車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動行動時間の制約に関する研究

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車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究 Limitation of activity by an increase in travel time that helps wheelchair in city

Hitoshi Watanabe Lab. Waseda Univ. 2009


車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

第一部 Part 1

論文編

Main Chapter 1 序論 2 研究方法 3 結果 4 ケーススタディ 5 まとめ、展望 参考文献 おわりに

Hitoshi Watanabe Lab. WASEDA Univ. 2009


3

はじめに 宇宙を歩く創造力を持たない僕は  自分の足下に広がる泥沼に目を凝らし、ひと掬いの砂金を集める事に決めた。 きっかけは 健康であったにも関わらず怪我を境にマンションの階段を渡れなくなり、さらに は部屋の移動もままならなくなりそのまま車椅子使用者となってしまった祖父。 介護士をやっている友人に施設訪問させてくれた時に聞かせてくれた「外出サー ビスは介護保険の適用外で時間給になっちゃうからあまり遠くへはお客様を散歩と かで連れて行けない」という話 はたまた身体障害者の NPO 団体役員によるバリアフリーの現状、システム、人 の心に対する生の声 どれが本当のきっかけかはわからない いくつもの些細なきっかけが化学反応を起こし、この研究のエネルギーとなった 様にも思えてくる。 このエネルギーは蝋燭1本の灯りにも満たないかもしれない、だがどこかで誰か がその灯火に目を向けた時、その光から映し出される新たなパラダイムに目を向け てくれた時、僕の研究は本当に意味を持つのだと思う。 誰も知らない孤高の地で朽ち果て、己の朽ちた肉体で土地を肥やす小蜘蛛の様に 僕はその時を待っている。

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目次 3

はじめに

第1章 序論             1-1 用語の定義            1-2 研究目的            1-3 研究背景            1-4 本研究の位置づけ

6 7 8 17

第2章 研究方法            2-1 研究フロー            2-2 時間バリアに関する意識調査            2-3 時間ロス要因の計測実験                    2-4 分析方法

20 21 30 40

第3章 結果           3-1 各エリア毎の時間経過と移動距離

44

3-2 時間ロスの分類

52

3-3 移動速度の減少でみる時間ロスの分析

55

第4章 ケーススタディ            4-1 移動時間の計測実験

73

4-2 結果

82

4-3 考察

84

第5章 まとめ、展望 5-1 まとめ

85

5-2 バリアフリー研究への可能性

88

5-3 展望 課題点

90

参考文献

91

おわりに

92

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車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

第1章

序論

chapter1

Introduction

第 1 章 序論

1-1 用語の定義  1-2 研究目的 1-3 研究背景    1-2-1 バリアフリーに関する法律とその変遷    1-2-2 情報のバリアフリー    1-2-3 時間のバリアフリーについて 1-4 本研究の位置づけ

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車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

第 1 章 序論

1-1 用語の定義 時間的バリア なにかしらの理由によって行動時間に制約が生じ、その時間の累積の結果、 時間的・精神的に行動が阻害される障壁 2006年の石上祐樹らの論文によって介助者を必要とする車椅子障害者 が自立した生活を送るにあたってこの「時間的バリア」が行動の妨げになっ ているという事が示されている。 (文1) 物理的バリア 段差をはじめとした物理的な要因によって障害者の行動が阻害されてしま う障壁(文1)

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( 文1)車椅子利用の障害者及 びその介助者との外出行動にお ける時間のバリアに関する研究 石上祐樹 日本建築学会大会学術講演梗概 集 2006 pp.797-798


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車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

1-2 研究目的 本研究は車椅子介助時の都市の移動速度の変化から時間ロスを明らかにす る事で車椅子移動において生じる時間ロスの情報を提供できる様にすると共 に時間ロスによる都市のバリアフリー化の評価を行う事を目標としている

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第 1 章 序論


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第 1 章 序論

車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

1-3 研究背景

国土交通の HP より

1-3-1 バリアフリーに関する法律とその変遷

http://www.mlit.go.jp/

日本でのバリアフリーに関する法律としては94年にハートビル法が制定に 始まる。そして2000年に交通バリアフリー法が制定され現在はこの現行2 法が統合され、高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(バリ アフリー新法)となっている。 バリアフリー法の冒頭ではその意義を以下の様に定めている 高齢者、障害者等の自立した日常生 活及び社会生活を確保することの重要性にかんがみ、公 共交通機関の旅客施設及び車両等、道路、路外駐車場、公園施設並びに建築物の構造及び設備 を改善するための措置、一定の地区における旅客施設、建築物等及びこれらの間の経路を構成 する道路、駅前広場、通路その他の施設の一体的な整備を推進するための措置 その他の措置を 講ずることにより、高齢者、障害者等の移動上及び施設の利用上の利便性及び安全性の向上の (図1) 促進を図り、もって公共の福祉の増進に資すること を目的とする。 㜞㦂⠪‫ޔ‬㓚ኂ⠪╬ߩ⒖േ╬ߩ౞Ṗൻߩଦㅴߦ㑐ߔࠆᴺᓞߩ! ၮᧄ⊛ᨒ⚵ߺ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! !

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図1:移動円滑の促進に関する基本的取り組みの図 Hitoshi Watanabe Lab. WASEDA Univ. 2009


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第 1 章 序論

車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

◉公共交通機関の快適性・安心性評価指標 公共交通機関におけるバリアフリーの効果として国土交通省では、平成

http://www.mlit.go.jp/

16 年 3 月、公共交通機関の快適性・安心性向上の取組みを促進するため

sogoseisaku/barrierfree/index. html

に 快 適 性・ 安 心 性 評 価 指 標(ICE Index of Comfortable and Easeful public transportation)を提案した。 これは段差の解消率や駅内の情報のわかりやすさなどの指標を定めてい る。この指標をもとに公共交通機関におけるバリアフリー化は進行してい る。 (図2)

JR東日本

新小岩→錦糸町

段差解消率

車内快適指標

+

+

+

+

ピーク時混雑率 段差解消率 車内快適指標 ホームLED 設置率 駅構内LED 設置率 車内LED等 設置率 駅員への連絡 のしやすさ 車内インター ホン設置率

東海道線

新川崎→品川

ホームLED 設置率 駅構内LED 設置率 車内LED等 設置率 駅員への連絡 のしやすさ 車内インター ホン設置率

総武線快速 横須賀線

+

+

+

+

+

+

+

+

新大久保→新宿 (内回り)※ 上野→御徒町 (外回り) 段差解消率 車内快適指標 ホームLED 設置率 駅構内LED 設置率 車内LED等 設置率 駅員への連絡 のしやすさ 車内インター ホン設置率

山手線

図2:JR 東日本の評価指標の達成率

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+

+

+

+

ピーク時混雑率 段差解消率 車内快適指標 ホームLED 設置率 駅構内LED 設置率 車内LED等 設置率 駅員への連絡 のしやすさ 車内インター ホン設置率

中央線快速


◉市町村の重点整備地区における基本構想 各市町村には旅客施設を中心とする地区や、高齢者、障害者等が利用する

http://www.mlit.go.jp/

施設が集まった地区(重点整備地区)について、基本構想を作成することが

basicplan/jurijoukyougraph2109.pdf

できるとされている。 この基本構想は移動等円滑化基準への適合義務規定が個々の施設等のバリ アフリー化を図るものであることと比較すると、施設が集積する地区におい て、面的・一体的なバリアフリー化を図ることをねらいとしている。 この基本構想の作成件数は年々増加している。(図4)

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1

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36

90 47

14

127 156 170 14

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23

291

283

312

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286

279

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249

321

225

232

217

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17

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図3:市町村の基本構想作成件数の推移

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9

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45

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第 1 章 序論

車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究


第 1 章 序論

◉継続的発展(スパイラルアップ) http://www.mlit.go.jp/kisha/

国土交通省は以下の様な理念に基づいてユニヴァーサルデザイン施策大網

kisha05/01/010711_.html

を提示している。 どこでも、だれでも、自由に、使いやすく」というユニバーサルデザインの考え方を踏まえ、 今後、身体的状況、年齢、国籍などを問わず、可能な 限り全ての人が、人格と個性を尊重され、 自由に社会に参画し、いきいきと 安全で豊かに暮らせるよう、生活環境や連続した移動環境 をハード・ソフト の両面から継続して整備・改善していく

