早稲田大学建築学科 2020年度設計演習F

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早稲田大学創造理工学部建築学科

設計演習F 2020

高密都市の〈共住〉を探る 新たなキーワードとデザイン

Department of Architecture, Waseda University

Exercises in Architectural Design F 2020

New Keywords and Designs for “Cohabitation” in High-Density Cities

対象地

演習のスケジュール

4 新型コロナウィルスの流行拡大と演習授業 5 提案一覧 6 各チームの提案 7 新型コロナウィルス流行下の演習からみえてきたもの

早稲田大学創造理工学部建築学科 設計演習F 2020 高密都市の〈共住〉を探る 新たなキーワードとデザイン 1
2
はじめに
3
目次 8
9 最終発表会 01 ………………………………………………03 ………………………………………………04 …………………………………05 …………06 ………………………………………………10 …………………………………………13 ………69 ………………………………………………72 ………………………………………………76
学内講評会
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1 はじめに

この冊子について

早稲田大学「設計演習F」は、建築学科で都市計画を学ぶ4年生が必ず履修する授業です。40名前後の 学生が、グループを組んで都市デザインの演習に取り組みます。地域の実態を調査し、住民のみなさんの 話を聴きながら資源や課題を発見し、提案を育てていくことに特徴があります。

本年度は、新型コロナウィルス感染症の流行によって、私たちは都市計画において考えるべき問題や手 法の再考を迫られています。5月から始まった「設計演習F」という授業も、学生たちになじみ深い新宿 区を対象とする代わりに、外出や交流を控え、例年のような実地調査を行わない方針をとることになりま した。この冊子は、学生たちが、新宿区内の自由なエリアを対象として、感染症流行とともに噴出した様々 な課題の解決を目指し、かつ地場の潜在力を引き出すための「都市設計・空間デザイン」を提案したものです。 それぞれの案には、学生なりの対象地への思いやまちづくりのアイデアが込められています。この冊子が、 まちづくりのアイデア集となって、少しでも有意義なものになればと願っています。

課題主旨

2019年12月より流行し始めた新型コロナウィルス感染症(COVID-19)は、加速度的に世界中に広がり、 2020年5月5日現在350万人の感染者、25万人の死者を数えるに至っています。日本では約1万5千人 の感染が確認されており、東京、大阪、神奈川、千葉、埼玉の順に大都市に集中しています。

新型コロナウィルス感染症は、私たちの暮らしや働き方に大きな影響を及ぼしつつあります。ウィルス の伝搬を防ぐための「密閉・密集・密接」を避けた生活は、人びとの公共生活(パブリック・ライフ)を 縮小し孤立を促す一方、リモートワークなどの情報技術を駆使する働き方・暮らし方が世界中で実験され ています。本課題では、新型コロナウィルスの流行が終息した十年後~数十年後の社会を想定し、長期的 な視点に立って人びとが「集まる」ことの意味を再考し、コミュニティのあり方を再提案してください。「情 報技術を介してできること」と同時に「物理的な空間でしかできないこと」にも光をあて、人びとの暮ら しをつなぐ物理的・社会的空間デザインの価値を問い直すことが、本課題の主旨です。

本課題では、早稲田大学が立地し受講生にとって親しみ深い新宿区のなかから対象地を選び、4人前後 のチームで設計提案に取り組みます。新宿区は多様な環境をもつエリアによって構成されています。その なかで何を資源として見出し、どのように再編集していくかを考えて、エリアを選んでください。

いま私たちは、都市計画が長い歴史を通じて見いだしてきたコミュニティや社会関係資本(ソーシャル・ キャピタル)、まちの拠点や居場所、賑わいといった計画概念を更新する必要性に迫られています。次の社 会の暮らしを考える新たなキーワードと、創造的な空間提案を期待しています。

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2 対象地

本年度の設計演習Fでは、学生たちが各々の問題意識や関心に沿って新宿区内から自由なエリアを選択 し、デザインの対象としています。

新宿区は多様な環境をもつエリアによって構成されており、かつて山手銀座とも呼ばれ今では観光客の 増加に直面している神楽坂、花街の風情を残した路地が散見される荒木町、密集市街地の間にタワーマン ションが建設されつつある西新宿、広大なオープンスペースを抱える新宿副都心、早稲田大学の立地する 高田馬場や多国籍の繁華街を擁する大久保など、様々です。集密化している新宿のなかにも濃淡があり、 そのなかで何をテーマとして考え、新たな「キーワードとデザイン」を提示できるかが、問われています。

課題への取り組み方

1)すべての授業はZOOM(ビデオチャットサービス)を用いた配信授業とする。

2)課題は4人前後のチームで取り組むが、学生間の議論や設計といったやりとりも、すべてオンライン  で行うこととする。

3)地域のリサーチも対面による情報収集を避け、オンラインでのヒアリングなど工夫する。

4)最終提出物は、12枚のパワーポイントスライド(画面比率4:3、容量10MB以内)にまとめる。

計画のキーワード、敷地の読解、具体的な計画内容を説明すること。また、文字だけでなく地図、写真、  ダイアグラム、図面、パース等を用いて表現を工夫すること。受講生には留学生も含まれるため、スラ

イドには英語のキャプションも添えること。発表では英語で補足的な説明を加えるなど、受講生全員が  理解できるよう工夫すること。

ZOOMを用いた授業の様子。学生たちの提案資料に教員が書き込みながらブラッシュアップを行っている

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3 演習のスケジュール

演習期間中は、4名ずつのグループに分かれて、テーマ設定、調査、作業を行い、最終的にはその成果 を新宿区をはじめ地域に関係する方々に発表しました。新型コロナウィルス感染症の流行に伴い、授業の 開講が約1か月遅れたことで、例年の15回構成から12回構成に短縮されましたが、質の高い提案に結び 付けられるように「補講」を設けるなど工夫しました。

授業や発表会はすべてオンライン(zoom)で行われました。

5/7(水)|事前レポート出題

・新型コロナウィルス終息後の都市像についての小レポート出題

5/13(水)|課題出題・講義

・オリエンテーション、課題説明、昨年度の成果の復習、講義1(加藤詞史)     新型コロナウィルス終息後の都市像についての小レポートの振り返り議論

5/20(水)|関心共有・グループ分け ・各自取り組みたいテーマや対象地を発表、対象地やテーマに応じたグループ分け

5/27(木)|グループごとのテーマ発表・エスキース ・グループごとの発表・方向性の発表、エスキース

補講1|グループごとの提案に対する追加クリティーク(Waseda Moodle掲示板)

6/3(水)|エスキース

補講2|グループごとの提案に対する追加クリティーク(Waseda Moodle掲示板)

6/10(水)|エスキース ・提案の精緻化   補講3|グループごとの提案に対する追加クリティーク(Waseda Moodle掲示板)

6/17(水)|学内講評会

・これまでの成果をまとめて発表、教員によるクリティーク

7/15(水)|最終発表会

・学内講評会からブラッシュアップした提案を学外聴講者も参加する場で改めて発表

・提案の精緻化
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世界と日本の感染拡大と主要な出来事

1月: 中国から伝わる「異変」 2月: クルーズ船検疫で国内も危機感

後に集団感染が確認されたタクシー組合の新年会

1月: 中国から伝わる「異変」

2月: クルーズ船検疫で国内も危機感

3月:「異変」から「危機」へ 4月:

06

「ダイアモンド・プリンセス号」停泊期間

政府が2週間の大規模イベント自粛を要請

新型肺炎を指定感染症にする閣議決定

新型コロナで国内初の破産申請

新型コロナで国内初の破産申請 政府が2週間の大規模イベント自粛を要請

専門家会議﹁3つの重なり避けて﹂ TDL 等︑レジャー施設が次々に休業発表

全国で初の小中高︑一斉休校を要請 イタリア政府が北部の都市封鎖を発表

全国で初の小中高︑一斉休校を要請 早稲田・建築卒業設計 初のオンライン配信

早稲田︑卒業式・入学式の中止決定

春の選抜高校野球が史上初の中止

特措法改正案が閣議決定

早稲田︑卒業式・入学式の中止決定

年度 授業開始日程変更決定

春の選抜高校野球が史上初の中止

異例の新年度 入学式中止相次ぐ

特措法改正案が閣議決定

東京五輪が1年延期に 都が週末の不要不急の外出自粛を要請 日立︑5万人を在宅勤務に 都内全域で在宅勤務 小池都知事

東京五輪が1年延期に

異例の新年度 入学式中止相次ぐ

東京都などが休業要請を発表

イタリア政府が北部の都市封鎖を発表

米国の感染者1万人超え

早稲田 2020

日立︑5万人を在宅勤務に 都内全域で在宅勤務 小池都知事 緊急会見﹁夜間の酒場

英国が外出禁止令を発令

年度 授業開始日程変更決定

都が週末の不要不急の外出自粛を要請

緊急会見﹁夜間の酒場 出入り控えて﹂

米国の感染者1万人超え

早稲田 2020

出入り控えて﹂

落合 2グループ 大久保 6グループ 明治通り 3グループ ゴールデン街 5グループ 新宿駅東口 8グループ 西新宿オフィスビル街 4グループ 西新宿4丁目 1グループ 神楽坂 9グループ 旧江戸城外堀 7グループ

