早稲田大学創造理工学部建築学科卒業論文 指導教授 渡辺仁史
建築の壁面利用による農作物の生長モデル
A Growth Model of Agricultural Product by Cultivating Architectural Elevation 柳瀬 秀俊
Department of Architecture, School of Science and Engineering, Waseda University
目次
第1部:本編 1 はじめに
…001
2 研究背景 2-1 食卓の変化 2-1.1 現代の食卓
…002
2-1.2 今日の問題
…005
2-2 農業の変化 2-2.1 現代の農業
…011
2-2.2 未来の農業
…016
3 研究概要 3-1 用語の定義
…018
3-2 研究の位置づけ
…019
3-3 研究の目的
…021
3-4 研究フロー
…022
4 基礎研究 水平面と垂直面の作物収量のモデル式の製作 4-1 研究概要
…024
4-2 研究方法
…025
4-3 モデル式 4-3.1 作物モデル WOFOST の概要
…026
4-3.2 計算式
…028
4-4 水平面での作物ポテンシャル収量の予測
…030
4-5 垂直面での作物ポテンシャル収量の予測
…032
4-6 考察
…035
4-7 まとめ
…036
5 壁面農地における生活モデルの製作 5-1 研究概要
…037
5-2 研究方法
…038
5-3 壁面農地における野菜収量に関する研究・提案 5-3.1 壁面農地における野菜の収量の予測
…039
5-3.2 プラントユニットの計画
…042
5-3.3 1年間の生活モデルの提案
…048
5-4 考察
…052
5-5 まとめ
…053
5-6 展望
…054
6 まとめに
…055
7 展望
…056
8 おわりに 8-1 謝辞
…057
8-2 参考文献
…058
第2部:資料編 1 作物生長モデルの理論背景 - モデル式 -
002
…001
1 はじめに
「食は、農業である」 植付・栽培・収穫・調理。これら全てが、食にまつわる 一連の流れであり、農業におけ るワンパッケージである。食というのは、作って食べるだけではなく、苗を植えてから育 て刈り取るまでを含めることで意味がうまれるのではないか。 私は建築学生であるのと同時に、北海道の農家の跡継ぎでもある。北海道は土地が広く、 緑が生い茂っている。実家では、トウモロコシやジャガイモ、ニンジン、タマネギなど様々 な野菜を栽培し収穫してきた。私も幼少の頃より畑仕事を手伝い、卸売市場に出向き、農家 の仕事に触れてきた。実家の周りには農地があり、一歩外に出れば野菜が育っていて、も ぎ取り食べる生活が当たり前であった。 しかし東京に上京してみると、農地はおろか緑がほとんどない。野菜はスーパーマーケッ トに行かなければ手に入らない上に、値段が高くまた新鮮味がない。私の食卓からは、新 鮮な色合いが消え失せてしまった。これは由々しき事態であると考え、家のベランダ空間 で家庭菜園を現在でも行っている。けれども、ベランダだと面積が狭すぎるため育てられ る野菜の種類が限られてしまう。私はもっと多くの野菜を家で植え付け、栽培し、収穫し、 調理したいと考えている。 現在の東京、特に都心における一般住宅で庭の畑を持っている家庭は皆無に等しいだろ う。そんな土地がない東京でどうやって野菜を育てる農地が確保できるか思案した。都心の 一般住宅において、農地に使用できる水平面積を確保するのは無理だろう。しかしながら垂 直面積、つまり壁面はあり余っているため、その垂直面積を活用して野菜を育てられないか。 もし、壁面で野菜が育てられたら、水平面積のない東京でも農地が獲得でき、持続的に野 菜が収穫できるだろう。 私たちのライフスタイルを作るうえで衣食住は重要であるが、特に「食」は人の生活に おいて不可欠な要素である。「食」という行為は毎日の行動であり、当たり前の活動である。 そのため、食の意味を再認識しなくてはならない。「食」とは、「人」を「良」くすると書 いて成立する。人々の毎日の生活の中で、食の意味、また農業という行為に触れられる機 会を増やすことで、ライフスタイルをより良いものにするために、この研究を始めた。
001
2 研究背景
2-1 食卓の変化 .1 現代の食卓 .2 今日の問題 2-2 農業の変化 .1 現代の農業 .2 未来の農業
2 研究背景
2-1 食卓の変化
2-1.1 現代の食卓 「食卓」とは、食事をする机やテーブルの意味であるが、本書では「家族が食事を行う場」 の意味で使用する。食卓は、古くより様々な場として機能していた。栄養を摂取し健康を確 保する場、おいしさの嗜好つまり味覚的な満足感を楽しむ場、人々が食事を取ることを通し て交流を深める場、食文化を構築し伝承する場、調理や食べ方を通して子どものしつけを行 う場などが挙げられる。*1 食事もまた食卓と同様に様々な機能を持っている。 食卓には、 肉や穀物や 魚介、そして野菜などが溢れている。 食卓にそれらの生鮮食品が 並んでいる割合、つまり摂取状況は (fig.2-1.1) 及び (fig.2-1.2) である。 成人の野菜類と果物類の摂取量の平均値は、それぞれ 277.4g、110.3g で、 * 1 表真美 食卓と家族ー家族団らんの 歴史的変遷 (2010 世界思想 社)
魚介類と肉類 の摂取量の平均値はそれぞれ 78.6g、80.7g である。平成 13 年の摂取量と比べると、野菜類、果物類、魚介類は減少し、肉類は増 加した。年齢階級別では、20~40 歳代の野菜類、果物類、魚介類の摂取 量が少ない。
*2
*2 厚生労働省 平成 23 年 国民健康・栄養 調査結果の概要 http://www.mhlw.go.jp/ stf/houdou/houdou_list. html?ym=201212
fig.2-1.1 野菜類、果物類の摂取量の平均値 (20 歳以上、男女計・年齢階級別 )( 平成 13 年との比較 )*2
002
2 研究背景 2-1 現在の食卓
fig.2-1.2 魚介類、肉類の摂取量の平均値 (20 歳以上、男女計・年齢階級別 )( 平成 13 年との比較 )*2
野菜だけに着目してみると、年代別の野菜摂取量のグラフにおいて全ての年代が一日の 摂取目標量である 350g*3 に達しておらず、特に 20 ~40 代で不足が目立っている。 また、 *3 厚生労働省 健康日本21目標値一覧 http://www1.mhlw.go.jp/ topics/kenko21_11/t2a.
野菜摂取目標量についての一般的な認識が低く、 実際に自分が食べている量を適量と誤認 している傾向があり、 野菜摂取目標量と適量と認識する量に差が開いている。*4(fig.2-1.3) そのうえ、摂取方法は、市販の野菜ジュースやカット野菜などを買うといった、簡易的な摂
html
取や調理の短縮を求めてしまう。そのため、簡易的かつコンビニなどで売られているサラダ
*4 一般社団法人ファイブ・
を選ぶので、一人当たりの購入金額が年々増加の傾向を示している。*5(fig.2-1.4)
ア・デイ協会 野菜・果物を取り巻く生活者 の 消費動向 (3 万人アンケー
必要ない
ト ) ( 平成 24 年 3 月 ) http://www.alic.go.jp/ content/000093219.pdf *5 農林水産省 野菜の消費をめぐる状況につ
1
1~2皿
3~4皿
40
5~6皿
40
j/seisan/ryutu/yasai_
0
25
50
※1皿 70gとして調査。5皿で 1日摂取目標量 350g。
fig.2-1.3 1日の野菜摂取の適量認識 *4
zyukyu/y_h29_mitosi/ pdf/yasai_shohi_jyokyo. pdf
*6 内閣府 「食育に関する意識調査」に ついて(H25.5 公表) http://www8.cao.go.jp/ syokuiku/more/research/ h25/pdf/g.pdf
15
3
総数
いて http://www.maff.go.jp/
7皿以上
fig.2-1.4 サラダの購入金額の推移 *6
003
75
%
100
2 研究背景 2-1 現在の食卓
野菜消費量の減少に至った理由は、 食生活の洋風化と外部化が進んでいるからだろう。 ハンバーガーやフライドチキンといったファーストフードが流行したことによって、 家 庭における肉類や油脂類の消費が増加したのだろう。 これが食生活の洋風化であり、脂質 の摂取量が増えたため、心臓病や大腸ガンが増えてきたと言われている。*7 * 7 農林水産省 なぜ日本の食生活(しょくせ いかつ)は洋風化(ようふう か)してきたのですか。 http://www.maff. go.jp/j/heya/kodomo_ sodan/0407/01.html * 8 農林水産省 食の外部化率の推移 過去 30
食の外部化は、 食事を家庭外で取ることである。 食堂やレストラン等で食事をする「外 食」、 惣菜や弁当などで食事をする「中食」が含まれる。 *8 食の外部化が進み、 非常に便 利なった反面、栄養バランスに偏りがうまれてしまい、 肥満や生活習慣病が増加したのだ ろう。また、調理品や加工食品、外食が増加したことで、生鮮食品の消費が減少している。 (fig.2-1.5) また、お金を払えば調理されたものがすぐに手に入るため、 食のありがたさや 自給、文化などの食への関心が欠如している。 (fig.2-1.6)
年の食料の消費形態と国民生 活の変化 http://www.maff.go.jp/ j/council/seisaku/kikaku/ bukai/03/pdf/ref_data215.pdf
* 9 農林水産省
fig.2-1.5 消費者世帯の種類別食料消費支出割合 *9
(1)食料消費と食品産業の 動向 ア 食料消費の動向 http://www.maff.go.jp/ j/wpaper/w_maff/h21_ h/trend/part1/chap2/ c2_01.html
* 10 内閣府 「食育に関する意識調査」に ついて(H25.5 公表) http://www8.cao.go.jp/ syokuiku/more/research/ h25/pdf/g.pdf fig.2-1.5 食生活への関心度 *10
004
2 研究背景 2-1 現在の食卓
2-1.2 今日の問題 食料自給率 * 11 農林水産省 平成 24 年度食料自給率等に ついて http://www.maff. go.jp/j/press/kanbo/
(fig.2-1.6) これは、 日本の食料自給率は、平成 24 年度において 39%にまで落ちている。*9 歴史的・国際的に見ても非常に低い数字だ。50% 台を維持していたのは 1988 年度が最後
anpo/130808.html
であり、平成元〜 10 年前後にかけて急低下した後、辛うじて 40% 前後で下げ止まってい
* 12 Yahoo! ニュース
る。諸外国の食料自給率(09 年時点)をみてみると、穀倉地帯を抱える食料輸出国は、米
12 年度の食料自給率は 39% ~ 我が国の食料安全保障に 改善みられず ~ http://bylines.news. yahoo.co.jp/kosugetsuto
国 130%、カナダ 223%、フランス 121%、オーストラリア 187%、ドイツ 93%、スペ イン 80%、イタリア 59%、オランダ 65%、イギリス 65%、スイス 56% など、100%を 下回る主要国でも日本を大きく上回る水準を確保できている。*10 そのため海外に依存して 自給率が低くなっている日本、特に人口が多く依存率の高い都市圏では自給自足を行える ようにならなくてはいけない。
食料自給率(生産額ベース) 食料自給率(カロリーベース)
食料自給率(%) 100 90 80
77 68
70 60
53
50
39
40 30 20 10 0 1980
13年11月4日月曜日
85
88
90
95
fig.2-1.6 日本の食料自給率
005
00
05
10 2012
(年度)
2 研究背景 2-1 現在の食卓
* 13 農林水産省
農地減少
平成 24 年度食料自給率等に ついて http://www.maff. go.jp/j/press/kanbo/
2012 年度の段階で、世界の人口は約 70 億人であり、日本では約 1.2 億人である。*11
anpo/130808.html
人口増加分の食糧をまかなえなくなる。その理由として、農業が深く関わっている。有毒
* 14 徒然なるままに
な農薬や除草剤を重ねて使うことによって、農業排水が土地から海へと流されなかったも
緑の革命の限界|失われる農 地の肥沃さ http://www.geocities.jp/ msakurakoji/900Note/19.
