大震災発生時における環境要因が避難意思決定に及ぼす影響に関する研究 Influences of Evacuation Decision Process on Ambience Factors at the Great East Japan Earthquake
論文編
第
1部
はじめに
はじめに 転機。
2011 年 3 月 11 日 14 時 46 分 18 秒、東北地方太平洋沖地震発生。
そのとき私は、赤坂のコンビニでちょうどおにぎりを買うために、 レジでお金を払っているところだった。
大きな揺れに襲われる中、何とも言いがたい心理状態で、私は逃げていた。
思考が活性化されているようだが、思考が停止しているような。 周囲を注意深く観察しているようだが、周りが何も目に入らないような。 論理的に行動しているようだが、直感的に行動しているような。
その後も『東日本大震災』という未曾有の災害と、原発問題の影響を 被災地と遠からず近からずの東京という土地で経験することとなった。 そんな中、震災に関連した研究、復興や防災の一助となる研究がしたいと 強く思うようになっていた。
また、当時の私は二年間の研究活動を通し、人間の思考、心理面、 あるいは潜在意識というものに興味を抱くようになっていた。
震災に対して何か提案をしたいという、明快な情熱と そのときの皆の思考を知りたいという、ごく単純な興味から、 私はこの研究を始めることとなった。
ii
もくじ
もくじ
1 研究背景
1
1.1 日本の震災の歴史
2
1.2 東日本大震災
4
1.2.1 東日本大震災の概要
4
1.2.2 各地の震度と被害
6
1.2.3 調査機関による報告
9
1.2.4 震災前後の地震の増加
11
1.3 様々なバイアス(災害心理学)
12
1.3.1 災害心理学
12
1.3.2 正常性バイアス
12
1.3.3 多数派同調性バイアス
13
1.4 災害時の避難意思に関する既往研究
14
1.5 人の心理を知る
16
1.5.1 地震発生時の人の心理を知る
16
1.5.2 認知心理学
17
1.5.3 行動経済学
18
2 研究概要
19
2.1 研究目的
20
2.2 本研究の位置づけ
21
2.3 研究フロー
22
3 避難行動とその要因を探るインタビュー調査
24
3.1 調査目的
25
3.2 調査内容
25
3.3 インタビュー結果と分析
27
3.3.1 具体的な避難行動とその要因
27
3.3.2 その他の考察
34
iii
もくじ
4 避難意思モデル作成のためのアンケート調査
37
4.1 調査目的
38
4.2 調査方法
39
4.3 分析手法/共分散構造分析
41
4.4 アンケートの質問内容
42
4.5 避難意思決定の仮説モデル
44
4.5.1 基本モデル
44
4.5.2 避難モデル
45
4.5.3 待機モデル
46
4.5.4 仮説モデルの一覧
47
5 集計結果
48
5.1 単純集計
49
5.2 クロス集計(避難・待機)
80
6 分析
103
6.1 観測変数ごとにみる相関
104
6.1.1 相関とパターン
104
6.1.2 建築環境とその他の相関
106
6.1.3 環境とその他の相関
115
6.2 共分散構造分析による仮説モデルの検証
124
6.3 探索的因子分析によるモデル
138
6.3.1 仮説モデルの再編とモデルの求め方
138
6.3.2 多母集団同時分析によるモデル比較
143
7 まとめ、展望
156
7.1 まとめ
157
7.2 展望
158
参考文献
159
iv
研究背景
1
日本の震災の歴史
1.1
東日本大震災
1.2
東日本大震災の概要
1.2.1
各地の震度と被害
1.2.2
調査機関による報告
1.2.3
震災前後の地震の増加
1.2.4
様々なバイアス(災害心理学)
1.3
災害心理学
1.3.1
正常性バイアス
1.3.2
多数派同調性バイアス
1.3.3
災害時の避難意思に関する既往研究
1.4
人の心理を知る
1.5
地震発生時の心理を知る
1.5.1
認知心理学
1.5.2
行動経済学
1.5.3
1 研究背景
1 研究背景 1.1 日本の震災の歴史 日本の歴史は震災との戦いの歴史である。 これまでの歴史の中で、数多くの巨大地震によって人的被害、家屋被害を受けてきたき た。本節では、関東大震災以降の震災の歴史を振り返る。以下の年表 1)から、津波によ る被害が大きいが、地震単体の被害でも 1000 人を越える犠牲者が出ていることがわかる。
1923 月 9 月 1 日 神奈川・東京 (関東大震災) M7.9 関東沿岸に津波,全体で死者・不明約 14 万人
多数の朝鮮人が虐殺される
1927 月 3 月 7 日 京都北部 (北丹後地震) M7.3 丹後半島を中心に死者 2925 人
1933 月 3 月 3 日 三陸沖 (昭和三陸沖地震) M8.1 津波による死者・不明 3064 人 波高は岩手県大船渡で 28.7m
1943 月 9 月 10 日 鳥取東部(鳥取地震) M7.2 鳥取市などで死者 1083 人
1944 月 12 月 7 日 紀伊半島(東南海地震) M7.9 静岡・愛知・三重などで死者・不明 1223 人
2
1 研究背景
1945 月 1 月 13 日 三河湾(三河地震) M6.8 死者・不明 2306 人,東南海地震の余震
1946 月 12 月 21 日 紀伊半島(南海地震) M8 西日本各地で津波,死者 1330 人
1948 月 6 月 28 日 福井(福井地震) M6.7 福井平野とその周辺で死者 3769 人
1995 月 1 月 17 日 阪神淡路大震災 M7.3 神戸・芦屋・西宮・宝塚などで震度 7, 倒壊と火災により死者・不明 6436 人
2011 月 3 月 11 日 東日本大震災 M9 宮城県を中心に大津波 死者・不明 2 万 7000 人以上,最悪の原発事故
3
1 研究背景
1.2 東日本大震災 1.2.1 東日本大震災の概要 本研究では東北地方太平洋沖地震発生時の避難行動を扱う。そこで、本節では東日本大 震災について記す。まず、発生地震の震度と余震推移について以下に記す。 『災害時地震・津波速報 平成 23 年 (2011 年 ) 東北地方太平洋沖地震』2)及び、『東日 本大震災における 東京都の対応と教訓 - 東京都防災対応指針 ( 仮称 ) の策定に向けて 』3)を参照した。
<発生地震の概要> ・本震(平成 23 年 東北地方太平洋沖地震) 発震時刻 :2011 年 3 月 11 日 14 時 46 分 18.1 秒 震央地名 : 三陸沖 震源の緯度、経度、深さ : 北緯 38° 06.2′ 東経 142° 51.6′ 24km 規模 ( マグニチュード ) : 9.0 ( モーメントマグニチュード )
・最大余震 (6 月 11 日時点 ) 発震時刻 :2011 年 3 月 11 日 15 時 15 分 34.4 秒 震央地名 : 茨城県沖 震源の緯度、経度、深さ : 北緯 36° 06.5′東経 141° 15.9′ 43km 規模 ( マグニチュード ) : 7.7 ( モーメントマグニチュード )
・その後の余震 気象庁 2) によると余震は以下の通りである。また、過去の他の巨大地震の余震回数と の比較を図 1-2-1-1 に示す。
余震は、岩手県沖から茨城県沖の北北東 - 南南西方向に延びる長さ約 500km、幅約 200km の領域で発 生しており、6 月 11 日現在の最大余震は、3 月 11 日 15 時 15 分に 発生した M7.7 の地震 ( 最大震度 6 強 ) であった。また、6 月 11 日までに発生した余震は、 M7.0 以上は 5 回 (7.7、7.5、7.4、7.1、7.0)、M6.0 以上は 82 回、M5.0 以上は 506 回 で、活発な活動が見られていたが、余震域全体では、次第に少なくなってきている。しか し、福島県から茨城県の陸域の浅い地域では、4 月 11 日 17 時 16 分に M7.0 の地震 ( 最 大震度 6 弱 ) が発生し、その後、この地震による余震が多発するな ど、活発な活動が見 られている (6 月 11 日現在 )。 なお、今回の本震が発生する 2 日前の 3 月 9 日 11 時 45 分には、本震の北東側で M7.3 の地震 ( 最大 震度 5 弱 ) が発生していた。
4
1 研究背景
平成 23 年(2011 年)東北地方太平洋沖地震(M9.0)
平成6年(1994 年)北海道東方沖地震(M8.2)
1952 年十勝沖地震(M8.2) 1933 年三陸地震津波(M8.1)
平成 15 年(2003 年)十勝沖地震(M8.0) 平成6年(1994 年)三陸はるか沖地震(M7.6)
本震からの経過日数
図2-1-4 余震回数比較図 (本震を含む、2011 年6月 11 日現在)
図 1-2-1-1 余震回数の比較(本震を含む、20011 年 6 月 11 日現在)
5
1 研究背景
1.2.2 各地の震度と被害 震災は日本に甚大な被害をもたらしたが、地域によってその被害には相当のばらつきが あった。本節では、各地の震度と被害について記す。
<各地の震度> 全国の震度を図 1-2-2-1 に示す。4) 東北地方、関東地方で震度が大きいことが分かる。
図 1-2-2-1 余震回数の比較(本震を含む、20011 年 6 月 11 日現在)
6
1 研究背景
<各地の被害> 全国の被害状況を表 1-2-2-1 に示す。 やはり東北3県(岩手、宮城、福島)での被害が圧倒的に多い。約2万人の死者・行方 不明者が発生するなどの甚大な人的被害が出ると共に、全壊、半壊の建物が約2万戸とな るなど建物被害も出た。
表4-1 被害状況まとめ(平成 23 年6月9日現在) 表 1-2-2-1 各都道府県の被害状況(20011 年 6 月 9 日現在)
都 道 府 県 名
人的被 死 行 方 不 明 者 者 人 人
北海道
1
青 岩 宮 秋 山 福 東 茨 栃 群 埼 千
3
森 手 城 田 形 島 京 城 木 馬 玉 葉
神奈川
新 山 長 静 岐 三 徳 高
潟 梨 野 岡 阜 重 島 知
害 負
全
半
一
上 下
部
浸 浸
破
焼 焼 水 水 戸 戸 戸 戸
損 戸
傷 者 人
壊 戸
壊 戸
3 1
301 476 281
1,020
166 20,945
2,811
15
1,763
9,210 4,954 3,459 73,087
31,814
119
192
4,532 2,811
61
2
29 377
7 24
37
80
236 15,250
22,184
90 1
11
非 住 家 被 害 戸 5
路 梁 崖 防 軌 損 被 崩 決 壊 害 れ 壊 道 箇所 箇所 箇所 箇所 箇所
473
78 1,223
2
2,085 1,538
30
4
6
77 42,949 16,287 390
29
51
338
12 1,594
道 橋 山 堤 鉄
建 物 被 害 全 半 床 床
3
3
57 334 62,761
987
19
257
20
13
21 77
3
3 37
694
1,899
11,750
4
136
249
1,888
54,189
295 257
1
36
1
15,428
195
42 19 4
2
249
742
5
1
3,606
5
1,352
1
645 126,677 7,141 307
1 1,014
1,800
681 20,756
139
8
3
9
4
26
9 29 3
9 3
41 40
7
4
33 160 709 2,343
45
2
1
7
2 1 4
7
4 1
1
2
1 15,401 8,146 5,364 112,490
75,170
261
9
2
9
5
11
4,688 2,579 327,009 28,920 3,559
77 187
4
29
※なお、本表の数値は、平成 23 年3月 11 日に発生した東北地方太平洋沖地震の他に 平成 23 年4月7日 宮城県沖を震源とする地震 平成 23 年4月 11 日 福島県浜通りを震源とする地震 平成 23 年4月 12 日 福島県浜通りを震源とする地震 によるものも含んでいる(いずれも東北地方太平洋沖地震の余震) 。
- 138 -
7
1 研究背景
<関東地方の被害> 表 1-2-2-1 から分かるように、東北地方に次ぎ、関東地方も東日本大震災により甚大な 被害があった。 関東1都6県(東京、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川)においては、死者 59 名、 行方不明者 3 名、負傷者 1386 名の被害となっている。建物被害については、広範囲で強 い揺れによる液状化現象が原因とみられている。
<都内の被害> 東京都内の震度を表 1-2-2-2 に示す。 最大震度 5 強が 9 区 2 市 1 村、5 弱が 14 区 15 市で観測され、都内 のほとんどが震度 5 弱以上の揺れとなった。この揺れによって、立体駐車場の一部崩落や天井の落下などに より、7 名が死 亡、116 名の負傷者が出るなどの被害となった。 また、住家においても全壊、半壊等が 3,500 棟を超え、火災も 33 件発生 (3 月 11 日 ) し、132 箇所でブロック塀が倒れる被害があった。
表 1-2-2-2 都内の震度(震度 5 弱以上)(20011 年 8 月 1 日現在)
都内の震度(震度 5 弱以上)(平成 23 年 8 月 1 日現在) 震度 5強
区市町村名 千代田区、墨田区、江東区、中野区、杉並区、荒川区、板橋区、足立区、江戸川区、 調布市、町田市、新島村(9 区 2 市 1 村) 中央区、港区、新宿区、文京区、台東区、品川区、目黒区、大田区、世田谷区、渋谷
5弱
区、豊島区、北区、練馬区、 飾区、八王子市、武蔵野市、三鷹市、府中市、小金井 市、小平市、日野市、東村山市、国分寺市、狛江市、東大和市、清瀬市、多摩市、稲 城市、西東京市(14 区 15 市)
8
1 研究背景
1.2.3 調査機関による報告 この未曾有の災害に対して、震災後に政府や民間の各調査機関によって多くの調査が行 われた。いくつかの調査の概要を紹介する。
◇東京都「東日本大震災における 東京都の対応と教訓 - 東京都防災対応指針 ( 仮称 ) の策定に向けて - 」平成 23 年 9 月 3)
東京都総務局により、 東日本大震災への東京都の対応を振り返り、そこから得られた様々 な教訓を明らかにしたもの。 今後の対策として帰宅困難者支援、水防・津波対策、地域の防災力向上、地震に強い都 市づくり・施設構造物の安全化などが示されている。その中で、適切な避難のための防災 教育の重要性について、以下のように記されている。
今回の震災では、避難場所と避難所の役割の違いがきちんと住民に周知されていない中 で、発災時、まず安全を確保するための場所として指定した避難場所ではなく、避難所と して指定されていた学校に避難した者が被災するという例があった。また、車の使用によ る避難で、渋滞が発生し津波に巻き込まれるという例があった。一方、日頃の防災教育の 成果により、緊急時に迅速で適切な判断がなされ、津波から無事に避難できたという例も あった。 日本は世界有数の地震大国であり、今後も大きな震災に見舞われる危険性は十分にある。 こうしたことから、日頃から自ら危険を認識し、災害時に適切な行動がとれるようにして おくことが重要であり、防災に関する知識の向上を図る防災教育の重要性が明らかになっ た。
◇全国 8 万 8 千人の津波・地震発生時の行動・意識を分析「東日本大震災」調査結果 /株式会社ウェザーニュース 5)
株式会社ウェザーニュースで展開するインターネットサイト及び携帯サイト「ウェザー ニュース」 、スマートフォ ンアプリケーション「ウェザーニュースタッチ」の利用者を対 象に実施された調査である。主に、当日の避難行動や、情報入手についての調査結果が記 されている。 その中で、避難行動の特徴として被災地と全国の違いとして、以下のように記されてい る。
揺れがおさまるまでの行動は、全国の屋内・屋外にいた人共に“とりあえず様子をみた” が最も多い結果になった。被災地は、屋内では“屋外に逃げた”、屋外では“とりあえず 様子を見た”が最も多い結果になった。
9
1 研究背景
◇東日本大震災 津波調査 ( 調査結果 ) /株式会社 ウェザーニュース 6)
株式会社ウェザーニューズが今村文彦教授 ( 東北大学災害制 御研究センター長 )、矢 守克也教授 ( 京都大学防災研究所 ) と共同で、今回の津波災害において、無事に避難をさ れた方と亡くなった方との間にどのような行動・判断の違いが存在するのかを調べたもの。 今後の減災・避難活動における対策・対処の一助とすることを目的としている。 その中で、避難開始時間と生存の関係について、以下のように記されている。
生存者は地震発生から平均 19 分で避難し始めていた事がわかりました。一方、亡くなっ た方は地震発生から平均 21 分後でした。今回の調査では、避難開始時間における生死の 境は 20 分だったという結果が出ました。しかし、その差はわずかに 2 分間でした。津 波からの避難はまさに 1 分 1 秒を争うという事が改めて明らかになりました。 津波被害においては、いかに冷静に適切な避難を開始することができるかが生死に大き く関わってくるということが示された。
◇平成 23 年東日本大震災における避難行動等に関する面接調査(住民)分析結果/内閣府・ 消防庁・気象庁共同調査 7)
内閣府・消防庁・気象庁による共同調査である。東北地方太平洋沖地震を教訓とした地 震・津波対策に関する専門調査会(第7回)で発表された。 その中で、 「揺れがおさまった直後にすぐ避難した 」を『直後避難』、「揺れがおさまっ た後、すぐには避難せずなんらかの行動を終えて避難した」を『用事後避難』、「揺れがお さまった後、 すぐには避難せずなんらかの行動をしている最中に津波が迫ってきた」を『切 迫避難』と、避難を状況に応じた3つに分類している。 調査では主に津波からの避難を取り扱ってはいるが、この3つの避難の概念は、本研究 における地震からの避難にも応用できるだろう。
10
1 研究背景
1.2.4 震災前後の地震の増加 東京大学地震研究所は、3 月 11 日前後での首都圏の地震活動の増加を公表している 8) (2012 年 1 月 23 日現在) 。 図 1-2-3-1 のように、2010 年 9 月 11 日~ 2011 年 3 月 10 日の M3 以上の地震の分布(左) の 47 個から、2011 年 3 月 11 日~ 2011 年 9 月 11 日の地震の分布(右)の 343 個に増え ている。 また、政府文部科学省の地震調査研究推進本部では、南関東の M7 程度の地震の発生確 率を「今後 30 年で 70% 程度」と発表していた 9)。東京大学地震研究所の試算では「今後 30 年で 98%(あるいは、今後 4 年で 70%)」と発表されている。
図 1-2-4-1 3 月 11 日前後での首都圏の地震活動の増加
11
1 研究背景
1.3 様々なバイアス(災害心理学) 1.3.1 災害心理学 災害心理学とは、60 年前に誕生した心理学の新しい領域である。大災害や事故、戦争、 テロなどに巻き込まれた被災者の心理や行動を観察し、そこに典型的に見られる特徴を整 理する研究が最初に行われた。次いで、傷ついた被災者の心を癒す作業や、避難行動、災 害警報の伝達、災害とコミュニティの関係、復興計画など、災害時のリスク軽減のための 研究へと領域をしだいに広げてきた。 本研究は、災害心理学の避難行動に関する領域の研究であると位置づけられる。 災害心理学の研究から、災害という非常時でも、多くの人々はかなり理性的に行動し、 パニックなどの異常行動や、略奪や暴力行為などの逸脱行動が実際におこることは少ない ということが明らかにされてきた。地震や火事に巻き込まれても、多くの人々はパニック にならない。この事実を広瀬は著書 『人はなぜ逃げおくれるのか - 災害の心理学』10)の 中で「パニック神話」と呼んでいる。 パニックになる以上に、災害の被害者を増大させてしまう要因として『バイアス』とい う心理作用があげられる。
