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ASAHI ART SQUARE

Research Journal Issue 02

アサヒ・アートスクエア

スクエアのポテンシャル

RESEARCH JOURNAL ISSUE 02 [リサーチ・ジャーナル]

Potential



はじめに

Research Journal Issue 02

Foreword

スクエアのポテンシャル

「スクエアのポテンシャル」

ISSUE02 のテーマは「スクエアのポテンシャル」としました。前 号のテーマ「スクエア[広場]」を引き継ぎ、今号は実践編として、 具体的な場であるアサヒ・アートスクエアについて、実際にこの 空間を利用したプロデューサー、アーティスト、演出家の経験から 考えを深めます。 空間が楕円形であることが、アサヒ・アートスクエアの大きな特徴 です。2002 年に始まり2012 年に終了した『 P3 カフェナイト[1995 年よりアサヒ・カフェナイトに改称]』 をプロデュースした芹沢高志さん

は、この楕円形状がアーティストと鑑賞者、作品と身体、話者と聴 衆、来場者同士の間に、固定されない流動的で多様な距離感を生 み出すといいます。楕円のポテンシャルを生かした芹沢さんの空 間実践を振り返ります。 アサヒ・アートスクエアは 2012 年より、この空間でしかできない作 品を発表する「オープン・スクエア・プロジェクト」を開催してきまし た。本プロジェクトに参加したアーティストの福永敦さん、北川貴 好さん、そして前身となる「レジデンス・プロジェクト」に参加した 泉太郎さんが集い、 「スクエアのポテンシャルへ」にどのようにア プローチしたのか語り合いました。 アサヒ・アートスクエアの空間のクセを、敵対するのではなく、全 てを味方に付けることで乗り越えようとしたのは演出家の宮城聰 『 王女メデイア』 さん。主宰するク・ナウカが 1999 年に発表した は、アサヒ・アートスクエアの空間と向き合うことで生まれ、その後 世界各地の劇場を巡回し自身の代表作となります。空間のポテン シャルに導かれた作品創作が、その空間を離れても強度をもつ作 品になりうることを、宮城さんのテキストは示しています。 アサヒ・アートスクエアの空間と対峙し、この空間のポテンシャル をどのように捉え、表現を展開していったのか。5 つのプロセスを たどります。

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Research Journal Issue 02 スクエアのポテンシャル

アサヒ・アートスクエア リサーチ・ジャーナル[ Asahi Art Square Research Journal] とは アートの「現場」から立ち上げる、リサーチと議論のためのプラットフォーム アサヒ・アートスクエア リサーチ・ジャーナル[Asahi Art Square Research Journal]のは、 そうした「アートの現場」で生まれる問題意識や課題を、多角的な視点から考え、 多くの方々と共有し議論するためのプラットフォームです。 毎号テーマを設定し、表現者、研究者、プロデューサーやディレクター、キュレーターなど、 様々な書き手にご寄稿いただきます。 ますます多様化しつつあるアート、アーティストの実践や、 アートスペースの可能性について考察するための、発想の手がかりをアーカイブしていきます。

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Research Journal Issue 02 スクエアのポテンシャル

TAKASHI SERIZAWA TARO IZUMI TAKAYOSHI KITAGAWA ATSUSHI FUKUNAGA SATOSHI MIYAGI 芹沢高志│楕円形の空気 ─ P3 カフェナイトの構想から終了まで

泉太郎[美術家]×北川貴好[美術作家]×福永敦[美術家]│インタビュー│空間へのストーリー

宮城聰│アサヒ・アートスクエアのポテンシャル

Asahi Art Square Research Journal Issue 02 │アサヒ・アートスクエア リサーチジャーナル 02 Potential │スクエアのポテンシャル 編集・発行:アサヒ・アートスクエア│発行日:2014 年 9月 1 日 執筆:宮城聰、芹沢高志│デザイン:木村稔将│編集協力:島貫泰介、中島ふみえ アサヒ・アートスクエア│ Asahi Art Square │〒130 -0001 東京都墨田区吾妻橋 1 -23 -1 スーパードライホール 4 F

Tel: 090-9118-5171 │ E-mail: aas@arts-npo.org │ http://asahiartsquare.org/

©Asahi Art Square, 2014

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楕円形の空気─ P3 カフェナイトの構想から終了まで

[キーワード] ライブ 空間 アサヒ・アート・フェスティバル アサヒ・カフェナイト

P3 カフェナイト

Research Journal Issue 02 スクエアのポテンシャル

芹沢高志│ Takashi Serizawa[P3 art and environment 統括ディレクター] (株) リジオナル・プ 1951 年東京生まれ。神戸大学理学部数学科、横浜国立大学工学部建築学科を卒業後、

ランニング・チームで生態学的土地利用計画の研究に従事。その後、東京・四谷の禅寺、東長寺の新伽藍 建設計画に参加したことから、89 年に P3 art and environment を開設。99 年までは東長寺境内地下の 講堂をベースに、その後は場所を特定せずに、さまざまなアート、環境関係のプロジェクトを展開している。

2014 年より東長寺対面のビルにプロジェクトスペースを新設。帯広競馬場で開かれたとかち国際現代アー ト展「デメーテル」総合ディレクター(02 年)、アサヒ・アート・フェスティバル事務局長( 03 年∼)、横浜トリエン ナーレ 2005 キュレーター、別府現代芸術フェスティバル「混浴温泉世界」総合ディレクター( 09 年、12 年)な のディレクターに就任。 どを務める。2014 年 7 月、2016 年開催予定の『(仮称)さいたまトリエンナーレ』

