災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー

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はじめに  阪神・淡路大震災がおこったとき、私は5歳だった。被災はした ものの、家族も全員無事で家も無事で、窓から見える炎が一体何な のか、何が起きているのか全く理解できなかった。まだ人の死が何 かもわからぬほど幼く、毎日の新聞の表紙の一面に載る被災状況も、 当時の私にとっては少々過激な絵本のようなものでしかなかった。  それから復興が進む中、私は育った。神戸の街はどんどん変わり、 元々ここになにがあったかなんて面影は微塵も感じられないものが たくさんできた。小学校では地震教育が熱心に行われた。 (おそら く日本で地震教育をまともにされた最初の世代ではないだろうか) しかし、被災当時には何の恐怖心もなかったのになぜか大きくなっ てからも、当時自分の街がどういう状況だったのかを知ろうと思え なかった。年が上がるにつれてどんどん恐ろしくなったが、知って おかないといけないともずっと思っていた。そして昨年、 自分の育っ た街について調べるきっかけがあり、はじめて当時の神戸の詳しい 状況を記録したものを読み漁った。東日本大震災についての記事を いくら読んでも絶対に起こらないような、何とも言えない胸の痛み に襲われた。それと同時に、今まで向き合うことから逃げてきたこ とを後悔した。東日本大震災が起こった後も、私は阪神・淡路大震 災から逃げるために東日本大震災からも逃げていたような気がして いた。  夢破れて直接的に人を救うことができなくなった今、全く別の分 野に来てもやはり、どうしたら自分が他人のために役に立つ人間に なれるのかという思いは消えない――建築に人は救えるのだろうか  2013 年 11 月―――日本を震撼させた大震災から 2 年半以上が 経った。震災に関する記事が一面を飾ることはもう稀である。東京 に住む我々からすればもう2年半も前のことだ。しかし実際に被災 地では応急仮設住宅に住まざるをえない人の数は一向に減らない。 復興公営住宅の造成も一向に目処が立っていない。仮設住宅で被災 者は、「いつまでここにいなきゃいけないんだろう。 」という思いと 「いつまでいられるんだろう。 」という思いの狭間で先の見えない毎 日を過ごしている。  その人たちのために、私自身は一体何ができるだろうか。 そういった思いから本研究を進めようと考えた。

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目次 第1章 序論    1-1. 用語の定義    1-2. 研究背景・目的    1-3. 本研究の位置づけ    1-4. 研究フロー 第2章 災害時被災者の心理的回復プロセス    2-1. 一般的な被災者心理の経時変化(心理的回復プロセス)    2-2. 被災者の心理回復の二極分化 第3章 復興に関する現状    3-1. 災害後被災者の生活環境の流れの現状    3-2. 被災者への金銭的援助    3-3. 災害後の住宅再建における法規的側面     3-3-1. 建築基準法による建築物の定義     3-3-2. 不動産登記法による建築物の定義    3-4. 日本における「仮設」の歴史 第4章 応急仮設住宅に関する現状    4-1. 応急仮設住宅の供給システム    4-2. 応急仮設住宅整備に関する費用    4-3. 応急仮設住宅の国内における建設状況及び海外に                         おける再利用    4-4. みなし仮設住宅について 第5章 調査概要    5-1. 調査対象値の選定     5-1-1. 津波被害による市町村の決定     5-1-2. 仮設団地の決定    5-2. 調査方法     5-2-1. 仮設大橋団地入居者に対する調査     5-2-2. 自力再建者および住宅に津波被害のなかった人に                          対する調査

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第6章 心理的回復プロセスによる分類    6-1. 心理的回復プロセスの時間軸による書き換え    6-2. 心理的回復プロセス曲線のタームによる分類     6-2-1. Ⅰ期についての分類・分析     6-2-2. Ⅱ期についての分類・分析     6-2-3. Ⅲ期についての分類・分析    6-3. 心理的回復プロセス曲線による分類 第7章 ストレス・指数グラフ・空間改造欲求による分析    7-1. 分析方法     7-1-1. ストレスの分析方法     7-1-2. 指数の分析方法    7-2. 空間改造欲求の評価    7-3. ストレス、指数、空間改造欲求による分析     7-3-1. A E のストレスによる比較     7-3-2. A E の指数による比較     7-3-3. A E の空間改造欲求による比較    7-4. まとめ 第8章 空間改造欲求の違いによるケーススタディ    8-1. 空間改造欲求 5 と 4,3,2,1,0 の違いによる外観の比較    8-2. 空間改造欲求 5,4 と 3,2,1,0 の違いによる内観の                   空間的な事象に関する比較    8-3. 空間改造欲求 5,4,3 と 2,1,0 の違いによる内観の                   物質的な事象に関する比較    8-4. 空間改造欲求 5,4,3 と 2,1,0 の違いによる風除室の                          様子の比較 第9章 早期に恒久住宅を確保できた人の心理的回復    9-1. 早期に恒久住宅を確保できた人の心理的回復プロセス    9-2. 自力再建の事例    9-3. まとめ 第 10 章 総括    10-1. 結論    10-2. 展望 謝辞

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001 第1章 序論

第1章

序論

1-1. 用語の定義 1-2. 研究背景・目的 1-3. 本研究の位置づけ 1-4. 研究フロー

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002 第1章 序論

1-1. 用語の定義 ・恒久住宅

恒久的な住宅。ここでは復興住宅を恒久的な住 宅とはとらえない。現在、阪神淡路大震災の借 り上げ復興住宅の期限が迫り、多くの住民が次 の住処を探さなければならない状況となってい る。この状況が、阪神淡路大震災も未だ震災が 終わっていないということを如実に物語る事実 である。東日本大震災でも災害公営住宅入居か ら 3 年を目安に家賃が上がり、10 年後には通 常の家賃となる予定であり、公営住宅に住み続 けられなくなる人が多く出ることは必至である ためである。

・空間改造欲求

被災者が自宅に帰れず応急仮設住宅等で生活す る中で、その新たな生活空間を自分自身が生活 しやすいように改造したいと思う欲求。

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003 第1章 序論

1-2. 研究背景・目的    阪神・淡路大震災以降、日本における災害は増加傾向にある。災 害の起こるたびに、多くの被災者が生活再建を余儀なくされる。し かし、その過程は阪神・淡路大震災から 20 年近くが経とうとする 今もほとんど変わらず、被災者の多くは「避難所→応急仮設住宅→ 復興住宅→恒久住宅」という過程を辿らねばならない。多くの被災 者はこの過程の中で、4 度コミュニティを再編しなければならない。 住む場所を変え、コミュニティを再編するというのは、何よりも大 きな負担となるという被災者の声が多く聞かれる。それ故に、被災 者の一番の心の安定、復興に繋げるために何よりも早い恒久住宅の 確保が必要とされる。  本研究は、実際にその過程にいて、仮設住宅内で生活する個々人 の空間変遷を生活者の心理変化とともに追い、空間改造欲求と心理 変化の関係を明らかにすることで、現在被災者が通らざるを得ない 応急仮設住宅というプロセスにおいて必要な空間特性を明らかにす ることを目的とする。また、本研究が応急仮設住宅というシステム 自体を見直し、被災者のより早い恒久住宅確保並びに心の復興を叶 える一助となることを期待する。

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004 第1章 序論

1-3. 本研究の位置づけ  既往研究では災害時の住宅事情において仮設住宅における周辺環 境とストレス・PTSD の関係性や、災害後のストレスと病気の関係 性についてはなされているが、心理的な回復と被災者が応急仮設住 宅に住まいながらどのように被災者が生活環境を自身の手で工夫し ているかということの関係性については語られてこなかった。 そこで、本研究では心理的回復プロセス、ストレス指標、博報堂の 提供する生活インデックスレポート(生活価値観編)の 3 つの指 標から心理的な回復を判断し、それと応急仮設住宅居住者が仮設空 間をいかに暮らしやすいものに工夫しているかということの関係性 について追究する。

表 1-1 本研究の位置づけ

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005 第1章 序論

既往論文

①災害後の都市的視点からの復興モデルについて 樋口大介、北語明彦「大規模地震災害後の住宅復興システムに関する研究」『日本建築学会近畿支部研 究報告集』[2005]

②復興住宅の状況とコミュニティ 塩崎賢明、田中正人、目黒悦子、堀田祐三子「災害復興公営住宅入居世帯における居住空間特性の変化 と社会的『孤立化』―阪神・淡路大震災の事例を通して―」『日本建築学会計画系論文集』[2007]

③住宅移転とストレスの関連性 薗頭紗織、越山健治、北後明彦、室崎益輝「住宅環境の変化が災害後のストレス状態に及ぼす影響」『日 本建築学会大会学術講演梗概集 』1999.9

④災害後の外部環境とストレスの関連性 大村奈緒、室崎益輝、越山健治「災害ストレスと生活環境との関わりに関する研究ー阪神・淡路大震災 における応急仮設住宅居住者を例としてー」『日本建築学会近畿支部研究報告集』1996

⑤災害後の住宅再建について 山沢晴康、室崎益輝、大西一嘉「災害時における住宅再建過程に関する研究」『日本建築学会近畿支部 研究報告集』[1995]

⑥仮設住宅に関する不満と健康への影響 山沢晴康、室崎益輝、大西一嘉、成尾優子「大災害時の応急仮設住宅供給に関する研究」『日本建築学 会近畿支部研究報告集』[1994]