1.3.2 正常性バイアス 私たちの心は、予期せぬ異常や危険に対して、ある程度鈍感にできている。日常の生活 をしていて、常に移り行く外界のささいな変化にいちいち反応していたら、神経が疲れ果 ててしまうためである。ある範囲までの異常は、異常だと感じずに、正常の範囲内のもの として処理するようになっている。このような心のメカニズムを、正常性バイアスという。 アメリカの災害社会学者のロナルド・ペリーたちはアメリカのある地方で洪水がおこっ た時の、住民の錯誤を次のように述べている 10)。
「フィモルアでは、ついひと月ほど前に、小さな洪水に見舞われていた。そのあとで、 洪水警報がだされたのだが、多くのびとびとは、今度の場合も、危険は小さいと高をくくっ て、ふだんどおりの生活をしていた。そこを洪水が襲ったのだ」 このような、軽微な災害の先行体験が、その後の災害リスクを過小に評価させる傾向は、 正常性バイアスと深く関わりのあるものだと言える。 東日本大震災においても、 「まぁ、この程度の揺れなら大丈夫だろう」「この建物の中な ら大丈夫だろう」と思った人も多いだろう。それも正常性バイアスと深く関わりがある。
12
1 研究背景
1.3.3 多数派同調性バイアス 正常性バイアスとは別に、過去経験したことのない出来事が突然身の回りに出来したと き、 その周囲に存在する多数の人の行動に左右されてしまうことを「多数派同調バイアス」 と呼ぶ 11)。これは、どうして良いか分からない時、周囲の人と同じ行動を取ることで乗 り越えてきた経験、つまり迷ったときは周囲の人の動きを探りながら同じ行動をとること が安全と考えるからである。 これと同義に広瀬は「避難行動の模倣性または感染性」という言葉を用いている。家族 や隣人、知り合いに関わらず、近くの人が避難したのを知ると、次々と避難者がつづくの である。
13
1 研究背景
1.4 災害時の避難意思に関する既往研究 本研究のテーマである、災害時の避難意思に関する既往研究を以下にまとめる。 加藤ら 12)は、2010 年 2 月に発生したチリ地震津波に関して、北海道釧路市を対象に、 津波からの避難行動に関わる要因について質問紙調査を行い、共分散構造分析により避難 意思決定要因について検討した。 共分散構造分析は避難した人と避難しなかった人に分けて行われ、その結果、避難した 人の意思決定モデルからは、 「浸水に対する不安が、避難意思を通じて、避難準備に影響 している」 「先行体験は、浸水に対する不安や防災への関心に関係している」などの因果 関係が認められた。また、避難しなかった人の意思決定モデルからは、「ハザードマップ に認知は、浸水に対する不安に影響していない」「先行体験のうち、津波の被災経験は浸 水に対する不安や防災への関心に影響していない」などの避難した人との違いが認められ た。
広瀬ら 13)は、災害時における「正常性バイアス」の特性について言及している。 情報が我々自身の態度や信念と著しく剥離していれ、我々自身のアイデンティティを損 なう恐れがあるような場合には、その情報は拒否され排除されてしまう。何らかの形でリ スクに関わっているリスク情報は「バイアス・メカニズム」という生理・心理的なレンズ の働きによって変容させられる。このバイアスの考え方を災害心理学者が応用した。バイ アスにより、リスク認知の感度を下げるように機能することで不安やストレスを提言させ るが、同時に、リスクの回避を妨げる役割も果たしている。これを正常性バイアスとした。 ラタネとダーリー(Latane,B. & Darley,J.M.,1970)が行ったのと同様の発煙実験を行 い、正常性バイアスの特性を明らかにした。実験室内に流入する煙の流入速度により、煙 に気づく時間(認知時間)と退室までの反応時間に違いがでることを明らかにした。また、 人数条件、注意喚起、サクラ効果についても考察をしている。
織田澤ら 14)は、災害避難行動に関する、行動経済学の応用、ミクロ経済学的基礎の構築 を試みた。我々が被災をした場合、災害に関する完全な知識や情報を入手することは困難 なため、知識・情報の収集を通じて得られた限られた情報を用いて合理的な意思決定を行 うとした。 「もしリスクのある状況で人々が合理的に行動するとすれば、各状態に付される確率と 効用関数が存在し、期待効用を最大化するよう に行動しているものと解釈できる。」とい う考えのもと、危険意識の形成プロセスや災害情報の伝播プロセスを考慮した災害避難の 意思決定メカニズムを表現するモデルを構築し , それを用いて政策分析を行った。
14
1 研究背景
岡田ら 15)は、避難安全性能を検証する方法は工学的な根拠に基づくべきであろう避難 安全性能を検証する上で、避難開始時間はその結果に大きく左右すると考えた。避難開始 時間を対象とし、工学的な視点かた統一的な見解を得ている。 室災害後のアンケート調査の後、視覚、聴覚、嗅覚、触覚など人の感覚に着目し、実験 を行った。また、災害時の避難開始要因に着目し、異変感知要因等を人の感覚ごとに整理 を行い、自動火災報知設備の警報音により、異変感知に一定の効果があり得ることや、自 動火災報知設備の警報音による防火管理者の避難誘導が火災知覚に効果があり得ることを 把握した。
中野ら 16)は、火災発生時の避難安全性を確保するため、より高度な避難安全計画、避 難安全性能のあり方を検討を行った。 避難行動特性や避難行動能力について分類した避難者タイプを作成し、建築の用途や規 模によって変化する避難者タイプの分布を想定し、標準化した。避難者タイプを避難開始 方法により、避難型、消化型、情報発信型、情報収集型、執着型、停滞型の6タイプに分 類している。
15
1 研究背景
1.5 人の心理を知る 1.5.1 地震発生時の人の心理を知る これまで本章では、東日本大震災の概要と関連する調査や災害心理学、災害に関する既 往研究を紹介し、 本研究との関連を述べるとともに、バイアスなど人間の心理面を取り扱っ てきた。 地震発生時に避難をするかどうかの意思決定をするには周囲の混雑や揺れなどの様々な 状況や情報を取得する。そして、避難するかしかいかを天秤にかけ判断し、自らの行為を 意思決定をするというモデルが考えられる(図 1-5-1-1) 。これはまさに人間の心理面を 取り扱うものである。 そこで本節では、人間の心理面を取り扱うこと(冒頭「はじめに」で述べた「人の思考 を知る」ということ)に特化する学問分野を紹介する。1970 年代以降から発展してきた 認知心理学や、近年注目を集める行動経済学を紹介する。
図 1-5-1-1 地震発生時の意思決定までの流れ
16
1 研究背景
1.5.2 認知心理学 認知心理学 17)とは、人間が外界を認識し、記憶し、問題解決するといった認知過程を 研究する心理学という意味と、認知的パラダイムを用いた人間の心の解明に向けてのアプ ローチという2つの意味で用いられる。本研究では、地震発生時の認知過程の研究である ので、前者の意味で用いる。 認知心理学は 1970 年代に起こった分野である。認知心理学のカテゴリーは、視覚認知、 認知と感情、メディア情報と社会認識など多岐にわたる。その中でも、判断と意思決定に 関する知見が本研究と関連がある。認知心理学に以下のように記されている。
現実の人間は理想的な意思決定マシンではなく、使える時間や人私意に限界があり、限 られた情報処理能力しかもっていない。人はミスを犯すことがあるし、その決定は、後か ら自分で反省したときの決定と同じとは限らない。また、さまざまなパターンのゆがみ(バ イアス)が生じる。こうした意思決定におけるバイアスは、人間の視知覚における頑健な 錯視現象とよく似た側面がある。 人間は、時には不合理な判断をしてしまうことがあり、バイアスやヒューリスティクス (判断の簡略化)といった心理が働くこともある。本研究においても、地震発生時のこと を後から振り返り反省することに効果はないと考える。当時の環境や状況から、バイアス やヒューリスティスクが生じている可能性のある、その当時の意思決定を探る必要がある。
17
1 研究背景
1.5.3 行動経済学 認知心理学を経済に応用したものとして行動経済学 18)がある。 行動経済学以前の経済学理論は、人間は合理的であると考えられ、単純な仮定から演繹 的に推論を積み重ねていくアプローチが典型的であった。一方、行動経済学では、経験論 的な手法でこうした仮定を検証し、必ずしも経済学的な意味で合理的でなくても、より現 実に近い人間のモデルを採用している。 行動経済学の中でも、バイアスやヒューリスティクスという言葉を用い、人間が不合理 な意思決定をする場合があるとされている。 また、行動経済学の分野では、本研究の分析に用いる共分散構造分析を用いる試みささ れている。武井ら 19)は、欧米での比較広告と日本での比較広告のそれぞれを受容した際 の消費者の購買意思決定プロセスについて共分散構造分析を用いて解明した(図 1-5-31) 。 このように近年では、人間の心理や意思決定を詳細なモデルとして解明しよとする流れ がある。さらに、意思決定に影響する要因同士の複雑な関連を探ることが重要である。
コーポレート レピュテーション
.416** 比較広告による 情報
.591**
-.128*
-.343* -.199*
態度
.495**
知覚リスク
購買意図
.679** 知覚品質
確信
.570**
.702**
図 1-5-3-1 比較広告による購買意思決定モデル
18
研究概要
2
研究目的
2.1
本研究の位置づけ
2.2
研究フロー
2.3
2 研究概要
2 研究概要 2.1 研究目的 地震発生時の周辺環境や建築などの空間要素が避難への意思決定に与える影響を明らか にし、適切な避難行動を促す空間計画の指針とすることを目的とする。
20
2 研究概要
2.2 本研究の位置づけ 震災に対する防災研究は多岐にわたる。 その中でも、都市計画や建築構造などのハード面に関する研究は数多く、それらの研究 は実践や運用がなされてきた。震災の事前では、耐震・防火といった分野で、事後ではイ ンフラ整備・修繕方法などの分野で研究が確立されている。 もちろん、ハード面の防災だけでは十分ではない。そこで、近年では人間の心理や内面 に関するする研究が注目されている。事前ではより効果的な避難訓練や避難マニュアルに 関して、事後では被災者のストレスケアなど研究が多くある。また、避難シミュレーター の開発も盛んである。 しかし、これらの研究、特に事前の避難訓練や避難マニュアルに関する研究には、実際 の被災時における避難者の意思決定が反映されていはいない。
前章の既往研究の紹介にもある通り、被災時の状況を再現したりなど、実験的手法によ り意思決定を探る研究はなされてきた。しかし、実験的手法では実際の被災時の心理状態 を再現することは不可能である。また、地震発生時における研究も少ない。そこで、本研 究では実際の地震発生時における意思決定をアンケート調査により探る(図 2-2-1)。
人間
避難訓練
被災者心身のケア
本研究 支援活動 避難群衆 シミュレーション 震災 発生時
事前
事後
インフラ整備 耐震・防災 修繕
都市・建築 図 2-2-1 本研究の位置づけ
21
2 研究概要
2.3 研究フロー 本研究の流れを記す。
・避難行動とその要因を探るインタビュー調査 まず、2011 年 3 月 11 日東日本大震災の地震発生時の首都圏での避難行動に関するイン タビュー調査を行い、避難の意思決定に関わる要因を抽出する。そこで得られた要因をア ンケート作成に用いる。
・避難意思モデル作成のためのアンケート調査 インタビュー調査で得られた要因が避難への意思決定に与える影響を明らかにする。各 要因を観測変数とし、 その上位カテゴリーとして構成概念を設定し共分散構造分析を行う。
・仮説モデルの検証的分析 構成概念やパスを独自に設定、仮説モデルの検証を行う。
・最適モデルの探索的分析 因子分析を行い、その結果から構成概念やパスを設定、最適なモデルを探索する。
次項に研究の流れをフローチャートとして示す(図 2-3-1)。
22
2 研究概要
1
避難行動とその要因を探るインタビュー調査 3.11 の地震発生時の避難行動に関するインタビュー調査を行 い、避難の意思決定に関わる要因を抽出する。
2
避難意思モデル作成のためのアンケート調査 インタビュー調査で得られた要因が避難への意思決定に与え る影響を明らかにする。 各要因を観測変数とし、その上位カテゴリーとして構成概念 を設定し共分散構造分析を行う。
3
仮説モデルの検証的分析 構成概念やパスを独自に設定、 仮説モデルの検証を行う。
4
最適モデルの探索的分析 因子分析を行い、構成概念や パスを決定。最適なモデルを 探索する。
図 2-3-1 研究フロー
23
避難行動とその要因を探るインタビュー調査
3
調査目的
3.1
調査内容
3.2
インタビュー結果と分析
3.3
具体的な避難行動とその要因
3.3.1
その他の考察
3.3.2
3 避難行動とその要因を探るインタビュー調査
3 避難行動とその要因を探るインタビュー調査 3.1 調査目的 避難行動にどのような要因が関わっているのかを探るために、2011 年 3 月 11 日の地震 発生時以降の行動についてインタビュー調査を行った。
3.2 調査内容 関東地方在住の男女を対象に、2011 年 3 月 11 日の地震発生時以降の行動についてイン タビュー調査を行った。
調査日時 2011 年 9 月 13 日〜 2011 年 9 月 18 日 調査対象者:関東地方在住の 20 代から 70 代の男女 19 名(男性 8 名、女性 11 名)
インタビューの質問の一覧を表 3-2-1 に示す。なお、質問時間は一人 10 〜 15 分である。 また、問 7 と問 8 の間に適切な避難方法を説明するために、避難マニュアルの説明を行っ た。この避難マニュアルは「消防庁防災マニュアル – 震災対策啓発資料 –」20)を参照(文 章のみ抜粋)して作成したものである。資料編に付録する。
25
3 避難行動とその要因を探るインタビュー調査
表 3-2-1 インタビュー調査の質問一覧
26
3 避難行動とその要因を探るインタビュー調査
3.3 インタビュー結果と分析 3.3.1 具体的な避難行動とその要因 まず、インタビュー調査の主題である、地震発生時の具体的な避難行動とその要因につ いて分析を行う。この分析を行うにあたり、問 5 の回答を取り上げる。 分析では、それぞれの回答から避難行動や意思決定に影響していると思われる語句や文 章を要因として抽出し、それらを抽象する語句を分類として推測し当てはめた。また、正 常性バイアスや多数同調性バイアスが働いている様子がみられた場合も当てはめた。
以下、問 5 の回答の中からより詳細に状況が語られていた回答を抜粋し、分析をしたも のを列挙していく。
20 代/男性 最初コンビニの中で小さな揺れを感じたので、慌てて外に出た。外に出ると、そこ 揺れの認知
が裏路地だったので、看板などが落ちてくると危ないと思ったので、大通りへ走って 道幅・周囲の建物の高さ
危険物
避難行動
逃げた。あたりは騒然としていて、ビルから続々と人が出できた。 周囲の混雑
「小さな揺れを感じたので」という文章から、揺れを認知したことが要因として考えら れる。従って『揺れの認知』を分類とする。 「裏路地だったので」という文章から、屋外では、その道の道幅や周囲の建物の高さな どの圧迫感が要因として考えられる。従って『道幅』 『周囲の建物の高さ』を分類に加える。 「看板などが落ちてくると危ない」という文章から、周囲に危険な物があるかないかが 要因として考えられる。従って『危険物』を分類に加える。 「大通りへ走って逃げた」 という文章から、具体的な避難行動が伺える。従って『避難行動』 を分類に加える。 「あたりは騒然としていて」という文章から、周囲の混雑状況が要因として考えられる。 従って『周囲の混雑』を要因に加える。
27
3 避難行動とその要因を探るインタビュー調査
20 代/女性 最初は普通に立っていたが、大きな揺れを感じたので、周りに落ちてくるものがな 姿勢
揺れの認知
危険物
いことを確認し、友人と展示会場内の壁(仮設)につかまった。 知り合いの人数
支え
避難行動
「立っていたが、 」という文章から、立っているか座っているかなどの姿勢が要因として 考えられる。従って『姿勢』を分類に加える。 「大きな揺れを感じたので」を『揺れの認知』に分類する。 「周りに落ちてくるもの」を『危険物』に分類する。 「友人と」という文章から、周囲に友人や知人がいるかどうか、またその人数が要因と して考えられる。従って『知り合いの人数』を分類に加える。 「展示場内の壁(仮設) 」という文章から、周囲に捕まるもの頑丈で支えとなるものがあ るかが要因として考えられる。従って『支え』を分類に加える。
20 代/男性 意外と大きいと思ったので、ワンセグを付け、落ちてくるものがあるかもしれない 地震の大きさの予想
ので、一応机の下に潜り周りの様子を見た。周りの人は意外とそのまま勉強を続けて 避難行動
バイアス
いたが、本が落ちるなどしていた。日吉一帯が停電した。 揺れているもの
「意外と大きいと思ったので」という文章から、揺れの認知とは別に、揺れの大きさか ら地震の大きさを予想することが要因として考えられる。従って『地震の大きさの予想』 を分類に加える。 「一応机の下に潜り周りの様子を見た」を『避難行動』に分類する。 「周りの人は意外とそのまま勉強を続けていたが」という文章から、周囲の人が「大し た事はないだろう」という正常性バイアスや、 「周りの人も避難しないし大丈夫だろう」 という多数同調性バイアスが働いていると考えられる。従って『バイアス』に分類する。
28
3 避難行動とその要因を探るインタビュー調査
70 代/女性 タンスの上の木の置物などが落ちてきたりしたので、危険と思い、テレビを一生懸 危険物
被害の予想
命押さえた。
「タンスの上の木の置物など」を『危険物』に分類する。 「危険と思い」という文章から、揺れや周囲の状況から自身にふりかかる被害を予想す ることが要因として考えられる。従って『被害の予想』を分類に加える。
10 代/女性 地震の大きさに驚き、自分の居場所を疑った。先生の指示で机の下に潜る。揺れが 揺れの認知
命の危険性
立場
避難行動
収まってから校庭に避難した。怖さであまり覚えていない。周りも自分もパニックだっ 避難行動
周囲の混雑
た。過呼吸の同級生もいた。何も考えず先生の指示に従った。 健康状況
「大きさに驚き」を『揺れの認知』に分類する。 「自分の居場所を疑った」という文章から、パニック状態になり命の危険性を感じてい ることが要因として考えられる。従って『命の危険性』を分類に加える。 「先生の指示で」という文章から、避難を指示される側か避難を指示する側かが要因とし て考えられる。従って『立場』を分類に加える。 「机の下に潜る」と「校庭に避難した」を『避難行動』に分類する。 「周りも自分もパニック」を『周囲の混雑』に分類する。 「過呼吸の同級生もいた」という文章から、自身で避難できる健康な状態であったかが 要因として考えられる。従って『健康状態』を分類に加える。
29
3 避難行動とその要因を探るインタビュー調査
20 代/男性 はじめは気にせず作業を続行していたが、長引き、大きくなって音も聞こえたので 従事状況
揺れているもの
机の下にもぐった。他のバイトは潜ってはいなかった。社員は外の駐車場に出た様子。 避難行動
知り合いの人数
バイアス
バイト時間中なので作業に戻る。作業はいいと言われ、社員とテレビで津波の様子を 従事状況
