建築表現III 拡張する「すまい」―住宅と生活様式の更新による郊外の再生―

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早稲田大学 創造理工学部 建築学科 2年 ―住宅と生活様式の更新による郊外の再生―拡張する「すまい」建築表現Ⅲ学生設計課題 優秀作品集

学生設計課題作品集設計表現Ⅲ早稲田大学建築学科学部2年産学連携プロジェクト早稲田大学×三井不動産第4課題 吉野本夛川﨑冊子担当/編集・制作:太一みずほ建人 目次建築表現Ⅲ拡張する「すまい」『溶融街区』『きっとに誰かに会える』『大学をまちに溶く』『50年越しの再考』『繋がり展がるすまい』『話街(HANA-MACHI)』『シェア型もり暮らし』『流動起点『しゃべらない家』『繋輪の家』『心が勤める』『互助を生む家』『持ち寄る本・出会い・憩う』課題趣旨―原風景の記憶―』おわりに―住宅と生活様式の更新による郊外の再生―学生設計課題優秀作品集1246810121416182022242628青木沙綺荒井百音碓氷創平矢古宇友香小泉満里奈信太秀仁武野ゆずは中谷紗季今村雅貴曹鷺怡永井銀河松本維心島孝太早稲田大学建築学科教授 矢口哲也

1 境が求められるようになりました。や価値も一変し、より多様な住環とで、「すまい」に対し求める機能に伴い、在宅時間が長くなったこ しかし、2020年、感染症の拡大ました。心へと通勤する生活様式が定着しが数多く建設され、郊外に住み都1970年代にかけて郊外型の住宅地宅の集積が加速し、戦後復興からきました。これにより、商業や住離され、単機能の空間が創られて 近代の都市では土地の用途が分 少子高齢化による町会活動の担い街路、平日日中の人通りの少なさ、確保から閉鎖的になってしまったしている一方で、プライバシーのがり、緑豊かな良好な街区を形成立ち並ぶ典型的な郊外の風景が広す。ゆとりある一戸建ての住宅がにされた代表的な郊外型住宅地で禅寺周辺も高度経済成長期に計画 新百合ヶ丘駅近郊に立地する王ことになりました。を再発見するきっかけを提供する感染症の拡大は身近な地域の環境 もらいました。地像を、設計提案としてまとめてみ出される新たな生活と郊外住宅うな機能を想定し、それにより生単機能型住宅地から脱却できるよには住み手の生活を豊かに広げ、い」の提案を期待しました。学生外住宅地像へと導く新たな「すま加することで、今後求められる郊型の郊外住宅を見直し、機能を付 今回の課題では、従来の単機能も抱えています。手不足など、郊外住宅特有の問題 これからの「すまい」のカタチ暮らしを豊かにする新たな機能によって生れるこれまでの単一機能型住宅からの脱却 拡張する「すまい」 課題趣旨住宅と生活様式の更新による郊外の再生

2 持ち寄る本・出会い・憩う

キーワード

ガラス張りの共有部にみなが本を持ち寄り、地域に開かれた本ぐり、ワクワクさせる要素を散りばめた。を付加する。一つの住宅の中に、子どもの好奇心や冒険心をくす画一的な住宅地に子どもの視点を取り入れることで、街に面白み子どもの遊び場,共有本棚,共有通路 公園への道中、道ゆく人の憩いの場となるだろう。を見つけることができる。本を片手に、ハンモックやほら穴、階段など、思い思いの居場所棚となることで、多様な人や本に出会う場所となる。ここでは、青木沙綺

設計概要

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設計概要

キーワード

互助を生む家

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を共有スペースにし、各敷地の中庭をつなげてグリーンベルトを築くことによる解決を目指す。そのために各住宅の1階部分決できない問題に対して、地域の中で助け合えるような関係性この提案では、住宅街での高齢化に伴って発生する家族単位で解互助,共有スペース,グリーンベルト (緑地帯)を形成することで、そこを拠点とした日々の交流を促していく。共有スペースの使用例としては地域の食堂や託児所、まちの小さな図書館などが挙げられ、多様な世代や家族形態に対応した空間となっている。荒井百音

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碓氷創平

設計概要

中できるスペースと談笑できるスペースがあり、多様な働き方けるようになっている。このワーキングスペースでは1人で集とで、多様な職種の人々がコミュニケーションをとりながら働この住宅では、1階部分に地域のワーキングスペースを設けるこ

心が勤める

キーワード

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程よい距離感で共存できる住宅と言えるだろう。働く人と居住者がつながることができる。私的空間と公的空間がが、キッチンとダイニングを1階に配置することで食を介して、に対応している。また、2階は居住者の私的な空間となっている