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芹沢高志│Takashi Serizawa

スクエアのポテンシャル

それがいつだったか正確には覚えていないが、2002 年に帯広競 馬場で開催予定だった「とかち国際現代アート展『デメーテル』 」 の協賛を依頼するためだったから、おそらくは 2001 年の 2 月のこ とだろう。私はアサヒビール社を訪ね、久しぶりに加藤種男氏とお 会いした。直接の用件は『デメーテル』に参加するヴォルフガング・ ヴィンター& ベルトルト・ホルベルトの作品が大量の飲料運搬用の プラスティック製キャリーケースを必要とするので、アサヒビール に協力をお願いすることだった。 ヴィンター&ホルベルトは、キャリーケースを積み上げて「パビリ オン」をつくりだすことで国際的に知られたアーティストで、加藤 氏は彼らのヴェネチア・ビエンナーレの作品も見ていたから、話は 早かった。ただ、すでにこうしたキャリーケースのロジスティック スは極度に合理化されていて、余分のケースがあるわけではない ことがわかり、結局『デメーテル』への現物支給は難しいというこ とになったのだが、帰り際、彼は思いもかけない話をはじめる。 「ずっと本社前の広場でビアガーデンをしたいと思っていたのだ が、彼らの作品はうってつけだな。これでビアガーデンができな いだろうか。」しかもそのビアガーデンを核にして、アート・フェス ティバルを考えたいと言うのである。ビアガーデンとアート・フェ スティバル。その発想の飛躍には驚かされたが、言わんとする意 味は良く理解できた。 ヴィンター&ホルベルトに連絡を取り、話を前に進めたが、予算面 で折り合いがつかず、彼らの作品でビアガーデンをつくるアイデ アはなくなった。この時点でアート・フェスティバルの話もなくなる ものと思っていたが、加藤氏はあきらめない。ビアガーデン、そし て後に「アサヒ・アート・フェスティバル(AAF)」と呼ばれることにな るそのフェスティバルの構想をまとめてくれと頼まれて、私は基本 プランの組み立てをはじめた。 コンセプトとしては本社の前を流れる隅田川に焦点を当て、場所 としては、すでに「アサヒ・アート・コラボレーション」という展覧会 がすみだリバーサイドホール・ギャラリーで展開されていたから、 これに加えて以下の 3 カ所での展開を考える。それが直感的に思 いついた基本のアイデアだった。 ●

仮設するアート・ビアガーデンを中心とした本社前広場

隅田川を航行する水上バス

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2012 義太夫を聴く会

2011 JOE BATAAN “LIVE IN JAPAN 2011”

2011 カウシキ・チャクラハルティ・テシカン

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当時はアサヒスクエア A と呼ばれていたスーパードライホール

4階のホール 本稿の目的ではないから、 「アサヒ・アート・フェスティバル」そのも のについてはこれ以上触れないが、第一回目となる 『アサヒ・アー ト・フェスティバル 2002 』は「すみだ川モード」をテーマに、2002 年6月 1 日から 7 月 31 日の会期で開催された。AAF は AAF で、そ の後、非常に興味深い発展を遂げていくことになる。 スーパードライホールはアサヒビールの吾妻橋本部ビルに隣接し て 1989 年に完成した建物だ。フランスのデザイナー、フィリップ・ スタルクと建築家、野沢誠による設計で、黒御影石張りのマッシブ なビル本体と屋上で金色に輝く 「炎のオブジェ」は良く知られてい るから、現代の東京を代表するランドマークのひとつと言っても過 言ではないだろう。 この 4 階に「アサヒスクエア A」というホールがあった。ビルの

3 階より下はレストランとして利用されているが、4 階にもパント リーや厨房用リフトが備わっているから、おそらくはパーティ利用 を想定した催事場として計画されたものだろう。しかし実際には、 非常に内向きに使われているのが実態で、一般に開かれたイベ ントが開催されることはほとんどなかったから、当時、その存在は まったくというほど知られていなかった。この 4 階部分の利用につ いては、たまたま私たちが 1999 年まで使っていた四谷の東長寺 境内地下のギャラリー空間とヴォリューム的に似ていたので、別 途、加藤氏から相談を受けてもいた。 東京スカイツリーができる以前の時代だ。もちろん「浅草」という ブランドは確立されていたが、東京のビジネス中心からは離れた、 異質な世界という印象があったのではないかと思う。端的に言え ば「江戸的」なカラーであり、浅草もそうした異質性を強調してい たように思う。 しかし墨田区側、アサヒビール本部ビル一帯の景観は、墨田区役 所を含め、かなり未来的な空気に満ちていた。東京スカイツリー ができた現在は、その傾向がさらに顕著になったと言えるだろう。 当時も、地下鉄銀座線の終点、浅草駅で降り、地上に出て吾妻橋

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芹沢高志│Takashi Serizawa

スクエアのポテンシャル

2011 マレウレウ祭り

2010 EYE / UA『縄文レストラン』

2010 テハシシュ・ハタチャルヤ

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を渡っていくと、東京の過去から未来に向かって歩いていくような 不思議な感覚に襲われたものだ。 そしてスーパードライホールの内部に入り、エレベーターで 4 階ま で昇ると、こうした時代や場所の感覚の混乱は頂点に達する。東 京にいるという意識は完全に薄れ、ステレオタイプな言い方だが、 ニューヨーク辺りの空間に迷い込んだような感じを受けるのであ る。それがなぜなのか明確にはわからないが、楕円の平面を持つ

2 層吹き抜けの空間や躯体を支える円柱、チャコールグレーの抑 えられた色調、そんな全体が醸し出す匂い、あるいは空気がそう させるのではないかと思う。いずれにしろ、フィリップ・スタルクと いう海外デザイナーのセンスが強烈に生きていた。 そこで是非、 「アサヒ・アート・フェスティバル」という枠組みをつく るなら、このアサヒスクエア A という空間を積極的に使いたいと 考え、元 P3 スタッフであった林口砂里と「P3 カフェナイト」という プログラムを組み立ててみることにした。 繰り返しになるが、私にとってあの空間の魅力とは、まず第一に楕 円平面が生み出す特異な雰囲気だった。長軸方向に舞台をとれ ば、つまり空間を「横使い」すれば、その絶妙な縦横比から、濃密 なライブ空間が生み出せるだろうと直観できた。事実、音も壁に そって流れ、空間に気持ち良く広がっていくことが確認できた。ま た巨大すぎない適度なヴォリュームから、身体性と相性が良さそう なことも推測できた。そういう空間の特性を考えて、やや落ち着 いたライブハウスのような空間、大人が楽しむ夜の時間を計画し たが、それを音楽イベントに限定するつもりはなかった。とにかく、 さまざまな空間利用を試みて、この空間の可能性をとことん引き 出してみたいと考えたのだ。 もちろん有料イベントとして計画する以上、観客たちの満足を第 一に考えねばならない。しかし P3 カフェナイトでは、その前に、い やそれと同等に、演奏者、さらには彼らが招待する仲間内の関係 者たち、同僚のミュージシャンや音楽プロデューサー、音響や照明 の技術者、そんな彼らの周辺にいる人々に、アサヒスクエア A と いう空間の存在を強く印象づけることを目標にした。特に空間を 横に使った演奏では、左右に広がっていく奥行き感や十分な天井 の高さから、ミュージシャンたちはかなり気持ち良く空間を楽しめ るだろうという自信はあった。 「ここで演奏するのは気持ち良い」

