視覚障害者の利用する屋外空間における触覚情報に関する研究 A�Study�on�Tactile�Informations�for�Visually�Defected�People�in�Outdoor�Spaces
早稲田大学理工学部建築学科 1G01D172ー5 米澤�敬幸
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
Introduction
はじめに 早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
1
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
はじめに
■はじめに 人は起きてから寝るまで、または寝ていても様々なもの を触って生活している。 触るという行為をもっと重要なこととして考えなければ ならないのではないか。「触感」について研究したい。と いう漠然としたテーマから始まった。 しかし、触るという行為はとても多いが、何かと特別意 識して触っているわけではない。そこで、視覚の代わりに 他の感覚を鋭敏に使用して生活している視覚障害者が何を 触っているか、またそこから得る情報を知ることで、晴眼 者が無意識で触るということにも生かせるのではないか。 というのが、視覚障害者の触覚を調査する始まりであった。
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
2
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
Contents
目次 早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
3
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
目次
■目次 2
はじめに
01
序論
5
1-1. 研究目的
6
1-2. 語句の定義
7
1-3. 研究背景
8
1-4. 研究の流れ
02
13
事前調査
14
2-1. 視覚障害者へのヒアリング
15
2-2. 歩行訓練士へのヒアリング
18
03
調査方法
20
3-1. 調査概要
21
3-2. 手がかり抽出調査方法
22
3-3. 手がかりの有効性評価方法
23
04
調査結果
24
4-1. 調査結果
25
4-2. 考察
27
05
結果分析
28
5-1. 周辺要素の抽出
29
5-2. 周辺要素別の有効性の違い
30
5-3. 歩行行動別の有効性の違い
40
5-4. 受障時期による比較
43
06
結論
45
6-1. まとめ
46
6-2. 展望
47
6-3. 今後の課題
48
終わりに
49
参考文献・参考資料
51
資料編
52
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
4
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
Prologue
序論 早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
5
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
序論
1-1. 研究目的 視覚障害者の歩行する屋外空間を調査し、点字ブロック 以外に環境認知に利用できる触覚情報の有効性、および周 辺要素との関係を明かにし、屋外の環境整備に役立てる。
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
6
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
序論
1-2. 語句の定義 □触覚情報 白杖・足裏・手・皮膚感覚から得られる空間定位や周辺 情報に関する情報。
□バリアフリー バリアフリーという言葉には、広く四つ、物理面、制度 面 ( 盲導犬連れが利用できないホテルやレストラン、幼児 連れお断りの店 )、情報面 ( 文化活動をするチャンスや必 要な情報が平等でない )、意識面 ( 差別や無理解など ) に 対するバリアフリーという意味がある。 本研究におけるバリアフリーとは、屋外空間における、 歩行が困難になるなどの物理的なバリアフリーを指す。
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
7
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
序論
1 ー 3. 研究背景 □視覚障害者とは 視覚障害者とは、視覚に障害を持った人のことを言う。 視覚障害には、大きく二つ、視力と視野の障害に分けら れ、簡単に言うと、視力の障害とは「見えない」こと、視 野の障害は「見える範囲が狭い」ことである。 視力障害は完全に見えない全盲から、視力が極端に低い 弱視、また、完全に視力がなくても光覚はあるというケー スなど様々ある。視野異常は視野が狭くなるもの ( 狭窄 ) や、視野の中で点状または斑状に欠損を生じるもの ( 暗点 ) などこちらも様々である。 身体障害者福祉法に定める視覚障害の等級は、以下の表 のようになっている。( 表 1-1) ここでの視力は矯正視力 であり、両眼の視力の和が基準となっている。 表 1-1. 身体障害者福祉法で定める視覚障害等級表 級別 視覚障害 1級 両眼の視力の和が0.01以下のもの 2級 1 両眼の視力の和が0.02以上0.04以下のもの 2 両眼の視野がそれぞれ10度以内でかつ両眼による 視野について視能率による損失率が95%以上のもの 3級 1 両眼の視力の和が0.05以上0.08以下のもの 2 両眼の視野がそれぞれ10度以内でかつ両眼による 視野について視能率による損失率が90%以上のもの 4級 1 両眼の視力の和が0.09以上0.12以下のもの 2 両眼の視野がそれぞれ10度以内のもの 5級 1 両眼の視力の和が0.13以上0.2以下のもの 2 両眼の視野の2分の1以上が欠けているもの 6級 一眼の視力が0.02以下、他眼の視力が0.6以下のもので、 両眼の視力の和が0.2を超えるもの
□視覚障害者の人口 平成 13 年 6 月の厚生労働省による実態調査によると、 18 歳以上の身体障害者数 ( 在宅 ) は全国で 325 万人おり、 平成 8 年 11 月の調査から 10.6% 増加している。 そのうちの約 9% 以上にあたる 30 万人強が視覚障害者と なっている。( 表 1-2) 表 1-2. 障害の種類別にみた身体障害者数 総数 平成13年
視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 重複障害(再掲)
3245
301
346
1749
849
100
9.3
10.7
53.9
26.2
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
175 単位(千人) 5.4 単位(%)
8
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
序論
また、受障時期の違いによって、生まれつき視覚障害を 持つ先天的視覚障害者と、生後病気や怪我、事故などによ って視覚障害を負った後天的視覚障害者に分けられるが、 視覚障害者の年齢構成を見ると、20 歳代は 2.3% で、60 歳 以上は 73% と、先天的な視覚障害は少なく、病気や交通事 故などが原因による、後天的視覚障害が主になっているこ とが分かる。( 表 1-3・図 1-1) また、これからさらに高齢 者が多く増えることから、老化による視覚障害者もさらに 増えることが予測される。 表 1-3. 視覚障害者の年齢階級別分布1 総数 平成13年
18~19
3245 100.0
11 0.3
20~29
30~39
70 2.2
1%
93 2.9
年齢階級別(歳) 40~49 50~59 213 6.6
60~69
468 14.4
70~
885 27.9
1482 45.7
不詳 22 単位(千人) 0.7 単位(%)
5% 21% 18~39(歳)
40~59(歳)
60~(歳)
不詳 73%
図 1-1. 視覚障害者の年齢階級別分布2
□盲導犬について 盲導犬とは、視覚障害者を安全に快適に誘導する犬のこ とである。1957 年に国産第一号が誕生して以来、日本で も盲導犬の育成が続けられている。しかし、視覚障害者人 口が 30 万人強いるのに比べ、実際に活動している盲導犬 の数は約千頭と非常に少なく、視覚障害者のほとんどが人 に付き添ってもらうか単独歩行しているのが現状である。
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
9
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
序論
□歩行訓練について 視覚障害者に対するリハビリテーションがあり、感覚訓 練、社会適応訓練 ( 生活訓練 )、職業訓練と、大きく三つ に分かれている。その社会適応訓練の中に、行動訓練とい うものがある。行動訓練も二つに分かれ、歩行訓練と日常 生活動作訓練 ( 身辺処理、調理など ) がある。 屋外の歩行訓練内容は以下の五点からなる。 1、技術 白杖あるいは盲導犬を適切に使用する。 2、地図的操作 目的地までのルートの心的地図を描きながら、地図に基 づいて行動する。 3、環境認知 環境からの情報を得て総合的に判断し、自分の位置の確 認、行動方法の決定をする。 4、行動方法 環境認知により決定された行動を行う上での白杖の操作 や身体運動を正しく行う。 5、援助依頼 必要に応じて援助を依頼する。 以上のことは、安全な単独歩行に不可欠な条件とされて いて、晴眼者は1以外の四つのことを無意識に行っている。 これを、その人の必要とする経路や範囲において、歩行訓 練士と実践し、習得するということが歩行訓練となってい る。 しかし、時間が取れないなどの理由で、何回か晴眼者の 知り合いに経路を付き添ってもらって、後は我流で歩行す るといった人が多くみられる。
□視覚障害者誘導用ブロック 視覚障害者誘導用ブロックとは、通称点字ブロック ( 以 下点字ブロックと呼ぶ ) と呼ばれ、1967 年に日本で開発 され、駅のホームや屋外など様々な場所に敷かれている。 点字ブロックには、線上の突起の付いた方向を示す誘導ブ ロックと、点状の突起の付いた、環境が変わることを示す
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
10
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
序論
警告ブロックの二つがあり、点字ブロックは今や視覚障害 者の歩行の際の手がかりの代表として認知されている。( 図 1-2) しかし、視覚障害者関係の施設のある周辺や公的施設な どには敷いてあるが、現状点字ブロックの敷いていない所 ほ方が圧倒的に多い。また、点字ブロックの敷いてある箇 所でも、歩行したい方向に敷いてないからや、点字ブロッ クが端に敷いてあり、その上に放置自転車などの障害物が 置かれているからなどの理由で、点字ブロックがあっても 使わずに、他の手がかりを利用して歩行しているケースも みられ、点字ブロックも手がかりの一つであり、他の様々 なものを使って歩行しているのが現状である。
図 1-2. 視覚障害者誘導用ブロック ( 高田馬場 )
□バリアフリー 現行のバリアフリーは車椅子や肢体不自由者に対しての ものが多く、特に段差や傾斜をなるべくなくしたりと、屋 外の床面をフラットにしていく傾向がある。 しかし、その中で障害者同士の利害の不一致による問題 も起きている。一番分かりやすい例で言えば、点字ブロッ クの問題である。 点字ブロックの突起の高さは、5 ミリメートル ( 誤差+ 1 ミリメートル ) と規定されていて、この段差によって車 椅子が通りにくくなったり、高齢者や肢体不自由者はつま づいて転んでしまうなど、他者にとって歩行の障害となっ てしまっている。
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
11
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
序論
また、車椅子や高齢者、肢体不自由者のためのバリアフ リーとして、近年、歩道と車道の段差をなくした道路が多 く見られる。これは逆に視覚障害者にとっては、歩道と車 道の境界がなくなってしまったことで、知らないうちに車 道に出てしまっていたり、方向が分からなくなってしまっ たりと、新たな障害を生んでいる。( 図 1-3)
図 1-3. バリアフリーによって境界が分かりにくくなった道路
□本研究の位置付け 点字ブロックに関する研究は多く、視覚障害者の歩行環 境改善に関する研究で、視覚障害者の行動経路から、点字 ブロックの適切な敷設場所、識別評価を行っている。また、 点字ブロックに代わる床面素材変化に関する研究などがあ る。 また、視覚障害者の屋外歩行時に利用する情報について、 アンケートによって評価した研究がある。 しかし、同じ手がかりであっても、その場の状況によっ て有効性が違い、また得られる情報が違う。これら実際に 使われる物を、場の周辺要素との関係を調査するといった 研究はない。 また、近年ユビキタス ID を利用した音声案内の研究が 行われているが、音声はその場所情報は得られるが、場所 の確認・確信は得られない。その点、触覚情報は白杖や足 裏から直感的に確認が得られるため、音声案内が普及して も、触覚情報は必要な情報であると言える。
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
12
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
序論
1-4. 研究の流れ 以下の手順で研究を行った。( 図 1-4)
ヒアリング 視覚障害者ヒアリング
歩行訓練士ヒアリング
屋外歩行調査 屋外歩行に付き添い、手がかりを抽出 手がかりについて、その状況においての有効性をアンケート
メモやビデオカメラから周辺要素を抽出
分析 周辺要素と触覚情報の有効性との関係を分析
考察 視覚障害者の視点から、歩行しやすい環境整備について考察
図 1-4. 研究概要図
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
13
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
Pre-Survey
事前調査 早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
14
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
事前調査
2-1. 視覚障害者へのヒアリング 日本点字図書館の職員で視覚障害者の方に、触感につい てのヒアリングを行った。 実施日:2004 年 6 月 11 日 C さん ( 女性・先天的全盲 ) K さん ( 女性・先天的全盲 )
□日常生活で触覚に頼っているのはどんな時か ・ 使 う 割 合 で は 触 感 40%、 聴 覚 40%、 嗅 覚・ 皮 膚 感 覚 20%。 ・手料理とか、実際に手を使う。実際に触らないと、ち ゃんとひっくり返ったか分からない。フライパンで肉を焼 いて、ひっくり返す時など手を使う。 ・自宅でも、壁を触ってドアや開口部を探す。 ・お店では、牛乳やお酒は切り込みや点字が打ってある ので分かる。目印のないお茶などは、置き場所を覚えてあ るのでどこにあるのか分かる。しかし、お酒や牛乳だと分 かるが、そこから細かいどこの牛乳など、種類までは触っ ただけでは分からない。 ・洋服やテーブルの位置など、音が出ない物は手で触っ て確認する。 ・屋外では、判断基準として、まず音で聞いて、それか ら触感を使う。手だけでなくて、白杖でも触って感じる。 また、白杖は叩いた時の音の違いでも聞いて判断できる。
□住宅内で不便に感じること . また、それで手を加えたこと ・電化製品のスイッチやリモコンは点字のシールを貼っ ている。 ・白杖は、一般の会社では、廊下などに置いてある物を 倒す方が悪いように思われているので使う。自宅や職場で は、皆が理解をしていて、物を置いた方が悪いので、気兼 ねせず白い杖を使わず歩ける。 .曲り角では壁を触る。 ・壁以外にも、○○さんの机の角を触って、真っ直ぐ行
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
15
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
事前調査
くと扉があるなど、物を触って方向を確認する。 ・傘やドアノブなど、同じような物が多くある時は間違 ってしまうので、置く場所や、物にシールを貼ったりなど 特徴をつけるようにしている。
□同居人とルール付けなどをしているか ・非常に大切。床に物は置いておかないことや、二つの スイッチがある電気などは、どちらか一方を使うことに決 めている。
□住宅内で床材の変化を手がかりに使っているか 玄関マットの上で、右に下駄箱があるなど結果論として 使っている。しかし意識的に何かを置いてというのはない。
□屋外で不便なこと ・通い慣れた道での工事は困る。完全に通れないのか、 端の方は通れるのかなどが分からないので。回り道をしな くてはならないと分かっても、慣れない道を通らなければ ならないので困る。 ・車が性能が良くなったのか、最近音が小さくなってい て近付いているのに気付かないことがある。 ・初めての場所よりも、日常通い慣れているところでの 突然の変化の方が大変フラストレーションがたまる。 ・お店の看板など、障害物となっているが、毎日常にそ こにあるような場合では、逆にそれがここのお店まで来た という目印にもなる。
□こうであったら便利だ、など希望 ・例えば、蛇口の右が冷たい、左が温かいなど、ルール 付けが統一されていれば、困らないと思う。電化製品など、 メーカーによってスイッチや機能が違うために、ルール付 けというものがされていない。そういうものには、点字な どはっきり分かるものが付いていて欲しい。
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
16
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
事前調査
・電気のスイッチは、触って ON/OFF が分かるシーソー 式が便利。 ・勘違いされがちだが、視覚障害者は別に触感が特別発 達しているわけではない。細かい凹凸を付けて、これでい いだろうとされても、全然分からないものもある。
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
17
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
事前調査
2-2. 歩行訓練士へのヒアリング 東京視覚障害者生活支援センターの職員で歩行訓練士の 方に、歩行訓練についてヒアリングを行った。 実施日:2004 年 9 月 10 日 N さん ( 歩行訓練士 )
