小規模博物館における座り行動に関する研究

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小規模博物館における座り行動に関する研究

目次 はじめに 第1章 序論

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1-1. 研究目的

4

1-2. 研究背景

5

1-3. 研究概要

23

第2章 小規模博物館における座り行動の調査

24

2-1. 調査概要

25

2-2. 語句の定義

27

第3章 小規模博物館の利用実態

28

3-1. 小規模博物館における利用者の実態

29

3-2. 小規模博物館における座り行動と滞在・ 鑑賞時間

31

3-3. 小規模博物館における座り行動と動線長

40

第4章 座り回数と延長滞在・ 鑑賞時間に関する分析

44

4-1.  座り目的別延長滞在・ 鑑賞時間の分析

45

4-2.  座り率・利用率・ 総動線長延び率と

56

椅子の平面配置構成の分析

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第5章 考察

63

参考文献

69

おわりに

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付録 資料編

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はじめに  海外に行くと、美術館に行ってしまう。日本にいると年に数回しか いかないのに。海外に行ったときだけは通ってしまう。   『なぜだろう?』  そんな、疑問の答えを見つけようと思いこの研究が始まった。

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第1章

序論

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1-1. 研究目的  本研究では、小規模博物館における座り行動の実態を調査すること で、小規模博物館における座り行動が鑑賞行動に与える効果を明らか にするのが目的である。

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1-2. 研究背景  まず、本研究における「小規模博物館」についての位置付けを行う。

〇博物館とは  一般に博物館・美術館・記念館・資料館といった施設は数多い。そ れらを総称して博物館と言うが、博物館の中にも登録博物館・博物館 相当施設・博物館類似施設がある。これらは、1951 年に制定された博 物館法(最終改正 2 0 0 1 年)をもとに決められている。

博物館法において、博物館は

第2条 この法律において「博物館」とは、歴史、芸術、民俗、産 業、自然科学等に関する資料を収集し、保管(育成を含む。以下同じ。 ) し、展示して教育的配慮の下に一般公衆の利用に供し、その教養、調 査研究、レクリエーション等に資するために必要な事業を行い、あわ せてこれらの資料に関する調査研究をすることを目的とする機関(社 会教育法による公民館及び図書館法(昭和 2 5 年法律第 118 号)によ る図書館を除く。 )のうち、地方公共団体、民法(明治 29 年法律第 89 号)第 3 4 条の法人、宗教法人又は政令で定めるその他の法人(独立 行政法人(独立行政法人通則法(平成 1 1 年法律第 103 号)第2条第 1項に規定する独立行政法人をいう。第 2 9 条において同じ。 )を除 く。 )が設置するもので第2章の規定による登録を受けたものをいう。  第 2 9 条 博物館の事業に類する事業を行う施設で、国又は独立行 政法人が設置する施設にあつては文部科学大臣が、その他の施設にあ つては当該施設の所在する都道府県の教育委員会が、文部科学省令で 定めるところにより、博物館に相当する施設として指定したものにつ いては、第 2 7 条第2項の規定を準用する。

と定義されている。

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つまり、博物館法による規定に満たし登録した博物館を「登録博物 館」と言い、また博物館法の適用を受けない国立博物館などで、一定 の基準を満たすものを「博物館相当施設」と言う。さらに、この両者 にも当てはまらないが博物館といての活動を行っているものを「博物 館類似施設」と言っている。  また、博物館法では、歴史博物館・美術館などのほかにも動物園・ 植物園・水族館・科学館・天文台なども博物館に含まれて定義されて いる。

本研究では、動物園・植物園・水族館・科学館・天文台なども含め、 また登録博物館・博物館相当施設・博物館類似施設の区別をせず、こ れらに相当する施設を博物館とし研究をすすめていく。

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〇規模について  博物館の規模を表す基準として、延べ床面積・展示室面積・展示壁 面長・動線長・作品数などがある。  博物館では、展示替えや企画展などによって展示室面積・展示壁面 長・動線長・作品数などが変わるために、本研究では施設を一義的に 分類できる指標として建物の延べ床面積を使用する。     「公立博物館の設置及び運営に関する基準」 (1973 年文部省告示)で は、 第 5 条 博物館(動物園、植物園及び水族館を除く。 )の建物の延べ 床面積は、都道府県及び指定都市の設置する博物館にあつては 6 0 0 0 ㎡を、市(指定都市を除く。 )町村の設置する博物館にあつては 2000 ㎡をそれぞれ標準とする。 と、基準が設けられている。

これを参考にし、本研究では 2000 ㎡未満の博物館を小規模博物館 として扱う。ただし、動物園・植物園・水族館など屋外施設などを中 心とした博物館は除く。

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〇博物館の数

日本で最初に博物館が開設されたのは今から約 130 年前の 1872 年 (明治 5 年)文部省博物館(現東京国立博物館)である。それから昭 和初期(戦前)にかけて国立の帝国博物館が設立されました。戦後に なり 1951 年(昭和 26 年)に「博物館法」が制定され、高度経済成長 の波に乗り、公私立の博物館が設立されるようになった。

今日では日本各地におよそ 6000 もの大小の博物館が開設されてい る。博物館法制定後の 1953 年(昭和 28 年)では約 200 館であったの で、この 50 年間でおよそ 30 倍もの数になった。 ( 図 1-1 参照)  最近 10 年間では毎年 300 館もの博物館が新設されている。 (図 1-2 参照)

図 1-1. 全国の博物館数

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図 1-2. 最近 10 年間の新設された博物館数

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〇博物館の設置者と延べ床面積

博物館を設置者と延べ床面積別でみると、戦後 1970 ∼ 1980 年にか けて明治百年記念事業の一環として多くの県立の博物館が新設され、 また高度経済成長と共に多くの会社主体の私立博物館も新設された。 そのために、博物館規模としては中・大規模のものが多くなった。 (図 1-3,1-4 参照)  1990 年代になると全国各地の市町村に公立博物館が、また個人によ る私立博物館が多く新設されるようになり中・大規模の博物館よりも 小規模博物館が多く新設されるようになってきた。 (図 1 - 3 参照)    1977 年までの開設館をみてみると、3000 ㎡以上の博物館は全体の 25% を占めているが、最近 5 年間では 1000 ㎡未満の博物館が新設館の 約 60%を占めており、3000 ㎡以上の中・大規模博物館は約 13 %程し かない。 (図 1-5-1,1-5-2 参照)    以前より、中大規模の博物館が多く開設されているが近年はよりそ の傾向が強くなってきている。そのため、これまで小規模博物館に関 する研究はほとんど行われてきていないが、行う価値があると言え る。

図 1-3. 1980 年と 1999 年における設置者別比率

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図 1-4. 開設年と延べ床面積

図 1-5-1. 最近 5 年間の延べ床面積別新設館数の比率

図 1-5-2. 1977 年までの開設館と 95 ∼ 00 年の新設館の 3000 ㎡区切りの館数比率 watanabe lab.