⑦住宅再建の在り方について 谷山暢秀、薗頭紗織、室崎益輝「阪神・淡路大震災後の住まい・くらしの再建の実態 その1調査の目 的と住宅再建の問題点」『日本建築学会大会梗概集』[2001]

⑧震災後8年の住宅再建の進度とコミュニティの問題 室崎益輝、北後明彦、樋口大介、越山健治「阪神・淡路大震災後の被災住宅再建過程と被災 8 年後の 再建住宅の実態」

⑨震災後の住宅再建について 室崎益輝、流郷博史「阪神・淡路大震災における住宅自力再建の現状」

⑩自力仮設のその後について 塩崎賢明、堀田祐三子、細川敦史「震災後 10 年間の自力仮設住宅の継続・消滅状況」『日本建築学会 計画系論文集』[2006]

⑪災害後の環境の健康面への影響 池田清子、山本靖子ら「復興住宅における恒例住民の健康と生活」『神戸市看護大学短期大学部紀要』 [2001]

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006 第1章 序論

1-4. 研究フロー    以下に本研究の流れを示す。

なぜ被災者の恒久的な住宅の確保に 時間がかかるのか 復興に関する現状 被災者の心理的 回復プロセス

すでに恒久住宅を確保した 人の心理的回復

仮設住宅の現状

応急仮設住宅居住者に対する心理的回復と 空間利用に関するアンケート、ヒアリング

心理的回復プロセス による分類 ストレスによる分析

指数による分析

空間改造欲求 による分析

空間改造欲求による ケーススタディ 仮設住宅における居住者の空間 改造欲求と心理的回復の関係

今後災害時における早期恒久住宅確保へ向けた展望

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007 第2章 災害時被災者の心理的回復プロセス

第2章

災害時被災者の心理的回復プロセス

2-1. 一般的な被災者心理の経時変化           (心理的回復プロセス) 2-2. 被災者の心理回復の二極分化

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008 第2章 災害時被災者の心理的回復プロセス

2-1. 一般的な被災者心理の経時変化            (心理的回復プロセス)  災害後の被災者の生活復興と「心の立ち直り」の進行の速度は、 * 2-1

災害によって、人によって様々である。この度の東日本大震災にお

藤森立男・矢守克也著

いては、その被害の甚大さと広範囲に及ぶ被害であったことから、

復興と支援の災害心理学ー大

今までの災害に比べて非常に遅いと言われている。立ち直りの早さ

震災から「なに」を学ぶか

に個人差はあるが、多くの被災者がよく似た段階を経過していく。

福村出版 2012.7.10

これまでにタイハーストやラファエルなどの多くの研究者が被災者

心理の経過論について述べているが、それらは比較的似通っている。 つまり、被災者心理には定型経過とでも呼ぶものが存在する。それ らをまとめたものが、図 2-1 のグラフである。* 2-1

積極的・発揚的

ハネムーン期

時間 経過

時間

回復期 幻滅期 茫然自失期

消極的・抑鬱的

図 2-1. 一般的な災害被災者の心理的回復プロセス

被 災 者

取り残され

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009 第2章 災害時被災者の心理的回復プロセス

災害発生直後には被災者は、何が起こったのかただちに理解でき * 2-2

ず、災害の全貌が把握できずに対処行動をとれない時期が、数時間

ラファエル ,B・石丸正(訳)

から 2 3 日続く。これが「茫然自失期」である。

Individual reaction to

やがて、被災者たちは互いにいたわり合い、連携して災害後の状況

community disaster : The

に対処しようとする機運が起こる。それが「ハネムーン期」である。

natural history of psychiatric

多くの愛他的行動が生まれ、人々は一致団結して事にあたり、ほと

phenomena. Am. J. Psychiat.

んど災害後の困難な生活状況に適応したかに見える。しかし、被災

107:764-769 Tyhurst,J.S 1950

者のみならず救援者たちも他人を思いやる一方で、自分自身の疲労

災害の襲うときーカタストロ フィーの精神医学  みすず書房 1989

感については自覚できていない場合が多い。ハネムーン期の後、多 くの被災者には「幻滅期」がやってくる。これは被災者がハネムー ン期では感じる余裕のなかった疲れを感じ始め、また生活再建の見 通しが立たない不安から抑鬱的な気持ちになる時期である。幻滅期 の後、被災から数年後に「再建期」が訪れる。これは生活再建が進 行するとともに心理的に被災前の状態に近づいている過程である。  阪神淡路大震災でも東日本大震災でも、顕著なハネムーン期が多 く観察された。それは日本人の優しさと思いやりの強さを示すもの として、誇ってよいように思われる。その一方で、長いハネムーン 期は、それに続く「幻滅期」の遷延化の一要因となりかねない。 「新 聞の一面が、その災害の報道」でなくなる頃* 2-2 に、それは始まる。 災害後の長引く不自由な生活の中で、倦怠感と無気力感が被災者の 中に蔓延する。  この3つの画期―茫然自失期、ハネムーン期、幻滅期―の後に、 「回 復期」が来るが、そこにいう回復とは結果としての「回復」であっ て、過程としてのそれではない。被災者の生活ないし心の回復、復 興再建は、幻滅期の中でこそ進行しているとされている。

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010 第2章 災害時被災者の心理的回復プロセス

2-2. 被災者の心理回復の二極分化    人の身体にも「心」にも、回復力というものがある。トラウマ体 験のインパクトは、時間が経つにつれてそれなりに漸減していくも のである。 ところが、大規模自然災害の場合、災害発生後長期にわたって仮設 住宅等で生活ストレスの高い生活を余儀なくされるような場合に、 時間が経てば経つほどストレスの重畳による無力感の憎悪がみられ ることがある。このことは、災害時要援護者(災害弱者)でより顕 著である。* 2-3 阪神淡路大震災後、最大で 4 万 7000 世帯を超えた仮設住宅入居者 は、ちょうど約 2 年で半減した。経済的な余力のある世帯や、勤 務先がマンションを借り上げてくれるなどして仮設住宅よりアメニ

ーン期

時間 週

回復期 幻滅期

ティーのよい住居に住めることになった人たちは、仮設住宅入居後 比較的早期に退去していったからである。  このように大規模自然災害の場合、時間が経つほどに被災者の生 活復興の格差が増大していく。いわゆる「はさみ状格差」である。 資金面で余裕のある人ほど早期に生活再建していく。しかし、資金 力のない人ほど生活再建は難しく、さらに個人を取り巻く状況から 心理的な回復が非常に難しくなるケースが多々ある。災害からずっ と先に向けて求められるのは、やはり孤立無援感の軽減解消であり、 そのためには個々の生活再建を手助けする何かが必要である。

* 2-3 藤森立男・矢守克也著

生活再建、精神的立ち直り

復興と支援の災害心理学ー大 震災から「なに」を学ぶか  福村出版 2012.7.10

被 災 者

取り残され感

PTSD 孤立無援感

うつ アルコール問題 ひきこもり

t

図 2-2. 被災者の心理回復の二極分化

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011 第3章 復興に関する現状

第3章

復興に関する現状

3-1. 災害後被災者の生活環境の流れの現状 3-2. 被災者への金銭的援助 3-3. 災害後の住宅再建における法規的側面  3-3-1. 建築基準法による建築物の定義  3-3-2. 不動産登記法による建築物の定義 3-4. 日本における「仮設」の歴史

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012 第3章 復興に関する現状

3-1. 災害後被災者の生活環境の流れの現状  被災後の恒久的な住宅確保までの変遷は、以下のイメージ図で表 される。

* 3-1 応急仮設住宅建設必携中間 とりまとめ 平 成 24 年 5 月 国 土 交 通 省 住 宅 局 生 産 課 <http://www.mlit.go.jp/ common/000211741.pdf > 10 月 23 日閲覧

図 3-1 恒久的な住宅確保までの流れ* 3-1

本論文では、この流れの中で恒久的な住宅を確保するまでに多大 な時間を要することになる応急仮設住宅居住者の心理的回復プロセ スと居住空間に焦点をあてる。  阪神淡路大震災で神戸市が借り上げた借り上げ復興住宅が 2015 2023 年に返還期限を迎える。それにより、多くの住民がそ こに住み続けられなくなるという問題が現在明らかになっている。 一方で、今回の東日本大震災における災害公営住宅では入居開始3 年を目安に徐々に家賃を上げていき、11 年目からは本来の家賃に なるという方策がとられている。しかし、そもそもの災害公営住宅 の家賃が収入に対して高すぎるために災害公営住宅に入ることがで きないというひとの声も上がっており、そういった人々にとっては 災害公営住宅でさえも「仮の住まい」でしかないという実情がある。

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013 第3章 復興に関する現状

3-2. 被災者への金銭的援助  内閣府は当面の生活資金や生活再建の資金が必要な人への支援と して、 ・被災者生活再建支援制度 ・災害援護資金 ・生活福祉資金制度による貸付 ・母子寡婦福祉資金貸付金 ・厚生年金等担保貸付、労災年金担保貸付 ・恩給担保貸付 を定めている。 それぞれの給付金は以下の通りである。

被災者支援に関する各種制度 の概要(東日本大震災編) 内閣府(平成 24 年 6 月 30 日)

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014 第3章 復興に関する現状

被災者支援に関する各種制度 の概要(東日本大震災編) 内閣府(平成 24 年 6 月 30 日)

