早稲田大学建築学科 2017年度設計演習F

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1 早稲田大学創造理工学部建築学科 設計演習F 目次 はじめに 演習概要 対象地概要 提案概要 各チームの提案 合宿最終発表会 学内講評会 最終成果発表会 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 54 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 57 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 61

はじめに

昭和30年代以降、首都圏で急増する中堅労働者のための住宅不足を解消するため、都心周辺や郊外に 多くの大規模住宅団地が開発されました。現在、そうした団地のうち、築40−50年を経過した建物は、 設備の老朽化や、市場のニーズとのずれ、バリアフリー未対応などの問題を抱えています。

今回の計画対象地である「田島団地」も、昭和40年に開発された大規模な面開発型の団地です。田島 団地は、すぐそばに駅や国道や高速道路があり、都心への通学・通勤への利便性も高く、賃貸住居はほぼ 満室の状態が続いています。また、団地内部には緑豊かな公園・運動施設が整備され、団地内外の住民に 広く利用されており、地域の貴重なオープンスペースとしての機能を果たしています。一方で、昭和40 年代に開発された多くの郊外型住宅団地と同様に、住民の高齢化、住宅設備の劣化、バリアフリーへの未 対応、住宅間取りの陳腐化などの問題を抱えています。さらに、敷地周辺にも目を向けると、西浦和駅一 帯では長らく土地区画整理事業が未着手のままであり、駅周辺の活気が失われている状態です。また、国 道17号線の西側は、さいたま市が産業集積拠点検討エリアとして整備する方針を打ち出しているものの、 具体的な計画は今のところ不明のままとなっています。

この冊子では、早稲田大学建築学科でまちづくりを学ぶ学生たちが、団地再生と周辺との関係、これか らの住まい方など様々な要素を検証し、団地とその周辺の住民がウェルビーイング(生き甲斐)を実感で きるような、豊かな空間像やそれを実現するための仕組み・プログラムを提案したものです。

それぞれの案には、学生なりの「田島団地」への思いやまちづくりのアイデアが込められています。こ の冊子が、これからの団地再生を考えるためのアイデア集となって、田島団地とその周辺地域にとって少 しでも有意義なものになればと願っています。

また、今年度の「設計演習F」は、日本総合住生活株式会社の寄付講座として設置されました。寄付者 からは、資金的支援のみならず、団地見学のコーディネートや現地作業スタジオの貸借など、あらゆる側 面から多大なご支援をいただきました。その結果として、例年にも増して充実したカリキュラムが実現し、 高い教育効果と提案成果を達成することができました。記して感謝申し上げます。

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合宿中間発表会風景 合宿作業風景 JS本社での講義風景

演習概要

集中作業合宿、現地スタジオでの作業など一連のグループワークを通して、提案をまとめました。5月 上旬の集中作業合宿中には、共同作業、テーマ設定を行いました。その後大学にその成果を持ち帰って、 さらに発展させてまとめ直し、6月初旬の学内講評会を経て、7月にJS・URの皆様の前で成果発表会を開 催しました。

4/5 オリエンテーション/講義

• 課題説明

• 講義「団地再生の事例」(阿部俊彦先生) 4/12 現地視察/講義

• 団地及びその周辺地区の視察

• URおよびJSより講義

4/19 エスキス

• ファーストインプレッション発表、グルーピング

4/26 エスキス/講義

• グループ調査結果に関するエスキス

• 市浦ハウジング&プランニング 内田勝巳様 講義

4/29 東京近郊団地見学会

• 参加者:教員及び学生

• 鳶尾団地

• 浜見平団地

• 辻堂団地 5/10〜14 集中作業合宿(熱海)

• 作業及び討論、ピンナップとエスキス

• 提案の全体構成案の作成

• 中間発表会(於 リゾーピア熱海)

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5/17 エスキス

• 提案の精緻化のためのエスキス

5/24 学内中間発表会

• 参加者:教員及び学生

• プレゼンボードを使った口頭発表と講評

5/31 エスキス

• 最終提案の骨格の確定

• プレゼンテーション図面の作成

6/7 学内講評会(於 早稲田大学西早稲田キャンパス)

• 参加者:教員及び学生

• プレゼンボードを使った口頭発表と講評

7/5 最終成果発表会(於 TKP神田ビジネスセンターANNEX ホール8E)

• 参加者:JSの皆様

• ポスターセッション

• プレゼンボードを使った口頭発表と講評

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URの皆様     教員及び学生

対象地概要

今年度の設計演習Fは、旧日本住宅公団が埼玉県さいたま市桜区田島において開発した大規模な面開発 型の団地である「田島団地」とその周辺地域を対象としました。

田島団地は、住民の高齢化や、住宅の間取り・設備水準の陳腐化など、昭和40年代に開発された他の 郊外型団地と同様の課題を抱えています。また、周辺地域でも、長期未着手の土地区画整理事業による駅 周辺の活気の喪失や、具体的な計画の不明な整備方針の存在など、都市再生の方向性が見えない状態が続 いています。田島団地の再生を端緒として、周辺地域を含めた都市的な視点から、まちづくり・空間デザ インを行うことが求められています。

学生たちは、きめ細やかな現地調査を基に、団地や周辺地域が持つ魅力、潜在的な問題、隠れた需要な どを読み取った上で、射程距離の長い問題提起とその回答の提示を試みました。

