平面図の記憶モデルによる建築内経路の分りやすさに関する研究

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平面 図 の記憶 モデ ルによる建築内径路 の分 か りやす さに関す る研究

平成 4年 度

修 士論文

指導 :渡 辺仁 史教授 早稲田大学大学院理工学研究科 建設工学専攻建築学専門分野

61蜘

高瀬大樹


は しが き 人間はこの世に生を受けた時から、自分を取 り囲む環境 と様 々な関係 を持ちなが ら生活 してい る。その ような中で、我々はすでにある程度完成 された環境 に対す る知識 を持 っている。 しか し、 それは無意識の うちに出来上がるものであ り、自分 自身のことであ りながらその生成過程や、 ど のように体系化 されているのかはおそらく誰にも分 からないであろう。 そのような疑間 に答えるために、 K・ リンチ以来様 々な角度 から研究が行 なわれてきたが、ま だその歴 史は浅 く明 らかにされていないことも多 い。一方、心理学の分野では記憶 の研究 はよ り 早 くか ら盛んに行 なわれてお り、すでにい くつかの確立 された理論がある。 しか し、 こちらの方 は、あ くまで も実験室内の狭 い範囲の刺激に対す る個人の行動 を対象 にしてお り、 よ り実際的 な 実験研究が待 たれてい る。 現在 では、「環境心理学」 とい う言葉も一般的になってきて、建築学をはじめとして、都市計 画学・土木工学な どの工学的分野 と心理学や社会学などの分野 との交流 も盛んにな りつつあ り、 これから益 々重要な一つの分野 として発展 してい くものと思 われる。 心理学"の 両面から、人間 と建築 との関係 を明 そこで、本研究で もこのような “ 建築学"と “ らかにしようとす るものである。

ザゞ 早稲田大学渡辺仁 史研究室

1992年 度修士論文


「平面 図の記憶 モデルによる建築内径路 の分 か りやす さに関す る研剣

目次

研究概要 学校建築 にお け る記憶実験調査

2-1 2-2

5-1 5-2

記憶状況算定の手順 有効性 の検定 結論 まとめ 今後 の展望

あとが き 参考文献

5 6 “

第 5章

モ デ ル のパ ラメ ー ター につ い て

3 5 ︲ 5 5 6 “

4-1 4-2 4-3 4-4

2 4

平面図の記憶 の予測 シミュ レー シ ョン モデルの概要

第 4章

5 3

平面図の記憶 と記憶 のモデル 心理学分野 におけ る記憶研 究 について 。・・ 平面図 における選択的記憶 と経路 の覚 え方 ・ 平面図の記憶状況 と再現歩行

7 2

3-1 3-2 3-3

実験内容 実験結果

4 節

第 2章

第 3章

研究背景

1-1 1-2 1-3

序論 研究 目的

第 1章


第 一 章 .序 論


1-1.研

究 目的

はじめて訪れる建築 において、その入口にある案内図を見 て、目的の場所 までの経路 を覚えて から行動す ることがある。その ような時 に、我々は、案内図の何処 を見 て、何 を覚えているのか。 あるいは、なぜそれを覚えればよいことを知 っているのか。また正確 に覚え られれば正確 に行動 できるのだろうか。そのような疑問から本研究 は始 まった。

本研究 の 目的 は、心理学 の分 野 で一般的 に知 られてい る記憶 の原理 を用 いて、人間が建築平面 図 (案 内図)を 見 て、あ る経路 を覚 える過程 をモ デル化 し、そ のモデルを もとに、ある建築内 の 経路 の覚 えやす さの算定法 を提案 し、評価す ることである。

ずゞ 早稲田大学渡辺仁史研究室

1992年 度修士論文


1-2.研

究背景

建築学分野 における空 間認知 ・環境認知 に関す る研 究 では、 K・ リンチの「都市 のイメ ー ジ」 をは じめ とした、既知 の都市 あるい は建築空間 につい てのイメー ジや認知 の程度 につい て取 り扱 った もの

(例

。清水里司 :「 建築 の分 か りやす さに関す る研究」、萩原成夫 :「 都市構 造 の認知

プ ロセスに関す る研究」 以上渡辺仁史研究室修 士論文 )や 、主 に ビアジェによる空 間概念 の発達 に関す る研究 をもとに して、児童 を研 究対象 とした空 間認知 の発達 につい て取 り扱 った もの

(例 。

宮本文人,谷 口汎邦 :「 児童 の空間認知 と小学校校舎 の平面構成 に関す る研 究」「 論文報告集』 No.436、 高橋鷹志

183大 他 :「 空間認知 におけるスキーマの役割」 「 会梗概 集』)が 多 い。

また、本研究 の ようなは じめて訪 れる建築の認知 について取 り扱 った もの もい くつかあるもの の

(例 。舟橋 国男

:「 建物内通路 における経路探索行動 ならびに空間把握 に関す る実験 的研究」

「論文報告集』No.429、 渡邊昭彦 :「 手続 き知識、探索 行動、 イメー ジマ ップか らみた空 間探索」 「 89大 会梗概集』)空 間内 での行動 のみに着 目してお り、行動す るための知識 を手 に入 れるまで の段階 か らは述 べ られてい ない。 また、既存 の研究 では、心理学分野 における長期記憶 に関する理論

(ル

ー メルハー トによるス

キーマ理論 な ど)に つい ては言及 してい るもの も見 られ るが、本研 究 のよ うに短期記憶 につい て の理論 か ら積極 的 に取 り入 れている ものは見 当 たらない。 この ように、既存 の研 究 では、心理学 分野 での研究 に当 て嵌 め る と「 どの よ うに覚え られて い るか」 とい うことのみ に着 目していた。 いは 本研究 の 目的 は、 い ままであま り取 り上 げ られて こなか った「 どの ように覚 えるか」 あるヽ 「持 っている知識 をどの よ うに使 うか」 とい うもっと始 めの段階 を明 らかにす ることにあ り、 こ れか らの空間認知研究 の一つの指針 となると思われる。

ずヽ 早稲田大学渡辺仁史研究室

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2


1-3口 研 究概要 第 1章

序論

研究 目的,研 究背景 ,研 究概 要 な どを述 べ る。

第 2章

学校建 築 における記憶実験調査

平面図の記憶特性 を調査す るため、早稲 田大学人 間科学部所沢校舎 において記憶実験 を行 なっ た。その実験 目的 。方法 な どの内容 と結果 について述べ る。

平面 図 の記憶 と記憶 のモデル

第 3章 ー1

心理学分 野 における記憶研究

本研究 にお い て利用す る心理学分野 の記憶 に関す る理論 や モデルについ ての解説 と、それを 本研究 にどの よ うに取 り入 れ るのかについて述 べ る。

-2

平面図 における選択的記憶 と経路 の覚 え方

第 2章 の結 果 よ り平面図 の記憶特性 を明 らか に し、それ と 3-1で 述 べ た記憶 のモデルを利 用 して、経路 の覚え方 のモデル化 を試み る。

-3

平面 図 の記憶状況 と再現歩行

実験 の結果及 び 3-2で 得 られた記憶特性 と実際 の再現歩行 の結果 との関係 を明 らかにす る。

第 4章

平面 図 の記憶 の予測 シミュレー ション

ー1

モデルの概要

-2

モデルの パ ラメー ター について

パ ラメー ター の種類 や求め方 とその意味す る ところについ て述 べ る。

-3

記憶状況算定 の手順

今 回提案す る モデルの具体 的 な算定方法 と手順 について述 べ る。

-4

有効性 の検定

別 の建築 (ル ー テル神学大学)を 用 いて、 モ デルの有効性 の検定 を行 な う。

第 5章

結論

本研究全体 を通 してのまとめ と今後 の展望 について述べ る。

ず ヽ 早稲 田大学渡辺仁 史研究室

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3


第 二 章 .学 校建築 にお ける記憶実験調査


2-1.実

験内容

a.実 験概要 ○実験 目的 は じめて訪 れた建築 で、案内図を見 てか らある目的地 に向か うとき、その 目的地 までの経路 を 覚 えるために、案内図の何処 を見 ているのか、何 を覚え るのか、あ るい は どの ように覚 えるのか を明 らかにす る。 また、その後 の再現歩行 で、何処 をどの よ うに間違 えたか を明 らかにす ること。

○実験方法 あ らか じめ決め られた経路 を示 した平面図を被験者 に 3分 間提示 し、一 人 で歩けるよ うに覚 え て もらう。 (実 験方法 の手順 について は次 のベー ジに示す) 実験

1.被 験者 にアイマー ク レコー ダー を取付 けて、平面図を覚 える間の眼球運動 を調 べ る。詢

実験 2.3分 後 に、その経路 をどの ように覚 えたかをスケ ッチマ ップを描 きなが ら説明 しても らう。同時 にその様 子 を ビデオに収 める。 実験 3.経 路 に したがって再現歩行 を行 ない、その歩行軌跡 を調 べ る。

○実験対象施設 早稲 田大学人 間科学部所沢校舎

○被験者 デー タ 属性 :早 稲 田を中心 とした学部学生 (建 築 の学生 も数名含む) 人数 :延 べ 人数 で53名

○実験期 日 1992年 8月 7日 (金 ),9月 15日 (祝 ),10月 3日 (土 )

注 )実 験 1は 8月 7日 のみ 、 6人 の被験者 に対 して行 なった。 使用機器 :ナ ック社 解析 ソフ ト :EMR‐

EYEMARK RECORDER EMR‐ 600

a10

アイ マー クデ ー タ解析 ソフ トウェ ア Ver.2.0

ずゞ 早稲田大学渡辺仁史研究室

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4


b.実 験手順 1。

図面教示 :実 験経路 を示 した平面図 をスター トの部屋 において提示 し、経路 の大 まかな説 明

(ス

ター トの部屋 ,階 数,階 段 のつ なが り,目 的の部屋 な ど)の 後、時間 を計 り始 める。

「 この平面図 に示 した経路 を見 て、 一人 で歩け るよ うに覚 え て くだ さい。時間 は 3分 間 です。」

2.ス ケ ッチマ ップ作成 :経路図が見 えない ところで、覚 えて もらった経路 を回頭 の説明 を加 えなが ら、 A4の 自紙 にスケ ッチマ ップを描 いて もらう。 「先 ほ どあなたが覚え た経路 を、他 の人 に説明す るようなつ もりで この用紙 に描 いて ください。 時間に制限 はあ りません。」

3.経路再現歩行 :学 習 した課題経路 を再現歩行 させる。実験者 は被験者 を追跡 し、その歩行 軌跡 と行動 を観察記録す る。請求があった ときにはスケ ッチ マ ップを見 せて も良い ことに す る。 また、歩行 中に迷 った り、経路 か らずれているの に気 が付 く様子 がない ときには、 間違 った ところまで連れ戻 し、そ こから再 ス ター トさせ る。 「それでは、図面 に示 され ていた経路 を実際 に歩 いて ください。 も し歩 いていて迷 った り分 か らな くなった り したら係 の者 に言 って ください。先 ほ ど描 いて もらったスケ ッチマ ップをお見 せ します。」

ゞ ゞ 早稲 田大学渡辺仁 史研究室

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5


c.実 験対象施設 について 本研 究内容 に対 して、対象施設や建築 の種類 。用途 は特 に問 わなかったが 、平面図の学習 を も って経路探索 を行 な うため、実際の空間内 に平面図 に現 われ ない要素が多 く存在す る施設 (デ パ ー トな どの商業施設な ど)は 避 けるように した。 これ までの学校建築 の平面構成 は、定型 。画一 的な ものが多 かったが、最近 は多様 化 の傾 向 を 見 せてお り、様 々 な角度 か ら研 究 されてい る。そのような意 味 か らも、対象施設 を学校建築 にす ることは意義 の ある ことと考 えた。 本研 究 の実験対 象施設 で ある「早稲 田大学人間科学部所沢校舎」 は、通常 のキ ャンパ ス に一般 的な分棟形式 をとらず に、規模 の全 てが連続的 。一体的 にな った構成、 お よび緩 い丘陵 を巻 きな が ら上 ってゆ く構成 に特徴 が ある。次 に「早稲 田大学人間科 学部所沢校舎」 の建築概要 を示す。

