商業施設共用部空間の利用実態に関する研究-商業施設証券化における共用部空間の収益性-

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2002 年度 早稲田大学理工学部建築学科卒業論文

『商業施設共用部空間の利用実態に関する研究』 -商業施設証券化における共用部空間の収益性-

Actual Condition Survey on Utilization of Common Area in Commercial Establishments - Profitability of Common Area in Commercial Establishments at Securitization -

早稲田大学渡辺仁史研究室 今井 幸治


商業施設共用部空間の利用実態に関する研究

-商業施設証券化における共用部空間の収益性-

■はじめに 昨年、東京証券取引所に不動産投資信託(日本版 REIT)の市場が開設された。 低迷する日本経済に対する起爆剤として、不動産市場の流動化・活性化を担う大 きな試みである。私は連日、メディアをにぎわすこの報道をみて、正直、不動産 の証券化というシステムが非常に理にかなったものであるという印象を受けた。 不動産が生み出す収益を投資してくれた人に還元していくという極めて単純な構 造である。超低金利やら株価低迷やらと叫ばれつづけ、銀行が何をやっているの かわからない現在において、比較的高い利回りをもたらす不動産証券化による投 資信託にはそれだけでも魅力を感じた。さらに、この不動産投信は上場すること によって市場の監視を受けることになる。後は多少の実績が伴ってくれば、いく ら貯蓄好きの民族といってもこの優れた金融商品を無視するわけにはいかなくな るだろう。 私は当時からこの不動産投信の根幹、つまり不動産証券化について建築という 視点から何かアプローチできはしないかと考えていた。そして、今年に入り、新 たに上場する不動産投信の中に、商業施設を組み込んだファンドがあらわれ始め たのである。オフィスビルよりもあらゆる点で、強いデザイン性を秘めた商業施 設を対象とすることで建築的な視点による研究が可能となるのではないかと思っ ている。

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商業施設共用部空間の利用実態に関する研究

-商業施設証券化における共用部空間の収益性-

■目次 はじめに 目次

1章 . 序論 1-1. 研究背景 1-2. 研究目的 1-3. 研究概要 1-4. 用語の定義

2章 . 不動産証券化について 2-1. 証券化の種類 2-2. 不動産証券化の仕組み 2-3. 不動産証券化が動き出した背景 2-4. 不動産証券化の効果

3章 . 調査方法 3-1. 対象とした商業施設 3-2. 商業施設利用者アンケート 3-3. 商業施設利用者追跡調査

4章 . 研究結果 4-1. 商業施設利用者アンケート 4-1-1. 利用者の属性 4-1-2. 商業施設の収益に影響する要素 4-1-3. 収益に対する共用部空間デザインの寄与度 4-1-4. 共用部空間デザインに対する意識度 4-1-5. 共用部空間デザインに対する重要度

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4-2. 商業施設利用者追跡調査 4-2-1. 利用者の属性 4-2-2. 商業施設専用部滞在時間の比較

5章 . 考察 5-1. 人の属性 5-2. 共用部空間の位置付け 5-3. 共用部空間の利用による購買活動時間延長 5-4. 共用部空間の収益性

6章 . まとめ 6-1. 結論 6-2. 今後の課題と展望

おわりに 参考文献 調査データ

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■1章.序論 1-1. 研究背景 今日、不動産証券化のニーズは日増しに大きくなっている。不況の続く日本経 済下において、企業は所有する不動産の有効活用を迫られてきた。バブル崩壊か らすでに10 年以上の月日が流れた現在もなお、企業にとって多くの不動産が経 営活動の足かせであるという事実はいうまでもない。 そんな中、不動産の有効活用を目的とした画期的なモデルが米国より持ち込ま れた。これこそ、不動産の証券化である。このモデルが我が国でも機能すれば、 早期の日本経済回復が果たせるのである。 そして、不動産の証券化は着実にその可能性を広げつつある。今年に入り、不 動産の対象をこれまでのオフィスビル中心から、デパートやショッピングセン ター、アウトレットモールといった商業施設に拡大し、その流れを加速し始めて きた。この変化は意匠 ( デザイン ) に身を置く人間にとって不動産証券化という 研究を行う絶好の転機といえよう。 しかし、不動産証券化研究はパイオニアたる大手ディベロッパーを中心として かなりの進展を遂げており、彼らと同じ視点、アプローチでは新奇性・独自性は 発揮できないと思われる。そこで商業施設共用部空間に着目し、その利用実態と いう視点からの研究を試みてみようと思う。

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1-2. 研究目的 まず、商業施設の収益に影響する因子を明らかにし、その中での共用部空間デ ザインの寄与度を数値化する。 次に、商業施設共用部空間の利用実態を分析し、商業施設専用部滞在時間の変 化、つまりは購買活動時間の変化がもたらす収益性をとらえることが本研究の目 的である。

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1-3. 研究概要 以下の手順により、研究を進めることとする。

不動産証券化についての文献調査

対象商業施設のピックアップ

商業施設利用者アンケート 商業施設利用者追跡調査

商業施設の収益に対する共用部 空間デザインの寄与度を抽出

商業施設共用部空間利用の有無による商業施設 専用部滞在時間の変化から収益性を抽出

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1-4. 用語の定義 本論文における<専用部空間>、<共用部空間>、<共用部空間の利用>を以 下の通り定義することとする。 <専用部空間> 本研究において使用されている<専用部空間>とは、商業施設における店舗空 間を指すこととする。 <共用部空間> 本研究において使用されている<共用部空間>とは、商業施設における店舗以 外の空間を指すこととする。具体的には、通路や渡り廊下、階段やエスカレーター、 吹き抜け、休憩所や待機所、トイレなどのある空間を指す。 ※ <専用部空間>と<共用部空間>の境界があいまいな場合は、賃貸借契約で 合意している境界を適用する。 <共用部空間の利用> 本研究において使用されている<共用部空間の利用>とは、<共用部空間>に おける購買活動以外の活動を指すこととする。具体例として、足を止めて休んだ り、友人等と話したりすることや本を読んだり、景色を眺めたりすることが挙げ られる。 ただし、たとえ<共用部空間>においても従業員との会話や、ウィンドウショッ ピングといった購買活動と瞬時に判断できるものは、<共用部空間の利用>とは みなさない。 最後に、<共用部空間の利用>が実際の商業施設においてどのような状況を指 しているのか、一例であるが次ページ以降の図1-1から図1-4に示す。

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以下の図1-1、図1-2は<共用部空間の利用>を示す。

図1-1. 共用部空間の利用状況 ( エスキス表参道 )

図1-2. 共用部空間の利用状況 ( ワイ・エム・スクウェア原宿 )

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以下の図1-3、図1-4は<共用部空間の利用>を示す。

図1-3. 共用部空間の利用状況 ( ラ・フェンテ代官山 )

図1-4. 共用部空間の利用状況 ( ラ・フェンテ代官山 )

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■2章.不動産証券化について 2-1. 証券化の種類 一般に、「証券化」(Securitization) とは「資金調達者が保有する資産を資金 調達者から切り離し、その資産が産み出す金銭を償還原資として、元利金の支 払いを行う商品を発行する金融手法」と定義されている。つまり、ある資産から 生み出されるキャッシュフローを裏付けにして発行される債券やコマーシャル・ ペーパーを利用した資金調達手段である。 簡単な証券化の分類を図2-1に示す。不動産の証券化においては、大別して 特定資産と証券を対応させる「資産対応証券」(Asset Backed Securities)と、 特定資産とは対応せずにファンドへの出資・貸付による「ファンド型証券」とに 区分されている。

