2023年度 矢口スタジオ 宿題3 見えない東京

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見えない東京 Invisible Tokyo

Excercises in Architectural Excercise A 2023 Yaguchi Studio

2024.01



見えない東京 /InvisibleTokyo - 語られる都市空間と立体表現手法 -

イタリア人作家のイタロ ・ カルヴィーノは 1972 年、 小説 「見えない都市」 を出版し ました。 この小説の中で、 フビライ ・ カ ンを聞き手にマルコ ・ ポーロは幻想の旅で 出会った 55 の都市を次々と口述していきま す。 I この課題では、 まずあなたは 12 世紀の 旅人マルコ ・ ポーロとなり、 現在の東京の 様子を語って下さい。 II 次に、 あなたはフビライ・カンとなり、 マルコ ・ ポーロの言葉からイメージを広げ、 これを立体で表現してください。 • 小説の一部は用意します。 カルヴィーノの 「見えない都市」 の一部を 読んでください。 興味ある人はぜひ、本を借りて全文を読んでください。 • 模型の材料は自由です。 20cmX20cm 平面のベースを使ってください。 高さは 20cm までとします。


赤塚 優斗 都市と故郷 東京という都市を訪れた時、 その都市の住人がいうには東京という都市を語るにはそ の歴史をまず語らなくてはならない、 というのです。 東京という都市はかつて将軍と 呼ばれる統治者の住処を中心として堀をめぐらし、 水運を以て栄えた都市でありまし た。 人々の生活は川を中心として営まれ、 自然の流れに沿って小さな建物が所せまし と並んでいました。 道路や建物は自然によりもたらされた土や木によってつくられて おり、 それはそれは美しい都市でありました。 しかし、 戦火により町は焼け野原に なり、 がれきのみが残るという出来事がありました。 そのときに東京の人々からは過 去の都市の美しさは失われ、 隠すべき負の記憶として捉えられるようになりました。 東京は穢れたものを消すと言わんばかりにそのがれきをはじめとする廃棄物を用いて多 くの川を埋め立て、 土地をコンクリートで覆い、 残った川には鉄製の高架で蓋をし、 建物を高く高くのばし、 都市を美しく発展させようとしたものが私の訪れた東京です。 この都市の建物には一つある特徴があります。 それはあるものは華美な、 あるものは 質素なといった独自の外装をして個性あるものであるように見えるものの、 実際のと ころどの建物も高さこそ違えど同じような直方体をもとにしており、 それらが道路に 対して列をなしているという点です。 このような発展を経た東京からは自然によりも たらされた曲線や柔軟な動きは失われたようで、 多くの人工物によって直線的な建物 や道路が構成されており、 過去の趣をその不自然な曲がり角にのみ残しておりました。 東京には言い方によれば住人がいないということができます。 なぜなら東京の住人は 歩くのが速く、 そして交差点では自然と整列することができる非常に統率のとれた集 団です。 彼らは皆その歩く土のもとに存在する負の記憶はつゆ知らずといった様子で 軽快ではないが鈍重でもない足取りで自らの稼業を今日も勤めんと進んでゆくのであり ます。 他の都市のように道端で大きな声で会話をするものや、 広場でおどるものを見 かけることはめったに叶わず、 彼らは自らの存在を主張することなくまるで景色の一 部であるかのように旅人の傍らを過ぎ去っていくのであります。 そのため東京を見る 旅人の目には住人の姿が捉えられることがないからです。 この都市の気候は決して寒冷ではありません。 しかしどこか冷たさを感じるでしょう。 それはわれわれがこの都市があまりにも汚いものを拒絶し統一された美しさばかりに目 を引かれてしまったさまを、 住人の心から個性が失われ住人がただひとつの背景となっ てしまったさまを目の当たりにするからであります。 そのような中でただ一つ、 われ われが温かさを感じることができるものが存在します。 それは自らの故郷のもつ温か さです。 気をかけてくれる家族、 友人、 隣人は景色の 1 つでは全くなく、 すべて故 郷の固有の存在であります。 それらの存在が想起されるうちに、 すなわちここでは自 らは1人孤独な人間にすぎないということに気づかされるのです。 そしてわれわれは 急に郷愁にかられるのであります。 そのことに気づいたわれわれは温かな故郷に感謝 し、 冷たい東京に別れを告げ帰郷するのであります。 しかし、 われわれにも最後ま で気づくことができないことがあります。 それはそのような想いに駆られているわれ われの故郷の美しい自然由来の景色や人の温かささえも東京にとっては隠すべき穢れで あり、 そしてわれわれは無意識のうちに東京によってその穢れを隠されてしまってい るのです。 すなわち、 東京の冷たさに気づいたわれわれも、 故郷への想いにかられ るわれわれもすべて東京にとっては一つの景色にすぎないのであります。

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2022 年度設計演習 A 矢口スタジオ宿題 3 見えない東京

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秋葉 美砂 心臓と血流 東京という街はなんとも物珍しいものでございました。 高い建物が視界の端まで並 び、 まるで私は池の中に閉じ込められた魚になったようでした。 街を観察し続けた ところ、私は街を行き交う人々に流れがあることに気がつきました。 その流れを辿っ てみると一つの大きな建物へとたどり着きました。 どうやらここがこの街の中心なの か、 人体で例えるならば心臓のようで、 人々は血管を辿る血流にあたるのです。 中 に入ってみるとなんとも複雑な作りで、 どうやら外への出口が幾つも存在しているそ うでした。 更に散策を続けたところ全ての出口は大まかに 3 つに分かれているよう なのでした。 侵略者を錯乱させるために違いないと考えた私はそれはそれは注意深く 中を散策してみたのですが、歩いていた人々が階段を 30 段ほど降りたところで止まっ てしまうのです。 郷に入れば郷に従えとのことで私も真似てみたのですが、 やがて 見たこともないような速さで走る鼠色の獣が何匹も整列してやってきたところで我々 の前でぴたりと動かなくなってしまいました。 その獣はどうやらよく躾けられている ようで、 人々を同時に吐き出したかと思いきやまたすぐにそこにいた人々を吸い込 み、 すぐにまた走り去っていきました。 私と同じように獣に食べられなかったもの もいて、 彼もまたそこに立ち尽くしていたので話しかけたところ、 どうやらここは 「シンジュクエキ」 という場所らしいのです。

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秋山 素生 窮屈な都市 日本の都は昔、 東京にございましたが、 現在はそれより東の地にある、 東京という 地が都となってございます。 東京という都市は、とても窮屈な都市でございました。 地上にはコンクリートでできた、 非常に高く、 面積も大きい建物が所狭しと並んで おります。 それらはどれも同じ箱のような形をしており、 単調で、 また、 人間が 歩けるところも制限されており、 上を見上げても空はほぼ見ることができず、 非常 に窮屈な思いをいたしました。 人も多く歩くのも大変でございました。 人が多いの は地上だけではございません。 鉄道というものがございまして、 人々はそれに乗っ て移動いたします。 働きに行くのがみな同じ時間でございますので鉄道の中は人々が 隙間なく詰められ息苦しゅうございました。 また、 地下も窮屈でございました。 地 下には先ほど申し上げました鉄道、 これを地下鉄道と申しますが、 これが一本だけ ではなく何十本も地下に張り巡らされてございます。 また、 地上にある建物でも地 下の階があり地下も非常に多くのものが存在しており窮屈な都市でございました。 鉄 道は異なる種類でも同じところで止まるものがございまして異なる鉄道に乗り換える こともできるのですが、 あまりにも鉄道の数が多いため、 お恥ずかしながら幾度も 迷子になってしまいました。 昔は風情ある都であったのに将来このようになってしま うのは誠に残念であると思いながら東京の地を去ったのでございます。

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荒井 俊輔 都市と個性 この都市は極めて朝早くに目を覚まします。 色のない格好を装った人々が色のない吹 き抜けの迷宮に吸い込まれていくのです。 おそるおそる中をのぞいてみると、 そこ を往来する透明な小さな箱に波のように押し寄せ、 ひしめき合った状態の箱の中で他 人に気をかける様子もなく、 ただ無 心で時が進むのを待っていたのです。 しかし、 この都市は一日の中で時間の経過と ともに色付き始めるのです。 それは文明がもたらした光が夜の暗闇を照らし色付けて いるのではないのです。 その都市で生活する人々がそれぞれのアイデンティティを 持った、 暖かみを含んだ色を放ち、 無機質だった都市に絵を描いていったのです。 そして私もまた確かに私自身のアイデンティティともいえるであろう色をその都市に 放ち溶け込むことでしょう。 この都市は、 そこに存在する人々が持つアイデンティ ティと訪れる日時によってその姿を変化させ、 無数の都市が形成されていくのです。

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石井 実夏 交差する東京の重層性 叶わぬまでも、お心広くあらせられるフビライさまに、わたくしが訪れた都市の一つ である東京という都市の仔細を申し上げて御覧に入れましょう。私が興味深いと思い ましたことは東京の人々は橋をこよなく愛していることでございます。というのも、 至る所に橋がかけられていたのです。川を渡るための橋はもちろんございます。海の 向こう側の岸までかかっている橋もございました。道路の上にも橋がかかっており、 人々が道路の空中を行き交うことができるようになっておりました。なぜこのような このような橋があるかといいますと、道路には非常に速い速度で四輪車が絶え間なく 走っており、それらを避けながら渡りきることが非常に困難だからであると思われま す。道路上にかけられた橋は道路の両岸の道を繋いでいる橋もあれば、両岸に立って いる建物同士を繋いでいる橋もございます。また、橋の先が見えないほど巨大な橋も ございました。最初はその大きさのあまり、橋であることを認識することができませ んでした。四輪車がその橋を渡っていくのが見えたので、私も渡ってみたいと思いま した。しかしながら、その橋は四輪車のみ渡ることができ、歩いて橋を渡ることはで きないようです。もしかしたら、その四輪車が通行手形なのかもしれません。次回の 東京訪問ではあの四輪車を手に入れ、渡ろうと思います。しばらく歩いていると、四 輪車ではない長い乗り物が橋を渡っていくのが見えました。近くの人にあれに乗るた めにはどうすればよいのかと尋ねると近くの駅を教えられました。駅に行き、小さな 通行手形を買い、その乗り物に乗って橋を渡ってみましたが、大変乗り心地が癖にな りました。外から見ても、不思議な乗り物で渡ってみても、橋の揺れを確認すること はできませんでした。非常に頑丈につくられているようです。このように東京の人々 は橋とともに生活しているのです。壊れかかったような橋は一切なく、安全にわたる ことができるのは素晴らしい技術者がいるに違いありません。私はこれらの橋を架け る技術をフビライさまに献上しようと思い、道行く人に尋ねましたが、それを知る人 物に会うことは今回の旅ではできませんでした。再び東京に訪れるときには必ずその 技術、知識を持ち帰り、フビライさまに献上することをお約束いたしましょう。

