触 覚 と 視 覚 か ら み る 床 素 材 の 印 象 評 価 Impression Evaluations of Flooring Materials on the Sight and Touch Sensesand the Thouch
はじめに
ちいさいころはよく山にあそびにいった 土 樹木 草花 虫 動物 空気 空 はだしではしりまわって あしのうらからいろいろと学んだ ふれてみるといろんな妄想をする いいかたちの石を発見! なにつくろうかな? ふかふ か の コ ケ が い っ ぱ い だ ! も っ て か え っ て ど こ に お こ う ? ふれるたび、たくさんの妄想がうかぶ
でも
東京に帰ると足の裏が淋しい 慣れてくるとそれも感じなくなって 足の裏から何も浮かばなくなった
あしのうらで妄想できる場所がほしい
目次
はじめに
2
もくじ
3
1 背景
5
1.1 視覚 1.1.1 五感の中の視覚
6
1.1.2 視覚障がい者
7
1.1.3 視覚を遮断した空間事例 「DIAROG IN THE DARK 」
8
1.2 触覚 1.2.1 五感の中の触覚
9
1.2.2 はだしと健康
10
1.2.3 床素材と健康に関する空間事例 「天命反転住宅」
11
1.3 床材 1.3.1 現在の一般的な床材
12
1.3.2 床の素材が空間を印象づけた事例 「秋野不矩美術館」
15
1.4 既往研究 1.4.1 視覚と触覚に関する既往研究
16
1.4.2 はだしに関する既往研究
17
1.4.3 床材に関する既往研究
18
2 研究概要
19
2.1 用語の定義
20
2.2 研究目的
21
2.3 研究フロー
22
3 研究方法 3.1 実験概要
23
3.1.1 実験目的
24
3.1.2 実験内容
25
3.1.3 実験準備
26
3.1.4 実験手順
27
3.1.5 教示内容
29
3.2 実験方法 3.2.1 実験の検討 3.2.1.1 材料の検討
30
3.2.1.2 被験者の検討
35
3.2.1.3 実験手順の検討
37
3.2.2 アンケート 3.2.2.1 基礎アンケート
38
3.2.2.1 実験アンケート
39
4 実験結果
40
4.1 擬態語・擬音語におけるアンケートの結果
42
4.1.1 ①足の裏の触覚のみで認識する
41
4.1.1 ②視覚のみで認識する
47
4.1.3 ③足の裏の触覚と視覚を併せて認識する
53
4.2 SD 法に基づくアンケートの結果
61
4.2.1 ①足の裏の触覚のみで認識する
60
4.2.1 ②視覚のみで認識する
61
4.2.3 ③足の裏の触覚と視覚を併せて認識する
62
4.3 自由記述によるアンケートの結果
63
5 分析
74
5.1 擬態語・擬音語におけるアンケートの分析
75
5.2 SD 法に基づくアンケートの分析
87
5.3 自由記述によるアンケートの分析
99
5.4 分析のまとめ 5.4.1 擬態語・擬音語におけるアンケートのまとめ
111
5.4.2 SD 法に基づくアンケートまとめ
113
6 考察
114
6.1 素材感による素材の選定表の作成
117
6.2 形容詞対による素材選定表の作成
118
7 まとめ
119
7.1 結論
120
7.2 展望
121
8 さいごに
122
8.1 謝辞
123
8.2 参考論文
124
1 背景
視覚
1.1
触覚
1.2
床素材
1.3
既往研究
1.4
1
背景
1.1 視覚 1.1.1 五感の中の視覚
*1 「商売に役立つ心理学」 http://qualitia.jp/
psychology/list-p/sikaku/
人は視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚の五感を通して、外界からの刺激を情報として認識している。人 が外界から刺激を得る際、それぞれの五感が受けている情報量の割合は fig.1.1.1-1 のようになる。この 円グラフからわかるように、人の情報源はその大部分を視覚が占めていることがわかる。現代の社会・ 文化は視覚に依存している部分があり、五感のその他の感覚を軽視している部分がある。*1*2
*2
視覚刺激はふたつの感覚の刺激を同時に得たときも優位性を保っており、五感のうち、ふたつをくらべ
http://yuu-yuu.cocolog-nifty.
として論じていく。
「よくみえること。よく生き ること。」 com/visioncare/2006/05/
る研究の多くは視覚刺激を基準になされている。本研究では触覚刺激を基準とし、視覚刺激を比較対象
post_a621.html
fig.1.1.1-1 日常生活での五感情報
6
1
背景
1.1.2 視覚障がい者の視覚的印象
*3 「 平成 18 年身体障害児・者 実態調査」
http://www.mhlw.go.jp/
toukei/saikin/hw/shintai/06/ dl/01_0001.pdf
平成 18 年の厚生労働省の調べによると、視覚障がい者の数は全体総人口約 1 億 2777 万人のうち約 32 万人である。* 3 これは「身体障がい者手帳 ( 視覚障がい者 )」を交付された数であり、手帳を交付し ていない場合を含めると実際にはさらに存在すると考えられる。また、弱視者 ( 両眼に眼鏡をかけた矯 正視力が 0.05 以上 0.3 未満の者 ) は 100 万人以上存在し、視覚情報を得られない状況は身近な問題と なってきている。* 4
*4 「 総務省 統計データ」 http://www.stat.go.jp/data/
jinsui/2006np/
前項から、視覚をのぞいた五感では、取得する情報量の割合は多いものから順に並べると、聴覚、触覚、 嗅覚、味覚となる。こうした状況の中で、視覚障がい者はどのように世界を感じているのだろうか。そ のヒントは、生命の星・地球博物館の学芸員たちが行った、視覚障がい者と健常者を対象にしたアンモ ナイトの触察実験に得ることができる。この実験結果によれば、最初に触った感じ(触感実験)では両 者には大きな差は見られなかったが、化石の立体的な細かい構造などについては視覚障がい者たちの触
公益財団法人 関西盲導犬 協会」
知能力の良さが認められた。触知能力は、手や指の動かし方、部分と全体との関連付け、記憶力や構成力、
jp
高度な能力で、視覚障がい者たちは経験や訓練を通じてこうした能力を身につける。* 5
*5 「
http://www.kansai-guidedog.
連想や推理や論理的能力、言葉の理解力やそのイメージ化、視覚的なイメージ化等を総合した多面的で こうした論文から、視覚障がい者と健常者が触覚によって受ける印象にはなんらかの差があり、健常 者にとって居心地のよい空間が必ずしも視覚障がい者にとっても居心地の良い空間ではない可能性があ ることを示唆している。 本研究では、両者の触覚によって受ける印象の乖離を明らかにし、両者にとって居心地の良い床材を 検討していく。
7
1
背景
1.1.3 視覚のない空間の例 本研究では、素材を触覚で認識した際に生まれる印象の可能性について論じていく。本項では、五感 のうちで最も多くの情報を認識している視覚をあえて遮断し、触覚も含めたほかの五感の可能性を模索 した先行事例を紹介する。
【 DIALOG IN THE DARK 】 1988 年、ドイツ人哲学博士であるアンドレス・ハイネッケの発案によって生まれた、エンターテイ ンメント形式のワークショップ。参加者はその場で出会ったほかの参加者たちとひとつのグループにな 「DIAROG IN THE DARK」 http://www.dialoginthedark. *6
com/
り、完全に光を遮断した空間の中で、暗闇のエキスパートである視覚障がい者の案内のもと、聴覚や触覚、 嗅覚、味覚と、視覚以外の感覚を使って様々なシーンを体験、探検する。この過程で、参加者は視覚以 外の五感を敏感にさせ、おおいに活用する。DIALOG IN THE DARK は、視覚以外の五感の可能性と心 地よさ、そして他者とのコミュニケーションの大切さに気づき、人の温かさを感じさせることを目的と している。現在では世界 30 国、約 130 都市で開催されている。* 6
この事例では、一切の視覚を遮断して参加者にある印象を抱かせることを目的としており、視覚をあ えて遮断するという非日常性に意味を見いだしている。しかし本研究では、同じように視覚を遮断し触 覚だけで素材を認識した場合のほかに、視覚だけで素材を認識した場合、触覚と視覚を併せて素材を認 識した場合の、3種類の場合で印象にどのような差異が生まれるのかを明らかにし、健常者がもつ足の 裏の触覚の視覚障がい者がもつ足の裏の触覚の印象の差異がうまれるのか明らかにすることを目的とし ている。
fig.1.1.3-1 「暗闇体験で危機への準備を!
ダイアログ・イン・ザ・ダーク・ エマージェンシー・ワークショ ップ」
http://www.hamakei.com/ headline/6371/ fig.1.1.3-2 「ヨコハマ経済新聞」
http://www.hamakei.com/ headline/photo/6371/
fig.1.1.3-1 DIAROG IN THE DARK の様子①
fig.1.1.3-2 DIAROG IN THE DARK の様子①
8
1
背景
1.2 触覚 1.2.1 五感の中の触覚
*1 「商売に役立つ心理学」 http://qualitia.jp/
psychology/list-p/sikaku/
「よくみえること。よく生き ること。」 *2
五感の中の視覚でも述べたが、人は視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚の五感を通して、外界からの刺激 を情報として認識している。人が外界から刺激を得る際、それぞれの五感が受けている情報量の割合は グラフ1のようになる。グラフ1からわかるように、触覚は五感の中で3番目に情報を取得している量 が多いとされているが、その割合は 3% と決して多くはない。そもそも触覚とはなんであろうか。* 1 * 2 その特徴を以下に述べる。* 7
http://yuu-yuu.cocolog-nifty. com/visioncare/2006/05/ post_a621.html
「触覚を通じてみた世界」 http://www5c.biglobe.ne.jp/ *7
obara/shokkaku/shokkaku2. html
■直接性と間接性 触覚以外の五感は離れた所から何かの媒介物 ( 視覚:光、聴覚:波長、嗅覚:化学物質 ) を介しているが、 触覚は直接接触しなければ感じることができない。 ■散在と局在 視覚・聴覚・味覚・嗅覚は、目・耳・舌など、特定の感覚器官で情報を取得する。しかし触覚は、体 表面全体に散在する皮膚感覚で情報を取得する。 ■時間特性と空間特性 触覚は、時間特性に優れていて、刺激の発生から認知までの時間が短く、瞬間的な刺激を継時的につ なぎ合せてひとつのまとまった情報として取得するのに優れている。一報で、視覚は空間特性に優れて いて、精密さがあり、かつ遠近や広がりの情報を取得するのに優れている。
触覚やその他の五感には以上のような特性がある。皮膚感覚は体表面全体に散在しており、得た刺激を 瞬時に情報として取得することができる。ここで考えられるのは、触覚には私達が普段思っている以上 の可能性がある、と言うことである
fig.1.2.1-1 日常生活での五感情報
9
1
背景
1.2.2 足の裏の触覚
*8 「養心弓道場 足裏センサー の重要性」
http://42875218.at.webry.
info/201010/article_2.html
1.2.1 では触覚の体表面全体に散在すると記述したが、そのうち足の裏の皮膚は 2%程度である。その 2%の触覚で人は全体重をのせ、立つ、歩く、走る、跳ぶ、飛び降りる、よじ登る、踏ん張るの行動をし、 地面に触れている。足裏の触覚に頼って、立つときに身体のバランスを保っている。そのためには健康 な足の裏が必要である。理想の足の形としては、足底にアーチ (fig1.2.2-1 参照 ) があり、ゆとりのある 状態が挙げられる。その状態であれば、小さな揺れを感知し、身体のバランスを保つことができる。し かし、近年、歩行不足により偏平足・外反母趾・浮き指などの足裏の変形によってバランスが保ちにく くなっている。現代人は砂利道などの凸凹な道を歩いたり、スリッパやあったか靴下を履いて過ごした りしてはだしで生活するひとが少なくなっており、足裏への刺激が不足している。それによって、足裏
寺田光世 , 筏安子 , 金井秀子 , 蜂須賀弘久 *9
「長期裸足教育が児童の発育発
達に及ぼす影響について ( 第 1 報 )」
http://www.mhlw.go.jp/
toukei/saikin/hw/shintai/06/
の筋力不足と平衡感覚器の感度がにぶってバランス調整が鈍くなっている。* 10 足裏への刺激不足によって、以上のような現代病が問題となり、それを打開するために、はだしで過 ごす、はだし教育というものが推進されている小学校もある。芝生や、土の上や、凸凹がある床をはだ しで歩くことで足裏を刺激する教育をおこなっている。動能力の発達、脳の活性化、健康の維持がもた らされるという研究結果がある。* 11
dl/01_0001.pdf
fig1.2.2-1 「子どもの足と健康」
http://www.mamachoice. co.jp/ashi_kenkou/ tsuchifumazu.html
fig1.2.2-2 「JIBM 裸足ランニング」 http://jsbm.info/
barefootrunning/
eventreport/002003.html
fig1.2.2-1 足の裏の構造
fig1.2.2-2 東京都稲城市内の幼稚園でのはだし教育風景
10
1
背景
1.2.3 床と健康に関する空間事例 本研究では、触覚が与える影響力について論じていく。触覚の影響力に注目し、触覚の重要性がわか る先行事例を紹介する。
【天命反転住宅】 「天命反転住宅」 http://www.rdloftsmitaka.