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〇博物館・美術館における既往研究  美術館・博物館に関する研究をみると歩行行動や歩行者の空間に関 するものは数多くあるが、座り行為や座りスペースに関するものは極 めて少ない。 (図 .1-6 参照)  また、研究対象となっている施設は延べ床面積 5000 ㎡以上の大規 模博物館・美術館がほとんどである。それは、ある程度の座り行動や 鑑賞行動を必要としたためであるが、最近の博物館傾向として小規模 なものが多く新設されているために、小規模博物館を対象とした研究 が必要と考えた。

人間の基本姿勢

主な研究内容

立位

立ち

展示空間・歩行速度・歩行空間・

背伸び

最適観覧者数など

き座位 作業姿勢

休息姿勢

平座位

美術館疲れ・休息など

しゃがみ

立てひざ

仰臥

臥位

図 1-6. 人間の基本姿勢と主な博物館研究

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〇「美術館疲れ」と美術館のスケールに関する研究※ 1 ※1 「美術館疲れ」と美術館のスケールに関 する研究 著者:成瀬功、中村良三、渡辺仁史、鈴 木大二、池田浩敬、今井康博 掲載:日本建築学会学術講演梗概集 p1433-1434 1984,10

この研究では、 「美術館疲れ」の原因の混雑・休憩施設の充実度・ 証明・展示の規模などのうち展示の規模について特にとりあげ、観客 の行動を基準にして研究したものである。  調査対象は、全国 191 館を対象に郵送質問調査と 1 5 件以上の来館 者の滞在時間の実測を依頼し、37 館の結果を得たものと以前に学会で 発表された調査報告を加えた 50 館である。調査内容は、延べ床面積・ 展示面積・壁面長・作品数・動線長・滞在時間であった。

調査結果  ・50 館の平均滞在時間は 20 ∼ 50 分の間に 72 %が分布している  ・展示面積(使用部分のみ)が 1500 ∼ 2000 ㎡あたりで平均滞在時   間の増加が止まる  ・壁面長では約 4 0 0 mを境に平均滞在時間の延びが止まる

「美術館疲れ」は観客の鑑賞行動の時間的距離的限界を考慮せずに 見学順路を設定した場合に起こるものである。従って限界規模を超え る場合、見学順路に自由度をもたせ、見学するものを観客に選択させ るといった対策が必要と思われる。

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〇美術館における観客の休息行為※ 2 ※2 美術館における観客の休憩行為 著者:守屋秀夫、神保倫章 掲載:日本建築学会学術講演梗概集  p1641-1642  1984.10

この研究では美術館において、観客がどのように休息をとり、どの ような休息施設がよく利用されているかを実態調査したものである。  調査対象は、県立美術館で比較的規模が大きく各所に休息スペース の用意してある千葉県立美術館(日曜日)と群馬県立近代美術館(土 曜日と日曜日)であった。調査方法は入館時にアンケートを渡し退館 時に回答してもらうものであった。

調査結果  ・休息した人は千葉では 47% であったが、群馬では土曜日が 69% で、   日曜日が 68% であった。  ・休息要求に男女差・年齢差・入館時間・滞在時間等に大きな関係   はない。  ・合計休息時間では約半数以上が 5 分未満で、大半が 1 0 分以下で   ある。  ・休息内容では、休息しながらパンフレットを読むという人が約 50   %いた。

小規模博物館では、疲労のために休息をとる人が大規模博物館と比 べ少ないと考えられる。そのため、座る目的による座り行動の違いが あると考えられるので、小規模博物館について研究する価値があると いえる。

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〇立ち歩行からみた公共美術館における利用前後条件と座り行為に関 ※3 立ち歩行からみた公共美術館における利 用前後条件と座り行為に関する研究 著者:大島秀明、天野克也、谷口汎邦 掲載:日本建築学会計画系論文集 p141148 2000.6

する研究※ 3  この研究では、社会生活における行動行為は連続的に行われている ために特定の施設や空間の中で完結、限定されず公共的空間全体を 使って行われていると考え、施設利用前後の条件について考慮するこ とで「立ち歩行利用型施設」としての美術館における座り行為の解明 を試みている。  調査対象は、①公共施設②延面積 7000 ㎡∼ 10000 ㎡程度③単独施設 という 3 つの条件と「公園との関係」 「市街地との関係」の 2 つの条 件をもとに平塚市美術館・千葉県立美術館・町田市立版画美術館・埼 玉県立近代美術館・宇都宮美術館の 5 つを選定している。調査方法は、 入館時にアンケートを配布し退館時に回収するものであった。  そこから、座り回数0に着目し < 非座り率 > 、最後に座ってから来 館までの時間(NST)、在館時間(T)、座り回数を用いて分析を行ってい る。  調査結果  ・各館ともに 7 0 ∼ 80% 前後の利用者が座り行為を行っている。座   りたかったが座らなかった人を含めると座り需要は約 80% 程度で   ある。  ・< 非座り率 > は利用者 1 人当たりの < 平均座り回数 > と負の相関が   ある。  ・座り回数が多いと(T) は長くなる。  ・ (NST+T)が長い場合(NST)と(T)は負の相関関係にあり、 (NST)が長   くなると( T )の減少し、座り回数も増加しない。  ・ (NST )が短いと(T) が増加し、座り回数も増える。

利用前後の条件が館内における座り行動に影響を与えていることが わかった。さらに、施設内部空間の条件や利用者の属性条件等との関 係を分析する必要はある。  その一つとして、近年多く新設されている小規模博物館において研 究する価値があると言える。

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〇 施設利用目的からみた美術館利用者の実態について※ 4   −公園内立地美術館の施設利用と座り行為・座りスペースに関する研究その1−

※4

〇 施設利用目的からみた座り行為と座りスペースについて※ 5

施設利用目的からみた美術館利

−公園内立地美術館の施設利用と座り行為・座りスペースに関する研究その2−

用者の実態について−公園内立 地美術館の施設利用と座り行

これらの研究では公園内にある美術館において、公園との複合的相

為・座りスペースに関する研究

乗効果に着目して施設利用目的から利用実態を明らかにしている。

その 1 − 「全国博物館総覧」から公立の美術館を対象に市街地 著者:大島秀明、天野克也、武田  調査対象は、 特性及び公園との配置関係から分類し、延べ床面積 7000 ∼ 13000 ㎡を 元樹、谷口汎邦 掲載:日本建築学会学術講演梗

条件に関東地域から選定した、平塚市美術館・府中市美術館・町田市

概集 p413-414 2001.9

立国際版画美術館・埼玉県立近代美術館・宇都宮美術館・群馬県立近 代美術館の 6 館である。

※5 施設利用目的からみた座り行為 と座りスペースについて−公園

調査結果

内立地美術館の施設利用と座り ・公園主目的者でも 5 ∼ 25% の利用者が美術館のみの利用で、美術館 行為・座りスペースに関する研 主目的者でも 2 5 ∼ 35% の利用者が前後に公園を利用している。 究その 2 −

・施設利用パターン、エントランスホールの空間特性によってエント

著者:武田元樹、大島秀明、天野 ランスでの座り率に違いがある。 ・公園主目的者は鑑賞前に、美術館主目的者は鑑賞後にエントランス 克也、谷口汎邦 掲載:日本建築学会学術講演梗

ホールで座る利用者が多い。

概集 p415-416 2001.9

・エントランスホールでは、休憩又は目的無しでの座りが多く、館内 では、休憩又はその他の目的での座りが多い。

施設の利用目的により座り行動などの変化がわかる。座り行動にお いてもいくつか目的があるので、それについて研究する価値があると 言える。

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〇 待ち合い・休憩空間の評価特性に関する研究※ 6 ※6 待ち合い・休憩空間の評価特性に関する 研究−宇都宮市内6施設を対象として− 著者:工藤勲、三橋伸夫 掲載:日本建築学会学術講演梗概集 p925-926 2001.9