□手がかりについて ・まず、聴覚情報を得て、そこからきっかけを触覚で探 していく。 ・大きく三つ、物、音、匂いがあるが、物は全体を把握 するのが難しく、音は全体的なものを把握しやすい。 ・物は手、白杖、足裏で感じ取るが、「伝う」「なくなる」 「形の変化」をきっかけに使っている。 ・また、視覚障害者も人それぞれ歩きやすさが違い、点 字ブロックも完全にその上に乗って、足の裏で感じ取る人 もいれば、点字ブロックには乗らず、突起部分に白杖を当 てながら伝う人もいる。 ・触感で言うと、 1、点字ブロック 2、路面の変化 ( 音の変化、白杖の変化 ) 3、障害物 4、道路の傾き ( 坂など ) を主に使う。物など手がかりは、はずせないので白杖で 徹底的に探す歩き方を覚えてもらう。
□手がかりを決める際の基準 ・とりあえず、目立つもの、特徴的な変化など分かりや すいものを探すが、そこにあるどんなものでも使う。そこ からポイントとなる部分だけを覚えてもらう。直線など、 手がかりが多くても仕方ないので、手がかりとなるものも 捨てることも必要となる。 ・メンタルマップは、手がかりをポイントとして、それ らの集積で組み立てられていると思う。
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
18
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
事前調査
・ランドマーク ( 常に動かないでそこにあるもの ) のつ ながりで確認をする。つまり、音や匂い、距離感も含めて、 順番または二つ以上のものの関連性で場所の確認をする。 ただ電信柱で曲がるといっても、それが数多くある電信柱 の中のどの電信柱なのかは、他の手がかりの関係によって 判断している。 ・また、ある手がかりを見落としたりしても大丈夫なよ うに、手がかりはいくつも持っているのが理想的。また、 目的の所を行き過ぎて、特徴的な手がかりを感じてから戻 った方が楽な場合もある。 ・手がかりとしては、当然対比がはっきりした方がいい。 ・また、普段そこにあるものならば、障害物となるもの でも、腰から上に危険な物がなければ、場所を確認する上 で必要な物であるともいえる。 ・手がかりが多いという点では、曲り角の多い場所の方 が、場所の確認が増えるので、経路的には楽かもしれない。 まっすぐの道の方が手がかりとなるものが少ないので、ど こまで進んだかなどの判断がしにくい。
□障害の度合による、手がかりとするものの違い ・十人十色の歩き方があるので、使える情報は様々。また、 ある人には感じ取れる変化でも、他の人では感じ取れない ということもあるので、人の感覚に合わせた手がかりを利 用する。点字ブロックを感じ取れない人は、道の端を伝う とか。その場で相談して決めていく。 ・また、弱視の人は結構視覚に頼ろうと、目で追おうと する。明るい、暗いなどがよく感じ取れる場合は、建物内 の廊下とかでは、上を向き、蛍光灯の方向や切れ目を手が かりとして使う。
□音声案内について ・音声案内はとても重要な情報だが、安心感や触ること による確認は必要。触ることで細かい特定ができる。
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
19
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
Method
調査方法 早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
20
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
調査方法
3-1. 調査概要 調査は、日本点字図書館・東京都盲人福祉協会・日本盲 人会連合の視覚障害者の職員の、視覚障害者の方、計五名 ( 先天的:三名、後天的:二名 ) を対象に行った。 被験者は全員視力のない全盲であるが、W さんと I さん は、片眼のみ光覚があるということだった。( 表 3-1) 経路は、それぞれの被験者の職場から自宅までの、通い 慣れた帰宅経路とした。(K さんに関しては、帰宅経路に 加え、行き慣れた歯科医院までの経路も調査した。) 調査日および経路: W さん:2004 年 10 月 15 日 ( 晴れ ) K さん:2004 年 9 月 21 日 ( 晴れ ) ��2004 年 10 月 16 日 ( くもり ) Y さん:2004 年 10 月 16 日 ( くもり ) T さん:2004 年 10 月 18 日 ( 晴れ ) I さん:2004 年 10 月 19 日 ( 雨 )
表 3-1. 被験者リスト 被験者 性別 年齢
視力
受障時期 障害原因 歩行訓練経験 調査経路についての歩行訓練
Wさん 男性 63歳 右:0 左:0 (左は光覚のみ) 先天的 Kさん 女性 36歳 右:0 左:0 先天的 Yさん 女性 51歳 右:0 左:0 先天的
小眼球症 なし 未熟児 あり 緑内障 なし
なし なし なし
Tさん 女性 59歳 右:0 左:0 5歳から 事故 あり Iさん 男性 54歳 右:0 左:0 (右は光覚のみ) 30歳から 網膜剥離 あり
なし あり
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
21
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
調査方法
3-2. 手がかり抽出調査方法 視覚障害者に、確認に用いるものや伝い歩きするもの など、手がかりとしているものについて随時口に出して言 ってもらい、IC レコーダーで発話を録音する。また、調 査は二人で行い、一人は、歩行時の質問や口に出した手が かりついての記録、また事故防止のために、視覚障害者の 隣を付き添う。もう一人は後方約 5 メートルから、歩行し ている状況と周りの環境をビデオカメラで記録する。( 図 3-1)
図 3-1. 実際の調査の状況
図は高田馬場の調査用紙の例である。( 図 3-2) 調査用紙01
2004年10月15日(金):晴れ
○ 段差
5
4
3
2
1
① 点字ブロック
⑪
②
⑫
坂
③ マンホール ④
人の音
⑤
・ ・ ・ ・ ・
⑥
場所:高田馬場
有効でない
有効
例)
被験者:Wさん
⑬ ⑭ ⑮ ⑯
⑦
⑰
⑧
⑱
⑨
⑲
⑩
⑳
④
高田馬場駅
③
①②
N
東京都盲人福祉協会
図 3-2. 調査用紙 ( 赤は記入例 )
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
22
調査方法
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
3-3. 手がかりの有効性評価方法 手がかり抽出調査で、手がかりとして出てきたもの、また 口頭では出てこなかったが歩行線上にあった物など、手が かりになりそうだと判断したものについて、その有効性を アンケートによって、五段階に評価していもらう。 図は調査用紙の例である。( 図 3-3)
調査用紙01
2004年10月15日(金):晴れ
5
○ 段差
4
3
2
1
① 点字ブロック
⑪
②
⑫
坂
③ マンホール ④
人の音
⑤
・ ・ ・ ・ ・
⑥
場所:高田馬場
有効でない
有効
例)
被験者:Wさん
⑬ ⑭ ⑮ ⑯
⑦
⑰
⑧
⑱
⑨
⑲
⑩
⑳
④
高田馬場駅
③
①②
N
東京都盲人福祉協会
図 3-3. 調査用紙 ( 赤は記入例 )
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
23
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
Result
調査結果 早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
24
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
調査結果
4-1. 調査結果 手がかり抽出調査から得られた触覚情報は資料編 p.104 から p.106 を参照していただきたい。 手がかりとなったものについて触覚 ( 物 )、聴覚 ( 音 )、 嗅覚 ( 匂い ) 情報の三つに分類し数を集計した。( 図 4-1) 五人とも同じように、触覚を用いた手がかりが約七割を占 め、次いで聴覚が約三割、嗅覚はほとんど用いられてなか った。
100% 90% 80% 70% 60%
触覚
50%
聴覚
40%
嗅覚
30% 20% 10% 0% Kさん
Wさん
Yさん
Tさん
Iさん
図 4-1. 手がかりの個数の感覚別割合
手がかり抽出調査から出てきた手がかりのうち、触覚 情報を、以下の表のように七つにグループ分けした。( 表 4-1) 表 4-1. 触覚情報のグループ分け ー
ー
よ る 段 差 壁
傾 斜
段 差
ル
柱
ル
蓋
物
ー
グ ル
の 段 差
マ 風 圧 ン 迫 ホ 感 ー
ー
手 壁 フ 傾 坂 道 L 敷 段 道 歩 店 電 柱 標 椅 ガ 看 車 壁 手 側 タ 道 ホ ェ 斜 路 型 き 差 路 道 の 信 識 子 板 止 広 す 溝 イ 路 が ン の 溝 直 の と 段 柱 の ド め 告 り の ル の ム か ス 断 し 段 車 差 柱 レ 金 凹 の り 面 に 差 道 属 凸 縁
プ
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
床 面 の 変 化
空 気 の 流 れ
25
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
調査結果
被験者五人の使う触覚情報の数の分布が以下の図にな る。( 図 4-2) 個人差で多少のばらつきはあるが、主に壁、 傾斜、段差の三つのグループで触覚情報全体の六割から八 割を占めていることが分かる。
100% 90% 80%
壁
70%
傾斜
60%
段差
50%
物
40%
柱 床面の変化
30%
空気の流れ
20% 10% 0% K
W
Y
T
I
図 4-2. グループ別触覚情報の使用頻度の分布
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
26
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
調査結果
4-2. 考察 視覚障害者の屋外歩行において、触覚情報が数多く関与 しているが、同じ物でも場所やその時の状況によって、評 価が違うことが確認された。 以降結果分析においては、その場所や状況など、周辺要 素別に分析し、その場に応じた有効な触覚情報の関係を明 らかにしていく。
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
27
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
Analysis
結果分析 早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
28
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
結果分析
5-1. 周辺要素の抽出 屋外環境として、ビデオカメラの記録から点字ブロック の有無、人の混み具合、歩道の有無、場所の状況を抽出し た。また、調査用紙から音や匂いなど他の感覚による手が かり、手がかりの有効性を、触覚情報それぞれについて整 理した。( 表 5-1、資料編 ) 以下は、それら周辺要素別についての分析である。
表 5-1. 触覚情報の周辺要素整理 No. 18 19 20 21
手がかり 標識の柱 道路の凹凸 傾斜 道路の断面
グループ 柱 床面の変化 傾斜 傾斜
場所詳細 十字路 十字路 建物から まっすぐな道
場所グループ 交差点 交差点 交差点 一本道
歩道 なし なし あり なし
行動 停止 停止 直進 直進
感受部分 白杖 足裏 平衡感覚 平衡感覚
人混み 有効性 点字ブロック 効果 ない 1 なし 危険回避 ない 4 なし 場所確認 ない 1 あり 場所確認 ない 5 なし 範囲確認
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
音 備考 あり 車の音 なし なし なし
匂い 備考 場所 人 受障時期 なし 富士見台 K 先天的 なし 富士見台 K 先天的 なし 高田馬場 K 先天的 なし 富士見台 K 先天的
29
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
結果分析
5-2. 周辺要素別の有効性の違い □点字ブロックとの関係 点字ブロックについて、敷いてあり使用している時、敷 いてあるが使用していない時、敷いていない時の三つに分 けて、使われた触覚情報 ( 評価が3以上のもの ) の個数を 集計した。 点字ブロックを使用している場面では、傾斜が補助的な 手がかりとして多く使われている。他の物は特に用いられ ていない。( 図 5-1) 14 12
(個数)
10 8 6 4 2 0 傾 斜
床 面 の 変
空 気 の 流
化
れ
段 差
柱
物
壁
図 5-1. 点字ブロックを使用している時の触覚情報の種類と個数の関係
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
30
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
結果分析
点字ブロックがあっても使用していない部分では、壁や 柱や物を点字ブロックの代用として使っている。( 図 5-2) 点字ブロックが敷いてあっても、使用していない理由と しては、 1. 道の端に敷いてあることが多く、自転車や自動車が 停めてあって危険だから 2. 歩行したい経路に敷いてないから 3. 人にぶつかると危険だから ( 駅のホームなど ) などが挙げられた。 6 5
(個数)
4 3 2 1 0 壁
物
柱
傾 斜
段 差
床 面 の 変 化
空 気 の 流 れ
図 5-3. 点字ブロックがあっても使用していない時の触覚情報の種類と個数の関係
また、点字ブロックのない部分では、点字ブロックの代 わりとして、主に壁や傾斜、段差を用いて歩行している。 ( 図 5-3) 18 16 14 (個数)
12 10 8 6 4 2 0 段 差
傾 斜
壁
床 面 の 変
空 気 の 流
化
れ
物
柱
図 5-4. 点字ブロックのない時の触覚情報の種類と個数の関係
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
31
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
結果分析
以下の図は、以上三つの図を一つにまとめたものである。 ( 図 5-4) 点字ブロックを使う場合と使わない場合を比較 すると、上述した通り、壁、段差、物が点字ブロックの代 わりとして使われていることが分かる。
18 16 14 12
(個数)
10 8 6
あり
4
あり(使わず)
2
なし
0
傾 斜
壁
段 差
柱
物
床 面 の 変 化
空 気 の 流 れ
図 5-5. 点字ブロックの使用と触覚情報の種類と個数の関係
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
32
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
結果分析
□場所および人混みとの関係 視覚障害者の屋外歩行において、人混みは非常に重要な 要素となっている。人の歩く音で道路の方向を確認したり、 曲がり角の場所の確認にも用いられている。そこで、人の 混み具合を、人が多い、少ない、ないの大きく三つに分け、 一本道、交差点、横断歩道のそれぞれの場面において、触 覚情報の評価との関係について分析した。
・一本道と交差点について 一本道と T 字路などの交差点では、手がかりの評価は人 混みにあまり影響されていない。( 図 5-6、図 5-7) つまり、 人の足音は手がかりとして使っていても、それだけに頼っ ているのではなく、それとは関係なく別に、触覚情報で方 向や場所確認をしていることが推測される。 100%
80% 評価5
60%
評価4 評価3 評価2
40%
評価1
20%
0% 多い
少ない
ない
( 人混み )
図 5-6. 一本道における人混みと触覚情報の有効性の関係
100%
80%
評価5
60%
評価4 評価3
評価2
40%
評価1
20%
0% 多い
少ない
ない
( 人混み )
図 5-7. 交差点における人混みと触覚情報の有効性の関係
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
33
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
結果分析
・横断歩道について 横断歩道では、人混みの多い場合には、人の足音で方向 を判断、横断していて、傾斜などの触覚的手がかりはあま り有効には使われていない。逆に人混みの少ない、または ない場面では、人の音に付いていくことができないので、 道路の段差や傾斜の触覚情報が非常に大きな手がかりとな っている。( 図 5-8)
100%
80% 評価5
60%
評価4 評価3
評価2
40%
評価1 20%
0% 多い
少ない
ない
( 人混み ) 図 5-8. 横断歩道における人混みと触覚情報の有効性との関係
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
34
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
結果分析
□音の手がかりとの関係 屋外空間において、車の音や、マンホールから聞こえる 水の流れる音、また交差点などに見られる視覚障害者誘導 チャイムなど、音による情報も手がかりとして多く挙がっ た。( 図 5-9) そこで、音を手がかりとして使っている場所では触覚情 報の有効性がどう変化しているのか、以下音情報の有無と の関係を分析した。
図 5-9. 視覚障害者誘導用チャイム
手がかりとする音の有無によって、触覚情報の評価に 違いはあまり見られなかった。( 図 5-10) 100%
80% 評価5 60%
評価4
評価3
評価2
40%
評価1 20%
0% あり
なし
( 音の手がかり ) 図 5-10. 音の手がかりの有無と触覚情報の有効性との関係
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
35
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
結果分析
また、使われた触覚情報の個数を種類別に分類したが、 音の有無には特に違いは見られなかった。( 図 5-11) これは、音から得る情報から交差点の辺りなど、その場 の広域の情報を知ることはできるが、そこから実際にどこ で曲がるなどの細かい情報は、音からではなく、触覚から 得ている。そのため触覚情報の評価、物には変化がみられ なかったと考えられる。
20
(個数)
15 10 5
あり なし
0 あ り
壁
傾 斜
段 差
物
柱
なし あり
空 気 の 流 れ
図 5-11. 音の手がかりの有無と触覚情報の種類の個数との関係
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
36
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
結果分析
□場所および歩道の有無との関係 歩行する道は、歩道のある所と、歩道のない所、の二つ に分けられる。( 図 5-12) そこで、歩道の有無により評価 の違いを集計した。
図 5-12. 歩道のない道路の例
・場所における歩道の有無の比較 一本道、交差点において、触覚情報の有効性の、歩道 の有無による変化はあまり見られなかった。( 図 5-13、図 5-14) 100%
