高齢者の施設利用から見た都市のコミュニケーション・ポテンシャル

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U07 1 1 早稲田大学理工学部建築学科卒業論文         指導教授 渡辺仁史

高齢者の施設利用から見た都市のコミュニケーション・ポテンシャル The Potentials of Communication City,Using of The Senior Citizen s Facilities

平林 あゆ菜

Department of Architecture,School of Science and Engineering, Waseda University


高齢者の施設利用からみたコミュニケーション・ポテンシャル

はじめに

はじめに 体力は衰えているものの、夫婦で仲良くのんびりと生活している母側の祖父母。そして、一人で暮らし、 一人でいろんなところに遊びにいき、元気に忙しい生活を営んでいる父側の祖母。とても対照的だ。高 齢者となると、歳とはあまり関係なくその状態はさまざまである。 家族と住んでいたり、妻や夫がいる人は自然とコミュニケーションはできるし、何かあったときに助け てもらえるし、支えてもらえる。父側の祖母のように、独居老人でも元気で自ら積極的にいろいろなと ころへ行ったりいろいろな人とコミュニケーションをとれる人もいる。でも、その祖母から話を聞いて いると、やはりそんなに積極的にいろいろなところへいけない人の方が多いという。 そこで、どんな人でも気軽にいけるような高齢者の居場所が必要なのではないかと考えた。 そういう場所はあるのだろうかと探してみると、アメリカで高齢者に爆発的な人気を博しているマザー カフェプラスという名のコミュニティカフェといわれる場所が存在していた。そして日本にそのような 高齢者が集まっておしゃべりをするような場所があるのだろうかと考えた。 マザーカフェプラスに並ぶような場所は存在しないが、日本では「ふれあいサロン」というものがあり、 定期的に高齢者があつまっておしゃべりをしているという。まず、その「ふれあいサロン」が実際にど んなものなのか、そしてそれ以外には高齢者が集まる場所はないのか。 よく病院の待合室は高齢者のたまり場だと聞くが、実際どれほど集まっていて、コミュニケーションは 盛んなのだろうか。実はおしゃべりが目的で病院に通っているのだろうか。公園に集まる高齢者もたま に見かけるが、公園もたまり場になっているのだろうか。もしくは他に高齢者がたくさん集まっている ところがあるのか。いったい高齢者はどこにいるのだろう。そんな疑問から、この研究が始まった。

Hitoshi Watanabe Lab. WASEDA Univ. 2007

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高齢者の施設利用からみたコミュニケーション・ポテンシャル

目次 1章 序論

1-1研究目的 1-2用語の定義 1-3 施設の定義

003 004 005 006

2章 研究フロー

007

3章 背景

009 010 011 012

4章 調査概要

022 023 023 024

5章 結果/分析

026 027 028 032 034

6章 考察

039 040 051

3-1高齢化とそれに伴う社会問題 3-2本研究の位置づけ 3-3基礎調査

4-1調査対象 4-2調査期間 4-3アンケート内容

5-1分析方法 5-2各施設の利用人数分布と利用圏 5-3利用施設での会話状況 5-4コミュニケーション・ポテンシャル

6-1他データからみた距離とコミュニケーションポテンシャルの相関関係の要因探求 6-2まとめ

7章 展望                             053 8章 参考文献                           055

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第1章

序論

Chapter 1

Introduction

1.1 研究目的 1.2 用語の定義 1.3 施設の定義

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第1章 序論

1.1 研究目的  高齢者が利用する主な施設において、利用人数分布と会話率からその施設の利用圏におけるコミュニ ケーション・ポテンシャルを明らかにすることによって、今後高齢者のふれあいを目的とした施設の配 置計画の指針とする。

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第1章 序論

1.2 用語の定義    ■会話率  会話をしたと自覚している時間を会話時間として、その会話時間の合計を滞在時間で割ったものを指 す。また、会話率の値を A とおく。      会話率(A) =

会話時間 滞在時間

■会話発生によるコミュニケーションポテンシャル  距離と利用人数の相関関係と会話率から導かれる、施設周辺のある位置における会話のおこりやすさ   の指標を指す。 ■ふれあいサロン   高齢者のために定期的に開かれるふれあいの場や機会を「ふれあいサロン」という。

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第1章 序論

1.3 施設の定義   本論において考察される以下の施設について、それぞれ定義付けをする。 ■サロン 「ふれあいサロン」や「町内会」などの、ふれあいを目的として開かれているもので、月に1回など 定期的に行われているものを指す。場所は小学校や大学、町会会館、または民間の持っている建物の 一部など、様々な場所で行われている。 ■病院 本論においては、総合病院から小さな病院まで、また歯医者や鍼灸治療院など、医療に関わる施設で 診察を行っている場所を全て病院とよぶ。 ■カルチャーセンター お稽古ごとや、趣味活動などのふれあい以外のある目的をはっきりと持ち、複数の人が集まってその 目的となっている行為を行う場所をカルチャーセンターと称する。決まった場所を借りて行う場合も あれば、生涯学習センターのように一つの施設の中に教室がたくさんあり、様々なプログラムが行わ れているような所もある。 ■スーパー 主に食料品などの日用品を取り扱い、セルフサービス、大量仕入れによる廉価販売を原則とする店。 多くは広い売り場面積を持つ。 ■公園 主に市街地またはその周辺に設けられ、市民が休息したり散歩したりできる公共の庭園。

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第 2 章

研究フロー

Chapter 2

flow of study

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第2章  研究フロー

2 研究フロー

・ 高齢者の集まる場所、コミュニケーション ・ が起こっている場所はどこか? ・ ・ 基礎調査 ・ ・ ・ 病院の待合室、ふれあいサロン、喫茶店な ・ ど。高齢者が集まる場所はさまざま。 ・ ・ ・ ・ アンケート実施、 収集 ・ ・ 外出行動とそこにおける会話状況につい ・ ・ てのアンケート ・ ・ ・ ・ アンケート集計、 結果 ・ ・ アンケート結果からクロス集計 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 結果分析 ・ ・ 各施設ごとに距離と利用者分布の相関関 ・ 係、会話率を導く ・ ・ ・ ・ 考察 ・ ・ ・ どこでどのくらい会話がおこっているか、 ・ またその要因を探る ・ ・ ・ ・ モデルの作成 ・ ・ 高齢者が主に利用する各施設のコミュニケ ・ ・ ーション・ポテンシャルのモデル図を作成 ・ ・ ・ ・ ケーススタディ ・ ・ 都市における会話発生のポテンシャル・ ・ ・ マップのケーススタディ ・ ・ ・ ・

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では、 どこで どのくらいコ ミュニケーシ ョンが起こっ ているのか。 起こりやすい 場所というの はあるのか。

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第 3 章

背景

Chapter 3

background

3.1 高齢化とそれに伴う社会問題 3.2 本研究の位置づけ 3.3 基礎調査

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第3章  背景

3.1 高齢化とそれに伴う社会問題 世界一の長寿国である我が国において、高齢化問題は深刻なものとなっており、高齢化率は年々増え続 けている( 図 3.3-a 高齢者人口(65 ∼ 74 歳、75 歳以上)とその割合)。特に , グラフからもわかるよ うに 75 歳以上の後期高齢者人口の増加は顕著である。それとともに、一人暮らし高齢者の数も増加して いる。( 図 3.3-b 一人暮らし高齢者の推移)  また、高齢者になると仕事もやるべきこともなくなって人と接する機会が減ってしまう。そして農村 部に比べ、都市生活者には地縁に縛られた人間関係がなく自由に暮らせるが、その自由さゆえに互いに 干渉するということもせず、一方では社会的孤立を生み出す。そういったコミュニティーの中で暮らす 人が、高齢となり虚弱となって、外出に対する不安などから外出する機会が減り、社会的交流もないた め閉じこもりを引き起こす。  そのため、一人暮らし高齢者の増加とともに、閉じこもりの増加という問題が起こっている。それに ともなって、孤独死や自殺などの問題も増加している。  そういった問題を防ぐには、単に医療、介護的なアプローチだけではなく、コミュニティーの再生と いう社会的なアプローチが必要になってくると言う専門家もいる。日常生活の基盤であり最も身近な地 域社会において、高齢者の孤独感等の解消やさらに寝たきり・痴呆予防を図ることが今、求められている。  その改善策の一つとして、地域の中のふれあいサロン、ボランティア活動、イベントなど小地域に おける福祉活動があげられる。こういった場所では地域の人同士のコミュニケーションが頻繁に起こり、 またそこから地域のちいさなつながりが新たに生まれる。こういった場を提供することでつながりが強 化され、地域の人同士がお互いの状況を知る機会も増えると考えられる。実際にこういったつながりを もつきっかけとなるふれあいサロンも地域ごとに増えてきている。しかし、まだまだ高齢者の数に比べ てふれあいサロンの数が少ないというのが現状である。 よって今後こういった場がますます必要になり、増えていくと予想される。