立場
バイアス
見た。
「作業を続行していたが」という文章から、自身が何らかの作業に没頭していたり仕事 に従事していたかどうかが要因として考えられる。従って『従事状況』と『思考状態』を 分類に加える。 「音も聞こえたので」という文章から、周囲の物が揺れている様子や物音が要因として 考えられる。従って『揺れているもの』を分類に加える。 「机の下にもぐった」を『避難行動』に分類する。 「他のバイト」を『知り合いの人数』に分類する。 「他のバイトは潜ってはいなかった」を『バイアス』に分類する。 「バイト時間中」を『作業状況』に分類する。 「作業に戻る」という文章から、「これ以上の揺れは起こらないだろう」という正常性バ イアスや、 「他の人も作業に戻っているから」という多数同調性バイアスが働いていると 考えられる。従って『バイアス』に分類する。
50 代/女性 安全と前もって聞いていた階段室に逃げ込む。皆がそこに向かっていた。家の心配 防災訓練
避難行動
周囲の混雑・知り合いの人数
をした。揺れ終わったらすぐに家に帰ろうとした。 避難意思
「安全と前もって聞いていた」という文章から、企業や学校が行っている日頃の防災訓 練や防災知識が要因として考えられる。従って『防災訓練』を分類に加える。 「階段室に逃げ込む」を『避難行動』に分類する。 「皆がそこに向かっていた」を『周囲の混雑』『知り合いの人数』に分類する。 「すぐに家に帰ろうとした」という文章から、避難しようという意思が伺える。従って『避 難意思』を分類に加える。
30
3 避難行動とその要因を探るインタビュー調査
20 代/女性 ゆったりとした揺れが徐々に大きくなるのを感じた。天井に取り付けてあるパー 認知までの時間
テーションが揺れて音がうるさく、大きな音がなると、お客さんが不安になると思い、 立場
揺れているもの
抑えようとした。飾ってある花瓶を床に置いた。 危険物
「揺れが徐々に大きくなるのを感じた」という文章から、揺れを確信し危険性を感じる までの時間が要因として考えられる。従って『認知までの時間』を分類に加える。 「パーテーションが揺れて」を『揺れているもの』に分類する。 「お客さんが不安になると思い」を『立場』に分類する。 「飾ってある花瓶」を『危険物』に分類する。
20 代/女性 比較的大きなビルだったので余計に震度を大きく感じるのかと思い、でもすぐに収 階数・建物の印象
地震の大きさの予想
まると思ったので説明会の担当者の指示を待った。揺れが次第に大きくなり、避難す 立場
揺れの認知
る可能性が出たのでとりあえず荷物をまとめて机の下に入る準備をした。 被害の予想
避難行動
「比較的大きなビルだったので」という文章から、屋内では自身がいた階数やその建物 の印象が要因として考えられる。従って『階数』『建物の印象』を分類に加える。 「震度を大きく感じるのかと思い」を『地震の大きさの予想』に分類する。 「担当者の指示を待った」を『立場』に分類する。 「揺れが次第に大きくなり」を『揺れの認知』に分類する。 「避難する可能性がでたので」を『被害の予想』に分類する。 「机の下に入る準備をした」を『避難行動』に分類する。
31
3 避難行動とその要因を探るインタビュー調査
20 代/男性 大したことではないと思ったので、手を洗って仕事に戻った。店内は騒然としてい バイアス
周囲の混雑
て、客を避難させるべきかどうか考えた。でも避難方法や避難経路を知らなかったの 立場
避難体験
避難経路のイメージ
で、先輩の指示を待った。とりあえず店内の窓やドアをあけて、避難経路を確保した。 立場
出口までの距離・避難経路の明瞭性
避難行動
「大したことはないと思ったので」という文章から、「大したことはないだろう」という 正常性バイアスが働いていると考えられる。従って『バイアス』に分類する。 「店内は騒然としていて」を『周囲の混雑』に分類する。 「客を避難させるべきかどうか考えた」を『立場』に分類する。 「避難方法や避難経路を知らなかったので」という文章から、以前にその場所や他の場 所でも避難の体験があったかなかったかが要因として考えられる。従って『避難体験』を 分類に加える。また、同文章から避難経路を明確にイメージできるかどうかが要因として 考えられる。従って、 『避難経路のイメージ』を分類に加える。 「先輩の指示をまった」を『立場』に分類する。 「店内の窓やドアをあけて」という文章から、ドアなどの出口までの距離や、出口まで や出口からの避難経路が明確に見えているかどうかが要因として考えられる。従って『出 口までの距離』と『避難経路の明瞭性』を分類に加える。 「避難経路を確保した」を『避難行動』に分類する。
32
3 避難行動とその要因を探るインタビュー調査
以上の分析から、避難行動や意思決定に影響していると思われる要因として 26 種類の 分類を当てはめることができた。その一覧を図 3-3-1-1 に示す。色分けは上位のカテゴリー を示すものであり、詳細な説明は次章で行う。また、正常性バイアスや多数同調性バイア スなどのバイアスが働いている様子も実際に把握することができた。
階数
周囲の混雑
揺れの認知
建物の印象
危険物
認知までの時間
出口までの距離
揺れているもの
周囲の建物の高さ
支え
避難意思
道幅
知り合いの人数
避難行動
姿勢
地震の大きさの予想
避難体験
従事状況
被害の予想
立場
命の危険性
思考状況
避難経路のイメージ
避難経路の明瞭性
防災訓練
図 3-3-1-1 抽出された要因一覧
33
3 避難行動とその要因を探るインタビュー調査
3.3.2 その他の考察 次に、問 5 以外の質問への回答を考察する。
【問 6】 問 5 について、あなたは落ち着いて考え適切な行動ができたと思いますか、それ ともパニック状態で適切な行動ができなかったと思いますか?
この問に対して「適切な行動ができていたと思う」など、肯定的な回答をした人は 19 人中 8 人であった。その他は「パニック状態になっていたと思う」などの否定的な回答を している。
回答を抜粋し、以下に示す。
20 代/男性 適切な行動ができていたと思う。一緒にいた人が冷静でその人の影響があった。
20 代/女性 友人もそばに居り、会場係員の声も聞こえたので、比較的落ち着いていた。
20 代/男性 少しパニック状態になっていたと思う。一人でいたことで不安が大きかったのかも 知れない。今思えば、コンビニの中で揺れが収まるのを待っていた方が良かったのか もしれない。
20 代/女性 身を守るのに必死だったので、すぐに机の下に隠れられた。大きな揺れが収まった 直後の方が、このあとどうしたらいいのかパニックになった。
肯定的な回答をした人は、一緒にいた知人や指示をしてくれる人の存在があったことが わかる。適切な行動をするための重要な要因であると考えられる。また、否定的な回答を した人は、パニック状態になっていた傾向があり、咄嗟に行動してしまったことを述べて いる。 34
3 避難行動とその要因を探るインタビュー調査
【問 8】 適切な避難を知ってあなたは適切な避難をできていたと思いますか?
避難マニュアルを説明した後での、この問いに対して「適切な行動ができていたと思う」 など、 肯定的な回答をした人は 19 人中 13 人であり、問 6 より増加していた。その他は「楽 観視して行動していた」などの否定的な回答をしている。
回答を抜粋し、以下に示す。
20 代/男性 適切な行動ができていたと思う。鞄で頭を守るというのはやっていないが。また、ラ イフセーバーの心得があるので、いざという時はより適切な対処ができていたと思う。
70 代/女性 頭はあまり守っていなかった。自分を守るというよりも、テレビが落ちて壊れたら 困ると思い、テレビを押さえた。出入り口の確保もあまり考えていなかった。
20 代/女性 揺れているときは机の下にもぐったが、その後は OA 機器にはあまり注意しなかっ た。エレベーターが動いていれば使ったと思う。
20 代/男性 室内にいたので、安全と考え、いつも使用しているエレベーターは停止していると の情報を知っていたので、 階段を利用した。よって、適切な避難ができていたと考える。
冷静に対応していたかどうかが、適切に行動できていたかを判断する大きな要素である ことがわかる。否定的な回答をした人は、「よりこうすれば良かった」などの改善点を挙 げていることが多かった。
35
3 避難行動とその要因を探るインタビュー調査
【問 10】 過去の避難訓練の経験や、あなたが持っている避難に関する知識が活かされた と思いますか?
この問いに対して「避難訓練が活かされていたと思う」など、肯定的な回答をした人は 19 人中 8 人であった。その他は「全く活かされていない」などの否定的な回答が多く見 られた。
回答を抜粋し、以下に示す。
20 代/男性 天井に注意をして、机に潜ることはした。電話がつながらないと教えられていたの で、そこはあまりパニックにならずに済んだ。でも学校で教えられている訓練は実践 的でないと思う。
50 代/女性 訓練はないものの、事前に避難経路などの説明があったのでその通りに出来、知識 が活かされた。
20 代/男性 最低限の範囲では訓練をいかせたと思う。しかし、緊急時は自己の判断以上に、信 頼できる人の意見に賛同し動く傾向があることが実感した。
20 代/女性 とっさのことで、机に潜るのさえ忘れていたので、避難訓練の知識はあまり活かさ れなかった。どちらかというと、高層ビルの方が安全、といった建築学科の知識の方 が頭をよぎった。
個人差はあるが避難訓練や、過去に避難した体験などが適切な行動をするための大きな 要素であることがわかる。また、自身の知識が活用されたり、知識のある人やそれぞれの 立場も避難行動に大きく影響を与えている。
36
避難意思モデル作成のためのアンケート調査
4
調査目的
4.1
調査方法
4.2
分析手法/共分散構造分析
4.3
アンケートの質問内容
4.4
仮説モデル
4.5
基本モデル
4.5.1
避難モデル
4.5.2
待機モデル
4.5.3
仮説モデルの一覧
4.5.4
4 避難意思モデル作成のためのアンケート調査
4 避難意思モデル作成のためのアンケート調査 4.1 調査目的 前章のインタビュー調査で得られた要因が避難行動にどのようなに関わっているのかを 定量的に明らかにするために、2011 年 3 月 11 日の地震発生時の避難行動と周辺環境につ いてアンケート調査を行った。
38
4 避難意思モデル作成のためのアンケート調査
4.2 調査方法 東京都を中心とし、関東地方(茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神 奈川県)に対しアンケート調査を行った。以下の回収方法により計 267 部の回答を得た。
調査日時:2011 年 12 月 14 日〜 2011 年 12 月 31 日 調査対象者:関東地方(東京)在住の男女
・調査用紙での回収 都内 5 区(中野区、目黒区、板橋区、荒川区、杉並区)を対象に調査用紙を、1 世帯に 1 部ずつ配布した。また、1 区につき 100 部、計 500 部を配布し、配布地の選定は都内 23 区からランダムに選定した。 回収数 104 部:回収率 20.8% さらに、関東地方在住の男女を対象に調査用紙を個人配布し、63 部を回収した。
・ウェブアンケートでの回収 調査用紙と同様の質問のウェブアンケートを行い、回答数 100 部を得た。
各回収方法から得られた回答数と有効回答数を表 4-2-1 に示す。また、関東地方の各県 や各区(東京都の場合)の回答数を表 4-2-2 に、回答者数の年代分布を図 4-2-1 に示す。
表 4-2-1 回収方法と回答数
表 4-2-2 各県と各区の回答数
39
人数(人)
4 避難意思モデル作成のためのアンケート調査
年代
図 4-2-1 回答者の年代分布
40
4 避難意思モデル作成のためのアンケート調査
4.3 分析手法/共分散構造分析 共分散構造分析(別称:構造方程式モデリング)とは観測データの背後にある、さまざ まな要因の関係を分析する統計手法である。 他の分析手法と比較して、複雑な関係をパス図で表現できるということが利点である。ま た、数式を使わずに表現できるため、第三者に対して自分の研究仮説をわかりやすく伝え ることができる。 図 4-3-1 は重回帰分析をパス図によって表現したものである。また、図 4-3-2 は因子分 析をパス図によって表現したものである。数式だけではわかりにくい因果関係がパス図に よってわかりやすく示されている。
・観測変数 観測によって得られるデータのこと。本研究におけるアンケート調査で得られた数量 データ。
・構成概念 数値として直接には観測できない概念的なもの。因子分析に置ける因子と同様のもの。 (図 4-3-2 における『充実感』を指す。)
理解度
プレゼン
満足度
1
e1
講師対処 図 4-3-1 パス図の例(重回帰分析)
充実感
プレゼン
満足度
1
e3
一致度
1
e2
1
e1
図 4-3-2 パス図の例(因子分析)
41
4 避難意思モデル作成のためのアンケート調査
4.4 アンケートの質問内容 前章でのインタビュー調査から、避難行動や意思決定に影響していると思われる 26 種 類の要因を抽出できた。アンケートではそれらの要因を問う質問を作成した。 また、回答者の基本情報や、得られた要因から類推される事柄を追加の観測変数として質 問に追加した。自由記述の質問を合わせて 51 問のアンケートとなった。観測変数と質問 内容の一覧を次項の表 4-4-1 に示す。 これらの要因を共分散構造分析に用いる観測変数とする。さらに、構成概念を仮説とし て設定した。観測変数と構成概念の関係を図 4-4-1 に示す。
※ 性別
従事状況
基本情報
※ 職業
立場
※ 性格
思考状況
認知
状態
※ 年齢
姿勢 揺れの認知 認知までの時間
※ 住んでいる県
避難意思
※ 住まい
危険物
避難行動
避難
周囲の混雑
環境
※ 区(東京都)
※ 避難理由 ※ 待機理由
※ 階数(集合住宅)
支え
※ 自己判断
※ 都道府県
知り合いの人数
※ 適切な避難
※ 屋内か屋外か
地震の大きさの予想
階数
出口までの距離 ※ 場所(屋外)
周囲の建物の高さ
被害の予想 命の危険性
※ 被災体験(地震) ※ 被災体験(地震以外)
避難体験
※ 避難の危険予測 ※ 待機の危険予測
避難経路のイメージ
防災意識
建築環境
建物の印象
リスク不安
※ 場所(屋内)
先行体験
揺れているもの
※ 階数(一戸建て)
防災訓練 ※ ハザードマップ ※ 防災準備
道幅 避難経路の明瞭性 ※ 種類(乗り物)
※ 追加した質問項目 図 4-4-1 観測変数と構成概念
42
4 避難意思モデル作成のためのアンケート調査
表 4-4-1 観測変数と質問内容
43
4 避難意思モデル作成のためのアンケート調査
4.5 避難意思決定の仮説モデル 4.5.1 基本モデル ここで、避難意思決定の仮説モデルを作成する。この仮説モデルをもとに、6 章で分析 を行っていく。また、6 章では仮説モデルの当てはまりの検証を共分散構造分析を用いて 行う。 仮説モデルは、以下二つの基本となる『基本モデル』、避難した人の避難意思決定を表 す『避難モデル』 、避難せず待機した人の避難意思決定を表す『待機モデル』を作成する。 また、モデルには主に構成概念を用いて表現している。→は因果関係を表す(例:「建築 環境→リスク不安」は建築環境がリスク不安に影響を与えている)。 基本モデルを図 4-5-1-1 に示す。また、モデルの作成に用いた因果関係の推論を以下に 列挙する。
・建築環境は認知とリスク不安に影響を与える ・環境は認知とリスク不安に影響を与える ・認知はリスク不安に影響を与える ・状態はリスク不安と避難意思に影響を与える ・先行体験は防災意識に影響を与える ・防災意識はリスク不安と避難意思に影響を与える ・リスク不安は避難意思に影響を与える ・避難意思は避難行動に影響を与える
建築環境
認知
状態
避難意思
リスク不安
避難行動
防災意識
環境
先行体験 図 4-5-1-1 基本モデル
44
4 避難意思モデル作成のためのアンケート調査
4.5.2 避難モデル 避難した人の避難意思決定を表す『避難モデル』を作成する。基本モデルと同様に、主 に構成概念を用いて表現している。→の太さと線種で因果関係の強さを表す(例:「建築 環境→(太い矢印)リスク不安」は建築環境がリスク不安に強い影響を与えている)。また、 構成概念の円の大きさで、その構成概念の大きさの程度を表す(例:「リスク不安の円が 大きい」はリスク不安が大きい)。 避難モデルを図 4-5-2-1 に示す。また、モデルの作成に用いた因果関係の推論を以下に 列挙する。
・建築環境はリスク不安に影響が強い ・認知はリスク不安に影響が強い ・環境はリスク不安に影響が強い ・状態は避難意思に影響が弱い ・先行体験は防災意識に影響が強い ・防災意識は避難意思に影響が強い ・リスク不安は避難意思に影響が強い ・避難意思は避難行動に影響が強い ・認知が大きい ・リスク不安が大きい ・避難意思が大きい
建築環境
認知
状態
避難意思
リスク不安
避難行動 (避難)
防災意識
環境
先行体験 程度
影響の強さ
小
影響弱い
中
影響あり
大
影響強い
図 4-5-2-1 避難モデル
45
4 避難意思モデル作成のためのアンケート調査
4.5.3 待機モデル 避難せず、待機した人の避難意思決定を表す『待機モデル』を作成する。避難モデルと 同様に、→の太さと線種で因果関係の強さを表し、構成概念の円の大きさで、その構成概 念の大きさの程度を表している。 待機モデルを図 4-5-3-1 に示す。また、モデルの作成に用いた因果関係の推論を以下に 列挙する。
・建築環境はリスク不安に影響が弱い ・認知はリスク不安に影響が弱い ・環境はリスク不安に影響が弱い ・状態は避難意思に影響が強い ・リスク不安は避難意思に影響が強い ・リスク不安が小さい ・状態が大きい
建築環境
認知
状態
避難意思
リスク不安
避難行動 (待機)
防災意識
環境
先行体験 程度
影響の強さ
小
影響弱い
中
影響あり
大
影響強い
図 4-5-3-1 待機モデル
46
4 避難意思モデル作成のためのアンケート調査
4.5.4 仮説モデルの一覧 本節で作成した仮説モデルの一覧を以下に示す(図 4-5-4-1)。
【 基本モデル 】 建築環境
認知
状態
リスク不安
避難意思
避難行動
避難意思
避難行動 (避難)
避難意思
避難行動 (待機)
防災意識
環境
先行体験
【 避難モデル 】 建築環境
認知
状態
リスク不安
防災意識
環境
先行体験
【 待機モデル 】 建築環境
認知
状態
リスク不安
防災意識
環境
先行体験 程度
影響の強さ
小
影響弱い
中
影響あり
大
影響強い
図 4-5-4-1 仮説モデルの一覧
47
集計結果
単純集計 クロス集計(避難・待機)
5 5.1 5.2
5 集計結果
5 集計結果 5.1 有効回答数 本章では、前章のアンケート調査で得られた回答の集計とその考察を行う。 まず、調査方法別に得られた回答数と有効回答数を示す(表 5-1-1) 。調査用紙の配布、 回収により 168 部の回答が得られた。そのうち有効な回答は 166 部であった。また、ウェ ブアンケートでの回収により 100 部の回答が得られた。そのうち有効な回答は 99 部であっ た。調査用紙とウェブアンケートを合わせて、265 部の有効回答を得た。
表 5-1-1 回収方法と有効回答数
49
5 集計結果
5.2 単純集計 本節では質問ごとに単純集計と、集計をもとに考察を行う。次項より、質問のカテゴリー、 質問内容、集計結果、及び考察を列挙していく。 また、各質問で得られた有効回答数を表 5-2-1 に示す。
表 5-2-1 質問項目と有効回答数
50
5 集計結果
1. 性別 あなたの性別は?