― 宇都宮市内 6 施設を対象として ―  この研究では、性質の異なる待ち合い・休憩空間で利用者が受ける 心理的影響を、印象評価を通じて各施設の特性から分析をしている。  調査対象は、市役所・T 駅・A 銀行 U 支店・S 会宇都宮病院・F 百貨 店・K 電気店の 6 つの施設で、被験者(学生40 人)に各施設の待ち合い・ 休憩空間のベンチや椅子に着座してもらい、アンケート調査・及び環 境測定(温度・湿度・照度・騒音)をし、2 5 の形容詞対によって S D 法による分析を行っている。

調査結果  ・男女別では全空間において女性の方が活気があると感じている。  ・訪れたことがある人の方が空間の時の流れが速いと感じている。  ・不快に感じる音(レジやプリンターなど)は BGM を使うことであ   る程度緩和できる。  ・居心地因子・装飾性因子・スケール感因子・動的因子によって評   価をすると百貨店の評価が高い。  待ち合い・休憩空間において、利用者は居心地に対する関心がもっ とも高い。また、他にも装飾性やスケール感などの要素も重要である といえる。

この研究では、座る目的が設定されていない。座り空間の評価の一 要因として座り目的があると考えられるので、その点をふまえて座り 空間を研究をする価値があると言える。

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〇座り行動  博物館における人間の基本姿勢は先ほど挙げた 4 つのうちの最初の 2 つの「立位」と「き座位」である。   「立位」では主に鑑賞や移動が行われ、 「き座位」では主に椅子に 座っての休憩や鑑賞がある。 「平座位」 「臥位」に関しては、博物館で は現在ほとんど確認されていないので博物館の基本姿勢からは外すこ とにする。  本研究では、既往論文ではほとんど扱われていない「き座位」につ いて特にとりあげ研究をすすめていく。 「き座位」には作業姿勢・軽 休息姿勢・休息姿勢と大きく 3 つの姿勢があるが本研究では、 「き座 位」の研究の基本的段階であるため、姿勢の区別は行わず、座る目的 別に研究を行う。 (図 1-7 参照)

〇作業姿勢 背もたれの無い椅子での姿勢。 座り目的:ビデオ・端末、本を読む、休憩、お茶を飲む、おしゃべりなど

〇軽休息姿勢 背もたれのある椅子、 または壁に寄りかかった姿勢。 座り目的:本を読む、休憩、お茶を飲む、おしゃべりなど

〇休息姿勢 ソファなどに座った姿勢。 座り目的:休憩など

図 1-7. き座位の姿勢

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〇小規模博物館での椅子の利用実態

東京都と神奈川県の小規模博物館 4 0 館に対して座り施設設置状況 を電話調査によって行った。  調査館の内訳は以下の通りである。  東京都  :18 館  神奈川県 :22 館  500 ㎡未満     :15 館  500 ∼ 1000 ㎡未満 :11 館  1000 ∼ 1500 ㎡未満 :7 館  1500 ∼ 2000 ㎡未満 :7 館  質問項目  ・座り施設(椅子・端末等・カフェ等)を設置しているか?  ・展示室内か展示室外か?  ・ビデオ・端末(座れるもの)等を設置しているか?  ・カフェやレストラン等は併設されているか?

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●座り施設の設置について  座り施設の設置については多くの小規模博物館において「設置して ある」と回答を得た。 (図 1-8. 参照)  40 館のうち 10% にあたる 4 館が座り施設を設置していなかったが、 その設置をしない理由は ・置くスペースが無い ・置く必要がない という 2 つの理由があった。これら 4 館の規模はいずれも 500 ㎡未満 (うち 3 館は 150 ㎡未満)の小さな博物館であったため座り施設の必要 性がないのかもしれない。  しかし、90% の小規模博物館で座り施設の設置が確認されているた め、座り行動の研究をする価値はあると考える。

図 1-8. 小規模博物館における座り施設の設置状況

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●座り施設設置内容について  座り施設設置内容では、企画展によって多少設置数・設置場所が変 わるが、アンケートした時点での設置場所で回答してもらった。  設置場所をみると 89% の博物館が座り施設を展示室の中においてい る。展示室外のみという館は 11% の 4 館ほどにすぎなかった。 (図 1 9. 参照)

図 1-9.  座り施設の設置場所別比率

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また、端末・カフェ等を設置・併設している小規模博物館はそれぞ れ 64%・58% と比較的多い。 (図 1-10. 参照)

これらの結果から、端末・カフェ等などの施設を使用した時の座り 目的もふまえて研究する必要があるといえる。

図 1-10.  端末・カフェ等の施設の設置比率

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1-3 研究概要 〇目的  本研究では、小規模博物館における座り行動の実態を調査すること で、小規模博物館における座り行動が鑑賞行動に与える効果を明らか にするのが目的である。 〇研究のフロー

既往研究・論述のまとめ

現状調査

追跡・アンケート調査

利用実態の分析

座り回数と滞在・  鑑賞時間による分析

座り率・利用率と  総動線長による分析

目的別の延長滞在・  鑑賞時間による分析

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まとめ

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第2章

小規模博物館における座り行動の調査

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2-1. 調査概要  小規模博物館における座り行動を調査するために、博物館内にて追 跡調査または博物館の出口にてアンケート調査を行った。  本研究では、座り行動が鑑賞行動に与える影響を研究するためある 程度座り行動が起こり得る施設があるところに着目して調査を進める ことにした。 〇調査対象  無料のお茶のサービスがある武者小路実篤記念館(以下「武者小路 実篤記念館」または「武者」)と日本郵船歴史資料館(以下「日本郵 船」または「郵船」 )2 館。また、椅子と一緒に本が置いてあるちひろ 美術館・東京(以下「ちひろ美術館」または「ちひろ」 )と茅ヶ崎市 美術館(以下「茅ヶ崎市美術館」または「茅ヶ崎」 )の 2 館。合計 4 館 を調査場所として選定した。 (表 2-1. 参照) ※無料のお茶サービス(以下「お茶」)と有料のカフェは別施設とみ なす。

表 2-1. 調査施設データ

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〇調査方法 調査対象:調査地の来館者 調査方法:追跡調査(武者小路実篤記念館・日本郵船歴史資料館)      アンケート調査(ちひろ美術館・茅ヶ崎市美術館) 調査用紙:< 付録 > 参照

〇調査内容 ・属性(性別、年代、同伴者構成) ・入館時間、退館時間 ・博物館内における動線 ・座り時間、場所 ・座り目的

〇サンプル数 武者小路実篤記念館   2 0 サンプル 日本郵船歴史資料館   1 5 サンプル ちひろ美術館      3 2 サンプル 茅ヶ崎市美術館     3 1 サンプル 合計          9 8 サンプル

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2-2. 語句の定義 ・博物館  歴史・芸術・民俗・産業・自然科学などの資料を集め、保存・展示 をして広く一般の利用に供し、あわせてこれらの資料の調査・研究を する機関。施設名での博物館ではなく、広義の意味での博物館をさし ている。 ・小規模  延べ床面積 2000 ㎡未満の施設を小規模とする。ただし、屋外施設 を除く。 ・基本動線長  博物館において、利用できる全展示室を最短で通る動線長。 ・動線長伸び率  博物館の平均動線長 / 博物館の基本動線長 ・座り率  座り行動をした人数 / サンプル数 ・お茶とカフェ   「お茶」とは、無料で飲めるサービスを言う。また、 「カフェ」とは、 有料の飲食施設を言う。 ・椅子   「椅子」は、座り目的の中のその他を言う。   (例:外を眺める、おしゃべりをする等)