また、住まいの被害状況に応じて全壊、大規模半壊、半壊等危害程 度を証明するものとして「罹災証明書」が発行される。 罹災証明書が発行され、住宅金融支援機構の定める基準を満たすと、 住まいの建替え、補修、民間賃貸住宅への移転、公共賃貸住宅への 移転、宅地の補修などそれぞれの項目ごとに融資が受けられる。 住宅金融支援機構の基準及び支援制度は以下の通りである。

さらに、今回の津波被害を受け、市町村ごとに住宅再建の際する盛 り土や引越の際の補助金を定めている。しかし、どの制度も後手後 手で作ったものであるので、本来なら受け取れるべき金額が受け取 れなかったり、着工後に支援制度ができたりするなど、被災者から の不満が相次いでいる。

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015 第3章 復興に関する現状

3-3. 災害後の住宅再建における法規的側面    戦前戦後であれば、被災したその翌日から住宅再建が始まりバ ラックが建ち並んだが、現在は応急仮設住宅を供給されるまで避難 所で過ごしたり親戚の家に身を寄せたりして自ら家を作り上げてそ こに住むという現象はほとんど見られなくなった。その一因である 建築基準法および不動産登記法による建築物の定義を見てみる。

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016 第3章 復興に関する現状

3-3-1. 建築基準法による建築物の定義 * 3-1 建築雑誌 2012 年 7 月号

建築基準法第 2 条 第 1 項によると、  建築物 土地に定着する工作物のうち、屋根及び柱若しくは壁を有するもの (これに類する構造のものを含む) 、これに付属する門若しくは塀、 観覧のための工作物又は地下若しくは高架の工作物内に設ける事 務所、店舗、興行場、倉庫その他これらに類する施設(鉄道及び 軌道の線路敷地内の運転保安に関する施設並びに跨線橋、プラット フォームの上屋、貯蔵層その他これらに類する施設を除く)をいい、 建築設備を含むものとする。 と定義されている。* 3-1

ここで定義される「建築物」を搔い潜る非建築物として、 1. 定着の弱さ 2. 構造の簡易さ 3. 仮設(時間的限定) がある。

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017 第3章 復興に関する現状

1. 定着の弱さ □通達レベルで建築物とされる工作物   ・コンテナを利用した倉庫   ・繋留された船   ・一定条件下の車両(キャンピングカー、トレーラーハウス等)   ・一定条件下の独立した自走式自動車車庫や機械式自動車車庫   ・一定条件下の建築物と一体的な広告塔 □非定着 非・建築物ー通達レベルで建築物とされない工作物   ・農業用温室(ビニールハウス)   ・一定条件下の海水浴場の店・休憩所(海の家)   ・一定条件下の点と建築物(キャンピングカー、トレーラーハ ウス等)

2. 構造の簡易さ □簡易な構造の建築物に対する制限の緩和(第 84 条の 2)   ・壁を有しない自動車車庫   ・屋根を帆布としたスポーツの練習場   ・その他の政令で指定する簡易な構造の建築物又は建築物の部 分で、政令で定める基準に的期するもの

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018 第3章 復興に関する現状

3. 仮設(時間的限定) □仮設建築物に対する制限の緩和(第 85 条)   第1項 非常災害があった場合において、その発生した区域又 はこれに隣接する区域で特定行政庁が指定するものの内において は、災害により破損した建築物の応急の修繕又は次の各号のいずれ かに該当する応急仮設建築物の建築で、その災害が発生した日から 1ヶ月以内にその工事に着手するものについては、建築基準法令の 規定には適用しない。ただし、防火地域内に建築する場合について はこの限りではない。 一、国、地方公共団体又は日本赤十字社が災害救助のために建築す るもの 二、被災者が自ら使用するために建築するもので延べ面積が 30 ㎡ 以内のもの   第5項 特定行政庁は、仮設興行場、博覧会建築物、仮設店舗 その他これらに類する仮設建築物について安全上、防火上及び衛生 上支障がないと認める場合においては、1年以内の期間(建築物の 工事を施工するためその工事期間中当該従前の建築物については、 特定行政庁が当該工事の施工場必要と認める期間)を定めてその建 築を許可することができる。この場合においては、第 12 条第 1 か ら 4 項まで、第 21 から第 27 条まで、第 31 条、第 34 条第 2 項、 第 35 条の 2 及び第 35 条の 3 の規定並びに第 3 章の規定は適用し ない。 仮設住宅に付いては建築後 3 ヶ月で状況を確認し、許可されれば さらに2年間存続できるという仕組みだが、今回は特別立法でさら に延長できるようにしている。 トレーラーハウス等の事例は、一団の土地として区画できない道路 上にあるため可動であり「建築物」でないが、一団地の土地に長期 間停留し、定着する段階で「建築物」となる。 船舶の類も同様で、海上であれ、岸壁などに固定され、展示された り、ホテルや喫茶店などの用途に使用されると「建築物」として扱 われる。

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019 第3章 復興に関する現状

3-3-2. 不動産登記法によると、

* 3-2 建築雑誌 2012 年 7 月号

不動産登記規則(第 111 条) 建物は、屋根及び周壁又はこれに類するものを有し、土地に定着し た建造物であって、その目的とする用途に供し得る状態にあるもの でなければならない。 不動産登記事務取扱手続き準則(第 77 条)建物認定の基準 建物の認定に当たっては、次の例示から類似し、その利用状況等を 勘定して判定するものとする 第 1 項 建物として取り扱うもの ⅰ停車場の乗降場又は荷物積卸場。ただし、上屋を有する部分に限 る。 ⅱ野球場又は競馬場の観覧席。ただし屋根を有する部分に限る。 ⅲガード下を利用して築造した店舗、倉庫等の建造物 ⅳ地下停車場、地下駐車場又は地下街の建造物 ⅴ園芸又は農耕用の温床施設 ただし、半永久的な建造物と認められるものに限る。 と定義されている。*3-2 ここで定義される「建物」を搔い潜る 非・建物として、 第 2 項 建物として取り扱わないもの ⅰガスタンク、石油タンク又は給水タンク ⅱ機械上に建設した建造物。ただし、地上に基脚を有し、又は支柱 を施したものを除く。 ⅲ浮船を利用したもの。ただし固定しているものを除く。 ⅳアーケード付街路(講習用道路上に屋根覆いを施した部分) ⅴ容易に運搬することができる切符売場又は入場券売場等 がある。

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020 第3章 復興に関する現状

3-4. 日本における「仮設」の歴史  日本初の総合的な建築法制度は 1920 年施行の市街地建築物法で ある。この法律制定後初の大規模災害は関東大震災であった。しか し当時を物語る資料に「自分の家を自分の金で造るのに、手続きな ぞいるものかという思想の持主が多くて、 (同法に基づく)届出の 義務なぞ知っている人はほとんどなく、従って家が落成すれば勝手 に、検査をまたないで、住み込んでいた」(*1) とある。当時は新築 家屋がなんらかの原因で近隣に迷惑をかける可能性があった場合に も、それは近隣同士で解決すべき問題であり、公的機関が関与する 問題ではないと認識されていたものと考えられる。 *1 石井桂「建築のお巡りさん」 これは、当時の憲法が法律の定める範囲でしか生存権を保障して  建設綜合資料社 1961 p.156-157    函館市復興状況 [ 三 ] 大石森太 郎『静岡新報』1940 年 9 月 3 日

いなかったことに帰せられる。法律が定めていないならば、自分の 主張したい権利を自分で確保するしかないという思想の時代であっ

た。したがって、当然のように関東大震災の焼け跡にはバラックと

建 築 雑 誌 2012 年 7 月 号 『 現 地

呼ばれる仮設建築物が横行した。

仮設の位置づけの変遷』P.16-17

それらバラックには市や富豪等が臨時震災救護事務局の枠組みの 中で建てた公認のバラックと、個々人が建てた私設バラックがあっ た。しかしそのいずれも、居住性、構造強度、防火性、衛生等の面 で問題視された代物であった。なぜならそれらの仮設建築物には市 街地建築物法の大部分を適用しない措置がとられたためである。そ のため、夏は暑く冬は寒く、素人のセルフビルド住宅が突然倒壊し、 住民が圧死するなどの問題も起こっていた。こうした問題に対して、 短期的にはバラックの改善が、長期的には適法な建築物への建て替 えがそれぞれ指向された。  しかし、「適法な建築物への建て替え」には時間を要した。なぜ なら建築制限が始まったのが震災から半年後で、その内容も区画整 理地区内での建築の可否を地方長官が許可判断するという曖昧なも のであり、1925 年 1 月に示された仮設建築物の具体的な許可基準 (復興局、本建築以外ノ工作物築造願処理方針)も、 「2 階建て以下、建築面積 50 坪以下、または坪単価 120 円未満」 と、今日に比べれば大規模なものを許容しており、さらに着工が換 地先へ仮設建築物を曳家した後にまで認められ、撤去の期限もたび たび延長されたからである。

災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー


021 第3章 復興に関する現状

人々は震災から間もないころに焼け跡の瓦礫を組み合わせて建て た仮小屋を、屋階をのせた「2 階建て」へと建て替え、それが依然 として「仮設建築物」であると強弁したという。(もっとも、これ らの仮設建築物の多くは実態上、当時の適法な建築物と同等の性能 を有していたという)  20 数万棟の建物が失われた状況下で仮設建築物を全面的に容認 したことは、被災者の生活を早期に安定させた点で評価できるが、 先述のような問題がある。また、帝都復興区整理の事業費や手間、 時間もかさんだ。後の函館大火 (1934.3) では仮設建築物をなるべ く建てさせない目的で着工期限を 7 ヶ月と関東大震災よりも短く 設定したが、規模や構造の規定が不明確であったため 2 階屋が立 ち並び、撤去期限がなかったことも影響して関東大震災と同じ轍を *1 石井桂「建築のお巡りさん」踏むこととなった。その後空襲対策が国策として意識されるように  建設綜合資料社 1961 p.156-157    函館市復興状況 [ 三 ] 大石森太 郎『静岡新報』1940 年 9 月 3 日