この施策はユニヴァーサルデザインを目指すにあたり多様な関係者による 参加、持続的、継続的な発展(スパイラルアップ)を基本としていく事を目 指している。 (図4)

事後評価 適切な実施 維持管理

情報の共有

継続的発展 当事者参加 図5:ユニヴァーサルデザインの施策大網

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http://www.mlit.go.jp/ barrierfree/transport-bf/ basicplan/guidebook.pdf

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第 1 章 序論

1-3-2 情報のバリアフリー バリアフリー化に伴い、車椅子でもアクセス可能な施設や利用ができる駅は 増加している。しかしたとえ施設に車椅子用トイレが設置されていたとしても それがどこにあるのかわからなければ適切に利用することはできない。またス ロープなどを設置して高低差を解消したとしても、スロープの場所がわからな いと迷ってしまい利用に不便が生じてしまう。このようにバリアフリー化が進 められていったとしてもバリアフリーに関する適切な情報が提供されない限り 意味をなさないのである。 バリアフリー新法においても移動等円滑化に関する情報提供の確保を掲げて いるようにバリアフリー化においては高低差の解消といったハード面のみでは 無く、適切なバリアフリー情報を障害者や高齢者に提供する「情報のバリアフ リー」といったソフト面の整備も重要となってくる。 以下、情報のバリアフリーの例を示す。

①えきペディア 全国の地下鉄の路線図とバリアフリー情報を中心とした駅案内図、さらには 駅周辺の案内サイト エレベータ、エスカレータ、トイレの場所など地下鉄駅を利用する時の情報 が一目で分かる案内図「らくらくマップ」をメインに、トイレや出入口の写真、 さらには駅周辺地図が掲載されている。障がいを抱えている方や高齢者、さら に、書き込み情報や投稿写真もでき、情報を提供しあい発展をしていく。 しかし駅の改札や EV などの所用時間などの時間情報までは提供されていな い

図6:iphone でアプリとして配信されるえきペディア

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http://www.ekipedia.jp/

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車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究


第 1 章 序論

②バリアフリーマップ(町田市)

h t t p : / / w w w. b a r r i e r f r e e -

東京都町田市の社会福祉課において発信されている情報投稿配信サイト。

machida.com/

車椅子用トイレといった情報を投稿していく事でバリアフリー情報を拡張し ていく。 また車いす使用者、高齢者、妊婦、乳幼児を連れた者等みんなが利用でき る便所を『みんなのトイレ』と規定していてそのトイレに関する情報も同様 に配信している。 このバリアフリーマップは施設の設備における情報が主体でありアクセス に関する所用時間などの情報は配信されていない。

図7:町田市のバリアフリーマップ

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車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究


第 1 章 序論

◉人間の状態を考慮したナビゲーションサービス 国土交通省近畿地方整備局と神戸市保険福祉局が実施する「神戸自律移動 支援プロジェクト」は、ユニバーサル社会の実現を目指し、2004 年に発足 した。身体的状況、年齢、言語などを問わず、 いつでも、どこでも、だれでも

http://journal.mycom.co.jp/ news/2008/12/18/002/ index.html

移動に関する情報を入手できる環境の構築を目指し、自律移動支援システム の実証実験などを検討している。 このプロジェクトに参加しているナビタイムジャパン、KDDI、KDDI 研究 所の 3 社は「健常者」 「車椅子」 「ベビーカー」のニーズにあわせ、段差 / 坂 道 / 道幅を考慮したルート検索と GPS 衛星波の届かない地下や屋内でも利用 できる音声ナビゲーションを開発し、提供している。ルート検索では、実験 エリア内に健常者 / 車椅子 / ベビーカー向けの歩行者用ルートネットワーク を構築。それぞれの条件に適したルート検索が可能となる。条件は、健常者 は歩行可能な全てのルート。車椅子は道幅 1.5m 未満・2cm 以上の段差・勾 配を避けるルート、道幅 1.5m 未満・5cm 以上の段差を避けるルートの 2 つ。 ベビーカーは、道幅 1m 未満、段数 5 段以上の階段を避けるルートとなる。 屋内での現在位置特定には、GPS 信号と類似した特徴を持った IMES 信号 を利用する。同実験用に GPS 衛星波と IMES 信号の両方を受信可能な携帯 電話を用意し、それらに対応したトータルナビアプリケーションを開発。こ れらを利用することで、GPS 衛星波の届かない地下や屋内でも現在位置の特 定が可能となる。地上では衛星から得た GPS 情報を基に、地下・屋内では IMES 信号を基にシームレスな音声ナビゲーションを提供することを計画し ている。 また情報のバリアフリー化に関する研究の例を以下に示す。 (文2)ホームの駅情報提供に

◉清水崇史(西日本旅客鉄道株式会社 ) の論文では意識調査、人間の視界 範囲による検討から駅に必要なサインの配置計画を作成し、駅構内における 情報のバリアフリー化の促進を進めた。( 文2)

関する考察 : 駅を分かり易くす る記名サインの配置手法につい て 清 水 崇 史  日 本 建 築 学 会 大 会 学 術 講 演 梗 概 集   2007 pp.405-406

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第 1 章 序論

1-3-3 時間のバリアフリー バリアフリー化の整備に伴い、駅には EV や階段昇降機が設置されて駅の 利用が可能になったり、スロープなどの設置で高齢者、障害者のアクセス可 能な範囲は広がっている。しかし、車椅子などを利用する人の場合、階段昇 降機を利用して上下を移動する際の時間は健常者のそれよりはるかにかかっ てしまう。また電車に乗る際においても駅員の補助などが必要なため駅員を 呼び、補助してもらう為に時間が生じてしまう。また都市内においてもアク セスの為には遠回りなどをしなくてはならないといった様に移動時間に関し て健常者と比べて余計に生じる、もしくは不明確な部分が生じてしまう。  こうした物理的にアクセスできないといったバリアの他に「アクセスで きるが時間がかかる」時間的なバリアが存在している。 そのため、車椅子障害者は外出時間に余裕を持てなくなり外出意欲の低下 へとつながってしまっている。 また高齢者の生活支援における外出介助は介護保険適用外の為、時間毎に 報酬が定められており、外出時の移動時間を知る事やこうした時間バリアの 解決は外出の質の向上にもつながる。

◉石上祐樹(東京大学)の論文によると交通バリアフリー法の制定に伴い、 建築物や移動手段のバリアは取り除かれつつあるが実際の介助者の声からは 物理的な要因のみでは無く、時間的なバリアが存在するとしている。  こうした時間的なバリアというものはわかりづらく気がつきにくいが障 害者が自立した生活を送れる様にするにあたっては「物理的なバリア」のみ

(文3)車椅子利用の障害者及 びその介助者との外出行動にお ける時間のバリアに関する研究 石上祐樹 日本建築学会大会学術講演梗概 集 2006 pp.797-798

では無く「時間的なバリア」の側面も考えていく必要があるとしている。特 に建築においては一連の行動から分析していく事が重要であるとした。 また観察調査から時間バリアが発生する要素として人ごみや狭い道、駅の 改札、EV などといった要素を列挙した。(文3) ◉佐藤克志(日本女子大学)は被験者にバリアフリーの度合いが異なる複 数のルートを移動してもらい、そのルートの移動時間を計測した。そしてこ れらのルートを移動した際の負担感も評価してもらった。そして移動時間は 移動負担と同様にバリアフリー化の効果評価の指標になりうるとしている。 (文4)