のが帯水層に残り、農地を殺してしまう。それによって、作物が育たない土地が増えている。 *12
(fig.2-1.7)また、人口増加によって人々が住む場所を増やさなくてはならないため、元々
あった農地を埋めてマンションなどを建ててしまう。そのため、昔からあった農業風景や 伝統農業がなくなり、都市圏では緑ではなく人がひしめきあっている。
* 15 FAO(国連食糧農業機 関) Human-induced soil degradation http://www.fao.org/ docrep/003/w2612e/ w2612eMap12-e.
fig.2-1.7 世界の土壌劣化状況 *13
ヒートアイランド現象 * 16 埼玉県 ヒートアイランド現象とは? http://www.pref.saitama. lg.jp/site/onheat/
都市圏における人々や建築物の増加に伴い、都市の気温も増加している。それは、ヒー トアイランドと現象が起きているからだ。その原因は、コンクリート地面の増大、自動車 や建物からの排熱、風通しの悪化、そして緑地・水面の減少である。都市圏において、農 地はおろか、緑がほとんど失われている。東京の年平均気温は、過去 100 年で 2.9℃の上 昇がみられている。(fig.2-1.8) 熱中症や熱帯夜、集中豪雨などが増加している。現在打開 策として、風の道計画や残された自然環境の確保などが行われている。*14
006
2 研究背景 2-1 現在の食卓
fig.2-1.8 30℃を超える延べ時間数の分布
*14
* 17 産経ニュース 東京ヒートアイランド http://photo.sankei. jp.msn.com/highlight/
fig.2-1.9 東京スカイツリーからの赤外線サーモグラフィー
007
*16
2 研究背景 2-1 現在の食卓
四季感覚の喪失 今日、 市場には多くの野菜が並んでいる。 技術的発展により、従来では期間限定でしか 食べられなかった旬の野菜が、季節を問わず栽培できるようになったからである。だが、 そ * 18 独立行政法人農畜産業 振興機構 野菜統計要覧 ( 出展:東京都 中央卸売市場年報 ) http://vegetan.alic.go.jp/
れは人々の季節感覚、 旬を楽しみを失うことに繋がってしまうと考えられる。 東京都中央 卸売市場年報の月別入荷量 *18 において、 ダイコン ( 旬:冬 )・ ほうれん草 ( 旬:冬 ~ 春 )・ カボチャ ( 旬:夏〜秋 ) は旬の消費が減り、旬以外の消費が増えている。 (fig.2-1.10~12)
toukeiyouran2011.html
fig.2-1.10 東京都中央卸売市場で扱ったダイコン *18
fig.2-1.11 東京都中央卸売市場で扱ったホウレンソウ *18
008
2 研究背景 2-1 現在の食卓
fig.2-1.12 東京都中央卸売市場で扱ったカボチャ *18
また、ばれいしょ類のジャガイモ ( 旬:春・秋 )・なす ( 旬:夏 ~ 秋 )・ブロッコリー ( 旬: 冬 ~ 春 ) は旬の消費変化が顕著に表れなくなった。(fig.2-1.13~15) これらは従来、露地 栽培という外で栽培されていたが、現在ではハウス栽培や植物工場で栽培されることが多く なった。そのため、旬以外でも栽培できるようになった。
fig.2-1.13 東京都中央卸売市場で扱ったバレイショ *18
009
2 研究背景 2-1 現在の食卓
fig.2-1.13 東京都中央卸売市場で扱ったナス *18
fig.2-1.13 東京都中央卸売市場で扱ったブロッコリー *18
以上の今日の問題が、現代の人々に重大な障害になると考えられている。人々の生活の変 化や環境の変化などにより、食卓に影響を与えている。またそれらは食の関心の欠如や農業 の衰退へと繋がってしまうだろう。そのため私たちはこれらの問題の解決策を考えなければ ならない。
010
2 研究背景
2-2 農業の変化
2-2.1 現代の農業 灌漑 農地に外部から人工的に水を供給することを灌漑と呼ぶ。農作物の増産、ランドスケープ * 19 農業技術ヴァーチャル ミュージアム 始まりはマレーシア http://trg.affrc.go.jp/ v-museum/exchange/ ex0701.html
*20 農業土木学会 農業土木標準用語事典 改訂 5 版 (2003 農業土木学会 )
の維持、乾燥地帯や乾期の土壌で緑化する際などに利用される。灌漑システムは、塵の飛散 防止、下水処理、鉱業などにも使われる* 19 また、その灌漑の中でも種類があり、地表灌漑、散水灌漑、点滴灌漑などがある。地表灌 漑は、最も古くからある灌漑法であり、地表にある流水や湛水、雨などで地表に貯めた水で 栽培する方法である。均等に水を与えるために、農地を平らにするか、あるいは一定な勾配 にする必要がある。*20 散水灌漑は、ノズルを用いて水を噴射させ、降雨状または噴霧状に して水を与える方法である。比較的広い範囲の土地の場合はスプリンクラー、施設内で狭い 場合は特殊なノズルによって灌漑する。* 20(fig.2-2.1) 点滴灌漑は、配水管やチューブなど を用いて、地表面や根がある層に直接ゆっくりと灌漑する方法である。そのため、水や肥料 の過度な消費を抑え最小限で栽培することができる。* 21(fig.2-2.2)
* 21 アフリカに「思いやり」 これが本当の「点滴」灌漑 http://iihanashik.exblog. jp/20821830/
* 22 国士舘大学地理学 今月の地理写真 潅漑の種類 http://bungakubu. kokushikan.ac.jp/chiri/ fig.2-2.1 スプリンクラーによる散水灌漑 コロラド *22
011
fig.2-2.2 点滴灌漑 ハワイ *22
2 研究背景 2-2 農業の変化
水耕栽培 土を必要としない水や養液などで栽培する方法を水耕栽培と呼ぶ。農業では多くの栽培に 利用され、現在では根菜類の栽培も可能となっている。水耕栽培は、家庭菜園や園芸などで よく利用される。(fig.2-2.1)(fig.2-2.2) 土を使わずにスポンジやロックウールなど土の代 わりとなるものを使い栽培する方法だ。土による栽培との違いとしては、 水や液体肥料を 使用するため土からの負担や病気などが無く、 また連作障害、同じ土地で同じ作物を育てた 場合に次第に生育不良となっていく現象などがほぼ起きない。 * 23 農業生産法人 ㈱ベジ タブル・ラウンジ 鈴木正一 刈られ、刈り取られた農業 への道 Ameba 水耕栽培施設の構造とは・・・・ http://ameblo.jp/ vegetable-lounge/ entry-10287050575.html * 24 活菜生活 excite. ブロ グ 水耕野菜ってどんな野菜? http://suikou.exblog. jp/7156015/
fig.2-2.4 水耕栽培施設の様子 *23
fig.2-2.5 水耕栽培で栽培されているレタスの様子 *24
空中栽培 主につる性の野菜のつるを、地面に這わせるのではなく、支柱や棚などで支持し、垂直方 向に生長させて栽培する方法である。根を地面ではなく空中に吊るしたプランターで栽培 する方法という意味もある。カボチャ、トマト、サツマイモなど様々な野菜が栽培できる。 (fig.2-2.6)(fig.2-2.7) 前者の (fig.2-2.6) のような栽培は、地植えの場合につるのせいで 無駄に耕地面積を取られていたが、つるや茎や実が支柱などに絡み付くため最低限の土地で 栽培が可能である。また後者の (fig.2-2.7) のぶら下げる栽培は、土が空中にあり重力に従っ て下へ伸びてくるので、必要なのは垂直方向の面積のみになる。どちらも土地面積の節約の * 25 冷やし菜園はじめまし
ために作られた方法である。
た FC2 Blog カボチャ空中栽培 http://tomononekko. blog83.fc2.com/blogentry-1163.html * 26 冷やし菜園はじめまし た FC2 Blog カボチャ空中栽培 http://www. townnews.co.jp/ 0604/2012/07/ 06/150538.html
fig.2-2.6 カボチャの空中栽培 *25
fig.2-2.7 トマトの空中栽培 *26
012
2 研究背景 2-2 農業の変化
スマートアグリ ( スマートアグリカルチャー ) 農業の技術が IT 技術によって蓄積され、温度、湿度、養分その他のセンサーネットワー クと連携して自動化した。これにより、省エネで再生可能エネルギーなども利用しながら、 * 27 スマートアグリ スマートアグリ センサーと IT 技術に支えられた新しい 農業のスタイル http://smartagri.jp
植物工場に代表される高度に自動化された農業技術で、農業に新たな産業革命をもたらす技 術である。* (fig.2-2.8) 野菜を育てるには、作物の状態を毎日観察し、肥料や農薬を与え ることが欠かせない。水分量や天候など、細かな管理が適時に必要となり、少しでも怠って しまうと、野菜が傷んで規格外、つまり商品価値のない廃棄野菜になってしまう。収穫のタ イミングなども、これまでは土地の気候や植物の生育に熟知したベテラン農家の人々が田ん ぼや畑を見て回り、経験と勘で判断していましたが、近年のセンサリング技術により、ハウ ス栽培、露地栽培も含め、農作業についても管理ができるようになっている。
* 28 ことまとめ スマートアグリ http://www.kotomatome. net/archives/27418112. fig.2-2.8 Greenhous スマートアグリを用いたハウス栽培 オランダ *28
html
農家の現状
* 29 農林水産省 用語の解説 平成 23 年度 食料・農業・ 農村白書(平成 24 年 4 月 24 日公表) http://www.maff.go.jp/j/ wpaper/w_maff/h23_h/ trend/part1/terminology. html#yg004
現在、農業人口は減っており、主に仕事が農業の人または兼業でありながら農家として働 くことが多い人の数、農業就業人口* 29 は 2011 年には 260.1 万人となり、前年に比べて 0.2%減少した。また、65 歳以上の割合が 60%、75 歳以上の割合が 30% を占めている。 そのうち、農業のみに従事している人の数、基幹的農業従事者* 29 の数は 186.2 万人となり、 前年比で 9.2%まで落ち、200 万人を下回ってしまった。また、65 歳以上の割合が 60% を占めており、平均年齢が約 66 歳という高齢化が進んでいる。*29(fig.2-2.9)
* 30 農林水産省
(単位:千人、%、歳)
平成 23 年度 食料・農業・
平成12 (2000)年
農村白書 http://www.maff.go.jp/
農業就業人口
17 (2005)
22 (2010)
23 (2011)
3,891
3,353
2,606
j/wpaper/w_maff/h23_
65歳以上
2,058
1,951
1,605
1,578
h/trend/part1/chap3/
(割合)
(52.9)
(58.2)
(61.6)
(60.7)
c3_3_02.html
75歳以上
659
823
809
825
(割合)
(16.9)
(24.6)
(31.0)
(31.7)
平均年齢 基幹的農業従事者
2,601
61.1
63.2
65.8
65.9
2,400
2,241
2,051
1,862
65歳以上
1,228
1,287
1,253
1,100
(割合)
(51.2)
(57.4)
(61.1)
(59.1)
75歳以上
306
462
589
517
(割合)
(12.7)
(20.6)
(28.7)
(27.8)
平均年齢
62.2
64.2
66.1
65.9
fig.2-2.9 農業就業人口、基幹的農業従事者数の推移 *30
013
2 研究背景 2-2 農業の変化
また、新規就農者の数も減っている。2010 年の新規就農者は 5.5 万人となり、前年に * 29、及び* 30 前ページに記載
比べて 18% 減少した。就農形態別にみると、新たに自営農業者として就職した人、新規自 営農業就農者 *29 は 4.4 万人で前年に比べて 22% まで減少したのに対して、土地や資金を 、 自分で調達し新たに農業経営を開始した人、新規参入者 *29 は 2 千人(対前年比 3.0% 増) 新たに法人などに雇用され農業を始めた人、新規雇用就農者 *29 は 8 千人(同 6.2% 増)と それぞれ増加している。また、39 歳以下の新規就農者は、1 万 3 千人(うち新規雇用就農 者 5 千人)と前年に比べて 13% 減少した。*29(fig.2-2,10) (単位:人) 平成18年 (2006)
19 (2007)
20 (2008)
21 (2009)
22 (2010)
新規自営農業就農者
72,350
64,420
49,640
57,400
44,800
うち39歳以下
10,310
