早稲田大学建築学科 2019年度設計演習F

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早稲田大学創造理工学部建築学科

設計演習F 2019

観光地を超える

温泉街のビジョンと空間デザイン

Department of Architecture, Waseda University Design Exercise F 2019

Beyond the Tourist Resort: Vision and Spatial Design for a Spa Town

早稲田大学創造理工学部建築学科 設計演習F 2019 観光地を超える 温泉街のビジョンと空間デザイン 1 はじめに 2 演習のスケジュール 3 対象地 4 提案一覧 5 各チームの提案 6 学内講評会 7 現地最終発表会 ………………………03 …………………04 ………………………05 ………………………06 ………………………08 ………………………64 ………………………66 目次 01
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1 はじめに

この冊子について

早稲田大学「設計演習F」は、建築学科で都市計画を学ぶ4年生が必ず履修する授業です。40名以上の 学生が、グループを組んで都市デザインの演習に取り組みます。地域の実態を調査し、住民のみなさんの 話を聴きながら資源や課題を発見し、提案を育てていくことに特徴があります。

この冊子は、学生たちが、草津温泉中心部の既成市街地を対象として、現代的な地域課題の解決を目指し、 かつ地場の潜在力を引き出すための「都市設計・空間デザイン」を提案したものです。それぞれの案には、 学生なりの草津温泉への思いやまちづくりのアイデアが込められています。この冊子が、まちづくりのア イデア集となって、草津温泉にとって少しでも有意義なものになればと願っています。

課題主旨

草津温泉(群馬県草津町)は、人口約6,500人、年間来訪客約300万人を入れ込む、日本を代表する温 泉観光地の一つです。古くから湯治場として知られ、次第に定住者が増え市街地が発展し、かつ地域には 深い温泉文化が培われてきました。

全国の人気温泉地ランキングで常に上位に位置し、源泉掛け流しの魅力、湯畑という湧出地と広場の迫力、 複雑な市街地形状が醸し出す温泉街情緒などが観光客より高い評価を受けていますが、一方で、繁忙期に おける中心部の交通問題、大小の建築物が入り乱れる景観、宿泊施設や店舗の閉鎖・廃業、リゾートマンショ ン・別荘地の管理不足、人口減と高齢化・少子化、担い手・労働力の不足など、内部には多くの課題を抱 えています。

これまで温泉街中心部では、町が主導し街なみ環境整備事業・ふるさと納税等を活用しながら、観光経 済への梃子入れとして、湯畑広場の周辺整備、新たな公営浴場の整備、西の河原公園のリニューアル整備、 既存公営温泉施設の改修、トイレ等の整備、主要スポットのライトアップなどの公的投資に加え、修景補 助制度による民間ベースの景観整備・空間整備などがこの数年の間に急ピッチで進められてきました。

一定の都市整備成果が得られた段階ではありますが、今後は、単なる誘客観光対策ではない、地域の根 源的な問題にリーチし解決を図るための、新たな観点や方策が必要となっています。

草津温泉は、その社会的な位置づけや来訪者から求められる地域像の変化に合わせて、新たな拠点や公 共空間の整備など、都市デザインが力を発揮してきた地域でもあります。本課題では、これまで様々な工 夫が重ねられてきた草津温泉に対して、新たな視点と自由な発想に基づいた都市空間の提案を求めます。

地形・水系などの土地のもつ潜在力のみならず、長い歴史のなかで重ねられてきた空間的工夫や、来街者・ 住民をあわせた様々な人びとの流動を読み取り、編集し、活かすことで、地域の課題や潜在的な力を引き 出す提案を期待しています。

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演習のスケジュール

4月下旬に、草津温泉で五日間の現地合宿を行いました。期間中は、3~4名のグループに分かれて、 現地調査、共同作業、テーマ設定を行い、その成果を地域の方々に発表しました。その後大学にその成果 を持ち帰ってさらに発展させてまとめ直し、6月初旬の学内発表会を経て、6月末にふたたび現地にて地 域の方々に提案を発表しました。

4/3(水)|課題出題

・オリエンテーション、課題説明、昨年度の成果の復習

4/10(水)|事前調査・講義

・講義1(吉田道郎)、学生事前調査の発表

4/17(水)|事前調査・講義

・講義2(三島由樹)、学生事前調査の発表

4/21(日)~25(木)|現地調査合宿・現地中間発表会

・ファーストインプレッションの発表、グループ結成

・町長によるレクチャー

・現地調査・提案とその取りまとめ、現地中間発表会

5/8(水)|エスキース

・提案の精緻化

5/15(水)|学内中間発表会

5/22(水)|エスキース

・提案の精緻化

5/29(水)|エスキース

・最終提案に向けたブラッシュアップ

6/5(水)|学内最終講評会

6/26(水)|現地最終発表会

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3 対象地

本年度の設計演習Fでは、草津温泉中心部から周辺の市街地など、広範な地域を対象としました。観光 客のあつまる中心市街地だけでなく、住宅地や草津温泉スキー場なども視野に入れた提案に臨みます。