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(文4)移動時間、移動負担に 対するバリアフリー化の影響 : バリアフリー化の効果評価に関 する研究 佐藤克志 日本建築学会大会学術講演梗概 集 2001 pp.445-446

15

車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究


第 1 章 序論

1-3-4 車椅子の速度に関する研究 ( 文5) 群集避難行動におけ る高齢者・身体障害者の影響 ( その 9) : 介助歩行の車椅子が混 在する群集の歩行行動特性 ( 避

長谷見雄二(早稲田大学 ) 介助者つき車椅子が混在する群衆の行動特性を 把握し、避難時間を求めるためのデータを提示する事を目的として実験によ る群衆避難行動時における群衆速度の計測、避難行動予測、流動係数の推定

難行動実験 , 防火 )、長谷見雄二 日本建築学会大会学術講演梗 概集 2005 pp.211-212

をおこなった。( 文5)

また実験的に作られたコースを移動して移動速度を力学的に分析したもの として市倉聡明(東京電機大学)の論文がある。この論文では可変勾配型実 験歩道と Hybrid Video Theodolite システムを用いて高齢者、車椅子介助者の 走行中の動作を座標解析して歩道勾配における歩行速度の変化を分析した。 ( 文6)

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( 文6)  市倉聡明 東京電機大学大学院 理工学部研究科 建設工学専攻 近津研究室

16

車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究


1-4 本研究の位置づけ

◉既往研究と本研究との比較 本研究は実際の都市を移動する際の移動速度の変化を測定することで時間 ロスを分析していく。こうした時間ロスの研究はバリアフリー研究において は時間のバリアフリーに関する研究に位置づけられる。 また移動速度に関する研究として解析機器による動作の解析と移動時間の 測定という両方の視点で本研究は分析を行う。

情報のバリアフリーに関する研究

アクセシビリティ、身体負担に関する研究

(文2)

( 文7) ( 文4)

本研究

( 文3)

時間のバリアフリーに関する研究

ソフト面

機械による動作解析

移動時間の測定

ハード面

(文7)車椅子による斜路移動 の筋負担による評価 市田登 日本建築学会大会学術

(文6)

図8:本研究の位置づけ

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本研究

講演梗概集 2007 pp.883-884

(文5)

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第 1 章 序論

車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究


◉本研究のねらい 本研究では車椅子介助者が行ける行けないといった二元論的なアクセシビ リティではなく行けるけど時間がかかる為に物理的、精神的にも障壁となっ ている現状から、移動速度の減速や停滞を「時間ロス」の尺度とし、定量的 に分析する事を試みる。 また時間ロスの定量化が進むにつれ、移動の障害(バリア)の有無だけで なく、活動(アクティビティ)の実際的な妨げとなっているとおもわれる不 便さを定量的に示す事ができ、新たなバリアフリーの評価手法や整備指標と なる可能性がある また、介護の現場でこれまで経験則に頼っていた、外出介助時の時間につ いて詳細な予測情報が提供でき、余裕をもって外出計画がたてられたり、外 出意欲の向上につながることが期待される。

図9:本研究のフィードバック

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第 1 章 序論

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車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究


車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

第2章

研究方法

How to reserch

chapter2

2-1 研究フロー 2-2 時間バリアに関する意識調査     2-2-1 調査概要     2-2-2 調査結果、考察 2-3 時間ロス要因の計測実験         2-3-1 実験機材     2-3-2 実験内容     2-3-3 実験日時と実験コース 2-4 分析方法

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第 2 章 研究方法


20

車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

第 2 章 研究方法

2-1 本研究の流れ

本研究は外出介助者が現実に意識している時間ロスというものを実験を用いて定量的に分析していく事を 試みている。その為まず外出介助者に時間ロスに関する意識調査を行いそこで得られた回答を元に時間ロス を分析していく。こうして得られた時間ロスに関するデータを用いて実際の都市移動におけるケーススタ ディを行う。

アンケートによる車椅子介助者の時間バリアの意識調査

速度計を用いた車椅子介助時の時間ロスの測定実験

結果の考察、時間ロスの定量的分析

ケーススタディ 図1:研究フロー

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車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

第 2 章 研究方法

2−2アンケート調査 2−2−1  調査概要 車椅子介助者が「時間ロス」をどのように意識しているか、どういった状況において時間ロス を意識しているかについて下記のアンケート調査を行った。

実施期間:8月26日∼9月11日 実施団体:介護事業所および障害者団体など計10団体 実施内容:紙面によるアンケート調査 配布枚数:48枚(うち有効回答数は42枚) 回答者属性   被介助者 15名  介助者 27名

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車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

2-2-2 アンケート調査結果  各設問の回答数の割合を以下に示す。  設問:週何回外出(介助者の方は外出支援)を行っていますか?(自由回答)

図2:車椅子介助時の外出頻度

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第 2 章 研究方法


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車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

第 2 章 研究方法

設問:外出(外出支援)を行う時の主な外出目的地を教えてください     ( 商業施設、公園、公共施設、医療施設、特に決めない、職場、その他から複数選択回答)

図3 外出(介助)時の主な外出目的地

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車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

第 2 章 研究方法

設問:普段の外出(支援)時に時間がかかってしまうと感じることがありますか?     (はい、いいえの2択回答)

図4:被介助者の回答

図5:介助者の回答

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車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

第 2 章 研究方法

設問:時間がかかってしまうという状況を解決した方が良いと思いますか?

図6:時間ロスの解決をしてほしいかの回答

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車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

第 2 章 研究方法

設問: (2つ前の設問ではいと答えた方)そのような感じは外出中常に感じますか?      (時間ロスを特定の場所で感じるか、移動中常に感じるかの2択回答)

図7:介助者の回答

図8:被介助者の回答

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車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

設問:時間ロスを外出介助時のどういった状況で感じるか?    (介助者の回答のみ)    自由回答で答えていただき、回答を状況毎に分類した。    なお被介助者の回答は少なすぎるため集計できず

図9:時間ロスを感じる場所の分類

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第 2 章 研究方法


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車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

第 2 章 研究方法

設問:こういったものがあれば外出がより身近にできる様になると思うものがあれば教えてくださ い(自由回答)

○介護タクシーを増やしてほしい ○段差を簡単に無くすもの ○高くない歩道、渡りやすい歩道 ○幅の広い道路、ガートレールが狭いこと ○ノンステップバス ○手動の車椅子はヘルパーの負担がかかり外出を控えてしまう。軽い車椅子があれば良い ○ノンステップバス、車両とホーム間のステップをオート化、階段昇降機、歩道の構造、介護タクシ ーの増加 ○自宅からの階段、坂道、車いす補助具があるが許可が必要でレンタル料も高い ○行政補助の安い介護タクシーができるのが理想 ○階段近くにエレベータがあると良い ○介助がないと出かけられない人に気軽に外出できる制度 ○外出マップ、BBS など ○車いす専用のタクシーもしくは歩道 ○電車から降りる時の自動スロープ、車いす用トイレ、エレベータ ○電車の運転席に乗り込みスロープを用意して時間を短縮したい ○設備を有効に使ってもらえる為のサイン、困った人に手を差し伸べる心 ○車いす対応バスを増やしてほしい。駅周辺に常駐している車いすトイレ付きヘルパー施設 ○車で移動できれば良いが駐車場が満車であったり目的地から遠い。 ○もっと簡単に車いすで乗り降りできるバス ○ホームと車両の段差を解消し、駅員に頼らず乗り降りできる駅。エレベータが満員だと乗れない、 歩いている人にはエスカレータがあるのだから譲ってくれる様な心のバリアフリーが欲しい(物理的 では無い) ○バス停ではなく、より家に近くなるモビリティバスとタクシーの充実、 ○ 交通機関のバリアフリー化は進んでいるようだが、それを扱う乗務員に使い方が解らないまたは慣 れていない人が多いと思うので、そういうところが、改善されればバス・電車等に乗るときにいちい ち心の準備をしなくてすむようになり、外出しやすくなると思う。

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車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