9,640
8,320
9,310
7,660
6,510
7,290
8,400
7,570
8,040
3,730
4,140
5,530
5,100
4,850
2,180
1,750
1,960
1,850 (1,680)
1,730
新規雇用就農者 うち39歳以下 新規参入者 うち39歳以下 新規就農者合計 うち39歳以下
700
560
580
620 (580)
640
81,030
73,460
60,000
66,820
54,570
14,740
14,340
14,430
15,030
13,150
fig.2-2.10 新規就農者数の推移 *30
この減少の背景には、厳しい農業情勢と農業に対する悪いイメージがあると考える。日本 は高度経済成長の際、第三次産業が発展したことによって、農業以外の産業が注目された。 それにより、他産業の就業者が増え、農村から都会へと若者が移り住んでしまったからであ る。またおそらく最もな理由として、農業者の収入は他の職業者、例えば土日休みで有給あ りのサラリーマンに比べ年収が低い。なぜなら、農家が作った野菜は、市場からいくつもの 段階を経て小売店などに流通し、野菜の売値が分配される。ほぼ半分以上が流通で消えるた め、農家が受け取る金額は半額以下となってしまう。(fig.2-2.11) しかしながら、高い金額 で出荷しても売り手がいなくなってしまうので、買い手を増やすため安く出荷せざるをえな い。それでも、採算が合わなっているのが現在の農家である。
* 31 農林水産省 調査結果の概要 平成 22 年 度 食品流通段階別価格形成 調査報告(平成 23 年 7 月 31 日公表)
fig.2-2.11 小売価格に占める各流通経費等の割合 (100kg あたり )*31
http://www.e-stat. go.jp/SG1/estat/List. do?lid=000001096599
014
2 研究背景 2-2 農業の変化
そこで現在、向きに注目されているマーケティングがある。 * 32 m2Labo. エムスクエア・ラボ http://m2-labo.jp * 33 m2Labo. ベジプロバイダー http://m2-labo.jp/works/ vegipro
一つは、ベジプロバイダー *35 である。これは、農家と小売店などの購買者を結びつけ、 効率化した分のお金を農家に還元する、新たな流通システムの一つとして注目されている。 (fig.2-2.12) ベジプロバイダーが、農業者の要望に沿った売り先を探し、並びにリスク分 散のために最適化をする。 生産現場に通い、種や苗、野菜の出荷などの流通の管理を行い、 営業している。*36
fig.2-2.12 ベジプロバイダーの仕組み *36
* 34 Famer's Market http://m2-labo.jp/works/ vegipro
ま た、 農 業 者 と 購 買 者 が 直 接 に 対 話 し 農 業 者 が 販 売 価 格 を 決 め れ る 市 場、Famer's Market*37 がある。(fig.2-2.13) ファーマーズマーケットは、都市に暮らす人々の生活に、 貢献していくことを目指している。野菜を育てる人と食べる人が出会い、野菜や農業、そし て食べることについて話し、お互いに理解する。ファーマーズマーケットも農業者と購買者 を直接繋げる市場のあり方である。ベジプロバイダーとは違い、こちらの場合の購買者は商 業者や小売店などではなく、消費者の方である。農業者は消費者の顔を見て自分が作った野 菜などを売り、消費者は農業者の顔を見て自分が食べる野菜などを買う。購買者は生産者の を見ることで野菜や農業に対する安心感が生まれる。また、生産者は購買者に野菜の説明や 美味しい食べ方などを教えてくれるため、食の関心や農業への理解を持ってもらえる。
fig.2-2.13 Famer's Market
015
2 研究背景 2-2 農業の変化
2-2.2 未来の農業 ホールフード ホールフード (Whole Food) とは、葉の先から根の端まで全て、野菜をまるごと食べると いう動きだ。野菜を調理した際に今まで捨てていた、皮や根っこなどの野菜くずなども食べ 物として扱う。野菜の皮や根っこには、化や病気を防いでくれる、ファイトケミカルやミネ ラルがたくさん含まれている。これらを用いて調理することで、健康によく、食料廃棄物の ことも考え、また農業者に対する感謝の気持ちも考えるという、野菜の価値観を見出した。 食と暮らしと農業、環境をまるごと考える、新たな動きである。* 38(fig.2-2.14)
* 35 Whole Food 協会 http://www.whole-food.jp
* 36 メビオール株式会社 アイメック ®(フィルム農法)
fig.2-2.14 ホールフードライフスタイル *38
http://www.mebiol.co.jp/ product/
フィルム農法 「アイメック ®(フィルム農法)は、世界が今日直面している食の安全性、水不足や土壌
汚染等の深刻な問題に対処するために開発されたハイドロゲル膜を用いた技術である。」* 2
一般的な農法では、肥料などを与えた土の上に作物を植えます。作物はこの土の中に根を張 り、水分や栄養分を吸収して育っていきます。しかし、フィルム農法は土の代わりに「ハイ ドロメンブラン」という水分や栄養分を吸収し保持する「半浸透膜」を使い、植物の根と水・ 栄養分を分離して栽培を行う。(fig.2-2.15)(fig.2-2.16)
fig.2-2.15 フィルムの表面に植物の根が張り付いている様子
016
fig.2-2.16 フィルム農法の断面 *39
2 研究背景 2-2 農業の変化
垂直農場 垂直農場とは、都市の高層ビルの中に作られた農場である。(fig.2-2.17) 土を使わずに、 水耕栽培と空中栽培を用いあらゆる作物を育て、また浄水施設や廃棄物処理施設などを兼ね ている構想もある。アメリカの環境学者、ディクソン・デポミエによると、垂直農場のメリッ トは、高層ビルの室内で栽培するため、季節に影響されず作物が年間を通して安定的に収穫 * 37 ディクソン・デポミエ ( 訳 ) 依田卓巳 垂直農場ー明日の都市・環境・ 食料 (2011 エヌティティ
できる。洪水や虫害がないため、気候などに影響されず不作がない。農薬を大量に含む農業 排水が出ない。また、輸送に必要な化石燃料の使用、言い換えるとフードマイルが大幅に削 減される。そして、徹底したシステムに基づくため食の安全が管理しやすい、などの利点が
出版 )
多い。* 41 また、農業生産を都市に移したことで、地方に依存していた都市の食料自給率が
* 38 GREEN LIFE カフェ
上がり、農地として使っていた土地を自然に戻し破壊された生態系システムを回復する、と
次世代ファーミング:シンガ ポール垂直農園 http://ameblo. jp/greenlifecafe/
語っている。垂直農場は現在世界的に注目されており、2012 年にシンガポールのスカイグ リーンズ社によって世界初の商用垂直農場が設立された。* 42(fig.2-2.18)
entry-11461118998.html
* 39 GigaZiNE 都会の真ん中でも農業を可能 にする「垂直農場」のコンセ プトアート http://gigazine.net/ news/20090730_ vertical_farm/
fig.2-2.17 垂直農場の構想案 *43
fig.2-2.5 シンガポールの垂直農場 *42
017
3 研究概要
3-1 用語の定義 3-2 研究の位置づけ 3-3 研究の目的 3-4 研究フロー
3 研究概要
3-1 用語の定義
○壁面農地:建築の壁面、ファサードにプラントユニットを付けることで野菜が育てられ る垂直型農地 ○プラントユニット:野菜を育てるための栽培用土を敷きつめたプランターを並べたもの ○農作物:本研究においては、野菜と作物のことを総じて呼称する。それ以外の場合は、野 菜であれば「野菜」、作物であれば「作物」と表記する。 ○収量:面積あたりの収穫できる農作物の分量。本書においては、単位は kg/m2 とする。 ○ポテンシャル収量:面積あたりの潜在的に収穫できる農作物の分量。ただし、この農作 物は病気や雨などの被害を受けずに、最適な状態で生長したものである。本研究においては、 単位は kg/m2 とする。 ○収穫量:収穫した農作物の分量。本研究においては、単位は kg とする。 * 40 植物の生育状態の計 測と診断(1) http://web. cc.yamaguchi-u.
○ LAI(Leaf Area Index):葉面積指数。単位面積に対する植物の全葉面積。土地の野菜 が占める割合 *44
ac.jp/~yamaharu/ syokukei4.htm
* 41 農学基礎セミナー 作 物栽培の基礎
○生育段階:農作物における生長の基準。出芽・発育・開花・成熟などがある。 ○登熟日数:農作物の開花から成熟までにかかる日数 *45
栗原浩・蓮原雄三・津野幸人 (他) (2000 年 社団法人 農山漁村
○日射量:太陽から受ける放射エネルギーの量 *45
文化協会 ) * 42 株式会社フィールド
○直達日射量:日射量のうち,太陽から直接地表面に到達する日射量 *46
プロ日射計とは? http://www.fieldpro.jp/ word/word02.html
○散乱日射量:太陽以外、つまり大気の分子や雲の粒子などに散乱された光の日射量 *46
* 43 日食ナビ 太陽高度 http://eclipse-navi.com/
○全天日射量:直達日射量と散乱日射量の和 *46
yougo/data/taiyoukoudo. html
○太陽高度:太陽の位置の地平線に対する角度 *47
018
3 研究概要
3-2 研究の位置づけ
本研究の位置づけとして、既往研究との違いについて説明していく。 * 44 ○ 40523 植物種が異なる緑のカーテンの環境緩和効果に関する実測研究 塚田浩介 , 岡河貢 2009 学術講演梗概集 (2011 社団法人日本建築学会 ) 「この研究は、実験でヘチマやゴーヤなどを用いて、緑のカーテンが環境に与える効果 について実測により研究している。果菜類の野菜を用いているが、都市に与える影響のみ に着目している」 * 45 ○ 521 現代住宅における緑化空間に関する研究 塚田浩介 , 岡河貢 2009 日本建築学会中国支部研究報告集 (2008 一般社団法人日本建築学会 ) 「この研究は、現代住宅における緑化空間の概形よりデザイン手法を把握している」 * 46 ○ 40028 壁面緑化パターンの相違が街路景観の印象評価に与える影響 土田義郎 2011 学術講演梗概集 (2011 社団法人日本建築学会 ) 「この研究は、オフィスビルを対象として観葉植物の種類別に壁面緑化の配置パターン がもたらす印象について研究している」
* 47 ○ 40495 ユニット型壁面緑化におけるパネル配置デザインの研究 中村健二 , 那須守 , 木多道宏 ( 他 ) 2008 学術講演梗概集 (2008 社団法人日本建築学会 ) 「この研究は、4つのユニット型の壁面緑化デザインを用いて、印象による評価調査を 行っている」
019
3 研究概要 3-2 研究の位置づけ
* 48 ○垂直農場 ー明日の都市・環境・食料 ディクソン・デポミエ、依田 卓巳 (2011 エヌティティ出版 ) 「この本で紹介される垂直農場は、都市部における高層ビルのフロアごとに作られた農 場である。土を使わず水耕栽培と空中栽培であらゆる農作物を育て、さらに浄水施設も兼 ねて計画されている。本研究はこれを原点として研究を始めた。垂直農場は、都市にある 高層ビルを使って農作物を育て、都市に向けて影響を与える」 本研究は、都市の高層ビルではなく一般住宅を対象とし、壁面農地を導入することを想 定している。壁面農地は季節によって穫れる野菜や生える色合いが変化するため、都市だ けでなく家庭の食卓にも変化をもたらすことが可能になるだろう。
以上は、建築における緑化、壁面緑化をテーマとしている既往研究である。本研究もプ ラントユニットを計画しているため、壁面緑化に近い研究であるかもしれない。しかし、 本研究は壁面を壁面農地として活用することによって、野菜を植え付け、栽培し、収穫し、 調理する、食の流れ、農業のワンパッケージを壁面農地に取り入れる。
020
3 研究概要
3-3 研究目的 本研究は、住宅の壁面農地における野菜の生長モデルを作成し、壁面農地の有用性を明
らかにすることで、都心部における新しい農地の提案をすることを目的とする。
021
3 研究概要
3-4 研究フロー
本研究は次のような流れで進める。 4章 「作物モデルを用いた水平面におけるポテンシャル収量の予測」 研究内容:作物モデル WOFOST を用いたデータ解析 研究目的:水平面での作物のポテンシャル収量の把握 「作物モデルを用いた壁面におけるポテンシャル収量の予測」 研究内容:作物モデル WOFOST を用いたデータ解析 研究目的:壁面での作物のポテンシャル収量の把握 ↓ 5章 「壁面農地における野菜の収量の予測」 研究内容:統計データと解析データを用いた野菜の収量の計算 研究目的:壁面のうちでの野菜の収量の把握 「プラントユニットの計画」 研究内容:壁面農地に野菜を植えられるユニットの寸法の決定・ゾーニングの計画 研究目的:壁面農地の概要の把握・野菜の種類別のユニットの設計