建築概要 名称 :早 稲 田大学所沢キャンパ ス人間科学部 所在地 :埼 玉県所沢市 三 ヶ島 2-579-15 設 計 建築 :池 原研 究室 構造 :田 中研 究室 設備 :井 上研 究室 。設備計画 面積 敷地面積 :229,330m2 建築面積 : 13,610m2 延床面積

:28,781m2

規模 :地 下 2階 ,地 上 6階 ,塔 屋 1階

各階 の平面図 を次 に示す。 なお、実験経路 として使用 しなかった地下一 階お よび地上五 階、六階 は割愛 した。

ずゞ 早稲田大学渡辺仁 史研究室

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6


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d.実 験経路 に ついて 分節 "を 一 つ の 単位 と して考 えた。 こ こで “1分 節 "と は、 実験経路 を作 成 す るに当 たって、 “ 基本 的 には

「 平面図上で認知出来 る、経路 を構成す る建築的要素 を一つ含 む部分』 と定義 した。 “ 経路 を構成す る要素"と は経路 上 にあ り、実際 に歩行す る ときに利用す る建築的 要素 の ことで、今 回の経路 で は、ス ター トの部屋 ,階 段 ,エ レベー ター,ス ロー プ,ホ ール,日 的 の部屋 などであ った。 また今 回は、「突 き当た り」 は「経路 を構成す る要素」 とは分 け て考 え ることに した。

経路 の作成 に当 たって次 の よ うな点 に注意 した。 。この種 の実験 の経路 はとか く不 自然な場合が多 いが、なるべ く自然 な コース取 りを心掛 け た。 ・一つの経路 内 で、同 じ場所 を三度通 らない よ うに した。 ・不必要に階段 を多 く使 わないように した。 ・経路 は二種類作成 したが、それぞれに性格付 けを しない よ うに した (意 図的 に難易 の差 を付 け るなど)。

この結果今 回作成 した経路 では、全 ての分節 が “ 経路構成 要素 ま 経路構成要素か らの出方 " “ での道 " “ 突 き当た り後 の選択 "の 3種 類 に分 け られた。 この 3種 類 それぞ れの定義 は、 経路構成要素 か らの出方 :ス ター ト,経 路 上の階段等 を通過 した後 の経路 選択 につい ての部分。 経路構成要素 までの道 :次 の経路構成要素 までの直線廊 下等 の リンク部分。 注 突 き当た り後 の 選択 :突 き当た りまでの道 と、その後 の経路選択 についての部分。 )

今 回 の実験 では、作成 した二種類 の経路 を、それぞれ をA経 路 ,B経 路 と名付 け ることにす る。 また、分節 の数 によ りA-5,

7, 9,H,13,B-5, 6, 8,10,12の 計 10種 類 の経路 を作

突 き当た りま 注 )突 き当た りまでは、 まっす ぐ歩 くのでその途中注意 を要 さない。そ こで、 “ での道"は 作 らなかった。それに対 し、 “ 経路構成要素 までの道"は 、その構成要素 が何 であるか 、 また、先 へ の道があ る途 中にあ るので注意 を要す る。その意味 で設け た。

ゞゞ 早稲 田大学渡辺仁史研究室

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H


成 した。 AB両 経路共 に一番 長 い経路

(A-13,B-12)の 、 ゴールの方 か ら2分節 ずつ減 らし

ていった。 ただ し、 “B-5経 路 "の みは “B-7∼ H"を 充 てた。

(以 降、

“Aあ るい はB

一〇経路 "と 示 した場合 は、実験経路 の種類 を表 し、 “Aあ るい は B一 〇"と 示 した場合 は、 A あるい は B経 路 の第○分節 を表す もの とす る。) 経路 を回頭 で説明す る ときの例 と各経路 図を次 に示す。

A経 路 の説明例 4階 第 1分 節 .ス ター トを出 て左 に行 く。 (経路構成 要 素 か らの出方 ) 第 2分 節 。 突 き当 た りを右 に行 く。 (突 き当た り後 の 選択 ) 第 3分 節 .ホ ー ル部 まで行 く。 (経 路構成要素 までの道 ) 第 4分 節 .ホ ール を通 る。 (経路構成 要素 か らの出 方 ) 第 5分節 .エ レベー ター まで行 く。 (経 路構成 要素 までの道 )

1階 第 6分 節 .エ レベー ター を出 て左 に行 き、道 な りに行 く。 (経路構成 要素 か らの出 方 ) 第 7分 節 .突 き当た りを右 に行 き、階段 を上 る。 (突 き当た り後 の 選択 )注

)

第 8分 節 .先 にある小 さな階段 を上 る。 (経 路構成 要素 か らの出方 )

2階 第 9分 節 。壁 の 間を歩 いて右側 の広 い通路 に出 て左 に行 く。 (突 き当た り後 の 選択 ) 第 10分 節 .柱 の 手前 を右 に曲が り、右手 にある階段 を上 る。 (経 路構成 要素 までの道 )

3階 第 11分 節 。 180度 方 向転換 し、左 に出 る。 (経 路構成 要素 か らの出 方 ) 第 12分 節 .ス ロー プを通 って 、左 に出 る。 (経路構 成 要素 か らの出方 ) 第 13分 節 .左 に見 え て くる階段 を下 りる。 (経 路構成 要素 までの道 )

注)曲 がった ところで階段 な どの次 の経路構成要素 が視認 で き、かつ経路選択 の余地 がなけれ ば分節 は一 つ と数え ることにす る。

ずゞ 早稲田大学渡辺仁史研究室

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12


3t___fゝ _

第 5分 節

4階

第 6分 節

l階 A経 路 (4階 ∼ 1階 ∼ 2階 ∼ 3階 )経 路図 その 1 ザ ゞ 早稲 田大学渡辺仁史研究室

1992年 度修士論文

13


第 9分 節

2階

第 12分 節 :1第 13分 節

3階 A経 路 (4階 ∼ 1階 ∼ 2階 ∼ 3階 )経路図 その 2 ず督 早稲田大学渡辺仁史研究壼 1992年 度修士論文

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B経 路 の説明例 4階 第 1分 節 .ス ター トを出 て右 に行 く。 (経 路構成 要素 か らの出方 ) 第 2分 節 .突 き当た りを右 に行 き、階段 を下 りる。 (突 き当 た り後 の選択 )濁

3階 第 3分 節 .階 段 を左 に出 る。 (経路構成 要素 か らの出方 ) 第 4分 節 .ス ロー プ入 口 ま で行 く。 (経 路構成 要素 まで の 道 ) 第 5分 節 .ス ロー プを下 り、左 に行 く。 (経 路構成 要素 か らの出方 ) 第 6分節 .左 に見 える階段 ま で行 く。 (経 路構成 要素 まで の 道 )

2階 第 7分 節 .階 段 をす べ て下 り、左 に行 く。 (経路構 成 要素 か らの出方 ) 第 8分 節 .突 き当た り右 の 、壁 と扉 の 間 を通 って右 に出 る。 (突 き当た り後 の 選択 ) 第

9分 節 .吹 き抜 け横 を通 り右 に見 える階段 まで行 く。

(経路構 成 要素 まで の 道 )

1階 第 10分節 .階 段 を下 りて180度 方 向転換。 (経 路構成 要素 か らの出方 ) 第 H分 節 .突 き当た り右 、 階段 の裏 の手前 を右 に入 る。 (突 き当 た り後 の選択 ) 第 12分 節 .突 き当た りの 出 回 の 手前 を右 に行 ったH3教 室。 (経 路構成 要素 までの道 )

注 )曲 がった ところで階段 な どの次 の経路構成要素が視認で き、かつ経路選択 の余地 が なけれ ば分節 は一 つ と数 える ことにす る。

ずゞ 早稲 田大学渡辺仁史研究 室

1992年 度修士論文

15


rハ 1タ

聴 第 1分

_第 2分 節

4階

■第 6分 節

第 3分 節

3階

││││

B経 路 (4階 ∼ 3階 ∼ 2階 ∼ 1階 )経 路 図

その1

ゞゞ 早稲田大学渡辺仁史研究室 1992年 度修士論文

16


第 8分 節

2階

第 10分 節

第 12分 節

1階 B経 路 (4階 ∼ 3階 ∼ 2階 ∼ 1階 )経 路図 その 2 ゞ ゞ 早稲田大学渡辺仁史研究室

1992年 度修士論文 17


e.ス ケ ッチマ ップ法について 従来建築や都市 における空 間把握 や認知研究 において、その認知程度 や発達過程 を明 らかにす るため に、 スケ ッチマ ップ法 が使 われて きた。 スケ ッチマ ップ法 は人 の認知地図 を調 べ る方法 と して、簡単 に行 なえる ことや他 に有効 な調査方法が見 当 たらないこ とか ら、 K。 リンチの「都 市 のイメー ジ」以来、 この種 の研 究 では必ず と言 っていいほ ど用 い られて きた手法 で ある。 しか し、スケ ッチマ ップを実際 に描 く被験者 にとって、普段 か ら慣 れない “マ ップを描 く"と い う作業 の負担 を考 えると、「 マ ップので き具合 は個 人 の描画能力 の差 によるもので、その人 の 頭 に描 くもの

(そ

の人 の認知 の程度 )を 端的 に表 してい るとはいえないのではない か』 とい う意

二次元 の地図"の 形 で頭 の 中にあ るのか』 認知地 図"と い うものが本 当 にいわゆる “ 見 や、「 “ とい う疑問 な ど問題点がい くつ かあった。特 に後者 の問題 について は、す でにある種 のイメー ジ の出来 上がってい る都市 や建築 などについ ては

(自 分 の経験 上)、

認知地図がいわ ゆる二次元地

図 の形 で頭 に保存 され ている とは言 い難 い。

それ では、 ここで別 の面か らスケ ッチマ ップ法 について考 え てみ る。 ス ケ ッチマ ップ法 は、あ る意味 では人 の記憶状態 を調 べ るための調査法 で ある。 そ こで、その記憶 について少 し考 えてみ ることにする。例 えば “ 建築 "に 関す る記憶 は二種類 あるとい える。 まず 一つは、あ る特定 の建 築 に関す る記憶 で ある。早稲 田大学 の理工学部校舎 を例 に挙 げ て考 え てみ ると「理工の校舎 は各 棟 がデ ッキでつ ながっている」 とか「52号 館 の教室の平面 は五角形 で あ る」 といった知識 の記憶 で ある。他 にも思 い付 くことはい くつ もあ るであろ う。 概念 的 "な “ 建築 "に 関す る記憶 で ある。 この例 を挙 げ る と「 1階 の上 もう一 方 は、 もっと “ は 2階 で ある」 とか「上下の移 動 には階段 かエ レベー ター を使 う」 といった もので、 いわ ゆる “ 常識"と いわれる ものである。 つ ま り、す でに知 っている建築 では、前者 の記憶 に したがって 行動す るが、 は じめ て訪 れる建築 においては後者 の記憶 を使 って行動す る といえる。

本研究 におい て もその調査 方法 の一 つ としてスケ ッチマ ップ法 を採用 してい る。 そ こで、上記 の ような問題点 に対 して、ま た考 え方 によって本研究 ではスケ ッチマ ップ法 を以下の よ うに捉 え なが ら研 究 を進め る。 ・被験者 に対 してスケ ッチマ ップを描 く機会 の設定 として「誰かに道 を説明す るときの ように」

1992年 度修士論文

00

ザ ゞ 早稲田大学渡辺仁史研究室


とい う教示 を与 えた。 ・ ス ケ ッチマ ップを描 くときに図だけでな く、日頭 の説明 も自由 に付け加 えさせ た。 ・ は じめて訪れた建築 で案内図を見 てか ら行動す る ときとい うの は、人 の認知地図が本 当 に二 次元地図 で残 っている可能性 の ある例 として挙 げ られるのではないか。 ・ それによって人が “ 建築 に関す る知識"を どの よ うに使 って覚 え ようとしてい るのか分 かる のではないか。 ・ スケ ッチマ ップは “ 覚え方 "を 見 るための もので、 “ 覚 え ている もの全 て"で はない。

