名がセンターにいまし

ながら、三陸沿岸域の震災の影響と、それ

重要な課題になります。従来のように、産

た。非常に運がいいことに、人的な被害は

から回復過程をオールジャパンの体制で研

ことが期待されています。

ありませんでした。私どもがもっていた三

究していこうというプロジェクトです。

きな被害を受けた岩手県の大槌町にありま

隻の調査船が津波で全部失われました。八

業なら産業の復興だけを考えるとか、漁村

月に新しい調査船が得られ、 「グランメー

9


畠山重篤さんの「森は海の恋人」という運

そのような歴史や伝統をベースにして、

木を使って大工仕事をしてきた人たちです。

ました。高い技術のすぐれた技で、地元の

工」といわれる大工の集団が形成されてき

岩 手 の 南 部 の 気 仙 地 方 で は、 「気 仙 大

加えて、里山や里海の暮らしや営み・文化

国的にも傑出した海岸景観でした。それに

ントは、海食崖、リアス式海岸といった全

この地域の従来の自然公園の最大のポイ

とともに進めていけたらと考えています。

復興に役立てられるように、地域の皆さん

の大きな国立公園にしていく取り組みを、

ばと考えています。資源やエネルギーの地

動も生まれたと思います。二〇一一年六月、

産地消、あるいは浸水した場所の湿地とし

の面も国立公園の大切な要素にして、この

陸中の北の方、野田周辺では、沿岸で鉄

ての再生ということも含めて、この地域の

津波の被害を受けて間もないときに、二三

の窯で海水を煮て塩をつくって、盛岡や花

なかで生態系のモデル的な回廊地域を設定

沿岸のそれぞれの地域の特徴を生かしなが

巻に牛に載せて運んでいました。その道を

して、さまざまな人が連携していく取り組

ら、自然と文化をうまく紡いでいくことで、

「野田塩ベコの道」 、野田ソルトロードと呼

みを進めていくことを考えています。

回目になる「森は海の恋人」植樹祭が行わ

んでいます。物資を運んだだけではなく、

れ、全国から一〇〇〇人以上の人が集まり

人や文化の交流もこの道を通じて行われて

国立公園の価値を高めていくことができれ

さんの自然公園が指定されていて、国立公

ました。

態系サービスの持続的な利用を進めていく

考えています。地域の防災・減災の取り組

また、エコツーリズムなども通じて、農

みと、国立公園の整備の連携もあるでしょ

きたといわれています。その道を復活させ

津波で海から運ばれてきた石、津波石が

う。国立公園の整備のなかで、災害時に避

園の一番の拠点である宮古の浄土ヶ浜にも

見つかっています。明治の三陸津波では標

難路や避難場所となる場所を提供します。

ための「SATOYAMAイニシアティ

高三〇メートルぐらいの場所に二〇トンの

林漁業と観光をつなぐような、地域と連携

石が運ばれました。唐桑半島には、明治の

あるいは、災害からの復旧の拠点になるよ

したプログラムづくりを進めていくことも

三陸沿岸には、それぞれの地域に特有な

津波で石柱が折れてしまった「折れ石」と

うな機能を、国立公園の整備で設けられた

て、地域づくりに生かそうとする地域の人

自然があり、それに根差した特有の暮らし

いうものがあります。このような津波の痕

場所で提供します。

大きな津波が及び、公園の施設も多数被害

や伝統文化が育まれてきました。大船渡の

跡、あるいは津波の災害の記録を現場で学

ブ」を提案しました。原生的な自然だけで

ランスを取り戻そうとするものです。その

吉浜は、吉浜鮑という非常にブランド価値

べるような仕組みをつくっていくことも、

ろんのこと、都市の住民や企業の皆さんも

たちの取り組みが動き出しています。

提案を具体的に動かしていく場として、

の高い鮑がとれるところです。ここでは秋

大事なことではないかと思っています。

含めてさまざまな人たちが、こうした取り

を受けました。陸前高田の海岸の松林も、

「SATOYAMAイニシアティブ国際パ

田のなまはげに似たスネカという行事が、

以上のようなことを受けて、環境省では

国立公園の重要な資源の一部でしたが、大

ートナーシップ」をCOP のときに立ち

五穀豊穣と健康を願って、小正月に行われ

三陸の復興に寄与する国立公園づくりの検

なく、人の暮らしや営みとのかかわりのな

SATOYAMAイニシアティブ国際パ

ています。山の神が福をもって里に下りて

かで育まれてきた里山や里海のような自然

ートナーシップの第一回総会を、二〇一一

きたのがスネカだといわれていて、その腰

組みを支えていく管理運営の仕組みをつく

きな被害を受けました。

三月に名古屋で行っていたちょうどその日

討を進めています。三陸沿岸に指定されて

っていくことも大切です。

環境にも光を当て、そこでの人と自然のバ

に東日本大震災がおきました。東北の沿岸

紐に吉浜鮑の殻をぶらさげて各家を回って

きたさまざまな自然公園を再編成して一つ

ィの人たちとの協働で進めていくのはもち

こうした取り組みを、地域のコミュニテ

は里山や里海が連なる地域で、津波で大き

います。

上げました。

な被害を受けました。この沿岸地域はたく

10

8


かにすることにつながるでしょう。つまり、

く世界三大漁場である三陸の漁業資源を豊

がる森林の質を高めていくことは、おそら

いくことは非常に重要です。北上山地に広

立公園を考えていく上で、森の質を高めて

ているのが大きな特徴です。この地域の国

三陸の公園では、森と海が非常に近接し

ドは非常に大事です。

育を考えていく上でも、森というフィール

ないテーマです。また、自然体験・環境教

と森林の保全・整備・再生は切っても切れ

ない仕組みになってしまいます。現在、放

害物質が入ってしまうと、これはとんでも

うに思えるのですが、仮に循環のなかに有

武内 いま循環型社会が推奨されていて、 一見すると、循環型社会はすべてがよさそ

ことは、そのような面からも重要です。

ます。沿岸域の環境をきちんと保つという

物質を川に持ち込んでしまうおそれがあり

してから川を遡上しますと、沿海域の汚染

でいる場合に、サケがそこで一定期間暮ら

汚染物質も運びます。沿海域の汚染が進ん

あまり気にされていませんでしたが、魚は

そこには負の部分もあります。いままで

動きにかかわっています。

プの役割を果たします。魚は栄養分を運ぶ

くことは可能だと思います。地域の資源は、

ょうけれど、いい形でこれからも保ってい

を束縛するものだということもあるのでし

そこにいる人たちからすると、それは人

ものではありません。

の芯をつくってきたものは、簡単に消える

何千年の歴史をもつ国では、コミュニティ

結構強く潜在的に生きていると思います。

いざとなったらそれが力を発揮するように、

ているという意見もあると思いますけれど、

だと思っています。それが随分と壊れかけ

ース・マネジメントは、日本はとても豊か

日本をずっとみてきて、コミュニティ・ベ

てきました。農山漁村のコミュニティから

をベースにして、一七年間ぐらい生活もし

この議論はこれからも続けていきます。

がっていくような話ができたと思います。

び世界のこれからの社会のあり方へとつな

地域社会の新しい管理のあり方、日本およ

のではないかと思っています。

りよい社会づくりの動機付けになっていく

をうまくつなぎ合わせることによって、よ

ろすべきではありません。むしろ、それら

会ですとか、自然共生社会といった旗も降

組んできた低炭素社会ですとか、循環型社

つつあります。その一方で、これまで取り

かという新しい課題にわれわれは取り組み

き合える社会をどうやってつくっていくの

大きな脅威ももたらす自然と、うまく付

渡邉 日本の国立公園の多くが、森林が非 常に重要な資源になっています。国立公園

里山の管理や利用をどうしていくのかとい

やはりみんなで力を合わせ、知恵を出し合

のか、日本にとっての大きな課題です。

す。安全な循環型社会をどのようにつくる

なければいけないものです。コミュニティ

って、共同体で一体となって管理していか

中静 生物多様性というと、ともすると、 絶滅しそうな生き物を救うというようなこ

向けて何が発信できるでしょうか。

ながっています。統合性のあるコミュニテ

資源管理は実は文化や人々の意識にまでつ

それができる豊かさが日本にはあります。

すばらしい政策を出しても、コミュニティ

は川で生まれ、川での生存競争に負けたも

をうまく生活のなかで使っています。サケ

て進化してきた生き物で、川と海の生産力

が、彼らは川と海の連関を生活に採り入れ

を、われわれはもう少し確認できたらいい

サステイナブルな生き方なのだということ

気をつけて生きていくというのが、新しい

が豊かになっているということに、もっと

の糧を得ていて、生態系があることで生活

ということを改めて再認識しました。

うな自然とわれわれは付き合っているのだ

武内 私たちは東日本大震災で、自然は恵 みであると同時に脅威でもあって、そのよ

す。

出せていけたらいいのではないかと思いま

に色合いの違う新しいものをもっともっと

( 『サステナ』第 号)

本日は、震災からの復興から始まって、

うことはとても大事なテーマです。

射性物質の除染が大きな問題になっていま

の里山の木材がもっとうまく活用されて、

畠山さんのところに伺ったときに、三陸 たとえば住宅の建設や復興に使われるよう 域のなかでの循環がうまくまわっていくの

とばかりが問題視されている感じもあるの

ィ・ベース・マネジメントの文化が豊富に

がやらなければいけません。国がどんなに

ではないか、そのような仕組みをつくりた

ですが、珍しい生き物がいるから、貴重な

多様に日本にはあります。そこから、さら

今回の経験を踏まえて、私たちは世界に

いというお話をされていました。

生態系だから保護するというだけではなく

になっていけば、森の手入れが進んで、地

大竹 海の栄養分はすべて陸から運ばれて くるものです。陸との連関がなければ、河

て、われわれは生態系からいろいろな生活

のが海に下ります。海の栄養分をたくさん

と思います。

ごとにやっていかなければいけないのです。

私はアユやサケの調査研究をしています

蓄えて川に戻ってきますので、大きさは逆

まくどなるど 私は日本にきて、農山漁村

11

口域や沿岸域に生物は生きていけません。

転します。サケは海の養分を川に運ぶポン

24


たいと考えています。

科学的な根拠をもちながら、提示していき

状況にあります。そういうものの大事さを、

ちで進められているとは必ずしもいえない

生態系自身のもっている力を生かしたかた

必要です。そうはいいながらも、復興は、

解明を震災復興と一緒にやっていくことが

段々と明らかになりつつありますが、その

干潟や藻場の生態系が果たしている役割は

の問題としても非常に重要なテーマです。

うな貢献をしていくのかというのは、科学

復した生態系が、たとえば水産業にどのよ

あろうと考えています。それに加えて、回

のなのかを明らかにしていくことが重要で

で、あるいはどういうところで回復するも

中静透 基礎的な部分では、どういった被 害を受けたのか、それがどういうスピード

されているのでしょうか。

につなげて社会貢献に結び付けていこうと

ばいけない気がします。

漁業者・生産者の距離を縮めていかなけれ

上では、市民社会といいますか、消費者と

ぎました。新しい漁村づくりを考えていく

ありましたが、漁業にはあまりにもなさす

いこうという動きがここ十数年すいぶんと

か、生産者と消費者の間で距離をなくして

のなかで、農業は、 「顔の見える農業」と

今回ものすごくよく聞きます。第一次産業

あん・まくどなるど 漁業という人間活動 が社会の主流から離れているというのを、

みをどう考えていけばいいのでしょうか。

武内 漁村の再生、それも社会としての再 生について、新しい資源の共同管理の仕組

テーマにしていきたいと考えています。

でも、被災した地域での自然再生を一つの

国立公園の話をしましたが、その取り組み

く必要があると考えています。三陸の復興

て再生していくことも、真剣に議論してい

極的に干潟、あるいはウエットランドとし

な状況もあります。そのような場所は、積

り方を考える一つの重要な経験をしている

武内 生物多様性、あるいは生態系を大事 にした地域づくりと、漁業のこれからのあ

のあり方を変えるいいチャンスです。

力になってくれると期待しています。漁業

化するとき、そのような人が非常に大きな

実際の水産システム・漁業システムに具現

れからわれわれが研究をして、その成果を

に非常に理解のある方が入っています。こ

たからです。若い人たちのなかには、研究

は、結局は若い人たちが中心になれなかっ

合のあり方がなかなか変わらないでいたの

すことが重要だと思っています。今まで組

源管理のあり方をもう一度きちんと考え直

すという状態です。私はこれを機会に、資

す。漁業協同組合も破産して、新しく出直

大竹 大槌町ではいままであった漁業を何 とか建て直すというところで精いっぱいで

っていないのが問題だと思っています。

論と、陸上での活動が統合性のある話にな

み始めていて、漁業をどうするかという議

るとか、そういうものをすべて引っくるめ

てくれるとか、二酸化炭素を吸収してくれ

の森林が生み出してくれるいろいろなサー

中静 森林では木材をとることが重視され てきた歴史がありますが、最近では、流域

方が主張しています。

ロムというノーベル経済学賞を受賞された

ばいけないということをエリノア・オスト

しいコモンズとして作り上げていかなけれ

管理していく仕組みを、現代社会にふさわ

ながら、全体として資源を持続的にうまく

武内 いろいろな資源の管理にはさまざま な人たちが関わって、お互いに補完し合い

してくれました。

画をつくったことを、IUCNは高く評価

た管理に研究者も参画して、新しい管理計

きた実績があるということをIUCNに説

ミュニティが漁業資源を持続的に管理して

網の目のサイズを工夫したりと、地域のコ

産に指定されるにあたって国際自然連合

場所として知床があります。知床が世界遺

が、理解されるようになってきています。

るのは森林所有者だけではないということ

て、流域に森林があることで利益を得てい

ビス、水を供給するとか、綺麗な水を出し

明しました。そのような地域をベースにし

武内 今回の震災に対して、環境政策のな かで、被災地の自然再生のような新たな考

漁業権の見直しもやってもいいと思いま

(IUCN)から問われたのは、知床でき

え方は出し得るのでしょうか。

す。現在の漁法は、資源に負荷を与えすぎ

そこから生み出される木材ですとか柴です

ていいます。漁法の見直しがら出てくるで

流域レベルで考えたときに、その生態系が

渡邉綱男 自然再生に関しては、二〇〇二 年に自然再生推進法ができて、傷ついた生

ことでした。

もたらしてくれるものに対し、流域全体で

コモンズという考え方は昔からあったわ 水揚げした後の加工場の復旧という課題

渡邉 知床の豊かな海の生態系の保全と、 基幹産業である漁業の持続を両立させる管

意思決定して、上手にマネジメントしてい

ちんとした漁業資源の管理がされて、自然

もあります。気仙沼では、一〇億円から四

理計画を、漁業者も入ってつくっていくと

しょう。それはコミュニティづくりともつ

いう仕組みができあがりました。まだまだ

〇億円の加工場を復旧させようとしていま

いう説明をIUCNに対してしました。資

態系の再生を、役所レベルでも連携し、地

再生の取り組みが部分的な広がりにとどま

す。四〇億円の加工場を運営していくには

けですが、従来のコモンズは、あくまでも

っているのがこれまでの状況です。

資源がどれぐらい必要かを考えると、果た

くシステムを、これからどうやってつくっ

を大事にした漁業をやっているのかという

一度市街地となったところが被災し、地

源が減っていかないように非常にきめ細か

ていくかという模索が始まったところです。

ながってきます。

盤沈下もして、水がたまり、湿地のような

してこれがサステイナブルかどうか疑問を

に禁漁区を設けたり、禁漁期間を設けたり、

域の皆さんとも連携して、進めていこうと

状態になっているところがあります。場所

感じます。しかし、その加工場づくりは進

とか、そういったものに限られていました。

によっては、そこに渡り鳥が飛来するよう

10


となどがあります。誘因としては、地震動

水施設の不十分さなど、擁壁が不安定なこ

水位が高いこと、集水地形であること、排

め度が低いこと) 、盛土が厚いこと、地下

材料が悪いこと、盛土が軟弱なこと(締固

を受けました。被害の素因としては、盛土

大震災では、宅地造成盛土は多様な被害

広く普及する必要がある。

化、その被害とその対策法に関する知識を

能を喪失してしまいました。

地盤および本体が完全に崩壊し、完全に機

流・侵食・支持地盤の洗掘などにより基盤

波が想定された高さを越えてからは、越

を超えるまでは機能しました。しかし、津

波防御施設は津波の高さが想定された高さ

(過酷事故)でした。すなわち、これら津

計での想定を超えたシビアアクシデント

設が壊滅的に破壊されました。これは、設

堤、海岸堤防、河川堤防などの津波防御施

立たなかったわけではないのです。

被害がないか軽微でした。地盤工学が役に

でした。河川堤防でも耐震補強したものは、

されていましたが、全く被害がありません

していた近代的な補強土擁壁が各地で建設

とんど壊れていません。特に、耐震設計を

橋台、ロックフィルダム等の土構造物はほ

の地盤工学で設計・施工した盛土・擁壁・

作用を受けて崩壊しました。しかし、最新

良いのか、大いに疑問です。

合、土構造物は壊れたら直すという考えで

災したら全体の機能が失われます。この場

盤変状・土構造物の崩壊のために一カ所被

のライフラインなどの線状の構造物は、地

潮堤などの防災設備、上下水道・電力など

道路や鉄道などの交通機関、河川堤防・防

そのような方針で良いとは思われません。

する地盤に何も対策はとらないということ

に際して地盤の液状化の検討をせず液状化

路・鉄道等の社会基盤構造物の設計・建設

で 共 通 し て い ま す。つ ま り、現 在 で は 道

技術のレベルがまだ非常に低いということ

害の問題は、個人の財産に適応される建設

宅地の液状化被害の問題と造成宅地の被

クリート被覆工がはがされ、盛土が浸食さ

烈な揚力が働き、天端と下流側法面のコン

た津波は下流側法面では流速が増加して強

なって浸食が開始されます。また、越流し

定性を失い盛土は越流に対してむき出しに

れると、裏法面のコンクリート被覆工が安

流が生じて下流側の裏法面の基礎が洗掘さ

ければなかなか崩壊しません。しかし、越

その原因は越流でした。盛土は越流しな

害が、今後は生じないようにするために、

今回の地震で起きてしまった広域多所災

です。

いものがたくさん存在しているということ

現行の技術基準で要求する性能を満足しな

ベルが低かった昔に建設された土構造物で、

要するに、社会の要求レベルと建設技術レ

造物と、未対応の自然地盤・斜面」です。

準で要求する性能を満足しない既存の土構

物」です。厳密にいうと、 「現行の技術基

問題は、いわゆる「既存不適格の土構造

が強く盛土が応答しやすい周期特性である

はないのに、個人の宅地の場合はその状態

れてしまいます。最終的には全断面が喪失

こと、継続時間が長いことなどがあります。

に放置されていました。また、道路・鉄道

強をしていかなければなりません(図) 。

重要な既存の土構造物の耐震診断・耐震補 どのような対策があるかといいますと、

歴史的に見ますと、一九九五年阪神淡路大

します。 多層のジオテキスタイルによって盛土を補

震災の後の二〇年間ほどは、震災が忘れら

等の社会基盤構造物の盛土は使用できる盛 めと排水設備の整備を行いますが、丘陵地

強して、さらにコンクリート被覆工をジオ

土材料に制限を加え一定レベル以上の締固 の個人の宅造盛土は非常に低い目標レベル

して必ずしも安全ではないことが繰り返し

れないうちに立て続けに生じました。古い

て示されました。しかし、 「土構造物は崩

シンセティックに固定する方法があります。 る上に、耐震性が向上するとともに越流す

壊しても復旧が比較的容易なので、崩壊を

時代に建設された土構造物は、大地震に対 る津波に対する抵抗力が格段に向上します。

この形式では盛土断面を遥かに小さくでき

成盛土の崩壊)は、埋立地では必要な液状

模型実験でもそれが示されました。実際に、

これら宅地の問題(埋立地の液状化、造 化の予測と対策を行う、盛土では十分な締

防ぐ方策よりも、崩壊をしたら原状復旧を

で造成されて、それが放置されてきました。

固め管理を行う、きちんと排水設備を設け

三陸鉄道の盛土部分をこの工法で復旧する

きました。この間の経緯を簡略化していう

るなどの技術的な問題だけではなく、法律

と、こういうことだったのですが、今日、

するという方針が合理的である」とされて 今回の地震で、建物・道路・鉄道の盛土

ことが決まっています。 やため池など、多くの土構造物が地震動の

の問題、社会制度も一緒に対応しないと解 巨大津波による被害では、防潮堤、防波

13

決できません。

広域多所災害に備える ための課題.


茨城大学フォーラム

地球変動の影響に対する 適応政策・適応技術に関するフォーラム 2012

主催:茨城大学地球変動適応科学研究機関(ICAS) 共催:環境省環境研究総合推進費 S-8 /土木学会関東支部茨城会/ NPO GIS 総合研究所いばらき 後援: (財)土木研究センター/地盤工学会関東支部/ 地盤工学会「地球温暖化が地盤環境に及ぼす影響に関する研究委員会」/国際ジオシンセティックス学会日本支部 日時:2012 年 5 月 11 日(金)9:20~17:10 会場:茨城大学地球変動適応科学研究機関環境ラボラトリー

キーノートスピーチⅠ

(たつおか ふみお)

地震時における 地盤災害の課題と対策

龍岡文夫 東京理科大学理工学部土木工学科教授

二〇一一年三月一一日の東日本大震災で

資料も入れ、長期的な防災・減災の対策、

す。さらに、具体的工法、参考文献・参考

一部実施した復旧・復興計画を入れていま

みました。また、各機関で提案・検討し、

計・施工した場合は、基本的に被害はあり

基準は整備されていて、それに従って設

の液状化に対する予測と対策に関する技術

の改良もされていました。すなわち、地盤

策がとられていたからです。一部では地盤

の地盤災害が生じました。地盤工学会は、

長い地震動と多くの余震が原因であり、そ

れました。一つは、かつてない継続時間の

震災の直後は、地盤液状化天災説がいわ

は、液状化の予測自体をしておらず必要な

宅・ライフライン等の地盤の液状化の被害

想定外であったとはいえません。戸建て住

宅・下水道施設等の被害は、工学的にみて

今回の若年埋立地の液状化による戸建て住

ませんでした。現行の設計指針・基準で液

この大災害から教訓を学び、震災からの復

のためこの地盤の液状化被害は予測できな

対策をしていなかったことが原因です。

大震災では、地盤の液状化による戸建て

研究・調査の展望も書きました。

旧・復興に貢献するために、 『地震時にお

かったという説です。二番目は、細粒分含

戸建て住宅の購買者に対して、販売者に

状化の判定をすれば、東京湾臨海部などの

ける地盤災害の課題と対策 ――二〇一一年

有率が非常に多い砂質土は特殊であり、そ

よる宅地が液状化する可能性についての説

住宅・ライフライン・道路施設などの被害

東日本大震災の教訓と提言』を二〇一一年

の液状化は予想外だったというものです。

明は、ほとんどの場合なされません。販売

若年埋立地は液状化すると予測されます。

七月に公表しました。この提言には四つの

三番目は、現状の設計基準・設計指針は地

が目立ちました。

基本的視点がありました。

盤の液状化の予測能力が低かったというも

は、広域にわたって膨大な箇所で多種多様

( )地盤工学は、地盤災害を軽減し、

( )現 在 の 段 階 で、復 旧・復 興、防

じたのか?

であったために、どのような地盤災害が生

( )被害の想定と対策がないか不十分

震災を軽減するのに役に立ったのか?

が低かったという説です。

解度が低いため、地盤の液状化の予測能力

ルが低くて地盤の液状化のメカニズムの理

のです。四番目は、地盤工学の理論的レベ

まり、宅地の液状化に対応する社会システ

液状化の検討は義務化されていません。つ

戸建て住宅の建設の許認可申請でも地盤の

する方にも説明する義務がない状態です。

1

2

とめになりました。

状化による被害は天災ではない、というま

第一次提言では、今回起こった地盤の液

でしたが、結局次の三点になりました。

学会としてのまとめをつくるのは結構大変

ムがないのです。これらに関して、地盤工

災・減災のために、どのような地盤工学の ( )今後地盤災害を軽減するために、

( )若年埋立地などの宅地は、液状化 この『提言』は緊急に纏めたために、触

査・設計・施工・維持管理の課題は何か?

く認識され、それに対応するようになりま

年の新潟県地震の後、建設技術者の間で広

て各種の被害をもたらすことは、一九六四

( )戸建て住宅にも適用できる標準的

要がある。

を行い、既存の戸建て住宅は補強を行う必

を考慮して、新築戸建て住宅の設計・建築

進展させる必要のある地盤工学・技術の調

れるべきいくつかの項目が欠落し、具体的

した。今回の地震で広範囲に液状化した地

1 な技術情報や技術提案も不足していました

地震時に飽和した緩い砂地盤が液状化し

手法・技術を提案できるのか?

3

4

した。その目的は、まずきちんと情報を出

ので、第二次提言を出版することになりま

あるいは中・高層ビル、共同溝などは支持

域でも、道路や鉄道の高架構造物、橋梁、

( )宅地の液状化による戸建て住宅の

る。

な地盤の液状化の判定法の開発が求められ

それらは地盤の液状化が予測されていて対

地盤が液状化してもほとんど無被害でした。 害調査による新事実や新たな教訓を盛り込

すことです。それから、各方面で進んだ災

2

被害を防ぐために、社会一般に地盤の液状

3

12


分かっていただけると思います。つまり、

」となります。アダプテーションが tation 二度繰り返される変な言葉ですが、意味は います。

的な適応策と、二つの方向を考えて進めて

応の方向性とし、短期的な適応策と中長期

した社会に向かうかどうかは不明です。し

かし、それが予定調和的に、長期的に適応

から出発しているので取り組みやすい。し

ローチは、目にみえる影響や現場のニーズ

ていることなど、共通する面が多々ありま

こと、社会システムと深いかかわりをもっ

の対応であること、そこに不確実性がある

自然災害も気候変動も、将来のリスクへ

難しいと、どこにいってもいわれます。先

がおこるかわからない対策をいまとるのは

ということです。一〇年後、二〇年後に何

四番目は、長期的な見通しを必要とする

とを繰り返していく必要があります。

が進んだ新しい予測結果を使うといったこ

応策は、たとえば五年後に見直して、科学

知識でわかる影響予測や、それで決めた適

やるか、どうやって将来の影響を予測する

か、どうやって合理的なダウンスケールを

世界では、どれだけ精密なモデルをつくる

どのように対処するかを考えます。科学の

分の地域への影響を予測し、それに対して

それを自分の地域にダウンスケールし、自

地球規模の気候変動は気候モデルで予測し、

ています。一つは、科学アプローチです。

り組みでも、二つのアプローチがあると見

日本の取り組みでも、あるいは世界の取

です。

った方々と一緒にやることがぜひとも必要

には、社会科学、あるいは社会心理学とい

解しやすいのですが、社会で実践していく

ですから、科学アプローチの方がずっと理

究者の視点でいいますと、私は工学の人間

をどのように融合するのかが課題です。研

的な展望、それと地域アプローチの現実性

たがって、科学アプローチの予見性や長期

安全・安心で、多様なリスクに対応できる

り込んで、両者が融合されることで、より

ュニティの長い経験を気候変動の対策に取

重なる部分がたくさんあります。防災コミ

変動に適応していく社会をつくることには、

自然災害に強い社会をつくることと、気候

リスクにどう対応するかということでは、

安全・安心な社会といいますが、将来の

す。

決め打ちにしないということです。いまの

ほどの龍岡先生のお話を聞きながら、防災

かということを一生懸命、国際的に競いな

動の分野が一緒にやるべきだと、思ってい る理由がだんだんとわかっていただけたと

これですとすごく取り組みやすい。現場の

相談し、どうしていくか計画を立てます。

政策で対応しきれないのであれば、住民で

れとか、現場の問題を取り出して、既存の

のをつくって、最悪の事態においても一定

対策でカバーしよう、構造物も粘りあるも

最悪の事態を想定して、事前の準備と事後

護をするが、それ以上のものに対しては、

て、一定のレベル以下の事象に対しては防

が生じるかわかりません。津波防災に関し

自然災害は、いつどこでどの程度の災害

思います。

ニーズのなかに気候変動の将来の影響が組

の影響を減じる効果を残しておこう、その

ったら大変すばらしいと思います。

社会をつくっていくように議論に進んでい

がら研究しています。

ここまで話してきて、防災分野と気候変

でも全く同じなのだなと思いました。その

もう一つは、地域アプローチです。予測 はどうしても不確実ですから、現場のニー

み込まれます。ただし、これを積み重ねる

ような工学的な対策が重要だというのが、

安全・安心な社会――持続可能な社会をめざす上で の将来リスクへの対応.

ズから始めようということです。影響の現

と本当に災害リスクや気候変動の影響に強

一方、気候変動については、人為的な温

い社会になるのかどうかわからないところ

室効果によって生じる影響に二つのリスク

先ほどの龍岡先生のお話でした。 科学アプローチは、予見的な適応のベー

があります。 スになるものですが、高度化すればするほ

がある。徐々に増大するものと、非可逆的 は不確実性がありますが、適応策は気変動

ど社会の高い科学的能力が必要とされます。

に対する予見的な対策です。

で大規模な変化です。気候予測と対応力に が担当するのかというのは難しいところで

科学と政策が混じった横断的分野を一体誰 す。ボトムアップのニーズに基づいたアプ

15

ような気候変動に対して、日本における適

気候変動への 2 つのアプローチ.


キーノートスピーチⅡ

気候変動への適応

考えられています。

温暖化問題はいわれ始めてから二〇年ぐ 象と自然災害の問題に関する特別報告書を

した。昨年の一一月にIPCCが、異常気

世界でも最近、そのような動きが出てきま

あると、数年前から感じていました。実は、

動くよりも、協力することを考える必要が

ければいけないといって、二つが並列して

酸化炭素の濃度も下がっていくのかという

数十年後に排出が減るのなら、大気中の二

出の時間スケールはせいぜい数十年です。

とも可能です。とすると、二酸化炭素の排

クを打ち、やがては減っていくと考えるこ

酸化炭素の排出量は今世紀の前半にはピー

の対策もそれなりに進むでしょうから、二

化石燃料はいずれは底をつきます。世界

けですから、国が全体的に対策を取るだけ

に大きい。それぞれの地域で状況が違うわ

第二に、影響と適応策には地域差が非常

があります。

て、集中豪雨や、それに伴う都市災害など

必要です。ただちに対策が必要な分野とし

災基準を見直して、対策に組み込むことが

ていた前提条件が変わりつつあるため、防

りつつある。従来、気象条件は一定とされ

第一に、気候変動の影響は、すでにおこ

のではないかという感じがするのですが、

らいになり、温暖化の影響もだんだんとは 発表しました。気候変動コミュニティと防

と、そうではありません。大気中における

て、対応力を高めてきたということです。

気候変動の適応策に対する認識は、次の

っきりしてきました。たとえば、日本の南 災コミュニティとが国際レベルで初めて力

二酸化炭素の平均滞留時間は七〇年ぐらい

ように整理できると思います。

部が亜熱帯化しつつあるといわれています。 を合わせたということです。そのようなこ

でなく、地方自治体が主体になる必要があ

これは数百年から一〇〇〇年ぐらいのスケ

温暖化は、今日から二酸化炭素の排出を止 ともあって、この問題をわれわれはどう考

あり、濃度が安定化して、やがて減ってい

るでしょう。しかし、地方自治体が取り組

ールの話です。

めたからといって、明日効果が出るという

えたらいいのか、何かここで結論を出そう

くようになるには、一〇〇年程度の時間ス

むにはバリアは高いです。地方自治体が、

そういう経験をもった分野があるのに、ま

ものではなく、大気中に二酸化炭素が増え

というのではなく、まず問題を出し合って、

ケールをみなければなりません。

た温暖化のリスクへの新しい対策を立てな

た影響はかなり長く続きます。今世紀は、

考え方を整理できたらというのが今日の私

持続可能な社会をめざす上での将来リスクへの対応

温暖化と付き合いながら生活しなければい の話の趣旨です。

クに対して、将来どうしていくのかを考え

温暖化のリスクが加わります。複数のリス

リスクに囲まれていますが、それにさらに

らしました。日本はいろいろな自然災害の

昨年の東日本大震災が大変な被害をもた

業・食料生産、人間生活、それに保険金融

水、生態系への影響、沿岸・海岸防災、農

動のもたらすリスクは非常に多岐にわたり、

変化することが問題です。そのため気候変

はなくて、気候システム全体がいろいろと

が、気候変動は、単に気温が上がるだけで

の方がすでにご存知の通りだとは思います

気候変動のリスクの特性について、多く

あります。緩和策が基本ですけれども、こ

響に応じて対策をとっていく「適応策」が

削減策である「緩和策」と、気候変動の影

の対応は、大きくは、温室効果ガスの排出

では、どう対応するかです。気候変動へ

ません。

コントロールすることを考えなければなり

どに対しては、ある閾値を超えないように

い大規模な氷床の融解とか、海流の変化な

いったん引き金を引いたら、元に戻れな

くなるかといったことに関する不確実性は

に対する分散、つまり、雨がどれだけ激し

は比較的不確実性は小さい。一方で、平均

ります。気温や降水量などの平均値の予測

第三に、気候変動予測には不確実性があ

ースができていないと感じます。

候変動への適応策に取り組む主体になるベ

のは難しい。ですから、日本の行政が、気

なかに入ってきていないことに手を着ける

法律に書いていないことや、行政の業務の

茨城大学地球変動適応科学研究機関(ICAS)機関長

(みむら のぶお)

けないのに、その影響に対して、どのよう

三村信男

な対策を採ったらいいのか、具体的な準備

なければなりません。いままでのリスクの

と、いろいろな分野に広がっています。

一つ付け加えなければいけないという発想

てきたので、これへの対策を独立してまた

が全部溶けると、海面が六メートル上昇す

ルの問題があります。グリーンランドの氷

また、難しいテーマとして、時間スケー

ん。それへの備えをするのが適応策で、こ

定の進行をするので、影響は避けられませ

れがうまくいったとしても、気候変動は一

きな不確実性があることを前提にして、柔

それについてのわれわれの知識にはまだ大

て、とくに現象の振れ幅がどうなるかです。

ければいけないのは、平均値だけではなく

大きいのです。われわれが防災で対応しな

はかばかしい進展がみられません。

をどう進めていったらいいのか、それほど

上に、もう一つ新しく温暖化のリスクが出

でやると、世の中、対応しきれなってしま

の二つを並行してやらなければいけません。

軟で順応的な対応をしていく必要がありま

適応策が必要な分野は、防災・農業・水資 源・健康・金融システムなどいろいろあり、

す。これを英語でいうと「 adaptive adap-

るとか、西南極氷床の氷の融解で五メート

いま龍岡先生のお話を聞いて改めて感じ

とがあるかと思います。それだけ聞くと、

それぞれの分野でバラエティのある対策が

ル上昇するとか、そのような話を聞いたこ

たのは、防災分野では、いつ起きるかはっ

明日か明後日にも大きな海面上昇がおこる

います。

きりしない事象に対して、努力を積み重ね

14


関する情報を販売者が購買者に説明する義

のは問題です。宅地の地盤災害の可能性に

もありません。何の権利も守られていない

て、液状化で滅茶苦茶になっても何の補償

務化されていません。ですから、家を買っ

際しては、土地に対しての品質の報告は義

ています。しかし、戸建て住宅の許認可に

龍岡文夫(東京理科大学) 建築基準法では、 精神としては、地盤の液状化について触れ

いるのかお伺いできればと思います。

に、法制度化をどのようにイメージされて

なります。安全な暮らしをつくりあげるの

たのか、きちんと伝えられているのか気に

ん。その土地が従前どのような状態であっ

に合っていれば行政は許可せざるをえませ

ていましたが、開発計画が現行の技術基準

吉田雄一(茨城県建築指導課) 午前中の議 論のなかで、宅地の安全性ということが出

値があると思います。

何が大切であるのか、国民的に議論する価

ません。安寧だったり安心だったりします。

と、決して全部の情報がほしいのではあり

国民が究極的に何を求めているかという

透明性は高いものではありませんでした。

はシャープに収斂していました。しかし、

化のそれで、スピーディで、ソ連の学術界

のソ連の意思決定は、まさに共産主義体制

ません。チェルノブイリ原子力事故のとき

ます。ワンボイスがいつでもいいとは思い

ス)を持ち得なかったということだと思い

に 近 い の は、政 府 が 一 つ の 声(ワ ン ボ イ

た。政府が隠していたというよりは、実態

かったことがいろいろと出てきています。

いながら、今回の震災では活かされていな

阪神淡路大震災は非常に大きな教訓だとい

もっともっとしていかなければなりません。

んでいくためには、本当の意味での反省を

害を経験して、それを糧として一歩一歩進

難しいところです。今回のような大きな災

ードマップがうまく活用できているのか、

もあって、忸怩たる思いがあります。ハザ

して、やや曖昧な表現としてしまうところ

ことです。財産にも関わります。技術者と

場所を大きな声でいうのはなかなかつらい

がゆい部分があります。被害が想定される

します。そこで、公にする仕方で非常に歯

れ、その成果を基にハザードマップを作成

を条件として計算し、ある一つの解が得ら

業務が委託されると、私どもは、ある外力

とで、行政から私どものようなコンサルに

伴夏男(基礎地盤コンサルタンツ) 液状化 ハザードマップを整備しましょうというこ

務であろうと思います。

学からの正しい設計・施工技術の提案が急

きたいと思います。そのためには、地盤工

けられます。それに向かって進んでいただ

て独自の条例をつくれば、相当に規制をか

思います。自治体が、宅地造成とかに関し

この問題は法律と いうよりは、条例で対応できる話だろうと 災害科学研究所研究員)

諏訪靖二(諏訪技術士事務所代表/財団法人

地盤に関してはありません。

関してはいろいろな技術資格はあっても、

今は非常に不足しています。建物の構造に

その場合、地盤災害の判定ができる人材が、

田中 情報を発信する側からお願いしたい

りません。

ません。一朝一夕に解決できるものではあ

年かかってつくりあげていかなければなり

をもって受け止められるという関係を、長

ん。日本の学界が発信すると、社会に信頼

も、マスメディアはなかなか取り上げませ

きていませんと、いくらいい情報であって

響力をもっているという社会との関係がで

信に努め、それによって発信源が一定の影

わけにはいきません。日ごろから情報の発

いって、それが世間にすぐに広がるという

小岩井 ある学会があるいいタイミングで 非常に重要な提言・報告書を出したからと

ていただきました。

いうことで、文部科学省にいろいろ工夫し

アの研究者の集まりでは格好がつかないと

震局が対応するのに、こちらがボランティ

た。中国に入ったときには、向うは国家地

して、私なりに肩書きをもって出かけまし

リラです。そのつど相手方の対応機関を探

外の被災地調査に行っていますが、全部ゲ

私はこれまで、一四〇箇所くらいの国内

術や情報への対価が安すぎるのです。

ころがあるという感想をもっています。技

け方に対して、日本はあまりにも厳しいと

トです。欧米諸国の情報に対するお金のか

かまわりません。イギリスでは七パーセン

ストの一パーセントを切るくらいのお金し

小長井一男(東京大学生産研) 日本では建 設にとって重要な地盤調査に対し、建設コ

頑張っていきたいと考えています。

いま一度、技術者のはしくれとして反省し、

協力をよろしくお願いします。

ていきたいと思っています。これからもご

ねて、課題解決に貢献できる方向を目指し

加わっていただいて、今後も議論を積み重

論点を整理し、さらに新しい分野の方にも

ところから始まりました。ここで出された

うしたらもっと協力できるだろうかという

われわれが社会的な責任を果たす上で、ど

それぞれでやっているのでいいのだろうか、

に、科学技術の分野が縦割りになっていて、

将来的な大きな問題が待ち構えているとき

三村 本日のフォーラムは、これだけ大き な災害がおきて、同時に気候変動のような

ておくのがいいのではないかと思います。

え、適時に出せるようなシステムを構築し

民が求めている情報は何かということを考

得る機関になることが大切ですし、いま市

ます。発信する場合は、日ごろから信頼を

あるかないかが評価されてきたのだと思い

断によって、その情報を出す側に信頼性が

える作業をしています。その取捨選択の判

ディアは情報を取捨選択し、簡潔にして伝

せる情報量は限られています。つまり、メ

に限りがあるように、テレビ、ラジオは流

った情報も多くあります。新聞のページ数

膨大な量の情報が流れています。ただし誤

しません。いまはインターネットによって

ら質のいい情報であっても、受けとろうと

ているときに出していただかないと、いく

と想像してみてくださいということです。

のは、自分が記者だったら、市民だったら

( 『サステナ』第 号)