0 50 100 150 200 250 300 350 400
1,000,000 500,000 100,000 50,000 10,000 50,000 10,000
中国︑肺炎患者から新型コロナウイルス検出 肺炎の男性 (61) が死亡 死者は初めてか WHO 新型コロナウイルスを確認 中国・武漢が﹁都市封鎖﹂ 新型コロナウイルス︑ ヒトからヒトへの感染確認
日本人で初の感染者
武漢からチャーター機で 206 名が帰国 中国の感染者1万人超え ダイアモンド・プリンセスで 3,500 人を検疫 WHO 新型コロナウイルスを﹁COVIDー 19﹂ と名付ける 国内初の死者
志村けんさん死去 英国が外出禁止令を発令 早稲田︑全キャンパス内立入禁止を発表
「ダイアモンド・プリンセス号」停泊期間 春節 2526272829 6 8 9 1011 19 232425 27 2930 1 9 11 16 18 20 14 23 25 2829 1 4 13 11
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4月: 緊急事態宣言 前例無き経済危機へ 2,000,000 1,000,000 500,000 100,000 50,000 10,000 100,000 50,000 10,000
肺炎の男性 (61) が死亡 死者は初めてか WHO 新型コロナウイルスを確認 中国・武漢が﹁都市封鎖﹂ 新型コロナウイルス︑ ヒトからヒトへの感染確認 新型肺炎を指定感染症にする閣議決定 武漢からチャーター機で 206 名が帰国 中国の感染者1万人超え ダイアモンド・プリンセスで 3,500 人を検疫 WHO 新型コロナウイルスを﹁COVIDー 19﹂ と名付ける 国内初の死者
3月:「異変」から「危機」へ
日本人で初の感染者
志村けんさん死去
IMFが 2020 年の世界経済成長率を 3% 減と予測 2020 年の航空収入 55% 減との予測を発表 緊急事態宣言を全国に拡大 布マスク配布開始 全国民に一律 10 万円給付を表明 専門家会議﹁3つの重なり避けて﹂ TDL 等︑レジャー施設が次々に休業発表
緊急事態宣言を発令 ( 7都府県 ) 春節 2526272829 6 8 9 1011 19 232425 27 2930 1617 1 6 7 10 14 9 11 16 18 20 14 23 25 2829 1 4 13 11
新型コロナウィルスの流行拡大と演習授業
各グループが設定した提案対象エリア
早稲田・建築卒業設計 初のオンライン配信
早稲田︑全キャンパス内立入禁止を発表

:新宿区1日の感染者数

緊急事態宣言 前例無き経済危機へ 5月: 緩和と再拡大 経済への打撃 6月:迫りくる第二波 新たな日常へ 7月

専門家会議が﹁新しい生活様式﹂を提示

世界銀行

世界銀行

初の﹁東京アラート﹂ 東京都が休業要請緩和へ 基準を公表

夏の全国高校野球

﹁コロナ倒産﹂ 100

新宿区︑新型コロナ検査スポットでPCR検査を実施

厚労省が﹁レムデシビル﹂を承認 米国失業率が戦後最悪にオンライン授業スタート

厚労省が﹁レムデシビル﹂を承認

緊急事態宣言の延長を表明 新宿区︑林芙美子記念館等が営業再開

新型コロナ緊急支援申請受付開始

緊急事態宣言 前例無き経済危機へ 5月: 緩和と再拡大 経済への打撃 6月:迫りくる第二波 新たな日常へ 7月 :世界感染者数 :世界死者数 :東京都1日の感染者数 :新宿区1日の感染者数 万人 5,000,000 3,000,000 10,000,000

39県の緊急事態宣言を解除 緊急事態宣言の全面解除

経済成長率 第 2 次大戦以降最悪の見通し

500,000 300,000 早稲田︑キャンパス立入禁止の段階的解除

米国失業率が戦後最悪に

南アフリカで感染者急増 39県の緊急事態宣言を解除 緊急事態宣言の全面解除 夏の全国高校野球 戦後初の中止決定 初の﹁東京アラート﹂

新型コロナウィルス関連用語

インフォデミック

SNSで噂や誤った情報が拡散し、トイ レットペーパーやキッチンペーパーと いった紙製品が品薄になるなど現実社会 に影響が生じた。デジタル技術が発達し、 簡単に情報を得られる時代になったが、 事実を見極める重要性が高まった。

ソーシャル・ディスタンス

社会的距離。感染症などの感染拡大防 止のために、人と人の間に物理的な距離 をとること。具体的には、1.8メートル(約 6フィート)から2メートル以上の距離 が必要といわれている。

新宿区︑林芙美子記念館等が営業再開

経済成長率 第 2 次大戦以降最悪の見通し 南アフリカで感染者急増

設計演習 F 学内発表

設計演習 F 学外発表

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ロックダウン

SNSの誤った情報

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集団感染が確認された新宿の劇場で公演 緊急事態宣言 1617 1 2 1 8 19 1617 30 12 2 15 4 7 6 7 8 10 11 131415 25 20 14 25 27 0

海外の多くの国・地域は感染拡大の防止対策としてロックダウン エリア(都市封鎖)を実施。外出や企業活動の禁止など対象エリア の人の動きを制限した。ロックダウンには法的な強制力があり、外 出禁止などを破った人に対して罰金の支払いを命じた国もある。

日本ではライブハウスやスポーツジム などの空間でクラスター(感染者集団)

が発生。クラスターの発生は、オーバー シュート(爆発的な感染拡大)につなが りかねないと中止された。

人の移動1日感染拡大につながること から、政府や各自治体等はステイホーム を呼びかけ、自宅にとどまるように注意 喚起した。

クラスターの発生を防ぐための注意喚起として政府は「換気が悪 い空間(密閉空間)」、「人が密になって集まって過ごすような場面 (密接場面)」、「不特定多数の人が接触する恐れが高い場所(密集 場所)」の「3密」を避けるように促した。集団感染が発生した場 合の共通点として挙げられた「3密」。感染者拡大防止のため、3 密回避行動の徹底が叫ばれた。

参考文献:日経クロステック(2020) 「見えてきた7つのメガトレンド アフターコロナ」,日経BPムック

ステイホーム
3密 密接 密集 密閉
クラスター
家でオンライン授業… 2m以上離れて‼ 4月:
:世界感染者数
万人 5,000,000 3,000,000 2,000,000 1,000,000 10,000,000 500,000 300,000 100,000 ( ) IMFが 2020 年の世界経済成長率を 3% 減と予測 2020 年の航空収入 55% 減との予測を発表 緊急事態宣言を全国に拡大 布マスク配布開始 全国民に一律 10 万円給付を表明 東京都﹁ステイホーム週間﹂始まる ﹁コロナ倒産﹂ 100 緊急事態宣言の延長を表明
マスクと同じ素材の トイレットペーパーを 早く買わなきゃ!
:世界死者数 :東京都1日の感染者数
都民に警戒呼びかけ 都道府県またぐ移動の自粛要請 全国で緩和 東京都 107 人の感染確認 100 人超は 2 か月ぶり
戦後初の中止決定 ﹁大阪モデル﹂黄色信号点灯 若者と夜の街の対策強化
都民に警戒呼びかけ 都道府県またぐ移動の自粛要請 全国で緩和 東京都 107 人の感染確認 100 人超は 2 か月ぶり 集団感染が確認された新宿の劇場で公演 ﹁大阪モデル﹂黄色信号点灯 若者と夜の街の対策強化 東京都が休業要請緩和へ 基準を公表 緊急事態宣言 1 2 1 8 19 1617 30 12 2 15 4 7 8 11 131415 25 20 25 27 0 50 100 150 200 250 300 350 400 設計演習 F 授業スタート 設計演習 F 学内発表 設計演習 F 学外発表 設計演習F
設計演習F 早稲田︑キャンパス立入禁止の段階的解除 オンライン授業スタート 07

オンラインでの授業実施の様子

初回授業、加藤先生によるレクチャー(まちづくりの中で、公共施設に期待されてきた役割)

全体でのディスカッション

第二週、学生それぞれの関心発表
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第3週以降は、自動翻訳・字幕作成アプリ「UD talk」を使用

最終発表会の様子

09

提案一覧

全9グループの提案は、以下の通りです。それぞれのグループは独自の視点をもって対象敷 地とテーマを選定し、各地域の未来に向けた提案を行いました。

建て替えでつくる疎密コミュニティ

グループ|龍角散|

田中花梨、冨永万由、藤原飛悠梧、Tim Gautrin - Moutin

単身世帯が多い住宅地である西新宿4丁目に着目し、 つながりの強さを住民自身が調整できる「疎密コミュ ニティ」を提案する。エリア内の建物1階にコワー キングスペース、ストリートライブラリー、寄付ス テーションなど10の提案を点在させる計画である。

川や坂などが豊かな中井・落合エリアに着目し、コ ロナ禍でその価値が再認識された「まちの気配」を 表出し強化する提案を行う。気配をはこぶ・気配を つなぐ・気配をいかす工夫として、アートフェス、 子ども食堂、染物の干し台、みんなの学びやを提案。