ザ● 早稲田大学渡辺仁史研究壼 1992年 度修士論文

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2-2.実 a。

実験

験結果

1:ア イマー クレ コー ダーによる眼球 運動 実験

この結 果お よび考察 につい て は第 3章 におい て述 べ る。 なお、 実験 は 6人 分行 なったが、機械 操作 が う ま くい か なかったため に、満足 の い く結 果が得 られ たの は 1人 だ け だ つた ことを付 け加 え てお く。

b.実 験 2:ス ケ ッチマ ップ法 に よる記憶実験 被験 者 に描 いて もらったス ケ ッチ マ ップを分節 ご との “ 省 略 "と “間違 い"と い う面 か ら整 理 してゆ く。 ここでス ケ ッチマ ップの “ 省 略 "と “間違 い"を 次 の よ うに定義す る。 省

略―方向的 な捉 え方 は あ つてい るが、途 中が省 略 され てい る もの

間違 い一 方向的 な捉 え方が 誤 っている もの 例 を挙 げ る と、 下 図 におい て被験者 fは 階段 や壁 の 関係 が省 略 され てい るが 、歩 い て行 く方 向 はあって い る。 それ に対 して被 験者 eの 方 は歩 い て行 く方向が 間違 ってい る。

正 しい経路 被験者 eの 歩行軌跡

2階

被験者

f

課題経路 の抜粋

経路 A8∼ 9

被 験者 e

ゞゞ 早稲田大学渡辺仁史研究室 1992年 度修士論文

20


この方法 に従 って全牲験者 のスケツチマ ップの評価 をお こなったのが表 2-1,

2で ある。 こ

れを見 ると以下のような点が見 て取れる。 1。

分節数が増 えるに従 って間違える分節 の数が増える。

2.省 略に関 しては、分節数増加 に伴 う増減 は認め られず、 ごく一般的な傾向 といえる。 3.最 初の 2分 節 を間違えることはまずない。 4.間 違える分節 あるいは省略す る分節 はほぼ共通 している。 5。

B-5経 路 の結果 を見 て分かるように、分節数10以 上で、再生図の間違いが多 かった所 を 中心に、分節数 5の 経路 を作って実験 を行 なうと、再生図の間違いは0に なる。

ザ写 早稲田大学渡辺仁史研究費

1"2年 度修士綸文 21


(表

2-1)

平価 各被験者 の ス ケ ッチ マ ップ言

6

9

(A経 路 )

10

T字 路 の

壁 の 間 を 階段 の方

手前 まで

通 り左 ヘ

へ 曲が る

日幽囲

マ ップが全 く描 けて い ない分節

間違 って描 かれてい る 分節

省略 され て描 かれてい る分節

ゞ ゞ 早稲田大学渡辺仁史研究室

1992年 度修士論文

22


(表

2

1

3

ス ター ト 突 当た り 階段 を を右

を右 階段 下 る

2-2)

4

各被験者 のス ケ ッチ マ ップ評価

5

6

7

ス ロー プ ス ロー プ 左 に

左 に出 る 手前 まで

出 て左

階段 を

見 える

(B経 路 )

10

9

8

突 当た り 吹抜 け横 l階 へ の

全 て下 り 右 の廊 下

階段 まで 左 に出 る

に出 る

階段 下 る

12

11

階段 を

突 当た り 突 当た り

下 りて

右 の廊 下 右 手の

uタ ー ン

に出 る

113数 室

被 験者 a'

1華 韓

被験 者げ

被験 者 c'

1:=軍 :=

被験 者ご 被験 者

o'

1:1:111

磁華‖1

被験 者 r

被験者■ '

被験者h' 被験 者 r │::::::11::::::::::::::::

被験 者j' 被験者 k'

::::::::::::::1:::::::::

被験 者 r

被験者m 被 験者 n' 被 験者 d 被 験者o 被 験者 q` 被 験者 r' 被 験 者ゞ 被 験者 t' 被 験 者 u'

被験者 ザ 被験者 w' 被験者x' 被 験者 v'

毒 難 難 :華 織 毒 : 11■ 111

間違って描かれている分節 省略されて描かれている分節

ずヽ 早稲田大学渡辺仁史研究室

1992年 度修士論文

23


c.実 験 3:経 路再現歩行実験 どの分節 で間違 えたか とい うことを中心 に整理する。実験 2の 結果 の表 に従 って、その被験者 が間違 った分節 に斜線 をかけて示 した (表

2-3, 4)。

一 人 の被験者 に対 して歩行 の誤 りが い

くつかあるのは、実験者 がそ こまで被験者 を連れ戻 し、歩行 を再開 させたためである。 また、実 験者 が これ以上 は歩行 が 困難 で あると見 な したときと、被験者 が棄 権 を申 し出たときは未 歩行 と して「一」 で示 してある。 この表 か ら以下のような点が見 て取 れる。

1.ス ケ ッチマ ップが描 けていた分節 は377ケ 所 あ り、その内歩行 で間違 えたのは 6ヶ 所 だけで ある。

2.歩 行 を誤 った分節 は全 部 で23ケ 所 あ り、その内スケ ッチマ ップも間違 えてい たのは16ケ 所 で ある。

3.省 略 して描 いてある分節 では歩行 で 間違 う例 は少 な く、33ケ 所 中 1ケ 所 しかない。 4.ス ケ ッチマ ップは間違 ってい たのに歩行 では間違 えなか った分節 は20ヶ 所 あるが、その内、 階段か らの “ 経路構成要素 か らの出方"が 18ケ 所 を占めてい る

(A-6,H,B-3, 7,

10)。

ず ゞ 早稲田大学渡辺仁史研究室

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24


(表

2

1

2-3)

各被 験者 のスケ ッチ マ ップ評価 と再現歩行結果 (A経 路 )

4

3

5

6

7

8

9

10

12

11

13

突 当た り ス ター ト 突 当た り ホー ルの を左

を右

手前 まで

ホー ル (出

EVま で T字 路 の 手前 まで

方)

を右

小 階段 を 壁 の 間 を 階段 の方

2Fへ の

上る

通 り左 ヘ

Uタ ーン

を左

階段上 る

ス ロー プ

ゴー ル 付近

左ヘ

一 一 ¨ 一二

被験 者a

l

へ 曲が る 突当た り を通 り

被験者b ,

被験者d 被験者c

一 一 一 ¨ 一 一 〓 ¨ こ一

被験者c

被験者f 被験者g 被験者h 被験者

i

被験者

i

被験者k 被験者

l

被験者m 被験 者n 被験者o 被 験者p 被験者q

被験者r 被験 者s 被験 者t 被験 者u 被験者 v

被験者w 被験 者x 被験 者v

被験者z 被験者 α 被験者 β

幽囲隋日

間違 って描かれて いる分節

省略 されて描 かれている分節 歩行 を誤 った分節 棄権 もしくは未歩行の分節

ずゞ 早稲 田大学渡辺仁史研究室

1992年 度修士論文

25


(表

1

2-4)

2

3

各被験者のスケ ッチ マ ップ評価 と再現歩行結果 (B経 路 )

4

ス ロー プ スター ト 突 当た り 階段 を を右 を右 左 に出 る 手前 まで 階段 下 る

5

6

7

8

突 当 た り 吹抜 け横 階段 を l階 へ の 下 りて

7tr-/

左に

階段 を

&t<E

見える

全 て下 り 右 の廊 下

階段 まで 左 に出 る

10

9

に出 る

階段 下 る Uタ ー ン

12

11

突 当た り 突当たり 右 のF5下 右手の に出 る

113教 室

被験者a' 被験者げ

%

被験者d 被 験者ご

被験者c'

:荘 tif■

■:■

1

被 験者 f 被 験者 R 被 験者ド 被 験者 r 被 験者j'

被 験者 r 被 験者 r 被 験者 m' 被 験者 n'

被験者d 被験者が 被験者q' 被験者

r'

被験者 s' 被験者ピ 被験者 u' 被験者 v' 被験者 w' 被験者x'

被験者y'

11‖

靱日

違って描かれている分節 隣華華轟議ヨ 間 11111 省略されて描かれている分節 歩行 を誤 った分節 棄権 もしくは未歩行の 分節

ず ゞ 早稲田大学渡辺仁 史研究室

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第二 章 .平 面図 の記憶 と記憶 のモデル


3-1。

心理学分野 にお ける記憶研究 について

人間の行動 に関する研究で しば しば用い られる考え方の一つ として、人間を一つの情報処理 シ ステムとして捉える方法がある。そのような考 え方によれば、人間の行動 とは情報処理 システム としての人間が、行動領域である空間から、様 々な情報を選択的あるいは強制的に受け取 り、一 定の情報処理を行なって、自分 の欲求や行動 目標を定め、それを充足するように現在の状態を移 行 させるために働 きかけるものである。 このように考 えることによ り、一人一人がお互いの意志 で全 くランダムに動いているように見える人間の行動 を、ある程度抽象化・単純化することがで きる。 しか し、 このような考 え方は何 も行動研究 に限ったことではなく、今回取 り上げる心理学 の分野 における記憶の研究で も行 なわれている。 心理学における記憶研究への情報処理的アプローチは、20世 紀の半ばから始められ、神経生理 学 ではそれほど明確 に概念化 できなかった脳 での情報処理、あるいは記憶 の仕組 みや、それまで は個別 に研究 されてきた認知機能 (感 覚,知 覚,学 習,記 憶な ど)を 、一つの共通 な背景 として 情報処理 システムの構造 を用いることで、統一的・相互関連的に理解 しようと試みられてきた。 そ して現在 では、い くつか細 かい点に違いはあるものの、大筋 では次の図 3-1に 示す ような 「二重貯蔵モデル」 と呼ばれる記憶 システムの構造が一般的 になっている。

ボ トム ア ップ

図 3-1

記憶のモデル

ずゞ 早稲田大学渡辺仁史研究室

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視覚 あるいは聴覚 によ り得 られた感 覚情報 は、感覚情報貯蔵 (SIS:seOsOry infomation storageま たは store)に 感覚記憶 と して入 り込む。 しか し、その感覚像 は刺激 (視 た り聴 い た りす る対象物 ) 消失後指数関数的 に減衰 してゆ くが、 この 間知覚 システ ムはこれ に働 きかけて、特徴 を抽出 し、 各 々が持 っている感覚 一記憶辞書的機能 を利用 して、命名 を含 むパ ター ン認識 を行 な う。 この よ うに、パ ター ン認識 の結果再認 。命名 ・連想 な どが行 なわれたとい うことは、感覚情報 の一部 がその後 もある短 い時間内 は保持 されてい るとい うことで あ り、過去 に獲得 されてい た記 憶 の一部が再 び活性化 された とい う ことである。 言 い換 えれば、 自分が今何 を視 ているのか、今何 が起 こっているのか とい う情報、つ ま り現在 を構成す る意 識 の 中にあ る生 まれたばか りの記憶 と、必要な一部 が意識 に呼 び出 されてきた過去 に獲得 された記憶 とがあるとい うことである。 これ らの ことを今 日では、前者 を短期記憶 short―

cm memory)後 者 を長期記憶

(short‐ tenn

(STM;

(LTM;long― tem memory)と 呼 び、それぞれの貯蔵庫 はSTS

storagen,LTS(long― terrn storageDと 呼 ばれる。

以上 のSTMと LTSの 他 に、全体 を調節す るところが中央処 理部 (CP:central「 嘔 ssor)で ある。 このCP部 は、全体 の処理 の 目標 お よび計画 といつたものを組 み立 て、記憶 システ ムが適切 に働 く よ うにモ ニ ターす るところと考 えられる。 この考 え方 に従 って我 々の記憶構造 を見 てい くと、情報処 理 の質 の違 う三つの レベルつ ま り、 感覚 レベ ル (情 報 の入力 )、 短期 レベ ル (現 在 の情報処理)、 長期 レベ ル (永 続 デー タの検索 と 利用 )が ある ことが分 かる。本研究 で もこの記憶構造 に従 って進 め てい く。 それでは、その三つの レベ ルでの記憶各 々について、 もう少 し詳 しく説明 してい くことにす る。