これまで温泉街中心部では、町が主導し街なみ環境整備事業・ふるさと納税等を活用しながら、観光経 済への梃子入れとして空間整備に力を入れてきました。湯畑広場の周辺整備に続き、「御座之湯」、「湯路広 場」、「熱乃湯」など、昔に存在した名所や建物になぞられた新たな地域の拠点が姿を現しています。ほかにも、 西の河原公園のリニューアル整備や既存公営温泉施設の改修などの公的投資に加え、修景補助制度による 民間ベースの景観整備・空間整備などが進められてきました。

草津町の中心市街地は、特徴の異なる5地区から構成されています。歴史的に集客力をおっている「湯 畑地区」「西の河原地区」では、これまでに一定の整備事業が進められていますが、「滝下通り地区」「地蔵地区」 「中央通り地区」では、地元の活力を押し上げるための対策・新機軸を模索しているところです。

調査合宿 エスキース風景 調査合宿 グループ作業風景 調査合宿 分析・提案の取りまとめ 現地中間発表
現地最終発表 05
学内最終発表

提案一覧

全9チームの提案は、以下の通りです。それぞれのチームは独自の視点をもって対象敷地と テーマを選定し、草津温泉の未来に向けた提案を行いました。

誘発される歩み——中央通りの地域資源の再編を通して

チーム|Working on Sunday|金子海月、須栗 諒、村松大地、Clément Gauchet-Dumortier

中央通りはかつて草軽鉄道が通っており、草津の中心街に 行くための道であった。しかし鉄道の廃線とバスターミナ ルの新設により、人々があまり歩かなくなったことで賑わ いが失われていった。そこで私達は歩きたくなるような中 央通りにするという目的の元、中央通りに空間提案をした。

上高原将礼、友光俊介、山川冴子、Lee Ho

草津は観光の街として栄えており、若い労働者を増やすこ とは重要である。歴史ある殿塚という住宅地で、住まい、 暮らしの支え、安全安心、ゆとりをキーワードとし、路地 を介して新陳代謝が持続的に行われ、多世代がくらす住宅 地の計画を目指す。

眠れる文化の継承——地蔵・大滝エリア再編集

チーム|ちびきゅうり|五十嵐萌乃、任田良平、中岡 暖、松井紅葉、王 琦

草津の文化は多くの人々によってひっそりと語られ ているが、現在その「文化の語り手たち」の継承が 問題となっている。草津の多様な文化が眠る地とし て地蔵・大滝エリアを対象に、新たな文化継承の在 り方を提案する。

食でつながる——持続可能な草津に向けた新しい食生活スタイルの発信

観光を中心に発展してきた草津町。町の担い手減少が深刻 な問題であり、生活環境の整備が求められている。そこで 私たちは、草津町外にある“食”に着目した。草津ならで はの新しい食生活スタイルの提案により、食の観光的活用、 働き手の環境、多世代コミュニティ、を改善する。

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「観光地を超える温泉街のビジョンと空間デザイン」
『みち』の連なり、『くらし』の結び——『みち』を介した人と町の新陳代謝
チーム|つなぎ手|
チーム|給食係|前田楓馬、柳瀬千裕、吉野 良祐、和出好華
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草津坂——歩きたくなる草津へ

石井万友奈、今村亮太,加藤公花,林里菜子

草津は山間部に位置しており、多くの坂がある。そ の中でも特に歩きたくなる坂から学ぶ魅力のキー ワード「草津坂の知恵」を元に、①現在ある坂を観光 資源として活用する、②坂を起点とした将来の草津を よりよくする、という2つの提案を行う。

湯畑観光体験の立体化

左右田敢太、鈴木まる香、原 望峰、森本菜月、Dai Bowei

湯畑に立体的な観光体験を創り出す。近年、観光客 が湯畑に集中することで、周縁部との距離や、湯畑 内の混雑が深刻となっている。私たちは、一階店舗 と共に上層階の動線をデザインすることで、より便 利で、多様で、美しい湯畑を提案する。

チーム|なぎる|有森実希、泉川時、上杉謙虎、木村貴広

共同湯の再発見——草津のポテンシャルからつむぐ暮らしの未来像 住民にとって生活の一部である共同湯は、観光業の中に 埋もれその魅力を意識されにくかった。私たちはこれを 再発見し、地域住民のコミュニティを強化する糸口とし た。そこでは新たな人びとが原動力となり、共同湯を中 心とした地区を超えた繋がりをつむいでいく。