“Unknown” project -Close Encounters with Unknown

グループ|Knownhub|栗原美紀、下田悠斗、竹俣飛龍、HONG Yang

御苑沿いのバイパスが開通することで交通量が減り、 明治通りが歩行者のための空間になり得ることに着 目。未知のものとの遭遇をテーマに、明治通り沿い に緑道、働く場、カフェや飲食店の拡張などを計画 する。

ポストコロナにおける超高層オフィスビル街の再構築

西新宿の超高層オフィスビルで働く人びとが30年後 には現在の7割に減少するというストーリーを設定 し、新宿センタービルを例にとって新しい働き方を 考案。既存オフィスを大胆に改変した「垂直コミュ ニティ」と「共創磁場」を提案している。

5
「高密都市の〈共住〉を探る 新たなキーワードとデザイン」
気配をつなぎ、地域を結ぶ
グループ|苺大福|池本博喬、小久保美波、上甲勇之介、田村祐太朗
グループ|いたふみ|池田悠人、高野美沙子、舟岡晴樹、三村彩夏
西新宿4丁目 落合 明治通り 西新宿オフィスビル街 10

都市の解放区~変わらないために変わる居場所の提案~

グループ|スナックTOMMY|神作希、園山遥穂、村井遥、三浦萌子

感染症の流行で大きな打撃を被ったゴールデン街に 着目し、小さなコミュニティをつなぎ共生体をつく る「シマ化」を計画。駐車場の活用、店舗の昼営業 と空き家の活用、行動範囲を広げる出張ゴールデン 街などを提案している。

オオクボ〈百人〉都市―多文化の間をデザインする―

大久保を対象に、「多文化を消費する都市から生産す る都市へ」「全体で繋がりをもった自律性のある都市 へ」を目指す。鍼を打つ・繋げる・縫い合わせると いう3つの手法によって、既存の路地によって結ば れるネットワークを形成することを狙う。

樹状に拡がるネットワーク-After COVID-19の行動変容に柔軟な都市- 外濠沿いのオープンスペースを再編し、その周囲に 形成される新しい生活圏のすがたを素描する。幹・枝・ 葉のモチーフを用いてアーバン・ファブリックを位 置づけ、水上バス、外濠沿いのたまり場、食農空間、 坂道のブックストリートなどを提案している。

Shinjuku for People 立体的な歩行者空間

小野優真、河井優、篠原和樹、DALTON Louis-marc

新宿通りとその地下を通るメトロプロムナードを立 体的に再構成し、歩行者のための空間とする提案。 サンクンガーデン、スカイデッキなどをつなぎ、最 終的には新宿御苑と新宿中央公園をつなぐグリーン ベルトへと変えていく計画である。

歩き、留まる街

社会的交流の促進と古き良き街の保全により神楽坂の魅力を高め、流動性を生む 神楽坂に着目し、「地域住民―観光客―通勤者」の3 者それぞれの生活圏域を調整して過密を解消しなが ら、街全体に新たな交流の場を創出する計画。ポケッ トパティオや可動式家具の導入、屋上空間の利用な ど様々な提案を行っている。

グループ|サムギョプサル|猪股雅貴、巻島賢樹、Wang Yaqi、Qiao Yu
グループ|护城河|上柿光平、末田響己、山口乃乃花、鄒麗晨
グループ|もぐらの大脱出|
グループ|HUE|市川春香、高橋亮太、Longchamp Alyssa、Srey Sokuncharia
大久保 旧江戸城外堀 新宿駅東口 神楽坂 11
ゴールデン街
12

各チームの提案

建て替えでつくる疎密コミュニティ

グループ|龍角散|田中花梨、冨永万由、藤原飛悠梧、Tim Gautrin - Moutin

西新宿4丁目

気配をつなぎ、地域を結ぶ グループ|苺大福|池本博喬、小久保美波、上甲勇之介、田村祐太朗

“Unknown” project -Close Encounters with Unknown グループ|Knownhub|

栗原美紀、下田悠斗、竹俣飛龍、HONG Yang

ポストコロナにおける超高層オフィスビル街の再構築 グループ|いたふみ|池田悠人、高野美沙子、舟岡晴樹、三村彩夏

都市の解放区~変わらないために変わる居場所の提案~ グループ|スナックTOMMY|神作希、園山遥穂、村井遥、三浦萌子

落合 明治通り 西新宿オフィスビル街 ゴールデン街

オオクボ〈百人〉都市―多文化の間をデザインする― グループ|サムギョプサル|猪股雅貴、巻島賢樹、Wang Yaqi、Qiao Yu

樹状に拡がるネットワーク-After COVID-19の行動変容に柔軟な都市- グループ|护城河|上柿光平、末田響己、山口乃乃花、鄒麗晨

Shinjuku for People 立体的な歩行者空間

グループ|もぐらの大脱出|小野優真、河井優、篠原和樹、DALTON Louis-marc

歩き、留まる街 社会的交流の促進と古き良き街の保全により 神楽坂の魅力を高め、流動性を生む

グループ|HUE|市川春香、高橋亮太、Longchamp Alyssa、Srey Sokuncharia

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大久保 旧江戸城外堀 新宿駅東口 神楽坂 13 14 20 26 32 38 44 50 56 62
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有賀 9年前の東日本大震災の際にも、今年と同じ ように現地に行かないかたちで演習課題を設定し ました。集団移転などで離れ離れになったコミュ ニティに住まう方々や、そこでの生業をどんな方 法でつなぎ直していけるのか、あるいはお互いに 会わないでもネットワークができるか、そういっ

たテーマが挙げられたように思います。それ以降 の演習の中でも、現代都市における孤立の問題、 とくにまちづくりの参加や協働に参加できない人 たちが排除されてしまうのではないかという懸念 から、孤立をどう防ぐかというテーマに取り組ま れたわけです。今年の設計演習Fも、お互いが直 に接することが難しい状況の中で、どうやって人

と人との交流を実現したり、土地利用や空間利用 によって疎密をコントロールしたり、動きの速度 や出会う速度、交流の速度などを新しく計画のテー マにできるのかという、都市計画の課題そのもの を発見していくような挑戦的な課題だったのでは ないかと感じています。

そういう中で、やはり新宿のゴールデン街に取 り組んでくれたチームが発表の中で話してくれて いましたが、「変化しないための変化」、つまり継 承していくべきものを継承していくためにどう進 化していくかという問題提起が心に残りました。 そのとき計画者や専門家が全てを計画するのでは なく、お客さんなどの利用者、関係する担い手と

どういう風に緩やかな関係を作っていけるのかと いうところが、非常に挑戦的な課題だったんじゃ ないかと思います。何より、場所のガバナンスそ のものについても従来のガバナンスとは違う社会 関係を提案しないと、将来一緒にまちを作ってい くこと自体がイメージしづらくなっている。そこ にもやはり提案を求められたということで、難易 度が非常に高かった課題だと感じました。

矢口 僕らもリモートで教えるのは初めてだった ので、苦労して指導したというのが正直な印象で す。実は教員同士もフェイストゥフェイスで一回 も会っていないままクオーターが終わってしまう

んじゃないかというリモート環境の中で、授業を 行った初めての経験だったので、僕らも勉強させ てもらいました。最近の学生のすごいと思うとこ ろは、リモートの環境であってもある程度のデー タまではうまいこと集めてきて、ある程度の提案 まで到達することができるんだなというところな のですが、やはり最後に「自分ごと」として提案 まで持っていけるかというと、そこはフィールド ワークをある程度しないと自分ごとにはならない のかなと感じました。その中で、ゴールデン街の チームだけは、自分たちがこの町を変えたらどう なるんだ、という一歩踏み込んだ提案まで持って 行けたのだと思います。

富田 有賀先生がおっしゃっていた被災地の復興 をテーマにしたときに、お手伝いさせてもらった ことがあったんですが、その時に「設計演習Fは 少年少女を大人にする授業なんだ」ということを 聞いたんですね。それは型の違う個人が初めて協 働作業をやらなければならないということで、お そらく軋轢とか、喧嘩や葛藤があったと思うんで す。それともうひとつは、この授業には相手がい るということです。計画対象地とそこに密接に関 わる人々の関係があって成り立つ、責任も出てく る、発表でも聞いている方に説得力あるものを提 供しないといけないというのがあって、それが今 回なかなかできなかったのではないかと思います。 今日ゲストのみなさんからご指摘いただいたこと は、学生のみなさんにとって非常に勉強になった んじゃないかと思います。

かの有名なニュートンが万有引力や光の構造を 発見したときには、ペストの流行で学校が休みに なっていて、一年半ぐらい故郷に帰ったときに、 納屋の中で発見したという話を聞きました。大変 な時代で大変な時に、授業に参加した学生諸君は、 歴史的転換期かもしれない時期にこの授業で学ん だことを糧にしてほしい。コロナ時代のニュート ンが生まれてくることを願っています。とにかく 一人も感染者が出なくてよかったです。最後に逵

7
新型コロナウィルス流行下の演習からみえてきたもの ——最終講評会総評より
69

さん、お世話になりました。今度このメンバーで、 コロナが収束したら一度逵さんのお店で打ち上げ をやりたいなと思います。ありがとうございまし た。

吉田 一ヶ月前の学内発表の時には、物足りない 班がいくつかありました。ですが、今回の最終発 表会ではどの班も及第点になっていたので、提案 のクオリティという点ではまだ色々あるかもしれ ませんが、良かったと思います。あまり言及やコ メントがなかった班もありますが、決してレベル が低いということではないです。