「1年間の生活モデルの提案」 研究内容:壁面農地での月別の作業スケジュール・収穫量の予測 研究目的:壁面農地を取り入れた食生活の変化の把握・評価
022
3 研究概要 3-3 研究フロー
北海道と東京での農地と食卓 の違いに疑問 問題点の発見
建築と食の既往研究に関するリサーチ
農業の既往研究に関するリサーチ
文献調査
農業の現状の把握
食の現状の把握 フィールドワーク
文献調査
社会的問題と統計の調査
問題の調査
垂直農場とについて調査
建築の壁面について調査
壁面の作物生長について想定
解決法の調査
水平面での作物生長モデルによる解析 シミュレーションモデル分析
壁面での作物生長モデルによる解 シミュレーションモデル分析
基礎研究
プラントユニットの提案 文献調査・実測データでの分析
1年間の生活モデルの製作 データ分析
壁面農地の可能性の提案 fig.3-3.1 研究フロー図
023
本研究
4 基礎研究 水平面と垂直面の作物収量のモデル式の製作
4-1 研究概要 4-2 研究方法 4-3 モデル式 4-3.1 作物モデル WOFOST の概要 4-3.2 計算式 4-4 水平面での作物ポテンシャル収量の予測 4-5 垂直面での作物ポテンシャル収量の予測 4-6 考察 4-7 まとめ
4 基礎研究
4-1 研究概要
基礎研究として本章では、壁面農地の野菜の収量を知るために、作物生長モデルを用いて 水平面における作物のポテンシャル収量を予測する。その水平面の収量予測から、垂直面で の作物のポテンシャル収量を求める。
024
4 基礎研究
4-2 研究方法
【研究 1】作物モデルを用いた水平面におけるポテンシャル収量の予測 研究内容:作物モデル WOFOST を用いたデータ解析 研究目的:水平面での作物のポテンシャル収量の把握 【研究 2】作物モデルを用いた垂直面におけるポテンシャル収量の予測 研究内容:作物モデル WOFOST を用いたデータ解析 研究目的:垂直面での作物のポテンシャル収量の把握
025
4 基礎研究
4-3 モデル式
4-3.1 作物モデル WOFOST の概要 作物モデルとしてヨーロッパで開発された WOFOST 7.1.5 を使用する。WOFOST の基 本構造は (fig.4-3.1) にて示す。このモデルは、生育ステージ、炭酸同化、蒸散、呼吸など を元に計算を行い、対象となる気象地のデータを入力することで日々の作物生長をシミュ レーションすることができる。このシミュレーションアプリはインターネットでも公開され * 48 WAGENINGEN UR
いる。* 48 理論的背景に関しては詳細な解説が別のサイトで公開されている。* 49
WOFOST - WOrld FOod STudies http://www. wageningenur.nl/en/ Expertise-Services/ Research-Institutes/ alterra/Facilities-Products/ Software/WOFOST.htm
* 49 EU Book shop System description of the wofost 6.0 crop simulation model implemented in cgms http://bookshop.europa. eu/is-bin/INTERSHOP. enfinity/WFS/EUBookshop-Site/en_GB/-/ EUR/ViewPublication-Star t?PublicationKey=CLNA15 956&CatalogCategoryID=l qgKABstejAAAAEjaoUY4e 5K
fig.4-3.1 WOFOST の基本構造 *48
026
4 基礎研究 4-3 モデル式
作物データの設定 WOFOST の既存の作物データは 50 種類ほどあり、トウモロコシ、キャッサバ、テ ンサ イ、ワタなどがある。本研究においては、この既存の作物データの中から、バレイショ、コ メ、ダイズの 3 種類に絞り、データを解析する。 WOFOST は作物の生長を解析するために作られたものである。しかし、作物の生長にお ける緻密なデータに基づいてシミュレーションが行われている。作物が植え付けられて、出 芽・開花・成熟・枯死までの作物の一生を詳細にシミュレーションしている。そのため、こ の作物データによるシミュレーションの数値を用いて、野菜のデータと比較し計算すること で、野菜の収量データを得ようと考えた。 WOFOST 上でこの3つの作物が既存のデータの中で、信頼性に富んだデータを算出する と考え選定した。この3つの解析した結果に基づいて、野菜の収量を求める。 気象データ *50 気象庁 気象統計情報 過去の気象 データ・ダウンロード http://www.data.jma. go.jp/gmd/risk/obsdl/ index.php
気象データは気象庁の過去の気象データより、2012 年の1年間の東京都内の気象観測地 点、今回は東京地点 ( 気象庁:東京都千代田区九段下 ) のデータを使用して入力した。*50 主なデータの内容は、最低温度、最高温度、全天日射量、蒸気圧、風速、降水量、降水日数 の 7 つである。この7つの気象データにより、シミュレーションを行う。
027
4 基礎研究 4-3 モデル式
4-3.2 計算式 WOFOST の 理 論 的 背 景 に つ い て は 詳 細 な 解 説 が あ り、System description of the wofost 6.0 crop simulation model implemented in cgms*49 を参照した。この章で取り上 げる計算式は、水平面と垂直面のどちらにも関係がある、日射量及びポテンシャル収量の求 め方を記載する。 まず、壁面農地における日射量、垂直面日射量を計算する。壁面農地を想定した際に、農 作物にとって重要な太陽光が最大量当たる面は、住居の南面である。そのため、本研究での 壁面農地は南側垂直面と設定する。 * 51 多面アレイ構造太陽 光発電システムに対応したシ
垂直面日射量は下記の式で表される。*51
ミュレーションツールの開発 松川洋 , 山田隆夫 , 塩谷正樹 , 黒川浩助 2002
h = hb + hr + hd
(2004 電気学会論文誌 )
h:垂直面日射量 (MJ/m2) hb:垂直面直達日射量 (MJ/m2) hr:垂直面反射日射量 (MJ/m2) hd:垂直面散乱日射量 (MJ/m2) hb、hr、hd のそれぞれの計算式については、 hb = Hb x cosθ/cosθz hr = H × 0.1 hd = Hd ×1/2 H:水平面全天日射量 (MJ/m2) Hb:水平面直達日射量 (MJ/m2) Hd:水平面散乱日射量 (MJ/m2) θz:天頂角 (= 90° - 太陽高度) θ:壁面への入射角 * 52 太陽光発電 太陽の高度と方位角から最小 入射角を求める http://keisan.casio.jp/ has10/SpecExec.
気象データの全天日射量をこのモデル式に入れ、月別の日射量を計算する。 太陽高度と壁面への入射角 *52 は、毎分変わるため日別で平均値を取り、その値を月ごとに 平均化して求める。
028
4 基礎研究 4-3 モデル式
また、作物のポテンシャル収量に関しては、志賀弘行の「作物モデルを活用した秋まき小 麦の収量変動評価・予測法」* 53 でのモデル式を使用する。 PY=0.0185×D1.16×R0.430×LAIM0.328 *53 志賀弘行 作物モデルを活用した秋まき 小麦の収量変動評価・予測法 (2003 日本土壌肥料学雑誌 第 74 巻 第6号 )
PY:ポテンシャル収量 (Mg/ha) D:登熟期間 = 開花から成熟までの日数 ( 日 ) R:登熟期の月日射量 (MJ/m2d) LAIM:生育期間中の最大 LAI 上の式だと壁面農地で育てた時の値に直しづらいので、kg/m2 に変換する。 PY1=0.00185×D1.16×R0.430×LAIM0.328 PY1:ポテンシャル収量 (kg/m2) この式を使い、水平面と垂直面での作物ポテンシャル収量を求める。また登熟期間に関し ては、生育段階で 1 の数字が表示された日が開花日であるため、そこから成熟までの日数 を計算する。
029
4 基礎研究
4-4 水平面での作物ポテンシャル収量の予測
WOFOST に作物データと気象データを入力しデータを解析し、登熟期間と LAI が導き出 された。このデータより変数を用いて、ポテンシャル収量の算出式に取り入れて計算した。
list.4-3.2 バレイショの WOFOST 解析結果と水平面のポテンシャル収量
list.4-3.3 コメの WOFOST 解析結果と水平面のポテンシャル収量
030
4 基礎研究 4-4 水平面での作物ポテンシャル収量の予測
list.4-3.3 ダイズの WOFOST 解析結果と水平面のポテンシャル収量
解析の結果、水平面の収量はバレイショは約 2.62kg/m2、コメが約 0.14kg/m2、ダイ ズは約 0.13kg/m2 である。これらのデータが正しいかを確認するため、農林水産省によ * 54 農林水産省 作物統計 http://www.maff.go.jp/j/ tokei/kouhyou/sakumotu/ index.html
る東京での作物収量の統計データと比較した。* 542012 年の統計収量は、バレイショが約 2.12kg/m2、コメが約 0.13kg/m2、ダイズが約 0.11kg/m2 である。これにより、解析デー タと統計データは非常に近い値であることが分かる。よって、この WOFOST は現実に近い 正しい値を算出するため、これより先はこのシミュレーショから得られたデータを元に、垂 直面における作物のポテンシャル収量を計算していく。
031
4 基礎研究
4-5 垂直面での作物ポテンシャル収量の予測
WOFOST を用いて水平面における作物のポテンシャル収量を求めることができた。この 水平面のデータをもとに、垂直面における作物のポテンシャル収量を求める。水平面と垂直 面で変わる変数は日射量であるため、水平面の全天日射量を使用して垂直面における全天日 射量を求める。 list.4-3.3 水平面と垂直面での全天日射量
水平面の全天日射量より垂直面の全天日射量を求めることができた。このデータを水平面 における作物のポテンシャル収量を求める際に使用した気象データに組み込み、垂直面にお ける作物のポテンシャル収量を解析する。
032
4 基礎研究 4-5 垂直面での作物ポテンシャル収量の予測
list.4-3.2 バレイショの WOFOST 解析結果と垂直面のポテンシャル収量
list.4-3.3 コメの WOFOST 解析結果と垂直面のポテンシャル収量
033
4 基礎研究 4-5 垂直面での作物ポテンシャル収量の予測
list.4-3.3 ダイズの WOFOST 解析結果と垂直面のポテンシャル収量
解析の結果、垂直面の収量はバレイショは約 1.32kg/m2、コメが約 0.136kg/m2、ダイ ズは約 0.095kg/m2 である。これを水平面の収量と比較すると、バレイショは約 2.62kg/ m2、コメが約 0.142kg/m2、ダイズは約 0.134kg/m2 であり、減少していることが窺える。
034
4 基礎研究
4-6 考察
作物生長モデル WOFOST を用いて、まず水平面における作物のポテンシャル収量を求め た。求めたデータが信頼性の高いものかを確かめるため、過去の東京の作物の収量と比較し た。それにより、シミュレーションによる数値が実際の数値と近い値を示すことが分かった。 この差が生まれた原因として考えられるのは、シミュレーションによる数値は理想値である。 そのため、実際の作物の栽培は雨害や病害、虫害の被害などが起こりうるので、それらを考 慮していないためだろう。 垂直面の日射量を求めたことで、垂直面の作物のポテンシャル収量を求めることができた。 しかし、各作物の水平面と垂直面の数値を比較すると、それぞれの数値の相関が一定でない ことが分かる。考えられる理由としては、農地が水平面から垂直面に変わったことで日射量 の変化と共に作物の生育期間、特に登熟日数が変化してしまった。開花から成熟まで日数が 変化したため、各作物の水平面と垂直面におけるポテンシャル収量に差が生まれた。また、 それぞれで異なる減少の仕方を示したため、各作物の差が一定ではなくなったのだろう。
035
4 基礎研究
4-7 まとめ