アクティビティーの止まり木——スキー場と温泉街を繋ぐ架け橋

河南奈々子、才間夏葵、近重慧、吉村佳津司、POMMARET Clement

私たちは西ノ河原とスキー場にまたがる地域に着目 し、外に広がる観光と湯畑を中心とした観光を繋ぐ 「止まり木」として新しいアクティビティーを提案す る。そしてこの止まり木が将来に渡って地域交流や 長期滞在の場になる事を目指す。

重層する草津景

白根山をはじめとする雄大な自然が草津町の景観の支柱で あるが、経済発展後その価値は失われてしまった。それら の価値を見つめ直し、次世代に残る景観を築くことが、今 の草津の課題である。遠景である山を背景に、草津に眠る 景観資源を再評価し、自然を体感できる景観を創出する。

チーム|あげまんじゅう|
チーム|のぼせ隊|
チーム|TEAM9|味方 唯、中村崚、村松 美邑、蔵茗、Tan Huiyu チーム|Waseda Walkers|
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各チームの提案

誘発される歩み——中央通りの地域資源の再編を通して チーム|Working on Sunday|金子海月、須栗 諒、村松大地、Clément Gauchet-Dumortier

『みち』の連なり、『くらし』の結び——『みち』を介した人と町の新陳代謝 チーム|つなぎ手|上高原将礼、友光俊介、山川冴子、Lee Ho

眠れる文化の継承——地蔵・大滝エリア再編集 チーム|ちびきゅうり|

五十嵐萌乃、任田良平、中岡 暖、松井紅葉、王 琦

食でつながる——持続可能な草津に向けた新しい食生活スタイルの発信 チーム|給食係|前田楓馬、柳瀬千裕、吉野 良祐、和出好華

湯畑観光体験の立体化 チーム|あげまんじゅう|

左右田敢太、鈴木まる香、原 望峰、森本菜月、Dai Bowei

共同湯の再発見——草津のポテンシャルからつむぐ暮らしの未来像 チーム|なぎる|有森実希、泉川時、上杉謙虎、木村貴広

アクティビティーの止まり木——スキー場と温泉街を繋ぐ架け橋 チーム|のぼせ隊|河南奈々子、才間夏葵、近重慧、吉村佳津司、POMMARET Clement

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8 重層する草津景 チーム|TEAM9|味方 唯、中村崚、村松 美邑、蔵茗、Tan Huiyu 9 草津坂——歩きたくなる草津へ チーム|Waseda Walkers|石井万友奈、今村亮太,加藤公花,林里菜子 5 10 16 22 28 34 40 46 52 58 09
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2019 年6 月5 日 於 早稲田大学西早稲田キャンパス  ゲスト:黒岩千尋さん、黒岩千智さん

三島 提案はわかりやすく、絵も綺麗に 仕上がっていて完成度が高い。その上で、 現地発表に向けてのアドバイス。まず1 点目は色々なプロジェクトを誰が行うの かということを整理できるのではないか。 行政・民間が主体のプロジェクト、観光 客が参加するプロジェクトなど、誰がや るのかということを意識して追加情報を 提供するとよい。また、回遊性モデルに ついては、その導入前後の様子をちゃん と示した方が良い。バスターミナルを坂 の上にもっていくのは歩きやすくなるし、 良いと思う。もう一つ追加できるとした ら、バスターミナルに帰っていくときの 工夫。行くときと帰るときでどのように 印象が変わるか。こんな魅力があるから 上り坂もつらくないなどの工夫があれば さらに厚みが増してくる。雪のときどう するかなど、季節ごとの工夫ももたせる といい。最後に、リノベーションも視野 に入れると良い。コストも少なくてすむ。

阿部 プロジェクトの規模やお金の話を 含めないと、いつやるのか分からない。 時間軸の話が欠けているので、今すぐで きるものとそうでないもののを示すとよ りわかりやすい。

黒岩千尋 店の名前があるとわかりやす い。今すぐまねできるような提案として は何があるのだろうか。また、各運営主 体が連携し誘発するような歩きたくなる ような仕組みがあるといい。

黒岩千智 現状だと、ソフト面の話があ まりないので実現可能性に欠けると思う。

吉田 一点だけ気になるのが、バスター ミナルの移動。バスターミナルは湯畑に 近い方が良いという考えがある。来た人 がまず、湯畑に向かうことなどを考える と絶妙な位置にあり、バスターミナルが 移動すると歩行者は向かいづらい。また 帰り坂道が長くなると、特に足腰弱い御 年寄などはしんどいのではないか。この あたりについて説明できるようにした方 が良い。