* 10
com
この賃貸住宅は先入観のある五感を「解体 + 再構築」するような工夫が五感の新しい感じ方を示唆し、 意識や感覚が変わり続けるという意味をこめた「死なないための家」というコンセプトをもつ。身体障 がいをもつ人や子ども、老人などさまざまな身体能力の壁をこえて、その人ではないと出来ない動きや 使用方法ができる空間であり、部屋ごとに色と触覚の工夫がなされている。本研究では、特に触覚につ いての印象について研究していくが、この住宅は砂のような地面の床はでこぼこが子どもの土踏まずと 大人の土踏まずにあわせてあったり、つるつるとした球型の部屋だったり、落ち着く和の空間があった りと心地よい触覚の印象の工夫がなされている。本研究でも足の裏の触覚が未知数の床材に着目し研究 を進めていく。* 10
fig.1.2.3-1 fig.1.2.3-2 fig.1.2.3-3 fig.1.2.3-4 「livedoor NEWS HOME S 暮 らしといっしょ」
http://news.livedoor.com/ article/detail/8150600/
fig.1.2.3-1 天命反転住宅 室内例
fig.1.2.3-3 天命反転住宅 球型室内
fig.1.2.3-1 天命反転住宅 床詳細
fig.1.2.3-4 天命反転住宅 和室内
11
1
背景
1.3 床素材 1.3.1 現代の床素材事情
「LIVING DESIGN CENTER OZONE」
* 11
http://www.ozone.co.jp/
近代化が進むにつれ、床材の種類は数えきれないほど多様化してきた。床仕上げも高い機能をもつよ うになり、その用途は多岐に渡る。一般的に多用されている床材の事例を以下に挙げる。* 11
housing/knowledge/plan/ interior/floor.html
■木質系床材 木質系床材は大きくフローリングとコルクに分けられる。 ・フローリング 自然素材の暖かい質感を持つ。近年は、オレフィンシートや樹脂含紙などからつくった表面加工の化粧 シートが普及してきた。見た目を簡単に変えられるので視覚的な工夫がしやすいという利点がある。し かし、肌触りはどれも類似しており、触覚的な工夫がされたものはほとんどない。一方、伝統的な床仕 上げは現代のゆかに比べ、起伏がある。畳、木材の木目の凸凹がわかる機材の処理、手斧仕上げの凸凹 など、起伏のある床が多かった。現代人の偏平足や足の疲れ易さの原因が起伏のない床材である可能性 がある。 ・コルク コルク樫の木の皮を粉砕し、接着剤を混ぜてシート状にした床材で、肌触りに温かみがあり、弾力性や 吸音性に優れている。直射日光を受けると退色したり、酸や油に強い半面、長く置いておいた重い家具 を動かすとへこみができたり、キャスターの跡が他の床材に比べて付きやすかったり、小口から水が浸 み込むと膨張しやすかったりと、扱い方には配慮が必要である。
■畳 ワラの畳床を、イグサの表材と麻などの裏打ち材で覆い、縁でおさえたもので、保温性に優れた床材で ある。 JIS 規格の畳の厚みは 5.5 と 6 センチである。また「縁なし畳」は、琉球表などイグサの種類や 織りが制作に適した畳表を使用する。一方で、近年では断熱材のポリスチレンフォームなどを入れた「化 学畳」と呼ばれるものが普及している。これは、ワラ床のような弾力性はなく、歩行感も硬くなっている。
■繊維系床材 ・カーペット 保温性・吸音性に優れ、織り方や繊維の種類によってさまざまなタイプがある。織りカーペットと刺繍 カーペットがあり、視覚的触覚的なデザイン性が高く、技術の進んだ現代ではさまざまな触感をつくり だせる可能性がある。パイル地やループ状のもの、平織り、フェルト状のものなど織り方を工夫したり、 カーペットの材料も天然の動物毛のほか、レーヨン・ナイロン・ アクリルなどの合成繊維があるが、静 電気が問題となっている。 ・サイザル麻、ココヤシなど 天然繊維の麻やヤシの実を織った床材であり、カーペットほどではないが、織り方と繊維の色の工夫に よるデザイン性がある。防音性、制静電気性のメリットがあり、肌触りははだしで歩くと繊維が荒く、 ザックリとした触感がある。
12
1
背景
■石・タイル ・石 高級感があり、耐久性のある素材であるが、弾性がなく使用用途が限られる。はだしで触れると硬さや 冷たさを感じるので床材では主に靴で歩行する空間に使用される。 ・タイル 磁器質タイル・せっ器質タイル・陶器質タイルがあり、最も高温で焼いた磁器質タイルはほとんど吸水 性がないが、耐久性はある。デザイン性においても釉薬で色やツヤをつけたりできるなど幅のある素材 である。歩行感覚は冷たいが、耐水性があるので風呂場などでよく使用される。
■合成樹脂系床材 ・クッションフロア 塩化ビニル樹脂の発泡床材である。木、石やタイルを模倣した素材であり、耐水性・耐油性・耐薬性に優れ、 適度な弾力性があり、歩行しやすく、室内の日常生活で使用しやすい素材である。 ・その他のプラスチックシート床材 クッションフロアよりも硬いタイル状の床材のことであり、塩化ビニル樹脂を含むものを示す。耐摩耗性・ 耐薬品性に優れているが、耐熱性がない。クッションフロアよりも屋外で使用される素材である。
■その他 ・ゴム ゴムとコルク粒を約7:3の割合で混合したゴムシートがよく使用され、耐水性・耐摩耗性・弾力性・ 防音性・防滑性があり、子供部屋・水回りなどで使用される。はだしで歩いても肌触りもサラッとして おり、靴だと足跡が付くので室内で使用されやすい。 ・リノリウム コルクの粒とおがくずを亜麻仁油でかためたもの。難燃性・耐摩耗性・耐薬品性・制静電気性があるが、 湿気に弱く、弾力性がない。触り心地は塩化ビニルに似ており、室内で使用しやすい。 ・竹、藤など 接着剤で下地に張りつける竹や籐の床材で、足触りがひんやり、さらさらしており、夏に向く素材である。
これらの素材は現在当たり前のように一般的に使われており、その素材から想起される印象などを考慮 して根本から用途を考えなおしていく必要がある。
13
1
背景
1.3.2 床の素材が空間を印象づけた事例 本研究では、五感のうちで最も多くの情報を認識している視覚に意識して触覚による感動に加え、触 覚空間の要素を認識することで空間に新たな印象が負荷される可能性について論じていく。触覚が視覚 によって得られた印象を補い、空間の印象を強く印象づけた先行事例を紹介する。
【秋野不矩美術館】
「移転グランドオープン記 念講演「建築の可能性」第 1 回
* 12
建築の原点へ、藤森流建築の手 法|藤森照信
貴志雅樹 」
http://iinavi.inax.lixil.co.jp/ia_ seminar/004/ias004.html
秋野不矩美術館は、靴を脱いだ状態で作品を鑑賞する美術館である。当初は、はだしで作品鑑賞する などという美術館は前代未聞だ、と建設委員会から反対されていたが、元来「日本人は畳の上で靴を脱 いで作品を鑑賞するものだ」という考え方があり、 「日本画を土足で見ていいのか」という強い思いから、 建設に踏み切ることになった。そのため、床材には多くの注意をはらって設計されている。* 12 秋野不矩の作品 (fig.1.3.2-1) は日本画でインドの風景を描いたもので、インドの土地のノスタルジー を感じさせる。設計者の藤森照信は秋野不矩の絵の「汚れなさと清浄感」には土足は似合わないと判断し、
「くらしと、ともに KORYU」
* 13
http://www.chuden.jp/ koryu/interior/study/
detail/100007460.html
床材を設計した。単純に靴を脱いだ状態でも歩きやすいということだけではなく、床に触覚の印象を付 加させるということを試みた。特にエントランスホールのござの床、作品がならぶ回廊のちょうな削り なぐり仕上げの床、小ホールの白大理石の床が空間を強く印象づけている。藤ござは清浄感と日本人に とってのノスタルジーの印象を、ちょうな削りなぐり仕上げの床には木の柔らかい印象を、白大理石で は砂漠のような乾燥した印象を与えた。白大理石は素材で触覚の印象づけるだけではなく、夏は冷たく、 冬は暖房で温めているので、地面を踏むときの心地よく感じる工夫がされている。* 13 この事例では絵に合わせて視覚と触覚を意識して設計することによって絵その絵自体のみならず、展 示空間全体の印象を演出することに成功している。この先行事例では従来一般的に使用されている床材 を使用しているが、本研究では足に裏の触覚の印象に注目している。従来、床材として使用されていな いが、足の裏の触覚を通して印象にはたらきかける可能性のある新しい素材も考慮する。
fig.1.3.2-1 「★☆ Daily Zushi-Hayama ☆ ★ by shonan beachfm」 http://zushihaya.exblog. jp/8504309/
fig.1.3.2-1 秋野不矩画 オリッサの寺院
14
1
背景
fig.1.3.2-2 「しずふぁん!!」
http://shizufan.jp/netamap/ seibu/53134/
fig.1.3.2-2 「箱根吟遊インフォメーション」 http://hakoneginyu.
co.jp/blog/archives/ hospitality/4478
fig.1.3.2-2 秋野不矩美術館 ちょうな削りの回廊
fig.1.3.2-2 ちょうな削り
fig.1.3.2-4 「CITY,RAIN,TREE」 http://cityraintree.
blogspot.jp/2013/04/blogpost_8674.html
fig.1.3.2-4 秋野不矩美術館 藤ござのエントランスホール
fig.1.3.2-5 fig.1.3.2-6 「くらしと、ともに KORYU」 http://www.chuden.jp/ koryu/interior/study/
detail/100007460.html
fig.1.3.2-5 秋野不矩美術館 白大理石のホール
fig.1.3.2-6 白大理石
15
1
背景
1.4 既往研究 1.4.1 視覚と触覚
* 14 潮田浩 「視覚・触覚間における運動情
報のクロスモーダル統合」 http://ir.library.
