Alterspace ̶ 変化する、仮設のアートスペース
のものに分断の線をつくる。分断の線は接続しているようで、お互
キム・テドク
いに分断を邪魔しないように、接続しているかに見えるのだが、そ
韓国を拠点に活動するアーティスト。哲学と社会学を学び 30 歳を
れぞれの色が混じり合う事は決してない。線が交差することで文
過ぎてアーティスト活動を始め、現在は写真とインスタレーション
「 Alterspace 」には、4 つの展覧会が広がり、会場では連日ゲ
字のように見える意味を見出す《カタカナ》のシリーズは、線の構
を中心に制作を行っている。資本主義や社会の制度 への問いを
ストを招いてのトークイベントやワークショップなどを開催し
成がカタカナに見える形状を、既成品の布の上に作り出し重なり
投げかける作品を多く制作し、今回の作品は貨幣への固執と性的
ています。総勢 20 名を越えるアーティストの展示作品によっ
合う線の均一さによって、初めて拮抗が生まれる。
な欲望が強く結びつく現代社会への批判を投げかけた作品となっ
て構成された空間を舞台に、多彩な実践を継続的に展開す
ている。グロテスクに組み合わされた安価なおもちゃさえも、男性
ることで、会期中、アサヒ・アートスクエアは様々な表情をみせ
松本力
器を携えているというわかりやすい縮図が、一見すると、小さい頃
ながら変化していく、Alter( 変化する )space( 場) となってい
膨大な数の原画によりつくられるアニメーション作品は、前後のコ
の思い出に溢れたゴミ捨て場のような場所と会場に作品が点在し
きます。
マの残像を捉え輪郭が移動しながら再生され続ける。今回出品さ
ている。さらにはソウルの町にも点在しているという様々な層が集
れている3つの作品はそれぞれが微妙に影響しあっており、 《 お釜
積したインスタレーションである。欲望や貨幣などの安定しない価
かぶってちょっとダンス》の原画を振付けに、本人が頭の中で想起
値の揺らぎと収縮運動が、様々な場を飛び越えながら会場に散ら
をしながらダンスを踊る《 Dance for Yona 》や、それぞれの原画
ばっている。
がアニメーション作品の部分に登場し互いに接続し合う。アニメー
展覧会紹介
ション作品は常に揺れ動き伸び縮みを許し、さまざまな物質が映 像作品の素材となって取り込まれているため複雑なレイヤーを持っ
「 乱視の光 」
ている。例えば《 Halo 》は、テレビの上の帽子の箱の裂け目が様々
「 なんかいう/考え中 」
・企画|水田紗弥子[キュレーター]
な形に見えるということをアニメーション化しており、意味の無い
・企画|中村土光(アーティスト)
・アーティスト|イ・デイル[韓国]、キム・テドク [韓国]、松本力、林
輪郭に意味を与えながら、 その輪郭が少しずつ変化し拡張していく。
鑑賞者の入場を制限し、少人数の鑑賞者対アーティストがインタ
加奈子、大槻英世、中村奈緒子、劉茜懿[リュウ・チェンイ] [ 中国]
ビュー形式で対話をするという、新しい展覧会の見方を考える企画
Alterspace 企画者による展覧会で、中国と韓国、日本のアーティ
林加奈子
です。企画者中村氏のセレクション、および公募により選ばれた 10
ストによって構成します。
林が 2006 年頃から行っている 《 FITTER 》のシリーズは、パフォー
名のアーティスト・ 表現者が 1日限りの個展を入れ替わりで開催。
マンスになる前のドローイングでありアクションである。 《 FITTER 》
*メールにて事前予約済みの方は、 5階の待合所にてお待ちください。
ひとつのものを見ているはずなのに、全く別のものになっている。
は植え込みや立て看板の隙間、不思議な壁などさまざまな町の隙
*会場での予約は、4階受付スタッフにお申し出ください。30 分の
境界がぼやけて、見ているものにどうやって接続していいのかわ
間や見つけ、パズルのピースのように建物の隙間に身体を無理に
鑑賞時間で最大 3 名お入りいただけます。音声を録音します。ご了
からない。そして輪郭のぼやけた境界に、ひとつの線を引くことで、
当てはめる試みにより、場所に一瞬で働きかける方法を見出してい
承ください。
( ※)。今回 「 追い出すふりをしながら、よそ者に場を空けてやる」
る。どんな町も場も、外部からの働きかけにより新たな意味や知覚
選んだ7名のアーティストの作品は、私たちの今いる場に分断の
が見出され、停止し放置された場所はひとつもない事に気づく。そ
ための線を引き、輪郭を運搬するための運動を続ける。そしてぐるっ
の気づきを、身体の一瞬の閃きと感覚によって町に寄り添うことで、
・スケジュール
と別の方角に身を向け、新たな接続が開始される。
固定化されない場の新たな価値を引き出している。A4 のコピー用
11日[土]オープニングパーティー
紙が何枚も連なって裂け目を生みながら1 枚の大きな写真を提示
13日[月・祝]石井 諒 Ryo Ishii
本展はアサヒ・アートスクエア内の Alterspace というアートプロ
する方法や、小さいモニターで見る事のできるでんぐり返しを繋ぎ
16日[木]椿 武 Takeshi Tsubaki
ジェクト内で行われるために企画された展覧会である。物理的
