サステナ第32号

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司会 お待たせいたしました。定刻と なりましたので、ただいまからSSC 地域公開シンポジウム 北九州、第一 六八回ICSEADアジア講座を開始 いたします。 本日はサステイナビリティ・サイエ ンス・コンソーシアムと国際東アジア 研究センター共催で、「低炭素と持続可 能性を両立する地域づくりの最前線―

■開会挨拶

はった たつお

八田達夫

北九州市の取り組みから」と題しまし て公開シンポジウムを開催いたします。 開催にあたり、SSC関係者の皆様に ご協力をいただきましたことを感謝申 し上げます。本日は基調講演、事例報 告、および講評がございます。 それでは開会に当たりまして、国際 東アジア研究センター所長の八田達夫 から開会のご挨拶を申し上げます。

一般市民向けの「アジア講座」を開い ています。本日はそのアジア講座と、 SSC地域公開シンポジウムを兼ねて 開かせていただくことになりました。 SSCは一般財団法人サステイナビ

国際東アジア研究センター(ICSEAD)所長

皆様、おはようございます。今日は SSCとICSEAD主催による地域 公開シンポジウムを再び北九州市で開 催できることになり、うれしく思って おります。ICSEADでは定期的に

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in


SSC地域公開シンポジウム in 北九州 第 168 回 ICSEAD アジア講座

低炭素と持続可能性を両立する 地域づくりの最前線 北九州市の取り組みから

現在,私たちは,気候変動や生物多様性・生態系サービスの劣化など,世界 規模の複雑で長期的な問題を抱えています。一般社団法人サステイナビリテ ィ・サイエンス・コンソーシアム(SSC)では,人間活動と自然環境が調和 した持続型社会の構築を目指し,サステイナビリティ(持続可能性)の実現 に向けた実践活動を展開することを目的に,政府・自治体・企業・NPO 等と 共同で新しい人材育成,持続可能な社会形成のための啓発普及活動など幅広 い活動に取り組んでいます。 北九州市は市民運動から公害を克服した歴史を持ち,市民の環境問題に対す る取り組みもとても盛んです。さらに環境首都を目指したさまざまな先駆的 取り組みが行われています。 SSC と北九州市が共同で,持続可能な社会の実現に向けたアジアの地域づく り,および北九州市で進めている取り組みに関するシンポジウムを開催しま した。

●主催:一般社団法人サステイナビリティ・サイエンス・コンソーシアム 公益財団法人国際東アジア研究センター ●共催:北九州市 ●後援:一般社団法人西日本工業倶楽部,北九州商工会議所 ●日時:2013 年 11 月 16 日(土)10:00~12:45 ●会場:リーガロイヤルホテル小倉 3 階エンパイア 2


■基調講演

エネルギー・環境・生態系を最適化する アジアの地域づくり 3Eネクサス たけうち かずひこ

武内和彦

)とは、つながりとか連結 ス( nexus といった意味です。 来年(二〇一四年)三月二一日には 「世界水の日」の記念シンポジウムを 国連大学が主催することになっていま

今日は私たちが最近始めた取り組み についてお話をさせていただきます。 通称 「3Eネクサス」 といっています。 最近は「ネクサス」という言葉がはや りのようになってきています。ネクサ

東京大学国際高等研究所サステイナビリティ学連携研究機構(IR3S)機構長・教授、 国連大学上級副学長

私は、北九州市には随分以前からい ろいろお世話になっています。北九州 市はサステイナビリティの分野で先駆 的な取り組みを進められ、市域での取 り組みのみならず、アジアに視野を広 げ、自治体外交の一端としてサステイ ナビリティの問題に国際的に広範に取 り組んでおられます。そのことに対し て、日頃より敬意の念を抱いておりま す。

すが、その際のテーマは水エネルギ

ー・ネクサス( water energy nexus ) です。エネルギーの問題と水の問題を つなげて一緒に考えようということで す。従来は、エネルギーと水はそれぞ れに関係者が異なるというのが通例で した。しかし、水処理一つをみても、 それにはエネルギーが必要です。水と エネルギーは深く関係しています。両 者を合わせて考えることで、相乗効果

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リティ・サイエンス・コンソーシアム の略称です。このコンソーシアムは二 〇一〇年に設立され、サステイナビリ ティ・サイエンスの分野をリードする 日本の大学・研究機関を中心に、企業・ 自治体・NPOなどと連携して、持続 可能な社会形成に向けた研究・教育、 そして市民社会への啓発・普及といっ たことを目的に活動しているグループ

です。 全国的には一三の教育研究機関、 北海道の下川町など四つの自治体、大 林組など一二の企業など、全体で五七 の会員で構成されています。北九州市 内ではICSEADのほか、北九州サ ステイナビリティ研究所、NPO法人 里山を考える会などが会員となってい ます。 本日は東京大学の武内先生による基 調講演を始め、大変興味ある事例研究 の発表がございます。これを機会に、 北九州が持続性社会の発展にますます 貢献することができればと願っていま す。

司会 八田所長、ありがとうございま した。それでは早速基調講演に移りま す。武内先生、よろしくお願いいたし ます。

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図②

ーション」 ( transformation )がキーワ ードで、サステイナビリティ学はトラ ンスフォーメーショナルな科学である と言われます。持続可能な社会に向け て変革をもたらす学問だということで す。 もちろん、サステイナビリティ学は 万能の神のように何でもできるわけで はありません。実際には、個別科学の 専門的な知識を必要とします。既存の 自然科学、工学、経済学を含めた社会 科学など、さまざまな分野の協力が必 要ですし、人文科学の分野もたいへん 重要です。アジアの共生哲学といった ものや、原子力発電所の事故が起こっ て以来、人々の社会的な不安が高まっ ているなかで、それに対する哲学や倫 理の問題などを考えることが大切です。 そのようなことも踏まえ変革をもたら していくことがサステイナビリティ学 の大きな課題です。 私は明日からヨーロッパに行きます。

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が期待できるというのが、水エネルギ ー・ネクサスの基本的な考え方です。 そのような考え方を発展させて、エ ネルギー、環境、生態系の三者を合わ せて考えよう、すなわち、 energy 、

、 ecosystem の頭文字の environment Eをとった「3Eネクサス」というプ ロジェクトを今年から私ども東京大学 サステイナビリティ学連携研究機構が 中心になって始めています。まだスタ ートしたばかりですので、今日は基本 的な考え方についてお話させていただ きたいと思います(図①) 。 北九州市の皆さまが自治体外交とし て、アジアを中心とした開発途上国と 一緒になって試みられておられること は、実は、私どもが考えている3Eネ クサスをまさに実践されているものだ と私は受け止めています。本日は最初 に私からその基本的な考え方をお話し た後で、皆さまのご報告がなされるこ とで、議論がより具体的になるのでは ないかと思っています。

さて、サステイナビリティ学(サス

サステイナビリティ学の課題

図①

テイナビリティ・サイエンス)とはい かなる学問なのかとよく聞かれます。 人によっていろいろ定義がありますが、 私は二つの大事なポイントがあると考 えています(図②) 。一つは俯瞰的にも のを見るということです。一つの現象 だけに注目するのではなく、現象間の 相互関係性により注目するという立場 です。これを英語では「ホリスティッ

) 」といい、日本語では「俯 ク( holistic 瞰的」とよくいいます。個々の側面を 見るよりも全体を俯瞰的に見ることが サステイナビリティ学の一つの大きな 特徴です。 もう一つは、問題を解決する方向を 明確に示すということです。環境に関 する地球的な課題、具体的にいいます と気候変動や生物多様性などの課題、 あるいはさまざまな地域的な環境の問 題に対して、サステイナビリティ学は 解決の方向を示します。私どもの関係 者のなかで最近は、「トランスフォーメ

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る国連会議」 (地球サミット)を機に成 立した三つの条約です。 第一が気候変動枠組条約です。日本 は原発事故の影響を受けて、温暖化対 策の目標値をかなり低く下げることに なりました。気候変動枠組条約締約国 会議で批判されることが懸念されてい ます。この条約は地球温暖化を防ぐこ とを目的とするとともに、一定の温暖 化は避けられないという前提のもとで、 温暖化にどのように適応していくのか ということも考えています。まだ気候 変動枠組条約のなかで具体的に議論が されていませんが、最近では、IPC C(気候変動に関する政府間パネル) のような場で、ロス&ダメージという ことが議論されています。今後多発す るであろう気候変動由来のさまざまな 自然災害に対して、損失や被害をいか に軽減するのかをきちんと考え、自然 災害のリスク管理にまで視野を広げる 必要があるといった議論が急速に進ん でいます。 第二が生物多様性条約です。生物お よび生態系に着目した条約で、二〇一 〇年にこの条約の第一〇回締約国会議 を日本が主催し、非常に大きな成果が ありました。その成果の一つは、二〇 二〇年および二〇五〇年までの短期 的・長期的な戦略目標を定めたことで す。地元の県の名前を取って「愛知目 標」といわれています。もう一つの成 果は、遺伝資源の利用に関する「名古 屋議定書」です。気候変動枠組条約に 関しては、第三回締約国会議で決めら れた「京都議定書」がよく知られてい ます。京都議定書は二〇一二年までの 温室効果ガスの排出削減の目標を定め たもので、いまはそれを単純延長する 段階になってしまっていて、日本は京 都議定書から離脱をしています。二〇 二〇年以降の目標を早くに決めようと いう議論がいまされています。 「名古屋議定書」は遺伝資源の公平

な利益配分に関する議定書です。遺伝 資源はとくに熱帯地域に豊富に存在し、 その多くが途上国に属します。 一方で、 遺伝資源を使って食料を生産し、医薬 品を製造し、あるいは工業製品に仕立 てて利益をあげているのは、その多く が先進国です。先進国が遺伝資源から 得ている利益を途上国にきちんと還元 しているのか、あるいは、途上国が自 ら遺伝資源を使うための能力を形成す ることに先進国がきちんと協力してい るのかというと、不十分な状況です。 そのためのルールをきちんと作るとい うのが「名古屋議定書」です。 生物多様性条約の第一〇回締約国会 議では、愛知目標、名古屋議定書とも 最後まで難航しましたが、最終的には 採択されて、会議は非常に大きな成果 を上げました。 第三の条約は、あまりご存じないか もしれませんが、途上国からの強い要 求によって、ほかの二つの条約よりも

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いまユネスコの総会が開催されていて、 来週月曜日にサイドイベントを開きま す。ボコバ事務局長にも出席していた だいて、私たちが九月に主催したユネ スコの会議の成果を報告します。その 会議で何を議論したかといいますと、 ユネスコには自然科学部門と人文社会 科学部門があって、この二つがなかな か融合していません。ユネスコは地球 的な課題に取り組み、例えば気候変動 問題に貢献することがユネスコにとっ てとても重要だとボコバ事務局長は 常々いっています。そのためには自然 科学部門と人文社会科学部門が融合す ることが必要で、私どもは、そのため にはユネスコの戦略のなかにサステイ ナビリティ学のコンセプトを入れるべ きだと主張しています。 ユネスコの戦略は加盟国の合意によ って最終的に決定されるので、加盟国 が理解してくれなければなりません。 残念ながら、サステイナビリティ学は

よくわからないという意見があります。 そうした人たちにもわかってもらうた めに、私どもはシンポジウムを開催し ました。 かなり理解は深まりましたが、 ユネスコの決議のなかにサステイナビ リティ学という言葉を残すのはまだ難 しい状況です。来週月曜日にサイドイ ベントを開催することで、それを克服 したいと思っています。 サステイナビリティ学がすべての問 題を扱えるわけではありません。既存 の学術、そしてその成果を束ねること に力を注ぐ必要があります。サステイ ナビリティ学を志向する人たちには、 いってみればコーディネーターの役割 が期待されています。私は以前に都市 計画学会の会長を務めました。都市計 画という分野は、サステイナビリティ 学とよく似た性格をもっています。ま ちづくりには、道路を作る人、建物を 建てる人、エネルギーを供給する人、 緑の配置を考える人など、さまざまな

人の協力が必要です。まちは一つです から、それぞれがばらばらに考えたり 作ったりするのではなく、トータルに まちの将来像を考える必要があります。 それを実践するのが、まさに都市計画 の役割です。コーディネーターという ことで、都市計画とサステイナビリテ ィ学は相通じるものがあります。

気候変動、生物多様性、 そして砂漠化

サステイナビリティ学は、社会をよ り持続可能なものにするためにさまざ まなトランスフォーメーションを引き 起こしていくことが求められています。 実際に国際的な場、あるいは国内的な 場で私どもが進めている取り組みを紹 介します。 リオ三条約というものがあります。 一九九二年にブラジルのリオデジャネ イロで開催された「環境と開発に関す

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疾患や目の疾患が増加しています。こ れ防止するには、黄砂の発生そのもの を食い止めることが重要です。 これら三つの条約の間には密接な関 係があります(図③) 。気候変動は生物 多様性に影響します。気候変動の緩和 や適応を考えると、生物多様性が大き な役割を演じます。砂漠化は生物多様 性に影響をもたらします。砂漠化対策 を考えるには緑化が必要です。緑化す ると生物多様性が変化します。温暖化 が進むと乾燥したところがますます乾 いて砂漠化が加速化します。砂漠化は 気候変動に影響をもたらします。 しかし、これら三つの条約の締約国 会議は別々に開催されています。事務 局も別のところにあります。研究者が 議論する場も別々です。砂漠化につい ては独立した組織はありませんが、気 候変動に関してはIPCCがあり、生 物多様性に関しては今年からIPBE S(生物多様性と生態系サービスに関 する政府間科学・政策プラットフォー ム)が始まりました。IPCCとIP BESの議論は、残念ながら十分に連 携してはいません。ここにもサステイ ナビリティ学の役割があるのではない かと私は思っています。

三つの社会像の統合 話を日本に向けますと、私自身が直 接関係したこととして、二〇〇七年に 策定された「二一世紀環境立国戦略」 があります。これが日本の現在の環境 政策の大きな骨格になっています。私 は、持続可能な社会を構成する三社会 像の統合ということを提案し、そのこ とが「二一世紀環境立国戦略」のなか でうたわれています。 三社会像の一つは、 低炭素社会です。 気候変動の根本には、化石燃料を多用 するエネルギーの問題があります。エ ネルギー効率を向上させ、再生可能エ

ネルギーを利用して、できるだけ炭素 を出さない社会にしようというのが低 炭素社会です。原子力をいかに位置付 けるかに関して、従来はかなり前のめ りで、最大で半分のエネルギーを原子 力でまかなうことを想定して、日本は 温暖化の削減目標を政策決定していま した。 二番目の社会像は、 循環型社会です。 これに関連する国際的な条約はありま せんが、OECDのなかに循環型社会 に関する専門家パネルが設けられてい て、日本が世界の議論をリードしてい ます。循環型社会には天然資源の利用 も、廃棄物の問題も関わります。天然 資源は枯渇する可能性が非常に高いの で、その利用をできるだけ削減し、い まある資源をできるだけ使い回して、 結果的に廃棄物の発生を限りなくゼロ に近付けていくことが必要です。それ は、リデュース、リユース、リサイク ルと呼ばれ、それらを総称して3Rと

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図③

少し遅れてできた砂漠化対処条約です。 この条約には 「特にアフリカにおける」 という言葉が付いています。それは、 アフリカの国々の人たちが、気候変動 も生物多様性も重要だが、アフリカの 砂漠化や土地の荒廃も何とか考えてほ しいと要望して追加された条約だから です。砂漠化の進行は、実際には、ア フリカと並んでアジアでも深刻です。 中国の乾燥地域・半乾燥地域、インド・ パキスタンなどにも、砂漠化、土地荒 廃が顕著な地域があります。湿潤地域 でも土壌侵食が深刻な問題になってい ます。砂漠化だけでなく、湿潤地域の 土地荒廃も含めて、幅広く問題を扱う べきだと私は思っています。 砂漠化に関連して、黄砂が日本にも 影響を与えています。黄砂が中国の北 の方の工業地帯の上空を通過する間に、 酸性物質・公害物質をトラップし、韓 国や日本に被害をもたらします。韓国 では黄砂発生の後にかなり顕著に気管

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の議論のなかで、階層的な地域循環圏 という概念が打ち出されています。例 えば、希少な金属のようなものは東ア ジア全体で循環するのが効率的でしょ う。一方で、生ごみのようなものはな るべくコミュニティ規模で循環するの がよいのでしょう。大型家電のような ものは、もう少し広がりのある圏域で 循環するのがいいだろうというように、 階層的に考えます。 生物多様性の保全に関連して、二〇 一二年に「生物多様性国家戦略201 20‐2020」が閣議決定されまし た。二〇二〇年は「愛知目標」の短期 目標の達成年で、それまでの一〇年間 を国連は「生物多様性の一〇年」と定 めました。達成年までの日本の戦略を まとめたのがこの「生物多様性国家戦 略2012‐2020」です。 「愛知目 標」では、陸域の保護区域を一七パー セント以上拡大し、海域の保護区域を 一〇パーセント以上拡大するという数 値目標が掲げられています。 それにのっとり、日本では国立公園 の拡張を進めています。具体的には、 二〇一二年三月に霧島屋久国立公園を 霧島錦江湾国立公園と屋久島国立公園 に分割して、錦江湾全体を国立公園に 含めました。二〇一三年五月には、三 陸復興国立公園を創設しました。この ように、できる限り国立公園を拡大し て、愛知目標の達成に貢献しようとし ています。また、新たに慶良間諸島を 国立公園にする方向で議論も進んでい ます(二〇一四年三月に指定される見 通し) 。ここでは、サンゴ礁生態系やク ジラの生息環境を守るために、島の沖 合七キロメートルまでの海域を国立公 園に編入する予定です。 国家戦略のなかでは、都市と農村の 連携が重要であるとして、自然共生圏 の考え方が示されています。自然共生 圏と地域循環圏、それに低炭素の圏域 を一つに融合させることが、3Eネク