tohoku.ac.jp/re/
bitstream/10097/34545/1/ Shiota-Hiroshi-02-08-0012. pdf
「視覚・触覚間における運動情報のクロスモーダル統合」 潮田* 14 は「視覚・触覚間において運動情報の統合が行われるのかどうか」を研究目的とし、6 つの実 験から、「刺激が提示されている身体部の視覚的情報が,触覚情報と統合されていることを示唆する」と 結論を述べた。この既往研究は本研究が目的のひとつとする視覚と触覚がどれだけ影響しあっているか に述べている。しかし、「視覚運動情報が触覚位置知覚へ及ぼす影響を検討する」ものであり、触覚から 視覚へのアプローチは積極的にいない。さらに、手の触覚ではなく足の触覚で考えることや、人の感情 心理にふれていないことがこの既往研究と本研究の差として挙げられる。
【クロスモーダル】
複数の知覚が統合すること
【運動情報】
「物事の時間的な変化」の情報 【触覚位置知覚】 触覚刺激の位置に対する知覚
16
1
背景
1.4.2 床材と視覚障がい者
* 15 原利明 , 小林吉之 「摩擦の異なる床仕上げ材間の
識別容易性に関する問題」
http://ci.nii.ac.jp/
els/110007988531.pdf?id
原ら* 15 は石材の仕上げの違いによる摩擦に注目し、視覚障がい者誘導ブロックにかわる突起のない床 材の代用の可能性を提示した。本研究では健常者と視覚障がい者の素材の印象の差異や視覚障がい者が どう印象をもつのか研究していく。また、この既往研究では視覚のない状態で摩擦や弾力を感じ分ける には歩き方が重要であると示唆したが、本研究でも触り方も重要な要素として扱っていく。
=ART0009577539&type=p
df&lang=jp&host=cinii&ord er_no=&ppv_type=0&lang_
sw=&no=1383452128&cp=
17
1
背景
1.4.3 床材と印象
* 16 稲垣卓造 , 飯島祥二 「床仕上げ材の印象評価に関す
る予備的研究̶視覚的評価と触 覚的評価との比較」 http://ci.nii.ac.jp/
els/110007067364.pdf?id
=ART0009001308&type=p
稲垣ら* 16 は施工前に素材の印象を正確に把握する目的で内装仕上げの床材を手と足の裏の触覚の印象 を SD 法によって明らかにした。本研究では、触覚によって空間の印象を強く、または変化させること が目的であり、床の素材自体のイメージを明らかにするため、SD 法以外にも擬音語・擬態語の選択と自 由記述・自由描画で実験を行う。また、この既往研究では一般的な床材を用いて研究するのに対し、本 研究では一般的ではない床材も含めて床材の印象について研究する。
df&lang=jp&host=cinii&ord er_no=&ppv_type=0&lang_
sw=&no=1383452330&cp=
慎ら* 17 は屋外壁面についての一般的な素材の視覚的印象を明らかにした。本研究では屋内空間での床 材の触覚的な印象を主として視覚的な印象についても研究していく。 * 17 槙究 , 赤松摩耶 , 佐竹明子 「素材表面感の次元について」
http://www.jissen.ac.jp/ kankyo/lab-maki2/_
userdata/thesis/Paper16. pdf
18
2 研究概要
用語の定義
2.1
研究目的
2.2
研究フロー
2.3
2
研究概要
2.1 用語の定義
【床素材】 床材 kotobank.jp http://kotobank.jp/word/ 床
* 16
材
「一般的に、建築内部の床に使用する仕上げ材のこと。」( コトバンク
* 16
より引用 )
素材 「もととなる材料。原料。」( 広辞苑第五版より引用 ) 「造材によってできた材種で、まだ製材されていないもの。丸太・杣角の類。」( 広辞苑第五版* 17 より
* 17
広辞苑 第五版
引用 ) 広辞苑では以上のような言葉の定義がなされているが、本研究では従来住宅で一般的に使用されてい る素材に加えて、足の裏の触覚を強く刺激するが、従来、床材として一般的に使用されていない素材に ついても検討していくこととし、そうした新素材を含めた床に使用される材を総称して「床素材」と定 義する。
【認識】 「知識とほぼ同じ意味。知識が主として知り得た成果を指すのに対して、認識は知る 作用及び成果の両 者を指すことが多い。」( 広辞苑第五版* 17 より引用 ) 広辞苑では以上のような言葉の定義がなされているが、本研究では視覚と触覚から受ける刺激を示す。
【印象】 「強く感じて心に残ったもの。感銘。」( 広辞苑第五版* 17 より引用 ) 「( 美 ) 対象が人間の精神に与えるすべての効果。」( 広辞苑第五版* 17 より引用 ) 広辞苑では以上のような言葉の定義がなされている。本研究では床素材を視覚と足の裏の触覚から認 識した場合に強く心にに残ったものを「印象」と定義する。 ただし、「清潔感がある感じ」や「歯医者の床みたい」は印象であるが、「固い」「痛い」などの物理的な 評価は「印象」と捉えない。
【イメージ】 「心の中に思い浮かべる像。全体的な印象。」( 広辞苑第五版* 17 より引用 ) 広辞苑では以上のような言葉の定義がなされているが、本研究では「印象」の中でも特に具体的な場 面を連想した場合を「イメージ」と定義する。
20
2
研究概要
2.2 研究目的
床素材を、足の裏の触覚で認識した場合と、視覚によって認識した場合に受ける印象の違いを明らか にし、今後の建築設計において床材選定に役立てる指標とすることを目的とする。
21
2
研究概要
2.3 研究フロー
基礎研究
視覚についての基礎研究 ・視覚が人の印象にどう影響するのかについて ・視覚障がい者と触覚について
触覚についての基礎研究 ・触覚がひとの印象にどう影響するのかについて ・はだしと健康の関係について
素材についての基礎研究 ・一般的な床素材について ・特殊な床素材について
問題提起 ・床素材に触覚的な工夫をすれば空間の表現がより豊かになるのではないか ・視覚障がい者にとっての床素材の触感は健常者より重要であり違う感覚をもつのではないか
実験方法の検討 ・素材の検討 ・アンケートの検討 ・被験者の検討
床材を足の触覚で認識した場合と視覚によって認識した場合 に受ける印象の違いを明らかにする実験
・以下3段階において実験 ①触覚のみで床材を認識する ②視覚のみで床材を認識する ③触覚と視覚の両方で床材を認識する ・以下3つの方法でアンケートをとる ・擬態語・擬音語における印象の選択 ・印象 SD 法 ・自由記述
結果・分析 基礎アンケート 床素材 ・擬態語・擬音語における印象の選択 ・印象 SD 法 ・自由記述
考察
床材を、足の触覚で認識した場合と視覚によって認識した場合に受ける印象の違いを明らかにし 今後の建築設計において床材選定に役立てる指標を示す
22
3
研究方法
実験概要
3.1
実験方法
3.2
実験フロー
3.3
3
研究方法
3.1 実験概要 3.1.1 実験目的
床素材を、足の裏の触覚で認識した場合、視覚によって認識した場合、足の裏の触覚と視覚を併せて 認識した場合、以上3種類の場合で生まれる印象を比較し、差異が生まれる場合はその原因を明らかに して、設計における床材選定に役立つ指標を示すことを目的とする。
24
3
研究方法
3.1.2 実験内容
〔 概要 〕 被験者にはだしになってもらい、11 種類の素材についてそれぞれ3種類の方法で認識してもらい、そ れぞれについて印象を聞く調査を行った。被験者に指示した3種類の方法を以下に示す。 ①足の裏の触覚だけで認識する ②視覚だけで認識する ③足の裏の触覚と視覚を併せて認識する また以下に、①∼③それぞれの場合について、床素材の印象についてアンケートに記入してもらった 内容を示す。 ・素材から受けた印象を、指定した擬態語・擬音語から選択(自由記述も可 能)するアンケート ・SD 法に基づくアンケート ・自由記述、スケッチによるアンケート 以上の方法で実験を行い、①∼③の方法で床素材を認識した場合、どのような差異が生まれるのかを 明らかにする。 〔 実験日時 〕 10 月 19 日 ( 金 ) ∼ 10 月 26 日 ( 土 ) 〔 所用時間 〕 90 分∼ 120 分 〔 被験者 〕 20 代 男性 8 人、女性 8 人 〔 場所 〕 55 号館 S 棟 9 階 E 系サロン前 (雑多でない、無個性な空間を選定した) 〔 実験器具 〕 ・アイマスク ・白ボール紙 ( 視覚認識において床の色で差異がでないため、はだしで立つときに汚れないため ) ・白い布(被験者に見えないよう、材料を隠すために用いた) ・アンケート用紙 ・カメラ ( 機種:OLYMPUS μ-7020) ・カメラスタンド ・床材 11 種類(選定理由・詳細は 3.2.1.1 に記載) ・補助材(選定理由・詳細は 3.2.1.1 に記載)
25
3
研究方法
3.1.3 実験準備
■床素材の選定 詳細は 3.2.1.1 に記載
■床素材を認識する順番によって優劣を発生させない方法 1 ∼ 11 の数字について乱数を用い、被験者ごと、認識する方法を①と②③にそれぞれ乱数を適用した。
■被験者にはだしの状態に慣れてもらう方法 実験用床素材で認識する純粋な感覚を重要視しているため、実験場の床にはだしの足が接触しないよ う、実験説明中は足置きに足を置いてもらった。また、はだしの状態に慣れてもらうため、お茶を飲む などしてリラックスした状態を促した。
26
3
研究方法
3.1.4 実験手順
以下のような手順で実験を行った。 1. 実験準備 2. 被験者に 55 号館 9 階の E 系サロン前にきてもらう 3. はだしになってもらう 4. 被験者がはだしの状態に慣れるため、お茶を飲んでリラックスしてもらいながら、実験説明を聞い てもらう 5. 基礎アンケート (3.2.2.1 参照 ) に答えてもらう:fig.3.1.4-9 6. アイマスクをして、はだしの足が床に触れないように座って待ってもらう:fig.3.1.4-9 7. ①の実験にはいる 8. 床素材を足元におき立って床素材を足の裏で触れてもらう。触り方は以下の通り 1) 5 秒そのまま立ってもらう:fig.3.1.4-2 2) 5 秒足踏みしてもらう:fig.3.1.4-3 3) 10 秒前後左右に床素材をなでて触ってもらう:fig.3.1.4-4 9. アイマスクをとって、アンケート① (3.2.2.2 参照 ) に答えてもらう:fig.3.1.4-9 10. 6 に戻って、11 種類の床素材で繰り返し行う 11. ②の実験にはいる 12. 立ってアイマスクをしないで 20 秒間床素材を見てもらう:fig.3.1.4-5 13. アンケート② (3.2.2.2 参照 ) に答えてもらう:fig.3.1.4-9 14. ③の実験にはいる 15. 立ってアイマスクをしないで、床素材を足で触れてもらう。 触り方は以下の通り 1) 5 秒そのまま立ってもらう:fig.3.1.4-6 2) 5 秒足踏みしてもらう:fig.3.1.4-7 3) 10 秒前後左右に床素材をなでて触ってもらう:fig.3.1.4-8 16. アンケート③ (3.2.2.2 参照 ) に答えてもらう:fig.3.1.4-9 17. 11 に戻って、11 種類の床素材で繰り返し行う 18. 以上で実験を終了する
27
3
研究方法
fig.3.1.4-1 実験風景:① , アイマスクをする
fig.3.1.4-4 実験風景:① , なでる
fig.3.1.4-7 実験風景:③ , あしぶみ
fig.3.1.4-2 実験風景:① , たつ
fig.3.1.4-5 実験風景:② , みる
fig.3.1.4-8 実験風景:③ , なでる
fig.3.1.4-3 実験風景:① , あしぶみ
fig.3.1.4-6 実験風景:③ , たつ
fig.3.1.4-9 実験風景:アンケートに答える
28
3
研究方法
3.1.5 教示内容
【はじめに】 本日はお忙しい中、本実験にご協力いただき、本当にありがとうございます。本実験は以下のような 内容になります。
【実験内容】 本研究では床材を、足の触覚で認識した場合と、視覚によって認識した場合に受ける印象の違いを明 らかにし、今後の建築設計において床材選定に役立てることを目的としています。 まず初めに、1 ページ目のアンケートであなた自身のことをお聞きします。 2 ページ目以降では実験をしながらアンケートに答えて貰います。実験は 3 通り行います。1 つ目は、 目隠しをしながら裸足で触っていただき、触覚だけで認識したときの印象を答えていただきます。2 つ 目は、目隠しをはずし、視覚だけで認識したときの印象を答えていただきます。3 つ目は、目隠しをせ ずに裸足で触っていただき、視覚と触覚の両方で認識したときの印象を答えていただきます。 実験の床材は全部で 11 種で、2 つ目と 3 つ目の実験は平行して行います。 次に床材の触り方について説明させていただきます。はじめに 5 秒間、そのまま動かないで立ってい ただきます。次に 5 秒間、足踏みしていただきます。次に 5 秒間、足を前後になでていただいたあと、 5 秒間、左右になでていただきます。合図として声をおかけしますので指示に従ってください。
【アンケート回答】 設問1では床素材から受けた印象を擬音語・擬態語から複数選んでチェックしていただきます。 設問2では床素材の印象に近い数字にしるしをお願いします。 設問3では床素材から受けた印象を自由に記述・スケッチをしていただきます。照りつける砂漠ような、 暗いジャングルのような、どんよりした都会みたいななど、状況・天候・風景を記述してください。
29
3
研究方法
3.2 実験方法 3.2.1 実験の検討 3.2.1.1 床素材の検討 【床素材】 従来、住宅で一般的に床材として使用されている素材に加え、足の裏の触覚を強く刺激するが、従 来床材として一般的に使用されていない素材についても検討することにした。床材はすべて 300mm 450mm とし、足踏みしても支障のない大きさにした。以下に選定した 11 種の床素材を示す。 1. ホワイトパイン集成材 厚さ 10mm 2. 焼き桐集成材 ニス仕上げ 厚さ 10mm 3. コルク板細目 厚さ 10mm 4. コルク板荒目 厚さ 10mm 5. 透明塩ビ版+桐材 厚さ 5mm 6. 木目塩ビシート タフアッププラス ( 菊池
) 厚さ 1mm+ 黃ボール紙 厚さ 2mm
7. 園芸用竹 直径 9mm 8. マニラ麻ロープ 直径 9 ㎜ 9. 日光 い草ロール + 黄ボール紙 厚さ 2mm 10. 雨戸切り売りネット 20 メッシュ 10 巾+黃ボール紙 厚さ 2mm 11. サンぺルカ L-1400 白プラスチックフォーム 300mm 【補助材】 実験に支障のでないように以下の補助材を使用する。 1. MDF 板:厚さ 5mm 以下である薄すぎる床素材ややわらかすぎる床素材は実験場の床材の硬さや凸 凹感が伝わってしまうため、MDF 板を床素材のしたに敷いた。使用する床材は以下となる。 素材が薄すぎるもの:素材 6,9,10 素材がやわらかすぎるもの:素材 11 2. 滑り止め:被験者の安全のため、床素材と実験場の床の間に敷いてを使用した。
30
3
研究方法
fig.3.2.1.1-1a 床素材1 パイン集成材 全体写真
fig.3.2.1.1-1b 床素材1 パイン集成材 詳細写真
fig.3.2.1.1-2a 床素材 2 焼き桐集成材 全体写真
fig.3.2.1.1-2b 床素材 2 焼き桐集成材 詳細写真
fig.3.2.1.1-3a 床素材 3 コルク細目 全体写真
fig.3.2.1.1-3b 床素材 3 コルク細目 詳細写真
31
3
研究方法
fig.3.2.1.1-3a 床素材 4 コルク荒目 全体写真
fig.3.2.1.1-3b 床素材 4 コルク荒目 詳細写真
fig.3.2.1.1-5a 床素材 5 塩ビ + 桐木板 全体写真
fig.3.2.1.1-5b 床素材 5 塩ビ + 桐木板 詳細写真
fig.3.2.1.1-6a 床素材 6 木目塩ビシート 全体写真
fig.3.2.1.1-6b 床素材 6 木目塩ビシート 詳細写真
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3
研究方法
fig.3.2.1.1-7a 床素材 7 竹 全体写真
fig.3.2.1.1-7b 床素材 7 竹 詳細写真
fig.3.2.1.1-8a 床素材 8 麻ロープ 全体写真
fig.3.2.1.1-8b 床素材 8 麻ロープ 詳細写真
fig.3.2.1.1-9a 床素材 9 い草 全体写真
fig.3.2.1.1-9b 床素材 9 い草 詳細写真
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3
研究方法
fig.3.2.1.1-10a 床素材 10 網 + 合板 全体写真
fig.3.2.1.1-10b 床素材 10 網 + 合板 詳細写真
fig.3.2.1.1-11a 床素材 11 スポンジ 全体写真
fig.3.2.1.1-11b 床素材 11 スポンジ 詳細写真
fig.3.2.1.1-12 補助剤 (MDF 板と滑り止め )
34
3
研究方法
3.2.1.2 被験者の検討 ■男女比の検討 性別で結果が偏らないよう、比率を1:1にした。
■年齢の検討 床素材の感じ方が年齢によって異ならないよう、20 代に限定した。
■職業の検討 床素材について検討するので、建築の知識がある者と建築の知識がない者の人数比率を1:1にした。 ■視覚障がい者の触覚感覚についての検討 視覚障がい者の触覚印象は健常者が視覚を遮った場合の触覚の印象と大差はないことが証明されてい る。* 18 本研究では健常者のみを被験者として扱うが、アイマスクをしていればその回答は視覚障がい者 山下弘之 / 田口光則 / 小出 良幸 ,「アンモナイトを利用し
* 18
の回答としても扱うことが可能であるとする。
た化石の触覚実験とその地球科 学教育学的意義」
http://nh.kanagawa-
museum.jp/research/
bulletin/abstract/30/bul304.html
35
3
研究方法
3.2.1.3 実験手順の検討 ■①足の裏の触覚のみで認識する場合と手順の 1 番はじめに行う理由 触覚よりも視覚刺激の方が印象に与える影響が大きいため、先入観を防ぐ理由により、「①足の裏の触 覚のみで床素材を認識」する実験からはじめる。順番によって床素材の認識が一致しないように①から② と③へ移る時は乱数で導き出した床素材の順序に入れ替える。
■②足の裏の触覚のみで認識する場合と③足の裏の触覚と視覚を並行して実験する理由 触覚よりも視覚刺激の方が印象に与える影響が大きいため、また、②と③の順序を変更することで被験 者への負担がかかり後半の実験に影響がでるため、②と③の順序を変更する必要はないと判断した。
■②が 2 番目の手順にする理由 ②では視覚だけで認識した場合の純粋な印象、③では足の裏の触覚と視覚を併せて認識した複合的な印 象を抽出することを目的としているので、②、③の順に行った。
36
3
研究方法
3.2.2 アンケート 3.2.2.1 基礎アンケート 被験者の基礎的な情報と日常生活での床材への認識のしかたを質問した。質問した内容は以下の通り。
【床材を、足の触覚で認識した場合と、視覚によって認識した場合に受ける印象の違い】 早稲田大学創造理工学部建築学科 学部 4 年 斎藤麻美です。この度、皆様のおかげで、実験を行える運びとなりました。 ご協力、誠にありがとうございます。実験内容は以下のようになります。 ○目的
床材を、足の触覚で認識した場合と、視覚によって認識した場合に受ける印象の違いを明らかにし、今後の建築設計において床材 選定に役立てることを目的としています。 ○内容
床材 12 種類について検証を行います。被験者の方には、大きく分けて3段階の実験をさせていただきます。 ①目隠しをしながら裸足で触っていただき、触覚だけで認識したときの印象を答えていただく ②目隠しをはずし、視覚だけで認識したときの印象を答えていただく
③目隠しをせずに裸足で触っていただき、視覚と触覚の両方で認識したときの印象を答えていただく ○日にち
10/19( 土 ) ∼ 10/25( 金 ) ○拘束時間
1.5 時間∼2 時間 なお、このアンケートは学術目的のためだけに利用し、いただいたデータを個人が特定できる形で用いることはありません。
あなた自身のことについてお
きします。当てはまるものチェックをつけてください。
お名前: ( ) 年齢: ( ) 性別: □男 □女
ご職業: □学生 □社会人 □フリーター □主婦 □その他( ) お住まい: □実家 □ひとり暮らし □寮 □その他( ) 1.実家の中で、一番よく使われている床の素材はなんですか?