実は、1年前と5年前には草津温泉というとこ ろでこの演習授業をやったんですけれども、提案 を冊子にまとめると意外とそれが地元で生きてい まして、1年前と5年前に提案してくれた地蔵湯

の裏が現在工事中で、マンガミュージアムができ るんですね。それから役場のそばの中央通りとい うところでは、入り口のところに立体交差ができ て、街路樹も来年工事するということになってい ます。学生の提案がそのままできるわけではない ですが、やはり学生さんが地域に対して提案して くれたことがずっと生きていて、みんなの頭の中 に残っているんですね。今回新宿区から山近さん が参加してくださっていますし、皆さんの提案が 今後生きてくる機会があるんじゃないかなと思い ます。

チームの中ですごく議論するということもこの

授業では大事なことで、例年はチームの中で喧嘩 したり仲たがいがあるんですけど、zoomでそれが 起きていたのかということもまたどこかで教えて 欲しいなと思います。社会に出ると相手がいたり、 地元の方がいたり、いろんな環境の中で、都市と まちに対する仕事をやっていかなければならない ので、そういう意味でのトレーニングとなる授業 だったと思いますので、この経験を生かしていっ

てほしいと思います。

加藤 今回の授業を通して、物理空間とコミュニ ケーションの場所が離れていくときのギャップ、 あるいは物理空間が持っている価値、物理的な場 所に訪れてリサーチする価値と、それを机上で扱 うということのギャップを、再度認識することが できました。それを一番体感したのは学生の皆さ んだったんじゃないかなと思います。物理空間は 重いもので変化していくのは難しいため、中長期 的な目線でそこへ介入していくことが、皆さんに は求められています。しかしもう一方で、コミュ ニケーションや働き方などのソフトなものは、日々 変わっていたり、リモートワークが推奨されたり 解除されたりするなど、その位置付けも加速的に 動いていくということを皆さんは体験したわけで すね。そういう中で、みなさんに考えてほしいのは、 その場所に行く、その場所でしかでないというこ との価値はなんなのかということと、もう一方で、 ソフトの部分や我々のコミュニケーションの仕方 も変化していくことが求められているという、そ の構図をしっかりと受け止める必要があると思い ました。

授業の成果をみると、編集的な態度とか、既存 の情報を集めて問題を解決していくというスタン スは上手だけれども、何もないところから発見し て、課題につなげていくというあたりが、なかな か動きが鈍いなと共通して感じました。新大久保 のチームの「基層」という言い方が印象に残りま した。このコロナの時代に変わるものと変わらな いものはなんなのかということに取り組んでいて、 形やデザインにはなかなか結びついていないよう に思いましたが、それでもそのストラグルから伝 わってくるものは大きかったように思います。

三島 今回は現地に行けなかった演習だったとい うことで、終わった後に自分たちで作った提案を 携えて、ぜひそれぞれが提案した場所に行ってみ て、想像してみてほしいなと思います。そこから 得られるフィードバックは大きいと思うので、ぜ

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ひやってみてほしいです。それから、このコロナ というトピックは、全世界の人たちが共通して直 面している問題ですから、ぜひ身近な人に感想を 求める機会を作ってみてもいいんじゃないかなと 思います。例えば親族など近い人からどんな反応 が得られるのかっていう実感をしてみてほしいで す。最後に授業に関してなんですが、僕自身、難 しかったと思っています。良かった点といえばエ スキスを真夜中に行えたりとか、自宅から演習に 参加できたりとオンラインのフレキシブルさが あったと思うんですけど、一方で、僕の目の前に 学生さんの顔が全然見えていなくて、僕が今回ど れだけ学生さんの名前を覚えられたのかなと思う と、全然覚えられていないなと思います。僕自身 これからも秋学期もオンライン授業があると思う んですが、どう改善していけるのかっていうのは 先生方も学生さんたちも提案し合っていい授業を 作っていく必要があるのではないかと思いました。

吉江 思えばコロナが流行する直前って、なんだ か情報技術とか、AIとかがすごく流行っていまし たよね。そういう専門家の方やジャーナリストが、 テレビやSNSで言説を作っていて、私も本をいく つか読んでみたんですけれども、一切都市の話が 出てこなかったりするんです。技術と経済と個人 の、非常に個人的なライフスタイルの話だけで、

これからの社会の言説が語られていくような、そ ういう時代の気分がしたんです。ですが、コロナ が流行して、もう一回都市のことを考える機会に なったのではないかなと思いました。

いままさにオンラインで発表会を行っているよ うに、我々は情報技術の恩恵を受けていますけれ ども、例えばオンラインで飲み会でやってみると、 いままでの飲み会はなんで楽しかったんだろう、 zoomとは少し違うなとか、そういう疑問が出てく ると思うんです。エスキースの場合は、以前は研 究室の前のスペースで皆さんが模型を作っていて、 僕がそこを通りかかる際に話しかけたりして、そ

こからゲリラ的にエスキースが始まったりしたん ですけれど、今回は事前にきっちり予約をして、 オンラインで会うわけですよね。同じことをして いるんだけれども、何かちょっと違う、あれはな んだったんだろうなっていうことをたくさん考え させられる機会だったと思います。ですから皆さ んはいろんなことを考えたでしょうし、みんなが 考えたことをこの場で共有しあっているというの は、大きな財産になると思います。

最後にもう一つ。東日本大震災の時は僕は学生 で、復興のコンペなどをやって学生なりに必死に 考えました。でも時間がたつと、東日本大震災っ てこういうものだったよねという話が定着してく るんですね。東日本については、いろんな議論が 済んだ後に皆さんは建築を志されて、歴史の教科 書みたいな形で書かれるようなものを読んで、建 築や都市計画ではこういう風に受け止められたの か、という風に勉強できる対象になってしまった と思います。今回のコロナウィルスの騒動も、10 年後にはこういうものであったというように議論 が定まってくるかもしれません。ですが、「さなか」 にいて、正解は分からないけれども必死に考えて いたということが大事な経験になると思いますの で、ぜひそれを忘れないでほしいと思います。

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2020年6 月17日 オンライン  ゲスト:新宿区役所(山近資成)、後藤春彦

建て替えでつくる 疎密コミュニティ

山近 西新宿4丁目は新宿区が重点的な 取り組みをしているエリアではない。今 回の提案でアメニティを入れていくと、 この辺りはアメニティが充実しているわ けではないので、新宿中央公園側やオペ ラシティ側から人の流れが出てくる可能 性がある。そのようなものも含め、どう 災害時や平時のコミュニティを考えてい るか。

吉江 敷地分析はよくわかる。建築空間 で工夫している部分はどのようなところ かわかりにくい。

後藤 疎密のコミュニティという表現が 不思議な表現で面白い。コミュニティの 疎密ならわかるが、あえてそういう言い 方をしている部分にこのチームの重要な ポイントがありそう。公団の建て替えに ついては普通なので、疎密のコミュニティ について突き詰めていってはどうか。都 市計画は以前から密度をコントロールし ようとしていた。それが今回密度が悪者 になってきたときに、密度のマネジメン

トの仕方をアーバンデザインで考え直す 時期に来たのだろうと理解している。  密度には何分の何という分母がある。

その密度を測る単位が何なのか?スー パー街区の単位を一つの単位にしている

のか、広場を生み出していくような何ら かのコミュニティの単位があるのか?そ れをもとに密度をマネジメントしようと

しているのか。当然スーパー街区の方が 答えではなくて、もう少し解像度の高い

コミュニティの単位性みたいなものが読 み込まれてその中で密度の上げ下げと いったマネジメントが出てくると面白く なるのではないか。

それから、コミュニティとコミュニティ の間の距離、物理的距離だけではなく、 社会的な距離・精神的な距離などいろい ろなものがあるが、そういったものを突 き詰めていくと発展性が出てくるのでは ないか。言葉の発明はよかった。ただ解 決方法が普通なのが少しもったいなかっ た。そのあたりを頑張って修正してもら えると良い。

後藤 ファーストプレイスの中にセカン ドプレイスが入ってくると考えときに、 通勤についてはどうなると考えたのか。 設計案では、相変わらず通勤をしている ように聞こえた。東孝光さんが塔の家に 暮らしながら働いていたときに、それで も必ず通勤すると言っていた。一度街の 中を散歩してから戻ってきて、モードを きり変えて仕事に入る。そしてまた散歩 をして家に帰ったと話していた。通勤と いう言葉がふさわしいかわからないが、 ファーストプレイスとセカンドプレイス の移動という概念は大切なことかもしれ ない。

家に閉じ込めらていると、代わりにひ たすら散歩をしたりする。これまで寝る ためだけに帰っていた街が、昼間の街と して語りかけてくようになる。そうした ときに、その街が持っている風土的・歴 史的コンテクストというものが非常に大 切で、そいういったものにきちんと触れ ていくことをここでは気配と言っている のかなと感じた。

