サステナ第46号

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全体司会 それでは時間となりまし たので、一般社団法人サステイナビリ ティ・サイエンス・コンソーシアム(略 称SSC)の2018年度の公開シン ■開会挨拶

すみ あきまさ

住 明正

ポジウム「持続可能な消費と生産」を 始めさせていただきます。最初に、S SCの新理事長の住よりご挨拶をさせ ていただきます。

多かったのですが、昨今は国連のSD Gs(持続可能な開発目標)という言 葉が世界的に広まり、サステイナビリ ティは具体的に日常生活のレベルにま で入ってくるような課題となってきて います。 今回のテーマは「持続可能な消費と 生産」です。昔ですと、 「持続可能な生 産」 を考えるということが普通でした。

一般社団法人サステイナビリティ・サイエンス・コンソーシアム理事 東京大学国際高等研究所サステイナビリティ学連携研究機構特任教授

本日はお集まりいただきましてまこ とにありがとうございます。サステイ ナビリティ・サイエンス・コンソーシ アム(SSC)は発足してからかれこ れ8年になりますが、毎年1回、テー マを変えてシンポジウムを開いており ます。最初のころは、 「サステイナビリ ティとはどんなことなのだろうか?」 といった割と哲学的な話をすることも

とにかく物が足りないから作るのだと いうことで、生産の方にばかり意識が あって、消費については考えるまでも ないといったような状況でした。しか し、 やはり時代が非常に大きく変わり、 生産だけを考えていたのではいけない、 むしろ消費する分だけしか作ってはい けない――そこまでは言わないとして も、生産と消費の両面を合わせて考え

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サステイナビリティ・サイエンス・コンソーシアム(SSC) 2018 年度公開シンポジウム

持続可能な消費と生産

持続可能な開発目標(SDGs)の 12 番目のゴール「つくる責任 つかう責任」はモノを つくり,消費し,廃棄するいままでの一連の経済活動から,どのようにモノや資源を循 環させて持続可能な社会を構築していくかに取り組むものです。家庭における循環から グローバルな循環まで,さまざまな研究活動が行われています。このシンポジウムでは、 第一線の研究を進めている方々と来場の皆さまとで,どのように「持続可能な消費と生 産」を実現していくか,ともに議論し考えました。 ●主催:一般社団法人サステイナビリティ・サイエンス・コンソーシアム(SSC) ●共催:公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES) 東京大学国際高等研究所サステイナビリティ学連携研究機構(IR3S) ●日時:2018 年 6 月 12 日(火)13:00~17:00 ●会場:公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES) 2


■基調講演1

アジアにおける 持続可能な消費と生産パターンの確保について 平尾雅彦 ひらお まさひこ

どもの研究プロジェクトにも「アジア 地域における」というのが付いていま して、基本的にアジアを対象としたお 話をさせていただきます。 アジアとはどこなのかといいますと、 日本はもちろんアジアに含まれますし、 消費や生産ということでは中国が非常 に大きな存在になっています。私ども の研究プロジェクトとしては、基本的 に東南アジアを中心にして研究をして いまして、今日ここでアジアというの は主に東南アジアのあたりを指すとお 考えいただければと思います。

東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻教授

今日はSSCの講演会の場にお招き いただきましたこと、まことにありが とうございます。シンポジウムのテー マは「持続可能な消費と生産」です。 このテーマに関連して、私どもが進め ております研究プロジェクトの内容を ご紹介させていただきたいと思います。 基調講演の後には、原先生がモデレー ターとなっての討論がありますので、 皆さんからいろいろなご意見をいただ けることを楽しみにしています。 今日の私の講演題目には「アジアに おける」というのが付いています。私

持続可能な消費と生産( SCP) とは何か

ここにいらっしゃる方には申し上げ るまでもありませんが、2015年は 歴史に残る年でした。 (図①) 。6月の 先進国首脳会議(G7)で資源効率性 の向上が議論され、9月に国連持続可 能な開発サミットで持続可能な開発目 標(SDGs)が採択され、12月に 国連気候変動枠組条約の第21回締約

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なければいけないというように雰囲気 になってきました。つまり、サステイ ナビリティを考えるときの目線が、消 費をする自分たちの生活のところにま で入ってきているということが新しい 時代なのだろうと思います。 今日はいろいろな方々に議論してい ただいて、できれば21世紀型の持続 可能な生活・社会様式が実現する試み の一助になればと期待しております。 どうぞよろしくお願いいたします。

全体司会 ありがとうございました。 本日のここからの総合司会は、SS Cの理事で東京大学国際高等研究所サ ステイナビリティ学連携研究機構教授 である福士が当たらせていただきます。 それでは、福士先生、お願いします。 福士謙介 皆さま、今日はおいでいた だきましてありがとうございます。「持 続可能な消費と生産」 というテーマで、

二つの基調講演とパネルディスカッシ ョンを企画しています。 最初の基調講演者をご紹介いたしま す。平尾雅彦先生です。平尾先生は東 京大学をご卒業後、日立製作所を経て 1996年に東京大学大学院工学系研 究科化学システム工学専攻にご就職さ れ、さらに2006年からは同教授を お務めです。専門はLCAを活用した 環境配慮生産システムで、特に物質の 生産と消費に関わる研究では、日本そ

して世界の第一人者として知られてお ります。それでは平尾先生、どうぞよ ろしくお願いいたします。

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図②

図③ 7


国会議(COP21)でパリ協定が採 択されました。 これまでは、持続可能な開発のよう な問題は国が考えないといけないこと だとして、国どうしで議論してきまし た。SDGsやパリ協定が出てきたこ ろから、企業や自治体にも大きな役割 があって、自分たちも動かなければい けないと考えるようになってきました。 そして、個人個人も考え方を変えてい くことが期待されるようになってきま した。つまり、国も社会も企業も個人 も 「ゲームチェンジ」 となったのです。 SDGsには17の目標があります (図②) 。その12番目に「つくる責任 つかう責任」があります。これがすな わち持続可能な消費と生産(SCP、 Sustainable Consumption and Pro )です。 -duction SCPとは何かというと、実はあま りまだよくわかっていません。私ども はそれをテーマにして研究プロジェク

図①

トを進めていますので、「わからないと は何だ?」と言われそうですが、正直 まだよくわかっていないのです。 SDGsの目標にはそれぞれにいく つかのターゲットがあります。SCP についてのターゲットを見てみると、 ターゲットはこのようになっています (図③) 。1番目に、国連環境計画(U NEP)の10年計画枠組み(10Y FP)を頑張って実施しましょうとい うことが掲げられています。2番目が 天然資源の管理。3番目が食料の無駄 をなくそうということで、ここからフ ードロスの問題がかなり注目されるよ うになりました。4番目が化学物質や 廃棄物の管理で、すでに合意された国 際的な枠組みに従って2020年まで に達成しましょうと書いてあります。 国際的な枠組みというのは、国際的な 化学物質管理のための戦略的アプロー チ(SAICM)のことで、それを2 020年までに達成することを目標と

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図⑤

)のような動きもあり、 Energy 100% 公平・公正な雇用をする、イノベーシ ョンを起こす、廃棄物を出さない、化 学物質の管理をする、省エネルギーの 製品を作り出すといったさまざまなこ とが含まれます。 この図から、SDGsの12番目の 目標を達成しようとすることが、実は SDGsの他の目標を達成するための 活動のコアになるということがいえま す。12番目の目標を達成しようとし てそれについてだけ考えるよりも、他 の目標を達成するような生産活動・消 費行動をすることによって、12番目 の目標に近づいていけるということで す。

a i s A P o C E P

プロジェクト

ここで私たちの研究プロジェクト 「アジア地域における持続可能な消 費・生産パターン定着のための政策デ

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しています。5番目が廃棄物を減らす ということ、6番目が企業は自分たち の持続可能な行動についてきちんと報 告しましょうということ、7番目が持 続可能な公共調達(SPP)の慣行を

図④ 促進するということ、8番目がライフ スタイルに関する情報と意識を持つよ うにするということです。ライフスタ イルを変えましょうとまでは書いてあ りません。さらに、持続可能な消費・ 生産形態を促進するための科学的・技 術的能力の強化を支援するということ や、 特に観光業について触れていたり、 税制や補助金の合理化の問題について も触れていたりします。 これらのたくさんのターゲットを見 て、それでSCPがわかるようになり ましたでしょうか。 これだけで、はっきりとこういう形 態というものがみえていたとはいえな いと思いますが、持続可能性に関して 消費と生産は大きな課題となっていて、 本日のSSCの会合においても、こう して企業の皆さんと私たち学の人間と が一緒になって議論をする場があると いうのは、やはり生産を担う企業の 方々の貢献を大きく期待しているから

です。SDGsにおいても第67段落 として、民間企業のイノベーションや 創造性に期待するということが書かれ ていて(図④) 、生産に関わる人たちの 役割がすごく大きいということを皆が 認識し、私たちも期待しているところ です。 生産に関して、クリーナープロダク ションとかゼロエミッションといった ことがだいぶ前から議論されてきまし た。SDGsの12番目の目標である を中心とし 「つくる責任 つかう責任」 て、その波及効果まで見てみると(図 ⑤) 、 クリーナープロダクションやゼロ エミッションといったこともここに含 まれ、海洋資源を調達するときにはサ ステイナブルなものを調達しましょう、 貧困をなくすようなエシカル調達をし ましょうといった議論もここに含まれ ています。エネルギーを100パーセ ント持続可能なエネルギーで調達しよ

うとするRE100( Renewable

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図⑧

大学が参加しています。 実はテーマ3の充足性アプローチが、 このプロジェクトにとってはキーワー ドとなりつつあって、皆さんからいろ いろとご意見をいただいているところ です。 「充足」という言葉をどう考えて いくのか、この後でも議論させていた だくことになるかと思っています。 どうして「アジア地域における」な のかといいますと、図⑧を見ていただ くと、アジア太平洋地域の国内物質消 費量(DMI)は非常に大きく伸びて います。特に中国の伸びが大きくて、 日本はそれほど大きくは変化していま せん。中国が極端に大きいので、本当 は中国を対象にしなければいけないの かもしれませんが、アジア地域全般で 大きく伸びてきていて、これからもま すます伸びていくだろうということで、 アジアに注目する必要があるのです。 温室効果ガスの排出量の変遷をみても、 これと同じようなグラフになります。

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ザインと評価」 ( PECoP-Asia )につい て紹介させていただきます(図⑥) 。こ れは環境省の環境研究総合推進費戦略 的研究開発領域( S-16 )として201 6年度からスタートし、現在は独立行

政法人環境再生保全機構から支援を受 けて推進しているプロジェクトで、地 球環境戦略研究機関理事長の武内先生 をリーダーとして進めておられる「社 会・生態システムの統合化による自然

図⑥

には4つテーマがあっ PECoP-Asia て、11の研究機関が参加しています (図⑦) 。テーマ1が「消費と生産の関 連性を強化した政策デザイン」で、東 京大学、大阪大学、産業技術総合研究 所、立命館大学が参加し、テーマ2が 「多様なステークホルダーの活動・原 動力に根ざしたアジアの消費・生産パ ターンの転換方策」で、国立環境研究 所、神戸大学が参加し、テーマ3が「ア ジアにおける資源環境制約下のニーズ 充足を目指す充足性アプローチへの政 策転換」で、地球環境戦略研究機関(I GES) 、 九州大学、 南山大学が参加し、 テーマ4が「持続可能な開発目標(S DGs)からみた持続可能な消費と生 産のガバナンス」で、慶応大学、国連

)と同時にスタートして、両者 ( S-15 は何かと比較されやすいのですが、私 どもは私どもとして頑張っているとこ ろです。

資本・生態系サービスの予測評価」

図⑦

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生産については、特に日本や韓国で は非常に高度化し、かつ専門的になっ て、きわめて効率よく大量生産する仕 組みができあがってきました。消費者 からすると、どうやって作っているの かとてもではないがわからないという 状況にまでなっています。 今日ここにいらっしゃる方は比較的 年齢の上の方が多いようですが、私も 子どものころに、わが家にもやっとテ レビがきたとか、洗濯機がきたとかい うことを経験しました。3種の神器と か3Cとかいわれるようなものを、お 隣も買ったからうちも買うという感じ で次々に買いました。 メーカーの方は、 とにかく作れば売れるという状況でし た。かつては産業振興が第一で生活は 二の次という感じでした。1967年 にできた公害防止の法律には、経済成 長との調和をとって公害の防止をする と書かれています。公害を防ぐという 目的のためだけでなくて、経済との調

和を取らなければならなかったのです。 1960年代は生産の方が大事だとい う時代だったのではないかと思います。 さらに、大量廃棄ということが行われ ていて、廃棄段階についてもあまり考 えられていませんでした。 そのようなことから、図⑨には環が 描かれてはいるのですが、かつては大 きく分断されていて、消費と生産の間 は必ずしもつながっていませんでした。 の研究プロジェクトではこの S-16 絵をよく使っていて、もとはIGES のルイス・アケンジさんらが論文に描 いた図です。 左側にものづくりがあり、 つくられたものが右側に提供されて消 費に渡り、そして廃棄に渡ります。そ れがかつての流れです。いまは回収し て循環に回す方向になってきています。 設計・生産のあたりにおいては、日本 のメーカーの製品を見ればわかる通り、 80代以降は省エネで勝負するとか、 高効率で勝負するという流れにかなり

なってきています。また、さまざまな リサイクル制度ができてきて、循環が 進んできています。日本ではそうであ っても、アジアではまだまだという状 況です。 ともあれ、こうして環が回るように なってきつつあるのですが、モノの流 れの黒い線がどんどん太くなっていく ということが、消費の側のモノの所有 を求める結果でもありました。そのた めに、消費において、資源消費を減ら したり、使っているときの環境負荷を 減らしたりするためのライフサイクル や効率性の議論の位置付けが、今まで はまだまだ曖昧であったと思います。 ここを何とかして、消費の側でも持続 可能性をメインストリームにしていき たいというのがこの研究の位置付けで す。つまり、生産側にある効率改善型 の政策から、消費側にある充足型の政 策に変えていこうということです。

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図⑨

今後もこれまで通りの伸びを続けて いっていいのかというと、環境への負 荷を考えると、それはできません。デ カップリングという言葉がよく使われ ますが、生産あるいは消費を増やすと 同時に環境負荷も増えるという関係か ら脱却していかなければなりません。 それも、なるべく早く、なるべく大き く針路を変えなければなりません。そ のためにはどういう政策を考えていっ たらいいのだろかというのが私どもの 研究課題です。

生産と消費の環

モノを作って供給し、それを消費し て、一部は循環させて生産にもう一度 戻すような「循環の環」がこれまでも 一応は考えられてきました。しかし、 作る側あるいは供給する側と、消費す る側とは別々の活動であるとして、分 断して考えられていました(図⑨) 。

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消費のパターンであるとか、生産とい っても必ずしもモノを作るのではなく

て、サービス化によって物質的な消費 を減らしていくといったことによって、

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私たちが満足することと環境負荷や資 源消費が増大することとを切り離せな

図⑪


図⑩

充足と環境負荷との デカップリング

充足型の政策への転換はどういうこ とを目指しているのかというと、図⑩ を見てください。横軸は環境負荷と資 源消費で、従来は左側に描いてありま すように、消費も生産もそれぞれ拡大 して、消費が求めればそれに合わせて 生産が拡大され、生産が増えればより 大きな消費になるというスパイラルで、 それと同時に環境負荷も資源消費も増 えていきました。 より多く所有したり、 より多くモノを消費したりすること自 体が、私たちの自身の幸福に直結して いると私たちは思っていました。それ によって、経済的に発展しつつ、環境 負荷もまた増えていったのです。 これから私たちが望むのは、消費や 生産量を減らすとかやめてしまうとか いうことではありません。たくさんの モノを消費しなくても充足するような

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図⑬

で英文のままでお示しすることをお許 しください。一つの方向性が、 environmental policy domainから socio-economic technology policy へです。わかりにくいかもし domain れませんが、たとえば廃棄物をきちん と処理するというのは、どちらかとい うと環境だけについて考えていたので すが、社会システム的により広いとこ ろで考えるような政策を増やしていこ うということです。つまり、これまで の公害の防止とか廃棄物の適正処理に おいては、ピンポイントの政策で解決 していこうということが多かったと思 います。埋め立て地が不足するから焼 却炉を建設するというように、問題を その場ごとに解決していこうという状 況から、製造プロセス全体で資源消費 量を少なくしたり廃棄物の発生を抑え たりするクリーナープロダクションで あるとか、技術的にも制度的にもリサ イクルが発展して、社会システム的に

より広いところで考えるということで す。 サービスの面でも、 生産や使用時、 廃棄時までの環境負荷を考慮するグリ ーン調達とかインフラとしての公共交 通機関の建設と住民による利用といっ たことがあげられます。 さらにこれからは、社会を変えてい くようなところにまで進んでいかなけ ればいけないだろうと思っています。 たとえば、エコデザインとかリマニュ ファクチャリングとかの産業側の動き を、より大きく社会的な仕組みへと広 げていくのです。あるいは、シェアリ ングビジネスというのが最近大きく広 がってきていて、社会制度になりつつ あるというようなことも一つの例とし て挙げられるでしょう。AIとか情報 技術が発達してきたことによって、橋 とか道路のようなハードなインフラで はないソーシャルな仕組みも、一種の インフラないしプラットフォームとし て使えるようになってきていますので、

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いか、つまりデカップルできないかと いうことです(図⑩の右側) 。この絵で は、やや思い切って「充足による幸福」 と書いてありますが、幸福感につなが っていくということを期待していて、 充足と環境負荷とのデカップリングを 提唱しています。 研究プロジェクトの中で、南山大学 の鶴見先生が幸福と消費の関係につい ていろいろ調査しています。モノをた くさん持ったりたくさん消費したりす ることによって幸せになるのであれば、 幸福と消費の関係をグラフにすると、 ひたすら右上がりの直線なりカーブで 上がっていくということが予想されま す。ところが、いろいろと調べてみま すと、右上がりの線は途中から水平に 寝るような感じになります。よりたく さん持つこと自身がより幸せになるこ とにつながらない、つまり、たくさん 消費する人ほど幸福になるわけではな いようなのです。日本の内閣府の調査 図⑫

でも、 収入がある程度以上多くなると、 幸福だと感じる度合いが下がるという 傾向があります。先進国においては、 より大きな消費よりも別なところに幸 福感を求めるようになりつつあるので はないかと思われます。

社会のトランジションを目指す

生産と消費が分断化されている従来 の構造から、どのようにしてつないで いくのかということを私どもはいろい ろに検討していて、詳しい説明は省き ますけれど、図⑪のような絵を描いて います。そして、社会のトランジショ ンを目指していこうという絵が図⑫で す。 そのようなトランジションが果たし てできるのだろうかということで、私 どものプロジェクトの中で、四つの方 向性がありそうだということを議論し ています(図⑬) 。まだ議論の最中なの

