仮想空間における空間知覚特性の研究

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仮想空間における空間知覚特性の研究

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はじめに

00 A Study of Space Perception in Virtual Space

仮想空間における空間知覚特性の研究

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00

仮想空間における空間知覚特性の研究

はじめに  我々は、遠近法等の過去に構築されてきた空間二次元表現を用いて 三次元空間を安易に表現し、それが見えたままの空間であり、他者に 共通の空間知覚を与えるものであると考えている。それらのことに疑 問を感じ、人間の空間知覚と表現に関し、過去幾度か研究がなされて きたが、パーソナルコンピュータが普及した現在、それに伴う仮想空 間においても適用されるかのようにされてきた。現実空間と仮想空間 との合致点と相違点とを早急に研究・転換する必要がある。  また、建築という分野に関し計画・設計・施工・使用の際、建築躯 体として最も変化させるのに難しく、空間性を知覚するのに重要な一 要因であるのが、与条件(開口、肌理、副次物、光等)を除いた空間 ボリュームであり、それを研究することが今後の仮想空間における空 間知覚の研究の序章たる研究であると思われる。さらにその空間知覚 は身体の行動と視覚の心理補正によるところが大きいため、本研究は 主体が動くことによる空間知覚特性を対象とする。

00

は じ め に

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目次

はじめに                           00

2

研 研究目的          1-1 研究目的

5   0 1          1-2 研究概要                       6

研 研究背景          2-1 背景                         8           2-2 空間知覚理論                     9           2-3 環境                        10

02          2-4  空間構成要素背景

11

2-5 空間ボリューム                   12           2-6 奥行き知覚                     13           2-7 仮想空間                      14                                研 研究方法          3-1 研究方法                      18           3-2 空間設定                      19

0 3

3-3 空間表現方法                    21           3-4 結果分析方法                    24  ・分 析                               研 果・ 研究結果

4-1 空間連結パターン比較による分析           27

0 4

4-2 空間表現方法比較による分析             32                                考 考察

考察                             05 37                                ま まとめ          今 後 の 展 望

41

0        おわりに   6

42

参考文献

43

付 付録 付録          付

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目 次

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研究目的

01 A Study of Space Perception in Virtual Space

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01

仮想空間における空間知覚特性の研究

1-1.研究目的  コンピュータ上での三次元表現が連結空間の移動における空間知覚 に与える影響を明らかにし、 コンピュータ上での空間性に応じた計画・ 設計の操作指標をつくることを目的とする。

01. 研 究 目 的

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01

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1-2.研究目的概要 研究目的  コンピュータ上での三次元表現が連結空間の移動における空間知覚 に与える影響を明らかにし、 コンピュータ上での空間性に応じた計画・ 設計の操作指標をつくることを目的とする。

研究の流れ 既往研究・論述のまとめ

空間連結パターンの構築

空間表現方法の設定 ⑴ QTVR ⑵ WalkthroughMovie ⑶ WalkthroughMovie[視界限度]

実験調査; 空間表現方法別の 各空間連結パターン 評価アンケート ②

① 空間連結パターン別比較

空間表現方法別比較

空間連結パターン別での

空間表現要素による

空間知覚の変化特性

空間知覚の有効性

現実空間での空間知覚構造の考察

各空間連結パターンの比較と、各空間表現方法の比較とで得られた 空間知覚特性に対し、影響を与えた因子を明らかにし、現実空間での 空間知覚構造を検証する。

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01.

結果 ・考 察 果・

研 究 目 的

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研究背景

02 A Study of Space Perception in Virtual Space

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2-1.背景  コンピュータの普及と急速な発展に伴い、CAD による建築の計画・ 設計が普及されてきた。しかし、ディスプレイ上では三次元空間を二 次元での遠近法的な投影にならざるを得ない。我々はそのディスプレ イを通した二次元表現が他者と共通の空間知覚を与え、そのまま実際 の空間に転用できるものであると考えている。コンピュータでの空間 性を我々がどう知覚しているのか、どう表象すれば空間性を有効に記 述できるか、どういう変換を用いることによって実際の現実空間に転 用できるのかといった問題を解決する必要性がある。空間知覚、環境 心理学、空間表現、空間構成表記、仮想空間での既存研究、背景をふ まえた上での研究が必要である。

02. 研 究 背 景

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2-2.空間知覚理論

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空間とはデカルト的三次元によって成り立っている。つまり一般に は、人は視点を中心とした三次元で知覚していると認識されているだ ろう。しかしわれわれが知覚する空間とは、眼球を通して網膜に映っ た情報を処理して知覚していることから、デカルト的三次元で空間を 知覚してないことは明らかである。

※ 02-1;J.J.Gibson 『生態学的 視覚論-人の知覚世界を探る-』 サイエンス社 ,1985

J.J.ギブソン※02-1が唱える空間知覚の理論は、平面的な形態をまず知 覚し、奥行きの手がかりを解釈するという二段階評価の代わりに、面 の配置の知覚に関する一段階仮定の直接知覚説である。奥行き知覚・ 平面的形態知覚は存在せず、連続的な背景面の知覚なしに空間知覚と 呼べるものは何もないのである。つまりは知覚にとって重要なのは形 態それ自体ではなく、形態の変化の次元なのである。

※ 02-2;ドゥールーズの理論; ドゥールーズは n から 1 を引 くことを提示した。この 1 は 任意の 1 ではなく n を支配す る 1 であり、この 1 を引くこ とで n は自由に多様な変位の 運動を引き起こす。

ドゥールーズの理論※ 02-2 を用いて次元として記すならば、人の空間 を知覚する空間は、三次元的空間(3)を面で見た上(-1)で見えの身 体的動きによる変化(+1)が加わった、3-1+1 次元である。  それ以前の空間知覚理論は、平面的な視野にもう一つの次元(奥行 き)が加わるという 2+1 次元である。

02. 研 究 背 景

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2-3.環境

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環境からのアプローチで空間知覚を研究している事例は多い。現在 人を悩ませているのは、空間がどのように存在するのかから、空間を どのように知覚しているのかということに移行したということであろ う。中心となるのは、環境をどのように人が捉えているかということ である。つまりは、周りの世界を体験する時に私達の内部で知覚的に 生起する事柄を理論記述することである。