第 2 章 研究方法

考察 ○やはり外出介助を受ける人にとって時間ロスの存在は認識されておりまた解決を望まれる問題で あると考えられる。 ○ また時間ロスが外出時においてどこでも感じるのか特定の場所で感じるかという質問では被介助 者が常に感じるという回答が多く、介助者逆で特定の場所で感じるという回答が多かった。これは介 助者自身は普段は時間ロスの存在を全く気にしない生活をしている為、普段より時間がかかるという 認識が顕著に現れる、または被介助者は健常な状態との比較ができない為、常に不自由と感じるので はと思われる。 ○ 時間ロスを感じる状況としては駅という状況が多かった。また駅の中でも改札、エレベータ、ホー ムと車両との隙間、駅員の対応といった様に多くの要素が見られた。同様に電車を含めた乗り物の乗 降に対する意見も多かった。また要望としても安値の介護タクシーといった気軽な移動機関に対する 要望、そして人の心遣いという意見が多く見られた。

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車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

第 2 章 研究方法

2-3 時間ロス要因の計測実験 2-3-1 実験機材

◉速度計(ランニングコンピュータ) ランニングコンピュータは、もともとアスリートの科学的トレーニングで使用され、現在ではフィッ トネスクラブ、トレーニングセンター、医療研究施設などで幅広く使われている。計測機器は胸に巻 く心拍計、ストライドセンサー、腕時計型のデータロガーからなり、ストライドセンサーをシューズ に装着することでランニング中のスピード(ペース) ・距離・ピッチ・ラップ毎の平均ストライド (cm) の計測が可能。パソコンにデータを転送でき、 データを毎回パソコンに蓄積できる。もともと、 一般ユー ザー向けに開発された製品であり、装着が簡便なヒューマンインターフェースとなっており、簡単に 操作できる利点がある。 本研究は移動状況毎の移動速度の変化を測定しデータ化したものを分析するためにこの速度計を実 験で採用した。

図8 POLAR 速度計 (RS800sd)

◉車椅子 本研究では車椅子介助時における時間ロスを分析していく為、実験で使用する車椅子は自走式では ない介助用車椅子車椅子を使用した。

!!!!!!!!!!!!!!!! 250

250

450

450

380

図9 実験で使用した車椅子

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車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

第 2 章 研究方法

2-3-2 実験内容 ◉ 車いすを押す「介助者役」を自分自身がおこない、その他に、車いすにのる「被介助者役」を1名 お願いする。 ◉「介助者役」はランニングコンピュータ ( 心拍計・速度計機能付 ) を装着し、時系列の歩行速度を 計測した。足に装着した速度センサによって計測された歩行速度は、 秒単位で被験者の腕に装着したデー タロガーに記録される。なお、履物の種類によって歩行速度に影響を与えないため、被験者には運動靴 を着用してもらった。 ◉ 事前に設定したコースのスタート地点から速度計をスタートさせる。ある目的地までを設定した コースを移動する。 ◉「被介助者役」はデジタルビデオカメラで移動風景を撮影する。 ◉ コースの目的地にたどり着いたら速度計の計測を終了する。 ◉ 上記の手順をコース毎に行っていく。 ◉ 計測を終了得られた速度計のデータから時間毎の移動距離のデータを取り出す。

速度計ランニングコンピュータ

図10 実験の装備装着図

速度計センサ

図11 実験風景

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車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

第 2 章 研究方法

2-3-3 実験日時とコース  コース選定方法 アンケート調査において答えてもらった外出時の主な外出目的地のうち上位2つの回答となった医 療施設、商業施設への到達を目指すコースを設定した。 同様のアンケート調査で答えてもらった、 「時間がかかると感じる場所」の回答を加味し、これらの 要素を含めるコースを設定した

コース設定に含めた移動中に時間がかかると感じる要素 点字ブロック上を移動する 勾配 人通りが多い道 狭い道 視界が悪い道 路面が斜めの道

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車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

第 2 章 研究方法

エリア1:お茶の水、秋葉原周辺  エリア説明:お茶の水は順天堂、医科歯科大学病院といった医療施設が周辺に充実しており、また 高低差や人通りが多いエリアである。

コース1:万世橋から電気街を通り秋葉原駅アキバトリム前へ

START

コース2:万世橋から順天堂病院正門前へ

GOAL

START

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GOAL


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車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

コース3:順天堂病院からサッカーミュージアム入り口前へ

GOAL

START

コース4:サッカーミュージアムから湯島聖堂本堂へ

START

GOAL

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第 2 章 研究方法


35

車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

第 2 章 研究方法

コース5:湯島聖堂本堂から三省堂書店入り口前へ

START

GOAL

コース6:三省堂書店入り口前から万世橋へ

GOAL

START

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車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

第 2 章 研究方法

エリア2:下北沢駅周辺  エリア説明:駅周辺は狭い路地や高低差があり、また商店街などは人通りが激しい、また線路が中 心を通っているため、アクセスに駅舎の通過を必要とする。  コース1:スズナリ横町ザ・スズナリ前から昭和信用金庫前へ

START

GOAL    コース2:昭和信用金庫から駅を通過してピーコック入り口前へ

GOAL

START

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車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

第 2 章 研究方法

コース3:ピーコック入り口前から昭和信用金庫前へ

START

GOAL

コース4:昭和信用金庫前から踏切を通ってピーコック入り口前へ

GOAL

START

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車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

第 2 章 研究方法

エリア3:町田駅周辺  エリア説明:大型店舗が駅前にひしめき、市民ホールや図書館などの公共施設も立地しているが、 駅舎を軸にした計画でつくられた為、上下移動が激しく、また時間によっては乗り換え客の移動が激 しいエリアである。  コース1:小田急線町田駅からバスセンターを経由してヨドバシカメラ入り口前へ

START

GOAL

コース2:ヨドバシカメラから町田市立中央図書館入口前へ

START

GOAL

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車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

第 2 章 研究方法

コース3:町田市立中央図書館入口前から小田急線町田駅へ

GOAL

START

コース4:小田急線町田駅から町田市民ホール入口前へ

GOAL

START

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車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

第 2 章 研究方法

2-4 分析方法 ◉速度計で得たデータをパソコンに取り込み、経過時間毎の速度を抽出する。 経過時間時間毎の移動時間を乗算していく事で時間経過における移動距離の変化を求める。

経過時間毎の移動速度を抽出

移動速度を乗算して経過時間毎の移動距離を求める

図12 データから得られたグラフ

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車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

第 2 章 研究方法

◉グラフから移動距離が増加しないもしくは増加が非常に小さい時間帯(時間バリア発生)を抽出し ていく。

移動が停滞している(時間ロス発生)

図13 時間ロスの分析手順

◉ビデオカメラで撮影した映像と照合する事で時間バリアが発生する時間帯の状況を抽出する。なお 映像と照合し明らかに移動しているもの(機械の判定ミスなど)は抽出から除外する。

移動が停滞している(時間ロス発生)

撮影した映像から取り出した    時間毎の状況

図14 時間ロスと映像の照合

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車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

第 2 章 研究方法

◉抽出した時間バリアが発生した状況を物理的(空間的)な要因で生じたものと人的要因で発生した ものとに分類していく。

人的要因(目の前に人が立ちはだかっている)

空間的要因(路面が斜めの道を通過する)

図15 時間ロスの分類

◉人的要因はその人の状態毎にさらに分類をしていき、時間バリアが発生する状態を分析していく。 人の状態

同じ進行方向

逆方向(すれ違い)

すれ違い1人

すれ違い 2 人

図16 時間ロスの細分類

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横断


車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

第 3 章 結果

結果

第3章

Result and analysis

chapter3

3-1 各エリア毎の時間経過と移動距離 3-2 時間ロスの分類 3-3 時間ロスの分析       3-3-1 空間的要因による時間のロスの分析      3-3-2 人的要因による時間ロスの分析      3-3-3 速度の減少からみる時間ロスの分析      3-3-4 スロープ、迂回などに生じる時間ロス