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第3章  背景

3.2 本研究の位置づけ 都市に居住する高齢者を対象とした施設利用に関する研究はいくつも行われているが、主に高齢者の 住環境整備計画の視点から地域居住高齢者の生活構造と施設利用の関係に着目したものと、地域施設計 画の視点から施設利用高齢者の施設利用構造その利用特性を調査したものが多い。前者の研究としては、 高齢者の外出行動や趣味活動などの生活行動と地域施設利用状況把握を行ったもの、地域施設の利用層・ 非利用層の特性把握を行ったものなどがある。 今までこのように高齢者の施設利用に関する研究はたくさん行われてきたが、その利用状況のうち、コ ミュニケーション(会話)に着目して行われているものはほとんどないと言ってよい。本研究では高齢 者の外出行動における施設利用についてコミュニケーションをパラメーターとして、高齢者の生活行動 都市の中でどういう位置づけにあるのかを評価する。

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第3章  背景

3.3 基礎調査 ■高齢化の現状と予測  高齢者人口は今後も増え続け、2015 年には 4 人に 1 人が、2040 年には 3 人に 1 人が高齢者になり、 世界で最も高齢化が進んだ国となる見通しである。特に高齢者の中でも75歳以上の後期高齢者の割合 が大きくなっていくと予想される。

図3.3-a 高齢者人口(65∼74歳、75歳以上)とその割合

出典:厚生労働省HP

■一人暮らし高齢者の割合の予測  高齢化が急速に進展する中、一人暮らしの高齢者の割合も高まり、2015 年には高齢者人口の 3 割以 上を占めると推計されている。

図3.3-b 一人暮らし高齢者の推移

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出典:厚生労働省HP

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第3章  背景

■地域のつながりの希薄化 孤独死や閉じこもりなどの問題の背景には、地域のつながりのうすさという要因も挙げられる。近隣関 係のつながりについては、近隣の住民と行き来する頻度や近隣の住民との関係の深さからそのつながり の強さを読み取れる。そこでまずは近隣関係の頻度の現状を把握するため、隣近所に住む人々との行き 来について尋ねたアンケート結果を見ると(3.3-c 近隣住民との行き来の程度)、「よく行き来している」 が 10.4%、「ある程度行き来している」が 30.5%と、合わせて 4 割を超える人がある程度以上の頻度で 近隣と行き来している。しかしその一方で、「ほとんど行き来していない」が 31.9%、「あてはまる人が いない」も 7.9%と、近隣との行き来がほとんどない人あるいはない人が 4 割弱いる。 さらに、近隣住民との行き来が多い人が、必ずしも深い近隣関係を築いているわけではない。近隣関 係の深さを把握するため、近隣関係を浅いものから順に、「挨拶程度」、「日常的に立ち話する」、「生活面 で協力し合う」との三段階に分けて、このような関係を持つ人が近隣に何人いるか尋ねたアンケートの 結果を見ると(3.3-d 近所付き合いの人数)、挨拶程度といった最低限の付き合いさえ誰ともしない人は 13.1%に過ぎない。しかし、近隣関係が深くなるほど、そのような相手がいない人が増え、生活面で協 力し合うような相手を持たない人は 65.7%と、3 人に 2 人は深い近隣関係を持っていない。 なお近隣関係の頻度が高い人は、生活面で協力し合う人が多いとの傾向は見られるものの、近隣住民と 「よく行き来している」人の 24.7%、「ある程度行き来している」人の 43.8%が生活面で協力し合う人が いない(図 3.3-e 近隣関係の頻度と深さの関係)。つまり、近隣住民との行き来が少ない人も多い中、行 き来が多い人でも、深い付き合いにまでは至っていない場合が多く、このような観点から、近隣関係に よるつながりは総じて浅いと言うことができる。

近隣住民との行き来の程度

図 3.3-c 近隣住民との行き来の程度

(備考)1. 内閣府「国民生活選好度調査」(2007 年)により作成。 2.「あなたは現在、次にあげる人たちとどのくらい行き来していま すか。(ア)から(キ)までのひとつひとつについてあてはまるも のをお答え下さい。(○はそれぞれ 1 つずつ)」という問に対し(ア) 隣近所の人について回答した人の割合。 3. 回答者は、全国の 15 歳以上 80 歳未満の男女 3365 人(無回答 を除く)。

近所付き合いの人数

図 3.3-d 近所付き合いの人数

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(備考)1. 内閣府「国民生活選好度調査」 (2007 年)により特別集計。 2.「あなたのご近所づきあいについてお聞きします。次に挙げる 項目にあてはまるご近所の方の人数をお答えください。」という 問に対し、回答した人の割合。「生活面で協力し合う人」は「互 いに相談したり日用品の貸し借りをするなど、生活面で協力し あっている人」「日常的に立ち話する人」は「日常的に立ち話す る程度のつきあいの人」、「挨拶程度の人」は「あいさつ程度の最 低限のつきあいの人」である。 3. 回答者は、全国の 15 歳以上 80 歳未満の男女で、「生活面で協 力し合う人」は 3366 人、 「日常的に立ち話する人」は 3359 人、 「挨 拶程度の人」は 3350 人。

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第3章  背景

近隣関係の頻度と深さの関係

図3.3-e 近隣関係の頻度と深さの関係

(備考) 1. 内閣府「国民生活選好度調査」(2007 年)により 特別集計。 2.「あなたは現在、次(「隣近所の人」)にあげる人 たちとどのくらい行き来していますか。(○は 1 つ ずつ)」という問に対して得られた回答(「よく行き 来している」「あてはまる人がいない」)別に、「互 いに相談したり日用品の貸し借りをするなど、生活 面で協力しあっている人」の人数を尋ね、回答した 人の割合。 3. 回 答 者 は、 全 国 の 15 歳 以 上 80 歳 未 満 の 男 女 3353 人。

ここまで地域のつながりの現状について見てきたが、近隣関係は総じて浅く、地域活動へ参加する人は 少ないなど、現在における地域のつながりは、希薄であるといっても過言ではない状況であることが分 かった。 ただし、地域のつながりは、昔から希薄であったわけではない。むしろ極めて強い地域のつながりの 下、人々は、生産、教育、福祉など生活にかかわる多くのことを地域住民と共同で行っていた。ところが、 このような強いつながりは、経済・社会環境が変化するとともに希薄化していった。 年度別に近所付き合いをどの程度しているか尋ねた結果を見ると(図 3.3-e 近所付き合いの程度の推 移) 、「親しくつき合っている」が 75 年には 52.8%と半数を超えていたが、97 年には 42.3%に下落して いる。一方、「あまりつき合っていない」が同じ時期に 11.8%から 16.7%に高まるなど、近隣関係の希 薄化を見て取れる。また、別の調査で、隣近所の人とどのくらい行き来しているか聞いたところ、「よく 行き来している」あるいは「ある程度行き来している」と答えた人の割合が、2000 年には 54.6%と半 数を超えていたが、2007 年には 41.6%に落ち込んでいる。そして、「ほとんど行き来していない」ある いは「あてはまる人がいない」と答えた人の割合は、同じ時期に 22.3%から 38.4%に高まっている。 自分が住んでいる地域におけるつながりが 10 年前と比べてどのように変化したか尋ねたアンケートを 見ると(図 3.3-f 10 年前と比較した地域のつながりの強さ)、「変わっていない」と回答した人の割合が 46.5%と最も多いが、 「弱くなっている」、 「やや弱くなっている」も合わせて 30.9%に上っている。一方、 「強くなっている」は 1.7%、 「やや強くなっている」は 5.3%と、強くなっていると感じている人は 7.0% に過ぎない。つまり、最近 10 年間においても、人々は地域のつながりが希薄化の方向にあると感じてい るといえる。