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れにしていける可能性があります。そ のようなことがアジアにとってはとて も大事です。アジアは、まだまだ環境 が汚れていたり、効率的に悪いところ があったりします。それでも、地域の

それはまだまだもっと頑張ってと言い たいようなものではあったりするので すが、一生懸命やっているところと、 その隣でまた別ことを一生懸命にやっ ているところとをつなげていくことで、 社会のシステムが変っていくようにな るのではないかと思います。 以上四つの方向性があって、それら の方向に向かっていくために12の機 会があるということを、提言としてま とめているところです(図⑭) 。このよ うな政策を実行しなさいということま ではまだ言えないのですけれど、つい 先週ようやくこのように整理できたと ころです。7月18日からニューヨー クの国連本部でSDGsのレビューを するハイレベル政治フォーラム(HL PF)が開かれ、そのなかのサイドイ ベントとして、インドネシア政府が中 心になって議論をする場を設けること になっているので、そこでこの内容に ついての提案する予定です。IGES

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コミュニティは結構いろいろな取り組 みをしています。私たちの現地調査で も、うちのコミュニティでは一生懸命 に分別をしていますと、アジアの方々 が見せてくださって、日本から見たら 図⑭


それらによって消費と生産の間がより 近付く可能性があります。3Dプリン ターによって消費者側のニーズに基づ くオーダーメイド生産ができるように なるのかもしれませんので、それは消 費する分だけを生産するということに 近付いていく可能性を示すものではあ るといえるでしょう。 二つ目の方向性が、消費と生産の間 のリンケージを強めていくということ で、これがSCPに向けた大事なポイ ントになります。いろいろな強め方が あるだろうと思います。たとえばカス タム化、ローカル化された流れで製造 と消費をつなげたり、あるいは供給と 消費を仕組み上固くつなげて、モノを 送るのではなくてサービスを提供する ようにしたり、個人でモノを消費する ということから、リユースに回すよう なことで消費どうしをつなぐようにし たり、自分自身が消費者であり生産者 になったりと、いろいろなことがあり

うるでしょう。製造側の方でも、産業 間の生産と消費をつなぐ産業共生とい うような考え方をもっと強めるという ことも考えられます。 三つ目は、簡単にいうと、個人個人 でこまめにスイッチを切るとかクール ビズ運動といったことも確かに大事で はあるのですが、そういった日常生活 のなかでの技術の使われ方とか社会的 なインフラストラクチャーの設計とい ったところから、制度の改革まで含め て一体化するような政策を採っていく ということです。従来の製造と消費と 供給がバラバラになっている状況から、 完全に一体化したシステムとして機能 していくような形に社会的なトランジ ションが起きて、結果としてさきほど の幸福度のようなものが上がっていき つつ、環境汚染とか廃棄物は減ってい くというような形のシステムにしてい くのです。 消費者教育は大事ではあっても、そ

れだけでは消費者はなかなか動きませ ん。消費者が動かざるを得ないシステ ムに社会全体を変えていくというよう な考え方をとっていくのです。 四つ目が、ボトムアップのアプロー チがとても大事だということです。こ れは私たちだけではなくて、APRS

C P ( Asia Pacific Roundtable on Sustainable Consumption and )という組織と意見交換を Production していて出てきた意見です。 たとえば、 SDGsにはこういう目標があります と、トップダウン的にいわれても、人 はなかなか動きません。そもそもSD Gsは、ここにいる人たちは知ってい ても、たとえば東大の理系の3年生、 4年生でもほとんどが知らないでしょ う。知らなくても、多くの人々は実は 何かしら小さな取り組みはいろいろと しています。それらの取り組みをうま くネットワーキングすることで、社会 のシステムチェンジが起きるような流

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図⑮

図⑯ 21


のアケンジさん、堀田さんや国立環境 研究所の田崎さんとともに説明してこ ようと思っています。環境省からも高 橋地球環境審議官に参加していただき ます。これは何も日本からの発信とい うことで提案しようというのではなく、 私たちはインドネシアやアジアの人た ちが頑張ろうとしているのを応援して 一緒に提言できたらいいという立場で います。 私のような工学部の人間は、こうい うものをHLPFで発表して何かいい ことがあるのだろうかと、つい見返り を考えたりしてしまうのですが、少し ずつわかってきたのは、アジアにもこ ういう議論をしているグループがある ということを国連の会議で世界に伝え るのはとても大事なことなのです。そ の議論を日本の政府がきちんと支援し、 IGESや国環研のような国の機関が 連携して取り組んでいるということを 知ってもらうことも大切です。

シェアリングエコノミー 12の機会を逐一説明することは時 間の関係でいたしませんが、少しだけ 補足します。1番目に「 Consumption 」とありますの of experience matters は、モノの消費からコトの消費へと流 れ を 変 え ま し ょ う 、「 experience 」という形の消費を考えまし matters ょうという提案です。2番目は、代表 的な経済指標であるGDPで測るもの が必ずしも社会の本当の豊かさではな くて、社会の本当の富とは何であるの か、どう計測するのかを考えていくこ とも大事だということです。 3番目は、 パリ協定やESG投資の議論の進展に よって、環境に対する施策にきちんと 取り組む流れができてきているという ことです。少し飛ばして、8番目にシ ェアリングエコノミーがあります。こ れについて研究事例として一つだけ紹 介しておきたいと思います。

シェアリングエコノミーはいま非常 に注目されていて、ヨーロッパでもS CPの一つの流れとして大きく取り上 げられるようになってきて、私たちも 一生懸命に取り組んでいるところです。 本を読むということを例にして、シ ェアリングについて考えてみます(図 ⑮) 。本の提供スタイルとして、従来は 本屋さんに行って本を買うというのが もっとも普通でした。売切式です。最 近ですと、 インターネットで注文して、 宅配で届けてもらうということが多く なってきていて、それによって本屋に 行く時間を減らせるということがあり ます。 フリーマーケット式というのは、 古本屋で買うという旧来型のものもあ りますし、最近では個人間の取引を媒 介するようなサイトでオンラインで買 うのという形態もあるでしょう。レン タル・リース式では、図書館が以前か らあります。それからみんなで回し読 みするという個人間のシェアリング式

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図⑱

なっているところは、いまのところ実 際に行われているものが見当たらない ということで、もしかすると新しいビ ジネスがここから出てくるかもしれま せん。これは書籍に関して分析したも ので、異なる製品には異なるパターン での整理ができると思います。 このようにして書籍を売って誰かが それを所有するところまでをいろいろ なパターンに分類して、それぞれのパ ターンで環境負荷、たとえば温室効果 ガスの排出量(GHG)がどれくらい になるのかを評価します(図⑰) 。左側 が実店舗で新品の本を買って読む場合 です。自動車で買いに行くという前提 で計算してありますので、歩いて買い に行けばその分のGHGが減ります。 右側はシェアリング方式で、本を個人 どうしで貸し借りするという前提で計 算しています。電子メールで送れるよ うな電子版の書籍なら書籍の移動に際 してほとんどGHGは発生しませんが、

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図⑰

というのもあるでしょう。 このようないくつかの本の提供スタ イルを通して書籍を手にして本を読む わけですが、読書するにはそのための スペースが必要です。自分の家で読ん でもいいし、漫画喫茶のようなところ 読んでもいいし、図書館で読むという こともあります。本を読んだらそのま まポイと捨ててしまうということはま ずないとすると、どこかで本を保管す ることになります。家で保管するか、 図書館に行けばいつでも読めるので、 図書館に自分の本を全部保管してもら っていると思ってもいいわけです。 本の宅配は本屋に行く時間を提供し てくれるサービス、漫画喫茶は読書を するスペースを提供してくれるサービ ス、図書館は本を保管するスペースを 提供してくれるサービスというように、 サービスのあり方を定義し直すと、図 ⑯のようにマトリクス状に整理するこ とができます。ここでマス目が空白に

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なければなりません。 以上のようなシェアリングに関する 私たちの研究例を最後に簡単に紹介さ せていただいて、私の講演を終わりに したいと思います。ご清聴ありがとう ございました。

福士 ありがとうございました。せっ かくの機会ですので、会場からのご質 問がありましたら……。 それでは、私から感想を一点。先ほ ど先生からボトムアップの活動を世界 に発信することが大切であるというお 話がありました。フューチャーアース ではSDGラボといいまして、草の根 の活動を紹介することに50万円の資 金を提供するということをしていて、 世界中から公募したところ、10件の 枠に350もの応募があって、選ぶの が非常に大変だったということを経験 しました。SDGsを冠した活動がそ んなにもたくさんあるということに目

が覚めた思いがしました。

平尾 ぜひそうした活動を教えてい ただきたいと思います。 福士 それでは続きまして、2人目の 基調講演者の紹介をさせていただきま す。株式会社フルッタフルッタ代表取 締役CEOである長澤誠様です。長澤 様は2002年にフルッタフルッタを 設立され、その後、アマゾンのフルー ツなどを介したさまざまなビジネスを 展開しておられます。今日は「サステ イナブルと『食』の新カテゴリー―G OOD FOODとは」というタイト ルで発表していただきます。それでは 長澤様よろしくお願いいたします。

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本を貸す人が車で移動したり、逆に借 りる人が車で移動したりすると、本を 貸し借りするたびにGHGがどんどん 増えていくことになります。書籍を製 造するときや処分するときに出るGH Gは、シェアする人数で割り算するの で、貸し借りの回数が増えれば1回当 たりのGHGは減っていきます。本が シェアされればその点ではいいわけで すけれど、消費者の移動であるとか提 供者の移動というところまで含めて議 論をしていかないと、全体としてGH Gでみたときに本当にいいのかどうか わかりません。その他の方式について も計算してみたのが図⑱です。 ここで、本というものは、それを読 んでいるときにはほとんどエネルギー 消費しない製品なのでこのような分析 になりましたが、使用中にエネルギー を消費する製品の場合は少し違ってき ます。車は乗るたびにGHGを出すの で、簡単に借りられるようになって乗 る回数が増えると、GHGの発生は増 えてしまうということになるかもしれ ません。また、コインランドリーにつ いても調査しているのですが、コイン ランドリーは1台の洗濯機が大きくて 家庭の洗濯機よりも電気の消費量が多 くなります。またコインランドリーで は乾燥まで行なう利用者が多く、そう すると極端に電気や燃料をたくさん使 うようになります。一般の人にアンケ ート調査をしているのですが、家に乾 燥機付きの洗濯機をもっていても乾燥 機はほとんど使っていないということ がわかっています。コインランドリー に行くと、濡れたままではをち運びに くいのでほぼ必ず乾燥機を回してしま います。そうなると、コインランドリ ーによって洗濯機の台数は減らせるだ ろうけれど、消費者の行動とセットで 考えたときにGHGの発生量はどうな っているのか、SCPになっているの かどうか、しっかりと分析して議論し

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うですが、私は経済人の1人として、 1992年のリオサミットから20年 間、国連はいろいろなことをやってき たけれども環境はよくならなかったと いうことを、ある意味で国連が認めた のではないかと感じました。グリーン エコノミーは、経済が環境を悪くする といって経済を敵対視するのではなく て、 共存するような形を作りましょう、 そのためにみんなでいろいろなことを 考えましょうというようなきっかけに なったと思います。 われわれは「リオ+20」で、今日 これからお話をするアグロフォレスト リーといういい農業がありますよとい うご紹介をしました。世の中にはアグ ロフォレストリー以外にも、いろいろ なサステイナブルなものの作り方があ り、いろいろな商品があります。しか し、 それらが売れていかないことには、 結局は環境はよくなっていきません。 そのようなことを考えますと、とどの

つまり、どうやってよいものを売るの かという問題にいま突き当たっている のだろうという気がしています。われ われは食品の世界に生きていますので、 グッドフードをどうやって売るのかと いうことに日々直面しているのです。 経済は産業資本主義の名のもとにず っと発達・発展してきました。そのと きに自然科学といったらいいのでしょ うか、置き忘れてきてしまったものが あるという気がしています。自然科学 のポイントは何かというと、自然は多 様性で成り立っているということです。 このことを経済が取り込めていなかっ たのです。いまはたとえばシェアリン グエコノミーのようなことで少しずつ 取り込もうとしているわけですけれど も、どう克服していこうとしているの か、毎日毎日戦っている軌跡のような ことをプレゼンテーションさせていた だこうと思っています。

アグロフォレストリーとは

まずこれは私たちの会社のパンフレ ットの写真です(図①) 。何も説明せず に、 最初にお客様にこれをお見せして、 その反応を見ますと、 大概のお客様が、 「ああ、アマゾンですか、ジャングル ですか。綺麗ですね」という感じで捉 えてくださいます。 一番背の高いところに房があるのは、 アサイーというフルーツです。われわ れは2000年に日本で初めてアサイ ーを輸入して、ずいぶんと広げてきま した。ですから、われわれのことをア サイーの専門商社であるように思って おられる方が多いようです。 このパンフレットの絵は実はジャン グルではありません。畑です。お客様 とはいつもそこから話を始めています。 これは人工的に作ったアグロフォレ ストリーという畑です。アグロフォレ ストリーは、アグリカルチャーとフォ

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■基調講演2

皆さんがいろいろと研究をされてい て、いま焦点となっている消費という ものが、やはり最大のポイントである と私は思っています。いかにしていい ものを消費してもらうかという非常に 大きな難題に対して、われわれは毎日

いかにして いいものを消費してもらうか

場を盛り上げていくかという話を今日 はしたいと思っています。

サステイナブルと「食」の新カテゴリー GOOD FOODとは 長澤 誠 ながさわ まこと

株式会社フルッタフルッタ代表取締役CEO

私のような場違いな人間がこのよう な基調講演をさせていただけるという のは、ひとえに武内先生とのご関係に ほかならないと思っていまして、この 場を借りてお礼申し上げます。ありが とうございます。 私はあくまでマーケティングをやっ ている人間でありますので、皆さんの 参考になるかどうかはわからないので すが、グッドフードというものとサス テイナブルとの関わり、そして、これ からどのようにしてグッドフードの市

毎日もがき苦しんでいます。 武内先生もブラジルを訪問された2 002年の「リオ+20」 (国連持続可 能な開発会議)のときに国連はグリー ンエコノミーということを言い出しま した。それがその後、SDGsという 形に進化してきたと私は受け止めてい ます。 「リオ+20」で国連がグリーンエ コノミーを宣言した意味合いは、皆さ んはいろいろな捉え方をされていたよ

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図②

スというところで展開されてきた事象 に基づいています。そこの原生林に日 本の移民が入って農業開拓を行いまし た。農業開拓は、通常は単一栽培のマ スプランテーションにし、ここでは胡 椒の栽培を始めました。ところが、熱 帯性の地域では単一栽培はなかなかう まくいきません。なぜそうなのかとい うお話は専門家にお任せしたいと思い ますが、単一栽培は持続しなくて、農 業開拓は失敗して荒廃地となってしま います。その荒廃地を、手をこまねい て眺めているわけにはいかないという ことで、現地の方々が始めたのが混植 です。 混植にした理由は、同じ土地で高さ が50メートルぐらいの密林ができる のに、背の低い胡椒を自分たちはどう して栽培できないのか、その違いを考 えたときに、多様性というところにし か答えがなかったということからでし た。まわりのインディオの伝統的な農

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図①

レストリーを合体した学術用語です。 見ておわかりのように、畑というより は森に近いです。何よりも空間的に高 いです。 私はアマゾンへある用事で出掛けた ときに、こういったアグロフォレスト リーにたまたま出会いまして、すごい と感じました。 これを人工的に作って、 荒廃地にどんどん展開しているという ことでしたので、とにかくすごいと感 じました。ならばここのものを売ろう と、そういう単純な発想で私たちはビ ジネスを始めたのです。 アグロフォレストリーがすごいとわ れわれが感じた理由を簡単にまとめた チャートです(図②) 。上の半分は、時 系列で左側からアグロフォレストリー がどう発展していくかを表しています。 最初は原生林だったところを、いわゆ る開拓しています。 このチャートは、アマゾンのベレン から200キロぐらい南下したトメア

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くか、それはマーケティング的には至 難の業であるのです。アグロフォレス トリーには図②にあるようなメカニズ ムがあるので、経済と環境が共存する 形を取らなければなりません。アグロ フォレストリーのような多様性を基本 とする農業生産を、いかにして販売に 結び付けるかという特殊なマーケティ ングを開発することができるのならば、 産業資本主義に対抗するような、いわ ば自然資本主義のような経済ができる のではないかということを考えました。 それがわが社のミッションとなってい ます(図③) 。 日本の移民がアグロフォレストリー を発展させてきました。その人たちは トメアス総合農業協同組合(CAMT A)という組合組織を形成していて、 われわれのフルッタフルッタはこの組 合との独占販売権を得て、日本でマー ケティング活動をしています(図④) 。 彼らの優れたところは、これには日本 図③

政府のバックアップもあるのですが、 農協組織を作って、畑から生産物を買 い取る購買機能を組合が持つようにし たことです。農協が買い取ることによ って生産者は明日のお金に困らないよ うになっているのです。 図④の写真の右上にあるのはジュー スを生産している工場です。どうして この工場が必要になったのかというと、 せっかく持続的な農業ができるように なっても、マーケットはありませんで した。マーケットがないと、せっかく 作ったものが駄目になってしまいます。 どうやって保存するかということで、 ピューレといいますが果肉だけを取り 出して冷凍保存する設備が必要だとい うことで、このジュース工場を作った のです。 私がここを訪問したのが2000年 で、その時点でアグロフォレストリー の生産が確立し、そしてジュース工場 ができていました。生産と加工を兼ね

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業、パーマカルチャーを見たり、それ と日本の移民ですから里山の知識があ ったりしたということも重なりあって、 混植に向かっていったのです。混植は 1年目は生育の早い野菜と3年目から 収穫可能や果樹が中心ですが、最終的 には全体で70数種類の農林作物で構 成されています。 始まってから25年間、ずっと同じ 作物を植えているかというとそうでは ありません。遷移型というらしいです が、フルーツによっては5年間、長い ものでも10年間といった期間を区切 って植え替えています。ポイントは、 1年目から収穫ができるようなものを 植えているということです。生産者が すぐに食っていけるような仕組みが取 り込まれているのです。その結果とし て、25年経って自然の森のようにな ったというのが最初のパンフレットの 絵です。 最初にアグロフォレストリーを見た

ときに、ジャングルの中に収穫できる 作物を植えているのだろうなぐらいに 思いました。実は荒廃地から人工的に 作ってきたということに気付かされて、 非常な感銘を受けました。 図②の下のチャートを見ていただき ますと、これは、自然の資源、あるい は自然の資本をイメージ的に示したも のです。原生林を切り倒して荒廃地に なっていった段階で、自然の資本はも のすごく浪費されてしまいました。そ れが、アグロフォレストリーを開始し てから急速に回復したのです。専門家 の方々に計算をしていただいたのです が、最終的な完成形のアグロフォレス トリーの畑は、バイオマス量が原生林 に比較して約70パーセントにまで回 復しているそうです。自然の資本はバ イオマス量だけでなく、生物資源の多 様性であるとか、いろいろなカウント の仕方があると思うのですが、それら も同じように回復しています。