44% 56%
回答者の性別は、 「男性」56%、「女性」44%となっている。
2. 年齢 あなたの年齢は?
20
11% 5%
20 12%
30 40
9%
48% 8%
50 60
7%
70
回答者の年代は、 「20 歳代」が 48%と約半数を占めている。これは、ウェブアンケート の回答者に 20 歳代が多かったためだと考えられる。一方で、 「60 歳代」が 12%、 「70 歳以上」 が 11%と、高齢者の回答を十分に得ることができた。
51
5 集計結果
3. 職業 あなたの職業は?
1% 0%
10% 10%
! !
25%
" ! 4% 9%
41%
!
回答者の職業は「学生・受験生」が 41%、次いで「会社員・公務員・法人職員」が 25%となっ た。 『2. 年齢』を踏まえると、20 代の学生が多いと考えられる。
52
5 集計結果
4. 性格 あなたの性格について、各項目に対してお答え下さい。
この質問では,以下の 7 つの項目に対して「かなり当てはまる」「当てはまる」「どちら ともいえない」 「当てはまらない」「全く当てはまらない」の 5 段階で回答してもらった。 ・物事は冷静に考えてから行動する方だ ・自分の行動は、自分で変えることができる ・これから、将来に起こるであろう問題を予測して対応している ・物事は計画を立てて行動する ・周りの意見に左右されやすい方だ ・能率を考えて、テキパキと行動する方だ ・他の人から、しっかりしているねと言われることが多い
そして、7 項目の合計得点を算出した。点数が高いほど、冷静で計画的な性格であり、 適切な避難ができる性格であると言える。以下に合計得点と人数の関係を示す。
30 25 20 15 10 5 0
5
7
9 11 13 15 17 19 21 23 25 27 29 31 33 35
その結果、12 点から 34 点までの推移し、合計得点が 24 点で最大の人数となった。
53
5 集計結果
5. 住んでいる県 あなたはどの都道府県にお住まいですか? 0.4%
1%
0%
3%
2%
18%
11%
65%
回答者の住んでいる都道府県は、 「東京都」が 65%となった。これは、調査用紙の配布 を都内の 5 つの区で行ったからだと考えられる。次いで「神奈川県」が 11%となった。 不明の割合が高い理由として、北区防災センターにて回収箱を設置し、回収したものにつ いては、住まいを特定することができなかったためである。
6. 区(東京都) 東京都にお住まいの方にお聞きします。どちらにお住まいですか?
6% 3%
10%
12%
1%
16%
2% 2%
12% 6% 4%
16% 2%
1%
1%
2%
3%
23
「荒川区」 「板橋区」 、杉並区」「中野区」「目黒区」は調査用紙の配布を行った 5 区であ るため、他の区に比べ割合が高くなった。
54
5 集計結果
7. 住まい あなたのお住まいは?
1% 42%
57%
:
回答者の住まいは、 「一戸建て」42%、 「集合住宅」57%、その他 1%となった。その他 の記入回答では「寮」 「学生寮」などの回答が得られた。
8. 階数(一戸建て) あなたのお住まいは何階建てですか? 3%
2% (1 )
21% 2
3 74% 4
一戸建ての階数は、 「2 階建て」が 74%、次いで「3 階建て」が 21%となった。屋外へ 避難をするためには、階段を降りなければならない場合が多くあると考えられる。
55
5 集計結果
9. 階数(集合住宅) あなたは何階にお住まいですか?
2% 0%
14% 24%
1 2 4 5 9 60%
10
集合住宅の階数は、 「1 階」が 14%、 「2 〜 4 階」が 60%、 「5 〜 9 階」が 24%、 「10 階以上」 が 2%となった(地下は 0%)。屋外へ避難をするためには、一戸建てと比べてより多くの 階段を降りなければならないと考えられる。
10. 都道府県 地震発生時、あなたはどの都道府県にいましたか?それとも国外にいましたか? 1.2%
1.2% 0.8% 1.6% 0.8% 1.6% 1.2%
0.8% 0.4% 0.4%
0.4%
0.4% 8.2%
77.6%
3.3%
地震発生時にいた都道府県は、関東地方では「東京都」が 77.6%となった。『5. 住んで いる県』と比較すると割合が低くなっており、地震発生時には会社や大学などで、東京都 にいたと考えらる。また、国外をはじめ、北海道、香川県、京都府など地震の影響がない 地方にいた場合もあった。
56
5 集計結果
11. 屋内か屋外 地震発生時、あなたは屋内にいましたか、屋外にいましたか、それとも乗り物の中にいま したか? 3.5%
0.4%
12.3%
83.8%
地震発生時にいた場所については「屋内」が 83.8%と、かなり高い割合を占めた。地 震発生は 14 時 46 分と昼間であったため、自宅や職場、学校などの屋内にいた場合が多かっ たと考えられる。
12. 場所(屋内) それはどこでしたか?
0.5%
0.9%
/),!*,- '.% 0
6.0% 0.5%
9.3% 28.7%
3.2%
".'.-$'.%- ,(&
4.6%
-
27.3%
19.0%
+ .#.
地震発生時にいた屋内の場所は、 「一戸建て」28.7%、 「集合住宅」19.0%、 「職場」 27.3%となった。地震発生時には、自宅や職場など、普段過ごし慣れた場所にいた場合が 多かったことがわかった。
57
5 集計結果
13. 階数(屋内) あなたがいた場所は何階でしたか?
6% 4%
17% 30%
1 2 4 5 9
43%
10
地震発生時にいた階数は、 「地下」が 4%、「1 階」が 30%、「2 〜 4 階」が 43%、 「5 〜 9 階」が 17%、 「10 階以上」が 6%となった。 『9. 階数(集合住宅) 』と比べても、屋外 へ避難をするためには自宅よりも多くの階段を降りなければならない状況であったと考え られる。
14. 印象(屋内) その建物の印象はどうでしたか?
14%
9%
32%
25%
20%
建物の印象は、 「やや古い」が 32%で最大となった。避難するしないに関わらず、建物 が古いと危険や不安を感じると考えられる。
58
5 集計結果
15. 出口までの距離(屋内) あなたのいた場所から、一番近い階段かドアまでの距離はどのくらいでしたか? 2.8%
0.5% 2m
13.3%
19.7%
2m 5m 5m 10m 10m 20m
25.2% 38.5%
20m
出口までの距離は、 「2m 以上 5m 未満」が 38.5%で最大となった。5m 未満であれば容易 に避難できる距離であるので、半数以上の人が自分の意思決定により避難が可能な距離に いたと考えられる。
16. 場所(屋外) それはどこでしたか?
21%
28%
10% 0%
41%
屋外でいた場所は、 「住宅地」28%、 「オフィス街・繁華街」41%と高い割合となった。 その他の記入回答では「グラウンド」という回答が多く見られた。
59
5 集計結果
17. 周囲の建物の高さ(屋外) あなたがいた場所の周囲の建物の高はどれくらいでしたか?
9%
19%
28%
31% 13%
周囲の建物の高さは「とても高い建物」19%、「少し高い建物」31%で全体の半数の割 合となった。 「建物が高い、低い」は回答者の主観で評価されてはいるが、避難の意思決 定には主観の評価、判断が重要であると考えられる。
18. 道幅(屋外) あなたがいた道路の道幅はどれくらいでしたか?
0% 2m 23%
17% 2m 4m 4m 8m
20%
40%
8m 12m 12m
道路の道幅は、 「普通」40%、 「広い」20%、 「かなり広い」23%を合わせて 4m 以上で 83%を占める結果となった。道幅が狭いために、避難ができなかかったり、不安を感じた という場合は少なかったと考えられる。
60
5 集計結果
19. 種類(乗り物) それはどの乗り物でしたか?
0%
11%
0%
33%
11%
45%
地震発生時に乗っていた乗り物は、「自動車・バイク」33%と「鉄道」43%が高い割合 を占めた。しかし、自動者・バイクは「自分で制御できるもの」だが、鉄道は「自分では 制御できないもの」なので、避難の意思決定の要因としては大きな違いがあると考えられ る。
20. 周囲の混雑 地震発生時、あなたの周囲はどれくらい混雑していましたか?
6% 19%
42% 7%
26%
周囲の混雑は、 「全く混在していなかった」42%、「あまり混雑していなかった」26%が 高い割合を占めた。理由として『12. 場所(屋内) 』で自宅にいた割合が高かったことや、 『16. 場所(屋外) 』で住宅街というあまり混雑が予想されない場所にいた割合が高かった ことが考えられる。
61
5 集計結果
21. 危険物 地震発生時、あなたの周囲に「倒れると危険な物」はありましたか?
12%
19%
23%
42%
4%
危険物は、 「多くあっ」た 19%、 「少しあった」42%と合わせて 61%が周囲に倒れると 危険なものがあったことになる。 『45. 具体的な状況』の自由記述を参照すると、危険物 は「本棚」や「テレビ」だと思われる。
22. 揺れているもの 地震発生時、あなたの周囲に「揺れている物」はありましたか?
7%
10% 40%
6%
37%
揺れているものは、 「多くあった」40%、 「少しあった」37%と合わせて 77%が周囲に 揺れているものがあったことになる。揺れているものがあることで、不安感や危機感が増 大していたと考えられる。
62
5 集計結果
23. 支え 地震発生時、あなたの周囲に頑丈な壁や柱など「支えになる物」はありましたか?
5% 13%
22%
17%
43%
支えは、 「多くあった」22%、 「少しあった」43%と合わせて 65%が周囲に頑丈な壁や 柱などの支えになる物があったことになる。周囲に支えがあることで安心感が増大してい たと考えられる。 『45. 具体的な状況』の自由記述を参照すると、支えは「太い柱」や「頑 丈な梁」だと思われる。
24. 知り合いの人数 地震発生時、あなたの周囲に何人の知り合いの方がいましたか?
30%
31%
5% 13%
21%
知り合いの人数は、 「誰もいなかった(一人でいた) 」が 31%と最も高い割合となった。 理由として、自宅にいた人々が多かったことが考えられる。次いで、「四人以上いた」が 30%と高い割合となった。理由として、職場や学校にいた人が多かったことが考えられる。
63
5 集計結果
25. 避難経路の明瞭性 地震発生時、あなたは避難経路が直接見えていましたか?
14%
9%
43%
10%
24%
避難経路の明瞭性は、 「明確に見えていた」43%、「だいたい見えていた」24%と合わせ て 67%が、避難経路が見えていたことになる。つまり、多くの人が自らの意思決定によ り避難が可能な状況にいたと考えられる。
26. 姿勢 地震発生時、あなたはどのような体勢でいましたか?
2% 5%
9%
26%
54%
4%
姿勢は、 「座っていた」が 54%と最も高い割合となった。また、 「歩いていた」9%、 「立っ ていた」26%、 「寄りかかっていた」4%と合わせて 39%の人がすぐに避難を開始できる 体勢にいたことがわかる。
64
5 集計結果
27. 従事状況 地震発生時、あなたは仕事中や作業中でしたか?また、それにより行動を束縛されていま したか?
5% 13% 43%
!
28%
" !
11%
従事状況は、 「仕事中や作業中ではなく、かなり自由に行動していた」43%と「仕事中 や作業中ではなく、ある程度は自由に行動していた」11%を合わせて、54%が仕事中や作 業中ではかったことがわかった。また、他三つを合わせて 46%が仕事中や作業中であっ たことがわかった。職場や学校にいたかどうかが大きく関係していると考えられる。
28. 立場 地震発生時、あなたはどのような立場でしたか?
10% 4% 8% 17%
61%
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立場は、 「避難するかしないかを、自分の意志で決める立場だった」が 61%と最も高 い割合となった。また、 「避難するかしないかの指示に、多少従わなければならない立場 だった」17%と「避難するかしないかの指示に、絶対に従わなければならない立場だった」 10%を合わせて、27%が避難するかしないかを自ら決定することができなかった状況だっ たことがわかった。
65
5 集計結果
29. 健康状態 地震発生時、あなたの健康状態はどうでしたか? 2%
1% !
4%
30%
# ! 63%
$ " %
健康状態は、 「とても健康な状態だった」63%と「まぁまぁ健康な状態だった」30%を 合わせて 93%が健康な状態だったことがわかった。多くの人が避難すること支障がない 健康状態だったと考えられる。
30. 思考状態 地震発生時、あなたは何か考え事をしていましたか?
14%
16%
24%
28% 18%
思考状態は、 「少し考え事をしていた」が 28%と最も高い割合となった。他の選択肢も、 比較的均等な割合となった。
66
5 集計結果
31. 揺れの認知 地震発生時、あなたは揺れを感じましたか? 0.8%
0.4%
2.7%
11.5% 84.6%
揺れの認知は、 「とても感じた」が 84.6%と最も高い割合となった。関東地方にいた人は、 大きな揺れを感じたと考えられる。
32. 認知までの時間 あなたが揺れていると確信するまでに、地震発生時からどれくらいの時間がかかりました か? 1%
3% 5
5%
5 20 32%
30 60 59%
60
認知までの時間は、 「5 秒以内」が 59%と最も高い割合となった。地震発生からより早 く揺れを認知することで、その後の避難に対してより早い意思決定や避難行動につながる と考えられる。
67
5 集計結果
33. 地震の大きさの予想 地震発生時、あなたはどのくらい震度だと思いましたか?
8%
8%
7
16%
6 26% 5 4 42%
3
地震の大きさの予想は、 「震度 5」が 42%と最も高い割合となった。関東地方の実際の 震度は 5 弱〜 5 強だった。また、「震度 7 以上」8%、「震度 6」26%となり、実際の震度 以上の震度であると予想していた。これは、今までに経験したことのない揺れを感じてい たからだと考えられる。
34. 被害の予想 地震発生時、あなたは周囲でどのくらいの被害が出ると思いましたか?
3% 18%
21%
8%
50%
被害の予想は、 「多少の被害が出ると思った」が 50%と最も高い割合となった。『31. 揺 れの認知』と比較すると、揺れを「とても感じた」割合に比べ「大きな被害が出ると思っ た」の割合が 21%と低いことがわかる。このことから、揺れの大きさに比べて被害を軽 視する傾向があったと言える。
68
5 集計結果
35. 命の危険性 地震発生時、あなたは命の危険性を感じましたか?
19%
13%
29% 29%
10%
命の危険性は、 「少し感じた」 「あまり感じなかった」がともに 29%と最も高い割合と なった。 「とても感じた」と「少し感じた」を合わせて 41%、 「全く感じなかった」 「あま り感じなかった」 を合わせて 48%と大きな差はなかった。『34. 被害の予想』と比較すると、 被害の大きさの予想と比べて、命の危険性は軽視される傾向があったと言える。
36. 避難の危険予想 地震発生時、 避難するために 「その場を離れること」に対して、危険性を感じていましたか?
10% 23%
23%
28%
16%
避難の危険予想は、 「とても感じた」10%と「少し感じた」23%を合わせて 33%がその 場を離れることに対して危険を感じていたことがわかった。これはその場に待機するとい う意思決定を行う際に大きく影響していると考えられる。
69
5 集計結果
37. 待機の危険予想 地震発生時、避難せず「その場に留まること」に対して、危険性を感じていましたか?
20%
12%
30% 27%
11%
待機の危険予想は、 「とても感じた」12%と「少し感じた」30%を合わせて 42%がその 場に留まることに対して危険を感じていたことがわかった。これはその場から避難すると いう意思決定を行う際に大きく影響していると考えられる。
38. 避難経路のイメージ 地震発生時、あなたはその後どうやって避難を行なうかを頭の中でイメージできていまし たか?