吉江 提案内容がすごく魅力的だけれど、 ストーリーの出だしの部分がまだ説得力 が弱かった。後藤先生のコメントでとて も説得力が出ると思うので、ぜひ取り入 れてほしい。干し台という提案はあまり 聞いたことはなかったので、ゆらゆらす る布の動きで風などの様々な動きが増幅 されるような提案でよかった。

加藤 現在、国交省が道路の占有を許可 するなど法制度が見直されてきている。 これを機会に、提案していることがどう いう仕組みや仕掛けで実現していけるの かを考えて、提案をよりリアルにしてい くための道すじを提案して欲しい。

新宿区 小学校という既存の教育インフ ラとはどのように連携しながら子どもの ための空間を使っていくのかがわからな かった。提案の一個一個が魅力的ではあ るが、最終的に落合の中央公園へつなが るようなルートが「気配」によって出来 上がるという話がすんなり入ってこな

かった。土木ヤードは道路になるので、 道路占有許可をとるような形になる。仮 設建築を建てる許可ではなく道路専有許 可だ。アートフェスもどのようにやるの か、もうちょっと練ってもらえると魅力 的になるのではないか。

矢口 とても良くなった。気配を運ぶ・ つなぐ・活かすという3つ言葉を見つけ てきたことがよかった。最後に避難場所 につなげるというときに、道の話をして もらえると自然とつながってくるのでは ないか。道に気配を埋め込む方法を提案 すると中央公園にまでつながってくるの ではないか。

新宿区 毎年染めの小道で、川沿いに落 合で染められた布が展示されるのに合わ せて、布は商店街ののれんとかにも使わ れている。これが商店街にとどまらず、 地域全体に滲み出てくると点と点が結ば れるのかなと感じた。

後藤 東京六大学野球で早稲田が優勝す ると、神宮球場から提灯行列で大隈講堂 まで練り歩く。ちょうど提案していると ころが、晴々しく歩いているところ。人 類が道を取り返すことが人類の尊厳を取 り戻すことだとすると、パースに描かれ ている中央に走っているアスファルトの 車道がまだ残っているということはまだ 取り戻せていないということなのではな いか。ここを堂々と歩いて楽しめるよう なものすることが必要なのではないか。  それから、道を3つに分けることが得 策なのかどうか。長さがもつポテンシャ ルがあるのに、3つに分けてしまうともっ たいない。シークエンスで変化を楽しむ ことが考えられるのではないか。

加藤 コロナを機会に外部空間がいろい ろな意味で問い直された。道は車のもの ではなくて人のものだという感覚を強く 感じさせてくれているチームだと思う。 カタカナ系のアプローチの仕方が少し かっこつけているように感じたが、最後

グループ|龍角散
2 グループ|苺大福
project -Close Encounters with Unknown 3
8 学内講評会
気配をつなぎ、 地域を結ぶ
“Unknown”
グループ|Knownhub
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に絵が出てきて、出来事を描けたことは 良かったと思う。道を復元させるイメー ジが伝わってきたし、新たな発見やデザ インがあるのかもしれないと読み取るこ とができた。せっかくここまで行ったの なら、もう一度自分たちの言葉と見方で、 最初の言葉を身の丈にあった言葉にして いくと最後の絵が変わってくるのではな いか。それから、この提案は限られた階 層を想定しているように感じる。様々な 階層、所得の人たちに開かれて欲しい。

三島 タイトルのunknownというのがい いなと思う。ランドスケープからの視点 からコメントをしたいと思う。パースの 木のスケールがとても大きく、道にはみ 出している。今の道と自動車の関係だと 邪魔で、そもそも大きな木を街の中には やしていくことが合理的ではないという

のが今の道路空間だと思う。けれどもこ の提案では、樹木優先の世界観を描いて いるのは面白いなと感じた。

20X X年みたいな未来のこのとを見据 えているのであれば、当然自動運転だと か、タイヤが地面から離れるということ が起こってくることも考えられる。そう なると、地面がアスファルトである必要 がなくなってくる。言い換えると、路面 が土でもよくなってくる場合に、もう一

度外部空間が植物に対して開放されるの ではないか。公園の中やキャンプ場で働 きたいという人が増えている中で、都市 の中で野生の空間をつくり、クリエイティ ブな活動をしたいという、人間本来のワ クワク感に応えていくような提案ができ るのではないかと思う。ぜひランドスケー プ的な視点を、最後の一ヶ月で考えても らえるとより魅力的になるのではないか。

有賀 提案している明治通りに直行して 交わってきているもの、例えば甲州街道、 新宿通り、靖国通りなど、そういうとこ ろでは偶発性がある。線の中で3つに区 切っているが、全体で見たときに交わっ

ているところでキャラクターが違ってく ると思うので、交わるところが特異点と して滲み出してくるということも考えら れるのではないか。

このチームはバイパスができることを 想定しているので、バイパス側から新宿 三丁目あたりはやはり同じようにもっと 細い路地的な空間が入ってくる。ここで

言っている展示空間・コワーキングスペー スのようなゾーニング的な考えだけでな く、大小様々なバイパスと間にあるエリ アでどういうことが起きるのか、連続的 に考えてもいいのではないかなと思う。

有賀 二層分のフロアを立体的に使う空 間は面白い。西口は都庁も広域行政で、 地域に根付かない、全国を相手にした企 業が多い場所である。そうすると提案し たものが、都民でも、今までの西口への イメージ(パスポート取るだけ、現場部 門の人であれば、センタービル滅多に行 かない)に対して、今まで来なかった人 たちへどういった仕掛けになるのだろう か。今日は例としてセンタービルの足元 を取り扱っているが、他のところでも可 能になっていくと、連鎖的につながって いく構想になっていけばいい。

吉田 わかりやすいプレゼンには、決め 図があって、やりたいことが網羅されて いるが、それが欲しい。垂直コミュニティ や共創磁場などを一貫したコンセプトと して用いたり、図画がくるといい。

矢口 最後の絵が決め図になるのではな いか。言葉はいいと思うので、その言葉 を絵でしっかり表現してあげる。今まで 閉じ込められていたオフィス空間から外 に出ているという表現をもう少ししっか りするといいのでは。

吉江 フロアを一つとってきて、そこに 緑が出てきたりする平面図を書くのでは 限界がある。断面で見ると、大きい庭の ようなフロアを空間が貫いて出てくるの では。三層とか四層ずつの単位で計画し てみてはどうか。

新宿区 超高層ビルに通勤する身として は、エントランスで行き先を言わないと いけないので、その時点でオフィス内の 移動に意味がなくなってしまう。変わっ ていきそうなエントランスでの所作も含 めて考えてもらうといい。

後藤 具体の主人公がいて、お話があっ て生活の中に我々も取り込まれていって 非常に興味深い。街の中にみんなを招き 入れるような仕掛けができていて、内部 の表現もとても良い。昼間の使い方の提 案は、なるほどなと思うし、実際に昔は こうだった。新宿区としては防災の危険 を一番苦慮してるから災害に強くなる提 案もしてくれるといい。

加藤 「見えない遺伝子」と言う言葉がと てもいい。全体のソフトの作り込みにも 関わってくるし、「シマ化」にも関わって いて、タンジブルとインタンジブルを結 ぶための仕掛けが「見えない遺伝子」に 込められていると感じた。誰が見ても弱 点になる防耐火について触れられていな いのは残念。一つはハードの面で高層化 する木造についてもう少し勉強してかつ ての火除け地のような概念も含めてここ をどうしていくかというビジョンをしっ かり描く。もう一つはソフトの面でどう いう風にしたらそこで火事が起きること を防げるのか、あるいは、火事が起きた 時にいかに早く初期消化できるか。これ は「シマ化」やコミュニティが重要で気 がついた人がきちっと消せるような仕組 みとか準備をしておく。アメリカの製材 所はおがくずを燃やして動力にしている から、屋根の上に水の入った樽がたくさ ん置いてある。日本の地方の木密地域で は、消防団をやめた高齢者が消化ポンプ を使ったりする日常的なトレーニングの 取り組みがあったりする。いくつかのハー ド面とソフト面を含めた、提案をしてく れるといい。

吉田 ゴールデン街の車で出張するアイ デアが残っててよかった。ゴールデン街 の中の一か所に駐車場があって、景観的 にも美しく格納されてるようにして欲し い。ゴールデン街は歌舞伎町の中でも若 者が面白いグループを作って、イベント をやったり、ホストクラブの教育や、最 近「ハロー歌舞伎町」という新しいコミュ

グループ|いたふみ
ポストコロナにおける 超高層オフィスビル街
の再構築
グループ|スナックTOMMY
都市の解放区~変わら ないために変わる居場 所の提案~
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ニティができて、新しい歌舞伎町を考え ていくという動きもあるから、これも考 えながらゴールデン街を考えると面白く なると思う。

矢口 駐車場の活用のところで、トラッ クの格納場所とか大きな空き地が残って いるというのは結構価値があること。そ こに対して、きっちりとプログラムして、 小さい屋根をかけていくというのは造形 的には面白いけど、もう一つのアイデア としては空き地を空き地として、都市の 空いてる部分を残していくというのも可 能性としてあった。どっちがいい、悪い ではないが、駐車場が持っていた価値が なにかあったのではないかと思って聞い ていました。

