はじめに
Research Journal Issue 01
Foreword
スクエア[広場]
アートの 「現場」から立ち上げる、 リサーチと議論のためのプラットフォーム アサヒ・アートスクエアはこれまで、 「未来・市民・地域」 をキーワードに、 美術、 音楽、 演劇、 ダンス、 ファッション、 建築など、 あらゆるジャンルの 表現の発表の場、創作の場、 また交流拠点として様々な活動を展開 してきました。 アサヒ・アートスクエアリサーチ・ジャーナル[Asahi Art Square Research Journal ]は、 そうした 「アートの現場」で生まれる問題意識や課題を、
多角的な視点から考え、多くの方々と共有し議論するためのプラット フォームです。 毎号テーマを設定し、 表現者、 研究者、 プロデューサーやディレクター、 キュレーターなど、様々な書き手にご寄稿いただきます。 ますます多様 化しつつあるアート、 アーティストの実践や、 アートスペースの可能性に ついて考察するための、 発想の手がかりをアーカイブしていきます。 ─ [広場] 創刊号のテーマは、 「スクエア 」 としました。アサヒ・アートスクエ
アは美術館やギャラリー、劇場、 ライブハウスといったある機能に特化 した文化施設と違い、パーティースペースを転用したアートスペースで す。幅広い活動に応えられるこの空間が、人々が集い対話し、多様 な活動や文化、価値観が育まれる場になることを目指しています。今 号ではアーティストや研究者たちの論考やインタビューを通して、 アサ ヒ・アートスクエアという場の可能性を、 その名称に含まれる 「スクエア [広場] 」 という視点から考えます。
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2013年夏、市民が抗議行動を繰り広げたイスタンブールのタクシム 広場に偶然居合わせた写真家の港千尋さんは、 現地の写真とともに、 [広場] 「バランスの空間」 「判断の空間」 という視座から 「スクエア 」 を
読み解きます。朝市などの日常の経済が営まれる空間は、瞬く間に市 民による判断と要求のための空間になる。高度に情報化された現代 においても、 広場はその力を失ってはいないと、 港さんは言います。 ─ 演劇の可能性を拡張する試みとして、ツアーや社会実験的なプロ ジェクトを現実の都市空間で様々に展開してきた高山明さんは、 これ までの活動において、一貫して 「スクエア[広場]」 をテーマにしてきたと
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Foreword
スクエア[広場]
語ります。 「演劇と広場が交わるところ」に立ち、広場を通して演劇を、 演劇を通して広場をそれぞれ拡張しようと試みた自身の 2 つのプロ ジェクトから、 両者の現代的な可能性を提示します。 ─ 元『ダムタイプ』 のメンバーで、現在は「共有空間」 の開発をテーマに 活動を続ける美術家の小山田徹さんは、人々が交流し、多様性が生 み出される場が成立するには、 その場の獲得感が重要だと言います。 自ら獲得したという思いは、 その場に対しての愛を生み、主体的な関わ りを促します。90 年代から現在まで続く小山田さんの 「共有空間」の [広場] 実践のなかに、獲得する 「スクエア 」 の手がかりを探ります。
─ この10 年間、 アサヒ ・アートスクエアを拠点に、 日本のパフォーマンス シーンを牽引してきた 「吾妻橋ダンスクロッシング」。あらゆるジャン (クロス) ルの最先端パフォーマンスを “X” させるこの実験的なイベント [広場] をキュレーションしてきた、桜井圭介さんが、 「スクエア 」で展開
したこの10 年間の試行錯誤を振り返ります。 ─ 大阪・釜ヶ崎の戦後誌や、現代都市における社会的・空間的排除に ついて研究してきた原口剛さんは、 「スクエア[広場] 」 とは、所与のもの ではなく、生成する過程、 プロセスなのだと言います。寄せ場・釜ヶ崎 の1960 -70 年代をひも解きながら、みずからの力で広場を生みだそ うとする民衆的な行為に 「スクエア」生成の条件を見いだします。 ─ 日本のクリエイティブ・コモンズ、 フリーカルチャー運動の発展に尽力 してきたドミニク・チェンさんは、情報システム、ネットワークの技術や 議論を参照しながら、創造活動とコミュニケーションを表裏一体のも のとして捉える 「場の思考」を提起します。表現することや考えること、 また自己そのものを「場=結節点」 として開くこと。他者との間により多 くのコミュニケーションが生起することを重視するその姿勢は、 「スク [広場] エア 」 というものが、思考や生き方の新たなモデルとなりうること
を示します。 ─ [広場] 本ジャーナルが「スクエア 」の現代的な可能性を考える機会と
なり、お読みになったみなさんの生きる現場においても、新たな視座を 拓くものになっていましたら幸いです。
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