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車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

第 3 章 結果

3-1 各エリア毎の時間経過と移動距離

各エリア、コースの車椅子介助時及び歩行時の移動速度、経過時間毎の移動距離は以下の様になっ た。 なお速度計の性能上車椅子の速度及び移動距離は同じコースであっても測定された距離が異なる為 距離グラフの縦軸は終着点の高さのみ統一して表示している。

時間毎の速度変化

時間毎の速度変化

時間毎の距離変化

時間毎の距離変化

図1 お茶の水コース1 車椅子          図2 お茶の水コース1 徒歩

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車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

時間毎の速度変化

時間毎の距離変化 図3 お茶の水コース2 車椅子

時間毎の速度変化

第 3 章 結果

時間毎の速度変化

時間毎の距離変化 図4 お茶の水コース2 徒歩

時間毎の速度変化

時間毎の距離変化

時間毎の距離変化

図5 お茶の水コース3 車椅子

図6 お茶の水コース3 徒歩

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46

車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

第 3 章 結果

時間毎の速度変化

時間毎の速度変化

時間毎の距離変化 図7 お茶の水コース4 車椅子

時間毎の距離変化 図8 お茶の水コース4 徒歩

時間毎の速度変化

時間毎の距離変化 図9 お茶の水コース5 車椅子

時間毎の速度変化

時間毎の距離変化

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図10 お茶の水コース5 徒歩


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車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

時間毎の速度変化

時間毎の距離変化 図11 お茶の水コース6 車椅子

時間毎の速度変化

時間毎の距離変化 図13 下北沢コース1 車椅子

第 3 章 結果

時間毎の速度変化

時間毎の距離変化 図12 お茶の水コース6 車椅子

時間毎の速度変化

時間毎の距離変化 図14 下北沢コース1 徒歩

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車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

時間毎の速度変化

時間毎の距離変化 図15 下北沢コース2 車椅子

時間毎の速度変化

時間毎の距離変化 図17 下北沢コース3 車椅子

第 3 章 結果

時間毎の速度変化

時間毎の距離変化 図16 下北沢コース2 徒歩

時間毎の速度変化

時間毎の距離変化 図18 下北沢コース3 徒歩

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車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

時間毎の速度変化

時間毎の距離変化 図19 下北沢コース4 車椅子

時間毎の速度変化

第 3 章 結果

時間毎の速度変化

時間毎の距離変化 図20 下北沢コース4 徒歩

時間毎の速度変化

時間毎の距離変化

時間毎の距離変化

図21 町田コース1 車椅子

図22 町田コース1 徒歩

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車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

時間毎の速度変化

時間毎の距離変化 図23 町田コース2 車椅子

時間毎の速度変化

時間毎の速度変化

時間毎の距離変化 図24 町田コース2 徒歩

時間毎の速度変化

時間毎の距離変化

時間毎の距離変化

図25 町田コース3 車椅子

図26 町田コース3 徒歩

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第 3 章 結果


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車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

時間毎の速度変化

時間毎の距離変化

第 3 章 結果

時間毎の速度変化

時間毎の距離変化

図27 町田コース4 車椅子

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図28 町田コース4 徒歩


52

車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

第 3 章 結果

3-2 時間ロスの分類 前述のとおり、車いすと歩行によるルート移動の際に速度が低下した状況つまり「時間ロス」が、 グラフから確認できた。この、時間ロス(=移動の停滞、極度の減速)が起きた状況の原因について しらべるために、移動中に撮影した周辺状況の映像と照合した。図27∼図29 は、その状況を取 り出したものである。 この時間ロスの要因をみていくと、空間的要因、人的要因に分類することができた。

図29 停滞、減速が空間的要因で生じる状況

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車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

図30 停滞、減速が人的要因で生じる状況(その1)

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第 3 章 結果


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車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

図31 停滞、減速が人的要因で生じる状況(その2)

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第 3 章 結果


55

車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

第 3 章 結果

3-3 時間ロスの分析 移動時間と距離のグラフから、時間ロス(移動が停滞、もしくは極端に減速した部分)の発生した 事が読み取れる。特に、健常者の歩行と較べて、車椅子介助時はその時間ロスが、多く発生する事が 見て取れる。また移動測である傾きの大きさも車椅子介助の場合一定でなく変化が起こっている(図 30) この比較から、特徴的な時間ロスの状況について、映像と照らし合わせ、詳しく分析を行っていく。 時間ロスは、グラフの特徴から、 「停滞する」場合と「減速」するケースにわけられることから、 その順にまとめていく。

図32 車椅子と徒歩の移動の比較

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車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

第 3 章 結果

3-3-1 空間的要因による時間のロス ①超えられる程度の段差 横断歩道などで、道路を横断する時には、歩道と車道の間の高低差により段差が生じている。車い す介助移動をする上では、動作の可能な範囲の高さが考慮されており、超えられない段差ではないが、 停滞が生じる。道路を横断し対岸の歩道へ行くには、段差を降りるときと、乗り上げ時、の2カ所で 減速が起こっている。

図33 車椅子の段差通過 ②旋回 歩道で、対向から人が来たり、障害物をよけるなどの動作が必要な場合がある。健常者の歩行の場 合これらのよける動作は、歩行しながらスムースに行われ、その旋回により歩行距離がややのびるこ ととにより、わずかに移動から見た速度低下が起こる可能性がある。 しかし今回の調査では、車いすの場合には、こういったケースで停滞がおこることが顕著であるこ とがわかった。車いすによる旋回には、動作上の制限があるため、方向転換を行う際にスピード自体 を落として行う必要性が生じる。また旋回距離も歩行に較べて長いと考えられる。また、その空間の 旋回半径とも関連があり、狭い曲がり角などでは、動作を慎重に行う必要性もあり、今回の調査で得 られたよりも、時間ロスが長くなる可能性が考えられる。

図34 車椅子における旋回

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車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

第 3 章 結果

③歩道の切り下げ 自動車が駐車場などへ乗り入れやすい用に歩道に乗り入れが設置されている場合がある。歩道で進 行方向に対して横に傾く形の勾配があるために、車椅子を介助して移動する場合、低くなっている側 に重心が移動し、走行が非常に不安定になってしまう。その為に慎重にバランスをとることから、速 度の減速が生じるようで、時間のロスが生じてしまうと考えられる。

図35 車椅子における乗り入れ通過

④路上駐車(駐輪) 歩道上に乗り上げる形で路上駐車がしている場合、迂回して通過しなければならない。その時介助 用車椅子車椅子だと方向転換を行う為減速を速度をおとしてしまう。また車の奥からの通行人が飛び 出してくる危険性もあるので減速して慎重に移動する必要が生じてしまう。その為時間のロスが生じ てしまうのである。

図36 車椅子の路駐回避 Hitoshi Watanabe Lab. WASEDA univ. 2009


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第 3 章 結果

⑤路面状態が悪い 普通の歩道ので見られる程度の、アスファルトが部分的に欠落するなどの路面の状況は、健常者に とっては、よけて歩けばよく、それほど問題にならない。 しかし、車輪で移動する車椅子においては、路面の隙間などに車輪をとられたり、またそれを避け る動作が容易ではないことから、通過に負担が生じる場合がある。そういった事が原因で、時間ロス が生じてしまうのである。

図37 路面が悪い状況 ⑥道路の横断 介助用車椅子の場合、健常者と違い、身を乗り出して前方を確認する事ができない。その為、道路 を横断する場合、一度停止もしくは減速をして前方を確認する必要が生じる事で時間のロスが生じて しまう。