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石田 亜紗美 箱と層 東の方に大きく進むと、 海の上に南北に細長い島国があったのです。 その島国の中 でも東の都市、 とうきょう、 という都市に訪れたのでございます。 この都市を歩い ていると、 小さな装飾が施されている大きな門があらわれました。 門を起点ににぎ わった道が奥に続いており、 左右に人々が歩き、 中央には人よりも大きな四角い箱 が走っていました。 これは生き物のようには見えませんでしたが、 人よりも素早く 動いていたのであります。 こちらの門はアーチ状になっていて、 この都市のシンボ ルのように感じられましたが、 奥に進んでいく人たちは私のようには見上げず、 そ のまま歩いていったのには少し驚きでした。 この門をくぐると、 そこには多くの建 物がきれいに左右に分かれて整列しており、 その建物は様々な色を施していて、 四 角い箱が立ち並んでいるようでした。 箱の下の方には鳥のくちばしのようなものが 付いており、 上には平坦な板が載せてあったのであります。 しかし、 どの建物も、 住宅のようには見えず、 自由に人々が中に出たり入ったりしていたのであります。 この通りでは、 聞いたことのない音や人の声が流れているではありませんか。 こん なところではっきりと神のお声をお聞きすることが出来るとは、 とても光栄なことで あります。 ですが、 どの箱の中にいる人々も神の声に耳を傾けるどころか、 人々の 中でとてもにぎわっていたのであります。 建物と建物の間には、 見上げてしまうほ どの大きな棒が、 同じ間隔で並んでいました。 上の方には、 色のついていないステ ンドグラスのようなものが箱状になっており、 周りが暗くなると、 光を放ち始める のでした。 火が燃えているわけでもなく、 太陽の光が反射しているわけでもなさそ うです。 この大きな棒には、 小さな布切れがつるされていて、 こちらにはどれも同 じような装飾が施されていました。 ふと見上げると、 賑わいを見せていたこの通り の先には、 天にまで届きそうな大きな塔が 2 つ並んでいたのです。 先ほどの箱とは 雰囲気が全く異なり、 何層にもなっている四角い塔でございました。 先ほどの通り を抜けた多くの人たちが足早に入っていくではありませんか。 まるで、 この塔には この都市のとても偉い人がいて、 先ほどの通りに導かれてこちらに参ったように感じ られました。 賑わいのあるこの通りは、 偉い人の何かをお祝いするための準備かも しれません。 たしかに、 夜になると様々なところが光を放ち始め、 とても目立って いたのです。 とうきょうという都市は、 様々な形をした建物が混ざっており、 光と ともに賑わいのあるところでございました。

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市川 真帆 昼夜をさまよう この都市は昼と夜それぞれ異なった2つの顔を持っているのでございます。 昼の顔は と申しますと、 私はこんなにも人をたくさん飲み込むことができる箱を、 この都市 トウキョウで初めて目にしたのであります。 この狭い空間にこれほどの人が吸い込ま れ、 そして吐き出されていくところはなかなかの見ものでございます。 しかし、 そ の中の1人が自分であるとは想像もしたくありません。 また、 この都市は細胞のよ うな建物、 家々が密集し、 町も道も全体が人であふれておりますのに、 せわしなく、 とどまることを知らず、 人は他人と目を合わせることなく通り過ぎていくことができ るのはある意味匠な技とも言えましょう。 つまり、 この都市の人々は隣り合ってい るようで隣り合っていないのであります。 しかし、 ひとたび文明の利器なるものを 手にすると顔の分からぬ相手とも人々は饒舌に、 活発になるのでございます。 夜の顔はと申しますと、 建物という建物が太陽に劣らぬ明るさで煌々と輝き、 人々 を夜の世界へと導くのです。 そしてみなその光に誘われるように生き生きと夜の街を 巡り歩き、解放されたように欲望のままに生きるのです。 昼とは打って変わり、人々 はたむろし、 見知らぬ人と言葉を交わし、 目が合ったら友である空間が出現するの でございます。 また、 太陽のごとく輝く建物の陰に潜む路地裏の狭い怪しげな雰囲 気もなんとも魅惑的な空間であります。 そこにはあらゆる人間の根本なるものが潜ん でいるかのように感じられるからでございます。 しかし、 日が昇るとこれらの人々 も朝の光に溶かされ、 夜を忘れ、 昼の顔へと戻っていくのです。 そして、 無表情 であの箱へと押し込まれていくのでございます。

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一家 葵 3 色の都市 潮の流れに身を委ね、 気の遠くなるような長い航海の後、” トウキョウ” に辿り着き ます。 トウキョウには高い建築が山のように連なって聳えております。 低層部にも 建物が並べられておりますが、 ひとつとして同じ建物は無いところに、 図案家のこ だわりを感じざるを得ないことでございます。 建物の隙間では、 人が人よりも大き い金属製のそりのようなものに入って滑ってゆきます。 トウキョウはまるで未来の都 市であるかのように思われることでございます。 そうはございましてもトウキョウと いう都市は哀れな程に馬鹿でございます。 人々は空を手に入れようと、 建物を空へ 伸ばすのでございます。 建物をどれほど伸ばしたところで空には届かないということ を知らないのでございます。 私は憐れみの眼差しを地上に向けて歩みを進めたのでご ざいます。 しばらくすると気がついたことがございます。 至る所にある特定のブラ ンドが入っているのでございます。 それは大凡 3 種類で、緑と青の” FamilyMart”、 緑と赤の” 7ELEVEN”、 青の” LAWSON” というのでございます。 この 3 社が三つ 巴でトウキョウを牛耳っているわけでございます。 この 3 社は、 誰が 1 番先に空を 手に入れられるかを互いに競い合っており、 いつか空を手に入れたものがトウキョウ を支配できるのに違いありません。 その頃にはきっと、 トウキョウはその支配者の色に染まっていることでありましょ う。

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糸久 和樹 都市と地中 大都を出で幾日もの間舟に揺られ、 ようやく東京という都にたどり着きます。 あた り一面コンクリートでぬりかためられ、 東を向くも西を向くも包み込まれるように 楼閣が連なっております。 中国全域をはじめ、 インドやベトナムインドネシアなど あまたの国を旅して歩いてきましたが、 あまりの異国の風景に言葉を失い、 木立で 休息をとろうとも腰を掛けられる地面さえ見当たらないのであります。 道を行きます と、 黒い服をみにまとった何百、 何千もの人たちが、 地下に通ずる入り口から出た り、 入ったりしております。 統率が取れ、 ぶつかることなく行進している姿を見る と、 この国に従事する兵士か何かだと私は考えます。 大きくそびえたつ建物の一つ に入りますと、 天井が人四人ほどもある大きな空間に招かれ、 そして、 その奥の部 屋に参ります。 扉が開かれると、 そこは5畳ほどの空間で、 大きな窓がついていま す。 壁に描かれた数字を押しますと、体が浮遊感を覚え何事かと窓の外を眺めると、 徐々に見上げていた建物の頭が見えてまいります。 たちまちドアが開き最初の部屋に 戻ってきたと思いきやそこには四方八方硝子で囲まれた部屋に代わっていたのであり ます。 硝子を隔て眺めますと、 先刻までいた場所が見えないほど高く、 この都の全 貌を俯瞰できます。 この街には木立が見当たらないと申しましたが、 都市よりも管 理を施された木立が四方に散見されました。 都の周りを眺めると、 自分のいる場所 から同心円状に建物の起伏が下がり、 次第に森林さえも見えてまいります。 今、 私 がいるところが、 この都の中心のようであり、 大きな通りがあり、 それが枝分かれ しその枝が絡み合うように複雑に町が構成されているようです。 道に戻り歩いていき ますと、 再び下へ続く階段があり、 今回ばかりは気の向くまま進んでみますと、 地 下にも大きな空間、 そして、 承認制のような入り口がございました。 その入り口の 両側には門番のような監視している男がいる部屋のような場所も見受けられます。 そ の入り口で行き来する人を眺めていますと、 突如大きな音とともに大きな振動、 強 い風が一斉に我々を覆ったのでございます。 一体何が起こってどうなっているかは検 討がつきません。 大きな音のその後また、 多くの人たちが地下の奥からあふれ出て まいりました。 その入り口の先の地下では大きなことが行われており、 それが、 あ またあるこの都の地下に通ずる入り口の先で今も行われていることを想像いたします と、 きらびやかに発展した地上と打って変わって、 大きな力が働き、 地下に異なる 帝国のようなものができているのではないでしょうか。 再びまた、 地上に戻ってま いりましたが、 町を歩いていたところ、 突如として町全体が揺れ始めました。 船に 乗って、 波に揺らされることは多々ありましたが、 それが地面の上では初めてでし たが、 周囲の人はきにも止めていない様子でありました。 異国人の私には、 地中か らの音や振動、 揺れのすべてが興味の対象であり、 恐怖も掻き立てられます。 しか し、 この地に根差した人々にとっては、 地上のきらびやかな光景に満足して気にも 留めず、 異国人の私にとって大きなものも日常に溶け込まれ、 徐々に徐々に建物を 支える基盤となる地中が蝕まれていることに気づいていないことでしょう。 夕刻にな りましても陽は落ちようともそれを補うように室内が明るくそれに伴い人々の様子も 明るくなっています。 おとこおんなの高笑い声が響き、 夜が更けるにしたがって、 さらに増してまいります。 しまいには、 日が変わるころになるとまた多くの者たち が地下へ次第に消えていくのであります。 中国各地、 インド、 ベトナムなど大都か ら大変離れている場所であっても、 陸続きであるだけで、 その国の異文化のなかに も自分の記憶と関わりのあるものやつながりが見えてくるのだが、 この都は島国であ るが故、 独自な発達を遂げ、 ありとあらゆるものが目新しくあった。 また、 ほか の国、 未開のものと遭遇した際ここでの記憶を思い出すことでしょう。