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第3章  背景

近所付き合いの程度の推移

図 3.3-f 近所付き合いの程度の推移

10年前と比較した地域のつながりの強さ

図3.3-g 10年前と比較した地域のつながりの強さ

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(備考) 1. 内閣府「国民生活選好度調査」 (2007 年) により作成。 2.「あなたが住んでおられる地域のつなが りは、10 年前と比べてどのようになって いるとお考えですか。10 年間住んでいな い方も想定してお答えください。(○は 1 つ)」という問に対して、回答した人の割合。 3. 回答者は、全国の 15 歳以上 80 歳未満 の男女 3383 人。

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第3章  背景

ここで、高齢者の心配事や悩み事の相談相手を世帯構成別に見ると(図 3.3-h 高齢者の心配事や悩み事 の世帯別相談相手)、単身高齢者世帯については「友人・知人」との回答が 24.0%、 「となり近所の人」が 7.1% となっており、家族以外の人に対して、心配ごとや悩みごとを相談している割合が高くなる。さらに、 単身高齢者世帯の人については、9.8%の人が「相談したりする人はいない」と回答しており、他の世帯 の人と比べその割合が高い。つまり、地域のつながりが薄くなっているにも関わらず、単身高齢者にとっ ては、家族以外の人とのつながりがより求められている。今後は、隣近所の人を始めとした地域の人々 がその役割を担うこと、またそのことがあたりまえとなるような雰囲気づくりが重要と言えるだろう。 そういった活動をリードしていくのが社会福祉協議会や NPO 法人などの非営利の民間組織で、地域住 民や社会福祉関係者の参加により、地域の福祉推進の中核としての役割を担い、様々な活動を通して各 地域の社会福祉の増進に努めている。 そういった団体が中心に行っている小地域福祉活動では、地域住民が主体となって、住みよいまちづく りや「つながり」ができる仕組みづくりをしている。こうした活動から、地域のつながりやたすけあい の意識が高まれば、地域で困っている人が把握する事ができ、災害等の非常時もお互い迅速に対応する ことにつながる。 今後はこういった団体や活動が非常に重要となってくるであろう。

図 3.3-h 高齢者の心配事や悩み事の世帯別相談相手

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出典:内閣府 HP「高齢者白書」*1

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第3章  背景

■小地域活動について  「小地域活動」とは、町会エリアや学校区等身近な場所で、誰もが安心して生きがいを持って、安全 に生活を送ることができる地域づくりを目指して、地域の広域な住民が参加して進められる、住民主体 の福祉活動をいう。地域福祉活動の中でも小地域福祉活動への取り組みが強く打ち出されている地区が 多く見られ、東京都内で何らかの形で小地域福祉活動に取り組んでいるのは 62 地区中 48 地区と 77.4% となっている。その活動の対象者は住民全般とするものが多く、住み慣れた生活圏域の中で、地域の課 題を地域で解決していくための支援を行っている。活動内容としては(3.3-i 小地域福祉活動実施内容 と事例数)、 「住民懇談会」「サロン」「ミニデイ」「見守り、声かけ、訪問活動」「講座」「福祉まつり」「会 食、配食」等が多くなっている。  事業の今後の方向性は「拡大」としている地区が多く、地域力のあり方が問われる中で、改めて小地 域福祉活動を社協活動の中心として位置づけていることが伺える。中でも、 「サロン活動」は年々増加し、 その活動も多様化している。サロン活動は 41 地区(85.4%)の社協で取り組まれている。  また、高齢者白書では実際の小地域福祉活動の事例として、以下のようなも挙げられている。 以下、「平成19年度 高齢者白書」より引用。

・いきいきサロンを立ち上げ、家から出ない高齢者を連れ出し、食事会、小物作りなどの活動を行い喜  ばれている(認知症の予防、病院へ行かない為の予防)。 ・高齢者や一人暮らしの方達へ声かけを行い、元気を確かめ合っている(70 代、女性)。 ・一人暮らし高齢者を集め毎月 1 回「いきいきサロン」を計画し、毎回朝 10 時から 12 時まで、健康  管理センターより来てもらい血圧測定や健康についての話をしてもらう。その後、菓子作り、室内ボー  リング、室内風船遊び、七夕かざり、折紙遊びなどを実施。高齢者の方々が目を生き生きさせて笑い、  会話を楽しんでいる(60 代、女性)。

活動実施内容

図 3.3-i 小地域福祉活動実施内容と事例数

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出典:内閣府 HP「高齢者白書」*1

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第3章  背景

■サロン活動について   サロン活動は、閉じこもりの防止や孤立の防止、交流の場、生きがいづくりなど住民が主体となって 自主的に行われ、相互に支えあう地域づくりを目的としている。 そのきっかけは、ふれあいのまちづくり事業や介護保険制度の導入、少子高齢化社会における地域づく りの交流の場の必要性が問われたことから始まった。活動の内容としては、 「高齢者を対象としたサロン」 では、会食会やおしゃべり、健康体操や趣味等が行われており、介護予防の一つの形態としても期待さ れている。「住民全体でのサロン」では、誰もが気軽に立ち寄れる地域の拠点としており、そのプログラ ム内容は固定されていない活動が多くを占めている。サロン活動の対象は(図 3.3-j 活動の対象)、高齢 者が 83 事例と最も多くなっている。中には、高齢者と障害者、高齢者と子育てというように横断的な活 動を行っているサロンもある。  サロン活動の拠点は、公民館等の公的機関 (25 事例 ) や自治会集会所などの地域の施設 (22 事例 ) が 拠点になっている。また、一般の民家を拠点とし活動を行っている事例 (17 事例)も見られる。その他にも、 商店街 ( 荒川区 ) やシルバーピアの団欒室 ( 小笠原村 ) などが拠点として活用されている。  サロン活動に対する社協の関わり方としては(図 3.3-k)、活動への支援が最も多く(36 事例)、つい で活動費の助成(35 事例)となっている。また、福祉情報提供や啓発も行っており、サロン活動におけ る参加者等の福祉に関する意識啓発も活発に行われている。また、活動保険の負担や備品の貸し出し(足 立区)、サロンスタッフのボランティアの養成など(東村山市)を行っている地区もある。  活動の成果としては(3.3-l 小地域福祉活動の成果) 、もともとサロンの主な目的が仲間づくりである ため、仲間やネットワークができたこと(38 事例)である。その他にも、住民の意識や主体性の向上(19 事例)、社協の PR(16 事例)にもつながっている。

図 3.3-j 小地域福祉活動の対象

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出典:内閣府 HP「高齢者白書」*1

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図 3.3-k 社協の関わり方

第3章  背景

出典:内閣府 HP「高齢者白書」*1

図3.3-l 小地域福祉活動の成果            出典:内閣府HP「高齢者白書」*1

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第3章  背景

■ふれあいサロンの増加  東京都内の社会福祉協議会において把握されているふれあいサロンの数(表 3.3-m 近年の東京都区 市町村別ふれあいサロンの件数)は、平成 14 年 10 月時点で 533 件となっていて、2005 年 10 月時点 で 827 件となっていることからこの4年間だけでも 294 件増えて、約 1.5 倍になった。  近年の東京 23 区の、年次別のふれあいサロンの件数は以下の表のようになっており(表 3.3-n 近 年の東京 23 区におけるふれあいサロンの増加件数)、ほとんどの区で増加していることがわかる。  しかし、高齢者が東京都区部では 162 万 4 千人いるにも関わらず、サロンの数は 662 件となってお り、人数に対して 0.0005%に満たないことからまだまだサロンは足りていないと考えられる。しかも高 齢者は今後さらに増加するということから、これからも増加を続けていくと考えられる。

表 3.3-m 近年の東京都区市町村別ふれあいサロンの件数

尚、このデータは社会福祉協議会が調査したもので、提 供して頂けた平成15年度、16年度、18年度分の資 料をもとに作成した。平成15年度のデータは平成14 年度10月時点の、平成16年度は平成15年10月時 点、平成18年度は平成17年10月時点のものである。

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第3章  背景

433 件

531 件

662 件

図 3.3-n 近年の東京23区におけるふれあいサロンの増加件数 尚、このデータは社会福祉協議会が調査したもので、提供して頂け た平成15年度、16年度、18年度分の資料をもとに作成した。 平成15年度のデータは平成14年度10月時点の、平成16年度 は平成15年10月時点、平成18年度は平成17年10月時点の ものである。

表3.3-o 平成19年度敬老の日の高齢者人口統計結果(平成19年9月15日現在)