15%
12%
20% 35%
18%
避難経路のイメージは、 「だいたいイメージできた」が 35%と最も高い割合となった。 「正 確にイメージできた」 12%と合わせて、47%が避難経路をイメージできていたことがわかっ た。避難経路をイメージすること、その後の迅速な避難につながると考えられる。
70
5 集計結果
39. 避難意思 地震発生時、あなたは避難しようと思いましたか?
23%
16%
23%
28% 10%
避難意思は、 「あまり思わなかった」が 28%と最も高い割合となった。「全く思わなかっ た」23%と合わせて、51%が避難しようと思わなかったことがわかった。避難意思は、避 難したかしなかったかの避難行動に大きく影響していると考えられる。
40. 避難行動 地震発生時、あなたは避難しましたか?
34%
66%
避難行動は、 「避難した」が 34%、「避難しなかった」が 66%となった。避難しなかっ た人は、避難した人の約二倍であることがわかった。『39. 避難意思』を参照すると、39 の「どちらともいえない」を選択した人は、避難しなかったと考えられる。
71
5 集計結果
41. 避難理由 避難した理由は何ですか?あてはまる項目を全て選択して下さい。
19%
% -$ " +
15%
' # +
26%
*, % / "# +
35%
-* & . + ' & )-'( !$ " +
45%
' 0%
5% 20%
40%
60%
80%
100%
避難理由は、 「その場に留まるのは危険だと思ったから」が 45%と最も高い割合となっ た。その他の記入回答では「1 人でいるのが怖かったから」 「外の様子が気になったから」 などの回答が得られた。
この質問は複数選択が可能だったため、回答者の選択数の集計を行った。選択数が多いほ ど、避難に対して明確な理由を持っていたと言える。 1% 1
11%
2
15%
3 73% 4
結果、避難理由が「1 つ」が 73%と最も高い割合となった。一方、2 つ以上のものも合 わせて 27%と、明確な理由を持って避難をした人も多くいることがわかった。
72
5 集計結果
42. 待機理由 避難しなかった理由は何ですか?あてはまる項目を全て選択して下さい。 62%
#/ 02/6/ - *(!6 ,1 " )*(!6
2%
1 " 3 %+ /!*( !6
27%
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8% 3% 9%
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10% 21%
'1 0%
20%
40%
60%
80%
100%
待機理由は、 「大きな被害にはならないと思ったから」が 62%と最も高い割合となった。 その他の記入回答では「まだ仕事が残っていたから、避難の指示が出なかったから」「仕 事中だった」 「安全で頑丈な建物の中に居たから」などの回答が得られた。
この質問は複数選択が可能だったため、回答者の選択数の集計を行った。選択数が多いほ ど、待機に対して明確な理由を持っていたと言える。 1% 8%
1 2
24%
67%
3 4
結果、避難理由が「1 つ」が 67%と最も高い割合となった。一方、2 つ以上のものも合 わせて 33%と、明確な理由を持って避難をした人も多くいることがわかった。
73
5 集計結果
43. 自己判断 地震発生時の、あなたの避難するかしないかの判断は正しかったと思いますか?
3%
1%
13% 32%
51%
自己判断は、 「まぁまぁ正しかったと思う」が 51%と最も高い割合となった。 「とても 正しかったと思う」32%と合わせて、83%が自らの判断が正しかったと思っていることが わかった。これは、実際に今回の地震による被害を受けていないという結果が大きく影響 していると考えられる。
74
5 集計結果
44. 適切な避難 地震発生時のあなたはどのような行動をとりましたか?あてはまる項目を全て選択して下 さい。 + IE5. VOTN, , " ,& >=W?A#:1>.F/
41%
+LRTERPM, )>=<(K ! 47
10%
+-J;; ?*C 36, I2 03DH@K 97
55% 52%
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9%
+=@SUQ<$%5IB 1 K4;1G$%K47
8% 0%
20%
40%
60%
80%
100%
適切な避難は、 「あわてて戸外に飛び出さず、揺れがおさまるのを待った」が 55%と最 も高い割合となった。次いで、「冷静に落ち着いて行動した」52%、「倒れやすい物(タン ス、本棚、自動販売機、電柱など)には近づかないようにした」41%と高い割合となった。 一方、 「カバンやバック、衣類などで頭を保護した」などの具体的で複雑な防災行動は低 い割合となった。
この質問は複数選択が可能だったため、回答者の選択数の集計を行った。選択数が多いほ ど、より適切な行動をとっていたと言える。 3.6%
2.8%
0.4% 1 2
17.3%
3 51.6% 24.2%
4 5 6
結果、避難理由が「1 つ」が 51.6%と最も高い割合となった。一方、2 つ以上のものも 合わせて 48.4%と、より適切な行動をとっていた人も多くいることがわかった。選択肢 全てを選んだ「6 つ」も 0.4%いることがわかった。
75
5 集計結果
45. 具体的な状況 【自由記述】地震発生時にあなたのとった行動やその理由、周囲の状況について下の回答 欄にできるだけ詳細に記述して下さい。
地震発生時の回答者の行動を、できるだけ詳細に記述してもらった。計 212 の回答が得 られた。回答例として 1 つの回答を記載するが、詳細な考察は次章で行うこととする。
(回答例)
自宅の部屋(1階)で大きな揺れを感じ、経験したことのない揺れだったので、家が倒 れると思い、すぐに窓から庭に出た。通りの向かいの駐車場には近所の人が数人集まって いた。揺れている時間は長く、自宅の駐車場の自転車が音をたてて、倒れそうに感じるほ ど揺れていた。
46. 被災体験(地震) あなたは地震発生時以前に、地震により負傷や建物被害などの被害を受けたことはありま したか? 2%
0% 1% 4%
4 3 2 1
93%
避難意思は、 「被害を受けたことがなかった」が 93%と最も高い割合となった。一方、 地震による被害を 1 度以上受けたことがある人は 60 歳代以上の高齢者に多い傾向にあっ た。
76
5 集計結果
47. 被災体験(地震以外) あなたは地震発生時以前に、地震以外の自然災害により負傷や建物被害などの被害を受け たことはありましたか?あてはまる項目を全て選択して下さい。 !
73.9%
!
!
0.4% 0.4% 2.7%
!
7.8%
! !
0.4%
0%
20%
40%
60%
80%
100%
被災体験(地震以外)は、 「地震以外では被害を受けたことはなかった」が 73.9%と最 も高い割合となった。次いで、 「大雨で被害を受けたことがあった」が 7.8%と、他の災 害に比べると高い割合となった。
48. 避難体験 あなたは地震発生時以前に、地震のために避難したことはありましたか?
2%
0% 1% 6%
4 3 2 1
91%
避難体験は、 「避難したことがなかった」が 91%と最も高い割合となった。避難した人 のほとんどが、今回が初めて地震のために避難したということが言える。一方、地震によ る避難を 1 度以上したことがある人は 60 歳代以上の高齢者に多い傾向にあった。
77
5 集計結果
49. 防災訓練 あなたは地震発生時以前に、地域や学校で行なわれている防災訓練にどれくらい参加して いましたか?
17%
22% 2 3
17%
15%
4 9 10
29%
防災訓練は、 「4 〜 9 年前に参加して以来、参加していなかった」が 29%と最も高い割 合となった。回答者で多かった 20 歳代の人が、中学校や高校の防災訓練以来、参加して いなかったからだと推測できる。他の選択肢も、比較的均等な割合となった。
50. ハザードマップ あなたは地震発生時以前に、区役所や市役所で配布されているハザードマップを見たこと がありましたか?
6% 23% 20%
21% 30%
防災訓練は、 「見たことはあるが、内容を憶えていなかった」が 30%と最も高い割合と なった。他の選択肢も比較的均等な割合だったが、防災意識にばらつきが見られる結果と なった。回答欄外に「ハザードマップを知らなかった」という意見も書き込まれていた。
78
5 集計結果
51. 防災準備 あなたやあなたのご家族は地震発生以前に、防災グッズなどを準備していましたか?
3%
13% 25%
30%
29%
防災準備は、 「準備をしなければと思っていたが、準備をしていなかった」が 30%と最 も高い割合となった。一方、 「十分に準備をしていた」が 3%と、非常に低い割合となった。 今回の地震が予期せぬものであったことや、防災意識の低さが見られる結果となった。
79
5 集計結果
5.3 クロス集計 本節では問 40「避難行動」について避難したか、避難しなかった(グラフでは「待機」 と記す)のそれぞれを選んだ回答者に分け、クロス集計を行う。また、その結果をもとに 考察を行う。以下より、質問のカテゴリー、質問内容、クロス集計結果、及び考察を列挙 していく。
80
5 集計結果
1. 性別 あなたの性別は?
0%
20%
40%
60%
80%
N=143
35%
65%
N=114
34%
66%
100%
性別の違いで、避難した人と待機した人の割合に差は見られなかった。性別によって避 難行動に違いがあることは確認できなかった。
2. 年齢 あなたの年齢は?
0% 20 N=12
20%
40%
60%
80%
92%
8%
55%
45%
20 N=123 30 N=19
32%
68%
40 N=19
32%
68%
50 N=24
33%
67%
60 N=33 70 N=28
100%
73%
27%
86%
14%
年齢の違いでは、 避難した人の割合が最も高いのは「20 歳代」で 45%だった。「30 歳代」 から「60 歳代」では顕著な差は見られなかったが、 「20 歳未満」と「70 歳以上」では避 難した人の割合が低い結果となった。20 歳以降は高齢になるにつれて避難する割合は下 がる傾向があることがわかる。年齢によって避難行動に違いがあることが確認できた。
81
5 集計結果
3. 職業 あなたの職業は?
0%
20%
40%
60%
80%
100%
)N=0* ' ' )N=65*
45%
55%
)N=11*
45%
55%
17%
%(#'!&$"#)N=23*
39%
' )N=104*
)N=25*
61%
24%
)N=25*
83% 76%
12%
88%
)N=4* 0%
100%
職業の違いでは、避難した人の割合が最も高いのは「会社員・公務員・法人職員」と「自 営業」で 45%だった。地震発生時に勤務中であった社会人の人が避難した割合が高いと 考えられる。次いで、 「学生・受験生」で 39%であった。職業によって避難行動に違いが あることが確認できた。
4. 性格 あなたの性格について、各項目に対してお答え下さい。(合計得点)
0% 20 N=35
20%
40%
60%
80%
66%
34%
21 23 N=46
43%
57%
24 26 N=61
44%
56%
25 29 N=49 30 N=24
100%
69%
31%
79%
21%
性格 (7 つの項目の総合得点)の違いでは、避難した人の割合が最も高いのは「24 〜 26 点」 で 44%だった。また、それ以上点数が高くなると避難する割合が低くなることがわかる。 これのことから、ある程度冷静で計画的な人は避難する確立が高く、非常に冷静で計画的 である人は待機する確立が高くなると考えられる。性格によって避難行動に違いがあるこ とが確認できた。
82
5 集計結果
7. 住まい あなたのお住まいは?
0% N=110
N=147
20%
40%
60%
31%
80%
100%
69%
37%
63%
N=3 0%
100%
住まいの違いでは、避難した人と待機した人の割合に差は見られなかったが、「集合住 宅(マンション・アパートなど) 」のほうが 6%高い結果となった。住まいによって避難 行動に違いはあまりないことが確認できた。
8. 階数(一戸建て) あなたのお住まいは何階建てですか?
0%
20%
3 N=24
60%
80%
100%
50%
50%
(1 ) N=2
2 N=82
40%
68%
32%
75%
25%
0%
100%
4 N=2
一戸建ての階数の違いでは、避難した人の割合が最も高いのは「平屋」で 50%だった。 しかし、サンプル数が少ないため信頼性に欠ける。そこで「2 階建て」と「3 階建て」を 比べると、32%と 25%と違いが見られた。階数によって避難行動に違いがある可能性が 確認できた。
83
5 集計結果
9. 階数(集合住宅) あなたは何階にお住まいですか?
0%
20%
40%
60%
80%
100%
N=0 1 N=20 2 4 N=90 5 9 N=34
50%
50%
67%
33%
62%
38%
33%
67%
10 N=3
集合住宅の階数の違いでは、避難した人の割合が高いのは、サンプル数の少ない「10 階以上」を除くと、 「1 階」で 50%だった。「2 〜 4 階」と「5 〜 9 階」では顕著な差は見 られなかったが、避難した人の割合は低くなっていることがわかる。住んでいる階数が高 くなるにつれて避難する割合は下がる傾向があることがわかる。階数によって避難行動に 違いがある可能性が確認できた。
11. 屋内か屋外 地震発生時、あなたは屋内にいましたか、屋外にいましたか、それとも乗り物の中にいま したか?
0% N=218 N=32 N=9
20%
40%
60%
32%
80%
100%
68%
44%
56%
56%
N=1 0%
44% 100%
地震発生時に屋内か屋外にいたかの違いでは、避難した人の割合が「屋内」が 32%、 「屋 外」が 44%と、屋外にいた方が避難する傾向があることがわかった。また「乗り物」も 避難した人が 56%と違いが見られる。地震発生時にいた場所によって避難行動に違いが あることが確認できた。
84
5 集計結果
12. 場所(屋内) それはどこでしたか?
0% 5N=626 5/2'023$-4+! 6
20%
40%
60%
16%
84%
17%
83%
34%
5N=596
80%
66% 60%
(4-43*-4+3&2.,5N=106
40%
43%
5N=76
100%
57%
3 5N=16 0%
100% 50%
5N=26
50% 75%
5N=206 %1#4)45N=16 0%
25% 100%
46%
" 5N=136
54%
屋内でいた場所の違いでは、避難した人の割合が最も高いのは「学校」で 75%だった。 授業中だった場合、全員で避難するなどの処置がとられていたことがうかがえる。他の選 択肢でもばらつきが見られるので、場所によって避難行動に違いがあることが確認できた。
13. 階数(屋内) あなたがいた場所は何階でしたか?
0%
20%
40%
60%
80%
N=9
33%
67%
1 N=65
32%
68%
2 4 N=93
10 N=13
71%
29%
57%
43%
5 9 N=37
100%
77%
23%
屋内での階数の違いでは、避難した人の割合が最も高いの「5 〜 9 階」で 43%だった。 しかし「10 階以上」では避難した人の割合が低くなる結果となった。これは、階数が高 くなりすぎると避難するよりその場にいた方が安全だと考えるからだと考えられる。屋内 での階数によって避難行動に違いがある可能性が確認できた。
85
5 集計結果
14. 印象(屋内) その建物の印象はどうでしたか?
0%
20%
40%
60%
80%
N=19
32%
68%
N=71
32%
68%
N=54 N=30
59%
41%
N=44
100%
69%
31%
80%
20%
屋内の印象の違いでは、避難した人の割合が最も高いのは「どちらともいえない」で 45%だった。 「とても古い」 「やや古い」 「やや新しい」では顕著な差は見られなかったが、 「と ても新しい」では避難した人の割合が低い結果となった。新しい印象を持つことで建物を 信頼し、安心感が増すためだと考えられる。屋内の印象によって避難行動に違いがある可 能性が確認できた。
15. 出口までの距離(屋内) あなたのいた場所から、一番近い階段かドアまでの距離はどのくらいでしたか?
0% 2m N=43 2m 5m N=84
20%
60%
30%
100%
74%
42%
58%
38%
10m 20m N=29
80%
70%
26%
5m 10m N=55
20m N=6
40%
62%
17%
83%
N=1 0%
100%
出口までの距離の違いで、避難した人の割合が最も高いのは「5m 以上 10m 未満」で 42%だった。他の選択肢でもばらつきが見られるが、「20m 以上」では 17%と避難した人 の割合が低い。出口が遠くなりすぎると、避難する意思が削がれたり避難することができ ず、待機する割合が高くなったと考えられる。場所によって避難行動に違いがあることが 確認できた。
86
5 集計結果
16. 場所(屋外) それはどこでしたか?
0%
20%
40%
60%
50%
N=8
100%
50%
42%
N=12
80%
58%
N=0 N=0 N=3
33%
67%
50%
N=6
50%
屋外の場所の違いでは、避難した人の割合が最も高いのは、「住宅地」と「その他」で 50%だった。屋外の建築環境はサンプル数が少ないため、あまり有効なデータではないと 考えられる。
17. 周囲の建物の高さ(屋外) あなたがいた場所の周囲の建物の高はどれくらいでしたか?
0%
N=6
20%
60%
80%
50%
50%
25%
75%
N=4
67%
33%
N=3
100%
83%
17%
N=10
N=9
40%
67%
33%
周囲の建物の高さの違いでは、避難した人の割合が最も高いのは、 「どちらともいえない」 で 50%だった。他の選択肢でもばらつきが見られるので、周囲の建物の高さによって避 難行動の違いはあまりないと考えられる。
87
5 集計結果
18. 道幅(屋外) あなたがいた道路の道幅はどれくらいでしたか?
0%
20%
2m N=0 2m 4m N=5 4m 8m N=12 8m 12m N=6 12m N=7
40%
60%
80%
40%
60%
42%
58%
100%
50%
50%
43%
57%
屋外の道幅の違いでは、避難した人の割合が最も高いのは「かなり広い(12m 以上)」 で 57%だった。また、道幅が広くなるにつれ避難する割合が高くなることがわかる。こ れのことから、サンプル数が少ないながらも、屋外の道幅によって避難行動に違いがある ことが確認できた。
20. 周囲の混雑 地震発生時、あなたの周囲はどれくらい混雑していましたか?
0% N=14
20% 36%
60%
80%
51%
53%
N=19
100%
64%
49%
N=49
N=66 N=108
40%
47%
42% 20%
58% 80%
周囲の混雑の違いでは、避難した人の割合が最も高いのは「どちらともいえない」で 53%だった。また、 混雑が増すと避難する割合が低くなることがわかる。これのことから、 ある程度の混雑では避難する確立が高く、それ以上の混雑では待機する確立が高くなると 考えられる。混雑によって避難行動に違いがあることが確認できた。
88
5 集計結果
21. 危険物 地震発生時、あなたの周囲に「倒れると危険な物」はありましたか?