本章では、作物モデル WOFOST を用いて解析した結果、水平面と垂直面における作物の ポテンシャル収量を求めることができた。これらは実際の収量に非常に近い値を算出し、信 頼性がある値であることも確認できた。 本研究においては、壁面農地で野菜を実際に育てることを想定した際に、どれだけの野菜 が収穫できるかを検証しなくてはならない。そのための前段階として本章では、水平面での 作物のポテンシャル収量を求め、信頼性を確かめたうえで、垂直面での作物のポテンシャル 収量を求めた。また、壁面農地で栽培した場合の作物がどれほどの収穫量を示すかを確認し た。 次の章では、これらの数値を利用して、作物ではなく野菜の壁面農地における収量を求め、 壁面農地で野菜をどう植えるか、またその計画された壁面農地を導入したことで住居者の生 活はどう変化するかについて提案していく。
036
5 壁面農地における生活モデルの提案
5-1 研究概要 5-2 研究方法 5-3 壁面農地における野菜収量に関する研究・提案 .1 壁面農地における野菜の収量の予測 .2 プラントユニットの計画 .3 1年間の生活モデルの提案 5-4 考察 5-5 まとめ 5-6 展望
5 壁面農地における生活モデルの提案
5-1 研究概要
基礎研究では、作物モデルを用いて水平面における作物のポテンシャル収量から、垂直面 での作物ポテンシャル収量を求めた。そこから、野菜の収量の統計データと比較し、壁面農 地での野菜の収量を求めることができる。そしてその収量より、壁面農地で使用するプラン トユニットを計画し、壁面農地を導入した住居における1年間の食事の生活モデルを考察・ 提案する。
037
5 壁面農地における生活モデルの提案
5-2 研究方法
【研究1】壁面農地における野菜の収量の予測 研究内容:統計データと解析データを用いた野菜の収量の計算 研究目的:壁面農地での野菜の収量の把握
【研究2】プラントユニットの計画 研究内容:壁面農地に野菜を植えられるユニットの寸法の決定・ゾーニングの計画 研究目的:壁面農地の概要の把握・野菜の種類別のユニットの設計
【研究3】1年間の生活モデルの提案 研究内容:壁面農地での月別の作業スケジュール・収穫量の予測 研究目的:壁面農地を取り入れた食生活の変化の把握・評価
038
5 壁面農地における生活モデルの提案
5-3 壁面農地における野菜収量に関する研究
5-3.1 壁面農地における野菜の収量の予測 基礎研究で、壁面農地での作物のポテンシャル収量を導き出した。そこから、壁面農地で の野菜の収量を計算するために水平面、東京都における農地での収量と、解析して導き出し た各作物の垂直面でのポテンシャル収量を用いて計算する。 野菜の収量に関しては、農林水産省によって東京都での 10 アールあたりの収量が統計表 として公開されている。*54 この水平面での野菜の収量を用いて、基礎研究によって導き出 * 55 独立行政法人農畜産業 振興機構 野菜統計要覧 http://vegetan.alic.go.jp/ toukeiyouran2011.html
した水平面の作物ポテンシャル収量と垂直面の作物ポテンシャル収量の比によって壁面農地 での野菜の収量を求める。 野菜の品目の選定は、東京における農地での収量と一般住宅でも育てられる野菜、食卓 によく並ぶ野菜、野菜の消費量の統計、また収穫できる季節によって決定した。*55(list.53.1) list.5-3.1 野菜の水平面収量と壁面収量
野菜品目(収穫季節) 水平面収量(kg/m^2) 垂直面収量(kg/m^2):コメ比 垂直面収量(kg/m^2):ばれいしょ比 垂直面収量(kg/m^2):大豆比 壁面収量(kg/m^2) (平均垂直収量) トマト(大,小) (夏)
4.51
4.33
2.30
3.20
3.28
なす(夏)
2.38
2.28
1.21
1.69
1.73
きゅうり(夏)
2.52
2.42
1.29
1.79
1.83
ほうれん草(春冬)
1.06
1.02
0.54
0.75
0.77
ラディッシュ(春秋)
1.00
0.96
0.51
0.71
0.73
小松菜(通年)
1.66
1.59
0.85
1.18
1.21
玉ねぎ(春)
2.16
2.07
1.10
1.53
1.57
キャベツ(春)
4.90
4.70
2.50
3.48
3.56
レタス(夏冬)
1.80
1.73
0.92
1.28
1.31
じゃがいも(春秋)
1.99
1.91
1.01
1.41
1.45
にんじん(春冬)
3.01
2.89
1.54
2.14
2.19
だいこん(冬)
5.00
4.80
2.55
3.55
3.63
039
5 壁面農地における生活モデルの提案 5-3 壁面農地における野菜収量に関する研究
計算結果によると、各作物比で求めた壁面農地の野菜の収量に差が生じてしまった。理由 としては、各作物の生育期間、登熟期間の違いや作物の LAI、最大葉面積つまり各作物の葉 枚数の違い、また登熟期間中の日射量の違いが考えられる。 この壁面農地における作物のポテンシャル収量は、統計により算出された実際の作物の収 量にほぼ一致する。そのため同じ統計によって求められた野菜の収量に基づき、各作物の水 平面と垂直面におけるポテンシャル収量の両方を用いて、壁面農地における野菜の収量を求 めた。これらは実際の収量データと実際のデータに近いものを掛け合わせているため、信頼 性が高いと考えられる。しかし、壁面農地で野菜を育てるためには信頼性がより増した値に しなくてはならないため、各作物によって求めた壁面農地での野菜の収量を平均化すること で、壁面農地における野菜の収量とした。また、この壁面農地の野菜収量は水平農地の野菜 収量の約 1/2 程度になることが分かった。 この平均化された壁面農地の収量を基本として今後の計算に使用する。 * 56 HOME'S 新築一戸建て 郡山市安積町 荒井・第 2・1 号棟 http://www.homes. co.jp/kodate/ b-1184040000351/
この壁面農地での収量データを用いて、仮に一般的な一戸建ての住宅の壁面で実際に育て た場合を想定し、農地として使用する壁面の寸法などを設定することで、どれほどの収量が 得られるかを検証してみる。検証として用いる建築は、気象データ入力の際に用いた気象観 測地点、東京都千代田区九段下の近辺にある一戸建て住宅を対象とする。一戸建て住宅とし て、ハウスメーカーなどで紹介されている一般的な住宅を想定する。(fig.5-3.2) その家の 一階と二階南壁面 ( 窓を除き、バルコニーを含み、計 22m2 と仮定 ) を壁面農地として利用 する。*56
fig.5-3.2 壁面農地として利用する対象の一般住宅
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5 壁面農地における生活モデルの提案 5-3 壁面農地における野菜収量に関する研究
list.5-3.3 野菜の水平面収量と壁面収量
* 57 カンナの簡単料理レ シピ集 食品の標準重量一覧表 http://cannarecipe.net/ memo/syokuhin_juuryou. html
壁面農地の平均収量を用いて、一戸建ての壁面農地で育てた場合の野菜は最低でも 1 種 類につき、約 12.5kg 以上の量を収穫できることが分かった。野菜の個数は、1つ分の標準
* 58 つくる楽しみ 野菜の目安量・目安単位 http://ws-plan.com/ kansan/yasai.html
重量より求めている。*57 *58 また摂取の日数、何日分の野菜であるかは、野菜の1日分の摂 取目標量は 350g であり、野菜料理五皿分の中に約 350g の野菜が含まれているため、一 皿分が約 70g とみなし計算する。 *59(list. 5-3.3)
* 59 一般社団法人 ファイ ブ・ア・デイ協会 5ADAY って何だろう http://www.5aday.net/ movement/index.html
しかし、この一戸建ての収量データは南壁面農地 ( 約 22m2) を使い、1種類の野菜のみ を栽培した場合のものであるため、壁面農地で数種類の野菜を栽培したデータではない。本 研究の理想は、壁面農地で様々な野菜が育ち、その野菜を収穫し食べられることである。そ のため、野菜は数種類の品目が壁面に並ぶように混栽・混植しなくてはならない。よって、 壁面農地のどの場所で野菜を育てるかを決める、野菜のゾーニングと共に壁面農地のプラン トユニットの提案を行う。加えて、そのプラントユニットを取り入れた家で数種類の野菜に よって1年間の生活がどう変わるかといった、1年間の生活モデルを製作する。
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5 壁面農地における生活モデルの提案 5-3 壁面農地における野菜収量に関する研究
5-3.2 プラントユニットの提案 壁面農地で野菜を育てるための農地、壁面農地を計画するうえで、野菜を育てるために必 要となる土壌をどうするかを計画しなければならない。壁面を農地にする際に、水平面で使 用している土壌をただ壁に埋め尽くすだけだと、土や野菜が落ちてくるからだ。水平面で行 われているような野菜の栽培方法では、壁面農地で栽培するのは不可能だ。そこで、土壌自 体が箱状のもので覆われた、プラントユニットを設計していく。 植物を育てるユニットは既存の研究、従来の壁面緑化などの計画で行われている。それら は都心部で多く活用されており、緑のカーテンを作ることでの空調電力の節約や、また都心 における少ない自然を増やすためであったり、温暖化対策など様々な理由で取り入れられて いる。本研究では、そのような効果も狙っている。だが、それだけではない。壁面農地とし て活用することによって野菜を植え付け、栽培し、収穫し、調理する、食の流れ、農業のワ ンパッケージを壁面農地に取り入れることが目的である。壁面農地は、都市への環境的な効 果だけではなく、野菜を美味しく食べることで健康的な生活を送れる人への食的な効果を含 んでいる。 従来の研究である壁面緑化のユニットでは、様々な野菜を育てるには狭過ぎるうえに、そ れぞれで育ち方が異なるため、従来の規格のユニットは使うことができない。野菜には野菜 に合った寸法があるので、その寸法をもとにプランユニットを計画しなくてはならない。野 菜
fig.5-3.4 従来のプラントユニット計画 丸ビル
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5 壁面農地における生活モデルの提案 5-3 壁面農地における野菜収量に関する研究
プラントユニットを提案する際に、野菜の深さや広さなどの情報が必要となる。そのため、 実際に農場で測定してデータを集めた。今回は実家である北海道北広島市の農場へ行き、農 業者とともに、野菜に要する面積や深さ、高さを実測・ヒアリングをおこない、数値化した。 また、文献のデータも用いて寸法を詳細に決める。 【調査概要】壁面農地に使用する野菜の寸法調査 ■期間:2013/8/14, 2013/10/5 ■調査場所:農場 ( 北海道北広島市大曲 664 番地 ) ■目的:野菜の株間 ( 株と株の距離 )、うね幅 ( 細長く直線状に土を盛り上げた所同士の 距離 )、根の深さ、茎の高さの寸法の実測
* 60 Google マップ https://maps. google.co.jp/ fig.5-3.5 農場の上空写真 *60
maps?ct=reset&tab=ll
fig.5-3.6 野菜の実測の様子
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5 壁面農地における生活モデルの提案 5-3 壁面農地における野菜収量に関する研究
* 61 農林漁業体験学習
fig.5-3.7 土壌の作り *61
ネット 作物栽培の実践ーうね作り http://www.noutaiken.net/junior_ agrimanual/01_06.html list.5-3.8 野菜の寸法
この寸法データは、実測データ及び文献によって基づいている。* 41 根菜や葉茎菜、果菜 など野菜の種類によって、必要とする寸法が違うことがわかった。これによって、プラント ユニットの規格が一定の寸法で統一するのが難しいことがわかった。ほうれん草のような葉 野菜に合わせてしまうと他の野菜にとって狭すぎてしまい、またなすのような葉茎野菜に合 わせると他の野菜に広すぎてしまう。そのため、ユニットの規格を一つにするのではなく、 野菜の種類別に規格を作るべきである。この野菜の寸法データをもとに、プラントユニット を計画していく。
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5 壁面農地における生活モデルの提案 5-3 壁面農地における野菜収量に関する研究
野菜の寸法データを測定し、そのデータを元にプラントユニットを計画していく。農場、 畑の作りは (fig.5-3.9) の土壌の作りで示した。この畑の作りをモデルとして、プラントユ ニットを計画していく。壁面のどこでどの野菜を育てるか、野菜のゾーニングを行う。野菜 は種類によって異なる育ち方や形状になるため、それぞれに合ったプラントユニットを設定 する必要がある。
* 62 10 代目、農業挑戦し ます。 ネギの畝 ( うね ) 割作業 http://komepawaa.