17

自分が必要としている情報をほしいと思っ

務がある制度を導入する必要がありますが、

25


対話セッション

市民&行政担当者と専門家との 新しい関係

あるようで極めて乏しいということです。

えて、私が痛切に思いましたのは、情報は

田中泰義(毎日新聞科学環境部) 今回の東 日本大震災および福島第一原発事故を踏ま

範囲は非常に限定されています。

に縦割り組織で、新興の科学部記者が扱う

と思います。日本の大手マスコミは伝統的

小岩井忠道(科学技術振興機構) 日本の科 学ジャーナリズムは非常に守備範囲が狭い

ないまま、政府などの発表をそのまま伝え

のかわかりませんでした。精査する余裕が

いうことがばらばらで、何を信用していい

究者の方々に話を聞きますと、人によって

した。東電だけに頼っていられないと、研

食い違いがあります。われわれは混乱しま

ころ変わり、保安院や官邸の発表内容とも

東京電力が時間ごとに発表する内容はころ

情報が常に載っていたわけではありません。

せているようにみえます。

リスは科学者の役割を仕組みとして定着さ

いという結論が即座に出されました。イギ

て、東京にいる英国人は退避する必要がな

イギリス首相に進言しました。それによっ

か、科学顧問が責任をもってリサーチして

民に対してどのように対応するのがよいの

例えば福島原発の事故後、日本にいる英国

ス政府には科学顧問という地位の人がいて、

科学者の社会的発信の重要性です。イギリ

したのが、科学者の社会的責任の大きさ、

今回の大震災を機に改めてはっきりしま

テレビも新聞も、洪水のように原発事故に

るような状況にも陥りました。その結果、

ついて伝えました。しかし、決して新しい

和田幸三(茨城県土木部河川課) 茨城県で は、三村先生にも参加していただいている

読者・視聴者からは、メディアは大本営発

三村信男(茨 城 大 学) こ の セ ッ シ ョ ン で は、 「将来的な自然災害や気候変動のリス

茨城沿岸津波対策検討委員会で、津波対策

クに対して抵抗力の高い社会を築くために、

軸を複雑性にして、自然災害のリスクへの

の検討を進めています。L 津波(設計津

も一つのまとめ方で、横軸を時間軸に、縦

違点は何なのでしょうか。図は、あくまで

田村誠(茨 城 大 学) 気 候 変 動 適 応 と 自 然 災害のリスクへの対応における共通点・相

論を行いたいと思います。

はかるべきか」ということをテーマに、討

市民・行政担当者・専門家がいかに対話を

対応、気候変動への適応、気候変動の緩和、

対してどう対応してくれるのかといったこ

私にはこのような被害があるけれどそれに

どのような影響があるのかといったことや、

ていることの多くは、災害が自分に対して

一方で、市民の側からすると、科学に求め

帯びた情報を提供するのは確かです。その

ようにみえます」というある種の客観性を

被害の全体的な傾向について統計的にこの

くなりますから、施設的なものだけでどこ

策を考えますと、時間スケールがだいぶ長

つくります。気候変動に伴う適応策・緩和

時間をいくらかでもかせげるようなものを

す。その施設もねばり強いもの、避難する

年に一回程度の中小の津波は施設で守りま

ソフトで守ります。数十年あるいは一〇〇

ハード的なものでは守りきれませんので、

程度の頻度でおこる最大クラスの津波は、

う分け方をしていて、数百年あるいは千年

に分かれていて、正しい判断ができにくい

は危なくないといいます。情報がこのよう

線量でも、ある人は危ないといい、ある人

切に思いますのは被ばくの問題です。同じ

ないということになりました。いま一番痛

世の中の人は何を信用していいのかわから

復興対応でも、大きく信頼を失いました。

す。政府は、原発の事故対応でも、震災の

頼される組織になってほしいということで

研究者の皆さんにお願いしたいのは、信

との関係をつくっていくことも可能ではな

するのならば、現在とは違ったアカデミー

に、政府がアカデミーの力をもっと必要と

してどう対応したらいいのかといったとき

震災のようなことがおこって、日本全体と

地位は非常に低いのが現実です。今回の大

ように、取材対象として、日本学術会議の

上げたのかということをみればわかります

告・提言を大手のマスコミがどの程度取り

たと思います。しかし、日本学術会議の勧

勧告・提言をたくさん出し、非常に頑張っ

日本学術会議は、今回の震災に関連して、

とです。社会が求めるアプローチと、科学

状況に陥りますと、人々は相反する情報の

表であると、さんざん批判を頂戴しました。

が答えられるアプローチは、同じではなく、

まで対応できるのかいうことに関して、L

いかと思います。日本学術会議がもっと力

津波(最大クラスの津波)とい

両方がせめぎあいをしています。両者のア

を持った機関になることを願っています。

さまざまなステークホルダーの「対話の構

えていかなければなりません。すなわち、

報をいかにして広く市民の方々に伝えてい

要となるのではないかと思っています。情

いくのがいいのかといった冷静な議論がし

森壮一(文部科学省科学技術政策研究所) 田中さんから情報がなかったといわれまし

にくい環境になっていると思います。 くかといったことも大事です。

プローチが、協働する何らかの枠組みを考

うち、どちらか片方だけを信用しようとし

波) 、L

持続可能な発展を整理したものです。

自然災害,気候変動,持続可能な発展.

ます。その結果、どのような対策をとって

科学的なアプローチは、 「将来の予測や

1

津波に対するのと同じような考え方が必

2

造」を考える必要があります。

2

16


て一年以上経過した人、一万人以上を調べ

システムと定義しています。蓄電池には電

ましたら、一〇個の病気が大きく減りまし

率は三五パーセント、排熱効率は四五パー

いいデータがあります。断熱住宅に移っ

これからの社会として、私たちは何がほ た。心臓疾患は八〇パーセント、アトピー

セント、総合効率が八〇パーセントでした。

いま考えておかないといけません。 しいのか。衣食住、移動、情報などが、量 性皮膚炎は六〇パーセント減りました。冬

エネルギー問題を議論するとき、電力供

嘉数隆敬

(かすう たかひろ)

家庭用の燃料電池のコジェネレーション

システム(エネファーム)の開発に、弊社

はほぼ一〇年をかけて二〇〇九年に発売に

こぎ着けました。当初、燃料電池の発電効

現在では、総合効率が九四パーセント、つ

大阪ガス株式会社理事/本社支配人

気自動車に積まれた蓄電池も含めています。

としては手に入ったときに、実現してほし に暖かい居間と寒い台所を往復しますと、

給がその対象になることが多いのですが、

第二部 講演

い社会を私は「プラチナ社会」と定義しま ヒートショックといわれるものが心臓にき

分散型エネルギー社会に向けた 大阪ガスの取り組み

した。それを実現するためのイノベーショ いてきます。アトピー性皮膚炎の要因とし

実際のエネルギー消費のデータをみますと、

イノベーションといいましても、単発で、

ンがいま必要とされています。 ておそらくカビがあるのでしょう。一枚ガ

界にまで省エネ性を高めたと考えています。

ここが悪いからここをよくしましょうみた

ときには、電力だけでなく、熱も同時に考

まり、捨てるエネルギーは六パーセントだ

いい家に住むと病気が激減するというこ

えなければいけません。

けというところにまできていて、物理的限

とで住宅を作り変えるようになっていけば、

コジェネレーションは電力を供給するだ

電力よりも熱エネルギーの消費の方が多く

一〇兆円規模の影響があり、雇用が生まれ

けでなく、熱も同時に有効利用しますので、

なっています。エネルギー問題を検討する

日本には家が五八〇〇万軒ありますが、

るでしょう。イノベーションによってポジ

ラスは必ず結露しカビが生えます。

世帯の数は五〇〇〇万です。空き家がたく

ティブな循環を作っていくことができます。

いな話では駄目です。社会全体を変えてい

さんあります。これからは質です。いい材

低炭素化に大きく貢献する技術です。コジ

くようなイノベーションが必要です。

料が必要となれば、林業に新たな需要が生

問題は、そのようなイノベーションをお

ェネレーションは電気を必要とするところ

太陽電池、そして蓄電池の三電池を活用し

より太陽光発電の販売に踏み切りました。

私どもはガス会社ですけれども、二年前

まれます。森に人の手が入るようになると、

で発電し、発電と同時に生じる排熱も有効 大規模発電は排熱ロスが大きいのに比べ、

こしていこうとするマインドがいま日本は

明治維新で、工業を立ち上げようとした

弊社ではコジェネレーションを核として、

エネルギー利用効率が二倍以上になります。

あまりに弱すぎることです。日本がやらな

生態系が蘇ります。

ときに、八幡製鉄所を作って、一つでは足

利用する優れた分散型の電源です。従来の

りないから、室蘭にも作るといったことが

ニティレベルに広げたスマートエネルギー

分散型エネルギーと系統の電力を上手に連

ネットワークとを有機的につなげて、熱と

できました。プラチナ社会を作っていくと

エコロジカルで資源の心配がなくて、老

電気を活用し融通することで、ベストな省

携させ、できるだけスマートな形にしたス

若男女が参加し、心とものが豊かであると

エネ、ベストな二酸化炭素削減を実現する

きには、大阪と北海道ではやるべきイノベ

いうのがプラチナ社会のイメージです。や

マートエネルギーハウスと、それをコミュ

はり、ものも豊かでないといけません。江

社会を目指しています(図) 。

ーションが違います。

戸時代に戻るわけにはいかないのです。そ

て、省エネと快適性、利便性を両立させる

スマートエネルギーハウスは、燃料電池、 とですけれども、その実現のためにネット

して雇用のあることが大切です。難しいこ ワークをつくって取り組んでいます。

19

1

いでどこがやるのですか。

イノベーションは社会の好循環.


公開シンポジウム

持続可能社会のグランドデザインとイノベーション

主催: 大阪大学環境イノベーションデザインセンター(CEIDS)/サステイナビリティ・サイエンス・コンソーシアム(SSC) / 東京大学サステイナビリティ学連携研究機構(IR3S) 日時:2012 年 5 月 26 日 ( 土 )15:00~18:00 会場:大阪大学会館講堂(豊中キャンパス)

開会挨拶 (ばば あきお)

大阪大学理事/副学長

馬場章夫 二〇一一年三月に突然襲ってきた大震災、

したといいたいところですが、ここはもと もと大阪大学で最も古い建物として文化財 に指定されているものです。その関係で、 外観は変えることができませんので、内装 を大きく変えてこの形にしました。去年ま

第一部 基調講演

(こみやま ひろし)

プラチナ社会の実現に向けて

日本「 再創造」

小宮山宏

でここは講義室で、私たちもここで講義を

三菱総合研究所理事長/一般社団法人サステイナビリ ティ・サイエンス・コンソーシアム理事長/東京大学 総長顧問/プラチナ構想ネットワーク会長

そして原発の事故がありました。このよう

受けました。通称イ号館といっていました。

の実現という、いずれも文明が求めてきた

な突発の危機に対しても対処できるような

ことを、イノベーションによって課題を解

今日のシンポジウムのテーマはイノベー

私は大学の理事として産学連携を担当し

決することで実現してきました。その上で、

その建物がこのように新しくなり、そこで

て い ま す。大 阪 大 学 で は、イ ン ダ ス ト リ

二一世紀のいま、人類共通の課題である、

力強さと柔軟性を、サステイナビリティ・

ー・オン・キャンパスといううたい文句の

知識の爆発、地球規模のグローバル化、温

ションです。日本は、経済成長、公害の克

大阪大学では、このたび文部科学省への

もと、産学連携を進めています。オン・キ

暖化、高齢化といった問題に日本は直面し

服、エネルギー危機の克服、それから長寿

概算要求により、大阪大学環境イノベーシ

ャンパスといいますのは、いろいろな活動

ているのです。

このようなシンポジウムが開けますことを

ョンデザインセンターが立ち上がりました。

をキャンパスのなかでやりたい、やってく

非常にうれしく思っています。

大阪大学にも環境とサステイナビリティ・

ださいということです。産学連携も、企業

サイエンスは求められるようになりました。

サイエンスを強く推進する足場が確立され

童謡の「赤とんぼ」の三番に「十五でね

サステイナビリティ・サイエンスは一段の

ましたのを大変喜んでいます。概算要求で

の方々にキャンパスにきていただいて、キ

えやは嫁に行き、お里の便りも絶え果て

飛躍を求められているのです。

すから、四年間の期限付きではありますが、

ャンパスのなかで行うというのが、私ども

いお里から、口減らしとして、お金持ちの

その後もさらに飛躍させて、大阪大学に強

このような催しも、オン・キャンパスで

ところにねえやに出していたのでしょう。

た」とあります。子どもを食べさせられな やりたいとの思いが強かったのですが、残

それが一〇〇年足らず前の日本でした。

のモットーです。

念ながら阪大にはこういう場所がいままで

今日の会場でありますこの大阪大学会館 について申し上げますと、昨年大阪大学は

はありませんでした。この建物ができたこ

固たる組織を作り上げたいと考えています。

帝国大学になって八〇周年を迎え、その大

とです。学生が参加しやすいオン・キャン

大学のミッションはやはり学生を育てるこ

行えれば、何よりも学生が参加できます。

とで、キャンパスのなかでシンポジウムが

ィリピンだってインドネシアだって、遠か

ました。このあともっと帰るでしょう。フ

人が資格を取ったのですが、六人が帰国し

の資格を取りました。大変な難関で、三六

られた方々が日本の試験を受けて、看護師

インドネシアやフィリピンから日本にこ

きな目玉としてこの大阪大学会館を建てま

パスで、こういうシンポジウムを行って、

らず、 「赤とんぼ」の歌詞が昔話になる時

代がきます。ここにいる若い皆さんが社会

学生を巻き込んでいきたいと思っています。

の中核を担うころ、私だってまだ生きてい

たいと思う二〇五〇年ごろにはなるのです。

18


るけれども持続可能だという形を何とか作

どんどん動きがあって、新しいことをや

分に対してコンシューマのニーズをくみ上

いうことでもいいのですが、そういった部

ある暮らしであったり、あるいは楽しいと

ライフスタイルであったり、あるいは魅力

なライフラインが老朽化していて、これか

っていかなければなりません。今日のテー

な都市になったのではダメです。

らはどんどん設備更新をしていかなければ

げて作っていくのです。

として、都市基盤、例えば上下水道のよう

いけなくなっているということがあります。

マであるスマートシティが一つの試みだと

一方井誠治(武蔵野大学環境学部教授/京都

第三部 パネルディスカッション

どのような形で設備更新に対応していくか

思うわけですが、新たな都市の実現をめざ

持続可能社会を支える科学技術と イノベーション 栗本修滋[司会進行](大阪大学環境イノベ

というところでも、スマートシティが関係

日本では、温室効果ガスの 最大の排出源、逆にいうとイノベーション

ていくためにはどうすればいいのかという 住民が参加して、楽しくそして積極的にス

などが共同で進めていくことが必要です。

能であることを考えて、住民、行政、企業

によって付加価値を作る。都市の持続可能

ベーションが支えるということです。それ

ポイントは、社会経済面の活性化をイノ

も、国民に対しても炭素税をかけるのでは

温室効果ガス削減対策でした。家庭部門で

削減努力をしてくださいというのが主要な

の中核を担う産業部門に対して、自主的な

大学特任教授)

すということです。考えられるのは、再生

ことを、特にまちづくりにかかわっておら

性を具体的に見えるような仕組みをイノベ

なく、削減キャンペーンで減らしてくださ

可能な資源を使っていく都市です。

してきます。

れる先生方、または実際に企業としてまち

マートシティの運営に参加できるようなプ

ーションで何とかできないだろうかと思っ

いというものでした。損得勘定にきちんと

スマートシティは、やるからには持続可

ーションデザインセンター特任教授) 持続 可能な社会に向けたいろいろなビジョン、

づくりを担っておられる専門の方々にご登

ロセスが必要です。住民参加型のプロセス

ています。

方法を具体的に社会化していく、実装化し

壇をいただきまして、討論していただきた

を進めていく上で、いくつかポイントにな

化して、一緒に考えていくための基盤を作

の内容、実施の状況、成果について、視覚

「見せる化」するという考え方です。計画

ニーズのはずです。けれどもなかなかそれ

っては、持続可能な都市というのは本来は

りうるでしょうか。地域の政策決定者にと

可能な都市はイノベーションのニーズにな

ておいておこるものではありません。持続

かないと思います。

らない限りは、なかなか大きく変わってい

与えるような炭素価格の維持をきちんとや

の方向にむけるかです。その判断に影響を

社会を変えていくには、投資と技術をど

訴えるような経済的措置がほとんど入って

る こ と が あ り ま す。例 え ば、プ ロ セ ス を

スマートシティが、国内外で、特に 中国でかなり進められているというのはお

る必要があると思います。ライフスタイル

がイノベーションのニーズになりにくいの

イノベーションは、ニーズがなくて放っ

加賀有津子(大 阪 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 教

いと思っております。

聞きだと思います。スマートシティという

をどう考えていくかというところも大切で

は、時間の遅れがすごくあるからです。あ についてどう考えていくかというところも

ろも必要だと思いますし、またコスト負担

タイムで評価できないということは、具体

いは五〇年かかるかもしれません。リアル

それを評価するのに一〇年、二〇年、ある

る政策でスマートシティを作るとします。

らいで走り、新幹線と飛行機の中間くらい

います。リニア新幹線は時速五〇〇キロぐ

線が二〇一四年から着工という話になって

んに問い掛けたいと思います。リニア新幹

今日はここで、具体的な問題を一つ皆さ

いませんでした。

のは、環境配慮型まちづくりのいろいろな

す。ライフスタイルデザインです。価値観

授)

最新の技術を、情報化技術も含めて利用し

を共有した人たちで進めていくというとこ

まちづくりの観点からかなり重要なこと

花木啓祐(東 京 大 学 大 学 院 工 学 系 研 究 科 教

の乗り物で、一人あたりのエネルギー効率

重要だと思います。

的に選挙、行政評価、事業評価で問題にな

らずにエネルギーをまかなっていこう、そ

授)

して温室効果ガスを減らしていこうという

は飛行機よりはよくて、新幹線より格段に 顧客を相手にするビジネスでは、持続可

ときに、新幹線の三倍ともいわれる電力を

落ちます。これから日本が原発にあまり頼 能性のみではなかなかニーズになりません。

使わなければ人を輸送できないような公共

ります。成果を見えるようにする必要があ ギー消費が少ない、あるいはさまざまな資

顧客に満足をもたらす他の価値と組み合わ

ります。 源の消費も少ないということを考えていく

せることが必要だし有効だと思われます。

持続可能な都市を作るという努力が 続いているわけですが、そのときに陥りや

と、抑制的な持続可能性になってしまうと

すい問題点は、持続可能性のためにエネル

いうことです。それでいわば衰退したよう

21

て、徹底的に省資源化したまちです。

持続可能なスマートシティ.


採用されています。燃料電池だけでも二六

四五パーセント以上が、両方の発電装置を

エネファームをご購入いただいたお客様の 陽光に合わせて上手に出力を変えてやると

考え方で、工場に置かれたコジェネを、太

の変動を抑えることができています。この

じなくてもサービスが行われるようになる

す。その発展の方向として、人間が何も感

境負荷の少ない形で提供するということで

ているサービスを、できるだけ最適な、環

(しもだ よしゆき)

分かれ道があると考えられています。

れたシステムを考えるのかというところで、

るというように、必ず人間が真ん中に置か

情報を与えられ、情報を解釈して、判断す

のか、あるいは、主役はあくまで居住者で、

オートマチックなシステムを目指していく

いうことを試みているところです。

下田吉之

都市からエネルギーを考える

第二部 講演

〇万円で、太陽光も三~四キロワットのも のを付けると二〇〇万円ぐらいですから、 非常に高価な設備になります。それでもお 客様の環境意識が高くなって、ダブル発電 を採用していただいております。 私どもでは蓄電池の発売にはまだ至って おりませんが、将来的には蓄電池も入れた

間も発電して蓄電池に貯め、従来は系統電

とです。燃料電池の効率を高めるために夜

電した電力をできるだけ貯めたいというこ

蓄電池をもつことの狙いは、燃料電池で発

ステムを作っていくかというのは非常に大

います。都市のエネルギーにどのようなシ

消費です。これらはかなり都市に集中して

ルギー、それと自家用自動車のエネルギー

ているのは家庭のエネルギー、業務のエネ

現在国内のエネルギー消費の大半を占め

を積み上げて、都市のエネルギー消費がわ

人間の動きからいろいろなエネルギー消費

いま取り組んでいますのは、建物のなかの

やっていくべき仕事です。その一端として、

いくのが、都市エネルギーシステムとして

体を最適化していくための技術を開発して

サービスも含めてエネルギーシステム全

力を買っていた時間帯にそれを放電させる

大阪大学大学院工学研究科環境・エネルギー専攻教授 /大阪大学環境イノベーションデザインセンター兼任 教授/大阪大学環境・エネルギー管理部副部長

ことを意図しています。

かるようになるモデルの作成です。

統電力の方に悪影響を及ぼさないようにす

コジェネを協調制御することによって、系

太陽光発電がもっている出力の不安定分を、

スを最適化するシステムです。具体的には、

間で熱や電気を相互融通して、需給バラン

電装置などを組み合わせて、複数の需要家

スコジェネレーションシステムと太陽光発

つまり、図の右端にあるサービスをまず考

とか涼しいとか暖かいとかいうことです。

いからです。サービスは、例えば、明るい

ーがいるからではなくて、サービスがほし

がエネルギーを使っているのは、エネルギ

いうことを図に描いてみました。われわれ

都市エネルギーシステムとは何なのかと

家電機器の普及、要するにいろいろな機器

エネルギー消費の中身を見ますと、一つは

口は三〇パーセントしか増えていません。

〇年間で五倍になっています。その間に人

響します。家庭部門のエネルギー消費は四

すが、加えて、ライフスタイルも大きく影

建物や機器に対する対策は非常に大事で

して、あまり大きなエネルギーをかけてい

れています。日本のように公共交通で通勤

ネルギー消費を下げようということがいわ

プールなどに行くことで、一人あたりのエ

夏の厳しいときに、公共施設やスーパーや

シェアリングしたらいいということです。

ルギー消費を減らすために、エネルギーを

よくいわれているのは、一人一人のエネ

ルギー増になります。情報化技術を徹底し

の種類が増えました。それから、銭湯の文

て導入するという考え方もあります。人が

える必要があります。このサービスの量を

人員が減ったことです。四人、五人で暮ら

いま何をしているかを全部モニターして、

るということです。そのようにすることで、

していたのが、一人、二人で暮らすように

ない場合には、家で仕事をすると、家庭の 実際にエネルギーシステムとしていつも

なって、家の数が増えました。エネルギー

エネルギー消費が増えて、全体としてエネ 見えているのは、エンドユースといいます

化から内風呂に変わって給湯の需要が増大

弊社は東京ガスと共同で実証事業に参画

か、エネルギーを使って何かの仕事をする

環境調整をパーソナル化して、エネルギー

しました。そして、一番大きいのが、世帯

しています。ある閉じられたエリアのなか

消費が五倍になったことのうち、二倍が世

消費をそぎ落とします。

大小するものに、われわれのライフスタイ

で、効果はまだ小さなレベルですが、不安

ところです。最近話題になっているエネル

帯数増が要因です。

ルとか欲求のレベルがあります。

定な太陽光発電に対して、それと協調させ

ギーマネジメントシステムは、本当に欲し

再生エネルギーの導入量をさらに増やして

てガスエンジンを動かすことで、受電電力

いけるという考え方です。

スマートエネルギーネットワークは、ガ

事なテーマです。

システムが究極のゴールだと考えています。

2


て、学び取ってきてほしいと思います。

進んだトライアルをしているところにいっ

的にも、実践的にも、日本よりもはるかに

している大学にぜひ出ていただいて、理念

特に若い方々には、海外の最先端の研究を

本なりの相場観みたいなものがあります。

ど、やはりフィルターが掛かっていて、日

インターネットの社会にはなりましたけれ

海外から日本に入ってくる情報というのは、

して日本が学ぶ側になってしまいました。

能な社会とかいう話になってくると、逆転

した。それが、気候変動対策とか、持続可

視察団がきて、日本は教える立場にありま

一方井 日本が公害対策で世界のフロント ランナーだったときには、海外から随分と

やってくれるという印象をもっています。

てきます。いまの日本人の学生も、かなり

ョンできるようになり、非常に喜んで帰っ

いものを買おうするように、もっと敏感に

価格が変わると、スーパーでは一円でも安

という人も結構いるのではないでしょうか。

が決まっていますから、伝票を見もしない

と思います。家庭で使う電気、ガスは価格

一方井 日本で電気の自由化が進んでいな いのが、節電ができていない最大の理由だ

いわかります。

神戸の出身なので、大阪の雰囲気はだいた

阪といえども一気に進むと思います。私も

ンセンティブにとして働き掛けますと、大

ったです。お得になりますということをイ

得になるかどうかという理由が非常に多か

花木 環境配慮行動をなぜやるのか、なぜ やらないかという理由を聞いてみますと、

だきたいと思います。

ばいいのかというアイディアを教えていた

ないというのが相場です。どう説得をすれ

栗本 大阪人はエネルギーを何パーセント の削減をお願いしてもなかなか聞いてくれ

います。

とらえ方をしていくことが必要なのではな

一つの大きなオポチュニティであるという

だけではなくて、日本の社会を変えていく

たちはこれをただ単に危機としてとらえる

震災後の社会が大きく変わるなかで、私

ンを終わりたいと思います。

栗本 大阪人も少しは見直されるようにな ることを期待して、パネルディスカッショ

てくるのではないかと思います。

ことももう少し考えいくだけでも、変わっ

思うところもありますので、そのあたりの

ないか、これくらいでいいのではないかと

照明をそんなに明るくしなくてもいいでは

ていくことが大切です。このような建物の

と思います。地道にライフスタイルを変え

でも積もっていけばこれから変わってくる

いうことはいえると思います。小さいもの

の問題ととらえて議論をしていく必要性が

正面からサステイナビリティ・サイエンス

いると思います。私どもとしては、やはり

サイエンスの視点で考える機会は出てきて

言語を用意し、そして、もちろん対立する

に対して共通の基盤を与え、会話が可能な

と、地熱を開発したいという人たちでは全

きにわかったのは、自然を保護する人たち

規制についての議論がありました。そのと

三月の末に、国立公園内での地熱開発の

とになります。

すると地熱開発と自然保護は相矛盾するこ

地域に近いところに分布しています。一見

地熱の宝庫は国立公園の最も核心的な保護

してではなくて、自然保護との関係でです。

武内和彦

東京大学サステイナビリティ学連携研究機構長・教授 /国連大学副学長

柔軟に対応ができるのではないかと思って

あり、環境を学んできた学生さんは非常に

来の知識だけでは解決できない部分も多く

の運営にも、すべてに関わっています。従

いますと、ものをつくるところから、工場

常に広い領域にわたっています。環境とい

加賀 三・一一の前と後とで市民感覚はず いぶんと違って、自分の暮らしのなかでエ

省エネが進むと考えています。

るエコナビが合わさることで、より自然に

しの行動を察知しながら、コントロールす

うことを実感していただくとともに、暮ら

買い換えるとどれだけ省エネになるかとい

ONAVI)があります。省エネの製品に

りをもっています。エネルギーの専門家と

一例ですが、私は地熱の開発に多少関わ

要な検討すべき課題であると思っています。

イナビリティ・サイエンスにとって、大変重

連するさまざまな施策の見直しは、サステ

ネルギー政策の見直し、あるいはそれに関

していくのが大きな課題です。震災後のエ

イフスタイルの変革も含めた最適解を提案

のは、複雑な問題を俯瞰的にとらえて、ラ

サステイナビリティ・サイエンスという

います。従来の学部の学生さんに比べて、

ネルギーに対してもすごく敏感になったと

( 『サステナ』第 号)

他にもいろいろとサステイナビリティ・

になるのではないかと考えました。

ィ・サイエンスのアプローチによって可能

ことは、これはまさにサステイナビリテ

りをして、最適解を見いだしていくという

点があるわけですが、しかし互いが歩み寄

く会話が成り立ないということです。それ

宮井 ここ数年の傾向で、環境に関連する 業務に就きたいという学生さんがたくさん

なります。

閉会挨拶

入社してきています。そこで驚くのは、も

いろいろな場面であると考えています。

(たけうち かずひこ)

のすごくよく勉強していることです。

いかと、よくいわれています。

私は環境本部というところで環境経営を

宮井 個人を研究してパーソナル化してい く方向のものとして当社のエコナビ(EC

知見も広くて、いろいろな角度から課題解

23

担当しているわけですが、仕事の内容が非

決をしてくる可能性をもっていると感じて

26


うか。これから二〇年後、三〇年後の日本

輸送機関をいまから作るのでよいのでしょ

栗本 企業として、大学の研究や教育に対 して、何かご要望があるでしょうか。

に取り組んでいます。

の公共交通を規定するものになるわけです

もしかしたら経済的にペイするのではなか

話も決まっていません。JR東海としては、

年にエネルギーがどうなるのかという先の

炭素価格は確立していませんし、二〇五〇

にはいかないと思います。日本では、まだ

を入れてほしいと思います。

そういったところにも大学の研究ではメス

っとドロドロとしたところのあるものです。

プレゼンするわけですが、実際の生活はも

私どももスマートシティに関して格好良く

宮井 人間に焦点を当てて考えますと、暮 らしの中にはたくさんの課題があります。

教育プログラムとして、社会の方々といろ

にしたらそのような場を提供できるかです。

セスが重要です。

かを学ぶのが大切だと思います。学ぶプロ

題であって、どう解決していったらいいの

自分たちで自主的に、どういうところが問

していくのかというようなことは、学生が

大学として必要なことです。問題は、いか

日本はまだエネルギーに頼らなければ発

の幸せを損なうことは本末転倒であるとま

酸化炭素の量より、お客様が商品をお使い

す。私どもの工場やオフィスで発生する二

生活の質というものは、物理的にわかりや

程度始められています。当初の研究では、

花木 大学の研究でも、人々の生活の質が どのように変わるのかという研究が、ある

海外へ出かけていって、向こうの大学生と

ともに学んでいます。少人数のグループで

ムを行っていて、留学生と日本人の学生が

なって、環境リーダーを育成するプログラ

教育のプログラムと都市工学専攻が一緒に

ジョンを策定しました。一〇〇周年のとき

なるに当たるのを機に、創業一〇〇周年ビ

藤沢市にある私どもの工場跡地で、サステ

ルや街へと広げていくことを進めています。

ネルギーマネジメントで賢くつないで、ビ

うになってきています。いわば主観的な要

生活の質として非常に重要だとみられるよ

社会に対して役に立てるかというあたりが、

したときの付加価値であるとか、あるいは

そのうちに違う国の学生とコミュニケーシ

ゃべらないといけないというのがあって、

スタートは悪いです。けれども、嫌でもし

のようなことに慣れていないので、最初の

ディスカッションします。日本の学生はそ

22

評価することができるようになると、いい

フィードバックが掛かってくると思います。

いと考えてしまうわけです。要するに、投

一方井 学生にぜひこれから考えてほしい と私が思っていますのは、最終的に自分の

いろな交流して、直に課題を感じながら、

加賀 暮らしのなかの課題、生活のなかの 課題、社会のなかの課題をどうやって解決

資の判断にきちんと影響を与えるような政

幸せとは何かということです。私も子ども

から、それで大丈夫なのかと考えないわけ

策がまだ確立していないのが、日本の最大

のころは、リニア新幹線は夢の新幹線で、

チャレンジングな学生を育てていくのは

の問題です。

どうやって解決していくのかということを

か踏み出せません。けれども、いったん踏

実現したらいいなと漠然と思っていました。

思えてきます。いろいろな政策の決定なり

み出せば、いまの学生さんたちも熱心に活

展しないような経済構造のままです。日本 ベーションを起こすという方向で事業改革

企業の投資の決定なり、そういうものがゆ

動するという例をわれわれは見ています。

学ぶようなことがあっていいと思います。

を進めています。

がんでいると思います。そのゆがんでいる

しかし、論理的にいろいろ考えていきます

従来から生産活動によって排出される二

原因はどこにあるのだろうと、学生に考え

と、どうもいまの日本の社会はおかしいと

ばいけません。

酸化炭素の削減に取り組んできました。そ

の政策、日本の経済の行き方は考えなけれ 宮井真千子(パナソニック株式会社役員、環

の上でさらに、商品使用時に排出されるも

花木 学生がなかなか海外に行きたがらな いというのがあって、最初の一歩がなかな

パナソニックの創業者である 松下幸之助は、企業は社会の公器、世の中

てほしいと思います。

で言っています。パナソニックがどうして

するときに発生する間接的な二酸化炭素の

すいような利便性で評価するものがかなり

境本部長)

からの預かりものであると言っております。

のも合わせて削減していこうと考えていま

具体的に、東京大学IR Sを元にして

そして、産業の発展が自然を破壊し、人間

環境に一生懸命取り組むのかと質問されま

方がはるかに大きく、地球環境に与えるイ

ありました。利便性に加えて、そこで暮ら

に、エレクトロニクス・ナンバーワンの環

イナブル・スマートタウン計画を、八社の

素が強いのですが、そのあたりも定量的に

できたGPSSというサステイナビリティ

すと、私どもはいつも、経営理念の実践そ

「家まるごとCO ゼロ」や、それをエ

ンパクトも大きいのです。

境革新企業になると、自分たちで宣言し、

企業コンソーシアムを組んで、行政ととも

私どもは、二〇一八年が創業一〇〇周年

のものですとお答えしております。

3

全事業活動の基軸に「環境」を置いてイノ

2


いるということを伝えるのも、大切なこと

いない、きちんとみていて、かつ支援して

いい」とおっしゃいます。こちらも忘れて

皆さん異口同音に「来るのは遠慮しなくて

者の方も「忘れないでほしい」といいます。

効果は高いものがあります。どの被災事業

加えて手前味噌ですが、現地を応援する

しかし、それでもこの災害です。

在のようなインフラをつくってきました。

な被害を受け、それに打ち勝とうとして現

社会は、このような災害によってさまざま

が今も大勢いらっしゃいます。われわれの

て大変な不自由を余儀なくされている方々

〇人ぐらいおられ、生活の場を完全に失っ

処理施設をもとに戻すのではなくて、地域

と思います。今回の震災で被災をした下水

ということをはっきりと認識しておられる

いくときのキーワードは持続可能性である

全にとどまらず、これから社会が変わって

今日ここにお集まりの方々は、環境の保

保全するという視点があったからです。

た人たちの頭のなかに、水環境をよくする、

元に戻すのではなくて、新たなより良い未

自らの手で復活させなくてはいけません。

いたらいつまでも被災したままの状況です。

われがつくった社会インフラは、放ってお

ました。自然は確実に復活しますが、われ

のなかには車が残り、ヘドロがたまってい

っぱいになっていました。しかし、田んぼ

後の五月には、田んぼのあぜ道には緑がい

これからは、被災事業者のインタビュー スタイルの下水処理を行っていました。そ

て、沈殿して、消毒して海に捨てるという

いまから四〇年ほど前には、下水を集め

も転換していきたいと、私は思っています。

の持続可能な発展につながる施設にぜひと

来社会をつくっていかなければなりません。

だと思います。 結果の整理・分析に入っていきたいと考え

ただ、日本の政府、地方の下水道の事業体

発表

の後、微生物を投入して処理する活性汚泥

セッション

ています。率直にいいますと、インタビュ

は原形復帰を志向しています。水をきれい

3

(いしむら がくし)

どのような漁業が持続的であるのか。漁

気仙沼の近海漁業は、震災前から経済的

業のシステムのなかには、二つのコンポー

最終的な復興はサステイナビリティの観

ことです。沿岸域にたくさんある下水処理

に厳しい状態にありました。非常に閉塞し

施設を、災害に耐え得る施設に変えなけれ

ネントがあります。海のなかを泳いでいる

点からのものでなければいけません。その

ばなりません。第二に、省エネ、創エネ、

魚とわれわれの社会です。二つをつなぐ存

があることで、われわれは食料としての水

エネルギー循環などをうまく使うものに転 下水道施設を核にして、地域の持続的な

産物を得ています。それともう一つ重要な

在として漁業という産業があります。漁業 発展を目指すということを考えたいと思っ

のは、漁業という産業があるために、雇用

私の専門の資源経済では、魚というもの

が創出されるということです。 ステムのなかに下水道も入れて、地域生活

を再生産性の天然資源であると捉えます。

ています。太陽光発電のような再生可能エ

の再構築に貢献するようなことを考えると

的な利益をわれわれは得ることができます。

適正な形で管理していきさえすれば、永続 自然は回復する力をもっています。震災

いうことです。

ネルギーを組み込んだ水エネルギー循環シ

換していくということです。

た状況が一〇年余り続いていたのです。

北海道大学サステイナビリティ学教育研究センター 特任助教

石村学志

気仙沼延縄漁業を例として

東北大震災後の 持続的漁業再建を目指して

1 ための第一は、地震や津波に耐えるという

下水道を考えるような形でやるべきです。

いということがあります、しかし、未来の

復興のためのお金を政府からいただきやす

設に戻すということです。それであれば、

にして流すという観点でつくられていた施

法に変わりました。下水道を整備していっ 下水道インフラを 活用した未来志向 ライフラインシス テムのイメージ.