0%
20%
80%
100%
55%
36%
N=107
64% 60%
N=10
N=32
60%
45%
N=49
N=60
40%
40%
27%
73%
19%
81%
危険物の有無の違いでは、避難した人の割合が最も高いのは「どちらともいえない」で 60%だった。しかし、 「どちらともいえない」を除くと、危険物が多くなるほど避難する 割合が高くなっていることがわかる。危険物があることで危険性を感じ、避難する人が多 かったと考えられる。危険物の有無によって避難行動に違いがあることが確認できた。
22. 揺れているもの 地震発生時、あなたの周囲に「揺れている物」はありましたか?
0%
20%
60%
42%
N=104
100%
69%
38%
N=16
80% 58%
31%
N=96
N=25
40%
63%
24%
76%
N=18 11%
89%
揺れているものの有無の違いでは、避難した人の割合が最も高いのは「多くあった」で 42%だった。また、 「どちらともいえない」を除くと、揺れているものが多くなるほど避 難する割合が高くなっていることがわかる。揺れているものがあることで危険性を感じ、 避難する人が多かったと考えられる。揺れているものの有無によって避難行動に違いがあ ることが確認できた。
89
5 集計結果
23. 支え 地震発生時、あなたの周囲に頑丈な壁や柱など「支えになる物」はありましたか?
0% N=56
20%
80%
100%
70%
38%
62%
30%
70%
40%
N=35 N=12
60%
30%
N=113 N=44
40%
60%
17%
83%
支えの有無の違いでは、避難した人の割合が最も高いのは、 「あまりなかった」で 40% だった。他の選択肢でもばらつきが見られるので、支えの有無によって避難行動の違いは あまりないと考えられる。
24. 知り合いの人数 地震発生時、あなたの周囲に何人の知り合いの方がいましたか?
0% N=81 N=54 N=33 N=13 N=79
20%
40%
25%
60%
80%
100%
75%
30%
70%
33%
67%
38% 47%
62% 53%
知り合いの人数の違いでは、避難した人の割合が最も高いのは「四人以上いた」で 47%だった。また、知り合いの人数が多くなるほど避難する割合が高くなっていることが わかる。会社や学校にいた場合、避難指示により一斉に避難したことで割合が高くなった と考えられる。知り合いの人数によって避難行動に違いがあることが確認できた。
90
5 集計結果
25. 避難経路の明瞭性 地震発生時、あなたは避難経路が直接見えていましたか?
0% N=109 N=62
20%
60%
80%
35%
65%
37%
63%
42%
N=26 N=24 N=35
40%
100%
58%
29%
71%
26%
74%
避難経路の明瞭性の違いでは、避難した人の割合が最も高いのは「どちらともいえない」 で 42%だった。他の選択肢でもばらつきが見られるが、 「あまり見えていなかった」 「全 く見えていなかった」では避難する割合が低い。避難経路の明瞭性によって避難行動に違 いがある可能性が確認できた。
26. 姿勢 地震発生時、あなたはどのような体勢でいましたか?
0%
20%
40%
60%
80%
N=24
46%
54%
N=68
46%
54%
N=9 N=140 N=12 N=5
33%
100%
67%
28%
72%
17%
83% 40%
60%
姿勢の違いでは、避難した人の割合が最も高いのは「歩いていた」と「立っていた」で 46%だった。また、寝ていたが避難しにくい姿勢に対し、歩いていたなど避難しやすい姿 勢になるほど避難する割合が高くなっていることがわかる。地震発生の状況に対応しやす い姿勢でいることでが、避難する割合が高くなったと考えられる。姿勢によって避難行動 に違いがあることが確認できた。
91
5 集計結果
27. 従事状況 地震発生時、あなたは仕事中や作業中でしたか?また、それにより行動を束縛されていま したか?
0%
20%
40%
60%
80%
" ! # 'N=108(
30%
70%
" ! $ ! 'N=28(
29%
71%
31%
69%
" $ ! 'N=70( " # $ ! % 'N=33(
48%
" # # & % 'N=14(
100%
52%
57%
43%
従事状況の違いでは、避難した人の割合が最も高いのは「仕事中や作業中であり、かな り行動を束縛されていた」で 57%だった。また、従事し行動を束縛されるほど避難する 割合が高くなっていることがわかる。会社や学校にいた場合、避難指示により一斉に避難 したことで割合が高くなったと考えられる。従事状況によって避難行動に違いがあること が確認できた。
28. 立場 地震発生時、あなたはどのような立場でしたか?
0% & ) ! '# % *N=11+
20%
40%
60%
45%
80% 55%
& ) '# % *N=20+
30%
70%
& ) " $& *N=156+
28%
72%
& " ! ( '# % *N=44+ & " ! ! ( '# % *N=25+
52% 36%
100%
48% 64%
立場の違いでは、避難した人の割合が最も高いのは、「避難するかしないかの指示に、 多少従わなければならない立場だった」で 52%だった。他の選択肢でもばらつきが見ら れるので、立場によって避難行動の違いはあまりないと考えられる。
92
5 集計結果
29. 健康状態 地震発生時、あなたの健康状態はどうでしたか?
0%
20%
40%
60%
38%
! & # +N=162,
80%
62%
% % # +N=78,
28%
72%
" (!& # +N=11,
27%
73%
%) # $# +N=6,
100%
17%
83%
' #"* # $# +N=1, 0%
100%
健康状態の違いでは、避難した人の割合が最も高いのは「とても健康な状態だった」で 38%だった。また、健康な状態であるほど避難する割合が高くなっていることがわかる。 健康で地震発生に即座に対応できることで、避難する人が多かったと考えられる。揺れて いるものの有無によって避難行動に違いがあることが確認できた。
30. 思考状態 地震発生時、あなたは何か考え事をしていましたか?
0% N=41 N=72 N=46 N=64 N=37
20%
40%
60%
39%
80%
100%
61%
47%
53%
33%
67%
20%
80%
30%
70%
思考状態の違いでは、避難した人の割合が最も高いのは「少し考え事をしていた」で 47%だった。他の選択肢でもばらつきが見られるが、 「あまり考え事をしていなかった」 「全 く考え事をしていなかった」では避難する割合が低い。 『27. 従事状況』と同様に、会社 や学校にいた場合、 避難指示により一斉に避難したことで割合が高くなったと考えられる。 思考状態によって避難行動に違いがある可能性が確認できた。
93
5 集計結果
31. 揺れの認知 地震発生時、あなたは揺れを感じましたか?
0% N=220 N=30
20%
40%
60%
37%
80%
100%
63%
23%
77%
N=1 0%
100% 50%
N=2
50%
N=7 0%
100%
揺れの認知の違いでは、避難した人の割合が高いのは、サンプル数の少ない「あまり感 じなかった」を除くと、 「とても感じた」で 37%だった。「少し感じた」の 23%と比べる と高い割合であることがわかる。揺れを感じることで不安を感じ、避難した人が多かった と考えられる。揺れの認知によって避難行動に違いがあることが確認できた。
32. 認知までの時間 あなたが揺れていると確信するまでに、地震発生時からどれくらいの時間がかかりました か?
0%
5 N=153
20%
60 N=4
60%
32%
80%
100%
68%
43%
5 20 N=82
30 60 N=14
40%
57%
21%
79% 50%
N=7 0%
50% 100%
認知までの時間の違いでは、避難した人の割合が高いのは、サンプル数の少ない「60 秒以上」を除くと、 「5 〜 20 秒」で 43%だった。他の選択肢でもばらつきが見られるので、 認知までの時間の有無によって避難行動の違いはあまりないと考えられる。
94
5 集計結果
33. 地震の大きさの予想 地震発生時、あなたはどのくらい震度だと思いましたか?
0%
20%
60%
80%
75%
25%
6 N=67
59%
41%
5 N=109
74%
26%
4 N=42
100%
35%
65%
7 N=20
3 N=20
40%
85%
15%
地震の大きさの予想の違いでは、避難した人の割合が最も高いのは「震度 7 以上」で 65%だった。また、 「震度 5」を除くと、予想する震度が大きくなるほど避難する割合が 高くなっていることがわかる。震度が大きいと感じるほど危険性を感じ、避難をした人が 多かったと考えられる。地震の大きさの予想によって避難行動に違いがあることが確認で きた。
34. 被害の予想 地震発生時、あなたは周囲でどのくらいの被害が出ると思いましたか?
0%
20%
40%
60%
80%
! "N=55# ! "N=130#
37%
63%
"N=20#
35%
65%
60%
40%
26% "N=47# 0% "N=8#
100%
74% 100%
被害の予想の違いでは、 避難した人の割合が最も高いのは「大きな被害が出ると思った」 で 55%だった。また、予想する被害が大きくなるほど避難する割合が高くなっているこ とがわかる。 『33. 地震の大きさの予想』と同様に、被害が大きいと感じるほど危険性を 感じ、避難をした人が多かったと考えられる。被害の予想によって避難行動に違いがある ことが確認できた。
95
5 集計結果
35. 命の危険性 地震発生時、あなたは命の危険性を感じましたか?
0%
20%
60%
80%
57%
43%
N=74
62%
38%
N=26
72%
28%
N=75
100%
47%
53%
N=34
N=50
40%
84%
16%
命の危険性の違いでは、避難した人の割合が最も高いのは「とても感じた」で 53%だっ た。また、命の危険性を感じる度合いが大きいほど避難する割合が高くなっていることが わかる。命の危険性を感じ避難しなければ助からないと思い、避難をした人が多かったと 考えられる。命の危険性によって避難行動に違いがあることが確認できた。
36. 避難の危険予想 地震発生時、 避難するために 「その場を離れること」に対して、危険性を感じていましたか?
0% N=26 N=60 N=41 N=72 N=59
20%
40%
38% 42%
60%
80%
100%
62% 58% 73%
27% 40%
60% 76%
24%
避難の危険予想の違いでは、避難した人の割合が最も高いのは「少し感じた」で 42%だっ た。しかし、他の選択肢でばらつきが見られるので、避難の危険予想によって避難行動の 違いはあまりないと考えられる。避難の危険性を感じるかどうかは、待機をするという意 思決定に関係していないと言える。
96
5 集計結果
37. 待機の危険予想 地震発生時、避難せず「その場に留まること」に対して、危険性を感じていましたか?
0%
20%
60%
80%
47%
53%
N=78
67%
33%
N=27
100%
31%
69%
N=32
N=71
40%
85%
15%
88%
N=51 12%
待機の危険予想の違いでは、避難した人の割合が最も高いのは「とても感じた」で 69%だった。また、待機の危険性を感じるほど避難する割合が高くなっていることがわか る。その場に待機をしていては危ないと思い、避難をした人が多かったと考えられる。待 機の危険予想によって避難行動に違いがあることが確認できた。
38. 避難経路のイメージ 地震発生時、あなたはその後どうやって避難を行なうかを頭の中でイメージできていまし たか?
0%
20%
!N=30" !N=90" !N=47"
40%
60%
80% 50%
50%
63%
37%
70%
30%
!N=53" 13% !N=39"
100%
58%
42% 87%
避難経路のイメージの違いでは、避難した人の割合が最も高いのは「正確にイメージで きた」で 50%だった。また、 「あまりイメージできなかった」を除くと、避難経路を正確 にイメージできるほど避難する割合が高くなっていることがわかる。逆に、避難経路がイ メージできないと待機せざるを得ないと考えられる。地震の大きさの予想によって避難行 動に違いがあることが確認できた。
97
5 集計結果
39. 避難意思 地震発生時、あなたは避難しようと思いましたか?
0%
20%
60%
80%
46%
54%
N=50
70%
30%
N=23
88%
12%
N=90
100% 17%
83%
N=36
N=60
40%
80%
20%
避難意思の違いでは、 避難した人の割合が最も高いのは「とても思った」で 53%だった。 避難意思に応じて、避難する割合が高くなっていることがわかる。しかし、「全く思わな かった」が 20%と少し高くなっている。このことから、避難する意思がなかった場合でも、 誰かの指示やにより避難をした人がいたと考えられる。これを踏まえても、避難意思によっ て避難行動に違いがあることが確認できた。
43. 自己判断 地震発生時の、あなたの避難するかしないかの判断は正しかったと思いますか?
0% N=83 N=131
20%
40%
60%
80%
34%
66%
32%
68%
N=35
43%
57%
N=7 0% N=3
43%
57%
100%
100%
自己判断では、避難した人の割合が最も高いのは、「どちらともいえない」と「あまり 正しくなかったと思う」で 43%だった。他の正しかったと思うに比べ少し割合が高いこ とから、避難をした人は、自分の判断が正しくなかったと思う傾向があることがわかる。 これは、自分の身に地震による被害がなかったという結果から、待機していても良かった という考えが原因であると思われる。避難行動の違いによって自己判断に影響があること が確認できた。 98
5 集計結果
44. 適切な避難 地震発生時のあなたはどのような行動をとりましたか?あてはまる項目を全て選択して下 さい。
0%
20%
+ IE5. VOTN, , " ,& >=W?A#:1>.F/?47VN=105W
60%
74%
26%
69%
31%
+ 4 />=, @ @ K 13>. F/ 47VN=23W
100%
68%
32%
+ '? 8 .; 47VN=134W
80%
57%
43%
+LRTERPM, )>=<(K !47 VN=25W +-J;; ?*C 36, I203DH @K 97VN=141W
40%
43%
57%
+=@SUQ<$%5IB 1 K4;1 G$%K47VN=21W
19%
81% $%47
47
適切な避難では、避難した人の割合が最も高いのは、「どのルートで避難すれば安全か 確認してから避難した」で 43%だった。しかし、これは避難した人が選択するであろう 選択肢なので当然の結果である。その他では「倒れやすい物には近づかないようにした」 が 43%と高い割合となった。
この質問は複数選択が可能だったため、回答者の選択数の集計も行っている。選択数が多 いほど、より適切な行動をとっていたと言える。
0% 1 N=128 2 N=60
20%
40%
60%
100%
66%
34%
72%
28%
3 N=43
35%
65%
4 N=9
33%
67%
5 N=7
80%
43%
57%
6 N=1
0%
100%
結果、避難した人の割合が最も高いのは、サンプル数の少ない「6 つ」を除くと、 「5 つ」 で 57%だった。4 つまでの選択肢が 30%前後であることを踏まえると、上記の行動の 5 つを行うことで避難する割合が高くなると言える。適切な避難によって避難行動に違いが あることが確認できた。
99
5 集計結果
46. 被災体験(地震) あなたは地震発生時以前に、地震により負傷や建物被害などの被害を受けたことはありま したか?
0% 4 N=5
20%
40%
60%
80%
100%
60%
40%
3 N=0 2 N=2
50%
50%
1 N=12
50%
50%
N=238
67%
33%
地震の被災体験の違いでは、避難した人の割合が最も高いのは「1 度あった」と(サン プル数は少ないが) 「2 度あった」で 50%だった。「4 度以上あった」も含めて、「被害を 受けたことがなかった」より避難する割合が高くなっていることがわかる。地震の被災体 験によって避難行動に違いがあることが確認できた。
48. 避難体験 あなたは地震発生時以前に、地震のために避難したことはありましたか?
0% 4 N=5
20%
40%
60%
80%
100%
60%
40%
3 N=0
41%
59%
1 N=17 N=233
0%
100%
2 N=2
68%
32%
避難体験の違いでは、避難した人の割合が最も高いのはサンプルの少ない「2 度あった」 を除くと、 「1 度あった」 で 59%だった。 「4 度以上あった」も含めて、 「避難したことがなかっ た」より避難する割合が高くなっていることがわかる。避難経験によって避難行動に違い があることが確認できた。
100
5 集計結果
49. 防災訓練 あなたは地震発生時以前に、地域や学校で行なわれている防災訓練にどれくらい参加して いましたか?
0%
N=57 2 3 N=37
20%
40%
60%
80%
30%
70%
32%
68%
4 9 N=74
100%
62%
38%
10 N=46
33%
67%
N=43
35%
65%
防災訓練の違いでは、避難した人の割合が最も高いのは、 「4 〜 9 年前に参加して以来、 参加していなかった」で 38%だった。他の選択肢でも顕著な差は見られなかったので、 防災訓練によって避難行動に違いはあまりないと考えられる。
50. ハザードマップ あなたは地震発生時以前に、区役所や市役所で配布されているハザードマップを見たこと がありましたか?
0%
20%
40%
60%
80%
#N=16$
25%
75%
#N=51$
25%
75%
" #N=79$
#N=56$
65%
35%
! #N=53$
100%
42%
58% 68%
32%
ハザードマップの違いでは、避難した人の割合が最も高いのは「見なければと思ってい たが見たことがなかった」で 42%だった。また上二つの選択肢のように、見たことがあ り内容も憶えているほうが、避難した割合が低いことがわかる。ハザードマップによって 避難行動に違いがあることが確認できた。
101
5 集計結果
51. 防災準備 あなたやあなたのご家族は地震発生以前に、防災グッズなどを準備していましたか?