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7 田島団地内の商店街 国道17号新大宮バイパスと田島団地 田島団地内の公園

提案概要 ウェルビーイング(生き甲斐)のデザインと 住宅団地の再生

全7チームの提案概要です。田島団地とその周辺地域を対象として、団地の再生をきっかけとした、ウェ ルビーイングが実感できるような空間像と、それを実現するための仕組み・プログラムを提案しました。

■ 団地をめぐる屋台

team モビリティ(菅野星来・中村優介・森菜穂美・李蔚)

田島団地の住民の高齢化をキーワードとし、その実態をさぐるためにア ンケート調査・聞き込み調査を行い、孤立化の様々な原因を把握しました。 その上で、孤立化を解消するためには、"固定的"な交流空間の提案だけ では限界があると考えました。そこで、団地をめぐる移動装置である「団 地屋台」と、その拠点を設置・運営することを提案します。「団地屋台拠点」 とは、住民同士の交流を誘発する装置です。最終的には、団地住民が主体 となり、居場所を自ら創造できるシステムを構想しました。

つなぐ緑、つながる縁

team OTK(金子亮介・小嶋諒生・田嶋玲奈・福井亮介)  田島団地を、「緑」とそれを介して生まれる「縁」がまちに広がってい く拠点とする計画です。大宮台地と荒川に挟まれた団地周辺の地域構造が、 自然と密接に結びついていることに着目しました。また、大規模で低密度 な空間とそこに広がる豊かな自然という特徴から、団地が地域における緑 の拠点となりうると考えました。本提案は、緑の機能を4つに分類した上 で、それらを組み合わせることにより、団地とまちの再編を行い、地域の 「縁」の再構築を試みるものです。

■ 「ちょっと」が生きがいになる

team HONEY LEMON CANDY(太田実・廣瀬耀也・藤沼拓巳・松田はるか)  私たちの日常には、まだ活用されていない「ちょっと」の時間や労力が溢れ ています。本提案では、こうした「ちょっと」の時間や労力を利用する空間と 仕組みを作ることで、田島団地やその周辺の住民に、「ちょっと」活動するこ とのきっかけを生み出します。そして「ちょっと」活動が、住民の手によって 自発的に継続・成熟していくことで、多様な「ちょっと」活動の空間が、団地 の中に組み込まれていきます。こうした団地の日常の中に「ちょっと」した新 たな生きがいが散りばめられた新たなライフスタイルが立ち現れます。

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■ 地縁強化団地

team 苗ちゃんズ(許達毓・鈴木聖己・田中七瀬・辻駿・根本悠希)  居住以外の活動が地域外へ流出し、"ベッド団地"と化している田島団地 では、同・多世代との交流が希薄化しています。そこで、団地内に地縁の輪 を広げるための手段として、「農」を利用することを提案します。「100万人 の農」を唱え農業活性化を図るさいたま市と、緑を育むことに日頃から意識 の高い田島地域の住民の力を利用し、農を「育む・手を加える・商う」のそ れぞれの行為を介して、人と人の交流の場を創出します。居住者が様々な規 模の「農」に関わる中で、団地に"農をめぐるなりわい文化"が醸成されます。

■ 水庭に生きる

team Deluxe seat(齋藤拓人・桑田芙貴子・松永幹生・柳生千晶)

かつて人々の生活にとって重要なインフラであった水路は、産業と都市構造 の移り変わりに取り残され、滞留や汚染により人々から遠ざけられています。 本来「水」は、植物を育て、景観を潤し、環境保全や人間の生活に大きく関与 してきたはずです。「水庭」は、水路を通すことをきっかけとして水の持つ様々 な可能性を生活の中に示唆し、多彩な水システムとともにそれらが循環してい く住環境そのものです。本計画では、団地内の水庭整備を契機として、さらに 外へと地域住民のための「庭」を広げていくことをめざしました。

team 認定自由民(大森健太郎・北原遼大・北村佳恋・田中翼)  団地には、居住者の生活の積み重ねから形成され、生活に根ざした文化 =「団地文化」があります。私たちは、現地調査を通して多数の団地文化 を収集・分析しました。そして、団地文化には人と繋がりやすく、心地よ く生活できる知恵が眠っていることを発見しました。こうして分析した団 地文化を紐解き発展させることで、豊かな団地文化を備えた団地再編の姿 を提示します。日々の生活を繰り返していると、気づけば人と繋がってい る…そんな団地ならではの暮らしを提案します。

■ 通いたくなる団地

team DES MARTIENS(Aliénor Muscat・浦田愛永・笠松優貴・木内星良・西村愛子)  団地に親しみが薄い若年層にとって、団地はとっつきにくい存在です。 そこで、「住む」に拘らず、「通う」ことで団地を使ってもらい、良さを実 感してもらうことが有効であると考えました。本提案は、団地内に"居住 以外"の機能を充実させることで、若年層を含む多世代が団地に訪れるきっ かけを作り、「通いたくなる団地」として再整備するものです。具体的には、 ①みち・ひろばづくり、②まちかど・たまりばづくり、③すまいづくりの 3段階で整備を行い、「通いたくなる環境」を実現します。

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■ 団地文化に暮らす—団地文化を基にした新しい生活の提案—