この図で私が一番注目したいポイン トは、実は一番下の黄色の矢印です。 つまり、経済活動のプロセスでバイオ マスを回復させているということです。 すなわち、農業開発が自然を破壊して いるのではなくて、農業開発がバイマ スを回復させたのです。それも荒廃地 のところから回復させたというところ にものすごく感銘を受けました。

経済と環境の共存

このアグロフォレストリーを見て、 これに対してわれわれは何かしたいと いう感覚になりました。ここの産物を 大きなマーケットで販売することがで きれば、このアグロフォレストリーは 持続的に発展するだろうと思いました。 話はそうは簡単ではありませんでし た。その理由が、70数種類もの作物 をどう売りさばくのか、しかも70数 種類のバランスを保ってどう売りさば

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図⑥

備えた組合がアマゾンのど真ん中に存 在していて、しかしマーケット開発を まだ誰もやっていないということで、 私にとってはまさに奇跡の出会いだっ たのです。これなら、何とかしてマー ケティングをうまく開発すれば、われ われはパートナーとしてやっていける と考えました。 少し余談になりますが、私たちの会 社のロゴマークを紹介させていただき ます(図⑤) 。ここまでにお話したよう なことをこの会社のロゴマークに託し ています。フルッタというのはポルト ガル語でフルーツという意味です。フ ルッタフルッタと並べているのは、フ ルーツがいっぱいというふうにも読め ますが、実は多様性みたいなことがい いたいのです。一つのフルーツだけ作 っていると、アマゾンでは森がつぶれ てしまいますよということを、メッセ ージとして発信したかったのです。真 ん中にいる鳥は、アマゾンでアラーラ

と呼ばれる非常に有名なオウムです。 何が有名かというと常につがいでいて、 アマゾンでは絆の象徴とされています。 アマゾンの動物は、人間が学ばなけれ ばいけないような絆をたくさんもって います。ロゴマークの下側ではベレム と神戸を結んでいます。これは移民の 歴史、絆を示しています。神戸港から 1929年に笠戸丸で旅立ったのが最 初の移民だそうです。もう100年の 歴史があります。そういう移民の人た ちとの絆、アマゾンとの絆、そして自 然との絆をロゴマークに託したのです。 このようなロゴマークを作った意味 合いは、アグロフォレストリーの商品 を人々に認知させる、人々の心に刻み 込む、要するに売れるようにするには ストーリーが必要だからです。ストー リーを知らせるためにこのようなロゴ マークを作り、いわゆるブランドビジ ネスのようなものを始めました。 私たちの会社のメッセージとしては、

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図④

図⑤ 32


図⑧

ーツは天然のサプリメントだという言 い方をしてみました。人の体は一つの 栄養では成り立ちません、しかし薬だ とか化学合成品では少し心配だという 方々にとって、アマゾンのフルーツか ら栄養を取ることはいいことでしょう ということで、マーケティングができ ないかと考えたのです。 そうこうするうちに、世の中の健康 志向というものがどんどん高まり、ス ーパーフードだとかスーパーフルーツ という言葉が出てくるようになりまし た。そういったことをわれわれも利用 して、天然のサプリメントといってい たのから、スーパーフードというよう にしてマーケティングを展開し、大き な成功を収めたのがアサイーです(図 ⑧) 。アサイーはヤシの一種で、良質な ポリフェノールや脂肪酸が多いという ことで、最初はスポーツ選手を中心に 広がり、最終的には圧倒的に美容目的 で女性に摂取されるようになりました。

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図⑦

アグロフォレストリーから学んだもの、 要するに自然と共に生きるということ、 そして、社会のなかで生かしながら経 済活動をしていこうという思いを伝え たいということです(図⑥) 。

アマゾンの恵みを守って届ける

実際にどのようにしてビジネスを展 開したてきたかということをお話しま す。先ほどから私は多様性の難しさと いうことを言ってきました。一つの会 社が何十種類もの商品を売るのは非常 に大変です。図⑦は実際にここの畑で できている代表的な商品です。皆さん がご存じのものもあれば、聞いたこと のない名前もあると思います。 これだけいろいろな種類のものをど うやって皆さんに摂取してもらえるか と考えたときに、アマゾンフルーツの 栄養価に着目するしかないということ になりました。それで、アマゾンフル

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アマゾンフルーツをサプリ的あるい はスーパーフード的に栄養を売り物に して販売していくわけですから、栄養

カスしていくようになりました。日本 の食品は安全性とか保存性とかが重視 され、どちらかというと販売側の理屈 でもって設計されることが多いのです。 このことはわれわれにとっては、マー ケティング的にプラスの側面となりま す。世の中の食品には残っていない本 物の栄養をいかに作り出すかというと ころにマーケットがあるということで、 われわれはよりフレッシュなもの、よ り栄養がつぶれていないもの、その代 わり少し売りにくいようなものをどん どん作っていきました(図⑨) 。 当社の事業はいま三つのセクション で成り立っています(図⑩) 。実際に事 業として最初にスタートしたのは3番 のダイレクトマーケティングでした。 当初会社を立ち上げたときにはそれほ ど資本金もありませんでしたので、ま ず小さなショールームを作ろうという ことで店舗を作りました。そこでアマ ゾンフルーツの魅力を情報発信して、

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をきちんと消費者に届けられるという ことがどうしても必要です。それでど ちらかというと生産技術の方にフォー 図⑪


最初のころは、アサイーというものの 知名度がまったくないなかで一生懸命 売ろうとしても、なかなか売れません

でした。世の中にスーパーフードとい うようなことが出てくるトレンドにう まくアサイーをリンクさせたことが功

図⑨

を奏し、アサイーはスーパーフードの 王様というような位置付け、ポジショ ニングを取ることに成功したのです。

図⑩

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アサイーを原料とした健康食品をいろ いろと作っていただけるようになりま ました。

のです(図⑬) 。スーパーマーケットや コンビニエンスストアでアサイーのジ ュースを販売しています。右側にある のは新しいシリーズのジュースで、コ ールドプレスという熱を加えないでジ ュースを絞る特殊な技術を使った商品 です。これは先ほどからお話している ように、アマゾンフルーツはサプリな のでとにかく栄養をつぶさずに届ける ということを具現化したものです。そ ういった商品を出し続けることによっ て、アマゾンフルーツの認知度を上げ ていく活動をしています。 最初がアサイーで、次に有名になっ たのがカカオです。本当に市場が大き くなる前段階として、有名なシェフの 方とか有名なお店とかが原料として使 ってくださることで知名度を上げてい くというアプローチをよくするのです が、図⑭に出ているのはチョコレート 職人として日本で有名な方ばかりです。 カカオというと普通にはチョコレート

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現在のフルッタフルッタの売上の大 半を占めているのは、自社の商品、わ れわれがリテール商品といっているも 図⑬


とくにメディアに対する広告塔のよう な役割をして、アマゾンフルーツの魅 力を何とかして伝えるということに専

念しました。その次に2番目のアグロ フォレストリー・マーケティングを展 開しました。 これは要は原料の卸事業、

図⑫

サプライ事業です。どういった相手に サプライ事業を展開していくかという と、 外食産業やメーカーの皆さんです。 そして最終的に1番目のリテール事業、 自分たちのブランドの承認を展開して いくことを始めました。このような三 つ巴の事業で相乗効果を起こしていく というのが基本的な考え方です。 直営店舗は図⑪のような出で立ちで す。 少しアマゾンの風景を出しながら、 お店に入るとサプリショップなのかな と錯覚するような仕掛けをしています。 業務用のサプライ事業では、アサイ ーについては最初タリーズコーヒーに 採用していただいて、それによって知 名度がグッと上がりました(図⑫) 。有 名な外食店、コーヒーショップ等々の メニューに使ってもらうということは 知名度アップに非常に効果的で、そう いったことを意識しながらマーケティ ングを続けていきました。そして大手 の飲料メーカー、菓子メーカー等々が

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ありました。しかし、みごとに売れま せんでした。全く買ってくれません。 エコだから少し値段が高いというよう な理由はマーケットでは通用しません。 われわれマーケット側の経験から申し 上げるべきことは、メカニズムをよく 熟知した方々が最終的に世の中のため になるということで設計した商品であ れば、消費者が買うかというと、決し てそうではないのです。 結局のところ、 自分にとってどれだけのメリットがあ るかということが最終判断になるので す。 わかりやすい話でいうと、われわれ も環境省のプログラムをお借りして、 エコアクションポイントというのをや ったことがあります。しかし、ほとん ど販売促進にはなりませんでした。と ころが、その後、経産省がエコポイン トを始めたところ、一気に家電が売れ ました。その差は何かというと、ポイ ントがディスカウントになるかどうか 図⑮

でした。エコアクションポイントは基 本的にエコ活動が可視化できてポイン トが付くというプログラムで、残念な がらディスカウント機能はほとんどあ りませんでした。経産省のエコポイン トは、経産省が原資をもっていてその 分がディスカウントされて消費者が利 益を享受できました。消費者がエコと いう名前でものを買うのは、燃費がよ くなるとか、安く買えるとか、何らか のかたちで自分に得があるときで、そ ういうインセンティブがないとなかな か動かないのが現状です。それはいま も大きく変わっていないと思っていま す。 ただし、 ここに少し書いているのは、 ミレニアムの世代の方々、そしてその 後のZ世代という方々もいま消費を始 めているわけですが、 この方々には 「訳 あり・意味あり」というものに消費を するという性向があります。ここが一 つのターニングポイントになるのでは

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の原料であるカカオビーンズなのです が、こういう方々にいま何を使ってい ただいているかというとカカオビーン

ズではなくてカカオの果肉です。とて も甘くておいしい果肉がカカオにはあ って、非常に希少価値があって、そう

図⑭

いったものを使った商品を作って差別 化をしようということをしていただい ています。

グッドフードとは

ここまではアマゾンフルーツをサプ リメント的に体にいいものだとして売 ってきました。消費者の健康志向に単 純にアピールしてきた展開でした。そ して、時代がサステイナブルというも のを求めるようになってきたのを捉え て、これからはグッドフード「よい食 品」というものを展開していこうと考 えています(図⑮) 。その背景のような ものをここにまとめています。 サステイナブルな商品が欲しいとい う消費者が存在するとしても、それは どこにでもいるわけではありません。 われわれは2000年に会社を作って、 当初アグロフォレストリーを前面に出 したマーケティングをしていた時期も

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図⑰

ードが持続可能な8の理由」というこ とで皆さんにアピールをしています (図⑰) 。基本的には、流通、消費、資 源、生産が循環していくかたちを作っ ていきます。そこに携わる方々がおの おのCSR(企業の社会的責任)やC SV(共通価値の創造)に関していろ いろな形でメリットを感じない限りは、 ここに参加はしてくれないだろうと考 えています。ただ企業にとってSDG sの宣言はそれなりに重たくのしかか っていて、いま何かをしなければいけ ないとい思いはありますので、そうい ったところをうまく力学としては利用 をできるタイミングであろうかという ことで、グッドフードをアピールして います(図⑱) 。 具体的には、グッドフードのアライ アンスを組めないだろうかと、図⑲の ような図式を提案しています。ある一 つの会社が自分たちのものがグッドフ ードだと言い張ったところで、やはり

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ないかとわれわれは見ています。 どういう方々に対してどういう商品 を情報発信するかということを間違え ますと、どれだけいいエコの商品、サ ステイナブルな商品でも、そう簡単に は売れません。今日のお話に出ている シェアリングエコノミーも、おそらく 大きく反応しているのはこういう世代 の方々ではないかと思います。 一方で、企業側は、社会的責任とい うものに対して消費者が非常に厳しい 目を向ける世の中になってきたと感じ ていて、サステイナブルなものを売っ ていかなくてはならない焦りのような ものを感じています。とくに海外市場 ではそうです。 サステイナブルブランド国際会議 (SB会議)というアソシエーション があって、現在世界11カ国に展開し ていて、日本も遅ればせながら2年ほ ど前からSB会議を開催するようにな りました。われわれもこの会議に今年 図⑯

初めて参加して、メンバーの皆さんに グッドフードというようなものをみん なで作っていきませんかという働き掛 けをしました(図⑯) 。 この国際会議がいまテーマとして掲 げているのがグッドライフという言葉 です。非常にいい響きだと私も気に入 っています。サステイナブルというこ とを大上段に掲げましても、ちょっと お仕着せがましい感じがあります。グ ッドライフの意味するところは、サス テイナブルというのは実は楽しいのだ、 自分が快適なのだということです。そ のところを前面に出して、新しいマー ケティングプログラムを運営しつつあ ります。 そのグッドライフのなかに、われわ れは、食品ではグッドフードというこ とで一つのプラットフォームを作れな いかと試みているところです。われわ れなりにグッドフードとはどういうこ となのかというのを考えて、「グッドフ

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図⑳

イナブルといわれても、何が本当にい いものなのかの判別が非常にしづらい 現状があります。そこで、昔でいうベ ルマークのような共通のシステムが欲 しいと思っています。小売業も一体と なって、 みんなが共通の呼び方をして、 いろいろなメーカーの商品をまとめる ことができれば、消費者にとっては選 ぶことが容易になります。こういった 世界観を作っていきませんかという提 案をしているところです。 具体的にとてもいい事例があります (図⑳) 。 これは明治さんのチョコレー トです。この二つのチョコレートの商 品はトメアスのアグロフォレストリー のカカオを使っていただいていて、非 常にヒットしています。どうしてトメ アスのカカオを使っているのかという と、チョコレートを販売しながら森を 再生しているというメッセージを発信 できるからです。いわゆるCSVが目 的としてあります。実際にそのメッセ

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第三者が認証してくれるような仕組み がなければ、なかなか信憑性・信頼性 は出てきません。そういう意味で、メ

ーカー、生産者団体、小売、メディア、 NGOといった人たちが一つのグルー プになって、皆で共通のワードを訴え

図⑱

るような取り組みが必要だろうと思っ ています。消費者にとっては、グッド フードといわれても、あるいはサステ

図⑲

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長澤 ご指摘の通りだと思います。認 証制度のようなかたちで作ようになる とは思うのですが、あまりハードルを 高くしてしまうと、参加企業がいなく なるということもあります。最低限必 要な基準といったものを、グッドフー ドを取り仕切る団体が制定していくこ とになると思います。その制定する内 容についてはいま作業中で、できるだ け普遍性をもったかたちで作っていき たいと思います。 ただ非常に重要なことは、いかに認 証制度のレベルを上げたとしても、わ れわれ食品の世界では、先ほどの繰り 返しになりますが、本気で世の中に1 00パーセントよい商品を作ったから といって売れるとは限らないのです。 消費されないことには、環境に対する インパクトも小さいままです。ではど うしたら売れるのかというと、ポイン トは小売業者です。グッドフードとい うプラットフォームのなかに、全くの 仮の話で、たとえばコンビニエンスと してはセブンイレブンさんが参画し、 スーパーマーケットとしてはイオンさ んが参画するようなことになると、話 が大きく変わってきます。すべてのメ ーカーは売り場が欲しいのです。コン ビニやスーパーがグッドフードのコー ナーを作って商品を並べるということ になれば、メーカーはグッドフードと は何なのかということに関心を持ち、 グッドフードの基準にかなった生産プ ロセスで商品を作って、そのコーナー に置いてもらおうとするメカニズムが 働き出します。 非常に難しいのは、自然科学をベー スにした基準に則った商品づくりをし ながら、しかし小売りの現場はきわめ て経済学の理論に則った仕組みで動い ているので、その両者をジョイントさ せてやらなければいけないということ です。

福士 他にご質問はありますでしょ うか。後ほどパネルの方でも長澤さん にはパネリストで参加をしていただき ますので、そのときにまた質問する機 会がございます。どうも長澤さん、あ りがとうございました。 それではこれで基調講演を終え、休 憩時間の後にパネルディスカッション を行います。パネルディスカッション のモデレーターは大阪大学の原さんに お願いします。

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ージをいろいろな形で明治さんは発信 しています。そのことに共感した消費 者が購入して、実際にヒットしている というのはいままでにあまりない事例 です。 こういう商品が売れてくるというの が、まさしくサステイナブルな商品・ 消費を世の中が求め出したことのいい エビデンスだと思います。われわれに とっては、アグロフォレストリーの原 料を使っていただけたのは当然プラス ですし、それと、グッドフードが売れ る市場ができてきたといういい事例に もなっています。明治さんのような展 開を大手の会社がいろいろとしてくだ さるようになれば、グッドフードが増 えていくと思います。 今日は限られた時間のなかでのお話 でしたが、われわれは以上のようなこ とを考えながら日々の営業活動をして います。自然資本主義というものがい

まの経済環境のなかでどこまで成り立 つかということの挑戦の連続といって いいと思います。今日お話をしたこと が決して結論ではありませんし、よき アドバイスになるかどうかもわかりま せん。しかし、こういう試みを続ける ことがとても大切だろうと思います。 少しはご参考になれば幸いです。どう もありがとうございました。

福士 少々時間がございますので、会 場の方からご質問などあればと思いま すがいかがでしょうか。

――私は食と農について研究をしてい て、環境保全にいいからといって売っ ても誰も買いませんというのはよくわ かります。いろいろなアンケートを採 りましたが、結局はおっしゃった通り です。 今日お話されたグッドフードという 言葉は、聞いたらそういうことだとい う理解はできますが、いろいろな会社 が加わってグッドフードを広げていく には、何がグッドフードなのかという ことを示す指標が必要ではないかと思 います。その指標が5点以下なら普通 のフード、6点以上からがグッドフー ドというようなことになればわかりや すいと思います。そのような指標を作 るお考えはおありでしょうか。

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図①

発表時間は15分程度です。 それでは、 劉さんからよろしくお願いいたします。

事例研究から考える アジア地域の持続可能な消費と生産 劉 私からは三つの内容について、話 題提供をさせていただきます(図①) 。 一つは、今のアジア地域の消費と生産 は持続可能と言えるのかどうか。2番 目は、地域やコミュニティでSCPに 資する取り組みの現状はどうなってい るのか。3三番目は、SCPへの移行 実現に向けてどうすればいいのか。こ の三つの内容です。 廃棄物は社会の生産と消費の映し鏡 だとよくいわれます。われわれのチー ムはこれまでの2年間に、環境省の支 援を受けて、国際連合地域開発センタ ー(UNCRD)およびアジア全域に おける廃棄物管理について有数の知見 を持つ30人以上の専門家たちと連携