80% 評価5 60%
評価4 評価3
評価2
40%
評価1
20%
0% あり
なし
( 歩道 ) 図 5-13. 一本道における歩道の有無と触覚情報の有効性の関係
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
37
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
結果分析
100%
80% 評価5 60%
評価4
評価3
評価2
40%
評価1 20%
0% あり
なし
( 歩道 ) 図 5-14. 交差点における歩道の有無と触覚情報の有効性の関係
・歩道の有無と触覚情報の種類との関係 また、歩道の有無に関して、使われている触覚情報を種 類別に分類した。( 図 5-15) 歩道のある場所では、壁が多 く使われている。逆に、歩道のない場所では傾斜と段差が 多く使われている。
14 12
(個数)
10 8 6 4 2
あり
0
なし
壁
傾 斜
段 差
物
柱
空 気 の 流 れ
なし あり
床 面 の 変 化
図 5-15. 歩道の有無と触覚情報の種類との関係
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
38
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
結果分析
□場所との関係 歩行環境を、一本道、交差点、横断歩道の三つに分けて 分類した。( 図 5-16) 交差点では、段差、傾斜、壁と共に空気の流れが非常に 有効になっていることが分かった。具体的に空気の流れと は、風や圧迫感を皮膚感覚で感じることで、建物などの壁 がなくなったのを感じとって交差点だと確認している。 横断歩道では点字ブロックや物などがないため、段差や 傾斜を重要な手がかりとしてる。 一本道では、特に傾斜が使われている。
16 14
(個数)
12 10 8
交差点
6
横断歩道 一本道
4
その他
2 0
段 差
傾 斜
物
壁
床 面 の 変 化
柱
空 気 の 流 れ
図 5-16. 場所と触覚情報の有効性との関係
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
39
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
結果分析
5-3. 歩行行動別の有効性の違い 歩行行動について四つ、 1. 曲がる 2. 直進 3. 修正 4. 停止 に分けて分類した。行動別で、手がかりとしている触覚 情報に違いが見られる。( 図 5-17)
18 16 14 12 10
(個数)
曲がる
8
修正
6
停止
4
直進
2 0 傾 斜
段 差
床 面 の 変 化
壁
空 気 の 流 れ
物
柱
図 5-17. 行動と触覚情報の種類との関係
・「曲がる」について まず曲がる際には、傾斜、壁、空気の流れを主に使って いることが分かった。( 図 5-18) 具体的に、傾斜は、交差 点などで歩道が下っている部分、壁で切れている部分、道 が開けて空気の流れが変わる部分で交差点、曲がり角と判 断して、曲がっている。 5
(個数)
4 3 2 1 0 傾 斜
壁
空
床
段
気
面
差
の
の
流 れ
化
物
柱
変
図 5-18. 曲がる際に使うて触覚情報の種類と個数
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
40
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
結果分析
・「直進」について 直進の際は、傾斜、段差、床面の変化が主に使われてい る。( 図 5-19) 傾斜が最も多く使われ、傾斜に沿うように 直進する場合と、傾斜に直行するように直進する場合があ ったが、両者とも方向や範囲の確認に非常に有効であるこ とが分かった。段差と壁は、点字ブロックを使わない所で、 それらを杖で伝い歩きし、方向を確認するために使われて いる。床面の変化は、足裏で床面の変化を感じとって、感 覚が変わったから、この辺まで来た、と場所の範囲を確か める際用いられている。 18 16 14 (個数)
12 10 8 6 4 2 0 傾
段
床
斜
差
面
壁
空 気
の
の
変
流
化
れ
物
柱
図 5-19. 直進の際に使用する触覚情報の種類と個数
・「修正」について 修正では、壁、物、柱を多く用いている。( 図 5-20) ど れも同じように、直進歩行中にそれらに白杖が当たった所 で、方向を修正している。 7 6
(個数)
5 4 3 2 1 0 壁
物
柱
傾
空
段
床
斜
気
差
面
の
の
流
変 化
れ
図 5-20. 修正する際に使用される触覚情報の種類と個数
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
41
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
結果分析
・「停止」について 停止はに、段差、物、傾斜が多く使われている。( 図 5-21) 段差や物は、真っ直ぐ、それらを目指して歩き、ぶ つかった所で停止し、場所を確認している。そのため、白 杖で確実にそれらを確認できるような、触れる際に特徴的 であるものを使用している。傾斜は、傾斜から平らになっ たら止まる、など、傾斜の始まりと終わりを停止する場所 の確認に使っている。 8 7
(個数)
6 5 4 3 2 1 0 段
傾
差
斜
物
床
空
面
気
の
の
変 化
流 れ
壁
柱
図 5-21. 停止する際に使用される触覚情報の種類と個数
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
42
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
結果分析
5-4. 受障時期による比較 調査概要でも述べた通り、調査は先天的視覚障害者三名、 後天的視覚障害者二名で行った。後天的視覚障害者は、視 覚による情報を持っているためか、先天的視覚障害者と、 歩行の際の手がかりに違いが見られた。
・点字ブロックの使用について 先天的視覚障害者は、点字ブロックがあっても使わずに 歩くという場面が何度か見られたが、後天的視覚障害者は、 点字ブロックが敷いてある部分では、迷って発見できな い時以外、点字ブロックの上を沿って歩行していた。( 図 5-22) 50 45 40
(個数)
35 30
先天的
25
後天的
20 15 10 5 0 あり
あり(使わず)
なし
( 点字ブロック ) 図 5-22. 点字ブロックの使用状況と受障時期との関係
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
43
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
結果分析
・使われる触覚情報の種類について 先天的、後天的視覚障害者で、使われる触覚情報に違い があり、先天的視覚障害者は壁、傾斜、段差の三つを主に 使っている。一方後天的視覚障害者は、第一に点字ブロッ クを使って歩行していたため、壁や段差など点字ブロック の代わりとなるような手がかりが少なく、補助的手がかり として傾斜を多く使っているという結果が得られた。( 図 5-23) これは、後天的視覚障害者が点字ブロックを使うこ とが多く、その際の補助的手がかりとして、傾斜が多く使 われていたためと思われる。
14 12 壁
(個数)
10
傾斜 段差
8
柱
6
物 床面の変化
4
空気の流れ
2 0 先天的
後天的
図 5-23. 使われる触覚情報の種類と個数
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
44
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
Conclusion
結論 早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
45
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
結論
6-1. まとめ 五章で、周辺要素における触覚情報の有効性の違いにつ いて分析したが、分析結果をまとめると次の表のようにな る。( 表 6-1) 表 6-1. 分析のまとめ ( 各要素において使われている触覚情報の個数の割合 ) 点字ブロック あり あり(使わず) 壁 0 55.6 傾斜 66.6 0 段差 5.6 0 物 0 33.3 柱 5.6 11.1 空気の流れ 11.1 0 床面の変化 11.1 0
なし 18.2 21.8 30.9 7.3 0 9.1 12.7
歩道 人混み あり なし 多い 少ない 40.9 6.5 24.0 23.3 13.6 41.9 20.0 36.7 9.1 25.8 28.0 10.0 13.6 0 0 16.7 0 0 8.0 0 18.2 9.7 8.0 10.0 4.6 16.1 12.0 3.3
ない 7.7 30.8 30.8 3.8 0 7.7 19.2
行動 曲がる 28.6 28.6 7.1 0 0 21.4 14.3
40%~
直進 11.4 38.6 22.7 4.5 0 9.2 13.6
修正 60.0 20.0 0 20.0 0 0 0
停止 0 21.4 50.0 21.4 0 0 7.2
30~39%
( 単位:% ) 場所 一本道 交差点 横断歩道 17.9 20.0 0 38.5 20.0 27.3 17.9 20.0 72.7 5.2 6.7 0 0 0 0 7.7 26.6 0 12.8 6.7 0
20~29%
10~19%
・点字ブロックとの関係 点字ブロックを使っている部分では、傾斜が多く使われ、 敷いてあるが使用していない部分では、壁と物がその代わ りとして使われている。また、点字ブロックのない部分で は、主に壁、傾斜、段差が用いられている。 ・歩道の有無との関係 歩道のある部分では、壁が多く使われ、歩道のない部分 では、傾斜が主に使われている。 ・人混みとの関係 人の混み具合であまり変化が見られなかったが、横断歩 道においては、人混みの少ない場面とない場面では、人混 みの多い場合に比べ、傾斜と段差が大変重要な手がかりと なっている。 ・行動との関係 曲がる際には、壁や傾斜や空気の流れが主に使われ、直 進の際には、傾斜と段差が用いられている。方向を修正す る際は、壁が主に使われ、少ないが傾斜や物も使われてい る。また、停止する際には、段差が多く使われ、傾斜や物 も使われている。 ・場所との関係 一本道では傾斜が多く使われ、他に壁、段差、床面の変 化も使われている。交差点では、壁や傾斜や段差、空気の 流れなど幅広く使用して歩行している。また、横断歩道で は、物など手がかりが他にないため、段差が非常に大きな 手がかりとなっている。
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
46
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
結論
6-2. 展望 この分析結果は、歩行環境の中の周辺要素から、使われ やすい触覚情報を判断し、その種類と似た形態を持つ触覚 情報を配置する、といった視覚障害者の歩行しやすい環境 整備のための参考になる。
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
47
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
結論
6-3. 今後の課題 今回の調査では、全盲の視覚障害者五名 ( うち三名が先 天的視覚障害者、二名が後天的視覚障害者 ) に対してのも のであったが、より正確なデータを取るためにはより多く の視覚障害者を調査する必要がある。 また、弱視の視覚障害者にとって、色彩のコントラスト は非常に重要な手がかりとなるため、弱視の視点からの研 究も今後の課題となる。 本研究では、視覚障害者の視点から屋外の環境整備につ いて論じたが、研究背景でも述べた通り、傾斜や段差は他 の障害者の通行の弊害となるため、車椅子や肢体不自由者 の視点も含め、互いの通行しやすい、総合的な環境整備の 提案が必要である。
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
48
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
Epilogue
終わりに 早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
49
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
終わりに
■おわりに この論文を書き上げるにあたり、的確なアドバイスをし て下さった渡辺仁史教授、研究室の諸先輩方、また、調査 に快く協力してくださった日本点字図書館、東京都盲人福 祉協会、日本盲人会連合の職員の方々に、この場を借りて、 お礼申し上げます。 日本点字図書館の強矢さん、ヒアリングから調査まで、 日程の調整など、お忙しい中色々とご迷惑をかけたと思い ます。本当にありがとうございました。 ビデオの撮影の協力をしてもらった、島田君、小笠原君、 突然のお願い聞いてもらって本当に助かりました。ありが とうございました。 また、住宅情報ゼミのみなさん、触感、触感言って本当 にご迷惑をかけました。なんとか卒業論文として形になっ たのは、ゼミのみなさんのおかげです。特に長澤さん、遠 田さんには、毎回的確なアドバイスいただき、ありがとう ございました。 最後に担当の永池さんには、卒論の方向性を一緒に悩ん でもらったり、何度もつきあって徹夜してもらったりと、 春からずっお世話になりました。永池さんには、本当に感 謝してもしきれないほどです。本当にありがとうございま した。
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
50
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
終わりに
■参考文献・参考資料 1)津田美知子著『視覚障害者が街を歩くとき ケーススタ ディからみえてくるユニバーサルデザイン』都市文化社 1999 年 2)日本ライトハウス職業・生活訓練センター『視覚障害者 の社会適応訓練』日本ライトハウス発行 1990 年 3)太田篤史 田村明弘『視覚障害者の屋外歩行時における 情報の利用 ( 全盲の場合 ) ーアンケート調査による心理 構造の探求ー』 日本建築学会 1998 年 4)津田美知子『視覚障害者の歩きやすさとユニバーサルデ ザインに関する考察ー歩行訓練指導員アンケート調査よ りー』 日本建築学会 1998 年 5)岩田三千子『床仕上げ材料の触覚的対比 福祉のまちづ くりにおける視覚障害者用サインの検討』 日本建築学 会 2000 年 6)伊藤彰人 高橋儀平ら『視覚障害者の歩行環境改善に関 する研究 その1 単独歩行者を中心とした視覚障害者 の歩行環境』 日本建築学会 1998 年 7)岩田三千子 田中直人『点字ブロックに対する視覚障害 者の意識 視覚障害者のためのサインデザインに関する 研究 その2』 日本建築学会 1996 年 8)VIRN 視覚障害リソース・ネットワーク http://www2.aasa.ac.jp/people/hkawash/VIRN/index.h tml 9)清水茜 Happiness�for�Everyone バリアフリーからユ ニバーサルデザインへ http://web.sfc.keio.ac.jp/~s99433as/ud/
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
51
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
Data
資料編 早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
52
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
御自宅
バス+徒歩
成増駅(東武東上線)
電車
池袋駅(JR→東武東上線)
電車
歩行(手がかりを言ってもらう)
ICレコーダーをつける
被験者:Kさん
2004/10/18 PM4:00~
高田馬場駅(JR)
徒歩
日本盲人連合
場所
調査概要
ビデオ・写真係:永池
※後方5mくらいから
ビデオでの撮影
ビデオ(写真)の準備
HITOSHI WATANABE LAB. WASEDA UNIV.
手がかりに対して、有効性をアンケート
付き添い、手がかりをピックアップ
ICレコーダーをつける
(手がかりを随時口に出して歩行してもらうこと、 最後にまとめてアンケートを行うこと。 また、ビデオカメラや音声録音の協力確認。 ビデオは拒否されれば使わない。代わりに数枚の写真)
・被験者が帰宅可能となってから、調査の詳しい説明。
・5分前には日本盲人会連合で待機
付き添い・アンケート係:米澤
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」 資料編
□調査用タイムテーブル
53
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
□調査内容の説明と質問用紙
調査内容説明
20041018
■日時 10月18日(月) PM4:00∼ 天気(晴れ) ■説明の流れ 1:卒業論文の調査ということの説明 『視覚障害者の利用する屋外空間における触覚情報に関する研究』とし た卒業論文のため、視覚障害者の方の実際の野外歩行時に使う手がかり についての調査を行う。 2:被験者の視力や受障時期など質問する。 名前:( )さん 性別:(男・女) 年齢:( 歳) 職業: 視力:(右: ・左: ) 受障時期:(先天的・ 歳から) 障害原因:( ) 歩行訓練:(ある・なし)経路について(ある・なし) 3:具体的な調査方法として欲しいことなどの説明 具体的には、歩行に付き添い、確認に使う物や伝い歩きする物など触感 に関する「物」を中心に手がかりとなるものを随時言ってもらい、ICレコ ーダーで録音またビデオカメラにより録画する。 ・常に何を手がかりに歩行しているか説明して欲しい。 (これがあると場所の確認ができる、これを沿うなど) (点字ブロックを歩いて右に電柱を探しに歩く。)など。
目的地に到着後、ピックアップした手がかりに、有効性について5段階 評価をしてもらう。(アンケート) 4:簡単に経路について確認する
日本盲人会連合 ↓(徒歩) 高田馬場駅(JR) ↓(電車) 池袋駅(JR→東武東上線) ↓(電車) 成増駅(東武東上線) ↓(バス+徒歩) 自宅 5:ICレコーダーを付けてもらって出発 HITOSHI WATANABE LAB. WASEDA UNIV.
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
54
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
□調査用紙 調査用紙01 例)
○ 段差
2004年 月 日( ):
被験者: さん
場所:高田馬場
有効でない
有効 5
4
3
2
1
①
⑪
②
⑫
③
⑬
④
⑭
⑤
⑮
⑥
⑯
⑦
⑰
⑧
⑱
⑨
⑲
⑩
⑳
高田馬場駅
N
東京都盲人福祉協会
HITOSHI WATANABE LAB. WASEDA UNIV.