感覚記憶 この レベルでの記憶 は、視覚 で50m

sec、

特徴 の抽出 と、その特徴 の一次的 な保持

聴覚 で250m secと いった時 間的制約 の もとになされる

(1, 2秒 たらず)の ことをい う。 もともとの感覚記憶

の記憶像 は、情報処理 されず まだ未処理のままで、対 象 の感覚的イ メージである。それは、その ままでは維持 されず急速 に消失す るが何 らかの処理や操作 (長 期記憶 の 中の知識 デー タを利用 し た、短期記憶 の注視能力 による)に よって符号化 され、 この符号化 された情報 だ けが短期記憶 に おける言語記憶 やイメー ジ記憶 となって使 われる。 次 に具体的 な例 を挙 げ て説明 してみ る。人間の眼球運動 の軌跡 は、漫然 と動 くのではな く、対

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1992年 度修士論文

28


象 の ある部分 をかな り規則 的 になぞってい る。一般 に視線 は 1.不 規則部分 2。

図形 の角 ,

(一 様性 を欠

く部分 ),

3.明 暗の境界線 に集中す る。 これ らはその対象 を成 り立 たせている骨格 ともい

える部分 である。図はソ連 の視覚生理学者 ヤーバスが測定 したネフ ェル ト・ イテイ王后 の像 を使 った人間のlll球 運動の様子 で あ る。 これは三分 間の 自由 な注視 による ものであるが、 日・鼻 ・ 口・ 耳 の部分 に多 くの滞留点 が見 られる。 つ ま り、無意nitの うちにも長期記憶 の 中の顔 を見 るときの 知 識デー タが活性化 され、注視 点 の Jl度 の高 い耳、 日、鼻、日、顔 の輪郭 といった ものが符号化 l」

されてい るわ け である。

図 3-2

ヤ ーバス に よる眼球 運動測定 [1967]

短期記憶

a.短 期記憶 の概要 実働 の記憶部分 であ り、厳密 には長期記憶 との区別 はな く、現在 では、単 一の神経系 の異 なっ た側面が活性化 されたものであるとい った考 え方が一般的 である。 この考 え方 にもとづ け ば、短 期記憶 は長期記憶 の一時的な部分集合 であ り、長期記憶 の 中で活性化 され、実際 に使 われている 領域 が取 り出 されて、短期記憶 に移 されたとい う見方 が出来 る。図 3-3の ように短期記憶 にお け る言語記憶 やイメー ジ記憶 は、何 らかの心的操作

(リ

ハーサ ル・繰 り返 し)に よって維持 され、

そ して長期記憶 の内容 となる。短llJl記 憶 では成立 していたイメー ジが 、長期記憶 に しっか りと成 立 しないの は、 この心的操作 が不十分 だった ことによると考 え らて い る。 この心的操作 が何 もさ

ゞゞ 早稲田大学渡辺仁史研究 室

1992年 度修士論文

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れ な い と、短期 記憶 の 内容 は比 較的短時 間 (数 秒 か ら数分 )に 崩壊 す ることが 明 らか にされ てい る。 また、記憶 で きる容 量 も限 られて い るので 、後 か ら来 る情報 に よって、以前 の情報 は追 い 出 され て しま う。 維持 リハ ー サ ル

長 期記憶構造

記憶 すべ き事柄

3-3

短期記憶 の リハ ーサ ル 過程

b.短 期記憶容量 とチ ャンク この “ 短期記憶 の容量"に 関す る実験 には次 の ような ものが ある。仮 に「 794119214

671549」

の数字列 を覚 えるように言 われた ときに、何 の知識 もな く覚 えるの と、 この数字

列 が平安京遷都 (794年 ),鎌 倉幕府 (H92年 ),応仁 の乱 (1467年 ),キ リス ト教伝来 (1549年 ) とい う歴史の年代 か ら作 られ ていることに気付 い たときとを比 べ れば、後者 の方が恐 らくこの 15 桁 の数字列 を正 しい順序 で 間違 いな く再生す ることがで きる。 それはつ ま り最初 の 15桁 の数字 を7

94,1192,1467,1549と い う 4つ のまとま りとしてとらえたか らにほかな らない。 この ように短期記憶 へ の貯蔵 は、要素的 で まとま りの ない場合 には困難 で、体制化 され まとま りを持 っている場合 にはよ り容易 である。 この ような以前の学習で充分獲得 された情報 の まとま りの ことを心理学 では「チ ャンク (chunk)」 とい う用語 で表 し、短期記憶 の容量 は一般 に「 7士

2チ ャ ンク」 と見 なされてい る。 しか し、対象 とす る物や事 に対す る習熟度 によって同一人物 で もその処理や貯蔵 は変 わ りうることがあ り、 また 1チ ャンク当 た りの情報量 が増 えるに従 って、 リハーサ ルが 困難 にな り、そ の記憶量 もわずかず つ減少す るので、あ る程度 の限界枠があ ること は分 かるものの、その数 はあ くまで も目安 となるもので、絶対 的な もの とはいい きれない。 ところで、知覚対象 がまとま りを持 った もの として認知 されるとい うことは、す でに、長期記

憶の知識による判断として成立するということを示 している。つまり、知覚対象は、すでに、長

ずゞ 早稲田大学渡辺仁 史研究室

1992年 度修士論文

30


期記憶 の知識 との連合 を示す ものであ り、短期 記憶 にあるその情報 は、長期記憶 へ の一 歩 を踏み 出 してい るのである。短期記憶 の情報 は、長期記憶 の知識 との連合が強固 になった とき、長期記 憶 の内容 となると考 える ことがで きる。

c.初 頭効果 と親近性効果 10語 か ら15語 ぐらいの 、簡単な単語か らなるリス トを 1語 ず つ一 定 の速度 で呈示 し (呈 示速度

は遅 くて も速 くて も構 わない)、 その直後 に自由再生

(順 序 までは問わない再生)さ

せ る と、単

語 の呈示 された位 置 (1∼ 15番 目の こと)に よって再生率 に差異 が生 じる。通常 は リス トの最初 の 部分

(初 頭効果)と

最後 の部分 (親 近性効果)の 再生率 が高 く、中央 の部分 の単語 の再生率 は全

体 に低 くなる。 ところが 、30秒 程度 の簡単 な計算作業 を行 なった後 に再生 させると、 リス トの最 後 の部分 だけが影響 を受 け、再生率が低下する。すな わ ち一時的な記憶 で ある短期記憶 に入 つて い たリス トの最後 の部分 は、直後再生 の場合 には残 っているが、計算作業 の挿入 によって影響 を 受 け るとリス ト中央部 との差異がな くなるわけで ある。 一方、 もはや影響 を受 けない強固 な記憶、 す なわ ち長期記憶 になってい る リス トの最初 の部分 は影響 を受けない と考 え られるのである。

生 率

° ・5

妙硼 硼

◆ ◆  ロ

唱 ヽ、

◆ ,ヽ Oθ ′

。.4

0.3

0.2

系列位置 図 3-4

0,10,30秒

の遅延条件 の系列位置直線

ずゞ 早稲田大学渡辺仁史研究室

1992年 度修士論文

31


長期記憶

a.長 期記憶 の概要 長期記憶 は、容量 の限 られた短期記憶 に比べ て、実 に多種類 の情報 を蓄え、か つ大 きな容量 を 持 つ。 そ して、その情報は、我 々の過去 の経験 お よび学習な どか ら形成 された知識の体系 か らな る。 また、情報 の保持時間 につい ても、短期記憶 がせ いぜ い数分 といつた短 い時間 で あるのに対 し、長期記憶 の方 はもっと長 く、中には生涯 を通 じて保持 されてい るもの も少 な くない。長期記 憶内の情報 は、組織化 された状態 で、検索 しやす い よ うに体系化 がなされてい る。 その意味 では、 知識のデ ー タベース"と 呼 ぶ場合 もあ る。 長期記憶内の情報 を “

b.長 期記憶 の働 き 長期記憶 の働 きは単 に知識 の保持 だけではな く、その知識 を使 うことによって、人間の認知活 動 に大 きく関 わってい る。それは大 きく分 けて以下 の二 つで ある。

1.外 界 か ら入 って くる情報 、すなわち感覚器官 によって受 け取 られた入力 に関す る特徴抽出 を行 なう。

2.記 憶の 中 に既 に蓄えられ ていた情報、す なわ ち過去経験 に由来す る先行知識 を用 いて 1の 入力 を解釈 す る。 1は ボ トム・ ア ップ処理 と して知 られてい る。 この役割 について は感覚記憶 の ところで も説明 した。感 覚情報 は しば しば不完全 で あ った りす るので、 2の トップ・ ダウ ン処理 によって提供 さ れた情報 と相 互作 用 を生ずる。 例 .ボ トム・ ア ップ処理 によって中位 の大 きさで表面 のなめ らかな動 いている黒 い形 の もの と い う感覚情報 を生みだす。 トップ 。ダウ ン処理 は既 に貯蔵 されてい る知識 に基 づ き、 これ をラブラ ドル犬 だと同定す ることができる。 。 実際 には、 2種 類 の処理 は結合 して働 いてい る。 トップ ダウ ンの過程 は、 ポ トム・ ア ップの 過程 によって提供 された情報 と相互作用 を生ず る。

c.長 期記憶 の種類 意味記憶 " E.Tulvingに よる定義 によれば [1972]長 期記憶 は その保持す る内容 に従 って、 “ (semantic mcmory)と

“エ ピソー ド記憶 "(episodic memory)の 二 つ に区別 される。

ず ゞ 早稲田大学渡辺仁史研究室

1992年 度修士論文

32


意味記憶 :言 語 に関す る知識 や、事実関係 に関する知識、物事 の一般的特徴 ,機 能,メ カニズ ム等 が貯蔵 され ている。 つ ま り、学習 の時 と場所 の特定性 に依存 しない事実認識 を含 む記憶 をさ してい る。 例。 a+a=2a 6月 は梅雨 の時期 で ある 四 つの空 間方位 は東西南北 で ある。 エ ピソー ド記憶 :時 間・空 間的 に限定 された事象 。現象 に関する記憶 であ り、一 口に言えば、 自叙伝的 な記憶 で ある。 例 。私 は、正月 を京都 で過 ご した。 昨 日プ リンター を買 った。

3-1

エ ピソ ー ド記憶 と意味記憶

エ ピ ソー ド記憶 表象 され た

意味記憶

特定 の出来事 ,事 物 ,場 所 ,人 々 出来事 や事物 につい ての一般的な 知識や事実

情報 の タイ プ 記憶 内 の

時 間的 (起 こった時 間 に従 って)

スキ ーマ 的 (同 じ トビ ックに関連

体制化 の タイプ

また は空 間的 (起 こった空間 に

す る一 般的知 識 の東 )

従 って)

情報 の源

繰 り返 された経験 か らの抽 象化、

個人的経験

学 んだ ことの一般化 焦点

主観 的事実

(自

己)

客観 的現実 (世 界 )

d.ス キーマ理論について 長期記憶 の 1番 大 きな役割 で ある トップ・ ダウン処理 を行 な うための知識 の体系 は、 い うまで もな くb.で 述 べ た意味記憶 の集合体 にほかならない。 これをスキーマ といい、その知識 の多 く が繰 り返 され たエ ピソー ド記憶 か らもたらされ、 スキーマ は新 しいエ ピソー ドを解釈す るのに用 い られる。 スキーマ は次 の よ うな方法 で記憶 に影響す る。

1.選 択

:ス キーマ は何 を符号化 し、何 を記憶 の中 に貯蔵す るかについての選択 の指標 となる。

2.抽 象 :記 憶内の情報 を特殊 な ものか ら一般的なものへ変形す る。

ず ゞ 早稲田大学渡辺仁 史研究室

1992年 度修士論文

33


3.統 合 と解釈 :現 在経験する情報 に適切な先行知識を当て嵌める。また、確定できないとき は仮定値を当て嵌めることもできる。

ザ● 早稲田大学渡辺仁史研究壼 1992年 度修士綸文

34


3-2.平

面図 にお ける選択的記憶 と経路 の 覚 え方

それ では、第 一節 で説明 した記憶 のモデルに実験 の結果 を当て嵌 めることによって、経路 の覚 え方 を明 らかに してい く。

a.感 覚記憶 図 3-5は 、経路 を示 した平面図 を見 たときの眼球 の動 きとその注視点 で ある。 この実験 では、 始 める前 にすでに、建築 の平面図 を見 て もらうこと、その平面 図 に経路 が示 されてい ること、そ の経路 を覚え て もらい、後 で再生図を描 いて もらうこと、実際 に経路 を歩行 して もらうことを教 示 してあったので、頭 の 中に は長期記憶 の方か らすでに、建築 の平面図 に関す るスキーマ や、経 路 を覚 えるため に必要 な事柄 が活性化 されてい ることが予想 される。 実験 に使 った経路 は、 A-5経 路 で ある。 この経路 の説明例 を ここで もう一度述べ てお く。