最終成果発表会風景

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学内講評会風景 合宿最終発表会風景

各チームの提案

■ 団地をめぐる屋台

team モビリティ

■ つなぐ 緑、つながる縁

team OTK

■ 「ちょっと」が生きがいになる

team HONEY LEMON CANDY

■ 地縁強化団地

team 苗ちゃんズ

■ 水庭に生きる

team Deluxe seat

■ 団地文化に暮らす—団地文化を基にした新しい生活の提案— team 認定自由民

■ 通いたくなる団地

team DES MARTIENS

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合宿最終発表会

2017年5月14日

於 静岡県熱海市・リゾーピア熱海

・参加者:JSの皆様   教員および学生 ・プレゼンボードを使った口頭発表と講評

各チームとの質疑応答

“食”で共属意識をよび覚ます

モビリティ

・ なぜ孤立を解決する手段として「食」と いうテーマを持ち出したのか。「食」で孤 立を解消しようというプランに至った議論 について教えて欲しい。

学生 「食」は人間の本質的な欲求であり、 生き甲斐づくりによって孤立を解消するこ とを考える際にも、住民の「食」を良くす ることが様々なきっかけを生むのではと発 想した。今回、改築や増築など様々な個別 提案を盛り込んでいるが、それらに統一性 を持たせるために「食」をテーマの軸とし て設定した。

・屋台が練り歩くルートは、どのようなニー ズを想定して設定したのか。また仮に停留 所のようなものを設けた場合、停留所間を 移動している間には何をやっているのか?

学生 私たちの実施した動線・アクティビ

ティ調査によると、住民による「サンディ」

の利用率は極めて高かった。そこで、「サ ンディ」を拠点として団地内を巡るルート を設定した。また、屋台が低速で移動して いる間も、呼び止めて利用できることを考 えている。屋台が来たことがラーメン屋の ように音でわかったら良いかなと。

・ 動線に出てこない人、こられない人たち のことはどのように考えているのか? 学生 屋台をベースに訪問販売を行うな ど、こちら側からアプローチしていくこと

で、外への興味を持ってもらい孤独を緩和 することにつなげていく。

緑を介した小さな社会的居場所 OTK

・提案の中で「団地内通貨」の使途は「緑」 に限定するとのことだったが、買い物に使 うなどの他の使途は想定しないのか? 学生 プログラムに子供が関わることも考 慮して、買いものなどに使えるような金銭 的価値を帯びた団地内通貨を導入すること は難しいと考えた。あくまで地域内の循環 を生むツールとしての利用を想定してい る。

・ バイパスと団地の間に緑道を提案した理 由は。

学生 田島団地内の中央には、既存の緑地 軸があるので、その軸に平行した新たな軸 を設計したいという想いがあった。また、 小学生たちが訪れやすい動線を考えた際 に、この場所ならば最も流れ込みやすい軸 を作れると考えた。

・ 子供と高齢者の交流に関する提案だと思 うが、昼間動きやすい高齢者と子供とは活 動時間が異なるように思う。どのようなタ イミングで交流が生まれることを想定して

いるか。

学生 小学生が緑道を通学路として使うこ とで、放課後に交流が生まれるということ を考えている。人と人との間に「共有」で きる場所を与えることで、つながりが生ま れる。それが、高齢者にとっては自分の居 場所を感じる場面になり生き甲斐につなが

ると思った。

「向き合う世代」が自由に生きられる まち

HONEY LEMON CANDY

・ 様々な課題を持った人たちが、団地のサ イクルの中でどのような生活を送っている かの説明はわかりやすかった。「ダブルケ ア」以外にも、昨今ふえている夫と妻の「ダ ブルキャリア」のニーズにも対応できるよ うに検討してほしい。一方、団地内で最も 多いのは高齢者だ。高齢の住民にとっても 優しい団地づくりとなっているのか。

学生 現時点では、特に高齢者介護と子育 てをしなければいけない「ダブルケア」の 問題にフォーカスを当てている。今後は もっと多様な課題のパターンとかれらの ニーズを丁寧に把握して提案につなげてい きたいと考えている。

・人が入れ替わることで、設備更新が始ま るというストーリーだったが、どのように その考えに至ったのか、議論の過程をおし えてほしい。

学生 そもそも団地が一括で管理されてい ることを考えると、内部での住み替えは通 常よりも障壁が低い。これからニーズが多 様化しつつ変化する中で、団地内の住み替 えを促進し、それを契機として再整備を考 えられるのではないかとの着想に至った。

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地縁を育む 苗ちゃんズ

・「育てる・作る・贈る」への住民参加を経 て、最終的に地縁が育くまれるという説明 だったが、そこへの具体化や方策を教えて ほしい。住民が集まり、団地内で自給自足 を実現するのはは面白い案だが、はたして 実現可能性はどうか。

学生 建て替えが進むのにあわせて、棟ご とに段階的に取り組みをはじめていくこと を想定している。団地の再整備の動きに対 応して実験的に開始し、その波及効果で ゆっくりとすすめていくことで、地に足の 着いた活動展開が可能と考える。 ・この提案を実現するには、かなり大規模 な組織が必要になるが、運営組織について はどのように考えているか?