□木材 □塩ビ □タイル □畳 □カーペット □その他( )
2.現在実家以外にお住まいの場合、現在のお住まいの中で、一番よく使われている床の素材はなんですか? □木材 □塩ビ □タイル □畳 □カーペット □その他( )
3.現在のお住まいの中で、一番よく過ごす場所の素材はなんですか?また、その理由はなんですか? (ex. ベッド/リネン/やわらかいから フローリング/木材 or カーペット/かたいから )
4.ふだん家では足をどのような状態にして過ごしていますか?
□裸足 □靴下 □スリッパ □その他( ) 5.4. について、なぜそのように過ごしていますか?(自由記述)
6.1日に平均してどの程度歩きますか? ( )分
7.普段足裏健康グッズは使いますか?使う場合は、どんなものを使っていますか?
□使わない □使う ( ) 8.よく使用する靴はなんですか? (ex. ヒール スニーカー 革靴)
9.すきな床材はなんですか?
fig.4.2.2.1-1 基礎アンケート
37
3
研究方法
3.2.2.2 実験アンケート 【設問 1】擬態語・擬音語におけるアンケート 以下の図のように床素材を認識して得られた印象を擬音語・擬態語・擬情語で自由選択してもらった。
fig.3.2.2.2-1 擬態語・擬音語におけるアンケート
【設問 2】SD 法に基づくアンケート 以下の図のようにポジティブな印象の形容詞とその対となるネガティブな形容詞を両端に軸を作成し た。被験者には 4 段階の評価で自身がもった印象に近い位置に印をつける。
fig.3.2.2.2-1 SD 法に基づくアンケート
【設問 3】自由記述によるアンケート 以下の図のように床素材を認識して得られた印象を自由記述、自由描画してもらう。
fig.3.2.2.2-3 自由記述によるアンケート
38
3
研究方法
3.3 実験フロー
くつを脱いで 基礎アンケートに答える
①アイマスクをして床材を足で20秒触る (触り方:立つ→足踏み→前後→左右) 11回繰り返す アイマスクを取ってアンケート①に答える
①と床材の順番を変えて②、③へ
②アイマスクなしで床にある材料を 触れずに20秒見る 11回繰り返す アンケート②に答える
③アイマスクなしで床材を見ながら20秒触る (触り方:立つ→足踏み→前後→左右) 11回繰り返す アンケート③に答える
39
4
実験結果
擬音語・擬態語の選択によるアンケートの結果
4.1
SD 法に基づくアンケートの結果
4.2
自由記述によるアンケートの結果
4.3
4
結果
4.1 擬音語・擬態語におけるアンケートの結果 4.1.1 ①足の裏の触覚のみで認識する
本項では 3.2.2.2 実験アンケート【設問1】について足の裏の触覚のみで認識した場合の印象を記入 してもらった。その結果を素材別に示す。 チェックされた項目に「1」と記入し、その合計をエクセル上で集計した。縦列は擬音語・擬態語、 横列は被験者番号をあらわし、単位は「個」とする。
tab.4.1.1-1 床素材1 パイン集成材
41
4
結果 tab.4.1.1-2 床素材 2 焼き桐集成材
tab.4.1.1-3 床素材 3 コルク細目
42
4
結果 tab.4.1.1-3 床素材 4 コルク荒目
tab.4.1.1-5 床素材 5 塩ビ + 桐木板
43
4
結果 tab.4.1.1-6 床素材 6 木目塩ビシート
tab.4.1.1-7 床素材 7 竹
44
4
結果 tab.4.1.1-8 床素材 8 麻ロープ
tab.4.1.1-9 床素材 9 い草
45
4
結果 tab.4.1.1-10 床素材 10 網 + 合板
tab.4.1.1-11 床素材 11 スポンジ
46
4
結果
4.1.2 ②視覚のみで認識する
本項では 3.2.2.2 実験アンケート【設問 1】について視覚のみで認識した場合の印象を記入してもら った。その結果を素材別に示す。 チェックされた項目に「1」と記入し、その合計をエクセル上で集計した。縦列は擬音語・擬態語、 横列は被験者番号をあらわし、単位は「個」とする。
tab.4.1.2-1 床素材1 パイン集成材
47
4
結果 tab.4.1.2-2 床素材 2 焼き桐集成材
tab.4.1.2-3 床素材 3 コルク細目
48
4
結果 tab.4.1.2-3 床素材 4 コルク荒目
tab.4.1.2-5 床素材 5 塩ビ + 桐木板
49
4
結果 tab.4.1.2-6 床素材 6 木目塩ビシート
tab.4.1.2-7 床素材 7 竹
50
4
結果 tab.4.1.2-8 床素材 8 麻ロープ
tab.4.1.2-9 床素材 9 い草
51
4
結果 tab.4.1.2-10 床素材 10 網 + 合板
tab.4.1.2-11 床素材 11 スポンジ
52
4
結果
4.1.3 ③足の裏の触覚と視覚を併せて認識する
本項では 3.2.2.2 実験アンケート【設問 1】について足の裏の触覚と視覚を併せて認識した場合の印 象を記入してもらった。その結果を素材別に示す。 チェックされた項目に「1」と記入し、その合計をエクセル上で集計した。縦列は擬音語・擬態語、 横列は被験者番号をあらわし、単位は「個」とする。
tab.4.1.3-1 床素材1 パイン集成材
53
4
結果 tab.4.1.3-2 床素材 2 焼き桐集成材
tab.4.1.3-3 床素材 3 コルク細目
54
4
結果 tab.4.1.3-3 床素材 4 コルク荒目
tab.4.1.3-5 床素材 5 塩ビ + 桐木板
55
4
結果 tab.4.1.3-6 床素材 6 木目塩ビシート
tab.4.1.3-7 床素材 7 竹
56
4
結果 tab.4.1.3-8 床素材 8 麻ロープ
tab.4.1.3-9 床素材 9 い草
57
4
結果 tab.4.1.3-10 床素材 10 網 + 合板
tab.4.1.3-11 床素材 11 スポンジ
58
4
結果
4.2 SD 法に基づくアンケートの結果
本項では 4.2.2 実験アンケート【設問2】について足の裏の触覚のみで認識した場合の印象を記入し てもらった。その結果を素材別に示す。左の語句を 1、右の語句を4とした場合の 4 段階で評価し、そ の値の合計と標準偏差をエクセル上で集計した。縦列は印象の語句、横列は被験者番号を表す。
【平均値と標準偏差】 印象のデータがどの範囲にどのような割合で散らばっているか明らかにするため、平均と標準偏差の値 を算出し、表に加えた。
「これなら簡単 , 誰にでも 使える SQC」
* 19
http://homepage1.nifty.