富田 それぞれの計画がどこを敷地にし ているか、計画同士の関係がちょっとわ かりにくい。

吉田 住居型展望台という言葉を聞いた ことがなく面白そうだが、具体的な利用 イメージはどんな感じなのか。地域の人 が共同で利用する場所なのか。造りは良 いのだが、だれが何のために利用するの かが分からない。

阿部 最後の提案を現地の発表までにブ ラッシュアップしたり、アクティビティ を表現してキャプションを入れるにして も、そもそも、新たに計画する所とそう でないところがわかりづらい。変えた部 分、変えない部分をどう表現するのかが 重要。

黒岩千尋 計画をしたことに対してどん な効果が生まれたかを表現すると良い。 防災に関しては、細い路地に消防車が入 れないことに対しての提案がほしい。

本当に文化の継承という目標が達成され るのかは、担保されていない。提案され ているガイドツアーは実際にどんなまち あるきにするのか、リー母様をどういう 風に伝えるかをもっと具体的に表現した ほうがいい。あと、「15年計画」は考え直 した方がいい。そんなに長いスパンはい らないんじゃないか。

吉田 視線の「3つの連続性」というキー ワードを出しているのはいい。それを表 現する矢印は重要で、表現をもう少し工 夫して連続性を表したら良いと思う。個々 の提案はもっと突き詰めてもいい気がす る。また、タイトルは提案の内容を一言 で言ったものにしたほうがいい。

富田 個々の計画にダイナミックさが欠 けるのが、ちょっと勿体無い。現地の人 に伝えるまでの間に、もうひと頑張りし て欲しい。

吉江 模型をつくるなら、配置模型では なく個別の提案がわかるスケールの小さ い模型がいい。現地発表では、発表の前 に模型やプレゼンボードを置いて自由に 見てもらう時間があるので、みなさんが 説明しなくても見れば提案がわかるよう な模型やボードを作るように。

黒岩千尋 運営主体が気になる。行政が 関わるとすれば、街全体としてどんな効 果が生まれるか。どのようにすれば魅力 が大学生の観光客とかに伝わるのか。

黒岩千智 草津出身で別のところに移り 住んだ人が、地元に帰っていたときに魅 力を再発見する話でもいいかもしれない。

三島 全体のプレゼンテーションの流れ はわかりやすく、論点も明確だった。「リー 母様」や生活を支える温泉の話などは的 を得ていると思うが、もっと眠っている 資源として共感できるもののほうがいい かもしれない。問題提起の中にインタ ビューを入れているのはとても良いと思 う。ハードの提案をしたときに果たして

阿部 「我妻色の交流圏」という部分はも う少し考えましょう。

黒岩千尋 地域食堂などの提案のお金の 流れがいまいち分からない。大きな旅館 には社員食堂があって、働いている人は そこで食べられるので食費が浮く。だか らわざわざ外に出る必要性は薄い。社員 食堂のおばちゃんたちがまちの外で活動 することによってどんな効果が生まれる のか。

阿部 一等地が駐車場だと勿体無いとい う話がスタートなのは分かるが、それだ けでは実現性が低い。周りの空地を使う など代わりの駐車場を考えるべき。

吉江 もともとの湯畑観光駐車場には、 大型の観光バスが止まれるということも

誘発される歩み ——中央通りの地域資
チーム|Working on Sunday 1
源の再編を通して
2 チーム|つなぎ手
3 チーム|ちびきゅうり
『みち』の連なり、『くらし』 の結び——『みち』を介し た人と町の新陳代謝
眠れる文化の継承 ——地蔵・大滝エリア 再編集
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食でつながる——持続可 能な草津に向けた新しい 食生活スタイルの発信
チーム|給食係
学内講評会
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考えた方が良い。よくできた提案なぶん、 細かいところの整合性が気になってくる。

黒岩千智 図書館については、地元も図 書館を残したいという動きもある。それ を新たに変えることの意義が書かれてい ると良い。

有賀 個別のプロジェクトの場所や設計 意図は説明されているが、最初の住民の 行動分析で草津の町を全体を俯瞰したと ころから、計画の場所選定に入っている という説明が隠れてしまっている。俯瞰 的な視点から個々の提案になったつなげ る説明が必要。

中景・近景などのアイディアが7か条に 入ってくると面白い。

三島 印象に残る絵だったが、もっと提 案を要約して表現する絵を描いて欲しい。 これを見て地元の人が草津だと思えるこ とが大事。「草津5大坂」は、写真などを 入れて地元の人がパッとわかるようにし たい。あと、「知恵」という言葉が引っか かる。意図されて造られた坂ではなく、 みんなが良いと思った坂の要素を取り出 しているのが現状である。「坂の駅」とい うアイディアは面白い。「桶ーション」も 面白いし、さらに広がる提案であると思 う。