学生 団地普請を進める「団地づくり組織」 のようなものを作れないかと考えている。

その活動に対して参加を促す仕組みも必要 となるが、JSなどが窓口となって住民を巻 き込んでいければと。

・高齢者が主体の提案のように思えたが、 子供はどこでどのような関わり方をするの か教えて欲しい。

学生 若年層が関わるのは、「商い」部分 が中心になる。一方、平日や土日に忙しい 人でも、合間を見て「育てる・作る・贈る」 に関われることが、多世代交流につながる

と考えているので、その点については今後 考えを深めていきたい。

・「作る」ことを強要されると、住みにくい 場所になってしまうのではないか。「贈る」

というシステムを生かすことで、あまり押 しつけがましくないプログラムに再構築す ることが可能かもしれない。

学生:講習会などを行うなどして、自主性 を促す操作が必要になってくるとは考えて いる。

水庭に生きる

Deluxe seat

・ 雨水を利用するシステムについて、具体 的にはどのように考えているのか教えて欲 しい。

学生 現時点で雨水が流れていない箇所も あるため、建て替えを行うことで利用が可 能になるようにしたい。具体的には、実験 的に雨水を屋根に通すシステムなどを考え ている。

・場所をつくっただけでは人を呼び込めな いと思うが、なにかソフト的なアプローチ を考えているのか?

学生 空地利用で拠点をつくることで、イ ベントを企画して広場に人が集まったり、 緑地を利用することで団地活用することで 人が訪れるということを考えている。人の 流れも考慮しているので、出入りや行き来 がしやすい仕組みを考えている。

・現状で暗渠になったり、フェンスで囲ま れたりしているところは、安全性や事故防 止のためにそうなっているのだと思うが、 そのあたりへの配慮はどう考えているか。

学生 安全性を考える上では、水路の断面 が一番の問題だ。高さを段階的にあげてい くなど、デザイン的な操作を行うことで危 険性は減らせると考えている。

・生活排水を流すための川や、雨が降った ときに雨水を流すための川がある場合、時

間軸で水路の目的が街の中で既に決まって いるのではないか。

学生 雨水排水など必要な機能は排除しな い。ただ現状では、地域と断絶されて危険 場所と思われている水路を、ポテンシャル ととらえて再デザインすることで、この地 域をより良いものにしていくことが可能と なる。

有賀 利用者となる住民が主体となって組 織化することで、大きなコミュニティ活動 の形成につながることもある。象徴的な意 味合いが出てくるのでは無いか。日常的な 利用の可能性など、いくつかの段階で考え てみてほしい。

団地文化を基にした新しいコミュニ ティ空間の創出

認定自由民

・ 段室の出入り口を向かいあわせる案は、 建て替えではなく付け替えをするのか。

学生 階段室を反対側に付け替える。それ によって、新たなセミパブリック空間が生 み出される。

・駅に近い方の棟は、南アプローチになっ ているので、南側でのコミュニティは生ま れるかもしれないが、逆に北側の住民とは 断絶・閉鎖的になってしまうように思われ る。そこは何か仕掛けを考えようとしてい るのか?

学生 団地内のエッジの部分は非常に重要 だと考えている。建物を譲許して公開空地 のように解放的な空間にすることで、周辺 環境へ開かれるプログラムを考えている。

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・自治会加入率のギャップを利用するとい うのはどのような意味なのか?

学生 調査では、たとえば3つの棟があ るうち、両側の棟は自治会率が高く、真ん 中の棟は低いなど、局所的な差異があるこ とがわかっている。第一段階としてその ギャップを利用したいと考えている。

有賀 北西部分は駅前の整備から得られる ものがあるかもしれない。

学生 駅前の開発は必要と考えており、す でに駅から団地までの動線調査も実施済み

だ。今後は、駅前の再整備と絡めて提案を 詰めていきたい。

通いたくなる団地

DES MARTIENS

・ エリア分けで快適に住み分けたいという のはわかったが、きれいにゾーニングしす ぎてしまうのはどうかと思う。

学生 ゾーニングをあまりはっきり分ける 意図はなかったのだが、プレゼンテーショ ン上でそう伝わってしまった。表現を見直 していきたい。

・外部の人を団地内へと呼び込む案だが、 団地内でイベントを行うとか、施設をつく るとかは考えていないのか?

学生 現時点では、ウォーカビリティの向 上によって動線を引き込むことを考えてい る。今度、どのような機能を提案すれば「街 角の拠点」として人が集まることができる のか、という具体的な提案を考えていきた いと考えている。

・「通う」ということは、周辺住民が団地内

に来て交流することになると思うが、その ようなことを望んでいる住民が多いという ことだろうか?

学生 団地内のオープンスペースでアン ケートをとったところ、回答してくれた通 行者の7割は、団地に住んでいない人だっ た。そのような実態を踏まえて提案を考え た。

・「賃貸サードプレイス」の例は、かなり特 殊なケースのように感じた。なぜそれを選 んだのか?