場所の理論 ※ 02-3;D.Canter,訳;宮田紀 元・内田茂『場所の心理学』彰 国社 ,1982

デイヴィット・カンター※ 02-3 が言うには、環境の場所性について主 要な展開となるのは、異なる場所の比較、一定の場所との関わり方に よる人間の差異、評価される場所の性格の解明である。  このことをふまえ、本研究においては、場所性(本研究では空間性 と言えるだろう)を理論記述・分析するために、異なる空間連結での 比較、一定の空間連結での空間表現の差異比較を行い分析・解明する。

02. 研 究 背 景

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2-4.空間構成要素背景

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シークエンス記述法  シークエンス研究は、リンチ、シール※ 02-4、ハルプリンらによって 都市、高速道路、環境デザインの分野で研究され、現在では、空間知 覚構成要素の記述・解析の分野で主に研究されている。それらの研究

※02-4;P.Thiel 『連続経験に基 づく環境デザイン』建築文化 No.206,1963

の過程で、人の空間知覚のための空間構成要素、連続的な知覚環境に ついて抽出されてきた。それらの研究で抽出された空間知覚要素とい うものは、本研究の空間構成要素、空間移動、空間表現の点で重大な 研究方法設定の重大な決定要素となった。

図 02-1 PhilipThiel の表記法

02. 研 究 背 景

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2-5.空間ボリューム

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空間ボリュームについて  空間を構成する要素として空間のボリュームがある。空間構成要素 である以上空間知覚に影響を与え、また、現実空間として建築部材で あるため変化させるのは困難であることから、設計段階でまず人の空 間知覚の一要因として考慮される必要性がある。  初見ら※ 02-5 は床面積を小さくした場合の容積の減少分を、天井高を 高くすることにより補うことの可能性を目的として、容積の知覚と空

※ 02-5;初見学・込山敦司・橋 本都子・高橋鷹志『室空間容積 と印象評価に関する実験的研 究-容積を指標とした空間計画 のための基礎研究(その 1)』日 本建築学会計画系論文集 第 496 号 ,119-124,1997

間の印象を対象に研究を行った。

図 02-2 容積の知覚と「ゆったりした感じ」の傾向

02. 研 究 背 景

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2-6.奥行き知覚

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奥行きによる空間知覚について  空間を知覚する際、主体と周囲との距離が非常に重要な判断基準に なっていると思われる。奥行きを評価対象とする空間知覚研究として 渡辺研での家崎、平岡※ 02-6 の研究がある。主体からの距離に対し対数 的に濃淡のグラデーションをつけることにより、移動経路に沿った濃 淡の変化を分析し、空間特性を分析した。

※02-6;家崎雄司・平岡健太朗 『3D-model ; aided analysis of spatial characteristics in architecture 』早稲田大学理 工学部建築学科渡辺仁史研究 室卒業論文 ,1995

図02-3 濃淡のヒストグラム解析によるイメージ図

02. 研 究 背 景

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2-7.仮想空間

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02

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本研究における仮想空間の定義  人間は現実空間を自分の理解し得る空間とするために、自ら空間を 経験に基づき構築する。それを自分や他者に表象する空間とは、広義 において仮想空間である。しかし、本研究において仮想空間とは、コ ンピュータ内で創造される空間であり、本来は現実空間と異なり物理 的影響によるヒエラルキーの存在しない空間であり、身体尺度に落と す必要のない空間である。

仮想空間での研究の論点として  仮想空間での研究の論点として、仮想空間での空間知覚の構造を分 析し、現実空間での空間知覚の一要因を探ることと、仮想空間での表 現と知覚構造を検証することにより現実空間ではあり得なかった空間 を仮想空間で表象できるか、それはどのような空間で、利用目的とし ては何があるのかということがあげられる。

仮想空間とは  本来仮想空間とは、現実空間での制約、重力とか、風雨など自然環 境の障害物が排除された、つまりは物理的ヒエラルキーの排除された 新しい空間であり、自在に想像する可能性を持った空間である。つま り、デカルト的座標系で仮想空間が存在する必要がないのである。し かし現実の空間に存在するわれわれは三次元をこえる多次元空間を想 ※ 02-7;M.Benedikt,訳;鈴木 圭介・山田和子『サイバース ペース』NTT出版 ,1994

起することは不可能に近い。マイケル・ベネディクト※02-7 が言うには、 「三次元をこえる次元を持った世界を人間は認知できない。従って、多 次元の情報を、三次元空間の中へしまうための、何かしら操作を加え なければならない。 」ということである。つまりは、現実の空間での経

であり、仮想空間の可能性を限定する鎖である。

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02.

験を仮想空間に持ち込むことが、仮想空間を把握するための第一条件

研 究 背 景

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02 仮想空間での空間知覚分析

仮想空間において空間構成条件を制約することにより、その仮想空 間に与えた空間構成物に対する人の空間知覚特性を分析することが可 能となる。

※ 02-8;山本陽一; 『運動 -視覚 系の空間認知の特性(絵画及 び ImageRendering技術を中 心とした検証) 』早稲田大学理 工学部建築学科渡辺仁史研究 室 卒業論文 ,1997

既存研究としては渡辺研での山本※ 02-8 の卒業論文がある。仮想空間 の移動特性による空間認知を研究している。

図 02-4 山本の卒業論文一部抜粋

02. 研 究 背 景

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02 仮想空間での新たな空間性  物理的ヒエラルキーを排除された空間で、現実空間での経験を完全 に排除せずに空間知覚特性をいかした新たな空間創造の可能性がある。 その空間創造の序論として、仮想空間での空間知覚特性の研究の必要 性がある。浜田邦裕※ 02-9 によって構築された仮想空間における建築空 間を参考として記載する。 ※ 02-9浜田邦裕 , 建築家、評 論家。代表作に「仮面の家」 「oprand」「電子の家」。著 書に『アんビルドの理論』 INAX,1995。

図 02-5 operand 外観パース図

02. 研 究 背 景

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研究方法

03 A Study of Space Perception in Virtual Space

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03

3-1.研究方法  空間ボリュームのみの知覚の変位を明確にするため、与条件(開口、 肌理、副次物、光等)を除いた、壁・床・天井のみで構成される2つ の連結した空間を3次元モデルで構築し、その空間内を移動すること により空間のボリュームを知覚させる。空間の構成要素を限定し、加 える事象似ついての空間知覚を明確に調査・分析するためである。

実験調査方法  空間のボリュームの変位知覚を評価するために、マグニチュード推 定法を用いる。マグニチュード推定法とはある刺激Siを標準刺激とし、 同じ感覚属性の別の刺激 Sj を提示して、その感覚の強さを数値で評価 させる方法である。  本研究では、基準空間の高さ・広さをそれぞれ 100 とし、比較する 空間の高さ・広さを 100 に対する比率的数値で評価する。  行動経路は、基準空間のボリュームを把握するため、基準空間の中 心で比較空間に対し 180°向いた地点から 180°回転し、比較空間の 中心まで移動する。 比較空間

基準空間

移動

03.