金銭債権の証券化

不動産の証券化

流動化型 ( ABS ) 資産流動化商品 特定資産との対応 ファンド型 ( J―REIT ) 資産運用型商品

図2-1. 証券化の分類

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2-2. 不動産証券化の仕組み 不動産の証券化とは、企業などが保有する土地・ビルといった不動産を小口の 証券に仕立て直して投資家に販売し、金融市場を通じて資金調達を図ることであ る。企業にとっては対象となる不動産を実際に売却したのと同じように、①バラ ンスシートから不動産を外して資産を圧縮できる、②不動産の譲渡代金が入るの で借入金返済ができる、などの効果が期待できる。 一方、販売される証券は国債などに比べて利回りが高く、機関投資家や地方銀 行などが大量に購入している。企業サイドと投資家のニーズがマッチする形で市 場規模は順調に拡大しており、証券発行額も年々増加の一途をたどっている。 まず、企業などの証券化主体は、対象不動産を信託し、その受益権を特別目的 会社(SPC :Special Purpose Company)に譲渡する。SPCはその不動産が生 み出す賃貸料収入などの収益を利払いにあてる証券を投資家に向けて発行する。 証券の償還期限には、原則として対象となっている不動産を売却し、元本を償還 することとなる。 しかし、償還時に地価が下落しているような場合には、元本償還の確実性が低 下してしまう。そのため実際の証券化では、売却代金を優先的に償還資金にあて る格付けの高い証券(債券部分)から、地価変動によって償還額が大きく変動す る証券(劣後部分)まで各種の証券を作って販売している。 当然、投資家に人気が高いのは格付けの高い証券であり、売れ残りやすい劣後 部分は証券化主体の企業が抱え込むケースも少なくない。こうした場合は対象不 動産を完全に企業から切り離したことにはならず、日本公認会計士協会では劣後 部分を5%以上、証券化主体が保有する場合には、バランスシートから当該不動 産を分離することを認めないとする指針を打ち出し、波紋を広げている。これで はバランスシートを悪化させ、さらなる特別損失を発生させる可能性があり、企 業にとってはまったくプラスにならない。利点の多い不動産証券化であるが、こ ういった課題も残されていることを忘れてはならないだろう。 最後に、不動産証券化のスキームを対象物件が既存不動産の場合と開発型物件 の場合にわけて、次ページ図2-2、図2-3に示す。

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以下の図2-2は、既存不動産を対象とした不動産証券化の仕組みを示す基 本的なスキームである。

ユーザー 賃借人

賃貸借契約

信託 銀行

投資家A

優先ローン

投資家B

劣後ローン

投資家C

出資

信託 配当

信託受益権

不動産 オーナー

SPC

信託受益権売却

図2-2. 不動産証券化の仕組み(既存不動産の場合の基本的なスキームの例)

また、以下の図2-3は、開発型物件を対象とした不動産証券化の仕組みを 示す基本的なスキームである。

ユーザー 賃借人

ゼネコン

賃貸借契約

土地 土地購入

投資家A

優先ローン

投資家B

劣後ローン

投資家C

出資

工事発注

SPC 賃貸人

図2-3. 不動産証券化の仕組み(開発型の物件の場合の基本的なスキームの例 )

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2-3. 不動産証券化が動き出した背景 本来、不動産というのは「所有」していることに意味があるのではなく、 「活用」 することに意味があるのであり、「所有」はその手段のひとつである。 しかし、我が国においては不動産はそれ自体の価値が上昇するという「不動 産神話」が長く支配しており、不動産によって得るのは「転売利益」であり、 不動産は「所有することに意義がある」と考えられてきた。また、不動産は「担 保設定の対象」として、企業の借り入れのためにはなくてはならないものでも あり、言うなれば、不動産の価値は「当該不動産の交換価値」と捉えられてき たのである。 バブル崩壊後は地価の下落が継続し、銀行も不動産があるだけでは容易に融 資しないなどの貸し渋りも問題となってきた。つまり、不動産を所有している だけでは資金調達も難しくなり、また、銀行も借入先としてはあてにならない 状況になってきたともいえる。万事が上手く運んだ右肩上がりの経済ではなく なり、地価の下落に歯止めのかからない今日においては、これまでの我が国に おける資金調達手段は岐路にさしかかっているといえよう。 そこで、我が国においても、企業が一般市場から広く有効に資金を直接調達 する必要に迫られ、また、そのシステムを構築する必要が生じてきた。 一般市場からの直接資金調達のためには、投資家が容易に投資できるシステ ムが必須であり、そのためには「小口化」、「証券化」は不可欠な要素といえる。 また、投資対象として市場に出す以上は「安定性」、「安全性」も不可欠なも のである。そこで、証券市場における発展が顕著な米国の不動産証券を参考に、 平成 12 年 5 月には「資産の流動化に関する法律(資産流動化法)」及び「投資 信託及び投資法人に関する法律(投信法)」が改正されて、我が国でも不動産の 証券化が本格的に離陸するに至ったのである。 ※「資産の流動化に関する法律」(平成 10 年 6 月 15 日法律第 105 号・平成 12 年 11 月 27 日法律第 126 号改正) 旧「特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律」(平成 10 年 9 月施行)を改正。俗に言う「SPC 法」。

※ 「投資信託及び投資法人に関する法律」(昭和 26 年 6 月 4 日法律第 198 号・平成 12 年 11 月 27 日法律第 126 号改正) 旧「証券投資信託及び証券投資法人に関する法律」を改正。

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2-4. 不動産証券化の効果 不動産を証券化することによって不動産所有者 (Originator)は以下のような 効果が得られる。

(1) 資金調達が多様化 企業自体の信用力(Corporait Finance)に左右されることなく、一般市場 からも直接に資金調達をすることが可能

(2) 保有不動産の分離による資産圧縮(オフバランス効果)

(3) 有利子負債削減・運転資金の調達

(4) その他 大規模プロジェクトなどの展開や新規事業の開始など、収益予測に困難が 伴う場合などに、資金を証券化して調達し、販売代金で償還するという方 式をとれる。

なお、(2) のオフバランス効果とは、不動産の売却により企業のバランスシー トを健全化させる効果のことである。詳細は次ページ、図2-4に示す。

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バランスシート

負債

負債 の 削減

オフバランスされる

資産 の 圧縮

証 券 化 す 資産売却 る 不 動 産 により削 (固定資産) 減 さ れ る 負債

負債 総資産

資本

資本

利益

利益

自己資本

総資産

図2-4. オフバランス効果

図2-4のようなオフバランスがなされると、 ①自己資本比率が増加する ②固定比率(固定資産/自己資本 ×100%)が減少する ③資本負債比率が減少する というようにバランスシートからは企業の体質が改善されたように見せること ができる。 また、利益を維持することができれば、 ④総資産利益率が増加する という点でも、効果が上がっているように見ることができる。

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■3章.調査方法 3-1. 対象とした商業施設 まず、エスキス表参道を本研究の対象商業施設としてピックアップする。こ こは既に日本リテールファンド投資法人によって証券化が実施されており、今 日の商業施設証券化事例のパイオニア的物件といえる。 また、1ヶ所による調査ではデータに良くも悪くも偏りが生じ、説得力にも 欠ける可能性が大きいため、エスキス表参道から距離にして約100mの地点 に存在するワイ ・ エム・スクウェアを2ヶ所目としてピックアップする。 さらに、上記の表参道/原宿エリアと類似した街並みをもつ代官山エリアか ら同じく2ヶ所の商業施設をピックアップすることにより、計4ヶ所での調査 を行うこととする。代官山エリアからは、代官山アドレス及びラ・フェンテ代 官山を調査対象としてピックアップする。 エスキス表参道以外の3施設も今後、十分に証券化が期待される優良物件で ある。言うまでもなく決してランダムに選考したわけではないが、今回対象と している商業施設はデパートや大型スーパーといった類のものではないため、 あちこちに存在するということはありえない。よって、比較しやすい似たよう な物件というものは正直のところ、皆無であった。しかし、そうした状況を加 味しつつ、エスキス表参道とできるだけ多くの共通点をもった商業施設を選び、 調査することで何らかの違いが見えてくれば、それはそれで大きな収穫といえ よう。 商業施設の共通点に関しては、本論文における着眼点、つまり共用部空間の 視点から見出してみることとする。共用部空間の利用実態を分析するには、共 用部空間の構成要素に何らかの共通点が必要となってくるだろう。次ページに ある表3-1、表3-2、表3-3は共用部空間構成要素からみた対象4施設 のデータである。