学生 これから家族の形というものが変化 していく。またそれに従って、ライフスタ イルの多様化とそれにともなう従来の枠組 みから外れた空間ニーズが生じてくる。今

回想定したものは、一見特殊なケースだが、 こうした一般化できないニーズが蓄積しつ つあり、それが今後フレキシブルな「賃貸 サードプレイス」の潜在需要を形成すると 考えた。

・ソフト面の提案が興味深いため、どんど ん提案していってほしい。子育てについて は、親の近くに住むと子育てがしやすく

なるというエピソードをよくきく。研究の テーマとしても可能性がある。

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学内最終講評会

2017年6月7日

於 早稲田大学西早稲田キャンパス

・参加者:教員および学生 ・プレゼンボードを使った口頭発表と講評

各チームとの質疑応答

団地をめぐる屋台 モビリティ

矢口 「団地屋台」の用途をしっかりと考 えないと、わざわざ屋台にして移動させる 意味があるのかということになる。例えば リハビリ屋台はよいとしても、本棚屋台く らいであれば、わざわざ移動してこなくて も分散的に複数作ればよいとの印象を持っ てしまう。

有賀 前半のリサーチはよくできているが その後のつながりが悪く、後半がアイディ アだけになっている印象。せっかく前半で 「孤立」の問題を調べて分類までしたのだ から後半もそれに対応させて構成してほし い。また平面図が読み取りにくく、図面情 報も不足しているので、今後手を入れる必 要がある。いずれにしても、模式図を見る 限り住民は専らサービスを受ける側になっ ているが、運営側も住民がになうような提 案とすれば、前半の話とも繋がってくるの で良いだろう。

阿部 どういう人たちが「孤立」している か、そして彼らが一日のなかでどのように 生活できるようになるべきなのか、もっと 具体的に説明してほしい。「サンディ」だけ をやるというよりも、センター地区の商店 街の皆が積極的に関われる仕組みを考えた 方が展開性がでてくる。それから「S」サ イズの屋台がやや大げさに見えるので、も

う少し簡単に建築にできるものを考えてみ てほしい。

つなぐ緑、つながる緑

OTK

有賀 最後の都市に出て行く話は「ジョギ ング・アート・アスレチック」などが良い のではないか。緑がつながるだけではなく、 どういう緑なのかというのを提案したほう が良い。どのように西浦和全体にとって地 域の魅力を高めるものになるのかを考えて ほしい。木そのものをもう少し大事に扱う 必要がある。団地住民にとって大切な木は なにか。木がつくりだしている社会的なつ ながりがぬけてしまっている。樹種だけで はなく社会的な意義を含んだ木はどれか。 また、木の絵が設計の対象になっておらず、 添景にしかなっていない。たとえば、歩行 者にとってどのくらいの高さにしたらよい か、などが考えられていない。

杉浦  小学校の場所をプロットしていた が、それが関わってくるのではないか。生 活動線とどのようにかかわるのかを考える と良い。小学生・高齢者・労働者がどのよ うな場所で交流できるのか。それが大きい ネットワークのなかに散りばめられた上 で、団地はどのような拠点になるのか。提 案のひとつひとつがばらばらに見える。木 質化の話が唐突なので、どう緑を育むのか のほうが重要。むしろ木質化することに よってベランダのガーデニングを阻害する おそれがある。リアルなグリーンが繁茂し やすいような環境を作るべき。

吉田  全体的にあっさりしすぎている。た とえばこのプレゼンのなかにひとつも樹種 が出てきていない。抽象的な話ではなく、 より具体的な話にしなければいけない。ま た、この提案のキーワードが見えない。使っ ているマテリアルのなかにおもしろいもの があるから、それからストーリーを始めた 方が提案に力強さを持てる。

矢口  ある程度統計も出した方がいいので はないか。どこを建て替えてどこを建て替 えていないのかがわからない。古い緑と新 しい緑をつなぐ仕組みを説明する。 山村  よく見ると注意深く場所を選んでい たり、駐車場を集約化したりしているので、 それが読解できるようにする。

「ちょっと」が生きがいになる

HONEY LEMON CANDY

廣兼 ここで言っている「工作」とは、具 体的にはどのような内容を想定しているの か。また住民の中で、自分自身の家を造り 変えるDIYが流行っているが、それとの関 連についてはどのように考えているか。日 常生活との連携を詳細に検討していけば、 もう少し具体性が出てくるはずだ。

学生 手芸のように趣味の延長の作業や、 周辺の工場の内職など、「工作」には様々 な可能性がある。また、住民が自らの家を 造り変えるニーズに関しても、うまく拾い 上げて提案に生かしていきたい。

山村 プレゼンボードだけを見ていると、 すきま時間に無理やり従来型の仕事を詰 め込んでいるように見えてしまう。話を聞

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いてみると実際にはそういう意図ではなく て、ちょっとしたすきま時間を利用できる タイプのゆるい「仕事」があって、それを 促進していきましょうということ。その意 図が伝わるようにプレゼンボードを構成し なおす必要がある。

��田 ソフト提案がシステマチックになり すぎたために、ハード提案とうまく整合し ていない印象。例えば、本当に「お助け塾」 をやるのであれば、どのくらいのニーズが あるのかなど具体的な需要が見えるように 詰めた方がいい。それから、中心施設であ る「ちょっとセンター」が巨大で、デザイ ンからも“ちょっと”というコンセプトが 感じられない。

有賀 1日のフローを分析した図までは “ちょっと”が何を意味しているのかイメー ジしやすかった。しかし、そこから先の部 分で、“ちょっと”が何を意味しているのか が急にわかりにくくなる。どういった需要 やプログラムが背景にあって、それをどの ように具現化したのか、ひとつながりのス トーリーとして見えてくると面白い。