サスの一つの重要な考えです。再生可 能エネルギーには、太陽光、風力、バ イオマス、小水力発電、地熱などいろ いろありますが、これらはいずれも地 域性がありかつ分散型です。他方、生 態系もやはり地域性が非常に重要です。 それぞれの地域には、その地域ならで はの環境の問題があり経済の問題があ ります。従来のような集中的にエネル ギーを大量に供給するというやり方か ら、分散型のエネルギー供給の仕組み へと大きく舵を切っていく必要があり ます。 最近、再生可能エネルギーを扱うイ タリア系のある会社のCEOの方と話 をしました。その人は、ソーラーパネ ルを少し高い位置に設置し、その下で 牛を飼うということを進めています。 日本でも同様のことを主張している酪 農家がいます。九州などは温度が上昇 して、牛にとってはソーラーパネルの 下が快適な環境になるというのです。

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言われています。私は最近まで3Rな どを議論する中央環境審議会の循環型 社会計画部会長を務めていました。 循環型社会形成のなかでいま一番大 きな課題は、家庭部門からの資源をど のようにしてうまく再利用していくか ということです。一例を申し上げます と、 携帯電話がどんどん新しくなって、 家庭のなかに使わなくなった携帯電話 が結構たまっています。個人情報が漏 れるのが嫌だとか、小さいから残して おいてもあまり邪魔にならないという ことで、家庭内に携帯電話がたまって きています。携帯電話からは金を含む 希少金属が効率よく回収できます。し かし、それを集める仕組みが十分でき ていません。 三番目の社会像は、生物多様性・生 態系に関わるもので、自然共生社会と いう名称が二〇〇七年に提案されまし た。二〇一〇年に開催された生物多様 性条約第一〇回締約国会議(COP )を経て、自然共生社会という概念 は、 国際的にも広がりを見せています。 いかに生物多様性と調和し、生態系サ ービスや自然資本に依拠した社会を築 きあげることができるのかが、大きな 課題となっています。COP では、 それを推進するために、国連大学が日 本の環境省と連携して、SATOYA MAイニシアティブ国際パートナーシ ップを発足させることができました。 10

三社会像の統合と関係して大切なの は、グローバルな課題とローカルな課 題を結び付ける発想です。ここ北九州 市は、かつては公害に苦しめられ、そ してそれを克服し、いまはさらに、地 球的な視野での貢献を考えながら施策 を展開しています。アジアの途上国、 あるいは中国、 インドなどの新興国は、 いま公害に苦しんでいます。 中国では、

グローバルとローカルを結び付ける

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PM2・5が大きな問題になり、北京 では健康被害が報告され、大気環境が 極度に悪化した際には、日本人の子ど もにできるだけ中国から帰国するよう にとの指示が出たりしています。中国 はいまや世界第一の二酸化炭素の排出 国です。公害の克服という地域的な課 題とともに、地球的な課題の解決にも 中国は取り組んでほしいと思います。 その両方を同時に解決していくことが 望ましいのです。 日本でも、地球温暖化対策と都市の ヒートアイランド対策を組み合わせて、 両者に共通する処方箋を示していくと いった提案がされています。そのよう な考え方をコベネフィット・アプロー チといいます。お互いにウィンウィン の関係を形成するということです。コ ベネフィット・アプローチは3Eネク サスの大事な要素です。 地球的な視野と地域的な視野を統合 していくことに関連して、循環型社会

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図④

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図⑤


そこで、ソーラーパネルと酪農を何と か調和させられないかと協議を始めて います。実現できれば、補助金を出し て農業を底支えしなくても、ソーラー パネルで発電した電気を固定価格買取 制(フィードインタリフ)で買い取っ てもらうことで農業所得が補われ、自 立した経営が可能になるはずです。そ のようなことができるように規制緩和 の方向にもっていくのは相当な力仕事 になるでしょうが、やる必要がありま す。 さらに広く、農作物を栽培しつつエ ネルギーも栽培するということは、こ れからいろいろ考えられていくことに なると思います。私は、 「ハーベスティ ング」というキーワードで、農業政策 とエネルギー政策の融合を図っていく べきだと考えています。 自然共生圏に関連して、東日本大震 災の被災地で議論が分かれている防潮 堤の問題があります。長大な防潮堤を つくるのがいいのか、それとも、地盤 沈下してしまったような場所はむしろ 積極的に自然の湿地に戻して、豊かな 生態系を形成していくのがいいのかと いう議論です。被災地は、今後は人口 減少していくので、住民は高台の安全 なところにまとまって住んで、自然も 戻せるところは戻して、観光にとって 魅力的な場所にしたほうがいいという 考え方が出されています。

アジアの問題を解決するには アジアの現状をみておきましょう (図④) 。経済の急激な成長に伴って、 アジアのエネルギー消費の増加が止ま りません。そのため二酸化炭素の排出 量が顕著に増加しています。日本で低 炭素化を進めるのは重要ですが、アジ ア全体の低炭素化に日本が貢献してい くことも極めて重要な日本の国際貢献 であると考えられます。

アジアに限らず、途上国や新興国に してみれば、先進国がエネルギーをた くさん使って先に成長しておきながら、 ようやく自分たちが成長する番になっ たときに、エネルギーを使うなとはい われたくないと考える人も多いのです。 中国は、一人あたりの排出量で目標を 定めてほしいと主張しています。一人 あたりの排出量でいうと中国はまだ日 本の半分程度です。彼らがいうことも 一理あります。 二酸化炭素を減らしなさいというだ けでは説得力がありません。アジアで は公害が深刻で、生態系の破壊も進ん でいます。低炭素化を進めると、公害 が克服でき、身近な環境がよくなり、 生活の質が向上し、自然も豊かになっ て、さらには経済的にも豊かになると いうストーリーを組み立て、アジアの 国々でそれが実践されるようにしてい くことが必要だと思います。これが3 Eネクサスのエッセンスです。

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系を再生させることが、結果として都 市の温暖化対策になっていくのです (図⑥) 。

図⑦

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3Eネクサスの実践へ エネルギー、環境、生態系の相互関 係を解明し、アジア太平洋地域におい

て、それぞれの地域に合わせた最適な 組み合わせを提案する3Eネクサスイ ニシアティブを私どもはいま提唱し、 近々これに関する国際会議を、モルジ ブで開催する予定です。 エネルギー、環境、生態系は互いに 密接に関係しています。その関係を十 分に理解して、全体を最適化する組み 合わせ考えるのは、まさにサステイナ ビリティ学の本領であるコーディネー ションです。3Eネクサスイニシアテ ィブでは、持続可能な都市や農村、あ るいはその両方が融合した社会づくり を考えていきます。三年ぐらいの後に は、アジアの都市や農村で社会実装す ることが、私どもの重要な仕事になっ ていくでしょう。 具体的な組み合わせの例をいくつか 挙げます(図⑦、⑧) 。節水型トイレを 対象として水輸送・水処理の効率化と 省エネルギーの推進をはかります。ま た、エコドライブの普及と最適信号制 図⑧


図⑥

温室効果ガスの排出がこのまま増加 すると、地球温暖化が進んで、アジア は深刻な影響を受けます(図⑤) 。農業 や水ばかりでなく、都市にも深刻な影 響が現れます。フィリピンのレイテ島 が猛烈な台風に襲われて大きな災害に なりました。気候変動によって今後は そのような被害が増えていくと予測さ れています。アジアの多くの都市はい わゆるデルタと呼ばれる海岸の低平地 に展開していることが多く、そこでは とくに被害が大きくなります。バンコ クもマニラも上海も東京もそうです。 じわじわと海面が上昇し、異常気象が 多発すると、デルタ地帯は大きな影響 を受けます。こうした災害を未然に防 止する気候変動緩和策が必要です。感 染症の拡大も予想されています。感染 症対策は水処理をきちんとすることで す。 気候変動の影響を緩和すると同時に、 都市の環境整備を行ない、そして生態

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等の総合的な低 炭素化に取り組 んでいるとも聞 いております。 北九州市が自治 体外交としてや っていることと、 私どもがいま考 えている3Eネ クサスは非常に 親和性が高く、 北九州市が先駆 的に進めている と捉えられると 考えています。 図⑪はまとめ です。最近よく イノベーション という言葉が聞 かれますが、文 部科学省が推進 しているセンタ

図⑩

ー・オブ・イノベーション(COI) プログラムがあります。 研究者と企業、 それに自治体が連携して革新的イノベ ーションを実現することを目指すもの です。膨大な医療データをデータベー ス化して、より適切に処方箋を出すよ うなことを実現しようとする医療イノ ベーションがその一例です。 私どもは、地域社会を持続可能なも のにするようなイノベーションも重要 であると提案しています。その際のイ ノベーションは、個々の要素のイノベ ーションよりも広がりをもったもので す。個々の要素については、いまある 最先端のものを使えばよくて、さらな るイノベーションはそれぞれの専門領 域で追求してもらう。私たちが目指す イノベーションは、 最先端の要素技術、 あるいは最先端の社会制度、あるいは 最先端の哲学や倫理を合わせて、それ らが最適な組み合わせとなるようコー ディネートをすることで、地域社会の

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図⑨

御の導入で、エネルギーを削減し大気 汚染を改善します。里山のバイオマス を利用することで、里山の管理をきち んと行い、バイオマスエネルギーの生 成も可能とします。あるいは火力発電 所のクリーン化を行なうことで、発電 所のエネルギー効率を高めると同時に、 発電所での酸性降下物質の発生を緩和 します。 3Eイニシアティブを支える仕組み として、二国間カーボンクレジット制 度(JCM)があります(図⑨) 。この 図は環境省のホームページから取り出 したものです。ホスト国において日本 がJCMプロジェクトを展開すると、 日本は排出削減にカウントできるクレ ジットがもらえます。ホスト国と日本 の双方にメリットがあります。北九州 市はすでにJCMを試行していて、後 ほど石田部長から詳しい話があると思 います(図⑩) 。スラム街でのエネルギ ー・交通・廃棄物・水処理・廃水処理

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■事例報告1

ついて取り組んでまいりました。電話 会議も含めてどれくらい会議等をした のか、自分のパソコンのなかで数えて みました。公式なものだけで二年ほど の間に三二回ありました。北九州市の 実際の現場にきて、コミュニティの皆 様との意見交換もしました。今日は北 九州市の皆さまを前にして、このよう に発表できるのを大変うれしく思って います。 本日最初にご挨拶された八田達夫先 生には、二月に研究室にお伺いして、

ダイナミックプライシングの効果について いだ たかのり

依田高典 京都大学大学院経済学研究科教授

本日発表しますのは、地域の電力需 要に応じて電気料金を変更するダイナ ミックプライシングの効果についてで す。昨年度から今年度にかけて、北九 州市のスマートコミュニティ社会実証 事業で行なわれたことを中心に、それ が国内あるいは海外でどのように位置 付けられるのかということを主な論点 として発表したいと思っています。 北九州市の環境未来都市推進室の皆 様とはこの二、三年間ずっと一緒にダ イナミックプライシングの社会実証に

経済産業省の資源エネルギー庁の部長 と一緒にこの件についてのご報告をし ました。三月には国会で省エネ法の改 正があり、衆議院の参考人招致で小宮 山宏先生とご一緒にこの件について報 告しました。法改正に、デマンドレス ポンスを活用して、一〇パーセント程 度のピークカット効果を目指すという ことが盛り込まれました。 この事業は、 経済産業省の電力システム改革のなか

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図⑪

最もふさわしいあるべき姿を提唱する ことです。目指すのは社会システム・ イノベーションです。エネルギー、環 境、生態系の全部を結び付けて、現実 の社会のなかで実装していきます。そ のことを通して、持続可能なアジアの 地域づくりに貢献できると考えていま す。 今日はやや抽象的な話でしたが、こ れからの皆さんにより実践的な話をし てもらえるとありがたいと思います。

司会 武内先生、どうもありがとうご ざいました。それでは引き続きまして 事例報告に移らせていただきます。報 告者の皆様、どうぞご登壇ください。 事例報告は三名の皆様です。 始めに、 京都大学大学院経済学研究科教授、依 田高典様にご報告いただきます。依田 先生、よろしくお願いいたします。

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されました (図②) 。 結果は千差万別で、 本当に効果があったのか、やり方がま ずくて効果がみえないのか、よくわか らないところがありました。 そこで、アメリカエネルギー省とロ ーレンス・バークレー・ナショナル・ ラボラトリーが社会実証のルールを作 りました。日本でもそれに準じたかた ちで、横浜、豊田、京阪奈、北九州で 実証が行なわれ、いろいろなエビデン スが出てきました。ステップ・バイ・ ステップで実証が進んでいます。 北九州市で二〇一二年夏に行った社 会実証は、バリアブル・ピーク・プラ イシングというもので、それでわかっ たことが、価格を変動させたときにど の程度のピークカットがあるかという 議論のベースになっています。衆議院 の参考人招致でも、このときのエビデ ンスを用いて私は説明しました。 私は決して電力会社と仲が悪いわけ ではありません。最初のうちは、私が 図②

下手なことをいうと、電気事業連合会 や経産省からクレームがきたりしまし たが、今はそのようなことはなく、東 京電力も大変前向きに取り組んでくだ さっています。 電気事業連合会は、ダイナミックプ ライシングで料金が変動しても需要は 変動しないということを最初は強く主 張していました。部分的には正しいの ですが、部分的に間違っています。 電気料金の変動に対する消費者の反 応は、長期の電気需要と短期の電気需 要で分けて考えなければいけません。 一〇年、二〇年の長期で電気料金が変 化したときに電気需要かどう変動した のか、長期の需要弾力性については以 前から測定がありました。一方で、一 日単位で電気料金を変更する、あるい はリアルタイムで当日変更することに 対して、短期の需要がどの程度変動す るかということに関しての測定は、日 本においては、北九州、あるいはその

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でも非常に重要な位置付けにあります。 二〇一六年以降に全面自由化されると きに、料金体系の多様化が重要な要素 となります。ここで発表する実証実験 で得られたエビデンスが有効活用され ていくことでしょう。

まず世界の話からします。スマート グリッドの社会実証は日本よりもアメ リカで先に行われました。 アメリカは、 とくにカリフォルニアは電力不足にず っと苦しんできました。二〇〇〇年の 電力危機から、UCバークレー校やロ ーレンス・バークレー・ナショナル・ ラボラトリーを中心にデマンドレスポ ンスに取り組んできました。私も二〇 一一年から一年間バークレーに行き、 日本とアメリカで共通の社会実証のガ イドラインを設けました。北九州市で

電気料金が変わると 需要は変わるのか

図①

行った今回の実証事業は、国際標準の 枠組に則った日本最初のダイナミック プライシングの社会実証で、部分的に は世界初のものがたくさん含まれてい ます。 日本の電力システムは震災以前は安 定し、カリフォルニアのような電力不 足はありませんでした。震災以降は原 発が止まって電力が不足し、デマンド レスポンスの重要性が求められるよう になりました(図①) 。 アメリカではすでに一〇〇近い実証 が行なわれました。そこには問題があ りました。 時間帯別の電気料金体系 (T

OU、 Time of Use ) 、ピーク時だけに 料金を極端に引き上げる体系 (CPP、

) 、逆にピークタ Critical Peak Pricing イムに節電してくれたらリベートとし

てお金をあげる体系(PTR、 Peak ) 、そして刻一刻で料金が Time Rebate 変わるシステム(RTP、 Real Time )という四種類の料金体系が試 Pricing

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マートメーターを入れる事業が昨年度 で終わりました。それを活用した時間 帯別の電気料金(タイム・オブ・ユー ス、TOU) (オール電化とかお得ナイ トとかの電気料金が該当する)の契約 率はたかだか五パーセント程度にとど まっています。スマートメーターが一 般世帯でなかなか有効に活用されてい ない状況にあるのです。カリフォルニ アでは二〇〇九年に時間帯別料金を普 通の料金設定にしようとしたのですが、 やり方が稚拙であったために、住民か ら多大な反対があって、五年間の先送 りとなっています。 日本のスマートメーターの普及は、 アメリカの一部の州よりも遅れていま すが、アメリカよりも進んでいる部分 があります。東芝やパナソニックや富 士電機などのベンダーが大変頑張って、 スマートエアコンやスマート冷蔵庫の ような家電製品の開発が進み、HEM S(ホーム・エネルギー・マネジメン ト・システム)のなかでの標準化がか なりの程度完成しています。また、ト ヨタ、日産、ホンダなどの自動車会社 の努力で、プラグインハイブリッド自 動車が家庭で充電・放電ができるよう になってきています。アメリカでこの 技術が確立されている自動車会社はま だ少なくて、日本のメーカーが注目を 浴びています。スマートメーターやH EMSが有効に社会実装化されていけ ば、日本の優れたものづくりの真の実 力が有効活用されて、 スマートシティ、 スマートコミュニティのインフラの世 界で輸出が輝きを得る可能性もありま す。道は決して平坦ではなく難しいと は思います。そうした道を、理系の技 術者が作っていくのを、われわれ社会 学者・人文科学者もサポートする取り 組みが重要であると思っています。 さらに将来的な意義をいいますと、 エネルギーだけでは所詮マーケットは 小さくて、それよりも大きなマーケッ