なったころ、静岡大火 (1940.1) が発生した。被災 4 日後には、被 災地において認可する仮設建築物を 10 坪 (33 ㎡ ) 以下(撤去期限

なし)と定めた。それにより、応急的なものが空き地なしに立ち並

建 築 雑 誌 2012 年 7 月 号 『 現 地

ぶような状況は回避できたものの、復興が非常に遅れた。

仮設の位置づけの変遷』P.16-17

終戦後1年間は、建築資材こそ入手困難であったが、建築行為自 体への法的な縛りはなかった。終戦によって国策は反古となり、 「仮 設建設物はなるべく建てさせない、建てさせる場合には最小限のも のに限る」という方針も影を潜め、多くのバラックが立ち並んだ。 被災面積が小規模だった函館や静岡と異なり、戦災による消失面積 は震災の 18 倍で、これに幅員や引揚が重なり膨大な数の住宅が不 足したためである。  1946 年 8 月に交付された勅令第 389 号も、内閣の認可した都 市計画事業による都市施設や区画整理の区域において仮設建築物以 外の建築を禁止していながら、その仮設建築物を 「2 階建て(屋階を含む) 、建築面積 100 ㎡以下、建ぺい率は商業 地域内で 50%、商業地域外で 30% 以下」 と緩やかに規定した。 「屋階を含む」と明記したとはいえ、撤去期 限がなかったことも加わって、戦災復興事業の出鼻は挫かれた。 1950 年に公布された建築基準法により、被災地における建築制限 (最長 2 ヶ月の建築制限・禁止)や仮設建築物の規模(自己使用で 30 ㎡までのもの) ・撤去期限(3 ヶ月、最長 2 年)が定まった。 こうして「仮設」という言葉がほぼ応急仮設住宅を指すものとして 定着した。

災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー


022 第4章 応急仮設住宅に関する現状

第4章

応急仮設住宅に関する現状

4-1. 応急仮設住宅の供給システム 4-2. 応急仮設住宅整備に関する費用 4-3. 応急仮設住宅の国内における建設状況          及び海外における再利用 4-4. みなし仮設住宅について

災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー


023 第4章 応急仮設住宅に関する現状

4-1. 応急仮設住宅の供給システム  災害救助法(昭和 22 年 法律第 118 号)第 23 条第 1 項では、 「収 容施設(応急仮設住宅を含む)の給与」を規定しており、災害救助 法は都道府県が市区町村を対象として適用されている。また、 「災 害救助法による救助の程度、 方法及び期間並びに実費弁償の基準(災 害救助基準) 平成 12 年 3 月 31 日厚生省告示」 (毎年 4 月改正) によっ て 1 戸当たりの面積は平均 29.7 ㎡(9 坪相当)を基準として建設 のための限度額が定められている。着工は災害の発生の日から 20 日以内とされており、供与期間は完成の日から 2 年以内と規定さ プ レ ハ ブ 建 築 協 会 HP 災 害 対 策のための体制< http://www. purekyo.or.jp/measures/index. html >  宮 城 県 震 災 復 興 関 連 HP <

れている。 (東日本大震災では 2013 年 10 月現在、入居日から 4 年以内まで延長されており、今後も災害公営住宅等の恒久住宅の整 備や自宅再建等になお時間を要する状況を踏まえ、1年毎に延長さ

http://www.pref.miyagi.jp/

れていくと考えられる)

site/ej-earthquake/minchin-

プレハブ建築協会は、地震、風水害などの自然災害など災害時の

saienchou.html >

被災者のための応急仮設住宅の供給建設について各都道府県知事と プレ協会長との間で「災害時における応急仮設住宅の建設に関する 協定」を締結している。協会は、1975 年神奈川県に始まり、阪神 淡路大震災の発生を契機として全都道府県への締結を進め、1997 年に全都道府県との締結が完了した。  この協定は災害の発生に備え、各都道府県とプレハブ建築協会と の連携により情報の交換、建設の準備・手続き、資材部材・建設要 員の確保、調達、建設などを総合的に事前調整することによって、 応急仮設住宅の迅速な建設を推進し、被災者の住居の確保の促進を 図るものである。  災害発生時、プレハブ建築協会から被災都道府県の応急仮設住宅 担当課へ連絡が渡り、被災状況及び連絡体制、建設の可否などの確 認が行われる。  プレハブ建築協会は、災害救助法が適用された都道府県からの応 急仮設住宅の要請に基づき、プレハブ建築協会の会員企業(建設業 者)の斡旋を行う。

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024 第4章 応急仮設住宅に関する現状

4-2. 仮設住宅整備に関する費用  2013 年 4 月 1 日現在、東日本大震災により設置された応急仮 設住宅は、岩手県で 13,984 戸、宮城県で 22,095 戸、福島県で 河北新報 2012 年 10 月 5 日紙 面より     国土交通省住宅局住宅生産課

17,143 戸、茨城県で 10 戸、千葉県で 230 戸、栃木県で 20 戸、 長野県で 55 戸ある。

応急仮設住宅建設必携中間と

災害救助法により、仮設住宅本体の一般基準価格を 238 万 7000

りまとめ

円と定めており、基準を超える値段は特別基準として国費が下りる。

時事ドットコム 東日本大震災・ 仮設住宅1戸あたりの建設費 用

被災三県では、当初の見込みとして、土地造成、断熱材、水道、電気、 浄化槽、受水槽などの整備に一軒あたり岩手 530 万円、宮城 550 万円、福島 520 万円かかるとされていた。しかし、 仮設住宅のユニッ トは供給地域語との気候に適したように設計されてはいないため、 断熱材の追加、窓ガラスの二重化、トイレの暖房便座化、風除室の 建設、バリアフリーの拡充、物干し台の雨よけ、砂利の舗装などの 追加工事費用を含めると、 一軒あたり岩手 620 万円、 宮城 744 万円、 福島 630 万円かかっている。これに加えて、解体費用に一軒あた り 100 万円かかる見通しである。宮城県内における一戸あたりの 建設費の最高額は、宮城県女川町大石原地区の 1296 万円、最低額 は山元町浅生原東田地区の 385 万円であった。工事費が嵩む主な 原因としては水道、電気等のインフラ整備代となっている。

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025 第4章 応急仮設住宅に関する現状

4-3. 応急仮設住宅の国内における建設状況          及び海外における再利用  プレハブ協会が過去に斡旋した仮設住宅の供給戸数は以下の表の 通りである。

表 4-1 プレハブ建築協会による過去の仮設住宅提供戸数

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026 第4章 応急仮設住宅に関する現状

また、プレハブ建築協会によると阪神淡路大震災のときに使用し た応急仮設住宅を海外へ引き渡し再利用した例がある。その供給戸 数は以下の表の通りである。

表 4-2 プレハブ建築協会の関わった仮設住宅を再利用した戸数

プレハブ建築協会への取材によると、協会会員各社が応急仮設住宅 を供給した後どうなっているかは把握していないとのことであっ た。新潟中越地震の場合などはレンタルであった。阪神淡路大震災 の仮設住宅に関しては全て販売であった。その際、兵庫県がリース 会社から買い取ったものについては、その一部を海外へ譲渡してお り、プレハブ建築協会はそのための建設や運送方法の指導を行った という。上記の神戸のように再利用のための指導を行ったという事 例は他になかった。その理由として、他の災害は供給戸数が少ない ためと考えられる。国際機関や NGO が関わって海外で利用した事 例はいくつかあるとのことであったが、再利用によりどの程度の経 費を削減できるかということに関しては不明であった。 いずれにせよ日本においては災害毎に仮設住宅が多額の税金によっ て新設されていることに変わりはない。したがって、現状の仮設住 宅提供システムが非経済的であることが明確である。

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027 第4章 応急仮設住宅に関する現状

4-4. みなし仮設住宅について  みなし仮設住宅とは、正式名称民間賃貸住宅借上げ仮設住宅とい い、今回の東日本大震災を契機に始まった新たな仮設住宅システム である。 厚生労働省は 2011 年 4 月、各都道府県に通達した。その内容は以 下の通りである。 1.県が民間賃貸住宅を借り上げて提供した場合、災害救助法の国 庫負担の適用となる。 2.市町村が借り上げて提供した場合も、災害救助法の国庫負担の 適用となる。 3.東日本大震災以降に、被災者名義で契約された民間賃貸住宅で あっても、県又は市町村名義の契約に置き換えられた場合は、災害 救助法の国庫負担の適用となる。 4.国庫負担対象額は、以下の通り。 (1)敷金、礼金、仲介手数料等の入居にあたっての費用。 (2)月ごとの家賃、共益費及び管理費。なお、共益費及び管理費 の実費は月ごとの家賃に加算できる。 5.月ごとの家賃は、地域の実情(実勢賃貸料) 、被災者の家族構 成等により区分されると想定されている。 (参考:岩手・宮城内陸 地震の際には、月額 6 万円/ 1 戸。 ) 6.借り上げ予定期間は、2 年間。 注)県外への避難者についても同様。 当初借り上げ予定期間は 2 年とされていたが、この度2度目の更 新を迎え、2013 年 10 月現在入居日から 4 年までに延長されている。 しかし、貸主が契約を 2 年で打ち切る意向を示した物件が宮城・ 岩手両県で少なくとも計 465 戸(2013 年 3 月 11 日)に上ってい る。被災地での物件不足に伴い、より好条件で貸し出せる見通しが あることが大きな要因とみらる。今後も貸主が契約を打ち切るケー ルは増える見通しであり、受け入れ先の不足が懸念される。実際に 被災者からは今後の生活を危ぶむ声が上がっている。