平均:いくつかの数の中間の値。 標準偏差:統計のデータの分布のばらつきを示す値。* 19
com/QCC/sqc2/sqc-2.html
平均の定義式
平均値 =
各データの和 データ数
fig.4.2-1 平均と偏差値の定義式
59
4
結果
4.2.1 ①足の裏の触覚のみで認識する
tab.4.2.1 ①の結果
60
4
結果
4.2.2 ②視覚のみで認識する
tab.4.2.2 ②の結果
61
4
結果
4.2.3 ③足の裏の触覚と視覚を併せて認識する
tab.4.2.3 ③の結果
62
4
結果
4.3 自由記述によるアンケートの結果
本項では 4.2.2.2 実験アンケート【設問3】について、自由記述、自由描画して もらった内容をまとめた。その結果を以下に示す。
tab.4.3-1 床素材1 パイン集成材
63
4
結果
tab.4.3-2 床素材 2 焼き桐集成材
64
4
結果
tab.4.3-3 床素材 3 コルク細目
65
4
結果
tab.4.3-4 床素材 4 コルク荒目
66
4
結果
tab.4.3-5 床素材 5 塩ビ + 桐木板
67
4
結果
tab.4.3-6 床素材 6 木目塩ビシート
68
4
結果
tab.4.3-7 床素材 7 竹
69
4
結果
tab.4.3-8 床素材 8 麻ロープ
70
4
結果
tab.4.3-9 床素材 9 い草
71
4
結果
tab.4.3-10 床素材 10 網 + 合板
72
4
結果
tab.4.3-11 床素材 11 スポンジ
73
5 分析
擬音語・擬態語におけるアンケートの分析
5.1
SD 法に基づくアンケートの分析
5.2
自由記述によるアンケートの分析
5.3
5
分析
5.1 擬 音 語 ・ 擬 態 語 に お け る ア ン ケ ー ト の 分 析
得られた回答からチェックされた擬音語・擬態語の個数を集計し、分析する。 【円グラフによる分析】 チェック数が多い順に円グラフで表した。チェックの数の割合の偏りを明らかにし、その床素材の特 性を探っていく。
【棒グラフによる分析】 チェック数を棒グラフで表し、素材ごとに①②③での推移を示した。同じ素材でも、認識の仕方によ って選択される擬音語・擬態語がどのように変わるかを明らかにし、その床素材の特性を探っていく。 また、以下のように擬音語・擬態語を分類し、どの床材にどの種類の言葉がチェックされやすいかを比 較する。 また、以下のように擬音語・擬態語を分類し、どの床素材にどの種類の言葉がチェックされやすいかを 比較する。 ・触覚的な印象 かちかち ふわふわ ごつごつ つるつる しっとり さらさら ざらざら ぷよぷよ やんわり すべすべ ぺたぺた ぬるぬる べとべと だぶだぶ ・視覚的な印象 ぴかぴか てかてか きっちり ごちゃごちゃ ぼんやり すっきり どんより ・感情的な印象 はらはら わくわく のんびり ほっと ぼんやり すっきり どんより ・聴覚的な印象 がんがん
75
5
分析
素材1| パイン集成材 ■円グラフの分析 ①②③で共通して、「さらさら」が最も多く選択されている。
■棒グラフの分析 「すっきり」「きっちり」:チェック数が②では多いが、①③では少ない 「ざらざら」:チェック数が①③では多いが、②では少ない
■考察 パイン材は、見た目には「すっきり」「きっちり」などのシンプルな印象を与えるが、肌触りからすると 予想よりも凹凸があり「ざらざら」としている。総合的に「さらさら」とした印象を与える床素材である。
fig.5.1-1a ① 円グラフ
fig.5.1-1b ② 円グラフ
fig.5.1-1c ③ 円グラフ
fig.5.1-1d ①②③ 棒グラフ
76
5
分析
素材 2 | 焼き桐集成材 ■円グラフの分析 ①②③で共通して、「ざらざら」が最も多く選択されている。
■棒グラフの分析 「どんより」「はらはら」「ごつごつ」:チェック数が②では多いが、①③では少ない 「ほっと」「のんびり」「やんわり」:チェック数が①③では多いが、②では少ない
■考察 焼き桐集成材は、見た目には「どんより」 「はらはら」 「ごつごつ」などのネガティブな印象を与えるが、 肌触りからすると「ほっと」「のんびり」「やんわり」など予想に反してポジティブな印象を与える。総 合的に「ざらざら」とした印象を与える床素材である。
fig.5.1-2a ① 円グラフ
fig.5.1-2b ② 円グラフ
fig.5.1-2c ③ 円グラフ
fig.5.1-2d ①②③ 棒グラフ
77
5
分析
素材 3 | コルク細目 ■円グラフの分析 ①③では「ふわふわ」 「やんわり」などの柔らかい言葉が多く選択され、②では「ふわふわ」 「やんわり」 よりも「ざらざら」を選択する回答が目立った。全体にばらつきのある結果となった。
■棒グラフの分析 「ざらざら」:チェック数が②では多いが、①③では少ない 「ほっと」「しっとり」「ふわふわ」:チェック数が①③では多いが、②では少ない
■考察 コルク細目は、見た目には「ざらざら」など鋭い物理的感覚を示す言葉が選択されているが、肌触りか らすると「ほっと」「しっとり」「ふわふわ」など柔らかい物理的感覚を示す言葉が選択されている。
fig.5.1-3a ① 円グラフ
fig.5.1-3b ② 円グラフ
fig.5.1-3c ③ 円グラフ
fig.5.1-3d ①②③ 棒グラフ
78
5
分析
素材 4 | コルク荒目 ■円グラフの分析 ①③では「しっとり」「やんわり」などの柔らかい言葉が多く選択され、②では「ざらざら」が最も多か ったものの、その他の擬態語・擬音語についてもばらつきがあり、目立って多い結果とはならなかった。
■棒グラフの分析 「ざらざら」「ごつごつ」:チェック数が②では多いが、①③では少ない 「ぺたぺた」「やんわり」「しっとり」:チェック数が①③では多いが、②では少ない
■考察 コルク荒目は、見た目には「ざらざら」「ごつごつ」など鋭い物理的感覚を示す言葉が選択されている が、肌触りからすると「ぺたぺた」「やんわり」「しっとり」など柔らかい物理的感覚を示す言葉が選択 されている。しかし視覚だけの認識での印象はばらつきも多かったことから、視覚よりも触覚による印 象の方が強く影響していると考えられる。
fig.5.1-4a ① 円グラフ
fig.5.1-4b ② 円グラフ
fig.5.1-4c ③ 円グラフ
fig.5.1-4d ①②③ 棒グラフ
79
5
分析
素材 5 | 塩ビ + 桐木板 ■円グラフの分析 ①②③で共通して、「つるつる」が最も多く選択されている。次いで「ぺたぺた」が多い。
■棒グラフの分析 「てかてか」「すべすべ」:チェック数が②では多いが、①③では少ない 「ぬるぬる」「しっとり」「ふわふわ」:チェック数が①③では多いが、②では少ない
■考察 塩ビ+桐木板は、見た目には塩ビの光沢に関する言葉が、肌触りとしても塩ビの粘着性に関する言葉 が抽出された。これらの抽出された言葉から、その木目調よりも、表面に貼られた塩ビ版に対する印象 の数が多いように見受けられた。
fig.5.1-5a ① 円グラフ
fig.5.1-5b ② 円グラフ
fig.5.1-5c ③ 円グラフ
fig.5.1-5d ①②③ 棒グラフ
80
5
分析
素材 6 | 木目塩ビシート ■円グラフの分析 ①③では「さらさら」「すべすべ」「つるつる」などの言葉が多く選択され、②では「さらさら」「つる つる」の他に「かちかち」「ざらざら」などの言葉が多く選択されたものの、その他の擬態語・擬音語に ついてもばらつきがあり、目立って多い結果とはならなかった。
■棒グラフの分析 「ざらざら」「かちかち」:チェック数が②では多いが、①③では少ない 「すべすべ」「さらさら」:チェック数が①③では多いが、②では少ない
■考察 木目塩ビシートは、見た目には「ざらざら」「かちかち」など鋭い物理的感覚を示す言葉が選択されて いるが、肌触りからすると「すべすべ」「さらさら」など柔らかい物理的感覚を示す言葉が選択されてい る。人工的に作られたフローリング材は、見た目の重厚感は損なわず、肌触りの軽快感を表現すること に成功していると考えられる。
fig.5.1-6a ① 円グラフ
fig.5.1-6b ② 円グラフ
fig.5.1-6c ③ 円グラフ
fig.5.1-6d ①②③ 棒グラフ
81
5
分析
素材 7 | 竹 ■円グラフの分析 ①②では「ごつごつ」が最も多く選択され、③では「つるつる」が最も多く選択された。
■棒グラフの分析 「ざらざら」「かちかち」:チェック数が②では多いが、①③では少ない 「ぺたぺた」「さらさら」「つるつる」:チェック数が①③では多いが、②では少ない
■考察 竹は、見た目には「ざらざら」「かちかち」など鋭い物理的感覚を示す言葉が選択されているが、肌触 りからすると「ぺたぺた」 「さらさら」 「つるつる」など柔らかい物理的感覚を示す言葉が選択されている。 一般的に見かけることは多くある素材ではあるが、日常生活で実際に触れて、かつ足の裏の触覚で認識 することが少ないために、このような乖離が見られたものと考えられる。
fig.5.1-7a ① 円グラフ
fig.5.1-7b ② 円グラフ
fig.5.1-7c ③ 円グラフ
fig.5.1-7d ①②③ 棒グラフ
82
5
分析
素材 8 | 麻ロープ ■円グラフの分析 ①②③共通して「ざらざら」が最も多く選択された。2番目に多く選択されたのは、①では「ごちゃ ごちゃ」、②③では「ごつごつ」であった。
■棒グラフの分析 「がんがん」「ごつごつ」:チェック数が②では多いが、①③では少ない 「すっきり」「やんわり」「ふわふわ」:チェック数が①③では多いが、②では少ない
■考察 麻ロープは、見た目には「がんがん」「ごつごつ」など痛覚を伴うような物理的感覚を示す言葉が選択 されているが、肌触りからすると「すっきり」「やんわり」「ふわふわ」など柔らかい物理的感覚を示す 言葉が選択されている。見た目には痛そうであるが、実際に足の裏の触覚で認識してみると、さほど歩 きにくくはないことが示されていると考えられる。
fig.5.1-8a ① 円グラフ
fig.5.1-8b ② 円グラフ
fig.5.1-8c ③ 円グラフ
fig.5.1-8d ①②③ 棒グラフ
83
5
分析
素材 9 | い草 ■円グラフの分析 ①では選択された言葉にばらつきが見られたが、②③では「ほっと」が最も多く選択された。
■棒グラフの分析 「ざらざら」「しっとり」:チェック数が②では多いが、①③では少ない 「ぼんやり」「やんわり」「さらさら」「ふわふわ」:チェック数が①③では多いが、②では少ない
■考察 い草は、足の裏の触覚だけで認識した場合には選択された言葉にばらつきがあり、「やんわり」「さら さら」「ふわふわ」などの柔らかい言葉が多く見られたが、視覚が加わると「ほっと」や「のんびり」な どの言葉が多く選択された。これは、い草が被験者個人個人の「和風」に対する記憶を想起させ、印象 として結びついたものと考えられる。
fig.5.1-9a ① 円グラフ
fig.5.1-9b ② 円グラフ
fig.5.1-9c ③ 円グラフ
fig.5.1-9d ①②③ 棒グラフ
84
5
分析
素材10 | 網 + 合板 ■円グラフの分析 ①②③で共通して、「ざらざら」が最も多く選択されている。
■棒グラフの分析 「はらはら」:チェック数が②では多いが、①③では少ない 「すっきり」「ぼんやり」「かちかち」:チェック数が①③では多いが、②では少ない
■考察 網+合板は、足の裏の触覚だけで認識した場合には「ざらざら」「かちかち」「ごつごつ」など痛覚を 伴うような物理的感覚を示す言葉が選択されており、視覚が加わると、「はらはら」「ごちゃごちゃ」な どの不安感を示す言葉が選択されている。総合的な印象はネガティブなものが多いが、不安感を煽るこ とを目的とした空間では有用であると考えられる。
fig.5.1-10a ① 円グラフ
fig.5.1-10b ② 円グラフ
fig.5.1-10c ③ 円グラフ
fig.5.1-10d ①②③ 棒グラフ
85
5
分析
素材11 | スポンジ ■円グラフの分析 ①②③で共通して、「ふわふわ」が最も多く選択されている。
■棒グラフの分析 「ぼんやり」「ざらざら」:チェック数が②では多いが、①③では少ない 「ほっと」「しっとり」:チェック数が①③では多いが、②では少ない
■考察 スポンジは、全体を通して「ふわふわ」であるという共通な印象が根付いているようだが、見た目には「ぼ んやり」「ざらざら」など曖昧で、素材の性質をうかがうような言葉が選択されているが、肌触りからす ると「ほっと」「しっとり」など柔らかい物理的感覚を示す言葉が選択されている。スポンジはその見た 目のみからは弾力がわからないので、遊び場のような、冒険心をかき立てる空間では有用であると考え られる。
fig.5.1-11a ① 円グラフ
fig.5.1-11b ② 円グラフ
fig.5.1-11c ③ 円グラフ
fig.5.1-11d ①②③ 棒グラフ
86
5
分析
5. 2 S D 法 に 基 づ く ア ン ケ ー ト の 結 果
SD 法に基づくアンケートを以下のように分離して分析した。 【 ①触覚のみで認識した場合と③視覚と触覚を併せて認識した場合の比較 】 この比較・分析をすることによって、純粋な触覚のみの印象に視覚の印象がどれだけ認識しているか わかる。 【 ②視覚のみで認識した場合と③視覚と触覚を併せて認識した場合の比較 】 この比較・分析をすることによって、純粋な視覚のみの印象に触覚の印象がどれだけ認識しているか わかる。 次ページより SD 法各形容詞対の 4 段階評価を素材ごとに平均してグラフにしたものを掲載する。縦 軸は評価点、横軸は形容詞対を示し、各形容詞対のばらつきも示す。比較する際には以下の点を基準と する。 比較する際には、以下の点を基準とした。 ・平均値を示したグラフの差の評価基準 0 以上 0.4 未満:似ている 0.4 以上 0.6 未満:差異がある 0.6 以上:かなり差異がある ・ばらつきの差の評価基準 1 未満:ばらつきが少ないと判断する 1 以上:ばらつきが多いと判断する
87
5
分析
素材1| パイン集成材 ①触覚のみ:親しみのある、好ましい、心地のよい ②視覚のみ:自然な、親しみのある、好ましい、心地のよい ③触覚+視覚:自然な、親しみのある、好ましい、心地のよい の評価が得られた。 どちらの比較の場合も、印象の相違は大きく見られなかったが、この理由として、パイン集成材は従 来一般的に床材として使用されてきている素材であり、触れ慣れた、見慣れた素材であることが挙げら れると考えられる。このため、実験で得られた印象よりも、記憶による印象の方が先攻したので、①② ③それぞれのグラフが「似ている」という結果が出たのであろうと推察される。