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表3-1. 共用部空間データ ( エスキス表参道/ワイ ・ エム ・ スクウェア )

商業施設

エスキス表参道

ワイ ・ エム ・ スクウェア

共用部空間構成要素

有○ or 無 ×

有○ or 無 ×

屋内通路 屋外通路 吹き抜け 階段 エスカレーター エレベーター 休憩空間 ( 開放型 ) 休憩空間 ( 非開放型 ) 屋内広場 屋外広場 テラス トイレ

○ × ○ ○ × × ○ × × × × ○

○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ × × × ○ ○

表3-2. 共用部空間データ ( 代官山アドレス/ラ ・ フェンテ代官山 )

商業施設 共用部空間構成要素 屋内通路 屋外通路 吹き抜け 階段 エスカレーター エレベーター 休憩空間 ( 開放型 ) 休憩空間 ( 非開放型 ) 屋内広場 屋外広場 テラス トイレ

代官山アドレス 有○ or 無 × ○ ○ ○ ○ ○ ○ × × × × ○ ○

ラ ・ フェンテ代官山 有○ or 無 × ○ ○ × ○ ○ × ○ × × × × ○

表3-3. 共用部空間構成要素の定義

共用部空間構成要素 屋内通路 屋外通路 吹き抜け 階段 エスカレーター エレベーター 休憩空間 ( 開放型 ) 休憩空間 ( 非開放型 ) 屋内広場 屋外広場 テラス トイレ

定義 商業施設内にある通路。底面が水平または斜めのものに限る。 商業施設外にある通路。底面が水平または斜めのものに限る。 商業施設内にあり、天井・床を設けずに数階を貫通させた構造。 段になった昇降用の通路。 動力で階段が移動し、自動で昇降できる装置。 動力で上下に運搬できる装置。 商業施設内にあるイスなどが用意された空間。10 人未満の利用。開放型は間仕切りなし。 商業施設内にあるイスなどが用意された空間。10 人未満の利用。非開放型は間仕切りあり。 商業施設内にあるイスなどが用意された空間。10 人以上の利用。 商業施設外にあるイスなどが用意された空間。10 人以上の利用。 景観を楽しむために設置した空間。 便所。手洗所。化粧室。

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また、対象商業施設4ヶ所の簡単なデータを表3-4、表3-5及び図3-1、 図3-2、図3-3、図3-4に示す。 表3-4. 商業施設データ ( エスキス表参道/ワイ ・ エム ・ スクウェア )

名称 所在地 階数 延床面積 敷地面積

エスキス表参道 東京都渋谷区神宮前 5-10-1 地上 5 階/地下 2 階 7337.8 ㎡ 1455.8 ㎡

ワイ ・ エム ・ スクウェア原宿 東京都渋谷区神宮前 4-31-3 地上 6 階/地下 2 階 5999 ㎡ 1626 ㎡

図3-1. エスキス表参道

図3-2. ワイ ・ エム ・ スクウェア原宿

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表3-5. 商業施設データ ( 代官山アドレス/ラ ・ フェンテ代官山 )

名称 所在地 階数 延床面積 敷地面積

代官山アドレス ( 商業施設のみ ) 東京都渋谷区代官山町 10 - 60 地上 3 階/地下 2 階 96786.53 ㎡ ( 住宅含む ) 17262 ㎡ ( 住宅含む )

ラ・フェンテ代官山 東京都渋谷区猿楽町 11-1 地上 3 階/地下 1 階 6920.8 ㎡ 3250.6 ㎡

図3-3. 代官山アドレス

図3-4. ラ ・ フェンテ代官山

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3-2. 商業施設利用者アンケート 4ヶ所の商業施設において施設を利用した人を対象に、アンケートを実施し た。実施要綱は以下の通りである。 ①代官山アドレス 2002年 9月16日 ( 月 ) AM11:15~PM 2:00 実施人数 : 3 有効回答数 : 48 ②ラ ・ フェンテ代官山 2002年 9月16日 ( 月 ) PM 2:30~PM 4:00 実施人数 : 2 有効回答数 : 27 ③エスキス表参道 2002年 9月16日 ( 月 ) PM 3:00~PM 5:00 実施人数 : 2 有効回答数 : 35 ④ワイ ・ エム ・ スクウェア原宿 2002年 9月16日 ( 月 ) PM 5:30~PM 7:00 実施人数 : 2 有効回答数 : 24 有効回答数の合計は、134人であった。アンケート内容は次ページ以降に 示す。

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代官山アドレスにおけるアンケート内容は以下の通りである。

―アンケート― 早稲田大学理工学部建築学科 渡辺仁史研究室 今井幸治

□ 男性 □ 女性 □ 10 代 □ 20 代 □ 30 代 □ 40 代 □ 50 代 □ 60 代以上 ●何故、代官山アドレス を利用しましたか?(チェックして下さい 複数回答可)

□ 代官山にあるから

□ 駅から近いから・大通りに面しているから

□ 建物のデザインが気に入ったから

□ 共用部空間が気に入っているから □ 好きな店舗が入っているから

□ 広告、HP 等を見たから・人に聞いたから

□ その他 → ( )

●実際に 代官山アドレス を利用してみて、共用部空間を意識されましたか? (どれか1つをチェックして下さい)

□ 意識しなかった □ どちらともいえない □ 意識した

●あなたにとって、共用部空間は重要なものですか? (どれか1つの数字に○をつけて下さい)

1 2 3 4 5 あまり < ふつう < 非常に

以上、お疲れさまでした。

※ 上記にある共用部空間とは、店舗以外の空間、例えば、通路や 渡り廊下、階段やエスカレーター、休憩所などのある空間です。 図3-5. アンケート用紙 ( 代官山アドレス )

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ラ・フェンテ代官山におけるアンケート内容は以下の通りである。

―アンケート― 早稲田大学理工学部建築学科 渡辺仁史研究室 今井幸治

□ 男性 □ 女性 □ 10 代 □ 20 代 □ 30 代 □ 40 代 □ 50 代 □ 60 代以上 ●何故、ラ・フェンテ代官山 を利用しましたか?(チェックして下さい 複数回答可)

□ 代官山にあるから

□ 駅から近いから・大通りに面しているから

□ 建物のデザインが気に入ったから

□ 共用部空間が気に入っているから □ 好きな店舗が入っているから

□ 広告、HP 等を見たから・人に聞いたから

□ その他 → ( )

●実際に ラ・フェンテ代官山 を利用してみて、共用部空間を意識されましたか? (どれか1つをチェックして下さい)

□ 意識しなかった □ どちらともいえない □ 意識した

●あなたにとって、共用部空間は重要なものですか? (どれか1つの数字に○をつけて下さい)

1 2 3 4 5 あまり < ふつう < 非常に

以上、お疲れさまでした。

※ 上記にある共用部空間とは、店舗以外の空間、例えば、通路や 渡り廊下、階段やエスカレーター、休憩所などのある空間です。 図3-6. アンケート用紙 ( ラ・フェンテ代官山 )

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エスキス表参道におけるアンケート内容は以下の通りである。

―アンケート― 早稲田大学理工学部建築学科 渡辺仁史研究室 今井幸治

□ 男性 □ 女性 □ 10 代 □ 20 代 □ 30 代 □ 40 代 □ 50 代 □ 60 代以上 ●何故、エスキス表参道 を利用しましたか?(チェックして下さい 複数回答可)

□ 表参道/原宿にあるから

□ 駅から近いから・大通りに面しているから

□ 建物のデザインが気に入ったから

□ 共用部空間が気に入っているから □ 好きな店舗が入っているから

□ 広告、HP 等を見たから・人に聞いたから

□ その他 → ( )