ーしましたのは岩手県からご紹介をいただ いた六事業者で、基本的に岩手県が支援策 を教えてそれに乗ってうまくいっている事 例です。そういうものに乗れずに苦しんで いる事業者ももちろんありますから、そう いうところにアクセスしていくこともやら なければいけませんし、やってもいい状況 になりつつあると考えています。まだまだ 先の長い粘り強くやっていかなければいけ

発表

ない取り組みのごくごく端緒です。

セッション

(おおむら たつお)

方が命を失いました。ほとんどが津波で亡

れなかったと思います。震災で、二万人の

こういう場で話をする機会は私には与えら

もしも東日本大震災がなかったら、今日

東北大学大学院工学研究科土木工学専攻教授

大村達夫

東日本大震災を契機として

持続可能な社会形成に向けた 下水道施設を考える

2

くなっています。行方不明者もまだ三〇〇

25

1


大阪大学 CEIDS/SSC 研究集会

震災復興への取り組みと 持続可能社会実現に向けたイノベーション

主催: 大阪大学環境イノベーションデザインセンター(CEIDS)/サステイナビリティ・サイエンス・コンソーシアム(SSC)/ 東京大学サステイナビリティ学連携研究機構(IR3S) 日時:2012 年 5 月 25 日(金)10:00~18:00 会場:大阪大学吹田キャンパスコンベンションセンター研修室

開会挨拶

掛下知行 (かけした ともゆき)

大阪大学環境イノベーションデザインセンター長/ 大阪大学大学院工学研究科長

セッション

発表

震災復興への取り組みと、 大学からの貢献 セッション

サステイナビリティ学教育の取り組みから (おぬき もとはる)

被災企業の事業再開過程と 復興支援のあり方について

小貫元治

だいて、環境イノベーションデザインに関

ンセンターは、政府からのサポートをいた

私ども大阪大学環境イノベーションデザイ

で必要な環境イノベーションを議論します。

現していくため、社会転換を進めていく上

第二セッションでは、持続可能社会を実

のかを議論することにしています。

を総括して、今後どのような貢献が可能な

取り組まれている震災への対応や研究活動

その第一セッションにおいては、各大学が

ナビリティ学の学生が入って、うまく受け

に、あまりまだ認知されていないサステイ

たことに取り組んできました。震災の現場

育と組み合わせていったらいいのかといっ

のように貢献していくのか、どのように教

ラムにおいて、震災からの復旧・復興にど

イナビリティを出しています。そのプログ

ステイナビリティ教育をして、修士サステ

学生をいろいろな国と分野から集めて、サ

ナビリティ学教育プログラムでは、多様な

東京大学新領域創成科学研究科サステイ

です。留学生が多いという強みを生かして、

用の創出に少しでも貢献しようとするもの

といった情報を出して、企業の復興や、雇

ださいとか、あるいは応援にきてください

報を伝えて、最終的には、商品を買ってく

てだんだんと少なくなっていく被災地の情

なりました。震災発生から日が経つにつれ

被災企業の現状を情報発信していくことに

くって、地元の被災企業、特に食品関係の

という話があり、学生がウエブサイトをつ

災事業者の応援に学生を入れてくれないか

また、岩手県の沿岸広域振興局から、被

わる教育・研究をスタートしたところです。

翻訳して多国語で発信しています。

い議論を聞くことになりました

事録を作成しました。それで学生は生々し

ブザーバーとして参加させてもらって、議

ときに、サステイナビリティ学の学生がオ

ものを町民懇談会で住民の方々に説明する

出され、それを大槌町なりにアレンジした

した。岩手県から復興計画の基本ラインが

その縁で大槌町の現場に入ることができま

に国際沿岸海洋研究センターをもっていて、

るのではないかと思っています。

ういうことに気を使うのも教育になってい

のではないということもありますから、そ

ます。来られる方からすると、たまったも

地にいくというのは大きな意味をもってい

す。テレビでみているだけではなくて、現

学生も含めた学生の教育効果は高かったで

サステイナビリティ学としては大きく、留

すが、現地に入ったということの意味は、

教育とボランティアの中間ぐらい活動で 東京大学大気海洋研究所は岩手県大槌町

入れてもらえるだろうか不安がありました。 成する教育プログラムについて議論します。

第三セッションでは、サステイナビリテ

東京大学大学院新領域創成科学研究科サステイナビリ ティ学教育プログラム特任准教授

学生がつくっているウエブサイト (http://oishiisanriku.com/).

ィを引っ張っていく次世代のリーダーを育

進められてきました。今年の研究集会では、

るいは復興に対してさまざまな取り組みが

までも、それぞれの大学において、復旧あ

ました。大変悲しい出来事で、復旧あるい

1

は復興はまだ道半ばという状況です。これ

二〇一一年にわれわれは大震災を経験し

1

1

24


もう一つ、十分には受け入れられてもら えないのが、技術と政策との融合です。技 術を政策へ反映していく、あるいは、政策 の方から新しい技術の展開を促す、そのよ

セッション

発表

(ふくし けんすけ)

都市を支えるインフラの脆弱性

福士謙介 私は土木学会の会員で、サステイナビリ

東京大学サステイナビリティ学連携研究機構准教授

ます。それと、ハードとソフトの融合、統 ティ学には八年前ぐらいから関わっていま

の課題だと私はとらえています。

回の震災を機に、私たちに与えられた研究

うな感じもしますが、それでも、これが今

の途上国の課題です。夢物語であるかのよ

るというのは、持続的発展と同じく、今後

と高い災害復旧機能をもった都市を形成す

インフラの整備をしつつ、高い防災機能

社会は常に最適化されているわけではあり

うようなものも、無駄だといえば無駄です。

の役に立っています。美しいデザインとい

な人やものも、実はいろいろな意味で社会

使いものにならないなと一見思われるよう

立っています。私たちの社会でも、あまり

そうしたものも含めて微生物の世界は成り

最適解にこだわる必要はありません。

ません。コストとリスクの最適化からはか

す。土木というのは都市もしくは社会基盤

都市のインフラは多様な技術によって支

先進国では、すでに都市がある程度でき

的技術と新しい技術の融合、…、いずれも

やるのかハードでやるのか、いろいろな方

えられることで、サステイナビリティとレ

なりずれたところにある場合もあって、安

法があると思いますが、互いに矛盾するよ

ジリエンスが与えられるのだと思います。

ています。東京のようなところでは、どの

ベトナムのフエでは、年間平均で一〇日

うな命題に応えられる形で都市計画を進め

のサステイナビリティに関わる分野ですか

ぐらい水が溢れます。水が出ても、人々は

ていかなければならないと思います。

機動力が大学になければいけないと思いま

われわれは大学にいますから、大学の役

普通にしていて、一見して、大変にレジリ

す。ただしそれはほとんどが無駄な場合も

全側にシフトしていたり、もしくは危険側

アントです。アンケー ト を 採 り ま す と、

分散化と集約化のバランスです。システム

あります。そこからいいものを取って実現

にシフトしていたりすることもあります。

住民と協力するという連携をしっかりとや

「起きたら水が寝床まできていてびっくり

は、集約することによって、基本的には効

させていくこと、あるいは、無駄なものに

ようにして都市を変えていくのかが課題で

っていかなければなりません。実際に現場

した」とかいうので、私としては、それで

率的になります。下水も上水もそうです。

も投資をしていくことが、産業界の役割で

す。再開発で変えていけるのか、ソフトで

に行きますと、住民の方への話し掛け方が

は死んでしまうのではないかと思うのです

工場も大規模な方が効率はいいですし、人

はないかと思っています。

ら、サステイナビリティと土木は全然違う

なかなか難しいと感じることがあります。

が、その人たちは笑いながら答えています。

間も、一カ所に集まっていた方がいろいろ

ものではないと思っています。

大学が出て行くのを、市町村が嫌がるとい

このようなところでは富の蓄積は基本的

な産業が生まれ、生み出す金も多くなりま

割についても考えていかなければなりませ

う面もあるようです。適応策の推進には、

におこりません。年間一〇日も水に浸かる

高機能、高収入、頑健な都市とはどのよ

のなかで、汚染物質を食べている微生物な

生物の世界をみますと、下水処理システム

れ、脆弱さが低くなります。たとえば、微

多様なことが必要です。多様性を生み出す

大学が大きな役割を果たしていくべきでは

ようなところには、どの会社も本社をつく

す。集約することで効率はよくなりますが、 分散化すると基本的に効率は低くなりま

そのための一つの方策として考えるのは、

ないかと考えています。

る気には到底なりません。基本的に富の蓄

その一方で、脆弱さは増えていきます。

うな都市かといいますと、技術で自然をコ

どはほんの一握りで、たいていの微生物は

す。エネルギーを食いますし、分散化には

ントロールする都市です。日本の都市もそ

何の機能もしていないようにみえます。本

水が引けば、あっという間に乾いて、店は

うですし、オランダの都市などもそうです。

当に何もないのかどうかはわからなくて、

技術力も必要です。ただし、多様性が生ま

問題は技術の限界です。予測するのも技術

すぐ営業を始めます。

た金銭的被害にはなりません。洪水の後で

積がおこらないので、被害があっても大し

ん。震災に対応して、県や市との協力し、

融合がキーワードです。

うな融合がキーになるのではないかと思い

5

で、自然はその予測を超えます。

27

1


近海延縄船団の立て直しについて、われ われは三つのアプローチを考えています。 復興のための漁獲行動の最適化、地域参加 型研究を通した漁業者のビジョン形成、そ して、サメ漁業を保護するための国際戦略 の立案と海外での積極的なプロモーション 活動の展開です。

セッション

発表

(やすはら かずや)

うしていくのか、放っておけない問題です。

もしれません。それに対してインフラをど

利益が出なくなるのです。計算すると、航

燃料費がかかるという二つの要素によって、

単価が落ちるのと、遠くにいけばいくほど

ん。 、遠くにいけばいくほど鮮度が落ちて

大変だということになりました。

と思っていたのが、今回の地震でいきなり

ります。温暖化の影響はまだまだ先の話だ

る高潮などのときに、浸水する領域が広が

を受けつつあるということです。台風によ

地盤が沈降するとともに、海面上昇の影響

私は石橋克彦先生が「大地動乱の時代」と

原因なのかという疑問が出されます。また、

えて台風が大きくなるのが本当に温暖化が

当に温暖化によるのかとか、集中豪雨が増

冷ややかな目でみられます。海面上昇は本

や気候変動というキーワードを出しますと

からすべてを使っていて、それができる世

す。これらの合計として陸地は沈みますの

すが、地震後ゆっくりとした沈下が進みま

けていくしかないと思っています。

か受け入れてもらえません。気長に言い続

26

で、今後の予測はなかなか難しいのです。

ということで、測量と長期的なモニタリン

グが必要です。一方で、石巻市近傍の潮汐

の変動のデータをみますと、トレンドとし

ては、顕著な勢いで海面が上がっています。

そうしますと、地盤の沈下と海面上昇の複

合化ということで、大潮で浸水するだけで

地殻変動に伴う沿岸域の地盤の沈降への対

なく、日常的に浸水がおこるようになるか

応についてお話させていただきます。

海はだいたい二五日にして、満船にしない

私どもが所属する地盤工学会で、温暖化

方が利益が出ます。

今回の地震に伴う地盤沈降で重要なのは、

再生産性を保つということは、資源を単純

得していただけるのですが、私どもの学会

おっしゃっているのを、その通りだと信じ

では、それはおかしいのではないかと反論

石巻市渡波地域に万石浦という内湾があ

ます。特に大潮のときに広範囲で浸水して

されます。

震災のなかで一番問題であると考えてい

しまいます。一生懸命に水をポンプで外に

一つ、産業を管理するということです。産

ってきたのは、ビジョンをもつことの重要

出していて、一年たったいまも続けている

に、新しい視点として、適応策の考えを入

ていて、温暖化と大地動乱が重なると自然

気仙沼は震災で壊滅的な状態になりまし

です。われわれの研究の要は方向性を変え

状況です。

れていくべきだと発言しています。適応策

ります。津波の影響はそれほど大きくは受

た。近海延縄の一六隻だけが遠洋に出てい

ていくことにありますが、同時に、被災者

地盤沈下の要因として地殻変動によるも

とは、気候変動に伴う災害に対して、防護、

ますのが、 「もう駄目だ、立ち上がれない、

て生き残りました。これをどう使うかが気

も自発的に考えて、ビジョンを形成するプ

のが大きくて、それが少し回復しつつある

順応、避難で対応するものです。防災・減

業自体がないと、資源の永続的な利用、持

仙沼の復興の鍵になっています。

ロセスを自らつくっていきます。ゆくゆく

のではないかという議論があります。地殻

災も同じような仕方をとるべきだと主張す

災害が激甚になると考えています。今日の

気仙沼の近海延縄の船団は、メカジキと

はここで調べたことを一つの論文にしたい

変動のほかに、液状化による沈下もありま

ると、 「適応策って何なの?」と、なかな

このような場ですと、そうだと皆さんも納

ヨシキリザメという二つの魚種が中心で、

と思ってはいますけれど、これは単純な研

す。湾の周辺には粘土地盤が堆積していて、

けていないのですが、一メートルぐらいの

それでだいたい年間水揚げの大半を占めま

究ではなくて、被災した方々が再生してい

これは地震のときに壊れることはないので

地盤沈降がおきて、浸水の影響を受けてい

す。重要なのは、サメ加工の地場産業と密

く、未来をつくっていく過程そのものです。

やめるしかない」という気持ちになること

接に結び付いていることです。世界のほか

そこでのキーがビジョン形成です。

です。インタビューをするなかで一つわか

の場所では、サメはひれを切ってあとは捨

界に唯一の場所です。

私は最近は、従来の防災・減災の考え方

てています。気仙沼では、骨から皮から身

続的な漁業が成り立ちません。

に管理するということだけではなく、もう

に な り ま す。し か し、利 益 は 出 て い ま せ

に利益が出ない状態が続いていました。船

一見して私の演題は壮大です。ここでは、

茨城大学名誉教授/茨城大学地球変動適応科学研究機 関産官学連携研究員

安原一哉

克服するための取り組みと大学の役割

東日本大震災の教訓と 地盤工学的課題

4

はだいたい四一日走って漁獲は最大の状態

メカジキ漁業は、資源量は非常にあるの

1


セッション

発表

(そうだ さとし)

ています。未処理の下水は地球温暖化影響

両者は明らかにトレードオフの関係になっ

ンジンや燃料電池で発電したり、炭化して

下水汚泥から消化ガスを発生させてガスエ

セッション

発表

企業の研究開発戦略と 環境イノベーション

ています。また、栄養塩類を除去するため

ていて、一つの理想的な技術であると考え

向けたビジョンが提案され、さまざまなイ

みました。現在、水質保全と低炭素社会に

野でのビジョンとシーズとメゾを整理して

今日の話のまとめです(図) 。下水道分

と私は考えています。企業におりますと、

こにおいては、とくに時間軸が大事である

渾然一体となっているような領域です。そ

費者のライフスタイル、企業活動などが、

ベルというのは、政策や制度、あるいは消

ビジョンと技術のシーズをつなぐメゾレ

燃料にする技術開発も積極的にされており、

下水処理の主目的は、従来はBODで代 の処理方式は、確かに水がきれいになって、

ノベーション技術が存在しています。この

いかに理想的なビジョン、あるいはしっか

今は価値観の大きな転換期であって、もし

表される有機物の除去に重きが置かれてい 富栄養化影響は低下していますが、その代

ビジョンとシーズをつなぐメゾというアプ

りとした技術開発があっても、タイミング

もそれなりに高く、富栄養化影響は飛び抜

(こばやし ひでき)

ました。いろいろな処理方式が開発され、 わりに地球温暖化影響は増加しています。

ローチの一つとして、地球温暖化影響指標、

けて高い状態にあります。これを標準活性

小林英樹

BODの除去は、十分に達成されましたが、

すなわち、低炭素社会とは逆の方向にこれ

富栄養化影響指標、汚泥発生量の指標を用

かすると、汚泥発生量を増やす下水処理方

八〇年代ぐらいからは、窒素やリンなどの

までの水処理技術の開発がされてきたこと

汚泥法で処理しますと、富栄養化影響は格

栄養塩類の除去が目的として大きく取り上

になります。これからは、新たな視点から

を逃しては何の意味もないということを常

東芝研究開発センターエコテクノロジー推進室室長/ 大阪大学環境イノベーションデザインセンター招聘教授

げられてきました。下水処理場では、栄養

い、ビジョンの実現に向けた技術の発展を

に感じています。

式が必要とされるようになるかもしれませ

塩類を除去するために、二次処理・三次処

下水処理場を見直さなければならず、既存

目指していきたいと考えています。

段に低下し、下水処理の目的が確認できま

理として、微生物を使ったさまざまな技術

の技術開発とは全く違った方法を考える必

メートルを処理することで発生する汚泥量

第二に地球温暖化影響、第三に下水一立方

提案しているのは、第一に富栄養化影響で、

下水処理方式の評価方法として私どもが

時代になってきています。

新たな観点から下水処理システムを見直す

す。低炭素社会、地球温暖化問題といった

酸化二窒素、メタンが排出されているので

理によって、かなりの量の二酸化炭素、一

とが注目されるようになりました。下水処

パーセントに相当する量を排出しているこ

が、日本の温室効果ガス排出量の約〇・五

なせるようになると、必ずしもトレードオ

かし、下水汚泥がバイオマス資源としてみ

温暖化影響を評価する必要があります。し

も、さまざまなものがあり、それらの地球

ることもできます。下水汚泥の処理方式に

促進し、汚泥発生量を減らしていたと考え

ルギーを使うことで、微生物の自己酸化を

目的としてはいなかった技術ですが、エネ

泥法やOD法は、必ずしも汚泥の減容化を

の考え方では廃棄物であって、酸素活性汚

オフの関係にあります。下水汚泥は、従来

汚泥の発生量も地球温暖化影響とトレード

地球温暖化影響を横軸に取りますと、下水

第三の指標の下水汚泥発生量を縦軸に、

います。

つなげる新結合によっておきるといわれて

いろいろなプロセスにおいて新しいものを

すると、必ずしも技術革新だけではなく、

ンは、古典的なシュンペーターの定義から

ベーションが求められます。イノベーショ

ズを生み出すところですが、そこではイノ

私が担当している研究開発は、技術シー

ことになります。

いただいて、そしてリサイクルするという

をつくって流通に乗せてお届けし、使って

研究開発があり、次に設計があって、もの

いて申し上げますと、流れとして、根底に

カーの立場から、そのアクティビティにつ

です。

フの関係ではないということになります。

イノベーションをおこすにはどうしたら

富栄養化影響指標を縦軸に、地球温暖化

企業にもいろいろありますが、私はメー

要があります。

ん。

3

が開発されてきました。栄養塩類も除去さ

す。そして、地球温暖化影響も少し下がっ

2

れるようになって、最近では、下水処理場

大阪大学大学院工学研究科准教授

惣田 訓

低炭素社会に向けた静脈系都市 インフラの評価指標と そのイノベーション技術

2

影響指標を横軸に取ってグラフにしますと、

29

2


セッション

司会挨拶

セッション

発表

しい価値を生み出して新しい社会を形作っ

とによって、社会転換を実現すること、新

技術シーズを適切かつ戦略的に活用するこ

枠組みです。環境に関わるさまざまな科学

成していくための方法論、あるいは研究の

素社会や循環型社会といったビジョンを達

科学技術シーズを適切に活用しつつ、低炭

われわれの身の回りに存在している有望な

本セッションで特に議論したいことは、

ないのが最大の課題ではないかと思います。

ンとの関係性が俯瞰的・構造的にみえてい

シーズの全体像、また技術シーズとビジョ

皆努力しているわけですが、これらの技術

達成に貢献するはずだ、と信じて研究者は

究・技術開発が進めば、これらのビジョン

ろに問題がありました。最先端の環境研

が必ずしも明確にはつながっていないとこ

ころが、これら技術シーズと将来ビジョン

リオがいろいろと提案されてきました。と

持続可能社会に向けた将来ビジョンやシナ

ています。一方で、例えば政府レベルで、

な技術、あるいは研究シーズが生み出され

大学では日々の研究活動から、さまざま

もだいぶ異なっていると思われます。そう

わる可能性がありますし、おそらく価値観

になると、社会のあり方が今とは大きく変

像を描こうと考えています。そのくらい先

間スパンで将来ビジョンとそのころの社会

設計を念頭に、約七世代先ぐらいまでの時

現在、大阪大学では、超長期ビジョンの

広がるのではないかと考えています。

会変革・イノベーションの可能性が大きく

ッチングを適切に進めることによって、社

となります。そうした縦と横のつなぎ・マ

ります。これが横のつながり・マッチング

策の効用などを適切に構造化する必要があ

産業での対策の効用と、家庭や民生での対

横のつながりも最適化する必要があります。

り、となります。それだけでなく、同時に

相乗効果の分析も進める必要があります。

あります。技術間の競合・コンフリクトや

それも含めて、多元的な評価を行う必要が

に負の効果が出てしまうかもしれません。

り、場合によっては環境的あるいは社会的

べきか、といった観点も非常に重要となっ

れるのか、あるいは、誰が技術を管理する

ます。技術は社会にどのように受け入れら

デル」です。ビジョン側からみますと、バ

究フレームが「ビジョン・メゾ・シーズモ

めていくために有効であると考えている研

われわれが環境イノベーションを推し進

他の技術シーズとのつながりはどうか、な

のように社会実装し、普及を図っていくか、

ら議論がスタートします。技術シーズをど

下位レベルに記載されている技術シーズか

他方で、シーズ主導型アプローチでは、

観、社会像も当然変化していきます。常に

代の流れによって社会の求めるものや価値

れで終わりということではありません。時

な社会のビジョンも、ある時点で描いてそ

いとわからないことがあります。持続可能

も、実際には、社会のなかで活用してみな

ます。

てきます。本セッションでは、これらの観

ックキャストを通して明示化される対策領

社会的文脈のなかでこれらのアイデアや技

28

ン的に示される対策と、シーズ側からボト ムアップ的にみえてくる対策とをメゾ領域 においてうまくマッチングさせるのが重要 なポイントになります。これが図の中でい

ていくこと、これを広い意味での環境イノ

そこで私たちのセンターでは、シーズとビ

したビジョンの設計をもとに、バックキャ

もう一つ重要なのは社会実験です。どん

うところのビジョンとシーズの縦のつなが

ベーションと位置付けて議論したいと思い

ジョンの両者をつなぐような研究領域が必

ストシナリオからの研究領域を明確化する

(はら けいしろう)

環境イノベーションにおいては、技術の

要であると考えました。双方の中間領域と

ということを進めようとしています。

大阪大学環境イノベーションデザインセンター特任 准教授

役割が重要であるのは明白ですが、これら

いう意味合いで、われわれは「メゾ領域研

点を含めまして多角的に議論しようという

ど出口戦略を主に考えます。シーズの最適

術シーズを活用、動かしながら時間経過と

な選択、パッケージ化、社会実装などにつ いて議論しています。技術を社会に普及さ

ともに検証を行っていく必要があります。

域があります。一方で、技術シーズ側から プ的に示される対策についても検証する必

せたとき、技術には当然多元的な効用があ

ビジョンや目的に応じた形で、ボトムアッ 要があります。ビジョン側からトップダウ

のが狙いです。

なに有望な技術シーズやアイデアであって 究」と呼んでいます。

原 圭史郎

環境イノベーション研究への視点

ビジョン・メゾ・シーズモデルの提案

1

の技術シーズの有効活用の仕方や技術ガバ

原 圭史郎

2

ナンスの観点も含めて議論する必要があり

(はら けいしろう)

技術シーズと 環境イノベーション

2


環境問題を考える必要があります。環境イ

違いますから、それについて配慮しながら、

アジアといっても、それぞれ地域特性が

イノベーションが提示されています。イノ

ター、社会のさまざまなリソース使っての

な課題に向けて、社会のいろいろなファク

ル・イノベーションとしての観点。社会的

て み た い と 思 い ま す。第 一 は、ソ ー シ ャ

イノベーションの要件として四点を挙げ

だけでなく、それぞれの解決すべき問題に

ります。学問的な意味でのブレークスルー

文理融合的に、全方位的に考える必要があ

技術偏重ではなく、もっと俯瞰的、総合的、

第四が、全方位のイノベーションです。

が重要になってくるはずです。

しまいます。参加型の舵取り、ガバナンス

まうと、需要と供給のミスマッチがおきて

でしょう。研究開発サイドだけで進めてし

テークホルダーが関与していく必要がある

ンスです。ガバナンスには、さまざまなス

スの全般的な舵取りが行われるのがガバナ

する。そのようなイノベーションのプロセ

をモニタリングし、結果をフィードバック

さらに、社会に実装した後でも、その影響

るようにしたいと考えています。

ノベーション政策に、何らかの貢献ができ

に国全体、あるいは地域レベル科学技術イ

ますが、教育だけで終わらせないで、実際

活動ができるような人材です。

て、いろいろな参加型ガバナンスのための

す。第一のタイプの人たちと一緒に共同し

る他分野や社会との橋渡しができる人材で

ギー関連の研究をしながら、同時に関連す

個別の分野の研究、たとえば工学でエネル

渡しをするような人材です。もう一つは、

は異なる分野、異なる領域の間に立って橋

類の「つなぐ人材」を考えています。一つ

ュニケーション保障として地域、国家、国

ノベーションの原動力となるのは、社会経

ベーションのプロセスにおいても、政府や、

( )ガバナンス形態の柔軟性として、 アジア各国はかなり分権化が進んできてい るので、第三の道があるかどうか。 ( )環境資源の限界性として、河川、 森林、海洋、土壌の変化をどのように考え るのか。

発表

済システムの変換であり、技術偏重からの

企業、市場だけではなくて市民社会もアク

固有の社会的、文化的、自然的な条件に適

セッション

成長経路の転換です。それを実現するため

ターとして関わっていくような参加型のア

合したソリューションが必要です。

際機関による情報の共有。

にも、新しい主体、新しい形態、持続可能

プローチがとられて、さらにゴールにおい

(ひらかわ ひでゆき)

大阪大学コミュニケーションデザインセンター准教授

平川秀幸

参加型イノベーション・ガバナンスの観点から

社会とともに創り進める 環境科学技術

な社会、コミュニケーションシステムをい

てもソーシャルな結果、つまり社会的課題

で進めている「公共圏における科学技術・

の一つとして、大阪大学と京都大学が合同

おける「政策ための科学」の事業が昨年度

第二は、社会的課題あるいは期待の可視

の解決や社会の期待の実現につながるよう

化と戦略形成の仕掛けと実践。そもそも何

教育研究拠点」 (略称STiPS)があり

から始まっていて、人材育成拠点整備事業

が社会のなかで解決が求められている課題

ます。来年度から阪大においては副専攻プ

どのようなインパクトをもたらしうるのか

あろうさまざまなテクノロジーが、社会に

究開発が進み、その結果、将来出てくるで

ンスのための仕掛けと実践です。実際に研

第三が、参加型イノベーション・ガバナ

二つめは倫理的、法的、社会的問題への取

くりと運営のための教育と実践を行います。

のガバナンスを行っていくための仕組みづ

立場のアクターが関わって、共同で参加型

す。科学技術の問題に関して、さまざまな

的関与(パブリックエンゲージメント)で

むアプローチは二つあります。一つは公共

ログラムとして開講する予定です。取り組

なのかを見定めるためのさまざまな取り組

を、テクノロジー・アセスメントを行って

り組みです。育てる人材像としては、二種

みが必要です。

検討し、予測的にシナリオを描いて、それ

来年度から教育プログラムがスタートし

ろいろと議論して作り上げていくガバナン

5

なイノベーションが求められています。

文科省の科学技術イノベーション政策に

スがアジアで求められています。

2

を研究開発や政策にフィードバックする。

31

4

5


セッション

発表

環境技術とガバナンス (なかがみ けんいち)

アジアにおける環境研究の視点から

仲上健一

ィブといったかたちで、いろいろなインフ

ラストラクチャーを建設していくプロジェ

クトがたくさん進んでいます。メコン地域

全体の経済発展をはかろうとしているわけ

ですが、貧富の格差がかなり出てきている

環境ガバナンスは一言でいうと、社会が

題が解決できないものかと期待されて、メ

グリーン・メコンという視点で、全体の問

という問題が生じています。だからこそ、

いわゆるマーケットニーズに駆動されて、

環境を管理する能力や仕組みです。ガバナ

コン河流域委員会でさまざまな議論がなさ

立命館大学政策科学部教授

それと企業の戦略が整合したかたちで研究

れています。

なことに対し、メコン河流域委員会が調節

ンスの形態や主体は、社会的状況によって

するガバナンスが必要なのですが、実際に

大きく変わります。各主体の積極的な関わ

で環境技術をイノベーションしていこうと

はあまりできていません。中国はダム建設

開発をするというものです。第四世代は、

した場合には、市民、女性、先住民、若者、

によるインパクトは小さいと主張し、メコ

ステークホルダーと共進化していくという

企業はビジョンを興し、ビジネスの機会

市民団体、企業、学会といったさまざまな

ン河の開発には中国も他国と同等の権利を

たとえば、メコン河には計画されている

を拡大しようとしています。企業が短期の

主体の役割が重要になってくるという議論

有するということで開発を進めています。

りや交流によってガバナンスが変化し、よ

す。次に、目指すべき方向です。ビジョン

リターンを求めるなかで、長期のビジョン

がされています。また、従来はおもに技術

ことで、不連続なイノベーションをおこす

がないとどうすることもできません。政策

を考えるのは、結構しんどい仕事です。そ

の視点から環境がとらえられることが多か

そのために、現実はグリーン・メコンとは

ダムが一二以上あり、上流の中国において

や法規制に対応する必要はあっても、それ

れができる人材を送り出してくださいとい

ったのですが、環境技術だけでなく、環境

違う方向に進んでしまっています。

も四つ計画されています。ダムの影響によ

だけでは非常に不十分です。政策の大きな

うのが、大学への期待として一つあります。

経済、環境社会、法制度といった、それぞ

りよいガバナンスが具現化していくと考え

方向性は変わらないのかもしれませんが、

企業が単独でおこすイノベーションには

れが一つの原理をもっているものの全体を

のか。環境技術とガバナンスの視点から、

オープンイノベーションという言い方もさ

小さなレベルではころころ変わります。自

限界があります。技術力が変わらないのに

視野におさめて、ガバナンスのあり方を議

日本とアジアの関係をまとめてみます。

れています。方法論としてきちんと確立し

分なりの経営ビジョン、あるいは技術のビ

マネジメントするだけではどうにもならな

論することが非常に重要です。

ジアの繁栄と安定を支える環境政策の確立

って、ベトナムの南の方では漁業が壊滅し

ジョンをもって、自分自身で責任を取る必

いとか、各企業がもつビジョン同士の整合

アジアの問題で、ここではとくにメコン

と環境技術の開発。

られています。従来は、環境技術をより発

要があります。第三に、マネジメントです。

性は全く保証されていないとか、実際に技

河についてご紹介します。グリーン成長、

( )環境技術の適正・社会性では、公

展させるということでも、中央集権的な側

シーズ、メゾ、ビジョンというモデルで考

術が世の中に出ていったときにどうなるか

そして低炭素社会を実現するために、メコ

害対策の普及と環境適正技術の適応による

ているのは第三世代で、第四世代は事例が

えましても、シーズとビジョンをつなぐと

わからないとか、企業ではコントロールで

ン地域をどのようにしていったらいいのか、

いいのか。 「技術は人なり」といいますが、

ころをいかにマネジメントするかが企業で

きない制度や法規制、あるいは、消費者の

「グリーン・メコン」に向けた一〇年間の

てしまう懸念が出されています。このよう

は大事です。マネジメントはルーチンとし

マインドがどう変化するのかとか、いろい

面が強くありましたが、より分権的な社会

てきっちりやればいいというものではなく、

ろな課題があります。皆さまといろいろな

持続可能な発展。

蓄えられつつあるといった状況です。

臨機応変に、その時点で正しいことは何か

イニシアティブがあります。その一方で、

( )ステークホルダーの多様性とコミ

( )環境ガバナンスの目標設定は、ア

日本がアジアとどのように関わればいい

を判断していくのが大事です。

議論をして、少しでも限界を超えていきた

たとえば日メコン経済産業協力イニシアテ

研究開発マネジメントの方法論は世代が

いと考えています。

分けられています。第一世代は、天才みた

1

2

3

30

いな人に任せて、ブレークスルーに期待す るというものでした。ブレークスルーがな かったらそれでおしまいです。もう少しプ ロジェクト管理をしっかりやりましょうと いうのが第二世代です。現在は第三世代と

4

優秀な人をいかに確保するかがポイントで

第四世代が並存しています。第三世代は、

2


うえで、先生方の見方、あるいは周りの学

や専門性から出てくる議論を一度整理した

な反応があります。ここでは、異なる視点

感じたり、あるいは共感したり、さまざま

ていきます。その考えはおかしい・違うと

に)から批判的に自分たちの意見を構築し

存在するのではなく、地域性や社会的な文

です。問題・課題に対しては単一の答えが

同じく重要だと私が考えているのが文脈性

題の定義・理解の仕方が変わってきます。

ても、持続可能性の評価アプローチや、問

いう問いです。また、境界の取り方によっ

セッション

発表

(ふじた きくお)

大阪大学超域イノベーション 博士課程プログラムの理念と教育

藤田喜久雄

大阪大学大学院工学研究科教授/大阪大学未来戦略 機構第 部門超域イノベーション博士課程プログラ ム兼任教授・大阪大学未来戦略機構第1部門長

ログラムです。すべてを五年間のプログラ

ムで身に付けることはできないでしょう。

オールラウンドなトップリーダーに到達す

るには、いろいろ経験を積んで、一〇年と

か一五年とかかかるでしょうから、リーデ

ィングプログラムではそのための素地をし

要なポイントになるのではないかと思いま 第五は、持続性を追求する上での方法論

続可能な社会を作っていく上で重要です。

第四は、規範性です。価値観の転換が持

ラム」です。このプログラムの趣旨は二つ

件が「超域イノベーション博士課程プログ

では二件が採択されました。そのうちの一

ーディングプログラムが動いていて、阪大

してもらって、専門力とともに汎用力を身

学生にはかなり負荷のかかるコースをこな

を走らせます。三〇単位から四〇単位で、

しておき、副専攻型としてこのプログラム

強していくわけですが、それはそのままに

従来の博士課程では、研究科に入って勉

っかり植え付けたいと考えています。

す。最後の取りまとめのセッションは、学

あります。第一は、特定の分野だけでは解

に付けてもらいます。

文部科学省では、昨年度から博士課程リ

生のみなさんの理解や思考作業の手助けを

や対策です。講師の先生方のお話の中にも、

けないような課題に挑戦する。その内容は、

脈によっても求められる答えや適切な解、

しようということで始めました。同時に、

「緩和」 「適応」 「レジリエンス」などと、

あらゆる分野の専門知をつなぐ、つなぐた

というものは変わってきます。

われわれ教員にとっても、取りまとめを行

特徴的なアプローチ、単語がいくつも出て

関わるわけですが、それぞれの役割や責任

ざまな利害関係者(ステークホルダー)が

持続可能社会を形作っていく中では、さま

あるということです。課題は漠然としてい

出発点は、世の中にはいろいろな課題が

制で新しい学位プログラムをつくります。

二が、このことを達成するために、全学体

科からの学生の混成教育をする、です。第

めに汎用力の教育をする、そして、全研究

試験をします。合格した学生は、専門の教

通過してきた学生を対象に、公募型の選抜

具体的には、研究科の前期課程の入試を

きます。

二〇一一年の講義でのラップアップセッ

があります。場合によっては、それぞれの

ます。課題を明確に定義付けて、技術によ

第六は、判断や公平性に関わることです。

ションの中で何を結局つたえたのかという

利害を乗り越えてある種の合意形成にたど

ます。

観点から、非常に粗い整理ですが、六つの

り着く必要があります。

第一に、我々の周りにさまざまな脅威が

第三は、サステイナビリティ・サイエン

捉えて理解していくことが非常に重要です。

を俯瞰的したうえで、システム的に問題を

第二が、俯瞰的な視野と理解です。全体

て自分の専門性の中で活かしていくこと、

事なのは、それぞれが学んだことを咀嚼し

えてください、というメッセージです。大

どのような役割を演じうるか、それぞれ考

続可能な社会を作っていくうえで、自分は

出しました。 「理解から行動へ」です。持

私から学生のみなさんに一つメッセージを

らの力を文理統合の汎用力の教育で養って

そして責任のもとに決断する力です。これ

デルをつくる力、プロセスを駆動する力、

うな人材をつくるのが目的です。

のようなイノベーションを牽引していくよ

ーションを引き起こそうということで、そ

めて、社会システムを変えるようなイノベ

会全体に波及していく汎用性や継続性を含

って解決しようとするだけではなくて、社

スにおける特徴的な視座(エッセンシャ

また、ステークホルダーの一員として何か

いくのが、超域イノベーション博士課程プ

存在していることをまずは認識しましょう、

ル・ビューポイント)です。持続可能性の

しら行動に移していく力を養うことではな

ということからスタートします。

議論の最大の課題は、誰(何)のためのサ

いかと思っています。

リーダーに必要なのは、課題設定力、モ

ステイナビリティを考えているのか、ある

昨年のラップアップセッションの最後に、

ポイントにまとめてみました。

げることができるのではないかと思ってい

う過程で、サステイナビリティ教育の中で

生の視点と、自分の意見の違いや共通点を

2

今後活かせる見方や方法論について拾い上

相対化できるようになることが、一つの重

3

いは何をサステイン(持続する)のか、と

33

1


セッション

初に入れた方がいいということに気付きま

どのようなことが議論されているのかを最

「サステイナビリティ学最前線」の到達点

ラップアップセッションに見る

発表 の

単位にするというのが、IR3Sとしての した。

最先端に触れて、それぞれの分野の広さと

拠点におけるサステイナビリティ学研究の

目標を設定しました。ネットワーク型研究

は異なるもので何が最もいいのか議論して、

目はすでに各大学にありますから、それと

〇八年度にスタートしています。俯瞰型科

が学生から出されました。それへの対応と

れなかったとか、不完全燃焼だという不満

なかったとか、先生がきちんと対応してく

ってしまって、質問したくてもあまりでき

ますが、質問を受けるだけでも時間がかか

性からくるものです。技術的な問題もあり

反省点の二つ目は、多地点遠隔講義の特

義全体のお話を取りまとめて締める、とい

また、最後にラップアップセッションで講

トロダクションのセッションを設けており、

少しでも助けるために、冒頭に全体のイン

サステイナビリティに対する学生の理解を

「サステイナビリティ学最前線」では、

セッション

「サステイナビリティ学最前線」は二〇

共同教育プログラムです。

相互関連性を知り、それらをどのようにし

して、講義を延長して、質問に十分な時間

う構造になっています。ラップアップセッ

「サステイナビリティ学最前線」の現在

プログラム、もしくは共同教育プログラム

のなかでコアとなるものを抽出して、連携

もう少し多くいることになります。

了生は、これと重複もありますが、さらに

を出しています。各大学のプログラムの修

が一番頑張っていてすでに六五名の修了生

二年の三月までで一二九名です。茨城大学

共同教育プログラムの修了生は、二〇一

に加えて、講義の質疑時間を増やしたこと

ず述べてくださいとお願いしました。それ

のように考えているのか、講義の最後で必

て、各講師の先生に、持続可能な社会をど

れが非常に難しかったのです。対応策とし

させるということをやってみましたが、そ

とサステイナビリティの関連を学生に議論

遠隔講義で行うことの難しさです。各講義

加えての反省点は、ディスカッションを

え方やサステイナビリティに対する視点に

ぞれのご専門性から講義をされますが、考

各大学からいろいろな分野の先生方がそれ

「サステイナビリティ学最前線」では、

であると考えています。

解していただくという意味では極めて重要

うまく取りまとめて、学生のみなさんに理

イナビリティ・サイエンスの大事な視点を

ッションは、各講義の中で出されたサステ

ていかなければいけないものです。このセ

(おぬき もとはる)