0% # $N=7% ! # $N=62% # $N=76% # " # $N=78% # # $N=35%
20%
40%
60%
80%
29%
71%
26%
74% 45%
100%
55% 68%
32%
71%
29%
防災準備の違いでは、避難した人の割合が最も高いのは「少しは準備していた」で 45%だった。他の選択肢でも顕著な差は見られなかったので、防災準備によって避難行動 に違いはあまりないと考えられる。
102
分析
観測変数ごとにみる相関
6 6.1
相関とパターン
6.1.1
建築環境とその他の相関
6.1.2
環境とその他の相関
6.1.3
共分散構造分析による仮説モデルの検証
6.2
探索的因子分析によるモデル
6.3
仮説モデルの再編とモデルの求め方
6.3.1
多母集団同時分析によるモデル比較
6.3.2
6 分析
6 分析 6.1 観測変数ごとにみる相関 6.1.1 相関とパターン 本節では、共分散構造分析に取りかかる前に変数(観測変数)の単体同士の関係を見 ていく。そのために相関分析を行い、観測変数同士の相関係数を求める。 相関係数とは変数同士の相関を表すもので、± 1 に近づくと相関関係が強くなり、0 に 近づくと弱くなる。その相関係数には統計学的な基準はないが、『らくらく図解アンケー ト分析教室』21)では、以下のように指標を定めている。本研究でもその指標を用いる(表 6-1-1-1) 。また「#DIV/0!」はエラー値を表し相関が全くないことを示す。
表 6-1-1-1 相関関数の評価基準
以上の指標を用い、 「建築環境」と「環境」の観測変数と、相関を知りたい「リスク不安」 「認知」 「避難」の観測変数の相関の強さを明らかにしていく。
また、 本研究では『屋内か屋外』 『避難したか待機したか』で場合分けを行う必要がある。 そのため本節では場合分けを行わない『全体』に『屋内』『屋外』『避難した』『待機した』 『屋内で避難した』 『屋内で待機した』『屋外で避難した』『屋外で待機した』の場合分けの 8 パターンを加える。計 9 パターンで相関分析を行い、各パターンでの相関の違いを探る。 各パターンとサンプル数の関係を表 6-1-1-2 に示す。
表 6-1-1-2 パターンとサンプル数
104
6 分析
また、今後使用する総計ソフト『SPSS Statistics 19』(IBM)の文字入力の規則にした がい、相関行列表記方法を以下のように変更した。
表 6-1-1-3 項目名変換表
105
6 分析
6.1.2 建築環境とその他の相関 「建築環境」の観測変数とその他の変数との相関を見ていく。 パターンごとに求めた相関行列から、建築環境「階数(屋内)」「印象(屋内)」「出口まで の距離(屋内) 」 「周囲の建物の高さ(屋外)」「道幅(屋外)」「避難経路の明瞭性」(「場所 (屋内) 」 「場所(屋外) 」は連続データでは無いので除外した)の 8 つとその他の変数との 相関係数を抜き出し、表 6-1-2-1 にまとめる。
表 6-1-2-1 パターン 0 の建築環境と他の観測変数との相関行列
106
6 分析
表 6-1-2-2 パターン 1 の建築環境と他の観測変数との相関行列
107
6 分析
表 6-1-2-3 パターン 2 の建築環境と他の観測変数との相関行列
108
6 分析
表 6-1-2-4 パターン 3 の建築環境と他の観測変数との相関行列
109
6 分析
表 6-1-2-5 パターン 4 の建築環境と他の観測変数との相関行列
110
6 分析
表 6-1-2-6 パターン 5 の建築環境と他の観測変数との相関行列
111
6 分析
表 6-1-2-7 パターン 6 の建築環境と他の観測変数との相関行列
112
6 分析
表 6-1-2-8 パターン 7 の建築環境と他の観測変数との相関行列
113
6 分析
表 6-1-2-9 パターン 8 の建築環境と他の観測変数との相関行列
114
6 分析
6.1.3 環境とその他の相関 「環境」の観測変数とその他の変数との相関を見ていく。 パターンごとに求めた相関行列から、環境「周囲の混雑」「危険物の有無」「揺れているも のの有無」 「支えの有無」 「知り合いの人数」の 5 つとその他の変数との相関係数を抜き出 し、表にまとめる。
表 6-1-3-1 パターン 0 の環境と他の観測変数との相関行列
115
6 分析
表 6-1-3-2 パターン 1 の環境と他の観測変数との相関行列
116
6 分析
表 6-1-3-3 パターン 2 の環境と他の観測変数との相関行列
117
6 分析
表 6-1-3-4 パターン 3 の環境と他の観測変数との相関行列
118
6 分析
表 6-1-3-5 パターン 4 の環境と他の観測変数との相関行列
119
6 分析
表 6-1-3-6 パターン 5 の環境と他の観測変数との相関行列
120
6 分析
表 6-1-3-7 パターン 6 の環境と他の観測変数との相関行列
121
6 分析
表 6-1-3-8 パターン 7 の環境と他の観測変数との相関行列
122
6 分析
表 6-1-3-9 パターン 8 の環境と他の観測変数との相関行列
123
6 分析
6.2 共分散構造分析による仮説モデルの検証 次に共分散構造分析を用いて、5 章で立てた仮説モデルの当てはまりを検証する。分析 には共分散構造分析ソフト『Amos 19』(IBM)を用いた。基本モデルを Amos の仕様に当て はめたものが図 6-2-1 である。以下、前節での各パターンでモデルの検証を行う。
<パターン 0 >
場合分けに関わらず全データを用いて基本モデルの検証を行う。そのため構成概念『建 築環境(屋内屋外とも) 』の観測変数全てと、観測変数『避難理由』『待機理由』は分析か ら除いた。 分析を実行すると「反復回数が限界に達しました。次の結果は正しくありません。モデ ルは識別されませんでした。更に制約が1個必要です。」 とモデルが識別されず、却下された。よって、仮説モデルから関連の小さいパスを取り除 いていく必要がある。
そこで、以下のルールに従い、モデルに変更を加えていく。
・標準化係数の推定値± 1.0 以下のパスを除いて、もう一度分析を実行する。 ・推定値± 1.0 以下のパスが無くなってもモデルが識別されない場合、± 2.0 以下のパス を除く。これを繰り返し、絶対値を大きくしていく。 ・推定値が識別不可能のものを除く。 ・構成概念や観測関数でパスの出入りがなくなった構成概念を除く。 ・観測変数を除いていき、構成概念と観測変数が1対1になった場合、構成概念を取り除 き観測変数に構成概念と同様なパスを引く。
パターン 0 では上記の作業を繰り返しモデルに変更を加えていくことで、適合度の高い モデルが出力される(図 6-2-2)。 モデルの適合度は、分析実行時に出力される IFI、CFI、RMSEA の値を適合度の指標する。 IFI、CFI は 0.9 以上で、RMSEA は 0.1 以下であれば当てはまりが良いと判断される。得ら れたモデルの指標の値は、IFI=.995 CFI=.995 RMSEA=.036 となり、以上の条件を満た す当てはまりが良く、適合度の高いモデルだと言える。 パターン 0 の検証モデルから、以下のことが読み取れる。
・揺れの認知はリスク不安を通じて、避難意思に影響している。 ・リスク不安が大きくなると、避難意思が高くなる。 ・避難意思が高くなると、避難する確率が高くなる。
同様の方法で他 8 パターンにおいて仮説モデルを検証していく。
124
6 分析
図 6-2-1 基本モデル(観測変数と構成概念の関係)
IFI=.993 CFI=.993 RMSEA=.052 図 6-2-2 パターン 0 検証モデル
125
6 分析
<パターン 1(屋内)>
パターン 1 では屋内にいた回答者のデータを用いて基本モデルの検証を行う。そのため 構成概念『建築環境(屋外) 』の観測変数全てと、観測変数『避難理由』『待機理由』は分 析から除いた。 分析を実行するとモデルが識別されず却下されたので、モデルの変更作業を行った。し かし最終的に、ほぼ全てのパスが識別不可能となったので、作業を中止した。このパター ンのモデルは破棄する。
<パターン 2(屋外)>
パターン 2 では屋外にいた回答者のデータを用いて基本モデルの検証を行う。そのため 構成概念『建築環境(屋内) 』の観測変数全てと、観測変数『避難理由』『待機理由』は分 析から除いた。 分析を実行するとモデルが識別されず却下されたので、モデルの変更作業を行った。す ると、適合度の指標を満たすモデルが得られた(図 6-2-3)。このモデルから、以下のこ とが読み取れる。
・認知はリスク不安を通じて、避難意思に影響している。 ・認知はリスク不安に大きく影響している。屋外では揺れを感じることで、被害の大きさ の予想が高くなることがわかる。 ・避難意思が高くなると、避難する傾向が少し高くなる。
屋外では、揺れをできるだけ大きく、早く認知させることで避難を促すことができる。
IFI=.998 CFI=.997 RMSEA=.032 図 6-2-3 パターン 2 検証モデル
126
6 分析
<パターン 3(避難)>
パターン 3 では避難した回答者のデータを用いて避難モデルの検証を行う。そのため構 成概念『建築環境(屋内屋外とも)』の観測変数全てと、観測変数『避難行動』『待機理由』 は分析から除いた。 分析を実行するとモデルが識別されず却下されたので、モデルの変更作業を行った。 分析を実行するとモデルが識別されず却下されたので、モデルの変更作業を行った。する と、適合度の指標を満たすモデルが得られた(図 6-2-4)。このモデルから、以下のこと が読み取れる。
・環境は揺れの認知を通じて、リスク不安に影響を与える。 ・リスク不安は避難意思に大きく影響を与える。 ・状態は避難意思に負の影響を与えるが、リスク不安を通して正の影響を与える。パス係 数を合計すると、 -0.36+0.40 × 0.97=0.028 とほぼ影響がないということになる。しかし、 仕事や作業に従事している状況は、命の危険性などのリスク不安を高めることがわかる。 ・揺れの認知はリスク不安にあまり影響を与えない。避難した人では揺れを認知すること が命の危険性などのリスク不安をあまり高めないことがわかる。
避難を促すためには、揺れを認知させるよりも、待機の危険性を伝えるなど直接リスク 不安を高めることが有効である。
IFI=.972 CFI=.963 RMSEA=.034 図 6-2-4 パターン 3 検証モデル
127
6 分析
<パターン 4(待機)>
パターン 2 では屋外にいた回答者のデータを用いて待機モデルの検証を行う。そのため 構成概念『建築環境(屋内屋外とも)』の観測変数全てと、観測変数『避難行動』『避難理 由』は分析から除いた。 分析を実行するとモデルが識別されず却下されたので、モデルの変更作業を行った。す ると、適合度の指標を満たすモデルが得られた(図 6-2-5)。このモデルから、以下のこ とが読み取れる。
・環境はリスク不安を通じて、避難意思に影響を与える。 ・環境は認知に影響を与える。 ・パターン 3(避難)と異なり、環境が認知を通じずリスク不安に直接影響を及ぼしている。 待機した人は、揺れているものがあまり無く、それが命の危険性などのリスク不安を煽る こともなく、避難意思も低くなっていたと考えられる。 ・リスク不安は避難意思に影響を与える。 ・環境に影響をあたえる主な要因は揺れているものである。 ・リスク不安を高くする主な要因は待機の危険予想である。
待機を促すためには、揺れているものや危険物を少なくし、避難の危険予想などのリス ク不安を軽減することが有効である。
IFI=.972 CFI=.971 RMSEA=.063 図 6-2-5 パターン 4 検証モデル
128
6 分析
<パターン 5(屋内 / 避難)>
パターン 5 では屋内にいて避難した回答者のデータを用いて避難モデルの検証を行う。 そのため構成概念『建築環境(屋外)』の観測変数全てと、観測変数『避難行動』『待機理 由』は分析から除いた。 分析を実行するとモデルが識別されず却下されたので、モデルの変更作業を行った。す ると、適合度の指標を満たすモデルが得られた(図 6-2-6)。このモデルから、以下のこ とが読み取れる。
・屋内の印象はリスク不安を通じて避難意思に影響を与える。屋内で避難した人では屋内 の印象が古いと感じるほど、倒壊などを恐れ、待機の危険予想などのリスク不安を感じ、 避難意思が高くなっていたことがわかる。 ・リスク不安は避難意思に影響を与える。 ・リスク不安を大きくする主な要因は待機の危険予想である。 屋内で避難を促すには、古いという印象を持たせ、待機の危険予想などのリスク不安を 高めることが有効である。また、屋内で待機を促すには、新しいという印象を持たせリス ク不安を軽減することが有効である。
IFI=.971 CFI=.967 RMSEA=.046 図 6-2-5 パターン 5 検証モデル
129
6 分析
<パターン 6(屋内 / 待機)>
パターン 6 では屋内にいて待機した回答者のデータを用いて待機モデルの検証を行う。 そのため構成概念『建築環境(屋外)』の観測変数全てと、観測変数『避難行動』『避難理 由』は分析から除いた。 分析を実行するとモデルが識別されず却下されたので、モデルの変更作業を行った。 すると、適合度の指標を満たすモデルが得られた(図 6-2-7)。パターン 4 のモデル(図 7-2-5)と酷似している。このモデルから、以下のことが読み取れる。
・環境はリスク不安を通じて、避難意思に影響を与える。 ・環境は認知に影響を与える。 ・リスク不安は避難意思に影響を与える。 ・環境に影響をあたえる主な要因は揺れているものである。 ・リスク不安を高くする主な要因は待機の危険予想である。 ・パターン 4(待機)と酷似したモデルとなったが、このモデルの方が環境がリスク不安 に与える影響が少ない。屋内で待機した人は、たとえ揺れているものがあったとしても命 の危険性などのリスク不安を感じる度合いが低いことがわかる。
屋内で待機を促すには、 揺れているものを無くすよりも待機していても大丈夫だと伝え、 待機の危険予想を軽減することが有効である。
IFI=.960 CFI=.957 RMSEA=.070 図 6-2-7 パターン 6 検証モデル
130
6 分析
<パターン 7(屋外 / 避難)>
パターン 7 では屋外にいて避難した回答者のデータを用いて避難モデルの検証を行う。 そのため構成概念『建築環境(屋内)』の観測変数全てと、観測変数『避難行動』『待機理 由』は分析から除いた。 分析を実行するとモデルが識別されず却下されたので、モデルの変更作業を行った。し かし最終的に、ほぼ全てのパスが識別不可能となったので、作業を中止した。したがって、 パターン 7 のモデルは破棄する。サンプル数の少なさが原因として考えられる。
<パターン 8(屋外 / 待機)>
パターン 8 では屋外にいて待機した回答者のデータを用いて待機モデルの検証を行う。 そのため構成概念『建築環境(屋内)』の観測変数全てと、観測変数『避難行動』『避難理 由』は分析から除いた。 分析を実行するとモデルが識別されず却下されたので、モデルの変更作業を行った。し かし最終的に、ほぼ全てのパスが識別不可能となったので、作業を中止した。したがって、 パターン 7 のモデルは破棄する。サンプル数の少なさが原因として考えられる。
<パターン 1 〜 8 のまとめ> これまでのパターン 1 からパターン 8 までの分析から分かったことををまとめる。
・全モデルで、リスク不安は避難意思に影響を与える。 ・避難モデルでは、環境は揺れの認知を通じて、リスク不安に影響を与える。 ・待機モデルでは、環境は揺れの認知を通じず、リスク不安に影響を与える。
以上のことから、避難するかしないかの意思決定には危険物や揺れているものの有無と いった環境が影響していることが明らかになった。よって、人々が避難しないようにする ためには危険物や揺れているものをなくし、環境を整えることが効果的であると考えられ る。
しかしここまでの分析では、分析の過程で観測変数や構成概念が多く取り除かれてし まった。その原因として、地震発生時にいた場所(住宅や職場など)によってモデルは大 きく異なることが考えられる。そこで次項より、地震発生時にいた場所ごとのパターンで モデルの検証を行う。
131
6 分析
<パターン 9(住宅)>
パターン 9 では屋内の住宅(一戸建てと集合住宅)にいた回答者のデータを用いて基本 モデルの検証を行う。そのため構成概念『建築環境(屋外)』の観測変数全てと、観測変数『避 難理由』 『待機理由』は分析から除いた。 分析を実行するとモデルが識別されず却下されたので、モデルの変更作業を行った。す ると、 適合度の指標を満たすモデルが得られた(図 6-2-8)。これまでのモデルと異なり『建 築環境(屋内) 』がある。このモデルから、以下のことが読み取れる。
・環境は認知を通じて、リスク不安に影響を与える。 ・環境はリスク不安に直接でも影響を与える。 ・建築環境はリスク不安を通じて、避難意図に影響を与える。 ・リスク不安は避難意図に影響を与える。 ・建築環境に影響をあたえる主な要因は場所 _ 屋内である。 ・リスク不安を高くする主な要因は命の危険性である。
住宅では出口までの距離を短く、階数が低いほど命の危険予想などのリスク不安が軽減 され避難意図も低くなる。逆に出口までの距離が長く、階数が高いほどリスク不安が高く なり避難意図も高くなる。
IFI=.963 CFI=.960 RMSEA=.046 図 6-2-8 パターン 9 検証モデル
132
6 分析
<パターン 10(一戸建て)>
パターン 10 では屋内の一戸建てにいた回答者のデータを用いて基本モデルの検証を行 う。そのため構成概念『建築環境(屋外)』の観測変数全てと、観測変数『避難理由』『待 機理由』は分析から除いた。 分析を実行するとモデルが識別されず却下されたので、モデルの変更作業を行った。す ると、適合度の指標を満たすモデルが得られた(図 7-2-9)。このモデルから、以下のこ とが読み取れる。
・環境は認知を通じて、リスク不安に影響を与える。 ・環境はリスク不安に直接でも影響を与える。 ・リスク不安は避難意図に影響を与える。 ・屋内の印象はリスク不安に影響を与える。 ・リスク不安を高くする主な要因は待機の危険予想である。
一戸建てでは、揺れているものや揺れの認知がリスク不安への影響が低い。家で一人で いることがリスク不安を高めている可能性がある。屋内で待機を促すには、家の印象を新 しくすることが有効である。
IFI=.980 CFI=.978 RMSEA=.040 図 6-2-9 パターン 10 検証モデル
133
6 分析
<パターン 11(集合住宅)>
パターン 11 では屋内の集合住宅にいた回答者のデータを用いて基本モデルの検証を行 う。そのため構成概念『建築環境(屋外)』の観測変数全てと、観測変数『避難理由』『待 機理由』は分析から除いた。 分析を実行するとモデルが識別されず却下されたので、モデルの変更作業を行った。す ると、適合度の指標を満たすモデルが得られた(図 6-2-10) 。このモデルから、以下のこ とが読み取れる。
・環境はリスク不安を通じて、リスク不安に影響を与える。 ・環境は認知に影響を与える。 ・リスク不安は避難意思に影響を与える。 ・環境に影響をあたえる主な要因は揺れているものである。 ・リスク不安を高くする主な要因は待機の危険予想である。
パターン 4 やパターン 6 の待機の場合のモデルに酷似している。集合住宅で待機を促すに は、揺れているものを無くすよりも待機していても大丈夫だと伝え、待機の危険予想を軽 減することが有効である。
IFI=.951 CFI=.944 RMSEA=.090 図 6-2-10 パターン 11 検証モデル
134
6 分析
<パターン 12(職場)>