山村 ちょっとした「空間」の提案だけで はなくて、ちょっとした「時間」も提案に なるのではないか。例えば週替わりショッ プを考えてみるとか。

団地の"なりわい農" 苗ちゃんズ

阿部 唐突に提案が出てきたように感じた が、分析でわかったことが反映されてない のではないか。例えば、すでにガーデニン

グ・農をやっている人が、提案プログラム へと自然に移行できるようになっているの か。調査では、農をやりたい人のニーズが あり、その人がどこにいるのかということ が分かったはずだが、それがプランのどこ に反映されているのかがわからない。その あたりがぱっと見てわかる図が欲しい。

矢口 このチームは、立体的な図を描くと よい。接地性が高い空間を提案してるよう だが、そのことが図からは読みとれない。 加えて、店舗の裏側は住めないといった細 かい問題が色々と生じてきそうだから、新 著に詰めていく必要があるだろう。あと、 団地の南側に何も提案がないのだが、もう 少しゾーニングを混ぜてあげるなどして、 団地全体に利益があるような提案にしたほ うがよい。

吉田 ベランダを立体的に農地としている ことを強調すると、住民が肥料の臭いを嫌 がることが考えられる。役割を決めて住棟 ごとに分担することで、高齢者にとってそ れが生きがいにつながるかもしれない。あ とは、出来上がった田島団地産の野菜にど うやって付加価値をつけていけるか考えた 方がいい。住民が生まれ育った農村でのノ ウハウをいかすとか、何らかの特性付けが 必要では。

富田 生鮮野菜は販売量が限られてしま う。カクテルやジャムなどにうまく加工す ることで、都会の田島団地産ならではの付 加価値を提案できる可能性がある。

吉田 「商い」のストリートを繋ぐアイデ アはよいが、それならば道路側のデザイン が今とは変わってくるはずだ。道路側に並

んでるお店に対するアクセス、両サイドの 有意義な使い方なども考えなくてはならな い。また、「サンディ」はそのままにして おいてもう一つ新たに市場を作ることも考 えられ、他にも色々な提案ができそうだ。 山村 建て変わったものに対して、建築と しての魅力が感じられない。中心に穴をあ けたデザインが目立っているが魅力的に見 えないし、提案している「商いストリート」 の表情もそっけなくて賑わいが感じられな い。アクソメ図で、既存部と提案部の描き 分けが出来ていないことも、デザイン提案 が伝わってこないことの一因なので、プレ ゼンテーションに配慮する必要がある。

水庭のまち

Deluxe seat

吉田 水路が十字に交わっていることに違 和感を覚える。そもそも、水の流れを考え ると十字は流れにくい。農業用の水路が交 わるところは、普通は丁字にしてあったり 溜まり場があったりするものだ。また、水 庭と言うからには、同じ太さの線で構成す るのはもったいない。所によって狭くした り膨らませたりして、水の流れを変えるデ ザインを考えてみるとよい。

矢口 水路を復活させるだけのために、団 地を建て替えるというストーリーには無理 がある。それよりも、新しく建て替えるに あたって水路をオープンスペースと絡めな がらデザインするというストーリーのほう が納得しやすい。同様に、水路をつくる にあたって邪魔になるから建物を取っ払う

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というのも無理がある。また、「ブラック ウォーター」を使わなければ中水利用もで きるはずなのでぜひ検討してほしい。とく

に団地は中水利用のうえでもスケールメ リットがある。そういったことを突き詰め ていけば、団地ならでは“水庭”が見えて くるはずだ。

廣兼 基本的な質問だが、水は勝手に外か ら取ってきていいのか。またその水路は、 土地利用の中ではどのような扱いになるの か。

学生 最終的に同じ川に流して返すのであ れば、取水することに問題はない。田嶋団 地の場合も、上流で取水して水を引き込み、 下の方で水路がその川に合流する所で放

流する。このあたりの水路には、もともと 市の管理者がいて、利用方法がなく管理に 困っている状態で、提案の現実味はある。

吉田 伊香保温泉では坂道の真ん中に湯管

を通しており、その両側に旅館が並ぶとい うかなり人工的な計画がされているが、家 の中に水を引き込んで野菜を洗ったりして いる。本提案も、スケールは違うけど一つ

一つの住戸が水とのかかわれるようなデザ インを考えてほしい。そのためにも、真ん 中に水路を一本通すだけではなくて、多様 な水路の種類を考えるべきだ。

団地文化 認定自由民

有賀 団地で継承されてきた特有の文化が あるんだ、という本計画の「構成原理」の 部分について十分な説明がなかったので、

どのあたりが「団地文化」に着目した提案 ならではの計画となっているのか、いまひ とつ分からなかった。プレゼンテーション のやり方によるところが大きいので、工夫 してみて欲しい。

山村 既存の団地空間に対して、団地文化 に根差した「ツールボックス」を使って多 様な改良方策を提示したというのは、この 提案のとても大切な部分だ。いずれも団地 文化を読み込んだからこそ出てきたアイデ アだと思うので、そのあたりをしっかり説 明するべきだった。特に、隣り合う3つの 棟を単位にして再編を進めるというストー リーがあったはずだが、それが伝わってこ なかったのは残念。

阿部 階段室の改良に関しては、設置場所 を逆にする場合や、既存のままにする場合 など、色々なパターンがありえるというこ とはわかったが、それによって出来上がる 空間の質をきちんと示してほしい。あれも これもという説明だけではなく、数例につ いて模型を使うなどしてメリハリをつける とわかりやすいだろう。