ワーキングスペース,リモートワーク,パブリックとプライベートの共存

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キーワード

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繋輪の家

設計概要

連続空間,上下の接続,視覚的なつながり

矢古宇友香

い天井を用いたり、書斎では床を階段状にしたり、高さを調節くつながっていく。親しい友人などを招く客までは5m以上の高うことで、それぞれの部屋や内側の庭が、暮らしの中で心地よ本建築では住宅の各個室を輪っか状につなげ、仕切りを取り払 とつなげ住民の輪を広げていく。まちに開かれた用途を配置することで、居住者を周辺に住む人々た、1階の屋外スペースにはカフェスペースや屋外リビングなどすることによって、壁で分断させずに部屋を創り出している。ま

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小泉満里奈

キーワード

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設計概要

サウナ,音楽,学生との交流,民泊

気浴での「ととのい」、近隣の音大に通う学生が食堂で奏でる「音言葉を介した交流ではなく、サウナでの「ゆらぎ」、水風呂・外度いい距離感を築けるすまいを提案する。この住宅では従来の住宅にサウナを付加することで、ただいるだけで住民同士が丁

フステージに応じて変化していく設計となっている。てもらったり、2階を民泊にしたり、住宅のあり方が住民のライこの住宅居は住者の高齢化と共に、サウナの管理を学生に手伝っ楽」など、様々なものを共有することによる交流を促す。また

しゃべらない家

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12 流動起点―原風景の記憶― 海だったこの地区から出土する巻貝から発想を得ている。こののランドマークとなるような建築である。またこの外観はかつてろう丘陵地の原風景をイメージした曲線的な外観の住宅で、地域王禅寺周辺地区の住宅開発が行われる以前に広がっていたであ 観を作り上げる。き百年の風土記づくりに記されたコモンスペースが連続した景ティストたちが集う空間とし、まちに開いていくことで、かわさ住宅を連続的に並べて、そこに陶芸、服飾、音楽など様々なアー 設計概要 キーワード 曲線,ランドマーク,アーティストが集う空間,連続したコモンスペース 信太秀仁

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14 シェア型もり暮らし

武野ゆずは

地域内循環,物々交換,シェアリング,緩やかな繋がり

「シェアリング」をキーワードに、ヒト、モノ、自然環境の循環を生み出す新たな暮らしのかたち(もり暮らし)を提案する。街区内の敷地を豊かな森と林道で繋ぎ、森の中に多様な住人の家が入り込む。中央の広場でお祭りを開いたり、自然で遊ぶ子ども による緩やかな繋がりが豊かさをもたらすことを教えてくれる。環が生まれる。もり暮らしという新たなライフスタイルは、自然林道の入口となる家は物々交換所の機能をもち、ヒトとモノの循の姿を家から眺めたり、森によって住人の暮らしが混じり合う。

設計概要 キーワード

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設計概要

キーワード

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街路の拡張,フリーマーケット,交流の場,小さな街

中谷紗季

話街(HANA-MACHI)

ストリートがあれば良いのに…との思いから、年齢、性別問わず、トの家を設計している。駅周辺に行かずとも、住宅街に楽しい場所として開放する計画。区画の一例として、フリーマーケッ立ち並ぶ住宅の街路側を、地域人々が集い、話すことのできる 域からも人が訪れ、お祭りが開催される未来も描いた。来的にストリートとして形成されることを想定している。周辺地なまち)を設計した。取組みは1つの家から徐々に広がり、将周辺の住人がふらっと集まり、気軽に話せる小さな街=話街(は

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繋がり展がるすまい

キーワード

今村雅貴

である。具体的には夫婦の作品展などを通して、近隣住民の繋が拠点にそのネットワークを更に展げていくことを目指した建築アトリエが配置された、芸術を介して地域の人々を繋げ、ここをこの住宅は造形作家の夫婦の家として設計され、土間に展示室と によってセキュリティやプライバシーも確保されている。て大きな開口を設けることで人を引き込みつつ、出入り口の配置ることで地域全体を繋げていく。本設計では前面道路や庭に面しりをつくり、やがて大学や町会と連携しイベントの規模を拡大す

設計概要

展示室,アトリエ,アートイベント,大きな開口,セキュリティ

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曹鷺怡

50年越しの再考

していけるよう、可変性の高い設計を目指した。す。特定の機能に特化せず、居住者が自由に機能を付加して拡張宅は住民主体のまちづくり拠点の最小単位としての役割を果た職場を都心に置き、核家族化が進んだこの地区において、この住 て、近隣住民の生活との混じり合いが生まれる。方によって個性が生まれるだけでなく、出入口や窓の工夫によっな窓、2つの入口などを設けている。居住者に応じた多様な使い具体的には、多機能な水回りや、高さが可変式の床、多種多様