して、 『 State of the 3Rs in Asia and 』 (アジア太平洋3R白書) the Pacific を新たに発表しました。本白書は、日 本、中国、インド、タイ、太平洋島嶼 国地域を含む11カ国と1地域(太平 洋と諸国)を対象に、持続可能な開発 目標(SDGs)の「目標12:つく る責任つかう責任」に沿って、廃棄物 の抑制、リサイクル、バイオマスの利 用、海洋プラスチックの抑制、電子廃 棄物の管理に関連して、アジア太平洋 地域における廃棄物と資源効率性に関 わる政策の進捗を確認し、廃棄物管 理・資源効率をさらに改善するための 9つの具体的な提言を行いました。そ こからアジア地域全般について、マク ロなレベルからの生産・消費の現状が みえてきます。 たとえば、図②に示しているのは、 各国の一般廃棄物の発生量です。実線 は全体の発生量、点線は1人当たりの 発生量です。ご覧のように日本以外の

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■パネルディスカッション モデレーター

[ けいしろう)

]

原圭史郎 (はら

大阪大学大学院工学研究科准教授/経済産業研究所コンサルティングフェロー [ ]

) Chen Liu

パネリスト

劉 晨(

けんいち)

( 公財) 地球環境戦略研究機関( IGES) リサーチマネジャー/主任研究員

鶫 謙一 (つぐみ

平尾雅彦 (ひらお

まこと)

まさひこ)

会宝産業株式会社国際リサイクル教育センター長

長澤 誠 (ながさわ

原 皆さん、こんにちは。このパネル のモデレーターを仰せつかっておりま す大阪大学の原です。よろしくお願い いたします。 ここからのパネル討論は4名のパネ リストとともに進めていきます。先ほ ど二つの基調講演をいただきまして、 それぞれ非常に興味深いお話でした。 これからさらに二つのプレゼンテーシ ョンをしていただきます。地球環境戦 略研究機関(IGES)の劉晨様、続 いて会宝産業株式会社国際リサイクル 教育センター長の鶫様です。それぞれ

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図④

、つま ているのは、 Material Intensity り1つの単位のGDPを生産するため に必要とされる物質の量です。数字は 低い方がいいのですが、アジア太平洋 地域以外の地域は減少傾向にある一方 で、アジア太平洋地域は増加傾向にあ ります。特に2000年以降、アジア 太平洋地域の急増にひっぱられて世界 全体も増加傾向にあります。また、国 別でみると、中国は技術の進歩などに よって減少して改善される傾向があり ますが、 ベトナムでは増加しています。 これから何がわかるかというと、ア

ほとんどの国は廃棄物の発生量が増加 する傾向にあります。とくにカンボジ ア、中国、インド、ベトナムで増えて います。廃棄物だけではなく、地域全 般の物質消費量も2000年以降急速 に増加しています(図③) 。国別でみま すと、棒グラフがトータルの量、赤い 線が1人あたりの量で、中国もベトナ ムも増加傾向にあります。左下に示し

の研究プロジェ ら紹介があった S-16 クトには、IGESが担当するテーマ 3に事例研究があります(図④) 。この 研究の目的は、地域社会レベルでSC Pへの転換に資する取組みの現状を把 握し、取組みが活性化・定着できた条 件を探り、それを促進させる方向性を 検討するというものです。事例の選定 については、4つの条件を考えていま す。 (1)地域の固有資源を生かしてい るのかどうか。 (2)地域内における生 産から流通、消費、廃棄に至るまでの 消費と生産システムにおいて、 資源 (物

ジア太平洋地域は自然資源の消費に依 存する大量生産・大量消費・大量放棄 の社会システムから脱却できていなく て、持続可能な消費と生産とはいえな い状況にあります。 次に、地域やコミュニティベースで SCPに資する取り組みはまだないの か、どのような状況になっているのか をみていきます。さきほど平尾先生か

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図②

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図③


拡大の有無、時間軸でどのように変遷 してきたのか、地域外との連携・相乗 効果があるのかどうかといったことに 着目して研究を進めてきました。今日 ここでそのすべてを詳細に紹介するこ とは不可能ですので、現地の調査から みえてきたものをいくつかみなさんと 共有できたらと思います。 一つみえてきたのは、すべての取り 組みが、人々の暮らしや地域が直面し ている問題をきっかけに始まっていて、 環境面での持続性とマルチ・ベネフィ ットを生み出しているということです (図⑥) 。 ここにいくつか書いてありま すが、たとえば同じ有機農業の場合で も、地域によってきっかけが違ってい ます。タイのチェンライ市では、北部 からたくさんの貧困農家が入ってきて、 その貧困対策として余っている土地を 貸し出して有機農業が始まっています。 南のコンケン市では、土地の所有権の 問題とか若者の流出対策とかがきっか 図⑥

けで有機農業が始まっています。埼玉 県の小川町の金子氏の有機農業は、1 970年代から日本農業の危機感をき っかけとして始まっています。福岡県 の大木町では、生ごみを利用して作っ た液肥を活用できないかということか ら有機農業が拡大されています。 また、一つの取り組みのなかにも多 様なアクターがいて、多様な価値観が あり、多様な動機で参加しています。 たとえばコンケン市の有機農業とグリ ーンマーケットの取り組みでは、タイ 政府は低炭素社会を推進したいという 動機から、コンケン市は市民の健康を 増進したいという動機から、市民は子 どもや家族が病気になってここに移住 して、家族の健康のためにという動機 から、そして農家はマーケティング、 売上、健康のために行っています(図 ⑦) 。 すなわち、直接的にSCPがきっか けで始まっているものではないが、結

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図⑤

質やエネルギー)の有効利用やリサイ クルなどが行われているのかどうか。 (3)再生不可能な資源の投入量が抑 制され、環境への負荷が減少している のかどうか。 (4)地域の人々の生活の 質の向上につながるのかどうか。この 4つを条件として選んでいます。 IGESの20年近くの活動で蓄積 されてきたいろいろな連携やパートナ ーシップを活かして、いろいろな事例 が集まってきました。それほど大きな 規模ではないにしても、いろいろなよ い取り組み事例、先進事例が存在して いることがわかってきました。 5カ国8つの地域の23の事例につ いて、インタビューと文献調査の組み 合わせによって調査しました(図⑤) 。 各取り組みがどういうきっかけで始ま ったのか、その取組みの主体・関係者 はだれなのか、その連携関係はどうな っているのか、他の取り組みとの連 携・相乗効果はどうなのか、空間軸の

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図⑧

図⑨

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図⑦

果的にSCPにつながっているという ケースがたくさんあります。 もう一つみえてきたのは、ステーク ホルダー間の連携と協働が大変重要だ ということです(図⑧) 。それによって 目にみえる 「ループ」 が形成されます。 ループはモノであり、カネであり、ヒ トであり、情報であって、総合的なも のです。ここで形成されるループによ って、ステークホルダーの連携がさら に促進される傾向があります。 ここに示した大木町の事例は、消費 者・住民約1万5000人と、 自治体、 民間企業、農家との連携のもとで行わ れています。すべての住民が生ゴミを 分別していて、生ゴミはし尿や浄化槽 の汚泥とともにバイオガスプラントで 発酵させて、バイオガスと有機液肥を 回収しています。液肥は専用の車で散 布して農地に還元され、そこでお米な どの農産物が作られ、幼稚園や学校の 給食に使われています。私はもともと

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図⑩

面倒くさい分別が楽しいものになり、 自分の暮らしを見直すということにな ったのです。行政の仕事も廃棄物管理 から資源管理、循環に関わる業務とい うようになりました。こうして、新し い価値が生まれて、その新しい価値が 現実のお金につながって、地域の再生 につながっているのです。 結果として大木町ではごみの埋め立 て量が半分になり、 環境負荷が低減し、 もちろん二酸化炭素の削減にもつなが りました(図⑪) 。また、農薬や化学肥 料も大幅に削減され、水田や畑も豊か になっています。 社会経済の側面でも、 このプラントを導入することで、ゴミ の処理費が3000万円ぐらい減り、 残ったお金が福祉や教育の充実にあて られ、雇用も60人分ほど生まれまし た。そして、日本一のバイオガス成功 事例として訪ねてくる人がたくさんい て、バイオマスツアーによって年間4 000万円ぐらいの収入があるようで

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窒素の研究をしていて、大木町の事例 について、窒素フローを大まかに計算 したところ、人間が食生活による消費 される窒素のうち、25パーセントが 農地に還元され、地域内で循環してい ることがわかりました。大事な資源で あるリンもほぼ9割以上循環されてい ます。 このように絵を描くと当たり前にで きているようにみえますが、現実社会 ではこういうループを形成して維持す るのは大変難しいことで、失敗の例も たくさんあるのです。例えば、せっか く良質な液肥が作られていても、市民 から 「し尿を田んぼに垂れ流している」 「時代遅れだ」という反発の声が非常 に多くあって、結局は液肥を山や海に 流したり捨てたりしているケースもあ りました。また、回収できる生ゴミが 足りなくて、バイオガスプラントがう まく動かなかったり、生ゴミにフォー クとか金属類が入っていて機械が故障 して止まったりしたこともあります。 このような一見当たり前に見える「ル ープ」を形成・維持するために、大木 町ではさまざまな工夫がありました (図⑨) 。たとえば、液肥利用の出口を 確保するために、この肥料がどういう 成分になっているのか、これを利用し てお米を作るときに使うにはどういう 方法でやればいいのか、野菜の場合は どうなのかといった情報を提供してい ます。また、液肥の価格は非常に低く 設定されています。依頼があれば10 ヘクタール当たり1000円を徴収し て散布する作業を請け負っています。 液肥で栽培した農産物の販売ルートの 確保も大変重要で、作られたお米は保 育園の給食などに提供し、また、市民 が買うときには10キログラム450 0円のお米を3200円で提供してい ます。さらに、家庭での生ゴミの分別 を維持するために、生ゴミの収集は無 料にして、他の指定ごみ袋は他の地域

よりも高く設定しています。優良事例 の表彰もしています。そして、住民の 参加意識を向上・維持することが何よ り重要で、3年間かけてモデル事業を 実施して、町を挙げてもったいない宣 言を行ったりしています。 ここでとくに伝えておきたいのは、 地域全般で考え方のパラダイムシフト があったことです(図⑩) 。普通はごみ 処理施設とかし尿処理施設は迷惑施設 だと思われがちですが、ここの取り組 みでは町のシンボルとして、町の真ん 中に設置したのです。また、隣に、有 機栽培で作った野菜を販売する直売所 や有機野菜を使ったレストランを設置 し、地域の農と食をつなぐ町の拠点に もなっているのです。廃棄物を処理す る施設だという旧来の考え方から、地 域の宝となる肥料を製造する施設であ るという考え方へと転換し、そのこと によって、廃棄物に対する市民の苦情 が、 自分の地域に対する誇りに変わり、

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図⑬

うとしています。東近江の事例でもそ うした変化していく経過がみられるの ですが、 今日は時間の関係で省きます。 みえてきた四つ目は、取組みが活発 にできた地域には「場」が明確に存在 図⑭

しているということです。(図⑬) 。「場」 というのは、プラットフォームと訳し てもいいのですが、それにはハードウ ェアとしてだけではなく、ソフトウェ ア的な意味合いも含まれています。 「場」には多様な取組みがあって、そ れらが互いに刺激し合って、ときに連 携しつつ、地域の持続性に関する多様 な課題に取り組んでいく体制が育成さ れています。音楽に喩えれば、名曲を 楽譜に従って演奏するクラシック音楽 のような感じではなくて、ジャズのよ うにその場のそのときの出会いでいろ いろなクリエイティブな音楽、そこで しか生まれてこない音楽が生まれてく るといった感じです。 私は環境学の一研究者として、いろ いろな取り組みをなるべく客観的にみ ていこうとしているのですが、これま でみてきたものから政策提言として何 か言えることがあるかというと、SC Pの移行実現に向けては、マクロ的な

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図⑪

図⑫

す。もちろん、農家でも10年間で5 00万円の化学肥料代をセーブできる ケースも生まれています。何より私が すばらしいと感じたのは、住んでいる 人にとって、自分たちの食と農の安 全・安心が守られ、また、地域に対す る誇りと一体感が生まれたことです。 そこに魅力を感じて、外から地域に入 ってくる人も増えました。 みえてきた三つ目のこととして、す べての取り組みは静止状態にあるので はなく、時代のニーズや状況の変化に 対応して、活動の目的や内容が柔軟か つダイナミックに再編成・再構築され ていることです(図⑫) 。大木町では、 1993年にEM菌による堆肥化を推 進していましたが、それからバイオガ スプラントによる有機資源循環利用へ と進み、食と農の連携、そしてゼロ・ ウェスト宣言へと進展してきて、いま では近くのみやま市と包括協定を結ん で、自然エネルギー利用を進めていこ

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これまで私は地域の取り組みを外か らみてきたのですが、今日は葉山町の 環境課の雨宮さんにもきていただいて いますので、これからは地域づくりの プロセスに少しでも参加できるように なれたらいいなと思っています。これ は私の今後の課題です。

原 どうもありがとうございました。 時間を少しだけ超過しつつありますの で、次の発表に移りたいと思います。 それでは、鶫様、よろしくお願いいた します。 使用済み自動車の持続可能な リサイクルシステムについて 鶫 会宝産業という社名は少し変わ っています。 いま劉さんのスライドに、 廃棄物が宝になるということが書いて ありましたが、会宝産業は、まさに字 で表したそのまま「宝に会う」という

ことです。 今日はこの会場に会宝産業に訪問さ れた方も何人かいらっしゃいますが、 会宝産業は自動車リサイクル業の会社 です。使用済みになった自動車を引き 取って、部品を取り出し、リユース、 リサイクルそして適正処理をして、最 終的にスクラップを作って、電炉メー カーに渡すという仕事をしています。 ただ、後で述べますが、主力ビジネス は部品の輸出です。ですから、この会 宝産業の「宝」というのは、使用済み 自動であり、それと、人に会うという ことで、人でもあるのです。 会宝産業の創業者である近藤典彦会 長が非常に尊敬している方が「会宝」 と名づけてくださったそうです。今日 は実は近藤会長がここにくる予定でし たが、海外出張のため私が代打で登場 しました。会長御自身であれば社名に ついてもっとうまく説明できたかと思 います。

私が会宝産業で何をしているかとい うと、会宝産業とリサイクル業が加盟 するNPO法人RUMアライアンスが 運営する国際リサイクル教育センター

( International Recycling Education 、IREC)長をしています。 Center ここは、さまざまな国、特に途上国か ら行政官や大学教授などが来て、自動 車リサイクルの制度や法律、技術を学 ぶための専門学校のようなところです。 おそらくこのような学校は日本にも世 界にもここしかないと思います。 われわれは2009年にJICAの プロジェクトで中南米に行き、主にブ ラジル、アルゼンチンで自動車リサイ クルに関する調査をしました。そして 翌年の2010年3月に、ブラジル、 アルゼンチン、メキシコ、コロンビア から自動車リサイクルに関わる14名 を招いて3週間の研修を行いました。 行政官、大学教授、業界団体の方々が 参加しました。以来、毎年JICAの

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要素ばかりではなく、既存の多様な取 り組みを同定し、育成し、それらを結 び付けることが重要であると思います (図⑭) 。 いまは情報通信技術も発達し て、 「場」の形成がよりしやすくなりま

した。 「場」を形成し合って、いろいろ と学び合い、助け合い、刺激し合い、 合意形成を促進することが求められて いると思います。 もう一つ言えるのは、地域住民の多

様な価値観、多様なニーズを考慮した マルチベネフィットアプローチが有効 だということです。地域に入るときは 人口減少とか地域経済といった側面か ら取り組みを始めることになると思う のですが、そうしてことが環境につな がったり、地域の持続性につながった りするように工夫することが有効だと 思います。 そしてもう一つ、グローバル・アジ ェンダ、ナショナル・アジェンダ、ロ ーカル・アジェンダがあって、それら の間には実はすごい大きなギャップが 存在しています。いろいろな取り組み をしてきているのだけれども、結果的 に本当に地域で二酸化炭素の削減につ ながっているのか、地域の持続性につ ながっているのか実はよくわからない ところがあります。そのときにSCP 概念の枠組み、それに適する指標、モ ニタリング・評価システムを構築する ことが非常に必要だと思います。

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触媒に使われていて、ほんの数グラム です。金や白金はもちろん高価ですか ら取れるところは完全にリサイクルさ れています。その他の非鉄金属もほぼ 100%リサイクルされています。会 宝産業では白金をストックしています。 「そのうち白金の価格が上がると、そ のときにはストックしてある白金を出 す」ということです 今後問題になっていくのはゴムです。 タイヤは輸出されたり、再生タイヤに レメイクされますが、6割ほどは鉄鋼 や製紙、セメント業の燃料として処理 してきましたが、これに補助がなくな りますと処理が難しいです。ガラスも ずいぶんと研究している方がいるので すが、なかなか成果が上がっていませ ん。最近、東京の恵比寿のあたりで、 白く綺麗に舗装された歩道をみますが、 あれは車のガラスを混ぜています。そ のようにして使われるといいのですが、 まだまだ普及していません。合成樹脂

図③

については、会宝産業ではバンパーな どの破砕再生処理設備を検討していま す。廃プラスチック処理は今後大きな 課題です。また軽量化のため植物系の

)など CNF( Cellulose Nano Fiber を使った車が増えますから、リサイク ル技術が重要になるでしょう。 会宝産業は年間1万1000台程の 使用済み自動車を処理しています。平 均1・1トンの自動車のうちリユース 部品が約600キロあります(図③) 。 とくに一番価値があるのがエンジンで す。この中古エンジンを途上国に輸出 するのが会宝産業の主力ビジネスで一 番大きな収益になっています。会宝産 業は年間約30億円弱の売上げがあり ますが、自動車のリサイクルだけでは それだけの売上げにはなりせん。 この使用済み自動車が全部リユース できるわけではなく、アライアンスを 組む国内の他の業者からもエンジンを 買い付けています。このようにリユー

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図①

プロジェクトとして途上国の自動車リ サイクルに関するいろいろな研修を行 っています。 この写真はブラジリアで没収された 車輌です(図①) 。DETRANという のは交通警察で、これらは交通警察が 没収した車です。もう少しきちんと置 いたらいいと思うのですが、このよう な状態でたくさんの自動車が置かれて います。他の州でも没収した車がたく さんあって、ブラジル全土で90万台 とか100万台近くあるそうです。わ れわれはこれを処理するプロジェクト を大学と共同で行おうとしています。 自動車の素材は図②のような構成に なっています。約1・1トンの自動車 は鉄が780~790キログラム、鉄 には普通鋼と特殊鋼があって、特殊鋼 はさまざまな金属を添加して作るもの で、合わせて約180キロあります。 鉄以外の金属では、 アルミが一番多く、 銅や金や白金などもあります。白金は

図②

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らなくて、2005年に自動車リサイ クル法ができて、ようやく業者の数が 把握されました。そのときに届け出を したのが約5000社でしたから、1 0年余りで半分になりました。203 0年頃にはおそらく1000社ぐらい で十分で、多分そうなると思います。 図⑤