黒岩千尋 草津の人は、坂を登るのは苦 としていないから、来訪者にとってどこ が辛いのかとかを見せたらいい。

吉江 みなさんが草津の坂をたくさん歩 いて調査したことを我々は知っているが、 それがプレゼンボードに表れていない。

写真などを盛り込み、説明せずともわか るプレゼンボードにして欲しい。

吉田 ここで提案されている「7か条」は、 坂の上から見た景色の話であって、坂自 体の面白さではないのではないか。坂の 面白さは登っている途中の景色にあった りする。

有賀 向きを揃えるという提案は微妙だ。 町屋のような建物ではないから、例えば 向きがバラバラの中でもその隙間から見 える近景、中景がおもしろい、という提 案にする可能性がある。空隙・隙間・余白・

矢口 模型は作れなかったのか。という のも、提案でやっていることが複雑なの で、図面だけでなく模型があったほうが 初めて聞く方にとってはわかりやすいの ではないか。

有賀 やっている個々の提案はとてもレ ベルが高く、公共事業でできる話ではな いので、一軒一軒の建物の所有者の意思 との折り合いをどのようにつけるか納得 できる説明がほしい。いまは全体を俯瞰 した図や提案事業の絵もあるが、2枚目 の細かい部分を丁寧に説明し、町がトッ プダウンで行う事業ではないということ がわかるようにしたい。

阿部 民間の所有物を使ってもらうのか、 民間の土地を借りるのか。管理方法など はお店の人目線で書く必要がある。実現 のためにはお店の人びとの立場で話すべ きなので、それに伴って所有・システム の表現も少し変わる。

吉田 断面的な事業モデルの図がひとつ あれば分かりやすい。デッキを物理的に 一周つなげるという提案はきついと思う が、一周できるルートの提案があると分 かりやすい。

三島 インパクトのある絵だが、見せの 空間のキャパシティを増やした提案のは ずなのにその様子があまり書かれていな い。この計画によって、湯畑周辺が以前 より賑わっている様子を描いた方が良い。

有賀 時間によって利用を変えるシェア ストリートという方法もある。

黒岩千尋 提案パースによって、この計 画が持続可能で今よりよくなる、という ようなことが伝わるといい。湯畑周辺は 住民のショートカット動線でもあるので、 そこがなくなってしまうのは住民にとっ てはどうなのかを考えたほうがいい。

吉江 現存する19の共同湯のなかから7 つの方針を出したのは分かる。そのあと に詳しい計画を提案した4つの事例はど のような理由で選んだのか。

有賀 4つの事例がとくに魅力的だと 思ったのなら、どうして魅力的に思った のかが結構大事なことなので、それをス トレートに言ったほうがいい。たくさん スケッチした共同湯の建物立面をどのよ うに評価して、それが建築や街並みの提 案にどのように結びついたのかがわから ない。例えば、緑の湯は全部変えてしまっ ていいのか。

吉田 提案のページの密度が薄い。のれ んミュージアムの提案が弱くて、しっく りこない。風呂上がりの火照った体を冷 ます場所が欲しいと僕はいつも思うが、 この提案では薄っぺらい休憩所がつな がっているだけのように見えてしまう。 黒岩千尋 共同湯は小さいからこそ住民 で管理でき、愛着をもっているのだと思 う。このような計画で規模が大きくなっ てしまうのはどうなのか。湯内で完結で きる上下の関係など、共同湯コミュニティ だからこその良い点を強調したい。

吉田 街とスキー場をつなげるための大 きな解決策として、人工地盤をつくると いう提案の前提の話をもっと説明した方 がいい。スキー場の下が良い空間になっ ているが、そのひとつだけの提案だと弱 いのでは。民間・公共全体など多くの主 体が関わるような提案でもいい。

矢口 プレゼンボードの図のスケールが 同じなので少し勿体無い。街のスケール、 提案部分にズームインしたスケール、断

草津坂
Walkers
チーム|あげまんじゅう 共同湯の再発見——草
つむぐ暮らしの未来像 7 チーム|なぎる
5——歩きたくなる草津へ チーム|Waseda
6湯畑観光体験の立体化
津のポテンシャルから
アクティビティーの
止まり木——スキー場 と温泉街を繋ぐ架け橋
チーム|のぼせ隊
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面図などがないので、いらない情報を捨 て必要な情報を載せるという作業が必要。