サステイナビリティは俯瞰的な視野が必要

「サステイナビリティ学最前線」を実施

で、統合ディスカッションでは、各講師が

小貫元治

であるという各大学とも共通した認識があ

しつつ、問題点を出して改善するというこ

(はら けいしろう)

て統合してサステイナビリティ学を創成し

を取るようにしました。加えて、質問の冒

ションは、おととしからスタートしたもの

り、そのような科目が各大学にありますか

とをしてきました。一つは、当然のことで

線」です。これは五大学を遠隔講義で結ん

のが必修科目「サステイナビリティ学最前

やるものをつくろうということで生まれた

ラムになってしまいますから、何か一緒に

これだけでは各大学でバラバラのプログ

各大学でやっているとはいっても、その内

ジョンの講義に入りました。俯瞰的科目を

三〇分ほどでしてから、小宮山宏先生のビ

をカバーしているのかという全体の説明を

最初の年は、全部の講義でどういうエリア

すが、イントロダクションの重要性です。

出るようにもなりました。

ラップアップすることで、全体の統一感が

できるようになりました。それをまとめて

ことができるのかというのをある程度議論

テイナビリティ・サイエンスにもっていく

に検討して、どのようにしたらそれをサス

話された持続可能な社会像に対して批判的

「持 続 可 能 な 社 会 と は ど う い う も の な の

講 師 の 先 生 方 に は、各 講 義 の 最 後 に、

することが困難になる場合もあります。

を聞いてしまうことで、内容や意味を咀嚼

に多様です。短期間であまりに多様な意見

ついては、それぞれのご専門を反映して実

さらに四単位分を、各大学がそれぞれ指

サイエンスの最新の理論をレビューして、

で、反省点として、サステイナビリティ・

学 生 は、自 分 の 専 門 性(た と え ば 工 学 的

す。その先生方の意見・考え方に対して、

か?」という問いに答えていただいていま

容にやはりばらつきがないわけではないの

定する選択科目リストから取って、計一〇

集中講義です。

で実施し、基本的に土曜日を三日間使った

して指定します。

まず、各大学で俯瞰型科目を用意します。

をつくりました。

ら、それをそのまま各大学で俯瞰型科目と

原 圭史郎

北海道大学、茨城大学、東京大学、京都 ていけばいいのかという過程に参加しても

頭五分くらいで遠隔講義を切断して、各大

で、今後もその内容については改善を行っ

発表 の

大学、大阪大学の五大学でそれぞれにサス

らおうという、目標を掲げました。内容は、

学で質問を整理するようにしました。

セッション

テイナビリティ学教育のプログラムをつく

メンバー大学のトップランナーの先生によ

共同教育プログラム

るのと並行して、サステイナビリティ教育

2

で何が本当に必要かという議論を、IR3

1

1

るリレー形式の講義です。

1

3

Sの教育部会のなかで続けてきました。そ

サステイナビリティ教育と 人材育成

3

3

32


小貫元治 社会には特定の分野では解決で きない問題があって、それを何とかする人 森晶寿(京 都 大 学 大 学 院 地 球 環 境 学 堂 准 教

ステイナビリティコースがあります。地球

授) 京都大学の地球環境学堂のなかにサ

材を社会は求めています。われわれもその 環境学堂では、学生の教育をする場を学舎

(みの たかし)

総括コメント

味埜 俊

閉会挨拶

住 明正

(すみ あきまさ)

東京大学地球持続戦略研究イニシアティブ統括ディレ クター教授

ように考えてサステイナビリティ教育を進 といっています。そこでの教育は、もとも

東京大学大学院新領域創成科学研究科・副研究科長・ 教授

めてきました。

非常に大事なことは、時代の挑戦を受け

んが、そういうことをしてはいけないのだ

まとめるのはなかなか難しいのですが、

というのが、スターティングポイントです。

と、サステイナビリティ学の教育とほぼ同

二番目のポイントは、いろいろな分野が

サステイナビリティ学は、答えがあって

東大のサステイナビリティ学のプログラ

協力しないといけないということです。超

教えられる学問ではありません。チャレン

ているという覚悟をもつことです。新しい

インターンは必修科目です。修士課程な

域イノベーションのご紹介で、特定の分野

ジングな課題に立ち向かおうとしているわ

問題は山のように降ってきます。問題を見

ら三カ月から五カ月、博士課程なら五カ月

だけでは解けない課題に挑戦するとおっし

けです。そのとき、学生さんも重要なパー

一番のポイントは、サステイナビリティに

た人材を育てる。そのために、東大で重視 以上一年以下の期間を設定しています。そ

ゃいました。サステイナビリティ学も全く

関わる具体的な問題を前提にして、サステ

しているのは、演習やゼミです。それぞれ

こで問題になるのは費用です。資金をどう

同じ問題意識を共有していると思います。

トナーです。将来のある人が、物事を担っ

じことを志向してきました。グループディ

の学生の抱えている課題は全部違っていま

回していくのか、大学院自体のサステイナ

私は個人的にはサステイナビリティ学とい

ていくことになるのは非常に確かです。

スカッション、野外実習、インターン研修

す。それを全員が参加するゼミで発表させ

ビリティといいますか、サバイバビリティ

う名前にこだわっているわけではありませ

るような雰囲気があります。逆にいうと、

ムでやっていることは二つにまとめられる

ます。その発表の仕方では他の分野の人に

が問われています。サステイナビリティ学

ん。呼び方は何でもよくて、そのような問

出てくるべきときに、出てこなければだめ

と思います。一つは、他の分野を理解でき

全く伝わらない、何をいっているのかわか

コースは地球環境学堂の環境マネジメント

題意識からくる態度、視野が重要なのです。

なのです。未来のいろいろな課題に向かっ

ないようにすれば逃げ切れるかもしれませ

らないと徹底的に叩きます。一方で聞いて

専攻の一つのコースでしかなく、地球環境

三番目のポイントは、複雑な問題に対し

て挑戦をしていくファイティングスピリッ

イナビリティ学があるということです。

いる側の学生も、全然違う分野の発表だか

学堂はそれ以外にもさまざまなプロジェク

て、何らかの形でアタックして、みんなで

などを実験的に行ってきました。

ら自分には関係ないという顔をするのは許

ト経費を獲得してそれぞれに対応したコー

考えて、次のステップをデザインしていく

るようなコミュニケーションする力をもっ

されなくて、他の分野の話にも興味をもっ

スを設置してインターン研修の資金を捻出

困難な時代には、いろいろな人が出てく

て、自分の分野になにがしかをつなげて消

しているというのが現状です。

もう一つは、学生をどこから採るかとい

化しなさいと、非常に厳しくいいます。

いたかということを問いません。できるだ

を国際的に募集し、学部時代に何をやって

して教育をすることが問われています。そ

というのと同時に、教員自身がT字を理解

ています。学生がどうやって学んでいくか

はなく、T字型でなければいけないと考え

Cの活動の一番といっていい成果は、サス

にとってのジレンマです。IR3SとSS

ないということがいわれましたが、私自身

われわれが、実はそういう教育を受けてい

入ってこなければならない教育をしている

最後のポイントは、新しい教育の要素が

( 『サステナ』第 号)

トをもつことが大事です。

けいろいろな国籍のいろいろな分野の学生

れを『環境経済学講義』というテキストで

テイナビリティ教育を担える若い先生が教

ことにつなげようということで、さまざま

を採ろうとしています。東大のなかにいる

は実験的にやってみました。実験的にやり

員側に育っているということだと思います。

私は経済学の出身で、環境経済学という

学生を選抜するだけでは得られない多様な

すぎたために、学生からは(教員からも)

これは非常に重要なことです。

うことです。七割から八割が留学生です。

学生が、サステイナビリティ学のプログラ

難しいと認識され、売れ行きがよくないと

な何かを超える必要があるということです。

ムには必要だと考えていますので、とにか

出版社から文句をいわれています(笑) 。

学問自体が経済学をベースにしたI字型で

く外から、いろいろな分野から、いろいろ

35

サステイナビリティを学びたいという学生

国から学生を採ることが重要なのです。

27


セッション

パネル討論

田村誠(茨城大学地球変動適応科学研究機関

の研究と、超域ラーニングを続けてもらい

いているかも見て、その上で、さらに専門

究提案書を書いてもらい、英語の能力が付

共有してきました。サステイナビリティ教

叱咤激励しながら議論を深め、問題意識を

教授) この六年間、五大学で、お互いに

環境イノベーションデザインセンター特任准

上須道徳(コ ー デ ィ ネ ー タ ー)(大 阪 大 学

出された大学の教員が講義しています。

バスで、うちのセンターのスタッフと、選

ちからきています。カリキュラムはオムニ

生のほかに、他学部生・大学院生があちこ

プログラムです。受講者は、センターの学

は、修了証書を出すサーティフィケート・

究センターの教育プログラム、HUIGS

教) 北海道大学のサステイナビリティ研

ラボレーション力などです。

など、 「技」はコミュニケーション力やコ

「技」です。 「心」はモチベーションや信念

す。横に結ぶときに重要なのが、 「心」と

部分で、合わせてT字は「知」に当たりま

の縦は専門性で、横は他の専門分野と結ぶ

育を、もう少し構造化したものです。T字

う言葉を掲げています。いわゆるT字型教

准教授) 茨 城大学では「心・技・知」とい

ます。最終的には研究科で学位論文を書い 育で考えなければならないものとして、二

アンソニー チ ・ ッテンデン(北海道大学サス テイナビリティ学教育研究センター特任助

て、その内容が超域イノベーションとして

私たちが何を狙っているのかという説明

野を足し合わせると、社会的もしくは環境

自分の目標としてきましたが、それらの分

専門性を高めてより深く掘り下げることを

も学問領域でも、それぞれのプレイヤーは

合成の誤謬というのは、経済システムで

とだとか、自分なりのビジョンをつくって

がら、サステイナビリティとはこういうこ

しています。学生はいろいろな話を聞きな

ビジョンを学生に教えてくださいとお願い

サステイナビリティとは何かという見方や

ださいと、あまり厳しくはいっていません。

各先生に対して、こういう講義をしてく

グラムがあります。

位の副専攻型のサステイナビリティ学プロ

科、教育学研究科、農学研究科に、一〇単

す。それ以外に、理工学研究科、農学研究

ィ学コースがあり、主専攻型で三〇単位で

理工学研究科のなかにサステイナビリテ

浜に開いた蘭学の私塾で、当時の最先端科

たとえば、自分の食べるものがどこからき

のなかでいろいろなものが分業化されて、

生命の営みの分断というのは、社会経済

中国の大学、インドネシアの大学とインタ

の大学とつながっていて、アフリカの大学、

われわれのセンターは、世界のいくつか

心をもつようになる効果が出ているのだと

現場をみていることから、実際の問題に関

が出てきています。本プログラムの演習で

講者から参加すると手を挙げてくれる学生

いた学位を授与します。

学である医学を学びに学生たちが集まって

ーネット会議システムで、週に一回、共同

り組む震災調査などに、本プログラムの受

きていました。オランダ語の辞書は一冊し

ているのかわからなくなっています。生産

短期的には、下水道や農業への影響など、

かなく、それを奪い合いながらディスカッ

対象を絞って調査をして解決策を考える方

思います。被害調査に入るときの課題とし、

多様性が高いです。北大のコースの大事な

が実践的である面があります。サステイナ

サステイナビリティ学として入っていく必 サステイナビリティ教育では、ある枠組

ポイントは多様性と文化です。相手の国の

ビリティ学として入っていきますと、抽象

講義をしています。いろいろな国の教員の

みの中で理解した、もしくは最適に得られ

文化を考えながら講義しています。

的になってしまう場合があります。サステ

立場、考え方を聞くことができます。

ら兵器などのさまざまな知識のもとにあら

た解を合わせるだけでは駄目だということ

プログラムの目的は、サステイナビリテ

イナビリティ学には、時間軸の問題と空間

の現場では効率性を求め、そのためにBS

ゆる分野で活躍しました。今度のプログラ

です。実際にどのようにして教育するのか

ィの重要性がわかる学生を育てて、社会に

Eのような病気が発生しています。

ムでは、入学してきた学生が切磋琢磨して、

という部分では、たくさんの課題がありま

送り出すことです。社会のみんながサステ

ションをして勉強しました。適塾で育った

社会に出ていくときに、専門にとらわれず

す。われわれも含めて、現在の教員の多く

軸の問題が横たわっていて、何度も逡巡し

人は、医学者になっただけでなく、土木か

に、今までになかったような分野で、新し

は従来型の高等教育でトレーニングを受け

イナビリティの重要性に目を向けてくれる

て、いまだに答えが出ていません。

要があるのかどうかということがあります。

い仕事を自分で定義付けて、リーダーとし

てきました。それで新しい教育をするので

ようになるのが目標です。

教室ではすべて英語です。留学生が多く、

て活躍してほしいと考えています。

すから、手さぐりで格闘している状況です。

34

育を受けながら、超域ラーニングの教育を 受けます。三年次に移るところで一つの関

の意味をもっているのか、あるいは汎用力 つを提示しました。合成の誤謬と、生命の

門があって、専門性と汎用力の進捗具合を

がきちんと付いているかを審査して、それ 営みの分断です。

で、阪大の源流の一つである適塾と超域イ

ほしいと思っています。

プログラムによる」というキーワードの付

ノベーション博士プログラムを並べた絵を

的にいろいろな齟齬が生じています。

茨城県は震災の被災県で、大学として取

使っています。適塾は緒方洪庵が大阪の北

見ます。そして、三年次が終わるときに研

に通れば、 「超域イノベーション博士課程

サステイナビリティの教授法と 人材育成

3


共通するところが多く、日中で環境共生と

りやすい環境で快適性を確保するところは

夏は高温多湿で、冬は反対に低温低湿とな

計画につなげられています。日本と中国は、

とにエネルギー使用の改善や、キャンパス

家プロジェクトとして立ち上げ、それをも

大学のエネルギー計量システムを中国の国

パスのリーダーとして活躍されています。

譚先生は同済大学のサステイナブルキャン

なところを教えてもらったりしています。

いき合同ゼミをやったりして研究の刺激的

せていただいて、学生を同済大学に連れて

近本 私は、中国の同済大学緑色建築能源 研究中心におられる譚先生とお付き合いさ

ることがあります。

り組みをみせるとともに、私自身にも学べ

ターパートとしています。学生に中国の取

た湖州市との関係から、浙江大学をカウン

国に関しては、周先生に開拓していただい

進められている産社学研連携のやり方です。

世にも寄与できるので、中国では積極的に

祉向上や収入の増加、ひいては社会への出

の研究費確保、個人や研究チーム全員の福

大いに奨励され、またそれにより大学教授

ため、社会のために直接に貢献することが

て製品化するところまで進めました。町の

人々と組んで研究プロジェクトを立ち上げ

せましたし、浙江大学の研究者は現地の

クラスの人を浙江大学から湖州市に出向さ

れます。湖州プロジェクトでは、市長助役

日本も参考にすべきところがあるかと思わ

のかという点では、中国大学のやりかたに、

方で、大学がいかに社会のために貢献する

生懸命研究してきた結果だと思います。一

周 日本人のノーベル賞受賞者はこれまで に一九人です。日本が基礎を大事にして一

終わりだという意識が強いようです。

究者は、研究のレベルで提案をしたら大体

視されています。それに対して、日本の研

もってくれています。気候変動と農業の関

エジプトの人たちは、私の研究に関心を

るのが立命館の役割であると考えています。

的なかたちの大学をつくっていくようにす

のではないかという心配があります。学際

教える大学をつくったのでは、物足りない

国立大学のように、縦割り型の学問体系を

は貢献するよう要請されています。日本の

国のさまざまな課題を解決するために大学

エジプトは中国と似ているところがあって、

営会議のメンバーに立命館が入っています。

大学をつくるプロジェクトで、その戦略運

ます。少人数の大学院教育、研究が中心の

学技術大学というものをつくろうとしてい

プト政府の要請に応じて、エジプト日本科

エジプトの話をしますと、日本は、エジ

えなければなりません。

らいいのか、戦略的に変えていくことを考

がします。それをどのようにして改善した

は、海外での認知度が上げられていない気

ヒ素濃度が高い井戸は、使ってはいけない

の地域のヒ素汚染はすでに調査されていて、

の地下水を調べている留学生がいます。そ

ングラデシュの西方のクルナというところ

は地下水のヒ素汚染が非常に深刻です。バ

要だと思います。

が補い合いながら進んでいくのが非常に重

一」です。知と行がいいバランスで、双方

両 者 が 必 要 で す。王 陽 明 の い う「知 行 合

ことは常日頃から考えています。知と行の

者も行動していかなければいけないという

いえるような立場ではないのですが、研究

コープをもってサステイナビリティとかを

中島 私は技術屋で、どちらかというと一 つ一つの問題を解決する人間で、大きなス

てどのように感じておられるでしょうか。

ます。中島先生は理論と実践の両者につい

ころまで出していく必要があると思ってい

とにどのように関わっていくのかというと

仲上 これらの事例にとどまらず、立命館 と中国の関係は深いものがありますが、I

社会への貢献を重視する中国

います。そのようなご経験を通じて、何か

して全世界とのネットワークを担当されて

られ、現在は立命館の国際担当の副総長と

洋大学の学長を二〇〇四年から五年間務め

仲上 中国との関係が話題の中心になって いますが、カセム先生は立命館アジア太平

研究力を国際的に発信するために

ではないかと思います。

ナイル川流域に貢献できるところがあるの

研究から地域開発のソフト面に至るまで、

などさまざまな問題をつなげて、基礎的な

ーが、気候の問題、土壌の問題、水の問題

サステイナビリティサイエンス研究センタ

ジプトはすごく焦り出しています。立命館

関係をみている人がほとんどいなくて、エ

係です。ナイル川流域では、農業と気候の

技術を必要とします。そのようなハイテク

金がかかりますし、維持管理に非常に高い

非常にハイテクな技術です。入れるのにお

ところがあります。

れている井戸をいまも継続して使っている

策がうまく根づいていないために、汚染さ

ところが、それに代わって水を供給する対

ということで赤いペンキが塗られています。

一つの例を出しますと、バングラデシュ

なる技術は一致することが多いように思い

R3Sの研究報告会で話題になったのは、

感じておられることがあるでしょうか。

ます。低コストを実現しながら普及を目指

研究のスタイル、あるいはプロジェクトの

のは誰でもわかることなので、ローテクと

ことです。中国の場合には、現実の問題が

ています。立命館がもっているものの割に

的に可視化できていないことにあると思っ

すのに日中間の協力は欠かせません。

成果をどのようにみるのかといったところ

知行合一でいきたい

ーテクを入れても、どのように管理してメ

あって、研究者としても、それをどのよう

いわれるような技術を入れるのですが、ロ

技術をもってきてもうまくいかないという

途上国において一番持続可能でないのは、

で、中国と日本でかなり違いがあるという

カセム 立命館が抱える大きな課題の一つ は、自分たちがもっている研究力を、国際

仲上 研究者は、研究をして論文を書くだ けではなくて、地域や国が変わっていくこ

に解決していくのかという面が非常に重要

37


座談会

サステイナビリティ研究に向けた 立命館大学の新たな取り組み

立命館大学理工学部環境システム 立命館大学政策科学部教授 工学科教授 (専門は資源エネルギー・環境政策, (専門は土木環境システム,湖沼水質 システム工学) 管理,排水処理技術,水環境工学) 立命館大学政策科学部教授 立命館大学理工学部建築都市デザ 専門は産業政策・都市工学・建築学, イン学科教授 国土計画,地域経済学) (専門は建築都市環境システム,建 築都市環境設備)

周 瑋生(Zhou Weisheng) 中島 淳(なかじま じゅん) モンテ・カセム(Monte Cassim) 近本智行(ちかもと ともゆき)

中国からの高い評価

周 立命館大学はIR3Sに参加するにあ たって、調和型社会、とくにアジア地域を

視野に入れた広域循環型経済社会システム

の構築というテーマを分担し、IR3Sと

浙江大学と湖州市の三者で協力協定を締結

した、いわゆる「湖州プロジェクト」の推

進役を担うことになりました。立命館チー

ムは、浙江大学と湖州市に協力してマスタ

ープランとパイロットモデル事業の設計に

参加し、経済、環境、社会という三つの領

も加わって、さらにプロジェクトを推進で

げられます。日本の産業界、中国の産業界

域で、一一の大きな分野、約一〇〇のプロ

立命館も国際ネットワークづくりを進め

ジェクトに対して、設計から実施まで協力

ています。立命館の建学の精神に、 「自由

きればと考えています。

での国際連携を進めるために、ネットワー

主義と国際主義」 、 「自由にして清新」とい

中島 文科省の「現代的教育ニーズ取組支 援プログラム」に、立命館大学の「琵琶湖

仲上 サステイナビリティ学連携研究機構 (IR3S)は、サステイナビリティ分野

うことがうたわれています。国際的な展開

で学ぶMOTTAINAI共生学」が選ば

しました。成果としては国際連携、他分野

は立命館の一つの大きな特色で、立命館は

れました。琵琶湖や周囲の地域を具体的な

クのネットワークをつくるということを提

全世界の四〇〇以上の大学と協定を結んで

フィールドとしながら、文理総合学習を行

横断、研究支援、人材育成などを進め、中

います。そのような立命館の特色を生かし

うカリキュラムです。柱の一つにしたのが、

国側から「湖州モデル」として高い評価を

て、サステイナビリティ学の研究を展開し

国際的な視野をもつということです。海外

唱してきました。国内のネットワークをつ

ていきたいと考えて、二〇〇七年に立命館

に学部の学生を連れていき、環境の問題や

くり、そのネットワークを国際的なネット

大学サステイナビリティ学研究センター

土木や建築など基盤技術をみせ、海外の大

いただいております。課題としては、産業

ークに加わりました。これまでの国際的な

学との交流もします。これまでに、中国、

カナダ、ベトナム、タイにいきました。中

展開について、まずご紹介ください。

(RCS)を開設してIR3Sのネットワ

ワークにつなげていくという構想です。そ

立命館大学政策科学部教授 (専門はアジア太平洋地域の都市環境管理, 水資源・環境政策)

界の連携と参加があまりなかったことが挙

仲上健一(なかがみ けんいち)

の考え方に私は共感を抱くものです。

司会

36


するということで、ベースとなる三つのコ

安全でしょうか。周辺国同士間では互いに

ターでありながらも、周先生が先ほどおっ

ャンパスでは、先導研のプロジェクトで選

ソーシアムをつくって、環境に配慮した箱

定された環境配慮型の体育館が建設中です

物を単に建てるだけではなくて、建物その

しゃったような教材づくりにも貢献してい いま私はサステイナビリティサイエンス

ものを実験場とし、そこにいろいろな研究

影響し合う恐れがあるため、一緒になって

の宣教師のように、実験的にサステイナビ

アイテムを持ち寄って、さらなる環境配慮

ンセプトとして、サステイナブルな人間の

リティの講義をしています。サステイナビ

を追求する研究を進めようとしています。

し、びわこ・くさつキャンパスでは、コン

また、日米中の連携で、幸福指数と経済

リティサイエンスのエッセンスは何である

中学校、高校も、深草から新しく長岡京

かなければなりません。

成長とサステイナビリティの相関関係を研

かということを若い学生に明確に伝えたい

に移転する予定で、すでに建設中です。環

安全システムを組まなければ、日本も絶対

した。それにもとづいて個々の研究の位置 究していこうと考えています。日中の比較

と思っていて、連続四回の講義を、日本語

境配慮を大きくうたっております。建物の

に安全とは考えられません。

づけを整理して、研究を進めています。 では修士論文がすでに一つできていて、幸

や英語で行っています。進化している新分

生活、サステイナブルな人間の活動、そし

周 教育面では、 『サステイナビリティ学 入門』という教科書を編集しています。

福指数と経済成長の相関について非常に面

野で、関係する領域がたくさんあって、エ

て、サステイナブルな人間の生存を掲げま

研究面では、一つには、文理融合のアプ 白い結果が出ています。

ローチからサステイナビリティ学の研究手

康、安全・安心などの領域を研究対象とし

エネルギー、食料、材料・資源、医療・健

決しなければならない課題に対して、環境、

ROでは、持続可能な社会形成のために解

―GIRO) 」の活動もあります。R―GI

グローバル・イノベーション研究機構(R

に、古狸たちだけがやるのではなく、若い

献していきたいと考えています。そのとき

ーションをおこしていくことに立命館は貢

ープンなかたちで、つまりオープンイノベ

ションが進められるのではなくて、広くオ

きます。大学や企業のなかだけでイノベー

いくのか、いろいろな新しい考え方が出て

カセム サステイナビリティサイエンスの なかにイノベーションをどのように入れて

サステイナビリティ学の宣教師として

な具体的なケースを話そうとしています。

くことが大切だと思いますので、いろいろ

こしていくにはいろいろなケースをみてい

具体的に社会に貢献するムーブメントをお

ケースに興味があるというだけではなしに、

んあります。知的好奇心としていろいろな

ィがありますので、話したいことがたくさ

リティなど、いろいろなサステイナビリテ

ステイナビリティ、観光業とサステイナビ

ネルギーとサステイナビリティ、気候とサ

ことで、それを意識するように誘導して、

毎日公表しています。数値を見える化する

どれだけ電力を使っているかという数値を

画を実施するとともに、ホームページで、

で節電目標を立て、それに向かって行動計

節電については、それぞれのキャンパス

を、低コストで実現しています。

九という評価で、学校施設としては高得点

システム(CASBEE)の評価点で四・

環境性能を評価する建築環境総合性能評価

法の確立が大事だと考えていて、新しい

て、多くの研究プロジェクトが進行してい

人々から年配の方々までが入り混ざって、

うとしています。

「政策工学」の創成を提案しています。ま

ます。われわれRCSでは、技術、社会、

サステイナブルキャンパスの将来

が出るようなプロジェクト企画を展開して、

ターゲットとしているのは、立命館大学だ

年二月に設置しました。地球環境委員会で

イで川口総長が、G 大学サミットの成果

した。 『サステナ』第一〇号の巻頭エッセ

れ、立命館大学からも川口総長が参加しま

ーションを起こすかということを提案する

た、二〇〇八年四月に設立された「立命館

経済の三軸から低炭素社会を実現するため

国内・国際の交流ができるような拠点にR

仲上 二〇〇八年の北海道洞爺湖サミット に合わせて札幌でG 大学サミットが開か

少しでも節電に向かって取り組んでもらお

の基盤技術開発と、どのような戦略イノベ

CSがなってほしいと思っています。地球

近本 立命館では、サステイナブルキャン パスを対象に、地球環境委員会を二〇一〇

国際協力の面では、国際エネルギー環境

いろいろな方々の協働で新しい知恵を生み

けではなく、小学校、中学校、高等学校も

規模の課題を取り上げて、三~五年で成果

セキュリティ研究拠点を構築できないか検

出していきたいと考えています。

研究を進めています。

討しています。とくに日韓中の三カ国を中

いうテーマがあります。日本では「原発ゼ

ム」をどのようにしてつくっていくのかと

心とした「東アジア原発安全保障システ

のエッセンスは何であるのかをよくつかん

ためには、サステイナビリティサイエンス

はすごく広い概念です。研究を進めていく

サステイナビリティサイエンスというの

イナブルキャンパスを目指します。衣笠キ

計画がありますが、そこは最初からサステ

が目標です。茨木に新キャンバスをつくる

ステイナブルキャンパスをつくっていくの

含めた立命館の全学園です。学園全体でサ

にやってきたいと思っています。

ています。一気に成果は出ませんが、地道

づくりに取り組んでいくということを書い

を受けて、サステイナビリティキャンパス

( 『サステナ』第 号)

ロ」にするなどさまざまな議論をされてい

でおく必要があります。RCSは研究セン

ますが、日本の原発がゼロになれば日本は

39

8

8

28


くできていません。装置をつくった最初の

浄化槽が無錫にあります。維持管理がうま

仲上 中国の太湖にいきますと、日本の外 務省が関係したプロジェクトでつくられた

が非常に重要です。

ればいいのではなくて、社会開発的なこと

かどうかが大切です。単に技術をもってく

庭でも、どれだけオーナーシップをもてる

ミュニティにおける組織づくりです。各家

するという発想よりも、利潤を追求する管

カセム 大震災の後で私が思いましたのは、 日本は、環境的な資本のストックを大事に

ようにご覧になっていますか。

日本の脆弱性について、カセム先生はどの

う危険性が日本にはあるような気がします。

かけでかなり厳しい大きな失敗をしてしま

たが、原発の事故をみますと、何かのきっ

仲上 日本は経済成長の過程で、管理のあ り方がより高度化してきたと思っていまし

ストックよりもフロー?

ことへと、近代化のどこかで変わってきた

大事にすることから、フローを大事にする

ろな技術が衰えてきています。ストックを

ムづくりの陰で、ため池を維持するいろい

池がありましたが、近年のコンクリートダ

〇年もの間、維持管理してきた巨大なため

した。私の母国のスリランカには、二〇〇

農業をアスワンハイダムが変えてしまいま

五〇〇〇年の歴史があるナイル川下流の

きちんと評価しなくなっています。

そのような資本のストックをいまの日本は

それは人間の努力で蓄えてきた資本です。

ら八〇センチぐらいの黒い土があります。

りの土です。田んぼには深さ六〇センチか

響しません。必要なのは余裕です。

ションがうまくいかなくても、それほど影

いというのです。貯金からなら、イノベー

す。そうでないと人に自由度が与えられな

の貯金からやるべきだとおっしゃっていま

おうとしますが、そこの社長さんは、自分

するために、普通の企業はお金を借りて行

なことが必要です。イノベーションを達成

場を開発するとか何かしらイノベーティブ

ったときに、会社を助けるには、新しい市

柔軟に動けるからです。会社が危機に向か

に投資をすれば、どのような危機がきても

たということをおっしゃっていました。人

ろいろな工夫をしながら人に投資をしてき

湖を守ることが重要だという意識をもって

識を変えていかないとなりません。最初は、

維持管理まできちんとしていくには、意

種子を、その土地のお年寄が保存している

せん。地域で昔からつくられてきたお米の

ことがきちんとしたかたちで行われていま

げますと、古代米の種子を保存するという

その象徴的なものとして、一つの例を挙

学べるものがある気がします。

然があるところでは、ナイル川から日本が

に向いているものだと思います。農村や自

す。ただし、それはどちらかというと都市

私は、日本の繊細な維持管理を評価しま

RCSの第二ステージ

ものがあるのではないかと思います。

投資は大切で、日本が国際的に貢献できる

のがきたときには対応できません。人への

ていかないとうまく進まないようです。

うちは、地域の農民もきちんと管理します。

理システムの方を重視する方向に変わって

ンテナンスしていくのかというシステムが

しかし、そのうちに、毎日丁寧に管理する

ように思います。その原点に戻る必要があ

もらうことです。湖を守るには対策技術が

のならまだいい方です。万一、何らかの大

なければうまくいきません。難しいのがコ

のがどうもなじまないということなのか、

きたのではないかということです。

いまの日本が緻密にやっているところは

維持管理が行われなくなってしまいます。

必要で、対策技術を維持するには地道な努

仲上 RCSは、二〇一〇年四月に中島先 生が第二代目のセンター長になって第二期

美しいです。しかし、急に予測できないも

力が必要です。技術は根付かせるには、い

きな環境危機があって、もともと地域に存

行動計画がスタートしました。 「サステイ

るのではないかと感じています。

くつかのステップを踏んでいかなければな

仲上 管理が緻密に制度化されるなかで、 人間が本当に幸せになっているのかという

平洋大学の人も一緒になって、文理融合・

問題もあるかと思います。幸福といいます

機関横断で研究に取り組んでいます。

在していた非常にたくましい遺伝子に頼ら

たちに関わることです。持続可能であるた

なければいけないということなったときに、

めには、幸福の問題についても本格的な議

りません。

自然を開発し、利潤を得るための、非常

中島 二〇一〇年からRCSの第二ステー ジを始めるに先だって、あえて抽象的な議

ナブル価値の創造と定着」を理念に掲げ、

に繊細な維持管理システムを日本はつくっ

論がいるのではないかと思います。

論を半年ぐらい行いました。地球システム、

と、すぐにブータンを思い浮かべますが、

をつくり、管理することから始めるように

てきました。しかし、環境アメニティサー

カセム 日本には貨幣経済以前から続いて いるような長寿企業があります。長寿企業

どこにいったら古代米の種子があるのかわ

思います。中国では、誰がどう管理するか

ビスの資本のストックは大切にされてきま

近本 逆に、日本では、きちんとした体制 をつくらないと動かないようになっている

ということとは無関係にまず技術を導入し、

せんでした。私は日本で八年間ほど兼業農

社会システム、人間のシステムの三つのシ

立命館大学だけではなく、立命館アジア太

さらに新しいものに次から次へと変えてい

はさまざまな危機を乗り越えて今日に至っ

ステムの結節点に主眼を置いた研究を推進

幸福は他の国のことではなく、毎日の自分

くダイナミックさを感じます。それは日本

家をしていました。私の水田がある谷間の

ています。ある古い会社の社長さんが、い

からないのがいまの状況です。

にはなじみにくく、管理のできる体制をき

向こうに墓地があり、そのあたりは砂まじ

ように感じます。まずマネジメントの体制

ちんとつくって標準化するところからやっ

38


基調講演

持続可能性と富の概念

資産と呼んでいます。それらは測定しなく

講演

まとめたレポートがあります。開発の持続

2012

性を五つの国で評価しました。期間は一九

私たちは、二〇一二年六月の「国連持続

これらすべてを包含した上で、何が一番い

包括的富に関する報告書

評価のためには指標が必要です。経済の

九五年から二〇〇〇年の五年間です。

可能な開発会議」 (リオ+ )で、国連環

てもいいので、資本資産とは分けています。

パフォーマンスを判断するのに正しい指標

インドの数字を挙げます。一九九五年の

い政策なのかということです。初めの三つ

かどうか、まず考えておかなければなりま

インドにおける一人あたりの生産資本は一

境計画(UNEP)など複数のパートナー

昨年の夏に、私をふくむ五人の研究者で

せん。皆さんが持続可能な開発に関心があ

五〇〇ドルでした。自然資本は二三〇〇ド

と共同で『包括的富に関する報告書』 ( In-

はアセスメント、後の二つは評価です。

私たちは言語によって意見を交わし、言 って、世代間の福利に関心がある場合には、

ル、教育などの人的資産が六四二〇ドルで

国連大学地球環境変化の人間・社会的側面に関する 国際研究計画事務局長

( Anantha Duraiappah )

語によって国家が置かれている状況を語り 経済の生産的基盤を追跡してください。そ

す。一九九五年から二〇〇〇年における変

アナンサ・ドライアッパ

ます。言語は重要です。しかしながら、世 して、福利がどのように分配されるのかを

( Partha Dasgupta )

界からの信号を、人類は場当たり的にしか みてください。

問事項があります。第一に、いま私たちの

経済について評価するときに、五つの質

資産、そして時間です。これらは何かを可

リング資産というのは、制度、知識、社会

人的資産、自然資産があります。エネーブ

です。資本資産には、人工的な生産資産、

た(表) 。資本資産とエネーブリング資産

私たちは生産的基盤を二つに分類しまし

ないので、マイナス九〇ドルです。一人あ

ドルです。炭素が増えるのはもちろんよく

地下資源に関しては原油がマイナス一四〇

ルの増加、健康は九三九〇ドルの増加です。

二〇ドル減少しました。教育は一〇二〇ド

本は六五〇ドル増加しました。自然資本は

化をみますと (表) 。一人あたりの生産資

経済的な進歩を測るためのものではなかっ

に開発されました。もともと、人間の富や

的な生産性を推し測るために五〇年代後半

)の重要性についてお話します。 dex ニュースでもよくみられるGDPは経済

ケンブリッジ大学経済学名誉教授

捉えていませんでした。これからは、一貫

パーサ・ダスグプタ

したかたちで、堅牢度の高い倫理的でしか

経済はどういう状況なのか。第二に、過去

能にする資産、何かをしやすくするような

たのです。GDPを使うことには、八〇年

)を発表しま clusive Wealth Report 2012 した。ここではその報告書を基盤として、

において経済はどうであったのかの軌跡で

たりの富は、全体で一万八一〇ドル、〇・

代においてもすでに多くの批判がありまし

は自然資産の評価が非常に足りていません。

て、他は小さくなると考えられます。いま

健康資産の占める割合が非常に大きくなっ

ませんでした。

にどのような関係にあるのか理解できてい

きました。しかし、いろいろな指標が互い

効に活用するための指標などが考えられて

発指標(HDI)や生物多様性を保全し有

た。識字率や就学率などを反映した人間開

推定値の弱点がそこにあります。たとえば

に考慮した指標をつくろうと努め、IWI

私たちは、持続可能であることや公平性

を提案しました。論理的な枠組みは堅牢度

今回の報告書では、日本、アメリカ、ブ

この分野に関しては、まだまだかなりの

ラジル、中国など二〇カ国の、一九九〇年

量の研究が必要です。いろいろな指標が出 く考えなければいけないのは、経済を評価

から二〇〇八年までのIWIの変化を評価

の高いものです。 するにあたって、一体何を知りたいのかを

されていて、お互いに異なっています。よ

にいえる数字はありません。

湿地がどれぐらいの価値があるのか、確実

将来に関しては、二〇から三〇年後には、

九パーセントのプラスです。

包括的富指標( IWI, Inclusive Wealth In-

す。第三に、経済の今後の予測です。第四

流れをつくる資産なので、エネーブリング

ことを確立すべきです。

に、政策を比較して評価します。第五に、

も実利に基づいた手順で、経済を評価する

20

特定して見極めることです。

41

1


国際シンポジウム

成熟した持続型社会を目指して

主催: 一般社団法人サステイナビリティ・サイエンス・コンソーシアム(SSC) 東京大学サステイナビリティ学連携研究機構(IR3S) /国際連合大学(UNU) 日時:2013 年 1 月 7 日(月)13:00 〜 17:45 会場:国際連合大学ウ・タント国際会議場

司会挨拶

横張 真 (よこはり まこと)

経済、寿命、人工物の飽和、エネルギーの 世界の経済は一〇〇〇年前には、一人あ

四つをみておく必要があります。

ございます。ただいまより国際シンポジウ

皆様こんにちは。あけましておめでとう

のです。一八世紀になって産業革命を行っ

ためでしたから、国家間の差は小さかった

た。当時の産業はほぼ農業だけで、食べる

たりGDPに差はほとんどありませんでし

ムを開催させていただきます。六時近くま

た国は、経済力を急激につけてGDPを伸

東京大学新領域創世科学研究科教授

の長丁場ですが、どうか最後までお付き合

ばし、先進国が生まれました。産業革命を 止まることになりました。ここ二〇年ほど

経験しなかった国が相対的に途上国として

本日の国際シンポジウムは「成熟した持

で世界平均が上がり、これからは、もう一

いいただきますようよろしくお願いいたし

続性社会を目指して」というタイトルです。

経済の豊かさと寿命はきわめて明確に相

度国家間の差が小さくなって均一化します。

ます。

同時通訳が付きますが、ここからは海外か

関し、人類全体が七〇歳まで生きることが

らのお越しの先生方に敬意を表して、英語 で司会を務めさせていただきます。最初に

す。公害を克服し、生物多様性を取り戻す

の必要条件を考えています。第一は環境で 人工物は飽和しつつあります。日本もド

ことです。第二が資源、エネルギーを地域

視野に入ってきていきます。 イツもイギリスも、二人に一台の車をもっ

で自給することを考えます。第三が、参加

社会です。第四が精神的な幸福と物質的な

たところで、だいたい飽和です。他の人工 化石資源を八割から限りなくゼロにして

豊かさです。雇用の機会が十分にある社会

型の社会で、それもずっと成長するような いかないと、温暖化とエネルギー資源の枯

物について同様のことがいえます。

小宮山宏先生をお招きします。

開会挨拶

(こみやま ひろし)