●実際に エスキス表参道 を利用してみて、共用部空間を意識されましたか? (どれか1つをチェックして下さい)

□ 意識しなかった □ どちらともいえない □ 意識した

●あなたにとって、共用部空間は重要なものですか? (どれか1つの数字に○をつけて下さい)

1 2 3 4 5 あまり < ふつう < 非常に

以上、お疲れさまでした。

※ 上記にある共用部空間とは、店舗以外の空間、例えば、通路や 渡り廊下、階段やエスカレーター、休憩所などのある空間です。 図3-7. アンケート用紙 ( エスキス表参道 )

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ワイ・エム・スクウェア原宿におけるアンケート内容は以下の通りである。

―アンケート― 早稲田大学理工学部建築学科 渡辺仁史研究室 今井幸治

□ 男性 □ 女性 □ 10 代 □ 20 代 □ 30 代 □ 40 代 □ 50 代 □ 60 代以上 ●何故、ワイ・エム・スクウェア原宿 を利用しましたか?(チェックして下さい 複数回答可)

□ 表参道/原宿にあるから

□ 駅から近いから・大通りに面しているから

□ 建物のデザインが気に入ったから

□ 共用部空間が気に入っているから □ 好きな店舗が入っているから

□ 広告、HP 等を見たから・人に聞いたから

□ その他 → ( )

●実際に ワイ・エム・スクウェア原宿 を利用してみて、共用部空間を意識されましたか? (どれか1つをチェックして下さい)

□ 意識しなかった □ どちらともいえない □ 意識した

●あなたにとって、共用部空間は重要なものですか? (どれか1つの数字に○をつけて下さい)

1 2 3 4 5 あまり < ふつう < 非常に

以上、お疲れさまでした。

※ 上記にある共用部空間とは、店舗以外の空間、例えば、通路や 渡り廊下、階段やエスカレーター、休憩所などのある空間です。 図3-8. アンケート用紙 ( ワイ・エム・スクウェア原宿 )

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-商業施設証券化における共用部空間の収益性-

このアンケート調査による調査項目は以下の通りである。

(1)性別 (2)年齢 (3)商業施設の収益性に影響する各要素の寄与度 施設を実際に利用した人間が何によってその施設へと集客 ( ≒収益 ) されたのかがわかれば、収益への寄与度が出せる。 (4)共用部空間の意識度 3択一式。意識しなかった/わからない/意識した (5)共用部空間の重要度 5段階による評価。1: 低い ~ 5: 高い

また、(2)において商業施設の収益性に影響する各要素とあるが、この構成 要素に関しては4章の研究結果にて触れる事とする。

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商業施設共用部空間の利用実態に関する研究

-商業施設証券化における共用部空間の収益性-

3-3. 商業施設利用者追跡調査 4ヶ所の商業施設において施設利用者に対し、追跡調査を実施した。商業施 設に入ってから再びそこを出るまでの間、施設利用者の行動特性時間を本人に 察知されないようにストップウォッチで計測してみた。この追跡調査の実施要 綱は以下の通りである。

①代官山アドレス 2002年 10月23日 ( 水 ) AM10:50~PM8:30 2002年 10月27日 ( 日 ) AM11:30~PM8:30 2002年 10月29日 ( 火 ) PM 2:50~PM5:30 実施総人数 : 6 調査結果数 : 100

②ラ ・ フェンテ代官山 2002年 10月23日 ( 水 ) AM11:30~PM8:30 2002年 10月27日 ( 日 ) AM11:00~PM8:30 2002年 10月29日 ( 火 ) AM11:30~PM2:30 実施総人数 : 3 調査結果数 : 100

③エスキス表参道 2002年 10月24日 ( 木 ) AM11:00~PM7:45 2002年 10月26日 ( 土 ) AM11:00~PM7:30 2002年 10月29日 ( 火 ) AM 3:30~PM5:30 実施総人数 : 5 調査結果数 : 100

④ワイ ・ エム ・ スクウェア原宿 2002年 10月24日 ( 木 ) AM11:35~PM7:30 2002年 10月26日 ( 土 ) AM10:45~PM8:00 2002年 10月29日 ( 火 ) AM 3:15~PM5:00 実施総人数 : 4 調査結果数 : 100 HITOSHI WATANABE Lab. Waseda Univ. 2002

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商業施設共用部空間の利用実態に関する研究

-商業施設証券化における共用部空間の収益性-

また、この追跡調査による調査項目は、以下の通りである。

(1)性別 (2)年齢 (3)人数 (4)商業施設共用部合計時間 (5)商業施設専用部合計時間 (6)商業施設共用部利用合計時間

各施設で100個のサンプル、全施設では計400個のサンプルとなった。

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-商業施設証券化における共用部空間の収益性-

■4章.研究結果 4-1. 商業施設利用者アンケート 4-1-1. 利用者の属性 性別及び年齢については、以下の通りである。

1. 性別

図4-1. 商業施設利用者の属性 ( 性別 )

利用者134人の内訳は、男性47人、女性87人であった。割合になおす と男性が約35%、女性が約65%を占めていたことになる。 この数値から女性が商業施設をよく利用していることがうかがえる。

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2. 年齢

図4-2. 商業施設利用者の属性 ( 性別及び年齢 )

年齢層に関しては20代が最も多く、半数以上を占めている。次いで、10 代が多く、すぐ後に30代がきている。 40代以降の中年層の割合が、10代、20代、30代といった若年層のそ れに比べて極めて低くなっている。40歳前後を境目として大きな二極化の傾 向が顕著である。 また、すべての年齢層において男性よりも女性が多くなっている。

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-商業施設証券化における共用部空間の収益性-

4-1-2. 商業施設の収益に影響する要素 商業施設において収益力 ( ≒集客力 ) は、大別して6個の要素に分かれると 考えられる。その6個にそれぞれ付随する事項をアンケートの質問として施設 利用者に聞いてみた。6個は以下の通りである。 ①土地 どこに商業施設が存在しているのかなど ②立地条件 駅から近いところにあるのか、大きな通り沿いにあるのかなど ③デザイン ( 外観 ) 建物のデザインが良いのか、何となくデザインの雰囲気が良いのかなど ③ ´ デザイン ( 共用部 ) 商業施設内にある共用部空間を知っていて気に入っているのかなど ④ブランド 好きなお店が入っているのか、魅力的な店舗が集まっているのかなど ⑤プロモーション 広告を見たのか、人に聞いたのか、イベントがあるのかなど ⑥その他 はっきりした理由はわからないなど お気付きのように、3個目のデザインに関してはデザインが対象とするもの を明確に区別しておくこととする。本研究においてはあくまで共用部空間が着 眼点であるからデザインも、③デザイン ( 外観 ) と③ ´ デザイン ( 共用部 ) と して大きく2つに大別しておく。

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4-1-3. 収益に対する共用部空間デザインの寄与度 ここでは、前項で明らかにした商業施設の収益に影響する要素をアンケート 結果より寄与度として数値化することとする。寄与度の算出方法は、各要素の 回答人数を総回答数で割り算し、その値に100を乗じることにした。結果は 以下にある表4-1、図4-3に示す。 表4-1. 商業施設の収益に影響する要素及びその寄与度

構成要素

回答人数(収益力≒集客力) 寄与度

土地 立地条件 デザイン(外観) デザイン(共用部) ブランド プロモーション その他

121 95 13 14 115 69 15

90.3% 70.9% 9.7% 10.4% 85.8% 51.5% 11.2%

図4-3. 商業施設の収益に影響する要素及びその寄与度

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-商業施設証券化における共用部空間の収益性-

結果であるが、寄与度は大きい方から順に、土地、ブランド、立地条件、プロモー ション、その他、デザイン ( 共用部 )、デザイン ( 外観 ) となった。事前に予想 された結果におおむね近い結果である。共用部デザインのもつ収益性の寄与度 は、土地やブランドなどに比べてそれほど大きくないことは予想していた。し かし、実際には約10%程度の寄与度しかないことがこのアンケートにより証 明された。つまり、それだけ共用部空間の実益は小さいということである。 そして土地、ブランド、立地条件、プロモーションは比較的高い寄与度を示し、 デザイン ( 共用部 )、デザイン ( 外観 )、その他とは一線を画していることから 寄与度の二極化傾向が顕著であるといえる。 また、その他と回答した人の理由であるが、何となく雰囲気で商業施設に入っ たとか何も考えずに入ったというものが多く、雰囲気の正体も外観などのデザ インによるものではないのでその他として集計することとした。