黒岩千尋 スケートリンクの話が出てき たが、草津はスキー文化がありオリンピッ ク選手も輩出している。また、つま恋は スケート文化が根付いているので文化を つむぐという観点もあってもいい。他の 観点では、近くに音楽ホールがあるが、 提案には組み込まないのか。

黒岩千智 ビジターセンター自体の有効 活用については考えているのか。

有賀 街からスキー場への動線だけでな く、夏にアウトドアのアクティビティを しにきた人をどう街中に向かわせるかと いう逆方向の意識も必要なのではないか。 様々な提案があるが、町とのつながりに ついて表現し、相乗効果があるような提 案が出てくると面白い。

9重層する草津景

チーム|TEAM9

有賀 歴史的文化景観、河岸景観という 「視線コリドー」を用いたガイドラインで あるはずだが、ゾーニングが重要なのか 観光ベルトが重要なのか、言葉がたくさ ん出てきて分かりづらい。何が大事なこ となのかを明確にしつつ整理するべき。 ゾーニングという手法ではできないこと を補うために「ベルト」という手法を導 入するのか、分かりやすくすることに加 えて、これに「エリア」という言葉がど う関係してくるのか。「ガイドライン」と 「プロポーザル」の関係も分かりやすくす るように。

吉江 コンセプトが「遠景」「中景」「近景」 だけだと、聞き手には共感されづらいの では。何が問題意識で、どのようなビジョ ンを実現しようとしているのかわかりに くい。

有賀 全体のマスタープランで、各プロ ポーザルで取り組む課題を示したらいい かもしれない。課題解決型の提案なら、 明確な課題を示すとそれに向けてガイド ラインをどのように使うのかが分かる。

矢口 敷地分析をしっかり行って、地域 の課題や着目点を提示するとわかりやす くなる。

有賀 大きなスケールの提案と、その提 案の実現例としてのプロポーザルが位置 付けられていない。それをプレゼンテー ションのはじめに示すべき。

黒岩千尋 何をどうしたいのか分かりづらかった。 都市計画だったら、景観をよくするため の減築の方法を提示してあげられたらい い。発表では歴史的資源と言っていたが、 歴史的資源をどうしたいのかをもう少し 知りたい。

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2019 年6 月26 日

於 天狗山レストハウス 大ホール

誘発される歩み

チーム|Working on Sunday

・なぜ中央通りの入り口のところにバス ターミナルが置かれたのか。

バスターミナルが今の位置にあるこ とで、中央通りの北側にはあまり行かな い。草軽鉄道の駅があった場所にバスター ミナルをつくることで、中央通りの入り 口を意識さけ、中央通りに人びとを誘引 できるのではないかと考えた。

・道の舗装が石畳だったりすると面白いか もしれない。その場合は、冬はどうする か考える必要はあるけども。

・コミュニティバスの停留所はどのような 役割をもつ位置づけか。

——住民が使えるコミュニティバスが地 域にはあまりない。観光客と住民が乖離 しすぎないように、バスターミナルとと もにコミュニティバスの停留所を作るこ とでその距離を詰められるのではないか と考えた。

育むのに、昔あったような縁側を引用し て現代風の提案に落とし込んでいるのは 良いと感じた。

・接道不良なのに、なぜ家が建ってしまっ たのか。また、この問題をどのように解 決したらよいのか。誰が主体になって計 画を進めるのか。

——殿塚には路地の魅力があるので、そ の道の幅員を広げるのではなく、路地の 裏にある道を公道とみなし、そのネット ワークを充実させることで緊急車両が通 れるようにする。計画の主体は行政と考 えている。

・法律の体系のなかで、草津町では1.8m の幅員があれば道とみなされてきた。た だ、前面道路に対する容積率の超過とい う問題がある。道路を新しく引き直さな ければ、建物の認可が下りてこないので はないか。

津の住民の生活の根底にある文化を継承 してきた人びとであり、そのような場の 歴史性を継承できたらよいと思う。

チーム|つなぎ手

・この提案の対象地は居住者の少ない住宅 地だったが、だんだん人口が増加し、雑 然とした住宅地になってしまった。現在 は空き家が多くなっていることは大きな 問題だ。昔はそのような空き地には緑が あったので、そのような風景に戻すのが いいのではと思っていたが、今回のよう な提案も面白いと思う。

・住民にとっては、ある程度住みやすい場 所ではある。今は過渡期で住民の層も変 化しており、住宅地も整理され始めてい る。地域の公園やポケットパークがない のは問題であり、そのような居住者のた めの空間が増えるともっと住みよいので はないか。また、地域のコミュニティを