180°回転

研 究 方 法 図 03-1 移動経路モデル 仮想空間における空間知覚特性の研究

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3-2.空間設定

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本研究は空間ボリュームのみの知覚を研究対象としているため、知 覚に影響を及ぼす空間構成与条件(開口、肌理、副次物、光等)を除 いた、壁・床・天井のみで構成される2つの連結した空間を3次元モ デルで構築し、その空間内を移動することにより空間のボリュームの 変位を分析する。

二つの空間の連結パターン

2つの空間の連結において変化する空間構成軸は、高さ・広さ※ 03-1 であり、基準空間に対して次空間の高さが高くなる/変わらない/低 くなると、広さが広くなる/変わらない/狭くなるとの、3 × 3 = 9 通 りの組み合わせがある。

空間連結表記設定  次空間の基準空間に対する高さ(広さ)の変化を、高く(広く)な ※ 03-1;本研究において広さ とは、水平二次元的なもの とする。

る時は u p p、変わらない時は n o o, 低く(狭く)なる時は dw で表し、空 (dw/no/up,dw/no/up) 間連結パターンを(高さ , 広さ)=(dw/no/up,dw/no/up) (dw/no/up,dw/no/up)で表す。

高さ

基準空間

広さ

次空間(比較空間)

基準空間

dw

no

no

up

up

03.

dw

図 03-2 空間連結パターン

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次空間(比較空間)

研 究 方 法

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03 空間構成設定  視点の高さを1,500mmとし、基準空間の高さ・広さと次空間の高さ・ 広さとをそれぞれ表 03-1 の数値で設定する。

表 03-1 基準空間と次空間の空間構成設定表

基準空間 次空間

dw no up

高さ 3,000mm 2,400mm 3,000mm 3,750mm

広さ 8,000×8,000mm 2 6,000×6,000mm 2 8,000×8,000mm 2 10,000×10,000mm 2

03. 研 究 方 法

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03

3-3.空間表現方法 空間の表現方法について  仮想空間を表現する方法として、遠近法等を用いた絵、時間軸を与 えシークエンシャルに空間を表現できる動画、マウスなどのツールを 用いて自由に空間内を移動できるQTVR とある。本研究では二つの連 結した空間を表現するのに三つの表現方法QTVR、 WalktroughMovie (以後図・表中において W-T と略す)、WalkthroughMovie[視界限度] (以後図・表中において W-T[fog]と略す)を用いて評価を行った。  また、色の影響を受けないよう全てグレースケール、天井・壁・床 を区別できる程度の彩度の違いのもと実験を行った。

QTVR 表現設定について  QTVR(=QuickTimeVR)とは、Apple Computer 社の Image based Rendering 再生技術である。QTVR には、パノラマ VR(=PanoramaVR)とオブジェクト VR(=objectVR)とあるが、本研究ではパノラマ VR が基本となる、三次元空間を自由に探索できる GRAPHISOFT6.0 の3Dナビゲーションシステムを用いた。マウスをツールとして仮想空 間の三次元空間内を被験者の行動量に応じて移動・回転する。

前方移動

右回転

左回転

03.

後方移動 ※画像中枠線から離れる程行動量大

図 03-3 GRAPHSOFT6.0 3Dナビゲーションシステムインターフェースと使用方法

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研 究 方 法

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03 WalkthroughMovie 表 現 設 定 に つ い て  歩行動画。一定時間軸に沿って画像が流れるため行動の自由はなく、 強制的に空間内を移動する表現。仮想空間の三次元空間での行動を動 画として被験者にみせ、行動量を強制的に合わせさせる。移動速度 1.3m/s。

図 03-4 WalkthroughMovie

03. 研 究 方 法

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03 WalkthroughMovie[ 視界限度 WalkthroughMovie[視 度]] 表 現 設 定 に つ い て  WalkthroughMovieに視界からの距離によりグレースケールの霧を かけ濃淡を付けて、視界に限度を与えたもの。視線方向の対象(焦点) については目で認識し、それ以外の部分は視界には入っているが、主 に体感しているという仮定を検証するためにグレースケールの霧で視 界限度を与え、人の空間知覚に視覚的に疑似した環境を与える。

図 03-5 WalkthroughMovie[視界限度]

03. 研 究 方 法

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03

3-4.結果分析方法  実験調査は建築を学ぶ 30 人の学生に被験者となってもらい行った。 実験調査のは、プロジェクターを用いて、スクリーン投影で行った。そ こで得られた回答数値をもとに、空間連結パターン比較、空間表現方 法比較で空間知覚特性の分析を行う。

①空間連結パターン比較  空間連結パターンごとの回答数値を比較することにより、実際の高 さ・広さの変位と、知覚した空間の高さ・広さの変位との差を調べる。

実際の空間連結ボリューム

知覚する空間連結ボリューム 比較

知覚する空間連結ボリューム

図 03-6 空間連結パターン比較分析参考イメージ

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03.