東京都総務局統計部が平成19年の敬 老の日にちなんで、9月15日時点の 65歳以上の人数を「住民基本台帳人 口(1月1日現在)」をもとに基にして 作成したものである。

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第 4 章   調査概要 Chapter4

Outline of Investigation

4.1 調査対象 4.2 調査期間 4.3 アンケート内容

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第4章 研究概要

4.1 調査対象  60 歳以上の健常な高齢者 60 人を対象に、荒川区の4ヶ所のふれあいサロンでアンケート調査を行った。 ・サロン首都大学 ・サロン西文化 ・喫茶コスモス ・西尾久あっぷる会

4.2 調査期間  9月中旬∼下旬           基礎調査 10 月3日、5 日、11 日、13 日   各ふれあいサロン4カ所にてアンケート配布 配布から10月下旬         郵送による回収。 配布数 105 部、回収数 65 部、無効回答数5部。 よって有効回答数 60 部。

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第4章 研究概要

4.3 アンケート内容

4.3.1 基礎調査項目   本研究では以下のことを基礎調査として聞いた。  ・住所  ・性別  ・年齢  ・仕事の有無  ・仕事有の場合その頻度  ・独居または誰と暮らしているか  ・1ヶ月の外出日数(1ヶ月を30日とする)  ・1ヶ月の外食回数(朝、昼、晩)  ・1ヶ月の孤食回数(朝、昼、晩)

4.3.2 外出行動調査

1ヶ月に1度以上行く場所を全てあげてもらい、それぞれの場所について以下15点の項目に答えても らった。 ・その場所の名称 ・その場所の所在地 ・利用頻度 ・交通手段 ・所要時間 ・利用階 ・その施設で階段かエレベーターを使用したか ・滞在時間 ・そこに行った目的 ・実際にそこで行ったこと ・初めて行ったきっかけ ・何度も行く理由 ・その場所で何人と何分会話したか(合計) ・その相手の属性 ・そこに行く際何人で行ったか

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第4章 研究概要

また、アンケート結果から導かれた項目として以下のものが挙げられる。 ・家から利用施設までの距離 所要時間と個人の住所と目的地の所在地から算出したもの。 また、以下の表を参考にした。

表4.3.2-a 高齢者の行動速度表 高齢者の歩行速度 50m/min 高齢者の自転車の運転速度 260/min バス 660/min 都電 660/min

・施設の属性 第1章序論で述べた、施設の定義を決めてそれに沿って分類分けをした。 ・会話率 滞在時間と会話時間からそれぞれの会話率を算出した。 以上の項目から重要だと考えられる項目について割合を出したり、クロス集計や平均化を行った。 以下が集計を行った項目である。そしてそれらの項目を図 4.3.2-b 分析、考察の手順 のとおりに行っ た。 各施設ごとの ・距離×利用人数の関係 ・距離×利用目的割合 ・交通手段の割合 ・平均滞在時間 ・平均会話時間 ・平均会話人数 ・平均会話率 ・会話の相手の属性の割合 目的ごとの ・家から利用施設までの距離 ・平均会話率

図 4.3.2-b 分析、考察の手順

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第 5 章

結果 / 分析

Chapter 5

the findings/analysis

5.1 分析方法 5.2 各施設の利用人数分布と利用圏 5.3 利用施設での会話状況 5.4 コミュニケーション・ポテンシャル

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高齢者の施設利用からみたコミュニケーション・ポテンシャル

第5章  結果/分析

5.1 分析方法  アンケートから高齢者がどのような施設を利用しているのか、また、その利用の割合がわかった(図 5.1-)。このうち、主な5つの施設「サロン」「病院」「カルチャーセンター」「スーパー」「公園」について クロス集計をし、分析を行った。  クロス集計は、アンケートで聞いた項目とそこから割り出した項目のうち重要だと考えた以下の項目 について、割合、相関さらに平均を算出した。 ・家から利用施設までの距離 ・施設の属性 ・利用頻度 ・交通手段 ・所要時間 ・滞在時間 ・利用目的 ・会話時間 ・会話人数 ・会話率 ・会話相手の属性

図 5.1 高齢者の主な利用施設

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第5章  結果/分析

5.2 各施設の利用人数分布と利用圏  5.2.1 利用人数分布  各施設ごとに距離と利用人数の関係をプロットし、その関係式を導きだした。(図 5.2.1-a 図 5.2.1-a サロンにおける距離別の利用者人数のプロット図)なお、距離はすべて 250m ごとに区切り、それぞれ の範囲における利用人数の合計を出したものである。そこから指数近似により指数関数のグラフと式を 導いた。縦軸はパーセンテージ、横軸は距離を表す。その式から導きだされる値 n は、ある距離からみ た時に、その前後± 125m を半径とする2つの円に囲まれた部分に含まれる人数が利用者全体の何%い るかを表している。例えば、d=1000 の時はその前後± 125m、つまり 1125m と 875m を半径とする円 に囲まれた部分に含まれる人数が、利用者全体の何%かをあらわしている。(図 5.2.1-b グラフの読み取 りのイメージ図 参照)  なお、実線部分はデータから導きだされたものであり、R 2の値からその相関の強さが読み取れる(表 5.2.1-i グラフの相関の強さ 参照)。破線部分に関しては実線部分から予測したものであり、相関の強さ は確かではない。

図 5.2.1-a サロンにおける距離別の利用者人数のプロット図

図 5.2.1-b グラフの読み取りのイメージ図

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第5章  結果/分析

図5.2.1-cdefg距離と利用者分布の関係(A3用紙 別ファ イル)

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第5章  結果/分析

施設ごとに分布図をみてみる。 サロン  グラフの頂点が他の施設に比べて高くなっている。これは、サロンの利用者は他の施設と比べても狭 い範囲に集中しているということを表している。約 1500m あたりを超えるとほとんど利用者はいない。 ここからもサロンの利用範囲はかなり狭いと考えられる。 病院 頂点は 5 施設の中で最も低く、約 20%の人が施設の周囲半径 250m から集まっているが、距離が遠く なっても利用者は急激に減ることはない。およそ 2000m の地点の前後 125m 圏内に利用者の 5%が含ま れていることから、病院の利用者は施設に近いほど多くはなるが、2000m を超えても利用者はある程度 いると言える。つまり、距離が遠くなるほど徐々に減るが、その利用範囲は広いことがわかる。      カルチャーセンター  多少中心に行くほど利用者は多いと言えるが、グラフの傾きは小さく、0 2375m の範囲に関しては ほとんど利用人数にかたよりがない。つまり、カルチャーセンターの利用者は近いところに行くわけで はなく、あまり距離に関係なくプログラム項目を重視して利用する傾向があると考えられる。 スーパー  病院と似た傾向が出ているが、頂点は病院よりも若干高い。つまり、病院と比べると施設の近辺の利 用者が多く、距離が遠くなるにつれて徐々に減るが 2000m 以上の所でも利用者はある程度いることから、 距離が遠くなるほど利用者は減るが、その範囲は広い。(ただし、病院よりも中心にかたよっていて、範 囲も若干狭い。) 公園  公園はサロンと似た傾向にあり、公園の近辺に利用者が集中していて利用範囲は狭いと言えるが、サ ロンと比べると利用範囲が広く、それほど中心にかたよってはいない。

総合的に見ると、施設から 100m 程度の範囲については、サロン、公園、スーパー、カルチャーセンター、 病院の順に、250m ∼ 500m 程度の範囲については、公園、サロン、カルチャーセンター、病院の順に、 500m ∼ 1000m 程度の範囲内では、カルチャーセンター、公園、スーパー、病院、サロンの順で病院とスー パーはほぼ同じとなっている。そして 1000m 程の距離を超えるとカルチャーセンター、病院、スーパー、 公園、サロンの順となっているが、距離が遠くなるほどその差は小さくなり利用者もほぼいないと言える。 ただし、カルチャーセンターについてのみ、距離が遠くなっても利用者数はある程度保たれている。

表 5.2.1-j 施設からみた利用者の集中度合い

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第5章  結果/分析

5.2.2 利用圏  1%しか利用者がいない距離を高齢者の利用臨界地点としその範囲内を利用圏と定義する。 その利用臨界地点を 5.2.1 で導かれた距離と利用者数の関係式から導く。

