早稲田大学建築学科 2018年度設計演習F

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1 早稲田大学創造理工学部建築学科 設計演習F 目次 はじめに 演習概要 対象地概要 提案概要 各チームの提案 合宿最終発表会 学内講評会 現地成果発表会 最終成果発表会 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 60 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 62 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 65 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 68

はじめに

東京都中央区「横山町・馬喰町問屋街」とその周辺地域には、繊維・衣料品を中心として非常に多くの商社・ 店舗が集積し、わが国最大の問屋街を形成しています。特に繊維品の現金問屋の集積は全国でも群を抜い ており、東京駅に近いことから交通利便性も高く、日本全国から小売業者が仕入れのために来街するほか、 アジア諸国のバイヤーをも惹きつける独特の個性ある商いのまちです。

一方、繊維・衣服等卸売業は昨今全国的に衰退傾向にあり、繊維問屋街では空洞化が進展しています。「横 山町・馬喰町」地区でも、顧客・売上が伸び悩んでおり、店舗数が減少するなど、かつてのにぎわいが失 われつつあります。また地域内には老朽化した建物も多く、問屋街の良さを生かしながら都市更新をどの ように進めていくのかが課題となっています。

この冊子は、早稲田大学建築学科でまちづくりを学ぶ学生たちが、問屋街と周辺との関係、これからの 商いのありかた、住まい方など、様々な要素を検証し、多様な機能が混在した都心部で実現されるべき豊 かな空間像と、それを実現するための仕組み・プログラムを提案したものです。

それぞれの案には、学生なりの横山町・馬喰町への思いやまちづくりのアイデアが込められています。 この冊子が、これからの商業空間を考えるためのアイデア集となって、問屋街とその周辺地域にとって少 しでも有意義なものになればと願っています。

また、今年度の「設計演習F」は、日本総合住生活株式会社の寄付講座として設置されました。寄付者 からは、資金的支援のみならず、合宿作業スタジオの貸借など、あらゆる側面から多大なご支援をいただ きました。さらに、「横山町・馬喰町問屋街」の皆様におかれましては、問屋街見学のコーディネートや学 生の調査協力など、多大なるご尽力を賜りました。その結果として、例年にも増して充実したカリキュラ ムが実現し、高い教育効果と提案成果を達成することができました。記して感謝申し上げます。

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合宿作業風景 合宿最終発表会風景 合宿作業風景

演習概要

現地での徹底した調査、集中作業合宿など一連のグループワークを通して、提案をまとめました。5月 上旬の集中作業合宿中には、共同作業、テーマ設定を行いました。その後大学にその成果を持ち帰って、 さらに発展させてまとめ直し、6月初旬の学内講評会を経て、7月初旬に「横山町・馬喰町問屋街」の皆 様の前で、また7月下旬にはJS・URの皆様の前で2度に渡り成果発表会を開催しました。

4/4    オリエンテーション/講義

• 課題説明

4/12   現地見学/講義

• 「横山町・馬喰町問屋街」の見学

• 株式会社宮入 代表取締役社長 宮入正英様 講義 4/18   エスキス/講義

• ファーストインプレッション発表、グルーピング

• 日本総合住生活株式会社 代表取締役社長 廣兼周一様 講義

• UR都市機構 中央区エリア計画課長 田中佐和子様 講義 4/25   エスキス

• グループ調査結果に関するエスキス 4/27   現地途中経過発表

• 参加者:横山町奉仕会の皆様

教員及び学生

• プレゼンボードを使った口頭発表と講評 5/7〜11 集中作業合宿(熱海)

• 作業及び討論、ピンナップとエスキス

• 提案の全体構成案の作成

• 合宿最終発表会(於 KKRホテル熱海) 5/16   エスキス

• 提案の精緻化のためのエスキス

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5/23   学内中間発表会

• 参加者:教員及び学生

• プレゼンボードを使った口頭発表と講評

5/30   エスキス/講義

• 最終提案の骨格の確定

• プレゼンテーション図面の作成

• 中央区都市整備部 栗村一彰様 講義

6/6    学内講評会(於 早稲田大学西早稲田キャンパス)

• 参加者:教員及び学生

• プレゼンボードを使った口頭発表と講評

7/6    現地成果発表会(於 横山町奉仕会館)

• 参加者:横山町奉仕会の皆様

JSの皆様

教員及び学生

• プレゼンボードを使った口頭発表と講評

7/25   最終成果発表会(於 TKP神田ビジネスセンター)

• 参加者:JSの皆様

UR都市機構の皆様

中央区の皆様

教員及び学生

• ポスターセッション

• プレゼンボードを使った口頭発表と講評

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対象地概要

今年度の設計演習Fは、東京都中央区に位置する我が国最大の問屋街である「横山町・馬喰町問屋街」 とその周辺地域を対象としました。

昨今、繊維・衣服等卸売業は衰退傾向にあり、繊維問屋街の空洞化が全国的に進展しています。今回の 「横山町・馬喰町問屋街」も例外ではなく、店舗数の減少や建物の老朽化などが生じてかつてのにぎわいが 失われつつあります。一方で地域内では、小規模な都市更新が活発化しており、老朽化建物のリノベーショ ン等が進み、そこへ若手デザイナーの店舗、小規模宿泊施設(ホステル等)、高感度なレストラン・カフェ など、新しい機能が徐々に入り込むことで、新たなまちの魅力が育まれつつあります。このように、当該 地域は再生へと着実に歩みだしており、都市計画・アーバンデザイン的観点から見ても、多様な空間スケー ルにわたって、具体的な“まちの空間像”とその実現手段についてさらに考えを深めていく絶好の契機に あると言えます。

学生たちは、きめ細やかな現地調査を基に、問屋街や周辺地域が持つ魅力、潜在的な問題、隠れた需要 などを読み取った上で、射程距離の長い問題提起とその解答の提示を試みました。

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商品の溢れ出しと仕入れ風景 ホテル建設が進む横山町・馬喰町 人々が行き交う「横山町・馬喰町問屋街」