メーカーは人、もの、エネルギーを 集約的に投入して車を作ります。新車 はディーラーからあちこちの購入者の ところに行き、15年ほど乗って最終 ユーザーのもとで廃車になります。で すから、リサイクル業は廃車が発生す るそれぞれの場所で必要ですが、1県 に数社くらいはあればよく、たぶんそ れぐらいのオーダーに落ちつくのでは ないかと思います。 使用済み自動車のリサイクルには、 拡大生産者責任(EPR)とともに私 たち は 拡大消費 者 責任( E C R、 ) Extended Consumer Responsibility と呼んでいますが、そういうものがあ り(図⑤) 、自動車リサイクル法はユー ザーの責任を規定しています。皆さん が自動車を買うとすると、普通リサイ クル料金といっていますが、預託金を 1万円から1万数千円払います。この カネは何のために使われるかというと、 フロン、エアバッグ、ASRの3品目

を処理するためです。フロンはオゾン 層破壊や温暖化の原因物質ですし、エ アバッグは危険なのできちんとした処 理をしなければなりません。一番問題 だったのはASRで、リサイクル法以 前は処分場でそのまま埋め立てられて いました。これが瀬戸内海の香川県豊 島で深刻な産業廃棄物問題を起こした りしたので、このASRを70%以上 処理するように決められました。それ によって自動車のリサイクルはうまく 回って、現在リサイクル率は99%で すが、これにはサーマルリサイクルも 入れての数字です。 今日のテーマの一つは、パリ協定が できて、自動車リサイクルがどう変わ るかということです。パリ協定の最終 目標は、21世紀末に二酸化炭素の排 出量をゼロにするということです。9 0%削減するとかいうのではなくて、 ゼロにするということですから、ター ゲットとして非常にすっきりしていま

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スエンジンやさまざまな部品によって コンテナを作って、およそ85カ国に 輸出しています。現在はこうした中古 部品輸出会社もありますが、日本で最 初に行ったのが会宝産業です。コンテ ナを作るのは、国ごとに車種のニーズ が違うこともあって、なかなか難しい ものがあります。荷崩れしないように してうまく20フィートや40フィー

図④ トのコンテナを作るには技術が要りま すし、貿易に関する手続きや専門性が 必要です。会宝産業は金沢にある会社 ですが、結構国際的で、スペイン人や モンゴル人もいますし、以前は中国人 もいました。英語、スペイン語、ロシ ア語の通訳や海外事業専門のスタッフ もいます。国際事業部にいきますと、 世界の時間が全部わかるようになって います。 会宝産業の仕事は、有用部品を取っ て、500キロぐらいのスクラップに するところまでです。このスクラップ は次にシュレッダー業者に渡って裁断 され、金属が回収され、約180キロ のASRというシュレッダーダストに なります。自動車リサイクル法はこの ASRの処理段階から始まります。し たがってそこまではリサイクル法の対 象ではなくて、各リサイクル業者が得 意とするビジネスを工夫しています。 自動車リサイクル法はシュレッダーダ

ストをきちんと処理しなさいという法 律です。 日本の使用済み自動車の状況に関す る数字を並べてみました(図④) 。年間 およそ500万台が廃車になり、約1 30万台が中古車として輸出されます。 会宝産業はエンジンなどの中古部品を 輸出していて、相手国としては現在ロ シアが一番多いです。国内で処理する のが約350万台ですが、ここで20 万台ほど数字が合わないのですが、こ れは実際に分からないところがあるの です。 自動車リサイクル法ができても、 まだはっきりしないグレーなところが 残っているということです。どうもこ のあたりはこの業界の宿命みたいなも ので、主にパキスタン当たりの業者が 法律をすり抜けているようなところが あるのです。 自動車リサイクル業者は現在実際操 業しているのが2500社ぐらいです が、もともと業者が何社あるのかわか

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ンジをしていて、タイヤがうまく炭化 ができれば、元の原材料や土壌改良な どいろいろな使い道があります。 最後に、会宝産業はビジネス以外に もいくつかのことをいっているのです が、一つだけ利他の精神についてお話 します(図⑦) 。自動車リサイクル業と いうと、金属とかものとかを扱ってい て、何か余り人間の心が通わない仕事 のようにみえますが、実際はそうでは ありません。会宝産業には「いいねプ ロジェクト」というのがあります。毎 月1回、今月はこんな「いいね」をし ましたというのを出して、みんなで共 有し、1年に1回最優秀賞を表彰して います。 2017年の最優秀賞は、愛知県の ある女性からの依頼でした。ご主人と 一緒にいろいろなところにドライブに 行った外車の処理をしてほしいという ものです。ご主人が亡くなられたので すが、どうしてもその車を手放せなく て3年間ぐらい手元に置いていたそう です。そのうち会宝産業はきちんと丁 寧に処理し、シートをオフィスチェア に変えているということを聞かれて、 依頼して来られました。 車のシートは、 運転席は普段乗るので痛みますが、助 手席はそれほど使われていません。そ れで会宝産業では注文生産で助手席を オフィスチェアに再生しています。そ の依頼されて来られた女性は車のシー トをオフィスチェアにして思い出とし て残したいと、それでわざわざ愛知県 から車を持って来られたのです。それ だけでも結構いい話なのですが、これ にはまだ先があるのです。車は真っ赤 なセダンで、その仕事を担当者した女 性社員がセダンのミニチュアを探して きて、メッセージを添えてその女性に 椅子ともにさしあげたんです。お客様 は涙を流して喜んでくれました。 会宝産業は使用済み自動車を扱って いるだけでなく、人間としてもいい心

をもって仕事をしている会社だという 話です。

原 ありがとうございます。 それではこれより討論を始めたいと 思います。パネラーの方々、前の方ま でお越しください。 今日は、 「持続可能な消費と生産」と いうテーマで、それぞれの立場からご 発表いただきました。最初に私からい くつか共通の質問をして、それに答え ていただくというかたちで、議論を深 めていきたいと思います。そのなかで 皆さまからのご意見、ご質問を受けた いと思います。

持続可能な消費と生産のイメージ

原 最初に住先生からもお話があり ましたが、 「消費」という観点が新しく 入ってきたのが非常に重要なところで はないかと思います。

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す(図⑥) 。EUは、京都議定書のとき もそうですが、非常に高い目標を掲げ ると何か元気になります。二酸化炭素 ゼロはいってみれば環境に対する正義 であり、地球に対する正義感のような ものが湧いてくるのでしょう。二酸化 炭素をゼロにするという目標は低炭素

図⑥ ではなく脱炭素社会でして、この目標 はこれからいろいろなところに相当効 いてくると思います。 自動車をめぐっていまいろいろなこ とが起きています。電気か水素かとい うこともありますし、素材についても バイオプラスチックとかCNF/セル

図⑦

ロースナノファイバーとか出てきてい ます。私は大麻の茎がいいのではない かと思っています。大麻草は非常に誤 解されているかわいそうな草ですが、 本来はものすごくさまざまな効用のあ る植物です。大麻草は100日ほどで 3メートル以上に伸び、二酸化炭素を 吸収し、表皮は繊維になりますし、茎 は自動車や建築素材になります。麻薬 の大麻と繊維や素材大麻は全く別の種 です。 素材がいろいろ変っていくなかで最 後に問題として残るのが、先ほども述 べたようにタイヤとプラスチックだろ うと思います。会宝産業の近くに炭化 装置を専門にしている会社があって、 すべての有機物は何でも炭になるとい っているのですが、タイヤは炭になる のかというとこれが非常に難しい。炭 化というのは燃やすこととは違い、燃 やさない文明です。いまわれわれはタ イヤを燃やさないということにチャレ

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と考えています。 SDGsの日本語版を作った人には 申し訳ないのですが、 「つくる責任、つ かう責任」という訳語では、作る側と 使う側が別々に書かれているので、あ まりよくないのではないかと思ってい ます。 「コンサンプション・アンド・プ ロダクション」としてCとPがつなが っているのが大切なのです。作る側と 使う側とがそれぞれで責任を取れとい うのではなくて、つながっていく仕組 みが取れるといいのです。

情報を共有する 長澤 私はアマゾンに行くまで、農業 が環境を破壊することがあるというイ メージが少しもなくて、むしろ農業は ナチュラルでいいという印象をもって いました。とくに南米に行って、大プ ランテーションで一面に大豆の畑が広 がっているのをみて、ニュースで断片

的にみていた森林伐採が、実はこうい うところで行われているのであって、 そういうことを知らずにいたというこ とに気付かされました。そこで作られ た大豆がどこに行っているのかという と、結構われわれの胃袋に入っていた りするのです。やはり知るということ がとても大事なのだろうなと思います。 食が環境に与えるインパクトは案外 非常に大きいと感じています。南半球 の環境をかなり牛耳っているのが、北

半球の先進国の人たちの胃袋なのでは ないでしょうか。先進国の人たちは自 分の健康を考えたり、いろいろな思い をもって食品を選ぶのですが、その生 産を担っているのがほぼ南半球と考え てもいいのではないでしょうか。 そうだとすると、北半球の消費の中 心にいる私たちが、体にいいものを取 ろうとするのはいいことなのですが、 その生産方法にも思いを巡らせながら、 消費するとか、逆に消費しないように するということになれば、南半球の環 境が健康になっていくような気もしま す。 ですから、まず情報を共有すること が重要だと思います。それは現在では それほど難しいことではないと思いま す。私はそのことをアグロフォレスト リーを通して知ったのです。

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持続可能な消費と生産といったとき に、どういうイメージでわれわれはそ れを理解したらいいのか。ある種のビ ジョンのようなものをもって、そのビ ジョンに向かっていきたいわけです。 今日のプレゼンテーションにそのヒン トがあるのではないかと思って聞いて いました。 たとえば長澤さんのお話で、 消費者がグッドフードを買うことで、 持続可能な生産につながってくるとい うお話がありました。そこに消費と生 産の一つのリンク、つながりがあるよ うに感じました。それから劉さんの話 でも、ローカルなレベルで消費と生産 がつながっているループがあるという ことが取り上げられました。 私からの最初の質問として、持続可 能な消費と生産というものをどのよう な絵姿といいますか、ビジョンで捉え るのか。それにはいろいろなスケール があると思いますが、一言ずつお考え をお聞きしたいと思います。では平尾

先生からお願いします。

平尾 同じ質問を、われわれはプロジ ェクトを始めたときから聞かれ続けて いて、答えるのが難しい状態が続いて います。フォーマルな一つの答えとし ては、デカップリングというキーワー ドでいうように、経済活動は発展して いくけれども、それに対する環境負荷 は下がっていくというイメージである か思っています。評価した結果として そのようになっていれば、持続可能な 消費と生産であるといえると思います。 SDGsで目標として掲げているの は、持続可能な消費と生産のパターン を定着させるということで、パターン が定着した結果としてデカップリング が起きることになるのだろうと思いま す。それでは、どういうパターンがい いのかというと、消費と生産の間でし っかりとリンケージが取れて、お互い にやっていることがみえている状態が

大事なのだろうと思います。たとえば 携帯電話を使っていて、その中身につ いてまでわかるようにとはいいません けれども、そういうものを使うという のはどういうことなのだろうと考える ようになっていけばいいのではないか と思っています。 われわれのプロジェクトでは、どう いうリンクのパターンがあるのかとい うことを、いろいろな分野の人と一緒 に分析して、お互いにやっていること がだんだんわかるようにしていきたい

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すと、車を消費するということは、車 を買って十数年乗って、廃車にすると いうことです。そのときに、きちんと 処理業者に引き渡す。今は自動車リサ イクル法がありますから、放置車輌は なくなりましたが、以前はわが国でも 相当ありました。消費者は使った後の ことまで責任を持たなければならない 時代です。使用済み自動車が、資源と してきちんと循環されて、将来世代の 負担にならないように責任を持つとい

うことです。 「持続可能な消費と生産」というテ ーマを聞いたときに、なぜ消費が先で 生産が後なのかと、その意味を最初は 少し考えました。よく考えると当たり 前のことで、生産の方は持続可能な生 産方法というのをメーカーサイドはか なりするようになっていますので、こ れからは消費の方もきちんと循環する ようなことをしなさいということです。 自動車リサイクルについて、日本で は法律が出来てから、かなりうまく廻 るようになってきていますが、途上国 はまだまだ野放し状態にあります。世 界では年間約4000万台が廃車にな り、そのうち半分以上が途上国に在り ます。そこでは金属類や金目のものは 取られますが、後はほとんど処理され ずにその辺に野積みされています。こ れをどうするのかというのは、メーカ ーにとってもわれわれにとっても大き な課題です。

原 ありがとうございました。皆さん からいろいろご意見をいただきました が、どちらかというと消費者側が、生 産と消費の間にあるつながりを知るこ とが出発点として大事だといったご指 摘が多かったように思います。 たとえば食べ物は地球の裏側からも きているわけですが、それが元々どの ような場所でどのようにして作られた ものであるのか、われわれはなかなか 感じられないわけです。例えば、われ われが小さい頃には、おばあちゃんが 編んでくれたチョッキを着たりしてい たものですが、それは市場で取引され た商品ではないのですが、それがゆえ に、どういう思いでこれが作られたも のかということを感じることができた のではないでしょうか。国際的なマー ケットでいろいろなアクターが関わっ てやりとりをしているなかでは、消費 者が生産者のことを思いやるというの

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生産者と消費者の「 距離」 を縮める 目に見えるループを作る 劉 さきほど平野先生がおっしゃっ たように、豊かさは増しても、資源消 費量や環境への負荷は減っていく、デ カップリングがおこることが必要だと の共通認識はできてきていると思いま す。問題は、毎日仕事をして生活して いる人たち、地域やコミュニティが、 その目標を目指してどういうパスウェ イで実現していくのかということです。 将来のビジョンを描いて、そこにどう アプローチしていくのか議論すること がすごく重要です。 地域のコミュニティベースで調査し てみて、パスウェイは実にさまざまで あってケースバイケースであるという ことがわかりました。地域にあるいろ いろなプロセスが、何らかの過程でつ ながっていくということがすごく重要 です。

食べるものと工業製品では少し違う ところがあって、食料の生産は自然環 境に大きく左右され、また、食料の生 産と消費のあり方は環境に広範囲に大 きな影響を及ぼしています。いまの持 続不可能な食の生産・消費システムに おいては、生産側と消費側の距離が大 きくなってしまっているという問題が あります。その距離は物理的な距離も あれば精神的な距離もあります。それ を短くして、なるべく目に見えるよう なループを形成して両者をつなげ、消

費者は生産者を思い、生産者は消費者 を思うような信頼関係をつくっていく ことがすごく重要だと思います。

消費者の大きな責任

鶫 持続可能性をどのように見るか ということで、世代間利益のギャップ の問題が一つ大きなポイントとしてあ ると思います。われわれの世代が資源 やエネルギーを無責任に使って、それ で満足だという人はいまは余りいない と思いますが、そのようなことをすれ は将来世代に大きなツケを残すことに なります。世代間利益をどのように政 策の中に組み入れるかということが非 常に大事ではないかと思います。 消費と生産で、とくに普通に暮らし ているわれわれに何かできるかとした ら、われわれは消費サイドなので、そ の消費に対してどういう責任を持つの かということです。車について考えま

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として農地に水を分配したりするなど 人々が協力し合う文化がありました。 この地域をこれからどのように持続的 に運営していったらいいのかという問 題に直面したときに、その文化が活き て、そしてしっかりリーダーシップを 取る行政マンがいて、単に廃棄物をど うするのかということだけにとどまら ずに、地域づくりの一環として取り組 むのだという意欲が生まれてきたよう に思います。そして、具体的に肥料が どう安全に作れるのかを実験したり、 液肥をどのように使ったらいいのか試 したり、たくさんの具体的な問いに対 して一つ一つ向き合っていったのです。 このような話は大木町に限ったこと ではなくて、葉山町でも廃棄物の問題 に10年間掛けていろいろ取り組んで こられていますので、もし時間があっ たらぜひ雨宮さんから葉山町の話を聞 けたらと思います。

原 まずはパネラー皆さまのご意見 を伺ってから、雨宮さんにお聞きした いと思います。 社会を変えていくポイント 長澤 私は18年間にわたって仕事 をしてきて、グッドフード、あるいは いい原料や生産物があったときに、誰 がそれを買い上げるのかということが 一番大きな負荷としてあると感じてい ます。ビジネスですから、誰かが買わ なければ成り立ちません。 アグロフォレストリーの場合には、 先ほどスライドでご覧いただいたよう に、生産者個人個人からはまず農協が 買い上げています。生産者個人にはと りあえず収入があります。次に農協は 誰かに自分たちのものを買ってもらわ なくてはなりません。そこにわれわれ の会社が位置付けられます。これはい い商品だ、いい生産プロセスだ、こう

いうものがもっと増えればいいとわれ われが気付いて買い上げるわけですが、 そのときに、われわれはある意味で金 融の役割をしていることになります。 先ほどから消費者がしっかりすべき だという議論が出ていて、私も全くそ の通りだとは思うのですが、そうはい っても消費者はすぐには変わりません。 いいものだからといわれて、すぐにお 財布を開けるかというと、そうはなり ません。消費者が変るまでの間、誰が 生産者をサポートする金融の役割をす るのかといったら、われわれのような 会社だということになってしまいます。 それがわれわれにとっては大きな課題 です。 たとえば、国だとか何らかの行政機 関が、社会的に価値の高い生産物であ るとか生産方法をサポートしますと決 めて、いったんはそういうところが買 い上げるような仕組みがあればいいわ けですけれど、そうでないとアグロフ

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はなかなか難しいといま感じています。 それと将来世代の話題も出ました。 将来世代にツケをまわすことについて われわれがどう認識するのかという話 だと思います。先ほど平尾先生のご発 表の中でも、将来世代に対する倫理観 が強い人と弱い人がいるという話があ りました。もう少しみんなが将来世代 のことを感じる、慮ることができるよ うな仕組み、社会システムが必要なの ではないかと思います。

持続可能な消費・ 生産を 社会のなかに実装するには 原 それでは2点目の質問に進みた いと思います。最初の質問ともリンク しています。2点目の質問は、持続可 能は消費と生産を推し進めていくため に、 技術とか制度単体だけではなくて、 社会全体のシステムとして、ビジョン につなげていく方法を考えなければい

けないわけですが、そのためには何が 必要なのでしょうか。要するに次の社 会ビジョンに向かっていくために何が 必要かということです。どのようなレ ベルの話でもいいのですがいただけれ ばと思います。これはサステイナビリ ティの議論でもよくある、要素間の関 係性を構造的に整理していく知識の構 造化とも関連するかと思います。 先ほど劉さんの話では、時間の経過 とともに結果としていろいろな仕組み が創出されてきたということでした。 最初から狙ってそういう仕組みを作っ たという側面もあるのかもしれません が、そうではなくて、試行錯誤のうち に、結果として仕組みができあがって きたという場合もあると思います。 どういうプロセスを経て持続可能な 消費・生産が実装されていくのか、こ れからどのような活動を展開していけ ばいいのか、お考えがあればぜひお聞 きしたいと思います。