ながら町を這い回り、放浪しながらぴったりと FIT する場所を見
18日[土]謝花翔陽 Shoyo Jahana
な環境によりいくつかの制限を作家に強いたことをここで述べて
出す彼女の小さな試みの集積は、 どんな考え抜かれた構図と技術
20日[月]中村三佐男 Misao Nakamura, 大絵晃世 Akiyo Ooe
おきたい。黒くすり鉢状になった壁面への設置はそもそも許可さ
による素晴らしい作品よりも私たちの感覚に真に迫ってくる。
23日[木]中園孔二 Koji Nakazono
れておらず、高い天井はスペクタクルな展示を期待しているかの ようでもある。
[事前予約方法はこちら] http://nankaitteru.tumblr.com/
25日[土]HIRAOJI 中村奈緒子
29日[水]Yelow
合板にスズランテープを編み、ピクセル画のようなイメージを提示
31日[金]You Tanaqua
また、この展覧会「 乱視の光 」と Alterspace の意図はイ・デイル
する。対になったベニヤの空間を行き来するように、あるいは残像
2月2日[日]永畑智大 Tomohiro Nagahata
の有機的な段ボールによる壁で繋がっている。段ボールの壁と
のように、漏れでてしまった色のように、時間の切れ端のような瞬
段ボールの舞台は空間に新たな意味をもたらす線を提示してい
間がもやもやと作品にまとわりつく。宙に浮いた作品や、エレベー
るように思う。その場に制限と規制をかけつつ、新たな価値を提
ターホールに立てかけられた木材を目をこらしてよく見ても、図像
供している。展示しているすべての作品は微かな動きを帯びて、
は曖昧にしかわからない。作品の先に生じる時間を暗示し、見る
「 12ヶ月のための絵画 」
アサヒ・アートスクエアという空間に痕跡を残す。
人が 作品を明確に理解させるのを拒否しているようでもある。実
・企画・アーティスト|近藤恵介
は全てのイメージは「 Wood Bender s handbook 」 という曲げ木
近藤恵介が 2013 年 9 月に始めた作品発表の形式で、毎月新作絵
の技術を習得する本から引用されたという、独自の不条理さに基
画を制作し展示をすることを12ヶ月間い続けます。 《 1 月》は通常
づくブリコラージュがこの展示である。5階部分の廊下に並ぶ静
のギャラリーからアサヒ・アートスクエアへと場を移します。作家に
謐な木のオブジェも曲げ木の技術により制作された用途をはぎ取
縁のある人が近藤(の作品)について書いたテキストも同時に掲出
られ構成される作品の一部であり、この作品群には中心や主体が
しています。
イ・デイル
存在しない。ただ中途半端に残された時間とナンセンスによって
・協力|MA2 Gallery
韓国を拠点に活動するアーティスト。廃材で制作された舞台や机
支えられている。
水田紗弥子
*「日常的実践のポイエティーク」 ミシェル・ド・セルトー、国文社 (1987)
の上に、誰でも自由にアクセスすることができ、 どのように活用され ても良いという考えのもと、 「 場 」を作り出す。今回は日韓の段ボー
リュウ・チェンイ
ルで出来たサイズ可変なステージ、展示作品の壁面、日韓のビニー
中国と日本、両方で活動を行うアーティスト。今回出品された CG
「 漂流メモ 」
ルで作った雲が展示室に浮かんでいる。サイズ可変なオープニン
によるアニメーション作品《天籟籟(テンライライ)》は自身の性や
・企画|CAMP
グでは会場内にテグスを引き、サウンドパフォーマンスを行った。
文化など、 アイデンティティの葛藤が描かれる。自然の音を聞こうと、
CAMP が 2014 年に開催予定の漂流する展覧会「 漂流展 」につい
場は普遍的で、誰にでも等しく存在し、また同時に場所とは誰かが
果敢に世界に働きかけはしごを登って行く少女が、社会の象徴の
てのメモ。
何かを仕掛けることで存在するということを、彼の作品、パフォー
ようなコンパスに対峙し、自分自身の心臓を踏みつけ、コンパスや
http://ca-mp.blogspot.jp/
マンスを通じて知る事ができる。
自身からも解き放たれるという至極全うな物語性をまっすぐに伝 える。彼女自身が思ってもみなかった社会がつくった境界にさまざ
大槻英世
まな形で繰り返し迫られ、そこから制作活動を通じて自分自身をも
マスキングテープを描く事で、風景に分断の線をもたらし新たな風
う一度獲得していくというまさに自身が投影されたものがこの作品
景が立ち現われる絵画作品を制作する。電線が景色を横切るよう
に結実している。 《 天籟籟(テンライライ)》と平行して制作された
に、光が明滅し目に飛び込んでくるように、 フェイクのマスキングテー
膨大な日記のような「 小格シリーズ 」 という、マンガのように小さい
プがキャンバスを分割し、出会わない景色が新たな風景を作り出
コマに多言語の文字と共に自分の身の回りの出来事が綴られるシ
す。床から浮かび上がる境界線のような作品《 89mm テープ》は、
リーズを継続して制作している。これは映像作品の小屋のまわり
絵画の空間を分断した線がそのまま展示会場に飛び出し、場所そ
の段ボールにも直接描かれており、会期中に増えて行く。