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第3章

小規模博物館の利用実態

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3-1. 小規模博物館における利用者の実態  サンプルの集計結果を以下に示す。 〇サンプル属性  [表 3-1]は、サンプルの男女別人数である。ちひろ美術館では、78% の人が女性である。武者小路実篤記念館・日本郵船・茅ヶ崎市美術館 の 3 館ではほぼ同数の男女比である。  [表 3-2]は、サンプルの年齢別人数である。茅ヶ崎市美術館では約 94% の人が 40 代以上で中でも、約 71% の人が 60 歳以上の人である。武 者小路実篤記念館・日本郵船・ちひろ美術館では、年齢によるばらつ きはほとんどみられない。

表 3-1. サンプルの男女別人数

表 3-2. サンプルの年齢別人数

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[表 3-3]は、サンプルの同伴者別人数である。武者小路実篤記念館・ 日本郵船・ちひろ美術館では複数人で来館する人が約 80% 前後である が、茅ヶ崎市博物館では 61% の人が 1 人で来館している。先の 3 館で は特に 2 人で来館する人が多く、約 60% 前後である。また、2 人で来 館する人の中では、商業地にある日本郵船ではカップルが多いが、住 宅地にある武者小路実篤記念館・ちひろ美術館・茅ヶ崎市美術館の 3 館では、夫婦や家族で来館する人多い。

表 3-3.  サンプルの同伴者別人数

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3-2. 小規模博物館における座り行動と滞在・鑑賞時間 〇座り行動  [表 3-4]はサンプルの座り回数別の人数である。武者小路実篤記念 館では約 50% の来館者が座り行動を行っている。また、日本郵船では 全員が座り行動を行っている。これは、来館者全員が無料で飲み物を 飲めるサービスを行っている効果である。ちひろ美術館では 80% 以上 の来館者が座り行動を行っている。茅ヶ崎市美術館においても約 70% の来館者が座り行動を行っている。 (図 3 - 1 . 参照)

図 3-1.  サンプルの座り回数別人数

表 3-4.  サンプルの座り回数別人数

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〇座り目的

座り目的は、次のように分類して集計した。  ・端末 :パソコン、ビデオ  ・本  :椅子の所または図書ルームの本、パンフレット  ・お茶 :無料で飲める飲み物  ・カフェ:有料施設のカフェ、レストラン  ・椅子 :上記以外の目的で座ったもの ※一回の座りで複数行動をした場合、第一目的を座り目的とした ※利用施設ではなく目的別に分類している   (例:カフェの椅子を人待ちのために利用→「椅子」に分類)

[表 3-5]はサンプルの座り目的別の延べ人数である。武者小路実篤 記念館では、端末のために座る人が 50% で一番多く、次にお茶を飲む ために座るで 38% である。日本郵船では、お茶のため座る人が 100% で その他に座る人は少ない。ちひろ美術館では、椅子(その他)が 61% で一番多く、本を読むために座る人は 25% である。茅ヶ崎市美術館で は本を読むために座る人が 5 6 % で一番多い。

表 3-5. サンプルの座り目的別延べ人数

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図 3-2. 武者と郵船における目的別延べ人数

図 3-3. ちひろと茅ヶ崎における目的別延べ人数

図 3-4.  全体における目的別延べ人数 watanabe lab.

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小規模博物館における座り行動に関する研究

ちひろ美術館では、椅子のみが多く設置されており他の博物館と比 べ、多くの利用があった。その利用目的の中でも一番多かったのは外 を見る目的で 23% の 8 人であった。また、人を待つために利用する人 も多く 20% の 7 人であった。 (図 3-5. 参照)

図 3-5. ちひろ美術館における椅子の目的

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〇座り時間  館別の平均座り時間をみると、ちひろ美術館が一番長く 18.7 分で ある。次に日本郵船の 11.5 分である。一番短いのは、武者小路実篤 記念館の 8.3 分である。 (図 3-6 参照)

武者小路実篤記念館では、16 ∼ 20 分座る人が一番多く、全体的に ばらつきがある。日本郵船では、6 ∼ 10 分座る人が一番多く、ほぼ正 規分布である。ちひろ美術館では、1 ∼ 5 分と 3 0 分以上の人が多い。 茅ヶ崎市美術館では、1 ∼ 5 分が一番多く、時間が長くなるにつれて 少なくなっている。 (図 3-7.3-8. 参照)

図 3-6. 各館における平均座り時間

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小規模博物館における座り行動に関する研究

図 3-7. 武者と郵船における座り時間のヒストグラム

図 3 - 8 .  ちひろと茅ヶ崎における座り時間のヒストグラム

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小規模博物館における座り行動に関する研究

〇滞在時間と鑑賞時間  滞在時間と鑑賞時間をみると、いずれもちひろ美術館が一番長くそ れぞれ 86.7 分 68.0 分であった。武者小路実篤記念館と日本郵船は滞 在時間では日本郵船の方が 4.3 分長いが、鑑賞時間では 1 分しか長く ない。また、ちひろ美術館と茅ヶ崎市美術館をみても、滞在時間では 32.2 分ちひろ美術館の方が長いが、鑑賞時間では 22.5 分に縮まって いる。 (図 3-9、3-10 参照)

滞在時間(分)

図 3-9. 各館における平均滞在時間

鑑賞時間(分)

図 3-10. 各館における平均鑑賞時間

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[図3-11]は滞在時間のヒストブラム。 [図3-12]は鑑賞時間のヒスト グラムである。  武者小路実篤記念館では、滞在時間では 0 ∼ 1 9 分が一番多く。時 間が長くなるにつれて少なくなっている。鑑賞時間も同様である。  日本郵船では、滞在時間では 20 ∼ 39 分が一番多く、ほぼ正規分布 である。しかし、鑑賞時間では武者小路実篤記念館同様 0 ∼ 1 9 分が

人数(人)

一番多く、時間が長くなるにつれて少なくなっている。

図 3-1 1 . 武者と郵船における滞在時間のヒストグラム

図 3-1 2 . 武者と郵船における鑑賞時間のヒストグラム

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ちひろ美術館では、滞在時間は比較的長く 60 ∼ 79 分と 100 分∼が 一番多い。60 分以上滞在した人は全体の 88% である。鑑賞時間でも 60 ∼ 7 9 分が一番多く、ほぼ正規分布になっている。  茅ヶ崎市美術館では、滞在時間は 40 ∼ 59 分が一番多く、ほぼ正規 分布になっている。鑑賞時間では 20 ∼ 39 分が一番多い。0 ∼ 19 分は 全体の 3% しかいなく、97% が 20 分以上鑑賞している。 (図 3-13,3-14 参照)

図 3-1 3 . ちひろ・茅ヶ崎における滞在時間におけるヒストグラム

図 3-1 4 . ちひろ・茅ヶ崎における鑑賞時間におけるヒストグラム

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3-3. 小規模博物館における座り行動と動線長 〇座り率と利用率  座り率はいずれの館も 50% を上回っている。特に、日本郵船・ちひ ろ美術館では 80% を超える高い座り率である。しかし、座り施設の使 用率をみると武者小路実篤記念館・ちひろ美術館では 65% 前後で比較 的高い利用率だが、日本郵船では 4 2 . 9 % と低く、茅ヶ崎市美術館も 57.1% と決して高い利用率ではない。  座り施設数は、ちひろ美術館では 12 スペースと多く利用率も 91.7% と非常に高い。武者小路実篤記念館・日本郵船・茅ヶ崎市美術館では 6 ∼ 7 スペースである。また、利用率も 60% 前後である。 (図 3-15、表 3-6 参照)