fig.5.2-1 実験方法による比較
88
5
分析
素材 2 | 焼き桐集成材 ①触覚のみ:安っぽい ②視覚のみ:自然な、高級感のある ③触覚+視覚:自然な、好ましい、心地のよい の評価が得られた。 「高級感のあるー安っぽい」について見てみると、①と③の比較より、純粋な触覚だけの印象よりも視 覚と触覚を併せた印象の方が「高級感のある」に近づいた。また、②と③の比較より、視覚と触覚を併 せた印象よりも、視覚だけの印象の方が「高級感のある」にさらに近づいている。したがって、「高級感 のあるー安っぽい」については、視覚の印象が強く影響し、実際よりも大きく好転させていることがわ かる。
fig.5.2-2 実験方法による比較
89
5
分析
素材 3 | コルク細目 ①触覚のみ:人工的な、安っぽい ②視覚のみ: 安っぽい ③触覚+視覚:好ましい、心地のよい の評価が得られた。 「自然なー人工的な」に関しては、①③の比較だけに 0.8 以上の差異が見られ、触覚だけでは「人工的 な」寄りに評価されたものの、視覚を合わせることで「自然な」寄りに大きく評価されることがわかった。 したがって、「自然なー人工的な」については、視覚の印象が強く影響し、実際よりも大きく好転させて いることがわかる。
fig.5.2-3 実験方法による比較
90
5
分析
素材 4 | コルク荒目 ①触覚のみ:人工的な、好ましい ②視覚のみ:安っぽい ③触覚+視覚:心地のよい の評価が得られた。 「自然なー人工的な」に関しては、①③の比較だけに 0.6 以上の差異が見られ、コルク細目よりは小さ い差異ではあるにしろ、同じような傾向が見られた。コルク細目と比較した場合に、コルク荒目の方が、 ①②③の認識の仕方のちがいによる印象の相違を軽減できると考えられる。
fig.5.2-4 実験方法による比較
91
5
分析
素材 5 | 塩ビ + 桐木板 ①触覚のみ:人工的な、安っぽい ②視覚のみ:人工的な ③触覚+視覚:人工的な の評価が得られた。 「親しみのあるー親しみのない」「好ましいー好ましくない」に関しては、①③の比較だけに 0.4 以上 0.6 未満の差異が見られ、いずれも触覚だけでの印象の方が好転していることがわかる。したがって塩 ビ+桐木板は、①の状態で認識した場合に最も好印象を持たれることが考えられる。
fig.5.2-5 実験方法による比較
92
5
分析
素材 6 | 木目塩ビシート ①触覚のみ:人工的な、好ましい ②視覚のみ:親しみのある、好ましい、心地のよい ③触覚+視覚:親しみのある、好ましい、心地のよい の評価が得られた。 どちらの比較の場合も、「自然なー人工的な」については 0.4 以上 0.6 未満の差が見られ、①、③、② の順に好転した。したがって、「自然なー人工的な」については、視覚の印象が強く影響し、実際よりも 大きく好転させている。つまり、見た目を本物の木材のように印刷し、視覚的に好まれやすいように作 られた木目塩ビシートは、触覚だけが受ける印象については注視されていないことがわかる。
fig.5.2-6 実験方法による比較
93
5
分析
素材 7 | 竹 ①触覚のみ:親しみのない、安っぽい ②視覚のみ:自然な ③触覚+視覚:自然な の評価が得られた。 「自然なー人工的な」に関しては、①と③の比較により、視覚の印象の影響が大きいことがわかった。 これは、竹の材質がつるつるとしており、プラスチックのように感じられるためであると考えられる。 このことから、現代では、「つるつるとしたもの=プラスチック」という固定概念が根付いていることが 推測できる。
fig.5.2-7 実験方法による比較
94
5
分析
素材 8 | 麻ロープ ①触覚のみ:安っぽい ②視覚のみ:自然な、安っぽい、心地の悪い ③触覚+視覚:自然な、安っぽい の評価が得られた。 「自然なー人工的な」に関しては、①と③の比較により、視覚の印象の影響が大きいことがわかった。 これは、麻の素材が植物から出来た自然な素材だと認識しているためだと考えられる。またどちらの比 較の場合でも、回答にばらつきが多く、個人差で印象のちがいが大きい床素材であることがわかる。
fig.5.2-8 実験方法による比較
95
5
分析
素材 9 | い草 ①触覚のみ:親しみのある、好ましい、心地のよい ②視覚のみ:自然な、親しみのある、好ましい、心地のよい ③触覚+視覚:自然な、親しみのある、好ましい、心地のよい の評価が得られた。
「自然なー人工的な」に関しては、①と③の比較により、視覚の印象の影響が大きいことがわかった。 これは、一部の被験者がい草の一方方向がつるつるしている面をプラスチックのように感じられるため であると考えられる。このことから、現代では「つるつるとしたもの=プラスチック」という触覚的な 固定概念が根付いていることが推測できる。しかし、①と③の比較と②と③の比較より、ばらつきは少 なく、印象は好転している。このことから、現代ではこの床素材は視覚的な固定概念が根付いているこ とが推測できる。
fig.5.2-9 実験方法による比較
96
5
分析
素材10 | 網 + 合板 ①触覚のみ:人工的な、安っぽい ②視覚のみ:人工的な、親しみのない、好ましくない、安っぽい、心地の悪い ③触覚+視覚:人工的な、親しみのない、好ましくない、安っぽい、心地の悪い の評価が得られた。 他素材と比較して、総合的な評価がネガティブなものとなった。しかしながら、他素材が視覚によっ て印象が好転するものが多いのに対して、網+合板は①と③の比較を見てもわかるように、触覚が印象 を好転させている珍しい例であることは興味深い。
fig.5.2-10 実験方法による比較
97
5
分析
素材11 | スポンジ ①触覚のみ:人工的な、親しみのある、好ましい、安っぽい、心地のよい ②視覚のみ:人工的な、安っぽい、心地のよい ③触覚+視覚:人工的な、親しみのある、好ましい、安っぽい、心地のよい の評価が得られた。 以上の比較から視覚の触覚に対する影響よりも触覚の視覚に対する影響の方がポジティブな印象を与 えており、「親しみのあるー親しみのない」「好ましいー好ましくない」「心地よいー心地の悪い」では特 にポジティブな印象へと好転させていることから視覚よりも足の裏の触覚を重要視した空間の床材へ使 用できる可能性がある。
fig.5.2-11 実験方法による比較
98
5
分析
5.3 自由記述によるアンケートの結果
自由記述によるアンケートで得られた回答を以下のグループに分類して、分析をした。
a 空間・風景
:人物を含まない空間や風景を記述・描画した場合
b 人がいる風景
:自身以外の他人を含む空間や風景を記述・描画した場合
c 人物
:人物そのものを記述・描画した場合
d 天気・気候
:天気、温度、湿気を記述・描画した場合
e 感情
:感情を記述・描画した場合
f 行動
:行動・状態の欲求またはその状況を記述・描画した場合
g 他の五感
:実験で扱った五感 ( ①は触覚、②は視覚、③は視覚と触覚 ) 以 外の感覚を記述・
Ex. 白い箱に入ってるみたいな、砂漠のような Ex. おばあちゃんが飴を売ってる Ex. 田舎のおばあちゃん Ex. 晴れ、じめじめする Ex. 楽しい Ex. ゴロゴロしたい、寝ている 描画した場合 Ex. ( ①の実験の場合は ) 黒っぽい、エンジン音 h イメージ以外
:素材そのものや用途の書き出し、指摘など a g 以外のものを記述・ 描画した 場合 Ex. スポンジ、水切りに使えそう
a ∼ g のグループについては床素材が被験者に対して何らかのイメージを連想させたと考えられるが、 hのグループについては物理的な感想であるため、イメージを連想させたとは考えられない。得られた 回答を大きく a ∼ g の「イメージグループ」とhの「イメージ外グループ」に分け、評価値を比較する ことでその床素材がイメージを連想させやすいものか、また、させやすいものの場合、どの種類のイメ ージを多く連想させるのか明らかにし、床素材の特性を探って行く。 ひとりの被験者がひとつの床素材に対して想像した「ひとつのイメージ」の評価値は以下の式で表せる。 「ひとつのイメージ」の評価値=
1 「ひとつのイメージ」の個数
この評価値を a ∼ h のグループに振り分け、その合計点を比較する。 また、「イメージ外グループ」の評価によって、その床材の特性を以下のように判断する。 ・h . イメージ以外の評価値基準 4 未満 :イメージしやすい素材であると判断 4 以上 8 未満 :イメージできる素材であると判断 8 以上 :イメージしにくい素材であると判断
99
5
分析
素材1| パイン集成材
■イメージグループの割合分析
①と②③を比較したとき、①の「人物がいる風景」が特に多く、②③は「空間・風景」の評価値が特 に多くなっている。これは視覚のない状態のほうが具体的なイメージをしやすくなるということを示し ている。また、①②と③で次に多いイメージを比較したとき、①は「感情」「他の五感」③は「行動」の 評価値の割合が多い。①②は静的な感情がうまれやすく、③が動的な感情がうまれやすいと考えられる。 つまり、この素材は視覚と触覚を併せて感じることで、静的なイメージが動的なイメージになるとわか った。また、記述の結果 (4.3 参照 ) の中では複数共通してるイメージは②「小学校」や「リビング」 、 ③では「寝転びたい」となった。
■イメージ以外グループの割合分析 ①②③とも、イメージ以外の評価値が 4 未満であり、イメージしやすい床素材であると判断できる。
■考察 パイン集成材はイメージを連想しやすい床素材であることがわかった。しかし、②③よりも①の方が 具体的なイメージをしやすくなることには、パイン集成材が現在一般的に私達の生活の中で多用される 床材であり、ひとたび視覚で認識すると、その日常的な素材感に対して多くをイメージできなくなるた めであると考えられる。よってパイン集成材は、視覚を遮った状態のときに、親しみのあるイメージを 想起させやすくなる床素材であると考えられる。
tab.5.3-1 印象分類表
fig.5.3-1 印象分類グラフ
100
5
分析
素材 2 | 焼き桐集成材 ■イメージグループの割合分析 ①と②③を比較したとき、②③は「空間・風景」の評価値が大半を示すが、①はイメージ以外の評価 値が高く、その他のイメージにもばらつきがあるとこから、触覚だけの認識では個性をもっているとは いえない床素材であることがわかる。また、記述の結果 (4.3 参照 ) の中では複数共通してるイメージは ②「焼けた家」、②③とも「古い家」となった。
■イメージ以外グループの割合分析 ②③はイメージ以外の評価値が 4 未満であり、イメージしやすい床素材であると判断できる。しかし、 ①はイメージ以外の評価値が 8 以上あり、イメージしにくい素材であると判断できる。よって、この床 素材は触覚的なイメージがしにくく、視覚的なイメージによるものが大きいとわかった。
■考察 焼き桐集成材は、その見た目が焼かれていることから、視覚を使って認識した場合に「焼けた家」 「古 い家」などをはじめとして、様々なイメージを連想させやすい床素材である。一方でその視覚を遮り、 足の裏の触覚だけで認識した場合には、イメージ外の言葉が多く抽出され、イメージしにくい床素材で あることがわかる。よって焼き切り集成材には、触覚のみによるイメージの想起は促しにくい床素材で あると考えられる。
tab.5.3-2 印象分類表
fig.5.3-2 印象分類グラフ
101
5
分析
素材 3 | コルク細目 ■イメージグループの割合分析 ①③と②を比較したとき、②は「空間・風景」の評価値が低く、 「人がいる風景」のイメージが全くなく、 「他 の五感」の評価値が比較的多くあり、記述の結果 (4.3 参照 ) の中では複数共通しているイメージは触覚 的なイメージの「柔らかそう」となった。
■イメージ以外グループの割合分析 ①③はイメージ以外の評価値が 4 以上 6 未満であり、イメージできる床素材であると判断でき、②は イメージ以外の評価値が 8 以上あり、イメージしにくい床素材であると判断できる。③のイメージ以外 の評価値が①と②の評価値の中間にあるということは視覚のイメージを触覚のイメージが補っていると 考えられる。
■考察 ①③と②を比較すると、②の触覚のみで認識した場合にはイメージしにくくなり、①③ではイメージ しやすくなっており、「イメージ群」の中でも、②よりも具体的なものをイメージしやすくなっている。 よってコルク細目は、視覚を遮った状態の方がイメージを想起させやすくなる床素材であると考えられ る。
tab.5.3-3 印象分類表
fig.5.3-3 印象分類グラフ
102
5
分析
素材 4 | コルク荒目 ■イメージグループの割合分析 ①③と②を比較したとき、②は「他の五感」の評価値が比較的多くあり、記述の結果 (4.3 参照 ) の中 では複数共通してるイメージは触覚的なイメージの「柔らかそう」「凸凹してそう」であった。①②③に 共通しているイメージグループは「天気・気候」に関するイメージが多く、記述の結果 (4.3 参照 ) の中 でも共通して「晴れた」「あたたかな」となった。
■イメージ以外グループの割合分析 ②はイメージ以外の評価値が 4 以上 6 未満であり、イメージできる床素材であると判断でき、①③は イメージ以外の評価値が 8 以上あり、イメージしにくい床素材であると判断できる。補足であるが、 「コ ルク細目」との比較では「コルク荒目」の方が②の視覚のみの連想はよりしやすく、①③の触覚を含む 連想はよりしにくくなり、コルクの粗さによる印象の差異が明らかとなった。
■考察 ②で視覚のみで認識した場合に、触覚のイメージを連想する被験者が多くなった。また、他の床素材 と比較して「晴れた」「あたたかな」などの「天気・気候」を表すイメージが多く抽出された。よってコ ルク荒目は、その見た目や感触などを総合して、触覚のイメージを想起させやすく、それもポジティブ なものが多くなる床素材であると考えられる。
tab.5.3-4 印象分類表
fig.5.3-4 印象分類グラフ
103
5
分析
素材 5 | 塩ビ + 桐木板 ■イメージグループの割合分析 ①②③で共通して「空間・風景」のイメージが多く、「オフィス」や水場の近くの風景など、光の反射 の強そうなイメージが共通していた。①と②③の比較では、「天気・気候」を連想したのは①のみだった。
■イメージ以外グループの割合分析 ①②はイメージ以外の評価値が 4 以上 8 未満であり、イメージしやすい床素材であると判断でき、③ はイメージ以外の評価値が 8 以上あり、イメージしにくい素材であると判断できる。