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
55
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
□調査結果 ■ K さんの発話データ ( 経路1) 9 月 21 日 ( 火 ) K さん ( 日本点字図書館 ) 「ドアは自動的に開くので、この坂 1 を下りきって、右に曲がります。」 ―ここは点字ブロック 2 を沿う感じですか? 「そうですね。」 ―どのあたりまで? 「まだまっすぐで、キンコンというまず音 3 が聞こえてきますし。」 ( 放置自転車にぶつかる ) 「自転車ですね。」 「このお蕎麦屋さんのいい匂い 4 がするあたりで、左に道が開けるのでここで曲が ります。」 「で、適当に曲がって点字ブロック 5 を探します。きれいに 90 度にはたぶん曲がっ てません。いつも。」 ―点字ブロックを探しに斜めに歩く? 「ええ。斜めに歩いていると思います。」 ―ここも点字ブロック 5 ですか? 「そうですね。」 「朝は逆に道の真中が空いている。帰りは自転車や人がいきかっているので、なん となく帰りはここ ( ブロックの上 ) を歩いた方がいいような気がしています。」 ―行きと帰りは道が違うのですか? 「いえ、同じなのですが、あえて点字ブロックの上を歩こうとしていません。道の 様子が違うので。」 ―その時は何を手がかりにしていますか? 「人の音や自転車の音 6。」 ( 横断歩道 ) 「やっぱりブロック 7 を触って探しますね。渡って。」
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
56
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
「このあたりは自転車がピューと通るのでちょっとペースを落としますね。」 「左に向いたブロック 8 を探して、そのまま曲がります。」 ―ここの傾斜 9 は手がかりとなりますか? 「そうですね。だいぶ参考にします。」 「ここで折りきる 10 形になるので、適当に右に曲がってブロックを探します。」 「ここの所で若干 ( 地面が ) 右に傾いている 11 ところがあるんです。ここが改札口 なので、ここで曲がります。で、ここの駅に関しては左の方の改札口が入口だと分 かっているので、できるだけ左の改札口に入ります。」 ( 高田馬場駅:改札 ) ( 階段 ) ( ホーム ) ( 電車 ) ―結構歩くの早いですね。 「ひとりで歩く時はすごく極端かもしれないですね。すごく危ない場所だと思うと、 普通に歩くよりもペースは落ちるし、ここはオッケーそうと思うと、ペースは上が ります。」 ―さっきの行きの話ですが、朝は点字ブロックは使わない? 「場所によりますね。さっきの場所は使ったり使わなかったりします。」 ―使わないときは勘で歩く? 「そうですね。使わずに優雅に真中を歩くのも結構好きです。」 ―結構真中に歩けるものですか? 「あと朝はトラックが停まっていたりとか、ブロックの上とか付近をコツコツ歩い ている人がいたりとか、ぶつかりそうと思えば真中を歩いたりします。でも帰りは あんまり真中は歩かないですね。」 ―人が多いからですか? 「そうですね。帰る方向が同じ方向ではなくて、自分とは逆方向に行く人もすごく 多いなっていうのは感じます。」 ―それで点字ブロックの上を歩く? 「そうですね。」 ―点字ブロックがない時はどうするんですか? 「ないとそれは仕方がなく普通に歩きますけども、やっぱり ( ブロックは ) 安全地 帯だし、あるのにないところを選んで歩いて誰かにぶつかったときの申し訳なさよ
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
57
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
りは、あるところはある状態でぶつかったほうが、なんとなくこちらの意識的にも 気が楽。ない時はそれはそれでいいんですが。」 ―ブロックのない場合に別のものを手がかりや伝い歩きしてるのですか? 「私の通勤路はそういう場所はあまりないです。わたしは伝い歩きはしないですね。 道路の端の方が自転車があったり、お店のものが出てたり、ぶつかることのストレ スを感じることが多いんで、真中を歩いたほうがいいです。( 歩道がない道路で ) 真中は確かに車が来るんですが、車が頻繁に来ないのであらば、車の音がしたら避 けるくらいでいいですね。けど本当に場所によります。わたしの通勤経路でブロッ クのない場所はそんな感じ。逆に車道と歩道が分かれていなくても、歩行量が多い ところではそんなことできないです。」 ( 池袋駅:ホーム ) 「ここはブロックは使わないです。」 ―勘ですか? 「勘 1 なんでしょうね。池袋は乗り降りが激しいし、歩かないかな。ブロックの上 を歩いていると、階段を越してしまうんで。」 「ここはさっき ( 高田馬場 ) のようなスピードでは歩かないですね。」 ( 階段 ) ―改札へはどうやって? 「改札の音 2 が聞こえてます。けど毎日のことなので、もうなんか真剣に何かの音 を探しているわけではないですね。」 ( 改札 ) 「ブロック 3 を探して、沿って歩きます。」 「曲がります。」 ―駅構内は点字ブロックにずっと沿う? 「行くところにもよるんですけど、この経路の場合はそうですね。」 「向こうも ( 点字ブロックがあって ) 同じように通れるんですけど、こっちの方が 通路が広いのでひとりのときは歩きやすくて、こっちを歩いています。」 「床のタイル 4 が違うので、ここで西武のエリアに入ったことが分かります。」 「この柱 5 を越えたら、なんとなく斜めに行きますね。( 点字ブロックを探す )」 ( 改札 )
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
58
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
「わたしはここで時計を見ます。この時間だと何番ホームに行かなきゃいけないか を確かめます。」 「入って、この柱 6 があって、なんとなく斜めに行きます。」 ( 柱 6 →柱 7 →柱 8 →柱 9) 「この柱 9 を探して、また斜めに。」 ( エスカレーター ) ( ホーム ) ―何番ホームに乗りますか? 「4 番ホームです。」 「6 時 2 分かなんかのの快速だと思います。」 「この辺に乗ります。」 ( 電車 ) ―乗る場所は決まっているんですか? 「乗る場所も特に決まっていないんですが、エスカレーターの上った所はとても混 むのでそれを避けようと適当に歩いてきて乗っています。」 ―時刻表は頭に入っているんですか? 「いいえ。寄り道をしないで、図書館からまっすぐ帰るころの時刻表だけは頭に入 っているんですが、それ以外の時間に帰るときはまったくお手上げです。賭けをし ます。時々自分の乗れる電車が 5 番ホームから出るんですけど、たいていは 2、3 番が多いんです。だから、そのホームにくることにしているんですけど、そうなる と時々 5 番線から準急が、とかなるとあーショックとか思います。」 ―各駅停車は使わないんですか? 「乗りますよ。ただ今は自分が乗れる電車で一番早く着くのでこれにのっています。」 「毎時決まったパターンで電車が来ないし、ホームもばらばらなんで、それは非常 に困ります。決まっているのは 2 番に各駅が来ることくらいですかね。それはちょ っと不便な点かと思います。」 ―ここはホーム多いですもんね。 「そうですね。ここに来るときは、柱をなんとなく手がかりに来ています。それと、 左側の食べ物屋さん 10 があるので、その音 10 も手がかりにしているかもしれませ ん。そこからの距離感 11 でこのホームを見つけているかも知れません。5 番に行 くときは、改札入ってまもなくのブロックをたどっていって、一番左隣が 5 番なん ですね。そんな感じで探しています。」
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
59
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
「はじめてのところではこんな歩き方はできないですね。そこに柱があるというこ とが分かっているのでできる歩き方ですね。知らないところは柱があることすら分 からないので。」 ―頭の中に地図ができているということですか? 「そうですね。あると分かっているから柱を探してその柱をよけて歩くこともでき るんですが、あかないか分からなければ柱目掛けて突進していくとかということも あるでしょうし。意識の仕方とかが、分かっている話分かっていない話とだいぶ違 うのかなというは思いますね。」 ―お蕎麦屋さんを左に行くところの手がかりは何ですか? 「匂いかな。あと、手がかりはお蕎麦屋さんの匂いだけとは限らなくて、左に道が 開けるとか、左の道から来る人の動きを感じるとか、これひとつということではな いんですよね。その中で、どれか気が付かない時だってあるわけで。」 ―同じ場所で色々の手がかりを持っているんですね? 「そうですね。音だったり、匂いだったり、足の感触だったり、点字ブロックだったり、 人の流れだったりとか。」 ―足の感触でいうと? 「タイルとか、坂があるとか、段差があるとか、ほんとにちょっとしたことが手が かりになってたりしますね。マンホールの蓋だったり。」 ―場所の確認などに使うのですか? 「そうですね。あとは、白線なんかもずいぶん手がかりにしてます。車道と歩道の 境が白線だけ引いてあったりするところでは、その白線から内側に入らないように 歩こうとか。」 ( 練馬駅:ホーム ) 「この時間は ( 各駅が ) こっち側に来るかな?」 ( アナウンス 1 を聞いて ) 「あ、向こうでした。このアナウンス 1 は私にとって非常に重要ですね。」 ( 電車 ) ―電車の乗り過ごしはありますか? 「電車内でメールをすることが多くて、快速に乗って練馬だと思って降りて、各駅 に乗り換えて、さらに先まで行ってしまったことがあります。」 ―アナウンスは? 「その時は全く聞いてなくて、一駅止まった記憶もなく練馬だと信じ込んで降りて、
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
60
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
各駅にも乗って、次の駅までずいぶん長いな、変だなと思ったら、アナウンスで『次 は大泉学園∼』と聞いて、あ、やってしまったーと気付きました。あと、土曜日に は時刻表が違って、池袋で 3 番ホームから平日とは違う電車が出ていて、練馬に止 まらない電車で、石神井だか大泉だかまで行ってしまいました。」 ―それは、アナウンスで聞いて気付かれたんですか? 「引っ越してきて間もないころで、たぶんこのホームなら大丈夫だろうと思って乗 ったら、何々行き発車しますというアナウンスで気が付いたんです。気付いたんで すが,ドアが閉まってしまい、降りるタイミングの逃してそのまま先まで行ってし まいました。」 「よく都営三田線とかの三田駅では、今度の電車は何番線からどこ行きですと言っ ていたんですが、ああいうのを定期的にあの下 ( 池袋の地下 ) で小さい音でもいい から流してもらえるといいなと思います。」 ( 中村橋駅:ホーム ) 「ここからの方が歩きにくいですね。人が多くって。自転車も多くって。」 ―電車から降りて右に曲がる感じですか? 「そうですね。電車の車両の長さが違ったりするので、自分では階段を上って同じ ところから乗っても、乗り換える電車によってここに降りたときの場所が違うんで すよね。」 「こっちは結構距離があるんですけど、階段の縁みたいなところに降りたらそっち を歩きますね。」 ―どこまで行きますか? 「エスカレーターのそばによると音 1 が聞こえてくるので、少し真中によります。」 ( エスカレーター ) 「やっぱり日によっては、池袋の乗る位置が違うと、偶然エレベーターの前に着い たり、階段の前に行くこともありますね。」 「右側に柱 2 があるので、結構それは警戒しています。」 ―改札までは? 「距離 3 と音 4 ですね。改札口の。」 ( 改札 ) ―改札を越えてからはどのように歩きますか? 「改札から出て、ただまっすぐ 5 です。」
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
61
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
―下のレンガ 6 みたいのは手がかりとなっていますか? 「そうですね。なっているかもしれないですね。ここを出て、少し越えて 7 から右 に曲がりますね。」 ( 駅を出て商店街へ ) ―ここはどうやって歩いていますか? 「ここはですね、音楽 8 とか聞こえているんで、だいたい真中あたりっていうのは この辺だろうなという感じはあるんですね。右と左で音が反響しているし、分かり やすいんですよ。道の端はとても歩ける環境ではないので。」 ―ここは音だけが頼りですか? 「そうですね。あとやっぱり自転車の音 9 とかすごいしてるし、自動車の音 10 とか もですね。」 「ここで、自転車がビューと行くんで、やっぱり怖いんですよここは。」 ―今曲がったのは? 「通りに出たんで。」 ―音ですか? 「そうですね。車の音 11 ですね。ここからはこれ ( 点字ブロック 12) があるんで、 これに頼ります。で、やっぱりたぶん馬場の時のペースでは全然ないんですね。こ ちらが意識しないと、自転車にぶつかっちゃうんで。」 「ここからは非常に安心しますね。」 ―ここはずっと点字ブロックを伝う感じですか? 「そうですね。逆にこの上じゃないと、ここは直線なんで自転車がそれなりのスピ ードを出してくるので、もしぶつかったときのことを考えると、やっぱりこの上を 歩いているのが自分の身のためでもあると思います。」 「ここで右に曲がって、わたしは左の方 13 を歩きます。」 「用があったら、ここ ( 右にあるお店 ) で買い物をします。」 ―お店の音 14 とかも手がかりになりますか? 「そうですね。」 「だんだん右によってきて、マンホール 15 を今踏んだんですけど、この先です。」 ( 自宅 )
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
62
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
■ K さんの歩行経路と手がかり ( 経路1) ・高田馬場
⑧ ⑨ ⑪
⑩
⑦ ⑥ ⑤ ③ ④ ②
①
・中村橋
⑦
⑥
⑧ ⑨
⑮ ⑭ ⑬
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
⑫ ⑪ ⑩
63
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
■ K さんの発話データ ( 経路2) 10 月 16 日 ( 土 ) K さん ( 中村橋駅 ) 「右側の壁を行きます。かつてぶつかったことがあるので、もう少し左に行った所 に柱があることが分かっているので、とても右を意識するんですね。あの、伝った りはしないんですけど、右側の壁があるっていうことだけを意識して、エスカレー ターの音を頼りに曲がりますね。で、ブロックを探して乗ります。」 ( 電車の出るチャイムが流れて ) 「あ、どうしましょう。乗りますか?あ、逆?向こうでしたね。」 ( ホーム ) 「いつもここ ( 中村橋 ) で乗らないので、降りてからの階段の位置とかが、いつも とずれると思うんですけど。いつもは、池袋の地下の改札を入って、手前側にエス カレーターがあって、奥側に階段ありますよね。歯医者さんに行くときだけは、そ っちの階段の方から乗るんですね。だから、いったいここではどこに乗ればいいの か分からないですね。」 「じゃあ、奥の方に移動しますね。どのくらい行っていいのかは分からないですけ ど。」 「こんなに行って大丈夫かなあ。」 「いつもの経路は、雨が降ってなければ池袋からの乗って、一駅乗り越して用を済 ませて、自宅まで歩いて帰ったりします。」 ―遠くないんですか? 「そんな距離はないですね。電車待ちの時間とか考えるとあんまり変わらない気が しますね。精神的には待ってた方が気が楽だけど。だから、逆に家から向こうに行 くっていうのは、あまり経験がないんですね。」 ―同じ道でも行きと帰りでは違いますか? 「そうですね。信号お渡るとか、手がかりにしているものが変わってきちゃうので。 手がかりがきて、何か別の行動を起こすのが、逆に、別の行動が来て、次にその手 がかりがくることになるので。やっぱり違うんですよね。」 ―行きと帰りでは同じ場所でも手がかりが変わるとういことですか? 「ええ。例えば、仕事が休みの日に歯医者さんに行くとかたまにあるんですけど、 行きはこのルート ( 電車 ) になってしまうんですね。なぜか。」
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
64
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
―それは、行きの経路にまだ手がかりがしっかりしていないということですか? 「道的には、非常に簡単なんで行けると思うんですけれども、なんかこっちの方が 慣れてるから楽って思えるんですよね。あんまり深い意味はないんですけどね。歩 いて行ったことは、過去に確かにあります。で、行けたのでそれ自体は大丈夫だと 思います。なんとなく歩きやすいとか、歩きにくいとかはありますね。」 ―歩きやすい、歩きにくいは慣れとかでしょうか? 「それもあるかもしれませんね。あともしかしたら、なんとなく私は左に建物で、 右に道路の方がその逆より歩きやすいんですね。なんとなくなんですが。」 ( 富士見台駅:ホーム ) 「この駅もそうなんですけど、結構真ん中に階段やエスカレーターが集中している ことが分かっているので、着いたところが真ん中あたりだと、どっちに近いとか分 かりにくいですよね。だから、間には着かないだろうなと思えるくらい前に乗った つもりなんですけど。万が一一つ目の階段を行き過ぎても、もうひとつが逆を向い てありますよね。だから必ずあるなと思ってプランを組みます。で、エスカレータ ーの音がするので、そちらに行きます。」 ( エスカレーター ) 「今乗ったやつは、中村橋と逆なんですね。ここは分かってるんで大丈夫なんですが、 知らないと逆の所に入り込んじゃったりしますね。こういうところは知ってるとこ ろと、知らないところの差なんだなと思いますね。」 「で、このブロック沿いに歩きます。」 ( 駅の外に出る ) 「こないだと違って、ここは点字ブロックがなかったり、細かったり色々するので、 ここの方が調査するのに面白いかもしれませんね。」 「点字ブロック 1 に沿って、左に曲がります。」 ―放置自転車があるので、これ以上点字ブロックの上は歩けないですね。右に避け て歩いてもらえますか? 「ああ。そうですね。これは私が夜来るのと風景がちょっと違います。( 夜は ) あ の上に自転車がのってたことはなかったと思います。」 「それで、この先に看板 2 が立っていて、これが怖いなと思って、意識します。」 ―手がかりとして探すということでですか? 「いや、手がかりとうことではないんですが、ぶつからないようにっていう意識を します。」
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
65
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
「それで、駅の前の道に入るんですが、ここが細くてうまく入れないことがあります。 お店にぶつかって 3 から、違うなと思って道を探す感じですね。それで、ここの薬 局の音は結構手がかりかな。薬局の音と匂い 4。今匂いはしないですけれども。ち ょっと行ったり来たりしてると分かりますね。で、ここを真っ直ぐ。」 「ここはたぶんだいたい真ん中なんだろうなあと思って歩いています。」 「お店屋さんが多くあるんですけど、ここはあまり来ないので、なにがあるかとか いうのは少ししか分かってないんですね。けど、テレビかラジオ 5 を置いてある店 があって、それが聞こえると大丈夫大丈夫ここまで来てるぞっていう手がかりには なってますね。で、この通りで車の音を聞いて、なかったら行きますね。」 「この歩道に上がってもいいんですが、電柱とかいろいろあってあんまり好きじゃ ないんですね。それでこっち ( 車道 ) を歩きます。ここも車の音がすれば横に避け る感じで、真ん中を歩いて行きます。」 ―前の通りの、車の音 6 は手がかりになりますか? 「そうですね。だんだんペースを落として、左によって、この信号を渡るんですけど。 これを渡ってからしばらくはこの経路の中で私はあまり好きではない道で、ペース はがくっと落ちます。」 ―歩きづらいというのは、どういう理由でですか? 「道が細いのと、たぶんだけれども左側が広くなってたり、生垣があったり壁だっ たりで。」 ( 横断歩道を渡る ) 「ここの壁 7 は意識します。沿って、左に曲がります。」 「それで、なんとなく道が車道に向かって斜め 8 になってるんですよ。なんか車道 に向かって斜めに歩いているような気分ですね。雨の日とかは、いつも聞こえる音 が聞こえないせいか、知らないうちに右の方によっていってしまって、植え込みに ずぶって入ったりとか。」 「ここは、( 建物側が ) 広くなりましたね。また、狭くなると思いますけど。」 「ここで、坂 9 があってぐんと降りた所で左に曲がるんですね。気持ち的にここま で来るとほっとします。」 「ここにくると本当にのびのび歩いていけますね。( 道が広いから ) 多少曲がっち ゃっても何もないし。」 「突き当りまで行って、それで左。なんか壁の圧迫感 10 っていうのを感じますね。 それでまた、真っ直ぐ行きます。」