プラチナ社会

小宮山宏

一般社団法人サステイナビリティ・サイエンス・コ ンソーシアム理事長/東京大学総長顧問/三菱総合 研究所理事長/プラチナ構想ネットワーク会長

には足りてきましたので、やはり質でしょ

ます。日本がやるべきことがたくさんあり

ションというような社会の変化が求められ

ルバーイノベーション、ゴールドイノベー

そのためにグリーンイノベーション、シ

です。

う。質を上げていくところに新しい成長の

ます。これは中央政府が掛け声を掛け、お

これから先はどうなるでしょうか。量的

渇によって人類は持続可能でなくなります。 持続社会を議論しているのかということを

可能性があるというのが、たぶん持続可能

シンポジウムに先立ちまして、いまなぜ お話させていただきます。

な発展の中身だと思います。

申し上げたいことは二点です。一つは、

というのを提案させていただくというのが、

ります。そのビジョンとしてプラチナ社会

きているということ。私たちの社会が変わ

がつくる社会で、いまはまだどのような社

います。プラチナ社会は、これから私たち

高い社会を、私はプラチナ社会と定義して

そのような、いまよりもワンランク質の

ところです。

をつくっていく運動を一生懸命行っている

ものを立ち上げて、地域からプラチナ社会

す。私はプラチナ社会ネットワークという

金を出して実現するものではないと思いま

私たちは人類の歴史上の大きな転換点を生

二点目です。

会になるのかわかっていません。そのため 世界の持続可能性について考えるとき、

40


す。安全神話を、なぜ私たちは信じてしま

イノベーションで大事なのは、労働者の心

私たちステナ( )社は、ケア( ) な削減を、二〇〇以上の小規模なプロジェ Stena care クトを実行することで達成してきました。 があって仕事ができて、ケアがすべての価

二八パーセントを削減しました。さまざま

ん消費します。エネルギーの節約に努め、

のは船舶です。船舶はエネルギーをたくさ

す。しかし、貨物を運ぶのに最も効率的な

フットプリントは非常に大きくなっていま

船による輸送をしていることから、環境

私たちが買収した会社で、ごみに関する

ほどの風力発電所を考えています。

いの投資効果を上げています。今後は五〇

は成功して一年に一億五〇〇〇万ドルぐら

ぐらいのものです。ビジネスが立ち上がる

電所を設立しています。大体五億ドル規模

もあります。現在のところ、八六の風力発

なおうとしています。それに向けての助成

〇パーセントを再生利用エネルギーでまか

ます。スウェーデンでは全エネルギーの一

子力発電の三分の二ぐらいのコストですみ

の持ちようです。半分ぐらいの従業員が、

新たな取り組みをしています。一般家庭の

減をしています。

毎年イノベーションを提案しています。エ

下にパイプを設置して、そのパイプからご

講演

ケアというのは顧客の成功、社会の成功、

値につながっていると考えています(図) 。

ネルギー節約につなげたり、運転の最適化

みを吸い上げます。 「シンビオシティ」と

ったのでしょうか。安全神話があると、安

従業員の成功、パートナーの成功、ビジネ

につなげたり、モーターの最適化につなげ

るにしても必ずリスクがあると考えるべき です。何に投資をし、誰が実行するのか。 対象は、ものではなくてシステムです。 第二のセットはコンパス、プル、プラク ティスです。ビジョンあるいはミッション を示すコンパスが必要です。理論より実践

勇気ある挑戦

ダン・オルソン ステナ社CEO

呼んでいますが、地下のパイプを通じてご

( Dan Sten Olsson )

持続可能な産業への イノベーション

りもプルです。大量生産で大量生産でつく

(プラクティス)が重要です。プッシュよ

スの成功につながるのです。顧客が満足す

たりしています。

全ということを忘れてしまいます。何をす

ったものを押し出すのではなくて、ニーズ

れば私たちも満足し、私たちにとっても成

廃棄物というと、家庭から出る一般のご

みを回収、分別してリサイクルし、ものに

のには時間がかかるものですが、風力発電

を引いてくるべきです。 功です。

第三のセットは、ディスオベディエンス、

社会の成功とは何かといいますと、持続

よってはエネルギー化します。このシステ

クラウド、ラーニングです。大学でも企業 でも、コンプライアンスを強制すると、す

みを思い浮かべる方も多いと思いますが、

道のどこでも回収できます。生活の質も、

スウェーデンでは産業廃棄物がその一〇倍 廃棄物の埋め立てが禁止されています。廃

作業状況も改善できます。

可能性があること、雇用の創出ができるこ

棄物を分離し、選別して回収し、処理する

と、教育が続けられること、すべてが調和 私たちはファミリー会社です。私の祖父

ことにコストがかかっています。よりよい

べてのシステムは官僚主義に陥ります。反

が私の父のために計画を立て、父が私たち

リサイクルのシステムの開発に、私たちの

抗するということが大切です。専門家では

の計画を立ててくれました。成功を測るに

ところでは、一一名のポスドクが研究に関

ムで、ごみを運送する交通量も減りますし、

は達成された指標をみます。従業員数、顧

わっています。すべてがリサイクルできれ

ぐらいあります。スウェーデンの法律では

客数、どれだけの価値を生み出しているの

ば、地球から原料を抽出する必要性が減り

していて継続性があるということです。

か、環境へのインパクトがどれぐらいある

なくて群衆です。教育よりも学習です。大 学は将来のリーダーとなる学生と経験知を 共有する場です。

のか、生産システムはどうなっているのか

ます。鉱山で採掘するような金属を廃棄物

億トンの貨物を運んでいます。六〇〇万ト

四〇〇万人の顧客にサービスを提供し、八

います。問題はコストです。風力発電は原

にいくつかの小型の水力発電は建設されて

水力発電の研究です。ヨーロッパではすで

ーに投資をしています。たとえば、小型の

私たちは、いくつかの再生可能エネルギ

のなかから取り出すこともできます。

など測ります。 私どもには二万人の従業員がいて、三万

ンの廃棄物をリサイクルし、私たちのプラ

人が私たちの傘下で仕事をしています。一

ントで八〇〇万トンの二酸化炭素の排出削

43

3


講演 変わる原則 (くろかわ きよし)

不確実な時代

黒川 清

います。私は二〇一一年から Web 3.に 0 入ったとみています。二〇一一年一二月に

「ア ラ ブ の 春」が 始 ま り ま し た。 Twitter

や Facebook でデモへの参加が呼びかけら れ、急速に運動が拡大しました。二〇一一

などをみて、すべての大陸から選んでいま

天然資源、再生可能資源、石油資源の多さ

しています。二〇カ国は、人口の大きさや、

の増減を入れます。日本の総合的な評価は

動のダメージを引いて、石油に関する資本

酸化炭素によるダメージ、すなわち気候変

総合的な評価をするには、IWIから二

く人的資本を伸ばしているのと対照的です。

に落ちてきています。ドイツが非常に大き

スになっています。人的資本の伸びが徐々

りの自然資本の伸びが先進国の中唯一プラ

日本は非常に興味深い国です。一人あた

になると思います。

し、将来の投資をどこにするかをみる一助

Iの評価は、政策策定者の間での対話を促

いくのが適切であるということです。IW

これからいえるのは、人口政策を見直して

人あたりの自然資産がかなり落ちています。

人あたりの人的資本は延びていますが、一

ブラジルについて少し詳しくみると、一

九「・一一 の 」 事件でした。中国などの新 興国がどんどん台頭し、世界的金融危機が

した。二一世紀の最初の年におきたのが

web 2.と 0 呼んでいます。インタ ーネットがより高速で使えるようになりま

そして二一世紀に入り、最初の一〇年間

持続可能性が国際的な課題になりました。

デジャネイロで「地球サミット」が開かれ、

バブルがはじけました。一九九二年にリオ

くつかの金融危機がありました。日本では

に接続できる人が爆発的に増えました。い

1.と 0 呼んでいます。まず冷戦が終結しま した。WWWが登場して、インターネット

〇年の一〇年間でおきた変化を私は

変化がありました。一九九一年から二〇〇

ました。その進化の先に、接続性の大きな

タイルは、産業革命のころから生まれてき

私たちがいま望んでいるようなライフス

一〇年前に耳にされたでしょうか。強靱性

システムです。レジリアンスという言葉を

トにしてお示しします。

則に関わるキーワードを、三つずつをセッ

私たちは不確実な時代を生きています。

が委員長を拝命し、報告書を出しました。

所事故調査委員会」が設立されました。私

立調査委員会、 「東京電力福島原子力発電

でした。日本の歴史で初めて国会による独

ていました。そこで大きな事故がおきたの

して、科学技術で卓越した国として知られ

大きな要素であるとみられていたことから、

気候変動に対し、原発は温暖化を抑制する

の二酸化炭素の増加によってもたらされる

襲い、原発の事故がおこりました。大気中

年三月一一日に東日本を大地震と大津波が

す。GDPでは、この二〇カ国で全世界の

実はマイナスで、先進国で負の値だったの

ということですが、以前はキーワードでは

政策研究大学院大学アカデミックフェロー

GDPの七二パーセントを占めています。

おきました。二〇〇二年にヨハネスブルグ

ありませんでした。ストレングス、強さが

さまざまな原則が変わってきています。原

ます。IWIはそれを知るのによい枠組を

どこを伸ばすべきかは国によって異なり

ーションが、国境のないグローバルな世界

ようになりました。デジタル技術のイノベ

なり、女性や若い世代もさかんに参加する

璧な強い制度を打ち立てることは不可能な

想しなかったようなことがおきました。完

求められていました。金融危機があり、予

第一のセットは、レジリアンス、リスク、

提供できると考えています。私たちの次の

42

されていません。そのため多くの政策策定 者はこの報告書をみて、あまり悪くないと いう印象をもったようです。それでも、ロ シアはマイナスです。持続可能でない発展 を行っているということです。次に悪いの

人口は五六パーセントです。グローバルな

は日本だけです。報告書には、生産性を伸

で「リオ+ 」の国連の会議が行われまし

キーワードでした。強い企業、強い制度が

web 「原子力のルネッサンス」ということが語 られていました。日本は第三の経済大国と

環境変化などに影響を及ぼす国々といって

ばすイノベーションが大切であると書いて

た。それに限らず、国連の会議にはさまざ

標は最も楽観的な見方に基づいたものです。

計画は一〇〇カ国をカバーすることです。

のです。福島の原発事故もまさにそうでし

を私は

いいでしょう。

まなステークホルダーが招聘されるように

自然資本に関して、実際には、多くの生態

を推進しています。

化に着目しています (図) 。現在のこの指

系サービスが悪化しています。IWIでは

そして、人的資産、健康に焦点を当ててい

ょう。機械は壊れ、人は間違いを犯すので

生態系サービスの検証がまだ十分には行わ

さらにこの一年間で多くのことがおきて

こうとしています。

10

れていないのです。人口増加の要因も反映

私たちはIWIの絶対値ではなくて、変

あります。

はナイジェリアです。

2


QOLとは何なのか、あるいは、福祉と は何なのかと質問される人もいるかと思い

クに関する指標で、GDP、HDIなどは 流れ、フローの指標です。

パネルディスカッション

ットワークのなかで情報をうまく吸い上げ、

えるかもしれません。経済開発が成し遂げ

経済開発の結果から見出されるものだとい

評価するだけではなく、QOLに与える損

一原子力発電所の事故で、GDPの損失を

ージを評価します。東日本大震災、福島第

用できると思います。たとえば、経済ダメ

業がサステイナビリティを目指してその活

生み出された包括的富という考え方が、企

と思っています。その上で、学術の世界で

していますのでそれについてお聞きしたい

表に対して会場からいろいろな質問を頂戴

ネルディスカッションでは、いままでの発

知が生まれる場をつくってネットワークし

フィスをつくることではなく、いかにして

す。したがって、私たちの仕事も立派なオ

出しているかということになってきていま

うことではなくて、どれだけの価値を生み

争力は、どれだけ大きな容量があるかとい

造が彼らの役目となっています。都市の競

ません。ここで知恵を生産する、知識の創

ことをしていました。いまはそうではあり

情報処理をして、会社の判断を仰ぐという

られたおかげで、以前よりどれだけ幸福に 失、生産的基盤のダメージも測定する必要

動を大きく転換している状況とどうつなが

武内和彦(国連大学上級副学長、東京大学サ

なったのか、どれだけより自由になれたの があります。決定要因に関するダメージは、

測定の問題は残りますが、私たちはこの

かということです。持続可能な発展とは、 将来の世代に与えるソース、あるいは潜在

ていくか、どのように交流させて付加価値

IWIのアイディアをさまざまな方法で応

このようなQOLの構成要素が一人あたり

っていくのかを考えたいと思っています。

創造ができるようになるかということに移

ます。QOLには二つの要素があります。

で減少しないことだということになります。

性へのダメージでもあります。復興プロセ

最初に、まだこれまでお話のなかった合場

一つは構成要素です。QOLの構成要素は、

包括的富(IWI)のなかには、QOL

スをすすめていく上で、この包括的富指標

ステイナビリティ学連携研究機構長) こ のパ

の構成要素ではなくて、QOLの決定要因

っています。

資本資産は人工資本、人的資本、そして自

産とエネーブリング資産の組み合わせです。

プタ教授によれば、生産的基盤は、資本資

いはインプットといえるものです。グスグ

ています。経済開発におけるソース、ある

よって、企業の利益を向上させることもで

ンを取るプログラムです。企業のCSRに

化されたコストを削減するためのアクショ

をもちます。企業の社会的責任とは、外部

ルとの間で乖離が生じた場合に重要な役割

います。とくに企業の利益と社会的なゴー

業戦略のなかで非常に重要な部分になって

ています。この場所で生み出される企業の

ヘクタールのこの地区で、二三万人が働い

ます。東京駅と皇居にはさまれた約一二〇

市再開発についてご紹介をさせていただき

めている大手町、丸の内、有楽町地区の都

のように取り組んでいるのか、私どもが進

企業活動としてサステイナビリティにど

合場直人(三菱地所株式会社常務執行役員)

も効率の面からも必要だろうという考え方

くように仕組んでいくことが費用の面から

しています。総合的に相互作用がうまくい

掛け算的発想でということを私たちは提案

つずつ積み重ねていくということではなく、

ばいけないのですが、これらを足し算で一

ら一つひとつの要素を解決していかなけれ

たさまざまな課題があります (図) 。それ

環境、防災、知的生産、文化、福祉といっ

サステイナブルシティを実現するには、

さんから、プレゼンをしていただきたいと

然資本です。エネーブリング資本は、資源

きるし、風評被害のリスクのようなものか

連結売上は一二四兆円という計算が成り立

です。

思います。

は応用していけると思われます。

分配メカニズムのようなもので、制度、知

ら守ることもできます。包括的富指標の考

ちます。この地区の再構築を始め二五年ぐ

企業の社会的責任について、CSRは企

が書かれています。決定要因は、今日のシ

識、社会関係資本などを含みます。

え方を取り入れるならば、新しい解釈をC

らいになりますが、特徴としては、ここに

ンポジウムで、生産的基盤として説明され

持続可能な発展のこのような要素を使う

SRに与えることが可能になるのではない

包括的富指標に寄与できるのではないか。

CSRは、アクションプログラムとして

いうことがあります。

させ、それに基づいて開発を進めていると

づくりのルール、ガイドラインとして成長

をつくり出して、行政と協議をして、まち

気持ちのいい冷房をする。暖房でも同様で

出して冷房するのではなくて、輻射による

セーブしていく。空調にしても、風を吹き

な明るさにすることによってエネルギーを

ままでの明るすぎたオフィスを、人が快適

ギーセーブするということがあります。い

ます。環境共生を図るには、やはりエネル

環境共生と知的生産の掛け算を考えてみ

と、ブルントラント報告のなかでいわれて

そうすれば、CSRは持続可能性に寄与で

高度成長期には、ここのまちで働くホワ

いる世代間の衡平性とは、それぞれの世代

きるのではないかと思います。このような

イトカラーといわれる人たちは、自分のネ

集う地権者の方々が自らこのまちの将来像

包括的富指標(IWI)は、このような

解釈を取ることができれば、より堅固にC

でしょうか。

アイディアに基づいて考えられているとこ

SRが理解されるようになると思います。

における衡平さをその次の世代に引き継い

ろが、GDPやほかの指標は違っています。

になると思います。

で残していかなければいけないということ

包括的富指標は、どちらかというとストッ

45


講演 題です。

ィのレベルを押し上げていくというのが命

命を失う人があってはいけません。これは

ビジョンとして、まず、ボルボの製品で

共有価値を創造する

ヤン エ- リック・スングレン 本当に現実的で重要な問題です。スウェー

講演

経済学で考える

(うえた かずひろ)

包括的富と企業経営

植田和弘

はGDPのマイナス要因です。毎年一五〇

問題、温暖化ガスの問題もあります。渋滞

さまざまな課題があります。大気汚染の

要素です。

び出されます。輸送は社会にとって必須の

輸送が必ず関わります。ごみが都市から運

され、都市に運ばれて店舗に並ぶところで

関わりをもっています。生産物が市場に出

す。輸送は私たちが創出する価値に重要な

私たちすべての人が輸送に依存していま

て、持続可能性が大きなテーマになってい

供し、安全で環境に配慮した品質を追求し

ンフラ産業に革新的な製品やサービスを提

す。お客様のために価値を提供し、輸送イ

段の解を提供する企業になるということで

ボルボのビジョンは、持続可能な輸送手

つくる企業グループです。

して生産し、合せて建設機械、船舶なども

では、トラック、バスなどの商用車に特化

年にフォードモーター会社に売却し、現在

ボルボグループは乗用車部門を一九九九

きます。自治体は、より少ない費用でより

ムがあります。地下鉄よりも安価に実現で

です。コロンビアのボゴタにバスのシステ

効率的な公共交通手段を考えることが大切

都市のシステムを構築する際には、より

盤のインフラを改善しなければいけません。

を高めることもあります。それには社会基

ます。道路の流れを改善して物流の効率性

排出が少ない燃料を使うということもあり

ッドにすることがあります。二酸化炭素の

か。燃費を高めること、たとえばハイブリ

す。二酸化炭素の排出量をどう低減するの

ん。可能ないくつかの点に言及していきま

すべての問題を解決する手法はありませ

範や行動を変えていく必要性もあります。

でなく、システムの効率化も重要です。規

に取り組んでいきます。車をよくするだけ

とです。同時に、再生エネルギーに積極的

使うにしても、燃費を高めていくというこ

ギーであろうと、どのようなエネルギーを

化です。化石燃料であろうと、再生エネル

とです。環境的な面では、エネルギー効率

故による死傷者をゼロに近付けるというこ

ロと呼ばれているものがあります。交通事

世界的に選ばれた大学と協業して、戦略的

パートナー」というプログラムがあります。

「ボルボ・プリファード・アカデミック・

ともち、革新をもたらすことが不可欠です。

能です。そして、非常に強力な関係を大学

まな当事者が最初から関与しなければ不可

送システムを生み出すには、社会のさまざ

価値を生み出そうとしています。新しい輸

顧客、従業員とともに経済的な価値以上の

収する期間は二年間です。

セント削減しました。そのための投資を回

うにもして、エネルギーの消費を五〇パー

ました。建物のなかに日光を取り入れるよ

導入し、屋根にソーラーパネルを取り付け

最大の工場では、二〇〇七年に風力発電を

ボルボのトラック製造施設でヨーロッパ

グ)と同義です。この定義は非常に明解で

QOL)というのは福祉(ウェルビーイン

す。生活の質(クオリティ・オブ・ライフ、

りの生活の質が減少しない」ということで

ダスグプタ教授による定義は、 「一人あた

経済的な定義はさまざまなものがあります。

ではありませんでした。持続可能な発展の

たもので、持続可能な発展の経済的な定義

これらの定義は、経済の外側から出てき

るような発展」というものです。つまり、世 代間の衡平です。一九八七年の国連のブル

しつつ、現在の世代のニーズをも満足させ

われているのは「将来世代のニーズを満た

た。自然資源をどう持続的に使っていくの

で持続可能な発展という言葉が使われまし

(IUCN)の世界自然資源保全戦略の中

一九八〇年に初めて、国際自然保護連合

をしておきたいと思います。

続可能な発展の概念を経済学的に定義付け

社会的責任ということですが、最初に、持

私のトピックは、包括的富指標と企業の

京都大学大学院経済学研究科教授

万人の人たちが道路で命を落としています。

素早くより多くの人を輸送する公共の交通

ありますので、異論を唱える方はいらっし

ントラント委員会の報告に書かれています。

持続可能な発展の定義として最もよく使

る持続可能性でした。

か、生態学的なサステイナビリティに関す

これらは持続可能とはいえない問題です。

な研究をしてもらうための資源を提供して

ゃらないと思います。

ます。

マイナスの影響は低減しなければいけませ

機関が導入でき、私たちにとってはより多

います。

私たちの企業は、社会の他のパートナー、

ん。モビリティとアクセシビリティのバラ

くのバスを売ることができます。

デンで交通の安全性に対して、ビジョンゼ

5

ンスをはかりながら、安全性とセキュリテ

VOLVO副社長

( Jan-Eric Sundgren )

持続可能な道路交通の実現

4

44


ていて、そうした活動をしていると実証で

企業として責任ある形での行動が求められ

員を確保するのにそれが必要だからです。

つはもっと重要かもしれません。有能な人

企業活動をしなければなりません。もう一

があります。民間企業は、投資家が求める

いけないと考えるようになったということ

いったところにも企業は投資をしなければ

スングレン 企業が積極的に持続性の問題 に取り組んでいるのは二つの側面があると

きるのかということがあります。

たことを、企業レベルでどれくらい改善で

カルフットプリント、あるいは汚染といっ

には破壊ということがあります。エコロジ

行われます。アメリカには、調査委員会が

ギリスでは、独立した調査が三つも四つも

事故のような大きな事故がおきたとき、イ

が、信じられないと驚いていました。原発

うに話しましたら、イギリスの財務省の人

の調査だったということです。私がそのよ

黒川 事故調査についてまず申し上げたい のは、これが議会によって行われた初めて

のようなことが明確化されたのでしょうか。

武内 次に黒川先生に質問があります。福 島原子力発電所の事故の調査をされて、ど

っていると理解しました。

意味で、IWIは大きな潜在的に価値をも

ればいいのか考える基盤をつくれるという

るようになると思います。CSRをどうす

うになれば、そこから自ずと示唆が得られ

その評価システムに基づいて計算できるよ

切ではないと思います。

くりにおいてはとくにそのようなことが大

ということが強調されてきました。まちづ

ていろいろなステークホルダーが参加する

括的ということだと思います。企業も含め

武内 今日の議論のなかで非常に大事な一 つのポイントは、インクルーシブネス、包

うでなければなりません。

ません。原発の事故に関しても、まさにそ

あり方を、企業も政府も考えなければなり

います。グローバルなパートナーシップの

でいます。そのような方向で世界は動いて

りでなく、官民のパートナーシップも進ん

いで、政府対政府のパートナーシップばか

な目が向けられています。この一〇年ぐら

Aには、政府間だけにとどまらず、国際的

国家間で、政府から政府に与えられるOD

は、企業は大きなリスクに晒されています。

終わりにしたいと思います。

それではこれでパネルディスカッションを

なって、ご意見をいただければと思います。

けるようにしたいと思います。ぜひご覧に

のフリージャーナルで皆さまにみていただ

日本語では『サステナ』というオンライン

は『サステイナビリティ・サイエンス』と

とうございました。本日の成果は、英語で

武内 この非常に興味深いパネルディスカ ッションに参加していただき皆さまありが

かと思います。

通認識が丸の内ではできているのではない

って、世界に誇るまちをつくろうという共

るいは経済を担っていくという責任感があ

自分の企業だけではなく、日本の社会、あ

もうという機運があるのだろうと思います。

がありますので、まちづくりに共に取り組

思います。一つは、多くの投資家が、そう

きないと有能な人材を確保できなくなって

多すぎるくらいにあって、一年に一〇〇ぐ

のではないかと思います。それを理解する

スングレン 共有価値というのは、ある意 味、世界のいまのあり方を反映しているも

てもいいのではないかと思います。

有価値という方が、お客様に説明するにし

オルソン 私も共有価値の方がCSRより もいいと思います。多くの方が認識する共

っていくと考えています。

のものでもなく、株主のためだけのもので

Rの活動は、企業の存在が企業のためだけ

CSRにからめてコメントしますと、CS

この勧告は国会議員が聴くべきものです。

た。民主主義に基づいたやり方で出された

事故調査委員会は七つの勧告を出しまし

れて、逆に私が驚きました。

たのではないかと、そのイギリスの人いわ

はないのか、民主主義に基づいていなかっ

司法の独立がきちんとしていなかったので

員会がこれまでなかったのは、立法、行政、

は日本のGDPの四分の一ぐらいをマネジ

し、先ほど申し上げましたように、丸の内

て自分の利益に結び付くことでもあります

すことそのものであります。各企業にとっ

かで、まちづくりは、共通の価値を生み出

企業は何のために存在するのかというな

というと、少し違うのかもしれません。

いることが、全国どこでも適用できるのか

かと思います。ですから、丸の内で行って

共通の価値を作り出しやすい地権者である

業であり、あるいは公官庁です。いわゆる

本を代表する、あるいは世界で活躍する企

私の講演のタイトルにありましたように

民間企業の代表者がいらっしゃることはう

もなく、関連のする人々すべてに関わるも

メントする地域ですから当然社会的な責任

( 『サステナ』第 号)

いうジャーナルに報告したいと思いますし、

きているのではないでしょうか。

れしいです。

のだというところからきています。CSR

らいはあります。日本で議会による調査委

植田 さしあたりいえることは、包括的な 富指標というものを、理論的な基盤を明確

は会社の評判を左右します。評判によって

CSRから、共有価値を創造するようにな

にした評価システムとしてつくるというこ

47

合場 先ほどご紹介した丸の内の地区に土 地をもっている方々の顔ぶれは、大体が日

とです。企業活動が及ぼす影響や効果が、

29


同時に相互作用によって解決し、掛け算的

ひとつを積み重ねるということではなく、

ワークすることを仕事としています。一つ

ーは、その場をつくり、運営して、ネット

る場であると定義して、私たちデベロッパ

都市というものを、新たな価値を創造す

行していこうということです。

して省エネを導くというような考え方で実

せ、知的生産性を向上させて、その結果と

はしていましたけれども、快適性を向上さ

八度以上に設定しましょうという話を従来

す。省エネのために、冷房は我慢をして二

ます。

に関して別の指標を使うということもあり

なことです。また別のやり方として、貧困

重を貧困層の所得の方に付けるというよう

加重を掛けて計算するのです。より高い加

算します。違うグループの所得には異なる

測定は可能です。理想的には、所得を再計

ません。一般的には、所得でみれば貧困の

に可能な何らかの方法を用いなければなり

べきなのですが、それは不可能です。実際

ょうか。できれば個々の世帯の経済をみる

裕層と貧困層を捉えて分離していけるでし

済を評価するときに、どのようにしたら富

に関連します。たとえば日本やインドで経

ダスグプタ どういう経済を取り上げて評 価すべきなのか。それは衡平さという問題

う質問もあります。

てはどのように対応するのでしょうかとい

福祉にマイナスの影響を与えるものに関し

されています。また、人間の健康や人間の

とも考えるべきではないのかという指摘を

深刻な影響を受けている人がいるというこ

なくて、環境の悪化や貧困の悪化によって

富指標に関連して、世代間の衡平だけでは

武内 非常に興味深い質問が会場の皆さま から出されています。最初の質問は、包括

わせる必要があるのではないでしょうか。

ために、利益と社会的責任を上手に組み合

社会的責任でしょうか。企業を持続させる

ーションは何でしょうか、利益でしょうか、

武内 次の質問は、環境を配慮して新しい 事業を展開していく際の一番大きなモチベ

興味があります。

ように変化していくかをみることは非常に

されないような要素も含めて、集団がどの

ピングをしていくことです。所得には反映

ります。私が関心があるのは、緊密にマッ

査を定期的に行っていくとそれが可能にな

できるのではないかと思います。世帯別調

くのと同じようなことが、富にも関しても

どのように変化していくのかを追跡してい

とか一万人とかの集団をみて、人口構成が

考えています。人口に関して、五〇〇〇人

ドライアッパ 衡平の問題に関連して、国 レベルよりももっと細かくみていきたいと

思います。

然保護の逆を考えればいいのではないかと

まいます。汚染というのは、保全の逆、自

染が広がっていくと、富が少なくなってし

イナスのシャドー価格になっています。汚

です。汚染は、経済に損害を与えるのでマ

れまでに企業の方々と話をしていろいろな

ドライアッパ 私からは、CSRの測定の 手法について申し上げたいと思います。こ

ろうというお答えになるかと思います。

対しては、文脈によって考え方が異なるだ

ると思います。経営体制も違いますし、従

れば、不完全ながら満足している企業もあ

完璧に事業を成し遂げようとする企業もあ

で活動していきたいと私たちで決めます。

オルソン 私たちは民間企業ですから、こ れが私たちのスタイルである、こういう形

思われますか。

う。そのようなことについてはどのように

とのある種のすり合わせが必要なのでしょ

と意志決定するには、市場からのシグナル

す。社会的に望まれている責務を果たそう

責任を果たそうとするのも妥当だと思いま

ダスグプタ 民間企業が市場価格を一つの シグナルとして行動しているのは確かだろ

いきます。

コスト社会を実現して、利益に結びついて

にみたときに、より高い効率、あるいは低

し、革新をもたらすということは、長期的

んと引き継いでいくまちであるということ

いといったことも含めて、次の世代にきち

けではなくて、クオリティや環境にやさし

美しくというのは、見た目を指しているだ

で最も美しくサステイナブルな都市です。

きたいと考えています。目指すのは、世界

値をどのように再計算するのかという問題

ければなりません。つまり、マイナスの価

ません。同様に、市場価格も計算し直さな

産のシャドー価格を再計算しなければなり

一部がなくなってしまったら、皆さんの資

資本資産は破壊されます。皆さんの資産の

天災によって、たとえば地震によって、

益は上がります。環境問題に対応して研究

短くとると、環境的なコストのない方が利

となっています。しかしながら、時間軸を

たらすもとになって、利益を上げる推進力

です。ですが、そのような規制が革新をも

て、企業の行動が制約されているのは事実

本に関し、一つには所有ということ、一つ

いうことの評価をしていたのです。自然資

れぐらい人に対して投資をしてきたのかと

た。人的資本、教育や人材開発に企業がど

的な富と同じような考え方をとっていまし

発銀行と一緒に作業をしたのですが、包括

途上国の企業に投資をしているドイツの開

可能性があると考えています。たとえば、

業員の体制も違いますので、いまご質問に

うと思います。それによって株主に対する

に持続可能性を高めるということをしてい

オルソン スウェーデンにおいては、たと えば廃棄物に関していろいろな規制があっ

です。

46


る。こうした生命の進化の本質を一言で表すなら、 「生命の根幹となる

遺伝子の絶え間のないコピーの過程で生じるミスコピーすなわち突然異

から自由な人が、ミューテーションの確率が高く、創造性の高い人であ

す確率が高いことも、まあ、納得できる。天性の素質として知識の束縛

若さは創造性の必要条件ではない

変が、種の中に拡散し定着して生じる」ということであろう。

人の創造性をこの生命の進化に類推させると、その人が行う反芻的な

思考の中で生じる知識の突然異変、すなわちミューテーションが、保存

され他の人に広く拡散して人類共通の知識として定着することが創造性

知り合いの英国教授が久しぶりに来日した。せっかくの機会なので特

ることも疑いない。しかし、努力すれば必ず報われることを信じたい凡

怖にリンクする。大学人として研究をその生業にする私の存在基盤が頭

肉体の衰えは明らかであるが、これは頭脳の衰えに対する潜在的な恐

える。ミューテーションの確率の高い天才が、少ない努力で創造性を発

る。回数を稼ぐのに個人には限界があるが、人の数を増やせば回数も増

を重ねれば必ずミューテーションが生じ、生命は進化し、創造が行われ

東京大学生産技術研究所教授 (専門は都市・建築環境調整工学)

かとう しんすけ

の発揮となろう。反芻的な思考の中で行われる従来とは異なるミューテ

ーションが創造であり、このミューテーションの確率が高いことが創造

性の高さの条件である。反芻的な思考を行う際にミューテーションを容

易に行うことができる人が、創造をなす可能性の高いことはもちろんで

別講義をお願いした。彼は講義に先立ち、三〇年ほど前、同じように来

ある。知識の蓄積による束縛の少ない若い人がミューテーションを起こ

日して特別講義をした際に撮影した集合写真を聴衆に披露した。写真は

人としては、天性の素質がなくても、努力すれば凡人も創造性を獲得で

脳の働きにあることは疑いない。これを脅かす老いの衰えに、恐れを抱

揮するであろうが、凡人の集団も正しくチャレンジすれば必ず創造を勝

その発生確率と反復回数で決まる。たとえ発生確率が低くても反復回数

大事なことはミューテーションの総合的な回数でしょう? 回数は、

の主張を英国人の彼に納得していただけなかった点にある。

的な思考を数で稼ぐことのできる人は創造性が高い」という日本人の私

かみ合わなかった議論は「ミューテーションの確率が低くても、反復

きるという希望が欲しい。

彼と東京大学の縁を雄弁に語る。 三〇年も前の写真である。彼も私も実に若々しく輝いていて、現在の 水膨れした顔立ちや体型、勢いの失われた髪をいやが上にも思い起させ る。彼に他意のないことは明らかであるが、結構、残酷な写真である。 講義とは別に二人で、研究の思い出や取り留めのないよもやま話をし たが、私は年月がわれわれに課した無残な容姿の変化を口にできなかっ

くのはやむを得ないであろう。体の変化と同様に頭脳の柔軟さは失われ

ち取れる。凡人にもチャンスはあり、集団になればさらにチャンスは広

た。

てきているのであろうか。歳を重ねて知識は増大した。たぶんこの増加

それに加えて努力を重ねれば、大きな創造性を発揮するであろう。しか

がるはずである。若い人のミューテーションの確率は大きいであろう。

二人のよもやま話は、必然的に年齢に強く相関すると一般に思われて

し、老いてミューテーションの確率が低くなっても脇目も振らず努力し

加藤信介

連載 エッセイ

に反比例して、情報の処理速度は多少、遅くなった気がする。 いる「創造性」に向う。写真がもたらした副作用であろうか。

て反芻思考を繰り返せば、努力に比例して創造性は発揮できる。

私はこれからもそうした努力は重ねたい。 (『サステナ』第 号)

49

創造性を生物の進化に類推させることは良く行われる。生命の進化ほ ど自然がなす創造的な仕事はない。地球上に実に多様な生命が溢れてい

27


原 発

私ごときが言ってもしょうがないことなのであるが、どうしても書い ておかねば気が済まないことがある。

としたら、 「なんという無責任かつ勝手極まりない人間たちか」とあき れるだろう。

その時の電力会社の社員も、その時説明を聞いた地方都市の政治家た

ちも(それは「二〇%クラブ」という環境都市の集まりで、私はその取

材をしていた) 、ほんの五〇年後には生きていない可能性が高い。三〇

〇年後に生きている人なんて誰もいない。昨今の少子化で、そもそも三

〇〇年後に、日本人は、日本社会はどうなっているか、混とんとしてい

る。それなのに、 「三〇〇年間安全に保管・管理します」と言い切る人

に、科学的な想像力や責任感はあるのだろうか。私は、六ケ所村を訪問

いものを見て、とんでもない説明を電力会社の人間から聞いてしまった

森県の六ヶ所村の取材をしたことがあるのだが、その際私はとんでもな

きれば子供たちのために貯蓄をして財産を残そう、とするのが健全な市

その二〇万円でなんとかやりくりをして節約できるところは節約し、で

一家庭のことで想像してみると、毎月の収入が二〇万円だとしたら、

して、 「これは将来世代に対する犯罪だ」と心から恐ろしくなった。

のだ。それ以来、原発は私の心の中で常に将来に対する不安の種として

民ではないだろうか。原発を止めてはいけない、という人たちの主張は、

それは、原子力発電所のことである。以前、新聞記者だったころ、青

存在し続けてきた。 故が起きたのであった。あれほどの深刻な事故を起こせば、いかに電力

「原発の技術を絶やしてはいけない」という人もいる。しかし、これ

財産は将来の世代につけまわせ、と言っているのに等しい。

とにかく電気を使え、足りなきゃ原発作ればいい、核廃棄物という負の

会社、政治家といえども、もう原発はあってはならない、と身に染みて

まで原発のためにつぎ込んできた何兆円にものぼるお金を、再生可能エ

そして、二〇一一年三月一一日の東京電力福島第一原子力発電所の事

思うだろうと信じたのだが、どっこいそうは問屋が卸さない昨今の動き

ネルギーの開発に使っていたら、今頃日本はそれこそ世界にすばらしい

被災地から出た山のような核廃棄物をなんとかしようと、政府は唐突

技術力を示せていたかもしれない。

にまず関東地方の国有林に埋めようとしている。当然言われた方の自治

私が六ヶ所村の原子燃料サイクル施設を訪問したのは、一九九九年頃

である。 であった。広大な施設では、低レベル核廃棄物をドラム缶に詰め、それ

体はびっくり仰天、とんでもないことと断固拒否の姿勢だ。

社会がどんなに変わっても「誰かを不幸にして自分が幸せになること

を積み上げてコールタールで固め、黒い大きなピラミッドをいくつも地 ートルに埋めるのであるが、その説明をしてくれた北海道電力から出向

はできない」という真理は変わらないと私は思っている。これからは便

上に作っていた。高レベル核廃棄物はどうするかというと、地下数百メ していた社員の方は、 「この廃棄物はここで三〇〇年間安全に保管・管

利な生活を楽しむには、 「リスク」も必ず受け入れるべきだろう。つま

「三〇〇年間」という年月がいかに非現実的かは、今から三〇〇年前

棄物も町内の処理場で処理することを受け入れなければならない。それ

電気を使って楽しい生活をしたい市民は、原発もすぐ隣に建設し、核廃

工場の敷地内で安全に処分する、ということにするべきである。大量の

り、工場で大量の電気が必要であれば、原発は工場の隣に、核廃棄物は

理し、その後は公園などとして安全に使えます」と言ったのである。

をさかのぼって過去を考えればわかる。三〇〇年前といえば、徳川吉宗

千葉大学准教授 (専門はリスクコミュニケーション)

連載 エッセイ

戸髙恵美子

とだか えみこ

「三〇〇年間安全に保管・管理」? いったい誰が? どうやって?