車椅子の介助者は身を乗り出す事ができないので 道路からの人の飛び出しを確認できない

図38 車椅子のおける道路の横断

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第 3 章 結果

以上の様な状況において時間ロスの発生が見られた。そして各状況において停滞した時間を求めて、 その平均値をとると以下の表の様になった。

表1 実験中における空間的要因と時間ロスの値

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第 3 章 結果

3-3-2 人的要因による時間ロスの分析 前節で分析した、6つの空間的要因がないにも関わらず、時間ロスが生じている箇所があった。こ れらの映像解析から、周囲の状況、とくに周囲の通行人などの状況によって、時間ロスが発生してい る事がわかった。ここでは、状況ごとに分析を行った。 同方向に通行人がいるケース 前方に通行人がいる場合、車椅子をおす介助者は、前の健常者に衝突しないように、移動が慎重に なっているようで速度を停滞が生じている。 また前の歩行者をよけて追い抜くだけの空間がないために、追い抜きがが困難な場面が多く、前を 歩く通行人の速度に依存して、速度を落とさざるを得ずに時間ロスが生じている事もあった。 追い抜く事ができない為自然と動き が停滞する

目の前1人 20ケース

目の前 2 人 15ケース

目の前3人以上 16ケース

図39 同方向の通行人がいる状態 Hitoshi Watanabe Lab. WASEDA univ. 2009


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第 3 章 結果

対向者とすれ違うケース 車椅子は軌道変更を即座におこなうのが難しい。対向者とのすれ違いの場面では、速度を落とさず によけるのは難しい。その為一度徐行し、相手が回避してくれるのを待つ必要が出てくる。その為時 間ロスが生じてしまうのである。

1人とすれ違う  18ケース

2人とすれ違う  11ケース

3人以上とすれ違う  9ケース

図40 通行人のすれ違いがおこる状態 Hitoshi Watanabe Lab. WASEDA univ. 2009


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第 3 章 結果

人が横断する 通行人が目の前を横断する場合、車椅子は通行人が目の前を横断し終えるのをまた無くてはならな い。その為、移動の停滞が生じてしまう。 人が目の前を横断する  16ケース

図41 人が目の前を横断する状況

群衆 群衆が固まっている場合、迂回して回避をする際に時間ロスが生じてしまうのである。

群衆迂回 6ケース

図42 群衆を迂回する状況

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第 3 章 結果

また、発生した件数をグラフにした。(図41) 人的要因による時間ロスの中では、「同方向の通行人」によるケースが最も多かった。これはルー トと時間などの状況に依存するが、対向から来る人は事前に車椅子を確認して近づくため、回避行動 をとっている様子がうかがえた。

図43 要因毎の停滞の発生件数 通行人との人数との関係を見ると大人数ではなく1人前にいる状態においても停滞が発生するケー スが多く見られる。この事から通行人が多数存在するからといって停滞が発生するとは限らないこと がわかる。また場所によっては通行人との距離が離れていても停滞が発生する状況がある事がわかっ た。

通行人との距離が離れていても減速が生じたケース

距離が近いことで1人でも減速が発生したケース

図44 通行人が1人で発生するケース Hitoshi Watanabe Lab. WASEDA univ. 2009


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第 3 章 結果

3-3-3 速度の減少からみる時間ロスの分析 前節で述べた「停滞、 及び極度の減速」ではなく、移動速度が健常者の歩行時と比べて遅くなるケー スでも、移動時間は長くなってしまう。これによって、同じ目的地まで行くための時間からみると、 時間ロスとなる。 ここでは、減速による時間ロスが生じている場面について、前説同様に状況や空間の別に分析をお こなった。

グラフの傾きが小さくなっているところが 減速が生じた箇所である。

図45 移動速度の減速による時間ロス

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第 3 章 結果

実験のグラフより明らかな速度低下の見られた状況は、次に述べる5つであった。 路面がタイル地、上り勾配、下り勾配、点字ブロックが敷設されており路面が悪い、視界が悪い それらの速度低下の見られた場面の平均速度をまとめた(図44)。また、平坦な路面での、車い す介助の移動速度を計測しておき「空実験」とよんで一緒に併記した。これが通常の車いす移動速度 と考えられる。

図46 移動環境毎における移動速度

これを見ると勾配は上下ともに大きな減速が確認できる。また点字ブロックの上を移動する場合や 視界が悪い状況においても減速が確認できた。 点字ブロック 車椅子は車輪の移動によるため点字ブロックの面を移動すると不安定になり移動時間に減速が生じ る。本来視覚障害を考慮して点字ブロックを避ける事が適切なのだが狭い道では点字ブロック上を移 動せざるおえない時がありこのような時に減速が生じてしまうのである。 視界が悪い 視界が悪い屋内路地でも減速が見られた。これは先が見渡しづらい環境で操作が慎重になってしま うため自然と減速が起きているのだと考えられる。 上下勾配は空実験と比べて有意水準5%で平均値に差が認められた。

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第 3 章 結果

3-3-4 スロープ、迂回などに生じる時間ロス 車椅子利用者などが高低差を移動できる様に駅にはエレベータもしくは昇降機、スロープなどが設 置されている。こうする事でアクセスは可能になってはいるがスロープを利用するために遠回りした り、エレベータの乗り入れの為に健常者と比較して時間がかかってしまうケースがある。 そこで実験中のコースで通過したスロープ、エレベータ、迂回路の通過時間を計測し、また健常者 の通過時間と比較することでスロープなどの評価を行う。 今回の実験では4種類のケースにおいて通過時間の比較を行った。

ケース1 直線スロープ

ケース3 EV 図47 迂回路のケース Hitoshi Watanabe Lab. WASEDA univ. 2009

ケース1 折り返し型スロープ

ケース1 スロープ、EV を使わず回り道をする


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ケース1 順天堂病院正門前、町田市立中央図書館入り口前、

図48 ケース1 直線スロープの例 ケース2 町田バスセンター前

図49 ケース2 折り返しスロープの例 ケース3 JR 町田駅、下北沢駅、  町田 mody 前  町田バスセンター

図50 ケース3 EV 利用の例 ケース4 小田急線町田駅

図51 ケース4 回り道の状況の例

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第 3 章 結果


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第 3 章 結果

前ページに示した箇所での、健常者の歩行と、車いす介助者の歩行とで、それぞれのルートがわか れるところから、一緒になる場所までの、通過時間を比較した。

順天堂病院前スロープ

町田バスセンター前 EV その1

下北沢駅 EV

町田バスセンター前 EV その2

下北沢駅踏切利用 図52 階段利用と比較した迂回路の通過時間

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町田バスセンター前スロープ1 その1


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第 3 章 結果

町田バスセンター前スロープその2

町田市立中央図書館前のスロープ

JR 町田駅 EV その1

小田急線町田駅迂回路 その1

JR 町田駅 EV その2

小田急線町田駅迂回路 その2

図53 階段利用と比較した迂回路の通過時間

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第 3 章 結果

各迂回路の通過時間について健常者の階段利用による通過時間で割った時の割合を求めると下図の 様になった。

図54 迂回路通過時間に対する階段利用時間の割合 さらにケース毎に比較すると下図の様になった。

図55 迂回路通過時間に対する階段利用時間の割合

こうしてみると健常者の階段利用と比較して折り返し型スロープによる高低差の通過が一番時間が かってしまう事がわかる。その反面 EV、スロープなどを利用せずに回り道をする場合は健常者と比 較した通過時間がさほど大きくない事がわかった。

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第 3 章 結果

最後に実験で得られた時間ロスの要因、時間についてもとめると以下の様になった。

表1 結果のまとめ

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第4章

ケーススタディ

Case study

chapter4

4-1 移動時間の計測実験     4-1-1 概要     4-1-2 実験実施コース     4-1-3 推定時間の算出 4-2 結果 4-3 考察

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第4章 ケーススタディ


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第4章 ケーススタディ

4-1 移動時間の計測実験 4-1-1 概要 3章の結果から移動の停滞が発生する要因や移動速度の変化について分析ができた。この結果を用 いると車椅子移動時の移動時間を推定する事ができ、外出時間の目安を建てる事ができる。 外出時間の目安ができる事で時間に余裕のある外出計画が可能になる。そこで実験で得られたデー タを用いて車椅子で移動時間を推定し、実際の移動時間と比較する実験を行った。 実施期間:10月28日 被験者数:20代の大学生、及び大学院生 5名   実験内容:車椅子移動時における移動時間測定