トが考えられます。エネルギーのマー ケットは、電力だけですと二〇兆円ぐ らいです。社会保障費は一〇〇兆円を 超えて、将来的は一五〇兆円にも達し ようとしています。スマートホームや スマートシティは、環境・エコだけで なくて、ヘルスケアの分野にも容易に 拡張可能です。環境未来都市から、健 康未来都市やもっと大きな利便性、利 活用性をもった都市の可能性が出てく ると思っています。 北九州、京阪奈、豊田、横浜の四地 域ではそれぞれで若干の違いがありま す(図④) 。北九州市では新日鉄やIB Mが早くからこの問題に取り組んでい て、とくに北九州市東田地域では、新 日鉄の発電を含めたご支援で、規模は 比較的小さくても、非常にスピーディ に動けるという利点があります。京阪 奈は京阪奈学園都市という非常に質の いい住宅地があって、そこを利活用し て一〇〇〇世帯程度の規模でダイナミ

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前に予備的な実験が東京・大阪で行わ れるまでありませんでした。 その結果を、アメリカの結果も踏ま えて検討しますと、価格が変化すると きに、その情報を正しく伝えると、需 要は変動します。その効果は、大きく はありません。われわれ経済学者は、 需要の弾力性といって、価格が変化す るときに需要量がどれくらい変化する のかということに対しての相場観をも っています。一パーセント価格が変化 して需要量が一パーセント変化するの なら、需要の弾力性は一です。電気料 金の場合は大変に小さく、アメリカで も日本でも、〇・一から〇・二の間に 入るぐらいです。価格が一〇パーセン ト変化して、ピークの電気需要量が一 パーセント変化するくらいだというこ とです。 北九州の皆さまのご助力を得て、価 格の変化に需要は反応するけれど、そ の効果はさほど大きくなく、しかし、 図③

正しく行えば相応の効果があるという ことが、日本での共通の認識になりま した。電力会社の皆さまとも、そのよ うなエビデンスの共有化ができていま して、今後は、先ほど武内先生がおっ しゃったように、社会実装化にどう取 り組むかがこれからの課題です。

日本での社会実証の意義

日本では、東京、横浜、京阪奈、北 九州の四地域で社会実証が行われてい ます。その意義は図③にまとめたとお りです。 スマートメーターの普及が来年から 本格的に始まります。東京電力は二〇 二〇年の初頭に二七〇〇万世帯の全部 をスマートメーターにできるといって います。場合によっては一年前倒しに なります。問題は、スマートメーター を入れたときに実際にどう活用するか です。カリフォルニアでは全世帯にス

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いっています。ただし、それだけでは エクスターナルバリディティといって、 北九州での実験が日本全体として代表 制があるということは保証しませんの で、四地域で比較対照して、どの程度 の一般妥当性があるかを分析していま す。 社会実験のレベルにとどまりますが、 非常に重要な知見・エビデンスが得ら れています(図⑤) 。アメリカで出てい るエビデンスと日本で出ているエビデ ンスを総合すると、TOU(タイム・ オブ・ユース)のピークカット効果は 五パーセントから一〇パーセントです。 TOUは三カ月前、半年前、あるいは 一年前に契約をして、決められた時間 (例えば夏の昼間)は通常よりも料金 を高めにし、その代わり、夜間は通常 よりも低めに設定します。トータルと してはレベルニュートラルといって、 既存のフラットな電気料金とプラマイ ゼロになるように設定にして電気料金 図⑤

を組みます。 一方で、CPP(クリティカル・ピ ーク・プライシング)のピークカット 効果は一〇パーセントから二〇パーセ ントです。CPPというのは、電気が 足りなくて逼迫しそうなときに特別に 料金を高めに設定します。日本で予備 率が三パーセントを切るかもしれない というような日で、一年間でせいぜい 五日から一〇日です。そのようなとき に、明日は電気が足りなくなりそうだ から特別料金を高めに設定し、節電し てくださいというのがCPPです。料 金の相場は日本では電気料金が二〇円 から二五円と高いので三倍ぐらいにし ますが、アメリカでは通常の料金が安 くて一〇セントぐらいなので七~八倍 にします。それぐらいの設定ですと、 二〇パーセント弱のピークカット効果 が得られます。十分にしっかりとした エビデンスが得られていて、アメリカ の西海岸のローレンス・バークレー・

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ックプライシングや省エネアドバイス などの実証が行われています。豊田は 一番規模が小さくて六七世帯だけの超 スマートハウスで、プラグインハイブ リッド自動車が貸与され、すべての家 庭に太陽光パネルがあり、一部には蓄 電池もあります。社会実証というより は、どちらかというと技術実証です。 横浜は一番規模が大きく、一〇〇〇世 帯を超えるところが太陽光パネルを積 んでいて、五〇〇世帯が太陽光を積ん ではいないHEMS単体の世帯で、一 部ダイナミックプライシングを売りと 買いで識別して行っています。

北九州市の実証の重要な論点だけを ご紹介します。二〇一二年度の夏に、 スマートメーターとホーム・エネルギ ー・マネジメント・システムの両方を 活用して、 一日前に価格を変動させて、

北九州市で得られた結果

図④

無理のない範囲で市民の皆さまに節電 をお願いするということを行ないまし た。その後、京阪奈でも行ない、豊田 でも一部行なっています。 そのときに、学者側の話として、ア メリカの標準ルールと日本の標準ルー ルのすり合わせを、ローレンス・バー クレー・ナショナル・ラボラトリーと の間で行いました。国の違いや地域の 違いがないように効果を測るためです。 ランダマイズト・コントロール・トラ イアル・フィールド実験といって、実 験に参加してくださる被験者の皆さま をくじでコントロールグループとトリ ートメントグループを振り分けて、比 較対照して効果を測定しました。私は やりたいという強い意思のある人ばか りがトリートメントグループに偏った りしないように、意欲のある人も、そ れほど意欲がない人も両方が入ってく るようにしています。そのようなこと をインターナルバリディティの問題と

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に発動させていただきました。このよ うなものをバリアブル・クリティカ ル・ピーク・プライシングといい、世 界のなかでも北九州が本格的に運用し た最初の事例となっています。価格を この程度にするとこれぐらいのピーク カットがあるということの相場観がこ こで得られています。 北九州市の料金レベルは図⑦のよう になっています。北九州の世帯はすで にTOUになっていて、ベーシックは 一五円で、レベル二が五〇円、レベル 三が七五円、レベル四が〇〇円、レベ ル五が一五〇円です。消費者の皆さま には、前日の夕方に通知しています。 ピークカット効果は図⑧の通りで、 CPPが五〇円でトータル一八・一パ ーセントのピークカット効果です。統 計的有意な水準が得られています。七 五円にすると少し増えて、一八・七パ ーセント。一〇〇円にしますと、昨年 の夏に関しては若干のジャンプがみら 図⑧

れて二一・七パーセント。一五〇円に すると二二・二パーセントです。この ような結果は、非常にリーズナブルで 直観的にも明らかで、解釈も容易で大 変優れています。

消費者にメリットがあるのか

北九州市の分析から、家庭のメリッ トをみましょう(図⑨) 。家庭にメリッ トがなければダイナミックプライシン グは導入できません。以前に、夏場に 電気料金が上がると家計が苦しむとい う議論が意図的にされました。それは 誤解です。夏の昼間に何回か高い料金 にさせていただいた場合には、節電努 力をしなかったとしても、過去のデー タに基づいて支払が増えないようにレ ベルニュートラリティ(支払に対する 中立性)を課します。価格弾力性は〇・ 一から〇・二で、電気料金が上がると 皆さん頑張って節電をしてくださり、

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図⑥

図⑦

ナショナル・ラボラトリーでも、東海 岸のNBER(全米経済研究所)等で もワーキングペーパー化されてエビデ ンスの共有が図られています。 価格弾力性については、小さい幅で 電気料金を上げ下げし、北九州では七 〇円、八〇円から最大一五〇円まで設 定させてもらっていますが、価格弾力 性は〇・一から〇・二の間ぐらいです。 価格弾力性はグローバルに結構安定し ています。 北九州市の社会実証をもう少し具体 的に述べますと、二〇〇世帯の住民の 皆さまに協力をいただいて、ダイナミ ックプライシングを実際に昨年の夏と 冬、今年の夏に経験していただいてお ります(図⑥) 。ランダムに、しかも非 常に頻度高く、価格レベルを一〇回程 度、五〇円、七五円、一〇〇円、一五 〇円の四レベルで変化させています。 場合によっては一夏で四〇回以上デマ ンドレスポンスのイベントを皆さま方

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図⑩

社の経営次第ですが、利益を高めるこ とは理論的に可能です。 消費者にとっても優しく、事業者側 にとっても優しいダイナミックプライ シング改革は可能だと思っています。 この点に関して、リアルデータでもっ と精査していかなければいけませんの で、今後は各電力会社にぜひご協力を いただいて社会実証をさらに進めてい きたいと考えています。

京阪奈の結果も加えて 京阪奈では北九州とほぼ同様のこと を行っています(図⑩) 。北九州で導入 したバリアブルCPPを踏襲するかた ちで昨年夏に行われています。若干違 うところは、料金を変動させないで、 イベントデーに節電だけをお願いする ということもトリートメントとして加 えています。また、普段のノンイベン トデーにおいてはTOUを要請して課

すということをしています。節電要請 だけで大体ピークカット効果が三~四 パーセント、統計的にも有意に出てい ます。これが、二年、三年と持続効果 があるかはわからないところですが、 取りあえず一年目の社会実証では効果 が得られています。TOUは六・六パ ーセントと非常にリーズナブルな数字 が出ています。CPPも四〇円上乗せ で一五・八パーセント、六〇円上乗せ で一七・五パーセント、八〇円上乗せ で一九・二パーセントで、一〇から二 〇の上の方という水準が得られていて、 北九州のエビデンスと、非常に整合性 が取れています。 京阪奈は七〇〇世帯が点在し、世帯 数が北九州よりも少し多く、多様な参 加者がいて、例えば所得との較差効果 を取ってみることも可能でした。節電 に関しては世帯所得が上がれば上がる ほど節電の効果が高まる、つまり、所 得水準が高い方が、単なる節電要請を

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図⑨

その分を電気料金が下がったときに埋 め合わせるほどには使用料のシフトは 起こらないで、結局月々で見ると五パ ーセントから一〇パーセントぐらいの 節約になっています。いまは原発が止 まって電気代が上昇傾向にありますか ら、ダイナミックプライシングが入る ことによって、電気代の上昇を打ち消 す程度に家計に優しい効果があるとい うのは重要な発見です。北九州市では 一二・六%の支払節減効果が見られて います。 アメリカでは節約できた人をウィナ ー、できなかった人をルーザーといい ますが、六月はウィナーが大いに勝っ ていて、 七月もまだ若干勝っています。 八月になるとさすがに暑くて、クーラ ーをつける頻度も増え、若干のルーザ ーがみられます。九月になるとまたピ ークカットの状況が続き、トータルで 一二・六パーセントの支払節減が観察 されました。

一番大事な論点は、一言でいうと、 ダイナミックプライシングをやるとき は、必ず家計にとって優しくないとい けない、消費者にメリットがないとい けないということです。 これに対して、衆議院で国会議員の 皆さんから質問があったのは、電力会 社の収支は大丈夫かということでした。 これは大変重要な論点で、私は以下の ように答え、小宮山先生もその通りだ といってくださいました。日本では正 確な数字がわからなくて試算している ところですが、一パーセントのピーク 単位に対して電源の一〇ないし一五パ ーセントの投資費用がかかっています。 逆にいうと、一パーセントのピークカ ットができると、一〇ないし一五パー セントの長期的な発電費用が節約でき ます。安定的にピークカットができれ ば、電力会社としても、大きな節減・ 節約効果が望めるのです。それで収益 条件を上げられるかどうかは、電力会

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けるのは、一年か二年が限界だろうと 考えられています。いまメーカーが開 発を進め、われわれ経済学者が次の実 装化に向けて狙っているのは、オート メーテッド・デマンド・レスポンス(A DR) です。 学習機能を機械にもたせ、 日常の電気使用パターンをきちんと計 測して、どれがどの時間帯で最も優先 度の高い電気使用かということを事前 に把握しておき、デマンドレスポンス が打たれたときに、それに応じて自動 的に二〇パーセントカット、三〇パー セントカット行なってくれるのがAD Rです。人間を動かすほどの大きな料 金の変動は必要ないので、もう少し小 さな幅の料金の変動でいいと考えられ ます。皆さまにとってより快適で利便 性が高くなります。 MDRからADRへどうアップグレ ードしていくか、今後日本のものづく りの非常に重要な論点です。これは容 易ではありません。スマートメーター を入れるだけなら、電力会社が検針器 を付け替えていくだけで簡単です。A DRになると、エアコンを買い換えた り冷蔵庫を買い換えたり、家庭のご協 力・ご負担が必要です。どうやって理 解を得ていくのか、どういう時間の流 れで進めていくのか、まだわかってい ません。技術水準の高さからも必要度 からも、アメリカを追い抜いて日本が 一番最初にADRに移行が可能な国で あると思っています。

最後にまとめです。スマートメータ ーが普及しても、多くの世帯はすぐに は変わらないかもしれません。行動学 的に現状依存バリアというのがあって、 頭ではいいとわかっていても、新しい ものにはなかなか飛び付きません。世 帯の五パーセントとか一〇パーセント だけが時間帯別料金に変わって、スマ ートメーターは宝の持ち腐れになって しまう恐れもあります。利便性や経済

性についてきちんと情報を提供し、多 くの人が新しいタイプの電気料金に入 って、家計にも優しく社会にも貢献す るようなことをどのようにして実現し ていくのか、二〇一六年、一七年の本 格的な全面自由化に向けて、学会も、 産業界もこれからの取り組みが問われ ています。今後も北九州で新しいエビ デンスが出てくることが期待されてい ます。

司会 依田先生、ありがとうございま した。引き続きまして、北九州市環境 局環境国際戦略室アジア低炭素化セン ター担当部長の石田謙悟様にご報告を いただきます。石田様、よろしくお願 いいたします。

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図⑪ 受けたときにピークカットをたくさん してくださることがわかりました。他 方でCPPに対しては全くその逆で、 世帯所得が平均よりも低い方がCPP 効果が高まるということがわかりまし た。そういう世帯属性との異質性も得 られていますので、そのことも考慮に 入れて、今後の電力改革では、慎重に 料金多様化、あるいは節電をお願いし ていく必要があると思います。 北九州市、京阪奈では冬にも実証を 行っています (図⑪) 。 北九州の結果は、 夏とほぼ同様に、ピーク時(夏の昼間 から冬は朝晩に移る)にダイナミック プライシングを打ちましたが、水準と してほぼ同様のピークカット効果が得 られました。 また、今年の夏ですが、ほぼ同様の ピークカット効果が二年目でも得られ ています。二回目、三回目になってく ると、料金の細かな水準に対してさほ ど細かく反応しなくなると予測され、

もう少し精査して、料金水準がどのぐ らいであれば十分なピークカット効果 が得られるのかということを検討して、 最終的には家庭に利便性を高めて、無 理なく節電をしていただけるようにす ることが重要です。実験では、ある程 度無理な一〇〇円、一五〇円を超える ような価格を設定しましたが、本番で はそこまではしないだろうと考えてい ます。

これからの実装化の道筋

最後に実装化の道筋につい簡単に報 告して終わりたいと思います。北九州 や京阪奈で行ったのはマニュアル・デ マンド・レスポンス(MDR)です。 価格の変動を、HEMSを通じて皆さ まにお伝えして、皆さんが実際にエア コンを切ったり、設定温度を上げたり します。消費者の皆さんが我慢をし額 に汗してマニュアルで節電していただ

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ジアの低炭素化を推進していくという のがこのセンターの考え方です。環境 ビジネスを打ち出しているのは持続性 を担保するためです。協力ベースでは

図③

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境局環境国際戦略室、地球環境戦略機 関(IGES)の北九州アーバンセン ターと連携しつつ、企業の技術輸出の 支援を中心に活動し、それを補完する 図②

限界があるからです。 アジア低炭素化センターの組織的な 面をご紹介します(図③) 。北九州国際 技術協力協会(KITA) 、北九州市環 図①


■事例報告2

アジア低炭素化センターの取り組みについて いしだ けんご

石田謙悟

れた環境技術のや社会システムがあり ます。こうした地域資源を活かして、 北九州市は世界の環境都市を目指して います。そのなかで、国のいろいろな プログラム、 たとえば環境モデル都市、 環境未来都市、あるいはグリーンアジ ア国際戦略特区に選定されています。 OECDからも、グリーンシティプロ グラムのモデル都市に選ばれており、 国際的に評価されています。