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
66
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
「それで、なんとなくここまでは地面がでこぼこ 11 しているんですが、ここまで 来るとなんとなくきれいになる気がするんですね。それで、先まで行くと車庫の坂 12 があってそれを杖で感じて、左に行くんですね。それで、また車庫の響き 13 を 感じてその横の階段 14 を探します。それで、到着です。」 ( 歯科医院 )
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
67
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
■ K さんの歩行経路と手がかり ( 経路2) ・富士見台
①
② ③ ④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
⑩
⑪ ⑫
⑬⑭
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
68
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
■ W さんの発話データ 10 月 15 日 ( 金 ) W さん ( 東京都盲人福祉協会 ) ―この辺は点字ブロックに沿う形ですか? 「そう。ここは。手前に一本あって、坂 1 を下って行くともう一本あるんで、それ を右に曲がると早稲田通りに出るんです。」 「これからだんだん坂になりますよ。」 「これブロックの上 2 だからといっても、安心して歩いてはいけません。人が立っ てたりね、自転車が置いてあったりね、時々障害物があってね、必ずしも点字ブロ ックの上がね、安全とは限らないんですよ。特にね、早稲田通りですよ。あそこはね、 点字ブロックの上によく自転車が突き出てたりね、人がたむろしてたりね、色々。」 「ここから急な坂 3 ですよ。」 「朝はきついですよ。ここは。冬の凍ってる時なんかね、大変。早稲田通りの方が あんまり感じないんですよ。こちらに一本入るとね、かなり急ですよ勾配が。」 ―ところどころにマンホール 4 がありますが、それは手がかりになりますか? 「あんまりたいした幅じゃないですからね。これが何メートルも切れてたらやっぱ りね。まあ、30 センチやそこら出ててもね、さほど気にはならないですよ。」 「よくブロックの上でね、立ち話をしてたりね。」 「今、マンホール 5 があったでしょう。音が金属製の。」 「それでね、曲がるほうに杖をやっとかないと、踏み越しちゃうんですよね。」 ( 曲がる場所を行き過ぎる ) 「あれ、行き過ぎたね。話をしてたら行き過ぎたね。あ、こっちだ。こうやってね、 行き過ぎることもあるんですよ。」 ―行き過ぎたのは、点字ブロック 6 がないことで気付かれたんですか? 「そうですね。歩き慣れているから、だいたいもう感じで分かるんですけどね。や っぱりたまにね、外れることがあるんですよ。」 ―前に駐車自動車あります。 「あ、ちょっとブロックの方に出てた?こういうのが一番危ないんですよ。あるん ならまともにあればね、どんとぶつかってもいけどね、ちょっと出てるってのはね、 足に引っ掛けたりね、杖の先が引っかかって曲がって折れたりするんですよ。あと、 最近自転車でね、杖を折られたり曲げられたりすることがあるんですよ。駅でだっ
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
69
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
てありますよ。階段でぶっとんできてね。それで人の白杖に引っかかって、転倒し てね。それで私の白杖が折れて。で、大丈夫ですか、ってそれで終わりで、行かれ ちゃったんですよ。だからね、僕ら一人歩きする者は、必ず予備の折畳をね持って いるんです。予備がないと、折れてしまったら、見える人が見えなくなったのと同 じで、歩けなくなっちゃうんですよ。」 ―この辺はずっと点字ブロック 7 に沿う形ですか? 「そうですね。この辺はほんとによくブロックが敷いてありますからね。だからまあ、 ある程度はこの上を歩いてれば、そう危険な目に合うことはないですね。」 ―このまままっすぐ行って、どのあたりで曲がろうなどの手がかりというものはあ りますか? 「目印はこのまま突き当たりまでブロックがあるからね。人の気配 8 とかね。」 ―ここもずっと点字ブロック 9 ですか? 「そうですよ。」 「昔の人はね、こういった白杖を持った盲人が通るとね、向こうが避けてくれたも んなんですが、最近の人は避けないでぶつかってくるんですよ。自転車とかもそう ですよ。今はひどいもんですよ。」 ―ここも点字ブロック 10 を沿う? 「そうですね。地下鉄の入り口までね。地下鉄のえきの中もね、ずっとブロックに 沿って行きます。」 「もう少し行くとですね。肉屋さんのいい匂い 11 がするんですよ。肉屋の2、3軒 先を行くとね、駅の入り口なんですよ。やっぱり匂いも大事なんですよ。」 ( 東西線高田馬場駅 ) ―階段は手すりを使うんですか? 「そう。安全でしょ?真ん中歩いてて、突き飛ばされたら下まで落ちちゃうからね。 こういう手すりの所をね。」 ―駅内も点字ブロックですか? 「そうですね。こうやって探してね。」 ( 改札 ) 「改札出て歩いたら、これ ( 点字ブロック ) にぶつかるでしょう。これに沿って。」 ( ホーム )
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
70
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
―ホームでは壁を伝い歩きするのですか? 「私はね、このまま行くと椅子があるんですよ。その椅子がね、いつも乗る場所な んです。だからわざとね、この壁に沿ってね行くと、椅子にぶつかるからね。それ が目印なんですよ。そうするとね、荻窪で階段の前に着くんですよ。それで、こう いう風にね。ここは島型じゃないから安心して。」 「ほら、これ椅子にあたったでしょう?ここが私の乗る場所なのよ。それで、ここ に乗れば荻窪で階段の前なわけ。」 「乗るときにね。乗り口が分からないので、停まったらこうやって杖で入り口を確 認して乗るんです。昔はね、よく誤って連結の間に落ちるやつがいたんですよ。」 ( 電車 ) 「今はあんまりないけど、昔は広かったんだ、間がね。まあね、一人歩きする者は 二度や三度は落ちてるんですよ。運の悪い人はみんな落ちて電車にやられて即死だ けどね。2、3年前も慣れている荻窪でね、落ちたよ。命に関わるからね。ほんと ホームは注意するね。だからね、我々はね危ないと思うと、ホームの端をね、杖で こうずーっとずらして歩くのよ。その方が危なくない。」 「欄干のない橋と同じだから。落ちたらアウト。」 ―休みの日とか、よくお出かけになるんですか? 「うん。休みの日はね。外行くよ。バスに乗ったりね。タクシーに乗ったりね。」 ―一人でも行かれるんですか?知らない場所とかは? 「一人で行く時は、一番いいのはタクシーですね。ちょっとお金かかるけど、安心 ですからねえ。」 「一杯帰り飲みに行くとね、帰りは必ず車で帰りますね。やっぱり飲むと勘が鈍る んですよね。酒が入るとね。車が安全ですから。やっぱりね、障害者っていうのは ねえ、余分に出費がかかるんですよね。」 ―乗り物は割引になると聞きましたが。 「そうですね。ただ、バスは一人でも半額割引になるんですけど、JR とか地下鉄と か鉄道は、100km 以内は二人一組で一人分になるんですね。だから、単独では割引 は効かないんですよ。鉄道は、JR でも私鉄でも全部そう。タクシーは一割引きです。 でもね、なかなか言うと悪い顔するんですよ。まあわずかでも自分の水揚げが少な くなるわけですから。」 「だから、一人歩きする者は、よく声かけてくれたりね教えてくれたり、連れて行 ってくれたり、それなりに親切な人がね。それと、一人歩きする者はずうずうしく
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
71
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
なきゃならんですよ。人の気配がすれば、聞くと。そうすれば、心ある人は教えて くれるし、人によってはその目的の場所まで連れてってくれるしね。だから、下手 にうろうろするよりもね、杖を叩いてね。もしもし、ってずうずうしくなんないと ね、一人歩きはなかなかできないもんですねえ。」 ―電車の席はいつも座られないですか? 「空いててもほとんど座らないですね。だって恥かくじゃない、杖で引っ掻き回し てね。そんなことするんだったら、座らない方がいい。心ある人がここ座りません か?と聞かれれば、座ります。いつも往復立ってます。たいした距離じゃないから ね。いいけど。僕はね、電車よりもバスがね。杖で空いている席を探すなんて嫌じ ゃない?だから心ある人がね、前が空いてますよとか、横が空いてますよとか教え てくれる時もある。バスの場合は教えてくれることが多いですね。」 ―声をかけられない時は立っていると。 「そうですね。立ってます。だから、みなさんももし見かけたら声かけてやってく ださいね。」 ( アナウンス ) 「テープでやるときは絶対 ( アナウンスが ) やるけど、肉声の時は時々やらない場 合もあるんだよね。やっぱり車内放送がね、目が見えない僕らにとってはね非常に 大事なんですよ。特に、おじいちゃんおばあちゃんとか目の弱くなってる人なんか ね、やっぱり放送を聞いてね降りてるわけだから。車内放送がうるさいとか、いく らか新聞載ってたことがあるでしょ?うるさいからやめろといいたやつ。やっぱり 必要だからやっているわけでね。大都市東京だからね、いろんな人がいて、いろん な所から出てくるわけだからね。やっぱり大事ですよ。音声で案内するっていうの はね。」 ―目の見える自分もよく頼りにしてますね。 「あ、あと一番困るのが地下鉄なんですよ。あれは本当にがんがんうるさいでしょ。 場合によっては聞き取れないとこがあるんですよ。だからできたらね、電車が発車 してすぐ放送するんじゃなくて、駅に停まる寸前にね、放送してくれるといいです ね。」 「ここを降りるとすぐ下りの階段なんですよ。気を付けないと、上りのエスカレー ターに入ってしまうんで、気を付けます。」
( 荻窪駅:ホーム )
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
72
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
「階段を降ります。ブロックがここにあるから、これに沿ってね。ここは危ないか ら、右の方の階段の手すりにつかまってね。若者がいつ後ろから突っ込んでくるか 分からないしね。よく階段の事故は結構あるんですよ。上り階段はまだいいんです よ。怪我なんか滅多にしないから。下りの階段がね。」 ( 改札 ) 「これは真っ直ぐ行くと、ブロックがあるんで、ブロックに沿って右に行きます。 右に行きますとね、左に曲がりまして、( 柱に触る ) エスカレーターに乗ります。」 ( エスカレーター ) 「降りたら、右にちょっと行ってね。横断歩道を渡ります。ここは信号がないからね、 車の音を手がかりにします。」 「ここはやや左の方へ行かないといけませんので、さらに右へね。時々車が駐車し ているんですね。けど、こうやって停まっている車の方がね、見えなくたってどう ってことないんですね。動いている車よりね。」 ―ここはどうやって歩いていますか? 「ここはね。勘ですね。あと、ここすし屋が左にあるでしょう。そのすしの匂いが 1 したらね、左に曲がります。」 「ここは道路の真ん中を歩いて、車が来たら脇に避ける感じですね。」 「それじゃあ、横断歩道渡ります。人が渡った気配 2 がしたからね。」 ( 横断歩道 ) 「それで、端っこ来ないとね。バスが来るんでね。( 放置自転車にぶつかる ) こう いうのがあるから困るんだよねえ。自分勝手に置いてくから。」 「よし、真ん中行こう。車が来たら端によればいい。」 ―真ん中はどうやって確認しているんですか? 「端のほうは傾斜 3 になってるから分かる。真ん中は、そういうのはないから感じ かな。言葉では言えないね。視覚障害者は体で分かる。あとは、真っ直ぐ。」 ―このあたりの地図は頭に入ってらっしゃるんですか? 「そうだね。この先は五叉路になっているんですね。それをね、真っ直ぐ行くんで すよ。曲がっちゃだめなんですよ。ここは一歩通行だからね。歩きやすいんですけ
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
73
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
ど、後は駐車さえなければ、大手を振って歩けるんですがね。」 ―曲がり角が多いよりは、少ない方が楽ですか? 「そりゃあ、そうですね。楽ですよ。」 ―交差点に来たのはどうやって分かるんですか? 「それは風とか、歩いた感じとかね。」 ―とても静かですね。 「ここはほんとに住宅街だからね。静かだよ。うちのとこも静か。」 「もう間もなく信号になりますからね。」 ―それは勘ですか? 「そうですね。年中歩いているからね。勘が働くんですよ。」 「少し左によったかな?」 「あれ?」 「今渡ったよね?もうちょっとこっちだ。来すぎたね。」 ( 道に迷う ) 「さっきの信号の所はどこだっけ?間違えたかなあ。」 ―さっきの所には信号はなかったですね。 「そうなの?じゃあ間違えたね。今日に限って何で間違えたんだろう。どこで間違 えたのかなあ。」 「ここはさっき渡ったところですか?」 ―さっきの所はもう一本左の通りですね。 「えー。じゃあ、さっきの所に戻ろう。戻れば分かる。さっきの五叉路で間違えた かな?こんなこともあるんですよ。」 「五叉路はまだですか?」 ―五叉路はこの道じゃないですね。右に緑化園って書いてありますけど。 「緑化園だ。そうだ。緑化園の信号でしょ?そうだ。そこを入っていくんですよ。あ、 今車が入った所だ。やっぱり一本どこか間違えて入っちゃったんですね。」 「やっぱり、さっきの五叉路を右に入っちゃったみたいですね。そのまま真っ直ぐ 道なりに行かなくちゃいけなかったんですが。」 「ここね、くの字に曲がってるんですけど、そこをずーと曲がっていくとね。」 ―犬の鳴き声 4 とかは手がかりになりますか? 「ああ、なりますね。後は、ここの公園のモーターの音 5 がしてるでしょ?これが くの字のね、ちょうど曲がるところに音がするんですよ。これがひとつの目印にな るんですよ。」
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
74
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
「それでここを行くと十字路があります。」 「これね、道になんか迷ったらとても一人では歩けないですよ。人が歩いてなくて、 聞けないですからね。店もないですし。」 ―時々上を見上げてらっしゃいますが、それは光を感じていらっしゃるんですか? 「そうですね。周りが真っ暗でしょう?だから街灯の光 6 くらいは感じることが出 来ます。」 「なんか土臭い。泥臭いねえ。どこか掘り起こしたのかな。」 「ここはマンションが多いですよ。」 ―マンションの光 7 は多いから分かりやすいですか? 「そうですね。ある程度光があればね。」 ―この傾斜 8 とかは? 「そうですね。ここはかなりの坂ですよ。」 「ここの‘止まれ’は真っ直ぐね。」 ―‘止まれ’とか分かるんですか? 「年中いるからね。タクシーとかで、お客さん‘止まれ’は真っ直ぐですか?とか 聞かれるんでね。ここは酒屋さんね。ここはパン屋ね。焼き鳥屋もあるよ。」 「おっ、豆腐屋さんの匂い 9 がする。」 「ここが、善福寺川という川ですね。タクシーとかに乗るとね、ショウケイ橋の先 までとかで降ろしてもらいます。」 「でも最近は駐車違反の車が少なくなったねえ。昔はそこら中に止めてあったよ。」 「今車が行った所が、バス通りなんですよ。」 ―バスは使いますか? 「雨の時はね。晴れてれば、こうふらふらと歩いていきますね。やっぱり盲人はね、 運動不足になっちゃうからね。歩かないと。」 ( 自転車と白杖がぶつかる ) 「ああやってさ、人の歩いている前を平気で突っ切っていくんだからさあ。こっち が悪いわけじゃないよ。あっちが悪いんだよ。朝なんか、あんなの平気だよ?だっ て人が渡ってんだけらさあ、何秒でもないでしょ。あんなの待ってたって。ああい うのがいっぱいいるんですよ。あんなの人が渡ってんのが見えてるでしょうが。目
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
75
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
が見えるんだから。何も人の前横切んなくたっていいじゃない。2、3秒待って後 ろ通ればいいのに。」 「ここは坂 10 を下りますね。」 「ここに来るとね、水道のモーターの音 11 が聞こえるでしょう?」 ( 自宅 )
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
76
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
■ W さんの歩行経路と手がかり ・高田馬場
⑩ ⑨ ⑧ ⑦
⑥
⑤ ④③ ②
①
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
77
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
・荻窪
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
⑩
⑪
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
78
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
■ Y さんの発話データ 10 月 16 日 ( 土 ) Y さん ( 日本盲人会連合 ) 「今職場を出まして、職場から左側に曲がりまして、点字ブロック 1 があるんですが、 慣れているのであまり気にして歩いてません。」 ―ここは急な下り坂になっていますね。 「坂 2 は割りに手がかりになりますね。点字ブロックの上に、道が狭いものですから、 駐車してある車とか、清掃車なんかが来ると通れなくなったりしますので、なるべ く空気の流れ 3 っていうものを感じてまして、横に待避できるところがあるとそこ で、車をやりすごしたりしてますけど。」 ―ここはずっと真っ直ぐになりますか? 「そうですね。ここは真っ直ぐ行きます。もう少し行きますと、左右に行ける所が ありますので、そこで右に曲がるんですね。真っ直ぐ行ってしまうと、階段を上る 所にぶつかってしまうので、その手前で右に曲がります。」 「でも、本当に危険だと思うところは白杖を使ってはっきり歩くんですが、そうじ ゃない場合は割と、空気の流れを頼りにしてまして、歩いているんですね。ですから、 体の疲れている時とか、そういう時なんかはちょっとあれなんですけど。普通の状 態であればね、例えば電柱があるとか、大きい車が止まってるとかいうのも、こう 空気が遮断されるとか、なんかそういうことで額とか頬に感じるので、割にそれを 手がかりに歩くことが多いんですけれども。慣れてる道はね。」 ( 右折する ) 「ここの道は、今ここで右に曲がったんですけれども、この道なんとなく真っ直ぐ じゃないですよね?なんとなく曲がっているんですけれども、こういう曲がっちゃ ってる道はとても歩きにくいんですよね。だから、真っ直ぐ歩いているつもりでも、 ぶつかってしまったりとか、変な道に迷い込んでしまったりとか。」 「この道はブロックの上に車が止まっていることが多いんです。ですから、ブロッ クの上の方が危険だという感じで、ブロックの上から外れて歩いていくんですが。」 ―ここはずっと道なりに行く感じですか? 「そうですね。毎日通っている所はいいんですけれども、あんまり慣れていない所 ですとね、その道なりにとなっている道がとても嫌なんですよね。気付いたら、全 く違うところに出てしまうということがあって。」 ―慣れた道なりというのは、何か手がかりがあって歩いているんですか?