チーム|ちびきゅうり

・地蔵の湯から延びる急斜面はどのように するのか。きつい急斜面であり住民が所 有する敷地なので、どのように整理する のか。

——この提案では歩道をうまく計画する ことで、最終的に地蔵通りからフラット な動線で行けるようにしている。

・現在、竹下地区は少し間が抜けている状 況だ。熱帯圏のさらに奥から湯畑の方面 を一体的につなげていきたいと考えてい た。熱帯圏も必要な観光資材だという認 識なので、今後どうにかしていかねばな らないと考えている。

・文化の継承、文化という言葉が気になっ た。文化というのはコンフォール・リー やハンセン病という歴史や熱帯圏のよう な施設のことなのか。もっと古い歴史の ことか。どのようなものか。

——草津の人びとの生活に根差したよう な文化について考えていた。コンフォー ル・リーもハンセン病の方々も現在の草

・みなさんの提案で話されていた、ウェル カム感という言葉についてもっと掘り下 げて聞いてみたい。

——調査中に一番印象に残ったのが、観 光客に対するヒアリングで聞いた「バス ターミナルを降りたところでどっちに湯 畑があるかわからない」ということだっ た。バスを降りた瞬間に湯畑を感じられ るような場所が必要だと思った。そのた め、湯畑の入り口となる場所にウェルカ ム感を創出するものがあるとよいのでは ないかと考えた。

・現在あるものを生かしてウェルカム感の 創出はできないか。

——観光バスで草津に来る観光客が圧倒 的に多かった。立体駐車場の一番上から 湯畑や草津を見渡せられるようになって いることを生かして、バスを降りた観光 客をうまく誘導し、そこから景色を見渡 して行きたい場所を決めたりできると楽 しいのではないか。

・子ども食堂の話は中間発表で聞いていた ので楽しみにしていた。

・殿塚のエリアはシングルマザーが多い地 域だ。母親が朝から晩まで働いていて、 働いている人や子供がゆっくり過ごせる 場所がない。殿塚の公民館も鍵がいつも かかっているような場所で、いつでも入 れる状況にない。この提案のような施設 が充実してくると働いている人からする ととても助かる。

——中央通りの地域資 源の再編を通して
『みち』の連なり、『くらし』 の結び——『みち』を介し た人と町の新陳代謝
眠れる文化の継承 ——地蔵・大滝エリア 再編集
4 チーム|給食係
5——歩きたくなる草津へ
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食でつながる——持続可 能な草津に向けた新しい 食生活スタイルの発信
草津坂
チーム|Waseda Walkers
現地最終発表会
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・坂が多い地形というのはそのとおりであ る。自分も最近では歩くようにしていて、 同じルートを使わないように工夫してい ろいろな場所を歩いている。坂は本当に きついが、歩いていると気持ちがよく、 とても良い提案だと思った。途中で花を みつけてほっこりしたり、こんな景色が あったのか、という発見ができることも ある。ただ、お年寄りが歩いていてきつ そうな姿も見るので、この提案のような 施設だったり工夫があるとよいなと思っ た。

・すぐできる提案だなと、率直に面白いと 思った。具体的なプロデュースやプロモー ションも絡めていけたら楽しいと思う。 ・この町には坂や細道が多い。実はこれも 観光資源として使えるのではないかと 思っていた。特に湯畑を中心として放射 状に延びている道や坂を整備して、面白 い空間にできたらいい。草津にたくさん ある施設を結ぶ大事なネットワークでも あるので、これからも大切にしていきた いと思う。

う。また、湯畑の入り口部分を塞ぐよう な通路になってしまわないか、と心配だ。 ——なるべく柱などが入り口部分に出て こないような工夫を盛り込んでいくこと は必要だと考えている。その点に関して はうまくデザインすることで解決できる と考えている。

湯の前などの開けた空間で湯の文化や歴 史を伝えていき、大切にしていけたらい いと思う。また、調査中には住民も観光 客に気を配って話しかけたり、声掛けを していたりしている様子がみられた。そ れが30年後や40年後を考えたときに保 たれてゆけるか。現在のように声掛けを できるような、そこを訪れる人びとを大 切にできるような住民を育てていけるよ うな場に、共同湯がなっていけたらと考 えている。

・共同湯は草津の温泉のルールや条例が元 になってできている。旅館に訪れるお客 様と住民の間でトラブルが生まれないよ うにするため、住民が入れるように造ら れた。地域ごとにお湯の管理をどのよう にしていくのか、というのは確かに草津 の共同湯の問題でもある。だが、私自身 は共同湯は大変大切な地域の資源である と考えている。地域の中心となるような 場所になればいいと思う。予算の許す限 り建て替えや改修を行っていこうと考え ている。また、緑の湯はもともとペンショ ンであり、温泉をつくりたかったが、お 湯が足りなくて共同湯として活用された 背景がある。

