dégager

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SF 作家が 2074 年の未来に関係する小説を書 き、その小説に関連する作品を東京藝術大学の 50 人の学生が作る、という美術展『2074、夢 の世界』(Comité Colbert) のための作品。小説『記 憶の片隅』に出てくる「先への想像力を一切も たない男」にインスピレーションを受け、想像 力をもたない人にとっての空間体験とはどのよ うなものか、翻って、私たちが持っている空間 体験のための能力とはなんであるかを考察した。 主題に選んだものは、建築物や街の曲がり角で ある。曲がり角は、1 歩先へと進んでいくたび に 1°ずつその先の情報を獲得することができ る、シークエンスとして特異な場所である。人 間がみな、その先に床が続いていることを疑い もせず角を曲がっていけるのは、記憶と経験に 基づく想像力によるものである。本作品では、 街を歩いて見つけた曲がり角を任意の角度と距 離で撮影し、その写真を組み合わせて裏側を想 像により設計し、模型を制作した。その模型を 再び、角を曲がっていく連続写真として撮影し 展示することで、鑑賞者はそれぞれ、連続する ショットに納得したり予想と異なると感じるこ とにより、自身のもっている空間への想像力を 自覚する。


「2074、夢の世界」 2017.06.17-2017.06.25

主催 : Comité Colbert, 東京藝術大学 会場 : 東京藝術大学大学美術館



展示「2074、夢の世界」は、東京藝術大学とフ ランスの Comité Colbert による共同主催で、学 生 50 名がアイデアコンペティションによって選 ばれ、本展示のために書かれた SF 小説のなかか ら 1 つを選び、展覧会に向けた作品制作をする という企画である。

私が選んだ小説、アンヌ・ファクリの『記憶の 片隅』には、ザディークという、マイクロチッ プを脳に埋め込み記憶の機能を補っている青年 が登場した。 彼の記憶は感情と無縁な過去の知 的な展望でしかなく、彼は、未来に対する想像 力も持っていない。 作中のこの一文から、彼に とって空間はどう見えているのか・未だ訪れて いない未知の場所は存在しないも同然なのだろ うか、という疑問が湧き、ここが制作の起点と なった。

microchip


そして、空間内を動いていくときの、われわれ のもつ通常の感覚や判断に興味を持った。その うちに、曲がり角という建築の場所が体験とし てはかなり特殊な場所なのではないか、と考え るようになった。曲がり角に出会うとき私たち は、足元に見える床が角の先に続くことを疑う ことなく、先へ進んでいく。このとき足を進め た分だけ想像の余地は失われ、私たちは先の世 界を把握していく。既知と未知が円状に移り変 わるこの体験は、空間を移動するときにのみ起 こる。曲がり角には、世界の連続への信用と、 想像の余地があるのではないか。


写真を撮ることは、つねに既知と未知の狭間にいることを知ることだ - Luigi Ghirri / photographer  「写真講義」より


30° 45° 60°90°.......

街で遭遇した曲がり角を曲がっていく身体が捉 えた視覚を、撮影し固定することで空間を把握 していく過程、その知り尽くす前の状態を保存 できるのではないかと思った。

把握したぶんの視覚の記録

dégager, 2017



ランダムに撮られた場所も時間もばらばらの曲 がり角の写真を、角度を揃えて 3D 上に配置して みる。それぞれの位置情報は記録されていない。 3D 上の配置をもとに、写真と針金で立体コラー ジュを作ってみる。


曲がり角のコラージュ

dégager, 2017


曲がり角の体験・その裏側を設計する

dégager, 2017


正面から正対して見たコラージュは、「先への想 像力のない」その先の空間の連続を一切考えず、 情報の絞られた見え方になる。そのコラージュ の裏側を、3D を用いて捏造し、設計を試みる。



立ち上げられた 2 つの模型

dégager, 2017


模型をさまざまな角度から見ていくと、予想し なかった形との遭遇が起こる。この、「予想しな かった形」という感覚こそが、想像力をもつわ れわれが空間を認識する際に、自動的に働かせ ている能力に他ならない。



つくられた模型をふたたび連続するシークエン スの写真として撮影し、ディスクリプション、 連続写真、模型 2 つを展示物とした。展示に正 対するときわれわれは、見えている情報の絞ら れた状態・先の想像力を持たない青年ザディー クの視点に擬似的に立つことになる。しかし、 一度連続写真を見始めると、そこに感じる納得 や違和感を通して、自分が自動的になんらかの 想像力をはたらかせてしまっていることを知る ことになる。

これは、連続するショットのための撮影セット であり、空間を微分する手法モデルであり、「私 たちには想像力がある」ことを再確認する装置 である。想像力をもつ私たちは、かすかな予想 なしに次のショットを見ることはできない。


展示風景

dégager, 2017



連続するシークエンス・ショット

dégager, 2017



展示風景

dégager, 2017


タイトルに掲げた《dégager》とは、ダンスにお ける、次の動作のため のわずかな身体の準備を 意味する。ダンサーの身体が次にあらわす形を 私たちは知らない。しかし、わずかな筋肉の収縮 から、次の動作の予感を受けとることがある。

この作品は、想像力がない、という状況を考え ることによって、私たちが無意識に駆動させて いる能力を振り返り、建築空間と切っても切り 離せない、世界が続いていくことへの信頼と、 まだ見ぬものへのわずかな予感について考察し たものである。



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