図 3-15.  館別の座り施設数と座り率・利用率 表 3-6. 館別の座り施設数と座り率・利用率

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〇動線長  平均動線長は 4 館すべてが基本動線長を上回っている。武者小路実 篤記念館では21.7m、日本郵船では23.2m、ちひろ美術館では39m、茅ヶ 崎市美術館では 51.4m の動線長の延びがある。  武者小路実篤記念館・日本郵船・茅ヶ崎市美術館の 3 館では基本動 線長に対して伸び率が 1.2 以上ある。 (図 3-16、表 3-7 参照)  ちひろ美術館と茅ヶ崎市美術館を比べると基本動線長ではちひろ美 術館の方が長いが、平均動線長では茅ヶ崎市美術館の方が長くなって いる。

図 3-16.  基本動線長・平均動線長と伸び率 表 3-7. 基本動線長・平均動線長と伸び率

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〇総動線長と1回目の座り行動までの動線長  各館における、総動線長と 1 回目の座り行動までの動線長をみると 武者小路実篤記念館では、総動線長・1 回目の座り行動までの動線長 いずれも偏りがすくなく、総動線長 80m 、1 回目の座り行動までの動 線長 50m 前後に固まっている。日本郵船では、武者小路実篤記念館と は違い、総動線長・1 回目の座り行動までの動線長いずれも偏り無く 散らばっている。 (図 3-17、3-18 参照)  ちひろ美術館では、総動線長は 300m 前後で固まっているが、1 回目 の座り行動までの動線長は散らばっている。茅ヶ崎市美術館では、 [ 総動線長 2 8 0 m・1 回目の座り行動までの動線長 2 4 0 m ] と[ 総動線長 330m・1 回目の座り行動までの動線長130m]の2 つの固まりがある。 (図

1回目の座り行動までの動線長(m)

3-20、3-21 参照)

総動線長(m) 図 3-17. 武者における 1 回目の座り行動までの動線長と

1回目の座り行動までの動線長(m)

総動線長の散布図

総動線長(m) 図 3-18. 郵船における 1 回目の座り行動までの動線長と      総動線長の散布図 watanabe lab.

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1回目の座り行動までの動線長(m)

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総動線長(m) 図 3-19.  ちひろにおける 1 回目の座り行動までの動線長と

1回目の座り行動までの動線長(m)

総動線長の散布図

総動線長(m) 図 3-20.  茅ヶ崎における 1 回目の座り行動までの動線長と      総動線長の散布図

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第4章

座り行動と鑑賞行動に関する分析

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4-1. 座り目的別延長滞在・鑑賞時間の分析  来館者を座り行動を行った(座った)人と座り行動を行わなかった (座らない)人に分類し分析を行う。

〇平均滞在・鑑賞時間と平均延長滞在・鑑賞時間  日本郵船を除く 3 館で座った人が座らない人より平均滞在時間・平 均鑑賞時間が長い。武者小路実篤記念館では、平均滞在時間は 3 0 . 2 分、平均鑑賞時間では 10.5 分座った人の方が長い。日本郵船では、座 らなかった人がいないので比較はできない。ちひろ美術館では、平均 滞在時間は座った人の方が 2 0 分長かったが、平均鑑賞時間は 1.6 分 しか長くない。茅ヶ崎市美術館では、座った人が平均滞在時間は 11.6 分長く、平均鑑賞時間は 4.0 分長い。 (表 4-1、図 .4-1,4-2、図 4-3、 表 .4-2 参照)

表 4 - 1 . 各館における座り行動の有無別平均滞在・鑑賞時間

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図 4 - 1 .  各館の座った人と座らない人の平均滞在時間

図 4 - 2 .  各館の座った人と座らない人の平均鑑賞時間

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図 4-3. 3 館の延長滞在・鑑賞時間

表 4-2. 3 館の延長滞在・鑑賞時間

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〇 目的別延長滞在・鑑賞時間    小規模博物館において座り行動が滞在時間や鑑賞時間を延長させる ことはわかった。  これまでに、座り目的を端末・本・お茶・カフェ・椅子と分類した が、このなかでも小規模博物館ならではのサービスである本とお茶に ついて分析を行う。本については、武者小路実篤記念館・ちひろ美術 館・茅ヶ崎市美術館で確認されたが武者小路実篤記念館ではサンプル 数が少ないため、ちひろ美術館と茅ヶ崎市美術館の 2 館を使って分析 を行う。お茶については、武者小路実篤記念館と日本郵船の 2 館を 使って分析を行う。 (前出、図 3-2 、3-3 参照)

図3-2 武者と郵船における目的別延べ人数

図3-3. ちひろと茅ヶ崎における目的別延べ人数

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〇座り目的「本」  ちひろ美術館・茅ヶ崎市美術館において、本目的の座り行動をした (以下本を読んだ)サンプル数はそれぞれ 12 人 14 人であった。ちひろ 美術館では本を読んだ人は平均滞在時間が 101.1 分で読まなかった人 と比べ 23.8 分の延びがある。また、鑑賞時間では67.6 分で読まなかっ た人と比べ -0.5 分と延びることはない。茅ヶ崎市美術館においては、 本を読んだ人は平均滞在時間が54.3 分で読まない人とくらべ0.9 分の 延びがあり、平均鑑賞時間は 45.0 分でこちらは読まない人と同じ時 間である。この 2 館において、本目的の座り行動による滞在時間及び 鑑賞時間の延びは確認されなかった。また、相関係数をみても、ほと んど正の相関関係はみられない。 (表 4-3、4-4、4-5,4-6 参照)

表 4-3. ちひろ・茅ヶ崎における本の読み別平均滞在・鑑賞時間と平     均総動線長

表 4-4. ちひろ・茅ヶ崎における各延長時間

表 4 - 5 . ちひろにおける本の読みと滞在・鑑賞時間との相関

表 4-6. 茅ヶ崎における本の読みと滞在・鑑賞時間との相関

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〇座り目的「お茶」  武者小路実篤記念館・日本郵船でお茶目的で座り行動をした(以下 お茶を飲んだ)サンプルはそれぞれ 5 人 1 5 人である。武者小路実篤 記念館は、お茶を飲んだ人の平均滞在時間は 48.4 分で飲まなかった 人と比べ、28.1 分長い。また、平均鑑賞時間では 43.6 分で飲まなかっ た人よりも 2 8 . 6 分長い。平均延長座り時間では - 0 . 5 分と延びは無 かった。日本郵船においてはお茶を飲まなかった人がいなかったた め、飲まない人とは比較はできなかった。武者小路実篤記念館ではお 茶の平均座り時間は 14.8 分で、日本郵船と比べ 4.8 分長い。  武者小路実篤記念館では、お茶目的の座り行動が滞在時間・鑑賞時 間の延びにつながっている。相関係数をみると滞在時間には R = 0.62、鑑賞時間には R=0.64 で、やや正の相関関係がみられる。 (表 47,4-8,4-9 参照)

表 4-7. 武者と郵船におけるお茶の飲み別平均滞在・鑑賞時間と平均     総動線長

表 4-8. 武者と郵船における各延長時間

表 4-9. 武者におけるお茶の飲みと滞在・鑑賞時間との相関

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〇 目的別座り回数による重回帰分析   「本」と「お茶」に関して鑑賞行動との関係はわかったが、実際の 鑑賞行動ではいくつか座り目的があり複数回座ることもあり得る。  正の相関関係が見られる武者小路実篤記念館について「滞在時間」 「鑑賞時間」を目的変数、座り目的である「端末」 「本」 「お茶」 「椅子」 を説明変数として、重回帰分析を行う。また、同様に日本郵船におい ても重回帰分析を行う。ちひろ美術館と茅ヶ崎市美術館においては、 他の目的についての相関をみる。