1.ス

ター トを出て左 に行 く。

2.突 き当た りを右 に行 く。 3.ホ ール部 まで行 く。 4.ホ ールを通 る。 5。

エ レベー ター まで行 く。

豪 ゛● 鸞

図 3-5

注視点軌跡

ずゞ 早稲田大学渡辺仁 史研究室

1992年 度修士論文

35


図 3-5に 示 した実験 の結果 は、注視点が丸 で表 されてお り、その注視時間は黄→ 青― 桃 → 赤 の順 に長 くなる。 まず見 て分 かることは、注視点 の軌跡が経路周辺 に集 中 してお り、経路 に関係 のない 図書館部分

(右 上の方)に

は全 く祝点が いってい ない ことで あ る。 これは当 た り前 の こと

なのだが、 この時点 で、す でに長期記憶 の方 か ら “ 経路 が示 されてい るわけだか らその周辺 だ け 注意 して視れば良い"と い う命令 が短期記憶 の方 にい ってい るとい うことが分 か り興味深 い。 ま た、第 一節 で述べ た説明 に従 えば、注視点頻度 の高いス ター トの実習室、 ホール、 ゴール の エ レ ベー ター および経路全体 の輪郭 といったものが符号化 され ているとい える。本研究 での言 い方 を す るな らば、 “ 経路構成要素"は 符号化 され´ 、 “ 突 き当た り"は 、 経路構成 要素 までの道"や “ もちろ ん視 てはいる もののそれほ ど重要視 はされてい ない とい えるで あろう。 そ こで、 この被験者 が描 い たス ッケチマ ップと、その説明 の言語 プ ロ トコル を図 3-6に 示す。 これ を見 ると、 “ 経路 を構成す る要素"が 確実 に符号化 されてい ることが分 かる。 一方、 それ以 外 にも トイ レ、使 わない階段、吹 き抜 け、研究室な どが符号化 され記憶 されていることが分 かる。 しか しこれ らは個 人イ 国人が見 つ け る 目印であ り、一般的 に共通す るものか どうかは分か らない と い えよ う。

今の教室がここで、出たら左に曲がってまっす ぐ行って、 T字 路の突 き当たりの ところは階段 になってい て、わきは トイレになっていてそこを右に曲がる。 ここで少 しクラ ン クがあって、左手がオー プンスペース 右側はずっと研究棟 が続 いていて、まっすぐ行 くとホールにでる。 ホ ール に柱 があって一本 目の ところ を曲 がって二 本 目の ところをたどります。 それて下 ってい くと廊下があって突 き当たりに階段があってその わき にエ レベー ターがあり、そこがゴール 。

3-6

被 験者 wの ス ケ ッチ マ ップ と言語 プロ トコル

ザゞ 早稲田大学渡辺仁史研究室

1992年 度修士論文

36


b.短 期記憶 感覚 レベルでの記憶 の考察 によって、経路 を記憶す る際の重要度 がおよそ

1.経路構成要素

2.1以 外 の経路部分

(突

き当た りや リンク部分 )

3.経 路付近 の 目印にな りそうな要素 の順番 になってい ることが分 かった。 ところで、本研究 では “ 分節 "と い う単位 で経路 を考 えて い る。 “ 分節 "は 上記 の 1と 2の ことであ り、や は りこの二つの記憶状況 が経路 の覚えやす さに 大 きく関わってい るといえよう。そ こで、被験者達が、経路全体 の うち どれだ け の分節 を正確 に 覚え たのかを調 べ てみ る。

13 12 正解分節 数

11

10

9 8 7 6 5

4

完全正答

3

実測値

2 1

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10 11

12 13

経路 分節数 図

3-7

“課題経路 の 分節数 "と “正確 に覚 えて いた分節 の 数 "

図 3-7に 示 したのは “ 正確 に覚 えてい た分節 の数"と の関係 で ある。 課題経路 の分節 数"と “ ここで “ 正確 に覚 えていた分節 "と は、間違 い、省略、描けなか った分節 を除 い た もののことで ある。 この グラフを見 ると分節 数 7の 経路 ぐらい か ら完全正答 の直線 との 間隔が離 れ始 め、分節

ずゞ 早稲 田大学渡辺仁史研 究室

1992年 度修士論文 37


数 9の 経路以降 ではその正解分節 の数 が 8∼ 9辺 りで横這 い になることが分 かる。心理学 におけ る短期記憶 の容量 が一般 に “7± 2チ ャンク"と 見 なされてい ることと考 え合 わせ、今 回行 なっ た実験 での、 “1分節 "を “1チ ャ ンク"と 見 るならば、一般 の記憶研究 で いわれてい る短期記 憶 の容量 “7±

2"が 建築言語

(平 面図)に つい て も成 り立 ちそうで あるとい うことが い える

(表 3-2)。

3-2

経路 分節 数

経路 分節数別 スケ ッチ マ ップ成績

被験者数

総 分節数

正解 分節 郵 平均 記憶 封

13

6

78

53

8.8

12

5

60

42

8.4

6

66

49

8.2

6

60

46

7.7

9

5

45

40

8

8

5

40

36

7.2

7

5

35

32

6.4

6

5

30

29

5.8

5

10

50

50

5

10

ただ し、一般 の事柄 に して も建築 の要素 に して も、記憶容量がお よそ 7± 2チ ャ ンクとはい う ものの、他 の記憶 が完全 にな くなった りす るわけではな く、部分的 には存在 してい るのである。 それ は、「時 間経 過による忘却」 に対す るもの と して「干渉 による忘 却」 で説明 される。 つ ま り 仮 に記憶容量 を 9分 節 とす るな ら、 10個 目の分節 が入力 された時点で前 の 1分 節 目は、失 われる のではな く今 まで は完全であったその記憶痕跡 が、 10個 目の分節 か らの干 渉 を受 け、完全 に覚 え ていたときよ りもその記憶痕跡 が弱 くなってゆ くわけで ある。 それが 間違 い や省 略 とい う形 で再 生 されると考 え られ

(中

には完全 に忘却 される場合 もある)、 再現歩行時 の誤 りの大 きな原因 と

なる。 また、再生図 の 間違 いや省略 される分節 は位 置的 にはラ ンダムで、性格 的 に似 通 った分節 (今 回 では階段 か らの出方)に 集 中 してお り、単純 にはその分節 が難 しい (覚 えに くい)と い うこと が予想 される。 しか し、分節 数 10以 上の経路 で、再生図の間違 いや歩行 の誤 りが多 かったところ

ゞゞ

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1992年 度修士論文 38


を中心 に、分節数 5の 経路 を作 って実験 を行 な う と、再生図や歩行 の誤 りは 0に なった

(第 二 章

の結果参照)。 つ ま りそれ らの分節 はAillし いわけではな く “干渉 されやす い"と い うことがわか 干渉 されやす さ"と “干渉 さ る。 だか ら、記憶 の干渉 はlri番 に起 こるのではな く、その分節 の “ れに くさ"に 関係 して起 こると考 え られる。 では、 “ 干渉 されやすい分節 "と は具体的 にどのよ うな分節 なのであろ うか。 干渉 され ている 分節 が発 生 し始 める経路分節数 が 10以 上の もので、間違 われた分節 を調 べ る

(初 頭効果 を考慮

し、

最初 の 2分 節分 は除 く)。 表 3-3,

4を 見 ると、

“ 経路構成 要素 までの道"に 関 して 経路構成要素 か らの出方"と 、 “

は、網 をかけた部分 の 間違え る率 が高 くな っている。 これ らは階段やエ レベー ター などの上下移 「Xlす る分節 である。 ただ し、階段やエ レベー ター その もの を忘れた被験者 は一人 動 の構成 要素 に もおらず

(マ

ップ上 に描 いてい な くとも口で言 っている)、 階段 などの上下移動 に関 しては “そ

こにある"と い うことの印象 が強 い ため に、その向 きに関す る情報 は干渉 を受けやす いこ と、そ こで図面 上の経路 が一旦切 られ、別 の図面 に移 ることか ら記憶 が混乱す る もの と考 え られる

(そ

れでス ロー プに関 しては間違える率が低 い と考 え られる)。

3-3

“経路構成要素 か らの出方 "ス ケ ッチ マ ップ間違 い率 (間 違 い/被 験者数 )

1種 r各

表 3-4

A一 1 31発 E各

1経 路

3-5

A一 1 3斎 蚤 『各

11経 路

12

8

4

A

1 31怪 E各

0/6 3/6 11/5 3/6 0/6 1/6 0/5 0/1 1‐

0/′6

b一

1 21径 E各 ol雌 r各

“経路構成要素 までの道 "ス ケ ッチ マ ップ間違い率 15 3 0//6 ■/6

0/6 0/6

10

13

3 2:/51 11/61

(間

B―

0/3 3/6

: 21経 I各

2/:3

1 01怪『各

5

1111110

0/5 3/6 2/5 0/6 31/6 3/6

違 い数/被 験者数 ) 4

■1111,C

‖9

“突 き当た り後の選択 "ス ケ ッチ マ ップ間違 い率 (間 違 い数 /被 験者数 ) 7

9

2/6 1/4 1/6 0//5

8

B一 1 21陛 :各 1 0斎怪:各

12

0/5 11/5 3/5 0/5 1/6 0/5 2/6

0/5 0/5 0/6

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1992年 度修士論文


突 き当た りに関 しては、完全 に二者択一 を迫 られる もの と

(A-7)と 片方へ のつ なが りが強

(A-9,B-8,■ )で 結果が違 うことが予想 され るが、今 回の実験 ではサ ンプルが少 な く断言 はで きない。 (表 3-5)

い もの

それ に対 し、省 略 される文節 は、経路 上の ち ょっとしたクランクや小 さな階段 な どの、お よそ 歩行 には大 きな影 響 を与 えない と思われる部分 が多 く (実 際 に歩行 を誤 ったのは33ケ 所 中lヶ 所 だ け)、 間違 った分節 とは違 い 、経路 を覚える段階で

(長 期記憶 の方 か ら)意 識的 に省略 して記憶

す るよ うに し、記憶 の負担 を減 らそ うとい う一つ の本能的な もの と考 え られる。 以上 の ことを考 え合 わせる と、建築内経路 の覚 えやす さは、個 々の分節

(個

々の建築 の部分 )

の難易 によるもの よ りも、その経路 の分節 数 (長 さ)に よる影響 の方が大 きいこ とが分 かる。 そ の 中で、難易度 の高 い とい う よ りは、 “ 干渉 されやす い分節 "が 再生図の 間違 い となって現 われ る。 容量 の問題 と並 んで短期記憶 の もう一つの大 きな特徴 である初頭性効果 と親近性効果 につい て は、今 回の実験 では初頭性効果 は認 め られたものの、親近性効 果 については認 め られなかった。 A・

B両 経路 とも第 1・ 第 2分節 が恐 らく干渉 を受 けに くい経路構成要素 か らの出方 と突 き当た

り後 の選択 であ ったことはある ものの、普通に考 えればス ター トか ら順番 に覚 える と考 え られ る し、最初 に見 たものは長期記憶 に置 き変 わ りやす い ことを考 えれば、第 1・ 第 2分節 に一人 の 間 違 いや省略 もなか ったことは、初頭効果 の影響 とみて も差 しつ かえない と考 えられる。 親近性効果 につい ては、分節 数 12,13の 経路 の被験者 が合計 でH入 しか い なかったので今 回 の 実験結 果か らだけではなんともいえないこ とと、再生図を描 く順番 が全員 ス ター トか らだった こ とで、その 間 に短期記憶 か ら失 われた もの も多 かったのだろ う と考 え られる。そ うい う意味 で は、 被験者 に ゴール付近 か らの再 生 をさせれば違 う結果 が得 られ たか も知れない。