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井原 弘貴 吞み込む都市 何がどうなってこうなってしまったのかわかりませんが、 ふと気が付くと私は東京に いたのでございます。 あたりには数えきれないほどの人がごった返していて、 四方 八方へ出たり入ったりを繰り返しています。 その人混みの中にいた私は、 噂で聞い ていた話と違って自分よりも大きな体をもった東京人たちの隙間をのぞいて、 周りの 状況を把握しようとしました。 どうやら、 電車という乗り物に乗るための施設の中 に私はいたということがわかりました。 この息苦しい場所を離れたい、 とりあえず 外に出たいと私は思ったのです。 しかし、 この都市で明らかに異質な私にとってこ の人混みに呑まれに行くことは勇気がいることなのであります。 万が一、 黒い背広 を着たこのせわしない男にぶつかるようなことがあれば、 きっときつい目つきで私に 一瞥をくれることでしょう。 人になるべくぶつからずに人混みの中にある流れについ ていくのは私にはやはり難しいことでした。 流れがどこに向かっているかもわかって いないのだからなおさらであります。 しばらく歩いていくと出口がようやく見えまし た。 外に出た私の目の前には東京の都市が現れたのでございます。 長いこと東に向 かって旅をし、 多くのものを見てきたこの私にとっても、 目に映るすべてのものが 初めて見るものでありました。 人が歩く道路は平らに舗装されていて、 ここでも大 勢のせわしない表情の人々が流れを作りながれていきます。 道には頑丈な柱が点々と 立っていて、 そのてっぺんは線で結ばれています。 私には何のことだかわかりませ んが、 電気と呼ばれるこの都市に欠かせないものを運ぶ装置だというのです。 隣の 大きな道には馬がいらない車でしょうか、 すさまじい速さで次々と私の前を走り去っ ていくではありませんか。 そして特筆すべきは天に届くかの如く背の高い建物が都市 全体にそびえ立っていることです。 それらの建物が太陽を遮っていることに気づく と、 都市の薄暗さと東京全体に漂う冷たさが重なって見えたのでございます。 その 後しばらく見学をしていくうちに何の苦もなく人の流れについていけるようになり、 自分が異質で浮いた存在から小さいながら東京という巨大な都市を構成する人間に変 化していたことに気づかされるのです。

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岩田 朗 冷たい箱 東京の都市にようやくたどり着いてまいりました。 都市を歩いておりますと、 何や ら得体の知れない巨大な箱が目にも止まらぬ速さで動いております。 そして箱の中に は大勢の人たちが詰められて立っております。 こちらの箱は何であるのかを訊ねよう と周りの住民たちを呼び止めましたところ、 住民たちの誰もが私のことを無視して歩 みを止めません。 なぜだろうかと不思議に思っておりますと、 住民たちが皆、 耳栓 を付けていることを発見いたしました。 どおりで誰の耳にも私の声が届かないわけで す。 それにしてもなぜ住民は皆耳を塞いでいるのでしょうか。 私は、 あの箱が大き な音を出すせいだと考えたのでありますが、 住民たちの多くは頭を左右に動かしなが ら楽しそうにしております。 あの耳栓を付けると楽しいことが起こるようでありま す。 やっとの思いで一人の住民に訊ねてみますと、 あの巨大な箱のことを 「電車」 と呼ぶのだと答えるのでございます。 電車に乗ると遠くの都市へ行けるのだそうであ ります。 私も電車に乗ってみようと、 電車の乗り方を訊ねようとしましたところ、 既にその住民は早足で遥か彼方へ歩いていきました。 東京の都市の住民たちは忙しい ようであります。 ともかく歩みを進めると、 「駅」 と書かれた看板が目に入ってき ました。 どうやらここから電車に乗れるのだそうであります。 駅を観察しておりま すと、 住民たちは手のひらほどの小さな板を取り出して駅の中へと入っていくのでご ざいます。 これは通行手形であると思われます。 何とか手形を手に入れまして電車 に乗りますと、 足の踏み場もないほどに人が立っております。 人の出入りする門が 閉まらないと電車は動けず、 また電車は 2 本の棒の上しか動けないようであります。 門は何度も空いたり閉まったりして、 そのたびに周りの人たちは眉を顰ひそめている のでございます。 ようやく門が閉まって電車が動き始めますと、 電車の通る鉄棒の 道は人間が通ることはできないために、 電車は歩みを止めることなく、 周りを寄せ 付けない王者の雰囲気を醸し出しているのであります。 また電車の中も大変不思議で ございます。 電車の中では化粧をしている人や書物を読んでいる人、 そして光る板 を持っている人など様々であります。 そして他人の体がこんなにも近くで触れ合って いるというのに誰一人話もせず、 東京の住民たちは冷たい性格であるのかと感じてお りました。 しかし誰も口を開いていないというのに、 どこからか女性の声がするの であります。 女性の声がし始めると門が開き、人が乗り降りしていくのであります。 何とも言えない空気感であります。 暫くすると2本の棒が4本に増え、6本に増え、 しまいには何十本もの棒がひしめき合っているようになったのであります。 そういた しますと電車は止まりまして、 門が開いて大半の人が電車から降り 設計演習 A 宿題課題見えない東京 てゆきます。 人たちの中には競走を始める者もおりました。 私も電車の門から出て 駅に降り立ちますと、 「新宿」 という所にたどり着いたようであります。 この新宿 という駅は先程の駅とは違って、 出入口の場所を把握することが難しいのでございま す。 周りの人に出入口の場所を訊ねようにも耳栓のために無視され、 耳栓をしてい ない人を時々見つけいたしましても、 足早に逃げていくのであります。 東京という 都市の住民の冷たさに愕然といたしました。 やっとの思いで駅の外に出ますと、 い くらかの人たちが楽器を持ち、 歌を歌っております。 冷たい都市の中にも温かい歌 を届けている人たちがいるとわかって、 私は安心いたしました。

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岩淵 悠生 カマクラへの旅路 北平府の商店街で私は友達の商人から二ホンという島にあるカマクラという街に関す る話を聞く機会がありました。 その人曰く、 カマクラではめったに出回らない織物 が手に入るとのことだったので、 私はそれを手に入れるべく、 カマクラに向かうこ とにしました。 そこで、 私は以前取引をした商人が二ホンに向かうといっていたの を思い出したので、 私は彼にお願いし、 二ホンまで連れて行ってもらうことにしま した。 海の上を何日も旅した後、 私はエチゼンノクニというところにたどり着きました。 エチゼンノクニの港は北平府より品ぞろいが良くなかったため、 少し残念でしたが、 港を囲む大自然は実に美しい者でした。 エチゼンノクニを散策した後、 私はカマクラに向かうべく東に進みました。 東に進 む道のりは山を登っては下るのを何度も繰り返す必要があるとても険しいものでし た。 また、 山には多くの鹿や狼などが生息していましたが、 私が今まで見てきたも のに比べると両方一回り小さく見えました。 山道を 10 日間ほど進むと、 私は奇妙な光景を目にしました。 世界が夜の暗闇に飲 まれてゆくなか、 なぜか一か所だけまぶしいほど輝いているのです。 しかも、 その 規模はとても大きく、 山のふもとから海岸沿いまでの陸がすべて輝いているのです。 私はこの時とても興奮しました。 黄金都市をついに見つけたと思ったからです。 興奮した私は駆け足で光の方向に向かいました。 光の方向に向かうこと 3 時間たっ たころでしょうか。 あたりの光景が一気に変わりました。 今まで生い茂っていた木々 は消え、 あたりは建物だらけになりました。 建物は大きな石の板のようなものでき ている、 きれいな立方体の形状のとても不思議なものでした。 また、 等間隔に提灯 のようなものが掲げられており、 あたりを照らしていました。 提灯を頼りに歩いているうちに私は周りとは一段違う輝きを放っている場所を目撃し ました。 その方向はカマクラへの方向と少し違いましたが、 私は光源に向かうこと にしました。 光源を目指して三日ほど歩いてゆくと私は迷路に迷い込んでしまいました。 迷路の 壁は天に届くほど高く、 私はとてつもない圧迫感に追われました。 迷路を歩き続け ていると、 私の前に開けた空間が現れました。 四方八方壁に囲まれたこの空間の中 心には宮殿のようなものがあり、 その宮殿を囲むように川が流れていました。 わた しはここがこの壁都市の王がいるところだと思い挨拶をしに行こうとしました。 しか し、 いくら待っても門が開くことはありませんでした。 あきらめた私は、 カマクラ を目指していたことを思い出し再び旅路に戻りました。