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
79
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
「適当に歩いている。」 「ここ傾斜 4 してますよね?こういう所は分かりにくいんですよね。ですから、な んとなく歩いていくと、そっちに入ってしまったりとか。今の所は大丈夫なんです けども。」 「で、朝出勤するときは逆側に向かって歩くわけですよね。あそこ路地が狭いです よね。ですから、路地を入るところを、雨の日なんかは行き過ぎてしまったりとか あるんですね。何十年歩いている道でも。誘導チャイム 5、あれをよく聞きます。 そういうときは。で、ここに点字ブロック 6 がありますよね。これがあるともうす ぐ早稲田通りだなということを足で確認しまして、あと誘導チャイム 7 があります よね。早稲田通りの。今日は非常によく聞こえてますね。風の向きのせいかもしれ ないですけれども。それが手がかりになりますね。それと早稲田通りから入ってく る車がありまして、それがちょっと歩きにくかったりするんですけれども。」 「ここにブロック 8 があるんですけれども、これを踏んだら左に曲がります。」 「ここは看板が出ていたりとか、自転車が止まっていたりとか、結構するのでここ はブロックの上を歩いた方が安全だと思うんですね。ここの道は。」 「ここバス停がありますよね。で、バスを待ってらっしゃる方がこっちの方まで並 んでらっしゃることもあるので、それも結構ぶつかってしまったりするんですけど も。」 「ここ、今お店が工事中なので、地下鉄の入り口が狭くなっちゃってるんですね。 ですから、今はちょっと歩きにくいですね。普段に比べて。ここもチャイムが鳴っ ていて、ここで誘導ブロックがあるので、ここ踏むと一応ここが地下鉄の入り口だ ってわかるんですが、それよりもまず地下鉄からこう吹き上がってくる風 9 があり ますので、それで曲がってしまったりします。」 ( 高田馬場駅 ) ( 改札 ) 「ここに、階段の柱と、ここにも柱がありますよね。そういうのも空気の流れで感 じて歩いちゃってるんですが。」 ( ホーム ) 「本当は向こう側から乗ってしまった方が便利なんですが、電車が来そうなんで、
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
80
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
来た所で乗ってしまいます。で、ここの西船橋行きのホームは、この辺に電車が止 まらないんですよね。相当向こうに行かなければ止まらないんですが、その止まら ない位置までは点字ブロックがあるんで、点字ブロックが切れたところまで行くと、 それは確実に電車のあるところということになりますね。」 「それで、こういうホームの場合は、片側が壁ですので、そこのブロックを伝って 行くよりも、壁に伝って歩いてしまったほうが安心なので、これを目安に歩きます。 いつも。」 ( 電車 ) ―電車はいつもお座りになられるんですか? 「そうですね。帰りはだいたい座れますね。この駅からですと。もう二つほど行く と座れなくなると思いますが。あとはもう本当に殺人的に混んでますから。で、あ の相当席が空いてる場合は乗った時に分かるんですが、だいたい皆さん座ってらし て、一つ二つとぽつぽつ空いている状態だと分からないので、教えていただかない とほとんど分からないですよ。」 ( 東陽町駅 ) 「本当はもっと前だったんですけど、電車が来てしまって乗ってしまったので、こ こでホームを歩きます。」 「ここは適当に歩きます。」 ( 改札 ) 「自動改札もなかなかわかりにくいんですけれども、だいたいぶつかった所で、入 り口か出口かを見まして。ここ階段を下りていくんですが、ここはブロックがあり ますので、一応それに沿って歩きます。」 ( 地下鉄出口 ) 「ここで地上に出たんですが、ここ警告ブロック 1 があるんですけども、ここ地上 に出たところでちょっとした広場になってますよね。で、歩道に出る所で以前は段 差があったんですね。で、それがバリアフリー対策で傾斜 2 になってしまったんで すね。それで、歩道に出るのにとても分からなくなってしまって。視覚障害者にと っては、非常になんか。このまま真っ直ぐ行ってしまうと、車道に行ってしまいそ
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
81
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
うなんですけども。それでしょうがないので、私はこの右側に沿って 3 歩きまして、 で曲がったところ、ここで歩道になりますので、それで歩きます。段差があった時 は、ほんと非常に分かりやすかったんですけど。」 「ここの歩道は狭いし、点字ブロックも整備されていませんので、非常に歩きにく い場所なんですね。」 ―ここは壁 4 に杖を当てながら、歩くのですか? 「そうですね。でもお店があるから、お店にいらっしゃる方とか、もうちょっと行 くとお店の立て看板が色々あったりで、自転車も多いし。ここ真っ直ぐ行くと江東 区役所があるんですよ。で、駅前の通りなのに、こんなに歩きにくいんです。今日 はまだ土曜日だからいいんですけれども、区役所の退社の時間だとね、駅に皆さん 歩いてらっしゃるから、すごく大変なんです。この道。」 「ここで一本細い道を横断しますけれども。これを渡りきった所では、一応この点 字ブロック 5 で確認します。」 「もう一本渡ります。」 「ここはブロック 6 が結構長く付いているので、一応沿って歩きます。歩道橋があ ってぶつかりそうにあるので。でもすぐなくなっちゃいますからね。途中から。し ょうがないので、右側のお店や病院の壁を手がかりに歩いています。ここ、スロー プ 7 になっていたり、でこぼこ 8 していて歩きにくそうでしょ?この道。」 ―看板が多いですね。 「こういうの歩きにくいですね。でも歩きにくいというより、危険ですよね。いろ んな形のがあったりして。微妙にスロープになっている所で、引っかかったりすべ ったりということもありますし。」 「今の所、ケンタッキーがあったでしょ?ケンタッキーだいたい音楽 9 が流れてる んですね。私の家がここなんですが、流れている時は音を手がかりに。そうじゃな いときは、壁 10 を伝ってきて、こう壁が切れたところで、右に曲がって、で、こ こ入った所なんですが。」 ( 自宅 ) ( 駅に戻る ) 「ここ車来ないし歩きやすいんですよね。なんにもないんで。」 「点字ブロックもなんにもないんですけど、ここ裏通りで車も来ないしとても歩き やすいです。何を手がかりにしているかというと、両側の壁の圧迫感というか、そ れで道幅を考えて歩いているんですね。頻繁に車も来ないんで、真ん中歩いていて
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
82
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
も大丈夫だし。」 「で、左右に道が開けてますんで、ここを右に行って、さっきの歩道橋の手前に出 ます。二本目の所の道ですね。ほんとは向こう側 ( 歩道 ) を歩かなきゃいけないん ですよね。車道歩いちゃってるんですけど。」 「今これ、人が歩いてますよね。その音を手がかりにして曲がりました。」 「これ ( 側溝の金属の蓋 ) は穴が空いてないんですけれども、高田馬場のあたりの こういうのって穴があいてるんですね。で、白杖が中に落ちこんじゃったりするこ とがよくあるんです。」 ―行きと帰りは手がかりが変わったりしますか? 「んー。変わらないですけれども、左右が逆になるから。さっきの歩道橋からうち までの道が、非常に歩きにくいので、裏を通ってこっちに出ちゃうんですね。」 「今自動販売機を避けましたけども、今買ってらっしゃいましたね。で、ああいう 音 ( お金を入れる音 ) がすると非常にいいですね。タイミングが。うまく避けられ て。そうじゃなきゃぶつかりますからね。」 「で、今ここ圧迫感があるわけですよね。これ ( 壁 ) があるから。これがなくなっ たところで、駅に入って行きますけども。」 ( 東陽町駅 ) 「一応ここ ( 改札 ) で触ってみるんですね。」 ( ホーム ) ―壁の圧迫感ってとても重要ですか? 「私にとっては、すごく重要ですね。ここでも壁まで何 m くらいとか分かりますし。」 「この床面の形状が、すごく靴底から伝わってきますよね。その感覚って非常に大 きいんですよね。歩くときに。石畳になっている所とか、レンガ敷きになっている 所とか、色々ありますよね。それで、ずっと歩いてきた道が、足裏から伝わってく る感覚が変わったから、何だとかね。これってすごく大きいですよ。情報として。 そういうのってすごい大事だと思うんですよね。だから、必ずしも誘導ブロックを 敷けば、それでいいかっていうことじゃなくて。」 ―今回の経路ではそういうのはありますか? 「この経路ではないですねえ。」 「お台場かどこかのショールームに行ったときだったかな。同じ点字ブロックでも、
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
83
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
階段に登る所とか、最後の一段の所に敷いてある点字ブロックの材質が違うとかね。 そういうのってありましたね。点字ブロックは、埋め込み式のと貼り付け式のがあ るでしょ?あれは足裏の感覚が違いますよね。」 「同じ視覚障害者でも、私のように完全に目が見えない人もいれば、弱視の方の立 場もあるので、そうすると、色の問題も挙がってきますよね。」 ( 葛西駅 ) ( 改札 ) 「そこに、( 触知 ) 案内板あるでしょ?これ本当に結構よく出来てるんですよ。」 「これ一応ざっと全体の説明が書いてあるんですね。普通の字でも書いてあるのか な?」 ―一応立体になっているんですね。 「そうですね。このくらいないと。これはよく出来ていると思いますよ。」 「ここの点字ブロック 1 を一応確認してから降りますが、ここ6段、階段 2 がある んですが、降り口の点字ブロックを確認してます。」 「この通りが環七なんですが、今信号が青になっているみたいなんですけど、ここ 道幅が広いので、途中で信号が変わってしまうと困るので、一回待ちます。」 「ここも点字ブロック 3 を確認して、横断歩道のところくらいまで適当に歩いてい るんですが。」 ―ここで待つ感じですか? 「はい。」 ―さっき青になったのが分かったっていうのは? 「車の走ってる音 4 が聞こえなかったからですね。こういう大きな道路はね、割と 分かりやすいんですね。ですから、そういう意味で。危険なようで、危険じゃない んですよね。もう少し道が狭い信号の方が怖いですね。それに、ここはもちろん渡 る人がとても多いですから、その人たちに付いて行けばという感じで。」 ―渡る方向は人の音 5 で? 「そうですね。」 「あと、両側にグリーンベルトがあるじゃないですか。真ん中に。中央分離帯のと ころですね。真っ直ぐ歩かないとそこにぶつかっちゃうんですよね。で、切れ目を 探すのが結構大変なので、人の足音に付いていってるんです。あと、中央分離帯の 切れ目 6 の所が、少し高くなってるんですよね。若干。」 ( 横断歩道 )
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
84
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
「ここも自転車がとても多いんですよね。走ってくる自転車も放置自転車も両方。」 「ここケンタッキーです。次のビルなんですけど、うちは。一応この段差 7 を確認 して行きまして、自転車が止まってしまっている時もあるんですけど。で、ここ スロープになってるんですよね。エレベーターに行くための。それでここも自転車 が止まってるんですけども。それで、この自販機 8 があって、これ ( 植え込みの壁 9) がありますよね。それで、これで。ここがうちです。」 ( 自宅 )
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
85
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
■ Y さんの歩行経路と手がかり ・高田馬場
⑦
⑥ ⑤
④
③ ②
①
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
86
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
・東陽町
⑩ ⑨
⑧ ⑦
⑥ ⑤
④
③ ②①
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
87
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
・葛西
⑨
⑧
③
⑤
⑥
⑦
④
①②
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
88
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
■ T さんの発話データ 10 月 18 日 ( 月 ) T さん ( 日本盲人会連合 ) 「これは誘導ブロック 1 に沿って、歩いています。真上を歩くこともあり、こう縁 を踏みながら、歩くこともありますね。やっぱり、高田馬場という所は視覚障害者 の施設が多くあるところなんで、視覚障害者用誘導ブロック、っていうのが正式名 称なんですが、通称、点字ブロックですね、それで、誘導ブロックのこれが方向を 示す方のラインなんですね。ボツボツになっているものを警告ブロックと言って、 あれは結局ここから環境が変わりますよというのが、警告ブロックです。それで、 ここは誘導ブロックに沿って歩いているといういことですね。」 ( 人とすれ違う ) 「今のは、音 2 がするんで分かりますね。スーパーのビニール袋を持っているよう な音がね。今のはきっとこちらが杖を持っているんで避けてくれたんでしょうけど。 音ですね。音を頼りにしていますね。」 ―ここは急な下り坂 3 ですが、これは手がかりになったりしますか? 「そうですね。あとどのくらいで。逆に上り坂ですと、どのくらいでたどりつくか なあ、という感じで。足の裏での感覚って非常に大事なんですね。だから、それは ありますよ。」 「ここでチャイム 4 が聞こえてきましたよね。ここで道が分かれるので。あとここ で自販機の音がしてますよね。ああいうのでやっぱり目印になるんですよね。ここ で、私はここで左に曲がります。」 「ここも誘導ブロック 5 に沿って歩いてますね。それで、ここももうちょっと行く とね、マンホールのね、シャーシャーいう音 6 が聞こえてくるんですよ。これこれ。 ここが結構目印になって、ここは二箇所で聞こえてきますよね。ここを右に曲がり ます。あのまま真っ直ぐに行くとバス通りにぶつかるんですけど、JR に行くには ここを右に行きます。で、ここはちょっと上り坂 7 ですよね。」 ( 車が来る ) 「車の音 8 がするぞ。大丈夫かなあ、大丈夫かな。」 ―この辺でちょっと横に避けましょう。
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
89
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
「はい。どうぞ行ってください。」 「あれ、また来る。」 「それで、また上り坂 9 ですね。ここは急で、雪が降った時なんて大変なんですよ。 ここは。」 「今チャイム 10 が聞こえましたよね。ここで右に曲がります。で、ここちょっと上 り坂 11 になるんですね。で、ここも誘導ブロック 12 に沿って歩きます。本当は杖 で前をついて歩くのがあれなんですけど、慣れているので何もつかないで歩きます。 あ、またチャイム 13 が聞こえてきましたので、ここのチャイムのところを、( キ ャスターを引いた人が左の道に入っていく ) 今キャスターの音 14 が入っていった 所を左に曲がります。」 「ここは割と静かな裏道ですから、歩きやすい道ですね。向こうの早稲田通りとか、 明治通りとか通りますとね、結構車の音がすごくて。あちらからも JR の駅に行け るんですけどね、あの道はあんまり好きではないですね。人も多いし。ここはもう しないですけど、キンモクセイの匂い 15 がしたりとか、なかなかいいんですよ。」 ―静かな方を選んでこちらの経路を歩いているのですか? 「んー、静かな方と、歩きやすいのと、それから割とこの道郵便局があったりして、 都合がいいんですよ。またチャイムが聞こえてきましたね。この道は色々と目印が 多いんですよね。だもんで、この道を使ってます。で、ここを右に行きます。」 「あちら側に郵便局があるでしょ。それで、ここが日本点字図書館になりますね。 ここも入り口でキンコンと鳴っている 16 ので、分かりますよね。ですから、ここ を通って。」 「なんかここ左になにかあるのかな。ここはお蕎麦屋さんの辺りかな。それで、何 も来ないかな。」 ―車来ますね。もうちょっと待ってください。 ―はい。大丈夫です。 「ここでキンコンと鳴った ( 誘導チャイム 17) ので、道に出ます。ここも誘導ブロ ック 18 を踏みながら歩いてます。」 ( 横断歩道 ) 「それで、私は信号を変えるもの ( シグナルエイド ) を持っていますので、それで。 今信号青なんですけど、これ使うために待ちましょうかね。これボタンを押すと、 音がしますよね。ピロリーンって。これで、押しボタンを押したのと、同じになる わけですよね。こういうのがありまして、これでポールを探さなくても変えられる というわけなんです。」