実際の空間連結ボリューム

研 究 方 法

24


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03

②空間表現方法比較  空間表現方法ごとの回答数値を比較することにより、空間性を最も 表現するのに適した表現方法を選定し、その時の空間性と、表現方法 の特徴により空間知覚構造を考察する。

実際数値のモデル

比較

空間表現方法 A での知覚モデル

空間表現方法Bでの知覚モデル

図 03-7 空間表現方法比較分析参考イメージ

03. 研 究 方 法

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研究結果・分析

04 A Study of Space Perception in Virtual Space

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4-1.空間連結パターン比較による分析

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04

空間の連結パターンの変化によって空間ボリュームが実際とどのよ うに異なって知覚されているかを分析する。  分析方法として、各空間表現方法の連結パターンごとの回答数値の 平均値を実際値で割り、回答平均値と実際値との関係を見た。各軸 1 に近い程実際値に近く回答されているということだが、個々の空間連 結パターンごとで言えることは回答数値の実際値に対する傾向であり、 被験者ごとの回答数値量が空間知覚量と等しくない以上、空間知覚の 傾向ではない。  そこで各空間連結パターンごとの回答平均数値を比較することに よって、回答傾向を考慮し、各空間連結パターン比較の空間知覚傾向 を分析する。

表 04-1 QTVR での各空間連結パターンにおける広さ・高さの回答数値の実際値に対する割合表 QTVR 広さ 高さ

dw;dw dw;no dw;up no;dw no;no no;up up;dw up;no up;up 1.41393 1.05833 0.83712 1.3357 1.00167 0.80192 1.24504 0.97833 0.71232 1.0875 1.075 1.05208 1.00667 1.005 0.97167 0.97067 0.91867 0.87867

1.2

1.1

1

0.9

0.6

0.8

1

1.2

1.4

広さでの回答数値の実際数値に対する割合

dw

dw

凡例 高さ変化   no   広さ変化   no           up          up 図04-1 QTVRでの各連結パターンにおける広さ・高さの回答数値の実際値に対する割合グラフ 仮想空間における空間知覚特性の研究

1.6

04.

0.8

研 究 結 果 ・ 分 析 27


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04

表04-2 W-Tでの各空間連結パターンにおける広さ・高さの回答数値の実際値に対する割合表 W-T

dw;dw

広さ 高さ

dw;no

dw;up

no;dw

1.4957 1.14533 0.82261 1.43644 1.11875 1.09792 1.06667 1.015

no;no

no;up

up;dw

up;no

up;up

1.002 0.77739 1.30904 0.91833 0.68715 0.98 0.90833 0.93867 0.87867 0.828

1.2

1.1

1

0.9

0.8 0.6

0.8

1

1.2

1.4

1.6

広さでの回答数値の実際数値に対する割合

dw

dw

凡例 高さ変化   no   広さ変化   no           up          up 図 04-2 W-Tでの各連結パターンにおける広さ・高さの回答数値の実際値に対する割合グラフ

04. 研 究 結 果 ・ 分 析 仮想空間における空間知覚特性の研究

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04

表 04-3 W-T[fog]での各空間連結パターンにおける広さ・高さの回答数値の実際値に対する割合表

W-T[f] 広さ 高さ

dw;dw

dw;no

dw;up

no;dw

no;no

no;up

up;dw

up;no

up;up

1.44533 1.09333 0.84139 1.4157 1.005 0.82112 1.26874 0.98333 0.79232 1.12292 1.09583 1.05833 1.02167 0.98667 0.955 0.988 0.95467 0.90667

1.2

1.1

1

0.9

0.8 0.6

0.8

1

1.2

1.4

1.6

広さでの回答数値の実際数値に対する割合

dw

dw

凡例 高さ変化   no   広さ変化   no           up          up

04.

図04-3 W-T[fog]での各連結パターンにおける広さ・高さの回答数値の実際値に対する割合グラフ

研 究 結 果 ・ 分 析 仮想空間における空間知覚特性の研究

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04  空間連結パターンの高さの変位が一定であるパターンでの広さ変位 による、知覚した空間の高さの変位率を求める。

高さの変位が低くなるとき(3000mm から 2400mm) QTVR 空間知覚での高さ変位率 W - T W-T[fog]

dw;dw dw;no dw;up 1.0875 1.075 1.05208 1.11875 1.09792 1.06667 1.12292 1.09583 1.05833

高さの変位が変わらないとき(3000mm から 3000mm) QTVR 空間知覚での高さ変位率 W - T W-T[fog]

no;dw no;no no;up 1.00667 1.005 0.97167 1.015 0.98 0.90833 1.02167 0.98667 0.955

高さの変位が高くなるとき(3000mm から 3750mm) QTVR 空間知覚での高さ変位率 W - T W-T[fog]

up;dw 0.97067 0.93867 0.988

up;no up;up 0.91867 0.87867 0.87867 0.828 0.95467 0.90667

高さの変位が一定である空間連結パターンの時すべてで言える傾向 は、次空間の広さがより広くなるほど高さはより低く知覚され、次空 間の広さがより狭くなるほど高さはより高く知覚される。

04. 研 究 結 果 ・ 分 析 仮想空間における空間知覚特性の研究

30


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仮想空間における空間知覚特性の研究

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04  空間連結パターンの広さの変位が一定であるパターンでの高さ変位 による、知覚した空間の広さの変位率を求める。

広さの変位が狭くなるとき(8,000 × 8,000mm2 から 6,000 × 6,000mm2)

空間知覚での広さ変位率

QTVR W-T W-T[fog]

dw;dw no;dw 1.41393 1.3357 1.4957 1.43644 1.44533 1.4157

up;dw 1.24504 1.30904 1.26874

広さの変位が変わらないとき(8,000 × 8,000mm2 から 8,000 × 8,000mm2)

QTVR 空間知覚での広さ変位率 W - T W-T[fog]

dw;no no;no 1.05833 1.00167 1.14533 1.002 1.09333 1.005

up;no 0.97833 0.91833 0.98333

広さの変位が広くなるとき(8,000 × 8,000mm2 から 10,000 × 10,000mm2)

空間知覚での広さ変位率

QTVR W-T W-T[fog]

dw;up 0.83712 0.82261 0.84139

no;up 0.80192 0.77739 0.82112

up;up 0.71232 0.68715 0.79232

広さの変位が一定である空間連結パターンの時すべてで言える傾向 は、次空間の高さがより高くなるほど広さはより狭く知覚され、次空 間の高さがより低くなるほど広さはより広く知覚される。

04. 研 究 結 果 ・ 分 析 仮想空間における空間知覚特性の研究

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04

仮想空間における空間知覚特性の研究

4-2.空間表現方法比較による分析

各空間表現方法による回答数値を空間連結パターンで比較し、その 空間性を表現するのに最も適した空間表現方法を検証し、その要因を 探る。  回答傾向として、実際の空間変位より小さく答える傾向が明らかに あることから、実際値により近づくほどその空間性がより顕著にあら われていることがわかる。そのことより具体的な分析方法として、各 空間表現方法の空間パターンごとに回答数値を実際値で割り、そこか ら 1 を引き絶対値を求める。その数値が 0 に近いほど、その空間表現 方法がより空間性を表現していると言える。