サロン           1= 51.015e-0.0022x                   x=(log51.015-log1)/0.0022           x=1878 病院            1= 22.774e-0.0009x                       x=(log22.774-log1)/0.0009

x=3473

カルチャーセンタ−     1= 13.803e-0.0002x              x=(log13.803-log1)/0.0002 x=13124  スーパー         1= 25.05e-0.001x                   x=(log25.05-log1)/0.001 x=3221 公園           1= 45.208e-0.0016x

x=(log45.208-log1)/0.0016

x=2383

よってそれぞれの利用臨界地点は

サロン

1878m

病院           カルチャーセンタ−

3473m

スーパー        公園

13124m      3221m   2383m

となり、この利用臨界地点から施設までの範囲を利用圏とする。

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第5章  結果/分析

5.3 利用施設での会話状況  5.3.1 施設滞在時間   各施設の平均滞在時間は以下のようになっており(図 5.3.1 施設ごとの平均滞在時間 参照)、スー パーが最も短く、カルチャーセンターが最も長い。サロンについては、高齢者がふれあい目的で集まる 場合、1時間または2時間という区切りで集まる場合が多いためにこういった結果になっている。公園 は予想していたより長く 77.5 分となっているが、これは公園に行った際、そこでウォーキングをしてい る人が多いためこのような結果となっている。カルチャーセンターはお稽古ごとなどのプログラムの区 切りが2∼3時間ということと、お稽古のあとに休憩やおしゃべりをしたりする時間等があるというこ とが考えられる。

図 5.3.1 利用施設における平均滞在時間

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第5章  結果/分析

5.3.2 施設内での会話時間  会話時間とは施設を利用している間に人と会話した合計時間を指す。本人が会話をしたと自覚してい る時間を会話時間としているので、レジスタッフとのやりとりなど会話と言えるかわからないものも本 人が会話したと自覚しているものはコミュニケーションといえると考えカウントしている。以下の図   は施設ごとの平均会話時間である。

図 5.3.2 各利用施設における平均会話時間

5.3.3 会話率   会話率は以下の式によって導かれる。

会話率=会話時間/滞在時間

会話率は、その施設へ行った際の会話の起こりやすさを比較する指標となる。   以下は、各施設の平均会話率である。

図 5.3.3 各施設における平均会話率

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第5章  結果/分析

5.4 コミュニケーション・ポテンシャル 5.4.1 コミュニケーション・ポテンシャルの導き方   コミュニケーション・ポテンシャル(Y)は施設の利用圏内のある地点における施設の利用のしやすさ、 その施設における会話率をかけあわせたものである。 ここでいう「ある地点における利用のしやすさ」とは 5.2 各施設の利用人数分布と利用圏において求め た距離と利用人数の関係式(n=f(d)) で表すことができ、5.3 利用施設での会話状況で求めた値 A 会話率) を用いる。    コミュニケーション・ポテンシャル (Y) は、      Y=f(d) × A         Y  : コミュニケーション・ポテンシャル                       f(d) : 距離と利用人数の関係式                     d

: 利用者の自宅から施設までの距離

A : 会話率                     で表すことができる。

各施設の距離と利用人数の関係式 n=f(d)      サロン

n1=51.015e-0.0022d

病院

n2=22.774e-0.0009d

カルチャーセンター

n3=13.803e-0.0002d

スーパー

n4=25.05e-0.001d

公園

n5=45.208e-0.0016d

各施設における会話率は      サロン

A 1=0.859

(85.9% )

病院

A 2=0.301

(30.1% )

カルチャーセンター

A 3=0.510

(51.0% )

スーパー

A 4=0.0940

公園

A 5=0.452

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( 9.4% ) (45.2% )

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第5章  結果/分析

よってコミュニケーション・ポテンシャルは   P 1 = f 1(d) × A1

サロン

= 0.859 × 51.015e-0.0022d                 = 43.806e-0.0022d P2 = f2(d) × A2

病院

= 0.301 × 22.774e-0.0009d

= 6.8634e-0.0009d   カルチャーセンター

P3 = f3(d) × A3

= 0.510 × 13.803e-0.0002d = 7.034e-0.0002d

スーパー

P4 = f4(d) × A4

= 0.094 × 25.05e-0.001d = 2.3622e-0.001d   公園

P5 = f5(d) × A5

= 0.452 × 45.208e-0.0016d = 20.448e-0.0016d と表すことができる。つまり、コミュニケーション・ポテンシャルは利用者の自宅から施設までの距離 d によって決定される。

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第5章  結果/分析

5.4.2 各施設のポテンシャル 5.4.1 で求められたコミュニケーション・ポテンシャルと距離の関係を図で表すと、次ページの図 5.4.2 のようになる。  それぞれについて見てみると   サロン   施設近辺に利用者が集中しているため、施設近辺においてはコミュニケーション・ポテンシャルが 非常に高いが、距離が遠くなるとすぐにポテンシャルは低くなってしまう。 病院  施設近辺のコミュニケーション・ポテンシャルはサロンの半分以下ではあるが、5施設の中では3 番目に高い。また、徐々に減ってはいるものの傾きがなだらかなので、距離が遠いところではカルチャー センターに次いで2番目に高くなっている。 カルチャーセンター  施設近辺におけるコミュニケーション・ポテンシャルはそれほど高くはないが、距離が遠くなっても あまり低下しないため 1200m あたりを超えたところからはカルチャーセンターのポテンシャルが最も高 くなっている。 スーパー  スーパーはそこでの会話率が低いために、距離によって変化はあるが、総じて低いと言える。 公園  施設近辺においては2番目に高く、サロンと同様にポテンシャルの高い範囲は狭い。サロンと比べる と傾向は似ているが、全体としてポテンシャルは低い。

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第5章  結果/分析

図.5.4.2 コミュニケーション・ポテンシャルと距離の関係図(A3用紙 別ファイル

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第 6 章

考察

Chapter 6

Consideration

6.1 他データからみた距離とコミュニ ケーション・ポテンシャルの相関関係の 要因探求 6.2 まとめ

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第6章  考察

6.1 他データからみた距離とコミュニケーション・ポテンシャルの相関関係の要因 探求  6.1.1 各施設における距離と利用人数分布の相関関係の要因 ■距離ごとの利用目的割合から  まず、各施設の利用目的の割合(図 6.1.1-a 各施設の利用目的の割合)を見るとそれぞれ特徴があり、 利用者の目的が一つにしぼられるものや、主な目的はあっても他にも様々な目的を持って利用者が来る 施設もある。  また、目的別の自宅から施設までの平均距離(図 6.1.1-b 目的別の自宅から施設までの平均距離 ) を 見ると以下のようになっており、目的によって利用者の自宅から施設までの距離が異なる。利用目的が お稽古、趣味の場合は距離が長く、次に診察、買い物、健康維持と並んでいる。ふれあいはかなり距離 が短くなっている。  そこで、各施設の距離と人数分布の関係が異なるのは各施設の利用目的に影響されているのではない かと考え、各施設ごとに距離ごとの利用目的の割合を次ページの図にまとめた。

図 6.1.1-a 各施設の利用目的の割合

図 6.1.1-b 目的別の自宅から施設までの平均距離

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第6章  考察

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第6章  考察

各施設の距離別利用目的の割合(前ページ参照)から読み取れる結果を以下に記し、人数分布との関 係を考察した。 サロン   全体としてふれあい目的の人が多いが、その割合は距離が遠くなるにつれて小さくなる。0 250m では8割以上を占めているが、500m を超えると、大体3割∼5割程度となっている。逆に、健康維持や ボランティアを目的としている人は距離が遠くなってもあまり数は変わらない。そのため割合としては、 遠くなるにつれて大きくなっている。つまり、ふれあいを目的としてる人はなるべく自宅から近いサロ ンを利用し、健康維持やボランティアを目的としている人はある程度遠い場所にあるサロンでも利用す る事がわかった。( 図 6.1.1-c サロンの距離別の利用目的の割合 参照 ) 病院   ほとんどの人が診察目的で来ているため、距離による利用目的の割合の違いはそれほど見られな い。また、診察と答えた人でも、実際はそれほど診察が必要ではなく健康維持のために診察を受けてい る人もいると考えられるので、健康維持という目的との比較は難しい。しかし、251m 2500m では健康 維持目的の人がいないのに対し、2501m 以上では健康目的の人がいることから、はっきりと健康維持と いう目的で診察を受けている人がいることと、健康維持を目的としている場合はこのように距離が遠い 所でも利用するということが言える。そして、診察を目的としている人は距離に大きな影響は受けないが、 遠くなるにつれて徐々に利用者は減るとわかった。( 図 6.1.1-d 病院の距離別の利用目的の割合 参照 )