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芹沢高志│Takashi Serizawa

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2010 大友良英 タフル・オーケストラ

2009 → schwarz 総ての色を混ぜると黒くなる

2009 スダマニ 幻想の影絵、神々の舞、時空のカムラン

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と彼らが実感することがなによりも重要で、それは直接彼らの表 情や、あるいは口コミや「うわさ」のかたちをとって、周辺にじわじ わと広がっていくだろう。そして、彼らの周辺で、ここを使いたい という声が自然に生まれてくれば成功だった。P3 カフェナイトの 場合、まずはこうした将来のコアな使い手たちを増やしていくこと からはじめようと考えたのである。 こうして P3 カフェナイトははじまった。途中、名称を「アサヒ・カ フェナイト」に変更したり、施設名称が「アサヒスクエア A」から 「アサヒ・アートスクエア」に変わったりしたものの、P3 の芹沢真 理子、本田綾が中心になって、2012 年までの 11 年間で合計 125 回 のカフェナイトを企画立案、実行していった。 その内容は一覧としてまとめたので、それを参照して欲しい。ス テージをしつらえての演奏の場合は、上述のように横使いの空 間が、ここならではの雰囲気を生み出したと思う。しかしある種の トーク、特にレクチャー的なものやプレゼンテーション、そして映 画上映など、意識の集中を必要とする企画では、縦使いの空間の 方が向いていた。カフェナイトの企画ではないが、アサヒ・アート・ トー フェスティバルにおいて多人数の会議を行う際に実感したが、 クイベントにおいても、横使いで行うと車座的な親密さが生まれる ようだ。円卓会議と、直線的に話者と聴衆が対面する講義スタイ ルとの、ちょうど中間的な形態が生まれるようで、興味深かった。 集中が必要な場合は縦使い、開放性が必要な場合は横使いと、使 い分けができる空間だと思う。 その他、カフェナイトではステージを置かず演者が分散する形態 や、テーブルを置き、島をつくる客席や完全なスタンディング、方 向性を持った客席構成、さらにはバックヤードまで開放した美術 的インスタレーションなど、空間利用の多様性をとことん試みた。 それぞれに学ぶことの多い現場であったが、ひとつだけ指摘すれ ば、やはりアサヒ・アートスクエアの空間は身体の動きが似合うと いうことだ。物だけで構成される展覧会的な空間は注意を要し、 静的に考えるのではなく、そこに入った観客の動きを組み込んで 構想しないと、この空間の良さは引き出せないと思う。 さまざまな空間実験を行った P3 カフェナイトだが、2012 年に終了 させた。これは企画が行き詰まったからではなく、当初想定した役

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2007 メティアオヘラ アワーフリンク

2007 FLYING RHYTHMS RHYTHM MEBIUS

2007 Orquesta Nudge! Nudge! オルケスタ・ナッジ!・ナッジ!

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楕円形の空気 ─ P3 カフェナイトの構想から終了まで

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芹沢高志│Takashi Serizawa

スクエアのポテンシャル

割をなんとか達成したと納得できたからである。スタート時点では 集客に苦労することも多かったが、徐々に改善し、コンスタントな 評価を得たこともあって、ほぼ集客に苦労することはなくなった。 逆に言えば、それだけこの空間の一般的な認知度が高まったとい えるだろう。それだけではなく、レンタルの申し込みが増えてい き、それだけここを使いたいと考える表現者たちが増えたと考え られる。もちろんこれは P3 カフェナイトだけが寄与したわけでは ないが、当初想定したコアユーザーの開拓にはある程度成功した と思う。そこでアサヒ・アートスクエアの第一フェーズは終了した と考えて、P3 カフェナイトを終了させた。 空間とは箱だけではない。命が宿る場所だ。しかしその命は、箱 の形状にも依存する。私はアサヒ・アートスクエアの楕円形の空気 が、この場所の命、そこで起こる総てに吹き込まれる、つまりイン スパイアされる空気であると確信している。

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芹沢高志│Takashi Serizawa

スクエアのポテンシャル

2007 Tabla Dha と Sitaar Tah!

2006 大友良英 ニュー・シャス・オーケストラ[ONJO]

2006 Jean Sasportes & Tetsu Saitoh DUO Japan tour 2006

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各イベントの出演者などの詳細は

P3 art and environment の

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2012 [3 本]

2007[14本]

ホームページをご覧下さい。

http://www.p3.org

義太夫を聴く会

Snow Lion ∼遥かなる歌声

小森邦彦 X Pedro Carneiro ─

マリンバデュオプロジェクト 2012

一噌幸弘 しらせ

タテ・ヨコ・ナナメ 笛三昧!

esquisse, esquisse

Farha ファルハ∼喜び

2011[4 本]

Orquesta Nudge! Nudge!

『幽閉者』公開+サントラ発売記念 LIVE サル・ガヴォ

マレウレウ祭り

FLYING RHYTHMS RHYTHM MEBIUS

カウシキ・チャクラバルティ・デシカン

CARMEN MAKI with 板橋文夫×太田恵資

JOE BATAAN“LIVE IN JAPAN 2011”

KBB

アイヌ影絵プロジェクト

live far 11

MOODSTOCK

メディアオペラ アワーブリンク

Tabla Dha と Sitaar Tah!