常にスポンジのように吸収し、動き続け る多文化の実験場というような場所にな るのか。そういったときに部分のパース が既視感がある。変化を受け止める表層 と、少し定着させていくような建物、部 分が二つあるのではないか。

吉江 イラストが白っぽくて生々しさが ない。どういう雰囲気になっていくのか を想定して詰めていくといい。

吉田 イタリアのボローニャを思い出す。 学校機能が散在しながら、街路でつなが りあっている。大久保で同様なことが起 きているのかもしれない。そういう見方 をすると、スクエアを作ったりして中間 的スペースを広げていき、うまく教育・ 文化のインフラになっていくイメージを 持った。学生と教育機能があるところに スポットを当ててみてもいいのかなと感 じた。

吉田 東京の外濠という大規模なオープ ンスペースをどう使うかが新宿区にとっ ても大きな関心である。アフターコロナ の時代にそれをどう使うのかがこのチー ムの根本的な課題だ。水辺で新しい通勤 や交通手段等の大胆な提案があっても良 いと思う。規制や法律に囚われる必要も ないのでいろんなことを提案してほしい。

後藤 提案としては千代田区側もしてい いと思うし、ここの一番の見どころは総 武線からの車窓の眺めだと思う。あと地 形、コンタの図面が欲しいと思った。

新宿区 繋げるというキーワードに関し て、外国人の集団そのものも、10年20 年先を見たらまた変わってくると思うが それに関してどう思うのか。外国人がコ ミュニケーションをとる場所というのが、 今現在はどこが起点となっていて、この 提案を通してどのように場が増えていく のか。また、大久保のエリアでは電子専 門学校を筆頭に、多くの留学生を受け入 れてるが、そういったポテンシャルに関 しては考えていない。新宿では二ヶ月に 一回、多文化共生連絡会がある。外国人 によって組織されている団体に行政が 入って支援しているのだが、そういった 集まりの場での発表もありなのでは。

後藤 土地や建物に関してはまだ日本人 が持っているのか。一時代を見るのであ れば、理工キャンパス前の区の図書館で、 火災保険特殊地図を拝見すれば、当時の 地権者などがわかる。

大久保は、かつて下級武家が住んでい たため、町の構造が非常に細長いうなぎ の寝床のようなものが並んでいた。そう した地割りは、変化を受け入れられる土 壌になっているのかもしれない。小さい がために、最先端な、微細な変化を受け 止めている。この先も変化し続けるのか、

富田 農地の提案は、国家の安全保障と しての食糧自給というのは言い過ぎでは ないか。そこまでの規模ではない。

吉江 提案はとても好感が持てて良いと 思うが、外濠が幹というのは少し違和感 がある。外濠は水だからアナロジーとし て適当なのか。全体をどういう比喩でア イデアを構造化していくかというときに、 そこだけ違和感があった。

新宿区 表紙の二人がボートに乗ってい る絵があるが、外濠の水辺を遡上してい くことで何かあるのか。歩行空間として だけでなく、水上もオープンスペースに なり得るのか。

加藤 船着き場のようなインフラ系のも のがもう少しあっても良いのかなと思う。 もう一回外濠を復活させようとか、穴掘っ てでも繋げましょうとか、もっと大胆に 提案しても良いと思う。

後藤 地下鉄のプラットフォームまで断 面図に含めて、日光が差し込むことは考 えられないか。このグループが対象とし ている場所はちょうど2つの駅を結んで いる。2つの駅が今抱えている様々な問 題も解決できるかもしれない。駅をやら ない手はない。今の道路空間を全部地下 に掘りこんで、地上は最低限確保しなけ ればいけないパスだけ、ブリッジで結ぶ とか。せっかくならもっと大胆に発想し てもらえればと思う。

富田 人がどう楽しそうに過ごしている のか、空間が見えないので、この計画で こんなに楽しそうになるのだというのを 示してほしい。これをやることで何が良 くなるのかまだ伝わってこなかった。も う少し絵で表現して欲しい。

新宿区 東口のルミネを除いたこの辺り は、地元商店の人もどうしていけばよい のか常に考えているエリア。このエリア で今後200m級のビルが建つときに、立 体的にみても敵密になるとは思えない状 況で、足元空間のデザインがどう寄与す るのか考えてみてもよい。荷捌き実験の 成果を拡大していくように聞こえてくる きらいがあるので、そうではない何かを 打ち出してもらうと良いのかなと。  マスタープランで「緑の輪」としてい るが、中央大学の石川先生からは区が思 い描く緑では全然足りないとも言われて いる。緑というものを次世代型にアップ

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COVID-19の
护城河
オオクボ〈百人〉都市
―多文化の間をデザイ ンする― グループ|サムギョプサル Shinjuku for People 立体的な歩行者空間 グループ|もぐらの大脱出
樹状に拡がるネットワー ク-After
行動変容に柔軟な都市- グループ|
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デートしていくのもアリかなと思いまし た。東口の特徴を今後どうしていくかま で踏み込んで考えてくれれば。

吉江 提案の一つ一つが小ぶりのような 気がする。抜本的にここの環境をどう良 くしていけばよいのかを、前段で強調し て欲しい。

矢口 やはり決め図がないのが痛い。地 上と地下を合わせた3次元のパースがあ るともう少し話が分かりやすいのではな いか。商店の楽しさの表現が足りないの で淡々と機能の説明をしているプレゼン に聞こえる。

加藤 4ページ目のアクソメのように、 これくらいの全体が見えている中で、地 下道だけ書くのではなく、周りの繋がっ

ている地下1Fも描きながら、少しのぞ き込めるような、あるいはジオラマみた いな世界が描けると良い。吉田先生が以 前見せてくれた田中智之さんのスケッチ も描くときの参考になると思う。道が人

類のものだという主張は伝わってくるし、 地下とつながっている良さは見え始めて いるので、それが増幅していければ。

このプロジェクトでどれくらい人の流 れが変わっていくのか。ここがこれだけ 豊かになるんだということを、パースや スケッチだけでなくともプロットしてみ るとか小さな矢印をたくさん書いて人の 流れを示すとか、色々な表現がある。例 えば道の1カ所に固まっている人たちが なにか全体に広がっていくような、大き な一つの矢印が小さな矢印の集合体とし て見えてくるみたいな、視覚的な仕掛け を作ってくれると良い。

のときに使うといい。あとはプロジェク トの相関関係みたいなものが、可視化さ れるといい。

吉江 すごく良い提案だなと思うが、あ とは全体の提案の構造やストーリーをも うちょっと明確にしたい。今、テーマと して書いてあるのは「生活圏の刷新」と いう一言で、刷新というのは、どういう ことなのかをもう少し考えてほしい。

有賀 神楽坂の表通りに対して直行して いくような、筋というか路地というか、 そういうものを意識してほしい。例えば 建物と建物の間の隙間から垣間見える料 亭の雰囲気だとかね。表通りは商業ビル が高く立ち上がってきてしまってる中で、 神楽坂の裏へいざなうようなしつらえを 考えてほしい。

矢口 入り口の部分のデザインをもう少 し丁寧にやってくれると、今やってる六 つのプロジェクトの全体が、もう少し繋 がる。神楽坂から理科大側のあたり、今 ポルテとかが建っている部分が、どうい うふうに繋がっていくのか。

後藤 別の観点で言ったら、いわゆる記 号化された神楽坂をトレースしてるに過 ぎないという批判もできなくはない。や はり神楽坂の本質は、まだまだ深いとこ ろにあるような気がする。最近は変な和 のテイストに向かっているようにも思う が。例えば僕が好きなフランス料理店の 話をすると、フランス人たちはやはり路 地空間の持っている本質的なものを嗅ぎ 取って、裏路地の中に料理店を構えてい る。コロナのご時世でネット空間上に溢 れている情報を編集すると神楽坂の表層 的な部分に注目することになってしまう が、自分の五感でいいところを嗅ぎ取っ て見つけて欲しい。

三島 すごくレベルの高いプレゼンテー ションで、とても良い着地の仕方をした なと思いました。最後の絵はパワフルな ので、最後に出てくるというよりは、ひ とつひとつの提案のプレゼンテーション

9歩き、留まる街 社会的 交流の促進と古き良き街 の保全により神楽坂の魅 力を高め、流動性を生む グループ|HUE
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現地最終発表会

2020年7 月15日 オンライン

ゲスト:新宿区役所(田幡佳弘、山近資成)、佐藤滋、後藤春彦 渡戸一郎、稲葉佳子、山下馨、逵誠也

*例年は現地で行ってきた発表会を関係者やゲストを招いてオンラインで開催した

た際、西武新宿線と大江戸線中井駅の間 は歩道がない中、車の通行も人の通行も 多いという状況で、非常に危ない空間だ と感じた。そこで歩道を設置して歩者分 離をする提案とした。

ポストコロナにおける 超高層オフィスビル街 の再構築

グループ|いたふみ

渡戸 都市社会学の視点から「疎密コミュ ニティ」の発表は非常に面白いと思って 聞いていた。住民間の弱いつながりを作 るとか、つながりの量を調整できるとか、 そういったことは非常に面白いアプロチ だった。具体的にはどういった仕掛けに していくのか。ハードだけではなくてソ フト面の仕掛けも必要に感じる。