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上野 華菜 輝かしい街、 ジパング 南方へ進む旅の果てに、 東シナ海を渡ると、 そこには細長い島国、 ジパングが広がっ ていた。 数日の歩きの末、 巨大な都市、 東京に辿り着いた。 初めて足を踏み入れ たその地で、 私は驚嘆と興奮に包まれた。 東京の中心街に立つと、 まるで都市そのものが息をするかのように、 前後左右から 様々な方向に人々が次々と歩いてくる。 立ち止まることもままならないほどの人の流 れ。 それでも不思議なことに、 みんなが同じタイミングで進んだり止まったりする 光景に驚かされた。 近くの人に尋ねると、 「シンゴウのおかげだ」 と教えられた。 遠くの上空には、 赤、 青、 黄の光が順番に輝く何かがあり、 それが都市全体を指 揮しているとのことだった。 すれ違う人々を見てみると、肌の色や髪の色は異なり、 様々な言語や言葉が飛び交っていた。 多様性に富んだ文化が交わる様子に、 私は異 国の奇跡を見るような感覚を覚えた。 東京を歩く中で土の道をほとんど見かけなかっ た。 代わりに、 地面は灰色のわずかな凹凸がある道や、 赤茶色のタイルで覆われた 美しい通りが広がっていた。 また、 東京の道は非常に大きく、 4つに仕切られてい た。 道の中央には何やら4輪の馬車のようなものが走っていた。 馬車のようなもの と言っても馬はおらず、 機械の力で動き、 馬よりも速いスピードで街を駆け抜けて いた。 そして、 大地に広がるはしごのような長い連なった道は、 デンシャと呼ばれ る乗り物専用の鉄道で、 複雑に交差していた。 デンシャは多くの人を一度に運び、 その速度は馬車とは比べ物にならないほど速かったものの、 その中は人で溢れ、 ま るで奴隷船のような独特の雰囲気が漂っていた。 窓から見る風景は次第に変化し、 その一瞬一瞬がまるで幻想的な夢のようだった。 さらに、 東京の街は透明な壁で覆 われた巨大な箱がそびえ立ち、 まるで夢のような景色を演出していた。 昼間は太陽 の光が透明な壁に反射してキラキラと輝き、 夜になるとデンキと呼ばれる光が街を美 しく彩っていた。 そのデンキは夜の東京を照らし、 街全体が輝きに包まれる不思議 な力を持っていた。 私は東京の不思議な魅力に引き込まれ、 その奇跡の街で新たな 冒険が始まることを心から楽しみにしていた。

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牛屋 慶 時間と都市 ⼈々は皆同じような格好をして⼿に光る板を持ち他⼈に⽬をむけることなく歩いてお り、 頭上にある光る板の中にはありとあらゆる商店 ・ 商品の紹介や美しい男⼥の姿 が映し出されております。 旅⼈である私は今まで物に対する強い欲望を感じたことは ありませんでしたが、 そのような景⾊に囲まれていると、 何も持たない私のような ⼈間はひどく⼼細くなってくるのでございます。 ⾃分が無価値な⼈間であるかのよう に感じられ、 街⾏く⼈と同じものを得たくてたまらなくなるのでございます。 何も 持たずにトウキョウという無機質な街を歩く時間は永遠のようにも感じられました。 トウキョウでは、 欲望というのは内側から⾃然と湧き起こるものではなく、 外側か ら無理に引き起こされるものであるようでございます。 その欲望が満たされることは 決してなく⼈々はいつまでも何かを追い求めて⽣きているように感じられます。 道が ⼈々で埋め尽くされているのにも関わらず、 私は強烈な孤独を感じるのでございま す。 先ほど申し上げました頭上の光る板は時間が経つと⾵景の⼀部となり、 私は四⾓い建 物が乱⽴する街の中、 ひとりぼっちで⽴ち尽くすのでございます。 しかしながら私 はなぜかこの都市 (まち) に惹かれております。 四⾓い建物間の細い路地の中にあ る⼩さな商店やビルとビルの隙間で作られた迷路のような道が私のような旅⼈の冒険 ⼼を掻き⽴てるのでしょうか。 もしくは、 夜でも明るく⾊とりどりに輝く街並みに 魅了されてしまったのかもしれません。 様々な都市を旅してきた私ですが、 このよ うに夜も眠らない街は初めてでございます。 先ほど申し上げました光る板に加えて街 灯、 そしてなんとも不思議な光る⽊々や柱が街中を照らし、 華やかに町を浮かび上 がらせております。 昼間は無機質に感じられるトウキョウですが、 夜になれば明る く輝き明るく楽しい街へと変化するのでございます。 道を歩く⼈々は酒を飲み、 皆 上機嫌に歩いており、 昼は⿊い服を着て暗い表情で街を歩く⼈々が夜にはこのように 楽しそうな表情を浮かべるものなのかと私は驚愕するのでございます。 試しに酒屋に ⼊ってみるとガヤガヤと騒がしく、 昼のトウキョウとは全く違う都市であるように 感じます。 トウキョウという街は夜を⽣きてこそ意味のある街なのかもしれません。 しかしながらそんな夜の時間は瞬く間に過ぎ去り、 やがて朝が来て、 またトウキョ ウは元の無味乾燥な都市に戻ってしまいます。 フビライさまがトウキョウを訪れる際 には是⾮とも夜のトウキョウを体験していただくことをおすすめいたします。

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宇山 結菜 都市と夢 東に進み続けた先には日の出の国、 日本がございます。 日本の首都、 東京の街には 高くそびえる現代の塔が天に届こうとし、 古き寺社が歴史のうなりに耐えながら佇ん でおります。 このような東京には様々な街、 異なる時代から冒険者たちが集まって おります。 ある町では青年が夢をおって生き、 また別の街では夢を追う青年がその 夢をあきらめようとしております。 夢をあきらめた青年はこの東京で何になるのでご ざいましょうか。 東京は古きものと新しきもの、 伝統と革新が交錯する街でござい ますから、 青年はきっと何者にでもなれるのでしょう。 東京には数多の人がおりま すから、 それだけの数の役割もあるのでございます。 青年は夢を持たずに東京の街 で生きていこうとします。 それを見た老人はこう申し上げるのです。 「東京は何者 にでもなれる街かもしれない。 夢を追う者が集まるので、 東京には様々な文化もそ れに伴う仕事もあります。 ただし、 その役目を全うするためには、 その役目を全う しようと努力する者たちと競争しなければならないのです。 競争した果てに勝ち取ら なければ東京にいて、 やることはあってもやりがいや生きがいは得られないのです」 と。 青年はこの言葉により、 夢を見つけようと勉強を始めます。 勉強をする中で青 年は壁にぶつかるのでございました。 その壁とは、 一つは競争でございます。 夢を 見つけた先に競争があるにも関わらず、 夢を見つけるまでにも競争があるのでござい ます。 その競争を乗り越えるためには労力だけではなく資金も必要だと痛感します。 一度は夢をあきらめたものの自分の努力で嫁を追い求めることができると信じていた 青年は、 現実はやはり厳しいのだと知り、 再び夢をあきらめるのでございました。 青年は夢を持たずになんとなく生きる事を決めます。 夢を持たずともやはりやること はございまして、 それでも生きていくことができるのです。 しかし青年の心にはそ の選択が本当に正しいものなのか不安が残るのです。 ある日青年は再び老人にあいま した。 老人は 「夢を追い求めることにも平凡な生活を選ぶこともそれぞれに意味が ある。 東京は多く人が集まり、様々な物語を紡ぐ場所です。 夢をおうなら競争が待っ ており、 夢をあきらめるならばそれに伴う葛藤もあるだろう。 東京の街は選択の場 であり、 どのような選択をしても後悔しないということは難しいかもしれない。 心 から納得できるように努力することが大切だ。」 と申し上げます。 青年は老人の言 葉に耳を傾け、 東京の街で何者になるか、 どんな人生を歩むことは自身の選択であ ると知るのでございました。

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遠藤 恐れ

勇希

日本のいわゆるエンペラーが住まいを構える皇居を越えてさらに東へ足を進めると日 本橋にまいります。 ここが東京の文化の隆盛を極めた街です。 日本橋という地名の 通りに、 街の中心には日本橋という橋がかかっています。 日本橋というのは今から 約400年もの昔に現在の東京の礎を築き上げた徳川家康将軍がここ東京の地に江戸 幕府開府した際に同時に完成された歴史的価値のある橋です。 聞くところ江戸という のは東京の旧名であるそうです。 文化の隆盛を極めた街と聞いていたため、 町ゆく人に話を聞こうとしたところ、 黒 い当世風な衣装を身にまとった男女共は足を止めることはありません。 どうやら彼ら は忙殺されているようです。 文化の隆盛を極めた街というにもかかわらず、 人には 風情を感じることができません。 彼らを観察していると次々と私の背の幾万倍もの高 さを誇っているのであろう巨大な箱に吸収されていくのです。 あのような箱は人生で 見たことがございません。 その箱は一つに限らず、 無数に乱立しております。 私に はとても恐ろしいものでした。 この街は人ではなく、 あの箱が支配しているような 錯覚に陥ったと言ってしまっても過言ではありません。 箱の合間を縫って進んでいき、 やっと日本橋にたどり着くことができました。 橋は どうやら二つかかっているように見えました。 橋がかかっているというのでやはり橋 の下を川が流れています。 川の上に道は二つありました。 しかし驚くことに川を流 れるその水は私の見たことのない色をしておりました。 まさに濁流でございました。 水は無色透明ではなく、 緑色で塗装されたような顔をしておりました。 恐る恐る川 を傍観しているとその川を木製の小舟で進んでいく日本人がおりました。 彼らは先ほ どの黒服と異なり笑顔が絶えておりません。 丁度橋の麓で降車したのでどういうわ けかを彼らに尋ねました。 彼らの答えは楽しかったというものでした。 やはり先例 との差に驚愕しておりましたので詳しく尋ねると日本橋は由緒正しき歴史的な街であ り、 加えてこの橋は日本のいたるところへ繋がっていく水路の起点であることがわか りました。 また、 先ほどの黒服は仕事をしに箱に入っていくこともわかりました。 様々なことについて合点がつきました。 黒服と違って彼らは私と同じく旅人である そうです。 彼らの言う日本橋とは下側の橋のことを言うようです。 歴史的なのは下 側ということになります。 上側の橋について文句を言っていることだけは理解しまし た。 最後に二つかかっている橋の上側では爆音を奏でる何かが駆け回っていました。 ま た、 先が見えない程長く続いておりました。 それだけわかりましたが、 他の情報を 今回は得られませんでした。 憶測でありますが、 橋の麓も視界に収まらなかったの で、 私はとても訝しんでおります。 日本橋というのは歴史が交差している、 どこか矛盾であふれた忙しない街でございま したが、 私はこの街が好きになりました。