2010[4 本] ●

JOE BATAAN LIVE IN JAPAN

大友良英 ダブル・オーケストラ

デバシシュ・バタチャルヤ

EYE / UA『縄文レストラン』

2009[4本]

2006[19本] ●

オルガノラウンジ+松本力

MARIMBIST vol.2 小森邦彦

bridget st john and colleen japan tour 2006

DAWN MOOD NOCTURNE ボロット・バイルシェフ

オユン・ハヴァス─ベリーダンス・ムード

MOODSTOCK

ONJO

→ schwarz─総ての色を混ぜると黒くなる

Jean Sasportes & Tetsu Saitoh

スダマニ─幻想の影絵、神々の舞、時空のガムラン

2008

[8 本]

DUO Japan tour 2006 ●

アラヤヴィジャナ シタール・ター

アルゼンチン音響派 スペシャル・ユニット

If I could only remember seeing

楕円の誘惑

TATOPANI/ タトパニ

コス・モス・ショウ

CARMEN MAKI vs 柳原陽一郎

Pot Heads

KBB

ザ・ムバルン MEBARUNG

倍音温泉クラブ vol.4

スダマニ Cudamani

A HAPPY GREENDAY

ERA & キキオン

アドリア海 バルカン・クルーズ -Jadranka ヤドランカ

CARMEN MAKI×板橋文夫×太田恵資

ANOTHER SILENCE

feat. 外山明

うたうたいこ しゃべるたいこ

水谷浩章 phonolite feat. 原田郁子

Coil

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2005[22本]

2003 [20本]

カルメン・マキ×鬼怒無月 DUO

風にきく

スパニッシュ・コネクション・ライブ

平林里紗 acoustic night

giro giro tondo

Warehouse のサイケデリック・カフェ・ナイト

一噌幸弘グループ「シラセ」

CAFE PARAISO J-トラッド・カフェ

深津純子ジャズカルテット

CAFE PARAISO ネオチンドン・カフェ

SINSKE・マリンバ・プロジェクト─マリンバ世界一周

CAFE PARAISO バリ・ガムラン・カフェ

Kyo Ichinose Sound Installation:

CAFE PARAISO 琉球チルアウト・カフェ

further than“lontano”

YEN CALLING

VOYAGING ANTIPODES ∼旅する対蹠点

Slow Stream feat. Operation Peace Crane

チャンチキトルネエド

Slow Stream Sunset Effect in July

mama!milk

CAFE PARAISO

Rie Akagi:ハイパー・カリビアン・ナイト

NORIKO YAMAMOTO BOSSA NOVA CAFE

平林里紗『 thirsty 』 リリースライブ

デジタル PBX

倍音温泉クラブ vol.2

CAFE PARAISO RIE AKAGI LATIN JAZZ CAFE

Bondage Fruit RHYTHM CONNECTION in tokyo

ベネチア大作戦 サマーツアー 2003

Carmen Maki and Salamandre

rehome - 高木正勝

giro giro tond

CAFE PARAISO KAWAIHAE HAWAIIAN CAFE

Pauliina Lerche

Slow Stream Sunset Effect in June

倍音温泉クラブ vol.1

Slow Stream Summer Opening 2003

David Cross Band

EAST OF KUNASHIR

ウルトラ★ママタンゴ

Slow Stream

時空 presents“Endless Inner Summer vol.2”

2004[14本]

2002[13本] ●

CAFE PARAISO Salsa Night

ヌエヴォ ソニド メヒカノ

CAFE PARAISO Exotica Night

フェルナンド・カブサッキ TOKYO セッション

CAFE PARAISO Aloha Night

高橋英明 Presents─ crossing of high density

CAFE PARAISO Brasil Night

SINSKE

speedometer.× Toru Yamanaka× jtty

オムトン+田中真一×岡林立哉

RE[ ] TG: The tower of gravity

Endless Inner Summer vol.1

ササノハ

Satoshi Hori × Yoshio Watanabe

JOURNAL FOR PEOPLE takagi masakatsu

Carmen Maki and Salamandre

Fried Pride

CUVA CUVA

謎音百景 from Labyrinth City crossing tonality tour

向井山朋子

イルマ・ソロコンサート

flow-garden

the“blue”band

program

浅草ドラァグカーニバル!

ASAKUSA アラビアンナイト

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ドクメンタ大作戦

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芹沢高志│Takashi Serizawa

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「空間へのストーリー」

[キーワード] 空間 オープン・スクエア・プロジェクト プラン アサヒ・アートスクエア

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泉太郎[美術家]│北川貴好[美術作家]│福永敦[美術家]│司会:坂田太郎[アサヒ・アートスクエア] 泉太郎│ Taro IZUMI[美術家]

1976 年奈良県生まれ。独特のユーモアと鋭い批評性を併せ持つ映像作品で注目を集める美術作 家。2010 年のアサヒ・アートスクエアレジデンスプロジェクトでは、空間全体を生かした大規模なイ ンスタレーション作品《くじらのはらわた袋に隠れろ、ネズミ》を発表。主な個展に「勇ましいあくび」 (hiromiyoshii、2011) (神奈川県民ホールギャラリー、2010)など。主なグループ展に「六本木クロッシ 、 「こねる」 (森美術館、2013)、 (日本郵船海岸通倉庫、 「ヨコハマトリエンナーレ 2011」 ング 2013 展:アウト・オブ・ダウト」 (水戸芸術館、2007)など。 2011)、 「夏への扉 ─ マイクロポップの時代」

http://taroizumi.com/

北川貴好│ Takayoshi KITAGAWA[美術作家]

1974 年大阪府生まれ。環境や建物自体に手を加え空間そのものを新しい風景へと変換させていく作品 を制作している。2012 年 1 月、オープン・スクエア・プロジェクトに参加し、アサヒ・アートスクエアにて個

Potential 展「フロアランドスケープ─ 開き、つないで、閉じていく」を開催。これまで、大地の芸術祭 越後妻有

アートトリエンナーレ 2003、取手アートプロジェクト 2006、旧中工場アートプロジェクト 2007、黄金町

バザール 2008, 2011 、水と土の芸術祭 2010、六甲ミーツ・アート芸術散歩 2010、あいちトリエンナーレ

2010、せんだいメディアテーク開館 10 周年事業、国際芸術センター青森 2012 年度アーティスト・イン・

レジデンス「Storyteller ─ 識る単位」等に参加し作品を発表している。

http://www.takayoshikitagawa.com/

福永敦│ Atsushi FUKUNAGA[美術家]

1980 年広島生まれ。ドイツ・ベルリン在住。音や擬音語に関する作品を制作している。近年は、言葉の擬

音・擬態表現を表した「文字」や「音声」を用いて、日々の生活で耳にする音の現象を「模倣」 し、その擬似

的な音を知覚的に体験させる事を試みている。これまで、国内外で様々なプロジェクトや展覧会に参加。 主なものに、旧中工場アートプロジェクト2007、20 Eventi Arte Contemporanea in Sabina,Italy 2007、