カルチャーセンター   お稽古、趣味が目的で行く人が全体として多い。また、お稽古、趣味が目的で行く人の件数は距離 が変わっても大きな変化はない。つまり、お稽古、趣味が目的の人は、距離に関係なく施設を利用する と言える。また、ふれあいに注目してみると、1000m 以内の狭い範囲に多く見られる。また、ボランティ アが目的の人は 1500m 以内に多く見られる。そして、健康維持目的の人は数は多くないが、距離が遠く てもある程度いるため、割合としては大きくなっている。従って、ここにおいても健康維持が目的の人は、 あまり距離に関係なく施設を利用すると言える。 ( 図 6.1.1-e カルチャーセンター の距離別の利用目的の 割合 参照 ) スーパー   買い物を目的としてきている人が 100%を占めているため、距離による目的割合の比較はできな いが、買い物を目的とする人は、その影響は小さいものの距離が遠くなると利用する人も少なくなって いくということがわかった。 ( 図 6.1.1-f スーパーの距離別の利用目的の割合 参照 ) 公園

健康維持を目的としてきている人が多いが、距離が近い 250m 以内の範囲をみてみると、ふれあ

いを目的としてきている人も4割程度見られる。ここでも、ふれあいを目的としている人は自宅から近 い公園を利用していると言える。また趣味で公園を散歩している人は、1000m 以上でもいることから距 離にあまり影響されないことがわかる。 ( 図 6.1.1-g 公園の距離別の利用目的の割合 参照 )

以上から言えることは、施設利用の際の利用範囲や利用人数分布の仕方には、その施設の利用目的 が大きく関わっているということである。   その特徴として、まず「ふれあい」を目的に外出する場合は なるべく近いところを利用する傾向 があり、あまり遠くまで行くことはない。サロンの利用目的の大半を「ふれあい」が占めている事から(図 6.1.1-a 各施設の利用目的の割合 参照)、サロンの利用人数分布の偏り方(表 5.2.1-b 施設からみた利 用者の集中度合い 参照 )には、この事が大きく影響していると考えられる。また、公園の利用目的は 大半が「健康維持」で、距離にあまり影響されないはずであるが、人数分布が公園の近くに集中してい Hitoshi Watanabe Lab. WASEDA Univ. 2007

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第6章  考察

る(表 5.2.1-b 施設からみた利用者の集中度合い 参照 )のは距離が短い所では「健康維持」に加えて「ふ れあい」が目的で来ている人がたくさんいることが要因として挙げられる。   次に、「健康維持」と同様に「お稽古、趣味」を目的としている人にも、距離に関係なく施設を利 用するとわかったが、その特徴が「健康維持」よりも顕著に出ている。従って、カルチャーセンターの 利用人数分布もあまり距離に関係なく利用者が 分布しているという結果が出ているのだと考えられる。   「診察」「買い物」を目的としている利用者に関しては、距離による影響はあまり大きくはないが、 距離が長くなるほど利用者は徐々に減っていく。病院は「診察」を目的とする人が、スーパーは「買い物」 を目的としている人が大半を占めているため、それぞれの距離と利用者分布の関係は目的の影響を受け て、距離が長い程人数は減るが、近辺への集中度合いは大きくなくある程度分散しているのだと考えら れる。 ( 表 5.2.1-b 施設からみた利用者の集中度合い )

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第6章  考察

■交通手段の割合から サロン 徒歩と自転車の人がほとんどとなっている。これは、データを個別に見ると、徒歩で来ている人はほと んどがサロンを利用する側の人で、自転車で来ているひとはサロンを開く側のボランティアの人の割合 が高い。 病院 半数が徒歩、4分の1が自転車、残りの4分の1は公共の交通機関を利用していることから、4分の3 の人は近くの病院を利用し、4分の1程度の人はある程度遠くても交通機関を使って行くということが わかる。 カルチャーセンター 徒歩、自転車、都電の割合がほぼ同じことから、カルチャーセンターに行く人は多少遠くても、様々な 交通手段を使って行くということがわかった。そのため、他の施設よりも距離に関係なく遠いところか らも利用者が多いのだと考えられる。 公園 ほとんどの人が徒歩で行くため、利用範囲が徒歩圏内とほぼ同じになり、範囲が狭くなっているといえ る。 スーパー 徒歩と自転車が大半を占めており、個別データから、都電を使っていっている人は習い事などと同じ所 在地にあるスーパーを使っていることから、習い事のついでに行ったものと考えられる。つまり、スーパー に行くという目的だけで外出する場合はほとんどの人が徒歩か自転車で行ける範囲のスーパーを利用す るということがいえる。

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第6章  考察

施設利用時の交通手段割合

図6.1.1-h 施設利用時の交通手段の割合

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第6章  考察

6.1.2 各施設の会話状況とその要因 ■平均会話時間と平均滞在時間と平均会話人数から 会話率の要素である会話時間と滞在時間について、それぞれの結果要因を各施設ごとに探る。 (図 6.1.2-a 施設利用の際の平均滞在時間、図 6.1.2-b 施設利用時の平均会話時間 参照) サロン  平均滞在時間が 100 分くらいになっているが、サロンが開かれる時、その時間は1時間か2時間と いう区切りが多いことから出た結果だと思われる。そして会話時間は他と比べて際立って長くなってい る。これは、サロンがふれあい、おしゃべりを目的として開かれるものがほとんどであるため、そこに いる間中しゃべっていることが多いためであると思われる。 病院  診察時間は大体5分くらいだが、待ち時間が1時間から2時間かかっていることが多く、滞在時間 はその間の 73.1 分となっている。また、その待ち時間の間に患者同士で会話をするという人がいるため、 会話時間も 21.4 分となっていて、ふれあいが目的で利用している人はほとんどいない(図 6.1.1-a 各施 設の利用目的の割合 参照)にも関わらず、かなりの時間会話が発生している。 カルチャーセンター  滞在時間が一番長い。これは、お稽古ごとが大体2時間、まれに 3 時間くらい行われること、また お稽古のあとに施設内で友人とおしゃべりをしていることなどからこのような結果になったと考えられ る。滞在時間に比べて会話時間は1時間程度となっているが、お稽古ごとの場合、会話ではなく踊りや、 歌などのプログラムを行っている時間が大半であるからと考えられる。会話時間としては短くなってい るが、会話以外のコミュニケーションについても考えると、滞在時間中ほとんどコミュニケーションを とっているとも言える。 スーパー  滞在時間は 55.3 分と一番短い。スーパーでは買い物しかしない人がほとんどであり、必要な用事を 済ませたら帰るため短いのだと考えられる。そして会話時間は 4.7 分と短いものの、買い物が目的で行っ ても知り合いと会うと会話をするという状況がしばしば見られることがわかった。ただし、たまたま会っ て立ち話をする程度なのでこのように時間としては短くなっているのだと考えられる。

公園  滞在時間は 77.5 分と長い。これは、公園に行ってそこで1時間程度ウォーキングをしている人が多 いため、このような結果が出ている。また、会話時間が長い理由としては、友達同士で公園に散歩に行 くという人が多いことと、公園に行って近所の人とおしゃべりをするという人や、公園で会ったウォー キング仲間とおしゃべりをすると言う人がいるためであると考えられる。