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028 第5章 調査概要

第5章

調査概要

5-1. 調査対象地の選定  5-1-1. 津波被害による市町村の決定  5-1-2. 仮設団地の決定 5-2. 調査方法  5-2-1. 仮設大橋団地入居者に対する調査  5-2-2. 自力再建者および住宅に津波被害         のなかった人に対する調査

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029 第5章 調査概要

5-1. 調査対象地の選定 5-1-1. 津波被害による市町村の決定  東日本大震災では、その津波による被害の大きさが現在の住宅問 題を引き起こしている。    そこで、今後の住宅再建事情がより困難を極め、被災者の恒久的 な住宅の確保がより遅くなると推定される場所を選定する。  下図は、東日本大震災における市区町村別津波浸水域の土地利用 別面積である。

国土地理院「津波浸水範囲の 土 地 利 用 別 面 積 」『 津 波 浸 水 域の土地利用別面積(暫定値) に つ い て 』http://www.gsi.

図 5-1 平成 23 年東日本大震災 市区町村別津波浸水域の土地利用別面積

go.jp/common/000060371.pdf  2013 年 10 月 24 日閲覧

この表より、津波浸水面積は全体として石巻市が突出して広く、建 物用地の浸水被害も石巻市が最も深刻であることがわかる。

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030 第5章 調査概要

次に、図2の市区町村別の建物用地津波浸水率を見てみると、大 槌町、南三陸町、東松島市の「50% 以上」に続いて、陸前高田市、 石巻市と女川町、山元町が 40-50% と高い。 (空中写真と衛星写真 からの判読)

国土地理院「津波浸水範囲の 土 地 利 用 別 面 積 」『 津 波 浸 水 域の土地利用別面積(暫定値) に つ い て 』http://www.gsi. go.jp/common/000060371.pdf  2013 年 10 月 24 日閲覧

図 5-2 平成 23 年東日本大震災における市区町村別の建物用地津波浸水率(暫定)

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031 第5章 調査概要

以下のグラフは、建物被災区域の区分面積を表にしたものである。 これより、石巻市の「全壊(流失) 」 「全壊」 「全壊(1 階天井以上浸水) 」 の区域が、他の市町村に比べ突出して多いことがわかる。

国土地理院『東日本大震災に よ る 被 災 現 況 調 査 結 果( 第 1次報告)関連資料につい て

』https://www.mlit.go.jp/

common/000162533.pdf  2013 年 10 月 24 日閲覧

A 区域:建造物の多くが「全壊(流失)」、 「全壊」、    「全壊(1 階以上浸水)」の区域 B 区域:建造物の多くが「大規模半壊」、「半壊    (床上浸水)」の区域 C 区域:建造物の多くが「一部損壊(床下浸水)」    の区域又は大規模な農地や緑地 D 区域:浸水区域内であるが、建造物の多くが    宅地条件(地盤が高い)等により「被災    なし」の区域

図 5-3 建物被災区域の区分面積

以上のデータから、石巻市が他市町村に比べ、市全体として今後 住宅再建事情が困難を極めるものと判断し、調査対象地を石巻市と する。

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032 第5章 調査概要

5-1-2. 仮設団地の決定  石巻の仮設住宅は主に蛇田地区、大橋地区、開成地区、渡波地区 に区分される。以下の表が、上記 4 地区ごとの入居戸数、入居人 数等の表である。

表 5-1 石巻市応急仮設住宅一覧

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033 第5章 調査概要

前頁の表より、同条件下の調査対象となる母体数が多い仮設団地 は、仮設開成団地かもしくは仮設大橋団地である。  次に、土地の利便性を考える。本研究では応急仮設住宅内の生活 空間と心理回復の関係性に着目しているため、立地的な住み心地の 悪さを調査対象者の考えに入らないことが望ましい。 よって、下図(JR 以北の買い物スポットをプロットしたものである) からわかるように、生活する上でより利便性のよい仮設大橋団地を 調査対象団地とする。

図 5-4 仮設開成団地および仮設大橋団地周辺の買い物スポット(JR 線路以北)

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034 第5章 調査概要

5-2. 調査方法 5-2-1. 仮設大橋団地入居者に対する調査 □調査日時  2013 年 9 月 28 日∼ 10 月 8 日 □調査対象者  仮設大橋団地に入居中の任意で協力を得られた方 25 軒 29 人 □調査に使用したもの  アンケート用紙  クリップボード  ボールペン  SONY IC RECORDER ICD-UX71 □調査手順   仮設大橋団地にて応急仮設住宅入居者の仮設入居当時から現在 に至るまでの家具の増減とその配置や、棚の取り付けやガレージ の増設等、生活空間に特に変化があった時期毎にスケッチした。 それと同じ時系列でストレス及び生活価値観に関するアンケート を行った。  また、一般的に言われている心理的回復プロセスの曲線を被験 者に説明し、被験者本人の被災当時からの心理変化に合致するか を確認し、同時系列でプロットしていただいた。合致しない場合 には被験者自身の心理曲線を書いていただき、その曲線に同時系 列でプロットしていただいた。さらに、現在の部屋内部の家具や 荷物等の配置をスケッチし、許可が下りれば写真としても記録し た。

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035 第5章 調査概要

□調査内容  まずはじめに、調査対象者の任意協力のもと家にあげていただき、 基本情報となるアンケート用紙図 5-5 への記入をお願いした。次に、 室内の家具家電、棚の取り付けや増設箇所、積み上がった荷物等の 配置を図 5-6 の紙にスケッチしながら、この家具はいつ頃増えたの か、買ったのか前の家から持ってきたのか、この棚はいつ取り付け たのか等を一つ一つ聞いていった。入居当時は日本赤十字社から提 供された家電6点セット(冷蔵庫、洗濯機、テレビ、電子レンジ、 炊飯器、給湯ポット)と供給された小さな机だけであることが多い。 さらに、一般的な被災者の辿る心理的回復プロセスについて説明し、 調査対象者自身の被災後からの心理変化がそれに合っているかどう かを確認し、合っている場合には調査時(2013 年 10 月)には心 理的回復プロセスの曲線で言えばどこに位置しているかをプロット していただいた。合っていない場合には調査対象者自身の思う心理 変化の曲線を書いていただき、同様に調査時にはどこに位置してい たかをプロットしていただいた。また、調査当時のストレスを5段 階で評価していただき、自立意欲指数、家族の絆指数、世作り指数、 にごり度を次頁のように規定して、100 点満点で評価していただい た。  ストレスに関する質問項目は次頁の 15 項目であり、すべてはネ ガティブな内容となっている。評価方法は1∼5の5段階で、スト レス度合が高いほど、高い点数を記録する。  一方、指数に関する規定は次頁のとおりであり、にごり度以外は ポジティブな気持ちであるほど高い点数を記録する。

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036 第5章 調査概要

ストレスに関する質問(5段階評価)  ・疲れたように感じる  ・落ち着かない気分になる  ・よく眠れない  ・気分が鬱陶しく頭が重い  ・思い出したくない時も頭に入ってくる  ・怒りっぽい  ・食欲不振  ・夢見が悪い  ・壊れた家の近くに行くのが怖い  ・心から笑えない  ・楽しみや気晴らしが無い  ・人と話したくない  ・物欲が無い  ・住み心地が悪い  ・他人の気持ちを考える余裕が無い 指数に関する質問  ・自立意欲 ( 精神的、物質的、経済的に家族や友人などに依存す   ることなく、自分の力や判断で行動したいという気持 ち ) が   最高に高まった状態を 100 点とすると、あなたのこれからの   自立意欲は何点ぐらいだと思いますか。  ・家族の絆意欲 ( 家族との時間を大切にしたい、家族で一緒に過   ごしたい、家族で何かを行いたいなどの気持ち ) が最 高に強   まった状態を 100 点とすると、あなたのこれからの家族の絆   意欲は何点ぐらいだと思いますか。  ・世づくり意欲 ( 世の中の役に立ちたい、仲間と一緒に地域の    ために行動したい、という気持ち ) が最高に高まった状態 を   100 点とすると、あなたのこれからの世づくり意欲は何点ぐら   いですか。  ・にごり度:あなたの暮らしが嫌なことや煩わしいことで、最高   ににごりきった状態を 100 点とすると、あなたのこの 1 カ月   の生活のにごり具合は何点ぐらいでしたか。 (博報堂生活インデックスレポート生活価値観編より)

災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー


幻滅期

時間

災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー

[自立意欲指数] (   )点  [家族の絆指数] (   )点 [世づくり意欲指数] (   )点 [にごり度] (   )点

図 5-5 震災後の経時的な心理変化に関するアンケート用紙

[自立意欲指数] (   )点  [家族の絆指数] (   )点 [世づくり意欲指数] (   )点 [にごり度] (   )点

5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1

時間

[自立意欲指数] (   )点  [家族の絆指数] (   )点 [世づくり意欲指数] (   )点 [にごり度] (   )点

□空間を変えることによる気持ちの変化 (                   )