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長期 記憶 経路記憶 における長期記憶 の役割 とい う観点 か ら経路 の記憶過程 をモデル化す ると次 の よ うに なる。番号 を付 けた事柄 の全 てに長期記憶 の知識 がか らんでお り、 ス ケ ッチマ ップを描 く段 階 で の情報 の貯蔵 は短期 。長期記憶 の両方 にまたがると考 え られ る。

1.示 された経路 に したが って 注視 せ よ とい う命令 2.経 路 を覚 える際 の重要度 順 位 が 活性化

3.経 路構成要素や突 き当 たりなど の注視 による特徴抽 出と符号化 6.次 の情報 の入力 を促 す 4. リハ ーサル に よる、 や順番 の統合化

5.記 憶 の 負担軽減

7.必 要 な情報の貯蔵 と干渉の発生

スケッチマ ップ

記憶容量 8∼ 9分 節

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41


3-3.平

面図の記憶状況 と再現歩行

平面図記憶 の結果 と、再現歩行 の結果 は以下 の ような四つの 関係 にまとめ られる。

1.平 面図の記憶があっていて、再現歩行 で も間違 わなか った。

2.平 面図の記憶 を間違 ったため、再現歩行 で も間違 った。 3.平 面図の記憶 は間違 っていたが、再現歩行 では間違 わなかった。 4.平 面図の記憶 はあっていたが、再現歩行 では間違 った。 ここで 1は 問題 ない。 二次元的 な平面 図の記憶 と理解 が、 そのまま建築空間内 の行動 に生かせ ることを表 してお り、空 間が分 か りやす い とい えるで あろう。 2と 3は 経路分節数 10以 上の被験者 に多 くみ られ、 これ らが “ 干渉 されやす い分節 "で ある こ とが分 かる。 また、 これ らは経路 の分 か りやす さに大 きく関わってい ると思われ るので、 この後 さらに考察 を進める。

4は 全体的 に少 な く、

(実 験結果 で も触 れたが 6例 )歩 行 を誤 った原因を理解 で きるもの と、

おそ らくは勘違 い によ り起 こったと思 われる ものが ある。勘違 い によるものは、空間的な対処 の しようがな く、 したが って予測 も付 きに くい。 これ らは、経路 の長 さや記憶 の状況 とは関係 が な い もの と思われる。

ではつ ぎに、実験結 果 で得 られた例 を挙 げなが ら考察 して い く。 スケ ッチマ ップの下の コメ ン トは、その被験者 がその部分 を描 いている ときの説明 で、併 せ て載 せた図面 上の矢 印 はその被験 者 の歩行軌跡、 “A-6"な どは経路 上の分節番号 で ある。詳 しくは第二章 の実験結果 を参照 さ れたい。 なお、例 はスケ ッチ マ ップ 。図面 とも縮尺 な どは統 一 していない。

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1, 2は “経路構成 要素 か らの出方 "の 分節 にお け る歩行 間違 いである。前節 で も触 れたが、

“ 経路構成 要素 か らの出方 "に 関す るスケ ッチ マ ップの 間違 い は非常 に多 い が、 歩行 での 間違 い は少 な くな って い る。 この原 因 につい ては後 で述 べ るが 、 この例 1で はス ケ ッチ マ ップで ははっ

き り描 かれてい ないが、口では「エ レベー ター を出て右 の階段 を上 る」 と言 ってお り、それに し たがった行動 をとってい ることが分 かる。例 2で は平面 図 を見 間違 え て階段 のつ なが りが狂 った 例 である。 この例 では二 階に上 ってきた階段

(A-7)と 三階へ上 る階段 (A-10)を 同 じもの

と取 り間違え、 スケ ッチマ ップの描画順序 が逆 になってい る。 この場合 スケ ッチマ ップの通 りに 通路 があったので歩行 を間違 ったが、正解 の方向 に しか通路がなければどうなったか分 か らない。 どちらにせ よ、 この被験者 は三 階部分 は全 て棄権 した。

夕Jl

A-6

被験者 d 「 ここのエレベーターを出て、まず右 ですね、階段を使つて2階 にいきます。」

2 A-8

被験者 e 「一旦階段を.上 がって、205教 室の前 を下 りる。」

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例 3∼ 6は 、 “ 経路構成要素 までの道"の 分節 における歩行 間違 いで、その傾 向が似 てお り、 一つの特徴的 な間違 い といえ る。特 に例 3,

4は 階段 の向 きを間違 ったために起 こったもので、

記憶間違 いがその まま行動 に反映 された典型的な もの といえる。 例

3 A-13

LI 被験者 b 「左に山がつて四つ部屋が過ぎた ところがゴール。」 被験 者 f 「階段下 りてぐるっと回つてまた階段。」 例

4 B-9

被験者 d' 「llllを 抜けてまた階段を下りる。」

被 験 者 b' 「階段がちよつとあ りまして、 しばらく行 って下 りる階段があります。ゞ、

ゞ ゞ 早稲 田大学渡辺仁史研究 室

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5, 6は 、階段 や ス ロー プの位 置 を誤 つた もので、通路 や廊 下 の途 中 にある経路構成 要素 は

そ の位 置把握 が しっか りで きて い な い と間違 い やす い こ とが分 か る。

例5

A-10

被験者 i 「2H号 室前 で曲が って、 まっす ぐ歩いて階段。」

6 B-4 :::

スoイ ク 被 験 者 i'

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例 7,

8は “突 き当た り後 の選択 "の 分節 における歩行 間違 いで あ るが、例 8に ついては突 き

当たる前 に経路 をずれて しまってい る。 スケ ッチマ ップをみ ると、例 2の ように階段 を取 り間違 えてい るわけ ではな く、 つ ぎの階段 までの通路の距離関係 を間違 えた もの と思われる。 それに対 し、例 7は 完全 に突 き当た りでの 曲が る方向を覚 え間違 ったことが分 かる。 ただ し、 これ も例 2 の ようにそちら側 にも階段があ ったために間違 ったと もい える。

この ように、歩行の間違い方が、スケッチマ ップにしたがった間違 いになっていることからこ れらが経路を記憶する時点で問題が起 こっていること、間違えて覚えた通 りに空間がなっている ために歩行の間違 いに気付かないことが分かる。

7 A-7

│ │

ヽ ヽ′

被験者 a 「突 き当たりを今度 は左へ行 きます。」 店

L=

8 A-9

被験 者 d 「この階段を上った らまず右に曲が りまして、その後右で直進です。」 ザゞ 早稲田大学渡辺仁史研 究室

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例 9∼ 15は スケッチマ ップは間違 っていたが歩行 では間違えなかった例である。例 9∼ 13は “ 経路構成要素 からの出方"そ れ も階段 とエ レベーター とい う上下移動 に関するものからの出方 であり、その傾向 もよく似 ていて、スケッチマ ップでは階段 やエ レベー ターから出る方向が間違 っている。 これは例 2と 同 じ間違いなのだが、 この例 では歩行 で間違 った被験者は一人 もいない。 これは恐 らく階段やエ レベー ターから下 りた後、歩 きだす方向が、正 しい方向以外 が非常に閉鎖 的であった り、完全な行 き止 まりであつた りするためであろ う。つ ま り、 この場所 も例 2の 場所 のようにスケッチマ ップに描 かれた方向 に道があれば歩行 を間違った可能性 もある。

9 A-6

Lヽ

被験者 e 「階段を下 りてきて、H9教 室の所 を山がって階段を下 りる。」

=レ

被験者 m 「下 りて行 つて左に曲がる。 こうい う感 じで行つて。」

ベー7 エレ

R‐ ケ"

被験者 r 「ェレベータ を 下りてヽ こぅぃう形で行きます。」

ず ゞ 早稲田大学渡辺仁史研究室

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例 10

B-7

被 験 者 b' 「階段からずつと まっす ぐ行 つて。」

L風

﹁=H=H==﹁ ″替 被 験 者 f' 「 2階 に着いて下りたら、 階段の向きが分からないなあ.」 例H

被 験 者 j' 「次の階は階段を下 りて、 廊下をず っと来て。」

A― H

被験 者 d' 「階段を下 りて、ずつと そのまま歩いて行 つて。」

被 験者 e 「階段下 りてきたら スロープを一回下つて。」

被験者 f 「階段下りてぐるっと回って。」

48


例 12B-3

被 験 者 c' 「階段 を上がってきたら、 ス ロープを一旦上が って。

I―

被 験 者 g'

例 13

被 験 者 e' 「 この階段をまずこう下ってきて。

B-10

被 験者 e' 「最後はこの階段から こんな感 じで。」

ザゞ 早稲田大学渡辺仁 史研究室

1992年 度修士論文

49


例 14,15は “ 経路構成要素 までの道"で の例 で、前 の例 と同 じように、間違 った方向 に道がな かったので、歩行 では間違えなか った例 である。 ただ し、間違えと行 って も、例 14で は突 き当た りをUタ ーンす る とか、例 15で は階段 を折 り返す と行 った経路 の特徴 を覚え ていたので、例

6,1

7の よ うに多 くの被験者 がその手前 の階段 を使 ったにもかかわ らず、正 しい階段 を選択 して い るこ

とが分 かる。 また、人間科学部 は吹 き抜 けが多 く、 B-7,10(例 10,13∼ 15)な どは吹 き抜 けに よ り自分 が歩 いて きた方向が とらえやす く、全体的な経路 の向 きが分 かるので、歩行 を助 け ている とも考 え られる。 この よ うに、経路が一方通行的なので方向 をあま り注意 して覚 えないのか(経 路 がた またまそ うなっていたので歩行 を間違 えず に済 んだのかは、今 回の実験結果 か らだけでは分 か ら ない。 しか し、例 4, 6も 含 めて階段 の向 きを覚 え ていない例 が多 いのは確 かであ り、建 築内径 路 の分 か りやす さに大 きく関わつてい るといえそ うで あ る。 例

14 B-6

例 15

B-9

被 験 者 e' 「Uタ ーンするんだっけなあ。 こんな感 じで階段を下 ります。」

被 験 者 c' 「壁を入 って、階段をまた下 りる。」

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例16∼ 20は スケッチマ ップは正 しく描けていたが歩行 で間違 った例である。 ここで、興味深 い のは例 16で 、ス ロープからの出方の部分 である。図 に示 したようにスケッチマ ップはスロープを 左 に出るように描 かれているが、日では「スロー プを過ぎてまっす ぐ」 とい うようにどちらに出 るとは言 っていない。 この部分 は、歩行 では間違 わないにせよ、そちらの方向

(ス

ロープを出て

まっす ぐ行 く方向)に 道があるとは思わなかったと言 って いた被験者力V可 人かいた。スロープは 階段 と違い、上下移動の構成要素 にも関わらず 3階 の図面上に全て表 されている点 から (階 段 の ように途中で経路が切れない とい うこと)そ の形が覚 えやすい反面、言語的符号化 がおろそかに なること、その後の直線部分 がかな り長いことに干渉 されていることが予想 される。 これは例 10 の部分 にも共通 しており、「階段 を出てまっす ぐ」や「突 き当たりまで」 とい う言い方で済ます 被験者が多かった。その歩行順序などが例 16と 例 10は 似 ていることから、例 16が 階段 だった場合 ス ケ ッチ マ ップを間違 える被 験者が増 える こと、例 10に 間違 った方向 にまっす ぐ行 け る道があれ ば、何 人 かの被 験者が歩行 を間違う たであろ う こ とが 予想 され る。

例 16

B-5

L   一 ●

J / ロ 被験 者 c' 「スロープを一旦上がって、 突 き当たりを行 つて。」

被 験 者 l' 「ス ロー プを通 り抜 け、 またまっす ぐ歩 いて行 き。

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1992年 度修士論文 51


そのほかの例 は特 に特徴的 な ものはないが、例 17は 手前 の階段 を使 って しまった例 である。 こ こは例 6と 同 じ場所 であるが、 スケ ッチマ ップが描け ていて歩行 を間違 ったのは この被験者 一人 だけであつた。 この被験者 はこの後 の歩行 もしっか りしてお り、「 ゴール に行 ければよい」 と自 分 で勝手 に解釈 して しまった可能性が高 い。例 18は クラ ンク部 を拡大解釈 し、関係 のない ところ で左折 してい る。例 19は スケ ッチマ ップを描 く時点 では「突 き当た り左 の 階段」 と記憶 していた が実際 に行 ったら ドアだつたので「 これは突 き当た りではない」 と解釈 し、 ドアを通 り抜 けて行 ったと思 われる。 この よ うな例 はこれだけ で あ ったが、 スケ ッチマ ップに ドア