全8チームの提案概要です。問屋街の再生を端緒として、周辺地域をふくめた都市的な視点から、まち の将来像を構想し、混在型市街地のまちづくり・空間デザインを提案しました。

■ 縮絨の街路デザイン

team blue print(伊藤日向子・杉原舞衣・瀬賀史恵・津田基史)

ビルオーナーの多様なニーズに合った、多様で段階的な小〜中規模建て替えの連鎖 により、問屋街のにぎわいと、新たに流入する「住」の良好な環境とが共存できるビジョ ンを提案しました。街路ごとの特徴を明確にするとともに、垂直方向に機能を整理す るなどして、内外における「問屋街」としての魅力を維持しつつ、生活支援機能の充 実や通り抜け通路などを付加し、質の高い住環境を合わせて実現します。

■ 選び取る街-スタイリングシティ横山町-

team えらぶくらぶ(黒澤翔・新里真奈美・吉葉颯花・山﨑凌・高永超)  「人がモノのスタイルに合わせる」大量生産・大量消費時代の価値に代わる、「モノ が人のスタイルに合わせる」という新しい価値を、横山町から世界へと発信していき ます。横山町は、問屋が持つ「目利き」の能力を活かし、1人1人に合った商品を世 界中から選び取り提供する街「スタイリングシティ」として生まれ変わり、世界のフェ アトレード商品の生産地域と協働することで、商品を介して発展途上国の生産者の生 活向上を支える街になっていきます。

■ ものがたりを紡ぐ道

team Point de Contact(村本孝之・中山雄生・村井瑞希・Deborah Marseilles・大石哲平)  馬喰横山町問屋街は、豊かな「物語性」を秘めた街です。歴史や文化の積層、生活 の滲み出しなど、沢山の小さな物語の種が存在しています。そうした地域の記憶を、 生活動線と流通導線の整理を通して掘り起こし、横山町のなりわいと生活の記憶を可 視化することで、まちのものがたりを紡いでいきます。問屋らしさが表出する道空間 を活かしてものがたりが紡がれ、分節化された都市のコミュニティもまた、紡がれて いくことを提案しました。

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提案概要 問屋街を中心とした 混在型市街地のまちづくり・空間デザイン

■ 共創するまち-個人クリエイターによる問屋街の更新-

team 共創する班(富樫遼太・日野涼・山田歩美・吉橋航二郎・本間陽輔)  問屋街の「雑多性」がもつ空間としてのポテンシャルに着目し、町全体を使った創 造的なワークプレイスを計画しました。新たなプレイヤーとして、「クリエイター」を ターゲットに定め、ビルオーナーが「ツールボックス」から選択した小規模な改修を 行うことで、ビルの空き室を軽やかにつないでいきます。数カ所設置したコア施設等 はクリエイターとの協働の場となり、町全体はフリーアドレスのおおきなワークプレ イスへと変わっていきます。

■ 東京のグローバル縮図街

-馬喰横山を拠点に滞在する外国人を契機とした街の提案- team デラックスごはん(小山真由・豊岡哲生・鍾政霖・加藤雅大・笹森達也)  馬喰町が多くの訪日外国人のハブとなっていることに注目し、これからの問屋街が あるべき、グローバル化したまちの将来像を構想しました。外国人滞在者が一時的に 東京という都市と馬喰横山を回遊しながら住まうことで、「旅行者以上、住民未満」の 振る舞いが街の中に現れます。東京中の流通や文化が馬喰町に凝縮し、馬喰町は外国 人の滞在拠点として東京の「縮図街」になっていきます。

■ ここにしかない大学の形-早稲田大学馬喰横山分校-

team 一期生(金子柚那・朱曦・浅野実梢・石井健志郎・大下征敏)  問屋街の建物の一部では、老朽化や空きスペースの増加が見られます。この提案で は、それらを空間資源として活用し、新たな「大学」を日本橋問屋街に設立することで、 街に若者を呼びこむことを考えました。馬喰町・横山町が持つ、専門性が高い人材/ 人脈/ストックを活用しながら、社会における実践を通した学びを行うことで、アカ デミックな知識の植え付けだけではない、「ここにしかない」学びの体験を提供します。

■ 未来の「横山町民」をはぐくむ場

-“間”の場づくりによって高める横山町のレジリエンス- team 超民会(北條光彩季・松浦遥・張薇・山田将弘)  新規住民が流入してきた横山町の、一体感とそれがもたらすレジリエンス(災害など が起こった時の町民による街の自然回復力)をいかに維持していくかを考えました。そ こで、町民間の交流のきっかけとなる「場」づくりを提案します。「センイ」×「衣・食・住・ 公」のフレームに当てはめた四つの「場」によって段階的にアプローチすることにより、 町民の相互理解とコミュニティ形成を促進させ、未来の「横山町民」を育みます。

■ あいまい空間による、らしさの継承とまちの更新 team あいまいもこ(澤田郁実・矢野有香子・William Sharp・砂川良太)

倉庫のように使われるスキマ、お店のように使われる街路。このような、管理が曖 昧で地元の人が自発的に使える空間を「あいまい空間」と呼ぶことにします。この「あ いまい空間」の共有利用によって、作業の効率化が進み、活気ある商いの空間が生ま れています。そこで、段階的な建て替えにより、問屋街の内側に「あいまい空間」のネッ トワークを作ることを提案しました。問屋の搬入動線として、または住人との共有ス ペースとして、「あいまい空間」を積極的にデザインし活用していきます。