5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1

時間

□疲れたように感じる            □落ち着かない気分になる         □よく眠れない □気分がうっとうしく頭が重い □思い出したくないときも頭に入ってくる □怒りっぽい □食欲不振 □夢見が悪い □壊れた家の近くに行くのが怖い □心から笑えない □楽しみや気晴らしがない □人と話したくない □物欲がない □住み心地が悪い □他人の気持ちを考える余裕がない □気持ちに変化をもたらすような出来事

当時の状態を5段階でお聞かせください

[ にごり度 ] あなたの暮らしが嫌なことや煩わしいことで、最高ににごりきった状態を100点としたときの、生 活のにごり 具合は何点ぐらいでしたか。その理由をお答えください。

[ 世づくり意欲指数 ] 世づくり意欲(世の中の役に立ちたい、仲間と一緒に地域のために行動したい、 という気持ち)が 最高に高まった状態を 100点とすると、 あなたの世づくり意欲は何点ぐらいですか。

□疲れたように感じる            □落ち着かない気分になる         □よく眠れない □気分がうっとうしく頭が重い □思い出したくないときも頭に入ってくる □怒りっぽい □食欲不振 □夢見が悪い □壊れた家の近くに行くのが怖い □心から笑えない □楽しみや気晴らしがない □人と話したくない □物欲がない □住み心地が悪い □他人の気持ちを考える余裕がない □気持ちに変化をもたらすような出来事 (                   ) □空間を変えることによる気持ちの変化 (                   )

5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1

数年

再建期

恒久住宅

□疲れたように感じる            □落ち着かない気分になる         □よく眠れない □気分がうっとうしく頭が重い □思い出したくないときも頭に入ってくる □怒りっぽい □食欲不振 □夢見が悪い □壊れた家の近くに行くのが怖い □心から笑えない □楽しみや気晴らしがない □人と話したくない □物欲がない □住み心地が悪い □他人の気持ちを考える余裕がない □気持ちに変化をもたらすような出来事 (                   ) □空間を変えることによる気持ちの変化 (                   )

時間

2ヶ月∼1、2年

2年∼20年(阪神大震災)

復興住宅

当時の状態を5段階でお聞かせください

ハネムーン期

1週間∼6ヶ月

被災直後

1ヶ月∼2年(阪神大震災)

被災直後∼6ヶ月

茫然自失期

仮設住宅

避難所

[ 家族の絆指数 ] 家族の絆意欲(家族との時間を大切にしたい、家族で一緒に過ごしたい、家族で何かを行いた いなどの気持ち)が最高に 強まった状態を100点とすると、 あなたのこれからの家族の絆意欲は 何点ぐらいだと思いますか。

現在の状態を5段階でお聞かせください

落 ち 込 み

頑 張 り

一般的な災害被災者の心理的変化の回復プロセス

[ 自立意欲指数 ] 自立意欲(精神的、物質的、経済的に家族や友人などに依存することなく、 自分の力や判断で行 動したいという気持ち) が最高に高まった状態を100点としたときの、 あなたの自立意欲は何点 でしたか

第5章 調査概要

037


038 図 5-6 仮設住宅入居後の空間利用過程記入用紙

第5章 調査概要

災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー


039 第5章 調査概要

5-2-2. 自力再建者および住宅に津波被害が無かった人に対する調査 □調査日時  2013 年 9 月 28 日∼ 10 月 8 日 □調査対象者  東日本大震災において自宅が被害を受け、既に自力再建した人、  及び自宅に津波被害が無かった人 □調査に使用したもの  アンケート用紙  クリップボード  ボールペン  SONY IC RECORDER ICD-UX71 □調査手順      既に自力再建した人 6 人と自宅被害のなかった人2人に対し て心理的回復プロセスの曲線について説明し、自身の心理回復プ ロセスを書いていただいた。また、それに伴い被災後から自宅再 建を含めた現在までのヒアリング調査を行った。

災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー


040 第5章 調査概要

□仮設大橋団地基本情報 ・入居時すでにクーラー、ガスコンロ、ミニテーブル、日本赤十字  社から無償提供された家電6点セット(冷蔵庫、洗濯機、電子レ  ンジ、炊飯器、電気ポット、テレビ)が備え付けられている ・2011 年 6 月に雨樋が付いた ・風除室は 2011 年 11 月∼ 12 月にかけて徐々に増築された ・風除室ができたのと同じ時期に希望者に畳が提供された ・全ての住居の間取りは以下の仕様である。 (4人以上の家族には  続きで 2 軒分提供される、これと左右対称の部屋が並んでいる)

玄関 トイレ

キッチン

風呂

押入

四畳半居室

押入

六畳居室

掃出し窓

図 5-7 仮設大橋団地内観パース

災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー


041 第6章 心理的回復プロセスによる分類

第6章

心理的回復プロセスによる分類

6-1. 心理的回復プロセスの時間軸による    書き換え 6-2. 心理的回復プロセス曲線のタームに    よる分類  6-2-1. Ⅰ期についての分類・分析  6-2-2. Ⅱ期についての分類・分析  6-2-3. Ⅲ期についての分類・分析 6-3. 心理的回復プロセス曲線による分類

災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー


042 第6章 心理的回復プロセスによる分類

6-1. 心理的回復プロセスの時間軸による書き換え

実際に得た心理的回復プロセスに関するデータは以下の通りであ る。

2011 年 5 月

2011 年 6 月

2011 年 9 月

2013 年 10 月

災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー


043 第6章 心理的回復プロセスによる分類

これを、時間軸を一定としたグラフに書き換えると、以下のよう なグラフを得た。

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9

1年半

2013.3 2年

2013.10

2年半

これを前述の応急仮設住宅入居者 29 人へのアンケートとヒアリン グ、また、自宅再建者と自宅被害の無かった人 8 人へのヒアリン グにに対して行ったところ、次頁のような心理的回復プロセスの曲 線が得られた。

災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー


044 第6章 分析

仮設入居者

自宅再建者 被害なし 2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

10.2-①f

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

9.28-①

9.29-①

9.29-②

9.29-③

2011.3.11

9.30-①

2011.3.11

2011.9 半年

9.30-②f

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

9.30-②m

9.30-③

9.30-④m

9.30-④f

10.2-①m

10.2-②

10.2-③

10.2-④

2011.3.11

10.2-⑤

2011.3.11

2011.9 半年

10.4-①

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

10.5-②

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

自宅補修 60 代男性自営業

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

津波被害なし 30 代女性

10.5-③

10.5-④

10.6-①

10.6-②

10.7-①

10.7-④m

2012.3 1年

10.4-④

2012.3 1年

2013.10 2年半

2011.9 半年

10.4-③

2011.9 半年

10.7-④f

2011.3.11

10.4-②

2011.3.11

災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

津波被害なし 50 代女性

学習塾経営 40 代男性

自宅補修 30 代男性震災後自営業          ( 漁業用資材 )

自宅補修 60 代女性自営業       (老人ホーム)

自宅補修 30 代男性自営業   (震災後カフェ等経営)

自宅補修 50 代男性(会社員)


045 第6章 心理的回復プロセスによる分類

6-2. 心理的回復プロセス曲線のタームに    よる分類

第2章より、一般的な心理的回復プロセスの曲線をⅠ期、Ⅱ期、 Ⅲ期とし、それぞれの時期についての分析・考察を行った。 Ⅰ期:茫然自失期からハネムーン期に至るまでの過程 Ⅱ期:ハネムーン期から幻滅期に至るまでの過程 Ⅲ期:幻滅期から再建期へ向かう過程

積極的・発揚的

ハネムーン期

再建期

茫然自失期 幻滅期 消極的・抑うつ的

Ⅰ期

Ⅱ期

Ⅲ期

災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー


046 第6章 心理的回復プロセスによる分類

6-2-1. Ⅰ期についての分類・分析  一般的に、茫然自失期は被災直後数時間∼ 2,3 日、ハネムーン期 は1週間∼6ヶ月くらいと言われている。しかし、前述のように東 日本大震災では被害の規模があまりにも大きかったこともあり、ハ ネムーン期に至るまでの期間が人によって大きく異なる。  そこで、Ⅰ期における上昇のしかたを以下のように a、b、c のパ ターンに分類した。

a 2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

etc…

定説通り急激に上がってハネムーン期に入る人

b 2011.3.11

etc…

ゆっくり上がってハネムーン期に入る人

c 2011.3.11

ハネムーン期のない人

災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー

etc…


047 第6章 心理的回復プロセスによる分類

a に分類される人は一般的に言われている曲線と同じようなⅠ期 を過ごす。これに当てはまるのは、応急仮設住宅居住者 15/28 人 であり、大半の人が定説通り a に当てはまった。  彼らは定説通り「自分の家族の無事も確認しないうちから遺体を 運んだり、屋根に取り残されてる人を救出し」たり、 「避難所にい る薬が必要な人のために毎日病院まで薬をもらいに行った」りして 助け合った。また、仮設居住者で a に当てはまる人は全員、仮設住 宅に入るまでにⅠ期を終えていた。