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-商業施設証券化における共用部空間の収益性-

4-1-4. 共用部空間デザインに対する意識度 商業施設共用部空間の収益に対する寄与度は非常に低かった。ここでは共用 部空間デザインに対して施設利用者が抱いた意識について明らかにしたい。 まずは、結果を表4-2、図4-4に示す。 表4-2. 共用部空間デザインに対する意識度

意識しなかった どちらともいえない 意識した

回答人数 78 人 36 人 20 人

割合 58.2% 26.9% 14.9%

図4-4. 共用部空間デザインに対する意識度

共用部空間デザインに対しては、施設利用者の半数以上が意識していない結 果となった。どちらともいえないと回答した人も含めると80%以上が、共用 部空間に対して何らの意識も持ち合わせていないのである。先に明らかになっ た寄与度の低さとこの結果は、非常にリンクしていると思われる。商業施設に おける共用部空間は、施設利用者の意識にはあまり関わってこないことがわかっ た。

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-商業施設証券化における共用部空間の収益性-

4-1-5. 共用部空間デザインに対する重要度 共用部空間デザインのもつ収益に対する寄与度及び共用部空間デザインに対 する意識度は、共用部空間がほとんど意識されないという事実を浮き彫りにし た。ここでは、そのように意識すらされない共用部空間に対して施設利用者の 考える重要度を明らかにしていきたい。まず、結果を表4-3、図4-5に示す。 表4-3. 共用部空間デザインに対する重要度

重要度 1 2 3 4 5

回答人数 21 人 18 人 54 人 16 人 25 人

割合 15.7% 13.4% 40.3% 11.9% 18.7%

図4-5. 共用部空間デザインに対する重要度

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-商業施設証券化における共用部空間の収益性-

これまでの結果をふまえれば、利用者に意識すらされない共用部空間の重要 度も非常に低いものとなるだろう。しかし、この結果を見ると、その予想は的 を得ていないようだ。5段階評価の内、重要度が高くも低くもない3と答えた 人が約4割いた。正規分布をイメージさせる、いわゆる中央化傾向がやや見ら れる結果であるが、ここで注目すべきはそこではなく、まったく重要でないと いう 1 の最低評価と非常に重要であるという5の最高評価をつけた人がほぼ同 数であるという点だ。これまでの寄与度、意識度からすると重要度も最低の1 ないしは2が多く分布しそうであったのだが、この結果により、施設利用者に とって日頃まったく意識しないはずの共用部空間は、無意味なために意識され ているわけではないことがわかった。 また、こうして潜在意識を問いただしてみるとそれなりの重要性をともなっ た結果が得られたことで、利用者には日常的に共用部空間を意識する機会がな かなか存在しないという事実が明らかになった。 そして、5段階評価における平均的な重要度が確認されたことにより、本研 究の対象とする共用部空間の有用性が存在すると思われる。

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-商業施設証券化における共用部空間の収益性-

4-2. 商業施設利用者追跡調査 4-2-1. 利用者の属性 この追跡調査でのサンプルは、1人が1サンプルだったアンケート調査とは 異なり、同伴者も含め1サンプルとした。 追跡調査を行った利用者の性別、年齢、利用人数は以下の通りである。

1. 性別 表4-4. 商業施設利用者の属性 ( 性別 )

性別\施設 代官山アドレス ラ・フェンテ エスキス表参道 男 女 男女混合

32 35 33

7 71 22

15 41 44

ワイ ・ エム

31 40 29

図4-6. 商業施設利用者の属性 ( 代官山アドレス )

図4-7. 商業施設利用者の属性 ( ラ・フェンテ代官山 )

図4-8. 商業施設利用者の属性 ( エスキス表参道 )

図4-9. 商業施設利用者の属性 ( ワイ・エム・スクウェア )

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-商業施設証券化における共用部空間の収益性-

性別に関しては、すべての対象施設において男性よりも女性の方が多い結果 となった。これはアンケート調査の利用者属性と同じ傾向である。特にラ ・ フェ ンテ代官山では女性の数が7割を占め、男性は1割未満と大きく差の開く結果 となった。ラ ・ フェンテ代官山ほどではないがエスキス表参道でも男女の開きは 大きかった。この結果より、ラ ・ フェンテ代官山及びエスキス表参道では代官山 アドレスやワイ ・ エム ・ スクウェアよりも女性を重視したスタンスをとっている ことが明らかになり、利用者にもそのことが十分に伝わっていると思われる。 また、アンケート調査の利用者属性にはなかった男女混合についてであるが、 これは主にカップルや子供連れの家族を指している。この男女混合の割合をみ るとすべての施設において2割から4割程度となっていた。代官山アドレスや エスキス表参道では女性の割合とほぼ同じとなっており、あらためてカップル でのショッピングが多いことをうかがわせた。

2. 年齢 利用者の年齢に関してであるが、この追跡調査では対象者に直接、年齢をヒ アリングしたわけではない。ここがアンケート調査とは異なる点である。よって、 年齢特定に際しては調査実施者 ( 総数で6名 ) の主観が盛り込まれていること を考慮する必要がある。ただし、11~20歳では明らかに10代の人間と判 別されるか、または制服着用を調査実施者の共通の年齢特定条件として定めた。 その他の年代に関しては、特に共通の年齢特定条件というものはない。

表4-5. 商業施設利用者の属性 ( 年齢 )

年齢\施設 代官山アドレス ラ・フェンテ エスキス表参道 11 ~ 20 歳 2 4 0 21 ~ 30 歳 31 ~ 40 歳 41 ~ 50 歳 51 ~ 60 歳 61 ~歳

56 33 5 4 0

52 35 6 3 0

53 36 10 1 0

ワイ ・ エム

1 93 6 0 0 0

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-商業施設証券化における共用部空間の収益性-

図4-10. 商業施設利用者の属性 ( 年齢 )

年齢別に関しては、すべての対象施設で20代が最も多く、半数以上を占め ていた。特にワイ・エム・スクウェアでは9割もの人が20代という結果になり、 偏りが非常に大きかった。この要因としては、おそらく実年齢は10代に含ま れる人が容姿によって20代としてカウントされたことが大きいだろう。現に 10代の割合が非常に少ないため、やはり20代として多めにカウントされた と思われる。これは他の3施設でも当てはまりそうだ。 そして20代に次いで多かったのは30代であり、40代、50代が後を追 う形となった。また、残念ながら60代以降の利用者は今回見つからなかった。 30代の割合は偏りの激しいワイ・エム・スクウェアを除けば、ほぼ3割となっ ており、20代と30代を合計するとおよそ9割を占める状態であった。この 結果より、すべての対象施設で20歳から40歳をメーンターゲットとして位 置付けていることが明らかになり、そのスタンスが商業施設利用者にも浸透し ていると思われる。 最後に特徴的なこととして、エスキス表参道では40代が1割を占めていた。 この数値は他の3施設に比べると高い数値である。つまり、ここでは40歳か ら50歳もターゲッティングされているといえるのではないだろうか。 HITOSHI WATANABE Lab. Waseda Univ. 2002

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3. 利用人数 表4-6. 商業施設利用者の属性 ( 利用人数 )

人数\施設 代官山アドレス ラ・フェンテ エスキス表参道 1人 2人 3人以上

39 46 15

43 45 12

ワイ ・ エム

49 47 4

45 49 6

図4-11. 商業施設利用者の属性 ( 利用人数 )