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第6章  考察

図 6.1.2-a  施設利用の際の平均滞在時間

図6.1.2-b  施設利用時の平均会話時間

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第6章  考察

■施設利用時の会話の相手の平均会話人数と属性から  ここで、各施設で会話をする際の、会話人数とその相手の属性の割合について考察する。(図 6.1.2-c 施設利用時の平均会話人数、図 6.1.2-d 各施設利用時の会話の相手の属性 参照)  なお、アンケートでは何人のスタッフ、また何人の友人と会話をしたかという事までは聞いていない ため、この割合が話した相手の属性とその人数の割合を表している訳ではない。 サロン  会話人数は 11.9 人と最も人数が多くなっているが、これはサロンがふれあいを目的として開かれて いること、利用者の多くがふれあいを目的として利用していることからも当然の結果といえる。   5割以上が友人、4割弱がスタッフとなっているが、サロンには運営するスタッフがいて、そのスタッ フはほぼ全員と積極的にコミュニケーションをとるため、このようにスタッフの割合が多くなっている。 友人というのは、実際にはもともと知り合いの近所の友人という場合が多い。全体としては多くの友人 と数名の運営スタッフと話す、という状況が多いと考えられる。また、家が近いといっても、全員が知 り合いという訳ではなく、サロンで初めて知り合って会話をするという状況も見られる。 病院  まず、半分以上を占めているスタッフに関しては、病院のスタッフ、つまり医者や看護士との会話で あると考えられる。友人が約4分の1となっているが、これは待ち合い室でたまたまあった友人や、初 対面で会話をするという場合が11%もあるということから、待合室で知り合って仲良くなった友人も いるという事も考えられる。家族というのは個別データより、診察に付き添いで来た家族という例がい くつか見られる。会話人数を見ても、大体二人と会話をするという結果が出ているがほとんどが、一人 がスタッフ(医者)でもう一人はそこであった友人または初対面の人であると考えられる。 カルチャーセンター  お稽古、趣味という目的で多くの人が集まる場で、プログラムを通して様々な人同士のコミュニケー ションが発生することは容易に想定できる。  また、友人が7割以上、スタッフが2割弱、初対面が1割弱となっている。友人というのは、もと もと友人で一緒に習い事をしていたり、そこで初めて知り合って友達になったという状況が考えられる。 様々な人が広範囲からくる事と、習い事のようなプログラムを楽しむという状況から、初対面の人との 会話は生まれやすいと思われる。また、スタッフは講師や、施設のスタッフなどであると考えられる。 講師の場合は事務的な会話ではなく、きちんとコミュニケーションをとっていると思われる。 スーパー  友人が7割弱、残りがスタッフとなっているが、スタッフはスーパーの店員と考えられ、会話といっ ても事務的な会話だと想定できる。友人というのは近所の友人で、買い物中にたまたま会って立ち話を するというようなことがしばしばあるのだと考えられる。 公園  友人が6割強となっているが、公園にウォーキングに行く人は、友人と一緒に行き、会話をしながら 歩くという場合が多いためであると考えられる。また、他にも近所の友人とおしゃべりをするために公 園に散歩に行くという人もいる。他には 10 名程度の集団でラジオ体操を行うというような例も見られ、 そのように一人ではなく数名以上で行く場合が多いため、平均会話人数も多くなっているのであると考 えられる。また、初対面の割合が 16%と多くなっているが、公園で初めて出会ったウォーキング仲間と 会話をするということもしばしばあるようである。

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第6章  考察

図6.1.2-c 施設利用時の平均会話人数 各施設利用時の会話相手の属性割合 サロン

カルチャーセンター

病院

スーパー

公園

図 6.1.2-d 各施設利用時の会話の相手の属性 Hitoshi Watanabe Lab. WASEDA Univ. 2007

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第6章  考察

ここで、目的別の平均会話率をみてみると(図 6.1.2-d 目的別の平均会話率 参照)ふれあいとボ ランティアが80%を超えている。ふれあいに関しては、それを目的としてるのであるから、会話が発 生しやすいのは当然である。ボランティアは、人と人が協力しあったり、人のための活動であったりと いう理由からこのような結果が出たのだと考えられる。ふれあいサロンのスタッフなどもほとんどがボ ランティア活動の方々で、このような小地域福祉活動においては人々の協力が不可欠であり、特にふれ あい、そして会話の量も多くなると考えられる。  次に健康維持、お稽古、趣味を目的としている人の会話率が 50%以上となっているが、お稽古、趣 味に関しては、習いごとや趣味活動を通してコミュニケーションが発生しやすいということが理由とし て1番大きいと考えられる。また、この研究においてはコミュニケーションの指標を会話率としているが、 実際には習い事のように、会話以外の何かをしている時間もコミュニケーションをとっているといえる であろう。健康維持については、例えばウォーキングやラジオ体操やダンスのような習い事などを友人 と一緒に楽しんでやっているという人が多いため、このような値が出たのだといえる。  そして診察については、診察という目的から考えると 31.2%という値は大きいと考えられる。病院 の待合室には、高齢者がたくさんいておしゃべりをしているイメージがあるが、このように会話率が高 くなっていることから、実際にそのような状況が多く見られることがわかった。また個別データを見ると、 診察が目的だが、待合室でのおしゃべりを楽しみにしているというような事例も見られる。  買い物を目的としている人の会話率は 12.6%とそれほど高くはないが、ある程度発生している。特 にデパートとスーパーでわけてデータを見ると、デパートでは 20.4%、スーパーでは 9.4%となってお り(図∼∼参照これからつくる)、大きな差が見られる。デパートは買い物といっても、日常的な買い物 ではなく楽しむために買い物に行く人が多いようで、友人と一緒に行ったり、遠くに住む友人と待ち合わ せて買い物のついでにお茶をしたりということが多いため、スーパーと比べて会話率が高くなっている。 逆にスーパーは、日常的な買い物であり、あまり楽しむために行くという人はいない。そのため、会話 をするとしてもたまたまあった近所の友人と立ち話という程度なので会話時間はあまり長くはならない。 また、座る場所がないから長い時間は話がしづらいという環境から会話時間が短いという理由も挙げら れる。

図 6.1.2-d 目的別の平均会話率

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第6章  考察

6.2 まとめ  以上から、各施設ごとにコミュニケーションポテンシャルに関する特徴とその要因をまとめる。

サロン ○利用範囲は最も狭く、施設中心に利用者が集中している 利用者の目的のほとんどがふれあいを目的として利用していて、ふれあいを目的とする施設利用者の自 宅から施設までの距離が短いことが、サロンの利用圏の狭さに影響している。 ○会話率は最も高い サロンを開く目的と利用者の利用目的がふれあいで一致している事、座って会話をする " 場 " と " 機会 " が設けられている事という二つの要素によって最も会話が発生しやすい状況が作られているといえる。

コミュニケーションポテンシャル図は施設近辺が非常に高くなっており、距離が長くなると急激に減る という結果になっている 病院 ○利用範囲は2番目に大きく、距離が長くなるにつれて徐々に利用人数が減る このような分布になっているのは、目的が診察であるため、その診察の質、つまり担当医師が病院を選 ぶ際のポイントとなっているからではないかと考える。簡単な診察などの場合は近くの診療所を利用す る人が多いと思われるが、その疾患の重さによっては様々な設備が

っている総合病院や、信頼できる

名医など近いという以外の理由で決めることが多くあると想定できる。ただ、簡単な診察を定期的に受 けているという人が多いため、距離が近い程利用者は多くなるという結果になっている。 ○会話率は 4 番目に高い 利用目的の9割が診察であるにも関わらず会話率が高い。これは診察の待ち時間が長い事、待合室では 座る事ができるという事、病院には高齢者が集まりやすいという3つの要素が集まっているために高齢 者同士の会話が起こりやすいのだと考えられる。ご近所の友人はもちろん、同じ患者同士という親近感 から初対面の人との会話も生まれやすいのではないかと考えられる。

その結果コミュニケーションポテンシャル図は施設周辺は3番目に高く、距離が長くなるにつれて徐々 に減っている。 カルチャーセンター ○利用範囲は最も広く、利用人数が距離にほとんど影響されない 利用目的の大半がお稽古、趣味であり、その目的性から距離に影響されずに施設が利用されるのではな いかと考えられる。 ○会話率は2番目に高い お稽古、趣味活動等のコミュニケーションの媒介となるものがあるため会話が発生しやすいと考えられ る。また会話率としては50%程度となっているが、会話をせずにお稽古の練習等を行っているときも コミュニケーションをとっていると考えた場合、コミュニケーションの量はかなり大きくなる。

その結果コミュニケーションポテンシャル図は全体としてある程度高くなっており、約 1200m より距 離が長いところでは常に5施設中最も高くなっている。 Hitoshi Watanabe Lab. WASEDA Univ. 2007

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高齢者の施設利用からみたコミュニケーション・ポテンシャル

第6章  考察

スーパー ○利用範囲は 3 番目に大きく、距離が長くなるにつれて徐々に利用人数が減る  目的性がはっきりしていて、利用目的が 100%買い物となっていることと、スーパーが場所によっ てそれほど違いがないという点から、スーパーを利用する際は便利な場所を利用するといえる。ただ、 個別のデータから、同じスーパーばかり使うわけではなく、若干ではあるが食材の違いなどから、最寄 り以外のスーパーを利用するという場合も少なくないとわかる。 ○会話率は最も低い  会話は発生しているが、会話時間は短い。会話の発生に関しては、スーパーという場所が日常性の高 い場所で、近所の友人などと偶然あって話すという機会が生まれやすいことがわかる。しかし、買い物 というはっきりした目的があるため、あまり会話に時間を費やしていられないという事と、座る場所等 がないため立ち話になってしまい、それほど長く話す事ができないという場所性の問題という二つの点 から会話率が小さい事が説明できる。