北九州市環境局アジア低炭素化センター担当部長

本日は個人的なことではありますが、 元市長の末吉理事長が目の前に座って おられまして、非常に緊張しておりま す。できるだけ目を合わせないように してお話をさせていただきたいと思っ 。 ています(笑) 簡単に北九州市の紹介をします。北 九州市の地域資源として公害克服の経 験があります(図①) 。それを踏まえた アジア諸都市との環境都市外交があり ます。さらに北九州エコタウン、ある いはスマートコミュニティといった優

北九州モデルの提唱

二〇一〇年の六月に、アジアの低炭 素化を目指そうということで、アジア 低炭素化センターを開設しました(図 ②) 。 公害克服やものづくりの過程で生 まれてきた環境技術、あるいは国際協 力で構築されてきた都市間ネットワー クなどを活用して、従来の環境国際協 力を超えて、環境ビジネスの手法でア

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グリーンな都市づくりを輸出するとい うコンセプトのもとで活動を展開して います。 とくに重点を置いているのが四つの

分野です。エネルギー、水、リサイク ル・廃棄物処理、そしてクリーナー・ プロダクションです(図⑤) 。これらの どの分野についても行政がかなりのノ

ウハウをもっています。アジア低炭素 化センターが進めているのは、行政の ノウハウと民間企業の優れた技術を組 み合わせた官民連携で取り組む活動で す。 そのような活動をするために、いろ いろな機関と協力関係を構築してきま した(図⑥) 。例えば国連工業開発機関 (UNIDO) 、日本の国際協力銀行 (JBIC) 、 あるいは中国の北京環境 交易所、タイの工業省工場局、それに 国際協力機構(JICA)などと連携 し、お力を借りています。 そうしたなかで、効率的に活動を展 開していこうということで、公害克服 から環境都市に至る本市の技術ノウハ ウを体系的に整理した 「北九州モデル」 を昨年度まとめました(図⑦) 。小宮山 先生は 「知の構造化」 ということを常々 おっしゃっています。いろいろな技術 ノウハウがあっても、それを体系的に 整理してきちんと使えるものにしなけ 図⑥

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かたちで専門人材の育成、あるいは調 査研究、情報発信などの活動をしてい ます。 センター長は小宮山宏先生です。 われわれのセンターが目指している

図④

のは、単なる技術 輸出にとどまらず に、都市丸ごとと いったようなグリ ーンな都市づくり をしていくことで す(図④) 。実際に 途上国の方々とお 話をしますと、日 本の優れた技術が 単に欲しいという ことではなくて、 エコシティである とかスマートシテ ィであるとか、街 全体をよくしてい きたいというとこ ろに非常に強いニ ーズがあります。 そこに応えていけ るようにというこ とで、われわれは

図⑤

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図⑧

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図⑨


れば意味がないというとことです。「北 九州モデル」は、現在のところ、廃棄 物管理、エネルギー、上下水、環境保 全の四つの分野で体系化しました。途

図⑦ 上国がいろいろなマスタープランを作 成するときの支援ツールとして活用さ れることを目指しています。 この「北九州モデル」を使って、わ れわれは都市のソリューションを提供 します(図⑧) 。まず課題の整理です。 それに基づいて調査をし、計画づくり をします。そして事業化を検討し、実 際に事業化を進め、最終的に環境配慮 型都市を作っていきます。このような 流れを、コンサルタント、専門家、民 間企業、政府機関などを含めた「チー ム北九州」で進めていきます。

三〇の都市で事業を進める われわれのセンターは立ち上げて三 年です。経済産業省、環境省、財務省、 JICA、NEDOなどの国の資金を 活用しつつ、地元企業を中心にして、 実証・事業化を目指して活動し、アジ アの三〇の都市で、五四のプロジェク

トを手掛けています(図⑨) 。とくにい ま重点を置いている都市の一つに、イ ンドネシアのスラバヤがあります(図 ⑩) 。 スラバヤ市とは、 二〇〇四年から、 家庭のコンポストでごみを減量化する ということに取り組んで関係を深めて きました。二〇一二年一一月に環境姉

)を締結しま 妹都市( green sister city した。スラバヤをグリーンシティ輸出 のモデルにしたいと考えていて、工業 団地のスマート化を中心に、廃棄物処 理、排水処理、水道水の浄化などを都 市間連携に基づいて進めています。二 都市間連携のもとで、さまざまな分野 別のマスタープランを統合化し、まち づくりの統一コンセプトを構築して、 いろいろなプロジェクトを実際に行な っています(図⑪) 。効果的に進めるた めに総合的なアプローチを目指してい るのが特徴です。 具体的な事例をご紹介します。スラ バヤ市にSIERという工業団地があ

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図⑪

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図⑫


り、ここでコジェネレーション(電熱 併給発電施設)を導入することを目指 しています(図⑫) 。基本的な考え方と しては、北九州スマートコミュニティ の移転です。北九州市にあるコジェネ は三二メガワットですが、ここでは一 六メガワットのコジェネを導入しよう と、新日鐵住金エンジニアリングや富 士電機とともに事業採算性を含めたF S調査を実施しているところです。 リサイクル型廃棄物中間処理事業も 進めています(図⑬) 。スラバヤ市に限 らず途上国全般で、集めたごみは最終 処分場にオープンダンピング (野積み) することが普通に行なわれています。 スラバヤ市では一日に一二〇〇トンか ら一五〇〇トン近いごみがオープンダ ンピングされています。これまでにも 家庭のコンポストによるごみの減量化 の取り組みをしてきましたが、新たな パイロットプロジェクトとして、北九 州市内の廃棄物処理業者である西原商

図⑩

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図⑭

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図⑮


図⑬

事が、リサイクル型の廃棄物中間処理 施設を作っています。ごみから、缶や ペットボトル、廃プラスチックの有価 物を抜き出した上で、有機系のごみを コンポスト化すると、最終処分場に持 っていくごみの八割ぐらい減らせます。 現在の施設は一日に一五トンの規模で すが、事業ベースとしては一〇〇トン の規模を目指して、調査研究をしてい ます。 スラバヤ市以外にも、インドネシア のスンバワ島ではヒマシ油の精製・加 工技術の普及事業を進めています(図 ⑭) 。 この島ではトウゴマの栽培が行な われていて、トウゴマからヒマシ油が 作られます。ヒマシ油からはバイオプ ラスチックの原料となるセバシン酸が 取り出せます。セバシン酸は非常に貴 重な原料なので、スンバワ島ではトウ ゴマ栽培を拡大していく取組みを、今 年度からJICAの草の根協力事業を 活用して進めています。トウゴマ栽培

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図⑰

という上流部分と、ヒマシ油の精製と いう下流部分を組み合わせた事業を展 開しようと考えています。 そのほか、インドでは家電リサイク ル事業を進めています(図⑮) 。パソコ ンの電子基板などインドでは安全な方 法でなかなか処理できないものを日本 に輸入して処理をしようということを、 今年の四月から、バーゼル条約に基づ いて日本磁力選鉱が始めています。将 来的には現地で処理することを見据え た事業展開を考えています。 中国では、安川電機が省エネ事業を 展開しています(図⑯) 。安川電機はイ ンバータで世界シェアがナンバーワン の会社です。一般的に、工場で使うエ ネルギーの約三割が動力系です。イン バータを導入すると三割ぐらいエネル ギーが削減できます。〇・三×〇・三 で約一〇パーセントの省エネが実現で きます。天津の経済技術開発区と連携 してモデル事業に取り組んでいます。

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図⑯ 44


ているのが、都市間連携、そして官民 連携です(図⑲) 。都市環境インフラを 輸出する舞台は都市です。都市間連携 の枠組みを活用することで、上流フェ ーズから包括的な案件形成が可能にな りますし、プロジェクト終了後も長期 的にフォローアップをしていくことが できます。国には省庁間のいろいろな 縦割りがありますが、北九州市が関わ ることで、国のいろいろなメニューを 横断的に活用する支援が可能になりま す。官民連携で民間が関わってくれる と、行政はコストが削減できます。現 地での官民連携を推進するためには、 参入障壁を低くする二国間政府の対話 を行うプラットフォームを作ることな ども必要です。 都市環境インフラ輸出の展開スキー ムを図⑳のように整理してみました。 まず都市間の連携( city to city )があ って、それを政府間の連携( G to) G が支えます。そのようなプラットフォ

ームのもとで、日本企業と現地の企業 が連携してビジネスを展開していきま す。そのような枠組を作ると同時に、 それぞれの都市においては、総合的な まちづくり計画を策定して横断的な取 り組みをし、また事業化を踏まえた垂 直的な取り組みへの支援もします。事 業化段階では資金の調達が非常に重要 になります。公的資金、あるいは官民 ファンドによる支援などが必要です。 それと同時に、国の方では、窓口を一 元化するような整備も必要ではないか と思います。その点でも、私どもアジ ア低炭素化センターが窓口となること で、都市環境インフラの移転がよりス ムーズに進むようになるのではないか と考えています。 国では、低炭素化に向けて、二国間 オフセット・クレジット制度(JCM) を進めています。JCMが出てきた背 景の一つに、クリーン開発メカニズム (CDM)には限界があると感じられ

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都市間連携と官民連携 以上、いろいろの事例を説明してま いりましたが、私どもが事業を推進す るにあたって、キーワードとして考え 図⑲


図⑱

大連市では節水に取り組んでいます (図⑰) 。節水といいますと、これまで は二酸化炭素の削減とはあまり結び付 けて考えられていませんでした。水を 作る過程、処理する過程でかなりのエ ネルギーが使われていて、日本国内で は二酸化炭素の排出量の約五パーセン トが水回りで発生するといわれていま す。節水という切り口からも二酸化炭 素が削減できるということで、一昨年 度に大連市でどれぐらい効果があるか を調査しました。北九州にあるTOT Oがこの事業を進めています。 ベトナムでは節水シャワーの普及に よる二酸化炭素の削減に取り組んでい ます(図⑱) 。シャワーは温水を使いま すから、節水による二酸化炭素の削減 効果は大きいのです。TOTOはアジ ア節水会議を立ち上げ、節水を通じた 二酸化炭素削減のアジア標準を作るこ とを目指しています。

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ていることがあります。とくに日本の 企業が得意とする省エネなどがなかな か評価されないということがあって、 二国間の協定に基づいて、その取り組 図㉒

みで削減できた二酸化炭素を日本の削 減分にカウントしようということが進 められつつあります。日本政府は、モ ンゴル、インドネシア、ベトナムなど と協定を締結してJCMを展開する準 備を進めています。そのような動きに 並行して、私どもの地元企業、例えば TOTOや安川では、事業活動に伴っ て二酸化炭素をどれくらい減らせるの か、定量化、見える化を進めていこう としています。これを北九州市低炭素 新メカニズム(K‐MRV)構築事業 と呼んでいます(図㉑) 。そのための委 員会を立ち上げて、国の動きと連動さ せつつ、地方からもいろいろな提案を していきたいと考えています。 これらの活動を通じて、アジア諸都 市の二酸化炭素を削減し、汚染を緩和 し、生活の質を向上させ、同時に北九 州市も日本も活性化して、日本の企業 が海外で環境ビジネスを展開していけ るようになるというように、アジアの

諸都市にとってもわれわれにとっても プラスとなるウィンウィンの関係を構 築していきます(図㉒) 。環境国際ビジ ネスを展開していくにあたっては、現 地の人に喜ばれ、尊敬されるようなや り方で進めることが非常に重要でしょ う。アジア低炭素化センターはまさに そのような視点から活動をしています。 以上で私どものセンターの取り組み の発表を終わらせていただきます。あ りがとうございました。

司会 石田様、ありがとうございまし た。引き続きまして、北九州市上下水 道局海外・広域事業部長、小石佐織様 にご報告いただきます。小石様、よろ しくお願いいたします。

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図⑳

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図㉑


ことを目指しています。 北九州市の水道事業は、県内でも比 較的安い料金で安定的に美味しい水を

図①

供給できているのではないかと思いま す。それは、裾野の広いこの分野の産 業界が支えてくださっているからで、 二つめは、そういう地元の産業界の 方々とともに、海外市場という新しい 扉を開いていきたいという思いで事業 を行っているということです。 私の役職名には広域事業ということ も記されています。これは、北九州市 の周辺地域の水道事業をお手伝いする ことを指しています。水道事業は、水 という生命に直結する資源を有効活用 するものです。しかしながら、国内に あっては、個々の事業体が、団塊の世 代の大量退職等により、技術継承や人 材不足などさまざまな課題に直面して います。こうした課題に対応していく ために、海外事業や市外の事業体との 連携といったことも考えていくのです。 北九州市が海外のどこと上下水道事 業を実施しているのか、地図に挙げて みました(図①) 。中国の大連市は長き

にわたる友好都市です。ベトナムのハ イフォン市は、首都ハノイから東に一 〇〇キロメートルところにある町で、 北九州市は友好都市提携しています。 インドネシアとも長い関係があります。 先ほど紹介がありましたようにスラバ ヤ市では、アジア低炭素化センターと 一緒に水事業を行っています。首都の ジャカルタには一九九〇年代から専門 家を二年交替で派遣してきました。カ ンボジアでは一九九九年から今に至る まで事業が続いています。また、北九 州市の日明にウォータープラザという 省エネルギー型の造水実証プラントが あって、海水と下水処理水を混ぜて水 を作るとエネルギーの節約にもなりコ ストも安くできるという実証実験をし ているのですが、この技術をサウジア ラビアにおいて紹介したり、政策立案 の段階でアドバイザーを送ったりして います。

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■事例報告3

今日私がお伝えしたいことは二つあ ります。表題には、ことばの語呂で、 「水ビジネス・協力」と書きました。 一つめは、事の順序として、まず協力 があって、その延長線上にビジネスが あるということです。協力だけでは、 海外事業を進めていくのに限界があり

ビジネスの手法を用いる

いて、少しイメージが湧くようにお話 できたらと思っています。

北九州市の水ビジネス・協力の取り組み こいし さおり

小石佐織 北九州市上下水道局海外・広域事業部長

北九州市の海外水ビジネス・協力の 取り組みについてご紹介いたします。 市役所の組織としては、環境局と上下 水道局は分かれています。しかし、上 下水道局の海外事業部門はアジア低炭 素化センターの四つの取り組みのなか の水の部分を担当しておりまして、環 境という大きな枠組みのなかで連携し て活動しています。アジア低炭素化セ ンターの事業を進める考え方、枠組み は石田部長から説明があったとおりで す。私からは、その中の水の分野につ

ます。援助資金が無くなってしまえば 事業が終わります。その先を続けるた めに、企業一緒に、ビジネスの手法を 用いて行っていくのです。企業はもち ろんビジネスで利益を得るというスタ ンスです。私どもも、公営企業体とし て赤字になっては困りますが、ビジネ スの手法を使って、相手国にもメリッ トとなる事業が継続でき、そのことで 地元の産業振興にも貢献できるという

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ながります。その対策の一つとして、 将来的に、海外水ビジネスのコンサル タントをすることで収入を上げていく という考え方もあると思います。その

図③

ようなことのできる人材を育てていく ことも期待できると思っています。 図③は研修風景の一端です。上は、 ベトナムのハイフォン市から北九州市

に一カ月間研修員がきていたときのも のです。JICAの草の根技術協力事 業を活用して行いました。下は、やは りベトナムからですが、六カ月間一人 の研修員がきていたときのものです。 こちらは、自治体国際化協会の事業を 活用して実施しました。

プノンペンの奇跡

上水道分野での国際技術協力の事例 を二つご紹介します。一つ目はカンボ ジアです(図④) 。カンボジアは一九九 九年から協力が続いています。表の中 央に、無収水量率が七二パーセントか ら八パーセントになったと書いてあり ます。無収水量とは収入につながらな い水の量です。漏水もありますが、途 上国では盗水も少なくありません。首 都のプノンペンで一九九三年と比べて 二〇〇六年に無収水量がこれだけ減ら せたのは「プノンペンの奇跡」といわ

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図④


人材育成に力を入れる 国際技術協力の大きなポイントは人 材育成です。 相手国に施設を作っても、 人材育成との連携がないと、その施設

図② で何か起こったときに運転できなくな り、そのままほったらかしということ になってしまいます。メンテナンスや 運営のノウハウをきちんと身に着けた 人材を育成しておかないと、施設が継 続して機能しません。技術輸出と並行 して人材を育成することに、私どもは 全力を挙げて協力しています。 上下水道局では、職員を専門家とし て海外に派遣する事業と、逆に海外か らの研修員を受け入れる事業を行って います(図②) 。海外事業課がそれを調 整する窓口になっています。講師にな るのは水道部、下水道部、総務経営部 など他部所の人たちです。専門家とし て行く場合に、一回の派遣が二~三カ 月です。現地に行って状況を見て慣れ るのに一カ月、実際に教えるのに一カ 月、次の研修につなげる報告をまとめ るのに一カ月といった具合です。三カ 月間、職員が一人いなくなるというの は職場にとって結構大変なことで、そ