の時代である。もしその頃一時的に良い生活をするために危険な廃棄物

でも、原発は必要と言うだろうか。

( 『サステナ』第 号)

を埋めていたとして、その後三〇〇年間も将来世代につけを回していた、

27

48


の 三 角 形」に ヒ ン ト を え て、調 理 に 関 す る 一 般 原 理 の 基 本 要 素 を、

系で、これを、 「料理の三角形」構造とよびました。玉村豊男は、 「料理

たつ食体系(思想)で、それを「和食」といってよいでしょう。

理は「点と線」の「間合」で、料理人と食人との共同作業で初めてなり

食文化を幾何学的に論じることが可能です。調理の軸を南北にとって、

西欧、とくにフランスの料理は、素材と味を、徹底的にばらし(微

配してみます。一方、 「食法」の視点からすると、 ( )味の調理は済ん

配し、北に《火にかけたもの》 、すなわち人が手をかけた「アート」を

南に《生もの》 、すなわち人がほとんど手のかけない「ネイチャー」を

分) 、ごちゃ混ぜにする(積分) 、いわば素材(自然)を徹底的に破壊し

る「料理の四面体」を提案しています。

( )火、 ( )空気、 ( )水、 ( )油とし、これらを四要素頂点とす 4

何」 (どちらかというと物理的)よりは「微分・積分」 (どちらかという

て、人工的な味を想像するという意味で、素材の原型をとどめる「幾

れる前に錬ったり、捏ねたり、巻いたり、混ぜたり、合わせたりで複雑

でいて口に入れるだけの単純化のカテゴリーを西に配し、 ( )口に入

にはフランス料理、北東コーナーには中華料理、南西コーナーにはアフ

それぞれのコーナーに代表する料理を配してみますと、北西コーナー

配してみます。

な調整が必要で、食し方が多彩であるような複雑化のカテゴリーを東に

米などで全体の四〇パーセント、 ( )箸食が中国、朝鮮半島、日本、

る直前に自ら調理するという性質から、 「巻食」のさらに原型といって

「手食」というのは、意外と複雑に味を合わせることが出来て、食べ

ン食がヨーロッパ、アメリカ、ロシアなど三〇パーセントといいます。

には、技術(アート)の限りを尽くして、天然(ネイチャー)を創造す

中華の位置に来てしまいますが、中華とは大きくかけ離れている。和食

の素材とみせながら技術の限りを尽くす(アート)です。そう考えると

ものを料理にする志向が強いので、一見よいような気もしますが、天然

ので、日本料理をいったん配してみます。日本料理は、天然の素材その

リカ料理を配することができると思います。南東コーナーが空いている

もよいと思います。インドネシアでは、米が主食ですから、皿に米と各

チキン、川魚といった副食を、手で捏ねて食べます。外国人と見ると、

ジャガイモ、ミレット、バナナといったデンプン質のペーストと煮豆、

になるような感じがします。アフリカでは手食が基本です。キャッサバ、

チャパティーで包んだりで、食べる直前の多様性は高いが、他の付け合

程度たもたれているし(南北の中心) 、 「手食」でカレーと米と錬ったり、

するらしく思われます。カレーで香辛料はたくさん使うが具の形はある

それはいったんおいて、インド料理は、東西線と南北線の交点に位置

わせが少ない(東西の中心)ので、中心に配しても良いでしょう。

では、日本料理の基盤は、南方系にあるのでしょうか? 「巻食」は

そうすると、これは、日本を除くと、世界地図の位置取りに似てきま

雲南やベトナムで多いので、照葉樹林の食文化なのでしょうか? B級

す。なお、かさなるので書きませんが、日本料理の位置に東南アジアの

高速流入も同時に行っているということで、そうすると、香りが口蓋に

日本食は指を外化した箸にほとんど特化しています。汁物もスプーン

広がり、味と香りを同時に味わうことができます。香りは熱いときほど

グルメは、インド料理の所に位置するような気がします。懐石料理は、

をつかわず、器に直接口をつけて食べるというか、すする。具を箸でつ

立ちやすく、熱物を唇ですすると、空気で冷ましながら、香りはほとん

中華料理の所に位置するような気もします。そうすると、南北線の東の

料理を配置しても良いかもしれません。

どそのまま立ってくる。すするというのは下品な食法でなく、実に高等

まむ。すするということは、唇の間を素早く通過させることで、空気の

手で捏ねる食べ方が、最高の食法です。

フォークとナイフが出るのですが、こんなもので食べると全く不味い。

種料理を取り合わせて、指で混ぜながら、捏ねながら食します。香辛料

るという、料理の絶対矛盾を含んでいるようで、定義が難しい。

台湾、ベトナムなど三〇パーセント、 ( )ナイフ、フォーク、スプー

2

が効いているので、混ぜることによって米に味が付き味自体がマイルド

3

2

イラク、トルコなど) 、インド亜大陸、東南アジア、オセアニア、中南

世界の食法として、 ( )手食がアフリカ大陸、西アジア(イラン、

と化学的)の思想に近いと思います。

1

( 『サステナ』第 号、第 号)

51

3

1

全領域を占めるのでしょうか?

北海道大学大学院教授 (専門は根圏環境制御学・植物栄養学)

2

技術ということになります。箸は「点と線の間」を繋ぐもので、日本料

大崎 満

おおさき みつる

1

26

27


食べ方による「間」の取り方として、究極は「巻 で 」 あると思いま す。各種の素材を自由に組み合わせて、例えば、海苔、ライスペーパー、

にフレンチが入り、東南アジアでも屈指の料理天国ですが、ライスペー

す。原始的で単純ですが実に美味い。ベトナムは、伝統の料理に、中華

食の幾何学

トルティーヤ、木の葉で巻いて、ほんの少しの調味料をつけて、自在に

味を自分でこしらえて食する、これぞ、最も原始的でしょうが最も自然 に近く、最も自由度の高い瞬間自作料理ともいえます。

ベトナムのハノイで晩餐に招待されました。地元の人が利用するベト

ナム料理屋で出たのは、たくさんの種類の葉と魚のそぼろ風肉とバナナ

の花とパイナップルの千切りとライスで、これらをライスペーパー(オ

ブラートを大きく厚くしたような物で無味無臭)で自分の好きなように 外国の旅から帰ると、早朝に成田に着くことが多いのですが、接続が

パー巻にすっかり魅了されました。

包んで、ニョクマム等数種類のタレを付け分けて食べます。これだけで 悪く、うんざりするほど間延びした時を過ごして、千歳空港に着くと昼

韓国の上田面村の近くにある、薬膳料理の農家レストランで昼食を取

どきになります。味の基調を、いつもラーメンをすすりながら取り戻し ていくのが習性となってしまいました。そしてきまってラーメンとは、

肉、赤カブの九種を配し、周りの九種の食材を薄い大根に載せて、巻い

りました。大皿の真ん中に発酵した大根の薄切りを置き、その周りにツ

ウイスキーは、起源を厳密に問わなければ、イギリスの酒といっても

て食べる九節坂がでました。さらに、二年漬けた白菜水キムチに豚肉蒸

ルニンジン、卵黄身、キノコ、朝鮮人参、キュウリ、人参、卵白身、牛

よいかもしれませんが、近年、ジャパニーズウイスキーは国際的な酒類

考えを入れて葉と根のバランスに配慮した、ポップジャン、桑実等四〇

(薬草に漬け、蓮の葉で包んで蒸す)を包んで食す。あるいは、陰陽の

何食なのであろうかと考えます。中国から帰ってきたときなどは、これ

コンペの賞を総なめしています。単独で味わう酒を越えて、料理と合わ

は絶対中華などではあり得ない、日本食であると確信するわけです。

せるところまで進化し、ほとんどイギリス系のウイスキーとは別の酒に

理は何でしょうか。日本酒にしてもワインより多様性があり、料理との

ギリスの料理のまずさと値段の高さとやたらと量の多いのには、いつも

食の陰陽五行とは、まさに 巻「」の食文化ではないでしょうか。 ヨーロッパでは、イタリアを別として、特に、フランス、ドイツ、イ

種類の野菜・果実の紫色のサラダをサンチューで包んで食す。韓国では、

相性の幅が大きく、それは「柔軟性に富み」 、 「よい意味での曖昧性」に

閉口します。ただ、五~六月にヨーロッパにいくと、ホワイトアスパラ

なったといってもよいかもしれません。

裏付けられているような、食・味文化の存在を想定することができます。

のシーズンで、これをただ茹でたものに絶対ソースやクリームを付けさ

ラーメンにしてもウイスキーにしても、日本食・日本酒化した基本原

味と素材の一瞬の出会いである「間」が、日本料理の重要な要素とい

材を生かすよりは素材を殺すヨーロッパの料理も、 巻「 食 」 を評価でき れば少しはまともな料理もできるのではないかとさえ思えます。

せないで、生ハムをたのんで、手で 巻「いて 食 」 べると絶品です。素

とすると、それにからむ味は 点「 (」液体といった空間的広がりのなか の味)で、口の中での「点」と「線」の一瞬の出会いを味わうのが日本

料理に共通する構造があることを明らかにしました。 《生もの》 、 《火に

ってもよいかもしれません。ラーメンでいうと麵を「線」 (食の素材)

料理の基本思想ではないでしょうか。 点「 と 」 線「 の 」 間「 と 」 いうこ とは、口の中に入るまで味はまだ確定したものではなく、食べ方一つ、

かけたもの》 、 《腐ったもの》のカテゴリーを頂点とする三角形をなす体

クロード・レヴィ=ストロースは、民話や伝承の解析から、世界中の

すすり方一つでも複雑に変化しうるものです。

連載 エッセイ

50


道志村懐古

この夏、山梨県の道志村を訪ねた。いまは横浜市の水源地として知ら

近道で、かつての鎌倉街道の支道ともいわれ、なるほど村には頼朝公に

まつわる景物や伝説が多い。江戸から明治にかけては塩や海産物の荷駄

の通り道、それに土産の木地・炭が出荷された。荷駄を引く馬子は、道

志の娘やおかみさんがあたりまえ。男は山仕事で出られない。絣の筒袖

に手甲脚絆、山中あたりまで往復一日仕事。女たちは喜んでこの仕事に

従事したという。舅姑から解放され、駄賃も入る。昭和になってからも、

村=水源地という認識しかなかったから、村の歴史を調べてみることも

こんな話しは行く前に聞いておくべきだった。私の頭の中では、道志

岳・御正体山など一〇〇〇メートルを超える山々に挟まれた谷あいの村

方まで講義風になった。要約しておくと、南は丹沢山塊、北も赤鞍ヶ

いて行ったこともあると。学生時代の思い出が急に蘇ったようで、話し

志村は山村調査の恰好の演習地で、ある時など山中湖からゼミ仲間と歩

を見てきただけ」と答えたが、その人がいうには、昭和四〇年頃まで道

写真を見た覚えがある。この祖母の昔話しに獅子頭の水道栓のことがあ

に、女中だよ」と云っていた。編み上げ靴に袴をはいて、洋傘を持った

当時としては変わった経歴を持つ。洋式作法の見習いといったが、 「な

私の祖母は、日露戦争のあと横浜の英国領事館でメードをしたという、

横浜市から寄贈されたその一つが、村役場のわきに飾られているという。

あった。それは、明治時代に横浜で使われていた獅子頭の水道栓である。

後になっていろいろ調べ、個人的に見ておかなければならないものが

山田利明

東洋大学教授 (専門は中国哲学)

やまだ としあき

道志の馬子は女が務めた。塩なら二俵、炭なら四、五俵を馬の背に振り

分にして、峠を越えた。冬の雪道や雨の泥濘には往生しただろうが、春

や秋の日にはのどかな行程だったに違いない。空荷の馬に乗り、饅頭な

んか食いながら、馬子唄が谷に響く。その馬子唄もきちんと残されてい

多く、それなら一度見ておこうというので、SSCの会合でよくお会い

なかった。村に行ってみると、伊藤堅吉の『道志七里』という大著があ

る。

する役場の諏訪本さんを煩わせてしまった。これはその報告ではなく余

れ、水質保全のための施策や、横浜市との提携などで話題となることが

談である。

で、東西に道志川が流れる。この川沿いに人家が点在して村を構成する

った。冬の朝早くに街角の水道栓から乱暴に水を汲む人がいる。溢れた

る、柳田国男の碑がある、聖徳太子や頼朝公もある。不思議に思ったが、

が、俗に道志七里といい、ほぼ三〇キロにおよぶ道志谷全体が一つの村

水が道路に流れ出て凍る。 「危なくて歩けやしない」 、というのである。

道志村から帰って二、三日あとで、知人の民俗学者に会うことがあっ

である。両側の急峻な谷のため、水田はごく僅かな棚田しかなく、米野

この話しを聞いたのは四〇年ほど前、大学生の頃であったからほとんど

知人の話を聞いて納得した。道志の一本道は、千年の歴史を持っていた

菜はようやく自家の用を満たすのみ。林業と盆や椀の木地作り、炭焼き

忘れかけていた。道志村から持ち帰った冊子に水道栓の写真が出ている

のである。

などが主な現金収入となる。およそ一村の男は、これらの仕事に何かし

た。挨拶がわりの話しの接ぎ穂で、道志の話しを出した途端、その人は

ら関わるという典型的な山村であった、というのが昭和三〇年代まで続

のを見て、それを思い出した。記憶の回路というのはどうなっているの

連載 エッセイ

俄かに色めき立って、何の調査をしたのかという。 「いや、ただ水と森

く。おそらく江戸時代からそれほど変わってはいないだろう、というの

か。全く思い出しもしなかったことが、僅かな刺激でよみがえってくる。

今度行った時には必ず見なければならない。 (『サステナ』第 号)

53

がその人の話し。話しはさらにさかのぼる。 もともとは、武州八王子あたりから山中湖・御殿場 (東海道)へ出る

26


残ったウシが何頭いるのか正確にはわかっていません。今年の夏の時

点で、囲い込んでいるのが四〇〇頭以上、外にいるのが約四〇〇頭とみ

数の動物が取り残されました。ペットの数は不明ですが、食用の家畜は

二〇一二年四月から順次見直し中) 。警戒区域には人間に飼われていた多

域に指定され、人の立ち入りが禁止されました(二〇一一年四月に指定、

福島第一原子力発電所の事故で、原発から半径二〇キロ圏内が警戒区

に協力しようといってくださる農家の方がたは、ウシを無駄死にさせた

研究目的によっては、ウシを殺すという選択もありえます。この研究会

ウシを決して殺してはいけないとする立場をとるものではありません。

ても無駄には殺したくないということです。私たちは、生き延びている

前にして、生きている間はウシのQOLを高めたいし、安楽殺するにし

無駄死にはさせたくない

られています。外に放たれたウシは、福島の厳しい冬を乗り切っただけ

これら警戒区域で生き続けているウシに対して、私たち研究者に何が

でなく、どうやら子どもを産んでいるようです。

できるのかを検討する一般社団法人「東京電力福島第一原子力発電所の

事故に関わる家畜と農地の管理研究会」を今年の九月に立ち上げました。

登録されているので、震災前(二〇一〇年八月)の数がわかっています。

くないが、食用にはならなくても研究に活かされるのならウシを死なせ

研究者として最も留意しているのは、ウシが生存しているという事実を

ウシが三三八五頭、ブタが三万一四八六頭、ニワトリが六三万三〇〇〇

ることも認めるといいます。家畜として飼育してきたのですから、何か

数のブタは飢え死にしたり、安楽殺されましたが、生き延びたブタが野

まれなくなって放したり、自分で逃げたりしました。その後、かなりの

ブタもやはりほとんどが死にましたが、三四〇〇頭が、飼い主がいたた

これ以上不幸なウシを増やさないためです。取り除いた精巣から、放射

す。岩手大学の岡田啓司准教授は去勢手術の陣頭指揮をとっています。

まうことです。逆に、冬を越して子どもをどんどん殖やされても困りま

非常に不幸なのは、放たれたウシが二回目の冬を越せずに餓死してし

の役に立たせたいのです。

生のイノシシのなかに入り込んで遺伝子の撹乱をおこしている疑いがあ

性物質の影響を調査します。

ニワトリはほぼ全滅しました。飢えと水が与えられなかったためです。

羽でした。

ります。また、学術研究用として二六頭が東大の附属牧場に移され、現

ときには、家畜伝染病予防法に基づいて流行域内の家畜は全頭殺処分と

いと飼育農家に依頼しました。二〇一〇年に宮崎県で発生した口蹄疫の

抑えるために、警戒区域のなかで生存しているウシを殺処分させてほし

頭を超えるウシが生き延びました。農林水産省と福島県は、風評被害を

に放たれ、一部に餌を与え続けた飼い主もいました。推測で、一〇〇〇

ウシは二〇〇〇頭以上が水や餌の欠乏で死にました。かなりの数が野

ことを防ぐために、農地とウシの管理を一体的に研究することが重要で

れないため、農地の雑草が茂って荒地になり、さらには森林化していく

に「家畜と農地の管理」とあるのは、警戒区域内には人間が日常的に入

究も東北大学の佐藤衆介教授を中心に始まっています。社団法人の名称

た、人から離れたウシがどのような行動をするのかというテーマでの研

いるのか、それがどのような影響を与えているのかを調べています。ま

彦教授らは、放射性物質がウシの体内のどのようなところに蓄積されて

幸な事故がおきた日本の研究者の責任であり、すでに北里大学の伊藤伸

この機会に放射線の影響をきちんと研究しておくことは、こうした不

なりましたが、放射性物質による汚染の場合は法律にもとづく処分では

東京農業大学教授 (専門はバイオセラピー)

連載 エッセイ

林 良博

はやし よしひろ

在も生きています。

ないために、飼育者の合意がなければ実施できません。安楽殺に応じた

あると考えているからです。

( 『サステナ』第 号)

のは、今年(二〇一二年)の四月時点で八四〇頭でした。

28

52


その際にどの災害が来るかを想定した上で 避難します。非常口を確認し、外に出て災 日本の事例から

気候変動への賢い適応

従来、日本の気候変動政策は、一九九八

地域社会がもつ伝統的知識や技術を重視す

対応から出発する。具体的な適応策では、

コミュニティや各家庭の現在のニーズへの

擾乱への耐力)の強化であり、そのために

社会のレジリエンス(回復力あるいは外的

型適応策である。このアプローチの目的は、

活用できるような構成としている。二○一

治体担当者が適応策の立案と実施に際して

に実際の試行を踏まえて作成しており、自

適応の方向性」に示された検討手順をもと

を作成した。ガイドラインは、 「気候変動

んで「地域適応策ガイドライン(仮称) 」

デルスタディを実施し、その事例を盛り込

二○一一年は、長野県における適応策モ

での取組事例の共有と交流会の開催等を実

年に制定された「地球温暖化対策の推進に

る点に特徴がある。

二年度には、ガイドラインを活用して、長

であった。一方、近年主張されているのが

また、 「その場所でどんな災害が起きる 関する法律(温暖化対策推進法) 」に代表

環境省(二○一○)は、国および地方公

施している。

のか?」については普段からきちんと学習 されるように緩和策に重点があった。しか

共団体の温暖化対策担当部局を主な対象に、

地域アプローチもしくはコミュニティ中心

しておく必要があります。最近はプレート し、 「温暖化対策基本法案」 (二○一○年閣

「賢い適応」が提唱され、その体制が整備

そして、適応策の立案、実施に向けて、

出した。

適応能力や抵抗力を高めていく方針を打ち

インフラやまちづくりなどを通じて地域の

や早期警報システムの整備、中長期的には

の両面から策定し、緊急にはモニタリング

の適応策の特徴的な動きといえよう。

て適応策の実装化を進めていることが日本

ルで政策と科学がリンクし、政府に先んじ

究等の成果を活用することで、自治体レベ

たかどうか事後には反省もします。

(たむら まこと)

境界型の大地震や津波など、注目が沿岸部 議決定、継続審議) 、二○一二年四月に改

野県以外にも地域特性の異なる複数の県で、

田村 誠

に行きがちですが、山間部でも、がけ崩れ、

各分野に共通する適応策の基本的な方向性

適応策の検討を行う予定である。S― 研

害に応じた避難所まで迅速に移動します。

地すべり、雪崩、土石流、さらには山体崩

訂された「第四次環境基本計画」において

を整理した。ここでは適応策を短期と長期

避難までの時間を測り、適切な避難ができ

壊といったものもあります。また、河川の

適応策が記述されるなど、その重要性が政

されている。賢い適応の基本理念は、次の

茨城大学地球変動適応科学研究機関准教授 (専門は環境政策論、環境経済学)

近くでは堤防の決壊や内水氾濫といった災

れ出し地下街や地下鉄を通って流れるとい

通りである。第一に、効果的、効率的、柔

いるが、将来には依然として不確実性が残

評価などの科学的知見は着実に蓄積されて

ォーラム」を設立した。本フォーラムは、

究」の地域班は二○一一年に「地域適応フ

化影響評価・適応政策に関する総合的研

こと、 ( )地方自治体では、先行して意

を踏まえた政策決定の方法が未開発である

候変動影響の将来予測結果にある不確実性

よって決壊した堤防から川の水が大量に流

長らく安全な暮らしに浸かっていると普

る。したがって、新たな科学的知見が得ら

策レベルで認識されつつある。

ったこともありえます。最近は首都圏で長

する側面も明らかになっている。 ( )気

段の生活が所与のものと錯覚してしまうこ

S― 研究の成果として提供される気候変

環境省環境研究総合推進費S― 「温暖

ともありますが、安全は多くの人の努力に

れれば随時適応策を見直す柔軟性が必要で

すが、直前に災害の兆候を察知するのが難

ます。天候変化は予想がつく場合もありま

こります。どこに行っても自然災害は起き

日本列島は地震に限らず、水害も多く起

進展しないからである。

社会的課題と軌を一にしない限り現実的に

安全・安心、少子高齢化など日本が抱える

は、気候変動の緩和のみならず、自然共生、

考慮して実施すること。気候変動への適応

ある。第二に、持続可能性、社会の福利を

関を主な対象とし、 ( )地域における適

の活動内容は、全国の地方自治体や研究機

進の普及を図ることを目的としている。そ

温暖化影響の把握および適応策の計画的推

ッシュ)を活用し、地方自治体等における

動の影響予測情報(空間精度:二○キロメ

施策が明確にされていないこと等があげら

が取られており、適応策として追加すべき

策と位置づけられないものの、すでに対策

高温障害や豪雨の増加等に対しては、適応

あること、 ( )現在発生している農業の

応策の導入は緩和策の推進を抑制する面が

欲的に緩和策に取り組んでおり、新たな適

2

しいことも多々あります。どの場所に行っ

強く感じました。

よって成立していることを今回の震災では

1

害が起こります。場所によっては大震災に

周期地震が起きると高層ビルと共振をおこ

軟に実施すること。気候変動の予測や影響

一方、地方自治体における適応策を阻害

す可能性が指摘されています。

8

てもそこで起きうる災害を想定し、主体的

チと地域アプローチの二つがある。一九九

適応策の立案、実施には、科学アプロー

営、 ( )温暖化影響・適応に関する地域

報プラットフォーム(WEBサイト)の運

タディの実践、 ( )温暖化影響・適応情

応策ガイドラインの作成と適応策モデルス

( )国の法律や国家戦略において地方自

解 不 足 等 に よ る も の で あ り、今 後 は、

ただし、これらの阻害要因は適応策の理 ( 『サステナ』第 号)

3

1

れる。

に避難できる準備をしておくことが重要な

○年代後半に提起された適応策の枠組みは、

3 科学アプローチに基づく政府主導型適応策

1

のではないでしょうか。

55

8 8

2 25


特集エッセイ

れは大きな地震が来たら津波が来るでしょ

たのか」と質問をしましたが、多くは「そ

人に「なぜすぐに津波を予想して逃げられ

そこで、すぐに津波を想起して避難された

だごとではないと感じて避難していました。

イレン、防災無線、フェリーの汽笛等でた

数で、多くの人は消防の避難警報や市のサ

えには頻度が大きく関係する、そう考えら

乱をきたします。来る自然事象に対する備

降っても大雪という扱いになり、交通は混

全ではなく、三センチメートル程度の雪が

太平洋側は普段は雪が少ないので準備は十

四輪駆動であることも多いです。一方で、

ります。また、車はスノータイヤを装備し、

プや融雪溝が設置されている場所が多くあ

(たばやし ゆう)

茨城大学地球変動適応科学研究機関研究員 (専門は水環境学)

田林 雄

茨城県津波避難の聞取り調査から

昨年三月一一日の大地震の後、茨城大学

う」といった回答で、迅速な避難を決定し

れます。

自然災害時の 迅速な避難のために

はすぐに調査を開始しました。茨城大学東

た要因には辿りつけずにいました。また、

関心は「迅速な避難を促したのは何だった

や博物館、一般の民家等でした。私たちの

城において一三件行いました。対象は旅館

人の割合を高めていく必要があります。

ありますし、今後は迅速に避難を開始する

っと早く津波が沿岸部に到達する可能性も

に避難していました。震源域によってはも

から、半分以上の人が最初の津波の到達前

が到着したのが地震から約三〇分後でした

開始した人は四五%でした。茨城県に津波

六六%でした。また、二〇分以内に避難を

ら三〇分以内に避難を開始した人は全体の

では、二三五人に聞いた結果、地震発生か

茨城の沿岸域で得られたアンケート調査

いくつか記したいと思います。

実施した聞き取りから感じたことについて

災報告書や他稿に譲るとして、震災調査で

いと思います。科学的な考察は茨城大学震

このような総合的な調査は全国的にも珍し

害とそれからの避難に関して非常に重要な

がどの程度の頻度で起きるのか?」は、災

「人間の時間感覚に照らして、ある事象

割)が難を逃れています。

め に、停 泊 し て あ っ た 六 〇 ~ 七 〇 艘(八

避難しています。他の漁船も同様にしたた

震発生の数十分後には船を沖合まで出して

響を考えて、自動車で漁港まで向かい、地

たある漁師は、大きく揺れた瞬間に波の影

ン未満の船でとっています。聞き取りをし

漁法でシラス、オキアミ、コウナゴを五ト

師の行動です。大洗港ではフナビキという

聞き取りの中で、印象的であったのは漁

いと考え、避難が遅れた例もありました。

家に水が浸水してくるまで避難の必要はな

一方で、さして影響のなかった人は今回、

れていた人は今回の地震でも早く避難した

の際に津波の影響が大きかった場所に住ま

たのではないかと予想しました。チリ地震

たかどうかが今回の津波避難に影響を与え

と考えて、一九六〇年のチリ地震を経験し

たとしましょう。まずは、夕食を採る前に

えば、出張の際に仕事の前日に現地入りし

リハーサルを行うことが挙げられます。例

害を自分のこととして考えた上で、避難の

とれるでしょうか? そのヒントとして災

せん。どうすれば、災害時に適切な行動が

大な地震や災害はそう頻度高くは起こりま

とここまで考えてきましたが、実際には巨

象への対策が適切に実施できるようになる、

さて、多くの経験を重ねることで自然現

上がっていたのではないかと予想できます。

はこの程度の波が来る」という尺度が出来

として「この程度揺れると、漁港の湾内で

めに船の確認に漁港に向かう。そこで感覚

打ち付けられたりして破損するのを防ぐた

もしています。わずかな津波でも船が港に

発表されます。漁師はこうした経験を幾度

メートルとか三〇センチメートルの津波が

岸部で地震があると、しばしば一〇センチ

のような大津波は通常はありませんが、沿

難行動がとれたのだと推察されます。今回

察・体験していたために、地震の直後に避

漁師は普段から海の挙動をつぶさに観

日 本 大 震 災 調 査 チ ー ム は 理 学・工 学・農

のか?」であったので、これに関する質問

条件だと考えられます。例えば、日本海側

戸外に避難する訓練をひとりで行います。

学・教育・人文の全ての学部から構成され、 「震災前の津波体験が迅速な避難を促す」

を数多くしました。地震がきた瞬間に津波

の都市は冬季に降雪が多いので、融雪パイ

聞取り調査は茨城県の大洗で四件、北茨

を想起して高台への避難を開始した人は少

54


RIDGE研究プロジェクト「地域連携で 生み出すいばらきエコ・ネットワークによ るまちづくり」での研究と実践活動の蓄積 を組織形成へ積極的に活用してきた。 現在、地域での実践の創出を広げる地域 チャレンジプロジェクトや地域の主体形成

(かとう さだひさ)

IPCC第五次評価報告書が 作られていく現場から 加藤禎久 IPCCチャプターサイエンティスト 茨城大学地球変動適応科学研究機関共同研究員 (専門は緑地・環境計画学、景観デザイン)

(アメリカ海洋大気庁) Roger Pulwarty で、ほかの執筆者の所属国はカメルーン、

は 三 村 信 男 教 授(I C A S 機 関 長)と

変動適応計画と実施についての章のCLA

える。

適応計画を実現させるチャンスがあるとい

に参加させることで実施を成功に導き、適

をもたらすような場合や、指導者を積極的

AR 第二作業部会報告書執筆過程で第

応力を高めることにつながるような場合に

中国、エジプト、メキシコ、アメリカ、ベ トナムである。

適応策についての必要性や選択肢、論理的

適応策( adaptation )を総合的かつ横断的 に取り扱う章のひとつである。この四章で、

成り立っており、私の担当の章は四章ある

連するテーマを扱う章の会合などが開かれ

ここでは総会と各章ごとの執筆者会合、関

シスコで開かれ、参加してきた(第一回会

二回執筆者会合が昨年一二月にサンフラン

地球変動適応科学研究機関(ICAS)で

た。AR 第二作業部会報告書は二回の査

AR 第二作業部会報告書は三〇章から

共同研究員として勤務している。

枠組み、適応計画と実施の現状分析、適応

読を受け、二〇一四年三月に完成予定であ

これらの活動を積み上げることで、ノウ

合は昨年一月に筑波で開催されている) 。

IPCCは一九八八年に設立され、これ

策の課題と問題点、または好機、適応策に

る。

を通じて、 REN-i の体制整備を進めている。 私は昨年九月から「気候変動に関する政 府間パネル」 (IPCC)のチャプターサ 今 後 も、地 域 と 連 携 し た 積 極 的 な 研 究・ イエンティストとして採用され、茨城大学

ハウを積み上げ、将来的には地域の実情に

までに四回、気候変動(温暖化)に関する

取り組む経済的仕組みなどのテーマを取り

これまでAR に関わってきた中で、ど

二作業部会は影響・適応・脆弱性を、そし

第一作業部会は自然科学的根拠を扱い、第

その内容ごとに三つの作業部会が存在する。

てられ実施されつつあるが、実施された結

る。私の章に関しては、適応計画は多く立

これまで以上に重視される分野の一つであ

適応策は、AR 第二作業部会報告書で

割はそれについていく、二割の人間はほと

性があり、プロジェクトを成功に導く、六

の法則とは、組織の構成人員の二割は積極

中から選ばれる。チャプターサイエンティ

男女的偏りがないよう、世界中の専門家の

R の執筆者は八〇〇人を超え、地域的・

と実施」についての章を担当している。A

私は第二作業部会の「気候変動適応計画

を行い、それぞれが報告書、技術要約とS

)を取り扱う。それぞれの作業部会 gation はそれぞれ連携しつつも独立して執筆作業

る 異 な る 時・空 間 ス ケ ー ル、行 政 間 の 連

多の問題が存在する。適応計画が実施され

資金面などで克服されなければならない幾

必要な技術、指導力、サポートする体制、

いる。また、適応計画を実施するにあたり、

指標もまちまちであることが分かってきて

などの問題点がある) 、評価する枠組みや

の結果だけを分離して評価するのが困難、

まり年数が経っていない、適応策について

査読論文がまだ少なく(実施されてまだあ

ていたり、また逆に文献リストには載って

りや年号の間違い、文献がリストから抜け

出される原稿は文献の穴が多く、名前の綴

私の主要な仕事の一つだが、執筆者から提

二〇〇を超える文献の整合性のチェックは

間のかかる修正作業も含まれる。例えば、

部分を完成させることになる。これには時

結局二割の人間が図表も含めた報告書の大

で執筆者が分担して書いているとはいえ、

見られ、最終的な報告書は、それぞれの章

のだが、この集まりでも同じような傾向が

執筆者の多くは国際的に著名な研究者な

ストとしての私の業務は、担当章の調整執

携・調整もまだ十分とはいえない。反面、

PMを作成する。

筆者(CLA)を補佐し、章の取りまとめ

適応計画を実施することが複数のメリット

て第三作業部会は気候変動の緩和策( miti-

んど貢献しないというものである。

R 作成の過程でも見られた。二対六対二

の組織でも見られる二対六対二の法則がA

5

をすることである。文章や参照文献の編集

5

ー普及の土台作りを進めていく予定である。

合わせた適切な支援を実現できるような頼

扱う。特にAR 以降の最新の知見を中心

( 『サステナ』第 号)

に取りまとめ、分析する。

5 果についての評価やその有効性についての

第五次評価報告書(AR )の作成には

科学的・技術的・社会経済的知見を集約し

活動を実践しながら茨城県の自然エネルギ

5

た評価報告書を発表している。

5

れる組織を茨城県に構築できればと考えて いる。

4

5

5

作業、執筆者間の連絡が主な業務だ。気候

57

5

25

いばらき自然エネルギーネットワークの概念図.


いばらき自然エネルギー ネットワークが発足しました (しまだ さとる)

誕生の発端は、二〇一一年三月一 REN-i 一日の東日本大震災である。震災後の四月

域ではじめての試みである。

動の核の育成に力を注いだ。

ーを開催し、参加者と交流を深めながら活

に東京ガス日立支店の協力による再生可能

する組織を立ち上げない?」と電話がかか

さん、一緒に、茨城で自然エネルギーに関

然エネルギーネットワーク」準備会には、

に開催した第〇回目の「 (仮)いばらき自

こうした努力もあって、二〇一一年七月

エネルギーの実証研究施設の見学バスツア

の終わりに、小林久農学部教授から「島田

ってきた。まもなく田村誠ICAS准教授

ではない。賢い適応のためには、科学アプ

続可能な社会形成に自動的につながるわけ

目前の課題の解決が長期的にみて安全で持

動適応に合致しない場合も出てくる。また、

現実のニーズへの対応が優先され、気候変

ローチは地域の住民の理解を得やすい反面、

るというジレンマに陥る。一方、地域アプ

政策立案に関してより高い能力を必要とす

機関(ICAS)が、そのとりまとめの中

ることを期待している。 REN-i の発足にあ たっては、茨城大学地球変動適応科学研究

携し、助け合うことで、交流と活動が広が

広がるさまざまな活動がネットワークで連

本大震災を契機に活動が開始した。県内に

人々をネットワークで結ぶ取組みで、東日

ルギーと省エネルギーに関わるさまざまな

)iが 発 足 し た。 REN-i は、持 続 可 能 で 逞 しい地域づくりに取り組む県内の自然エネ

動推進員、再生可能エネルギー事業に取り

に取り組む団体、茨城県地球温暖化防止活

県内で省エネルギーや地球温暖化防止活動

バイオマスタウン構想を作成した自治体、

ステナ・ワークショップの参加者、県内で

二〇〇八年からICASで開始した地域サ

とを決めた。メンバー集めにあたっては、

け、少しずつ、発足メンバー集めていくこ

ら、学内、知り合い、自治体などに声をか

ミナー(勉強会) ・準備会を積み上げなが

では、二〇一一年度内の発足を目標に、セ

持ち、五月から準備を始めた。打ち合わせ

加者自らがそれぞれの活動を紹介する場を

やバスツアーを企画したり、セミナーで参

期待している。一緒に何かを学ぶセミナー

地域、社会が一歩一歩変わっていくことを

びと実践を通して、仲間が増え、暮らし、

(やってみること、創ること) 」である。学

で 用 い て い る 実 践 的 な 手 法 は、 REN-i 「知(知ること) ・連(連携すること) ・創

ることができた。

団体数二八)という規模にまで組織を広げ

現在で会員数一二九名(うち市町村数一二、

立総会では七六名、さらに二〇一二年五月

加者を徐々に増やし、二〇一二年三月の設

ズを把握したうえで、短期と長期の両面か

限り、現実的ではない。地域の実情やニー

の課題の解決と強く結びついたものでない

っている。温暖化対策は、これら日本固有

現し、持続可能な地域づくりを推進する」

及・利活用を通じて、逞しい地域社会を実

対する関心と理解を開拓し、これらの普

ける自然エネルギーおよび省エネルギーに

本ネットワークの目的は、 「茨城県にお

づくりを支えた。

AS事務補佐員が大きな役割を果たし組織

デザインでは、安田真由美、四戸未来IC

備会の事務窓口、ポスター、ロゴマークの

ワークが大きな役割を果たした。また、準

教員や学内産学官連携機関等の人的ネット

連絡調整を図ってもらうなどICAS関係

備を行ってきた。また、ネットワークの構

は発足まもない団体だが、上述の REN-i 通り、発足に至るまでには約一〇カ月の準

られた使命の一つである。

クを充実させていくことが

したエコ・コミュニティとしてネットワー

戦することで仲間と絆を育て、しっかりと

56

治体における適応計画の位置づけの確保、 べき適応策の枠組みの明確化、 ( )地域

( )モデルスタディによる地域で実施す

島田 敏 茨城大学地球変動適応科学研究機関地域コーディネー ター/いばらき自然エネルギーネットワーク事務局長

二〇一二年三月一六日、茨城県に「いば

ローチの長期目標に向かう指向性と地域ア

心となって活動を行ってきた。

組む県内企業、エネルギー事業者等に声を

設けたりしているのは、 「知・連・創」の

四〇名程の参加者が集まった。その後、参

プローチの現実に即した取り組みをいかに

の参加者は、茨城県内で自然エネ REN-i ルギーや省エネルギーに取り組む自治体、

かけた。このプロセスでは、県内の自然エ

実践である。

らき自然エネルギーネットワーク」 ( REN- に加わってもらい第一回目の打ち合わせを

組み合わせるかに鍵があると言える。

企業、市民団体、教育研究機関、公益法人、

ネルギーに関する調査をされた原口弥生人

らモニタリング、予測といった科学アプロ

( REN-i 規約)ことである。 自然エネルギーと省エネルギーの普及を

築手法や活動の育て方については、二〇〇

日本は、世界に先駆けて急速な人口減少、 高齢化社会を迎える。二○一一年の東日本

市民などさまざまな関係者である。組織形

ーチと自治体レベルでの行動計画策定など

セミナーおよび準備会は、二〇一二年三

知見や実践を、共有し、実際に何かに挑 態は、任意団体である。

の地域アプローチをパッケージ化し、賢い

同時に行うマルチステークホルダーによる 25

に与え REN-i

適応を推進していくことが求められる。

八年から進めてきた地域サステナやW― B ( 『サステナ』第 号)

月の発足までに合計四回実施された。さら

共助・協働の全県的組織の発足は、茨城県

文学部准教授に県内の風力発電事業者との

大震災を契機に、防潮堤などのインフラの

主流化」であるが、主流化を望めば予測や

!!