利用者の利用人数、つまり本人と同伴者の数に関しては、すべての商業施設 において1人による利用と2人による利用がほぼ同数となり、約4割から5割 を占めていた。3人以上の利用は平均して約1割と非常に少なく、1人や2人 による利用と大きく離されてしまった。3人以上のグループ客や家族連れが非 常に少ないということが明らかになり、すべての商業施設で利用人数の想定が 1人または2人として考えられているようだ。特にエスキス表参道では、3人 以上による利用が100サンプルのうち4サンプルしか見つからず、グループ 客には冷たい環境であることがわかった。これは40歳から50歳の利用者に もターゲットを広げている事実に関係しているように思われる。

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-商業施設証券化における共用部空間の収益性-

4-2-2. 商業施設専用部滞在時間の比較 1. 全体による比較 共用部空間を利用した人と利用しなかった人は以下の通りである。 表4-7. 共用部空間の利用者と未利用者 ( 全体 )

共用部利用者数(人) 共用部未利用者数(人)

アドレス

ラ ・ フェンテ

エスキス

ワイ ・ エム

26 74

32 68

26 74

29 71

図4-12. 共用部空間の利用者と未利用者 ( 全体 )

本論文の1章において定義した共用部空間の利用者は、すべての商業施設で 約3割を占めた。 果たして、共用部空間を利用した人と利用していない人の専用部滞在時間に はどのような違いがあるのだろうか。次ページの表4-8、図4-13に示す。

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-商業施設証券化における共用部空間の収益性-

表4-8. 共用部空間利用の有無による専用部滞在時間平均値の比較 ( 全体 )

共用部利用者の専用部

アドレス

ラ ・ フェンテ

エスキス

ワイ ・ エム

36311

25162

25603

26367

1397

786

985

909

101173

48260

66611

60103

1367

710

900

847

滞在時間合計(秒) 共用部利用者の専用部 滞在時間平均(秒) 共用部未利用者の専用部 滞在時間合計(秒) 共用部未利用者の専用部 滞在時間平均(秒)

図4-13. 共用部空間利用の有無による専用部滞在時間平均値の比較 ( 全体 )

すべての商業施設において共用部空間を利用した人が利用していない人より も専用部滞在時間の平均が多かった。つまり、共用部空間の利用者の方がたく さん購買活動に時間を費やしたのである。 平均値の差をみると、代官山アドレスでは30秒、ラ ・ フェンテ代官山では 76秒、エスキス表参道では85秒、そしてワイ・エム・スクウェアでは62 秒となっており、共用部利用者はこの秒数だけ多く買い物をしたといえる。

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2. 性別による比較 追跡調査の利用者属性と同様に全体データを性別により掘り下げてみる。 表4-9. 共用部空間の利用者と未利用者 ( 性別 )

男性の

アドレス

ラ ・ フェンテ

エスキス

ワイ ・ エム

7

1

1

7

25

6

14

24

8

19

10

11

27

52

31

29

11

12

15

11

22

10

29

18

共用部利用者数(人) 男性の 共用部未利用者数(人) 女性の 共用部利用者数(人) 女性の 共用部未利用者数(人) 男女混合の 共用部利用者数(人) 男女混合の 共用部未利用者数(人)

図4-14. 共用部空間の利用者と未利用者 ( 性別 )

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-商業施設証券化における共用部空間の収益性-

表4-10. 共用部空間利用の有無による専用部滞在時間平均値の比較 ( 性別 )

男性共用部利用者の

アドレス

ラ ・ フェンテ

エスキス

ワイ ・ エム

851

838

175

849

1256

495

567

782

1400

788

972

939

1399

721

1167

833

1741

780

1022

918

1454

779

776

955

専用部滞在時間平均(秒) 男性共用部未利用者の 専用部滞在時間平均(秒) 女性共用部利用者の 専用部滞在時間平均(秒) 女性共用部未利用者の 専用部滞在時間平均(秒) 男女混合共用部利用者の 専用部滞在時間平均(秒) 男女混合共用部未利用者 の 専用部滞在時間平均(秒)

図4-15. 共用部空間利用の有無による専用部滞在時間平均値の比較 ( 性別 )

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3. 年齢別による比較 追跡調査の利用者属性と同様に全体データを年齢別により掘り下げてみる。 表4-11. 共用部空間の利用者と未利用者 ( 年齢別 )

アドレス

ラ ・ フェンテ

エスキス

ワイ ・ エム

11 ~ 20 歳の

2

0

0

1

共用部利用者数(人) 11 ~ 20 歳の

0

4

0

0

共用部未利用者数(人) 21 ~ 30 歳の

11

20

13

27

共用部利用者数(人) 21 ~ 30 歳の

45

32

40

66

共用部未利用者数(人) 31 ~ 40 歳の

8

5

10

1

共用部利用者数(人) 31 ~ 40 歳の

25

30

26

5

共用部未利用者数(人) 41 ~ 50 歳の

3

5

3

0

共用部利用者数(人) 41 ~ 50 歳の

2

1

7

0

共用部未利用者数(人) 51 ~ 60 歳の

2

2

0

0

共用部利用者数(人) 51 ~ 60 歳の

2

1

1

0

共用部未利用者数(人)

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-商業施設証券化における共用部空間の収益性-

図4-16. 共用部空間の利用者と未利用者 ( 年齢別 ) 表4-12. 共用部空間利用の有無による専用部滞在時間平均値の比較 ( 年齢別 )

アドレス

ラ ・ フェンテ

エスキス

ワイ ・ エム

11 ~ 20 歳の共用部利用者の

744

0

0

1573

専用部滞在時間平均(秒) 11 ~ 20 歳の共用部未利用者の

0

772

0

0

専用部滞在時間平均(秒) 21 ~ 30 歳の共用部利用者の

1333

735

701

889

専用部滞在時間平均(秒) 21 ~ 30 歳の共用部未利用者の

1546

751

742

820

専用部滞在時間平均(秒) 31 ~ 40 歳の共用部利用者の

1447

826

1231

800

専用部滞在時間平均(秒) 31 ~ 40 歳の共用部未利用者の

935

664

889

1200

専用部滞在時間平均(秒) 41 ~ 50 歳の共用部利用者の

1395

745

1394

0

専用部滞在時間平均(秒) 41 ~ 50 歳の共用部未利用者の

1157

513

1651

0

専用部滞在時間平均(秒) 51 ~ 60 歳の共用部利用者の

2201

1305

0

0

専用部滞在時間平均(秒) 51 ~ 60 歳の共用部未利用者の

2962

693

2260

0

専用部滞在時間平均(秒) HITOSHI WATANABE Lab. Waseda Univ. 2002

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商業施設共用部空間の利用実態に関する研究

-商業施設証券化における共用部空間の収益性-

図4-17. 共用部空間利用の有無による専用部滞在時間平均値の比較 ( 年齢別 )

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4. 利用人数による比較 追跡調査の利用者属性と同様に全体データを利用人数別により掘り下げてみ る。 表4-13. 共用部空間の利用者と未利用者 ( 利用人数別 )

アドレス

ラ ・ フェンテ

エスキス

ワイ ・ エム

1人による

4

4

7

8

共用部利用者数(人) 1人による

35

39

42

37

共用部未利用者数(人) 2人による

12

25

16

16

共用部利用者数(人) 2人による

34

20

31

33

共用部未利用者数(人) 3人以上による

10

3

3

5

共用部利用者数(人) 3人以上による

5

9

1

1

共用部未利用者数(人)

図4-18. 共用部空間の利用者と未利用者 ( 利用人数別 )

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-商業施設証券化における共用部空間の収益性-

表4-14. 共用部空間利用の有無による専用部滞在時間平均値の比較 ( 利用人数別 )