の間の仕事を回りがカバーしなければ なりません。 カンボジアでは、二〇〇〇年代から JICAと組んで、総合的な研修事業 を展開してきました。 フェーズ一、 二、 三と進めてきまして、それぞれが三~ 四年のプロジェクトです。フェーズ三 が最後の段階で、アセットマネジメン ト、料金徴収システム、会計基準・会 計システムといったことに関する職員 をこの夏に派遣しました。 人材育成事業に取り組む目的はいく つかあります。一つは国際貢献、公営 企業体の社会貢献(CSR)です。ま た、私どもの能力をより強固なものに するという意味合いもあります。海外 に派遣された者が成長して帰ってくる ということもありますし、派遣された 者がいない間をカバーした職員が成長 するということもあります。節水の話 が先ほどありましたが、節水機器の普 及は、料金収入から見ると収入減につ

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成すると聞いています。ここが成功す れば、次にはもっと大きな規模で、あ るいは他の市でもできるのではないか と、これからもこのBCFを積極的に 紹介していきたいと考えています。 プノンペンに戻りますが、下水道分 野でも、人材育成を近々始める予定で す。 (図⑥) 。東南アジアでも、水につ いては、国や自治体が政策として進め ていくものですから、ビジネスを進め る上でも、行政同士がしっかりタッグ を組むことが重要です。それで、自治 体や事業体と覚書を締結して進めてい ます。

世界のなかの北九州

話題を少し変えて、世界の水事情で す。利用可能な淡水がどれくらいある のかといいますと、地球上の水のわず か〇・〇一パーセントです(図⑦) 。こ れをどのように有効活用するかが、今

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図⑥


先月、ホーチミンで VietWater (ベ トウォーター)という水の展示会があ りまして、そこで二日間のセミナーが 開かれ、プノンペン水道公社のナンバ ーツーの方が来られて基調講演をしま した。そのテーマが無収水量の削減で

れています。これがうまく行ったこと から、いまでは首都から地方の八都市 へと展開しています。

)とい BCF( Bio Contact Filtration うのは微生物を使った高度浄水処理技 術で、 北九州市が特許をもっています。 市内の方ならご存じと思いますが、市 の西部に遠賀川があって、北九州はそ こから六割の水を取っています。その 水質が、産業・生活雑排水が入ってき てあまりよくなかったので、その対策 として、一九八七年にスタートして一 一年間の研究で技術開発されたのがB CFです。この技術をJICAの草の 根協力事業でハイフォン市に紹介しま したら、現地でもアンモニアなどの有 機物やマンガンなどが除去できました。 ハイフォン市は、草の根事業が終わっ た後、自らの予算でこの設備を導入す ることを決めました。五〇〇〇トンと 規模の小さな浄水場ですが、いま送水 のチェックをしていて、一二月には完

もう一つの事例は、ベトナムのハイ フォン市です(図⑤) 。アンズン浄水場 にBCF実証実験設備を設置しました。

した。講演のなかで、二回ほど our という言葉が出て friend Kitakyushu きて、大変うれしく感じました。 カンボジアでこのように成功したの は、日本側の熱意とともに、カンボジ ア側も、非常に強いリーダーシップの 下で組織的に取り組んだことが功を奏 したといえます。このことで、プノン ペン水道公社の料金収入は毎年右肩上 がりに上がっています。水道システム がしっかりしていると、市民の理解も 進み料金収入も増え、さらなる投資が できるという好循環が生まれています。

図⑤

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図⑨

日のテーマのサステイナビリティにと って非常に重要です。水のいろいろな ケアを自分の国でできなければ、よそ の国に発注することになります。その 市場は経済産業省の試算で、二〇二五 年に八七兆円になるといわれています。 日本は、現在、官民連携でインフラ輸 出に力を入れていますが、 北九州市も、 国と歩調を合せながら取り組んでいま す。 (図⑧) 。 そのために、官民連携組織を設立し ました。北九州市海外水ビジネス推進 協議会です(図⑨) 。水に関わるさまざ まな分野の企業が参画しています。 途上国は自国の財源が不足していま すので、日本のODAの資金などを得 て事業を行います。その約八割が有償 資金で、そこからの事業を日本企業が 獲得できているのは約三割だといわれ ております。それをもっと増やしてい きたいというのが政府の考えで、私ど もは、地元企業参入のチャンスを見な

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図⑦

56図⑧


図⑫

図⑬

がら事業を進めていきたいと考えてい ます。 例えば、先ほどご紹介したBCFの 海外ビジネス事業では図⑩のような展 開を考えています。BCFは、オゾン 処理といった他の高度浄水処理と比べ ると、建設コストが約二分の一、ラン ニングコストが約二〇分の一ですみま す。微生物を使うので電力を使わずに 処理ができ、化学物質を投入しなくて もいいというメリットがあります。北 九州市が自らの問題解決のために開発 した技術が、途上国においても同様に 役立つのであれば、積極的に進めてい きたいと考えています。 余談ですが、帝国書院発行の高校の 新地理Aの教科書が、カンボジアの水 道事業に協力する北九州市を取り上げ てくださいました(図⑪) 。大変名誉な ことです。 北九州市は国際展開に取り組む先進 自治体として、国の水・環境ソリュー

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図⑩

図⑪

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るようでいて、実は、自分の利益がど うなるのかという思惑が腹にあったり します。ここで発表していただいたよ うな実証的な実験が行われていること の意味は大きいと思います。資源は有 限ですから、節約は不可欠です。実証 的なデータに基づいて、節電できる仕 組みを作っていくことが大事と思いま す。

日本において欠点とされるのは、構 想力の欠如です。 大きな構想を語ると、 日本では、与太話とかホラ吹きとか受 け止められかねません。実現できそう だ思わせることが大事です。スマホが 一気に普及して、日本でどうしてでき なかったのかという声がありました。 ガラパゴス化ということがよくいわれ ます。いいものを作れば売れるのだと いう非常に強い信念が日本にはありま す。それは、大きな構想を語って人を 説得できないことの裏返しだとも言え ます。これからは時代の先を見せる全 体構想力が非常に大事です。 学問の世界では、「フューチャーアー ス」という新しい研究計画が議論され ています。持続可能な地球環境に関す る研究を国際的に協力して進めていこ うとするものです。そこではステーク ホルダーとの対話が強調されています。 従来、研究者は自分の興味で研究して いました。さらにいうと、自分ができ

ることを研究するケースが非常に多い のです。ところが、世の中にしてみれ ば、研究してもらいたいことが多々あ るのです。世間がこれを研究してほし いと期待をもっているのに、研究者の 側が、それは難しいからやめておきま しょうというわけには本当はいかない はずです。どのような研究テーマを選 ぶのか、ステークホルダーと対話して 決めていくようにしましょうという研 究計画が出てきました。 とくにヨーロッパを中心にそのよう なことがいわれています。ヨーロッパ の社会には、きちんとものいうステー クホルダーがいるからなのでしょう。 NGOやNPOと、行政や企業、研究 者が話をするのはヨーロッパでは少し も不自然なことではありません。アジ アでは上が決めればいいという価値観 がまだあるようです。それは変えてい く必要があります。北九州市では、公 害に対して立ち上った有名な主婦の運

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ションハブに登録されています (図⑫) 。 当面は、途上国対象のODAのなかで 多くの仕事を獲得できるように頑張り たいと思います。 最後になりますが、北九州市の水の 協力・ビジネス、そして環境全般につ いて紹介するビデオを私どものホーム ページからご覧いただくことができま す(図⑫) 。日本語・英語・中国語・カ ンボジア語・ベトナム語を用意してい ます。ぜひ、ご覧ください。

司会 小石部長、ありがとうございま した。 それでは国立環境研究所理事長、 東京大学国際高等研究所、IR3S客 員教授、住明正先生にコメントをいた だきます。基調講演をいただきました 武内先生にもご登壇いただきますよう お願いいたします。

コメント ■講評・

住明正 すみ あきまさ

大きな構想を語ろう

東京大学国際高等研究所サステイナビリティ学連携研究機構(IR3S)客員教授

国立環境研究所理事長

この四月から国立環境研究所の理事 長になりました。国立環境研究所はも ともとは公害問題に対応するために発 足し、現在では地球環境問題全般に関 して非常に幅広くさまざまな活動をし ています。 今日は講評とコメントという役目を いただきました。講評というものおこ がましいのですが、少しお話をしたい と思います。

最初のダイナミックプライシングの 実験は、日本として独自性を示した実 験と思います。非常に実証的であるこ とに皆さんは驚かれたと思います。経 済学といいますと、ややもすると、人 によって言うことが違う、どうも何か よくわからないという印象であったり するのですが、昨今は実証的なデータ に基づいた検討がされ、従来見過ごさ れていたことがわかってきています。 お金に絡むことは、学問の話をしてい

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図①

エコロジカルフットプリントというも のがあります。人間が今の生活をする ために、どれくらいの地上の面積を必 要としているかという数字です。現在 の人類を生かすには、地球が一個とさ らにもう半分いるといわれています。 それだけの地球がないと、今の人間の 生活はまかなえないのです。そのなか で大きな面積を必要とするのが二酸化 炭素の循環です。二酸化炭素を酸素に 戻すには植物がいなければなりません。 いますでに植物が足りなくなっている というのがエコロジカルフットプリン トの意味するところです。しかし、い まも人間は森林の破壊を続けています。

すべてのもとは太陽にある

循環に並んで、地球上のすべての現 象は太陽エネルギーで駆動されている という事実も重要です(図②) 。エネル ギーだけではなく食べ物ももともとは

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れが生きていられるのは、文句もいわ ずに、二酸化炭素を酸素に頑張って変 えてくれている植物があるからです。 そのおかげで大気中には二一パーセン トの酸素があるという状態になってい ます。 図②


動から始まって、市民の方々の先駆的 な活動がありました。そのような積み 上げは非常に誇るべきものです。国内 にも国外にももっと声高に主張してい いと思います。 環境問題では、自治体の役割が非常 に重視されています。自治体は意思決 定が早く、フィードバックも早い。国 レベル、世界レベルではものを決める のに時間がかかります。自治体レベル だと判断がすばやくできて、住民の意 見をよく吸い上げることができます。 これからは自治体を軸にしていろいろ な対策が行われていくのだと思ってい ます。 北九州市の活動は非常にユニークで す。大気汚染や海洋汚染を、市民、企 業、 自治体が協同で克服してきました。 その経験が貴重です。北九州市には二 年前にも同じようなイベントで寄せさ せていただきました。そのときに、北 九州市のユニークさをもっとアピール

する「北九州モデル」を作ったらいい というようなことを申し上げました。 今日はまさしく「北九州モデル」が出 てきましたので非常にうれしく思いま した。ワンフレーズでこれだといえる ものがあるのは大事なことです。日本 人には、いいものは自ずと世の中に現 れる、自分から宣伝して売り込むのは はしたないという感覚があるようです が、アジアの人たちの口の端に載るよ う「北九州モデル」を広げていくよう 頑張っていただければと思います。 水ビジネスは、欧米の企業が攻勢に 出てきて、これは大変だと日本もあた ふた始めたところです。日本では水の ノウハウを企業ではなく自治体が持っ ています。自治体を軸にして欧米の企 業とどのように対抗していくのかとい うことがいまの課題です。北九州の進 んだ事例がいい見本になると思います。

循環が大切だ

少し時間がありますので、講評に加 えて、コメントを申し上げます。 循環が重要だということを、ぜひ頭 に入れておいてください。一方向の流 れには必ず終わりがあります。循環し ているから世の中は長続きするのです。 図①は、沖縄県の波照間と北海道の 落石で二酸化炭素と酸素の量を測定し たグラフです。赤が二酸化炭素、青色 が酸素です。 もしも石油が無限にあり、 二酸化炭素の温室効果もないとしまし ょう。石油は気にせずにいくらでも燃 やしてよく、二酸化炭素はいくらでも 出していいとしたら、どうなるでしょ うか。燃せば酸素を使いますから、最 後には酸素がなくなります。ものすご く時間はかかりますが、ものを燃やし 続ければ、単純にいって酸素がなくな ります。その傾向は、現在の観測では っきりと見えています。安逸にわれわ

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とは非常に危険だということでもあり ます。効率だけでなく、安全・安心と 合わせて考えなければなりません。

社会実装を進める 地球は有限です。有限な地球でどう していくのか。小宮山宏先生がよくい っていて、私も正しいと思うのは、目 標を掲げなければ進歩は絶対にないと いうことです。できもしないことを考 えるのは疲れます。少し頑張ればでき るような目標を出して、引っ張ってい くことが大事だと思います。 国立環境研究所でもいろいろな研究 を進め、 いろいろな提案もしています。 いま問われているのは社会実装です。 「何だかんだいうけれど、それでうま くいくの?」と必ず聞かれます。低炭 素、グリーンイノベーションというこ とがよくいわれます。それよりも早く 職が得られるようにしてほしいという

求職者の要望もあるでしょう。具体的 に、これをするとうまくいくといえる 提案があることが大事で、それを提示 することをやらねばならないと思って います。 国立環境研究所では、福島県新地町 で社会的な実装をやろうとしています。 スマートシティのような新しい都市を エンジニアが考えると、いかにも薄っ ぺらなものになってしまうと思う人も おられるでしょう。新宿ゴールデン街 のようなごちゃごちゃしたところがな ければ都市ではないという人もいます。 文化のあり方というものを心の片隅に 置いて、社会的な実装をどのようなか たちで行うのか考える必要があると思 っています。 研究者にとっては、具体的な問題に 取り組んだときの評価をどのようにす るのかという問題があります。論文の 数で評価すると、とにかく論文をたく さん書くということが採取目標になり

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人間は何からエネルギーを得ている のか。図④には単位あたりのエネルギ ー量が書いてあります。木材、石炭、 石油はそれほど変わりがありません。 ウランは桁が圧倒的に違います。原子 力は少量からすさまじいエネルギーが 取り出せて非常に効率的です。 しかし、 エネルギー密度が非常に高いというこ 図④


太陽エネルギーです。太陽エネルギー を植物が固定したものがもとになって われわれの口に入るかたちになったの が食べ物です。われわれは太陽エネル ギーで生きています。太陽社会である といって間違いではありません。石 油・石炭も大昔の太陽エネルギーが缶 詰になって置いてあるだけです。この

図③ 缶詰をどのように使うのか、時間スケ ールの取り方で考え方が違ってきます。 いまの収入の範囲内でつつましく暮ら すのか、貯金をはたいて派手に暮らす か、われわれはどう考えたらいいので しょうか。 一年間に地球に降り注ぐ太陽エネル ギーは、 2.7 × 10ジ (図③) 。 24ュールです 現在、すべての産業を含めて人間が使 っているエネルギーはその一万分の一 ぐらいです。太陽からはものすごいエ ネルギーが地球上にきています。ただ し、太陽エネルギーは広く薄く分布し ていて、人間がうまいこと使おうとす ると使い勝手が悪く、エネルギーを凝 縮させる必要があります。 人間が生命を維持するために必要な カロリー数は昔も今もそれほど変わら ず、一日に二〇〇〇キロカロリー程度 です。人間が使うエネルギーが増えた 分のほとんどは、生命維持ではなくて 社会性の維持に使われています。人間

は社会的な動物で、社会を維持するた めにいろいろなエネルギーを使ってい ます。生活のクオリティを上げるため に使っているといっていいでしょう。 クオリティとして何を重視するのか、 人によって考え方が違うでしょう。エ ネルギーの節約は大変だと思われがち ですが、本当に必要なエネルギーが何 であるかを考えると、必要なエネルギ ーは少なくあとは非常に大きなゆとり 幅があって、十分にいろいろな削減の 可能性があるのだと思います。われわ れはどのような社会を作りたいのか。 非常に抽象的な言葉になりますが、み んなが幸せだと思えるような社会にす るのが究極の目的だと捉えれば、エネ ルギーにしても金にしても、すべてそ のための手段です。何が幸せかという のは人によって違いますから、容易で はないのですが、エネルギーの使い方 を変えることは十分にできると思いま す。

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れが積んだ経験を、何かしら使ってい ただきたいと先生方に申しました。S SCのこのようなイベントは今までに 東京以外の都市で五回開かれています。 北九州では今回で二回目です。企画に お困りになったら北九州でお引き受け しますとSSCには申し上げています。 今日の発表にありましたように、環 境技術をワンパッケージで外国に売る 時代にまでなってきました。ここから 前にさらに進んでいくには、理念がい りますし、目標がいります。そして、 行動がいりますし、ビジネスがいるの

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です。北九州市は大きく飛躍する時期 にきています。このような機会を設け ましたのは、皆さまにぜひご参加いた だいて北九州市が何をしているのか知 っていただきたいということと、今後 さらに北九州が世界に羽ばたいていく には、皆さんのご協力がなければなら ないと思うからです。どうか今後とも よろしくご協力をいただければと思い ます。 今日はお忙しいなか、わざわざお越 し下さりありがとうございます。お礼 を申し上げてご挨拶とさせていただき ます。

司会 末吉理事長、ありがとうござい ました。以上をもちましてSSC地域 公開シンポジウム 北九州、第一六八 回ICSEADアジア講座を終了いた します。本日は長時間にわたりご聴講 いただきまして誠にありがとうござい ました。 in