●武者小路実篤記念館 - 滞在時間  武者小路実篤記念館での滞在時間の目的別座り回数についての回帰 分析では、椅子の係数が -2.26 と負の値になったが R=0.86 、R * 2= 0.74、R **2 = 0.64 という比較的精度の高い分析結果となった。回帰式 は、  y = (-2.26087) x 1 + 25.34783 x 2 + 89 x 3 + 50.91304 x4 y:滞在時間 x 1 :椅子の回数 x 2:端末の回数 x 3 :本の回数 x 4 :お茶の回数 となる。 (表 4-10 参照) 表 4-10. 武者での滞在時間の目的別座り回数についての回帰分析概要

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●武者小路実篤記念館 - 鑑賞時間  武者小路実篤記念館の鑑賞時間の目的別座り回数についての回帰分 析では、R=0.68、R * 2= 0.46、R **2 = 0.30 と滞在時間と比べ、精度は あまり高くない分析結果となった。回帰式は、  y = (-0.73913) x 1 + 21.65217 x 2 + 30 x 3 + 35.08696 x4 y:鑑賞時間 x 1 :椅子の回数 x 2:端末の回数 x 3 :本の回数 x 4 :お茶の回数 となる。 (表 4-11 参照)

表 4-11. 武者での鑑賞時間の目的別座り回数についての回帰分析概要

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●日本郵船 - 滞在時間  日本郵船での滞在時間の目的別座り回数についての回帰分析では、 R=0.66、R * 2= 0.44、R **2 = 0.26 というあまり精度の高くない分析結 果となった。回帰式は、  y = 28.09091 x 1 + 29.90909 x 2 + 4.954545 x3 y:滞在時間 x 1 :お茶の回数 x 2 :端末の回数 x 3 :椅子の回数 となる。 (表 4-12 参照)

表 4-12. 郵船での滞在時間の目的別座り回数についての回帰分析概要

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●日本郵船 - 鑑賞時間  日本郵船での鑑賞時間の目的別座り回数についての回帰分析では、 R=0.71、R * 2= 0.51、R **2 = 0.34 という滞在時間よりも若干精度の高 い分析結果となった。回帰式は、  y = 17.72727 x 1 + 25.60606 x 2 + 2.636364 x3 y:滞在時間 x 1 :お茶の回数 x 2 :端末の回数 x 3 :椅子の回数 となる。 (表 4-13 参照)

表 4-13. 郵船での鑑賞時間の目的別座り回数についての回帰分析概要

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●ちひろ美術館 - 滞在時間  ちひろ美術館における座り目的と滞在時間・鑑賞時間・総動線長と の相関をみると、いずれも相関係数 R 値は低い。本と滞在時間との相 関係数 R=0.50 が一番高い値である。  茅ヶ崎市美術館における座り目的と滞在時間・鑑賞時間・総動線長 との相関をみると、ちひろ美術館と同様にいずれも相関係数 R 値は低 い。カフェと滞在時間との相関係数 R=0.38 が一番高い値である。 (表 4-14,4-15 参照)

表 4-14. ちひろにおける座り目的と滞在・鑑賞時間・総動線長との相関

表 4-15. 茅ヶ崎における座り目的と滞在・鑑賞時間・総動線長との相関

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4-2. 座り率・利用率・総動線長延び率と椅子の平面配置構成の分析  3-3 より各館の座り率と施設利用率と施設数また基本動線に対する 延び率などは明らかになった。  椅子の設置位置による利用頻度の違いについて分析する。 (図 3 16,3-17 参照)

図 3-16.  館別の座り施設数と座り率・利用率

図 3-17.  基本動線長・平均動線長と伸び率 watanabe lab.

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〇武者小路実篤記念館  武者小路実篤記念館の椅子で一番利用回数が高かったのは、②端末 の椅子である。③お茶が②端末に続き高い。④図書の椅子や⑤図書の 横の椅子⑥の庭の椅子の利用者は確認されなかった。 (図 4 - 4 参照)  また、③お茶のスペースにはビデオが設置されているのを考慮にい れると②とあわせ、この館では端末類を利用できるところで来館者は 座り行動を行う。  武者小路実篤記念館では、お茶のスペースを利用することで動線長 が約 5m くらい長くなるが、サンプルでは平均 15.7m 長くなっている。

図 4-4. 場所別利用回数

利用度

図 4-5.  椅子の配置場所と利用度 watanabe lab.

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〇日本郵船  日本郵船の椅子で一番利用回数が高かったのは、⑥お茶の椅子であ る。日本郵船では、来館者全員に入館時に飲み物が飲める専用コイン を渡しそれを使って飲み物を飲むようになっている。そのため、来館 者全員が⑥お茶のスペースに立ち寄る。また、このスペースの横はガ ラス窓になっており、みなとみらい 2 1 地区や東京湾が望めるように なっている。そのため、座って飲み物を飲む人が多い。この⑥お茶の スペースが充実しているためか、他の施設を利用する人は少ない。 (図 4-6 参照)  ⑥お茶を利用すると動線長が約 5 m 長くなるが、サンプルは平均 23.2m 動線が長くなっている。

図 4-6. 場所別利用回数 利用度

図 4-7.  椅子の設置場所と利用度 watanabe lab.

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〇ちひろ美術館  ちひろ美術館では、椅子の使用度は 90% を越える高さであった。そ のなかでも、一番利用回数が高かったのは、⑥図書の椅子である。次 に高いのは④ホールで、⑩カフェと続く。  ⑥図書の椅子や⑩カフェの椅子は、利用目的は主に本を読むためや お茶・軽食を摂るためのものである。④ホールの椅子の利用目的の多 くは「外を眺める」であった。④ホールの椅子の前は全面ガラスに なっており、外を眺められるようになっている。 (図 4 - 8 参照)  ⑥図書を利用すると動線長が約 18m 長くなり、⑥以外の座り施設で は、⑦図書2・⑧ 2 F 廊下・⑨こども部屋・⑫ショップの椅子がそれ ぞれ、約 18,6,18,15m 長くし、その他の座り施設は基本動線上にあり ほとんど動線長の延びには影響しない。椅子の利用頻度から見て、④ ホール・⑥図書1が動線長に影響をしている。しかし、サンプルでは 約 3 9 m 長くなっているのは、実際は椅子を利用しなくとも図書や ミュージアムショップに立ち寄ることがあるからである。 (図 4-9 参 照)

図 4-8. 場所別利用回数

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利用度

1F

2F 図 4-9. 椅子の場所と利用度

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〇茅ヶ崎市美術館  茅ヶ崎市美術館では、椅子の使用度は 57.1% と座り率 71.0% と比べ ると低くなっている。一番利用回数が高かった椅子は、③展示室 B 1 内の椅子である。④展示室 1 F ・⑥カフェの椅子が次に利用回数が高 い。 (図 4-10 参照)  ③展示室 B1 や④展示室 1F の椅子は主に本を読むために利用されて おり、⑥カフェの椅子は軽食やコーヒーを飲むために利用されてい る。  茅ヶ崎市美術館の椅子は⑥カフェ・⑦カフェの前喫煙所以外の椅子 は基本動線上にあり、動線の延びにはほとんど影響がない。⑥カ フェ・⑦カフェの前喫煙所を利用すると約 30m 前後長くなる。しかし、 サンプルでは、平均 51.4m の動線長の延びがある。これは、展示室内 において、多くの人が複数回同じ絵を見るために戻る行為をしている からである。

