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アイリス・リチャード
BEGINNINGS 小さな始まりが大きな終わりにつながるという物 語やたとえ話は、 数え切れないほどあります。これは、 私自身に起こった、小さな始まりの話です。 当時、ある社会福祉活動に関わっていたのですが、 見知らぬ人から言われたことがもとで、その活動の 方向性を変えることについて考えさせられました。 私たちが活動していた地域では、永続的な成果があ まり生み出されておらず、労苦の結果は、期待して いたものから程遠いものでした。努力しても虚しく 思え、活動は行き詰まる一方でした。 私には、何を変えるべきなのか見当もつかなかっ たのですが、まったく期待していなかった時に、あ る出会いがきっかけで、物事が動き出しました。人 と会う約束があって、オフィスの受付で待っている 間に、見知らぬ人とおしゃべりを始めたのです。相 手はアフリカ出身の実業家で、自分の国について、 景勝地や人々のことを愛しげに語り、そこの社会的 不均衡や貧困についても話してくれました。 後になって、この出会いを振り返った時、私の心 が肥沃な土地となって、そこに小さな種が植えられ ていたことに気づきました。最初はちょっとした導 きを感じる程度だったのですが、そのことに注意を 向けると、アイデアが芽生え始めたのです。そして まもなく、アイデアは計画へと姿を変えました。そ の計画は、特にそれが活動場所や運営方法の大きな 変化を伴うこともあり、最初の内は怖いと感じまし たが、同時に興味をそそられました。この活動に関 して多くの祈りや討議がなされる内に、その計画は 徐々に形となり、行動に移されました。私たちは、 小さく臆病な足取りで、神が指し示しておられる一 見困難な方向へと進んでいったのです。こうして、
未知の領域に突入する地固めの段階が始まりました。 アフリカのある国で、地域貢献活動を立ち上げる 初期段階において、私たちの信仰や決意や忍耐が徹 底的に試されました。克服すべき課題が数え切れな いほどあり、数々の予想外の障害を乗り越えねばな りませんでした。そうやって、何年にもわたる試行 錯誤の末に、ようやく持続的な支援プロジェクトの 基盤が出来上がりました。 あの「導き」から始まり、これまで数多くのこと が成し遂げられてきたわけですが、時間という試練 に耐えてきた私たちの活動は、社会的に取り残され ている地域社会での奉仕を始めてから、27年目を迎 えます。最初の頃は恐る恐る足を進め、小さな形で 始まりましたが、それから何千もの貧しい家庭が支 援され、親に捨てられた子どもたちが教育を受けて、 その後仕事に就く機会を得るなど、数え切れない人 生にポジティブな変化がもたらされるまでになりま した。 私はそれ以来、思いつきであれ、未熟なアイデア であれ、神が心に植え付けてくださる夢であれ、特 定の方向への導きを感じさせるものがあれば、それ が持つ力を過小評価してはいけないということを学 びました。その導きに従ってみると、新しくより大 きなことにつながるかもしれないのです。このこと に関連して、最近読んだ話を思い出します。 史上初の「馬なし馬車」は、1769 年、ニコラ=ジョ ゼフ・キュニョーというフランス人によって製作さ れました。それは、大砲を運搬するための巨大な蒸 気駆動三輪車で、時速 3.6 キロという「猛スピード」 で移動しました。 当時、キュニョーの馬なし馬車が大きな利益を生