高さ・広さ方向の変化にたいして知覚量の軸が同等でないため、同 時に分析することは出来ない。よって、高さ方向、広さ方向別々に分 析を行い、その結果を検証する。その後、その結果より、高さ・広さ を統合した空間ボリュームの空間性別の空間表現方法の有効性を検証 する。

04. 研 究 結 果 ・ 分 析 仮想空間における空間知覚特性の研究

32


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04 高さ方向の変化  高さ方向の変化に対する空間表現方法の有効性を検証する。

表 04-4 高さ変化順における空間表現方法の空間性表現有効度表 高さ dw;dw dw;no QTVR 0.0875 0.075 W-T 0.11875 0.09792 W-T[fog] 0.12292 0.09583

dw;up no;dw no;no no;up up;dw 0.05208 0.00667 0.005 0.02833 0.02933 0.06667 0.015 0.02 0.09167 0.06133 0.05833 0.02167 0.01333 0.045 0.012

up;no up;up 0.08133 0.12133 0.12133 0.172 0.04533 0.09333

0.2 0.18 0.16 0.14 0.12 0.1 0.08 0.06 0.04 0.02 0 dw;dw

dw;no

dw;up

no;dw

no;no

no;up

up;dw

up;no

up;up

高さ順空間連結パターン

凡例

系列1 QTVR

系列2 W-T

系列3 W-T[fog]

図 04-4 高さ変化順における空間表現方法の空間性表現有効度グラフ

次空間の高さが低くなるときQTVRがその空間性を表現するのに最

性を表現するのに最も有効である。

仮想空間における空間知覚特性の研究

04.

も有効であり、 逆に次空間の高さが高くなるときW-T[fog]がその空間

研 究 結 果 ・ 分 析 33


仮想空間における空間知覚特性の研究

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04 広さ方向の変化  広さ方向の変化に対する空間表現方法の有効性を検証する。

表 04-5 広さ変化順における空間表現方法の空間性表現有効度表 広さ dw;dw no;dw QTVR 0.41393 0.3357 W-T 0.4957 0.43644 W-T[fog] 0.44533 0.4157

up;dw 0.24504 0.30904 0.26874

dw;no no;no 0.05833 0.00167 0.14533 0.002 0.09333 0.005

up;no 0.02167 0.08167 0.01667

dw;up 0.16288 0.17739 0.15861

no;up 0.19808 0.22261 0.17888

up;up 0.28768 0.31285 0.20768

0.6

0.5

0.4

0.3

0.2

0.1

0 dw;dw

no;dw

up;dw

dw;no

no;no

up;no

dw;up

no;up

up;up

広さ順空間連結パターン

凡例

QTVR 系列1

W-T 系列2

W-T[fog] 系列3

図 04-5 広さ変化順における空間表現方法の空間性表現有効度グラフ

次空間の広さが狭くなるときQTVRがその空間性を表現するのに最

性を表現するのに最も有効である。

仮想空間における空間知覚特性の研究

04.

も有効であり、 逆に次空間の広さが広くなるときW-T[fog]がその空間

研 究 結 果 ・ 分 析 34


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04 高さ方向 ・広さ方向の変化を統合して 向・  高さ方向・広さ方向の変化に対し表現方法の空間性表現傾向は、ほ ぼ等しかった。 ・空間のボリュームの減少方向に対しての空間性表現はQTVR が有効 である。 ・空間のボリュームの増加方向に対しての空間性表現はWalkthrough Movie[視界限度]が有効である。

04. 研 究 結 果 ・ 分 析 仮想空間における空間知覚特性の研究

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考察

05 A Study of Space Perception in Virtual Space

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05

仮想空間における空間知覚特性の研究

考察 Q T V R での空間表現方法について

1 . 主体の行動操作  QTVR という表現方法においてまず特異な点は、主体自ら行動を操 作できるということである。04-2.表現方法比較による分析により、強 制的に主体が行動させられているWalkthroughMovieと比較すること によって主体自ら移動できるという事象についての空間性を表現する のにより適していることが言えた。  操作する事象が加わることによって空間性をより把握されたことは、 実際空間を視覚的に体験する時に普遍的にある、身体の運動に伴う視 界の変化構造により疑似されていたためであると言える。つまりは空 間構成要素に余事物が少ない、空間知覚として複雑な要因が含まれな い時は空間性を表現するのに自ら行動を操作することが必要な事象で あり、しいては、余事物が多い、複雑な空間知覚要因を持つ空間にお いても、自ら動かす操作が複雑でなければ、空間性を表現するのに必 要な事象であると言えるであろう。

2 . 身体尺度の転用  04-2. 表現方法比較による分析より、QTVR は WalkthroughMovie [視界限度]に対して空間表現が優れているのは高さ・広さが減少方向に ある時であるという結果がでた。仮想空間において空間を理解するた めに、 自身の現実空間での経験に基づいて理解することは前述したが、 特に QTVR は身体尺度に基づいている点が強いと思われる。高さ・広 さが減少と増加で異なる点は、身体に空間の変化が近づいているか、 奥行きが加えられ離れているかである。つまりは QTVR において空間

間性を表現できるということが言える。  また逆に空間ボリュームが増加傾向にある時奥行きを知覚すること

05.

ボリュームが減少し、自身の身体の尺度に変換する時により有効に空

考 察

に関して QTVR は得意ではなく、加えるべき事象が Walkthrough  Movie[視界限度}の中にあることが分かった。

仮想空間における空間知覚特性の研究

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05 WalkthroughMovie[ 視界限度 WalkthroughMovie[視界限度 視界限度]] での空間表現方法について

04-2.表現方法比較による分析により、WalkthroughMovie[視界限 度]が WalkthroughMovie に対し、空間性を表現するのにより適して いることが分かるが、ここで加わった事象は、奥行きへの擬似的な視 覚表現である。要因としては二つあげられる。

1 . 奥行きの濃淡表現  奥行きの度合いを濃淡によって表現することにより、空間性の情報 となったことである。現実の空間では空気中の浮遊物、霧、視力に関 連する要素であるが、そこまで濃淡のグラデーションとしての情報量 はない。しかしある種、空間の奥行き知覚に関して疑似化された空間 表現として、空間性を表現するのに有効であることが言える。

2 . 視覚補正  人の視界の構造において重要となる点は、視線方向の対象(焦点)に ついては目で認識し、それ以外の部分は視界には入っているが、主に 体感しているということである。Movie 表現において強制的な主体の 空間移動が視覚情報の選択余地をなくしたことによって、現実空間で の視覚的な変化構造により疑似されていたためであると言える。

WalkthroughMovie[視界限度]に関して、4-3. 表現方法比較による 分析により QTVR と比較した時、空間性の表現が優れている空間パ ターンは高さ・広さが増加方向にある時である。WalkthroughMovie [視界限度]は、仮想空間において空間を理解するために自身の現実空

05.