整備や新たなまちづくりが急務の課題とな

長期的開発計画の中に組み込む「適応策の

科学アプローチの最終形は、適応策を中

ことが期待されている。

の提供等により、地域の取組みが加速する

のニーズを踏まえた科学的知見や研究成果

3

2


には浄化槽の取り付けが義務化されている

の建築がラッシュで、それらのトイレ排水

く。バンコク近郊では分譲住宅やアパート

タイの浄化槽製造業界が元気がよいと聞

ろ種々の貯留容器、椅子やテーブル、道路

では、浄化槽は主たる製品ではなく、むし

て成功しているようだ。こうしたメーカー

カーが浄化槽製造に参入し、ビジネスとし

う。タイにおいても、まずはこうしたメー

なメーカーが、その候補企業にあげられよ

ポリエチレンなどの樹脂加工の経験が豊富

備と技術がなければならない。したがって、

浄化槽メーカーには、躯体を製造できる設

社の持つ特徴の違いに気がついた。まずは、

いくつかタイの工場をまわるうちに、会

る。これらの指摘が、製造プロセスにフィ

すい構造への改善案などの指摘が可能にな

の構造の不備の指摘や、より維持管理しや

①~③を有することによって、現場から

十分に清澄な処理水が得られるのである。

持ち、良好な維持管理によって、はじめて

化槽だけでなく、技術で保障された構造を

優れており好ましいと思う。形としての浄

視点では、①~③のすべてを有することが、

テゴライズできるようだ。技術屋としての

能力、といった順に高度化されているとカ

雑排水をあわせて処理)であった。現在の

つの事実は、浄化槽の合併処理化(し尿と

我が国が一九八〇年代に選択したもう一

らを選択するのかという時期が、いずれの

善となることも間違いない。そこで、どち

能力の向上は明白で、生活環境の大幅な改

違いない。しかしながら、それによる浄化

がって地球環境への負荷が上がることは間

っ気することは、電力も消費するし、した

ベトナムがこの次あたりかも知れない。ば

可能になったと考えている。マレーシア、

タイの浄化槽から考えたこと

からだそうだ。確かに街を車で走っていて

ードバックされることにより、サステイナ

タイが直面しているような、生活雑排水に

立命館大学理工学部教授 (専門は、水環境工学、水処理工学)

(なかじま じゅん)

も、球形のタイ製浄化槽を店頭でみかける

工事用標識、大型玩具など、様々なプラス

ブルな浄化槽システムが築かれてゆくこと

中島 淳

ことが多い。ただし、我が国の一九八〇年 ティック製品を成型生産している。

国でも必ず訪れよう。

代と同様に、トイレ以外の家庭雑排水は無

よる河川水質の汚濁を改善するために、自

治体や厚生省 (当時)が、その推進に取り

を期待している。 さて、我が国は浄化槽先進国である。世

一方で、水質浄化の技術を得意とする浄 化槽メーカーも活躍している。環境工学を

組んだ。汚濁河川を抱えた自治体では、と

処理放流であるから、都市河川や運河の有

界中で使われている腐敗槽(セプティック

機汚濁は、今後より深刻となろう。

学んだ技術者を有し、十分な設計能力も持

しかし、タイをはじめこれから生活排水

このところ、バンコク近郊の浄化槽メー

対策を、より具体化しようとする国々では、

くに重点課題にされた。その選択は決して

必ずしも我が国の一九八〇年代の選択を最

誤りではなかったであろう。 などのばっ気をしない好気処理もめざした

善と考える必要はない。合併処理浄化槽の

タンク)と違って、好気性プロセスの入っ

が、あまり成功しなかった。一九八〇年代

た処理を有する点が、我が国の浄化槽の特

さらに感心したのは、浄化槽やその他環

以降は、ブロワによるばっ気方式が主流に

普及は、我が国の環境行政の成功例の一つ

っていると見受けられた。海外の経験も学

境設備の維持管理の重要さを認識している

なる。したがって、電力を必要とするのだ

だが、生活排水を再生・再利用の観点から

習しているので、水処理の技術面について

会社があることだ。工場排水などの水処理

が、家庭用浄化槽の電力消費量は白熱電灯

見直せば、合併せずに分別した扱いが有利

カーを、いくつか訪問させてもらった。工

を設計して施工し、さらに運転管理してい

なみで、決して大きくない。機械的なポン

になる可能性も否定できない。

場の敷地には、製品がずらっと並べられて

るという。その一環として浄化槽の製造を

プを使わない構造を開発したことによる優

徴である。かつては、散布ろ床や平面酸化

行っている。浄化槽の技術的な信頼度に加

は信頼度が高いといえる。

えて、設置後の維持管理技術についても、

れた成果である。

ーは、①躯体を製造できる能力、②構造を

以上をまとめると、タイの浄化槽メーカ

て、会社の戦略を考えているようだった。

までを含めた総合的なビジネスとして捉え

後の施設を、自社で維持管理してゆくこと

中国とタイでは、ばっ気型の導入は、ほぼ

カの下水技術者は言う。アジアでは、韓国、

もとても導入は難しいと、アジアやアフリ

い。浄化槽は電力を必要とするから、とて

型下水処理にまだまだ電力を使いたがらな

とはいっても、途上国においては、分散

リンなど肥料成分ほか)も、貴重な資源な

といわれる有機物(エネルギー) 、窒素・

さらに言えば、排水に含まれる物質(汚れ

排水であると同時にまだまだ水資源なのだ。

方ではないだろうか。家庭で使用した水は、

い国・地域では、ますます必要になる考え

それは、我が国と比較して降雨量が少な

一定の水準を有するものと推察した。設置

設計できる能力、③機能を維持管理できる

59

おり、出荷を待っている。なるほど、活気 が感じられ景気はよさそうだ。

タイの浄化槽メーカーの工場敷地内には、成形された タンクがびっしりと並べられている.


がどんな選択をしているのか今までよりも

伝搬していき、これらのサイトから、友達

持続可能な未来への メディア・トレンド

ートフォンのようなモバイルデバイスを通 わってくる。

じて、このような情報がほとんど瞬時に伝

っとよく知ることができる。さらに、スマ

フランク・ヒロシ・リング ( Frank H. Ling )

茨城大学地球変動適応科学研究機関研究員 (専門は気候変動適応策研究/化学)

会のあり方が、サステイナビリティを推進

例えば、SNS上に作られているゲーム

25

チャプター会議の模様.筆者の席はどこでしょう?

これからのメディア・トレンドのイメージ.

( 『サステナ』第 号)

58

いても本文中に記載がないものもある。こ れらの文献をひとつひとつ確認して正確な 情報を集めるという緻密で時間のかかる作 業なのだ。最新の知見の整理という報告書 の性格上、参照文献の質と量によって結論 が左右される。執筆者には自覚と責任を促

していく原動力になるとすると、消費者が

では、このような技術の進歩は、持続可

人や組織レベルで意識と行動を変化させて

サステイナビリティに貢献する選択を促す

温室効果ガスを削減して地球温暖化を防

したい。

いくことが根本的に必要である。最近のテ

ことが決定的に必要である。SNSのトレ

能な未来とどのような関係があるのだろう

影響は不均等で、レジリエンス(弾力的回 クノロジーのトレンドに注目すると、持続

ンドを見ると、正しいフレームワークさえ

止し、持続可能な未来を作っていくために

復力)の低い発展途上国、同じ国の中でも 可能な未来を推進していくには「どうテク

気候変動は生物多様性と並び二一世紀の

政治・経済的弱者に、より悪影響を及ぼす。

ノロジーをデザインするべきか」という点

か? 多くの先進工業国で消費者中心の社

先進国の日本、特に戦後の経済発展を享受

あれば、前述のテクノロジーによって、燃

は、技術の開発や普及だけでなく、個人個

してきた団塊ジュニア世代の私の果たす責 がヒントになることがわかる。

人類の重要な研究課題である。そしてその

務は大きいと考える。持てる能力・知識を

を使って、ユーザーに環境負荷の少ない選

料消費量や環境汚染物質の削減といったサ

トワーキングサービス(SNS)の広がり

択(例えば、カーボンフットプリントが小

ステイナビリティの多くのゴールに貢献す

によって、お互いの連絡手段や、物事の選

さい選択)をするモチベーションを与えら

都市に住んでいるほとんどの人は、デジ

択方法が根本的に変わった。われわれは、

れるかもれしない。ゲームは、ポイント制

タルツールを利用してコミュニケーション

個人で所有するハードウェアや、SNSの

にして、フットプリントを低く抑えたり、

水・健康やその他の指標・サステイナビリ

( 『サステナ』第 号)

ようなウェブ上ソフトウェアなどの新しい

環境への負荷を小さくした時にポイントを

ティ評価にも適用できる。最終的には、こ

より良いAR 作成のために発揮していき

テクノロジーが人々の日常の大きな一部に

獲得できるようにするということもできる。

る選択を、消費者はとることができると示

なり、コンピューターと情報によって物事

このようなことが、ソーシャルネットワー

を取る機会が多いだろう。最近は、モバイ

たい。

が動かされていくという新しい世界の過渡

のようなツールは個人レベルの選択にとど

唆される。

期の始まりにいるにすぎない。

クでつながる人々の間で、環境にやさしい

まらず、ビジネスや組織が選択をするとき

あるマーケティングのデータ( Gartner,

に役に立っていくだろう。 は、温室効果ガスに限られるわけでなく、

(翻訳:峰島知芳(東京農工大助教) )

選択をする大きなモチベーションになりえ )は、消費者の決断の七四%が家族、 2010 友達、知り合いの影響を受けていることを

示 唆 し て い る。 Facebook 、 Mixi 、 TwitのようなSNSを通して人々の選択は ter

25

フットプリントによる環境への影響評価

る。

ル・コンピューティングとソーシャルネッ

5


は先進国と途上国との関係調整なくしては

が世界的な関心を集めているが、この問題

るといえる。現在、地球的規模の環境問題

係〉に着目した研究は、相対的に遅れてい

きた。それに対して、主体と環境系の〈関

ば、年間に一三八万キロリットルの重油が

ラムをすべてハウス栽培でつくったとすれ

人年間あたりのトマト消費量八・九キログ

エネルギーが必要になる。この条件で、一

一七六キロカロリーに比べて一〇倍ほどの

九四九キロカロリーとなり、露地栽培の一

をつくるのに、ハウス栽培の場合は一万一

日本初の本格的な国際大学です。APUが

校法人立命館が二〇〇〇年四月に設立した

立命館アジア太平洋大学(APU)は学

展することで観光客の増加が竹産業のさら

「温泉」が有名になって観光名所として発

た。そして、江戸時代になり別府における

竹が工芸品などの産業として成り立ちまし

考えられています。室町時代から本格的に

竹は、昔より建材、農具、工芸品、食材

解決できない。 使用されることになる。しかし、半数が露

立地している大分県の別府市では、別府温

なる発展に貢献しました。温泉観光で滞在

に欠かせない有益な存在でした。別府にお

ける「竹」と人間の関わりは最初に生活用

一方、日本の一年間分のレジ袋は、資源

はマダケであり、大分県はマダケの竹林面

だけでなく、 「お土産」という観点からも

している人々のその場の生活で利用された

品から始まり、次に工芸品に変化をしたと

採取・樹脂製造に五六・八ギガジュール、

積や素材(竹材生産量)とも全国一位で、

竹産業は発展しました。

立命館アジア太平洋大学アジア太平洋学部助教 (専門は土木環境システム)

や飼料として幅広く利用され、人々の生活

地球は有限であるため、インプットを大

泉が全国的知られていますが、もう一つの

サステイナビリティと竹

きくして、生産や消費に過度に資源を消費 地栽培でつくられたとすれば、七〇万キロ

名物は別府竹細工です。主に使用されるの

( Qian Xuepeng )

すること自体サステイナブルでなくなる。 リットル弱の重油ですむ。

ブルではないのである。私たちはインプッ

レジ袋製造に六・三ギガジュール、分別回

そのシェアが約四〇%を占めています。

物質も増加が見込まれることもサステイナ

銭 学鵬

それとともに、廃棄物、CO 排出や有害

トとアウトプットという二重の制約のなか

収に〇・一八ギガジュール、焼却処理(電

明治時代に入り生活用品やお土産品だけ

力回収)に一一・三ギガジュール(この部

小さくするか、GDPそのものを減らすか

するか、GDPに占める物の消費の割合を

物を消費するなかで廃棄物の発生を少なく

の発生量をマイナスに変化させるためには、

ルギー約四億キロリットルの約〇・一%に

退したという条件であり、日本の最終エネ

要になる。これは、レジ袋すべてを皆が辞

ールつまり四二万キロリットルの重油が必

ルが必要になり、全体で五二・一ギガジュ

なる) 、焼却灰埋立に〇・一三ギガジュー

分は全体を合計するに際してはマイナスに

た調和社会構築の戦略的イノベーションプ

と連携して二〇〇八年から実施を始めてい

ィ学研究センターが浙江大学および湖州市

きっかけとして、立命館サステイナビリテ

いて調べ始めました。それと、もう一つの

うと考え、竹に着目し、特に竹の利用につ

「 think globally, act locally 」に し た が っ て、地域に密着した環境関連の研究をしよ

年には「バンブーハット」の生産も行われ

立するなどして発展の道を探り、一九五〇

産業は、一九三七年に竹組工輸出組合を設

校)を作りました。

が共同で学校(現在の大分県立大分工業高

後継者を育成するために、別府と浜脇の町

私 は 二 〇 一 〇 年 四 月 A P U に 来 て、

いま廃棄物のほうを考えみよう。廃棄物

で生きていかなければならないのである。

しかし、GDPは小さくしたくない。成

ロジェクトのなかに取り入れられた竹林総

ました。しかし、昭和中盤における「プラ

でなく、 「工芸品」として高い技術が要求

長は続けたい。とすれば、結局のところ、

なる。もし、レジ袋辞退率が二〇%(二〇

合利活用プロジェクトがありました。プロ

辞退をするなと言っているのではない。よ

ておきたいことがある。それは、レジ袋の

選択が良いのかがわかる。ここで一言いっ

この二つの試算を比較すれば、どちらの

を検討することに集中されましたが、この

ン開発メカニズム(CDM)認定の可能性

竹林の炭素固定効果の調査をして、クリー

産業が形成されています。当時の研究は、

中国の十大竹郷の一つであり、大規模な竹

竹の新しい利用法が続々開発されています。

のポテンシャリティに注目が集まっており、

最近では持続可能な資源としての「竹」

産業に大きな打撃となりました。

うに、一九七一年の「ドルショック」が竹

は打撃を受け、さらに追い打ちを掛けるよ

スチック」という素材の台頭により竹産業

新たな素材が誕生する一方で、別府の竹

三五)年には、その高度な技術を発展させ、

される域まで達しました。一九八二 (明治

廃棄物の発生の少ない物を消費するか物の

〇七年三月現在では一四%)なら、〇・〇

ジェクトの対象地域である湖州市安吉県は

をしなければならない。

消費を減らすしかない。これば簡単なよう

二%の削減になる。

トマトの生産はハウス栽培と露地栽培と

く物事を見極めて選択してほしいというこ

地のさまざまな竹製品の魅力に惹かれまし

今、レジ袋の辞退と、地産地消で露地で

ある。ハウス栽培は温室やビニールハウス

とである。見える化をしっかりとやる必要

た。

で結構難しいのである。

を作り、重油で暖かくしなければならない。

があるということである。

二つを考えてみよう。

できたトマトを買うことでのCO 発生の

一方、露地栽培はこのような施設やエネル

( 『サステナ』第 号) 28

2

ギーは不要である。一キログラムのトマト

61

2


(おばた のりお)

複雑で多様な 環境をみる目を持とう 小幡範雄

向性となると、多くの課題があることも事 実である。つまり、生態と経済はともにオ イコスを語源にしており、システム境界内 では、ともに類似した方法論、概念を用い ているが、経済システムから見ればその境

いくつかの魅力的な提案が報告されている。

されていたし、今日でもその利用について、

の高いし尿は、かつては分別収集・再利用

生・再利用が効果的である。肥料成分濃度

度は低いが水量が多い排水では、水の再

的・統合的な見方や視点が欠如し、人間が

見ることになる。現在、環境に対して総合

ばするほど、人間と環境のある側面だけを

理学など、さまざまにある。専門分化すれ

生態学、環境倫理学、環境経営学、応用地

済学、環境社会学、環境政治学、環境工学、

環境を対象とした学問や知識は、環境経

デルを提案してきた。図において、リンク

その枠組みとして、図に示す環境思考Zモ

うな二者択一的発想を転換する必要がある。

での環境・生態か経済・経営か、というよ

この不幸な分離を超えるためには、今ま

る限り、パラダイム転換は起りそうにない。

生態双方が伝統的なシステム境界に固執す

テムの外が経済ということになる。経済、

界外が生態系、生態系から見ればそのシス

他方、低濃度・多水量の排水は、低エネ

どのような形で環境に対応すればよいかと

立命館大学政策科学部教授 (専門は環境システム論)

ルギー消費での処理が可能なので、再生・

係を表し、自然科学が食物連鎖や物質循環

(b)は、環境と環境という自然相互の関

経済倫理の醸成へのインパクトの鍵を握る

術) 、産業構造の再編、あるいは環境倫理、

環境からは当然、資源・アメニティという

ク(c)を明確にすることにほかならない。

場」と定義できる。

因果関係又は相互作用関係をもつすべての

の存立する場でかつ主体との間にある種の

環境は、 「広義には主体たる人又はもの

Π型人間で、複数(総合的)分野をマルチ

有形、無形の恵みを受ける。また、経済・

浴排水を選び、その再生・再利用を検討し

いが、多様な環境の現象を解明し、理解し、

があり、どのタイプが一番良いかは言えな

これらの三つのタイプにはそれぞれ長短

排熱を環境に放出する。しかし、環境への

経営活動を維持するため、生じた廃棄物、

もっているかという〈状態〉は評価する主

良いか悪いか、あるいはどのような価値を

して〈存在〉するが、沿岸域の環境水準が

例えば、沿岸域は海と陸が接する空間と

60

のである。 排水の種類によって水量・水質が異なる ことから、それぞれの国でその実態をまず 調べることが大切である。有機物濃度が高 く水量が少ない排水からは、有機物の回

再利用の可能性が大きい。しかしながら、

いう問いかけが重要な鍵となってきている。 (a)は、人間(集団)相互の関係を表し、

収・再利用が効果的である。他方、水質濃

降雨量の多い我が国では、このような再利

と思われる。一つは、I型人間で、一つの

等に代表される生態系を対象としてきた。

社会科学が守備範囲としてきた。リンク

ていない。したがって、せっかく導入され

分野の専門家である。二つ目は、T型人間

経済システムと生態システムがその境界

人間(研究者)のタイプには三つがある

た再生・再利用施設であっても、維持管理

で、二つの分野の専門家である。生態系の

を拡大し統合化を目指すことは、図のリン

用は、残念ながらそれほど深刻に認識され

面などからその持続が難しくなっている事

システムと経済学の両方が理解できていて

ことになると考えるのである。

エコロジー経済学を研究する人。三つ目は、

雑排水の再生・再利用の許容度が高いもの

に理解できる専門家である。

ている。その実効性から、再生にはタイ製

負荷が過大になれば、場合によっては災害、

体が沿岸とどのような〈関係〉にあるかに

健康被害というしっぺ返しもくる。環境が 不健全であれば、それの修復・改善は不可

よって規定されるということである。

政策立案までしようとする場合はT型、Π 地球環境問題が深刻化した背景には、経

欠になる。リンク(c)の双方の矢印のバ

型人間を志向することが望まれる。

調査にもご協力をいただきながら、興味深

済と環境の不幸な分離がある。経済と環境

の浄化槽を用いることとした。幸いにして、

いデータを収集しているところである。タ

こ れ ま で の 環 境 研 究 に お い て は、 〈状

イの今後の浄化槽発展に、何かしらのヒン

態〉の解明および〈状態〉の改善という面 いと思われる。しかし、具体的な統合の方

具体的方法論を構築することには異論はな

ランシングを認識することが、持続可能な を統合することで、持続可能な発展の概念・ 発展を具現化する制度・技術の設計(例え ( 『サステナ』第 号)

トを貢献できればよいのだが。

からは数多くの研究・技術開発がなされて

タイの浄化槽会社は好景気なようなので、

量は多いが有機物濃度が低い洗濯排水と入

と判断された。そこで、雑排水の中でも水

バンコク近郊の住民アンケート調査から、

例も多いと聞く。

環境思考 Z モデル.

ば、環 境 税、包 装 廃 棄 物 法、再 資 源 化 技

28


しているようである。例えば、水の処理に

いていると、自分の専門分野の説明に苦戦 ことが重要であると思う。実は、大学に赴

えられると思えるような経験を持っている

面することになるだろうが、それを乗り越

「国 連 持 続 可 能 な 開 発 の た め の 教 育 の

例えば、政府が策定した「我が国における

べた。そもそも何を目標としているのか。

んじゃない。現場で起きてるんだ!」を旨

三つ目には「 「事件は会議室で起きてる

経済学の素養も必要であるとして、当学科

が必要となる。また、環境問題の解決には きながら研究室の運営方針を作り、これを

にあたって、そのような思いをベースに置

任して一年目の一〇月、研究室配属の募集

多面的かつ総合的なものの見方を重視した

見てみると、 「問題や現象の背景の理解、

年」実施計画」における「育みたい力」を

ったり来たりしてできあがるからである。

良いものは、机上の空論と現場の制約が行

様々な人と対話するように仕向けている。

は、現 場 に 足 を 運 ん で 観 察 し、あ る い は

とする」を掲げている。研究を進める上で

関しては物理・化学だけでなく生物の知識

の学生は経済学についても学ぶ。結果とし

これには、 「三つの力」全てが関連する。

にある様々な事象を考慮して、 「システム

体系的な思考力」 「批判力を重視した代替

思考」で政策の立案や評価に貢献する研究

案の思考力」 「データや情報を分析する能

続可能な開発に関する価値観」 「市民とし

を行っていく。これには、①能動力や②シ

研究室の案内に掲載した(現在はウェブサ

て参加する態度や技能」などが挙げられて

ステム思考力が関連する。

イトでも公開している) 。これは、研究室

高めたい「三つの力」としては、 「①自

いる。結果論ながら、研究室で掲げている

て「広く浅く」の学習となり、専門性が主

ら問題を見つけ、対応を考え、改善の方向

「三つの力」はこれらと整合しているよう

ミを開催し、卒業・修了までに学会発表す

張しにくい。また、 「土木」や「建築」な

かされない業界に就職する学生が多い。も

を導く能動力」 「②様々な事柄の相互関係

である。

る」である。ゼミや学会では、普段とは違

四 つ 目 は「シ ス テ ム 思 考 に 基 づ い て 政

っとも、物事は見方によって変わるのが世

を考慮できるシステム思考力」 「③コミュ

これらの力は環境問題の解決やサステナ

力」 「コミュニケーション能力」 「リーダー

の常である。環境問題の解決に向けては、

ニケーション力と国際感覚」を掲げた。①

ビリティーの実現に必要というだけでなく、

った視点から意見をもらえ、また、分かり

での活動を通じて磨きたい「三つの力」と、

社会の様々な主体がそれぞれの立場で取り

の自ら考え動く力は、今最も求められてい

企業の採用担当者が求める一般的・普遍的

やすいプレゼンテーションが求められる。

どと違って、 「環境」や「サステナビリテ

組みを進めていかねばならないという視点

る能力と言えるだろう。課題を見つけ、解

な力でもある。日常の講義や実習も、その

最後に、 「留学生・外国人研究者を積極

③コミュニケーション力の向上に役立つ。

策・企画の立案と評価に貢献する研究を行

に立てば、そのような教育を受けた学生が

決策を見いだし、それを実行する。この一

ような力を高めることを背後に置きながら

的に受け入れ、研究室を国際化する」であ

う」 。表面的な現象だけでなく、その背後

様々な業界に就職していくことは、むしろ

連の力は生きる力であり、得られる達成感

行うべきものであり、極論すれば、学習し

る。これにより③コミュニケーション力を

シップ」 「人間の尊重、多様性の尊重、非

評価されるべきことである。ただ、仕事と

は生きる喜びでもある。②は、論理的な思

ている知識や技術はその力を高めるための

高める。

排他性、機会均等、環境の尊重といった持

教育を直接結びつけるのであれば、当学科

考力のことであり、全体像を把握すること

材料と言ってもいいだろう。このような考

そのための環境作りとしての「六つの運営

で何を教えるべきか(広く言えば、サステ

で今まで見えなかったものを見通せるよう

えのもと、 「三つの力」を磨く環境作りと

方針」から成る。

ナ教育で何を教えるべきか) 、つまりカリ

な力のことである。様々な事柄が複雑に絡

ィー」は専門分野としての大きな労働市場

キュラムの内容について、継続的に考え議

み合う環境問題は、このような能力を磨く

して「六つの運営方針」を掲げた。

がなく、大学で学んだことが直接的には活

論していかなければならない。筆者の頭は、

には格好の材料と言える。③のコミュニケ

なのだが、必要となる知識や技術は時代や

門的な知識を習得することももちろん重要

また、国際化する時代においては、単なる

ョン力、対話力、英語力などが含まれる。

ーション力には、文章力、プレゼンテーシ

次に、 「早く卒業研究・修士論文に着手

能動力や③コミュニケーション力を磨く。

主体で行う」ことである。これにより、①

まず、 「研究室の運営をできるだけ学生

ているような状況である。今後も皆さまの

の仕組みについても、日々改善点に気づい

が多い。それぞれの方針を具現化するため

いものの、未だ十分に実現していないもの

以上、 「六つの運営方針」を掲げたはい

五つ目は「年に数回、他大学との合同ゼ

一方で、教育とはそもそも何なのか。専

まだその一歩を踏み出したところにある。

役割とともに変化するものである。とすれ

言葉の理解力だけでなく、異なる価値観の

ば、重要なのは、その時々で必要となる知

ご指導を仰ぎながら、サステナ教育、ひい

( 『サステナ』第 号)

ては教育全般について奮闘を続けたいと思

う。

し、試行錯誤する時間をつくる」 。これに る。

より、①能動力や②システム思考力を高め 本エッセイを執筆するにあたり、 「持続

受容力も大切である。

れを習得しようとする意欲や能力である。

可能な開発のための教育」について少し調

28

識を習得するための幅広い素養であり、そ また、長い人生においては様々な問題に直

63

10


されていない竹林が増えています。この放

衰退しています。それにより、有効に利用

が著しく縮小し、一次生産を含む竹産業が

代替品の進出によって、国内産の竹の用途

から輸入する素材に大きく依存し、同時に

日本では、最近では、既存竹産業が海外

るとされています。

ては温暖化の低減の一翼を担うことができ

高いことが知られており、管理方法によっ

固定能力は植林される木本性植物に比べて

目されています。竹の大気中二酸化炭素の

竹の諸用途以外に、竹林の環境効果も注

このジレンマを解消するには、竹を原材

竹産業がなくなる恐れがあります。

ます。それを解決しないと、一部の地域の

刻な高齢化と後継者不足問題に直面してい

た、竹産業もほかの農業部門と同じく、深

七割の方が購入する意向を示しました。ま

だ、竹繊維の機能性と環境性を説明すると、

繊維を知っている方が一割のみでした。た

について、アンケートの結果によると、竹

ん。竹繊維の衣服の認知度および購買行動

トは日本産のものの五分の一しかありませ

めに、ベトナム産の竹フローリングのコス

直接の理由であると考えられます。そのた

であり、高い労働コストがこのジレンマの

ば教育の技術は必要ないかも知れないが、

変わってきているようである。前者であれ

かも知れないし、社会的にも大学の役割は

ンスでいたいと思うが、学生の期待は後者

ことを学習すればいい、という前者のスタ

いである。筆者は、学習したい者が好きな

ころなのか。これは今日的な、根源的な問

入学した学生をムリヤリにでも教育すると

大学は学びたい者が学ぶところなのか、

いている。

うことに違和感も感じつつ、試行錯誤が続

人の筆者が、その教育を担当しているとい

トレーニングを受けているわけではない素

のプロではない、すなわち、教育に関する

うとしている。学生相手は楽しいが、教育

大学に赴任して間もなく二年目が終わろ

ないくつかの問題として、海外竹原材料と

建築材料としての竹は、加工技術の進歩

置された竹林から、農地や里山へ竹が侵入

料とした製品の大量生産が必要です。ただ、

後者であれば効率的に知識を伝達する技術

た。中崎教授は、里山の生態系を壊さずに

サステナ教育? の奮闘

により、インテリアから、集成材、繊維板、

するのが顕著に見られるようになりました。

大量生産が必要とする竹の絶対量が足りな

や学生の潜在能力を高める技術をきちんと

製品の低価格の影響、新用途の低認知度に

(はしもと せいじ)

セメント板などとして腰板、フローリング、

この現象は西日本ではよく見られる光景と

い、あるいは安定供給ができていないと指

習得することも必要となるだろう。

採取可能な竹年間三三〇万トンを原料とし

橋本征二

天井材として利用されています。最近、高

なっており、段丘や丘陵地帯で特に顕著で

摘されています。また、既存の竹加工工程

よる需要の弱さ、高齢化社会における後継

強度の竹建材もできて、柱材としても使え

す。竹林の侵入は放置された里山だけでは

の効率を改善できるところもたくさんあり

この問題は、就職あるいはカリキュラム

た場合、年間二二万キロリットルのバイオ

るようになり、中国湖州市安吉県にある竹

なく、スギやヒノキなどの人工林でも見ら

という問題とも関連する。筆者の所属する

立命館大学理工学部教授 (専門は環境システム工学、資源・廃棄物管理)

ハウスはすべて竹建材でできています。今

れ、木材生産を目的とした森にも深刻な影

ます。現在竹フローリングの生産に有効に

環境システム工学科は、いわゆる「持続可

者不足が挙げられます。竹林の管理・伐採

後木材の代替として、建築や家具などへの

使われる竹の量は原材料竹稈のわずか三〇

能 な 開 発 の た め の 教 育」 ( 「サ ス テ ナ 教

エタノールを作ることが可能であると試算

大量使用が期待できます。

響を与えつつあると指摘されています。さ

%であり、残りの竹粉などが廃材とされて

を含む一次処理は低収益で労働集約型産業

竹利用について最も注目されているのは

らに、竹林が侵入してその土地を優占する

います。今後、竹バイオエタノール生産の

しています。

バイオエタノールの利用です。すでに大規

ようになると、生物多様性も減少します。

うな教育を行うコースであるが、この二年

まさに「竹公害」と呼ばれる状況を生み出

間の学生たちの就職活動や実際の就職先を

模な実験プラントが京都府宮津市と熊本県

物流、生産、廃棄処理まで、竹生産ライフ

水俣市に作られました。静岡大学中崎清彦

サイクルに基づいた生産システムを整理構

育」? とでも言おうか)の一翼を担うよ 竹林の大量放置と竹原材料の大量輸入に

導入によって、竹林の整備管理から、保管、 よって、環境にやさしい素材であるはずの

見ると、この分野の人材の需要と供給には

しています。

技術を用いて竹の糖化効率を従来の二%か

築すべきではないかと考えられます。

教授の研究チームが竹を超微細粉末にする ら七五%へ飛躍的に向上させ、一キログラ

竹が環境に悪影響を与えているのは、一つ

大きなギャップがある。学生たちの話を聞

ムの竹から一一〇ミリリットルのバイオエ

( 『サステナ』第 号)

のジレンマといえます。日本の竹産業の主

タノールが生産できたことが報道されまし

28

62


も扱っていましたから、室内外の温熱環境

近本 大学に来る前は日建設計という設計 事務所で設備設計をしていて、エネルギー

ょうか?

――研究の中心は何に置かれているのでし

うな工夫も何かあるのでしょうか?

くといいますか、研究をやりやすくするよ

――研究室の学生さんが、それこそ心地よ

よさにはなりません。

環境をトータルに考えないと、本当の心地

いいとはいえないでしょう。自然の摂理と

の環境がいいものでなければ、やはり心地

室内環境をよくできたとして、建物の周囲

ないで、自然の風を取り入れるなどして、

じないものです。エネルギーをあまり使わ

築都市デザイン学科が開設されたのが二〇

近本 そうだと思っています。もともと立 命館大学には建築はなくて、理工学部に建

てくださるのでしょうか?

としている学生さんを企業は喜んで採用し

――環境やサステイナビリティを研究の柱

パーなどです。

近本 進路としては、設計事務所、ゼネコ ン、設備会社、ハウスメーカー、デベロッ

ような方面に進むのでしょうか?

――学生さんたちは研究室を出た後はどの

なくて、測定の実習も一緒に行ったのです。

近本 研究でも仕事でも、まずは、楽しく やってもらいたいと思っています。それも、

あるでしょうか?

てほしいとか、お考えになっていることが

――学生さんに対して、このようなことを

交流を進めていくことができました。

が役に立って、関西のいろいろな方々との

設計の新人研修で九カ月間大阪にいたこと

て大きなできごとでした。幸いにも、日建

るのに壁をつくる土壌があるのかなという

り、どちらかというと新しい人を受け入れ

たのですが、東京と京都では文化圏が異な

楽しい研究室で学生を育てる

の分析や、住宅や建物、都市で使うエネル

〇四年で、まだ一〇年にもなっていません。

自分で考えて、自分で問題点をみつけて、

立命館大学理工学部建築都市デザイン学科教授

(ちかもと ともゆき)

ギーを減らすサステイナビリティに関連す

近本 われわれの研究室では、研究以外に さまざまなイベントを行っています。それ

それでも、環境設備の分野で、立命館大学

近本智行

る研究が柱になりました。最近では、環境

が研究室の雰囲気をよくしている面がある

の名を全国的に認識していただくまでにな

ょう。楽しくするためにも、自分でモチベ

でないと、本当のところは楽しくないでし

してほしいとか、このような職業人に育っ

気がしていたので、地域の変化は私にとっ

教育にも関わるようになってきています。 と思っています。

学生の進路ということでは、企業の方々

たとえば、夏に流しそうめん大会を行っ

理念というと難しい感じがしますが、建物

ています。会場は大学の近くのキャンプ場

とのつながりを日ごろから大切にしていま

づくりでも、まちづくりでも、いかにして

で、前日に竹を切ってきて真っ二つにし、

近本 心地よさだと思っています。エネル ギーをいっぱい使って、物理的には心地よ

あるのでしょうか?

あるのかという、評価基準のようなものは

担当で、生きたウナギを買ってきて、近く

きにして食べたりもします。ウナギは私の

食べたり、ウナギのつかみどりをして蒲焼

牛肉の塊を焼いてシシカバブのようにして

却装置をつくります。そうめんだけでなく、

でないとおいしくないので、氷を使った冷

拓されてきたのでしょうか?