fig.5-3.9 畑のうね割の様子 *62
blog49.fc2.com/blogentry-727.html
ゾーニングは季節ごとに分けるという手段も考えられるが、根が長く育つ根菜類やつるな どが長く育つ果菜類などがあるので野菜の種類ごとに分別するのが望ましい。(fig.5-4.1) で選別した野菜をもとに分類すると、下層はダイコンやニンジンの根菜類とジャガイモのイ モ類、中層にはレタスやキャベツの重量がある葉茎菜類と実が重く茎が長い玉ねぎ、その上 にほうれん草や小松菜、ラディッシュのように軽い野菜、そして上層にはトマト、きゅうり、 なすのようにつるや茎が長く伸びる野菜といった、4層に分かれたプラントユニットが考え られる。上層に伸びやすい野菜を置くことで、壁面農地として使用していない面、土壌がな い面にも野菜を這わせることができる。それによって、緑のカーテンと同じ効果が得られる。
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5 壁面農地における生活モデルの提案 5-3 壁面農地における野菜収量に関する研究
野菜のゾーニングを4層にしたので、これよりそれぞれの層にあったプラントユニットを 設定していく必要がある。野菜の実測寸法の株間、条間、うね幅、根深さは、一般的なプラ ンターに置き換えると幅 ( 長さ )、奥行、高さに当たる。(fig.5-3.10) これを元にプラント の土壌ユニットを決める。
* 63 株式会社ツインスター カンパニー 大型プランター タウンプラ ンター 100 型割石積
fig.5-3.10 一般的なプランター
http://www.twinstars.co.jp/products/ bigplanter/100_ katsusekidumi/ townplanter_100_ katsusekidumi.html
*63
まず、下層の根菜類などは根が大きく育つため、幅や奥行よりも高さ ( 深さ ) を大きく取 る必要がある。根は野菜にとって、地下にある水や栄養を吸収するのに重要な器官であるた め、狭すぎると根菜類のような野菜の生長に支障を来してしまう。また、ジャガイモなどの イモ類も地下に育つため深さが必要であるが、それと同時に掘りやすさも考えなくてはなら ない。根菜類のみを視点に置くと、幅や奥行はあまり必要ではないが、イモ類は根というよ り地下茎が深く広く育つので、面積としてそれなりに広く取らなくてはならない。そのため、 ユニットの面積は実測値を元に計画する。根深さの実測値は 10~40cm であるので最大根 深さである 40cm をプラントユニットの高さとする。幅と奥行はバレイショの株間と条間 より導き出し、25cm×30cm とする。よって、根菜類とイモ類のユニット、根菜系ユニッ トの幅・奥行・高さは、それぞれ 25cm×30cm×40cm となる。 その上の 3 層目のレタスやキャベツの葉茎菜類などの野菜は、根菜類のように根が深く 育たないが葉が大きく広がるため、根菜系ユニットのように幅や奥行を大きく計画する。そ のため、土同士・野菜同士の間隔が重要になる。野菜同士が近過ぎると葉がぶつかり合い、 生長の妨げになってしまう。また遠過ぎるとユニットの自由度がなくなってしまう。また、 玉ねぎに関しては茎が長く伸びるので、下層と同様の傾きが必要となる。よって、幅と奥行 と高さはレタスの実測寸法より、葉茎菜系ユニットは 25cm×30cm×30cm の数値を取る ことにする。 次の2層目のほうれん草と小松菜、ラディッシュなどの軽い野菜は、幅と奥行と高さをそ れほど大きく必要としないため、下の2層よりも小さいユニットでも生長は可能である。注 意すべきは葉伸長である。ほうれん草と小松菜は玉ねぎほどの茎長ではないが、葉が伸びる ためそれなりの勾配が必要になる。ユニットの寸法は、幅と奥行と高さはほうれん草の実測 寸法より 10cm×15cm×15cm の軽菜類ユニットを計画する。
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5 壁面農地における生活モデルの提案 5-3 壁面農地における野菜収量に関する研究
最後に上層のトマト、きゅうり、なすなどのつるが伸びる果菜類である。これらはプラン トユニットの寸法も大切だが、上記でも述べた通りにつるが伸びるため壁面農地として使用 していない面にネットや支柱を設置することを考えた方がいい。プラントユニットに関して は下の層のものと同じものであり、実測寸法から考えてレタスなどの葉茎菜類ユニットと同 じ 25cm×30cm×30cm の規格のユニットがいいだろう。葉茎菜類ユニットと同じユニッ トであるが層で区別するため、これより果菜類ユニットと呼ぶ。 果菜類ユニットに関してだが、プラントユニット計画とは別につるの対処法も記載する。 つるの這わせ方は、ユニット一つ一つに支柱を取り付け個別に伸ばすことも可能である。支 柱を組み立て設置するのが難しいが、野菜ごとに個別で穫れるため収穫が簡便に行える。ま た、壁面農地として使用していないユニットの上の壁面にネットを敷きつめる方法もある。 こちらは設置が楽である反面、連結したユニットから生えた野菜同士のつるがからまり合う 可能性があるため収穫が困難になるだろう。 以上の4つのユニットを組み合わせて連結することによって、住宅の壁面にあったプラン トユニットを作ることが可能である。 例えば、根菜類を多く食べたい住居者は、根菜系ユニットを多く取ることもできる。 ○根菜系ユニット ( 奥行 30cm× 幅 25cm) =縦 2 個 × 横 4 個 ( 約 0.6m2) ○葉茎菜系ユニット ( 奥行 30cm× 幅 25cm) =縦 1 個 × 横 4 個 ( 約 0.3m2) ○軽菜類ユニット ( 奥行 15cm× 幅 10cm) =縦 2 個 × 横 10 個 ( 約 .3m2) ○果菜類ユニット ( 奥行 30cm× 幅 25cm) =縦 1 個 × 横 4 個 ( 約 0.3m2) 合計プラントユニット=縦 1.5m× 横 1.0m(1.5m2) 支柱やネットの面積は除く ) 以上のような配置にすることで、根菜類中心のプラントユニットが計画できる。このよう に自分のライフスタイルに合った、自由度の高いプラントユニットを作ることができる。
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5 壁面農地における生活モデルの提案 5-3 壁面農地における野菜収量に関する研究
5-4.3 1年間の生活モデル 本研究では、対象の一般住宅の一階と二階南壁面 ( 窓を除き、バルコニーを含み計 22m2 と仮定 ) の全てで野菜を栽培すると想定する。住居者が壁面農地で育てた野菜を収穫し食事 する生活を送れることを考え、春から冬までの1年間の生活モデルを製作する。住居者は大 人 2、子ども1人の一般的な核家族を想定する。 第2章でも述べたが、成人の1日における野菜摂取目標量は 350g である。子ども ( 〜 * 64 健康・栄養情報研究 会編 第六次改定日本人の栄養所要 量 (2003 第一出版 )
14 歳まで ) の場合は約 200 〜 300g と考えられているため、ここでは平均値である 250g とする。*64 1ヶ月で考えると、両親は約 10.9kg、子どもは約 7.8kg であり、合計で約 29.5kg の摂取が目標量である。 野菜によっては種まき、植え付け、生育期間、収穫時期が変わるため、月によっては収穫 できない時期もあると考えられる。しかし、収穫できる時期が重なり貯蔵する時期もあるた め、一年を通して食卓から野菜がなくなることはないと考えられる。また壁面農地が季節に よって穫れるものや生える色合いによって季節ごとに変化する壁面を演出することを考えて いるため、野菜の種まきと収穫はそれぞれの旬を出来るだけ重視している。 まず生活モデルの指標を作る前に、プラントユニットにおける各層ごとの面積を決めなく てはならない。壁面全てを使用するため、野菜1種類に対する面積が限定される。栽培する 野菜の中には、生長が早いが腐るのが早く収穫量が少ない野菜があり、また生長が遅いが腐 るのが遅く収穫量が多い野菜もある。そのため腐るのが遅く、また収穫量の多い野菜を収穫 時期、季節も考慮して植えていく。
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5 壁面農地における生活モデルの提案 5-3 壁面農地における野菜収量に関する研究
壁面の縦は 5.4m でありユニットの奥行が壁面の縦と対応し、横は 4.5m でありユニッ トの幅が壁面の横と対応するとみなし、各層のユニットを並べていく。 ○根菜系ユニット ( 奥行 30cm× 幅 25cm) =縦4個 × 横 18 個 (5.4m2) ○葉茎菜系ユニット ( 奥行 30cm× 幅 25cm) =縦4個 × 横 18 個 (5.4m2) ○軽菜類ユニット ( 奥行 15cm× 幅 10cm) =縦8個 × 横 45 個 (5.4m2) ○果菜類ユニット ( 奥行 30cm× 幅 25cm) =縦4個 × 横 18 個 (5.4m2) 合計すると、壁面農地の面積は 21.6m2 となる。
fig.5-3.11 壁面農地における4層プラントユニットの概要
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5 壁面農地における生活モデルの提案 5-3 壁面農地における野菜収量に関する研究
各層のプラントユニットの割合が決まったので、ここから各野菜をいくつ植えるかを決め ていく。上記で述べた通り、季節を考慮した上で腐りづらく、かつ多く収穫できる野菜を中 心に植えていく。そのため、根菜系ユニットはじゃがいも ( 春秋 )・にんじん ( 春冬 )・だ いこん ( 冬 )、葉茎菜系ユニットは玉ねぎ ( 春 )・キャベツ ( 春 )、軽菜類ユニットはほうれ ん草 ( 春秋 )、果菜類ユニットはトマト ( 大 , 小 ) ( 夏 )・なす ( 夏 ) を他の野菜よりも多く 種まき・植え付けを行う。特にこの中で一番腐りづらい野菜である、じゃがいも ( 春秋 ) と 玉ねぎ ( 春 ) をより多く植え付ける。上記に挙げていない野菜は、傷みやすくまた日持ちし ないため植え付けを少なくする。(list.5-3.12~5-3.15) list.5-3.12 4・5・6月の生活モデル
list.5-3.13 7・8・9月の生活モデル
050
5 壁面農地における生活モデルの提案 5-3 壁面農地における野菜収量に関する研究
list.5-3.13 10・11・12 月の生活モデル
list.5-3.14 1・2・3月の生活モデル
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5 壁面農地における生活モデルの提案
5-4 考察
一般住宅の壁面にプラントユニットを取り付けた壁面農地を計画し1年間の生活モデルを 製作したことによって、月最大 16.2kg 分の野菜が収穫できることが分かった。この数値を 設定した核家族の野菜摂取目標量である約 29.5kg と比較すると、半分以上の摂取目標量を まかなうことができる。 しかし、3 月の収穫量を見ると 1.06kg と最低収穫量を導き出された。これは 3 月が種 まきや植え付けの月であるためや、3月に収穫できる野菜が少ないためである。本研究では 旬に穫れるものを出来るだけ重視したため、月別の収穫量が大きく変動してしまった。また、 壁面農地を南壁面のみと計画したため、他の方角の壁面も利用できれば野菜をより多く収穫 できるだろう。 南壁面のみの壁面農地でも居住者の食卓、食生活を変えることができると考えられる。ま た、季節によって壁面農地の収穫量が変わるのと同時に、壁面農地の野菜の生育状態、壁面 の色合いも変化するだろう。
052
5 壁面農地における生活モデルの提案
5-5 まとめ
本章で壁面農地の実現のために、壁面農地での野菜の収量を求め、壁面農地で使用するプ ラントユニットを計画し、壁面農地を導入した住居における1年間の生活モデルを提案でき た。 プラントユニットはそれぞれの野菜の寸法に合わせ、野菜の苗一つに対してのユニットの 計画をしたため、根菜系ユニット・葉茎菜系ユニット・軽菜系ユニット・果菜系ユニットの 4層構造になった。これらは野菜の生長に合わせ、それぞれの層で野菜がお互いを妨げずに 生長し、壁面農地を様々な色合いで染まるだろう。 壁面農地での野菜の収量を求めたことで、壁面農地を導入した際にどれだけの収穫量の野 菜が生産できるか、また何日分の摂取量の野菜になるかも把握することができた。 そして、壁面農地を取り付けた住宅においての1年間の生活モデルを製作した。これによ り、住居者が行う作業や月における収穫量を導き出したことで、住居者の生活指標の見本を 作ることができた。 結果として、住居者の野菜摂取目標量を軽減することができ、住居者のライフスタイルに 変化を持たせることが可能であることが分かった。また野菜の収穫季節に配慮したため、壁 面農地が季節によって穫れるものや生える色合いによって季節ごとに変化する壁面を演出す ることができるであろう。しかし、南壁面のみを壁面農地として利用しても、収穫できる野 菜の量が摂取目標量の全てを満たすことができなかった。他の方角の壁面を利用することに よって野菜の収穫量は変動し、住居者のライフスタイルをより良いものへと変化することが 可能であるかは今後の研究に繋げていく。
053
5 壁面農地における生活モデルの提案
5-6 展望
本章では、都市における農地に使える土地の減少や都心での自給率の低下を考慮して、都 心の一般住宅の1軒の壁面を壁面農地として利用することを考えた。これが1軒だけではな く、2軒3軒と都市が壁面農地で埋め尽くされたとしたら、日本の自給率の向上、国民の野 菜不足の改善に繋がるだろう。加えて、今までは気温などで季節感を判断していたが、都市 の壁面農地で育った野菜の種類や生長によって感じることができる。建築の壁面を一目した だけで今の季節が何かを把握することができる。 本研究が今後の食や農業だけではなく、都市計画や建築計画などに活用され人々の食生活 だけではなく、ライフスタイルがよりよいものになることを期待する。
054
6 まとめ