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圓道 龍一 文脈過剰の街 甘美と猥雑、 雑踏のなかに滞りのない閉塞と逼迫とを見つける。 上下を貫く鈍色の 直方塔は街区ごと人肌の孤独を内面的に殺害している。 これほどまでにヒューマニズ ムを呈しヒューマニズムを蔑ろにした街があっただろうか。 これが表徴の帝国であ る。 山の手と言う呼称がある。 以為らく、 規格化された暮らし向きに牙を立てることも できぬ無数の主体、 つまりは先程内面的精神的殺害をこうむった群像共の遺体の積載 によって築き上げられたのがこの山の手という地形であろう。 およそ異国宗教の旧約 原典の怪物の如き観念ではあるが、 彼らの時代とこの惨状で異なるのは過剰な文脈の 包摂に辟易、 自由からの逃走というその一側面に他ならないであろう。 飽和状態の 娯楽に幸福を感じる刹那主義的通念と、 崇高な精神につきものの普遍的時代病におか されて、 行く度の寝苦しい夜を総体個体問わず可愛がったことを私は覚えている。 鉄路は四方円環状に延長されており、 この中心には、 つまり東京の中心には、 大き な空虚な空間が広がっている。 その上では象徴的な胎児が眠りこけている。 これが 何何主義の起源か結末かは” 言えばさらなり” である。

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大石 幸次郎 都市と孤独 ご勅令のもと、 私は東京に向かい深夜到着いたしました。 そこでは二人の東京人が 私を迎えました。 彼らに案内されながら、 東京の主要な街並みを見ると東京はジャ ングルであるとわかりました。 街も人も高密度で行き交い、 常に大きな音が私を包 み、 狭い星空は時より遮られます。 そのダイナミクスは壮大なものです。 しかし私 は一つ発見をしました。 それは街並みが常に同じ方向に向かい、 常に秩序建てられ ているということです。 私たちとは全く無関係な超自然的な力学がそこにあるので す。 東京の人々は自立しています。 そして大量に。 しかし、 どこか上の空で中身 がないように感じます。 それは街も同様で表層はカオティックでありながらもどこか その真ん中は空っぽで、 真っ暗で、 何か実態のないものに従っているようです。 ひ た隠しにされた力学がそこにあり、 街も人もその力学に組み込まれているようでし た。 力学は非常に力強く、 壮大でとても捉えきることができません。 そしてどこに 存在するのか、 どのような形なのかもわかりません。 しかし、 形はなくても統治と して完成度は高く都市の治安は非常に良いものでした。 東京という都市は安定と引き 換えに大きな力学を用い、 一人一人の濃度を下げています。 私はこの都市の安定の 中でどこか淋しさを感じました。

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大岩 泰山 表裏一体 ローマを出てからずっと陸地を東の方に進んでゆき、 さらには海を渡ってゆくと、 東京と呼ばれる都市にまいります。 その都市を歩いてみますと道行く道のわきには見 たことのないくらい高い塔が次々と並んでおり、 その塔の材質もレンガでも土でも石 でもなく、 ローマでは見たことのない物質で造られていた。 ひとたび中に入ろうと すると、 ガラスの扉がひとりでに開き、 まるで、 私をこの塔に招き入れているよう であった。 そのガラスの扉もローマのものとは大きく異なり、 均一にならされてお り、 枠がなかったら、 何もないと勘違いをしてしまうほどきれいであった。 また、 塔の内部を見渡してみると、 明かりがついていたが、 炎による明かりではなく、 高 い塔の行き来はさぞかし大変だろうと思ったのだが、 上下に動く箱が人を乗せて移動 していて、 それも余計な心配であった。 再び外に出て街を歩いていると今度は広い 道を馬程度の高速で動く箱があった。 この都市の人間はこの箱に乗って、 移動して いるらしい。 あとからしったことだが、 この箱を 「車」 というらしい。 馬程度の 速さで動く物体がそこら中にあり、 そこには歩く人もいるのだから、 非常に危険な ように思えるが、 この都市には車と歩行者の動きを管理するルールが設けられている ため一定の安全性は確保されていることがわかった。 緑黄赤の3つの色に光る光源に よって管理されていたのだが、 どうやらこの都市は私の知らない方法で光を生み出し ているらしい。 あたりを見渡すと塔の表面には、 その光で制御されているであろう 動く絵があり、 中には音を出しているものまであった。 そうやって上空を見上げて いると、 陸地であるのにもかかわらず、 橋が架かっていることに気づいた。 観察し ていると、 橋の入り口を通るものはすべて 「車」 であり、 歩行者はいなかった。 空には車専用の道があった。 この地は地下にも道があり、 そこに行ってみると、 多 くに人々が大きく長い箱に乗って運ばれているのが見えた。 この箱を 「電車」 とい うらしいが、 地下にはこの電車専用の道があり、 東京は地上だけではなく、 その上 にも下にも道を造っているのがわかった。 しばらくこの東京に滞在することになった のだが、 三日も経たないうちにこの都市に居心地の悪さを感じてしまった。 非常に にぎやかな都市ではあるのだが、 それが逆に居心地の悪さを演出してしまっているの だ。 私は東京の街に疲れ、ゆっくりと休めるような場所を探そうと街に出たのだが、 どこを歩いても森や林等の緑に囲まれた静かな場所はなく、 道のわきに木が生えてい るところはあるが、 一か所に集中して生えているような場所は極めて少ない。 水田 や畑、 牧場もどこにも見当たらない。 店には野菜や肉が並んでいるのでそれらはど こかからか運んできているのであろう。 今度は都市の技術の面ではなく、 この都市 の人間はどんな人たちなのであろうかと疑問に思い、 観察をしてみたところ、 ほと んどすべての人間がアルミニウムの板を手にもって歩いていることに気づいた。 そ れが何であったかはわからなかったが、 たいそう便利なものなのであろう。 こんな にも便利そうなものができてしまったせいか、 ローマでは頻繁にみられる、 近所の 家同士の関りや商人と客人とのやりとりが東京ではほとんど見られないことに気づい た。 もちろん、 東京でも友人や家族との会話はみられるが、 ふとした瞬間での会話 というものがほとんど見られず、 ローマの生活と比べると、 大変淡白でつまらない、 無味乾燥な世界であるように見られた。 また、 技術のすばらしさに気を取られてい て気付かなかったが、この都市は案外汚い。 道という道にはごみが捨てられており、 車からはガスが出ており、 空気も澄んでいない。 最終的に私がこの都市を去るとき には、 東京はすばらしいのだが、 きれいな 「表」 と生きづらい 「裏」 が存在し ていると思った。 白い面と黒い面が存在するのだ。 一見、 とても技術の発達が著し く素晴らしい 「白い表」 の姿が見られるが、 自然というものの存在は極めて少なく 汚く会話もすくない、 そんな生きるのに苦労する都市であるという 「黒い裏」 の姿 も見られる。 見る人によっても違うのであろうが、 私はそのように感じた。

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大西 未都乃 夜の東京に共存する美しさと喧騒 東京という街は多様性と秩序が共存する街であります。 最初に出会うのは数えきれな いほどの摩天楼が空へそびえたつ都市のシルエットであります。 今まで見てきた風景 とは打って変わって、 高層ビル群はまるで触れることが出来ない夢幻のような存在で ございます。 街を歩き進めていくと、 きらめく看板や人々の喧騒とともに、 伝統的 な建造物や神社仏閣も私たちの視線を引き付けるのでございます。 古今東西の対比が 生み出す異次元の風景は、 私の心に中世の日々と現代の融合を感じさせるのでありま す。 神聖なる場所が、 商業の勢いに押し流されながらも強く息づいているのであり ます。 また、 都内の喧騒に拍車をかけているのは交通の発展であります。 馬車や徒 歩などだけではなく、 目にもとまらぬ速さで移動する電車やモダンな車両が、 都市 を縦横無尽にかけぬけていくのであります。 古の旅路とは異なる速さで都市が息づい ている様子にただただ圧倒されるのでございます。 ながいながい一日が終わり、 東 京の夜が訪れるのであります。 街は無数のあかり照らされ、 夜桜が街を幻想的な光 景に包まれるのであります。 古の旅人である我らは、 この美しい夜景にただただ見 とれ、 都市の魅力に引き込まれるのであります。 しかし、 その美しさの裏には都市 の騒がしさや疲労も潜んでいるのであります。 夜の静けさの中で私たちは、 自らの 心に問いかけることになるのであります。

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小川 数馬 高い塔 久しぶりだね、 フビライ君。 マルコポーロだよ、 元気にしてる?ビルマでまばたき してたら、 日本の東京に転生してしまったんだけど。 もうマジパニック。 ジパング に黄金なんてなかったよ、 残念だったね。 金なくて馬車を借りられないから、 あて もなく歩いてたら高い塔を見つけたんだ。 スカイツリーっていうらしい。 スカイツ リー高くてびっくりしたよ。 低い建物が並ぶ中で、 一つだけ飛びぬけて高かった。 まるで雲と高さを競っているかのようだったよ。

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柏木 涼佑 孤独な都市 東京の一番右下にある東京は、 とても冷たい都市でございます。 ただし、 日本とい う国が、 冷たい海に囲まれているからというわけではございません。 冷たいという のは、なんだかよくわからなくて寂しい都市、という意味でございます。 すなわち、 都市の人々は一体どこからきたのかわからず、 壁のように高い建物で買い物と食事を する以外、 何をしているのかさえ、 全くわからないのでございます。 もう一つ、 東京について申し上げるべきことがございました。 それは、 東京が、 夜にも寝ない都市であるということです。 日が沈み、 辺りが暗くなってまいります と、 街灯のように明るい看板が、 昼まで皆が握っていた小さな箱から出る光に変わっ て、 人々の顔を照らし始めます、 そして人々が光を浴びるのに疲れて寝静まってし まった後でも、 東京は自分自身のことを、 ひとりで照らし続けているのでございま す。