Hiroshima Art project 2008、中之条ビエンナーレ 2011 などがある。2013 年 1 月、アサヒ・アートスクエア にて個展「ハリーバリーコーラス ─まちなかの交響、墨田と浅草」を開催した。

http://www.atsushifukunaga.com

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「空間へのストーリー」 泉太郎│Taro IZUMI ×北川貴好│Takayoshi KITAGAWA×福永敦│Atsushi FUKUNAGA

[収録:オープン・スクエア・プロジェクト

2013 福永敦「ハリーバリーコーラスまち

アサヒ・アートスクエアは 2012 年 1 月、高さ 6 m、総面積約 260m2

なかの交響、墨田と浅草」関連イベント

のメインフロアを中心としたあらゆる空間を、公募で選ばれた一名

クロストーク vol.3「空間へのストーリー」

(組)のアーティストに託す「オープン・スクエア・プロジェクト [以下、

2013 年 2 月 2 日[土]/ テキスト+構成: 中島ふみえ+島貫泰介+坂田太郎]

Research Journal Issue 02 スクエアのポテンシャル

OSP] 」をスタート。この空間でしかできない経験を創出する作品や

企画を展開してきた。 本プロジェクトに参加したアーティストの福永敦、北川貴好、そして 前身となる「レジデンス・プロジェクト」に参加した泉太郎が集い、 それぞれが「スクエアのポテンシャル」にどのようにアプローチし たのか、語り合ってもらった。 作品紹介│ 1 │ 福永敦「ハリーバリーコーラス まちなかの交響、 墨田と浅草」

福永 ─ アサヒ・アートスクエアの位置する墨田、浅草エリアの

街の風景を、この空間に音として凝縮し、再現することで、このま ちの別の姿を浮かび上がらせることを目指した作品です。墨田、 浅草の街なかを歩き回り、たくさんの街の音を録音しました。それ を 70 ∼ 80 名の協力者の方々に、聴きながら模倣してもらい、音 声に置き換えていただきました。いわゆるオノマトペ。擬音語です ね。その音をこの空間に様々に配置しています。壁際に 7 つのサ ラウンドのスピーカーがあります。例えば、今聴こえたのが「救急 車」ですね。こうした音がグルグル回っています。頭上にも 30 台 ほど MP3 プレーヤーを吊っていまして、様々なまちの音でこの空 間を満たしています。40 分で音が一周します。 作品紹介│ 2 │ 泉太郎「クジラのはらわた袋に隠れろ、 ネズミ」

泉 ─ 僕は「アサヒ・アートスクエア レジデンス・プロジェクト」に

参加し、2010 年 1 月に個展「クジラのはらわた袋に隠れろ、ネズミ」 を発表しました。4 F のメインフロアにコンパネや角材を大量につ かって、すごく大きな「すごろく」のようなシステムをつくり、そこで 僕が毎日サイコロをふって、止まった目の指示に従ってある行為を する。それを会期中ずっと続けました。その指示は様々で「すごろ く」に変化が加わるものや、ただ絵の具をかぶったりとか、笑うだ

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「空間へのストーリー」

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泉太郎│Taro IZUMI ×北川貴好│Takayoshi KITAGAWA×福永敦│Atsushi FUKUNAGA

スクエアのポテンシャル

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作品紹介│ 1 │福永敦 「ハリーバリーコーラス ─ まちなかの交響、墨田と浅草」

2013 年 photo: Ken Kato


「空間へのストーリー」 泉太郎│Taro IZUMI ×北川貴好│Takayoshi KITAGAWA×福永敦│Atsushi FUKUNAGA

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けだったりとか、会場が毎日変化したり、しなかったりという作品で すね。その模様を毎日撮影し、常設の大きなスクリーンに追加して 行きました。 坂田 ─ 会期はどの程度だったのですか。 泉 ─ 2 週間ぐらいですね。 福永 ─ 2 週間も毎日……。結構大変ですよね。 泉 ─ そうですね。 「すごろく」の中には小さなゲームが幾つも

細かく含まれていて、これは自転車の車輪で作ったルーレットです ね。色が車輪の中で分かれてるんですが、サルやらゾウやら幾つ か種類があるんですね。このルーレットを回して、止まったところ の動物に僕がなって、それで下の檻に入れられるっていう……。 会場 ─(笑) 泉 ─ この写真は「太った」後ですね。スゴロクの中に「太る」と

いう指示があり、体の中に何か入れた後ですね。 坂田 ─ すごろくの指示がここに色々と書いてありますね。 「テー

プ」、 「色」、 「太る」、 「水」、 「目」というのもありますね。それに 「夏」、 「伸びる」……。無茶な指示が重なって行って、 泉 ─ そうですね。自分でも何をするか分からないけど書いてお

いたものがあって。どんどん不自由にはなっていくんですけども、 その中でどういう風にやって行くか。そこがこの作品の面白いとこ ろです。 坂田 ─ 5 階は何をやっていたのですか。 泉 ─上から俯瞰して下のインスタレーションを見る、というのが

大切な作品のモチーフだったんですね。下でみている風景と、上 からみる風景が違うっていう状態が、この建物の構造上から楽しい だろうなと思っていて。お客さんには 4 階、5 階両方ありますよと (*5) 伝えて、好きなタイミングで上がって観てもらっていました。

作品紹介│ 3 │ 北川貴好「フロアランドスケープ ─ 開き、 つないで、 閉じていく」

北川 ─ 僕が参加したのはオープン・スクエア・プロジェクトの第

一回。 「フロアランドスケープ ─ 開き、つないで、閉じていく」とい う展覧会で、4 F のメインフロアに一つの大きな床を作りました。僕 はこれまで屋外の風景や建物に手を加えた作品を作ってきました

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泉太郎│Taro IZUMI ×北川貴好│Takayoshi KITAGAWA×福永敦│Atsushi FUKUNAGA

スクエアのポテンシャル

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作品紹介│ 2 │泉太郎 「クジラのはらわた袋に隠れろ、 ネズミ」

2010 年


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Research Journal Issue 02 スクエアのポテンシャル