劉 大木町の事例をみますと、もとも とあそこはクリーク地域で、下水道が なく、し尿とか汚泥は全部海に流され ていました。ところが、ロンドン条約 の合意に基づいて海洋投棄が禁止され、 日本も廃棄物の処理及び清掃に関する 法律施行令が改正され、2007年か らごみを海洋に捨てることが禁止され ました。海洋投棄に依存していた大木 町は早急な施設整備が必要となってい ました。ただ、クリーク地域での下水 道システムおよび焼却炉の導入には膨 大な予算がかかることになります。そ こで、大木町は市民や農家などを巻き 込んだ協議会のようなものを作って、 いろいろな声を聞きながら、どうすれ ばいいのかという議論を進め、有機性 廃棄物を地域資源として利用する仕組 みを作ろうということに踏み出したの です。 この地域には、平坦なクリーク地帯

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用済みでもう乗らないのですね」とい うと、 「いや、そのうち使う」とかいっ て、ずっと置いてあるのです。公道を 走らない限り保有税はかかりませんか ら、負担にならない。 それで、3週間の研修期間中に、き ちんとリサイクルする仕組みを一緒に 考えました。彼らはJICAの支援で きていますから、研修の成果として報 告書を書かなければならないので、一 生懸命に考えて作りました。しかし、 そのロードマップが本当に実行できる かというと、なかなか難しいというの が答えです。 もう乗らないものを出す仕組みとし て一番いいのは、自動車保有税を掛け ることです。持っているだけで税金が 掛かるわけですから、みんな出すよう になります。しかし、実際にそういう 税金を掛けようとしたら大変な問題に なるというのです。日本で考えている だけではなかなかうまくいかなくて、 現地へ行っていろいろやってみるしか ないのです。 ブラジルではそうしたことへの取り 組みを始めている州もあり、リオデジ ャネイロ州の北のミナスジェライス州 ではかなり進んでいます。

将来世代を考えたごみ処理 原 いまのお話のなかで、人々が問題 を認識して、それが起点となって仕組 みができていったという話もありまし たし、持続可能なシステムを作ってい くときに、最初に誰がどう支えるのか という話もありました。その主体は、 ビジネスであったり、 政府であったり、 いろいろなケースがありうると思いま す。 さて、先ほどご指名がありましたの で、自治体の取り組みということで、 せっかくですから、葉山町での実践に ついて少しお話をいただけますでしょ

うか。

雨宮健治 すごいキラーパスがきて しまいました……。私は葉山町の環境 課でごみの計画に携わっています。今 年で実は15年目に突入して、自治体 の職員としては異例の長さで、ずっと ごみのことをしてきました。 私がごみに関わるようになって2年 目ぐらいのときに、葉山町では大きく 政策を転換しました。ごみ処理広域化 からの離脱をきっかけに、ごみをゼロ にするということを目指すようになり ました。これは、ごみが出るという前 提でごみの処理施設を作り続ける困難 さと、ごみをゼロにする困難さとを、 50年後、60年後になって振り返っ たときに、どちらが大変だったかとい うことを天秤にかけて比べみたら、た ぶんごみをゼロにした方が楽だったと いうことになるだろうと考えて、この 転換を選びました。それで「ごみゼロ

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ォレストリーのような農業はなかなか 維持するのが難しいです。 悲しいかな、 お金持ちの生産者たちは、あまり環境 に良い生産システムを取っていないの が現実です。いわゆる伝統的農法は貧 しい零細な農家さんが担っていて、そ ういう農業が当然環境によかったりす るのです。そういうところをサポート するシステムがいま欠落していて、わ れわれのような会社がそれをまかなう というのは非常に負担が大きくて大変 です。ですから、何らかの社会的なイ ンフラとしてシステム構成されればい いと思います。

平尾 いまのご意見に関連して、SD Gsのゴール12のターゲットのなか に公共調達の仕組みを作るというのが あります。日本では実際にグリーン購 入法や環境配慮契約法という法律があ ります。もうかなり長期間にわたって 法律が実施されていて、官庁や私たち

の国立大学などでは、それに沿った調 達をしているのですが、残念ながらそ れらの法律がいいものを作っている企 業のものを社会に広めるという役割を まだ十分には果たせていません。民間 の企業がそういうことをまねするとか、 さらに一般の市民の行動が変わるとい うことにまではなっていないのです。 SDGsの議論のレベルでも、アジア 各国も政策担当者のレベルでも、サス テイナブル・パブリック・プロキアメ ントをやろうという意欲は強くあるの ですが、それを市民にまで広げるとこ ろのプロセスは先進国でもまだうまく いっていません。 だからどうしたらいいのかというこ とが、いまはいえなくて、問題を提示 するだけになってしまうのですが、エ コマークでも同様の問題があります。 エコマークの付いた商品を皆さんが選 んでいるかというと、なかなかそうは なっていません。どうやってこのあた

りのところを乗り越えていくのか、ま だまだ解決策を検討していかなければ いけない課題だなと思っています。

鶫 車についてまた少しお話します と、車に対するわれわれの感覚と途上 国の人たちの感覚は相当違います。わ れわれはいまは平均15年乗ったら買 い換えるという経済行為をしているだ けなのですが、途上国の人たちにとっ てどうやら車というのは財産なのです。 もう乗らないからこれを処分してくれ ということにはなかなかなりません。 昨年、マレーシアから研修生がきま して、ほとんどが政府関係者と大学教 授だったのですが、マレーシアで何が 問題かというと、ユーザーが使用済み になっても車を出さないことです。使 用済みの車が家の敷地だとかどこかそ の辺にあるのです。ですからマレーシ アにいま実際に車がどれだけあるのか、 その保有台数がわからない。「これは使

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どなたでも結構ですので、こういうア イディアがあります、こういう実践例 がありますということをお話していた だけたらと思います。

鶫 私は風力発電の現状を調べたこ とがあるのですが、日本で風力発電が 全電源中に占める割合は0・6%しか ありません。大型水力を除いて、ソー ラーも含めた再生可能エネルギーの比 率はせいぜい8%程です。これは世界 的にみて非常に小さい数字です。その 原因は何かというと、電力買取価格と か、電源を系統に接続する電力量の制 限や煩雑さとかいろいろあります。 風力発電はパリ協定で約束した20 30年に26%削減を達成するために は最も有力な再生可能エネルギーです。 しかも発電所建設コストは海外ではど んどん安くなっているのに、日本だけ が高くなっています。1基造ろうとす ると1キロワットあたり大体85万円

ぐらいで、出力が2メガワット位のあ る程度大きな風力発電を作ろうとする と、それだけで7億円ぐらいかかりま す。メンテナンスや雷対策、また発電 した電気を送配電網に接続する容量に も制限があります。送配電の系統は全 部電力会社がもっていて、系統に接続 できる容量を確保するのが大変で、時 間も掛かります。 パリ協定は今世紀末までに大気の温 度上昇を産業革命から2℃未満にする というものです。日本が公約した目標 は2030年には2013年比二酸化 炭素排出量を26%削減するというこ とで、そのために再生可能エネルギー の割合を20~24%にするとしてい ます。5年ごとに数字の見直しがあり ますから、 これでもまだ不十分ですが、 再生可能エネルギーを何でまかなうの かというと、ソーラーは面積的に行き 詰まっているところがありますので、 小水力と風力が一番いいと私は思って

います。風力発電の発電機の性能が相 当改良され、発電効率も良くなってい ます。風況によってはかなり採算性も 上がってきています。風力発電を増や すには、やはり政策的に、手続きも含 めて容易にして、もっと自由に参入で きるようにしなければなりません。そ ういうような方向にいけば、再生可能 エネルギーの普及が拡大すると思いま す。漸く経産省、資源エネルギー庁が 洋上風力も含めた再生可能エネルギー を主力電源と位置付けました。これで 電力会社も取組みやすくなりますから、 今後に期待したいと思います。

平尾 いまのお話にもかなり関係し ていますが、私たちが持続可能な消費 と生産のプロジェクトでいろいろな検 討をしていて、日本は非常に特殊であ ると感じることがあります。持続可能 な消費と生産のパターンにもっていく のが一番難しい国は、もしかしたら日

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(ゼロ・ウェイスト) 」という理念を掲 げて、ごみの減量化の取り組みを始め ました。 現状はリサイクル率が43・9パー セントです。これは焼却灰を溶融して リサイクルにまわす効果を抜きにして、 住民が分別を進めた結果としての数字 です。ごみをゼロにするという、いわ ば大風呂敷を広げて、改革をずっと進 めてきてこの数字に到達しました。現 在の日本の生産・消費の状況で、一番 川下にいるわれわれがせっせと分別し て、全部をリサイクルに回して、ごみ をゼロできるかというと、かなり難し いと思っています。焼却灰のリサイク ルを除いた状態ですと、私の感覚だと おそらく75パーセントぐらいが限界 です。残りは燃して減容化して埋め続 けるか、溶融固化してカレットを作り 続けないとならないので、それが10 0年間持続できるのかというと、どう なのだろうという感じがします。すで に持続可能ではないシステムになって いるのかもしれません。結局捨てるこ とができなくなれば、生産が止まる、 消費ができないということになるので しょうか。 基礎自治体としては、基本的にごみ はできるだけ減らして、私の子どもた ちがいまの私と同じぐらいの年齢にな ったときにも、今のごみ処理のやり方 であってもまだあと少し続けられるぐ らいの余地は残しておきたいと思って います。ごみはもうロケットで宇宙に 飛ばすくらいしか手がないみたいな状 況は作りたくありません。

原 ありがとうございました。貴重な お話をいただけました。今から将来世 代も見据えた上で目標を立てて、それ に向けてイノベーションを考えないと いけない、新しいシステムを作ってい かなければならないという事例として、 非常に示唆に富んだお話であったと思

います。 さて、ここでフロアからご質問なり ご意見、発表者一人ひとりに対してで も、あるいは討論全体に対してでも、 何かありますでしょうか。

エネルギーとSCP

松岡昭彦 昭和シェル石油から東京 大学IR3Sに出向して研究をしてい る松岡と申します。私はエネルギーを 専門として仕事をしているので、エネ ルギーがSCPのなかで果たす役割と いったことについて、皆さんのご意見 をいただければと思います。エネルギ ーを作る側、あるいはエネルギーを使 う側において、何かお考えをお示しい ただけたらと思います。

原 ありがとうございます。SCPの 取り組みのなかでもエネルギーは考え るべき大切な側面であろうと思います。

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だんだんと発展していって、いまとは かなり変わってしまった後で、SCP に向けてまた変えましょうというのは、 かなり難しい場面もいろいろと出てく るのではないかと思います。途上国に おいて、いまどういうことをすると将 来よりSCPが主流化していくような 社会になっていけるのか、 人々の意識、 教育、社会制度、技術何でもいいので すが、何をしたらいいのか先生方に伺 いたいと思います。たとえば、何十万 台もの廃車が放置されないようにする のはどうしたらいいのかとか、劉さん はとくに中国の事情も知っていますの で、いまの時点で何ができるのかなと いうのを少しお伺いしたいと思います。

劉 やはり問題意識をしっかり持つ ことが大切だと思います。私は20年 近く日本に住んでいて、 これは問題だ、 変えないといけないと、みんなが共通 の問題意識として抱えているようなこ

とが結構あると感じています。でも変 えるのは不安があって、なかなか変え られず、モヤモヤしているうちにずっ と時間がたってきているような感じが しています。新しいトレンドを作るの は、何かのきっかけが必要な気がしま す。 先ほど鶫さんがおっしゃっていた途 上国の乗らなくなった自動車の話とも 関係がありますが、中国でも、古くな って動かなくなった冷蔵庫やテレビと かの電気製品を、自分の財産として家 に置いて持ち続けるというようなこと がありました。それで、中国政府は家 電リサイクル法を公布後、「 「以旧換新」 政策を採って、使用済み製品(テレビ・ 冷蔵庫・洗濯機・エアコン・パソコン の5品目を対象)の下取りを条件に新 製品の購入価格を10%割り引く制度 が導入されました。この制度は使用済 み製品の適正回収ルートの構築と定着 に繋がったと思います。何かきっかけ

をポンと与えることでさーっと進むこ とがあると思います。 もう一つ、国際交流によるパートナ ーシップの構築が大切だと思います。 私が知っている事例ですと、インドネ シアのスラバヤ市と北九州市の交流が あります。 北九州市の協力事業として、 スラバヤでごみのコンポスト化の事業 が始まりました。 少し進んだところで、 スラバヤの市民のモチベーションが減 ってしまい、スラバヤから北九州に北 九州でのよい取り組み事例を見学した いという要請がありました。しかし、 そのときは実は北九州ではコンポスト をやっていませんでした。そこで、ス ラバヤからの要請を受けて、北九州市 の市民が作るNPOがコンポスト化に 取り組むようになり、お互いに交流し 合って刺激し合って、少しずつ進んで いくようなことになりました。そのよ うなことも重要ではないかと思います。

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本なのかもしれません。エネルギーの 話でも、政策的に総合的な議論が十分 にできていません。省庁によっていろ いろな考え方の違いがあって、国とし てなかなか速い動きが取れない、思い 切ったジャンプをするような議論がで きないと感じています。 SCPということからエネルギーを みますと、生産側の方ではかなり対応 が進みつつあります。 The Climate のRE100のような制度に Group きちんと乗っていくことが、自分たち が生きていく道であると考えている企 業が、とくに大手では増えてきていま す。世界のなかで、残念ながら日本は どうせ再生可能エネルギーはあまりな いので、100パーセント達成するの は無理でしょう、少し甘く見てあげま しょうみたいに思われているところが あるようです。それでも、RE100 に参加しようとする企業が増えてきて いるところから、再生可能エネルギー

をもっと増やそうという需要が喚起さ れるのではないかという期待はありま す。 エネルギーというのは問題がすごく 複雑で、バイオマス発電でも、パーム オイルとかヤシ殻を輸入して発電に使 うようになったりすると、それが広く さまざまな観点からみて持続性を満た しているのかどうかとなると、議論が 足りていないと思います。 ご質問をいだいて、逆に、エネルギ ー企業としてはこれからどうやって生 きていこうとしているのか、お聞きか せいただけたらと思います。

松岡 弊社は、現在、石油製品を販売 しているだけではなく、バイオマス発 電所や高効率LNG発電所を作るとと もに、 電力の小売りを行ったり、 また、 ソーラーフロンティアという子会社で 太陽光発電パネルの生産・販売を行っ たりもしています。クリーンな電源を

数多く所有し、クリーンな電気をいか に皆さまに使っていただくかというこ とを進めるとともに、先ほど接続が難 しいというお話もありましたけれど、 その接続をクリアするようなところで、 弊社がお手伝いできるようにしていき たいと考えています。つまり、不安定 な再生可能エネルギーを安定的に利用 していただけるような新たなソリュー ションを提供できるように準備をして いるところです。それについて発表で きる段階になりましたら、またご報告 させていただきたいと思っております。

原 ありがとうございます。ほかにフ ロアから何かありますでしょうか。

何から始めたらいいのか?

福士 いま日本は難しい国だという お話があって思ったのですが、アフリ カとかアジアとかの途上国がこれから

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持つ能力からすると、まだ1パーセン トか2パーセントぐらいしか使ってい なくて、10年たったらリサイクルと いうのではいかにももったいないと思 います。そういう意味で、以前に前川 製作所と共同研究で、自動車エンジン から発電機を作ることをしてみたので すが、そのためのコストを計算すると 100万円近くになりました。同じよ うなことをドイツのチームがやるとも う少し安くなり、中国のチームがやる と日本の10分の1ぐらいになります。 なぜ日本ではそこまで高くなってしま うのかという問題がここでもありまし た。 質問は、エンジンはもっとずっと長 期的にわたってもっと多様な使い方が できるのではないか、ご経験から教え ていただけることがあればと思います。

鶫 仲上先生有難うございます。日本 人は平均して13年、13万キロ走る

と廃車にしています。しかしエンジン は60万から80万キロは走れるよう に作ってあります。もちろんメンテナ ンスはしなければなりませんが、13 万キロぐらいで廃車にするのは、まだ 慣らし運転のような状態で終わりにし てしまうようなものです。ですから新 しい用途があるべきなのです。とくに 日本車のエンジンは性能がよくて、非 常に人気があります。 先ほどもいいましたように、会宝産 業はエンジンを輸出して、もっと長く 海外で使ってもらうというビジネスを しています。会宝産業では、使用済み 自動車から取り出したエンジンの状態 を6項目のカテゴリーで評価し、JR )という S( Japan Reuse Standard タグを付けて、客観的に評価し数値化 して、商品として出ています。 また、 今年から平尾先生の研究室で、 取り出したエンジンをリユースすると 資源や二酸化炭素の削減にどれだけ効

果があるかという評価指標を創ろうと しています。エンジンに限らず他の部 品でも、素材に戻してリサイクルする のではなくて、その機能のままでまだ 使えるものは使うことによって、資源 やエネルギーは相当に削減されるので はないかと思います。思うだけはでは 説得力がないので、LCAの観点から 数値化できないかと考えています。 会宝産業にこられて効率的で驚かれ たとおっしゃいましたけれど、私も1 4年ほど前に最初に行ったときに、自 動車を解体する工場なんだからこんな ものだろうなと勝手に想像していたの と違ってものすごく綺麗だったので驚 きました。取り出したエンジンを乱雑 に積んでいたら、一山いくらという感 じになってしまいますが、綺麗にラッ クに並べてタグも付いていたりすると、 ちゃんとした商品に見えるのです。会 宝産業はUAEのシャルジャにある世 界最大の中古自動車部品市場にオーク

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教育から始める 鶫 IRECには、途上国の自動車リ サイクルに携わっている行政官や大学 関係者がくるのですが、去年はマレー シアからMAI(マレーシア・オート モーティブ・インスティチュート) 、日 本でいうと経産省の自動車課と自動車 リサイクル課を合わせたようなところ の部長と担当者、 国交省、 能力開発省、 それに大学の教官など12名がきまし た。最後に彼らはレポートとロードマ ップを作るのですが、その内容を実現 するために何が一番重要かと聞くと、 教育だと言うのです。若い人の教育だ けでなく、市民に向けた広報活動、啓 発も含めての教育です。少し時間が掛 かるかもしれないけれども、教育が一 番大事だということがわかったのが、 日本に学びにきた大きな成果だと彼ら は言っていました。 教育がないと法律を作っても守られ