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最終成果発表会風景

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現地成果発表会風景 学内講評会風景

各チームの提案

■ 縮絨の街路デザイン

team blue print

■ 選び取る街

−スタイリングシティ横山町−

team えらぶくらぶ

■ ものがたりを紡ぐ道

team Point de Contact

■ 共創するまち

−個人クリエイターによる問屋街の更新−

team 共創する班

■ 東京のグローバル縮図街

−馬喰横山を拠点に滞在する外国人を契機とした街の提案−

team デラックスごはん

■ ここにしかない大学の形

−早稲田大学馬喰横山分校−

team 一期生

■ 未来の「横山町民」をはぐくむ場

−“間”の場づくりによって高める横山町のレジリエンス−

team 町民会

■ あいまい空間による、らしさの継承とまちの更新

team あいまいもこ

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合宿最終発表会

2018年5月11日 於 KKRホテル熱海

各チームとの質疑応答

縮絨をうながすデザイン

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・問屋街に人が住むとすると、買い物や飲

食など住以外の機能についても考える必要 があるのでは。

学生 子供が遊べる広場や生活用品を買う 場所、機材を共有して使えるスペースなど、

住のためのデザインを取り入れつつそれら が集積したまちのデザインを考えている。

・問屋街と住の共生のあり方をデザインす るという発想は良い。外部から観光客を呼

び込む視点はあるか。

学生 ホステルに聞き込み調査をしたとこ ろ、横山町には長期滞在者が多いというこ とだった。朝に観光に出かけて夜に帰って

くるそうだが、夜に行く場所がないという 声が多いようだ。宿泊者のための飲食店な どを充実させることでより多くの観光客を 呼び寄せることができるのではないか。

・昨今、住戸とオフィスが融合した形態な ど「住宅」の概念が広がっている。住宅と 問屋を分離するだけでなく、一緒に考える とより魅力的な案になる可能性がある。

行為と流れが紡ぐ接点

Point de Contact

・街路計画で人の「接点」をつくるアイデ アだが、まち自体についてはどのようなビ ジョンを持っているか。

・参加者:JSの皆様      教員及び学生 ・プレゼンボードを使った口頭発表と講評

学生 長期的に土地利用が縮小する部分 を、広場などアクセサブルな空間とし新た な動線を生み出すことで、営業を続ける問 屋と人々が寄り添っていくすがたを目指し ている。

・問屋街にとって重要な課題である駐車ス ペースについてはどう考えているか。

学生 現在、搬入のための車の多くは路上 駐車しており、それに歩行者の動線が重 なっている。このような動線の交錯を解決 するために、歩行者道路を提案したり、あ まり歩行者が通らないところに駐車場を集 約することなどを考えている。

・問屋にとっては店の前に停車するのが便 利だと思うが、対案はあるのか。

学生 搬入のトラックとバイヤーの車に分 けて駐車スペースを検討している。トラッ クに関しては荷台を使って搬入できるので はと考えた。一方で、バイヤーは問屋のす ぐそばに停車できる必要性が高く、街路両 側に駐車エリアを設置することを考えた。

・地下駐車場を整備し、それをシェアする ことも検討してはどうか。

未来の「横山町民」を育くむ-生活 となりわいの間の場づくり超民会

・生活と生業の「間をつなぐ」という発想 は面白い。今後案を詰めていく中で、イベ ントなどソフトの仕組みを組み込んでいく ことは考えているか。

学生 今後、ホステルやマンションの間に ある空間に合った提案を考えていきたい。

・機能をどのように誘致していくのかが課 題になってくるだろう。

・入り口に小売はしていませんという張り 紙を見かけたが、客観的に見て学生はどう 思っているのか。

学生 そういった張り紙がないほうが人の 流れなどは良くなると思った。

・「“町民度”を高めるためにはこういう要 素が必要だ」といった説明ができれば、活 性化の道筋が描けそうだ。

あいまい空間でまちを紡ぐ  あいまいもこ

・あいまい空間を住民も一緒に利用できる ようにすることで、お互いに寛容になれる という提案の方向性は良いが、実現の具体 策をつめる必要がある。

・都市再生の観点からは、着眼点がまだ弱 いように感じた。建て替えなども含めてど のような空間を作り出したいのか、都市計 画的な目線でも考えていくと良い。例えば、 まちのシンボルや訪れたときに記憶に残る ような場所を見つけることはできたか。 学生 建物に関しては、際立った色のファ サードなどが記憶に残っている。ただ全体 的印象としては、ハード面というよりも、 問屋街で車が徐行運転をしながら店の人に 声をかけるなど、独特な生活風景が問屋街 らしさを生み出しているように感じた。

・区画単位の提案に加え、町全体の将来像 をアピールできればより良い提案になる。

・問屋の荷物の出し入れ以外にも、問屋の 日常の仕事の様子であったり、日常生活の

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行動をリサーチした上で取り込んでいくこ とで、「あいまい空間」の使われ方をより 具体的に提案できるようになるだろう。

人と物の流れを再構築する  えらぶくらぶ

・それぞれのエリアで、特徴を色分けして 提案している点が面白いが、一方で狭いエ リアを区分けしすぎると、雑多な空間にな るおそれもあるので注意が必要だ。

・ストック活用イメージはどの程度あるか。

学生 段階的な実現プロセスの中で、一部 でストック活用を行うことを考えている。

・他のまちとの比較調査を行っているが、

どのような知見が得られたか。

学生 活力が維持されている多くの地域 では良好な住環境が担保され、まちのバ リューに結びついている。逆に問屋街は住 環境が整っていなくても繁栄しているのが 特徴だ。この特徴的な良さを活かしたまち づくりを進める必要があると考えている。

・工房を提案していたが、問屋街が必要と する工房の要素とはどのようなものか。

学生 このまちが持つポテンシャルを引き 出すために、繊維やファッションに関連す る工房が想定される。

・まちの魅力維持のためには、問屋の方々 の協力が一番重要なので、提案でもその点 をもう少し言及すると良い。

共創するまち-個人クリエイターに よる問屋街の更新-

共創する班

・プレゼンボードが色分けされていて見や すく、フェーズごとに説明してくれたこと も解りやすくて好感を持った。クリエイ ターを呼び込むということだが、周知の方 法についてはどう考えているか。

学生 クリエイターにアンケート調査をし たところ、普段の仕事はネット上で不自由 がないが、実際に出会う場が欲しいという ニーズは非常に高く強い手応えを感じてい る。また彼らは横の繋がりが強く、良いサー ビスは口コミで広がることが期待できる。

・提案しているような「リアルな協働の場」 が必要か、という問いに対してNoと答え た層を取り込むことは考えているか。

学生 「場が欲しい」という人が非常に多 かったので、まずはその層にアプローチし て、サービスを構築していく。「場」のイメー ジがわかず不要と答えた方もいるだろう。 サービスが一定水準になることで、段階的 に顧客を獲得していく。