がちです。社会が求める問題に取り組 んだときに、どうやって評価をするか ということは真剣に考えなければなり ません。一〇〇パーセントの正解は得 られないでしょうし、うまく行かない 場合もあるでしょう。そういうことも 許容をしながら評価することになるで しょう。 そういう点からも、 小回りがきいて、 フィードバックが早い自治体が軸にな っていくことが大事だと思います。北 九州市の皆さまとともに、SSCも含 めて、われわれも一緒に今後とも頑張 っていきたいと思っています。

司会 住先生、ありがとうございまし た。それでは住先生、武内先生、報告 者の皆様、ありがとうございました。 ご降壇ください。 最後に国際東アジア研究センター理 事長、SSC理事、末吉興一より閉会 のごあいさつを申し上げます。

■閉会挨拶

すえよし こういち

末吉興一 国際東アジア研究センター理事長

今日は国際東アジア研究センターと SSCの共催のイベントです。私は国 際東アジア研究センターの理事長をし、 SSCの理事もしています。 北九州市は五〇年以上前から、公害 への取り組みで相当の苦労を重ね、い ろいろな歴史を経て、今日の環境首都 といえるまでに成長しました。私たち にはその間の蓄積がたくさんあります。 経験もありますし、勉強もしてきまし た。今日ここでお話をした市の職員の 講演は、三〇~四〇年前の公害が激し かったころから成長して、ここにまで 至ったと、ご理解していただけると思 います。

北九州市がこれまでに経験したこと を踏まえて、これから国際的に事業を 進めていくには、われわれの経験だけ では不足することを実感しています。 何よりも基本的考え、つまり理念が不 可欠であると考えます。 すべてが太陽から始まっていると住 先生はいわれました。そのような視点 が必要なのだなと思いました。(私自身 は、太陽は見て、今日も元気でありま すようにと祈るくらいしかしていませ んでした。 ) 私は、われわれはもっと学ぶことが 大切だと考え、SSCができたときに 率先して入りました。同時に、われわ

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(

)

東田地区 北九州市八幡区 視察 一一月一六日、地域公開シンポジウ ム終了後、北九州スマートコミュニテ ィ事業について、午前中の地域公開シ ンポジウムで依田高典京都大学教授か らご講演があった、ダイナミックプラ イシング(変動料金制)の社会実証を 行った北九州市東田地区を視察しまし た。環境ミュージアムでスマートコミ

ュニティ事業の説明を受けました 図( ③ 。)コジェネレーション、水素エネル ギー、太陽光や風車など多様なエネル ギーを利用し、スマートメーターも設 置して、住民参加で実施していること が解りました。ICTを有効利用して 地域電力との需要と供給を最適化を図 る地域節電所では、地域エネルギーマ ネジメントシステム(CEMS)につ いての説明と実施中のエネルギーの見 える化施設を視察しました。その後、 コミュニティ設置型蓄電池、水素ステ ーションなどを見学しました。

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ある、石炭をガス化してガスタービン と蒸気タービンで発電することで高効 率発電を図る石炭ガス化プラント(N EDO共同研究)を視察しました(図 ②) 。さらに、実証実験中の洋上風力発 電風車も遠望し、集光型太陽発電実験 設備や、カゴメと共同でトマトの水耕 栽培生産中の多数の温室群も車中から 見ることができました。 図③

石炭利用高効率発電技術の開発、広大 な土地を生かしたトマト生産事業、海 洋を中心とした自然環境から有用微生 物を獲得して登録と環境にやさしい利 用に向けた研究開発と火力発電の人材 育成を行っています。事業所内を自動 車に乗って視察をさせていただき、石 炭利用高効率発電技術の開発の一環で 図②


報告

SSC北九州エコツアー

浅尾修一郎

あさお しゅういちろう

サステイナビリティ・サイエンス・コンソーシアム事務局長

国際東アジア研究センターのご尽力 で、北九州地域シンポジウムに参加し たSSC会員有志は、一一月一五日、 ウォータープラザ北九州と電源開発株 式会社若松総合事業所を視察いたしま した。ウォータープラザ北九州は企業 組合員で構成される「海外水循環ソリ ューション技術研究組合」がNEDO の助成を受けて、北九州市と共同で開 設した六〇〇〇㎡ある施設です (図①) 。 海水淡水化や下水・産業排水の再利用 技術を用いて各種水資源を有効に組み 合わせて、省エネで、環境に負荷が少 なく経済性の高い工業用水の製造を行 っています。さらに、先進技術の研究 開発も手がけており、膜技術を中心に 水環境技術のデモプラントがあり、企 業などに開発する場(テストヘッド) も提供しています。視察グループは先 ずウォータープラザの概要説明を受け て、その後、下水を活性汚泥により有 機物由来の汚れを分解し膜分離して清

澄水にする設備(MBRシステム/膜 分離活性汚泥法) 、海水の淡水化で、海 水ろ過して細菌などを除去する前処理 システム(UF膜)の設備や、前処理 済みの水を飲料水レベルに淡水化する 設備(逆浸透膜(RO膜)システム) を視察しました。 電源開発株式会社若松総合事業所は

図①

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が国立科学博物館が最も得意とするところで す。国立大学は法人化の影響もあって、研究 はますます最先端を追うようになり、このよ うないわゆる博物学的研究ができにくくなっ ています。こうした研究の意義を多くの人に 理解していただき、自然史の研究が今後も続 けられるようにしていくことも国立科学博物 館の大切な役割です。 地方の博物館は、国立科学博物館よりもさ らに厳しい状況に置かれています。地方自治 体には財政的に厳しいところが多く、首長が 博物館の活動に理解がないと「こんなガラク タを集めて何なるのか」と、博物館の存在を 否定するようなこともおこりかねません。 博物館など不要だという人にはどのように 対応したらいいのでしょうか。一つは先ほど のように、欧米との比較があると思っていま す。 日本が欧米に及ばないことを例示すると、 日本を愛する気持ち、あるいは地域を愛する 気持ちが刺激され、欧米のように、あるいは それ以上に博物館を活用しようという気にな ってくれるかもしれません。

もう一つは地域の持続性に訴えることです。 地方の首長は、この地域がつぶれても構わな いと考えて選挙に出た人は一人もいないでし ょう。この地域の首長として地域を発展させ ることを有権者に約束したに違いありません。 日本が持続し文化的に発展していくためのカ ギは地域にあります。日本はかつては資源の 乏しい国、資源貧国であるといわれていまし た。資源とは何かということを見直すと、実 は日本にはさまざまな資源があります。科学 立国であるとか、海底資源立国であるとか、 新たな視点からの資源が提唱されています。 そうした資源の一つとして「博物資源」もあ ると思います。地域の博物館には、その地域 の博物資源が集められています。それは地域 の持続性のために活用をはかることのできる 資源です。地域の博物資源は地域の特性を端 的に示すものですから、よそからこられる人 たちにその地域について博物資源を使ってわ かりやすく説明できるでしょう。博物資源は 観光資源になりえます。博物資源にはいろい ろな活用の仕方があると思います。

連載 エッセイ

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博物館のサステイナビリティ 美術館、科学館、郷土館、資料館など名称 はさまざまですが、それらをまとめて博物館 と総称しますと、日本には約五七〇〇館の博 物館が存在します。日本の高等学校は約五〇 〇〇校ですから、博物館の方が数で上回って います。それほど博物館が多いということは あまり知られていません。この数は世界的に みても多いのですが、その中身やこれからの 将来を考えますと、日本の博物館の状況は問 題なしとはいえません。 私が館長を務める国立科学博物館には、数 え方はいろいろですが、約四二〇万点の所蔵 品があります。アメリカのスミソニアン博物 館は一億二七〇〇万点、イギリスの大英博物 館やパリの自然史博物館は五〇〇〇万点以上 で、桁が違います。国を代表する博物館の規 模にこれだけの差があります。 国立科学博物館は、国立大学よりも二年先 行して二〇〇二年に独立行政法人化しました。 国から独立行政法人に渡される運営費交付金

は年々減る仕組みになっています。国立科学 博物館では最初は三五億円あった運営費交付 金がいまでは三〇億円を切っています。どこ の独立行政法人も運営の効率化を図るなどし て運営費交付金の減少に対応してきました。 国立科学博物館では常勤職員を一四七名から 一二七名に減らし、いまでは常勤と非常勤が ほぼ同じ人数になっています。工夫にも限度 があります。運営費交付金がこのまま減る一 方では絶滅危惧種になってしまいかねません。 あくまでも合理性を追求して博物館をただ存 続させればいいというものではありません。 国立科学博物館では二〇一三年九月から一 一月にかけて「日本のアザミの秘密」という 展示を行いました。国立科学博物館には一生 をかけてアザミの研究をしてきた人がいて、 その研究の集大成でした。アザミは日本を代 表するような植物で、非常に多様なアザミが 存在し、日本はアザミの王国といえます。ア ザミは地味なテーマで、このような分野こそ

林 良博

はやし よしひろ

独立行政法人 国立科学博物館長

(専門はバイオセラピー)

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巻く生態系のシステムに自らを調和させて行く すべを、生きるための知恵として追求したアイ ヌ人が、その中に認めた「人間を超えた力」 、そ れをカムイと名づけたわけなのだから、それは われわれの言う「自然」という言葉に非常に近 いものだということができるだろう。 アイヌ人のこのような 「自然」 観の成立過程を、 小林達夫は「 (弥生時代にはいっても)北海道の集 団では、冷涼な気候がコメ作りを容易に許そうと はしなかったことを受けて、縄文文化の枠組みと 内容をそのまま踏襲して続縄文文化から擦文文化、 さらに文化変容を遂げながら、アイヌ文化へと続 いたのであると推察します。つまり、日本文化も アイヌ文化もともに縄文文化の土台の上に形成さ れ、結果として異なる道を歩みつつ、それぞれの 独自性、主体性を確立するに至ったのだと論考し ます( 『縄文の思考』ちくま新書) 。かくして、米 作り文化とかかわりを持たなかったアイヌ文化は、 米作り文化に裏打ちされた日本文化との距離より も縄文文化とのそれの方がはるかに近い理屈が理 解できるといいます。

では、縄文文化とはいかなる文化であったので しょうか。小林達夫は、縄文の生活・生産様式を 「ムラ・ハラ」の関係で捉えます(同上) 。

ハラは、単なるムラを取り囲む、漠然とした自 然環境のひろがり、あるいはムラに居住する縄 文人が目にする単なる景観ではない。定住的な ムラ生活の日常的な行動圏、生活圏として自ず から限定された空間である。世界各地の自然民 族の事例によれば、半径約五~一〇キロメート ルの面積という見当である。ムラの定住生活以 前の六〇〇万年以上の長きにわたる遊動的生活 の広範な行動圏と比べれば、 ごく狭く限定され、 固定的である。(中略)/つまり、ハラはムラの 周囲の、限定的な狭い空間で、しかも固定的で あるが故に、ムラの住人との関係はより強く定 着する。/ハラこそは、活動エネルギー源とし ての食料庫であり、必要とする道具のさまざま な資源庫である。狭く限定されたハラの資源を 効果的に使用するために、工夫を凝らし、知恵 を働かせながら関係を深めてゆく。こうして多

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「 ピリカ」 の舞 日本穀物検定協会による二〇一三年度の食味ラ ンキングで最も食味が良いコメとされる「特A」 に、北海道の「ゆめぴりか」がランク入りしてい 、詰まったよう ます。 「ぴりか」 ( 「ピリカ」 ( pirka な発音で「ピ リカ」 ) )はアイヌ語で、 「良い、美 しい、立派だ、元気だ、素晴らしい、良くなる、 美しくなる、治る」の意味があります( 『アイヌ語 に接頭語 千歳方言辞典』中川裕、草風館) 。 pirka 「 で「お互 u-互い」 「 e-〜で」を付して uepirka いの力で幸せになる」という意味になるといいま す。このことから、 「ピリカ」には、 「調和の取れ た状態」をよしとする意味が基本にあると推察さ れます。つまり、現代の概念に照らして言い換え といって良いでしょ ると「共生」こそ、 uepirka う。 そこで、 アイヌ人にとって、 自然との調和とは、 共生とは、どのような状態なのか知りたくなりま す。アイヌ語の「カムイ」 ( kamuy )は通常「神」 と訳されますが、「この世の中でなんらかの役割を 果たしている人間以外のすべてに対して、精神的

な働きを認め、擬人化したものがカムイで、動植 物でも、火・水・雷などの自然現象もカムイと認 められることから、場合によって「自然」と訳す のが適切である」 ( 『アイヌ語千歳方言辞典』 )とあ ります。この世は霊魂に満ちていて、人間以外の 霊魂が「カムイ」で、 「カムイ」との調和・共生の 現象こそが「ピリカ」と呼ばれる、概念ではない かと思われます。中川裕は『アイヌの物語世界』 (平凡社ライブラリー)で同様な展開をします。

カムイとアイヌはこのように、それぞれがお互 いを補完し合う形で共存し、ひとつのシステム としての世界を作り上げているのである。カム イという言葉は普通 「神様」 と訳されているが、 こうして見てくるとキリスト教やイスラム教の ような唯一の絶対神とは明らかに違うし、日本 古来の八百万の神というのともちょっと違うの がおわかりであろう。むしろ、 「自然」と訳して しまってもよいくらいではないだろうか。(中 略)狩猟採取をなりわいとし、自分たちを取り

大崎 満

おおさき みつる

北海道大学大学院教授

(専門は根圏環境制御学・植物栄養学)

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うのではなく、相互に認め合う関係である。だか ら礼を尽くし、ときには許しを乞うのだ。 「草木皆 もの言う」 自然を人格化し、 交渉を重ねることで、 神ながらの道へと踏み込むのである」といいます (同上) 。 「草木皆もの言う」自然の人格化は、宮澤賢治 の童話に多く認められますが、例えば、 『注文の多 、 い料理店』の「狼森(オイノもり)と笊森(ざるもり) 」は、ハラに宿る森の精霊との交 盗森 (ぬすともり) 感を描いています。 『ここへ畑起こしてもいいかあ。 』 『いいぞお。 』 森が一斉にこたえました。みんなは又叫びまし た。 『ここに家建ててもいいかあ。 』 『よううし。 』 森は一ぺんにこたえました。みんなはまた声を そろえてたづねました。『ここで火たいてもいい かあ。 』『いいぞお。 』 森は一ぺんにこたえました。 みなはまた叫びました。『すこし木貰ってもいい かあ。 』 『ようし。 』森は一斉にこたえました。 縄文とは、文化としては、精神性としては、 「ム

ラ・ハラ」観により構成された世界観を持ってい ました。そして、宮沢賢治の世界観は、縄文の「ム ラ・ハラ」観そのもののような感じがします。 知里幸恵『アイヌ神謡集』 (岩波文庫)には一三 の神謡が載っていて、当初は人として立ち現れ、 最後には主に動物の神様となり、 「 (何々の)神様 物語りました」と結ばれます。宮沢賢治の童話に も実に多くの動物が登場しますが、草山万兎は、 童話と劇一二七篇に出てくる動物を調べたところ、 一五八種類もいたといいます ( 『宮沢賢治の心を読 む(1) 』童話屋) 。また、賢治の童話では、想像 上の動物が主人公で三種類、全部で一七種類も入 っていて、実在の動物と想像上の動物が混然一体 となった不思議な世界を描き出していると指摘し ています。動物全般にわたって、 「生き物すべて兄 弟」という思想は、アイヌの「人間にない力をも ったものすべて」 を指すカムイという言葉 (概念、 自然観)と気脈を通じます(中川裕『アイヌの物 語世界』平凡社ライブラリー) 。

たとえばスズメやカラスなどの鳥たちは、空を 飛ぶという人間にはできないことができる。ク

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種多様な食料資源の開発を推進する 「縄文姿勢」 を可能として、食料事情を安定に導いた。 縄文文化は、世界史の流れからかけ離れていま す。文化の第一段階である旧石器時代は六〇〇万 年程度続き、狩猟を中心として遊動的生活を行っ ていました。文化の第二段階である新石器時代は 最終氷期の一万五〇〇〇年前辺りから、世界各地 で農業革命が起き、定住的生活に移行したとされ ます。これに対して、縄文文化は新石器時代の特 徴をもちますが農業革命をもたないで、定住的生 活に移行します。縄文は縄文土器に顕著な特徴が ありますが、青森県大平山元遺跡から約一万六〇 〇〇年前のほぼ世界最古に相当する縄文土器の出 土がありました(小林達夫『縄文の思考』 (ちくま 新書) ) 。土器の発明は、西アジアで九〇〇〇年前 頃、アマゾン川流域で七五〇〇年前頃ですが、日 本列島を含む東アジアでは一万年をはるかに超え、 土器の発祥地であるのは確かです。土器の開発に より、煮炊きが可能になり、食糧貯蔵が楽になり ました。小林達夫によると、煮炊きにより消化吸 収が著しく改善され、植物食のリストが飛躍的に