――企業とのつながりは、先生ご自身が開

ことがあるようです。

していると、採用してもらいやすいという

に学生の相談にのってもらうようなことを

会を行っています。お酒を飲みながら気楽

す。企業の方にきていただいたときに懇親

めに、世の中の情勢をきちんと正しく把握

ら研究をしていくことが大切です。そのた

向上させることが、社会にどのように還元

専門的な分野で研究をすることや、技術を

な部分を掘り下げることをするのですが、

しいです。研究そのものは、非常に専門的

また、社会とのつながりを多くもってほ

てほしいと思います。

ーションを高めて前に進んでいくことをし

自分で問題点を解決する方策を考えるよう

いいものにしていくのか、というのがあり

そうめんを流します。そうめんは冷たい水

い空間になっていても、力づくで人工的に

の川に一回放流して、子どもたちが手づか

近本 私はもともと九州の久留米の出身で、 大学時代の博士号を取るまでの九年間は東

してほしいです。

りました。

――何がいい建物であり、何がいいまちで

ます。

つくられた空間では、あまり心地よさは感

みで取って、私がさばきます。昨今はウナ

京でした。日建設計も東京配属で、九カ月

お宅に測定器を付けさせていただいて、合

騨に出かけました。白川郷では合掌造りの

また、ゼミ合宿では、去年は白川郷と飛

かという不安はありました。設計の実務か

きて、京都でうまくやっていけるのだろう

と東京だったものですから、立命館大学に

研究をするのです。 (『 サステナ』第 号)

ありません。社会に生かすために、誠実に

は自分自身のための研究をしているのでは

それと、誠実ということです。われわれ

していくのかということを絶えず考えなが ギの値段が高いので、川に放流したのが逃

間だけ大阪で新人研修を受けました。ずっ

掌造りのなかの熱環境がどのようになって

ら研究へという変化は割と自然の流れだっ

65

げないようにするのが大変です。

いるか測定しました。単なる合宿だけでは

28


(みの たかし)

とってきて、短期ですが学生を海外に送り

ラム(APIEL)というプロジェクトを

ったので、アジア環境リーダー育成プログ

は、演習で実際に経験させる要素が少なか

で、レジリエンスという言葉が注目される

って適応してゆく態度が必要だということ

込むのではなく、ある種のしなやかさをも

わとくるリスクに対しても、被害を押さえ

のかないのかというのが大切なポイントに

大学院を決めるときに、博士課程まである

でやってきましたのは、一つには、学生が

意見もあったなかで、それを押しのけてま

た。博士課程はつくらなくてもいいという

リキュラムの再構成と博士課程の充実でし

すので、横の連携が重要であると思い当た

も重視するところが全く違っていたりしま

も共通点があり、逆に同様の問題であって

てきました。いろいろな問題があるなかに

べきかというプロポーザルを出すことをし

の現状をみて、どのようなビジョンをもつ

では、アジアのいろいろな場所で環境問題

開き、連携していくことです。APIEL

な学生は集まってきません。

ろを外に対して訴えていかなければ、優秀

われわれの強みは何であるのかというとこ

のプログラムはすでにいくつかあります。

キーワードにして博士課程まである大学院

トランスバウンダリーは、横方向に心を

ようになりました。

なっているからです。博士課程まであるこ

次の課題は、サステイナビリティ学のカ

出すという演習のスキームをつくりました。

とで、修士の段階で優秀な学生を集めるこ

るようになりました。

して応募したわけです。応募に際して、三

せるという内容ものでしたので、万難を排

ングプログラムはまさに博士課程を充実さ

ます。文部科学省の博士課程教育リーディ

るときに博士号が必要だということもあり

て実際にリーダーシップを発揮するような

るとか、何かのミニプロジェクトをおこし

ダーとして活躍している人との接点をつく

を行おうとしています。実際に社会でリー

ともに、もうひとつ、リーダーシップ演習

これらの具体的な内容をつくっていくと

は規則に反しているからやらないと分けて

つけて、これはいいことだからやる、これ

としすぎてきた気がします。白黒はっきり

まで、物事をあまりにも論理的に進めよう

が、求められているのだと思います。これ

て、新しい別の価値観を見出していくこと

つくってきたいろいろな理念や論理に対し

いまのサステイナブルではない世の中を

とができます。また、国際的な場で活躍す

つのキーワードが浮かび上がってきました。

しまうと、社会をぎすぎすさせるもとにな

っていたようなことが往々にしてあったの

すが、ことの本質的を見極めて、ボトムア

うことで、俯瞰的ということでもあるので

)です。 boundary ホリスティックとは広く全体を見るとい

おられるのだと思いますが……。

て集まってくるという確信があって進めて

プログラムをつくれば、学生は魅力を感じ

――これまでの経験からして、このような

が多様でさまざまなリスクの多い日本だか

となのでしょう。そのような知恵は、自然

す。共生というのは境目をなくすというこ

日本では共生ということがよくいわれま

ではないかと思います。

ップの目線も含めて、いろいろな要素の隙

場を設定するとか、リーダーシップのトレ ホリスティック( holistic ) 、レジリエント ( resilient ) 、トランスバウンダリー( trans- ーニングを積む場をつくりたいと考えてい ます。

域創成科学研究科のなかにサステイナビリ

味埜 二〇〇六年にサステイナビリティ学 連携研究機構(IR S)が始まり、新領

ティ学の大学院教育プログラムをつくろう

間をつないでいくような見方のことをいい

味埜 確信とまではいえるかどうかはわか りませんが、必要なことだと考え、議論し

強く受けています。震災のような激甚災害

とが、今後のこのプログラムの強みになっ

学生たちにそのようなことを伝えていくこ

( 『サステナ』第 号)

てつくり上げてきているプログラムですか

ていけばいいと思っています。 世界をみますと、サステイナビリティを

ら、それなりに自信をもっています。

らこそ育ってきたのではないでしょうか。

ということになって、二〇〇七年以来、サ

ます。

(GPSS)を展開してきました。最初は

に対しても、温暖化のように長期にじわじ

するサステイナビリティ学教育プログラム

3

修士課程のみで開始しました。そのときに

24

レジリエンスの概念は、大震災の影響を

ステイナビリティ学を大学院レベルで教育

緯についてお聞かせください。

LI)がスタートしますが、これまでの経

ダー養成大学院プログラム(GPSS―G

――サステイナビリティ学グローバルリー

東京大学大学院 新領域創成科学研究科教授

味埜 俊

国際的に活躍する リーダーを育てる

サステナ訪問

64


は多くの人が道に出て、崩れたブロック塀

場のないほどになってしまった。地震直後

籍はほとんどが崩れ落ち、自宅は足の踏み

恐ろしく長く激しい揺れで私の研究室の書

茨城県にもまた大きな被害をもたらした。

年たっても比較的活発に続いており、当初

はなにかを模索していった。その活動は一

洗町の復興のために自分たちができること

くり、そこで常に情報交換を図りつつ、大

してフェイスブックのなかにグループをつ

その立ち上げからのメンバーとなった。そ

のNPO法人関係者や旅館関係者などが、

ークである。学生たちのみならず、大洗町

が「大洗応援隊!」という社会的ネットワ

きるのかということを考えて立ち上げたの

そのような状況を受け、私たちに何がで

害の問題は、農業や漁業、それに夏の観光

てきた原発事故による放射能汚染と風評被

なることを、私自身そのメンバーの一人と

いくひとつのモデルと見てもらえるように

た社会的なネットワークが有効に機能して

ないが、このような震災をきっかけにでき

どこまで充実したことができるかはわから

直接参加する状況も生まれている。この先

つつあり、町民たちが「大洗応援隊!」に

長はじめ町民たちにもその存在が認知され

って出るという場面も生まれつつある。町

請で、商店街の活性化に若い学生たちが買

新たなメンバーが加わった。町側からの要

月になって、 「大洗応援隊!」には、また

震災から一年以上がたち、二〇一二年四

ーは学生たちがしっかりと務めてくれた。

れ考えた。司会進行と各グループのリーダ

私たち自身が生み出せる社会的ネットワー

ではけっして上手くいかない。このような

らの回復は、ハードやソフトでの対応だけ

置かれている。防災や減災、および被災か

人と人とのつながり、そして対話に重きが

「大洗応援隊!」も「あすなろ会」も、

りながら一緒に考えていければと思う。

た工夫が必要か、そのようなことも、関わ

ことのないよう継続させていくにはどうし

が、この共同体が時間とともに廃れていく

の実例という位置づけができると思われる

れると言われている。 「あすなろ会」はそ

「災害ユートピア」と呼ばれる状況が生ま

的になれる特別な共同体が立ち上がり、

震災などのあとには、互いにとても利他

(いとう てつじ)

二〇一一年三月一一日の東日本大震災は、

茨城大学人文学部教授 (専門は社会心理学)

伊藤哲司

茨城の被災地のフィールドから

などを眺めながら、所在なさげにしていた。

数人で始めたこのネットワークへの参加者

社会的ネットワークと 対話の場づくり

まさか、翌日に予定されていた後期日程の

クと対話の場づくり、その重要性がより強

にも、深刻な事態をもたらした。

大学入試が中止になるとは、地震直後には

して期待している。

るだろう。四・二メートルの津波は、大洗

な渦巻きの写真を記憶している方もおられ

大洗港を襲った津波がつくり出した巨大

数人の学生たちと一緒に足を運んだ。

ねばと思い、四月下旬になって、大洗町へ

ている者として、何かアクションを起こさ

ステイナビリティ学に多少なりとも関わっ

的なダメージを受けたのだろう。しかしサ

くことができなかった。多少なりとも心理

に入ってしまった感じで、私自身あまり動

なんとなく気分的にいつもと違ったモード

ている。その体験の声を重ねあわせていく

じ震災といっても、震災体験はみな異なっ

は「三・一一あのとき私は」であった。同

を重ねていくのである。そのときのテーマ

して持ち帰ってくる。その上でさらに対話

バーは、他のグループで出された声を取材

リーダーだけはグループに残り、他のメン

を机上の模造紙に書き込んでいく。そして

つくってまずはそこで声を出しあい、それ

る場をつくりたいと考えた。小グループを

にならず声を発し、他の人の話に耳を傾け

フェという対話の場である。誰もが傍観者

洗応援隊!」でつくったのが、ワールドカ

かされるものがあったのではないかと思う。

そのような言葉で学生たちも、深く揺り動

を、若い学生たちのまえで話をしてくれた。

と、まさに体験した人でしか語れない語り

は津波後に得たもののほうが多いですよ」

「津波でいろいろなものを失ったけど、私

て、特 別 に 登 壇 を し て く れ た。そ し て、

会」から四人の女性たちがやってきてくれ

ら 私 が 担 当 す る 教 養 科 目 に、 「あ す な ろ

らせていただいている。今年度に入ってか

があり、大変興味深く、ときにそこに関わ

て生活再建を図ってきているというケース

う住民グループをつくり、互いに助け合っ

用促進住宅に入居し、 「あすなろ会」とい

津波で家を流され失った人たちが、ある雇

している。

( 『サステナ』第 号)

く認知されるようになっていくことを期待

は、二〇一二年五月現在では七〇名を越え ている。

私は、津波で被災した茨城大学所有の六

まだ夢にも思わなかった。 震災直後は、食料を入手するのに苦労し、

町では幸い誰の命も奪うことはなかったの

ことで体験を共有し、そこから私たちは何

角堂がある北茨城にも足を伸ばしている。

だが、実際には危機一髪だったという話が

を学べるのかを、数十人の参加者がそれぞ

二〇一一年七月の海開きにあわせて「大

いくつもある。そして、地震と津波による

ガソリンスタンドには長蛇の列ができた。

被害だけであればまだしも、その後にやっ

67

25

ワールドカフェ「3.11 あのとき私は」の様子 (NPO 法人・大洗海の大学にて)


フィールド 便り

忘れられた当たり前を探す: 目からウロコのフィールドワーク⑦

持ちつ持たれつの信頼関係 大久保実香 (おおくぼ みか)

部分は植林され、現在村に住む人のほとん

当たり前になっていった。かつての畑の大

たちは高校通学のために村を離れることが

高校も閉校、昭和四〇年代半ばには、若者

ぎわったが、鉱山はやがて閉山し、近隣の

れていた。昭和三〇年代は林業や鉱山でに

あっても生き延びられるのかもしれない。

倉へ逃げてこられる子供や孫たちは、何か

得力を増した。確かに茂倉に暮らす人や茂

えるもののもろさを実感し、この言葉は説

あの震災で、東京での日々の暮らしを支

残しておきたい」 、そんな言葉も聞いた。

あるかわからない世の中だから、この家は

うに畑が広がる時代が来ると思う」 「何が

「今は畑も少なくなったが、また昔のよ

を手伝うことも多い。

む若い世代が帰って来て、道路掃除や祭り

いた自分の貧しさを知った。甲府などに住

や業者が何とかするのが当たり前と思って

詰まった水道もみんなで直す。私は、行政

ると、その力はすごい。穴が空いた道路も

したり、再構築することから始めてみても

分のルーツとなった村とのつながりを維持

町を大切に思う気持ちも大事だけれど、自

持ちも少しはわかってきた。今住んでいる

年。畑が荒れているのを放っておけない気

舎で形ばかりの農作業を始めた。始めて三

茂倉の人たちに触発されて、私は母の田

のか、皆が頭を悩ませているのも事実だ。

村がこれからどうなるのか、どうしていく

た。けれど、住む人の数が減りゆくなか、

五穀豊穣を祈る数々の祭りも続けられてき

わせてくれた、それがこの村の土地であり、

代々が耕してきて、戦争の間だって皆を食

合わせることもできるだろうからだ。先祖

技能が残っているし、いざという時に力を

は手入れされた畑が広がり、キビやアワな

の暮らしのあり方を見つめ直したいのなら、

大学院に進学したばかりの私は、 「人間

互いの様子を見ながら、お互いにできるこ

てこなければ心配してくれる人がいる。お

草を刈っておいてくれる人がいる。朝起き

葉をよく聞いた。入院で留守になった家の

24

滋賀県立琵琶湖博物館学芸員 (専攻は農村社会学)

倉(山梨県早川町)を初めて訪れたとき、

ども、毎年種を継いで育てられている。風

いいのかもしれない。(『サ ステナ』第 号)

村のお宮やお堂を案内してくれたのが敏文

呂焚き用の薪は山からとってくるし、シカ

茂倉の人びとには、山で食っていく知恵や

さんだった。大工だった御先祖や御自身の

「都会ではお隣の顔もわからない。そん

が手に入ればみんなで捌いて食べる。

どは七〇歳以上だ。とは言え、家の周りに

ことを伝えてくれるその姿からは、茂倉が

大きな環境問題を語るより足元の暮らしを

とをしあって、支えあって、暮らしている。

帰省したたくさんの 子どもたちが参加す る相撲大会.

南アルプスに繋がる山あいにある村、茂

大好きで誇りに思っていること、この村を

見つめなおすことが大事だ」と思いつつも、

やってもらって当然ではなく、同じかそれ

な生活は嫌だ。茂倉には、持ちつ持たれつ

東京郊外で育ったためだろうか、 「自分の

以上に喜んでもらえることをお返ししたい、

よくしようと務めてきたことが滲み出てい

住むこの町をよくしよう」という思いを持

そんな凛とした働き者の精神に根差した信

の信頼関係というものがある」 。そんな言

つことが難しかった。だからこそ、生まれ

た。

育った村を心から大切にしている敏文さん

頼関係だ。 普段から支えあっている人たちが協力す

との出会いが胸に響いたのかもしれない。 茂倉では、戦後しばらくまで焼畑が行わ

御先祖が建てたという 七面堂前で敏文さんと.

66


インドネシアで サステイナビリティを学ぶ (さかがみ のぶお)

茨城大学農学研究科の実践

坂上伸生 している。修士論文研究の内容では、分析

大学は「教育機関」としての性格を大切に

る。日本の大学に比べて、インドネシアの

ッションによる研究交流の機会にも恵まれ

てのポスターを持参しており、ポスターセ

感じ取ることができた。

らは、一週間で結びあげた彼らの「絆」を

帰国の際、別れを惜しむ学生たちの様子か

「一体感」には、目を見張るものがあった。

テーションを完了したときのグループの

が「意外な妥協点」にこそ、無用な争いを

細かい定義を突き詰めることも大切である

あるようだ。そこから議論をさらに深め、

意外な妥協点を見つけ出してしまうことが

葉が上手く伝わらない不自由さも手伝って、

野に捕らわれない幅広い知識は、インドネ

しかしながら、学問に対する貪欲さや、分

本人学生が一歩先んじている様子も伺えた。

機器の先進性や研究機会の多さからか、日

学力の不足をきちんと認識することは、決

環境へ向かう度胸がついた」と記した。語

と交流できることの喜び、何よりも異なる

いう自信、自分と全然違う環境で育った人

乏しい英語でも会話をすることができたと

ある学生は、実習の感想として「自分の

も、国を越えて実施される場合がほとんど

たしていくのか。大災害などに対する支援

日本で学んだ若者が、どのような役割を果

国際化著しい今後の社会で、日本で育ち

回避する「持続性」が秘められているよう

シアの学生にこそ顕著であり、彼らの純粋

シアで実施する「サマーコース」で、一週

その中で最も大きなイベントは、インドネ

に、最も重要なのがフィールドワークであ

イナビリティの実践農学」を達成するため

プログラムの主目的である「地域サステ

の若者が増えているという指摘を目にする

飛び出していくことを好まない「内向き」

合の方が多いようだ。近年、異なる環境へ

「それでもできる」という安心に繋がる場

るだけでも、大きな自信に繋がっていくの

のサステイナビリティを考える。ただ考え

必要である。地域を見る目で、地球レベル

めにも、幅広い知識・教養と多彩な経験が

茨城大学農学部 (専門は国際農業教育)

間にわたって現地の学生とともに講義や実

る。農家や研究施設などを訪問して多くの

かもしれない。 (『サステナ』第 号)

にも感じられる。

さと相まって、多くの日本人学生が強い刺

である。国際協調の担い手となっていくた

茨城大学農学部 (専門は土壌地理)

茨城大学農学研究科の修士課程では、副

して自信を失うことに直結しない。むしろ、

(おだに ひろみつ)

専攻プログラムとして「地域サステイナビ 激を受けたようだ。

小谷博光

リティの実践農学教育」を実施している。

習を行う。これはインドネシアのボゴール

機会が多い。しかしながら、実際に体験し てしまえば、外に出る楽しさは十二分に認

知見を得るとともに、日本人学生とインド

おそらくそれは、ほとんどの人にとって

ネシア人学生との混合グループで、土壌や

農科大学、ガジャマダ大学、ウダヤナ大学

学生に変化が見られ始めたのではなかった

する必要のない便利な言葉として「サステ

「共通であるはず」で、細かいことを気に

との教育研究交流がきっかけとなって、文

二〇一一年度のサマーコースは、ボゴー

か、と感じる。幸か不幸か、持参した簡易

イナビリティ」を用いることが多いように

識できるのである。

ル農科大学(IPB)で開催され、茨城大

土壌分析キットの取り扱い説明書は、日本

思われる。ある学生が「最も印象に残った

水の環境試料の簡易分析、微生物に関する

学、そして筑波大学から修士一年次の学生

語でしか記されていな い。あ る 学 生 は、

のは、インドネシア人と日本人の物事に対

部科学省による大学院教育改革プログラム

が参加した。また、現地では琉球大学や愛

「IPBの学生にもなんとか説明して、良

する考え方、捉え方の違い。その中でもお

サステイナビリティという言葉を発する

媛大学の学生も合流し、総勢二四名の日本

いデータを得よう」と使命感を露にした。

互いの違いを認めたうえで議論し、妥協点

簡易判定などを実施した。記憶が定かでは

人学生の参加となった。一方、この実習を

また、ある学生は、あまりにも異なる生活

を見つけ分かりあえたのはとても大きな収

に採用されるなどしながら、農学部で発展

正式に単位化しているIPBからは数十名

や文化に、これまで日本で過ごしてきた

穫だった」と感想に記した。お互い母国語

とき、多くの人は、 「持続」の先にある人

の学生と多くの教員が参加し、一大イベン

「自分の世界」の小ささを認識したのかも

ではない英語で議論をしているうちに、言

類共通の「未来」が脳裏にある。そして、

トの様相を呈していた。

しれない。短い期間ではあっても、調査、

ないが、このあたりから、講義やポスター

コースは講義と実習とで構成され、茨城

分析、ディスカッションを経て、プレゼン

セッションで自信を失いかけていた日本人

大学、IPB双方の教員が講義を行う。ま

させてきた独自のプログラムである。

た、参加学生は各自の修士論文研究につい

69

25

活発な議論を行う日本人・インドネシア人の 混成グループ.


ズム」 、 「資源の有効活用と廃棄物処理」 、

に見舞われた) 」 、 「伝統農法とエコツーリ 「ウミガメの保護」など多彩である。この

年の東日本大震災では、津波で大きな被害

プーケットにおける協働の実践 (あじま きよたけ)

サステイナブルな 演習を目指して 安島清武 演習が初めての海外という学生も少なくな

際実践教育演習」の舞台である。武道では

プログラムの目玉の一つとなっている「国

茨城大学大学院サステイナビリティ学教育

り毎年、タイのプーケットで開かれている

位置するマイカオ村。ここが二〇〇九年よ

数多く集まる地域からは少し外れた場所に

波被害……。このプーケット島で観光客が

〇四年のスマトラ島沖地震による甚大な津

べるだろうか? 南国のリゾート地、二〇

「プーケット島」と聞いて何を思い浮か

ャパット大学と協働してつくりあげる点に

この演習の第一の特徴とは、村人やラチ

の感想を多くの学生から伝え聞いている。

は「不安もあったが、なんとかなった」と

初とまどう学生もいるようだ。だが最後に

「日本」の環境を飛び出しての演習には最

コミュニケーション……。慣れ親しんだ

考え方も違う。そのうえ、英語での議論に

差しで体力を奪われる。食事も衛生管理の

る。夏のプーケットは外を歩けば強烈な日

接肌で感じながらのフィールドワークとな

いなかで、慣れない気候・文化・言語を直

精神力、技術、体力の鍛錬が重要だと言わ

ある。上述したテーマは決して日本側が用

茨城大学地球変動適応科学研究機関 (専門は社会心理学)

れているが、本教育プログラムでは、この

意したものではない。まず村人のニーズが 「体」を「知」に置き換え、 「心・技・知」の 先にあり、そのニーズを村人たち・ラチャ

わり演習を進める。現地にどっぷりと浸か

ートしてもらいながら自分たちと一緒に関

り、ホームステイをし、炊事も村人にサポ

一週間ほどマイカオ村の集会所で缶詰にな

修士課程の学生が夏休みの演習期間中、

はいかない。テーマは村の事情・関心が第

×だから演習のテーマは△△というわけに

ずつ変わってくる。○○先生のテーマが×

も選ばれるため、毎年教員の顔ぶれも少し

げていく。それに応じて日本側の引率教員

パット大学・茨城大学が話し合って拾い上

とまどいや新たな発見を行いながら ――時

るアプローチの違いや調査の視点の違いに

が一つのテーマに関して、専門の違いによ

場合も出てくる。専門が全く違う学生同士

はない。物理が専門でテーマが農業という

ワークのテーマが必ずしも合致するわけで

以降にどう反映されるかは今年の成果次第

の方向性は定まったが、その計画が来年度

いることの現れではないかと思う。今年度

提案があった。この演習が着実に前進して

隣の地区にも拡大してみてはどうかという

第四地区のみに絞っていたフィールドを近

るなかで、村人側からこれまでマイカオ村

三位一体となった人材育成を目指している。

る一週間である。今年で四回目となる本演

にぶつかり、もがきながら ――演習に取り

習だが、村人の想いと演習の方向性を上手

一なのである。場合によっては、現地の様

く昇華し、今後も村人・現地大学と協働し

子・状況を見て、急きょテーマが変更にな

ードルかもしれないが、その壁と格闘した

習であるが、回を重ねるごとに村人や現地

経験は、再び自らの専門へと戻った時に大

大学(プーケット・ラチャパット大学)と

第二の特徴として、参加する学生の専門

ての「サステイナブルな演習」を目指して

である。ルーティンでは回っていかない演 性の違いである。この演習には、人文学・

きな力や自信となるのではないだろうか。

組んでいく。専門外への取り組みは高いハ

村に見え隠れする課題について、村人と

教育学・理工学・農学と様々な専門を持つ

25

も増えてきている。 現地の学生を交えて議論する。テーマも

ところで今年度の演習の話し合いを進め

( 『サステナ』第 号)

学生が参加する。自分の専門とフィールド

行きたい。

「津波からの避難調査(茨城県も二〇一一

るという例も出てくる。

現地での田植え 体験

の関係も深まり、村人や現地学生の参加者

タイの学生と議論を 戦わせる


各観測地点では、葉面積や土壌水分の測

測定中には、ヒルに噛まれていたり、ハチ

ダ大学のラギール先生に同行してもらい、

の巣に遭遇して刺されたりと、日常生活で

が輸入原料であり、そして輸入パルプ材の

また、植林地内の現場調査では、植林会

はあまり体験できないハプニングもありま

定、それから葉の採取も行い、葉の含有水

社のスタッフの方に車の運転をお願いしま

すが、現地のスタッフに助けられながらフ

現地の方とのコミュニケーションをとって

す。植林地内は、どこへ行っても、森林と

ィールド調査を行っています。

原料の内の約八〇%が人工林低質材と呼ば

ラリアなど熱帯地域での植林事業に参入し

道路に囲まれた全く同じような景色で迷っ

分量や葉の厚さなどを測定します(図) 。

ており、その面積は急速に増加しています。

てしまいそうなのですが、スタッフの方の

います。

このことからも、遠く離れた海外の植林地

れるもので、早生樹もこれに分類されます。

も、私たちの生活に関わっていることが分

オマスを推定する研究を行っています。人

空港から車で四時間ほどかかります。途中、

植林地までは、スマトラ島のパレンバン

ある広大な面積ですので、朝から調査を始

の管理区域だけでも、大阪府ほどの面積が

動していきます。私たちが対象とする一つ

ます。

ドネシアでの研究を続けていきたいと思い

ろいろな方のご協力に感謝しながら、イン

文としてまとめられています。今後も、い

そして、これまでの共同研究の成果は論

現在、日本企業も、東南アジアやオースト

私たちの研究グループでは、インドネシ

先導によって、車を走らせて観測地点へ移

インドネシアの 大規模植林地での調査 小林祥子 (こばやし しょうこ)

ア・スマトラ島の大規模植林地において、 かります。

工衛星データを用いるのですが、実際には

市 場 に 寄 っ て、飲 料 水、そ れ か ら ペ ン ペ

めても、一日に八地点ぐらいが限度です。

立命館アジア太平洋大学アジア太平洋学部助教 (専門は環境動態解析)

マイクロ波衛星データを用いた森林のバイ

衛星データだけでは正確な推定を行うこと

(魚をすり身にして蒸したもの)をお土産

( 『サステナ』第 号)

が難しいため、地上観測データを解析に取

く見かけます) 。三時間ほどして植林地内

に買います(このペンぺは、パレンバンの

に入った後も、延々と続くように思える植

名物だそうで、空港に行くとペンぺの入っ

本研究プロジェクトは、京都大学・生存

林地の中を走り、現地スタッフが働いてい

り入れる必要があり、そのため、フィール

圏研究所教授の川井秀一先生によって、一

る場所へ向かいます。植林地内には、火の

ド調査も行いながら研究を進めているとこ

〇年ほど前に立ち上げられ、現在は、京都

見櫓が所々に立っているのですが、道中に

た段ボール箱をいくつも持っている人を多

大学・生存圏研究所、インドネシア・ガジ

毎回同じ火の見櫓へ立ち寄るようにしてい

ろです。

ャマダ大学、植林会社、立命館アジア太平

登り、植林地の様子や変化を観察しますが、

洋大学の共同研究として調査研究が進んで

目の前に広がる見渡す限りの緑に圧倒され

ます。高さ四〇メートルほどの火の見櫓に

私たちが対象とする産業植林地は、熱帯

ます(図) 。

います。 林が伐採された後に森林が再生せず、長い

植林地に滞在中は、植林会社のスタッフ

間にチガヤ草原となっていた場所に作られ たものです。この植林地では、アカシアと

の方とのミーティングを行ったり、植林地 ッフの方の協力なしに、調査はできません。

観測地点での調査.

内の調査へ出掛けたりします。現地のスタ

)が植えられていますが、その名の trees 通り、成長がとても速く、六~七年ほどで

私は、いまだインドネシア語を習得してい

呼 ば れ る 熱 帯 早 生 樹( Fast-growing

二〇メートルの高さになるため、近年は木

毎回、研究メンバーの一人であるガジャマ

ないため、インドネシアでの調査の際は、

現在、日本のパルプ・チップ材の七〇%

71

材資源として注目されています。

火の見櫓から 見た大規模植 林地内.

28


忘れられた当たり前を探す: 目からウロコのフィールドワーク⑧

(もりやま めい)

シイラ漬漁の世界

冷蔵庫横のオンチャンたち 森山芽衣

のは漁協の組合長さんだった。しかし、実 オンチャンたちは、水揚げを手伝いつつ

際に定点観測をしたことはない。 誰がどれくらい獲ったかを把握し、また誰 それの健康状態、家のゴタゴタ、ペットの 種類など、多岐にわたる情報を冷蔵庫横で

ク、福岡ではマンビキ、宮崎ではマンタと

シイラという魚がいる。高知ではトオヤ のまま自転車の前かごに入れて肌着でウロ

なると昼食にお家に帰り、またシイラを丸

報通なのだ。オンチャンたちはサイレンが

やり取りする。オンチャン達はかなりの情

も呼ばれ、正月や結納などハレの食事に用 ウロしていたりもする。

東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程 (専門は漁業地理学)

いられる地方もあれば、忌み嫌われ食され

が五〇代、最年長は七八歳だ。

にまで減少している。シイラ漁師も最年少

は五〇隻以上もあったが、現在では一五隻

年代にピークを迎えた。当時シイラ漬漁船

んになった興津のシイラ漬漁は、昭和五〇

まき網で獲る「シイラ漬漁」だ。戦後に盛

法は竹で出来た浮き魚礁に集まるシイラを

では、シイラが漁獲量の八割を占める。漁

私がお世話になっている高知県興津漁協

ちょっとした哀愁が漂っているように思え

皆で集まって楽しいという雰囲気よりは、

カのオンチャン達が集う場なのだ。だから、

イラとの付き合いがなくなって寂しい、オ

の深さを感じる。冷蔵庫横は、オキでのシ

営まれた年月の長さ、シイラとの付き合い

どの言い伝えを聞くと、興津でシイラ漁が

番が吹くとシイラが水面にあがってくるな

やスモモがならない年は大漁になる、春一

ときにはシイラの話も聞く。山にヤマモモ

座り、オンチャン達とおしゃべりをする。

なカッコイイことは考えていないだろうけ

日々の表れのように思える。本人達はそん

チャン達の複雑な関係が積み重ねられた

蔵庫横に漂う哀愁は、そんなシイラとオン

鈍色とがまざった「海色」をしている。冷

いなのだ。泳ぐシイラは、緑色と群青色と

し、なんと言っても、オキのシイラはきれ

る。

ャン達が座ることができる特等席にも見え

横はシイラや海との戦いを引退したオンチ

象徴する場所に思えた。でも今は、冷蔵庫

ウの墓場のような高齢化社会の物寂しさを

する。興津を訪れた当初は、冷蔵庫横はゾ

そこには漁師としてのプライドが見え隠れ

私も天気のいい日には冷蔵庫横の右端に

漁師を引退したオンチャンたちも家に引

る。

ない地方もある。地域性が強い魚だ。

きこもっているわけではない。特に用事が

誰か年寄りが死ぬと左に一つずつ詰めて座

りの漁師は右端に座らなければいけない。

って左側から年長順に座る。引退したばか

場所だ。冷蔵庫横には、席順がある。向か

日当りがよく、確かに憩うにはぴったりの

をしたりボーっとしていたりする。そこは

の大きな冷蔵庫の横に椅子を並べ、世間話

げを手伝ったりもするが、基本的には漁協

アな関係なのだろう。けれど、そればかり

こともある。生活や命がかかっているシビ

うだ。オキは地獄と隣り合わせ、と聞いた

と、なかなか一筋縄ではいかない関係のよ

日にはしょんぼりしていることから察する

大漁の日には鼻息荒く帰ってきて、少ない

いは、漁師ではない私には想像がつかない。

オキでのオンチャン達とシイラの付き合

て、現役は滅多に冷蔵庫横には座らない。

師はオカの河童になったらいかん」と言っ

何かが興津のシイラにはあるようだ。 「漁

るのだと思っていた。しかし、それ以外の

糧で、ほかに獲るものがないから獲ってい

初は、そんなシイラは興津の唯一の生活の

ギ」などさんざんな言われようである。当

シイラは「魚価が低い雑魚」 「ネコマタ

魚だと思う。

ったシイラは、やはり海色をしたキレイな

ライド、オバチャン達の人付き合いをまと

られるようになった。冷蔵庫横の哀愁やプ

増えるにつれて、シイラに興津の生活が彩

のたわ言のようだ。興津で過ごした日々が

マタギという評価は獲れたてを知らない人

し、お裾分けするオバチャン達には、ネコ

( 『サステナ』第 号)

じゃあるまい。獲るよろこびもあるだろう

シイラの干物やたたきのおいしさを自慢

漁協に水揚げされたシ イ ラ.6 月 は シ イ ラ の水揚げがピークに達 し,市場も賑わってい る.

るから定点観測してみろ、と教えてくれた

れど。

なくとも市場に来る。船が港に入れば水揚

筆者と漁協の組合長. 毎 年 10 月 15 日 に 行われる宮舟神事にて.

26


るものをさす。だから、葉っぱだったり他のものだ

ーうー」といった喃語から始まり、だんだん単語、

赤ちゃんが言葉を話し始めるとき、最初は、 「あ

みとりが必要になる。一番不可解なのは、 「ぷーち

が金曜日に食べたもの」=「オレンジ」 、という読

曜日!」などといい、これは、 「はらぺこあおむし

カラフルな絵で描いた『はらぺこあおむし』 。もう十分すぎ

ものを食べつづけ……。最後はきれいなチョウになるまでを、

卵からかえったはらぺこのあおむしが、月曜日からいろんな

ったりする。さらに高度になると、オレンジを「金

二語文、と発展してしゃべることができるようにな

ーぱー」で、これは変換を知っていないと絶対に理

るほど有名な絵本ですが、歌があるのをご存じでしょうか。

あおむし、ばぱぱん、ぷーちーぱー

っていく。

解 不 能 で あ る。 「ぷ ー ち ー ぱ ー」=「き の こ」 。な

心地いいリズムとやさしい歌声で、子どもたちに大人気。

『はらぺこあおむし』

その途中で、 「○※△×」と理解不能な宇宙語と

ぜ!? (でも毎回きのこを見て言うのだから間違

なん

もいうべき言葉が出てくる。舌たらずなのね、とほ

ス作りの会に参加したことがある。同じ単語でも、

(こどもサステナ 文・構成 平松 あい)

べましょう ←筆者苦い経験談)

サナギから羽化した時に衝撃を受けないためにも、事前に調

(ただし、キャベツについている青虫はガの幼虫の場合も。

難しくないので、おうちで飼ってみてはいかがでしょうか。

モンシロチョウはキャベツなどアブラナ科を食べて育ちます。

アゲハチョウはミカン科の葉、

感動ものです!

るのを観察したら、それはもう

を育て、サナギからチョウにな

ところで、実際におうちで青虫

あおむしを飼う

いない)

ベリー。これらはまだやさしい。 「つつじばい」は

異なる分野や場面によって用いる意味が異なるため、

というようなことを、ぺらぺー

『エリック・カール CD 絵本うた』 コンセル 定価 2310 円

ほえましい場合もあるが、明らかに変だよ、という

子どもの頭の中は未知である。しかし言葉という のは面白くて、同じ言葉でも人によってイメージし

名前をつけていることがある。例えば、 「ばぱぱん」 「ぶどうべびー」 「つつじばい」

たり認識したりするものが違うことがある。 情報科学の分野で、オントロジー(概念体系)と

「どんぐり」 「あおむし」 「ぷーちーぱー」 いったい何かおわかりだろうか。

滑 り 台(こ ち ら や や 難?) 。 「ど ん ぐ り」は そ の ま

知識を体系化して分野横断的な研究に活用しようと

いうのがあり、以前、研究で用いる単語データベー

ま? と思いきや、答はなんと「タンクローリー」

いうものだ。が、膨大かつ緻密な作業で、なかなか

「ばぱぱん」はバナナ。 「ぶどうべびー」はブルー

(語感が似てる?) 。お次の「あおむし」は、ただの

大変そうだと思った記憶がある。

いいのだが……。

こんな風に勝手に言語データベースが作られれば

らと口にしだす(要注意である!) 。

覚えていたんだ

のうちしゃべり始めると、え! こんなことをいつ

で、インプットはしっかりされているのである。そ

き放題話してはいけない。アウトプットがないだけ

赤ちゃんは何も話さないからといって、大人が好

青虫ではない。絵本『はらぺこあおむし』に出てく

さい

夏の号

0歳からの こども サステナ

2012

にまなぶ

!?

ごう なつ


忘れられた当たり前を探す: 目からウロコのフィールドワーク⑨

祖父の郷里を フィールドワークする 大地俊介 (おおち しゅんすけ)

家族が駆けつけた時にはすでに意識不明の

郷里の島での一人暮らし中、脳梗塞で倒れ、

た修士二年の春、母方の祖父が亡くなった。

沖縄の離島でフィールドワークをしてい

にまで減少し、典型的な限界集落の様相を

えていた人口が二〇一〇年には二七〇〇人

高齢の現実は厳しく、戦前には一万人を超

今も息づいている。一方、離島を覆う過疎

シドンや数々の民話で彩られた民俗世界が

俗学的資料の宝庫として知られ、来訪神ト

てもらうという過程でもあった。確かに自

ら地域や家族とのつながりの大切さを教え

究するという行為であると同時に、彼らか

は自分にとって、そこで暮らす人びとを研

ーとして国内の農山村を歩いてきた。それ

ありかたについて考えるフィールドワーカ

は、主に森林資源に立脚した内発的発展の

団塊ジュニアとして東京郊外に育った私

漁場保全や航行目標のため、近世以前から

生産等の稼業用の利用が展開していたこと。

用する慣習が発達しており、その中で椿油

絶されているため、天然生林を自給的に利

でが共的に管理されていたこと。外部と隔

ではごく最近まで山林原野、田畑、磯場ま

見」していった。すなわち、狭小な下甑島

と 学 生 た ち は、次 の よ う な こ と を「再 発

してみようという試みである。そして、私

在感が圧倒的なこの島で、あえて森に注目

しを読み解く」とすることにした。海の存

でも島に残ることを望んだ。その頃の仏壇

は息子たちからの同居の誘いを断り、一人

す篤くなっていった。祖母が亡くなった後

晩年の祖父は、先祖を敬うことにますま

この島に続いていることを誇らしく感じた。

特別な体験だった。自分の根っこの一部が

の郷里で確かめることができたという点で、

して自分にとっては、それを直接的に自分

り」をここで深く実感したことだろう。そ

私と同じように、 「地域と家族とのつなが

初めて沖縄でフィールドワークをした時の

にとって新鮮であったようだった。彼らも、

イティブと呼ばれる平成生まれの学生たち

たたかい」といった。フィールドワーカー

然はさびしい、しかし人の手が加わるとあ

寞としていた。民俗学者の宮本常一は「自

からみた島の風景は森も海も里もどこか寂

交ぜになったものだったのではないか。

まなざしは、そのような安堵と不安が綯い

安だったにちがいない。臨終の際の祖父の

てくることができるのだろうか。大いに不

と同じように祭られ、祖霊として島に帰っ

いた筈である。自分もこれからずっと先祖

いだろう。祖父もそのことを肌身で知って

は村落自体が消滅することもめずらしくな

うか。

( 『サステナ』第 号)

72

島県薩摩川内市の地域貢献事業に応募し、 平成生まれの学生たちとともに祖父の郷 里・下甑島でフィールドワークを実施する ことになった。 下甑島は、九州の西方約四〇キロメート ルに浮かぶ甑島列島の一つで、南北に細長

状態だった。そこで私は二晩、虚空をみつ 呈している。

く、削げ立った岩礁のような島である。民

めたままの祖父の傍で過ごした。島に生ま

宮崎大学農学部森林緑地環境科学科助教 (専門は森林経済)

れ、島で死ぬことを望んだ祖父。祖父には

分にも父方・母方の郷里がある。しかし、

魚付林を意識的に保全してきたこと、等で

として、また、孫として、祖父に慎ましく

私たちは研究テーマを「森から島の暮ら

どちらとも「結びついている」という実感

ある。つまり、下甑島には里を媒介に森と

も賑わいのあった昔の島の風景をみせてあ

臨終の風景がどのようにみえていたのだろ

は乏しい。それだけに、祖父の死をどのよ

を拝む祖父の姿が印象に残っている。祖父

げたい。そんな魔法をみつけられないだろ

う。

うに受けとめるべきかがずっと心に引っか

海とが有機的に結びついた小世界が形成さ

は先祖に対する勤めを果たすことで、島の フィールドワークを通じてそのような島

しかし、限界集落の現実は厳しい。今後

島に滞在中、祖父の墓参りをした。そこ

かっていた。

有機的な結びつきの一部になろうとしてい

この個人的な宿題について研究者として 年ほど経った二〇一一 (平成二三)年だっ

世界を追体験していく過程はデジタル・ネ

28

考える機会を得たのは、祖父の死から一〇 た。その前年に大学に職を得た私は、鹿児

たのかもしれない。

れており、今日においてもその残照がしっ

夏に訪れた祖父の郷里.生命と物質が循環する 小さな世界のようだった.

かりと捉えられた。

海からみた魚付林.海と森とは一続きのものだと実感できる.


自然の中で遊び、心がなごんだ次の日の早朝、森

込みの根元にいるだんご虫や、池にいるザリガニと

子どもは自然が本当に大好きで、都会でも、植え

自分が自然の一部になったようである。目を開けて、

声、吹き抜けていく風、肌に当たる日差し、まるで

音の数に耳を澄ませる。近くで遠くで聞こえる鳥の

こんなことあんなこと……。こどもの目線で

木があるとどんないいことがある?

作・ユードリイ/絵・シーモント 訳・さいおんじ さちこ (偕成社 一 ・〇五〇円)

『木はいいなあ』

りに夢中になって遊ぶ。セミの抜け殻を見つけると

ゆっくり森の中を歩くと、ふだん気づかないような

書かれています。この本は、アメリカで都市

の中で木の根元に腰かけ、目を閉じて聞こえてくる

宝物のように嬉しがり、チョウやバッタを捕まえる

森の中の自然の営みに気づく。生きる力や優しさが

化が進み自然が失われていくのを憂えて書か

シェアリング・ネイチャー

のがうまければヒーローである。

感じられ、一本の木が特別な存在になったりもする。

れたもので、初版は1950年代です。作者

の幼い時の木とのふれあいをもとに、やわら

そのメッセージに深く心の目が開くと、日常生活 に戻ってもその感覚が自分のものとして残っていて、

(シェアリング・ネイチャー) Sharing Nature という活動をご存じだろうか。日本ではネイチャー ゲームとして知られている。さまざまな感覚を使い

かくやさしく書かれています。

イチャーゲームの会を活用するのもいい。

を踏み入れてみてはいかがだろうか。全国にあるネ

たちも大人たちも、時にはゆったりと自然の中に足

自然にふれあうことが少なくなった現代の子ども

不思議である。

にまなぶ

(こどもサステナ 文・構成 平松 あい)

になって他の命をつなぐもの。静かな自然の営み。

たのだろう。どんぐりとして命をつなぐもの、犠牲

たわる穴のあいたどんぐり。虫の赤ちゃんが出てき

土にしっかり根をはっている。その隣にひっそり横

パックリと皮をやぶって、どんぐりが芽を出した。

いのちのつながり

ながら自然とふれあい、自然との一体感、自然への 共感を育むもので、米国のジョセフ・コーネル氏か ら始まった。 言葉の通り「わかちあい」ということをとても大 切にしており、自ら自然を体験し、感じ、それを仲 間とわかちあうことを重視する。リーダーも「自然 案内人」という立場で、日常の中で閉ざされていた

春の号

感性が徐々に開かれるよう、そっと手助けするだけ である。

2013

0歳からの こども サステナ さい

ごう はる


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