本研究の目的は、住宅の壁面農地における野菜の生長モデルを作成し、壁面農地の有用性 を明らかにすることで、都心部における新しい農地の提案をすることであった。壁面農地を 導入することで、壁面で野菜が収穫できるようになり、その栽培された野菜が食卓に並ぶこ とで居住者の生活が健康的になることが推測できた。 まず基礎研究では、作物生長モデルを用いて、水平面における作物のポテンシャル収量を 求めることができた。この水平面における作物のポテンシャル収量は、統計によって求めら れた過去の収量データに近い値が得られたため、信頼性が高いことが分かった。 次に、垂直面における作物のポテンシャル収量と、野菜の収量の統計データとを比較する ことで、壁面での野菜の収量を求めた。これらは基礎研究および実際の統計データを元に算 出したため、信頼性が高いと考えられる。プラントユニットの設計では、根菜系ユニット・ 葉茎菜系ユニット・軽菜系ユニット・果菜系ユニットの 4 層に壁面農地を分け、これらの 層ごとに異なる寸法のユニットを設計した。このプラントユニットを取り入れた一般住宅を 想定して、住居者の1年間の生活モデルを製作した。それによって、1年間の壁面農地の移 り変わりや、また食卓の移り変わりが把握できるようになった。これにより壁面農地が、季 節によって壁面や食卓の色合いが変化し、食卓には収穫した野菜が並ぶことが推測できる。 この研究を通して、壁面農地の有用性が明らかになり、また都心部における新たな農地の あり方を提案することができた。今後、実際にプラントユニットを製作し、壁面農地で野菜 を植え付け栽培し収穫することでどれだけ人々の生活に影響が与えられるかを検証したい。
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7 展望
本研究は、農作物の生長モデルを応用したことで、壁面農地の有用性を明らかにすること ができ、また農地の新しい提案をすることができた。今回は一般住宅を対象として壁面農地 のシミュレーションを行った。しかし壁面農地のプラントユニットは、一般住宅のみならず 様々な建築にも応用することができると考えられる。 本研究では農作物の生長しやすい南壁面を取り上げ、壁面農地として計画したが、太陽光 があまり当たらない北壁面では農作物の生長は難しいだろう。しかし、サンライト・ダイレ クトという会社が複合プラスチックの放物面鏡を用いることで、従来は太陽光が届かなかっ た北壁面などでも太陽光を集めることができる。建築の南以外の方角にこれを設置すれば、 * 65 SUNLIGHT DIRECT LLC
どの面において壁面農地を実現することができる。*64
SOLAR ILLUMINATION http://www.sunlightdirect.com
もしも住居の壁面が壁面農地だったとしたら、住宅の壁面が季節によって野菜で彩られる ため都市が様々な色合いで染まるだろう。例えば夏であれば、トマトの赤、ピーマンやキュ ウリの緑、ナスの紫など多くの色の野菜が生い茂る。そして、住居者はそれらの野菜を食べ ることで健康的な生活を送ることができると考えられる。壁面と共に、都市と食卓が同じ色 で染まり、人々の生活を豊にするだろう。 本来、農地は水平面にあるものであったが、垂直面へと持ってくることで都市も人も生活 も変化していく。壁面農地の活用によって、垂直である壁面で栽培された野菜が水平面であ るある食卓を変化することができる。“垂直面”が“水平面”を変える、 “壁面”が“食卓” をデザインする、ということが可能になる。
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8 おわりに
8-1 謝辞 8-2 参考文献
8 おわりに
8-1 謝辞
この論文の執筆にあたり、多くの方々にお世話になり、またご迷惑をおかけしました。こ の場を借りて、皆様に感謝したいと思います。 まず第一に、このような自由なテーマで卒業論文の執筆をさせて頂く機会を下さった渡辺 仁史先生。私を研究室に迎えて下さり、素晴らしい環境を与えて頂きありがとうございます。 論文のテーマに迷っている時に的確なアドバイスと論文のタイトルをくださり、深く感謝 しています。 論文の構想の際に様々なアドバイスを頂き、視野を広げてくれました中村先生。論文の 方向性で迷っている時に、広島のことなど様々な事例を教えていただき、ありがとうござ いました。 中間発表の際にこの研究のきっかけとなった「食べられる家」を教えてくださった林田 先生。いつも研究室に美味しいお菓子やデザートなどを持ってきてくださり、ありがとう ございました。 論文の内容が具体化せず、悩んでいた時に発想の糸口を見つけてくれました馬淵さん。驚 異的なスピードで私の案の根っこを作っていただき、ありがとうございました。 論文の提出直前に英語タイトルが決まらず悩んでいるときに助けてくれました菊池さん。 英語が苦手な私のために素敵なタイトルを作っていただき、ありがとうございました。 私の卒業論文を発案から提出、プレゼンに至るまでほとんどつきっきりで指導してくれ ました伊永さん。不甲斐ない私のために厳しく指導して、またスケジュールまで組んでい ただいて、ありがとうございました。伊永さんがいらっしゃらなかったら、私は卒業論文 を完成することが出来ませんでした。 様々なイベントを立てて誘ってくださった瀧口さん。 論文やイノラボでアドバイスを与えてくれました良爾さん。 執筆期に大変ご迷惑おかけして、色々とフォローしていただきありがとうございました。 また、卒業論文の執筆で研究室に泊まりながら楽しく笑いあったり、InDesign の使い方 を教えてくれたり、タバコをくれたり、様々なことでお世話になった同期のメンバー。み んな、ありがとう。 そして忙しい中、急に帰省して論文の相談に乗ってくれた父さん。母さん。姉ちゃん。畑 に連れて遅くまでつき合ってくれた、じいちゃん。ばあちゃん。野菜の測定に手伝って教 えてくれた、隣の畑の柿島さん。ジャガイモ畑の杉田さん。測定の邪魔をした愛犬チョコ。 皆さん、ありがとうございました。 たくさんの人に支えられ、励まされ、この卒業論文が完成しました。 本当にありがとうございました。
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8 おわりに
8-2 参考文献
* 1 表真美 『食卓と家族ー家族団らんの歴史的変遷』(2010 世界思想社 ) *2 厚生労働省 『平成 23 年 国民健康・栄養調査結果の概要』 http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/houdou_list.html?ym=201212 *3 厚生労働省 『健康日本21目標値一覧』 http://www1.mhlw.go.jp/topics/kenko21_11/t2a.html
*4 一般社団法人ファイブ・ア・デイ協会 『野菜・果物を取り巻く生活者の 消費動向 (3 万人アンケート ) ( 平成 24 年 3 月公表 )』 http://www.alic.go.jp/content/000093219.pdf *5 農林水産省 『野菜の消費をめぐる状況について』 http://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/yasai_zyukyu/y_h29_mitosi/pdf/yasai_ shohi_jyokyo.pdf *6 内閣府 『 「食育に関する意識調査」について(H25.5 公表)』 http://www8.cao.go.jp/syokuiku/more/research/h25/pdf/g.pdf * 7 農林水産省 『なぜ日本の食生活(しょくせいかつ)は洋風化(ようふうか)してきたのですか。』 http://www.maff.go.jp/j/heya/kodomo_sodan/0407/01.html * 8 農林水産省 『食の外部化率の推移 過去 30 年の食料の消費形態と国民生活の変化』 http://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/kikaku/bukai/03/pdf/ref_data2-15.pdf * 9 農林水産省 『 (1)食料消費と食品産業の動向 ア 食料消費の動向』 http://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h21_h/trend/part1/chap2/c2_01.html * 10 内閣府 『 「食育に関する意識調査」について(H25.5 公表)』 http://www8.cao.go.jp/syokuiku/more/research/h25/pdf/g.pdf * 11 農林水産省 『平成 24 年度食料自給率等について』 http://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/anpo/130808.html
058
8 おわりに 8-1 参考文献
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063
第2部:資料編
1 作物生長モデルの理論背景 - モデル式 1-1 作物の吸収と呼吸のシミュレーション 1-2 作物の生物季節の発達
1-3 作物の蒸発 1-4 作物の土壌水分バランス 1-5 作物の栄養素
1 作物生長モデルの理論背景 - モデル式 -
この章では、作物生長モデル WOFOST のシミュレーションで用いられているモデル式 をマニュアルより引用して記載する。そのマニュアルはインターネットで公開されている。 このモデル式は理論的背景に基づいており、第1部:本編の参考文献* 48『WOFOST-WOrld FOod STudies』WAGENINGEN UR からマニュアルが得られる。
1-1 作物の吸収と呼吸のシミュレーション 作物の 1 日の総 CO2 の同化率が吸収放射(Ia) 、および個々の葉の光合成における光の応 答曲線から計算される。この応答曲線は、気温と葉年齢に依存している。吸収放射(Ia)は、 全入射と葉面積から計算できる。なぜなら光合成は、放射線レベルの変動に考慮されている、 非線形的な方法で光強度に応答する。 変動の一つは、上面の葉は下面の葉よりも多く光を受けるため、垂直面に沿って葉の最上 面で発生する。これは、異なる葉の層で葉の最上面を分割しているのが原因だ。各葉の層に より受けた放射が重なる層による葉の最上面の変動で日射束に基づいて算出される。 個々の葉の光合成における光の反応曲線に基づいて、各葉の層の同化を算出する。水平面 の変動、例えば葉の並びの効果は、原因とならない。 二つ目の変動は、時間的な、日々の太陽の周期によって引き起こされている。晴れた日に、 葉の最上面における日射レベル l0 は、太陽定数 l [J・m-2・s-1] に 太陽と地球表面の間の角 度の正弦 (β) を掛けたものに等しい。(formula. 1)
l0 = l・sinβ ー (formula. 1)
001
入射の半分だけは光合成の有効放射(PAR、波長 400 〜 700 nm)である。日々の日射 の総量は WOFOST に入力される。(formula. 1) は開始日よりの日射を分配するために使わ れる。この計算では、分配が直接日射と拡散日射の間で行われている。これは、Spitters (1986)などによって議論されてきた。葉の最上部は、PAR の一部を反射している。反射 係数 (ρ) は、太陽高度、葉の角度分布と、葉の反射や透過特性の関数である。 重分数 (1-ρ) は葉の最上面で吸収が可能である。日射束は、最上部内で増加している葉面積と多かれ少な かれ指数関数的に減少します。これは (formula. 2) 上で記述されている。L は葉面積指数 ([m2(leaf) ・m-2(ground)];葉の最上面の裏面の先頭から数える)、IL は深さ L での正味 放射係数であり、k は吸光係数である。吸光係数は、日射(直接または拡散)と、特定の太 陽高度、葉の角度分布と、個々の葉の散乱係数(Spitters、1989)の関数である。
lL = (1-ρ)・l 0・e-k・L ー (formula. 2)
日射束の減少は、葉層によるその吸収の度量である。 これは、(formula. 3) によって記載されている。L に関して (formula. 2) の導関数より得 られる。IaL は、葉層 L による吸収放射である。 葉層の瞬間的な同化率は、(formula. 4) によって記述することができる。AL は総同化率 [kg (CO2)・m-2 (leaf)・s-1]。Am が最大の総同化率、すなわち、光飽和での総同化率 [kg (CO2) ・m-2 (leaf)・s-1] である。 ε は 初 期 の 個 々 の 葉 の 光 利 用 効 率 [kg (CO2)・J-1 (absorbed PAR)](Spitters ら、 1989)
IaL = dIL/ dL =k・(1-ρ )・e-k・L
ー (formula. 3)
AL = Am・(1-e-ε・IaL/ Am) ー (formula. 4)
WOFOST によって実行された遮光と同化に関する計算は、これらの線に沿って進むが、 より複雑になる。正確な説明のために、Supit(1994)などを調べる必要がある。 (formula. 4) 上での ε と Am のどちらもは、気温に依存する。 k、ρ と Am は作物固有 のものである。一般的に、C4 作物の Am は C3 作物(Vries, 1989)の Am よりも高くなって いる。(fig.1-1)
002
fig.1-1 C3( 大麦 ) と C4( トウモロコシ ) 作物における個々の葉の光合成の光の応答曲線 Am はそれぞれ 35 と 60kg・ha-1・h-1, ε は両方とも 0.40 kg・ha-1・h-1・(J・m-2・s-1)-1 低温時(Vries, 1989)での ε と最適な温度で 340 vvpm の CO2 と Am で測定
日々の総 CO2 同化は、葉層の上に、一日以上の同化速度を積分することによって得られる。 日以上の統合によって、一日以上の入射の正弦進路が想定され、三点ガウス積分法はハウド リアン(1986)によって証明されたものを適用する。 CO2 の同化、または光合成では、二酸化炭素は吸収された光によって供給されたエネルギー を使って炭水化物(CH2O)に還元されます。
CO2 + H2O = CH2O + O2
形成された同化物の一部は維持呼吸のために使用される。 残りの炭水化物は、セルロースやタンパク質などの植物の構造材料に変換される。成長呼 吸と呼ばれる、この変換によって炭水化物はいくつか損失する。維持呼吸は、周囲の気温に よって変更される、異なる器官での乾燥重量やそれらの化学組成物に基づいて推定される。 ( 約 0.01 〜 0.03 g・g-1) ( Vries, 1975; Vries et al., 1989).