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第4章 ケーススタディ

実験手順 ◉被験者には、車いす介助者役として、指定したコースを車椅子で移動してもらう。車いすには、人 が乗っている状態である。 ◉移動状況をビデオカメラで撮影する。 ◉実験で得られたデータを基にコースの各区間毎の移動時間を推定する。 ◉カメラの映像から各区間毎の移動時間を抽出し、推定した移動時間と比較する。

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第4章 ケーススタディ

4-1-2 実験実施コース ケーススタディを行うにあたり高田馬場エリアのコースで実施した。また移動時間を測定する区間 を以下の様に定めた。 コース:高田馬場駅から早稲田大学西早稲田キャンパス西門前まで

図1 ケーススタディ実施コース

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実験を行うに当たって移動時間を計測する区間を以下の様に定めた。

図2:区間1

図3:区間2

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図4:区間3

図5:区間4

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第4章 ケーススタディ


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図6:区間5

図7:区間6

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図8:区間7

図9:区間8

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第4章 ケーススタディ


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第4章 ケーススタディ

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4-1-3 推定時間の算出 ケーススタディにおいて使用する推定時間を以下の手順で算出する。 ①フラットな面を車椅子で一定距離を移動し、その移動時間をストップウォッチで計測し、フラッ トな面での車椅子の移動速度 Vo を求める。 ②各区間の距離を地図上で計測する ③①で得られた速度と3章の結果で得られたデータを用いてケーススタディで用いる路面状況毎の 速度 V を求める ④区間毎の距離を路面状況毎の速度 V で割って通過時間を求める ⑤各区間に存在する3章で得られた空間的要因を抽出する。 ⑥⑤で得られた空間的要因による時間ロスを3章の結果から算出する。 ⑦④で得られた通過時間に⑥で得られた時間ロスを加える

ケーススタディで使用する路面状況における速度 V の算出方法 V:ケーススタディで使用する路面状況における速度 Vo:一定距離のフラットな面を車椅子で移動してその時間を計測して得られた速度 V1:フラットな面を車椅子で移動した時の速度を3章の速度計を用いて計測した速度

Vo の算出する

V2:3章の結果で得られた路面状況における平均移動速度

区間距離の計測する

区間距離を Vo 割り通過時間を求める

V=Vo×(V2/V1) 区間に存在する空間的要因による時間ロスを抽出する

3章の結果から空間要因による時間ロスを算出する 加える

推定通過時間の決定

図10:ケーススタディ推定速度の算定フロー

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第4章 ケーススタディ

ケーススタディで使用する路面状況毎の速度及び区間毎の推定通過時間を以下に示す。

平地の速度の算定 39m の平地の道の通過時間から基準となる速度を算定した。 通過時間50秒より  39÷50=0.78(m/sec)

表1 推定時間の算出

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4-2 結果 推定時間と移動時間を以下に記す

区間1

区間2

区間3

区間4

区間5

区間6

区間7 図11 区間毎の推定時間と測定時間の比較

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区間8

第4章 ケーススタディ


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第4章 ケーススタディ

算出した推定時間を100パーセントとした時の各被験者の通過時間の割合を下に示す。

区間1

区間2

区間3

区間4

区間5

区間6

区間7 図12:区間毎の通過時間と推定時間との割合

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区間8


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第4章 ケーススタディ

4-3 考察 推定した時間と実験で得られた時間の2つを比較すると、第2区間の推定時間は計測時間と比べて かなり大きい値として算出された。 この第2区間は上り勾配の区間である。空間的要因は道路の横断の1箇所のみであり、これは誤差 に影響しているとは考えにくい。 今回の区間では空間的要因よりも、上り勾配を通過する際の被験者の移動速度が精度に影響を及ぼ していると考えられる。 また第4区間と第5区間では、推測時間と計測時間の誤差が小さかった。 第4区間は比較的、空間的要因が少なかったため、誤差が小さかったと考えられる。 第5区間では、被験者の移動速度にばらつきが少なかったため、推計時間と計測時間の誤差が小さ かったと考えられる。 したがって以下のことが今回のケーススタディではわかった。 1、上り勾配では被験者の移動速度が大きく影響してしまうため、時間のロスを定量的にみること は難しい。 2、段差や乗り入れ等の要因は、被験者の移動速度による影響が少ないため、定量的にみることが 可能である。 また、今回は人的要因は考慮せず空間的要因にのみ焦点をおいて推定を行った。今後人の状況も推 定していくとより精度の高い結果が得られるかもしれない。

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第5章

第5章 まとめ、展望

まとめ、展望

5-1 まとめ 5-2 バリアフリー研究への可能性   5-2-1 バリアフリー情報としての「移動にかかる時間の情報」    5-2-2 時間のバリアフリー 5-3 課題

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5-1 まとめ 3章の結果で記した、空間的要因、人的要因毎による停滞及び極度の減速 によって生じる時間ロス。移動状況毎に生じる減速。迂回路において生じる 時間ロスについて改めて掲載する。

表1 3章結果のまとめ

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第5章 まとめ、展望


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○移動の停滞・極度の減速による時間のロスとなる空間的要因 今回の実験的なルート移動によって、空間的要因 ①段差 ②旋回 ③乗り入れ通過 ④路上駐車(駐輪) ⑤路面状態が悪 い ⑥道路の横断 が発見できた。これによる、一般的な滞留時間の目安が明らかになった。 ○移動の停滞・極度の減速による時間のロスとなる人的要因: 今回の実験的なルート移動によって、人的要因 ①同じ進行方向の人が前にいる、もしくは追い越される。 ②逆の進行方 向の人とすれ違う。 ③人が横断する。 ④群衆 が発見できた。これらの速度低下は状況によるが、各状況における速度低 下の理由が浮かび上がり、 また発生頻度なども有用なデータであると言える。 介助者へのヒアリングでも、時間がかかるところとして「人ごみ」という 意見があった。しかし今回の分析で、「人が多い」場所ばかりでなく、狭い 道では、1人の通行人がいるだけでも停滞が起きていた。 また人の流れについては「すれ違い」よりも「同方向」の方が停滞しやす いなどの特性がわかり、車いす介助による移動の時間的な不利益を受けやす い場面が明らかになった。 都市の中では人の流れ方は、時間によって変化するが、とくにそれが顕著 な場所、例えば駅やその周辺などは、車いす介助移動を行う際に移動にかか る時間の変動が大きく、その影響をうけやすい場所であると考えられる。

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第5章 まとめ、展望


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○速度の減少からみる時間ロス 今回の実験的調査で、速度減少の要因となったのは、路面状況(タイル、 点字ブロック) 、勾配(上り勾配、下り勾配)道の状況(視界が悪い)とい うものであった。 路面状況が悪い場所では、移動速度は低下する。路面整備が重要であるこ とに加え、点字ブロックの様にユーザーの衝突が起こる問題では、道路幅が 確保され十分に避ける余地があることが、時間ロスを小さくする方法である と考えられる。 また勾配は、上りも下りも移動速度が落ちていることがわかる。介助負担 とともに安全性の配慮のため慎重になることが原因と考えられる。 また視界が悪い道路でも、安全確認のためにスピード低下を余儀なくされ ており、整備方策も路面の問題だけではないことがわかった。 ○経路の迂回などにより生じる時間ロス 今回の実験調査のルート設定において、車いすのためのアクセシビリティ 確保の対策がなされている場面として、EV やスロープなどの設置されてい るところを使うことがあった。健常者のルートと較べると、車いすルートで は、どうしても迂回のために時間がかかってしまうことがわかったが、時間 のロスの大小には違いがみられた。特に高低差の解消場面ではいくつかの空 間的な解決方法が考えられるが、こういった場面で、設置費用等の検討要因 の一つに、車いす利用者の利便性を考慮にいれ、身体負担の軽減などが考え られているが、その他にも時間的なロスが少なくなるよう配慮が必要と考え られる。