アドレス

ラ ・ フェンテ

エスキス

ワイ ・ エム

1人による共用部利用者の

708

661

947

914

専用部滞在時間平均(秒) 1人による共用部未利用者の

1089

676

1013

759

専用部滞在時間平均(秒) 2人による共用部利用者の

1298

801

1005

805

専用部滞在時間平均(秒) 2人による共用部未利用者の

1509

769

774

945

専用部滞在時間平均(秒) 3人以上による共用部利用者の

1791

830

966

1236

専用部滞在時間平均(秒) 3人以上による共用部未利用者の

2352

722

71

848

専用部滞在時間平均(秒)

図4-19. 共用部空間利用の有無による専用部滞在時間平均値の比較 ( 利用人数別 )

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商業施設共用部空間の利用実態に関する研究

-商業施設証券化における共用部空間の収益性-

■5章.考察 5-1. 人の属性 表参道/原宿エリア及び代官山エリアにある商業施設を利用している人々は 20代、30代が中心であり、その多くは女性であった。20代の男性に関し ては決して少ないわけではないのだが、相対的に女性の利用が目立つ。女性は あらゆる世代で男性よりも利用が多く、ファッションテナント中心の商業施設 における女性の来店頻度が極めて高いことを示唆している。 また、3人以上のグループによる利用は非常に少なく、1人または2人によ る利用が圧倒的であった。1人による利用で気付いたこととして40代以降の 中高年層では男性の利用がほぼ皆無であったという点が挙げられる。同じ中高 年層でも2人による利用では男性の利用が目立ったことから、中年男性は女性 との同伴によって商業施設を利用しているといえる。既婚者と思われる中年男 性がそのご婦人に連れられて買い物にきていたケースが最も多かったのではな いだろうか。 さらに2人による利用のほとんどが男女のカップルであった。これは表参道、 原宿及び代官山という都内でも屈指のオシャレな街並みにより生み出された結 果だろう。平日や休日を問わないデートコースとしてこれらのエリアにある商 業施設が多くのカップルに支持されていると考えられる。

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5-2. 共用部空間の位置付け 商業施設利用者の多くは共用部空間を意識すらしていなかった。覚えている のは店舗がある専用部ばかりであり、実際、アンケートをしてもピンとこない 人が少なくなかった。つまり、商業施設の花形は専用部空間と認識されている のである。 商業施設における共用部空間は様々な商品やサービスを提供する専用部空間 に比べると、確かに華やかさというものに欠けてしまう。言うなれば、専用部 空間は陽であり、共用部空間は陰というところであろうか。しかし、陰がなけ れば陽もないのと同じように専用部空間を引き立たせるのは共用部空間なので ある。意識すらしていない利用者に共用部空間の重要性を問うと、「非常に重要 だと思う」と回答する人が見受けられた。これは商業施設全体の調和をとって いるのは専用部空間ではなく、共用部空間の方だと示唆しているように思われ る。魅力ある店舗がたくさん入っていれば、商業施設もそれだけ魅力的である ことは否定しない。だが、その魅力は専用部と専用部をつなぎ合わせる豊かな 共用部空間があってこそ成り立つものだと確信する。 ここに具体例を示そう。有名ブランドが入っていたため魅力的だった商業施 設(つまり、共用部空間がそれほど充実していないと仮定する)からブランド 店舗が抜けたとする。当然、ブランド目当てに商業施設を利用していたお客さ んは大部分が失われてしまうこととなる。しかし、共用部空間が豊かで商業施 設全体のバランスもとれていると仮定すれば、たとえ有名ブランドが抜けたと しても一気にお客さんを失うことはない。当初はブランド店舗の損失が影響を 及ぼすだろうが、商業施設に共用部空間というブランドがあれば、またお客さ んはやってきてくれる。そうなれば、あとはそれぞれの店舗が切磋琢磨するこ とで有名ブランドの損失を瞬く間に回復することができよう。ようは、中に入っ ている店に来させるのではなく、商業施設に来させるようにすれば、中身があ れこれ変わろうとお客さんは顧客となって定期的に訪れるのである。そのため には共用部空間の充実はもちろん、どんな専用部空間ができようと調和の崩れ ない確固たる共用部空間デザイン、共用部空間の位置付けが必要となってくる。 共用部空間は専用部と専用部のつなぎ空間であるといえるが、決して単なる HITOSHI WATANABE Lab. Waseda Univ. 2002

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つなぎ空間ではない。商業施設においては共用部空間の隙間を埋めるものが様々 な専用部空間であるといっても過言ではないだろう。

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5-3. 共用部空間の利用による購買活動時間延長 商業施設において共用部空間の利用者と未利用者では専用部の滞在時間、つ まり購買活動に費やした時間に差が生じた。そして、その差が示しているもの は共用部空間利用者の未利用者に対する購買活動延長時間であった。簡単に言 えば、より買い物をした時間が長いということである。この結果は対象4商業 施設すべてに見受けられ、大きいところでは1分以上もの差となって出てきた。 性別による分析結果であるが、男性にこの傾向が見られたのはラ ・ フェンテ代 官山とワイ ・ エム ・ スクウェア原宿であり、女性では代官山アドレス、ラ ・ フェン テ代官山、ワイ ・ エム ・ スクウェア原宿、男女混合では代官山アドレス、ラ ・ フェ ンテ代官山、エスキス表参道に見られた。つまり、女性の方が男性よりも購買 活動時間延長が顕著であり、男女混合も同じくらいこの傾向が顕著だといえる。 一般的に女性の買い物は長いというが、この俗説も一概に無関係ではないと思 われる。また、商業施設に注目するとラ ・ フェンテ代官山ではすべての性別でこ の購買活動時間延長傾向が見受けられた。 次に年齢別による分析結果であるが、10代、40代および50代のデータ はサンプル数が少ないので対象外とする。20代にこの傾向が見られたのはワ イ ・ エム ・ スクウェア原宿のみであり、30代では代官山アドレス、ラ ・ フェンテ 代官山、エスキス表参道であった。つまり、20代よりも30代の方が購買活 動時間延長が顕著であるといえる。共用部空間利用という条件の中では、年を 重ねた方がより買い物をするようである。 最後に利用人数別による分析結果であるが、3人以上の利用によるデータは サンプル数が少ないので対象外とする。1人の利用でこの傾向が見られたのは ワイ ・ エム ・ スクウェア原宿のみであり、2人の利用ではラ ・ フェンテ代官山とエ スキス表参道であった。つまり、2人の利用での方が1人の利用よりも購買活 動時間延長傾向が顕著であるといえる。共用部空間を利用する人数は2人の方 がより買い物をする可能性が高いのである。また、商業施設に注目すると代官 山アドレスではすべての利用人数別データでこの購買活動時間延長傾向が見ら れず、利用人数による相関はまったくないと考えられる。

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5-4. 共用部空間の収益性 商業施設における収益力をお客さんを呼ぶ集客力と置き換えてみる。集客力 は実際にお客さんが訪れた際の集客理由としてとらえることができるため、商 業施設の収益力はお客さんの集客要因から計ることが可能である。このことを ふまえ、アンケートにより明らかになった収益性に影響する共用部空間デザイ ンの寄与度について考えてみる。 集客要因の集計から共用部空間には約10%の寄与度が生じた。土地、立地 条件、ブランドにプロモーションといった各要素が非常に高い寄与度を示す中、 10%は極めて低い数値である。しかし、先の考察の「共用部空間の位置付け」 にもあるように利用者にとって共用部空間は専用部空間を意識するあまり、日 常的に意識されない領域となってしまったのである。意識調査では低い結果で あったが、利用者に重要性を確認すれば、それなりの回答が得られたことでこ の10%という数値には+アルファが存在するように思える。この+アルファ を数値で示すことは非常に難しいが、ここでは別の視点により共用部空間の収 益性をとらえてみたい。 収益性を確かめる新たな視点としては、商業施設利用者の購買活動時間があ る。どれだけ買い物に時間を費やしたのかで収益性をとらえることが可能であ る。ただし、お客さんが実際にお金を使用するかどうかは時間ではなく、個々 人の様々な要素によって決まることであり、ここでは便宜上、買い物時間≒買 い物金額として定義したい。そうすると、共用部空間の利用により購買活動時 間延長が確認されたことで、共用部空間の収益性が延長された購買活動時間よ りわかるのではないだろうか。次ページにある表5-1は、対象施設別の共用 部空間利用者と未利用者の購買活動時間およびその差 ( 共用部空間の収益力 ) を示している。