間での経験に基づいて理解する時、身体尺度よりも奥行き感という視 覚的要因に基づいている点が強いと思われる。

考 察

しかし空間ボリュームが減少方向、特に広さが減少方向にある時、空 間性を表現するのに WalkthroughMovie[視界限度]は得意ではなく、 身体尺度での補正に関してはあまり影響しないことが分かる。広さが 狭くなったため、奥行きに関する情報が少なくなったためである。 仮想空間における空間知覚特性の研究

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05 心理的空間補正

本来、仮想空間内では現実空間のように物理的ヒエラルキーの影響 を受けないため、空間はデカルト的座標系で表すことは出来ず、表現 されているディスプレイ上での空間構成物間の比率で成り立っている。 しかし現実空間での経験に基づいてしか三次元的空間を理解できない 我々は物理的ヒエラルキーを受けない仮想空間内を現実空間での経験 により理解している。そこで本研究では現実空間ではあり得ない余事 物を除いた空間ボリュームのみで実験を行うことにより、現実空間で の経験に基づいた空間知覚の特性を検証した。  QTVR での実験結果は、主体と画像の呼応を身体と視覚の呼応に対 応させた結果であると思われる。QTVR を用いた研究は、脳の、主体 移動を操作する手への呼応がスムーズになる程正確な実験結果として の数値が得られるであろう。 WalkthroughMovie[視界限度]での実験結果は、Movie という強制的 な主体の空間移動が視界から得る情報量を限定し、そのことによって 空間性を知覚するのに必要としている情報のみを獲得していると言え る現象から、空間性を表現するのに必要な情報、疑似化できる情報を 分析することから正確さを増すことが立証されると思われる。

05. 考 察

仮想空間における空間知覚特性の研究

39


仮想空間における空間知覚特性の研究

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まとめ

06 A Study of Space Perception in Virtual Space

仮想空間における空間知覚特性の研究

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06

仮想空間における空間知覚特性の研究

今後の展望  本研究では仮想空間という環境設定のもとで行った。現実の空間の もとで知覚研究を行えば、空間を構成する様々な要因が知覚に影響を 与え研究することは難しいが、仮想空間のもとでは、身体性の問題が 必ず存在している。今後は、互いに問題点を補いながら、現実と仮想 の空間で相互に研究を行う必要性があると思われる。  また、仮想空間の可能性として、人が仮想空間に持ち込む現実空間 での物理的ヒエラルキー、身体性をどこまで排除し、新たな生活空間 として現実の空間に取り入れられるかという展望があると思われる。  今後も新たな空間表現方法を取り扱い、現実空間での空間知覚特性 や、現実空間にいかに仮想空間が転用できるかなどを検証する。

06. ま と め

仮想空間における空間知覚特性の研究

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仮想空間における空間知覚特性の研究

おわりに  空間構成の心理におよぼす影響という全く具体性のない抽象的な テーマで幕をあけた本卒業論文でしたが、幾度となく繰り返されたゼ ミ、諸先輩方のアドバイス等により完成に至りました。  ご指導下さった渡辺仁史先生、抽象的な表現しかできない自分を常 に励まし前進させて下さった担当の樫村奈美さん、的確に優しく厳し くアドバイスを下さった長澤さん、常に声をかけていただき持ち前の キャラクターで卒論性をなごませて下さった木村さんや玉井さん、調 査に付き合って下さった被験者の方々、暖かく見守って下さった研究 室の諸先輩方にこの場を借りて感謝の意を表します。

06. ま と め

仮想空間における空間知覚特性の研究

42


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06

仮想空間における空間知覚特性の研究

参考文献 ・J.J.Gibson『生態学的視覚論 - 人の知覚世界を探る -』サイエンス社  ,1985 ・A.W.Wicker, 監修;安藤延男『生態学的心理学入門』九州大学出版  会 ,1994 ・D.Canter, 訳;宮田紀元・内田茂『場所の心理学』彰国社 ,1982 ・K.Linch,訳;丹下健三・富田玲子『都市のイメージ』鹿島出版会,1968 ・P.Thiel『連続経験に基づく環境デザイン』建築文化 No.206,1963 ・M.Benedikt, 訳;鈴木圭介・山田和子『サイバースペース』NTT  出版 ,1994 ・J.R.Anderson, 訳;富田達彦『認知心理学概論』誠信書房 ,1982 ・佐々木正人『アフォ−ダンス−新しい認知の理論』岩波書店 ,1994 ・編集;大山正・今井省吾・和気典二『新編 感覚・知覚心理学ハン  ドブック』誠信書房 ,1994 ・ 『10+1 No.3 ノーテーション / カルトグラフィ』INAX,1995 ・ 『10+1 No.6 サイバーアーキテクチャー』INAX,1996 ・初見学・込山敦司・橋本都子・高橋鷹志『室空間容積と印象評価に 関する実験的研究-容積を指標とした空間計画のための基礎研究(その 1)』日本建築学会計画系論文集 第 496 号 ,119-124,1997 ・家崎雄司・平岡健太朗;『3D-model aided analysis of spatial characteristics in architecture』早稲田大学理工学部建築学科渡辺仁史研 究室 卒業論文 ,1995 ・山本陽一;『運動 - 視覚系の空間認知の特性(絵画及び ImageRendering技術を中心とした検証)』早稲田大学理工学部建築学科渡辺仁 史研究室 卒業論文 ,1997

06. ま と め

仮想空間における空間知覚特性の研究

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付録

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A Study of Space Perception in Virtual Space

仮想空間における空間知覚特性の研究

仮想空間における空間知覚特性の研究


実際値 被験者01 被験者02 被験者03 被験者04 被験者05 被験者06 被験者07 被験者08 被験者09 被験者10 被験者11 被験者12 被験者13 被験者14 被験者15 被験者16 被験者17 被験者18 被験者19 被験者20 被験者21 被験者22 被験者23 被験者24 被験者25 被験者26 被験者27 被験者28 被験者29 被験者30 平均値 変化率