ないし、使用済み自動車を出しなさい と言っても出てきません。教育という ものは、やればすぐに効果が出るもの ではなく、しつこくやらなければだめ です。彼らは2025年までのロード マップを書き、大学も地方自治体もN GO・NPOも関わって人々の意識を 変えて、マレーシアを使用済み自動車 の先進国にしたいという夢を描いてい ました。 もう一つブラジルの例を挙げますと、 先ほどのミナスジェライス州のベロオ リゾンテに在るCEFETという大学 の先生が2010年にIRECにきて、 機械工学の先生ですが、 「静脈産業」と か「都市鉱山」というのを聞いて、こ れは大事だと感じたのです。ブラジル には資源はいっぱいあるけれど、これ からはブラジルに静脈産業をしっかり と根付かせなければ駄目だと考えたの です。それで、大学の中に自動車リサ イクル科みたいなのを8年かけて創り、

自動車リサイクルの静脈産業について の本も書きました。本はポルトガル語 ですが、今年我われは日本語版を作り ました。さらに、州レベルで自動車リ サイクル法を作ろうというところまで 進んでいます。 ですから、何から始めるかといった らやはり教育ではないでしょうか。何 か知らないことを知ることによって人 間は変わります。私は教育によって人 間を変え、社会を変え、そして未来を 変えていくことが大切だと考えていま す。

まだ使えるものは活用する

仲上健一 立命館大学の仲上です。会 宝産業の鶫さんにお伺いしたいのです が、 以前御社を見学させていただいて、 非常に効率的にやっておられるご様子 に驚かされました。そのときにも思っ たのですが、自動車のエンジンはその

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ーを購入するわけですが、その結果と して、アサイーを買うことが、間接的 ではあるけれども、地球環境の持続性 に何かしら貢献していると気付くよう になる。気付きというのは、他人事と してではなくて、自分事として考えた ときに生まれてくるのだと思います。 長澤さんの取り組みはこのような気付 きにつながる実践でもあると感じます。 気付きというのは新しい社会を作って いくポイントとして大切だと思のです が、いかがでしょうか。

長澤 今の質問に直接のお答えには ならないかと思うのですが、一つの事 例をご紹介します。 先ほど明治のチョコレートが大ヒッ トしていると言いました。これがヒッ トするまでには10年の歴史がありま した。第一号の商品は、実は私たちが 一番やってほしくなかった名前のチョ コレートでした。「アグロフォレストリ

ーチョコレート」だったのです。何か 意味ありげなもの、押し付けがましい エコ商品は売れませんと私どもは言っ ていたのですが、「アグロフォレストリ ーで生産しているとさかんに紹介して いるではないか」と言われて、そうい うことになったのです。こんなにいい ものですよと言っても、消費者はお財 布を開けてくれものではありません。 私たちは、いいものだから買ってく ださいというのではなくて、ヒット商 品のなかにこういう原料が使われてい るという事実を残さないといけないと いうことを学びました。ヒット商品の なかに少しだけでもいいから入ってい ることが大切なのです。アグロフォレ ストリーで作るものは、大量生産では ありませんから、安定的にたくさん供 給ができるわけではないので、少しだ け使っていただくのでいいのです。明 治の板チョコですと、1億枚ぐらいは 作るので、1枚にたった1グラムのア

グロフォレストリーの原料を入れるだ けでも、総量としてはそこそこの量に なります。 いいものだから売れるわけではなく ても、いいものを作っている企業を評 価しようとする動きはあります。明治 のザ・チョコレートでも、商品販売の 現場では持続可能な農法であることを 宣伝したりはしていません。ただし、 ホームページだとかCSR・CSV的 なイベントではアピールしています。 環境にいいと大上段に構えた商品は売 れなくても、環境に取り組んでいると いう姿勢をさりげなく見せると、マー ケットは評価してくるということはあ ります。ですから、マーケットも変わ ってきているのだろうと思います。

原 ありがとうございます。 それでは、時間もだいぶ押してきて いますので、最後にまとめも含めて、 平尾先生に総合的な観点から今後の展

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ションを創りました。そういうことを しないとマーケットにうまく出せない と思うのです。

消費が生産に影響する道筋 原 ありがとうございます。残り10 分弱になりました。ここでモデレータ ーの特権として、一つ私の方からお尋 ねしたいことがあります。 長澤さんは生産と消費をつなげるお 仕事をされています。消費を拡大して ビジネスとして成功するということが 必要なわけですが、消費の拡大が実現 した先に、そのことが生産者側にフィ ードバックされて、作り方や生産の仕 方が変わり、結果としてさらにサステ イナブルな方向に向かっていくという 絵が描けるといいと思うのです。いま 実際に生産側にどのようなフィードバ ック、影響があって、今後どのような 展望がありうるのか、そのあたりを少

しお聞きしたいのですが。

長澤 われわれのしていることはま だまだ発展途上だと思っています。い まのアプローチが必ずしも正しいのか どうかもわかりません。現状は、アグ ロフォレストリーという特殊な農業か ら出てきたアサイーだとか、皆さんが まだ知らなかったようなグッドフード をプロダクトアウトしているというフ ェーズです。そこには最初の産みの苦 しみがすごくありました。少しずつ知 名度が上がってくると、アサイーがい いという背景には、日本から行った人 が作っているということがあり、こう いう作り方をしているということがあ ると、メディアが取り上げてくれたり して、人々に知られるようにもなりま した。そのようなことが少しずつ進ん で行った先には、日頃自分たちが食べ ているようなものも、アグロフォレス トリーのような作り方であったらいい

よねと思える時代がくるのかもしれま せん。そうすると、そのことが生産に 影響を与えるようになります。私たち が目指しているのはそこなのです。 アグロフォレストリーはアマゾンだ けでなく実は世界中でできます。熱帯 性気候は地球をベルト状に取り巻いて いるので、そのベルトのところでなら どこでもできるのです。いろいろな環 境の問題がいまそのベルトで起きてい ます。そこでアグロフォレストリーが 行われて、いろいろな生産物が収穫で きるようになっていけば、かなりのイ ンパクトをもつだろうと思います。い まはまだブラジルのアグロフォレスト リーの限られた生産物を持ってきて、 それを紹介することしかできないので すが、その先には大きな可能性がある と思っています。

原 最初は健康にいい、自分のからだ にプラスであるということからアサイ

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福士 プログラムでは、私が全体の総 括をするということになっていますが、 平尾先生がパネルのとりまとめをして 下さいましたし、基調講演をされた先 生方もパネルに参加されていましたの で、私からさらに話すべきことはない ように思います。 このシンポジウムを通して、SSC がやるべきことは、やはり連携の場を 設けること、もしくはスモールプラク ティスを企画していくことであると改 めて感じました。いろいろな研究を互 いに紹介し合って共有し、それをより

非常に深いテーマですので、今後さ らに議論が発展していくことを期待し たいと思います。 これで私がモデレーターを務めるパ ネルのセッションは終わりにしたいと 思います。各スピーカーの皆さま、そ してフロアの皆さま、ありがとうござ いました。

全体司会 長時間皆さまありがとう ございました。 それでは閉会に当たりまして、IG ESの理事長、武内先生からご挨拶を いただきたいと思います。

大きなアクション、たとえば長澤さん のやられておられるようなビジネスな どと連携していくような活動ができれ ば大変いいなと思っています。 今日は、大変活発な論議をありがと うございました。 はなはだ短いですが、 これで全体の総括とさせていただきた いと思います。

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望について一言頂戴したいと思います。

議論を続けて、行動へ 平尾 今回のわれわれの研究プロジ ェクトを、私は結構気楽に引き受けて しまったのですが、始めてみて最初は すごく困ったと思いました。問題の広 さ、深さもありますし、参加する方々 の専門分野が皆さん全然に違っていま した。 シナリオという言葉をとっても、 人によってずいぶんと意味合いが違い ます。 それで困ったと思ったのですが、 最近はそうした違いがだんだんと面白 くなってきました。学術関係だけでも いろいろな立場の人と意見交換ができ ますし、今日も長澤さんや鶫さんのよ うなに実際に現場でお仕事をされてい る方のお話をお聞きすることもできま す。それがとても刺激になります。 私はエンジニアなものですから、何 か問題があればいい技術を生み出して

解決すれがいいに決まっているとずっ と思っていました。今日の長澤さんの お話は、 いいものがあるからといって、 それで社会が動くわけではないという ことでした。ではどうしたらいいもの が売れるようになるのか、みんなで議 論できるところがすごく面白いと思い ます。 これからどのようにしてCとPをつ なげるということですけれども、物理 的に遠いところで作られているものを なるべく近くに感じられるようにする ことが一つ。それと、時間的に遠い先 の人たちのこともなるべく近くに感じ るようにすることも必要です。そのた めに何をどうしたらいいのかというと、 さまざまな視点の人を持った人が、今 日のこの会のように集まって議論して いくことが大事なのだろうと思います。 今日のまとめとしましては、議論を することからいろいろとやれることが 湧いてくるのではないかということに

なるかと思います。

原 ありがとうございました。 まさにSSCの理念にもありますよ うに、いろいろな主体が協働していく という観点から大変よいまとめをして いただいたと思います。 商品がどこからきたのか、どのよう に作られたのか、などについてはなか なか感じることができない、そういう 巨大なマーケットという仕組みでなか にわれわれはいま生きているわけです が、生産と消費は別箇のものではなく て、そのつながりこそが大事であると いう観点から今日は議論を深めてきま した。AIやIoTの技術を使って生 産と消費を近づけるという話、地域の 中でループを作るという話、グローバ ルなつながりを作るという話、いろい ろなレベルでいろいろなことが進みつ つあります。さまざまな可能性があり ます。

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いうこともありました。それでも、循 環型社会形成推進基本計画(循環基本 計画)が改訂されるにつれて、議論が 少しずつ前にいくようになりました。 いまでは担当部局が廃棄物リサイク ル対策部から環境再生資源循環局に代 わり、名前からしても、かなり広くも のごとを扱うようになっています。そ ういう転換を私自身が経験してきて、 いまや持続可能な消費と生産として、 消費と生産の二つのプロセスをつなげ るという大きな方向性を見出したとい うのは非常に意味があると感じていま す。 今日の議論を聞いて、当時私が問題 意識としてもっていたことが、消費者 と生産者を一体的に考えていかなけれ ばいけないという非常にはっきりとし た課題になっており、皆さんがそれに 積極的に取り組まれているということ を知って大変心強く感じました。最近 は、循環型社会づくりにはあまり関与

しておりませんので、少し古い話をさ せていただきました。 本日ご参加いただいた皆さま方に感 謝申し上げると同時に、基調講演者、 パネリストの皆さま御礼申し上げます。 葉山まで皆さんにお越しいただきまし てどうもありがとうございました。こ れで閉会とさせていただきます。

全体司会 それでは一般社団法人サ ステイナビリティサイエンスコンソー シアムの2018年度の公開シンポジ ウムを終了します。ありがとうござい ました。 お気を付けてお帰りください。

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■開会挨拶

たけうち かずひこ

武内和彦

産現場にも同行しましたし、リオ+2 0にも一緒に参加しました。今日は民 間の活動ということで、長澤さんに頼 みしました。 私は、十数年前に初めて環境省の中 央環境審議会の循環型社会計画部会に 参加しました。当時、吉川弘之先生が 盛んにいっておられたのが、インバー スマニュファクチャリング、逆工場で した。工場ではものを製造するわけで すが、その製造物が廃棄されてまた資 源に戻るという過程を吉川先生は逆工 場と表現して、製造する過程と逆工場 とを一体的に計画すべきということを

一般社団法人サステイナビリティ・サイエンス・コンソーシアム理事 (公財)地球環境戦略研究機関(IGES)理事長

皆さん、大変長時間お疲れさまでし た。 平尾先生とは、同時期に環境省の戦 略的研究開発領域課題で、私が S-15 、 の研究代表者という 平尾先生が S-16 ことで、お互いに切磋琢磨する関係に あります。 今日は、 そういう観点から、 現在の進捗状況を拝見しておりました。 長澤さんとは、日系ブラジル人の移 民の100周年記念として外務省が主 催したアグロフォレストリーのシンポ ジウムでご一緒させていただいて以来、 大変親しくさせていただいています。 アマゾンのアグロフォレストリーの生

提唱されていました。そこで、私は環 境省の担当者に、廃棄物をどう処理す るのかから議論を始めるのでは駄目で、 ものを製造するプロセスと一体的に考 えないと意味がないと申し上げました。 その後、私が循環型社会計画部会長 に就任し、そのような考え方の重要性 を主張しましたが、製造物過程を視野 に入れた循環型社会づくりの方向を目 指すことには困難がありました。法律 の限界もありますし、環境省と経産省 との距離が当時は非常に大きかったと

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人の取得も可)が必須です。さらにやたらに

と、中国の携帯電話の電話番号の取得(外国

どの支店が可かは探さなければなりません)

銀行口座の開設(外国人の開設も可ですが、

進んだ中国生活を満喫するためには、中国の

ります。ご存知かもしれませんが、IT化の

て銀行口座開設に行きたいと言ったところ、

れません。3時近くになるので、そわそわし

緒に行ってくれる学生さんが、腰を上げてく

ました。よもやま話に忙しくて、なかなか一

ドしてくれましたが、銀行の営業時間に驚き

銀行での口座開設は、中国人学生がアテン

慣れすぎて、銀行は3時に締まり、土日に閉

業していました。中国の銀行は立派。日本に

サービスがあるので、 これも必要でしょう (外

店すると思いこまされていましたが、これは

銀行の営業時間は朝から夕方まで、土日も営

国人の私が3カ月程度の滞在ではいただけま

日本の事情なんですね? 開設と同時のキャ

ートを受け入れず、中国人の身分証が必要)

せん) 。中国では、私の周りでは現金払いなど

ッシュカード受け取りで、面倒な後日郵送に

身分証明のチェックのある(外国人のパスポ

過去のものとなっており、周りを見る限り、

よる住所チェックなどありません。

ありません。スマホがないと駅や空港でない

手を挙げてタクシーを呼ぶ人など見たことが

のもスマホ呼び出し(有名な滴滴です) 、町で

漢字の羅列、しかも簡体文字で日本の漢字と

度に、かつ相当に頭を使います。たくさんの

語表示付きでした。スマホでの中国表示が適

けですが、ウィチャットは、日本語表示、英

ト払いを設定します。アリペイは中国表示だ

銀行口座ができたらスマホに、ウィチャッ

ほとんどの人がスマホを出して、アリペイ払

限り、タクシーも拾えません。ここまで書き

は結構違う文字もいっぱい入っています。そ

いやウィチャット払いです。タクシーを呼ぶ

ように刺激的でわくわくするものか、分かっ

の中から必死に意味を読み取らなくてはいけ

ましたら、中国で初めて住まうことが、どの ていただけますよね。

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時のたつのが早すぎる 年を重ねると時間のたつのが早くなります。 同じように、時がたつのは遅くなるのでしょ

という法則です。1年の長さは、60歳の人

時間の心理的長さは、年齢の逆数に比例する

たジャネーの法則というものがあそうです。

フランスの哲学者、ポール・ジャネが発案し

ことは何度もありますが、ホテルなどの短期

しました。会議などで短期、中国に滞在した

ている時点で、およそ半分の1カ月半を過ご

間の予定で滞在しています。この随想を書い

今、縁がありまして、中国の大学に3カ月

うか。

には、人生の60分の1ですが、6歳には6

滞在と少し長期に「住む」のは違います。短

ご存知の方も多いと思いますが、19世紀の

分の1に相当し、同じ1年の長さに10倍の

期滞在のとき、中国のホストの方々がとても

日本語や英語の喋れる中国の学生の方のアテ

解しない人々にはとても不便だということで、

親切で、中国では英語も通じず、中国語を理

差が生じるそうです。 先日、 我が国の公共放送を見ていましたら、 重ねるほど、毎日の経験が過去の経験の形を

ンド付きで旅行し、ホテル滞在、レストラン

この感覚の違いに関して解説していて、年を 変えた繰り返しで、日々未体験の新鮮な驚き

今回は、たったの3カ月間とはいえ、短期

利用、観光地見学をいたしました。

覚に差が生じるといっていました。公共放送

んをたびたび煩わすことなど、もちろんはば

滞在のホテルに「住み」ます。中国の学生さ

を経験しなくなるため、時間経過に対する感

思いませんか。日々、わくわくするような新

かられますから、アテンドなしでの行動にな

を疑うわけではありませんが、本当かしらと しい経験をしていれば、本当に、若いころと

加藤信介

かとう しんすけ

東京大学名誉教授(生産技術研究所)

(専門は都市・建築環境調整工学)

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創設したものです。 フローレス人は身長が1メートル余りしか ない非常に小さな人類です。島では、ウサギ よりも大きな動物は大陸に生息する近縁種に 比べて小型化し、ウサギよりも小さな動物は 逆に大型化する傾向があり、それを島嶼化現 象といいます。島嶼化現象は1964年に J・フォスターが『ネイチャー』誌に論文を 発表したのが最初で、その少し後に大学に入 った私は奄美大島などに関心があったことか らその論文を読みました。フローレス島の動 物たちはまさに島嶼化現象にあてはまり、背 の高さが1メートルくらいの小さなゾウの化 石も発見されています。ただ、人類にまで島 嶼化現象が及んでいるというのは非常に驚き でした。 澎湖人は国立科学博物館(科博)の海部陽 介さんの加わる研究チームが発見し、ジャワ 原人、北京原人、フローレス原人とは異なる 特徴をもっていて、アジアで発見された4番

はやし よしひろ

独立行政法人 国立科学博物館長

(専門はバイオセラピー)

91

我々はどこへ 行くのか 人類は、猿人から原人に進化し、そして旧 人、新人へと進化したとされ、原人からホモ 属(ヒト属)に属します。私が学生のころに は、アジアの原人というと北京原人とジャワ 原人がいたと教わりました。21世紀に入っ て、2003年にインドネシアのフローレス 島でフローレス人が、2015年に台湾沖の 海底で澎湖人が見つかり、にわかにアジアに はさまざまな原人がいたと考えられるように なりました。 川端裕人さんの『我々はなぜ我々だけなの か――アジアから消えた多様な「人類」たち』 (講談社ブルーバックス)は、そうしたアジ アの人類史研究の最新の動きをわかりやすく まとめた本です。川端さんはこの本を出版し た功績によって今年の科学ジャーナリスト賞 を受賞しています。 科学ジャーナリスト賞は、 科学技術に関する報道や出版、映像などで優 れた成果をあげた人を表彰する賞として日本 科学技術ジャーナリスト会議が2006年に

林 良博


ます。若いときはやらなくてはいけないこと が少なかった。少なかったこそ、頭の中に鮮

ません。やたら選択肢が多くて、意味不明な まま、勘だけで、一か八かの決断も何度かし

間の経過が長くなる。1時間分の経験に多量

明に記憶され、隅々まで覚えているので、時

こんなに刺激的な生活を送っているのに、

の記憶(写真のような視覚的大量情報)が残

なくてはなりません。刺激的すぎます。 時間は、全然ゆっくり流れてくれません。そ

る。計算機メモリーに例えれば、1時間分の

と刺激的な経験をしても断片的(符号的)に

れどころか、目が回るほど早く過ぎてしまい

音はできないけれど、何となく想像できそう

しか記憶に残らず、1時間分の経験に残る記

年を取ると時間に追われて、いくら次から次

な料理をあてる刺激的な昼食に出かけ、少し

憶は短く符号化された所番地的なものしか残

記憶に対応して大量の記憶容量が必要になる。

作業したと思ったら、もう外はかなり暗く夕

らないのではないだろうか。計算機メモリー

したと思ったら、すぐお昼。漢字の羅列で発

方です。 また刺激的な夕飯に出かけなくては。

その類似性により圧縮され、圧縮されて少な

に例えれば、過去の経験に類似した経験は、

ます。朝起きて、身支度して、中国語で挨拶

ースを見ます。すべて字幕付きで、漢字の羅

夕飯から帰った後は、中国の公共放送のニュ

れる。1時間分の記憶容量が圧縮されてメモ

い容量になったメモリアドレスだけが記憶さ

何かがおかしい。こんなにも刺激的で、わ

リアドレスの参照だけで済む少量になったた

列から意味を必死で推測します。 くわくしても、時間は輪をかけて矢のように

め、時間は短く感じられる。 どう思われますか?