矢口 publicとsemi private の区別をきっ ちり分けてあげようという提案だと感じ た。ただ実際には完全にわかれている話で はないから、一つの図面にまとめたほうが 良い。

有賀 たとえば、階段室同士を向かい合わ るように再整備した箇所では、他と比べて 「半公共性」要素をはらんでいる空間になっ ているはずだ。そのことを図面でもはっき り説明出来るようにしてほしい。また、階 段室付け替えという話が出ているのに、図

面では全部バルコニーになっているなどの 問題があり混乱をまねく。図面の精度をさ らに高める必要がある。

通いたくなる団地

DES MARTIENS

富田 歩く・通う・住むというふうに段階 が上がっていくというストーリーだが、「一 体誰が(何の目的で)」という、物語の根 幹部分が未だ不完全に思える。歩いてる人 が「通いたくなる」魅力というのは、一言 で言うとなんなのだろうか。例えば、緑が 綺麗に整備されているとわざわざそこを歩 くようになり、歩く段階で「通いたくなる 魅力」を発見するといずれ通うことになる、 といったことなのか。

学生 その通りだ。加えて田島団地では人 とコミュニケーションがとれことが重要 で、それが「通いたくなる」に繋がってい くと想定している。

吉田 全体的につかみ所がないように思え る。“歩く・通う・住む”の話の中身とタ イトルの整合性がいまいち取れてないよう に思えるのも一因かもしれない。真ん中の 緑地帯が良くなると周りから通いたくなる 人が増えるように思える。ならば、「歩く」 ではなく「通う」の提案ではないかと思う。 そこの不合致が気になる。

矢口 分析の部分で境界部のバリアが問題 となっていることを指摘してくれたが、そ れに対するデザイン的な回答が提示されて いない。エッジデザイン自体もそうだし、 そのデザインが他のデザインとどのように

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接続するのかという部分もふくめ、よく練 る必要がある。

全体を通して、「通う」、「住む」に関し てやや「手数」が足りないのではないかと 思う。今出ているデザインだけで「通いた くなるのか」と聞かれると疑問が残る。

有賀 計画の概要部分はもっと上手く表現

出来るはずだ。プレゼンの表現手法の問題 やストーリーの組み立ての問題など、今後 色々な見せ方の工夫で良くなるとおもう。 「フェーズ」ごとのキープランとして見せ るやり方の方が良いだろう。

全体的な印象としては、個々のアイディ アとしては良いのだろうけど、それぞれが 個別に分けられているように感じてしま う。いちばん最初に、全体として何をする のか、それに対して個別のアイディアがど のようにヒモづけられているのかというの を示すべきだ。いずれにせよ「計画の概要」

という部分をしっかりと表現することで、 全体の構造が見えるようになってくると思 う。

例えば、「通う」の中にある「小さなコ ミュニティを作って通わせる」という計画 をみると、本来はその内容自体が「目標」 のはずだが、現状ではそのための方法・ツー ルがあたかも「目標」のように表現されて しまっている。そうしたことが重なること で、全体と部分の関係が見えづらくなって いる。

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最終成果発表会

2017年7月5日

於 TKP神田ビジネスセンターANNEXホール8E

・参加者:JSの皆様

URの皆様

教員および学生

・プレゼンボードを使った口頭発表と講評 各チームとの質疑応答

団地をめぐる屋台

モビリティ

・ 団地内の住民だけではなく、外部に住む 地域住民もユーザとして想定できないか。 また、屋台の機能として他にもバリエー ションが考えられると良いのでは。 学生 主な利用者として団地に住む人を考 えているが、動線調査によると計画地を 通っている外部住民も多く、利用者として 想定できる。団地内外問わず、リタイア層 の方々が活躍できる場を提供できれば、賑 わいがさらに拠点からこぼれ出す感じに なってよいと考える。屋台の機能としては、 言葉を介さないコミュニケーションの活性 化が望める「移動風呂」なども考えている。

つなぐ緑、つながる縁

OTK

・団地も地域の一部であるということに着 目している点は好感が持てる。URでもな かなかうまくできなくて、しばしば指摘さ れるところだ。緑をテーマにしていること について、具体的にどのように縁と繋げて いくのか、「拠点」「場所」を軸として話し てくれたらもっと良かった。

学生 動線調査を行ったところ、朝に小学 生が計画地付近で集合して一緒に通学して いることが分かった。そのことをヒントに、 大人が団地内を通る際の動線をうまく計画

することで、高齢者や小学生との交流を誘 発できないかと考えた。印象的な桜の木を 植えたり、住民が育てた緑を非日常のシー ンで販売するなど、緑を軸に様々な「縁」 が生まれていく設計としたい。また、団地 内部で閉じることなく、緑の連なりが街に 広がっていくことを考えた。

「ちょっと」が生きがいになる

HONEY LEMON CANDY

・かつて団地で求人をした際にかなりの応 募があり、潜在労働力の存在を感じていた ので、興味深い提案だと思った。提案して くれた仕組みに登録して働けば、一定の収 入になるということか。また、ウッドデッ キなどがあるのは良い提案だと思うけど、 「ちょっと」の活用空間を上層階に引き込 むことができるのか。