QTVR

pattern1;h; w pattern2;h; w pattern3;h; w dw dw dw no dw up 80 56.25 80 100 80 156.25 110 100 98 120 100 130 95 95 100 110 85 120 90 85 100 110 90 120 90 80 90 100 80 100 70 70 70 100 80 130 90 100 100 100 70 130 100 60 100 120 100 140 110 80 80 130 80 150 90 81 81 100 80 144 80 80 90 110 90 130 90 80 80 100 80 120 70 70 80 100 70 150 90 90 86 100 75 120 100 70 90 100 80 120 90 100 90 110 80 120 95 70 80 90 95 130 80 80 80 100 80 150 80 80 70 130 80 120 80 60 60 110 70 140 75 80 100 100 100 150 70 80 80 80 90 120 100 70 85 105 85 115 95 80 85 120 80 140 70 90 80 100 80 150 80 95 75 120 80 120 90 70 100 100 100 130 80 80 90 120 80 150 80 70 90 90 100 120 100 80 80 90 80 140 70 60 90 110 85 125 87 79.53333 86 105.8333 84.16667 130.8 1.0875 1.413926 1.075 1.058333 1.052083 0.83712 pattern4;h; w pattern5;h; w pattern6;h; w no dw no no no up 100 56.25 100 100 100 156.25 100 70 105 125 100 80 120 90 100 110 90 110 110 90 100 100 85 120 100 70 100 100 80 100 100 70 100 110 100 120 90 60 90 100 100 110 120 70 120 120 120 140 100 110 110 100 100 130 100 64 100 100 100 144 110 75 110 90 100 140 100 70 100 90 90 120 100 70 100 100 100 150 100 80 100 100 95 110 90 70 100 100 90 150 100 90 100 100 90 110 100 60 90 100 100 110 80 70 60 100 100 120 100 70 100 100 90 130 120 80 100 90 100 130 90 75 100 100 100 200 110 80 120 100 100 80 100 85 100 100 100 110 90 70 110 105 95 150 80 60 100 100 100 150 110 70 100 95 100 120 100 80 100 100 100 120 110 80 100 100 80 120 110 80 100 90 90 110 80 70 100 80 120 150 100 75 100 100 100 125 100.6667 75.13333 100.5 100.1667 97.16667 125.3 1.006667 1.335704 1.005 1.001667 0.971667 0.80192 pattern7;h; w up dw 125 56.25 110 70 120 80 120 85 150 70 100 60 150 50 140 80 120 70 120 64 120 50 150 60 150 70 120 87 100 80 120 60 110 65 120 50 140 70 130 55 75 75 120 90 95 80 140 65 120 80 140 75 100 80 100 50 120 80 120 80 120 70 121.3333 70.03333 0.970667 1.245037 100 90 100 110 90 120 110 120 100 100 100 120 80 140 90 120 100 120 100 110 80 100 100 150 100 110 100 100 110 110 100 100 100 100 100 130 100 110 80 120 150 130 100 100 85 130 90 120 100 120 100 110 90 110 100 110 90 120 90 115 100 114.8333 97.83333 0.918667 0.978333

pattern8;h; w up no 125

pattern9;h; w up up 125 156.25 110 100 120 95 110 115 110 100 100 120 90 80 140 140 110 120 120 144 120 100 100 60 120 120 100 110 100 110 90 110 100 120 120 100 120 120 130 90 120 125 120 100 95 100 115 130 100 150 105 115 110 110 120 150 90 100 100 95 110 110 109.8333 111.3 0.878667 0.71232

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仮想空間における空間知覚特性の研究

仮想空間における空間知覚特性の研究

調査回答結果 QTVR での実験結果


実際値 被験者01 被験者02 被験者03 被験者04 被験者05 被験者06 被験者07 被験者08 被験者09 被験者10 被験者11 被験者12 被験者13 被験者14 被験者15 被験者16 被験者19 被験者18 被験者19 被験者20 被験者21 被験者22 被験者23 被験者24 被験者25 被験者26 被験者27 被験者28 被験者29 被験者30 平均値 変化率

W-T

pattern1;h; w dw dw 80 56.25 70 70 90 95 110 80 100 80 80 80 90 80 70 70 110 130 100 64 90 80 85 80 90 75 90 85 90 80 110 80 90 90 80 80 100 80 120 90 90 70 80 100 75 70 85 130 100 80 80 100 80 80 80 80 100 80 60 80 90 85 89.5 84.13333 1.11875 1.495704

pattern2;h; w dw no 80 100 100 130 85 110 105 130 80 120 60 120 100 120 80 120 100 150 90 81 75 110 80 110 80 140 85 100 80 110 100 120 90 120 70 100 120 80 90 100 100 120 120 100 70 80 90 150 100 150 80 110 80 110 60 100 110 120 70 110 85 115 87.83333 114.5333 1.097917 1.145333

pattern3;h; w pattern4;h; w pattern5;h; w pattern6;h; w dw up no dw no no no up 80 156.25 100 56.25 100 100 100 156.25 100 140 100 70 100 90 100 120 95 150 125 85 100 110 100 125 100 125 115 85 110 110 105 120 70 100 100 60 80 80 70 100 80 150 100 80 100 80 80 100 70 200 100 70 80 80 90 100 80 120 80 60 100 90 100 140 90 140 120 140 110 120 100 170 100 121 120 64 100 81 90 144 90 120 125 80 100 100 90 130 70 150 110 80 100 90 90 120 65 150 120 80 100 120 70 120 90 120 100 90 100 100 100 120 100 100 100 60 110 65 90 130 80 150 120 80 100 180 90 150 100 110 100 70 100 120 90 100 90 110 100 60 110 100 100 120 80 120 70 130 100 100 90 130 100 110 110 70 105 90 100 110 80 120 80 60 100 90 100 140 80 100 80 80 120 120 80 80 70 120 80 70 80 80 80 80 80 140 85 125 85 120 80 145 90 180 110 70 100 100 100 140 75 120 105 95 100 110 100 120 100 120 100 80 100 100 100 110 80 150 110 80 80 100 80 120 90 120 110 90 100 80 110 120 80 100 70 80 70 100 60 120 85 100 100 80 100 100 90 120 85.33333 128.5333 101.5 80.8 98 100.2 90.83333 121.4667 1.066667 0.822613 1.015 1.436444 0.98 1.002 0.908333 0.777387 pattern7;h; w up dw 125 56.25 130 70 125 80 120 80 120 50 150 70 100 70 120 80 120 90 120 64 140 75 100 50 100 65 105 80 120 60 105 80 110 70 140 50 120 100 120 80 90 50 120 100 100 70 125 90 120 80 120 90 110 80 150 80 120 60 90 70 110 75 117.3333 73.63333 0.938667 1.309037

