ジャングルジム、フルーツバスケット 109やパルコなど、流行最先端を発信するファッションビルが乱立する渋谷駅。そこを始発駅に滑り 出す地下鉄銀座線は、東京屈指のハイブランドがひしめくショッピングタウン、表参道や銀座を通り抜 け、約30分後に浅草駅にたどり着く。地下鉄を下りて地上に出れば、目の前には隅田川の雄大な流れ が横たわる。 ある週末、川の向こう岸に立つアサヒ・アートスクエアの中で、ファッションショーが行われていた。 より正確に言えば、ファッションショーの舞台となるジャングルジムが展示されていて、その日の夕方 に行われる自由参加型のファッションショーにむけて一日中、リハーサルもショーもその後の交流もす べてが公開される、参加者の年齢や性別を問わないイベントが開催されていた。 舞台が、ジャングルジムであること。自由にその中を歩き回ることができ、階段を上ったりハンモック で寝たりして、遊ぶことができる場所。ところどころに毛皮、レース、帽子、T シャツ、布、浮き輪、ワンピー ス、そのほかいろいろな服や素材があつめられている。ここを通るとき人は、思わぬところに自分のお 宝を発見できそうな気がして、ワクワクする。これから始まるファッションショーに参加しようと決め た人は、この中から自分の好きなものを身にまとって、出番を待つのだ。 ショーは、 「フルーツバスケット」のルールを軸に動いていく。いろいろな声が、いろいろな指示を出す。 みんなから、みんなへ。 ・・・・・・ 「T シャツを着ている人は 足をならしながら歩いてください」 「ズボンをはいている人は ジャングルジムの上にのってください」 「スカートをはいている人は ゆうれいの気分で歩いてください」 「ワンピースを着ている人は ジャングルジムの周りを走ってください」 「毛皮をつけている人は 一階に下りてスキップしてください」 「レースを身につけている人は 万歳をして下さい」 ・・・・・・ “フォーム・オン・ワーズ”というブランド名が意図するところは、言葉とたわむれる形、ということ だろうか。あえて「たわむれる」と言ってみたのは、ファッションに遊びのスピリットを取り戻そう、 という意図を強く感じたからだ。彼らは古着をあつめ、 服にまつわるストーリーをあつめ、 言葉をあつめ、 そこからあらたな、服を産みだす。制作プロセスの過程に子供の発想も、大人の技術や発案も混ざり合っ て、すでにあるものに、新しい意味を、新しい価値を与える。自由な遊びの空間をファッションに取り 戻すこと、がブランド精神の根幹にあるとすれば、 「ジャングルジム市場」におけるファッションショー は、このプロジェクトのスピリットや風通しの良さを体現していた。 人の欲望を計算しつくして虚飾を塗りこめ、魅力的な表面を飾り立てる、ファッションというもの。川 のむこう岸の、地下鉄の終点のほうの街にはそんなイメージが溢れ返っている。しかし、そういったも のは、もううんざりだ、というのが、私たちの正直な気持ちではないだろうか。 “フォーム・オン・ワーズ” のファッションショーでは、ジャングルジムの前で自転車や三輪車をこぐ子供たちも、フルーツバスケッ トに参加する大人たちも、そんな私たちの気持ちを、かろやかに吐き出していた。思い思いの動き、様々 なスタイル。私たちのなかに眠っていた、もっとファッションを楽しもう、という気持ちが、ゆっくり と息を吹き返す。
林央子(はやし・なかこ)
1988 年から資生堂『花椿』誌の編集に 13 年間携わる。2001 年よりフリーランスとして国内外の雑誌に寄稿、2002 年 (AD・服部一成)を立ち上げ、2013 年までに 11 冊を刊 にインディペンデント出版のプロジェクト『here and there』 行。著書に『拡張するファッション』 (スペースシャワーネットワーク)ほか、共著に『ファッションは語りはじめた』 (フィルムアート社) 『わたしを変える“アートとファッション” 』 (パルコ出版)など。2014 年には水戸芸術館現代美 術センターと丸亀猪熊弦一郎現代美術館で、著書『拡張するファッション』を原案とした展覧会が開催される予定。
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1. ウキハラマキ / 2. Wearable River / 3. Vestige[ほくさい博仕様]/ 4. ヘンシンバルーン#1 5. ヘンシンバルーン#2 / 6. 東京かりかり / 7. スカイシップ / 8. びっくり倉庫 / 9. シルクプリン / 10. 星の湯 8