・最初は利幅が薄くても、魅力的なものを 提供するが、将来的に資産価値が上がって いき収益も安定するというような、長期的 な展望があっても良い。

自走する都市のあり方-問屋コミュ ニティによる若者の参入サイクル一期生

・現時点で中央区には大学が少ないが、学 生はどのように集まってくるイメージか。

学生 産学連携が可視化された、まったく 新しい大学の姿を作り出すことで、区の内 外から学生や若者がこのまちに入って来る

ことを目指している。

・この提案で問屋が得られるメリットは何 か。

学生 学生を教育する過程で自分たちの会 社の商品などを用いたカリキュラムを組む ことにより、将来の担い手を育成すること や、問屋の存在価値を社会的にアピールす ること、まち全体の活性化などが考えられ る。

・現地にはすでにデザイナーの卵が集まっ てきており、効果的な提案だ。まちづくり 会社が横山町のランドマークとして機能す ることは考えているのか。

学生 まちの核としてまちづくり会社がサ イクルを回していくなかで、拠点的施設が 立ち上がってくれば、まちのランドマーク として根付くことも考えられる。

国際問屋計画-外国人バイヤー拠点 としてのまちづくり-  デラックスごはん

・外国人に対してのアンケート調査を行 なったとのことだが、どのようなニーズが 浮かび上がってきたか。

学生 夜の盛り場だったり、交流する場が あるといいという声が多数あった。

・馬喰町に泊まりながらも周りに出て行く 外国人を取り込もうということなのか。

学生 馬喰町で買い出しをする外国人も対 象としているが、宿泊だけの拠点にしてい る外国人も取り込んでいきたい。

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学内講評会

2018年6月6日

於 早稲田大学西早稲田キャンパス

・参加者:教員及び学生 ・プレゼンボードを使った口頭発表と講評

各チームとの質疑応答

縮絨の街路デザイン

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有賀  初めて聞いた人にも分かりやすい発 表にするために、最初に課題に対して「横 山町が将来どのような目標・ビジョンを持 つべきなのか」を述べ、その後に「実際の 空間にどう当てはめるか」というデザイン

の方法を述べると良い。この班の場合、将 来的に辿り着きたい目標空間像というの が、「自律的な共同建て替えを通して、3階 レベルで小さな路地庭を連鎖的に繋げなが ら生まれる、“生活”と“問屋”の新しい共 存の形」であるなら、まずはそれを明快に 述べる必要がある。骨格となる提案のポイ ントをちゃんと説明するべきで、その際に は模型を使うと良い。

阿部 この班の特徴は、再開発ではなく「修 復型」の建て替え改善という方法で、街区 全体を改造することだ。単に閉塞的な形態 が開放的になった、ということだけではな く、どの程度空地率が増えて容積率がどう 変わったかといった、数値的な説明も加味 すると分かりやすくなる。

杉浦  提案していることは細やかな建て替 え論だと思うが、できあがったものをみる と、大規模再開発のような全建て替えのよ うにも見えてしまう。せっかくできた3階 のオープンスペースも、人工地盤があるだ け。人々のいろんな活動が起こりそうな雰 囲気を表現すべき。

矢口  三つの街路というのがどれか分か らないので明示したほうがよい。一つの グラフィックに表現されている情報量が少 ないので、様々な情報を組み合わせたグラ フィックがあればより豊かに情報を伝える ことができる。

ものがたりを紡ぐ道

Point de Contact

山村  動線の再編と滞留の場づくりを同時 にやろうという提案。全体的には好感を 持ったが、タイポロジー分析とそのあとの 空間提案がうまく繋がっていない点が惜し い。間に、構造をダイアグラムで示したも のを挿入する必要がある。

有賀  街路と建物の1階部分に対する提案 だが、このガイドラインは、単にやりたい ことを実現するためにあるのではなく、ま ち全体のために街路空間を変えていく必要 があることを示すためのものであることを 認識すべき。時間をかけて官民共同で公共 部分と民地をどう共同・協調していくかを 決めるガイドラインになると良い。

杉浦  新しい車道を通しているのが肝だ が、そのために選定した場所が疑問だ。細 い方の道を、歩道空間として担保しておく ほうが良いように思える。分析の話を聞い ても、なぜ北側のほうに車道を設けて、従 来の南側を歩行空間にしたのか、それに対 する調査が不十分で、明確な説明に欠ける。

どうすれば問屋の物流と生活動線を両立で きるのかについて、さらなる説明が必要だ。

センイを介する未来の「横山町民」 をはぐくむ場-生活となりわいの “間”の場づくりによって高める横山 町のレジリエンス-

超民会

吉田  まちの中にこういうものを、なぜこ こにこの個数配置したのかという説明があ れば、単なる建築の説明だけでなくまち全 体の計画の説明になる。

有賀  防災にからめた提案は、日常時と防 災時に分けて考えることが必要だ。提案し てくれているのは、2つの街路における4 つの「生活」「生業」に対するプロジェク トだ。「生活」と「生業」の間をつなぐた めの4つのPJがあるということを冒頭で 定義してほしい。

杉浦  どういうテーマを設定したのかを、 初めにはっきり分かりやすく示したほうが 良い。災害時の時間フェーズ毎に、衣食住 防災に関する機能をどのように用意するか という事を、もっと説明するべきだ。

矢口  構想は比較的まち全体のことを考え ているのに、一つ一つのプランが独立しす ぎている。4つのPJがどうつながって、 平常時・非常時にどのように機能している のかが分からない。

有賀  設計論として明快で、言いたいこと が非常によく分かる提案。提案された「あ

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あいまい空間による、らしさの継承 とまちの更新 あいまいもこ

いまい空間」は、今の横山町に欠けている ものだ。これまで有効活用されてこなかっ た裏側の奥の空間の使い方や、内部階段し かないところを裏側から通すなどといっ た、新しい空間活用のすがたを提案できる 可能性がある。これからは、事業論にも踏 み込むと良い。地権者・所有関係の問題を 考えてみてほしい。