そのため、コミュニケーションポテンシャルの図は全体として低く、距離が長くなるにつれて低く なっていくというようになっている。 公園 ○利用圏はサロンの次に狭く、利用者は近所に集中している。  ふれあいを目的として近所の公園を利用する人が多く、距離が長くなるほど目的が健康維持の人の割 合が多くなる。健康維持のために公園に行く人はあまり距離に関係なく、公園内でウォーキングができ るような場所を利用する傾向にある。そのため、利用者が近所に集中するという結果になっているとい える。 ○会話率は3番目に高い  5施設の中では最も公共性が高く、コミュニケーションの媒介となるものがほぼないにも関わらず 45.2%と非常に高くなっている。これは、公園は誰でも自由に、いつでも行く事ができ、ベンチ等にすわっ てそこに滞在する事ができるという場所性から、高齢者が集まりやすいという理由がまず一つ挙げられ る。もう一つとしては、健康維持という目的を一人ではなく友人と一緒にだったり、集団で果たす人が 多くいるという理由も挙げられる。

そのためコミュニケーションポテンシャルの図は施設中心に偏り、その値も大きくなっている。

以上より、高齢者の施設利用の頻度や距離はその利用目的に大きく影響され、施設によってその分布 の仕方が変わってくる。  また、そこでの会話率は主にその目的性、コミュニケーションの媒介(あるかないか、またそれは何 なのか)、場所性(座る場所があるかなど)、それからそこへ誰かと一緒にいくかどうか、そこに会話を しようと思える相手がいるかどうかなどに影響されるという事がいえる。

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高齢者の施設利用からみたコミュニケーション・ポテンシャル

第 7 章

展望

Chapter 7

outlook

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高齢者の施設利用からみたコミュニケーション・ポテンシャル

第5章  結果/分析

7.1 展望と課題  今回は、利用施設の周囲の状況まで加味した調査はできずに終わってしまった。従って今後は周囲の 状況や利用状況によって行動範囲の形にどのように、またどの程度影響が出るのかという研究ができれ ば、より実用的な研究になると思われる。  それから、アンケート調査ではなく実際に施設に行って、どのくらいコミュニケーションが発生して いるのか、またその質まで考慮した調査

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高齢者の施設利用からみたコミュニケーション・ポテンシャル

第 8 章  Chapter 8

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参考文献 Reference literature

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高齢者の施設利用からみたコミュニケーション・ポテンシャル

第8章  参考文献

参考文献 •

高齢者向け学習事業参加者の学習活動圏域と施設配置の関係ー都市居住高齢者のための地域施設 計画に関する研究・その13ー:森岡美香、他 日本建築学会大会学術講演

概集(北陸)5218

2002 年 8 月  •

都市における高齢者向け学習事業の教室実施場所形態ー都市居住高齢者のための地域施設計画に関 する研究・その12ー:浅沼 由紀、他 日本建築学会大会学術講演

概集(北陸)5217 2002 年

8月 •

在宅高齢者の外出行動に関する調査研究ー遠出外出志向性および危険行動傾向の関連要因ー:金光 義弘、進藤貴子、武井裕子

都市居住高齢者の外出行動の特性と圏域に関する研究ー都市型高齢者住宅居住者の実態分析とシ ミュレーションー:水間 政典

都市居住高齢者の生活特性と余暇関連施設の利用特性についてー都市居住高齢者の地域施設利用 構造に関する研究 その2ー:浅沼 由紀、天野 克也 日本建築学会計画系論文集 第 492 号 ,119-125,1997 年 2 月

都市居住高齢者の余暇関連施設に影響を及ぼす施設特性についてー都市居住高齢者の地域施設利用 構造に関する研究 その3ー:浅沼 由紀、他

会話の発生と空間構成の関係ーグループホームにおける心理的介護と空間構成に関する研究 その 2:菊池 菜穂子、他

高齢者の居場所づくりについての一考察ー「ふれあいサロン」の活動に即してー:上條秀元 生涯 学習研究(宮崎大学障害学習教育センター研究紀要)第 12 号、2007

平成19年度 高齢者白書 内閣府ホームページより

報告書  東京都内区市町村社会福祉協議会 データブック 2003 東京都内区市町村社会福祉協議会 データブック 2005 東京都内区市町村社会福祉協議会 データブック 2006 p91 94

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第6章  考察

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第6章  考察

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おわりに

謝辞 結局今回もぎりぎりになってしまいました ... でも、正直テーマがはっきり決まるまで、ここまで出来るとは思いませんでした。まだまだ未熟ではあり ますが、私なりに頑張れたと思います。でもでもここまでやってこれたのは自分の力だけではなくて、本 当にたくさんの人に支えられたおかげです。本当にいろんな人に感謝しています。 まず、荒川区の社会福祉協議会の鈴木さんと梅本さん。何度もアンケート調査や見学など、急なお願いに も対応して頂き、本当にありがとうございました。荒川区社協と出会わなかったら、今この論文を書く事 はできていないと思います。また、ふれあいサロンのボランティアの方々とアンケートに答えて下さった 皆様にも本当に感謝しています。面倒なアンケートでしたが、みなさんの協力のおかげで論文を書き上げ ることができました。 そして健康ゼミ。まず、私のやりたい事がなかなか建築と結びつかずにテーマを決める事に苦労しました が、何度も相談にのって頂き、たまには喝をいれ、元気が無い時にははげましてくれ、色々な面で私を成 長させてくれた長澤さん、4月からあっという間でしたが本当にありがとうございました。長澤さんは本 当にかっこいいお母さんです。私も将来そうなりたいです。 そしていつも明るく私を励ましてくれて、どうしたらおもしろい、いい研究ができるか考えて下さったゆ かさん、いつも楽しく、時には厳しく、いつも笑顔でテキパキとしていて。。すごく私と似ている部分もあ るけれど、やっぱり全然違います。私もゆかさんのような人になりたいです。いつも迷惑や心配かけて ( 本 当にさいごまで ...) ばっかりでしたが、本当に尊敬そして感謝しています。ありがとうございました。今年 で健康ゼミを卒業してしまうのは寂しいですが、これからも宜しくお願いします! そして健康ゼミの先輩方、いつも笑いが絶えない健康ゼミの皆さんが大好きです。いつも本当に的確なア ドバイスを頂いて、そのたびに先輩方のすごさを実感しました。そしていつも本当に楽しかったです。ゼ ミ以外にも、お台場にいったり横須賀にいったり。。たくさんの思いでがあります。来年もゼミに参加した いくらいです。これからも楽しい健康ゼミであってほしいです。みなさん、ありがとうございました。 健康ゼミ以外の先輩達にもいろいろアドバイスをもらったり、色々教えてもらったり、お世話になりまし た。渡辺研究室のメンバーはおもしろい人ばかりで楽しかったです。 それから卒論生のみんな、なかなかテーマが決まらず一緒に悩んだのも今ではいい思い出です。特に提出 間際、ほとんどずっと一緒にいて、笑ったり悩んだり励まし合ったり、鍋したり、銭湯いったり。。健康ゼ ミ以外のみんなもいっぱいいて楽しかったな。たまに S 棟にもあそびにいったり、ご近所の I 研の人たちと おしゃべりしたり、英語教えてもらったりね。つらいけど、楽しくやれたのはみんながいたからです。あ りがとう。 もっとかきたいことがいっぱいだけど提出まで時間がないのでこれくらいにしておきます。。もうしばら く学校には住まないと思うけど、またこんな生活もしてみたいな笑これからもみんなよろしく! こんな楽しい時間がすごせたのも、渡辺研究室に入れたおかげです。こんな私を入れて下さり、そしてお 忙しいところメールでアドバイスなども頂いて、渡辺先生には本当に感謝しています。ありがとうござい ました。 そして最後に、これまで私を支えて来てくれた、お父さん、お母さん、大切な人たちに、ありがとう。さ りげないやさしさにいつも感謝しています。これからもよろしくね。

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U0711 高 齢 者 の 施 設 利 用 か ら 見 た 都 市 の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン ・ ポ テ ン シ ャ ル

平 林   あ ゆ 菜


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