——ソフト面について、例えばストリー トライブラリーの提案では、つながりを 調整できる機能として、蔵書を訪れた人 が自由に交換できるということを考えて いる。その際、自身が興味のある本を一 人黙々と読むように、さほど人と関わら ずに済むコミュニティを維持するという こともできるし、自分の興味のあるジャ ンルを読んでいる他の人や、まだ読んだ ことのないジャンルの本を持っている人 と積極的にコミュニティを作ることもで きる。コミュニティを作ることも作らな いこともできる空間として提案した。

渡戸 例えば、小さなカフェがそういっ たスペースの隣接部にある、あるいは中 に一種の第3空間として埋め込まれると いうのは発想として面白い。ソフトとし ての仕掛けがあった方がより今回の提案 も生きてくると感じた。

新宿区 人の気配を感じさせるのであれ ば、車を来させないようにする方が幅員 を考えると実現可能かもしれない。中井 は結構せせこましいエリアなので、そこ のスケールに合った提案へと深まるとよ り良いと思う。

新宿区 西新宿は今駅直近地区っていう 形で、コロナウイルスの影響が入る前に 決定した事項に関してまちづくりを進め ているが、今一度皆さんにお聞きしたい のが、30年後にこういうオフィスがそも そも必要なのか。

新宿区 落合の提案については具体性が 高く良い案だと感じた。中井駅周辺につ いては、歩者分離を空間整備していくと いうことか。新宿三丁目だと時間によっ て車の入れる時間を限るルールを作って いる。中井は道路幅員もあまりないため、 そういった地元でルールを作る方が現実 的かもしれない。中井に合ったスケール で考える必要があると感じた。

——歩者分離に関しては、現地調査に行っ

新宿区 ビルの1階部分と歩道部分をコ ネクトするような提案がされているが、 新宿区でも歩道の社会実験をしている。 それがうまくいっていないからこそテナ ント部分との連動が必要だと思われてい るのだろうか。今の新宿のやり方ではい けないという部分を教えてもらえないか。 ——1階部分を繋げるということについて は、区の取り組みだけではなく、民間の 取り組みがあることで、例えば1階部分 を拡張した部分で得た賃料等、エリアで 得た利益を民間が取得するのに対し、区 は流れてくる人の量の多さの利益で活性 化していくというように、民間と行政が 関わることでできることがあるのではな いかという発想からこのような提案をし た。

新宿区 現在新宿東口の方でファサード に形態制限をかけるような都市計画決定 がなされている。それとは異なる方向で、 この提案はテナントに対するものなのか ビルのオーナーに対するものなのか。そ れらとどのように関係を作っていくのか。

——拡張された部分をオーナーに貸し出 すことで、それをどう使うかはオーナー 次第ではあるが、例えばテナントを入れ ることによって、さらに新宿自体もにぎ わいが増すのではないかと考えている。

——コロナをきっかけにリモートワーク を強いられた状態で、意外とオフィスは いらないなって思った方もいると思う。 一方で居心地のよさを求めると、それは 家一つでは解決できないので、自分の居 場所を求めてオフィスに行く方もいるだ ろう。そういった面でオフィスビルがな くなることはないと思うが、今までのよ うな窮屈な、閉じ込められたような箱に 出勤するというよりかは、家よりもさら に居心地がいい、集中や効率性を上げる ために行くような場所としてオフィスビ ルを求めると思う。ビル内にオフィスし か入っていないのではなく、来訪者や地 域住民の人も含めたいろんな人たちが出 入りするような環境っていうのをつくる べきだと思う。

新宿区 現在、西新宿に働きに来られて る方ってかなり遠方から1時間弱電車を 乗っておられるのが多い。1時間弱かけて まで行く付加価値がある場所として、そ こを再生するという案になるのか。

——はい。ただ、これから単身者が増え てくると思う。そうなった場合は西新宿 に近いところに住む人たちが増えてくる と思う。

グループ|スナックTOMMY

逵 ゴールデン街でHALOっていうお店 をやっている逵誠也です。僕らも発表の ように、朝と昼と夜の営業をこのコロナ

建て替えでつくる 疎密コミュニティ グループ|龍角散 1 気配をつなぎ、 地域を結ぶ2 グループ|苺大福
“Unknown” project -Close Encounters with Unknown
グループ|Knownhub
5都市の解放区~変わら ないために変わる居場 所の提案~
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の期間が終わってから開始していて、お 客さんとより密にコミュニティを作って いく方法を試している。自分たちが今体 感として感じてるところは、やはりゴー ルデン街というのは、夜の街で朝まで飲 んでそのまま酔っ払ってしまって寝てて も大丈夫みたいな場所だということ。な んていうのか、受け入れてくれるみたい な状況が、魅力だった。それに対して僕 らの朝のコンセプトは、1日の始まりのス イッチ入れるような場所にしたいという ことだった。だからお酒は提供せずにコー ヒーとかお茶とか、ホットサンドを出し てる。しかし今はやはり朝まで飲んでい

るお客さんが来るということが現実。バ ランスが難しい。

例えば子供の食堂になり得る事業の話 にしても、朝に子供たちがいる状況で、 飲み明かした大人たちがやってきて、ど う交わっていくかという難しさがある。 夜の良い面と悪い面と、朝の面と昼の面 をどうバランスをとって、これから作っ ていくのか。駐車場のところに建築物を 建てるという発想はすごくアンテナとし ては面白い感じはした。

ミャンマーなどとは繋がってない部分も ある。それをどういうふうに繋げていく かというのが一つの課題。商店街だけで はそれは難しいので、かえって留学生が そういったとこでアルバイトをしながら 横に繋がっていたりする。そういった人 たちは、学びに来る人と同時に働く人た ちでもあるが、彼らが意外と重要な存在 になっていくかと思う。

グループ|サムギョプサル

渡戸 関係を持たない多文化っていう現 状認識が示された。一番大きいのは、地 元の日本人の住民と商売をやってる人た ちの接点が少なかったり、日本語学校と の接点が少ないこと。商店街が間にあっ て、商店街の中では国籍を超えた横の繋 がりを作ろうという活動も、この2年ぐ らいある。大久保の方では大久保商店街 振興組合が土台になって、インターナショ ナル事業者交流会というのをやっている。

去年の夏には第1回の新大久保フェスが あり、韓国・ベトナム・ネパール・日本 のお店の有志の人たちが連携して一つの イベントを立ち上げた。コロナの下でも どんなふうにやっていくかということで、 2ヶ月に一回ぐらいは集まったりzoom会 議をやったりして、意見交換している。 そういった事業者の人たちを中心に地域 が動いてる。ただ、韓国・ネパール・ベ トナム・日本以外のところの、中国とか

稲葉 大久保の魅力は、非常にちまちま コマコマした街路と敷地の中でいろんな 文化を持つ人たちがそれぞれの思うよう にやってるというところだ。ある意味で 計画がないから面白という話だが、そこ に今回皆さんはなんらかの計画を持ち込 むということだったため、興味深く拝見 した。一つ目は、まさに大久保は消費さ れる街になっていて今のままではいけな いと思うが、発表を見ると観光客を非常 に肯定的に捉えている。大久保に古くか ら住んでいる住民にとっては観光客こそ ニューカマーで、よくある住民と観光地 の中の軋轢がある。どうしてももともと 住宅地だったので、トイレもないし、ゴ ミを捨てる場所もない。そういう中で住 民と観光をどういう関係にしていくのか、 難しい課題だと思う。多文化共生ってい う言葉、多文化の空間、この多文化とは そもそもどういう状態なのか。多文化の それぞれの主体がどういうふうに想定さ れているのか。

——観光客というよりは、住民が主体に なるようなところを重視して考えていた ので、韓国人やベトナム人、留学生がい たりする住民の中の多文化を主体として 捉えている。

稲葉 住民には色々な国の人たちがいる が、同時にここに来る来街者、観光客も その多文化の中の一つだ。多文化は別に 住民に限る必要もないし、国籍に限る必 要もないし、ある意味ではLGBTの人た ちとか、いろんな文化的背景を持つ人た ちが入ってくる。大久保にとってはさっ き言ったように、観光客という存在自体 がニューカマーであり、住宅地にとって の、ある種の異文化だと思うので、皆さ んの発表を聞いていると、それをどうい うふうに融合させていくのかを目指した のかなと感じた。

新宿区 最後の方のスライドがとても魅 力的だと感じた。あそこ、演劇するとい うイメージがなかったので、アクティビ ティとして増えるのは面白そう。新宿区 はあまり水の恩恵をデザインできていな いところなので、さっきの落合も魅力的 であったがこのように豊かになっていく のはとても良いと感じた。これをやって いく上で何が必要なのか考えたい。

山下 外濠は新宿の端だが、江戸の町か らしたら江戸城の淵である。神楽坂は外 濠の淵にあるという位置づけだが、外濠 を中心にして考えることはなっかったと 思う。外濠の大きな水・緑の空間は神楽 坂から四谷までをつなぐ大きな軸であり、 新宿区と千代田区を一つにまとめていく ような大きなスペースだと思う。そうい う意味で、外濠を真ん中においてものを 考えていくという発想はとても良い。た だそれは、生活や働くということではな くて、例えばトリエンナーレを様々な大 学や施設を巻き込んで大きな仕掛けとし てやったならば、江戸の文化をそこから 発信することになるし、江戸の都市計画 についても考えることができるし、水の 都市をみんなが体験することもできる。 外濠は意外と面白い仕掛けを入れる場所 なんだろうと思う。