設計概要

自由な機能付加,スキップフロア,可変床

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キーワード

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設計概要

大学キャンパス,学生との交流,集合住宅,分散型

キーワード

永井銀河

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大学をまちに溶く

の増加、多世代の交流を実現する。住宅にはオーナー夫婦と学生込ませる。学生を地域コミュニティに取り込むことで、関係人口外に対して、ここではそれらを小さな単位に分解し、まちに溶け住宅、公園、大学などが大きな単位でゾーニングされた現在の郊 溢れ出し、住人と学生のコミュニケーションの場となる。分散配置によって実現された多様な中庭空間には様々な活動が地の時間の流れに変化を生むことができる。が暮らし、短期間で住人が入れ替わることで、固定化された住宅

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キーワード

まちのたまり場,曲線,分棟型

ンによって、誰でも入りやすいような空間になっている。また、曲線を用いた建物形状、奥へと向かう段差などの様々なデザイ間を付加した住宅である。たまり場は、前面の道路とのつながり、本建築は従来の住宅にまちにとってのたまり場となるような空 ケーションを活発にさせてくれる住宅である。ば誰かいるだろう」、そんなことを思わせ、住民同士のコミュニに開きつつプライバシーの確保を実現させている。「きっと行け居住空間に用いられたルーバーによって視線を遮ることで、まち 設計概要

きっと誰かに会える

松本維心

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溶融街区

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設計概要

キーワード

街区単位での交流,小規模ミーティングルーム、バラバラな住宅の配置

島孝太

て住宅同士を近づけ、住宅の配置を様々な方向に傾けることで住流に着目した提案である。具体的には、前面の歩道を大きくとっれる街区(街路で囲まれた一区画)を開くことによる小さな交本設計はまちという大きな単位ではなく、数世帯によって構成さ の参加を促す事ができる。で会議を行うことで、従来の町内会よりも気軽な住民自治活動への小規模のミーティングルームを設け、そこで街区内の住民だけ民たちが気軽に入りやすい街区を形成する。また各街区内に共有

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28 おわりに ト調査の現状意識把握のためアンケー 研究会ではまず初めに、住民されました。産学連携活動の一環として作成に取り組んでいます。本冊子もネットワークで地域の課題解決住民・企業・大学による柔軟なプロジェクト」を立ち上げ、行政・質な郊外住宅地の『経年優化』王禅寺エリアを対象とした「良た。産学連携活動の一環として、する包括協定を締結いたしまし早稲田大学2021年12月、三井不動産と産学連携の推進に関*1を2022年3月から4月にかけて実施しました。これにより、多くの住民が自宅周辺に自分の居場所を持てていないこと、コロナ禍を経て自宅での過ごし方が多様になっているこ からは質の高い数々の設計提案たにも関わらず、履修者の学生 ほぼ初めての設計課題であっました。空地を利用した設計提案を行いに協力頂き、王禅寺東一丁目の稲田大学学部2年生と地元町会して柔軟な提案を行うため、早いう問いに対し、より広く、そ住まい方が考えられるのか、とはなにか、どのようなあらたな 次に、新たに付加する機能とげる事としました。化のための施策の一つとして掲する「住宅機能拡張」を経年優ら地域の問題解決にアプローチ加することで、すまいの拡張か可能な住宅を既存の住宅地に付そこで、多様な住まい方に対応となどが浮き彫りにされました。 ozenji.org/ にて公開中*1の一端を共有できれば幸いです。が考える新たなライフスタイルることはできませんが、学生達上、残念ながら全作品を掲載すが模索されました。紙面の都合拠点居住者など、様々な可能性たな住民候補として大学生や二会議を促す空間としての庭、新どのプログラム、互助や井戸端としてのライブラリ、サウナなが行われました。小さな居場所 詳細はhttps://keinen-yuka-早稲田大学建築学科矢口哲也教授

contents 『持ち寄る本・出会い・憩う』課題趣旨 『互助を生む家』 『心が勤める』『しゃべらない家』『繋輪の家』『シェア型もり暮らし』『流動起点『繋がり展がるすまい』『話街( 『大学をまちに溶く』『 『溶融街区』 おわりに 学生設計課題拡張する「すまい」優秀作品集早稲田大学・三井不動産産学連携プロジェクト

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