矢口  提案上肝になる一部の車道に関して は、現状どのような使われ方をしているの かをきっちり分析したうえで、殆ど使われ ていないから制度的に止めてしまおうとい う話にしても良いと思う。

杉浦  内側の道に車を通さないという点に 関しては、問屋の方にとってかなり抵抗感 があると思うので、どのように物流を整理 するか、より精緻な分析と説明が必要だ。 時間によって役割を分ける事もありえる。

選び取る街-スタイリングシティえらぶくらぶ

吉田  この班はアイデアが雑多にありす

ぎる印象で、「引き算」を考えたほうが良 い。今あるアイデアを取捨選択したうえで、 残った案に力を入れるべき。

富田  この(図面上の)車は何トントラッ クを想定しているのか。こんな曲がり方は できないのでは。

学生  詳細についてはまだ精査が足りない ので、これから詰めていきたい。

有賀 「スタイリングラボ」の設置が提案の 骨格だが、現状では敷地配置しか示されて いないので、建て替えの話なのかリノベー

ションで済む話なのかを含めて、実際の設 計が見えてこない。地元の人を説得しなけ れば実現できない内容なので、実際の設計 がイメージできるか否かで、地元のやる気 を引き出せるかが変わってくる。

阿部  現実にやれそうなことなので、時間 的なプログラムを作ると良い。最終形態だ けでなく、段階的な計画を見せると効果的 だ。

矢口  問屋とウィンウィンの関係を提案し てくれるのかと思ったが、まだそこまで 至っていない。問屋にとって小売ができな い代わりに、何がメリットになるのかを考 えるべき。

有賀  問屋が自らの空間をうまく活用し て、自らがスタイリストになっていくとい う話であれば、地元の人が主体的に取り組 めるのでは。

共創する街-個人クリエイターによ る問屋街の更新共創する班

有賀  提案している新たな動線は、既存建 物を一部壊して挿入されるのか、あるいは 外側を這わせるのかを明確にするべき。そ の際、土地の所有を考慮しなければいけな い。提案を実現する為に誰かが土地を買収 するのか、あるいは今所有している人が持 ち続けるのかなど。

学生  これまではとにかく動線をつくると いうことを目的に進めてきたが、具体的に 既存建物をどの程度残すか、あるいは土地 建物の所有を含む事業のあり方について

は、これから考えていきたい。

矢口  様々な働き方ができる場を作るとい う話だと思うが、図面からはそれがあまり 感じられない。どのようなワークプレイス を作っているのかが、まだ見えてこない。 有賀  根本的な疑問なのだが、提案してい る内容としてはコアとなる三角地帯から計 画の効果が始まって、全体に拡張している という話なのに、実際には小規模な計画が ただ分散しているにすぎないのでは。

東京の縮図エントランス-馬喰町を 拠点に滞在する外国人へのグローバ ルな街の提案-  デラックスごはん

有賀  横山町・馬喰町で宿泊している外国 人バイヤーが、日中どのように東京を動き まわり、夜戻ってきてどのように生活して いるのかについて、一枚の図で表現してほ しい。また、横山町・馬喰町全体が「凝縮 した東京」となるという提案だが、やはり ゾーンとしての構想があったほうが良い。 矢口  この提案をすることで、現状からど う変わってくるのかを見せないといけな い。どういう風に外国人バイヤーが街の中 を動くようになるのかを見せないと「無理 やり作りました」だけで終わってしまう。 吉田  提案場所が入口だけになってしまう のはもったいない。横山まち全体が一つの 大きな外国人バイヤーの家だと考えれば、 現状では3つの「玄関」しか提案できてい ない。寝室やミーティングルーム、ダイニ ングはどこにあるのか、団欒できる場はど

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こになるのか、など提案するべきことはた くさんある。君たちの面白い発見は、外国 人がこのまちを拠点に他の東京に散らばっ ているということ。それを魚眼マップの図 に入れて示していくと良い。

富田  それぞれがバラバラで提案の全体像 が分からないのが問題。また、ホテルはこ の提案において大切なのでもっと強調すべ き。それと外国人バイヤーの話なら、魚眼 マップの中に空港と飛行機を含めなければ いけない。

有賀  観光客が増えるからインフラを増強 させる、という理屈は理解できるが、ここ を単純に「目的地化」させるのではなく、 よりきめ細やかな提案が必要ではないか。

まちづくり基盤としての馬喰大学の 設立とあり方

吉田  全体的にボードのトーンが暗いこと が気になる。大学というものがもつ「明る

さ」や「楽しさ」を表現すべきだ。また、 まち全体に大学が浸透していってストック も埋まっていくということを目指してい るのだから、既存の空間に大学機能がどの ように立体的に組み込まれていくのかを示 す「決め図」が欲しい。例えばコロンビア 大学やボローニャ大学のキャンパスマップ は、まちに分散していて面白いので参考に なる。

杉浦  大学を設立する理由が「空きストッ クを埋めるため」だけでは夢がない。大学

を作るには、もっと大きな理由付けが必要 で、場所としていかにここがふさわしいか を説明する必要がある。今まで問屋街とし てしか見られてこなかった横山町・馬喰町 のまちづくりを、大学のような長期的なビ ジョンを持った計画と連携させるには、こ こに大学を作ることのポテンシャルをしっ かり検討しなければならない。現時点では 既存の専門学校でも可能なプランにも見え る。

山村  この大学は誰が運営するのかを考え るべき。事業は単に資金が集まればできる ものではなくやはり「人」が重要だ。共同 出資する人々とどのような未来像を共有す るかといった細やかな配慮が必要。

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一期生

現地成果発表会

各チームとの質疑応答

縮絨の街路デザイン

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・ 30年間というスパンの提案を、都市計 画的にどのように導いていくのかがよく分 からない。考えるスパンが、私たちの感覚 と異なるのかもしれないが、想像しづらい。