学生 生きがい、やりがいの創出を主眼 に置いた提案ではあるが、それなりの収 入を得ることでやりがいも大きくなると考 える。少額でもよいので、参加者が収入を 得られる仕組みを考えていきたい。また、 「ちょっと」の空間については、当面は1 階から始めて2・3階レベルに波及してい くことを考えているが、最後の「フェイズ 3」では上層階含めて、住戸全体に活動が 広がっていくイメージを持っている。

地縁強化団地 苗ちゃんズ

・市民農園の提案だが、集団・組織でやる

となると、さまざまな「決め事」が必要に なる。それを何らかの組織が決めるのか、 それとも住民が決めるのか。また、かなり 広いスペースを使って農地を提案している が、現実にはどのような制約があると考え ているか。

学生 ルール作りを含む運営の仕組みに関 しては、住民による組織をつくるなどして、 住民の自由な意思を尊重した意思決定を行 える仕組みを整備することが必要だと思 う。農地については、プログラムに必要な 農地面積を考えてかなり大胆に配置してい る。とはいえ、生活に近い部分に農地があ ることは日照や臭いなど制約要素が大きい と考え、最小限にするといった配慮をした 結果、かなり集約型の農地配置となった。

水庭に生きる

Deluxe seat

・提案では、水という要素がもつ環境・防災・ 景観的なポテンシャルを重視しているよう に感じたが、課題のテーマである「生きが い」という点に関しては、どのように考え ているか。また、水があることはポジティ ブな面だけではなく、危険性などネガティ ブな面もあるはずで、その点についても述 べられると深みが出るのでは。

学生 私たちは、田島団地・地域住民の方 が既存の水辺空間で楽しく過ごしていると いうことをフィールドワークで発見し、そ れを出発点とした。そうした豊かな環境を 団地内に引き込むことで、豊かな生活空間 をデザインし、屋外空間でさまざまなアク

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ティビティを誘発していければ、団地住民 の「生きがい」につながっていくと考えて いる。一方、水のもつネガティブな側面、 とくに安全性や衛生的側面などについて は、詳細な設計に落とし込んでいくなかで、 しっかり配慮していきたい。

団地文化に暮らす

認定自由民

・「団地文化」という独特の視点で、よく 調査してまとめてくれた12項目はいずれ も面白く感じたが、「遊べる駐車場」など、 どのように実現が可能か、まだイメージで きないものもある。それでも、提案の空間 ボキャブラリーなど現地調査をふまえてよ く展開されているので、今後実現性を含め て考えていけば良いものになりそうだ。

学生 団地文化の一つに、子供が公園以外 の場所で遊ぶということがあげられる。「遊 び場でない遊び場」の存在は団地の大切な 魅力だ。通常遊び場でない駐車場に子供た ちが遊ぶという団地文化のエッセンスをう まく再生計画に盛り込むことで、新たな団 地文化が生まれるような提案にしたい。ご 指摘のようにまだアイデアレベルで留まっ ているので、今後それぞれ実現性を詰めて いく。

通いたくなる団地

DES MARTIENS

・「通いたくなる」というキーワードにはと ても惹かれる。若い人にとって団地は、い

きなり住むにはハードルが高いということ がよくわかった。それに対して、団地に住 む前に「知ってもらう」ということに着目 し、心のバリアを取り払っていくという提 案は大変良かった。「知ってもらう」ため の情報発信・工夫や、イベントなどがある と認知度があがって通いたくなるのではな いか。そのあたりに関して、チーム内で議 論はあったか。

学生 今回の提案は、3つのフェーズで段 階的に「通いたくなる団地」を実現すると いうものだが、情報発信もこれと同時並行 で展開されていく。若い人たちは主にSNS を利用して情報を得ていると思う。団地に 通ってくる人たちが能動的にSNSを通じて 拡散してくれることを考えており、そのし かけについてもこれから考えを深めていき たい。例えば「拠点」を中心に、「通いた くなる団地マップ」を作成して配布するな どの情報発信も考えられる。

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早稲田大学創造理工学部建築学科

後藤春彦    (早稲田大学理工学術院教授) 有賀隆     (早稲田大学理工学術院教授) 矢口哲也    (早稲田大学理工学術院教授)

廣兼周一    (早稲田大学非常勤講師) 富田宏     (早稲田大学非常勤講師) 杉浦榮     (早稲田大学非常勤講師) 吉田道郎    (早稲田大学非常勤講師) 阿部俊彦    (早稲田大学非常勤講師)

山村崇     (早稲田大学理工学術院助教)

石綿朋葉    (早稲田大学大学院・修士課程) 江本雄弥    (早稲田大学大学院・修士課程) 片山雄斗    (早稲田大学大学院・修士課程) 今優馨     (早稲田大学大学院・修士課程) リムジョンミン (早稲田大学大学院・修士課程)

浦田愛永 斎藤拓人 松永幹生 太田実 田中七瀬 大森健太郎 藤沼拓巳 以上、早稲田大学創造理工学部建築学科

早稲田大学創造理工学部建築学科           2017年7月

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北村佳恋
田中翼
Muscat 根本悠希 笠松優貴 田嶋玲奈 森菜穂美 桑田芙貴子 辻駿 金子亮介 木内星良 廣瀬耀也 許達毓 小嶋諒生 西村愛子 鈴木聖己 北原遼大 福井亮介 李蔚 菅野星来 柳生千晶 中村優介
松田はるか
A.

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