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粕川 瑞歩 どこまでも続き囲まれる都市 トウキョウを訪れると私はまず右からも左からそして上からも何者かに語りかけられ ているように思われました。 しかし、 四方八方からの音に耳を澄ませ周りを見ても だれも私には語りかけてはおりません。 話をすることを試みても誰も見向きもせず、 まるで私が存在していないかのようにそばを通り過ぎていくのでございます。 それか ら私は少し歩いて妙な感覚を覚えたのです。 トウキョウはどこへ行っても景色が変わ らないのでございます。 前を見ても後ろを見ても空が見えないほどの背の高い箱ば かりがずらりと並び、 自分の目の前の道以外は全く見ることが叶わず、 道を曲がっ てもやはり同じように大きな箱が並んでいるのでございます。 あたりは珍しいほど多 くの人が私の周りを行き交い、 何かの規則に従っているかのように進み、 そしてい くつもの箱を出たり入ったりを繰り返しているのです。 彼らの動きを眺めていると、 今度は何人もの人が連なった箱へと入っていくのです。 彼らの動きの流れに身を任せ 私も箱に入っていくと、 周りを人に囲まれながらこの箱は動いているのだと感じつつ 進むしかないのでございます。 そうして進んでいく先はそれでもやはりどこも同じ景 色なのでございます。 どこへ行ってもどれだけ進んでも遠くは見えず、 目の前は同 じように背の高いもの立ちで囲まれているのです。 しかし、 雑踏に目が慣れてくる とその箱にわずかな違いがあることに気が付くことができるのです。 同じに見えてい た箱に、 わずかに色を感じるのでございます。 しかしそれでも自分は同じ空間を何 度も回っているような感覚に襲われるのでございます。 やがて時が経ち鮮やかな光が 現れそして広がると、 そこはまるで別の都市なのではないかと錯覚するほど様変わり するのでございます。 それでもやはり私は無数の箱に囲まれ、 目の前にはただ一本 の道しか見ることができず、 トウキョウという街をさまよい続けるのでございます。

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加藤 究 鏡の世界 東京に来て、 わたくしはまず初めに閉塞感を抱いきました。 モンゴル帝国にござい ます美しくて広大な草原や山々は、 ここにはございません。 代わりに巨大な鏡のよ うなもので構成された威圧的で堅固な建物が所狭しに立ち並び、 美しく広がる空の景 観を遮ります。 東京の建物は、 装飾がなく味気ないものばかりにございます。 東京に来て驚いたことが2つございます。 第一に、 東京の人々は また、 東京の人々は、 馬に乗って移動することはしません。 代わりに、 乗る者の 指示に従って動く人の顔のような面をした道具に乗って移動するようです。 もはや馬 の姿はどこにもございませんでした。 道は、 この道具に乗る者用と歩行する者用で 2つに分け隔てられ衝突が起きないよう工夫されているようでした。 それにしても東京には人がとてつもないほど密集し、 混雑を極めていました。 どこ へ行っても同じような景色が広がり、 しまいにわたくしは迷子になってしまいまし た。 さらに悪いことに、 わたくしの訪れた所はたくさんの道が交わる交差点で、 た いそう多くの人々が行きかい、 もみぐしゃにされながら人々の群れについていくと、 なんと東京には地下があるではありませんか。 たいそう高い建物に威圧的に見下され ながら、

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兼原 錯綜

澄乃

とにもかくにも、 人と物が多く、 行ったり来たりを繰り返していれば何の因果かま た居た場所に戻ってきてしまうような都市。 何かに急かされているかのような、 生 き急いでいるかのような、 そんな様子で人は私の前を、 後ろを、 横を、 踵を地面 に勢い良く落としながら過ぎ去っていったことでございます。 無表情で私を見下ろす 建物が右にも左にも見え、 その隙間に微かに顔を覗かせた空を眺めることもわりあい 難しく、 後ろにいた男は舌打ちし、 私の横をえらくいきり立った様子で足早に通り 過ぎていったのでございます。 東京という街は、 言うなれば、 大小様々な積み木を 小さな板の上に細々と、 隙間もなく敷き詰めた挙句に、 その間を縫って、 そしてそ れら同士を繋ぐように糸を張ったとでも言うのでございましょうか。 縦横無尽に張ら れて絡まった糸を解こうにもそれは些か困難で、 どうにもこうにもならないままここ まで来てしまったが故の、 諦めと哀愁と苛立ちとが、 雨上がりの森の匂いのように 薄らと、 それでいてその存在を存分に主張しながら立ち込めております。 浮遊して いるかと思えば同時に先の見えない狭間に落ちていくものですから、 今ではもう見切 りをつけまして気儘に足を伸ばし道行く人の観察でもいたします。 何せ人だけは多 いものですから、 人間観察というものには事欠きません。 地べたに座って足を投げ 出す若者、 下卑た笑いを浮かべて見ず知らずの若い女に馴れ馴れしく声をかける男、 一方では一日の気力を使い果たした様子で自分の脚の動きだけを無心で眺めながら歩 みを進める人、 恋人や友人と和やかに談笑している者もおります。 一見目を引く奇 怪な格好をした者や挙動の少々おかしい人間もおりますけれども、 しかし人々はまる で見えていないのか慣れきっているのか、 目もくれずに自分だけの世界を生きている のでございます。 東京という都市に生きる人々は、 私にはどうにも自分自身を消費 しながら時の流れに身を任せているというように感じられるのでございます。 似たよ うな一日を来る日も来る日も繰り返していれば、 季節は春から夏に変わり、 直に息 の白くなる冬がやってまいります。 向こうから途絶えることなく迫ってくる今日を丸 め込んで、 眠りについたその向こうで後ろの自分目がけて放り投げているのは、 何 のためでございましょうか。 今日を切り刻むそばで、 徐々に自分でも気のつかぬま まに心に傷をつけ始めて、 我を取り戻した時にはすっかり貫通し手のつけられない ほどに穴が広がってしまって、 流れ出す衝動と激情とを止められないもどかしさは、 皆が持ち合わせているように見受けられるのでございます。 そのような苦しげな息遣 いも感じられますけれども、 やはり東京とは人が必死の思いで吹き寄せた小さな炎が 集まってできた力強い業火のようで、 並び立つ立体の間を抜ける筋の上を気忙しく、 それでも時折弾みながら息をつく間も無く東に西にひた走っている者たちの姿が、 ほ ら、 すぐそばにも見えるのでございます。

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川島 大知 空に浮かび上がる都市 皇帝様、 海を隔てはるか彼方に存在する極東の国、 日本へ参りましょう。 キャピタ ルシティである東京は、 矮小なその土地にあふれんばかりの超高層が立ち並び、 煌 びやかない服に身を包んだ人々が行き交う、せわしない街であります。 海沿いでは、 都心部とはうって変わり、 たくさんの大きな煙突や長方形型の建物が隣立し、 付近 には球形の建造物が鎮座しております。 どうやら未来人の生活を支えるのは電気であ るらしく、 その多くはオイルやガスを燃やして生み出すのであります。 この球形の 建造物はそのガスを貯めておく装置なのであります。 人ではなく貨物を積んだ大型船 舶が停泊し、 猛禽類の爪を思わせる巨大なクレーンが積み荷を次々とおろしておりま す。 海沿いの地域は、 いわば物流を通した外交の場であります。 少し郊外に参りま すと、 超高層は姿を消し、 たくさんの住宅群が姿を見せてくるのであります。 郊外 だからといって農地や牧地が広がってはおらず、 相変わらず閉塞感さえ感じる次第で ございます。 都心部では煌びやかで重厚感のある鉄の塊が光をともしながら陸を駆け ていましたが、 郊外へと続く大きな通りを進むにつれ、 それらはどれも似たような 色のものへと変わるのであります。 都心部はやはりブルジョワが財を成しては華やか な生活を送っているのであります。 皇帝様、 未来には飛行機なる乗り物が空中を闊歩するのであります。 それはあまり にも巨大で、 その大きさからは信じられないことに上空へと駆け上がっていくのであ ります。 この摩訶不思議な乗り物から見た東京の夜景はこの上なくきれいなものであ ります。 眠らない町と表したくなるその姿は、 魔法のような光が超高層の室内から こぼれ、 通りを行きかう鉄の塊が光線の如く交差し作られるのであります。 皇帝様 にこの何とも言えぬ浮遊感と都市を上空から見ることの喜びをことばにてお伝えする には限界がございますこと、 この上なく悔しい限りでございます。 忘れがたい空の 旅路にて、 一人の美しい女性と談笑した時のことでございます。 彼女は異国風な制 服で身を包み、 髪の毛をきっちりと決め込んでいるのであります。 彼女は人々の空 の旅を陰で支える仕事人であり、 飛行機について語ってくださるのであります。 普 通の機体よりも少し大きなジャンボジェットなるものに乗っているらしく、 東京の空 の玄関口である羽田空港はそんな大きな機体でも侵入できるように設計されているの であります。 この侵入経路が大変美しいものであるらしく、 それが上空に存在する すさまじく複雑な都市といってもいいのであります。 人々の移動が陸から空へと拡張 された未来では都市に張り巡らされた交通網は二次元から三次元へと拡張され更なる 複雑性を孕んでいるのであります。

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川野 雄大 見えない東京 元から東に海を渡ると見えてくるのは東京でございます。 航海中にも少しほど感じ ておりましたが、 近づくにつれて空気がどんどん悪くなっておりました。 この都市 に足を踏み入れた時には、 息を吸うのも嫌になるほどでございました。 ここに来た とたん咳や鼻水が止まらなくなり、 また空気がねっとりとしているように感じられま した。 都市の中へ進んでいくと、 見上げただけでは屋根の位置がわからないほどの 建物が多くございました。 そうして上を向きながら歩いていたある時ふと目線を下す と、 そこにはいたるところに地中へと向かう穴があり、 下るとそこに待っていたの は迷路のような地下通路でありました。 その迷路では出口を目指して進む人々によっ て大きな列ができておりました。 しかしすれ違う人列どうしは絶対にぶつからず、 まるで見世物をみせられているようでございました。 地下に隠され、 光が届かない 東京はまさに見えない東京なのでございます。

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川俣 悠行 都市と回転 船が漂着してからはや一週間、 東京の人々の様子は我々、 大陸の者たちのそれと大 きく異なる、 独自に発展を遂げたものでした。 フビライさまにも、 この摩訶不思議 な民族の暮らしぶりを知っていただきたいと考えるのです。 船が漂着してから、 まず私たちを驚かせたのは、 陸上を走る鋼鉄の筒状の乗り物で した。 彼らはこれに乗って街と自分たちの住む地域のあいだを移動していると言いま す。 そこで、 我々も彼らにあやかりまして、 この筒状の乗り物に乗り、 半刻ほど経った 頃、 乗り合わせた人々の多くが一斉に下車していくのを見計らって、 一緒に降りて ゆきました。 降り立ったのはどこか建物の中のようでした。 しばらく歩いて、 外に 出ますと、 そこにはまさしく異国の未知の風景が広がっていました。 彼らの高い交通整備能力の賜物でしょうか。 外には舗装された遊歩道が直線上に伸 び、 また、 あるときは蛇のようにうねりながら、 空中で複雑に絡み合っていました。 そしてこれを埋め尽くさんばかりにひしめき合う人の群れ。 彼らは、 この複雑な空 中遊歩道を使って空間を自由に行き来しているのでした。 狭い空間に密度高く、 時 には宙にまで道路を敷いてしまうと言うのはなんとも島国の住人が思いつきそうなこ とです。