■考察 この床素材は、筆者が独自に作成したもので、桐木板の表面に塩ビ板を貼り付けたものである。つまり、 見た目は木目調だが、肌触りは塩ビのものである。①では連想されたイメージにばらつきが生まれたが、 ②③ではそのばらつぎが収まったこと、①②③と段階を追うにつれてイメージがしにくくなったことは、 見た目と肌触りの乖離によるものであると考えられる。よって塩ビ+桐木板は、認識する人の予想を裏 切る床素材であり、おもしろみのある空間に利用することで効果を発揮できると考えられる。
tab.5.3-5 印象分類表
fig.5.3-5 印象分類グラフ
104
5
分析
素材 6 | 木目塩ビシート ■イメージグループの割合分析 ①と②③を比較したとき、①は「行動」が比較的多く、座ったり寝転んだりした時の行動が連想され た。一方、②③では「空間・風景」の記述の結果 (4.3 参照 ) が共通して「高級感のある」「落ち着いた」 というイメージが複数の回答でみられた。これは視覚の影響でイメージが変化したものだと考えられる。 また、②と①③の比較では、②の「他の五感」が比較的多く、そのうちほぼ味覚に関するイメージとな った。
■イメージ以外グループの割合分析 ①②はイメージ以外の評価値が 4 以上 8 未満であり、イメージできる床素材であると判断でき、③は イメージ以外の評価値が 8 以上であり、イメージしにくい床素材であると判断できる。触覚のみか視覚 のみの認識ならば比較的イメージしやすいというのは特異な結果である。
■考察 ①の足の裏の触覚のみで認識した場合、座ったり寝転んだりといったような行動を誘発するような活 発なイメージが得られたが、②③で視覚情報が入ったことにより、見た目の高級感や、食事をとる空間 に適していそうだ、といったイメージの枠を出ることがなくなり、イメージ以外の言葉が多く抽出され、 固定観念の強くなる傾向が見られた。よって木目塩ビシートは、その見た目からイメージを強く想起させ、 肌触りよりも色味の方が、床素材としての特性を決定していると考えられる。
tab.5.3-6 印象分類表
fig.5.3-6 印象分類グラフ
105
5
分析
素材 7 | 竹 ■イメージグループの割合分析 ①②③で共通して「空間・風景」が多く、記述の結果 (4.3 参照 ) ではアジア的なイメージ ( 特に日本 的なイメージ )、水辺のイメージ、自然のイメージが共通しており、「天気・気候」のイメージでも「夏」 というイメージが共通している。「感情」のイメージを多く抽出できた。抽出された言葉は「こわい」 「不 安だ」などのネガティブなものである。
■イメージ以外グループの割合分析 ①②③とも、イメージ以外の評価値が 4 未満であり、イメージしやすい床素材であると判断できる。
■考察 ①②③で共通してイメージしやすい床素材であることは明らかになったが、そこでイメージされる内 容は共通のものではない。①足の裏の触覚のみで認識した場合に抽出された感情のイメージは「こわい」 「不安」などであるが、②③ではそれらの感情のイメージは見られず、水辺のイメージや夏のイメージが 多くを占めるようになった。これは竹の、円柱形で肌触りがツルツルとしている特性が、足の裏の触覚 だけで認識すると不安定なプラスチックの床材を連想させた一方で、視界を遮らずに認識すれば、竹本 来の見かけのイメージから強く影響を受けることが原因であると考えられる。よって竹は、触覚だけで は「こわさ」「不安」を、視覚が加われば全く別の、「自然」「さわやかさ」などをイメージさせることの できる、極めて二面性の強い素材であると考えられる。
tab.5.3-7 印象分類表
fig.5.3-7 印象分類グラフ
106
5
分析
素材 8 | 麻ロープ ■イメージグループの割合分析 ①②③で共通して「空間・風景」がそれぞれの多くの割合を占めていた。記述の結果 (4.3 参照 ) での「ア スレチック」 「田舎」 「海」という回答が共通しており、荒々しい自然の風景のイメージが連想された。また、 「天気・気候」も少しながら連想され、記述の結果 (4.3 参照 ) は「晴れ」のイメージが共通した。
■イメージ以外グループの割合分析 ②はイメージ以外の評価値が 4 未満であり、イメージしやすい床素材であると判断でき、③はイメー ジ以外の評価値が 4 以上 8 未満であり、イメージできる床素材であると判断でき、①はイメージ以外の 評価値が 8 以上であり、イメージにくい床素材であると判断できる。よって、この床素材がイメージを 連想しやすいのは②視覚のみで認識した場合である。
■考察 ①②③で共通して荒々しい自然のイメージが抽出できたが、イメージのしやすさには認識のしかたご とに差が見られる。この差が生まれた理由は、麻ロープが従来床材に使用されてきた例が無いため、① 足の裏の触覚のみでは被験者は何を踏んでいるのか想像できなかったであろうこと、③視覚と足の裏の 触覚を併せて認識してみても、その初めての感覚に、イメージを連想するよりも物理的な感想を述べる 傾向が強かったであろうことが推測される。よって麻ロープは、新しい床素材としての可能性を示唆す るとともに、そこから荒々しい自然のイメージを連想させるという、空間演出に適した特性を持つと考 えられる。
tab.5.3-8 印象分類表
fig.5.3-8 印象分類グラフ
107
5
分析
素材 9 | い草 ■イメージグループの割合分析 ①②③で「空間・風景」の記述の結果 (4.3 参照 ) が「和室」 「実家」 「祖父母」という回答が共通しており、 懐かしい日本の家のイメージが連想された。畳の部屋が少なくなった現代でも馴染みの深い床素材であ るといえる。また、③②①の順で「感情」「行動」の連想が段階的に多くなっているのもこの床素材特徴 であり、懐かしいイメージをもつこの床素材が①の触覚のみで認識するときに期待感が高まり、②③で 懐かしさの感情のイメージ、またはその感情が行動のイメージに表れると推測できる。
■イメージ以外グループの割合分析 ②③のイメージ以外の評価値が 4 未満であり、イメージしやすい床素材であると判断でき、①のイメ ージ以外の評価値が限りなく4に近い 4 以上 8 未満であり、イメージできる床素材であると判断できる。 総合して、イメージしやすい床素材であると判断する。
■考察 ①②③と総合的に見て、い草は本実験で使用した11種の床素材の中でも最もイメージしやすい床素 材のひとつである。被験者は①足の裏の触覚のみで認識した時点である程度床素材の正体に気づいてお り、段階的に確信を得たために、特に「感情」「行動」のイメージが段階的に多くなっていくようにイメ ージを連想したものと推測される。よってい草は、認識の仕方のちがいによるイメージに大きな差は無 いが、全体として懐古的なイメージを連想させ、内面的な心情や欲求を強く感じさせる床素材であると 考えられる。
tab.5.3-9 印象分類表
fig.5.3-9 印象分類グラフ
108
5
分析
素材10 | 網 + 合板 ■イメージグループの割合分析 ①と②③を比較したとき、①では「人物」「感情」が比較的多く、記述の結果 (4.3 参照 ) をみると不 安や戸惑いをかんじる「人物」「感情」が表れた。また、②③では比較的人工的な機械的なイメージがあ らわれ、特に③では「理科室」という複数の共通イメージがあらわれた。
■イメージ以外グループの割合分析 ①はイメージ以外の評価値が8に限りなく近い 4 以上 8 未満であり、イメージできる床素材であると 判断でき、②③はイメージ以外の評価値が 8 以上であり、イメージしにくい素材であると判断できる。 総合してイメージしにくい床素材であると判断する。
■考察 この床素材は、筆者が独自に作成したもので、合板の表面に網を貼り付けたものである。見た目も肌 触りも今までに無いものである。①では連想されたイメージにばらつきが生まれたが、②③ではそのば らつぎが収まったこと、①②③と段階を追うにつれてイメージがしにくくなったことは、見た目と肌触 りの乖離によるものであると考えられる。よって網+合板は、認識する人の予想を裏切る床素材であり、 おもしろみのある空間に利用することで効果を発揮できると考えられる。ただし、①足の裏の触覚のみ で認識した場合のイメージはネガティブなものが多いため、視覚を遮らずに認識することが望ましい。
tab.5.3-10 印象分類表
fig.5.3-10 印象分類グラフ
109
5
分析
素材11 | スポンジ ■イメージグループの割合分析 ①③と②で比較すると、①③では「空間・風景」の評価値が高くなっており、②は比較してその評価 値が低い。その代わりに、②では「他の五感」の評価値が高くなっている。この中には味覚のイメージ が抽出されており、「おもち」「はんぺん」などのやわらかな食材が連想された。 ①②③共通のイメージとしては、「空間・風景」の「子どもの遊び場」や「リビング」といった言葉が 多く見られた。これは、そのふかふかとした肌触りや見た目から、子どもの遊び道具やクッションを連 想したものと推測される。
■イメージ以外グループの割合分析 ①③はイメージ以外の評価値が 4 未満であり、イメージしやすい床素材であると判断でき、②はイメ ージ以外の評価値が 4 以上 8 未満であり、イメージできる床素材であると判断できる。
■考察 ①②③で共通して「やわらかい」「癒される」といったイメージが多く抽出され、大きな差は見られな かった。しかし②視覚だけで認識した場合に具体的な食材名が多く並んだことはこの床素材の特筆すべ き特性のひとつであると考えられる。よってスポンジは、人々が憩う、憩いたくなる空間に使用するこ とでその空間の効果を助長し、かつ視覚だけの認識だけなされる場合には、味覚のイメージを演出する 効果があると考えられる。
tab.5.3-11 印象分類表
fig.5.3-11 印象分類グラフ
110
5
分析
5.4 分析のまとめ 5.4.1 擬音語・擬態語によるアンケートのまとめ 5.1 擬音語・擬態語によるアンケートで得られた回答を以下のグループに分類して、分析をした。表 の作成手順は以下の通り。 1. 5.1 擬態語・擬音語の中で、特徴的なものを抽出し、硬度感(硬い/柔らかい)、きめ感(荒い/細かい) 、 湿度感(高い/低い)、光沢感(高い)、落ち着き感の8項目に分類した。 2. 各素材のアンケート結果から、①②③それぞれで、10% 以上のチェック数を得た擬態語・擬音語を 記し、項目別に色分けした。 この表で気づいたことを以下にまとめ、その理由として考えられることを、5.3 の分析から補足する。
【凡例】
fig.5.4-1 擬態語・擬音語の分類
111
5
分析
この表で気づいたことを以下にまとめ、その理由として考えられることを、5.3 の分析から補足する。 素材1 パイン集成材 :さらさらがすべてで上位 この「さらさら」は、「滑りやすそう」などの印象から連想されたものと考え られる。 素材2 焼き桐集成材 :ざらざらがすべてで上位 この「ざらざら」は、「焼けた木材」「古い木材」などの印象から連想されたも のと考えられる。 素材 3 コルク細目
:視覚だけでざらざらが顕著 この「ざらざら」は、 「繊細な凸凹」などの印象から連想されたものと考えられる。
素材 4 コルク荒目
:視覚だけでごつごつが顕著 この「ごつごつ」は、「荒っぽい凸凹」などの印象から連想されたものと考え られる。
素材 5 塩ビ+桐木板 :触覚だけで視覚的なぴかぴか感が出ている この「ぴかぴか」は、塩ビ表面のすべらかさから連想されたものと考えられる。 素材 6 木目塩ビシート:視覚だけざらざら、かちかちが出ている この「ざらざら」「かちかち」は「高級感がある」などの印象から連想された ものと考えられる。 素材 7 竹
:つるつる感が視覚だけだと無くなる つるつるなものはすべてプラスチック、という固定概念によるものと考えられ る。
素材 8 麻ロープ
:唯一ごちゃごちゃ感やだぶだぶ感が上位に出ている 従来床材に使用されてきた素材ではないため、被験者が今までにない感触に驚 いたためと考えられる。
素材 9 い草
:唯一ほっと感が上位に出ている、唯一のんびり感が上位に出ている い草は和の文化、日本人の原風景を連想させるため、と考えられる。
素材 10 網+合板
:唯一はらはら感が上位に出ている この「はらはら」は、従来床材に使用されてきた素材ではないため、被験者が 今までにない感触に驚いたためと考えられる。また、「痛そう」などの印象か らも連想されたものと考えられる。
素材 11 スポンジ
:ふわふわがすべてで上位 この「ふわふわ」は、「やわらかい」「癒される」などの印象からも連想された ものと考えられる。
次章考察ではさらにこれを別の観点から見て考察していく。
112
5
分析
5.4.2 SD 法によるアンケートのまとめ 5-2 の内容を、以下に表にまとめる。 表の作成手順は以下の通り。 1. 5-2 の形容詞対の10項目に分類した。 2. 各素材のアンケート結果から、①②③それぞれで、評価値の中点である 2.0 点から 0.5 点の範囲外 にプロットされた形容詞を記し、項目別に色分けした。 この表で気づいたことを以下にまとめ、その理由として考えられることを、5-3 の分析から補足する。
【凡例】
fig.5.4-1 擬態語・擬音語の分類
113
5
分析
この表で気づいたことを以下にまとめ、その理由として考えられることを、5-3 の分析から補足する。 素材1 パイン集成材 :好ましい、親しみのある、の評価が強い パイン集成材は従来一般的に使われている床材であるためであると考えられ る。 素材2 焼き桐集成材 :触覚だけではネガティブな評価だが、視覚が加わると好転する 肌触りがざらざらとしていてひっかりがあるが、見た目には高級感があり、風 情を感じさせるためであると考えられる。 素材 3 コルク細目
:安っぽいけれど好印象である 繊細さ、かわいらしさなどのイメージから好印象になったと考えられる。
素材 4 コルク荒目
:安っぽいけれど好印象である 手作り感、自然風な荒々しさなどのイメージから好印象になったと考えられる。
素材 5 塩ビ+桐木板 :人工的な、の評価が強い 塩ビ表面の質感から連想されたものと考えられる。 素材 6 木目塩ビシート:触覚だけでは人工的な、が評価される 元々木材の見た目を真似て、安価に製造するために作られた床材であるため、 食感では人工的な印象を持たれたが、視覚が加わると見た目の木目の方が強い 印象を与えたと考えられる。 素材 7 竹
:触覚だけでは安っぽい、親しみがない、と評価される つるつるなものはすべてプラスチック、という固定概念によるものと考えられ る。視覚が加わると見た目の質感の方が強い印象を与えたと考えられる。
素材 8 麻ロープ
:視覚だけでは心地の悪い、と評価される。 従来床材に使用されてきた素材ではないため、被験者が今までにない見た目に 驚いたためと考えられる。
