新しい隣人
メキシコとトランプ・ドリーム
p.14
2017年1月
レオン・GTO 無償版
p.5
メ
変わりゆく家族のかたち
イ キシ ベ ン コ ト の カ p. レン 1年 8 ダ ー
日本にまつわる2つのイベント 在レオン日本国総領事館1周年記念
社会の多様化に揺れるメキシコの家族
今日のメキシコを見れば、経済 発展が家族という社会の基本 単位に及ぼすインパクトの大 きさを計ることができるでしょ う。家族は普通、精神的、経済 的に個人の支えとなる一番の 場所とされています。同様に私 生活や仕事をする上でも生活 の指針ともなり、サポートもし てくれます。
メキシコは メキシコ人 だ け に 友 好なわけで は ありませ ん 。外 交 に も積極的な 姿 勢を見せ ています。これまで国や地域 と結んだ条約や協定の数は 1270件にも上り、その内6 53件が2カ国間、617件が 多国間のものです。その中で 貿易協定は12件あり、このこ とはメキシコが今日、世界で 最も自由貿易協定を締結して いる国ということを表してい ます。
従 来、男女のカップルは、そ れぞれに家族構成でいう 父と母というふうに 定 義され、子供という子 孫を残す目的で結婚 すると 義 務 付 けら れていました。メキ シコ国 立自治 大 学 【UNAM】による家 族動態アンケートに よると、1976年に は71.5%の家族がこ の形態をとっていまし た。しかし、2005年に なると66%に下がり、この 傾向は現在も50%に向かう 勢いです。 現在は最高裁判所でさえ、こ の伝統的モデルが唯一の家族 形態とは言えないと認識して います。その証拠にメキシコの 法律43/2015にはこう記さ れています。 「結婚のための必要条件を生 殖可能なものたちの性的指向 に結び付けるのは差別的であ る。それは異性愛カップルと近 似した条件に置かれている同 性愛カップルを結婚への道筋 から不当に排除するものであ る。」 つまり、夫婦とは必ずしも男と 女から構成されるのではなく、 また、その目的は子供を産むこ とだけではないということで す。もし同性愛カップルが子供 を持ちたい場合は、法により養 子縁組をすることができるよう になり、このことは同性の両親 による新しい家族の形が生ま れたと言えるでしょう。 このような一連の流れの中で カンペチェ州、メキシコシテ ィ、チワワ州、コアウイア州、 ミチョアカン州、メキシコ州、
コリマ州、モレロス州、ナヤリット 州、ハリスコ州、ソノラ州、キンタ ナ・ロー州では民法上の同性愛婚 が合法化されました。その他の州 でもアンパロ【amparo-人権保護 制度の意。本記事では憲法権利 保護訴訟にあたる】により合法化 される可能性があります。家族と いう単位や形に新しい要素が加 わり、その集まりである社会とい う大きな器にはそれに見合った変 化が求められている、それが現状 と言えるでしょう。 別の角度から家族形態の変化を 覗いてみると、その大きな要因と して見えることは、女性の社会進 出でしょう。 多くの女性は現在、出産を境に合 計12週間の有給休暇である産休 後も仕事を続けます。父親(養父 の場合も考慮される)も労働法第 132条により産休として5日の有 給休暇が与えられ、一昔前より子 供と過ごす時間が増えました。共 働き世帯の増加により、父親が唯 一の経済的支柱であった家庭の 時代は終わりを告げました。労働 力の社会注入が活発になるにつ れて働き方も変わり、男女関係な く、生産性の向上と私生活とのバ ランスの共存を目的とされたホー ム・オフィスやフレックス・オフィス と呼ばれるものを採用する企業も 現れました。 これらの要因を出生率からも捉え ることができます。70年代の初 めは、一家庭における平均の子供 数は7〜8人で、中には12〜15人 の子供の家庭もありました。197 6年の子供の平均数は5人でした が、 1995年には半分の2.5人に 下がりました。この下降傾向は次 の表で示す通り、現在も下がり続 けています。
1990年から2015 年のTFR(※1)
女性1000人当たりの平均新生児の数