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第5章 まとめ、展望


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5-2 展望

5-2-1 バリアフリー情報としての「移動にかかる時間の情報」 序論ではバリアフリー化を推進していく上で、物理的なアクセスを向上させ るだけでなく、バリアフリー情報の提供が大事であると述べた。  バリアフリー情報の提供は、現代の情報通信機器の発展に伴い着実に進歩 している。しかしここでいう情報とは、あくまで物理的なバリアを指し、本 研究で明らかにした時間の情報提供はまだ成されていない。  本研究で得られた時間ロスを情報として提供する事により、従来よりも時 間に余裕をもった外出計画を推進することが可能になる。また外出介助サー ビス等では介助者の報酬は時間毎で定められているため、サービスの質を向 上させることにも繋がると考えられる。

外出介助の都市移動時に発生する   停滞、減速の要因の分析

外出介助時の移動時間計画の質の向上

車椅子障害者の外出計画の計画が容易になる

車椅子障害者の

時間毎の報酬となっている

外出意欲の向上

外出支援サービスのサービスの質の向上

図1 本研究の情報のバリアフリーへの展望

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第5章 まとめ、展望


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5-2-2 時間的バリアの研究への展望 石上佑樹らの論文では 「何かしらの理由によって行動時間に制約が出現し、 その時間の累積の結果、時間的・精神的に行動が阻害される障壁」として時 間的バリアを定義している。物理的バリアのみならず時間的バリアも行動を 妨げる要因となり、両面を含めたバリアの解決が、今後のバリアフリーにお いて重要だと述べている。 本研究では車椅子介助時に発生する移動の停滞・減速の要素を抽出した。 停滞・減速の要素が移動中に蓄積されることによって、移動時間が大幅に増 え、外出の阻害要因になると考えられる。  すなわち本研究の「停滞・減速の要因」は「時間的バリア」と定義する ことが出来る。

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第5章 まとめ、展望


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5-3 展望 課題 本研究によって車椅子介助時の移動速度の阻害要因を分析を行う事ができ たが、実際には自走式車椅子を使用する人もいれば電動車椅子を使用する人 がいる。さらに車椅子に限らず関節疾患者や視覚障害者などといった様に身 体状況に応じてそれぞれ異なる移動速度の阻害要因が存在する事が考えられ る。今後はそういった身体状況における阻害要因を研究していく事が重要で あり、それが実現する事によって身体状況におうじた都市アクセスにおける 時間情報を提供する事が可能になる。 また課題点としては人的要因に対して状況を分類するに留まってしまい、 定量的な分析が行えなかった事、速度計のみ用いたため、停滞の要因の分析 が完璧では無く事実ケーススタディスタディと比較すると誤差が生じてし まった事が上げられる。 今後は加速度計をはじめとした動作分析機器を用いてさらに停滞要因を細 かく分析していく事が重要であると考える。

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第5章 まとめ、展望


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参考文献

参考文献 <学術論文> 車椅子利用の障害者及びその介助者との外出行動における時間のバリアに関する研究 石上祐樹、 長澤泰 日本建築学会大会学術講演梗概集 2006 pp.797-798 群衆避難行動における高齢者・身体障害者の影響(その9) 長谷見雄二、渡辺大地 日本建築学 会大会学術講演梗概集 2005 pp.211-212 移動時間、移動負担に対するバリアフリー化の影響 : バリアフリー化の効果評価に関する研究、  佐藤克志、園田真理子 日本建築学会大会学術講演梗概集 2001 pp.445-446 ハートビル法を考慮した車椅子の為の歩道勾配実験 市倉聡明 東京電機大学大学院 理工学部研究科  建設工学専攻 近津研究室 ホームの駅情報提供に関する考察 : 駅を分かり易くする記名サインの配置手法について 清水崇史  日本建築学会大会学術講演梗概集   2007

pp.405-406

車椅子による斜路移動の筋負担による評価 市田登 日本建築学会大会学術講演梗概集 2007 pp.883-884 空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究 五代智哉 渡辺仁史研究室修士論文  2008年

< HP > 国土交通省:http://www.mlit.go.jp/ えきペディア:http://www.ekipedia.jp/ 東京都町田市社会福祉課:http://www.barrierfree-machida.com/ 神戸自律移動支援プロジェクト :http://journal.mycom.co.jp/news/2008/12/18/002/index.html

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車椅子介助時の移動の停滞、減速の要因と行動時間の制約に関する研究

おわりに

おわりに 今、日が昇っています。 この卒論を手がけるにあたり指導をしていただいた渡辺仁史先生にお礼を申し上げます。 研究室でお顔を合わせる事は殆どありませんでしたが、メールでの的確な指導、特に「卒論は足で書け」という言葉 は自分の論文の原点にもなりました。 また厳しくも優しいつぶやき (tweet) には論文が佳境を迎えた時期に大変励まされました。 進学の際にも色々気にかけていただき誠に有り難うございました。 またドクターの林田さん、遠田さん、発表の時など新鮮な切り口、的確なご指摘をいただきありがとうございました。 これからもお世話になるかもしれませんが暖かい目で見てやってください。 そして健康ゼミの BOSS こと長澤さん。長澤さんの的確なアメとムチが無ければ論文は完成は無かったと思います。 論文のチェックに至っては小学生以下の僕の駄文に1日中付き合って頂きいくら言葉を並べても感謝の気持ちを現せる 気がしません。 また健康ゼミの修士の先輩方にも大変お世話になりました。卒論担当の田名網さん。田名網さんの早め早めのスケ ジューリングのおかげでこの研究は動く事ができたと思います。また論文の文章、表現に至るまで色々ご指摘していた だき本当にありがとうございました。 そして終盤、担当者並みに論文を見て頂いた坂田さん。初めての実験で被験者など頼ってしまいっぱなしだった松島 さん。もはや現人神となり冷静に僕の研究にメスを入れてくれた木原さん。研究方法のターニングポイントを与えてく れた浅野さん。木原さんが「静」なら「動」の神として情熱を提供し続けた馬淵さん。 先輩方の力添えがあったからこそここまで来れました。 そして研究室で共に暮らす事になってしまっていた卒論生、勝手に床で眠りだす僕を見守ってくれててありがとう。 こにたん、これからはちゃんと自分の周りは片付けます。よりより、べしゃりの指導ありがとう。じゅんじゅん、馬 淵さんへの馴化で論文が書けそうです。きどっち、ダンディ路線もありだと思います。かわ D、数少ないスモーカー同 士これからもヨロシク。ゆかりん、ちゃんと家で寝てください。すぎたつ、その肝っ玉を見習いたいです。たいすけ、もっ と大きい声だしてください。ジャンボ、またコブクロ聞かせてください。はっしー、その常にゆとりを持てる秘訣を教 えてほしいです。たっちゃん、新たなフィールドでも頑張って欲しいです。みんなとこの時間に共にいられた事を幸せ に思います。 そして学外でこの研究に携わった方々、町田市社会福祉課、町田ヒューマンネットワークをはじめとするアンケート に協力いただいた団体様。いきなり連絡しながらも実験に協力してくれた福富渉、坂本望。介護施設への訪問や色々話 を聞かせてくれた佐藤智みち。 そしてなかなか帰らない僕も暖かく迎えてくれた両親含め家族にもお礼を申し上げます。 こうしてもみると数えきれない人の支えによってこの論文を書ききる事ができたのだと痛感します。 人は一人で生きていくには弱すぎます。だからこそこのろくでもなくすばらしい世界で生きていくのがとてもおもし ろいのかもしれません。

Hitoshi Watanabe Lab. WASEDA univ. 2009


車椅子介助時の移動の停滞・減速の要因と行動時間の制約に関する研究

第一部 Part 2

資料編

Materials 1アンケート調査用紙 2速度計データ

hitoshi watanabe lab. waseda univ. 2009


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