003
1-2 作物の生物季節の発達 生長と生殖の器官の順序と出現率は、作物の生物季節の発達を特徴づける。出現の順序は、 外部条件から独立している作物の特性である。出現率は、特に気温や日長の影響下にあり、 大きく変化することができる。 (Van Keulen and Van Diepen, 1990) WOFOST で、季節学は無次元状態の変数の発達段階 , D によって記述されている。ほと んどが一年生作物の場合、D は成熟時であれば 2、開花時であれば 1、幼植物出芽であれば 0 と設定されている。発達率は、おそらく日長によって変化し、周囲気温による作物 / 品種 の特定の機能がある。(Van Keulen and Van Diepen, 1990) 発達段階での気温の影響を説明するために、熱的時間の概念は、温度の和もしくは熱和と 呼ぶ際に適応される。( 例:Ritchie, 1991) 作物の出現後、熱的時間はその日の温度の時間 の積分 , Te, となる。 Te は日々の平均気温 , T, と発達が生じない基本温度との差である。 Tbase, いわゆる、Te = (T - Tbase) [℃ ] Te の値は+かゼロのどちらかだ。特定の最大有効温 度 Tmax,e, より上の時、Te は一定のままとなる。Tmax,e, と Tbase との間に、熱時間における日々 の増加は線形補間によって得られる。(fig.1-2) 次の発達段階に至ることに必要な熱時間 Treq [℃・d] と熱時間を除したもの ∫ Te [℃・d] より、D は算出される。(formula. 5)
D=
∫ Te/ Treq. ー (formula. 5)
004
fig.1-2 日々の平均気温(℃)と熱時間の日ごとの増加 [° C•D] との関係の一例 作物の発達段階の計算 (Tb = 8 ° C, Tmax,e = 27 ° C)
種まきと収穫の出現までの時間を計算するには、WOFOST は熱時変数の追加のセットを 使用します。 いくつかの作物の生物季節の発達も光周期(P)によって影響される。この現象は、最適 条件 (Po) と臨界日長 (Pc) に基づいた、開花まで発達率によって光周期の減少係数 (Fpr) を 介し WOFOST に扱われます。Fpr は、(formula. 6) に従って算出し、また発達段階は (formula. 7) に従っている。(fig.1-3)
Fpr
= P-Pc / Po -Pc 0 ≦ Fpr ≦ 1 ー (formula. 6)
D = F p r・∫ Te/ Treq ー (formula. 7)
005
fig.1-3 短日作物 (Po = 10 hrs and Pc = 12 hrs) および長日作物 (Po = 12 hrs and Pc = 10 hrs) のための Fpr. と P の関係
発達段階は、その他のものの間で、臓器にわたって分割している同化で決定します。発芽 後、ほとんどの同化物は茎組織を下った先や、葉と根組織中で変換される。 根組織への分割は、徐々に減少し、発達段階が 1 の場合は 0 になる。(穀物の開花)その 時より、貯蔵器官は利用できる同化物のほとんどを受け取る。(fig.1-4)
fig.1-4 発達段階(オランダ、シミュレートされた中での大麦)に関して茎や葉などの地上器官へ の乾物分配の例
006
計算上では、同化の割合は最初、根に割り当てられ、残りは地上の臓器(例えば塊茎など の地上貯蔵器官の下を含む)に分割される。 シミュレーションを開始するには、出芽時か らの作物の乾燥重量 [kg・ha-1] と葉面積の指数 [m2・m-2 または ha・ha-1] である。作物の 成長の最初より、葉の同化物の供給が、比葉面積 [ha・kg-1] と葉の乾物重 [kg・ha-1] を乗 じて算出し、葉面積の増加を決定づける。 しかし、葉面積の拡大は、温度依存性である葉面積の指数(すなわち、細胞分裂や伸長の最 高率)の日ごとの最大増加によって制限され得る。 葉面積の増大は、より高い潜在的成長 率に従って、より高い ( 潜在的な ) 光遮断をもたらす。(図 2)これは、ほぼすべての光を 遮るまで続く、作物成長の指数をつなげる。(葉面積指数
≧ 3)
その時より、作物の老化のため、その光合成能力や葉面積が低下するまで、成長率は一定で ある。(fig.1-4)
007
1-3 作物の蒸発 蒸散とは、作物から大気への水の損失です。水の損失は開放された気孔から大気へと水蒸 気を拡散することによって引き起こされる。気孔は、大気と植物内ガスの交換 (CO2 と O2) のために開放する必要がある。乾燥を避けるため、作物は土壌から水を取り込み、蒸散損失 を補わなければならない。WOFOST において、植物の成長に最適な土壌水分範囲は、作物 の群や総土壌保水容量といった、大気の蒸発要求(固定された植物の潜在的な蒸発のを参考) の関数として決定される。その範囲内で、蒸散損失が完全に補われる。最適な範囲外では、 土壌が乾燥しすぎたり濡らしすぎたりすることができる。両方の条件は、酸素不足のため湿っ た土壌や、水不足のために乾燥した土壌で、根によって水の摂取を減らすためである。 作物は、気孔の閉鎖と水ストレスに反応します。結果として、作物と大気との間の CO2 と O2 の交換が減少し、従って二酸化炭素の同化が低減される。この効果は、総同化への 蒸散の一定比率を仮定することで定量される。これは (formula. 8) に従って行われ、同化 率 A[kg・ha-1・d-1] が潜在的な同化率 Ap[kg・ha-1・d-1] と、実際(水限定)の蒸散速度 の Ta[mm・d-1] と潜在的な蒸散速度 Tp[mm・d-1] の比率である。 (Van Keulen and Wolf, 1986)
A = Ta / Tp・A p ー (formula. 8) 潜在的な蒸散率は大気の蒸発要求と葉面積に依存している。蒸発要求は放射線レベル、 飽差と風速によって特徴付けられる。WOFOST では、潜在的な蒸散はフレールとポポフ (1979)に従って適合した、ペンマン式(ペンマン、1956)によって計算されます。潜在 的な蒸散は関連作物によって計算される。作物同士の違いは、ほとんどの作物が 1.0 の値 を有する補正係数を説明できる。この要因となる妥当な範囲は、節水作物の 0.8 から比較 的多くの水を費やす作物の 1.2 までだ。 土壌水分含量(1-4 作物の土壌水分バランス)と Ta/Tp の比との関係は、(fig.1-5) に示 されている。 臨界の土壌水分含量(θcr)と野外容水量(θfc)の間で、潜在的な蒸散を可 能にするため、比は 1 である。この範囲外で蒸散が減少に至ると、比率は 1 よりも小さい。 永久的な萎れ点 (θwp) と飽和点 (θst) において、蒸散と今後の作物の成長は停止する。 θ wp(θfc と θst) は土壌の種類によって異なります。 θcr は、作物の種類や天候に依存する。 高い蒸発要求と干ばつの影響を受けやすい作物の組み合わせは
θcr の高い値となる。作
物の耐干ばつ性は、土壌の枯渇番号で示されおり、耐干ばつ性作物の値の 5.0 から干ばつ の影響を受けやすい作物の値の 1.0 までの範囲内である。 (Driessen 1986a; Doorenbos and Kassam, 1979)
008
fig.1-5 土壌水分との関係、作物 / 土壌の組み合わせの θ と Ta/Tp
 θwp、θcr、θfc と θst は萎れ点での土壌水分含量、潜在的な蒸散の臨界点、野外容水量 と飽和、それぞれを表す。破線は、異なる気象条件 (Penning de Vries et al., 1989; Van Laar et al., 1992) によって引き起こされた、低蒸発需要の下で同じ種か、もしくは同じ土 地条件の下でより耐干ばつ性の種のどちらかを表している。
009
1-4 作物の土壌水分バランス 根中の含水量は水分バランスの日々の計算から得られる。WOFOST では、3 つの異なる 土壌水分サブモデルが区別している。一つ目の最も単純な土壌水分バランスは、潜在的な生 産状況に適用されます。 継続的に湿った土と仮定すると、作物の水の必要性は、葉の下の日陰の土壌から作物の蒸 散と蒸発の合計として定量化している 二つ目の水を限定した生産状況の中での水バランスは、深くにあるため根中の土壌水分含 量に影響を与えることができない地下水、自由排水土壌に適用されます。土壌断面は、2 つ の区画、根づいたゾーンと実際の根の深さと最大の根の深さとの間に下のゾーンに分かれて います。深根の深さを根下の下層土と定義しない。根が深く成長するように、第 2 のゾーンは、 最初のゾーンに徐々に合わさる。 この土壌水分バランスの原理はカスケード(溢れ出ているバケツ)です。降雨浸透し、一 部は一時的に表面上に格納されるか、または流出する。蒸発損失が算出される。土壌圧縮の 保持力を超える浸透した水は下方に浸透する。毛管上昇はない。 土壌は、3 つの区画に分かれている;実際の根圏(RDact)、実際の根圏と地下水位との間 のゾーン、土壌表面下の深さ 1,000m までの地下水ゾーン。最大根のゾーンは RDm である。 地下水位は深さ Z である。(fig.1-6)地下水が根圏に入ったときに、根づいたゾーンは水飽 和及び不飽和のゾーンに分割される。 水分流動上での計算は降雨パラメータ(R)、地面貯留(SS)、表面流出(SR)、土壌表面 蒸発(E)、作物の蒸散(T)、根圏から深い層まで浸透(PC)と根圏への毛管上昇(CR)を 含む。(fig.1-6)灌漑や斜面上の高い位置から表面流出による水供給が WOFOST では考慮 されていません。しかしながら、気象データを組み替えると毎日の降雨での灌漑による水の 供給を加えることによって灌漑の水供給スケジュールを指定することができる。
010
fig.1-6 毎日の土壌水分バランスの成分
011
1-5 作物の栄養素 WOFOST は、施肥していない土壌下での栄養を制限された生産量と、潜在的と水限定生 産レベルを達成するのに必要な植物の栄養量を算出することができる。3 つのマクロ栄養素 のみ、N、P と K が占めている。 WOFOST に統合されている、QUEFTS モデル(熱帯土壌 の肥沃度の定量的評価)(Janssen et al., 1990; Smaling and Janssen, 1993) に基づいて、 計算は実行されます。WOFOST で働いている QUEFTS の成分方法、データの種類が必要と されるものは Keulen と Wolf(1986)と Keulen(1982)に記載されている。 作物による生物窒素固定、例えば根粒菌属との共生は WOFOST に含まれています。作物 パラメータ NFIX は、生物的固定によって供給される合計窒素供給の割合を決定します。実 際の窒素固定で土壌中の利用可能な鉱物窒素の量に依存した他の物の中にある間、NFIX は 定数として定義される。 限定された栄養素の生産は、施肥していない土壌中のマクロ栄養素 N、P および K の可用 性に基づいて算出される。また、実行する最後のシリーズの平作用に限定された水の生産の ための、シミュレーションされた昨シーズンに計算される潜在的な生産のための栄養要求は 計算されます。潜在的かつ限定された水の生産のために計算で、モデルを前提として肥料は、 これらの生産レベルに到達するために適用される。定数が明白な肥料回復を使用している肥 料で、すなわち栄養摂取と栄養アプリケーション間の比である。 例えば窒素の取り込みは、潜在的な窒素の供給と土壌から他の栄養素との両方の関数であ る。栄養素の潜在的な供給は、他のすべての栄養が非限定的である場合、作物によって取り 込まれる量として定義される。この量は作物固有のものであり、他のすべての栄養が十分な 供給にある実験によって決定することができる。これは、数年以上の土地試験の大規模な番 号が必要です。異なる土壌タイプにわたって繰り返される時は、栄養素の潜在的な供給は、 pH 、有機炭素含有量、P- オルセンと交換性カリウム (Janssen et al., 1990) のような土壌 特性に関連付けることができます。QUEFTS は、化学的な土壌特性からの潜在的な供給を推 定するためのルールを与えるが、QUEFTS のこの部分は WOFOST モデルに組み込まれてい ません。したがって、ユーザーが WOFOST を実行する前に、潜在的な供給を指定する必要 があります。土壌から栄養の供給を推定するための基準は、120 日の作期を持つ天水トウモ ロコシによって栄養の取得を使用される。生育期間が短い場合は、土壌からの基本的な栄養 供給が生育期間の減少に比例して減少します。生育期間が長い場合と、土壌からの基本的な 栄養供給が生育期間の拡大との比例より少なく拡大する。
012
栄養を限定した収穫率の算出に、栄養と生殖の器官における最大値と最小養分濃度といっ た、他の二つの栄養素の供給を考慮しつつ、各栄養の摂取はその栄養の潜在的な供給に基づ いて算出される。 窒素の潜在的な供給と、例えばリンといった、別の栄養の潜在的な供給(固定)に依存す る、作物による実際の窒素吸収との関係を示している。 (Janssen et al., 1990; Pulles et al., 1991)
fig.1-7 第 2 の栄養素によって影響を受ける実際の窒素の取り込みと潜在的な供給の関係
(fig.1-6) で、3 つの状況を区別することができます: A) 窒素の潜在的な供給は、リンに比べて非常に低く、そのため、作物による窒素の摂 取は、潜在的な供給に等しい。 C) 窒素の潜在的な供給はリンに比べて非常に高く、N 供給の増加は、作物による高い 窒素吸収をもたらさない。 B) 状況 B において、A と C との間の変化が起こる。(N 取り込み)/(N 供給)の比率 が 1 から 0 に減少する。この減少は、摂取と供給の間に曲線関係につながる、線形である と仮定する。 栄養素の実際の摂取を決定した後、収率推定値は三つの栄養素の各々を進められることが できる。実際の摂取と収率の関係は、(fig.1-7) に示されている。この図は、窒素の摂取が リンの摂取レベルによって変化する。(Pulles et al., 1991)
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fig.1-8 実際の窒素の摂取とリンの産出範囲によって影響を受けるように収量との関係
繰り返し、3 つの状況を区別する: X) 窒素がその最大希釈レベル YND(窒素希釈が最大レベルのとき収率 )にある間、最 大蓄積レベルの YPA(リンが最大蓄積レベルであるとき収率)である要素、P によって、生 産は限定されるものではない。 Y) N と P の両方が作物の生産を制限する。 Z) 唯一、P が作物生産を限定し、窒素がその最大蓄積レベル YNA にある間、その最大 希釈レベル YPD にいる。 栄養素の各ペアのための 2 つの収率の推定は、例えば、P の摂取による収穫範囲に依存し た実際の窒素の吸収、N の摂取による収穫範囲に依存した実際の窒素の吸収などで、計算さ れる。 これは、別の一つの蓄積や最大希釈を与えられた栄養の摂取に従って、6 つの組み合わせ につながる。 制限された栄養の産出がペアの栄養素の推定値、6 つの収率を平均することにより推定さ れる。(Janssen et al., 1990) この手順では、第 2 の栄養素に基づく推定が第 3 の栄養素 の収得範囲の上限を超えることができない、すなわち栄養素の濃度が最大希釈レベルよりも 低くすることができない。
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