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北井

嵩人

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北崎 葉菜 タイトル闇と光 東京という町には、 活気とどんよりとした空気が入り混じっているように感じられた のでございます。 白線を境に大勢の人が集まって停まっています広場があり、 それ を囲うように角ばった無機質な建物がそびえ立っていたのであります。 白線の反対側 の集団は、 こちらの集団の敵なのでしょうかとはじめ思いましたが、 それにしては やけに人らの目がぼやけているし、 荒だった様子もないのでございます。 なんとな くまわりと同様に待つことにしました。 白い線の上を勢いよく物体がいくつか横切っ ていくのを見届け、 それが途切れたと同時に向こう側の集団がこちらへ向かってきま したが、 どんどん人が近づいてくるのだが、 殺気を感じないのでございます。 まる で何者かに心を支配されているかのように人々はただただまっすぐ進み、 交差してい くのでございます。 この街には勝手に動く階段がございます。 それに乗ってしまう とどんどん上へ、 上へと登っていき、 これはどこへたどり着くのでしょうか。

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桔川 慶次郎 都市と運命 その都市についた頃には日が沈んでくるような時間でございました。 人、 百人分、 いやそれ以上の高さのある大きないくつもの建造物たちが細い道を挟んで並んでおり ました。 そのせいか、 この都市では空がとても閉ざされたように見えます。 その側 面には多くの窓が取り付けられており、 一つ一つが煌々と光っているのであります。 中には数人の人々がいて、 何やら座って作業しているのでありました。 一度はあの 高さまで上がってみたいと思いつつ進んでまいりました。 しかし進んでも同じような 高い建造物が立ち並んでいて方角が分からなかなくなるようでした。 この都市はとに かく人で溢れているのであります。 日が沈み、 人が減ると思っていたのですが、 そ れどころか逆にどんどん増えてきたのです。 その人々の流れに身を任せて進んで参り ますと、 多くの人が動く階段でどんどん地面下へ降りていくのです。 しばらくする と大きな金属の箱の列が目の前に現れたのであります。 その中は地上の道以上に人 が詰まっておりました。 また地上に出る時にはもうだいぶ時間が経っておりました。 この都市には多様な人々が存在しております。 遥か遠くの地から私のように今年に来 ているもの、 何人かの集団になり騒いで楽しそうにしているもの、 ひとり地面に座 り込み下を向き眠っているもの、 まるで確固たる目的地があるように颯爽と歩いてい るものなどであります。 そのような様子を見ているとその人の人生がどんなものなの かとても気になるのであります。 様々な境遇の人々が集まるこの都市だからこそ自 分とは全く違う世界を生きてきたと考えるととても不思議な気持ちになるのでありま す。 そんな人々とたった今同じ場所で時間をともに過ごしているのです。

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木内 彩恵 輝く都市 東京という都市は、 私が今までに見聞きしたどの都市とも似ておらず、 美しくも謎 に満ちた都市でありました。 これから私が申し上げることは、 東京という都市とそ の美しさの秘密についてです。 闇の中を進む船が大きく揺れ、 目を覚ました私は窓の外に若干の明るさを感じまし た。 船長室の戸を開けて外に出ますと、 遠方に月よりも輝く光が見えました。 あれ が噂に聞く黄金の国の都、 東京であるにちがいないと、 私はそのとき確信いたしま した。 船はしだいに光に近づき、 ついにはその中に吸い込まれていきました。 四方 が無数の背の高い塔で囲まれ、 宝石のように輝き、 それが水面に映ってきらめいて いる様子は類を見ない美しさでありました。 中でも印象強かったのは、 巨大な橋と オレンジ色の塔であります。 これらはこの都市のシンボルのようなものであるので しょうか。 しかし、 夜であることを忘れさせるほどまぶしいこの都市の住人はいつ 眠っているのでしょうか。 東京という都市を調査するにあたっては、 ここで生活する人々を観察することが欠か せません。 まず驚いたのはある広さに対する人数が非常に多いことであります。 こ れは都市が平面的にだけでなく上下にも広がっていることに起因していると考えられ ます。 あるいは、 この逆で多くの人口を収容するために都市を上下に広げざるを得 なくなっているとも考えられますが。 いずれにせよ、 背の高い塔のような建物を建 てる技術を持っているがゆえに人々は密集した生活を送っているのであります。 都市 を拡張することの限界を示すタイミングを見失いどうしようもなくなっているのでご ざいましょう。 また、 東京の住人の特徴として一つ言えることは、 彼らはスピードがはやいことを 好むということであります。 それゆえに彼らは鉄の箱を開発し、 町と町とを簡単に 行き来する仕組みを作り出したのです。 この箱に入り、 ドアが閉まり、 しばらくし て再びドアが開くと、 外は別の町に変わっているのです。 私に乗り方を教えてくれ た少年によると、 この鉄の箱は電車と呼ばれ、 これを使えばほとんどの町に移動で きるそうであります。 それにしてもこの都市の住人はどうしてこれほどまでに急いで いるのかが私にとって最大の謎です。 ハイスピードで移動できる手段を手に入れてお きながら、 箱までの道を歩く人々は私の倍以上の速さでありますし、 ときには走っ ている者さえおりました。 私の故郷・ヴェネツィアと、東京では時間の縮尺が異なっ ているように感じました。 高速移動の技術を持つがゆえに狂わされた時間軸で生きる 東京の住人達は、 本当はスピードがはやいことを好んでいるわけではないのかもしれ ません。 しかし、 効率的でないと成立しない都市になってしまった東京で生きる以 上、 ハイスピードな生活に順応せざるを得ないのでしょう。 私に電車を教えてくれた少年は、 電車の中でも学校に入学するための試験勉強をして おりました。 本当は別にやりたいことがあるけれども、 将来豊かな生活を送るため には仕方ないのであるそうです。 東京のように発達した都市においては仕事で求めら れる能力のレベルも高く、 子供たちに課せられている学習内容も相当なものであろう というのが、 私の想像でございます。 私はこの都市の住人の観察を通して、 ここを訪れたときに衝撃を受けた東京のキラキ ラした輝きの裏に潜んでいる、 成長の限界による崩壊の危うさを知りました。 それ でも今崩壊を免れているのは、 人々の心の豊かさが完全に失われてはいないからであ りましょう。 周囲の環境は異なるといえども、 彼らの本質的な部分は我々と同じで す。 人々は矛盾を抱えた謎の都市の中で何かに追われながらも互いにつながることを 諦めず、 生きることを続けているのです。 彼らが都市の成長についていけなくなっ たとき、 東京は突如として機能しなくなることでありましょう。 彼らの努力が東京 をかろうじて成立させ、 だからこそ東京はより一層美しく輝いてみえるのでありま す。 64


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草刈

龍太

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工藤 幸祐 野生なる都市 初めこの都市を訪れた際はその豪勢なファサードや広い通り、 巨大な建造物に圧倒さ れた。 人々はせわしなく動き、 多くの車が行き交っている。 しかし、 一度大通り を外れるとこの都市は表情を変える。 人通りは少なくなり、 薄暗くどこか不気味な 雰囲気がある。 人に見られることがないため、 何も取り繕っていないそのファサー ドはある意味この都市の根幹をよく表現しているように思える。 特に2つの建造物に 挟まれた空間は異様である。 人通りはほとんどなく、静かであるが穏やかではない。 あらゆるところに落書きがあり、 表に立つことが許されなかったモノたちの静かで強 烈な叫びが溢れ出しているかのようである。 奥深くにある感情を一切隠さずに吐き出 しているかのように見えるこの空間は都市における最も野性的で、 かつ自由な空間で あると感じる。 夜が訪れるとここにも人が集まってくる。 昼の世界で自身を取り繕い、 どうしよう もない鬱憤を溜め込んだ人々である。 彼らはここで飲み、 叫び、 歌い踊る。 まる で誰からも見られていないかのように。 ここは思うままに騒ぐ彼らを暖かく受け止め る。 そして夜が明けると、 周りの世界が未来へと動き出していく中でここは昨夜の 痕跡を残し続けるのである。