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表5-1. 共用部空間利用の有無による購買活動時間およびその差 ( 共用部空間の収益力 )

アドレス

ラ ・ フェンテ

エスキス

ワイ ・ エム

共用部利用者数 ( 人 )

26

32

26

29

共用部未利用者数 ( 人 )

74

68

74

71

共用部利用者の購買活動

1397

786

985

909

1367

710

900

847

30

76

85

62

時間平均 ( 秒 ) 共用部未利用者の購買活 動時間平均 ( 秒 ) 購買活動時間の差(≒共 用部空間の収益力)( 秒 )

表5-1にあるように購買活動時間の差は、共用部空間の利用によって生み 出されたものである。従って、この数値がそのまま当該商業施設の共用部空間 がもっている収益力だと言い換えることができる。 ただし、このままの状態ではこの収益力を示す数値を商業施設同士で比較す ることはできない。それは共用部利用者数が対象4施設において異なっている からである。各施設のサンプル数は100個でまったく同数であるが、利用者 と未利用者の数もまったく同数でなければ、商業施設同士の比較はできないの だ。よって、真の共用部空間収益力を算出するため、購買活動時間の差に補正 を加えることとする。補正は以下の表5-2に示す通り、購買活動時間の差に 共用部利用者数を乗じ、その値を商業施設利用者総数で割ることとする。 表5-2. 補正した共用部空間の収益力

アドレス

ラ ・ フェンテ

エスキス

ワイ ・ エム

補正方法

30×26÷100

76×32÷100

85×26÷100

62×29÷100

共用部空間の収

7.8

24.3

22.1

18.0

益力 ( 補正値 )

補正により出てきた数値を比較してみると共用部空間のもつ収益力は大きい 方から順に、ラ ・ フェンテ代官山 (24.3) >エスキス表参道 (22.1) >ワイ ・ エム ・ スクウェア原宿 (18.0) >代官山アドレス (7.8) という結果になった。これでそ れぞれの施設に内在する共用部空間の相対的な収益貢献度が定量的に確認され たといえる。そして、対象4施設の中ではラ ・ フェンテ代官山の共用部空間が経 済的に最も優秀であるということがお分かりいただけると思う。 HITOSHI WATANABE Lab. Waseda Univ. 2002

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■6章.まとめ 6-1. 結論 ①商業施設を利用する人の多くは20代、30代の若者であり、その大半が女 性である。

②商業施設の収益に対する各要素の寄与度はそれぞれ、 土地 = 90. 3% 立地条件 = 70. 9% デザイン(外観)

= 9. 7%

デザイン(共用部)

= 10. 4%

ブランド = 85. 8% プロモーション = 51. 5% その他 = 11. 2% である。 ③共用部空間デザインに対する意識は老若男女問わず、非常に低い。それに対 して共用部空間デザインの重要性は高くもなく低くもない。大きな重要性を 感じている人も少なくはなかったようだ。

④商業施設利用者追跡調査の分析結果より、共用部利用者の購買活動時間が共 用部未利用者のそれよりも長くなった。つまり、商業施設共用部空間の収益 性が確認されたといえる。

⑤対象商業施設の共用部空間収益力はそれぞれ、 ラ ・ フェンテ代官山

= 24. 3

エスキス表参道

= 22. 1

ワイ ・ エム ・ スクウェア原宿 代官山アドレス

= 18. 0 =

7. 8 である。

共用部空間を経済的視点により評価すれば、ラ ・ フェンテ代官山が最も優秀で あるといえる。

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6-2. 今後の課題と展望 本研究の背景にあった不動産証券化への積極的な取り組みは供給サイドに よってこれからも急速に高まっていくであろう。証券化におけるパイオニアと して世界最先端をいく米国モデルに良い点を学び、我が国においては独自にカ スタマイズした不動産証券化モデル、並びにその流通市場が発展していくと考 えられる。 しかし、そうした時流に需要サイドがまったく追いついていない。我が国で は依然として貯蓄に代わる魅力的な金融商品が育っていないせいか、国民の投 資意識というものは他の先進諸国に比べてかなりの低水準である。こういった 現実に敢えて挑むかのように発売された不動産投資信託も現在のところ苦戦を 強いられている。投資に関する税制の緩和といった政府対策も必要不可欠であ るが、個人投資家にも利用しやすい投資判断ポイントがなかなか見当たらない という事実も大きな課題だろう。 商業施設が証券化されて不動産投信として販売された場合、個人投資家は実 際に足を運んで、その対象物件をみることができる。みるだけでなく、利用者 として肌で感じることまで可能である。この点が他のオフィスビルやマンショ ンといった証券化対象物件と決定的に違うところである。商業施設を対象とし た不動産投信を購入しようと考えている個人投資家は、対象商業施設の活況度 合いを同地区の他の商業施設と比較し、相違点などをつかんでおくことが投資 前の重要なプロセスといえよう。そういった際に、本研究において着眼点とし た共用部空間の収益性もひとつの要素項目として考慮していただけるとありが たい。一般の投資家には分厚く難しい目論見書に今後も投資判断基準としての 実用性があるとは思えないため、弱い立場にある個人投資家に利用しやすい投 資判断ポイントとして共用部空間の利用状況確認を提案するしだいである。

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■おわりに 本研究に取り組み、私は商業施設共用部空間の大きな可能性に出会うことが できた。収益性にはほとんど無縁であると考えられていた共用部空間が専用部 滞在時間に影響を及ぼし、しっかりと収益に貢献することが示されたのである。 証券化を生業とする大手ディベロッパーは、土地や立地、コンテンツやプロ モーションといった即、実益に結びつく視点から商業施設証券化をとらえてい る。こうしたことはビジネスシーンにおいて当然なのかもしれないが、彼らが あまり重要視していない共用部空間にも収益性を高める効果があったことは多 少なりとも評価に値するのではないだろうか。 しかし、忘れてならないのは実証したとはいえ、学生個人による研究ではサ ンプル数が十分ではないことである。本研究における結果が偶然の事象だとは 思えないが、十分なサンプル数をとって分析してみることで新たな結論が生じ るかもしれない。既往研究というものがなかった本研究であるが、今後、商業 施設共用部空間の収益性に関連する研究を行われる方がいれば、本研究を参考 としていただきたい。 また、近い将来、商業施設が証券化という選択肢をとる可能性はますます大 きくなる。そうした中で商業施設のトータルな収益力を正確にとらえて投資家 に広くディスクローズし、また、高めることの意義は極めて重要である。本研 究がその一端を担うことができれば幸いである。

最後に、本研究にあたり、アンケート調査に快く協力して下さった代官山ア ドレス、ラ ・ フェンテ代官山、エスキス表参道およびワイ ・ エム ・ スクウェア原宿 の利用者の方々にこの場を借りてお礼申し上げます。本当にありがとうござい ました。 また、卒論の指導と的確な助言をして下さった渡辺仁史先生、中村良三先生、 親切に面倒を見て下さった山本朋弥さん、担当として追跡調査まで手伝って下 さった白沢海さん、その他大勢の研究室の諸先輩方に感謝いたします。

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■参考文献 ●『不動産証券化の現状と展望』 1998年 5月 ニッセイ基礎研究所

●『不動産プレーヤーのための良い証券化悪い証券化 かくして日本流不動産証券化は始まる』 1999年 3月 フォレスト出版

●『絵でわかる不動産投資信託Q&A図解』 2000年10月 総合法令出版

●『ビジュアル 証券の基本<新版>』 2001年10月 日経文庫

●『証券化ハンドブック』 2002年10月 税務経理協会

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■調査データ 次ページ以降に商業施設利用者追跡調査のデータを添付する。

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