図 4-10. 場所別利用回数

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B1

1F

利用度 2F 図 4-11. 椅子の場所と利用度

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第5章  考察

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第3章のアンケート集計、 第4章の分析結果をもとに小規模博物館にお ける座り行動と鑑賞行動の関係を考察する。

〇座り実態  [図 3-16. 館別の座り施設数と座り率・利用率] より、4館全てで 高い座り率が確認された。特に、日本郵船とちひろ美術館では 80% 以 上の人が座り行動を行っている。しかし、座り施設に対する利用率を みるとちひろ美術館を除く 3 館では 60% 前後で利用されている座り施 設に偏りがある。  主な座り目的は、 [図3-2. 武者と郵船における目的別延べ人数][図 図 3-16. 館別の座り施設数と座り率・利用率

3-3. ちひろと茅ヶ崎における目的別延べ人数][図3-5. ちひろにお ける椅子の目的] より、本を読むやお茶などが多い。また、いずれの 館においても何かしら目的をもって座り行動をしている。  座り時間をみると、武者小路実篤記念館・日本郵船・茅ヶ崎市美術 館では 1 0 分前後であるが、ちひろ美術館は 18.7 分と長い。これは、 主にカフェ・本利用によるものであるが、これは他の館と比べ座りス ペースの建築的環境の違いからだと考えられる。

図3-2. 武者と郵船における目的別延べ人数

利用施設に偏りがある武者小路実篤記念館・日本郵船・茅ヶ崎市美 術館においては、座り目的もある程度一様化されているが、利用施設 に偏りが少ない、ちひろ美術館においては座り目的も多様化してい る。座り施設を設置する時には、目的を考慮し設置する事で利用施設 の偏りを軽減させる一つの手段であると考えられる。

図3-3. ちひろと茅ヶ崎における目的別延べ人数

図3-5.ちひろ美術館における椅子の目的

図3-6.各館における平均座り時間

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〇座り行動の効果  [図 4-3. 3 館の延長滞在・鑑賞時間]より座り行動によって滞在時 間だけでなく鑑賞時間も延びが確認された。それぞれ、平均 20.5 分 と 5.4 分である。  本とお茶目的をを中心に、ちひろ美術館・茅ヶ崎市美術館と武者小 路実篤記念館・日本郵船の2つに分けて考察をする。 ●「本」目的―ちひろ美術館・茅ヶ崎市美術館―  [表 4-4. ちひろ・茅ヶ崎における各延長時間]より滞在時間の延び はちひろ・茅ヶ崎ともにあるが、鑑賞時間の延びはほぼない。ちひろ 美術館では、負の値になっている。つまり、本による滞在時間・鑑賞 図 4-3. 3 館の延長滞在・鑑賞時間

時間への影響はほとんど無いと言える。  [表 4-14. ちひろにおける座り目的と滞在・鑑賞時間・総動線長と の相関] より、その他の座り目的においても滞在時間・鑑賞時間との

表 4-4. ちひろ・茅ヶ崎における各延長時間

相関関係はほんど見られない。 [表 4-15. 茅ヶ崎における座り目的と 滞在・鑑賞時間・総動線長との相関] より、茅ヶ崎市美術館において もちひろ美術館と同様に座り行動と滞在時間・鑑賞時間との相関関係 はほとんど見られない。  本による鑑賞行動に対する効果はほとんど確認されなかったが、 [図 3-3. ちひろと茅ヶ崎における目的別延べ人数] より利用頻度の高さか らみると有効なサービスの一つであると言える。

図3-3. ちひろと茅ヶ崎における目的別延べ人数

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●「お茶」目的―武者小路実篤記念館・日本郵船  [表 4-7. 武者と郵船におけるお茶の飲み別平均滞在・鑑賞時間と平 均総動線長]と[表 4-8. 武者と郵船における各延長時間] より、武者 小路実篤記念館においてお茶目的の座り行動により滞在時間で 2 8 . 1 分鑑賞時間で 28.6 分の延びがある。お茶の平均座り時間が 14.8 分で あるのでかなりの延びであると言える。日本郵船においては、全員が お茶目的で座り行動を行ったので、延長時間はわからない。武者小路 実篤記念館のお茶利用者と日本郵船のお茶利用者とを比べると、武者 小路実篤記念館の方が、滞在時間・鑑賞時間が長い。これは、武者小 路実篤記念館では、お茶のスペースにビデオ端末があり、お茶と合わ せてビデオを見る人が多く、これにより座り時間が長くなると考えら れる。また、ビデオ内容が展示内容と関係があるため展示物への関心 も得られ鑑賞時間の延びにつながるのではないか。そのために、動線 長の長さもお茶を飲むために座らなかった人と比べ、30m 以上も長く なっている。  [ 表 4-10. 武者での滞在時間の目的別座り回数についての回帰分析 概要][表 4-11. 武者での鑑賞時間の目的別座り回数についての回帰分 析概要][表 4-12. 郵船での滞在時間の目的別座り回数についての回帰 分析概要]及び[表 4-13. 郵船での鑑賞時間の目的別座り回数について の回帰分析概要] より、各目的別の回帰式の係数が明らかになったが 武者小路実篤記念館・日本郵船のどちらも「お茶」の係数は非常に高 い値になった。これは、 「お茶」目的の座り行動が滞在時間や鑑賞時 間を延ばす効果が大きいと言える。  小規模博物館において、比較的疲労を感じることは少ないが「お 茶」を飲み座ることによって気分転換や軽い休息の効果があり鑑賞時 間を延ばす一つの要因となっていると考えられる。

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〇椅子の平面的配置構成について  椅子の配置を考えるにあたり、展示室が 1 階だけの武者小路実篤・ 日本郵船と展示室が複数階にわたっているちひろ美術館・茅ヶ崎市美 術館の2つに分けて考察する。 ●展示室が 1 階だけ―武者小路実篤記念館・日本郵船―  [図 4-5. 椅子の配置場所と利用度]・[図3-18. 武者における1 回目 の座り行動までの動線長と総動線長の散布図] をみると、武者小路実 篤記念館は「お茶」のスペースがメインの展示室と多少離れている。 このために、展示を鑑賞した後に「お茶」のスペースに行く人が多く、 利用者の座り行動までの動線の長さが一様になってしまうと考えられ る。  [図 4-7. 椅子の配置場所と利用度]・[図3-19. 郵船における1 回目 の座り行動までの動線長と総動線長の散布図] をみると、日本郵船の 方はメインの展示室と隣接している。そのため、展示鑑賞中に「お茶」 のスペースに気づき自分の好きなタイミングで「お茶」を利用するこ とができる。そのために、座り行動までの動線長が一様にならず散ら ばっていると考えられる。

利用度

武者小路実篤記念館と日本郵船の2つから考察すると、展示室が 1 階しかない博物館には、メインの座り施設に利用者が集まりやすい。 そのため、座りスペースをメインの展示室の中または隣接したスペー スに設置し、利用者が鑑賞中に確認ができるようにして自分の好きな タイミングで利用してもらう。これによって利用者が座り施設に集中 し、座れないという状況を防ぎ、快適に利用してもらうことが望まし い。