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
90
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
「青になると、通りゃんせのメロディ 18 が流れる形になりますよね。」 「ここでブロックを踏んで。」 「ここも誘導ブロック 19 を踏んで、それで坂 20 を降りて行きます。」 「で、降りきった 20 ら、また右に。で、ブロックを沿って右にガードをくぐって、 JR の駅に入ります。」 「それで、ここ ( 警告ブロック ) に来ましたので、定期を出して改札を通ります。で、 階段を上がります。」 ( ホーム ) ―人がかなりいっぱいいますね。 「いますか?ここでブロックがなくなったんで、左にあるのが分かっているんで、 左の方に行きます。」 ―ホームはどこまで行かれますか? 「だいたいこの辺でいいかなあと思います。」 「今これは電車の止まる音を聞いて、ドアが開く音がしたので、こう白杖で確かめ て乗ります。」 ( 電車 ) 「池袋ではいろんな行き方があるんですけども、今日行こうと思っているのは、南 口降りてからブロックに沿ってまっすぐ行って、中央口の改札を出て、東武東上線 に乗ろうと思っています。」 ―この経路は何年も通ってらっしゃるんですか? 「そうですね。」 ( 池袋駅 ) ( ホーム ) 「降りまして、今日は右に行きます。ホームってほんと嫌いなんです。柱とか色々 あるでしょ。だから点字ブロックに沿って歩いて、で、こうやってライン ( タイル の溝 ) が見つかってくるんですね。今鳥が鳴きましたよね。これが一応階段の合図 なんですって。小さいですけどね。」 ( 階段 ) 「ここ後ろに行くと、南口があるんですけど、今日は真っ直ぐ行きます。中央口の 方行きます。」
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
91
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
「で、ここ右にずれるんで、( 点字ブロックを ) 探して、あったので、その上を行 きます。」 「で、ここ上り坂ですから、上り坂がちょっと足がかりになって、もうちょっとだ なあという感じで歩いていって、それで杖を滑らせていって、こう左にちょっと ( 点字ブロックが ) 出てるので、ここ左に行きます。」 ( 改札 ) 「で、定期で出ました。それで、ここ誘導ブロックを右に行きます。」 「そして、ここらへんかなあ、という感じで、今こう、がたんがたんと音がしてい るのが、切れ目というかあるんですね。これ ( 金属製の蓋 ) ね。これが一応足がか りになるんですけれども。」 ( 改札 ) 「で、ここで切符を通す音がしていたんで、ここだろうと。それで、1・2番線なんで、 ここを左へターンして曲がって上がっていきます。」 ( 階段 ) ( ホーム ) 「それでですね、普段の5時くらいだと頭に入っているんですけども、今は4時台 ですので、1番線、2番線どちらでも先に出る方に乗りますけども、今どちらが先 に出ますか?」 ―1番線ですね。 「1番線ですか。それじゃあ、右の方へ行って、ブロックを踏んで、それでここ怖 いんで、電車とホームの境を確かめて。ここは連結じゃないんだ?あれ?連結です ね。こうちゃんと確かめて。連結落ちる人も結構いるんですよ。だもんで、ちゃん と確かめて乗ります。」 ( 電車 ) ―いつもと違う時間帯では、乗る電車はどうやって決めているんですか? 「えーっとね。適当。あるいは、人の歩いている音ですとか、どちらが先に出ます かと聞くとかね。で、乗ってみて、こっちがすごい空いていると思えば、たぶん後 だろうと思って、また、反対側に行ってみたり。あるいは、乗ってからこれどっち が先に出ますかと聞くとかね。でもまあ、待ってもあんまり差はないので。この時 間帯でしたら、だいたい5分とか、4分間隔で出てますんでね。」 ―成増は歩きにくいですか? 「そうですね。高田馬場のように整備されてないですからね。やっぱり高田馬場み
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
92
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
たいにすいすいとは行かないですね。」 ―点字ブロックは? 「ないない。ないです。」 「高田馬場っていうのは、点字ブロックが張り巡らされて、曲がり角に誘導チャイ ムが鳴ってるし、あんな環境の整い過ぎてるなんて町、他にないですよ。」 ―慣れてくると、ありすぎて嫌とかありますか? 「いや、嫌とかはないですけど。まあ、便利に使ってますけれども。そういう情報 は大事にね。ただもう慣れているんで、あまりチャイムの音とか無意識に聞いてい るというか、今日は鳴ってますって言ってますけども、普段はああ、鳴っているな あくらいで。」 「今放送が入って、電車がゆれ始めたんで、もう成増に近いと分かりますね。」 ( 成増駅:ホーム ) 「これちょっとこう ( 電車とホームの隙間 ) ありますよね。ここでこう降ります。 これもブロックがあるので、こうやって沿って行きますよね。それで、ここで杖で ラインが入っているのが分かるので、こちら行きますと手前に柱があるんですが、 これにぶつからずに済むと。それで、( 階段を ) 上がります。」 ( 階段 ) 「で、私は有人改札を出てしまいます。」 ( 改札 ) 「それでですね、いつも右に行くんですけど、定期が切れそうなんで、定期を買い に右に行きます。これブロックがあるのかな?」 ―右にありますね。 「ああ、そうですか。あ、ありましたね。」 「この辺かな?」 ( みどりの窓口 ) 「これもうブロックに沿って行きますね。」 「ここは下り坂になって、あとちょっとで階段だなあというのが分かりますので。で、 ブロックがあったんで、( 階段を ) 降りますね。バス停は右なんですね。」
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
93
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
―ここは点字ブロックがあるんですね。 「そうですね。成増は昔はなかったんですけども、私が言って結構敷いてもらって。 助かってますけども。で、ここで横断歩道っていうのが分かるんで左に行きます。」 「それで、ここがブロックですよね。ここからが大変なんですけど。並んでらっし ゃる人がいて。で、ここでバスに乗ります。」 ( バス ) 「これもね、椅子が空いているのを探すのが非常に大変なことなんですけども、た またま先頭の方に乗ったので、まあどこでも空いてるだろうと思って座りましたけ ど、空席を探すのは大変なんですよね。この席は前向きでしょう?これも分からな いんで、ちょっと手で触ったらこっち向きだから、前向きだと分かって座ったんで すね。西武バスは前向きが多いんですよ。国際工業はピ、ピ、ピって入ってくるこ とが多いんですけど、横向きなんです。西武と国際工業が二系統入ってるんで。」 ―停車ボタンの位置は分かっているんですか? 「ボタンの位置はねえ。ここは、ここって分かっているんですけどねえ。それは乗 り慣れているからで、すごい上の方とか探しちゃったりしたこともあります。で、 椅子のこういうとこ ( 椅子の脇 ) に付いてたりもするでしょう?それもこうなった のは、この頃っていうか、最近ですよね。前は上の方に付いてたでしょう。だから、 探せなくって。」 ―田舎の方だと、紐を引っ張るところもありますよね。 「そうですか。それは大変ですよね。空間にふらふらしてるのは、分かりづらいで すよね。」 「バスのドアの開く音が聞こえたんで、ここで降ります。」 ( バス停 ) 「ここから、自宅に近くなってからが危ないですね。」 「全然なんにもないんですよ。だから端っこ 1 を杖で確かめて、床のざらざら 2 を 確かめて、まだ歩道ですよね。で、車の音 3 を確かめて、あっちへ行ってるから、 ここ音の出る信号がないので、今は青ですね。ここ ( ブロック 4) を踏んで、信号 が青だというのを確かめて。どうやって確かめるのかというと、車が自分の方向へ 走っているから、青ですね。で、これ ( 電柱 5) が危ないんですけど、これが一応 目印になるんですよ。これが渡って、これを左に見ればこれで一応歩道に上がった ということなんですね。」 「ここは、白杖使わないとちょっと怖いですよね。いろんな物が置いてあったりす
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
94
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
るので。高田馬場とは全然条件が違うんで。だからここでは、ちゃんと杖を使いま す。」 「なんだこれは?」 ―お店ののぼり 6 ですね。 「やだねえ。」 「ここは、車の音 7 とそうだねえ。歩道もほとんど同じ感覚なんですよ。ですからね、 まずは車の音ですね。」 ( 自転車が通り過ぎる ) 「こういう時に、リンとか鈴をちょっと鳴らしてくれればいいんですけどねえ。全 然分からないでしょう?」 「で、ここでちょっと開けた感じ8がするんで。ここはなんかある感じがするんで すよね。耳でね。それでね、ここで畑の低いブロック 9 があるんですけど、ここで ちょっと歩道の感じ 10 が変わるんですよね。ちょっと坂 11 になって、ここで感じ が変わったんですよ。足の感じが。それで、左に曲がるんです。」 「で、こういう道が私たちにとって、一番分かりにくい道なんですね。なぜかって いうと、周りが畑じゃないですか。だから、さっきの歩道はまだ左に壁があったり なかったり、耳で分かったんですけど、ここはもう広いんで、目印がない。だもん で、本当に勘で歩くしかないんです。車も止まっているみたいでっしね。で、この 道は車も通ってきますし。本当に何にもないんですよ。だから、ちゃんと杖を使っ て歩かないと危ないんですよ。」 「で、道がまだこんな感じで。耳を澄ませて、足の裏で、杖の反響音で、まだかな。 もうちょっとですかね。ここはね、曲がる場所がわからないんですよ。建物でもあ れば分かるんですけど。このように建物なんてなんにもないですからね。本当に勘 でしかないんです。」 「それで、ここで足の感じ 12 が変わるんですよ。ここで一応右へ。ここかなと思っ て曲がります。傾斜と、ここがちょっと違うんですね。ちょっとざらざらになる感 じですね。本当に畑の中を通るのは、大変ですね。公園の真ん中で、さあ歩きなさ いと言われても困るんですよね。」 「ここで、杖の反響音 13 が変わってくるんですよ。住宅があるので。」 「まあ、この辺かなと思って。ちょっと手前だったかな。ちょっと通り越してしま ったかな。」 ( 自宅 )
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
95
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
■ T さんの歩行経路と手がかり ・高田馬場
⑳ ⑲
⑱ ⑰ ⑯
⑮
⑭⑬ ⑫ ⑪
⑩
⑨⑧
④
⑤
⑦
③
⑥
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
②
①
96
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
・成増
⑦
⑥
⑤
③ ②① ④
⑧ ⑩⑨
⑪ ⑫
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
97
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
■ I さんの発話データ 10 月 19 日 ( 火 ) I さん ( 東京都盲人福祉連合 ) 「ここは左ね。」 ―ここは点字ブロック 1 に沿う形ですか? 「ここは端歩いても色々危ないから、点字ブロックあったら、これをたどって行き ます。」 「ここ右行くね。」 「ここは坂 2 ね。正面が早稲田通りになって、そこを左に曲がります。」 ―坂は手がかりになりますか? 「そうだね。あとは車の音だね。なるべく人に聞いて、角の店 3 が何の店かをちょ っと聞いたりします。ここは、ビデオの店。」 「早稲田通りの音 4 がします。左に行きます。」 ―後は高田馬場の駅まで点字ブロック 5 に沿って道なりに行く感じですか? 「そうですね。あと、お店の音とか匂いとかもあるけどね。例えば、うどん屋さん の匂いがするじゃない。つゆのね。そういうのもやっていくわけ。」 「ここも左から道が入ってくるところ。ここは車の出入りが多いから、こっち ( 点 字ブロックの左側 ) に来るの。」 ―誘導チャイム 6 は場所の確認などに利用していますか? 「そんなに利用してない。ただ脇道があるっていうのは分かります。あと、さっき 言えば良かったんだけど、脇道入るところに歩道に段差があるでしょ?それで、道 が出てきたんだなというのは一応。」 「日本点字図書館というのがあって、ここはその通りね。」 「音でね。音声信号 7 で渡ります。」 ( 横断歩道 ) 「あれ?点字ブロック 8 がないな。」 ―左にあります。 「ああ、こっちか。そうか。」 「高田馬場駅に入ります。で、左で、右かな。」
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
98
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
( 高田馬場駅 ) 「ここは左が西武で、右は東西線に入るところね。ここを通って、階段を上がるのね。 で、改札ね。」 ( 改札 ) 「これで、左に曲がってちょっと、1メートルくらい行ったら、階段だね。」 ( 階段 ) ( ホーム ) 「それで、このゴムマットの所に着くでしょ。雨漏りなんだって。それでこれが敷 いてあるみたい。駅長にこれ取ってくれって言ったんだよ。危ないから。滑ったり、 引っかかったりするから。混んでいる時なんかね。」 ―ゴムマットがあって、ここまで来たという確認にはなりますか? 「それはあるね。」 「音の微妙なものもあるのよ。電車の。最近音が静かでしょ。山の手線なんか。私 らは音声が大事だから。」 ( 電車 ) 「私らが何号車がどこに止まるかとか覚えるには、ここ何号車かシールが貼ってあ るのね。あの点字みたいので確認するわけ。それで、どこの階段を使うとか、どこ の口に出るかとか、安全のために確認をするわけ。」 ( 日暮里駅 ) ( ホーム ) ( 階段 ) 「で、右ね。」 ―ここも点字ブロックをたどる感じですか? 「これが安全なのよ。一番ね。ど真ん中行っちゃうと、間隔がとれないわけよ。」 「で、ここ京成の乗り換え口ね。ここ右ね。」 「階段下りるね。」 ( 階段 )
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
99
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
( ホーム ) 「あ、閉まっちゃったかな?」 ―反対側ですね。 「ああ、そうか。」 「ここの常磐線も面白いんだよね。通勤快速かな。が、北千住に止まらないんだよ。 それが松戸行っちゃうんだよ。で、昔なんだけど、間違えて乗ったことがるんだよ。 二階建てで、乗るドアが狭くてね。気がついて、降りようとしてもどんどん人が乗 ってきて、降りられなくなっちゃって、松戸まで行っちゃったんだよ。だから、こ こでは気を付けてるね。」 「こっちのアナウンスは女性の声なんだよね。」 ( 電車 ) ( ホーム ) 「あれ?ここ階段じゃないのかな?あれ?あれ?」 ( 階段 ) ―ここは点字ブロックですか? 「うん。」 ( 改札 ) 「で、真っ直ぐね。ここにエスカレーターがある。」 「あれ?あら?ん?ああ、そっか。こっちか。あれ?」 ( エスカレーター ) 「真っ直ぐね。」 「あれ?点字ブロックがないね。」 ―左にあります。 「あ、左ね。バス停はそこなんだけど。階段が右にあるのね。」 ( 階段 ) 「それで、左ね。あれ?あれ?点字ブロックないのかな?」