・空中回廊みたいになるのか。

学生 空中回廊のようなものもあれば、建 物内部にまで入り込んでいるものもある。

・ 都市計画をやるときの最低限の礼儀とし て、「縮絨」や「排他性」といった、地域 に対してのネガティブな言い方はやめるべ きだ。次に、通りに対しての提案は面白い が、面白い建築空間にはなっても面白い商 業空間にはならない。商売に対する知見の 弱さが表れている。回遊性が増すというビ ジョンは良い。

ものがたりを紡ぐ道

Point de Contact

・ 機能で三つに分けているところは、先ほ どの班が通りの特徴を三つに分けたことと 共通しているのだろうか。それから、歴史 を学ぶゾーンをつくって、商売以外の人々 も遊びに来られる場所を作るのは面白いと 思った。我々も今後そのようなところを考 えていきたいし、若い後継者もその様なこ とを考えていたりする。

・ 物流をそこでやったとして他の問屋はど

うするのか。

・参加者:横山町奉仕会の皆様

JSの皆様

教員及び学生

・プレゼンボードを使った口頭発表と講評

学生 歩いて配送できるような通りを設け ている。

・ 1日にダンボールが100個も届くよう な店だと、それではビジネスが成り立たな い。ゾーニングという考えは理解できるし、 歴史を紡ぐという意味での意匠は参考に なったが、通れなくなったら物流が死んで しまう。意匠としてのこのような考えはも ちろん面白いが、ネガティブなことを言っ ても仕方がない。また交流の断絶とあるが、 まちとしては150社もの交流がある。

未来の「横山町民」をはぐくむ場-“間” の場づくりによって高める横山町の レジリエンス超民会

・“薄れゆく歴史”や“互いに無関心”といっ たような分析があったが、実際には色々と 良い面もある。ただ防災に関しては我々も 考えなくてはならない。

・ 発表自体は大規模開発ではなく身の丈に あった計画で、好感が持てるし面白いと 思った。しかし、レジリエンスが低いと指 摘していたが、このまちよりレジリエンス が高い町は一体どこにあるのだろうか。

学生  個人的な考えだが、例えば私が住ん でいる江戸川区のまちはレジリエンスが高 い。古参のお魚屋さんが毎日街頭に立ち漬 物づくりを小学生に教えていたり、そのほ かにも様々な住民間交流がある。馬喰町も、 三角形のエッジの部分を小学生を含めて多 様な人々が行き交っているし、繊維製品の

ハギレなども交流のきっかけとなるポテン シャルがある。それらを地域に還元できれ ばレジリエンスをもっと高めていけると考 えた。

・「増えつつある子育て世代」に関する説明 は納得のいくものだった。このまちにもか つては子供達がいてまちで育っていた。そ して今、またマンションが建って子育て世 代がやってきて、まちが復活してきた。だ から将来に対する芽は何かあるのかもしれ ない、ということは腑に落ちる話だった。 子育て世代が多いという着眼点は良いと 思ったし、我々もこれから意識していかな ければならない。

あいまい空間による、らしさの継承 とまちの更新 あいまいもこ

・「あいまいな空間」の着想と、そのような 場所をうまく使って提案している点は面白 いと思う。しかし建築の更新方法に関して は、あいまい空間を優先するがために建物 の建築面積が減っており、それを代わりに 上層で補充するということでは、元々一階 で成り立っていた物流が成り立たなくなる 懸念がある。

・ 路地や裏空間をつくる発想は下町のよう で面白いし賛成したい。ただ商業のことを 真剣に考えると、共同建築した場合に商業 として魅力的な空間にすることは極めて難 しく、その点に対する考察がないと中々話 は進まない。商業をしなくなった人が共同 で建て直すのは簡単だが、商業地域での広

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2018年7月6日 於 横山町奉仕会館

範囲な計画では、緩やかにリノベーション しながら更新していくような複眼的な考え 方をしないと難しいだろう。新しい建築を 建てる時に裏空間を作ろうという発想自体 は非常に面白かったと思う。

選び取る街-スタイリングシティ横

山町えらぶくらぶ

・ 全体的にこんなまちがあったらいいなと

思える内容だったが、実際にやるとなると かなりお金がかかるのがネックだ。

・ これから段々と変わっていく機能に関す る考察をしてくれたのは非常に面白いと思

うが、提案してくれたこれらの機能だけで はまちは保たれない。しかし、大規模開発 ではなく、機能をどうしていったらいいか という点を考えてくれた点は良かった。僕

たちもこれから新しい問屋街を考える上で 機能的なことを考えなければならない。そ

の中で、問屋街の遺伝子だけでそれらを作 るのではなく、外部の遺伝子も入り込める ようなスペースを作ろうということも考え ている点は参考になる。

共創するまち-個人クリエイターに よる問屋街の更新共創する班

・ ビルを大きく建て直すわけではない提案 で面白いが、古いビルにこんなことをして 大丈夫なのかと心配になる。耐震的な点は もちろんそうだがビルによってオーナーの

意見も異なるため、防犯やセキュリティー といった点も考えなければいけない。しか しツールボックスのような「少しの工夫」

を積み重ねることによって、まちが良く なっていくという考えは面白いと思った。

・ 中古ビルの再生から考えたのは面白い。 デザインの力、特に小さな店でもいくつか の象徴的なデザインを加えることによって まちの空間は少しずつ変わっていくし、こ れを契機として大きな変化にも繋がってい きそうだ。そうすることによってクリエイ ターも誘致できる。リノベーションを含め た方法でまちを徐々に変えていき、それが 時代の変遷の中で積み重なり、やがて10 年20年経った時に大規模開発をしなくて も気づいたらまちが面白く変わっている。 そのようなことも、計画としては必要だと 思う。ツールボックスというような部分的 な提案は、僕ら中小資本の人たちにとって はとても面白く感じる。オーナーシップを 失わずにまちの魅力を向上させるのには良 いかもしれないと思った。

東京のグローバル縮図街-馬喰横山 を拠点に滞在する外国人を契機とし た街の提案-  デラックスごはん

・ 外国人をキーワードにしてまちを活性化 しようとするのは面白い。ここに来る年間 16万人のうちの10%がバイヤーという のは驚きだが、現状ではそれを利用しきれ ていない事が分かった。今後減っていく日 本人を相手に商売をしているので、この提