増え、食用植物は二〇〇種以上にもぼり、ここに 狩猟漁撈採取文化が成立します。特に、北海道・ 東北では豊富な鮭の漁撈や狩猟による干物は保存 食として重要で、食用植物とあわせた煮炊きによ り、栄養のバランスと栄養価が著しく高まったと いえます。つまり、縄文土器こそが、定住による 「ムラ・ハラ」生活を可能にし、一万年以上の長 きにわたる縄文文化を可能にしたといえます。そ のことが、現代日本人の「自然」観を形成する中 核となったと、小林達夫は指摘します。土器によ る煮炊きこそが、縄文からアイヌ文化と続く要と いえます。アイヌ人の基本的な食事も、鹿や魚な どの干した肉を、山菜とともに煮て食べるオハウ という料理です。つまり、実に多彩な食材に依存 する「ムラ・ハラ」生活が、自然との調和という 「自然」観を醸成していきます。 小林達夫は「森には森の精霊がいる。縄文人が ハラと共存共生するというのは、ハラにいるさま ざまな動物、虫、草木を利用するという現実関係 にとどまるのではなく、それらと一体あるいはそ こに宿るさまざまな精霊との交感を意味するので ある。それはどちらかが主で、どちらかが従とい

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のことを「インドラの網」と呼んでいます。そ の網の結び目には、それぞれ宝珠 (ほうじゅ)が 編み込まれていて、それらが無数につながり合 って網全体が形成されています。そして、結び 目の宝珠はほかの宝珠を映し出し、その関係が 複雑かつ無限に続いているのです。どこかひと つの宝珠が崩れても、結び目がほころびただけ で、美しい網の目の形は壊れてしまう。つまり 「いかなるものも自分だけで存在しているので はなく、他との関わりのなかでしか存在しえな い」ということをインドラの網は象徴している わけです。/賢治作品のなかにも『インドラの 網』と題された物語があります。この作品には インドラの網そのものが何かについては触れら れてはいませんが、互いにつながり合って無限 に広がる網を美しく表現したこんな一節があり ます。 インドラのスペクトル製の網、その繊維は蜘 蛛のより細く、その組織は菌糸より緻密に、 透明清澄で黄金で又青く幾億互い交錯し光っ て顫 (ふる)へて燃えました。 非常に繊細で今にも壊れそうでありながらも、

美しいバランスを保ちながら存在するインドラ の網を、賢治流にリアルに表現した一節だと思 います。

宮沢賢治の世界観は、縄文の「ムラ・ハラ」観 そのもののような感じがします。それは、人と自 然が溶け入っている「自然」観です。大室幹雄は、 賢治の「を」の使い方一つから、賢治の「心象」 へと迫ります( 『宮沢賢治「風の又三郎」精読』岩 波現代文庫) 。宮沢賢治の『注文の多い料理店』の 「序」にある、

ほんとうに、かしわばやしの青い夕方を、ひと りで通りかかつたり、 十一月の山の風のなかに、 ふるへながら立つたりしますと、もうどうして もこんな気がしてしかたないのです。ほんとう にもう、どうしてもこんなことがあるようでし かたないといふことを、わたしはそのとほり書 いたまでです。 を引用しながら、

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マやキツネなどのけものたちは、毛皮や肉とい う人間には作れないものを、自分の手で作り出 して身にまとっている。 樹木は木材を作り出し、 あるいはその内皮を服を織るための繊維の原料 として人間のために提供してくれ、山菜たちは またその根や茎や葉を食料として与えてくれる。 /こうしたものがカムイと呼ばれるものである。 つまり、 一羽一羽のスズメ、 一匹一匹のキツネ、 一本一本の木や草がそれぞれカムイなのである。 日本語で、 「キツネの神様」や「桂の木の神様」 などというと、キツネ全体をつかさどる一段と 偉いキツネの王様のようなものや、特別な桂の 木を思い浮かべてしまうかもしれないが、そう /生物ばかりでなく、 いうことではない。 (中略) 火や雷などの自然現象もまたカムイであり、精 神を持つものとして考えられている。山や川、 風、太陽などもカムイだし、天然痘のような病 気や飢饉のような災いでさえカムイと考えられ ている。

所を持っている。そしてそこから時に応じてア イヌモシリ「人間の国」へと出かけてくるので ある。(中略)/こうしたカムイたちは、カムイ モシリでは人間と同じ姿をしているといわれる。 (中略)もっとも人間と同じ姿といっても、そ れは魂がそういう姿をしているので、人間の目 には普通見えない。

賢治は、森に住む動物たちや、木々、岩石、風 などすべての自然物に対して、すべて同列にある として接します。このような賢治の森羅万象がつ ながる世界観を、 ロジャー パルバースはインドラ の網の概念が基本となっていると指摘します ( 『宮 、NHK出版) 。 沢賢治 銀河鉄道の夜』

森羅万象のつながりを表現するものとして、仏 教では 「インドラの網」 という言葉があります。 賢治の「すべてはつながっている」という考え 方は、もともとこのインドラの網が基本となっ ていると考えてよいでしょう。/「インドラ」 とは日本でいう帝釈天 (たいしゃくてん)のことで すが、帝釈天の宮殿に掛かっているとされる網

そのカムイたちはそれぞれカムイモシリ「カム イの国」と呼ばれる、自分たちの住む本来の場

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賢治の「を」による「心象」的描写は、芭蕉の 「古池や蛙飛こむ水のおと」の「や」の使い方を 思い起こさせます。長谷川櫂は、芭蕉のこの一句 の「や」の使い方により、それまでとは全く異な る心象世界を初めて描きだすことができたと述べ ています( 『古池に蛙は飛びこんだか』花神社) 。 切れ字の「や」は、 「古池」と「蛙飛こむ水のおと」 の全く異なった次元を結びつけており、「蛙が水に 飛びこむ音を聞いて、心の中に古池の面影が広が った」という句であると解釈して見せます。現実 にはどこにもない「心の世界の古池」で、現実の 物音にそれとは次元の異なる心の世界を取り合わ せた句とよめるといいます。この一句が、心の世 界を初めて開き、 や の一字が「異質の共存」を 可能にするという指摘です。 さらに、長谷川櫂は、 「閑かさや岩にしみ入る蝉 の声」を次のように味わいます( 『松尾芭蕉 おく 」 「

、、み 、だ』NHKテレビテキス る のほそ道 人生はか 。 ト 100分 名著) 本文に目をもどすと「佳景寂寞として心すみ行

のみおぼゆ」とあって「閑さ」は心の中の「閑 さ」であることがわかります。/芭蕉は山寺の 山上に立ち、眼下にうねる緑の大地を見わたし た。頭上には梅雨明けの大空がはてしなくつづ いています。そこで蝉の声を聞いているうちに 芭蕉は広大な天地に満ちる「閑さ」を感じとっ た。 (中略)/このように「閑さ」とは現実の静 けさではなく、現実のかなたに広がる天地の、 いいかえると宇宙の「閑さ」なのです。梅雨の 雲が吹きはらわれて夏の青空が広がるように、 突然、蝉の鳴きしきる現実の向こうから深閑と 静まりかえる宇宙が姿を現したというわけです。

この一句をいったい英語ではどう訳されるので しょうか。ドナルド・キーン訳の松尾芭蕉『英文 (講談社学術文庫)では、 収録 おくのほそ道』 ─ How still it is here Stinging into the stones, The locusts' trill

で、 「や」が「─」 (スラッシュ)になっていて、

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de


「青い夕方を」の「を」に注意しよう。 「夕方に」 ならば、 「わたくし」は夕方の青さの中に包摂さ れるであろう。その包摂感とは対蹠的な疎隔感 を「を」は露呈している。しかも「ひとりで通 りかかつたり」の「ひとり」によってその感覚 は強まる。けれどもそれをおしてわたしは一つ の感想をもつ、現象( 「青い夕方」 )の奥に実在 (法性)が感知されるから。 「どうしてもこんな 気がしてしかたない」は、宮沢の信における当 必然の了解として、「どうしてもこんなことがあ るようでしかたないといふこと」すなわち実在 (法性)が彼に落ちかかってきたその時に彼の 魂が震撼し、ついでそれを受容するしかなかっ た消息を明している。一言で、こういう魂の風 光が彼自身のいう 「心象」 にほかならなかった。 と、鋭い指摘をしています。ここで、現象の奥に 実在が感知される「どうしてもこんな気がしてし かたない」宮沢賢治の「心象」とは、前文にある わたしたちは、氷砂糖をほしいくらゐもたない でも、きれいにすきとほつた風をたべ、桃いろ

のうつくしい朝の日光をのむことができます。 /またわたくしは、はたけや森の中で、ひどい ぼろぼろのきものが、いちばんすばらしいびろ うどや羅紗 (らしゃ)や、宝石いりのきものに、 かわってゐるのをたびたび見ました。/わたく しは、そういうきれいなたべものやきものをす きです。/これらのわたくしのおはなしは、み んな林や野はらや鉄道線路やらで、虹 (にじ)や 月あかりからもらつてきたのです。

です。 「青い夕方に」ですと、そこに自分がいてま わりは情景になりますので、景観の描写になって きます。そうすると「きれいにすきとほつた風を たべ」や「桃いろのうつくしい朝の日光をのむ」 は、 単なる抽象や象徴的表現にすぎなくなります。 「青い夕方を」ですと、自分は「青い夕方」の内 にいて、 「きれいにすきとほつた風をたべ」 「桃い ろのうつくしい朝の日光をのむ」でいる、つまり 自然そのものに溶け入っている自分を感じていて、 「どうしてもこんな気がしてしかたない」ような 「心象」的現実を賢治は描いているということに なります。

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るでみられません。小さな渦巻き(モレウ)を反 復させて七色の虹(実際には六色)をタペストリ ーにした 「フレペンナ/虹の歌」 には鮮やかさと、 躍動感と、一滴の水の輝きがあり、本人自ら「虹 は空に浮かぶ水の 「文」 」 と美しく解説しています。 「アポッパ/花」シリーズでは、アイヌ文様が芯 から咲きほころびていくようであり、 「サッ・レラ /夏風」では、空気の渦が吹き抜けていくようで す。チカップ美恵子のイカラリ(刺繍)は、それ ぞれのカムイの形象をまるで、素手で取り出した かのような印象を与えます。 内田樹は、額縁の役割は、 「この中に描かれてい るのは現実ではありません。絵です」ということ を、私たちに指示するためであると断じています ( 『修業論』光文社新書) 。また、ヨーロッパの古 い都市へ行くと、どこでも教会と劇場が、装飾的 で壮麗な建築物であるが、「その中で語られること が基本的に嘘だということを誇示するため」とい うのが養老孟司先生の卓見であるとも述べていま す。言い換えると、これらの建物の過剰な装飾性 は、それが「額縁」であることを指示していると いうことで、 それらの建物の中で示されるのは 「現

実」ではなく、 「絵」なのである、ということを示 すためといいます。 チカップ美恵子の自然の形象を刺繍した民族衣 装で舞うと、形象が舞い踊りだすのが目に浮かび ます。ヨーロッパの建物の過剰な装飾性で嘘を封 じ込めるための虚飾の文様とは対蹠にあるのがア イヌの文様です。それらを組み合わせた自然形象 は、究極的に動的な抽象性、つまり、生命の抽象 性に至った感を強くします。これは、人類史にま れにみる文化、芸術といえます。 想像してみてください。 闇で、 かがり火のなで、 チカップ美恵子の自然形象を刺繍した民族衣装で 舞う姿を。アイヌ文様は炎に揺れ、揺らぎ、闇で カムイが舞っている感じがしてきませんか。満月 でもよい、新月でもよい、月それぞれの趣も文様 の舞に趣を添えます。舞は、炎のゆれに合わせ、 風の流れにのってゆく。 舞台は、当然、林。北大構内には、泥炭湿地林 が保全されていますが、春先のまだ雪残る頃、研 究用のヨシの種を集めていたとき、イナウ(木幣) を立てた、アイヌの祭壇に出くわしたことがあり ます。儀式は終わり放置されていましたが、ここ

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訳しようのない「や」にさすがに文字を当てるこ とがかなわなかったと見受けられます。しかし、 「─」 (スラッシュ)ですと、それ以後の文は、一 般的にはサブタイトルとか、説明の言い直し的な 用法になりますので、これをもう一度、訳し直す と、 何と閑かなことか (なぜなら) 石に吸い込まれていく 蝉の声ですら といった、アンドレブルトン風のシュールレアリ ズム(オカルト)になってしまいます。もちろん、 これは「や」に相当する語法や概念が英語には全 くないことによります。そもそも「異質の共存」 を可能にする心象世界(概念)がないため、その ような表現法も必要なかったからでしょう。

明ですが、揺れ動くものを模した具象で口縁が飾 り立てられていて、土器自体を精霊に見立ててい たのではなかろうかとさえ思えてきます。岡本太 郎は、 縄文土器には、日本の土の匂い、そのうめ きがある。その太々しい執拗さ、いつでも爆発し ようとするエネルギーを、ぐっと抑えて緊張して いる、恐ろしい美観。―腹の奥底からじわじわと つき上げ、鳴りひびいてくる異様な生命のリズム の共振を感じとる」 (岡本太郎『私の現代芸術』新

、 あるとの指摘は重要です。 働 で アイヌ文様は、渦のような動的な基本文様が各 種あり、それらを組み合わせて自然の形象を描き 出します。北海道立近代美術館で「AINU AR T 風のかたりべ」展を見ましたが、チカップ美恵 子の刺繍文様には、躍動感とみずみずしさを、つ まり生きている感じを強くうけました。だいたい 文様というものはその抽象化のために、断片化さ れ、縮み、いわば形象の骨と皮の残骸という印象 が、とりわけ強いのですが、チカップ美恵子のア イヌ刺繍(イカラリ)にはそのような形骸化がま

、でなく 潮社)と述べており、縄文土器の形象は静

縄文土器は、煮炊きを可能にし、 「ムラ・ハラ」 生活とその文化を可能にしました。しかし、土器 の口縁が突起をもったり、波状にうねったり、実 用からいうと不便でしょうがないようにみえます が、なにやらそれが縄文人の美意識であったので しょう。火焔土器のように、火焔を模したかは不

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でも、全て一度断片化し、抽象化し、整理し直し、 それを壮大な構想の下に、それら要素をパッチ状 にモザイク状に貼り合わせ統合するという、気の 遠くなる、人為芸術の極致といえるでしょう。世 界を、自然を、事象を、あらゆるものを、人為期 的に規定し、その切り取った一部の「素」 (単語、 音、色、光り等)の複雑な組み合わせにより、要 素を複合した疑似世界を描き出します。人為の極 致、 それは、 まるで神の奇跡と見まがうほどです。 その対蹠に、全てが連続した「自然」の極致の舞 があってもよいのではないでしょうか。縄文から 受け継ぐ、アイヌの「ムラ・ハラ」文化をもとに、 一つの舞が舞われてもよいのではないでしょうか。 できれば、泉の湧く林にて、チカップ美恵子の自 然の形象を刺繍した民族衣装をまとい、かがり火 の中で、風にまかせて炎にまかせて舞い、見る者 は無音階で口腔や脳蓋を共鳴させる倍音楽器で自 然と共振して和するにまかせる。それは、美しい バランスを保ちながら存在する「インドラの網」 の舞でもあります。私はこれを「ウエ・ピリカ」 の舞と呼びたいと思います。

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した海の神様に出会うというような物語なので すが、その中で少年が海岸で拾い上げる、自然 に穴の開いた石が「穴石」ですが、これをちょ っと吹いてみましょう。 ロジャー 空気を切り裂いたような音なのです ね! 鎌田 宮沢賢治は、あらゆる存在、石にも木 にも星にも「声がある」といっているんです。 いろんなものがおしゃべりをする、という作品 がたくさんあります。いま吹いたのは、縄文人 も吹いていたといわれている石笛 (いしぶえ)で す。縄文人は、この笛を吹きながら、あるいは その音色を聞きながら、遠くにある目に見えな い世界と交信していたと考えられるんです。そ ういう感覚を、もっともっと心の深いところか ら、魂の領域から捉え直していく、そういうこ とを宮沢賢治は作品世界の中で語っているので はないでしょうか。きっと、宮沢賢治は、こう いう笛も吹いていたと思います。 ヨーロッパの歌劇は、歌も、音楽も、踊りも、 衣装も、舞台も、照明も、建物も、さらに観客ま

連載 エッセイ


はアイヌの聖地であろうと感じます。もともと、 北大植物園の北の泉を水源として、北流して偕楽 園の泉「ヌプサムメム」を合流し、サクシュコト ニ川となり、北海道大学構内の現中央ローンへと 流れ込み、構内を縦断して北に流れていました。 この川にはサケが遡上し、偕楽園にはサケの孵化 場がありました。したがって、北大構内はアイヌ 遺跡の宝庫でもあり、アイヌの聖地があったとし ても不思議でありません。 さて、アイヌの舞には、ムックリという竹製の 口琴も欠かせません。輪になった紐を左手小指に 掛けて持ち、もう一方の紐を右手人差し指と中指 に挟んで引っ張り、弁を震動させて音を出し、こ れを口腔に共鳴させます。音程は一つですが、口 の形を変えることにより共鳴する倍音を変化させ る楽器です。口腔を利用し倍音を変化させる楽器 は他にアボリジニのディジュリドゥや、声楽表現 としてはモンゴル族のホーミーがあるといいます。 このムックリでもディジュリドゥでも、口腔に共 鳴させますので脳蓋にも直接響いてきます。イン ドのパンジャブ地方を調査して歩いたとき、ヒン ズー教寺院やジャイナ教寺院を訪れましたが、出