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●展示室が複数階にある  [図 4-9. 椅子の場所と利用度][図 3-20. ちひろにおける 1 回目の座 り行動までの動線長と総動線長の散布図] より、ちひろ美術館では総 動線長は、300m 前後で固まっているが、1 回目の座り行動までの動線 長にはばらつきがみられる。これは、座り施設が基本動線上にたくさ んあるために利用施設のばらつきによるものと考えられる。また、外 部との関係が強い椅子ほど利用率が高くなっているのがわかる。  また[図 4-11. 椅子の場所と利用度][図3-21. 茅ヶ崎における1 回目 の座り行動までの動線長と総動線長の散布図] より、茅ヶ崎市美術館 では座り行動からみて二つの鑑賞パターンがある。一つは、最初の展 示室で座る人。もう一つは 2 つ目の展示室で座る人である。前者の場 合は、総動線長が 330m 程度で後者の場合は 240m 程度である。これよ り、座り行動は鑑賞行動のうちの始めの方に座った方が総動線長が延 びることがわかる。

ちひろ美術館・茅ヶ崎市美術館の二つから考察すると、展示室が複 数階にある場合は、基本動線上に椅子をたくさん置くことで一つの椅 子に集中することを防げる。また、置く場所としては外部との関係が 強い所に置くことで利用率が高くなる。最後に、鑑賞行動の早い時期 に座り行動をさせることで総動線長が長くなることがわかった。

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参考文献

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〇参考文献 <論文> 成瀬功、中村良三、渡辺仁史、鈴木大二、池田浩敬、今井康博 『 「美術館疲れ」と美術館のスケールに関する研究』 日本建築学会学術講演梗概集 p1433-1434 1984.10 守屋秀夫、神保倫章 『美術館における観客の休息行為』 日本建築学会学術講演梗概集 p1641-1642 1984.10 鈴木裕美、仙田満、佐々木省吾 『利用者の行為からみた美術館のエントランスホール・ロビーに関す る研究』 日本建築学会学術講演梗概集 p115-116

1998.9

鈴木靖一、小作玲、木村謙、山口有次、林田和人、渡辺仁史 『休憩の滞在時間・機能利用数に及ぼす効果 大規模施設における休 憩行動の効果に関する研究その 1 』 日本建築学会学術講演梗概集 p405-406

1998.9

小作玲、鈴木靖一、木村謙、山口有次、林田和人、渡辺仁史 『休憩の移動に及ぼす効果 大規模施設における休憩行動の効果に関 する研究その 2 』 日本建築学会学術講演梗概集 p407-408

1998.9

大島秀明、天野克也、武田元樹、谷口汎邦 『施設利用目的からみた美術館利用者の実態について −公園内立地 美術館の施設利用と座り行為・座りスペースに関する研究その 1 −』 日本建築学会学術講演梗概集 p413-414

2001.9

武田元樹、大島秀明、天野克也、谷口汎邦 『施設利用目的からみた座り行為と座りスペースについて −公園内 立地美術館の施設利用と座り行為・座りスペースに関する研究その 2 −』 日本建築学会学術講演梗概集 p415-416

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小規模博物館における座り行動に関する研究

工藤勲、三橋伸夫 『待ち合い・休憩空間の評価特性に関する研究 −宇都宮市内 6 施設 を対象として−』 日本建築学会学術講演梗概集 p925-926

2001.9

大島秀明、天野克也、谷口汎邦 『立ち歩行利用から見た公共美術館における利用前後条件と座り行為 に関する研究』 日本建築学会計画系論文集 p141-148

2000.6

大島秀明、天野克也、谷口汎邦 『公共美術館における利用特性からみた座りスペースと座り行為に関 する研究』 日本建築学会計画系論文集 p159-165

2001.7

大島秀明、天野克也、谷口汎邦 『美術館利用者の1日外出行動における座り行為の実態に関する研究』 日本建築学会計画系論文集 p171-178

2001.12

<図書> 彰国社編 『ミュージアム図鑑 博物館・美術館・資料館の魅力と吸引力』 1997.7 日本建築学会編 『コンパクト 建築設計資料集成』 1990.10 椎名仙卓 『図解 博物館史<改定増補>』 雄山閣出版株式会社 2000.3 社団法人 日本博物館協会編 『博物館白書 昭和五七年版』 1983.3

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小規模博物館における座り行動に関する研究

倉田公裕、矢島國雄 『新編 博物館学』 株式会社東京堂出版 1997.8 日本博物館協会編集 『全国博物館総覧 上巻』 株式会社ぎょうせい 1978.1 日本博物館協会編集 『全国博物館総覧 下巻』 株式会社ぎょうせい 1978.1 製作 財団法人日本博物館協会 製作協力 株式会社ぎょうせい 『全国博物館総覧 CD-ROM 版 −全国編−』 1999.3

<ウェブサイト> 博物館∞情報工房 - インターネットミュージアム http://www.museum.or.jp 2000 年度開設博物館情報 http://www.museum.or.jp/IM/report/pdf/MD54-54.pdf 1999 年度開設博物館情報 http://www.museum.or.jp/IM/report/pdf/MD50-43.pdf 1998 年度開設博物館情報・リニューアル博物館リスト http://www.museum.or.jp/IM/report/data_bank/pdf/6-9911.pdf 1997 年度開設博物館情報 http://www.museum.or.jp/IM/report/data_bank/98D-new/index.html 1996 年度開設博物館情報 http://www.museum.or.jp/IM/report/data_bank/97D/index.html 1995 年度開設博物館情報 http://www.museum.or.jp/IM/report/data_bank/96N/D1001.html 武者小路実篤記念館 http://www.mushakoji.org/ 日本郵船歴史資料館 http://www.nykline.co.jp/rekishi/

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小規模博物館における座り行動に関する研究

ちひろ美術館・東京 http://www.chihiro.jp/ 茅ヶ崎市美術館 http://www.city.chigasaki.kanagawa.jp/museum/index.html 博物館の博物館(KOJI Matsushita_WWW Museum) http://candy.hus.osaka-u.ac.jp/esthome/matusita/Museum/ Museum.html 全国博物館・美術館ガイド by SPACE MODULATOR http://www.nsg.co.jp/spm/museum/index.html 10 + 1-2002.10.9 日号 http://tenplusone.inax.co.jp/index.html http://tenplusone.inax.co.jp/dialogue/dialogue1_1.html http://tenplusone.inax.co.jp/dialogue/dialogue1_2.html http://tenplusone.inax.co.jp/dialogue/dialogue3.html http://tenplusone.inax.co.jp/dialogue/dialogue4_1.html http://tenplusone.inax.co.jp/dialogue/dialogue4_2.html http://tenplusone.inax.co.jp/dialogue/dialogue4_3.html http://tenplusone.inax.co.jp/dialogue/dialogue4_4.html http://tenplusone.inax.co.jp/dialogue/dialogue4_5.html http://tenplusone.inax.co.jp/dialogue/dialogue4_6.html

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小規模博物館における座り行動に関する研究

おわりに  今、こうして無事に論文を書き終え提出することができました。渡 辺仁史先生、長澤夏子さん、他ここに書ききれないほどの多くの皆さ んにご教示いただき、本研究の内容をより充実したものにすることが できました。ここに記すことによって感謝の意を表したいと思いま す。  また、快く調査にご協力いただきました博物館・美術館の皆様に改 めて厚く御礼を申し上げます。

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付録

資料編

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〇アンケート用紙  武者小路実篤記念館  日本郵船歴史資料館  ちひろ美術館・東京  茅ヶ崎市美術館 〇アンケート集計  武者小路実篤記念館  日本郵船歴史資料館  ちひろ美術館・東京  茅ヶ崎市美術館 〇調査館 図面  武者小路実篤記念館 平面図 S:1/200  日本郵船歴史資料館 平面図 S:1/50  ちひろ美術館・東京 平面図 S:1/250  茅ヶ崎市美術館   平面図 S:1/150

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