案のような働きかけが必要だと感じた。 ・ 先輩方から厳しいコメントも出たが、授 業とはいえ我々のまちのことを考えてくれ たこと、一生懸命やってくれたことに感謝 している。ただこの案については、アイディ アの前半と後半がくっついてないように 思った。海外の方がたくさん来ている実態 から、どうやって海外の人たちがこの拠点 をうまく使ってくれるかというフェーズま で、もう少し深めてくれると良かった。具 体的に出てきている提案は、3つ並ぶ問屋 同士をくっつけてセットバックするという ものだが、まだ提案性が弱く実現性も低い ように感じた。

・ カタログシティというのはやはり難しい と思う。婦人服などはおよそ10万から 100万点あるとスタイリング提案やカタ ログ化ができる。逆に言えばそれくらいな いとできない。世界中の様々な商品を扱う となると、ネットとの連携も大切になるだ ろう。また、しっかりしたバイヤーは最高 級の宿に泊まるだろうから、どのような客 層を相手にするかも考えないといけない。 一方、あまり低い客層ばかり狙っていると、 まちとしてもいろんな問題が出てくるだろ う。民泊も認められてきた中でどのように 経営していくかなど、もう少し社会変化と 時間軸に対する考察が必要かもしれない。 ただその出発点として、外国人に着目して 計画を行ったのは良い。

ここにしかない大学の形-早稲田大 学馬喰横山分校-  一期生

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・ 産学間連携を我々の方針としても挙げて いるので非常に興味深く、具体的なアイデ アを深めてくれてうれしい。10年ほど前

にファッション系大学・専門学校とファッ ションショーをやったこともあるが、今で は少なくなっている。この提案を切り口に そのような関わりを取り戻していくという 考えは面白い。

・ 着眼点として大学というのはすばらしく て、やはり文化的なものはまちの価値を下 げる事は絶対ない。こういうプランは、自

治体に言って、具体的な提案にしてもらえ ると良いんじゃないか。今、中央区の晴海 の選手村を開発しているが、選手村として の機能が終わるとマンションにするなどし

て売り払い、保育園や小学校とかを設置し てまちを作っていくという事になる。その 時に大学を誘致すると、廃れずに100年 後、200年後も文化的価値をもっている

ような都市になっているのでは。

・ 飛躍したアイディアで面白い。実際、僕 らも学校やサテライトオフィスを誘致しよ うとしたことがある。仕入側との連携も考

えながら、こっちのサテライトオフィスを 作ってもらうとか、墨田川との連携を考え てくれるなどすれば、より大きなグランド デザインになる。発想がこれだけ飛んでく れるといろんな考え方も出てくるし、クオ リティを上げて提案してくれると面白い。

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最終成果発表会

2018年7月25日

於 TKP神田ビジネスセンター

各チームとの質疑応答

あいまい空間による、らしさの継承 とまちの更新 あいまいもこ

・「あいまい空間」を新たに作るとは、元々 あったあいまいな空間に、さらに付加して いくということか。

学生 あいまいな空間は元々あるが、駐車 場などの空間に付随させて広げていこうと 考えている。また、建て替えを行う中でも 少しずつ新たに作っていこうという提案 だ。

・建て替えで床面積は減るのか。

学生 建築面積が小さくなる場合もある が、その場合は上層に広げたり地下空間を 作ることで、等価交換以上にはなるように 心がけている。

・ あいまいな空間にどのような魅力を見い 出したのか。

学生 「あいまい空間」は、まちの人が自 発的にまちを使いこなしていくことで生ま れるもので、まちらしさがにじみ出る空間 である。そのような自発的な使いこなし空 間を意図的に作り出すことで活気を生み出 したい。

縮絨の街路デザイン

blue print

・ プログラムや小規模な提案で終わる案が 多い中で、ゴールを見据えて建築による解

・参加者: JSの皆様

UR都市機構の皆様

中央区の皆様

教員及び学生

・ポスターセッション

・プレゼンボードを使った口頭発表と講評

決を提示しようとした姿勢を高く評価した い。特に、立体的な空中通路は少し前時代 的にも見え本当に住民と問屋を分けていい のか疑問に感じられるかもしれないが、最 終的な将来像が明確に描かれていて、こ うなったら良いなと思えるものになってい る。槇さんが幕張メッセを設計した時に、 立体空間の演出性について論じているが、 視点を変えて上から下を見下ろし、または 下から上を見上げることで、そのようなコ ンベンションの空間は非常に活性化してい くという。この提案は街路に祝祭性の高い コンベンションの空間が生まれるような、 あるいは問屋の歴史を継承していくような 場になる予感がする。地元の講評会ではか なり手厳しい講評をいただいたそうだが、 今日は地元の意見を踏まえてまた違う説明 をしたようで、バネにして頑張っている様 子が感じられた。

ものがたりを紡ぐ道

Point de Contact

・ 問屋の方と一般の方が繋がるというよう な説明だったが、一般の方とはどのような 方を想定しているのか。昔三ヶ月だけ馬喰 町に住んでいたが、土日は人通りが少ない

場所だったので気になった。

学生 問屋とは関係のない人、例えば通勤 サラリーマンや住民を想定している。

・ この案は、問屋にはあまり触れずに街区 の魅力と場所の歴史をストリートファニ チャーに託すことで、一般の方が歴史を楽 しみ、観光客や外国人たちがこの魅力を感

じ取り、さらには居住し始めてもらうこと ができるか、という視点が特徴的だ。ただ その中で、問屋との関係が交通計画だけで 整理されている点が弱い。また、ストリー トファニチャーに関して、小さなもので解 決していこうという姿勢は評価できるが、 どのように維持していくのかという仕組み 作りにまで言及するべきだった。提案が通 りだけに止まっているので、空き地や建物 の中、屋上などもう少しまちに食い込んだ 部分まで計画されていると別な形の広がり が生まれたのでは。初めて訪れる人や親し みのない人たちに着目した点については評 価したい。