素材 9 い草
:親しみのある、好ましい、心地のよい、自然な、と評価される い草は和の文化、日本人の原風景を連想させるため、と考えられる。
素材 10 網+合板
:触覚だけでは非個性的に評価されるが、視覚が加わると個性的に評価される 従来床材に使用されてきた素材ではないため、被験者が慣れなかったために、 触覚だけでは非個性的に評価されたが、視覚が加わると今までにない感触に被 験者が驚いたために、個性的に評価されたと考えられる。
素材 11 スポンジ
:視覚だけでは好ましい、と評価されない 本実験で準備したスポンジは、特に加工のなされていない通常のスポンジであ ったため、視覚だけでは被験者の印象に影響を与えることができなかったと考 えられる。
次章考察ではさらにこれを別の観点から見て考察していく。
114
6 考察
素材感による素材選定表の作成
6.1
形容詞対による素材選定表の作成
6.2
考察
6
本章では、前章の分析をもとに、全体的な考察をしていく。本研究の目的は、「床材を、足の触覚で認 識した場合と、視覚によって認識した場合に受ける印象の違いを明らかにし、今後の建築設計において 床材選定に役立てることを目的とする」であるので、設計者と施主の双方にとって役立つ指標を作成する。
116
考察
6.1 素 材 感 に よ る 素 材 選 定 表 の 作 成
6
5.4.1 で分類した8項目と、認識の仕方3種類を掛け合わせて以下のような表を作成した。そこで、 ①触覚のみで認識した場合 = 視覚障がい者が素材と接するとき ②視覚のみで認識した場合 = 健常者が壁や天井の素材と接するとき ③触覚と視覚を併せて認識した場合 = 健常者が床材と接するとき とし、視覚障がい者または健常者が素材と接するとき、という状況を想定した。こうすることで例えば、 施主が視覚障がい者で、柔らかい床を必要としている場合はコルク細目、コルク荒目、スポンジなどを、 また、施主が健常者で、落ち着き度のある床材を必要としている場合はい草、コルク細目、スポンジなどを、 といったように、この表を見ることで設計者や施主が簡単に素材を選択するための指標となるのではな いかと考えた。
fig.6.1 設計者と施主のための素材選定表 ( 素材感版 )
117
考察
6.2 形容詞対による素材選定表の作成
6
5-4-2 で分類した10項目と、認識の仕方3種類を 6-1 と同じように掛け合わせて以下のような表を 作成した。 こうすることで例えば、施主が視覚障がい者で、心地のよい床を必要としている場合はパイン集成材、 い草、スポンジなどを、また、施主が健常者で、親しみのある床材を必要としている場合はパイン集成材、 木目塩ビシート、スポンジなどを、といったように、この表を見ることで設計者や施主が簡単に素材を 選択するための指標となるのではないかと考えた。
fig.6.2 設計者と施主のための素材選定表(形容詞対版)
118
7
まとめ
結論
7.1
展望
7.2
7
考察
7.1 結論
本論文の目的は、「床材を、足の触覚で認識した場合と、視覚によって認識した場合に受ける印象の違 いを明らかにし、今後の建築設計において床材選定に役立てることを目的とする」であった。 6考察で示したように、触覚と視覚からみた床素材の印象評価実験から、設計者と施主の双方に役立 つ指標を作成した。この指標の使用例として以下の場合が挙げられる。 ・壁、天井、床の素材選定をする際に、視覚的または触覚的な印象評価に留意する必要がある場合 ・視覚障がい者が床の素材選定をする際に、触覚的な印象評価に留意する必要がある場合 ・設展や美術館・博物館などの空間で、作品の世界観を演出する空間作りをするために印象評価に触 覚的・視覚的に留意する必要がある場合 このような場合で、一目でより適切な素材の選定ができる。 よって本研究では、目的を達成することができた。
120
7
考察
7.2 展望
本研究での反省点は以下となり、今後のさらなる研究の必要性を示す。 ・床材の素材の選定に役立てることが目的であるが、今回の実験で扱った 11 種類の床素材だけでは すべての素材でも印象を予測することは難しい。よって、より幅広い素材の印象予測をするには、さ らに多くの種類の素材について検討する必要がある。 ・今回の実験に協力してもらった被験者は全員、健常者であり、視覚障がい者の印象を 予測するに は視覚障がい者に協力してもらう必要がある。 触覚と視覚からみた床素材の印象評価を明らかにすることで以下の様なメリットが見込まれる。 ・視覚障がい者に対する素材の選定がしやすくなり、不快感を示す素材を避けることができる。 ・視覚障がい者と健常者の印象の差異を少なくすることで、双方のイメージの共有がしやすくなり、 コミニケーションをしやすくなる。 ・1.1.3 で紹介した「DIALOG IN THE DARK」のようなインスタレーションや映画館、お化け屋敷な どの暗闇が多い空間での素材選定がしやすくなる。 ・素材を視覚または触覚で認識したときの違いについて比較する実験をしたことで、より理想の印象 を与える素材をつくる手がかりとなる。
121
8
さいごに
謝辞
8.1
参考文献
8.2
8
考察
8.1 謝辞
た だ い ま 、1 1 月 6 日 、朝 日 の 昇 ら な い 4 時 ち ょ う ど に 何 度 も く じ け そ う に な り な が ら も こ こ ま でたどり着くことができました。この論文を執筆するにあたって、多くの人達の助けがありま した。ここに感謝の言葉を申し上げます。 ひとし先生、この研究をすることができたのも、ひとし先生がこの研究室に迎えてくださった お陰です。ありがとうございます。ここにきてから、学んだことは多く、新しい出会いがいっ ぱいでした。プレゼンの極意はさすがでしたし、アドバイス、思いもよらない素敵な言葉をい ただきましたし、珍しいフルーツの味は新鮮でした。これからも、たくさんのことを教えてい ただきたいです。 林田先生、いつもたくさんの差し入れをありがとうございます!たぬきせんべいばっかり食べ ていました。いつも、声をかけていただき、ありがとうございました。 良三先生、とても心配をお掛けしたみたいで、すみません。見守っていただき、ありがとうご ざいます。 まぶちさん、一級建築士の試験の中、お忙しいのにやさしく指導してくださいました。たくさ んの神がかり的に適切なアドバイスありがとうございました。この論文がこのような結果にな ったのはまぶちさんのお陰です。 菊 地 さ ん 、い つ も心 配 し て 、た く さ ん 指 導 し て い た だ き ま し た 。い っ ぱ い ア ド バ イ ス を い た だ き 、 感謝しています。つめ、咬まないようになるといいですね。 コレナガくん、りょうじくん、たくさん急かしてくれたおかげで無事終えることができました。 ありがとう。 M 0 のみんな、真夜中でも、提出前の修羅場でも明るい空気をありがとう。おかげで乗り切る ことができました。特にひろぽんには心配かけちゃって、ごめんね。早朝に起こしてくれてあ り が と う 。 や な せ 、 カ レ ー 美 味 し か っ た 。 YANASE'S KITCHIN 期 待 し て る よ 。 あ い さ ち ゃ ん 、 S 棟 での実験期間かぶっちゃって邪魔しちゃったね。撮影会のとき見たあいさちゃんのショット は素敵だったよ。なみえ師匠、おかげで空気が常に明るくなったよ。今度一緒にお酒飲みたい ね。さとうさん、ゴルフの素振りしてる姿は提出前の遊んだ心が和んだよ。みやじまの光のス ピードで卒論が終わってたね、みやじまみたいに華麗に終わらせたかったよ。あいちゃん、論 文が書けなくてすごい沈んでるときにすごいやさしく声をかけてもらって嬉しかった。とむ、 R 2 - D 2 の 加 湿器ち ゃ ん と 作 動 し て よ か っ た ね 。 効 果 は あ っ た か わ か ん な い け ど 、 風 邪 ひ
かなくてよかっ た 。 ち ん 、 3 0 0 P も あ る 論 文 な ん て 見 た こ と な い よ 。 倍 以 上 書 い ち ゃ う なんてすごいね 。 か い こ ね ぇ さ ん 、 あ な た の 徹 底 ぷ り は 見 習 い た い と こ ろ で す 。 お か げでたまに姿を み る だ け で 頑 張 ろ う っ て 思 え た よ 。 被験者のみなさ ん 、 1 時 間 以 上 も あ る 実 験 に つ き あ っ て い た だ き 、 感 謝 し て い ま す 。 や っ ち ゃ ん 、同 僚 の 人 を 誘 っ て く れ た お か げ で 良 い デ ー タ が と れ た よ 。 デ ー タ 入 力 も 手 伝 っ て も ら っ て 、 おかげで早く結果がだせたよ。ありがとう。つるちゃん、ゆみえちゃん、にっしー、差し入れ ありがとう。いっちゃんと実験の前にごはん食べれたのは癒しだったよ。 お と ん 、お か ん 、ゆ う か 、ば ぁ ち ゃ ん 不 規 則 な 生 活 で 迷 惑 か け た ね 、い ろ い ろ と 協 力 あ り が と う 。 おかん、プリンターのメンテナンスしてくれて助かりました。 さいごに、この論文を書く上でいちばんお世話になった、担当の、のんちゃん!私の意味のわ からない難解な日本語にも関わらず、根気強く指導してくれました。のんちゃんがいないと終 わらなかっただろうし、こんなに綺麗にまとめられなかったよ。文章をつくるのにたくさん時 間がかかってしまったけど、のんちゃんに論文の書き方を教えてもらうことで成長できたと思 ってます。文章つくるの遅くてごめんね、文章能力を今後もみがいていきます!のんちゃんの キーボードさばきにもついていけるよう、精進します。唯一、のんちゃんの手が加わっていな いこのページを見たらのんちゃんの影響力は一目瞭然でしょう。いっしょに研究室で論文につ いて考えてくれたり、つらいときはいつも明るくはげましてくれました。感謝してもしきれな いくらいです。ほんとうに、ほんとうに、ほんっとうにありがとうございました!!
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8
考察
8.2 参考文献
*1「商売に役立つ心理学」 http://qualitia.jp/psychology/list-p/sikaku/ 2013/10/22 閲覧 * 2「よくみえること。よく生きること。」 http://yuu-yuu.cocolog-nifty.com/visioncare/2006/05/post_a621.html 2013/10/22 閲覧 * 3「平成 18 年身体障害児・者実態調査」 http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/shintai/06/dl/01_0001.pdf 2013/11/1 閲覧 * 4「総務省 統計データ」 http://www.stat.go.jp/data/jinsui/2006np/ 2013/11/1 閲覧 * 5「公益財団法人 関西盲導犬協会」 http://www.kansai-guidedog.jp 2013/11/1 閲覧 * 6「DIAROG IN THE DARK」 http://www.dialoginthedark.com/ 2013/10/22 閲覧 * 7「触覚を通じてみた世界」 http://www5c.biglobe.ne.jp/obara/shokkaku/shokkaku2.html 2013/10/22 閲覧 * 8「養心弓道場 足裏センサーの重要性」 http://42875218.at.webry.info/201010/article_2.html 20013/10/28 閲覧 * 9 寺田光世 , 筏安子 , 金井秀子 , 蜂須賀弘久 「長期裸足教育が児童の発育発達に及ぼす影響について ( 第 1 報 )」 http://ir.kyokyo-u.ac.jp/dspace/bitstream/123456789/3417/1/S007v67p15-23_terada.pdf 1985/4/30 掲載
* 10「天命反転住宅」 http://www.rdloftsmitaka.com 2013/11/3 閲覧
124
8
考察
* 11「LIVING DESIGN CENTER OZONE」 http://www.ozone.co.jp/housing/knowledge/plan/interior/floor.html 2013/11/5 閲覧 * 12「移転グランドオープン記念講演「建築の可能性」第 1 回建築の原点へ、藤森流建築の手法|藤森 照信
貴志雅樹 」
http://iinavi.inax.lixil.co.jp/ia_seminar/004/ias004.html 2013/10/20 閲覧
* 13「くらしと、ともに KORYU」 http://www.chuden.jp/koryu/interior/study/detail/100007460.html 2013/10/20 閲覧 * 14 潮田浩 「視覚・触覚間における運動情報のクロスモーダル統合」 http://ir.library.tohoku.ac.jp/re/bitstream/10097/34545/1/Shiota-Hiroshi-02-08-0012.pdf 2013/10/31 閲覧
* 15 原利明 , 小林吉之 「摩擦の異なる床仕上げ材間の識別容易性に関する問題」 http://ci.nii.ac.jp/els/110007988531.pdf?id=ART0009577539&type=pdf&lang=jp&host=cinii &order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1383452128&cp= 2013/10/18 閲覧
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EX-word DETAPLUS XD-
SW4800) *18 山下弘之 / 田口光則 / 小出良幸 「アンモナイトを利用した化石の触覚実験とその地球科学教育学的意義」 http://nh.kanagawa-museum.jp/research/bulletin/abstract/30/bul30-4.html 2013/10/31 閲覧
* 19「これなら簡単 , 誰にでも使える SQC」 http://homepage1.nifty.com/QCC/sqc2/sqc-2.html 2013/11/3 閲覧
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