・湯畑を立体化して様々な景観を楽しめる ようにすることは、観光客にとっても住 民にとってもとても魅力ある提案だと 思って聞いていた。

・近くに住んでいる身としては、時間ごと に車を制限して搬入やチェックイン・ チェックアウトの時間もスムーズにでき ればよいが、なかなかそのようにうまく いかないのが現状だ。また、建物の屋上 や上階を作ることは難しいかもしれない ので別のプログラムを考えなければいけ ないかもしれない。

・提案されているデッキの材質は何か。湯 畑の近くなので材質には気を使ったほう がいいと思う。

——骨組み等の構造部分は鉄骨でないと もたないかもしれない。舗装や手すり等 はなるべく木で作って、柔らかい印象の 空間にできたらと思う。

・心配なのは冬の雪だ。少し危ないかと思

・地域の住民と観光客のコミュニティが生 まれるような共同湯もすでにある。この ような周囲の環境も含めた提案はとても 参考になった。これから立て替えていく ことがあればぜひとも参考にしたい。

・現代は昔よりも個人の時間や個人の世界 を大切にする。温泉はいろいろな人が入 り混じるような空間であり、入りにくい、 という人が増えている。共同湯において もそうなのではないか。この空間を大切 にしながらコミュニケーションを生み出 す空間のメリハリをつけ、それらを行き 来できるようなフレキシブルな提案があ るといい。その点についてはどう考えて いるか。

——共同湯に入る観光客も近年では増加 している。今もすでに時間湯などがある。

現在はどちらかというと共同湯は観光寄 りのものになってきているとも思う。住 民に対しても、観光客に対しても、共同

・草津の観光スポットというと、湯畑、西 の河原、白根山という3つが代表的なも のだと思う。西の河原の奥のエリアの活 性化は課題になっている。いろんなアイ ディアがあるので、アクティビティや人 びとを引き込むための動線であったり、 今後参考にできそうなものが多いと感じ た。

・6班の湯畑観光の立体化の提案とあわせ てみるともっと面白そうだと感じた。湯 畑の活性化とそこから観光を始める観光 客をつなげていけたら面白いのでは。

・草津の周囲の山々の景観を大切にするた めに建物の低層化も進めているが、法的 拘束力がないからなかなか実現していな いのが現状だ。だが、このような夢をもっ て草津の景観の保全に努めることはとて も大切なことだと感じた。

6湯畑観光体験の立体化
チーム|なぎる 9重層する草津景 チーム|TEAM9
チーム|あげまんじゅう 共同湯の再発見——草 津のポテンシャルから つむぐ暮らしの未来像 7
アクティビティーの 止まり木——スキー場 と温泉街を繋ぐ架け橋
8 チーム|のぼせ隊
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指導教員

有賀隆   (早稲田大学理工学術院教授)

矢口哲也  (早稲田大学理工学術院教授)

富田宏   (早稲田大学非常勤講師・株式会社 漁村計画代表取締役)

吉田道郎  (早稲田大学非常勤講師・(株)梵まちつくり研究所代表取締役)

三島由樹  (早稲田大学非常勤講師・株式会社 フォルク代表取締役)

阿部俊彦  (早稲田大学非常勤講師・ 合同会社 住まい・まちづくりデザインワークス代表)

吉江俊   (早稲田大学理工学術院講師)

ティーチング・アシスタント

石井健志郎(早稲田大学大学院創造理工学研究科)

伊藤ひなこ (早稲田大学大学院創造理工学研究科)

大石哲平  (早稲田大学大学院創造理工学研究科)

小山真由  (早稲田大学大学院創造理工学研究科)

津田基史  (早稲田大学大学院創造理工学研究科)

山田歩美  (早稲田大学大学院創造理工学研究科)

受講生

味方 唯

有森実希

五十嵐萌乃

石井万友奈

泉川時

今村亮太

上杉謙虎

王琦

木村貴広

金子海月

加藤公花

上高原将礼

河南奈々子

近重慧

左右田敢太

才間夏葵

須栗 諒

鈴木まる香

蔵茗

任田良平

友光俊介

中岡 暖

中村崚

林里菜子

原 望峰

前田楓馬

松井紅葉

村松大地

以上、早稲田大学創造理工学部建築学科

村松 美邑

森本菜月

柳瀬千裕

山川冴子

吉村佳津司

吉野 良祐 和出好華

Clément Gauchet-Dumortier

Dai Bowei

Lee Ho

Pommaret Clement

Tan Huiyu

発行:早稲田大学創造理工学部建築学科  2019 年11月 (冊子編集:吉江俊)

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