未来の「横山町民」をはぐくむ場-“間” の場づくりによって高める横山町の レジリエンス-

超民会

・まちなか食堂の経営主体は誰なのか。 学生 まちに残る古くからの問屋や地域の ママさんを考えている。このような方々が リノベーションした空間で食堂を営み、地 域の方が来たりお昼休みには周辺の問屋の 方が食べに来たりすることで新しい関係が 生まれることを期待している。

・ どの班も中間発表に比べて格段に良く なった。昼と夜に実際にこの場所へ行って みたところ、昼すぎには問屋が閉まりはじ め閑散としていたが、まちの中にはあちこ ちに洒落た飲食店があり、夜には違う顔が あるのだろうとも思った。歴史のある地域 なので、このようなリノベーション提案は

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とても良いと思う。

選び取る街-スタイリングシティ横 山町えらぶくらぶ

・ まちなかに小さなプロジェクトを埋め込 む案は面白いと思った。問屋の目利きを活 かしてスタイリングを、という提案はよく わかるが、「ラボ」に関しては少しイメー ジし辛いので具体的に説明してほしい。

学生 服のスタイリングラボは、問屋の品 揃えの多さを活かした提案であり、まずは そこから攻めていく。しかし提案の趣旨は、 服だけに限らないあらゆるスタイリングを 提供できるまちをめざすことにある。段階 的に多様なラボを設け、服だけではなく家 具や食のスタイリングを提供することで、 様々な人々を呼び込む。例えば住のスタイ リングとは、一人暮らしを始める人に対し て、年代やシチュエーション、好みを聞い た上でモデルルームを提案するといった具 合だ。また、提案方法もその人の選びやす さに対応して変えていく。

ンは魅力的だ。一方やや読み取りにくかっ たのは、問屋建築のタイポロジーという形 の話と、ソフト提案の部分。ワークプレイ スとしてのボリュームと「ツールボックス」 がどのように結びつくのかについて詳細な 説明があるとよかった。この案は、先のス タイリングラボと合体するとより地域に密 着したツールボックスを展開できるのでは ないか。

学生 問屋の上下移動に課題を感じ、ツー ルボックスを発案した。そのため二階同士 を繋げることを意図している。 ・ ツールボックスは、クリエイターのワー クスペースとしての提案と解釈している。 問屋の持つ大きなボリュームにはツール ボックスを挿入できる余剰スペースがある ことに着目しているのだろう。さらには、 世界から集積した情報を肌で感じながら働 く、あるいは若いデザイナーがインキュ ベートされていくというイメージが膨ら む。

東京のグローバル縮図街-馬喰横山 を拠点に滞在する外国人を契機とし た街の提案-

デラックスごはん

・ まちのリアリティを保ちながら、きち んと提案できているという印象を持った。

「ツールボックス」というキーワードと、 まちが新しいモチベーションを持って働く 人のオフィスになるというイマジネーショ

・ ポスターセッションで年間の旅行者数に 着目したと聞き、大変興味深く思った。特 に、バイヤーは馬喰横山町を拠点に銀座や 秋葉原を訪れ、写真を撮って世界へとSNS 上で拡散し、そしてまたこのまちへ買い付 けをしに戻ってくる。このような旅行者以 上住民未満の方々はこのまちの魅力を世界

中に発信できるというポテンシャルに着目 した点は大変興味深い。現在中央区は宿泊 施設の導入を計画しているが、問屋街の発 展の道筋として参考になると思った。

ここにしかない大学の形-早稲田大 学馬喰横山分校-

一期生

・ 大学としては服飾系の大学が入ると想定 しているのか。そうであれば先ほどのバイ ヤーの話と組み合わせるとより面白そうだ と感じた。

学生 基本的には服飾系を軸として想定し ているが、関係する「デザイン」「ビジネス」 「デジタル」の分野を含めて、学部を4つ 設置するという提案になっている。 ・ 都市計画の発表では、デザインや形のと ころまで提案がなされないことが多い。し かしこの案からは、斜めの構造体をファ サードに見せることで、このエリアがもつ 耐震的な弱点を形で解決しようというメッ セージが感じられる。構造的な仕組みをデ ザインで外に示していくことがこの場所に 対する一つの提案になっている。最後に全 体に対しての印象を話すと、8つのチーム が一つの提案をしているようにも感じられ た。デザインが価値を産み、それを成せる だけの大きな集積があることがこの場所の 魅力であると、みなさんの発表から感じら れたのが良かった。

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共創するまち-個人クリエイターに よる問屋街の更新共創する班
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早稲田大学創造理工学部建築学科

後藤春彦    (早稲田大学理工学術院教授) 有賀隆     (早稲田大学理工学術院教授) 矢口哲也    (早稲田大学理工学術院教授)

廣兼周一    (早稲田大学非常勤講師) 富田宏     (早稲田大学非常勤講師) 杉浦榮     (早稲田大学非常勤講師) 吉田道郎    (早稲田大学非常勤講師) 阿部俊彦    (早稲田大学非常勤講師)

山村崇     (早稲田大学理工学術院講師)

浦田愛永    (早稲田大学大学院・修士課程) 金子亮介    (早稲田大学大学院・修士課程) 北原遼大    (早稲田大学大学院・修士課程) 桑田芙貴子   (早稲田大学大学院・修士課程) 鈴木聖己    (早稲田大学大学院・修士課程) 田中翼     (早稲田大学大学院・修士課程) 伊藤日向子

富樫遼太 村本孝之

浅野実梢 中山雄生 吉橋航二郎

瀬賀史恵 本間陽輔

以上、早稲田大学創造理工学部建築学科

澤田郁実 松浦遥

杉原舞衣 矢野有香子

張薇

津田基史

早稲田大学創造理工学部建築学科           2018年7月

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金子柚那 豊岡哲生 鍾政霖 石井健志郎 新里真奈美 吉葉颯花 大石哲平 山﨑凌 黒澤翔 日野涼 朱曦 加藤雅大 村井瑞希 William Sharp 大下征敏 山田将弘 小山真由 北條光彩季 笹森達也 山田歩美 Deborah Marseilles 砂川良太 高永超

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