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久保 まい 神の手 私は目が覚めると、 なにか乗り物に乗っているのだと気づいたのでございます。 不規則な 揺れがあり、 潮の香りも漂ってきます。 どうやら私は船内にいるようございます。 同乗 していらっしゃる人々は日本人と思われる方から、 欧米人まで様々で、 皆様きらびやか な装いをしてグラス片手にパーティーをしていました。 そして日本人のような人々は、 私 が聞く限り、 人によってイントネーションや語尾が異なると気づいたのでございます。 こ れは 「方言」 というものによる違いだと教えていただきました。 東京には全国各地から 人が集められてこのようになったのでしょうか。 しばらくして天井からなにやら声が聞こ えてきました。 周りの人々が話している言葉とは違っていましたので、 私は何が起こった のか理解できませんでした。 天井裏に人でもいたのでしょうか。 さてその声が止むと人々 は身支度を始めたのでございます。 私もそれに倣い準備をし、 下船をしました。 下船し ますと、 そこには直線的な海岸線を持つ島のようなものに、 天まで見上げるほどの高い直 方体の塊が見渡す限り置かれていました。 世界各地を旅してきましたが、 まずこのような 直線的な海岸線を持つ島を見たのは初めてで、 まるで誰かの手によって作られたように感 じました。 高い直方体の塊はイタリアの美しい技巧的な建築とは異なり、 単純なデザイン で、 魅力があるとは思えませんでした。 そしてその島を少し歩いてゆくと、 非常に遠く にあるはずでございますのに、 周りの直方体の塊よりも圧倒的に大きい棒のようなものが 地面に突き刺さっていました。 あの棒をよじ登っていけば、 雲の上まで届いてしまいそう でした。 しかし、 東京はイタリアと同じように地震が多いと聞いておりますので、 思わ ずどのような構造となっているのか気になったほどでございます。 そしてまた少し進むと 巨大な箱が、 地面から遥か高いところで、 橋が長く続いたものの上を高速で移動していた のでございます。 持っていた双眼鏡でその中を見てみると、 大量の人々が詰め込まれてい て、 その顔はひどく疲れているように見えました。 そして上下黒い動きにくそうな服を着 ている人が多かったのでございます。 私は怖いもの見たさにその箱に乗ることのできる場 所まで行き、 人に尋ねながらなんとか箱の中に入りました。 箱は 「ゆりかもめ」 という 乗り物らしく、 空を飛んでいるように直方体の塊や道行く人々を見下ろすことができ、 私 はまちを支配したような快感を覚えました。 しかし 「ゆりかもめ」 は運転手がいないの に移動を繰り返していたため、 私はどこか知らない場所へと連れていかれてしまうのでは ないかと思い、 恐怖を感じずにはいられなかったのでございます。 しばらく 「ゆりかも め」 に乗っていると、 車内の全員が下車したため、 それに続いて私は下りたのでござい ます。 「駅」 という場所を出て少し歩くと、 私は異臭を感じたのでございます。 白い煙 で鼻に残る不快な臭いでございました。 一体何による匂いなのでしょうか。 少し歩きます と、 私は道端に簡易的な壁だけで仕切られた、 その臭いが発せられる場所を発見したので ございます。 中には、 先ほどの中には、 先ほどの上下黒い動きにくそうな服上下黒い動 きにくそうな服を着ている人が多く、 を着ている人が多く、 皆長さ皆長さ 10 ㎝ほどの短 い棒をも㎝ほどの短い棒をもってって口元に近づけたり離したりして口元に近づけたり離し たりして白い煙を吐き出していたのでございま白い煙を吐き出していたのでございましたし た。。 私が東京に訪れて私が東京に訪れて感じましたことは、 感じましたことは、 見え ないものの存在が見えないものの存在が非常に大きいということでございま非常に大きいと いうことでございます。 す。 誰か、 何かによ誰か、 何かによって引き起こされているっ て引き起こされていることや引き起こされたことことや引き起こされたことに溢れておりま して、 に溢れておりまして、 最終的にその原因が分か最終的にその原因が分かることもご ざいましたが、 ることもございましたが、 東京には東京には東京をデザインして支配東京 をデザインして支配し、 操作し、 操作するする神のような存在を感じず神のような存在を 感じずにはいられなかったのです。 にはいられなかったのです。 私が私がフビライさまフ ビライさまにこのように東京にこのように東京の様子を語りますことになったのの様子を語 りますことになったのもも、 もしかすると私もその東京を支配する神のような存在に、 も しかすると私もその東京を支配する神のような存在に操作されたからなのかもしれません。 操作されたからなのかもしれません。 70


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久禮 瑞己 日本の王都 日本にやってきたのだからひとまず皇族の住処に訪れようと東京 ・ 丸の内に向かっ た。 丸の内は皇居のそばには建物がなく緑の広場となっており,老若男女多くの人々 がゆったりと過ごしていた。 皇居を取り囲む広場の外には建物が立ち並ぶ。 透明な 壁のものや下より上が大きな建物など見上げないといけないようなたいそう大きな建 築であった。 その上には塔であったり鉄製の動くものがさらに設けられていた。 さ て皇居ですが堀の奥に高い城壁があり, 外側からでは中の様子は全くわからない未知 の領域であります。 城の大きさで権威を示してきた王政国家の王族とは異なり, こ の謙虚には日本の民主主義の姿が現れているのでしょう。

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紅松 悠香 光るトーキョー 広い海を船で渡り始めて2か月が過ぎ、 やっと陸地にたどり着いたのでございます。 度々嵐に見舞われることもありましたが、 生きてたどり着くことが出来たのは幸運で ある他ないでしょう。 さて、 長旅の末にたどり着いたその地は 「トーキョー」 と 呼ばれるそうでございます。 太陽は既に沈み、 暗いはずでありますがその都市は太 陽が沈んでもなお明るいままだったのであります。 ましてや、 太陽が出ている時間 よりも光り輝いているのでございます。 トーキョーに降り立ち、 都市を歩いてみたのでございます。 すると海から見えた光 は都市の内部のそこら中で輝いていたのでございます。 その光は蝋燭のようにゆらゆ らと揺れるものではなく、 ただ同じ明るさでひたすらに光っているのでございます。 光の中には 7 色に変化する光もあれば、 建物から出ている光、 動く絵が光っている ものもございます。 私はそれらの光が衝撃的この上ないのにも関わらず、 人々はそ れらを気にもとめず手元の光を見ながら歩いているのであります。 トーキョーの人々 にとってはそれらの多くの光は当たり前のものなのでしょう。 やがて夜が明けて、 たくさんの人々が活動し始め、 夜に輝いていた光は見えなくなったのでございます。 そしてまた日が暮れてトーキョーは再び光始めたのでございます。 まずトーキョーには、 私たち人間の頭上を超える場所にも道が存在するのでござい ます。 どの道もまた夜に光輝いているのであります。 道の脇に灯りがたくさん並ん でいるからでございます。 長い柱の先に下の道を照らす灯りがついていて、 空を見 上げない限りそこは昼なのではないかと言わんばかりの明るさでございます。 道が交 差する場所は二色や三色の光が輝いているのでございます。 そしてその場所からは、 どこからともなくひよこの調子良い歌声が聞こえてくるのであります。 ひよこの声に 合わせて人々が歩く様子はとても興味深いものでございました。 さらに、 トーキョーには溢れんばかりの建物がそびえたっているのであります。 夜 には建物も様々な色に光り輝くのでございます。 その多くの建物は透明な板や鏡に 覆われていて、 それらは似通っているのでございます。 初めて訪れた私にとっては 迷路そのものでございました。 高い建物に覆われたトーキョーは空もあまり見えず、 何を頼りに進めばいいのかわかりませんでした。 しかし港で出会ったある男の人が トーキョーを案内してくださったのでございます。 私は彼からはこの陸 地が一つの島であることや、 この地がトーキョーと呼ばれる場所で、 トーキョー以 外にもたくさんの都市があることを教わったのでございます。 こうしてトーキョーという都市を見てきたわけでございますが、 私が見たトーキョー は輝く夢の世界のようでありました。 海の上ではありえないほどのまぶしさがそこに はあったのでございます。 トーキョーに夜はないのでございます。

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小賀 美瑛 空虚の先に見た東京 私は Shinjuku と呼ばれる地に降り立った。 目にしたのはどこまでも続く鏡の世界。 街には天まで伸びる巨大な鏡が敷き詰められ、 複雑に絡み合っている。 そこへ反射 した霞んだ空は歪に広がっている。 あまりの迫力に立ち止まっていると、 ゴトゴト という地響きが絶えず聞こえてきた。 いったいここどのようにして発展を遂げたもの か。 街の鏡の奥は物で溢れかえっている。 驚いたことに、 東京人はそれぞれの手鏡 までも常に持ち歩いている。 それを覗けば望むものが全て手に入り、 あらゆる体験 が簡単に叶ってしまうという。 どうやらこの街は神と不思議な契約を結んだようだ。 しかし、 その対価は大きかったに違いない。 私はその謎を紐解くべく、 街の散策を 開始した。 はじめはこの街の煌びやかさと豊かさに圧倒された。 鏡が映し出す世界 は実に心地が良い。 <数日が経つ> 道ゆく途中、 少女と肩がぶつかった。 怪我はないかと振り返ったが、 もう彼女は大 衆の中で一体どこへ行ったのかもわからない。 なぜ、 この地の人々はこれだけ生き 急いでいるのだろう。 彼らの魂は一体どこに隠されてしまったのだろうか。 なぜか わからないが、少しばかり、心に寂しさが宿った。 東京人は高密度で生活している。 それにも関わらず、 互いの目を合わせることはない。 見ているのは鏡の中の世界。 話すのも、 耳を傾けるのも、 笑うのも、 全ては鏡の中。 そうか。 私は旅の最終日にてようやく気がついた。 東京、 ここは虚構の街である。 鏡に映されたものはどれだけ手を伸ばしても誰も届かない。 鏡の中でいくら枯れない 花を育てようと、 土や蜜の香り、 そよぐ風の冷たさを感じることはできない。 神と の契約によって全てが成長しすぎたこの街はもはや何もない。 そこにあるのは空虚で ある。 鏡の国東京が教えてくれたこと、 それは、 我々が欲望のままに従って突き詰めた先 にある世界は、実に空っぽであるということだ。 ひび割れた鏡は不安の現れであり、 この街の危うさの警告ではなかろうか。 しかし、 それに絶望することはない。 何も ないからこそ、 それぞれの意味を創造できるのが人間ではないか。 大切なことは、 真の自分の姿を見失わないことである。 我々が生きる母国ももしかすると誰かの基準によって作られた鏡の虚構の中なのかも しれない。 当たり前の世界が当たり前ではないと気づいた時、 そこに残るのはたっ た一人の自分である。 誰かによって決められた基準で判断を下し、 映し出された虚 構の世界を生きるのではなく、 生身の自分が自分らしく生きること、 それが最も重 要なのだ。 この地を訪れてまた、 私は考えた。 それは形に残るものだけが全てでは ないということ。 我々が紡ぐ言葉、 感じる喜びや悲しみ、 生きてきた過去は決して 消えることはない。 忘れられない心の痛み、 誰かを大切に思う気持ちといった、 目 に見えないものの蓄積によって我々は自分自身を日々更新している。 痛みを伴わずし て新たな生命は生まれず、 人の温かさは人にしか生み出せないからこそ、 この呼吸 が続く限り私は諸行無常の儚い世界を真の私自身で生きよう。 僅かに光る一筋の光が 見えた今日、 私の人生の旅はまだ始まったばかりである。

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