パターン 12 では屋内の職場にいた回答者のデータを用いて基本モデルの検証を行う。 そのため構成概念『建築環境(屋外)』の観測変数全てと、観測変数『避難理由』『待機理 由』は分析から除いた。 分析を実行するとモデルが識別されず却下されたので、モデルの変更作業を行った。す ると、適合度の指標を満たすモデルが得られた(図 7-2-11) 。このモデルから、以下のこ とが読み取れる。
・危険物はリスク不安を通じて、避難意図に影響を与える。 ・リスク不安は避難意思に影響を与える。 ・リスク不安を高くする主な要因は待機の危険予想である。
職場で避難を促すには命の危険性を伝えることが有効であると考えられる。そのために、 危険物の存在を認知させることが有効であると考えられる。
IFI=.964 CFI=.959 RMSEA=.122 図 6-2-11 パターン 12 検証モデル
135
6 分析
<パターン 13(その他)>
パターン 13 では屋内のその他の場所(一戸建てと集合住宅、職場以外)にいた回答者 のデータを用いて基本モデルの検証を行う。そのため構成概念『建築環境(屋外)』の観 測変数全てと、観測変数『避難理由』『待機理由』は分析から除いた。 分析を実行するとモデルが識別されず却下されたので、モデルの変更作業を行った。す ると、 適合度の指標を満たすモデルが得られた(図 7-2-12)。これまでのモデルと異なり「立 場」がある。このモデルから、以下のことが読み取れる。
・揺れているものは揺れの認知を通じて、リスク不安に影響を与える。 ・揺れの認知はリスク不安を通じて、避難意図に影響を与える。 ・リスク不安は避難意思に影響を与える。 ・立場は避難意図に影響を与える。
その他の場所にいた場合、避難を指示する必要がなく、自由な立場であることが避難意 図を高めている。逆に指示する立場であるほど、待機する傾向が見られることがわかる。 避難を促すためにも、揺れているものを認知をさせることで、揺れを認知させ、リスク不 安を高めることが有効である。
IFI=1.080 CFI=1.000 RMSEA=.000 図 6-2-12 パターン 13 検証モデル
136
6 分析
<本節のまとめ>
パターン 9 とパターン 13 で「建築環境」や「立場」といった、他のパターンとは異な る要因が確認できた。しかし本節の分析では、分析の過程で観測変数や構成概念が多く取 り除かれてしまった。その原因として、仮説モデルの観測変数のまとまりや、構成概念や パスの設定が良くなかったと考えられる。 そこで、次節では仮説モデルの再編を行い、共分散構造分析を行う。
137
6 分析
6.3 探索的因子分析によるモデル 6.3.1 仮説モデルの再編とモデルの求め方 前説では、分析の過程で観測変数や構成概念が多く取り除かれてしまった。そのため、 建築環境や環境の影響を明らかにできなかった。 そこで本節では、パターン 0 で因子分析を行い新たな構成概念を設定する。因子分析に より、13 の因子が抽出された(次項:表 6-3-1-1) 。また、パターン行列から各因子の観 測変数が読み取れるので、その因子を構成概念として置き換え、仮説モデルを再編してい く。 次に、モデルの当てはまりを良くし環境の影響を明らかにするために、以下の条件でモ デルの再編を行った。
・因子負荷量 0.35 以下のものを除く。 ・因果関係が認められず、関係性が説明できないものを除く。 ・観測変数が1つの因子を除く。 ・これまで基本情報、防災意識、先行体験と扱ってきた観測変数を除く。 ・これまで環境と扱ってきた観測変数は除かない。
その結果得られた、観測変数と構成概念の関係を表 6-3-1-2 に示す。
表 7-3-1-2 再編後の構成概念と観測変数
138
6 分析
表 6-3-1-1 相関関数の評価基準
139
6 分析
つぎに、探索的モデル特定化を行い構成概念間にパスを描く。表 6-3-1-1 の因子相関行 列から、相関係数が 0.3 以上の相関の強い因子同士を抽出する。その結果「避難意図 - 環 境」 「避難意図 - リスク不安」「環境 - リスク不安」の相関が強く、パスを引くことができ ると考える。 その後、構成概念間で因果関係が説明でき、考えうるパスを引いた(図 6-3-1-1)。そ のパスが必要か、不必要かの 16,384 通りの中から適合度の高いモデルを特定した(図 6-3-1-2) 。
図 6-3-1-1 再編後の構成概念間のパス
140
6 分析
図 6-3-1-2 再編後のパターン 0 の適合モデル(IFI=.925 CFI=.921 RMSEA=.058)
この適合モデルから、避難意図には様々な要因が関わっていることがわかる。そこで避 難意図を高める方法について構成概念ごとに考察を行う。共分散構造分析のモデルには、 パス係数の計算することで関係性を求めることができるという特徴がある。
・避難経路 避難経路が避難意図へ通じるルートは、地震への不安を経由する 1 つのみである。その パス係数を計算すると、0.080 × 0.4=0.032 と非常に小さい。このことから、避難経路を 明確にすることや避難経路のイメージを持たせることは避難意図にほぼ影響がないことが 言える。
・認知 認 知 か ら 避 難 意 図 へ 通 じ る ル ー ト は 4 つ で あ る。 そ の パ ス 係 数 を 計 算 す る と、 -0.20+0.6 × 0.48+(-0.19 × 0.06 × 0.48)+0.07 × 0.06 × 0.48=0.12 である。このことから、 揺れを認知させることや認知時間を早めることは、避難意図を少し高めると言える。
141
6 分析
・周囲の物 周囲の物が避難意図へ通じるルートは 5 つである。そのパス係数の合計を計算すると、 0.39+0.52 × (-0.20)+0.68 × 0.48+(-0.19 × 0.06 × 0.48)+0.07 × 0.06 × 0.48=0.61 と 大きい。このことから、危険物や揺れているものを増やしたり認知させることは避難意図 を大きく高めると言える。
このことから、避難行動には周囲の物が最も大きく関わっていると考えられる。避難や 待機のどちらかを促したい場合、周囲の物の配置をどうするかが重要になってくる。揺れ 易くした場合、避難を促すことができる。一方で、揺れにくくした場合には待機を促すこ とができる。 また、認知も重要な要因である。大きく揺れていると認知させたり、認知までの時間を 早めることで、避難を促すことができる。逆に言えば、大きく揺れることで避難してしま うとも考えられる。 実際に、免震のビルは大きく揺れるため避難を促してしまっているという問題点が考え られる。
142
6 分析
6.3.2 多母集団同時分析によるモデル比較 前節で求めたパターン 0 のモデルを用い、避難した人(パターン 3)と待機した人(パター ン 4)で多母集団同時分析を行った。 まず、以下でパターンごとに前節と考察を行う。
<パターン 3(避難)> ・避難経路 避難経路が避難意図へ通じるルートは、地震への不安を経由する 1 つのみである。その パス係数を計算すると、0.32 × 0.39=0.12 と小さい。このことから、避難経路を明確に することや避難経路のイメージを持たせることは避難意図を少し高める。
・認知 認 知 か ら 避 難 意 図 へ 通 じ る ル ー ト は 4 つ で あ る。 そ の パ ス 係 数 を 計 算 す る と、 -0.11+0.63 × 0.39+(-0.10) × 0.32 × 0.39+(-0.31) × 0.86 × 0.34=0.03 と非常に小さい。 このことから、揺れを認知させることや認知時間を早めることは、避難意図にほぼ影響が ないことが言える。
・周囲の物 周囲の物が避難意図へ通じるルートは 5 つである。そのパス係数の合計を計算すると、 0.36+0.35 × (-0.11)+0.63 × 0.39+(-0.10) × 0.32 × 0.39+(-0.31) × 0.86 × 0.34=0.46 と大きい。このことから、危険物や揺れているものを増やしたり認知させることは、避難 意図を高めると言える。
図 6-3-2-1 パターン 3 のモデル
143
6 分析
<パターン 4(待機)> ・避難経路 避難経路が避難意図へ通じるルートは、地震への不安を経由する 1 つのみである。その パス係数を計算すると、0.04 × 0.54=0.02 と非常に小さい。このことから、避難経路を 明確にすることや避難経路のイメージを持たせることは、避難意図にほぼ影響がないこと が言える。
・認知 認 知 か ら 避 難 意 図 へ 通 じ る ル ー ト は 4 つ で あ る。 そ の パ ス 係 数 を 計 算 す る と、 -0.25+0.71 × 0.54+0.18 × 0.04 × 0.54=0.14 と小さい。このことから、揺れを認知させ ることや認知時間を早めることは、避難意図を少し高めると言える。
・周囲の物 周囲の物が避難意図へ通じるルートは 5 つである。そのパス係数の合計を計算すると、 0.45+0.56 × (-0.25)+0.56 × 0.71 × 0.54+0.56 × 0.18 × 0.04 × 0.54+0.56 × (-0.17) × (-0.74) × 0.19=0.54 と大きい。このことから、危険物や揺れているものを増やしたり 認知させることは避難意図を大きく高めると言える。
図 6-3-2-2 パターン 4 のモデル
144
6 分析
<パターン 3 とパターン 4 の比較>
避難経路、認知、周囲の物から避難意図へのパス係数の合計値をそれぞれのパターンご とに表にまとめた(表 6-3-2-1)。この表からも、避難したか待機したかによって避難意 図に影響する要因が違うことがわかる。 さらに、もし避難した人をその場に待機させていたかった場合、揺れる物や危険物を周 囲に少ない状態にしたり、避難経路を明確に示さないという方法も考えられる。また、待 機した人を避難させていたかった場合、揺れの認知を促し早く感じさせたり、揺れている ものを少し配置しておくという方法も考えられる。 探索的因子分析によりモデルを求めたことで、避難経路という建築計画的な要素が避難 に与える影響が明らかにできた。
表 6-3-2-1 構成概念とパス係数の総合値
145
まとめ、展望
7
まとめ
7.1
展望
7.2
7 まとめ、展望
7 まとめ、展望 7.1 まとめ 本研究得られた結果を以下に示す。
<仮説検証モデルから>
避難を促すためには、揺れを認知させるよりも、待機の危険性を伝えるなど直接リスク 不安を高めることが有効である。逆に、待機を促すためには、揺れているものや危険物を 少なくし、避難の危険予想などのリスク不安を軽減することが有効である。 屋内で避難を促すには、古いという印象を持たせ、待機の危険予想などのリスク不安を 高めることが有効である。屋内で待機を促すには、揺れているものを無くすよりも待機し ていても大丈夫であること伝え、待機の危険予想を軽減することが有効である。
住宅では出口までの距離を短く、階数が低いほど命の危険予想などのリスク不安が軽減 され避難意図も低くなる。逆に出口までの距離が長く、階数が高いほどリスク不安が高く なり避難意図も高くなる。 一戸建てでは、揺れているものや揺れの認知がリスク不安への影響が低い。家で一人で いることがリスク不安を高めている可能性がある。屋内で待機を促すには、家の印象を新 しくすることが有効である。 職場で避難を促すには命の危険性を伝えることが有効であると考えられる。そのために、 危険物の存在を認知させることが有効であると考えられる。 その他の場所にいた場合、避難を指示する必要がなく、自由な立場であることが避難意 図を高めている。逆に指示する立場であるほど、待機する傾向が見られることがわかる。 避難を促すためにも、揺れているものを認知をさせることで、揺れを認知させ、リスク不 安を高めることが有効である。
<探索因子モデルから>
避難行動には周囲の物が最も大きく関わっていることがわかった。避難や待機のどちら かを促したい場合、 周囲の物の配置をどうするかが重要になってくる。揺れ易くした場合、 避難を促すことができる。一方で、揺れにくくした場合には待機を促すことができる。 また、認知も重要な要因であることがわかった。大きく揺れていると認知させたり、認 知までの時間を早めることで、避難を促すことができる。さらに、避難した場合では、避 難経路という建築計画的な要素が避難影響を与えることががわかった。
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7 まとめ、展望
7.2 展望 地震発生時の人の心理をモデル化することが、本研究のテーマであった。その結果、い ざ地震が起きたときに人は「何を考え、どう行動するのか」、その意思決定の過程を明ら かにすることができた。 その反面、本研究はその避難の心理の『最も基本的な部分』を明らかにしたのだろうと も思う。研究を重ねるうちに、自由記述の回答を読むうちに、研究で扱った要因とは全く 別ものの、より上位の要因があることに気がついた。それは「とっさに家族のことを考え た」 「仏壇のそばにいたかった」など決して本研究のモデルには組み込めない要因だった。 それがその人の一番の避難理由であり待機理由だったのだろう。これからの防災研究では、 個人的によって全くことなるが決定的な要因をどう扱うかが重要になってくるだろう。
日本という地震大国は、地震と向き合うしかない。今後起こりうる巨大地震に対して、 建物や空間がどのような働きをするかが最も重要になってくる。どのように人を助けるこ とができるのだろうか。人々が無意識のうちに適切な避難をできる空間であれば、バイア スによって被害を受けることもなく、過度な恐怖を覚えることもないだろう。本研究の考 え方が、今後の防災計画や避難訓練などあらゆる防災に活用されることを願う。
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参考文献
参考文献 1)Wikipedia「地震の年表」 2)気象庁「災害時地震・津波速報 平成 23 年 (2011 年 ) 東北地方太平洋沖地震」災害時 自然現象報告書、2011 年第 1 号 3)東京都「東日本大震災における 東京都の対応と教訓 - 東京都防災対応指針 ( 仮称 ) の策定に向けて - 」平成 23 年 9 月 4)Wikipedia「東北地方太平洋沖地震」 5) 株式会社ウェザーニュース 「全国 8 万 8 千人の津波・地震発生時の行動・意識を分析「東 日本大震災」調査結果」2011 年 4 月 28 日 6)株式会社ウェザーニュース「東日本大震災 津波調査 ( 調査結果 )」2011 年 9 月 8 日 7)内閣府・消防庁・気象庁共同調査「平成 23 年東日本大震災における避難行動等に関す る面接調査(住民)分析結果」平成 23 年 8 月 16 日 8)東京大学地震研究所「3 月 11 日以降の首都圏の地震活動の変化について」2012 年 1 月 23 日 http://outreach.eri.u-tokyo.ac.jp/eqvolc/201103_tohoku/shutoseis/ 9)地震調査研究推進本部 地震調査委員会「相模トラフ沿いの地震活動の長期評価につい て」平成 16 年 8 月 23 日 10)広瀬弘忠『人はなぜ逃げおくれるのか - 災害の心理学』集英社新書、2004 年 1 月 12 日第 1 刷発行 11)山村武彦『人は皆「自分だけは死なない」と思っている - 防災オンチの日本人 - 』 宝島社、2005 年 3 月 2 日 12)加藤史訓、諏訪義雄「2010 年チリ地震津波からの避難に関する調査」国土技術政策 総合研究所資料
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13)広瀬 弘忠、杉森 伸吉「正常性バイアスの実験的検討」東京女子大学心理学紀要 1, 81-86, 2005-03 14)織田澤 利守、山田 昌和「情報の外部性を考慮した災害避難行動モデルとその厚生分 析」東北大学大学院情報科学研究科 15)岡田 隆男、大宮 喜文「火災時の避難開始要因に関する研究」研究報告集 I, 材料・ 施工・構造・防火・環境工学、2009-03-28 16)中野 陽介、大宮 喜文「建築物の避難安全性評価に求められる避難者タイプの設定に 関する研究(防火) 」研究報告集 I、2005-02-28 17) 箱 田 裕 司、 都 築 誉 史、 川 畑 秀 明、 萩 原 滋『 認 知 心 理 学 (New Liberal Arts Selection) 』有斐閣、2010 年 7 月 5 日第 1 刷発行 18)マッテオ・モッテルリーニ、泉典子『経済は感情で動くーはじめての行動経済学』 2008 年 4 月 20 日第 1 刷発行 19)武井俊也「日本的比較広告が消費者購買意思決定プロセスに与える影響」中央大学商 学部久保知一研究室 20)消防庁ホームページ「消防庁防災マニュアル – 震災対策啓発資料 –」http://www. fdma.go.jp/bousai_manual/index.html
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おわりに
おわりに
感謝。
最初に、アンケートに回答していただいた方々、拡散や回収にご協力いただいた方々、こ の研究に関わっていただいた全ての方々に感謝致します。ご協力ありがとうございました。
仁史先生、今年の一年は先生と多くの時間を過ごすことができ、とても勉強になりまし た。研究室生活三年目、最後の年にお近づきになれたことを、仁史先生の先鋭さを実感す ることができたことを嬉しく思います。「渡辺仁史研究室」に入れてよかったです。 夏子さん、三年間本当にお世話になりました。時にはやさしく、時には厳しく…いや、 僕にはやさしい夏子さん。論理的なで現実的な視点、とても勉強になりました。名前はい ろいろ変わってきましたが、 「健康ゼミ」で学んだこと、飲み会、お誕生日会、ゼミ旅行、 決して忘れません。 林田先生、UD+ 共同研究や「未来本」では大変お世話になりました。今振り返ると、出 版に携わるなんて、本当に貴重な経験だったなぁと実感します。声をかけていただき、ま た細かなサポートをしていただきありがとうございました。 菊池さん、 タイトルの英訳ありがとうございました。やっぱり発音良いですね。おれ {th} の発音できないんですよね。下噛むやつ。この三年間で菊池さんの天才っぷりと奇才っぷ りを堪能しました。Thank You です! ぶっさん、僕たちの思い出は、2、3行じゃあ収まりませんよね。仁史研にあなたがい て本当によかった!これからもよろしくお願いします。どんなボケでも拾います! がっきーさん、 こどもコンペでは可愛い絵コンテありがとうございました。和みました、 そりゃもう和みました! あのさん、最後にもう一度飲めないですかね?桜の木の下でもう一度!
M1 のふたり。ひろき、 よごちゃん、来年大変だろうけど頑張って!そこに未来はある!! 不甲斐のない M2 をまとめることができたふたりなら、きっと大丈夫。俺の置き土産の封 筒は是非とも使って下さい!ししょう、きみは面白い!もこ、元気か!?
卒論生のみんな。一緒に卒業おめでとう!ありがとう!キン肉マンはむ、オオカミ少年 もにわ、頑張り家もえちゃん、元気印まっちゃん、イケメンせいじ、たいすけに似ている 成田くん。あと不思議なもえみー。個性的なメンツで楽しかった!ありがとう!
そして、M2 のみんな(すぎたつ含む) 。この三年間楽しかった!のんびりで和やかな代 だったけど、居心地よく、すごく良い代だった気がします。そして、修論おつかれ(すぎ たつ含まない)!!バリではしゃぎまくろう。朝まで語り明かそう(すぎた t)…謝辞で 2ページとか、どうかと思うので、続きは熱いあつ〜いメッセージカードで!!
最後に、家族へ。これまでの人生を支えてくれた両親、祖父母、兄に深く感謝します。 大学院での研究はとても有意義でした。私のこれからにご期待下さい。 2012 年 1 月 28 日午前 6 時 N 棟にて v
資料編
第
2部