災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー


048 第6章 心理的回復プロセスによる分類

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9

1年半

2013.3

2年

2013.10

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9

2012.3

2012.9

2013.3

2013.10

2011.3.11

2011.9

2012.3

2012.9

2013.3

2年半

2013.10 2年半

2013.10

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2011.3.11

2011.9

2012.3

2012.9

2013.3

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9

2012.3

2012.9

2013.3

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9

2012.3

2012.9

2013.3

2013.10

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9

2012.3

2012.9

2013.3

2013.10

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9

2012.3

2012.9

2013.3

2013.10

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

半年

半年

半年

半年

1年

1年

1年

1年

1年半

1年半

1年半

1年半

2年

2年

2年

2年

2年半

2年半

2年半

2年半

半年

半年

半年

1年

1年

1年

1年半

1年半

1年半

2年

2年

2年

a に属する応急仮設住宅入居者の心理的回復プロセス一覧(赤線は仮設入居時)

災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー

2年半

2013.10

2年半

2013.10

2年半


049 第6章 心理的回復プロセスによる分類

b に分類される人は定説よりもハネムーン期に至るまでの過程が 緩やかであり、その内訳は応急仮設住宅居住者9/28 人であった。 彼らは仮設に入居してからもまだハネムーン期への曲線の上昇が続 いていた。これらの人々は、 「在宅避難をするしかなく、避難所に いる人のように物資は全く貰えず炊き出しも私たちにとっては別世 界の話だった」り、 「避難所や親戚の家を転々とし、仮設が 5 ヶ所 目で、とにかく自分の部屋が欲しかった」人や、 「仮設に入るのだ けが楽しみだった」と話す人々であった。  これらの b に当てはまる人は定説よりもハネムーン期に至るまで の過程が緩やかであり、その内訳は応急仮設住宅居住者9/28 人で あった。応急仮設住宅居住者の場合は、仮設に入居してからもまだ ハネムーン期への曲線の上昇が続いていた。 (次頁心理回復曲線一 覧より)これらの人々は、「在宅避難をするしかなく、避難所にい る人のように物資は全く貰えず炊き出しも私たちにとっては別世界 の話だった」り、 「避難所や親戚の家を転々とし、 仮設が 5 ヶ所目で、 とにかく自分の部屋が欲しかった」人や、 「仮設に入るのだけが楽 しみだった」と話す人々であった。

災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー


050 第6章 心理的回復プロセスによる分類

2011.3.11

2011.9

2012.3

2012.9

2013.3

2011.3.11

2011.9

2012.3

2012.9

2013.3

2011.3.11

2011.9

2012.3

2012.9

2013.3

2011.3.11

2011.9

2012.3

2012.9

2013.3

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

半年

半年

半年

半年

1年

1年

1年

1年

1年半

1年半

1年半

1年半

2年

2年

2年

2年

2013.10

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10

2011.3.11

2011.9

2012.3

2012.9

2013.3

2013.10

2011.3.11

2011.9

2012.3

2012.9

2013.3

2013.10

2011.3.11

2011.9

2012.3

2012.9

2013.3

2年半

2年半

2年半

2年半

半年

半年

半年

1年

1年

1年

1年半

1年半

1年半

2年

2年

2年

2013.10 2年半

b に属する応急仮設住宅入居者の心理的回復プロセス一覧(赤線は仮設入居時)

災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー

2013.10 2年半

2013.10

2年半

2013.10

2年半

2013.10

2年半


051 第6章 心理的回復プロセスによる分類

c に分類される人は仮設居住者の 4 人であり、震災当時から大き な気持ちの変化がなく非常に遅くはあるけれども徐々に回復してき ている人、震災当時から気持ちの落ち込みが変わらない人、震災当 時よりむしろ今の方が気持ちの上では落ち込んできている人であ り、 「もう諦め」ていたり、今の応急仮設住宅での生活について「望 まない」と何度も繰り返す人や「疲れきって」いて「生きるのに必 死」と話す人たちであった。

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

c に属する応急仮設住宅入居者の心理的回復プロセス一覧(赤線は仮設入居時)

ここで、c に属する人々はⅡ期以降では分類されないため、c に属 する人々の分類を新たに A とする。

災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー


052 第6章 心理的回復プロセスによる分類

6-2-2. Ⅱ期についての分類・分析   一般的に、ハネムーン期は1週間∼6ヶ月、幻滅期は新聞の一面が その災害の報道ではなくなる頃に始まり、2ヶ月∼ 1,2 年程度と言 われているが、ヒアリングの結果より、幻滅期の無い人とある人が いた。  そこで、Ⅰ期において a、b に該当する人について d を幻滅期の 無い人、2013 年 10 月現在幻滅期を乗り越えた人、g を幻滅期の ある人で 2013 年 10 月現在まだ幻滅期を乗り越えていない人とし、 それぞれについて分析を行った。 d:幻滅期の無い人

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9

1年半

2013.3 2年

2013.10

etc…

2年半

f:幻滅期を終えた人

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2011.3.11

2011.9

2012.3

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9

1年半

2013.3 2年

2013.10

2年半

etc…

g:幻滅期の途中の人

半年

1年

2012.9

1年半

2013.3 2年

2013.10

2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9

1年半

災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー

2013.3 2年

2013.10

2年半

etc…


053 第6章 心理的回復プロセスによる分類

d に分類される人々は、タイハーストやラファエルの定義する一 般的な災害被災者の心理変化とは異なる曲線を辿る。幻滅期がない ため、気持ち的にはただ落ち着いてきていると話していた。これに 当てはまるのは、応急仮設住宅居住者 5/28 人であった。d に該当 する人は、「とにかく仮設に入ることになってほっとした。入った 時はその後のことは考えてない。弟→息子→親戚ときて仮設にきた のが5カ所目。それだと落ち着かない。とにかく自分の部屋が欲し かった。それまでも一部屋あてがわれたりだったので入ったときに 狭さは感じなかった。 」 「身障者かかえてるとだいぶ違う。旦那は自 分で何もできないからうちの場合は狭いから逆に捕まって歩ける。 広いよりはどうにかつかまれるので今のところ助かってる。 」と 話す人や、 「仮設に入るのだけが楽しみだった。 」 「広ければ広いな りに疲れも出るので広さに対する要望はない」 「入った途端にきれ いでびっくりした。想像をはるかに超えていた。 」 「入った時は安心 した。嬉しかった、何もかもそろっていて。グラフのように落ちる ことはなかった。 」 「住みやすさはいい。そう思ってる人はたくさん いると思う。借家のオンボロ家賃1万円くらい、トイレも汲取みた いなところに入ってたような人にとってはびっくりするほどいいと 思う。」と話す人など、今の生活空間に彼らが満足していることが 伺えた。

災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー


054 第6章 心理的回復プロセスによる分類

2011.3.11

2011.9

2012.3

2012.9

2013.3

2011.3.11

2011.9

2012.3

2012.9

2013.3

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2011.3.11

半年

半年

2011.9 半年

1年

1年

2012.3 1年

1年半

1年半

2012.9

1年半

2年

2年

2013.3 2年

2013.10

2年半

2013.10

2年半

2013.10 2年半

2013.10

2年半

d に属する応急仮設住宅居住者の心理的回復プロセス(赤線部は仮設入居時)

ここで、d に属する人々はⅢ期以降では分類されないため、d に属 する人々の分類を新たに B とする。

災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー


055 第6章 心理的回復プロセスによる分類

e に分類される人々は、少なくともⅡ期まではタイハーストやラ ファエルの定義する一般的な災害被災者の心理的回復プロセス通り の心理変化を辿る。これに属するのは応急仮設住宅生活者 15/28 人であり、大半の人が定説通りの心理変化をすることがわかる。こ こに属する人々は「朝ゴミ出しに行っておはようございます、 夜会っ たらこんばんはくらいでどうなることかと思った。 「当初はふれあいがないし会話も出ない。当初は無我夢中で、声か けても返ってこなければ次の日からはもうかけないとかだった。」 「入ったばっかりの時は一瞬楽になった。自分の物ではないけど ' 家 と呼べるものができたので。 」などと話し、応急仮設住宅に入居し たことで楽になった部分はあるものの、仮設入居という新しいコ ミュニティー自体と、さらに先のこと(住宅問題を含め、職など) に対する不安が明確に見え始めるために上記のような心理変化を辿 るものと考えられる。

災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー


056 第6章 心理的回復プロセスによる分類

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9

2012.3

2012.9

2013.3

2013.10

2011.3.11

2011.9

2012.3

2012.9

2013.3

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9

2012.3

2012.9

2013.3

2011.9

2012.3

2012.9

2013.3

2013.10

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2011.3.11

2011.9

2012.3

2012.9

2013.3

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2011.3.11

2011.9 半年

2011.3.11

半年

半年

1年

1年

1年半

1年半

2013.3 2年

2年

2年

2年半

2年半

半年

半年

半年

1年

1年

1年

1年半

1年半

1年半

e に該当する応急仮設住宅居住者の心理的回復プロセス

災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー

2年

2年

2年

2013.10

2年半

2013.10

2年半

2013.10

2年半


057 第6章 心理的回復プロセスによる分類

f に分類される人は、今現在も心理的な落ち込みが続いている人 である。これに属するのは応急仮設住宅生活者 5/28 人である。f に属する人々は「まだなかなか上がっては来ない。復興住宅ができ れば上がってくるんだろうけど。復興住宅に申し込んでいるが土地 自体が手つかずだしそれから 3 4 年かかる。もしかして建物建て れば 4,5 年。今が一番しんどいとき。 」 「もう2年半経ったからとい う人と、2年半しか経ってないという私たちの気持ちが少しずつず れてきてる。 」 「来た時は落ち着いたが、隣の声も聞こえるし隣の猫 は夜運動会だし、言ったらきりがない。前は持ち家で好き勝手でき たけど。これはどうしようもない。我慢も必要」などと話し、現在 の生活環境及び先の見えない状況からの強いストレスが続いている ことがわかる。