が、室内空間に大掛かりに取り組むのはこの時が最初でした。屋 内空間だから、壁に穴を開けることが出来ない、テープすら貼れな いと言われて最初はどうしようかなと悩みました。僕が普段、建築 とか風景に手を加えるという場合、空間に何かしらの連続性をもた せるわけです。例えばある大きな穴を掘ると言っても、周囲の風景 との連続性のなかから、新しい穴をつくり作品にしていく。それで、 アサヒ・アートスクエアでは、連続性をもたせながら、加工可能な建 築的要素を追加することにしたんですね。それが一枚の大きな床 です。それを置いて、そこを加工する事によって何か空間に対し てアプローチできるんじゃないかと思いました。その床には、様々 な穴を開けて、僕がこれまで色々な場所で制作してきた作品のア イデアを入れて行く。天井には、この空間の特徴である、たくさん 照明機材があります。屋外で生まれた作品が、屋内に並んだ時に、 このコントロール可能な照明の効果で、その意味合いが変わって、 空間も変容していくのではないか、そんなことを思って制作しまし た。また倉庫や控え室、 トイレなども空間的に面白いので、順路の 一つにして、様々な空間を使うことも試みました。 アサヒ・アートスクエアについて

坂田 ─ 後半はアーティストの皆さんがこの空間に対してどのよ

うに向き合い、構想を練り、作品を制作していったのか、こちらで 質問を用意させていただきましたので、一問一答形式で進めてさ せていただきます。最初にアサヒ・アートスクエアについて基本的 な紹介をさせていただきます。このあたりは元々アサヒビールの ビール工場があった場所です。ビヤホールがオープンしていたこ ともありました。このエリアに 1989 年に竣工したのが、いま私たち のいるこの 5 階建ての建物、正式名称は「スーパードライホール」 といいます。設計はフランスのデザイナー、フィリップ・スタルクと 野沢誠。1 階から 3 階まではレストランが営業しており、4 階と 5 階 がパーティースペースのような設計です。有名な屋上の金のオブ or] 」。フランンス後で「黄金の炎」 ジェは「フラムドール[flamme d’

を意味します。2004 年からこの 4-5 階の名称を「アサヒ・アートス クエア」とし、アサヒビール・メセナ(芸術文化活動支援)の拠点とし て、アートスペースとしての活用が始まります。以降、施設管理の

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作品紹介│ 3 │北川貴好 「フロアランドスケープ─ 開き、 つないで、 閉じていく」

2012 年 photo: Takumi Ota


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正面左:アサヒグループ本社ビル│右:スーパードライホール│ photo: Gosuke Sugiyama (Gottingham)

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常勤スタッフが入り、音響や照明などのテクニカルの設備を年々 拡充していって、現在はダンス、演劇、美術などどんな催しにも対 応できるようなアートスペースになっています。 プロジェクトに参加する以前の印象 福永敦

坂田 ─ プロジェクトに参加する以前に、この建物や空間に対し

てどのようなイメージをお持ちでしたか。

音響空間のプランニングのためのテスト

2012 年 9 月

北川 ─ 外観の印象が強くて。とにかくバブルなイメージですね (笑)。

福永 ─ バブルな感じですよね。有名な建築なので、建物自体は

知っていたんですけど、入れるかどうかは知らなかった。 泉 ─ 僕もこの建物の中にアサヒ・アートスクエアがあるとは知ら

北川貴好

なくて。最初の打合せのときに、この周りをウロウロしていたら電

プラン検討のための模型

話が鳴って「あの、まだですか」と。 「どこに行けばいいのか、分か

2011 年 12 月

らないのですが」と言ったら、 「目の前にあるそこに入ってくれ」と 言われて、それでやっと「あ、ここなんだ」と分かりました(笑) ファーストインプレッション(最初の印象)

坂田 ─ 実際に空間の中に入ってみてどんな感想を持たれま

したか。

泉太郎 会場でのプラン検討の様子

2009 年 12 月

泉 ─ とにかく黒いなって思いました。壁の終わりがどこで、どこ

が曲がっているのか良く把握できなくて、図面で確認して初めて、 空間が楕円形であること、奥に倉庫があることが理解できました。 作品制作を進めるなかで、アサヒ・アートスクエアの“内蔵”がどん どん広がっていくようなイメージがありました。 坂田 ─ 内蔵っぽいですか。 泉 ─ 少しファンタジックな話になってしまいますがクジラに飲み

込まれたとしたら、こんな感じなのかなと。僕にとってここはとても 内蔵っぽい。内蔵というより、体内かな。ここは外から隔離されて いて、1 F でエレベーターに乗ったあたりで、外部との関係が途切 れる感覚があります。訪れた人を非日常的な状態にするのに、とて も適した場所ですね。演劇公演やダンス公演にはすごく向いてい ると思います。

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福永敦│ドローイング│ 2012 年 7 月 公募資料より

北川貴好│ドローイング│ 2011 年 5 月 公募資料より

泉太郎│ドローイング│ 2009 年 ** 月

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福永 ─ 天気の良い日に、ここから外に出ると太陽の光がすごく

目に痛いんですよね。僕の場合、逆にこの閉ざされた空間を外に つなげようとしたんですね。ベルリンから来てみて、意外とちょう どいい大きさの空間だなと思いました。もっと広い空間を想像して いました。空間の広さは、今回「音」が素材の作品だったのもあり、 そこまで気にならなかったですね。 北川 ─ 家が近いので近くを良く通るんですね。名前も「スクエ

ア」だし、勝手に正方形や立方体だと思い込んでいたんです。初 めて図面を見た時に驚いたのが、スクエア(正方形)ではないこと。 外観から分かりづらいのですが、この建物は長方形なんです。内 部空間は壁面が曲面で楕円形。スクエアというような、カチッとし たものじゃない。外観や名前から受ける印象と、実際の建物や空間 にギャップがあり、非常に曖昧な場所ですよね。ちょっと不思議な 感覚があります。 作品プランについて

坂田 ─ この空間を体験したあと、どのように作品の準備をして

いったのですか。空間に対しての実際的なプランはありましたか 泉 ─ 僕は実はホワイトキューブではあまり展示したことがなく

て、なぜか倉庫とかトイレとか、変な場所を依頼されることが多 かったんです。ですからアサヒ・アートスクエアはたしかに特殊な 空間なんですけど、僕にとってはすごく整えられてる場所なんで す。ものすごく洗練されてもいる。ある意味やりやすすぎる場所。 坂田 ─ そうした場所に対して、どのようにアプローチされたの