pattern8;h; w pattern9;h; w up no up up 125 100 125 156.25 110 80 100 80 125 80 125 100 110 90 100 110 100 80 110 100 120 100 100 100 100 70 100 90 120 100 120 110 120 100 110 130 120 100 100 141 110 80 110 120 110 100 100 100 110 140 100 150 105 95 100 100 110 60 120 90 100 100 100 100 120 100 110 120 120 80 120 100 150 100 130 110 110 80 110 100 100 75 100 120 120 100 80 100 80 85 80 85 85 100 85 130 120 100 110 120 110 100 100 100 110 100 110 100 100 100 100 120 120 80 100 100 70 90 70 90 110 90 105 105 109.8333 91.83333 103.5 107.3667 0.878667 0.918333 0.828 0.687147

DIPLOMA1999

Waseda Univ. Watanabe Lab.

仮想空間における空間知覚特性の研究

仮想空間における空間知覚特性の研究

Walkthrough Movie で の 実 験 結 果


実際値 被験者01 被験者02 被験者03 被験者04 被験者05 被験者06 被験者07 被験者08 被験者09 被験者10 被験者11 被験者12 被験者13 被験者14 被験者15 被験者16 被験者19 被験者18 被験者19 被験者20 被験者21 被験者22 被験者23 被験者24 被験者25 被験者26 被験者27 被験者28 被験者29 被験者30 平均値 変化率

W-T[fog]

pattern1;h; w dw dw 80 56.25 100 60 100 95 85 80 80 80 80 80 90 100 80 70 110 100 80 64 90 70 80 60 80 80 100 100 70 70 110 90 110 60 80 100 100 80 100 70 80 75 100 100 100 95 75 100 100 90 95 80 80 80 70 80 100 70 80 80 90 80 89.83333 81.3 1.122917 1.445333

pattern2;h; w dw no 80 100 80 110 85 120 90 120 80 120 95 110 90 120 80 100 100 120 80 100 90 100 80 100 90 110 100 110 90 120 90 110 100 120 80 120 80 110 80 110 100 100 80 80 100 110 80 120 90 110 75 100 80 100 100 120 90 100 90 100 85 110 87.66667 109.3333 1.095833 1.093333

pattern3;h; w dw up 80 156.25 100 130 80 140 85 125 80 130 70 120 80 100 70 140 90 140 100 144 80 120 100 110 90 145 65 130 100 120 80 150 90 130 100 140 70 130 80 130 90 150 80 150 80 120 70 150 90 150 80 120 100 120 70 150 100 120 80 120 90 120 84.66667 131.4667 1.058333 0.841387 pattern4;h; w no dw 100 56.25 90 70 120 95 100 85 80 100 110 80 100 70 100 90 120 80 100 64 100 80 100 60 90 85 100 70 90 70 110 90 110 90 100 50 90 80 110 80 100 60 120 100 110 90 85 110 110 60 100 90 100 80 100 100 120 70 100 60 100 80 102.1667 79.63333 1.021667 1.415704 80 100 90 80 80 100 120 100 100 100 100 110 90 90 100 110 100 100 100 100 120 100 70 100 90 100 110 120 100 100 98.66667 0.986667

pattern5;h; w no no 100 90 95 110 100 100 100 120 100 100 100 100 110 90 110 110 100 100 100 100 110 100 110 80 100 110 90 110 80 90 100 100.5 1.005

100

pattern6;h; w pattern7;h; w pattern8;h; w no up up dw up no 100 156.25 125 56.25 125 100 100 150 120 60 120 100 90 110 150 85 150 100 85 105 145 85 125 85 90 120 130 60 130 80 100 110 120 70 110 100 120 110 120 60 120 100 120 140 120 60 120 100 100 140 100 60 110 110 100 144 100 81 110 100 100 130 120 70 120 100 100 130 150 80 120 100 95 120 130 70 110 90 90 140 130 60 130 100 100 150 100 80 90 85 100 130 105 90 100 110 100 110 130 80 130 110 80 150 120 60 120 100 100 150 150 70 130 100 100 120 130 70 130 100 100 140 110 50 110 90 80 100 130 90 130 100 105 120 105 70 105 110 80 160 130 80 120 120 90 140 120 60 120 90 95 130 130 90 120 100 100 120 110 80 110 100 70 130 110 70 120 100 90 100 150 50 130 70 90 120 120 80 120 100 95 130 120 70 120 100 95.5 128.3 123.5 71.36667 119.3333 98.33333 0.955 0.82112 0.988 1.268741 0.954667 0.983333

pattern9;h; w up up 125 156.25 120 140 120 100 105 110 100 100 100 100 100 120 125 125 110 120 120 144 120 140 100 130 110 120 120 130 90 130 100 150 120 130 100 150 130 130 130 110 110 110 130 130 115 120 120 140 110 140 120 120 110 120 120 110 120 100 110 120 115 125 113.3333 123.8 0.906667 0.79232

DIPLOMA1999

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仮想空間における空間知覚特性の研究

仮想空間における空間知覚特性の研究

Walkthrough Movie[ 視界限度 Movie[視 度]] で の 実 験 結 果


DIPLOMA1999

Waseda Univ. Watanabe Lab.

仮想空間における空間知覚特性の研究

使用機器及びソフトウェア一覧

<使用機器>  ・Apple Power Book G3/400MHz  ・Apple Power Machintosh 8600/250MHz

<使用ソフトウェア>  ・GRAPHISOFT 6.0  ・StudioPro

Blitz v1.75

・QuickTime Player 4.0.2

仮想空間における空間知覚特性の研究


DIPLOMA1999

Waseda Univ. Watanabe Lab.

実験調査アンケート用紙

仮想空間における空間知覚特性の研究

仮想空間における空間知覚特性の研究


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