吉江 確かに外濠の計画は、日本の中で も影響力のあるメッセージを発せられる。 そこに住んでいる方々の生活圏に今回は 寄り添ったが、外濠をデザインすること が東京や関東にどういう意味合いを持っ てくるのかも大事だ。

8Shinjuku for People 立体的な歩行者空間 グループ|もぐらの大脱出
6 オオクボ〈百人〉都市 ―多文化の間をデザイ ンする―
7樹状に拡がるネットワー ク-After COVID-19の 行動変容に柔軟な都市- グループ|
护城河
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(最終発表会でのコメントなし)

新宿区 今、神楽坂は地区計画の変更が 終わったばかりで、今後どのようにして いけば良いのか地元で勉強を始めている。 神楽坂の担当の者にも今回の資料を共有 させていただいて、ぜひ地域に入り込ん でいただけたらと思う。

山下 若い方からの発案、外部の目から 見た発案ということで色々な提案がある のはよくわかる。ただ、根本的な捉え方 について地元から申し上げると、基本的 に神楽坂は生きている場所で、生活も色々 な活動もあり、神楽坂は歴史的な保存地 区でもなければ博物館的な美術館的な街 でもない。生きて、暮らして生な体験を するのが神楽坂だ。その中に実は歴史や 文化がが埋め込まれている。神楽坂にく ると皆さんはあまり意識せずに昔の大正 昭和のイメージを感じるかもしれないが、 それをどう引き継いでいくのかが街の大 きなテーマだ。色々なテーマがあっても 良いですが、神楽坂といっても各地区ご と、商店街のブロックなど成り立ちや関 係性も違う。無理やり路地を表通りにつ なげてみるというのは無理がある。また、 路地に様々なものを埋め込むといっても、 路地空間はやはり生活の場なのでそれら とのバランスをどう取るのかというのは、 来街者の立場だけでものを考えてしまう と崩れてしまう。

——おっしゃるとおり、路地の部分を表 通りとつなげることに関しては少し問題 があり、少し意識が足りなかった。ただ、 神楽坂通りとつなげるという提案に関し ては大久保通りの南側の敷地の方を設定 して、何か賑わいを生むような計画にし ようと考えた。

山下 提案はたくさんあってしかべきだ し、街は次の世代が引き継いでいく。街 を変えるのは地元の人だけでなくて、神 楽坂が好きな人たちの意見がどんどん集 積されて商業の街である神楽坂がどんど

ん姿を変えていくというのは良いと思う。 ただ一方で、神楽坂を含め江戸のエリア の中で歴史や文化を街の拠り所にして、 住民が街を大切に育てていこうという動 きがある。神楽坂で言えば、歴史文化地 区宣言の草案を作ったりしている。こう いった動きは他の地区でもあって、東京 の中で神楽坂をどう捉えていくのか、神 楽坂も四谷も江戸のまちを支えてきたブ ロックの価値を見直すなど、いろいろな 見方があると思う。大きな文脈の中で神 楽坂を捉えて、他の街と同じような流れ に持っていくのではなくて、大きな視点 の中の神楽坂の未来はこうあった方がい い、多くの人の都市生活の中で神楽坂は 大きな価値を持って存続できるのではな いかというのが、地元の考え方。こういっ た考えを拝見した上で、提案を積み上げ ていくのがいいのだと思う。

佐藤 オンラインの発表は伝えるのが難 しい。なかなか聞いてても集中力が続か ない。このような状況が続く中で、どう やってものを伝えるかという発表の仕方 を考えるべき。図面はあるのだけれど、 今までと同じような伝え方をしているか らうまく伝わらない。想いはあるのだと 思うが、計画や提案という言葉を使って いるのだけれども、それがとても空虚だっ た。ある人は未来予想図と言っていたが、 ああいうのはピンとくる。だから、まち を一緒に作りながらどういう風にまちが 変わってきて将来こんな風になるんです よという説明の仕方をすると、自分はど こに参画するのかというイメージが湧い てくるのではないか。今までのようにこ の図面はこうですというのではなく、語 りや対話などどう伝えるかということを 工夫してもらうといいと思う。これから 我々の職業では、社会の中でのものの伝 え方が大きく変わってくるのではないか。 面白いことに、zoomでは今まで発言しな かったような人が発言したり、不登校の 子たちが元気になったりということもあ る。とても気軽に参加できるようになる。 今までその場所に来ないと参画できな かったけれども、もっと色々な人が気軽 に入ってくるという形になる。そうする と、計画の作り方・考え方・表現の仕方、 それに至る思考のプロセスの部分もこれ から随分変わるのではないか。

後藤 最初に思ったのは、この9つのグ ループの並べ方は吉江先生が考えたんだ ろうと思うんだけれども、なんとなく9 つのシークエンスに意味があるのだろう と思って聞いていた。

1~3はコントロールやマネジメント をしようとしている。ですから、言葉が とても大切なんだろうと思う。「疎密コ ミュニティ」「気配」「unknown」という 言葉を使っている。チームの中で共有で きる概念までは発達したのだと思うが、 まだ初耳の人には伝わりにくい。そうな ると双方向性というものが重要になって きて、伝え方も直接話法で伝えるのでは なくて、隠喩のような方法で伝えていか なくては、都市空間の中ではノイズになっ てきてしまうだろうと感じた。4~6は既 成の空間に新しい機能をインフィルする、 それが「共創磁場」や大久保の学校、ゴー ルデン街の子供食堂などをやってくれた のだと思う。7~9はネットワーク、水 辺や地下空間、路地空間をつないでいこ うという案だった。その中で一本取られ たなというのが、7グループの外濠のボー トが浮かんでいる絵だった。アフターコ ロナとはこういう景色なんだろうと思わ された。ボートに乗る2人は親密なのだ けれども、周りからは一定の距離をとっ ている。何かこれまで見てこなかったア フターコロナの世界を垣間見させてくれ たのがこの一枚のパースだったと思う。  さっき稲葉さんが「計画されないから 面白い」と言われて、そうする都市計画 はいらなくなっちゃうなと思ってしまう けれども、そうではなくて余白をどうやっ て設計していくか、ということに我々の 仕事の領域が変わってきているのではな いかと思う。2メートルという物理的距離 をとるという密度のコントロールの仕方 が従来のプランニングだったのだと思う が、ソーシャルディスタンスというのは 我々計画者が計画しなければいけない。 社会空間が我々の計画の対象になってき ている。そうなると佐藤先生のおっしゃ るように、タンジブルな表現で物理的な 空間を提案するだけではダメで、インタ ンジブルな手法をもってソーシャルなス ペースを合わせて提案していかないと、 我々も社会の変化についていけないので はないかと感じた。

9歩き、留まる街 社会的 交流の促進と古き良き街 の保全により神楽坂の魅 力を高め、流動性を生む グループ|HUE
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指導教員

有賀隆   (早稲田大学理工学術院教授)

矢口哲也  (早稲田大学理工学術院教授)

富田宏   (早稲田大学非常勤講師・株式会社 漁村計画代表取締役)

吉田道郎  (早稲田大学非常勤講師・株式会社 梵まちつくり研究所代表取締役)

加藤詞史  (早稲田大学非常勤講師・株式会社 加藤建築設計事務所代表取締役)

三島由樹  (早稲田大学非常勤講師・株式会社 フォルク代表取締役)

吉江俊   (早稲田大学理工学術院講師)

ティーチング・アシスタント

有森実希  (早稲田大学大学院創造理工学研究科)

河南奈々子 (早稲田大学大学院創造理工学研究科)

才間夏葵  (早稲田大学大学院創造理工学研究科)

須栗諒   (早稲田大学大学院創造理工学研究科)

近重慧   (早稲田大学大学院創造理工学研究科)

中岡暖   (早稲田大学大学院創造理工学研究科)

受講生(以下、早稲田大学創造理工学部建築学科)

池田悠人

池本博喬

市川春香

猪股雅貴

小野優真

上柿光平

神作希

河井優

栗原美紀

小久保美波

篠原和樹

下田悠斗

上甲勇之介

末田響己

協力

園山遥穂

高野美沙子

高橋亮太

竹俣飛龍

田中花梨

田村祐太朗

冨永万由

藤原飛悠梧

舟岡晴樹

巻島賢樹

三浦萌子

三村彩夏

村井遥

山口乃乃花

DALTON Louis-marc

GAUTRIN-MOUTIN Tim

HONG Yang

LONGCHAMP Alyssa

QIAO Yu

SREY Sokuncharia

WANG Yaqi

ZOU Lichen

新宿区都市計画部景観・まちづくり課(とくにコーディネーターを務めていただいた 山近資成さま)、新宿区住民・事業者・関係者のみなさま 本演習授業では、以上のみなさまにお世話になりました。記して御礼申し上げます。

発行:早稲田大学創造理工学部建築学科  2020 年12月 (冊子編集:吉江俊)

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