ですか。 泉 ─ 空間が持つ格好良さを残さない方がいいんじゃないかと

思って、わりと強引に制作を進めようとしたところがありました。僕 はそれまで、その場所でどう見せたら一番良く見えるかということ を考えて制作していたんですけど、ここでの展覧会では、はじめて 逆らってみました。それが自分にできるんだ、ということにこの機 会に気づけたことが、大きかった。 坂田 ─ スタッフとの情報共有はどうされましたか。 泉 ─ アイデアは決まっているけれども、作って行く過程は明確

に決めずにやろうと思っていました。あらかじめこちらの意図を伝

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えるために、イラストみたいなものを描いて渡していたんですけ ど、それがあまりにも僕にしか分からないというか。夜中にノリノリ になって描いたような、訳の分からないスケッチで ……。 坂田 ─ ただ、このぐらいの作品規模となると、ある程度の計画

性がないとできないんじゃないかなと思うんですが。 泉 ─ そうですね。そこはいつも人を困らせているところで…。

とはいえ、絵を描くといったら少し変かもしれませんが、やりなが らかたちが決まっていった方が面白くなるんじゃないかと思いまし た。作品によってはあらかじめプランをきちんと立てて伝えてない と、 ぐちゃぐちゃになっていくとは思うんですけど。 坂田 ─ 北川さんとは一緒に模型をみながら、スタディーをしまし

たよね。 北川 ─ 僕は建築学科出身です。建築って、スケッチや模型、図

面といった手順を通して、色々なことを分析、検討していきますし、 そのプロセス自体が評価の対象にもなるとても重要な部分なんで すね。泉さんや福永さんがすごく面白いのは、そのリスキーさなん ですよ。僕はどうしてもある程度バランスを取ってしまう。とはい え、結果が分かってしまうと面白くないから、スケッチではこうなっ ているけど、どうなるのかわからない領域に作品の着地点がある といつも思っています。 福永 ─ 僕は公募に出す前にアサヒ・アートスクエアを実際にみ

たことはなかったんですけど、演劇やダンス、音楽のステージとし ても使っているのを知って、音を使う僕の作品にドンピシャだなと 思ってプランを出しました。そういう意味ではすごく今回の作品に 適した空間でした。 導線の設定とビューポイント

坂田 ─ アサヒ・アートスクエアは、仕切りのないスペースですか

ら、展覧会の度に、アーティストそれぞれが鑑賞者の導線も考えな いと行けません。また天井高のある吹き抜け空間なので、上階の

5 F からはガラス越しに眺めることができる。あまりない空間の構 成だと思います。こうした空間の特徴を踏まえて、お客さんにどの ように作品を体験してもらいたいと思っていたのでしょうか。 泉 ─ 先ほどこの空間が胎内みたいだと話をしたんですけど、本

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福永敦│設営風景│ 2012 年 9 月

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当の意味で作品のなかに人を入れたかったというのもありました。 僕は「映像に触る」とか「映像のなかに入る」ということをなぜか感 覚的に欲してしまっているんですね。必ずしも体が入らなくてもい いんですけど、混乱するくらいには作品のなかに人が入って来て 欲しい。そういうことを考えたときに、一見何を見ていいのか分か らない混沌とした状態を下の階につくって、上の階から見たらわり と整頓されて見えるというのは面白いんじゃないかと思いました。 下の階からも上の階からも空間を見られることが、アサヒ・アートス クエアの空間的なメリットだと思います。 坂田 ─ たしかに 4 階で作品を体験している時に、泉さんの世

界に迷い込んでしまって、空間全体がどうなっているのか見通せ ない感じがありました。福永さんの作品は、逆に視覚的な要素を 排し、暗闇に音だけを使った作品でした。受付となる 4 F エレベー ターホールで、会場内とは異なる音をあえて流していましたよね。 エレベーターから降りた瞬間から作品体験が始まっているような、 そんな導入のつくり方でした。 福永 ─ 4 F エレベーターホールを使って、外部と内部を繋げた

かったというのがあります。エレベーターに乗ると一回閉ざされて ちょっと身構えてしまうんですけど、外の音を再度流すことで、空 間に入って来たというイメージが少し薄らいでくる。ビュー・ポイン トに関しては、僕にとっては 4 F の空間全体が一つの作品なので、 いろんなところがビューポイントというかリスニング・ポイントに なっています。場所によって想起される場面や風景が変わってくる ような空間をつくりたかったというのはありますね。 北川 ─ 作品ができる前に、福永さんに「どんな作品をつくる

の」と聞いたら、 「音だけで何もないものをつくります」 って言って ましたよね。視覚性のある作品をつくっている人は、なにかしらの ビュー・ポイントを想定してつくったりするので、この言葉には驚き ました。僕の場合、最初に思いついた絵がビューポイントに近くて、 そこから導線を考えて、そのスケッチを立体空間につなぐのが一 番スタンダードな制作方法だけど、福永さんの作品にそのような前 提や設定がないのが面白いなと。 坂田 ─ 北川さんの「最初に思いついた絵」について聞かせてい

ただけますか。 北川 ─ パッと思いついたのは上の 5 階から 4 階を見下ろした俯

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泉太郎│設営風景│ 2010 年 1 月

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瞰した時の絵だけど、ただ見てみたいのは実際にその場でどうい う体験になるかなんです。実際にどういう細かな体験になるのか は絵に描けない。そこが面白い。 坂田 ─ 4Fの空間では、 入口すぐに作品である床に上る階段を置

くのではなく、ぐるりと迂回させるように誘導してから上げるような 導線でしたよね。あれも体験としてすごく大事だったなと思います。 北川 ─ 作品に引きがあるかないかで見え方が全然違ってくるん

ですよ。普通、絵画の展示だと必ず引きがありますよね。体験型の 展示って引きがないケースが多くて。空間を使う上で、作品への距 離感をどう設定するのかが、一番面白いところなのでそこは大事 にしたい。今回の福永さんの展示は、エレベーターで入口に上が ると何もビジュアル的な要素がないなかで外の音が流れていて、 それがあたかも作品への引きになっているようで面白いなと思い ました。時間軸の作り方も全然違っていて、入口はかなりゆっくり した音なんだけど、会場に入るとちょっと短縮したり言語化された 音になっている。やっぱり、それはビジュアル・アーティストの切り 口なのかなと思いました。 坂田 ─ 今回、アサヒ・アートスクエアの空間にまつわるお話を伺