店 (でみせ)に必ずパンチャジャナ(法螺貝)がお

いてあり、これは、多くは「シャンク」 ( shanku ) 貝で、両手に収まる大きさです。ヒンズー教の世 界では、ブラフマー、シヴァ、ビシュヌが三神一 体を形成し、ブラフマーは創造を、ビシュヌは繁 栄維持を、シヴァは破壊を司ります。そのビシュ ヌ神は必ず左手にシャンク貝を持っています。ヒ ンズー教では、シャンク貝はお祈りの時の合図や 結婚式での楽器として使われます。おそらく、日 本の山岳信仰の山伏が吹くホラ貝のルーツではな いでしょうか。各家庭でも持ち合わせているよう で、一個記念に貰いましたが、これも、口蓋とい うよりは脳蓋に共鳴する感じがします。 ロジャー パルバース『宮沢賢治 銀河鉄道の 夜』 (NHK出版)に、ロジャー パルバースと鎌 田の対談があります。ここに、シャンク貝のよう な不思議な話が出てきます。 ・

鎌田 これは宮沢賢治の未完の作品で『サガ レントと八月』 という作品なの中に出てくる 「穴 」です。この作品は、カラ 石 (あないし)(孔石) フトを舞台にして、少年が恐ろしい姿かたちを

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、る 、し 、を示さなければならない。漢 具体的なし 王朝を開いた劉邦は背中にあった赤い龍のア ザを天命のしるしとした。もっとも皇帝が民 衆の前で衣服を脱いで背中を見せることはな い。そういうアザがあるというだけで充分で あろう。ある王朝は天から天上界の文字で記 された秘書を得たと称した。これも後で作ら せればよい。正統な王朝が立ったときには、 天はそれを祝い、瑞兆をあらわす。鳳凰が現 れる。麒麟が出現する。いずれも祝福の瑞兆 である。 これも全ての民衆が見る必要はない。 見たという人が現れればそれでよい。 反対に、 天命が去ると凶兆が現れる。日食・月食など の天文の異変は多くこれに結びついた。そし て天文現象は多くの人が目撃する。すると不 満分子たちは、これを契機に革命を企てる。 こうした瑞兆・凶兆の天文現象自然現象を 記したマニュアル本が後漢頃に出た。すぐに 禁書となった。 話が少しずつずれていくが、中国の歴代王 朝は『史記』以後、自らの王朝が前王朝を継

ぐ正統な王朝であることを示すために、前王 朝の公式史書を作った。 これを正史と称する。 『史記』から『明史』に至るまで、ほぼ二千 年全て二十五の正史は、世界史上比類のない 史料とされる。 中国王朝最後の清については、 中華民国で『清史稿』が編まれたが、これは ずっと「稿」のままである。 さて、ここまで書けば天命と運命の違いは ある程度お分かりになると思う。運命は自分 で切り拓けるが、天命は切り拓けない。三十 年ほど前、清朝の高級官僚の子として生まれ た研究者と会ったことがある。かなり高齢の 人であったが、代々伝えられた自家の蔵書が 革命後に没収されたり焼かれたりして、今は 一冊もないことを話していた。その人は話の 」と云っ 途中所どころで「没法子 (メイファズ) て瞑目した。 方法がない、 どうしようもない、 もう少し意訳すれば「これで終わり」という ことになる。天のなせるわざに対して人間は 何もできない。それほど強い意味をこの言葉 がもつのをその時知った。

連載 エッセイ

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天 命 天命という言葉がある。現在では運命とほ ぼ同じ意味で使われるが、もともとの中国思 想では、もう少し違った意味を持った。 この言葉の基盤には、天が人間の運命を決 定する絶対者として君臨する思想がある。『論 語』 (先進篇)の中に、最愛の弟子顔回を喪っ た孔子が、 「あゝ、天は予 (われ)を喪 (ほろ) ぼせり」と嘆じたとある。運命とはいわず、 天が私を亡ぼしたのだというところに、孔子 の悲しみと絶望感が伝わってくる。自分の道 を継ぐものとして、顔回にかけた期待が大き かったために、その絶望感も大きかった。ふ と漏らした一言に、 天の絶対性が垣間見える。 天には何者もあらがうことはできない。同じ 『論語』の中で君子には三つの畏 (おそ)れ謹 むべきものがある (君子に三畏あり) といい、 その第一に天命を挙げている。天の意思によ 、し 、こ 、む 、べきもの る運命こそ、人として畏れか

というのである。 中国の王朝は、前王朝を亡ぼし新しい皇帝 が即位して、新しい王朝を立てるという図式 から始まる。理想としては平和裏に帝位を譲 り(禅譲) 、王朝を一新するのが本来のかたち であろうが、それはほとんど伝説の中だけの 話である。おおかたは、王朝末期に反乱一揆 が頻発して国は乱れ、武力によって平定した ものが新しく帝位に即き、何代かの後には王 朝は亡ぼされ新しい王朝が立てられる、とい う治乱興亡の歴史である。 その新しい王朝の正統性を示すのが天命で ある。たんに強力な武力で帝位を奪っても、 それは力によって奪った覇者であり、正統性 をもつ王者ではない。では正統性とは何か。 それは天命である。天からこの国を統治する 命をあたえられたもの、それが王者というこ とになる。ただし、これが天命であるという

山田利明

やまだ としあき

東洋大学教授

(専門は中国哲学)

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ショートメールと「おさいふ携帯」を偶に利 用する程度でしたので、 息子の助言は無視し、 長らくガラケイと仲良くやってきました。 しかし、 日頃、 電子機器や電化製品に疎く、 PCの使い方をマスターせず、いつも使い方 を人に訊ねまくって嫌われていた家内が、時 代に遅れず、脳を活性化するには、スマホに 乗り換えるべきだと宣言して、 スマホに突然、 乗り換えました。もっとも本当の理由は、精 神は若くありたいといった殊勝なものではな く、スマホの写真機能がデジカメより充実し たからのようです。偶々、海外旅行をするチ ャンスに、持っていたデジカメの性能が陳腐 で、買い替えようと思った時、息子の助言を 思い出して、カメラではなくスマホを購入し たんだと睨んでいます。 私も、家内がスマホに乗り換えた次の日に スマホに乗り換え、ガラケイと「おさらば」 しました。時代遅れの爺様にならないように したわけです。一応、工学系ですし、PC操 作の経験もあるので、何とかスマホを使って いますが、疲れることばかりです。既に一〇 か月以上たちましたが、未だ、出る必要のな

い相手先の不在着信で、スマホのどこに触っ たのかわからないまま、その相手先に電話を かけてしまいます(コールバックしたくない 時にまさしくコールバックしてしまう、この に昨日まで問題なく、繋が 辛さです) 。 Wifi っていたのに、今日は突然、繋がりません。 きっと、何気もなく何か余計なタッチをした のでしょうが、何をしてそうなったのかサッ パリわかりません。忙しくスマホにかまって いる時間がないときに限って、スマホにパス に ワード入力を強制されて当惑します。 Wifi 繋いだときは特に意地悪で、何度入力しても 受け付けてくれません。スマホが初心者を馬 鹿にして意地悪しているとしか思えません。 昔、初めて米国に行ったとき、ファストフ ード店で英語の聞き取りができず、手を振っ て帰れと言われた気がした時の悔しさを思い 出しました。 歳のせいですかね……。 しかし、 家内も私も、常に時代をキャッチアップし、 若さを保ちたいと言う義務感だけで、意地悪 なスマホに耐えています。最近、私も電車で 腰を下した時は、スマホの使い方の研究を真 剣にやるようになりました。 本当、 疲れます。

連載 エッセイ

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スマホ協奏曲

ガラケイ(ガラパゴス化した日本の携帯電 話の蔑称)からスマホへの移行が進んだそう です。最近の新聞を見ると、スマホの普及率 は五〇%を超えたそうで、携帯電話のヘビー ユーザ(つまり町で携帯利用を見かける大部 分の人)はもうスマホ利用とか。 普段、自転車通勤ですが、帰りがけに飲む 予定があるとかで、 自転車を使いづらい日は、 電車でも通勤します。自転車と違い、電車に 乗っている間は、ボーッとしてリラックスで きます。流れゆく車窓の景色も良いですが、 老眼でも疲れない車内中刷り広告や、乗って いる人を観察する方がもっとリラックスでき ます。もともと昔から人が何をしているのか 気になる方なので、電車の中の人が何をして いるのかよく観察します。特に腰を掛けてリ ラックスしている人は、我々揺れる電車の中 で足を踏ん張って立っている庶民とは違い、 一種、特権階級のように思えて、特に良く観

察してしまいます。 自信をもって報告できますが、私が時々利 用する「京王井の頭線」で、朝夕の通勤時、 座席に腰を下ろしているご仁の八〇%以上は、 スマホに関わっています。特に帰宅時は一〇 〇%の印象です。ニュースを見るのか、ゲー ムをするのか、メールを打っているのか様々 ですが、ともかくスマホに関わっています。 七人掛けシートで七人全員が、公共の場で我 を忘れてスマホに集中している姿は、当たり 前のようで、とても奇怪、異様な感じです。 他の路線では違うのでしょうか。皆さんの報 告を聞きたい気がします。 私の息子は通信関係の業界にいます。その せいか、私も、家内も、ガラケイからスマホ に乗り換えるようにと二、三年前から度々、 勧められていました。もちろん単なる親切心 で自社の製品を勧めるわけではない立派な息 子です。 携帯はもともと、 通話が主な利用で、

加藤信介

かとう しんすけ

(専門は都市・建築環境調整工学)

東京大学生産技術研究所教授

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図 2 どちら の方向にウミ ガメ探しに行 くかの聞き取 り中.

岸地域に暮らす住民は卵を食用や販売 用にするために、産卵中のウミガメを 探してランプを片手に砂浜を歩き続け るのである。 しかし保全を重視する外部者の関わ りのなか、二〇〇九年からは保全・研 究目的以外のウミガメの卵販売は禁止 された。そのため現在では「NGOの 保全活動に協力する」という形で村人 は卵を売り、保全の対価として報酬を 受け取っているのである。エルサルバ ドル国内でも貧困地域として認識され るトゥラル村の人びとの多くが、この ようなNGOからの報酬や卵の違法販 売で得た収入を通して生計を立ててい る。 ウミガメ探しは過酷な仕事である。 雨季のトゥラル村は夜に嵐が来る。住 民は近づいてくる雷を注意深く観察す ることで嵐の接近を予測する。いよい よ嵐が近づき生暖かい風が吹き始める と、早足で帰路に着く者も現れる。し

かし家が遠い者やウミガメ探しを続け たい者は、薄いビニールカッパを着て 嵐を迎えるのである。そしてひとたび 嵐が一帯を飲み込むと、ヤシの木が折 れるような暴風と、会話もできないよ うな豪雨が降り注ぐ。雨風をしのげる ようなものが一切ない海岸線で、半袖 にカッパを着ただけの住民は暴風雨に 震えながら嵐が通過するのを待つので ある。時には雷に打たれて不運にも命 を落とす者もいるという。そのような 過酷な環境の中でウミガメ探しは行わ れている。 しかし過酷なのは気象だけではない。 ウミガメ探しを巡る競争は年々激化し ている。近年治安の悪化にともないト ゥラル村に暮らす村人は増加し、ウミ ガメ探しに参加する人口もかつてとは 比べものにならぬほど増加していると いう。古くからトゥラル村に暮らす住 民は「昔(二〇年ほど前)は、夕方に 浜辺に来て、砂浜に穴を掘って昼寝を

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忘れられた当たり前を探す¨ 目からウロコのフィールドワーク⑫

ラル村では雨季の夕方に、毎日こんな やり取りがある。トゥラル村を始めと するエルサルバドルの海岸には、タイ マイやヒメウミガメなどのウミガメが 雨季の夜に産卵のために上陸する。沿

知られざるウミガメ保全の裏舞台 いとう しょうご

伊藤勝吾 東京大学大学院農学生命科学研究科修士課程 (専門はエルサルバドル地域研究)

「今日はウミガメ探しに行かないの か?」 私が二年間青年海外協力隊として活 動し、その後もフィールドワークを行 ってきたエルサルバドル共和国のトゥ

図1 トゥラル 村の住民とわ たし.

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を当てにしてウミガメ探しに取組み続 けている住民も存在しており、このよ うな外部者による保全活動そのものが、 住民による自立した収入獲得手段の確 立を妨げているとも言うことができる。

図 5 産卵後のウミガメ.

リスクを冒して新しいことをはじめる よりも、NGOに依存する過酷なウミ ガメ探しを選ぶ住民を見て、地域に寄 り添ったかたちでの「発展」を夢見る 私は、もどかしく思うとともに、寄り 添うことの難しさを感じてきた。近い 将来ウミガメ探しの取り締まりが厳し くなりNGOが保全支援をやめとき、 彼らはどう生計を立てていくのであろ うか。「地域に寄り添いたい」 外部者は、

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今、彼らと何ができるのだろうか。 「保 全の現場」に近づけば近づくほど戸惑 いは大きくなっていく。 ともすれば私たちは観光やテレビで 「可愛い」動物を見て、 「保全」のモチ ベーションを高めることが多い。しか しそんな時に、その動物とともに生き る人々の生活まで想像を膨らますこと ができれば、保全の議論は一歩深いも のになるのかもしれない。

図 6 産卵後のウミガメを海に帰す住民.


したあとにウミガメを探していた。少 し探すだけで二匹から三匹分の卵を見 つけることができた。でもいまでは一 週間探して一匹もみつけられないこと もある」と語る。生計をウミガメの卵

図 3 ウミガメ探しを行うために,浜辺で夜を待つ住民.

に依存するある住民は、運悪くしばら くウミガメを見つけることができず、 数週間休みなしに夜間砂浜を歩き通し ていた。 このように過酷なウミガメ探しであ

図 4 卵を採取する住民.

るが、生計を依存する住民以外にも多 くの住民が参加していた。ウミガメ探 しをするのは一五歳以上の男性住民の 九四%にも及ぶ。ウミガメ探しの他に も収入源を持つ住民は、昨日は誰それ が見つけた、さっき上陸したカメの卵 は隣村のだれそれに持っていかれてし まって悔しいと話しながら、夜の浜辺 を楽しみ半分交えつつウミガメを探し て歩くのである。 昨今の野生動物保護の世論の中、ウ ミガメの保全を求める声は高まってい くことだろう。しかし、保全の現場― ―つまりトゥラル村のように実際に動 物と関わりの深い場所――を意識する 機会は限られている。そこでは野生動 物の存在に支えられる人々の暮らしが あり、私たちが当然と考える「保全」 は外部者が持ち込んだ論理にすぎない。 そしてウミガメ保全は、住民の過酷な 労働を前提として成立している側面も ある。またNGOが報酬を支払うこと

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静電気で毛がはえる!

取ったあと、プラスとマイナスに

コピー機は、光で絵や文字を読み

ラスに帯電した毛を吹きつけることで、

ぬってマイナスに帯電させた人形に、プ

を利用してつけている。全身に接着剤を

静電気で色がつく、絵がうつる!

帯電させたドラムやトナー(イン

まんべんなくきれいに毛を生えさせるこ

人形の短い毛も、静電気の引き合う力

ク)を組み合わせて、最終的にト

文・構成 平松 あい)

ラなく素早く塗装されている。

自動車のボディも、同じようにしてム

とができる。

をしています。

0歳からの こども サステナ にまなぶ

(こどもサステナ

出典:21 世紀こども百科 科学館

ナーを別の紙にうつすという作業

2014 春の号


空飛ぶクラゲ

に塩ビパイプを毛糸のマフラーなどで よーくこす

る。そして、テープを塩ビパイプの上に放り投げる と

・ ・ ・

、あーらふしぎ、ふわふわ浮いて空を飛ぶクラ

ゲのできあがり~(塩ビパイプは、長いゴム風船やストロ

まだまだ寒い季節が続くこの頃。職場では、節電呼 びかけアナウンスや節電お願いメールが毎日送られ

これは、2つの物質をこすると電子が移動してプ

ーを組み合わせたものでも可) 。

あり、ドアノブにさわってバチッとなり、びくびくい

ラスの電気を帯びたり、マイナスの電気を帯びたり

てくる。そして寒さに加え、乾燥の気になる季節でも やーな思いをすることも。この電気は何かに使えない

することを利用している。この場合どちらもマイナ

になるのである。このとき、思い切ってパッと高く

スに帯電するので、反発しあって浮いたままの状態

のか!と思うこともあるだろう。 こういうときに最適(?)なのが、電気は電気でも、 静電気を使った遊び!

放り投げるのがコツである。でないと、顔や服にく

っついてしまう。ただし子どもは色んなところにく

静電気といえば、小学生の頃に、下敷きをこすって、 髪の毛を立てて、超能力~などと言って遊んでいた人

っつくのが楽しいようで、わざとあちこちにくっつ

け回っていたりしたけれども。

ところに利用されて役立っている。

この静電気の性質、実は様々な に切り、端を結んで片方を細か

使い方次第ということであまり嫌

センチ く裂き、ティッシュかキッチン

がらないでやっていただきたい。

プ ( 荷 造 りひ も ) を

ペーパーでよーくこする。同様

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できる。例えば、スズランテー

も多いだろう。実はこの静電気を使って色々な遊びが

ふわふわ


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