(実 際 に通過す る

部分 も含 めて)や 吹 き抜 けを描 い たものは非常 に少 な く、 これ らの平面図 上の記号 が一般 の人 に は何 を示 して い るのか理解 で きて い な いの か も知 れな い。 例 17

例 19

B-9

B-6

被 験 者 b' 「スロープがあつてまつす ぐ行 って、 この辺にこうい うふ うに 色 々回つて階段 に行 きます。」

被 験 者 a' 「 f回 か │力 `り な力`ら 階段 “ に到;立 します。」 │‖

例 18

A-3 ホlν

エバ ーη 被験者 d 「まっす ぐ行 って、通路の ここら辺で曲が つていて。」

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第 四章 。平面図の記憶の予測 シミュレーション


4-1.モ

デ ル の概 要

第 4章 では、第 3章 の考察 によ り得 られた経路記憶 の特性 と、今 回提案 した分節化 による考 え 方 をもとに、平面 図 を見 て経路 を記憶す る際に問題 となる “干渉 されやす い分節 "を その特徴 ご とに分類す る。 そ して、その “干渉 されやす さ"を 数値化す ることによって、ある建築内経路 を 設定 したときの、その記憶状況 を予 測す るシミュレー シ ョンを行 な う。今 回のシ ミュ レー シ ョン では、あ る経路 を覚え る際 に、 どの部分 をどれ くらい 間違 えて覚 えるかを予 測す る もので あるか ら、実際 に歩行 したときにど うなるのかまでは予測 で きない。 ただ し、実験 の結果か らも分 かる よ うに歩行 で誤 った分節 の うち約70%が スケ ッチマ ップを描 く段階 で間違 っていることと、 ス ケ ッチマ ップが 間違 っていて歩行 を誤 らなかった分節 の90%が 同 じタイプの分節 で ある ことか ら、 ス ケ ッチマ ップの再生状況、す なわ ち平面図の記憶状況 が予測 で きれば、その歩行結果 もある程 度予測 が可能 で あるといえる。 ここで、今 回 の実験 で得 られ た平面図を見 て経路 を記憶す る ときの特性 をまとめると次 の よ う になる。

1.経路 を記憶す る際の重要度 は 1.経路構成要素, 2.経路構成要素 までの道 と突 き当た り ,

3。

それ以外 の 目印にな りそうな要素の順 であ った。

2.記 憶容量がおよそ 8∼ 9分節 である ことか ら、経路分節 数が 1∼ 9で は、各分節 の

“ 干渉

されやす さ"と は無関係 によ く記憶 される。 3。

経路分節数が 10以 上 になると、それ らの内の “干渉 されやす い分節 "の 記憶痕跡が弱 くな つてい く。

4.記 憶 の初頭効果 によ り、経路 の最初 の 2分 節 を覚 え間違 うことはまず ない。

5.経路構成 要素の うち、上下移動 に関す るものは、その記憶状況が著 しく悪 い。 6.省 略記憶 は、経路分節 数 とは関係 がな く、 また歩行 で も間違 う例 はほ とん どない。 7.ス

ロー プはスケ ッチマ ップには正確 に描 かれるが歩行 では間違 うなど、構成要素 と して上

下移動 と平面移動 の両面 の性格 を持 つので注意 を要す る。 また、実際 の歩行 の点 で も、階段 ,エ レベー ターや スロー プなどの上下移動 に関す る経路構成 要素 が、経路 の分 か りやす さに関 して大 きく関わってい ることが分 かった。

そ こで、本研 究 の実験 で使用 した経路 か ら、上下移動 に関す る “ 経路構成要素か らの出方 "と “ 経路構成要素 までの道"、 それ と “ 突 き当た り後 の選択 "の 部分 を抜 きだ し、分節 数 10以 上の

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経路の被験者 のスケッチマ ップ再生結果 と歩行結果を用 いて、 “ 干渉されやすさ"の 数値化 を行 な う。 そして、最後 に他の建築内のある経路の記憶状況を算定 し、実際に行なった実験結果 と比べ、 モデルの有効性 について検討す る。

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4-2.モ デルのパ ラメーターについて 今 回のモデル化 で使用す るパ ラメー ター は、 。各分節 の “干渉 されやす さ" 。経路 の分節数 (最 小 の分節 数 は10と す る) の二種類 で ある。それでは、それぞれの求 め方 と、本 モデルでの役割 につい て説明 してい く。

各分節 の “干渉 されやすさ" 本 モ デルの一番 中心 となるものである。今 まで も述べ てきたように、実験結果 か ら上下移動 に 関す る “ 経路構成 要素 か らの出方 "と “ 経路構成 要素 までの道"、 それ と “ 突 き当た り後 の選択 " の三種類 につい てタイ プ分 けを し数値化 をする。 では次 にそれぞれの分節部分 を図示 して説明す る。本研究 の実験 で使用 した経路 では、上下移 動 に関す る “ 経路構成要素か らの出方"が 全部で 6ヶ 所、上下移動 に関す る “ 経路構成要素 まで の道"が 全部 で 7ケ 所 、 “ 突 き当た り後 の選択 "が 全部で 4ヶ 所 あ った。 ただ し、平面図 を見 て 経路 を記憶す る際 の予測 モデルなので、 ここでは “ス ロー プ"は 上下移動 の経路構成要素 ではな い と見 な してい る。

a.上 下移動 に関す る

“ 経路構成要素か らの出方"

これ らは次 の三種類 の分類 される

(図

4-1)

1.出 た方向 と同 じ方向 に行 く場合 (A-8) 2.出 た方向 と違 う方向 に行 く場合 (B-lo)

3.2だ が出る方向が一方通行 に近 い場合 (A-6,H,B-3, 7) b.上 下移動 に関す る

“ 経路構成 要素 までの道"

これ らは次 の二種類 に分類 される

(図

4-2) (A-5,7,B-2, 6) (A-lo,13,B-9)

1。

経路構成要素が突 き当た り付 近 にある場合

2。

経路構成要素が通路途中にある場合

c。

“ 突 き当た り後 の選択"

これ らは次 の二種類 に分類 される

(図

4-3)

1.選 択が等 しい とき (A-7)

2.ど ちらかの方向性が強い とき (A-9,B-8,H)

ずゞ

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1.出 た方向 と同じ方向に行 く場合

2.出

た方向 と違う方向に行 く場合

A-8 3.2だ

B-10

が 出 る方 向 が 一 方 通行 に近 い場合

FttF

冊匡

L厖﹁

A-6

A一 H

B二

B-7

3

図 4-1

上下移動に関する “経路構成要素 か らの出方"

ゞ ゞ 早稲田大学渡辺仁史研究室

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1。

経路構成要素が突 き当た り付近 にある場合

A-7

B-2

B-6

﹁︱ ︱ ︱ ︱

A-5

2。

経路構成要素が通路途中 にある場合

J__

I

_"

¬ A-10

B-9

A-13

図 4-2

上下移動 に 関す る “経路構成要 素 までの道 "

ずヽ 早稲田大学渡辺仁 史研究室

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1.選 択 が等 しい場合

A-7 2.ど ち らか の方 向性 が 強 い場合

B-8

A-9

B一 H

図 4-3

“突 き当 たり後の選択 "

ず ゞ 早稲田大学渡辺仁史研究室

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58


以上 の分類 によ り、実験結 果 か らス ケ ッチ マ ップを描 き間違 えた割合 を表 に ま とめ る と次 の よ っ にな る。 表 4-l

a。

上下移動 に 関す る “経路構成要素 か らの出方 "間 違 い率 2

1

2/5

12

0/5

1

3/6

0 表 4-2

b.“

3

1/5

3

表 4-3

経路構成要素 までの道 "間 違 い率 1

6/12 5/10 1/7 4/12

c.“

2

2

10

2/6

13

1/10 3/9 1/10 3/5 0/11 2/3 0/′ 12 2/6

3

12

突 き当 た り後の選択 "間 違 い率

2

1/6 0

1/4 0/10 0/5 0/6

しか しこれではデー ターの数 が少 な く、実験 か らは求め られなか った部分 もあ るので、 ここで は経路分節数 による影 響 は無視 し、平均 を求めてその値 をその部分 の “ 干渉 されやす さ"の 点数 として利用す る。 表 4-3

a-2

a-1 0.1

a-3

0.45

0.4

各分節 の間違 い率 b‐

-1 0.05

b-2 0。

c-2

C 1

45

0.25

0.05

ここで 、

a-1

出 た方 向 と同 じ方向 に行 く場合

a-2

出 た方 向 と違 う方向 に行 く場合

a-3 2だ

が出 る方 向が一 方通行 に近 い場合

b-1

突 き当 た り付 近 にある場合

b-2

通路途 中 にある場合

c-1

選択 が等 しい場合

c-2

どち らかの方 向性 が強 い 場合

経路 の分節 数 に関す る影 響 は次 の「経路 の分節 数」 の項 で考慮 す る ことにす る。

ゞ ゞ 早稲田大学渡辺仁史研究室

1992年 度修士論文

59


経路の分節数 本研 究 の結果 よ り、記憶容量 を 8∼ 9分節 として考 えるな らば、各分節 の “ 干渉 されやす さ" が い かに高 くとも、記憶容量の範囲 で あればその記憶 はほぼ正 しい ものになることが分 か った。 しか し、その記憶容量 は分節 数 が 10以 上 になった ときにも同 じであ り、分節数 10の 経路 の ときに は干渉 されなかった分節 が、分節数 13の 経路 の ときには干渉 される とい うことが起 こる。 シミュ レー シ ョン時 にはその ことを考慮 しなければな らない。本来 であれば、様 々 な分節数の経路 で様 々 な分節 を使 って実験 し、そ こにある法則 を導 きだすべ きなのだが、本研究 ではそのサ ンプル数 が少 ないので、各分節 の “ 干渉 されやす さ"の 平均 を求め、それに “ 経路 の分節 数 による効 果" をかけることに した。 先 に求 めた “干渉 されやす さ"の 点数 は分節 数 10∼ 13の 経路 の平均 を取 ったため、その値 は分 節 数 H.5の 経路 の もの に等 しくなる。 そ こで、経路分節数 を11.5で わった値 を “ 経路分節 数効果" と して表す。

ずゞ 早稲田大学渡辺仁 史研究室

1992年 度修士論文

ω


4-3.記

憶状況算定手順

ここでは、あ る建築 があった ときその 中の経路 の “ 覚 えに くさ"を 算定す る具体 的な方法 と手 順 を述 べ る。

1.平 面図上に経路 を設定 す る 2.経 路 を分節 に区切 る 分節化 の方法 。経路構成 要素 か らの出 方 :経 路構成要素 (経 路 上 にあるホール ,階 段 ,エ レベー ター な ど)か ら出る時の選択部分 ・突 き当た り後 の選択 :直 進後突 き当たった後 の選択部分 ・経路構成 要素 までの道 :次 の経路構成要素が視認出来 ない時 の リンク部分 以上 のルール に したが って経路 を分節化す る

3.算 定 に必要 な分節 を抜 きだす 分 けられた分節 の内上下移動 に関す る “ 経路構成要素 か らの出方"と “ 経路構成要素 まで の道 ", “ 突 き当た り後 の選択"の 部分 を抜 きだす。 ここで、上下移動 に関す る経路構成要素 とは階 と階の移動 に使 うものである。

4.抜 きだ した分節 をそれぞれの特徴によって分類す る。 a。

上下移動 に関する “ 経路構成要素か らの出方"

-1 出 た方向 と同 じ方向 に行 く場合 -2 出た方向 と違 う方向 に行 く場合 -3 2だ が出る方向が一方通行 に近い場合 b.上 下移動 に関する “経路構成要素 までの道"

-1 -2

突 き当た り付近 にある場合 通路途 中にある場合

c.“ 突 き当た り後 の選択 "