過ぎてしまいます。 ジャネーの法則は、正しいのです。私の解 釈は、年を取ると、考えること、しなくては ならないことが、年の数に比例して多くなり

連載 エッセイ

90


万8398人で、「理科ハウスは小さい科学館 だから30分くらいあれば全部見れるよねと 思う人がおられるかもしれませんが、そうじ ゃないんですね。……多くの方はたいてい2 時間以上はいます。滞在時間が長いのです」 と記しています。 理科ハウスと科博は規模こそ違いますが、 理念の面では共通するものがあると思ってい ます。一般的には科学館と博物館は少し性格 が異なり、科学館の代表としては日本科学未 来館があります。日本科学未来館の展示物は ほとんどが人間が作ったものです。それに対 して、科博の展示物の80パーセントは自然 史関係で、つまり自然界からの標本です。残 りの20パーセントが科学技術史で、どちら にしても「ヒストリー」です。理科ハウスに は標本を含むたくさんの展示物があって、そ こが非常に博物館的で、だから滞在時間が長 くなるのでしょう。 ゴーギャンはタヒチで「我々はどこから来 たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くの か」と題する絵を描きました。その答えはど こにあるのでしょうか。ダーウィンの進化論

によれば、強いものが生き残るのではなく、 適応性の高いものが生き残ります。フローレ ス人は原人として割と早い時期に小型化した ようです。 フローレス人は本当に小さいです。 標本が科博に展示してありますので、ぜひ一 度ご覧になってその小ささを実感してみてく ださい。フローレス人が小さかったのは、そ れがそのときの島の環境に適応的であったか らなのでしょう。適応的でなくなればいつし か消えてしまいます。 われわれホモ・サピエンスはこれまで適応 的であったのでしょう。だからいま唯一のホ モ属として地球上にいるのです。しかし、こ れからはどうなのでしょうか。人類はより多 くの資源を使う方向へと進んできて、地球環 境のキャパシティを超える状況にまでなって います。 「我々はどこへ行くのか」 、果たして 人類は持続可能なのか。サステイナビリティ の基本は歴史にどう学ぶかにあるのではない でしょうか。

連載 エッセイ

93


目の原人であると考えられています。澎湖人 の化石は海底から見つかりましたが、大陸と 台湾本島や澎湖諸島の間は、氷期には海面が 下がってたびたび陸地化していました。化石 の年代は古くても45万年前、おそらくは1 9万年前より新しく、一方で30万年前頃ま でには、中国北部などでは旧人が現れていた らしいので、旧人の時代に至っても台湾付近 ではまだ原人集団が生き残っていた可能性が あります。人類進化の多様性を示すものとし て大変興味深いです。 人類史のその後の流れのなかで、原人も旧 人もすべて消え去り、現在のホモ属はわれわ れホモ・サピエンス1種だけです。それで川 端さんの本の副題は「アジアから消えた多様 な『人類』たち」となっています。どうして 消えたのか。ホモ・サピエンスがほかの人類 を滅ぼしたのではないかと疑われるわけです けれど、この本ではそのあたりのことについ て非常に慎重に書いてあります。 川端さんは海部さんを初めとする研究者や 発掘現場を丹念に取材され、科博と縁がある ということで、科学ジャーナリスト賞の授賞

式に私も招待されました。今年のジャーナリ スト賞はほかに4件の表彰があり、そのなか で興味深かったのは、特別賞となった理科ハ ウスです。これは神奈川県逗子市の住宅地に ある自称「世界一小さな科学館」で、館長の 森裕美子さんと山浦安曇さんの2人で、まさ に手作りで運営してきた独創的な科学館です。 日本博物館協会が発行している『博物館研 究』の2016年7月号で「小さな博物館」 という特集を組み、この理科ハウスのユニー クな取り組みを紹介しています。理科ハウス の床面積はわずか30坪で、民家を改造した ようなブロック積みの建物は保温効果が高く、 夏の一番暑いときに冷房フルを稼働しても電 気代が1万円ですみます。そのように経費を おさえながら運営してきました。 ここで「~してきました」と書いたのは、 10周年を迎えた今年の夏の企画展 「大逆展」 をもって理科ハウスが休館となったからです。 森さんは10年間続けることを目標として開 館し、それを達成したところでお休みに入る と宣言していました。理科ハウスのホームペ ージを見ると、10年間の来館者数は延べ3

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殿や法隆寺の屋根の両端に飾られるU字を横 にした飾りである。飛鳥時代に中国から伝え られたといわれるが、これは風を起こして火 を吹き消すという。いずれも防火のための呪 物であるが、中国伝来の鵄尾に倣って荒々し い鯱を武家が作ったと考えられる。 ではなぜ出雲を中心とする山陰の一部に、 こうした呪物が民家の屋根に上げられている のか。理由はよくわからない。実は鯱ほこだ けではなく、鵄尾様の飾り瓦もあった。そう なるとやはり防火を目的としたもの、と考え るのが順当なようである。いつ頃からかとな

るとこれは難しい。身分差別の厳しい江戸時 代に、殿様の城に載せる鯱ほこを町民・農民 が載せられたのか。人に聞くと「おじいさん の家にもあった」というから、明治・大正の ときにはすでに一般的であったのであろう。 ここから先は、郷土史あたりを丹念に調べる より方法は無いようである。 山陰の地を巡って気の付いたことは、海岸 は殆ど断崖で平地が少ないこと。水田はそこ から少し奥に入った山間の谷あいに広がる。 したがって民家は山裾の狭隘な土地に2、3 0軒が軒を並べる。集落の中の道は自動車1 台がようやく通れるくらい。冬の日本海を渡 る強風の際に、もし火が出れば集落はどうな るか。こうした状況が村の安全を願う鯱ほこ となって伝えられているのかもしれない。 それにしても、この地の山林は深い。訪ね た日が小雨模様の雲の低い、それも夕刻に近 い時間であったからかもしれないが、薄暗い 森林の中に、500年を越す巨木が何本かあ り、 なにか霊気さえ感じさせるものがあった。 同行の3人も同じような感興を覚えたようで、 しばらく話が途切れた。

連載 エッセイ

95


出雲の鯱ほこ 前回のこの欄で隠岐・出雲に行くことを書 いた。今回はその報告である。 9月上旬の台風で関西空港が使用不能にな ったり、工事現場の足場が倒れたりいろいろ の被害が出て、 予定通り出発できるかどうか、 少し不安ではあったが取り敢えず空港に行っ てみると、何のことはない。乗り継ぎが伊丹 に変わっただけで、ほとんど定刻通り隠岐に ついた。さて、ここから韓半島(朝鮮半島) が見えるかどうか。機内からそれらしき方向 を見るが、当日は寒冷前線が南下してきて殆 ど雲の中。 空港の掃除のおじさんに聞いたが、 「見たことないねえ」という話。 隠岐は岩からできている島とみえる。それ も島全体が一つの岩という感じである。全島 が切り立つ断崖に囲まれた島ではあるが、岩 の峰と岩の峰の間の平坦地には水田が発達し ていて、漁業と農業がともに島を潤している ように見えた。夜空には満天の星。子供の時 に見た天の川をほぼ50年ぶりに見た。

本題の出雲の鯱ほこである。翌日、境港に 着き車で米子から三瓶山に至る。隠岐ではほ とんど見かけなかった鯱ほこの屋根飾りを載 せた民家が目に付く。三瓶山の中腹にある国 民宿舎に入ろうとすると、その玄関になんと 高さ40センチほどの素焼きの鯱ほこが飾っ てあるではないか。受付の人に聞くと、この 辺の風習、魔よけという答えであった。確か に近くで見ると、目を怒らせて開いた口から は虎の牙のような歯が見える。尾を高く反ら した体勢はまさしく天守閣の棟に載る鯱であ る(写真) 。これを城郭の屋根に乗せるのは、 鯱が全身から水を吹き出すという伝説による もので、火災に対する一種の守護神的性格を もったところにある。戦国期以来、落城と言 えば城に火が放たれて主将が腹を切るのが一 つのパターンになるが、この城の炎上を防ぐ のが鯱ほこの役目であった。 実は鯱ほこ以前には鵄(鴟)尾が用いられ た。これは鳶の尾を象ったもの。奈良の大仏

山田利明

やまだ としあき

東洋大学教授

(専門は中国哲学)

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て生活ができて独り身でいると、ぼけ

金をもらうようになり「お金がもらえ

いても働いても貧しかったけれど、年

10年あまり1人で暮らしていた。働

働き者のお爺ちゃんが亡くなった後、

きながら嫁に来た」 とも話してくれた。

かと思っていると、「男の子が2人いた

のことか察しかねて、どう返したもの

れたり……」とポロリとこぼした。何

料理を作ったり、家のこともやってく

とはなかったかもしれんねえ。一緒に

たら、こんな風に1人で山で暮らすこ

子はきっと女の子だった。あの子がい

そんなお婆ちゃんがあるとき、「あの

いたことがあった。地域によっては、

して)神様に返す、子返しのことは聞

い子供であったと口などをオシテ(圧

後に産婆さんに合図を送って望まれな

出産前に胎児を堕ろしたり、出産直

……」と話してくれた。 「子返し」のこ

し、貧しくてね、育てられないからね

とだった。

す。

障子の貼り紙などの和紙をちぎって濡

れ紙にして、それを口と鼻に貼り付け

て窒息させたという伝承もある。嬰児

は夫婦の寝室の下に埋めて丸石を置き、

: 1998

幸せになれる世に生まれ変わってくる

よ う 願 っ たと い う ( 坂 本 、

) 。 182-185

ソロモン諸島でのフィールドワーク

では堕胎の話を良く聞いた。10年あ

の端っこにある小さな村だった (図②) 。

まり通い詰めたビチェ村は、小さな島

最近はソーラーパネルが使われ始めた

97

てしまう」と笑っていたことを思い出

図1 強い風で擦れて傷が付いたコウゾの枝.


忘れられた当たり前を探す¨ 目からウロコのフィールドワーク㉖

命を返すということ たなか もとむ

田中 求

お婆ちゃんは、最近は病院や介護施

った。

設にいることが多くて、なかなかお会

いできないなあと思っていたところに

飛び込んできた訃報だった。91歳だ

った。とても笑顔がかわいらしくて、 た。

優しくて、話し好きのお婆ちゃんだっ

20年あまり前に調査でお世話にな

った集落にお婆ちゃんの家はあり、よ

く晩ご飯を食べさせてもらった。毎週

1回、決まった時間に魚屋さんが五木

ひろしや北島三郎などの演歌を大音量

で流しながらやってくると、そこで買

ていたお婆ちゃんが亡くなったと連絡

の合間に、昔からとてもお世話になっ

と、 「戦争中で恋もせず、結納も嫌でお

では命からがら橋の下に逃げ込んだこ

は路面電車の会社で働いていて、空襲

て縁付いた(結婚した)こと、戦時中

高知大学地域協働学部講師 (専門は環境社会学)

ったお刺身をご馳走してくれた。母親 今年は次から次へと台風がやってき

があった。台風にあったコウゾの株の

が集落にあった工場に紙漉きをしにき た。 畑のコウゾやミツマタが折れたり、

一部は、このお婆ちゃんの家の前に残

金をパラリッと両親に叩きつけた、泣

のもあった (図①) 。 枝を紐で括ったり、

っていた珍しい品種を増やしたものだ

擦れて傷が付いたり、株ごと倒れたも 株を起こしたりと作業に追われた。そ

96


図 3 ビチェ村の小学校.

胎をしていたのは、学校の寮に入って

いた子どもたちだった。中学校以上の

学費は、両親の収入の数カ月分でもあ

り、学費を出してもらえない子どもも

多かったから、進学することができた

子どもたちは何とか退学しないように

しては、ヤシ酒作りや飲酒、喫煙など

と努めていた。退学させられる理由と

があり、 男女交際もそのひとつだった。

ビチェ村の女性12人の年間性交渉

回数は平均で4回、男性15人は平均

7回と少なめだったけれど、女性16

人の初体験年齢は13歳から20歳で

平均は15歳、男性20人については

8歳から22歳で平均は14歳と早い。

せっかく中学校や高校に行けるように

なったのに、男女交際や飲酒などで1

2人のうち6人が半年足らずで退学に

なってしまった。同じ時期に、妊娠の

発覚を恐れて5人が堕胎をしたとも聞

いた。 パイナップルやヤシの実の煮汁、

99


図 2 ビチェ村の家々.

浜辺や川だけれど、とても自然が豊か

けれど、水道もガスもなく、トイレも

で、漁労採集と焼畑を主な生業にする

人たちが暮らす村だった。そこには、

子どもたちも加わってみんなで建てた

小さな小学校があった(図③、図④) 。

勉強に向かないから焼畑や木彫りを作

小学校に行き始めて間もなく、自分は

ったりして食べていく、と早々と学校

に見切りを付ける子どももいたけれど、

多くの子どもたちは勉強も学校も先生

のことも大好きで、何でこんなにたく

さんあるんだろうと頭から湯気を出し

ながらアルファベットを覚えたり、葉

っぱをちぎったりノートにたくさん棒

を書いて計算したりしていた。赴任し

てくれる先生がいなくて閉校が続いた

り、開校しても小学4年生までしか教

隣村や別の島の学校の寮に入って、中

えてくれる先生がいなかったりして、

学校や高校にまで行く子供もいた。堕

98


いだコウゾの株の世話をしながら、あ

きたいと思う。お婆ちゃんから受け継

坂本正夫( 1998 ) 『土佐の習俗-婚姻 と子育て』高知市文化振興事業団。

の悲しそうな笑みを思い出そうと思う。

どうしたら良かったのか、何ができた のか、答えもなく何年も考え続けてい

ない、と訳知り顔で納得しきれない。

そのひとつがこの堕胎や子返しだった。

る。そこに生き続けたかった命があっ

いろんな地域を歩き回る中で、受け

それが地域で生きていくためには必要

て、いつまでも忘れられない痛みや悲

とめきれなかったことがたくさんある。

なことだった、育てられないのなら、

しみがあったことだけは心に刻んでお

101

教育の機会を失わないためなら仕方が

図5


図 4 小学校の支柱用の丸太を削る子供たち.

ぎ汁、 マラリアの治療薬などを使って、

ある薬用植物の葉、マッチやコメのと

堕胎を試みたという。堕胎を試みて薬

用植物の葉の汁を飲み、お腹が痛いと

苦しんでいる女の子が痛み止めが欲し

いとやってきて、困ったこともある。

ビチェ村の人たちは現地語であるマ

ロヴォ語で、 Tonagia minado la pa

koburu oro togania minado mae pa (全ての幸せは、子 koburu tungana どもに注がれ、全ての幸せは子どもが

運んできてくれる)と話してくれた。

それぞれの家の事情に応じて、養子と

して子どもを引き取ることも多くて、

120人あまりの集落で26組の養子

があり、みんなとても子どもをかわい

がっていた(図⑤) 。女の子たちも、中

学校や高校に行くということがなかっ

たら、堕胎という方法を選ばなかった

のではないかとも思う。

100


文・構成 平松 あい)

サビた鉄釘

な働きをしている。

(親子サステナ

お手製カイロ

人 間の 体 内 に 流 れ る 血 液 量 は 大 人 (体 重 5 0 ~ 6 0 キ ロ グラ ム ) で 大 体 3 ・ 5 ~ 4 ・ 8 リ ット ル あ る が 、 血 が 赤 い の も 、 鉄 と 酸 素 が 結 び つ い た 、 いわ ば 赤 サ ビ の 色 な の で あ る ! 体 内 に あ る 鉄 の 量 は 、 体 重 7 0 キ ロ グラ ム の 男性で4~5グラム(釘1本分) 。こうして体 中に酸素が送られているのだ。 鉄は地球 の 重 さの約 3 0%を 占 め、太 古か ら 使わ れて き た 身近 な 物 質 だ が 、 同 時 に 生 物 の 進 化 や 人 間 の 命 に も 重 要 な 役 割 を 果 た して きた。サビは鉄の神髄なのかも…という話も。

【第 46 号】


いの、色々とある。カイロは日本の優秀な発明

貼るカイロ、靴に入れるカイロ、大きいの小さ

在だ。ポケットに入れておくだけでなく、腰に

観戦したりするときには、本当にありがたい存

外で何時間もトレーニングを見学したり、試合

イロ。サッカー好きの息子クンにつきあって、

これからの季節、重宝するものといえば…カ

子クンは何を入れすぎたか振りすぎたか、8

だいたい60℃くらいまで上がるのだが、息

が止まって冷え、口を開けるとまた温まる。

をぴっちり閉めると酸素がなくなるので酸化

酸化反応が進み、その熱で温まってくる。口

でくるんで入れてもんでいると、ゆーっくり

(保水用)を入れ、そこに鉄粉をティッシュ

チャック袋に食塩水とバーミキュラ イト

カイロと鉄サビ

品の一つだと思う。 ても便利! カイロは一体何が入っていて、ど

市販のカイロは、外袋を破った時点で空気に

鉄サビであったまろう、ということである。

端的に答えを言うと、カイロは鉄の酸化、

5℃以上まで上がって、没収~(笑)

う いう 原 理 な んだろ う …と 思 う 人 も 多い ので

ただ袋から出すだけであたたまるなんて、と

はなかろうか。その質問に答えるべく(という

触れて、温まりだすようになっている。

ないイメージだが、実はこの鉄の酸化、重要

サビというと、鉄が腐食して劣化するよく

わけでもないが) 、息子クンが夏休みの実験で、 カイロを作ってみた(なぜ夏に…?と突っ込み たくなるが、そこはご愛嬌☆) 。


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