いました。オープン・スクエア・プロジェクトは、空間を生かして、何 かを生み出そうという企画ですから、今後も今回のような話を少し ずつ積み重ねられればと思っています。みなさん、本当にどうもあ りがとうございました。

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北川貴好│設営風景│ 2012 年 1 月

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アサヒ・アートスクエアのポテンシャル

[キーワード] スクエア ク・ナウカ 空間 劇場 装置

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宮城聰│ Miyagi Satoshi[演出家、SPAC ─ 静岡県舞台芸術センター芸術総監督]

1959 年東京生まれ。演出家。SPAC ─ 静岡県舞台芸術センター芸術総監督。東京大学で小田島雄志・渡 辺守章・日高八郎各師から演劇論を学び、90 年ク・ナウカ旗揚げ。国際的な公演活動を展開し、同時代的 テキスト解釈とアジア演劇の身体技法や様式性を融合させた演出は国内外から高い評価を得ている。07 年 4 月 SPAC 芸術総監督に就任。自作の上演と並行して世界各地から現代社会を鋭く切り取った作品を 次々と招聘、また、静岡の青少年に向けた新たな事業を展開し、 「世界を見る窓」としての劇場づくりに力 を注いでいる。代表作に 『王女メデイア』 『マハーバーラタ』 『 ペール・ギュント』 など。04 年第 3 回朝日舞台 芸術賞受賞。05 年第 2 回アサヒビール芸術賞受賞。

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アサヒ・アートスクエアのポテンシャル

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宮城聰│Satoshi Miyagi

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僕が初めてアサヒ・アートスクエアを使わせていただいたのは (郡虎彦 1996 年、ク・ ナウカの『道成寺』

作)という芝居でのことで

したが、この興趣尽きない空間とほんとうに全面的に向かいあっ たのは、1999 年の『王女メデイア』においてでした。 ヨーロッパの劇場と比べると東京の劇場の多くは「無色」で(つまり 空間の側に主張がなくて)、僕はあまり興味を覚えなかったのですが、

アートスクエアには「またここでやりたい」 「この空間を味方につ けてみたい」という意欲をかき立てられるものがあったのです。 そこで『メデイア』では、アートスクエアというクセのある空間の 「クセ」を、すべてわれわれの芝居にとって必然性のあるものに してしまえないかという冒険をおこないました。 そのとき 『メデイア』の装置をデザインしたのが、建築家の木津潤 平です。さらに、技術監督に(現在 KAAT の技術監督である)堀内真人 を迎えました。ふたりとも学生時代からのつきあいでしたが、 『メ デイア』では「われわれのチームの代表作をつくろう!」という気概 でタッグを組みました。

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ク・ナウカ 『王女メデイア』 (構成・演出:宮城聰)1999 年

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宮城聰│Satoshi Miyagi

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これがアートスクエアでの『メデイア』の装置です。 まず、空間が楕円形であることを生かして、舞台も曲面になってい ます。踏み面が曲面ですから、演者は非常に苦労するわけですが、 「まっすぐ立つだけでもたいへん」だからこそ、俳優は全身の集 中が切れることがありません。この曲面舞台の実現のために堀内 真人の技術的蓄積が開陳されました。 そしてこの巨大なタマゴを思わせる曲面舞台は、最後の場面では 「女性性」の象徴と見えてくるようにしました。 対する「男性性」の象徴は、 しもてに屹立する黒光りする柱です。 この柱はむろん男根をイメージさせますが、同時に「本棚」でもあ ります。 「書物というトゲ」のはえた男根 ─“棘の生えた男根”は 一部のサルに実際に見られるものですが、書物 =ことばを支配す ることによって男性は支配を確立させた(それいぜんの呪術による女 性支配を打ち破って)、 という意味が込められています。 (言うまでもないでしょうが)ここに柱を立てることになったの そして、

は、アートスクエアの空間に、もともと巨大な柱がどーんとそそり 立っていたからです。屋上の途方もなく重い炎のオブジェを支え

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ク・ナウカ 『王女メデイア』 (構成・演出:宮城聰)1999 年

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アサヒ・アートスクエアのポテンシャル

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宮城聰│Satoshi Miyagi

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るためのぶっとい柱を、われわれの『メデイア』にとって必然的な 存在にしようとして木津潤平が考え出した装置です。タマゴのよう な、マシュマロのようなふわっとした純白の曲面に、黒く硬い柱が 突き刺さっている空間。それが 『メデイア』の装置というわけです。 その後、幸いにして『メデイア』はク・ ナウカの代表作という評価 を得て世界各地で上演されることになりました。行く先の劇場に アートスクエアのような柱があるわけはありませんが、まるでもと もとそこに柱が立っていたかのように、僕らは柱の装置を立て続 けました。ただ、床の曲面は、二度と再現できませんでした。そも そも柱の黒と地面の純白という対比も、アートスクエアの壁面の 黒光りする鉄板の色を必然にすべく考えられましたから、他の劇 場に行ったときには床面の白も理由がなくなりました。タマゴのよ うな、マシュマロのような白い曲面に代わって、われわれが選んだ のは、白い布の中央に巨大な円い血溜まりがあるフラットな床面 です。赤い血の色が最後に女性性を現すようにするために、最後 の場面の女たちの衣裳は真っ赤なワンピースに変わりました。

ク・ナウカ 『王女メデイア』 (構成・演出:宮城聰)1999 年

こうして思い返せば、僕らの『メデイア』のコンセプトや演出が、 アートスクエアの空間の「クセ」を、言いかえればアートスクエア の空間という「他者」を、なんとか味方につけようというじたばた から生まれ、やがて「アートスクエアとプレーンな劇場空間の違 い」を考えることによって発展していったことがわかります。 「稽古 場でつくった芝居を、稽古場の通りに再現できる」ような無色の空 間を前提にしていたら、 『メデイア』は決して生まれなかったのだ なあと思います。 なお付言しておくと、アートスクエアにおける装置プランを進めつ つ、芝居そのものは「北九州演劇祭」 での初日に向けて小倉でたっ ぷり稽古をさせてもらいました。僕たちの芝居は、こうして旅のな かで、つまり他者との出会いの中で、生を受けていたのでした。

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