-1

選択が等 しい場合

ずゞ 早稲田大学渡辺仁 史研究室

1992年 度修士論文

61


-2

どち らかの方向性が強 い場合

5.分 けられた分節の各 々に 、次の点数表に従 って点数 を付 ける

a-2

a-1

a-3

0.45

0.1

b-1

0.4

0.05

b-2 0。

c-2

C 1

45

0。

25

0.05

6.経 路 の点 数 の合 計 を求 め る 初頭効 果 を考慮 にい れ る ため 、始 めの 2分 節 を除 い た ものの点 数 の合計 を求 め る。 α=0.1× z+0.45× y+0.4× x+0.05× w+0.4× v+50.25× u+0.05×

t

フ.経 路の長 さに よる効果 を求 め る 経路 の 長 さに よる負担 を加 味す るため に “ 経路 の分節 数 による効 果 "を 求 め る。 β=(経 路 の分節 数)÷

H.5

8. 6,7で 求 め られた値 を掛 け合 わせ る 6, 7で 求 め られた値 を掛 け合 わせ た ものが 、 その経路 の案内図 を覚 える難 しさを表す。 結 果 はそ の経 路 覚 えるときに間違 って覚 え る と思 われる分節 の数 で表 される。

)=

(経 路 の 覚 え に くさ

α

×

β

ず ゞ 早稲田大学渡辺仁史研究室

1992年 度修士論文

62


4-4。

有効性 の検 定

作成 したモデルの有効 性 を調 べ るため にル ー テル神学大学 を使 って経路 の覚 え に くさを算 定 し た。使 用 した課題経路 の分節 数 は15と

Hで 、検 定 のための実験 は、 ス ケ ッチ マ ップ再生 だ けで、

再現歩行 実験 は行 ってい な い。 課題経路 を構成 す る分節 の 内訳 は以下の通 りで ある。 分節 数 15の 経路

分 節数 Hの 経路

a-1 0ケ

a-l oヶ

a-2 3ヶ

a-2 1ヶ

a-3 2ヶ

a-3 2ヶ

b-1 4ヶ

b-1 lヶ

b-2 0ヶ

b-2 1ヶ

c-1 0ケ

c-1 lヶ

c-2 1ヶ

G-2 1ヶ

算定手順 に したが って経路 の難 しさを求 め る。 経路 の 点数 の合計 α15=0。 1× 0+0.45× 3+0。 4× 2+0.05× 4+0。 45× 0+0.25× 0+0.05×

1=2.4

αll=0.1× 0+0.45× 1+0。4× 2+0.05× 1+0.45× 1+0.25× 1+0.05×

1=2.05

経路分節 数効 果

β15=15÷ 11.5=1.30 β ll=11÷ 11.5=0.96 経路 の覚え に くさ 分演 15=2.4× 1.30=3.12 "数 分濱 11=2.05× 0.96=1.97 "数 つ ま りこの結果 は、分節数 15で は一 人平均 3.12分節 を間違 え、分節 数 Hで は一 人平均 1.97分 節 を 間違 える とい うことを示 してい る。分節 数 Hの 方 は平均 9。 03分 節 を記憶 してい ることにな り記憶容 量 の数値 にあ うが、 この結果 だ けでは分節 数 15の 方 は平均 H.88分 節 を記憶 してい ることにな り、

3∼ 4分節分多 い結果 となった。 では、実測値 と比較 してみ ることによってモデルの検 定 を行 な う。

ずゞ 早稲田大学渡辺仁史研究室

1992年 度修士論文

63


次 に示す結果 は、各種類 の分節 を間違 って覚え た総 数 である。 なお、分節 数 15の 経路 の被験者 数 は 6名 、分節数 Hの 経路 の被 験者数 は 4名 である。 分節 数 15の 経路

分節数 Hの 経路

a-1な

a-1な

a-2 10ヶ 所

a-2 1ヶ

a-3 6ヶ

a-3 3ヶ

b-1 2ヶ

b-1 1ケ

b-2な

b-2 1ヶ

c-1な

c-1 1ケ

c-2 1ヶ

c-2 1ヶ

予測式 によって各分節 ごとの値 を算出す る。 算出方法 例 .分 節数 15

a-2

045(点 数)× 3(ケ 所数 )× 3(β )× 6(被 験者数)=10。 62 1。

この よ うに して求めた予測値 と実測値 を比較 したものが表 4-4, 表 4-4

a-1

予測値 と実測値の比較

a-3

a-2 10.62

実測値

10 表 4-5

a-1 予測値 実測値

6.12

(分 節数 15)

b-2

C 1

c-2 0.48

1.68

aC

予測値

b-1

5で ある。

2

1

予測値 と実測値の比較 (分 節数 11)

a-2 1.72

a-3

b-1

b-2

2.96

0.2

3

1

C 1

1.64

c-2

0.96

0.24

このモ デルはまだまだ未完成 であ り、断定的な ことはいえないが、 この結果 を見 るか ぎりでは かな り正確 に予測が なされてい ることカザト かる。 この ことか らこのモ デルが、少 な くとも基本 的 な考 え方 としては間違 っていなかった とい うことはい えるのではない だろ うか。

ず ゞ 早稲田大学渡辺仁史研究室

1992年 度修士論文

64


第 五 章 .結 論


5-lDま

とめ

本研究 では、平面図 を見 て経路 を覚 える過程 を、心理学的な記憶 のモデル を用 い ることによっ て明 らか に してきた。 このようなは じめて訪 れる建築 につい ての認知 に関す る研 究 はあま り行 わ れていないが 、その結 果経路探索 にお いて覚えやす い建築のための建築的な対応 を考 える場合、 注意す るとよい と思われ る点 は以下 の通 りである。 1。

は じめて訪 れる建 築 において は、平面図による経路 の記憶 が ほぼその後 の行動 を決定す る。

2。

平面図 を間違 って記憶 した場合、実際の空間がそ うなってい ると歩行 で も間違える。

3.平 面図 の記憶 で、問題 となるのは階段 などの

“ 上下移動 に関す る経路構成要素"の “ 向 き"

で ある。

4.三 分程度 の時間 で記憶 で きる量 は、本研 究 に従 えば “8∼ 9分節 "で ある。 具体的 にい えば、階段 か ら出る方 向 を限定 した り、階段 を突 き当 た りに配置す ることによ り、 向 きを覚 える負担 をへ らす ことがで きる。 また、利用が多 い方向、人 が選択 しやす い方向 に階段 を向ける ことによって、行 き方 な どを間違え ることが少 な くな る もの と思われる。 ただ し、建築 を分 か りやす くす るためには、 これ らを単独 で利用 す ればよいのではな く、経路 選択 の特性や、その経路 の利用度、部屋や施設 の配置 な ども考慮 した うえで利用 しなければな ら ない。そ うす ることによって分 か りやす いだけではな く、便利 な建 築計画を考 える ことがで きる と思われる。

ずゞ 早稲田大学渡辺仁 史研 究室

1992年 度修士論文

65


5-2.今

後 の展望

本研究 の問題点 実験方法 に関 して 。図面 の呈示時間が 3分 間 とい うのは短期記憶 の実験 としては長す ぎるのではないか とい う点。 ・図面 に経路 をか き込 んでいるので、部分 で覚 えるとい うよ り、経路 の形 を覚 え ている恐 れが ある。

分析方法 に関 して 。普通 の単語や数字 と違 って、建築 の要素 は覚 えやす い、 に くい があるか ら、単純 には比 で 較 きないの ではないか とい う問題

モ デル に関 して 。課題経路全体 での “干渉 されやす さ"を 考慮 にいれていない点 。「全 く覚 えてい ない」 とい う部分 を うまく予測 で きない点 ・各分節 の点数付 け は、 もととな ったデー タに片 よ りがあつたため、 もう少 しデー ター を集 め て計算す る必要 がある。

今後の課題 と展望 実験 の性格 上被験者集 めなど大変 な点 もい くつ かあるが、問題点 の解決 も含めて もう少 し実験 を重ね、モデルの信憑性 を高 める必 要 がある。その うえで、今 まで研 究室 で行 われてきた経路選 択や、移動空間の利用度、施設配置 な どの研究結果 とあわせることによって、実際 の建築計画 に 利用 で きるような “ 分 か りやす い建 築 "の ための指標 が出来上がる と考 え られる。 また、今回 は平面図 による学習 を取 り上 げたが 、 ほかの方法 による記憶学習 による経路探索 の 実験 を行 うことによ り、現在 一般的 で ある案内図 よ り、 よ り有効 な建築経路 の学習法 を検討 して い くことも必要 で あろ う。

ず ゞ 早稲田大学渡辺仁史研究室

1992年 度修士論文

66


あとがき この論文 は本 当 に沢 山の方 のご協力 によ り出来上が りま した。 常 に的確 なア ドバ イスでご指導 くださった渡辺仁史先生、す るどい突 っ込みが ち ょっと怖 かっ た渡辺俊 さん、卒論 か ら面倒 を見 て くださ りいつ も相談 にの っていただいた林 田 さん、本 当に有 難 うご ざい ま した。 そ して、突然 の あつ か ましいお願 い を快 く引 き受 て、 アイマー ク レコー ダー を貸 して くださ り、 その操作 の説明 や、実験 のための部屋 の手配 まで して くだ さった人間科学部 の野呂影勇先生 と研 究室 の方 々、本 当 に感謝 してお ります。 この場 を借 りておネLを 申 し上げます。 そのほか、 この原稿 フォーマ ッ トを作 って くれた佐野君 をは じめ と して実験 な ど手伝 って くれ た研究室 のみんな、卒論 で実験 を頑張 って くれた岸野・ 白石 の両君、被験者 の皆 さんな ど名前 を 挙 げ られ ませんが、おネLを 言 い たい と思 い ます。

長 か った学生生活 の集大成 とい うには物足 りない部分 もあ りますが、仁史研 で過 ご した三年 間 で、今 まで知 らなかった “ 人間 とい うものに対 す る考 え方"が 分 かったよ うな気 が します 。 僕 の研 究 はこれで終 わ りますが、後 は新 Mlの 岸野君 に任 せることに します。

ずゞ 早稲田大学渡辺仁史研究室

1992年 度修士論文


参考文献

〈書籍 〉

1)高橋研 究室

編 :「 形 の デ ー タファイル ーデザ イ ンにおけ る発想 の道具箱 ―」

彰 国社 1985

2)渡辺仁史

他 :新 建築学体系 ―H

彰国社 1982

「環境 心理」

3)渕 一博 :「 認知科学への招待 一第五世代 コンピュー タの周辺 ―」

NHKブ ックス

446

4)G.コ ーエ ン,MoW.ア イゼ ンク,MoE。 ルボ ワ :認 知心理学講座 -1

「記憶」

海文堂 1989

5)小 谷津孝明

編 :認 知心理学講座

第 2巻

6)小 谷津孝明

編 :現代基 礎 心理学

第 4巻

7)水 島恵一,上 杉喬

編 :イ メー ジ心理 学

1

「記憶 と知識」 臨己憶」

東京大学出版 1991

東京大学出版 1982

「 イメー ジの基礎心理学」

8)P.H.リ ンゼイ,DoA.ノ ーマ ン :情 報処 理心理学入門

2

誠信書房

「注意 と記憶」

サイエ ンス社 1989

く論文 〉

1)清 水 里司 :「建築の分か りやすさに関する研究」

渡辺仁史研究室修士論文

2)萩 原成夫 :「都市構造の認知 プロセス に関す る研究」

渡辺仁史研究室修士論文

3)宮 本文人,谷 口汎邦 :「 児童の空間認知 と小学校校舎 の平面構成 に関す る研究」 「論文報告集』No。 436

4)舟 橋国男 :「 建物内通路 における経路探索行動ならびに空間把握 に関す る実験的研究」 「論文報告集』No.429

5)舟 橋国男 :「初期環境情報 の差異 と経路探索行動の特側

「論丈報告集』No。 424,430

6)舟橋国男 :「 「方向感」 の保持ならびに代替経路探索に関する実験的研究」 「論文報告集』No。 424

7)高 橋鷹志

他 :「 空間認知 におけるスキーマの役割」「'83大 会梗概集』

8)渡 邊昭彦 :「 手続 き知識、探索行動、イメージマ ップからみた空間探索」 「 '89大 会梗概集』

9)志水英樹

他 :「 自動車か らの街並の認知構造 について」「 190大 会梗概集』



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