1990年
3.36
2000年
2.65
2010年
2.28
2015年
2.21
子供が少なくなった理由には、女 性の社会進出の他に、家族計画 の意識の浸透(現在72.3%の出
メキシコとの関係国 バローゾホルヘ
オリビア・ディアス 家族と言って 思い浮かべる イメージは、 今や学校の 教科書で描き出されるような 父と母、そして子供と普段映し 出される姿ではなくなってきて いるようです。
自由貿易協定
p.3 産人口の女性が避妊薬を使用) や別居や離婚の増加などが挙げ られ、現在では人口1000人当 たりの婚姻率は4.6%ほどで、反 対に離婚率は22.2%という数字 が出ています。 これらの数値が何を表しているの かというと、現在における家族構 成の平均人数が4人へと低下し、 結婚する年齢も以前は女性で15 、 16歳でしたが、現在では多く女 性は高等教育へ進学し、そこから 男性と同じく社会進出をすること から、平均30歳と晩婚化の傾向 へと繋がり、出生率は低下しまし た。その一方で、平均寿命は74.9 歳となり、この数字はさらに上が っています。 この事実は、段階的な人口の高 齢化を示しています。そこで今度 は高齢者層に目を向けると、定年 後、年金で生活できる人は全体の 3分の1ほどしかいません。単身 の高齢者の人の中には、血 縁関 係のない友人たちと生活費を分 担し、共同生活をする人もいます が、大多数の高齢者は経済的な 理由や精神的支えの必要から子 供や孫たちと住んでおり、2005 年は全家庭の24.6%の家庭に高 齢者が住んでいました。 激動する家族形態の変化につい て、国内外の研究機関は常に注目 しています。そして家族の絆の弱 まりやその解体の影響は、国全体 に対し以下のようなマイナス要因 を生み出し、それは社会的コスト の増加をもたらすと警鐘を鳴らし ています。 ・薬物やアルコールなどの中毒症 ・家庭内でのストレスの増加によ る家庭内暴力や虐待 ・疎遠による家族サポートの欠如 ・他の街や外国への移民の増加 ・高額な治療費を伴う慢性疾患 や精神疾患 おわかりの通り、メキシコの社会 は多様化し、少子高齢化の渦に 巻き込まれ、そこからまた新しい
波が生まれるという、次々と変 化の連鎖が起きようとしていま す。それはこの国が経済成長を する過程において仕方がない ことかもしれません。このこと はメキシコだけでなく多くの先 進国でも起っている深刻な問 題であり、解決の糸口を全世 界挙げて探っているのが現状 です。 この世界の潮流の中で、メキシ コではどのような政策が妥当 なのか。政策だけでなく私たち 一人一人ができることは何なの か。もっと掘り下げると家族と いう形が著しく変わる中で、そ の変わりゆくものの中から何 を受け入れ、また反対に何を変 わらず守っていくのか。もう一 度冷静に足元を見なければな らない時期に来ているの かもしれません。 ただ、男女の性別関 係 なく、子 供も大 人も私たちメキシ コ人にとって家族 とは、最大のモチ ベーションであり、 個々を支える基盤で あり、もっと端的に述 べるのであれば、人生でも っとも大切なものなのです。そ れだけはいつの時代も変わら ずあって欲しいと願っているこ とは確かです。 このことを読者の皆さんにご 理解いただければ幸いです。
※1- 合計特殊出生率のこと。一人の女 性が生涯に生む平均子供数、ある人口 の女性の年齢各歳毎の出生率を合計し 算出した値 ○出典 ― 各データは以下の機関が公 表した数値です ・国立統計地理情報院【Instituto Nacional de Geografía y Estadística】 (INEGI) ・国家人口審議会【Consejo Nacional de Población】(CONAPO) http:// www.conapo.gob.mx ・メキシコ国立自治大学・社会科学研 究院【Instituto de Investigaciones Sociales de la Universidad Nacional Autónoma de México】(UNAM)