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
100
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
―右の方にありますね。 「ああ、あった。バス停並んでる?」 ―はい。もうちょっと左ですね。 「大変だったんだ。ここ ( 駅前 ) 工事で、できるまで。」 ( バス )
「ここの信号のところね。反対側に渡るの。」 ( 赤信号を渡ろうとする ) ―すみません。ちょっとまだ赤ですね。 「あ、赤?まだか。」 ―はい。青になりました。 ( 横断歩道 ) 「右ね。」 ―自転車が来たので、ちょっと寄ってもらえますか? 「はい。自転車ね。」 「で、この先にちょと階段 1 があるのよ。うん。ここだったかな?あれ?もうちょ っとか?あれ?」 「あ、ここね。階段下りるね。」 ( 階段 ) 「で、右に入るね。」 「ここ、左に印刷屋さんがあるんだけども、ガチャンガチャンいう音 2 があるのが、 この道を半分くらい来たのが分かるわけ。」 「で、左ね。」 「で、右曲がるね。」 「で、ここに電信柱 3 あるんで。」 ( 自宅 )
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
101
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
■ I さんの歩行経路と手がかり ・高田馬場
⑧
⑦
⑥
⑤ ③ ④
②
①
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
102
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
資料編
・北千住
③
②
①
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
103
No. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50
手がかり タイル 柱 傾斜 傾斜 壁 柱 タイル 壁 歩道と車道の段差 傾斜 看板 フェンス 傾斜 L型溝 マンホール L型溝 L型溝 標識の柱 道路の凹凸 傾斜 道路の断面 電信柱 敷き直しによる段差 柱 敷き直しによる段差 壁 椅子 壁広告 傾斜 道路の断面 マンホール 手すり 壁 側溝の金属蓋 マンホール 傾斜 車止め 壁 L型溝 傾斜 電信柱 柱 傾斜 道路の段差 歩道と車道の段差 傾斜 手すり 壁 傾斜 段差
グループ 床面の変化 柱 傾斜 傾斜 壁 空気の流れ 床面の変化 壁 段差 傾斜 物 壁 傾斜 段差 床面の変化 段差 段差 柱 床面の変化 傾斜 傾斜 柱 段差 柱 段差 壁 物 物 傾斜 傾斜 床面の変化 物 壁 床面の変化 床面の変化 傾斜 物 壁 段差 傾斜 柱 空気の流れ 傾斜 段差 段差 傾斜 物 壁 傾斜 段差
場所詳細 地下構内 地下構内 地下構内 T字路 T字路 駅構内 駅構内 駅構内 横断歩道 横断歩道 十字路 まっすぐな道 路地へ まっすぐな道 まっすぐな道 T字路 三叉路 十字路 十字路 建物から まっすぐな道 まっすぐな道 横断歩道 地下構内 まっすぐな道 ホーム ホーム ホーム まっすぐな道 まっすぐな道 まっすぐな道 スロープ まっすぐな道 まっすぐな道 まっすぐな道 まっすぐな道 路地へ 建物へ まっすぐな道 まっすぐな道 まっすぐな道 駅構内 横断歩道 横断歩道 横断歩道 横断歩道 階段 建物へ 広場 広場
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文 あり あり あり
あり なし あり あり
なし なし なし なし なし なし なし なし なし
あり なし あり
なし
あり あり あり あり なし なし なし なし なし なし あり なし なし なし
なし あり
歩道
行動 直進 修正 停止 停止 折 直進 直進 直進 停止 折 停止 修正 折 直進 折 停止 停止 停止 停止 直進 直進 停止 直進 修正 直進 直進 停止 修正 直進 直進 直進 直進 修正 直進 直進 直進 停止 直進 直進 直進 停止 停止 折 直進 直進 直進 直進 折 折 折
感受部分 足裏 白杖 平衡感覚 平衡感覚 白杖 圧迫感 足裏 白杖 白杖 平衡感覚 白杖 白杖 平衡感覚 白杖 足裏 白杖 白杖 白杖 足裏 平衡感覚 平衡感覚 白杖 足裏 白杖 足裏 白杖 白杖 手 平衡感覚 平衡感覚 足裏 手 白杖 白杖 白杖 平衡感覚 白杖 白杖 白杖 平衡感覚 白杖 圧迫感 平衡感覚 足裏 足裏 平衡感覚 手 白杖 平衡感覚 白杖
人混み 有効性 多い 5 多い 5 多い 4 少ない 5 少ない 5 少ない 1 少ない 2 少ない 5 少ない 5 少ない 5 少ない 3 少ない 5 少ない 5 ない 5 ない 4 ない 5 ない 5 ない 1 ない 4 ない 1 ない 5 ない 1 多い 1 多い 5 多い 3 少ない 5 少ない 5 少ない 5 少ない 5 少ない 5 少ない 2 ない 5 ない 5 ない 4 ない 4 ない 3 ない 1 ない 5 ない 5 ない 5 ない 2 多い 1 多い 4 多い 4 多い 3 多い 2 多い 2 多い 5 多い 2 多い 5
点字ブロック あり あり(使わず) あり あり なし あり(使わず) あり(使わず) あり(使わず) なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし あり なし なし なし あり なし あり(使わず) あり(使わず) あり(使わず) あり なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし あり(使わず) あり なし あり なし なし なし なし なし
効果 範囲確認 場所確認 場所確認 場所確認 方向・範囲確認 場所確認 方向・範囲確認 方向・範囲確認 場所確認 場所確認 場所確認 方向・範囲確認 場所確認 場所確認 場所確認 場所確認 場所確認 危険回避 場所確認 場所確認 範囲確認 危険回避 範囲確認 場所確認 方向・範囲確認 方向・範囲確認 場所確認 場所確認 範囲確認 範囲確認 場所確認 方向・範囲確認 場所確認 場所確認 場所確認 場所確認 場所確認 方向・範囲確認 方向・範囲確認 場所確認 範囲確認 場所確認 場所確認 場所確認 場所確認 方向・範囲確認 方向・範囲確認 方向・範囲確認 場所確認 場所確認
音 なし あり あり あり なし あり なし あり あり あり なし なし なし なし あり あり なし あり なし なし なし あり あり なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし あり なし なし なし あり あり なし なし なし なし なし
匂い なし 店の音 なし 改札の音 なし 車の音 なし なし エスカレーターの音 なし なし エスカレーターの音 なし 車の音 なし 車の音 なし なし なし なし なし 店の音 なし 車の音 なし なし 車の音 なし なし なし なし 車の音 なし 車の音 なし なし あり なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし 川の音 なし なし なし なし 車の音 なし 車の音 なし なし なし なし なし なし
備考
場所 池袋駅 池袋駅 高田馬場 高田馬場 富士見台 中村橋駅 中村橋駅 中村橋駅 高田馬場 富士見台 富士見台 富士見台 富士見台 中村橋 中村橋 富士見台 富士見台 富士見台 富士見台 高田馬場 富士見台 富士見台 荻窪 荻窪駅 店の匂い 荻窪 高田馬場駅 高田馬場駅 高田馬場駅 高田馬場 荻窪 高田馬場 荻窪 荻窪 荻窪 荻窪 荻窪 荻窪 荻窪 荻窪 荻窪 荻窪 高田馬場駅 葛西 葛西 東陽町 東陽町 高田馬場駅 葛西 東陽町 東陽町
備考
人 K K K K K K K K K K K K K K K K K K K K K K W W W W W W W W W W W W W W W W W W W Y Y Y Y Y Y Y Y Y
受障時期 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」 資料編
□触覚情報データ
104
No. 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100
手がかり 壁 壁 椅子 壁 店の段差 店の段差 壁 側溝の金属蓋 看板 歩道と車道の段差 道路の断面 傾斜 傾斜 坂 マンホール 坂 L型溝 傾斜 坂 傾斜 タイル 坂 側溝の金属蓋 ホームの縁 坂 傾斜 歩道と車道の段差 道路の凹凸 ガードレール 壁 傾斜 マンホール 敷き直しによる段差 傾斜 道路の凹凸 坂 段差 壁 電話BOX ガードレール 傾斜 歩道と車道の段差 壁 道路の断面 壁 壁 段差 L型溝 道路の断面 マンホール
グループ 壁 壁 物 壁 段差 段差 壁 床面の変化 物 段差 傾斜 傾斜 傾斜 傾斜 床面の変化 傾斜 段差 傾斜 傾斜 傾斜 床面の変化 傾斜 床面の変化 床面の変化 傾斜 傾斜 段差 床面の変化 物 空気の流れ 傾斜 床面の変化 段差 傾斜 床面の変化 傾斜 段差 壁 物 物 傾斜 段差 壁 傾斜 壁 壁 段差 段差 傾斜 床面の変化
場所詳細 ホーム ホーム ホーム まっすぐな道 まっすぐな道 まっすぐな道 まっすぐな道 まっすぐな道 まっすぐな道 路地から まっすぐな道 道なりに まっすぐな道 まっすぐな道 まっすぐな道 まっすぐな道 まっすぐな道 まっすぐな道 まっすぐな道 まっすぐな道 ホーム 駅構内 駅構内 ホーム 駅構内 横断歩道 横断歩道 まっすぐな道 まっすぐな道 まっすぐな道 路地へ まっすぐな道 まっすぐな道 道なりに まっすぐな道 まっすぐな道 横断歩道 駅構内 まっすぐな道 まっすぐな道 まっすぐな道 横断歩道 まっすぐな道 横断歩道 まっすぐな道 まっすぐな道 横断歩道 T字路 まっすぐな道 まっすぐな道
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文 なし なし なし
あり あり
あり
あり あり あり
あり あり あり なし なし なし なし なし なし
あり あり あり あり あり あり あり なし なし なし なし なし なし なし なし
歩道
行動 直進 直進 停止 折 直進 直進 折 直進 直進 折 直進 折 直進 直進 直進 直進 直進 直進 直進 停止 直進 直進 折 停止 直進 直進 直進 直進 直進 直進 直進 直進 直進 折 直進 直進 停止 修正 停止 修正 直進 停止 修正 直進 修正 修正 停止 停止 直進 直進
感受部分 白杖 白杖 白杖 白杖 白杖 白杖 白杖 白杖 白杖 白杖 平衡感覚 平衡感覚 平衡感覚 平衡感覚 足裏 平衡感覚 白杖 平衡感覚 平衡感覚 平衡感覚 白杖 平衡感覚 白杖 白杖 平衡感覚 平衡感覚 白杖 足裏 白杖 圧迫感 平衡感覚 足裏 足裏 平衡感覚 足裏 平衡感覚 白杖 白杖 白杖 白杖 平衡感覚 足裏 白杖 平衡感覚 白杖 白杖 足裏 白杖 平衡感覚 白杖
人混み 有効性 多い 5 多い 5 多い 5 多い 5 多い 5 多い 5 多い 4 多い 2 多い 1 多い 2 少ない 1 少ない 1 ない 5 少ない 4 少ない 1 少ない 5 少ない 1 少ない 5 多い 5 多い 3 多い 5 少ない 4 多い 4 少ない 1 多い 4 少ない 5 少ない 5 少ない 4 少ない 4 少ない 4 ない 5 ない 1 ない 5 ない 4 ない 3 ない 3 多い 5 多い 5 少ない 1 少ない 5 少ない 3 少ない 5 少ない 5 少ない 1 少ない 4 少ない 5 ない 5 ない 5 ない 5 ない 2
点字ブロック あり(使わず) あり(使わず) あり(使わず) なし なし なし なし なし なし なし あり あり(使わず) あり あり あり あり あり あり あり あり あり なし なし あり(使わず) あり なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし あり なし あり(使わず) なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし
効果 方向・範囲確認 方向・範囲確認 場所確認 場所確認 方向・範囲確認 方向・範囲確認 範囲確認 方向・範囲確認 危険回避 場所確認 範囲確認 場所確認 方向・範囲確認 範囲確認 場所確認 範囲確認 方向・範囲確認 場所確認 範囲確認 場所確認 方向確認 場所確認 場所確認 危険回避 場所確認 場所確認 場所確認 範囲確認 危険回避 危険回避 場所確認 場所確認 方向確認 場所確認 範囲確認 範囲確認 場所確認 範囲確認 危険回避 範囲確認 場所確認 場所確認 範囲確認 範囲確認 範囲確認 範囲確認 場所確認 場所確認 範囲確認 場所確認
音 なし なし なし あり あり あり なし なし なし あり なし なし なし なし なし あり あり なし なし なし あり なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし あり あり あり なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし 白杖の音 白杖の音 車の音
チャイム
車の音 車の音
車の音
店の音 店の音 店の音
備考
匂い なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし なし
備考
場所 高田馬場駅 東陽町駅 東陽町駅 東陽町 葛西 東陽町 東陽町 東陽町 東陽町 東陽町 高田馬場 高田馬場 高田馬場 高田馬場 高田馬場 高田馬場 高田馬場 高田馬場 高田馬場 高田馬場 池袋駅 池袋駅 池袋駅 池袋駅 成増 成増 成増 成増 成増 成増 成増 成増 成増 成増 成増 高田馬場 高田馬場 北千住 北千住 北千住 北千住 北千住 北千住 北千住 北千住 北千住 北千住 北千住 北千住 北千住
人 Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y T T T T T T T T T T T T T T T T T T T T T T I I I I I I I I I I I I I I I
受障時期 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 後天的 後天的 後天的 後天的 後天的 後天的 後天的 後天的 後天的 後天的 後天的 後天的 後天的 後天的 後天的 後天的 後天的 後天的 後天的 後天的 後天的 後天的 後天的 後天的 後天的 後天的 後天的 後天的 後天的 後天的 後天的 後天的 後天的 後天的 後天的 後天的 後天的
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」 資料編
105
No. 101 102 103 104 105 106 107
手がかり 敷き直しによる段差 風 壁 風 風 風 風
グループ 段差 空気の流れ 空気の流れ 空気の流れ 空気の流れ 空気の流れ 空気の流れ
場所詳細 まっすぐな道 まっすぐな道 T字路 まっすぐな道 建物へ T字路 路地へ
歩道 なし なし なし なし あり あり あり
行動 直進 直進 折 直進 折 直進 折
感受部分 足裏 圧迫感 圧迫感 圧迫感 圧迫感 圧迫感 圧迫感
人混み 有効性 点字ブロック ない 4 なし ない 3 なし ない 5 なし 少ない 5 あり 多い 5 あり 多い 5 なし 少ない 4 なし
効果 方向確認 場所確認 範囲確認 場所確認 場所確認 場所確認 場所確認
音 なし なし なし なし なし なし なし
備考
匂い なし なし なし なし なし なし なし
備考
場所 北千住 荻窪 富士見台 高田馬場 高田馬場 東陽町 成増
人 I W K Y Y Y T
受障時期 後天的 先天的 先天的 先天的 先天的 先天的 後天的
「視覚障害者の利用する屋外空間の触覚情報に関する研究」
早稲田大学 理工学部 建築学科 渡辺仁史研究室 2004年度 卒業論文
資料編
106