災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー


058 第6章 心理的回復プロセスによる分類

2011.3.11

2011.9

2012.3

2012.9

2013.3

2011.3.11

2011.9

2012.3

2012.9

2013.3

2011.3.11

2011.9

2012.3

2012.9

2013.3

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2011.3.11

2011.9

2012.3

2012.9

2013.3

半年

半年

半年

半年

1年

1年

1年

1年

1年半

1年半

1年半

1年半

2年

2年

2年

2年

2013.10

2年半

2013.10

2年半

2013.10

2年半

2013.10 2年半

2013.10

2年半

f に属する応急仮設住宅居住者の心理的回復プロセス(赤線部は仮設入居時)

ここで、f に属する人々はⅢ期以降では分類されないため、f に属 する人々の分類を新たに C とする。

災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー


059 第6章 心理的回復プロセスによる分類

6-2-3. Ⅲ期についての分類・分析  一般的に幻滅期は2ヶ月∼ 1,2 年程度、再建期が数年と言われて いるが、幻滅期からの心理回復の仕方にも順調に回復する傾向にあ る人と、なかなか回復する傾向にない人がいる。  そこで、Ⅱ期において e に分類される人について、g を順調に回 復する傾向にある人、h をなかなか回復する傾向にない人とし、そ れぞれについて分析を行った。

g:回復傾向にあるもの

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9

2012.3

2012.9

2013.3

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9

2012.3

2012.9

2013.3

半年

1年

1年半

2年

2013.10

2年半

h:回復傾向にないもの

半年

1年

1年半

災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー

2年

2013.10

2年半

etc…


060 第6章 心理的回復プロセスによる分類

g に分類される人は、Ⅰ期、Ⅱ期、Ⅲ期を通じてタイハーストや ラファエルの定義する災害被災者の心理的回復プロセス通りの心 理変化をする人である。これに属するのは、応急仮設住宅居住者 13/28 人であり、他に属する人に比べて割合的に最も多い。g に分 類される人は、 「昔からの知ってる人がぽつぽつ現れるようになっ てからはお茶のみしたりして、今までの暮らしと同じように感じる ようになってきた。前の友達が来たりして普通に笑えるようになっ た。」「人のためになにかをすることに関してなんとも思わない。進 んでいくらでもやる。 」 「慣れたから住み心地もあまり悪くない」 「ど うやったら暮らしやすいか考えながらやってきた。 」などと話す人 であり、応急仮設住宅での暮らしに隣近所との付き合いも含めてな じんできた人や、生活空間を自分たちにとってより住み良いものへ と工夫してきた人が多く見られた。

災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー


061 第6章 心理的回復プロセスによる分類

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2011.3.11

2011.9 半年

2011.3.11

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

g に属する応急仮設住宅居住者の心理的回復プロセス(赤線部は仮設入居時)

ここで、g に属する人々の分類を新たに D とする。

災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー


062 第6章 心理的回復プロセスによる分類

h に分類されるのは、幻滅期までは定説通りの心理変化を辿るも のの回復期への移行が非常に遅く、第2章で述べた「はさみ状格差」 が発生する可能性がおると考えられる人々である。これに属する のは応急仮設住宅居住者 2/28 人であるが、未だⅢ期に入っていな い人も今後 h に属する可能性がある。h に属する人々は「ものがそ ろってくると疲れを感じる余裕が出てくる。心が落ち着くことが逆 に疲れを呼ぶ」 「部屋の中にいると気分が落ち込んでくる」 「仕事も 失い、探さなければいけないけれども先が見えなくて」と話す人や、 「いつも頭の半分に津波があって最近疲れた。 」 「最初は家を壊す時 にあれもあったこれもあったとこっちに持ってきたらもので溢れて しまって。もの一つ一つに思い出があって捨てられない。片付けな いと何がどこにあるかわからないからついみんな並べてしまう」 「仮 設団地内に自分のいた地域の人がとても少ないので、そっちの人は 団結してるから蚊帳の外にいるような感じがする。 」などと話して おり、いずれも応急仮設住宅の自分の部屋を居心地のいいものと思 えていないことが伺えた。

災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー


063 第6章 心理的回復プロセスによる分類

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

h に属する応急仮設住宅居住者の心理的回復プロセス(赤線部は仮設入居時)

ここで、h に属する人々の分類を新たに E とする。

災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー


064 第6章 心理的回復プロセスによる分類

6-3. 心理的回復プロセス曲線による分類    6-2. より、応急仮設住宅居住者の心理回復プロセスは以下の A ∼ E に分類された。

A

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

B

C

D

E

7章以降ではこの分類をもとに分析を進める。

災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー


065 第7章 ストレス・指数・空間改造欲求による分析

第7章

ストレス・指数グラフ・空間 改造欲求による分析

7-1. 分析方法  7-1-1. ストレスの分析方法  7-1-2. 指数の分析方法 7-2. 空間改造欲求の評価 7-3. ストレス、指数、空間改造欲求による    分析  7-3-1. A E のストレスによる比較  7-3-2. A E の指数による比較  7-3-3. A E の空間改造欲求による比較 7-4. まとめ

災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー


066 第7章 ストレス・指数・空間改造欲求による分析

7-1. 分析方法 7-1-1. ストレスの分析方法

分析の一例を示す。  ストレスに関して得たデータは以下の表の通りである。 表 7-1 ストレスに関するアンケート結果の例

ストレスに関する質問は、すべて心理的に負の度合いを抽出する 内容になっている。したがって、得点の数値が大きいほどストレス が強いことを示す。表 7-1 のように時間が経過するに従って得点が 小さくなることは、ストレスが時間とともに減少し、心身が順調に 回復している傾向にあることを示す。

災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー


067 第7章 ストレス・指数・空間改造欲求による分析

(現在のストレス)―(応急仮設住宅入居時のストレス)                    =(ストレスの増減) として、前頁のストレスの減少をわかりやすく示したものが以下の グラフである。

図 7-1 応急仮設住宅入居時から現在に至るまでのストレスの増減

このように、全てがマイナスの値を記録する場合、ストレスに関 するアンケートの全項目において順調にストレスが減ってきている ことがわかる。

災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー


068 第7章 ストレス・指数・空間改造欲求による分析

7-1-2. 指数の分析方法  分析の一例を示す。  ストレスに関して得たデータは以下の図の通りである。

図 7-2 応急仮設住宅入居時から現在に至るまでの指数の増減

自立意欲指数、世作り意欲指数、家族の絆指数は共に状態が良い ほど高得点を記録し、にごり度は状態が悪いほど高得点を記録する。 そこで、 (現在の指数)―(応急仮設住宅入居時の指数)=(指数の増減) とすると、自立意欲指数、家族の絆指数、世作り指数に関しては上 図のように値が高いほど回復傾向にあり、にごり度についてはその 値が低いほど回復傾向にあると言える。

災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー


069 第7章 ストレス・指数・空間改造欲求による分析

7-2. 空間改造欲求の評価    応急仮設住宅生活者の空間を改造し、より自分の生活に適した空 間に変えたいという欲求を以下の6段階で評価した。

0 点…空間に関する要望や自身の手により自分に適したものを造ろ    うとする意思や努力が全く見られないもの 1点…空間に対する要望はあるものの、抽象的でわり、具体的な改    改造案か示されていないもの 2点…空間に対する要望があり、具体的な改善案まで明言している    もの 3点…実際に棚等を取り付け、物質的な側面で改造しているもの 4点…実際に建具を取り外す等、内部空間自体を改造しているもの 5点…実際に増築をする等、空間自体の改造が外部から見てわかる もの

0∼2点についてはヒアリングの結果、3 5 点については写真、ス ケッチからの目視により判断した。

災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー


070 第7章 ストレス・指数・空間改造欲求による分析

評価例

トイレ壁打抜 棚取り付け

ガレージ増築

スケッチ及び写真より、この家の居住者の空間改造欲求は 5 と評価する

災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー


071 第7章 ストレス・指数・空間改造欲求による分析

表 7-2 空間改造欲求一覧

災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー


072 第7章 ストレス・指数・空間改造欲求による分析

7-3. ストレス・指数・空間改造欲求による分析    7-3-1. A E のストレスによる比較  6章で分類した A E について、ストレスの項目ごとに現在の状 態の比較と応急仮設住宅入居当時から現在に至るまでのストレスの 増減の比較を行った。

表 7-3 現在のストレス平均表 (2013 年 10 月)

表 7-4 現在のストレス増減平均表(2013 年 10 月)

災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー


073 第7章 ストレス・指数・空間改造欲求による分析

図 7-3 現在のストレス平均グラフ(2013 年 10 月)

災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー


074 第7章 ストレス・指数・空間改造欲求による分析

図 7-4 現在のストレス増減平均グラフ(2013 年 10 月

災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー


075 第7章 ストレス・指数・空間改造欲求による分析

表 7-3 より、現在のストレス平均の合計値を見てみると、A、E の合計値が B、C、D に比べて高いことがわかる。また、C も B、D に比べると比較的高いが、これは C がまだ今もⅡ期を終えておら ず幻滅期にいることを考えれば妥当である。さらに、表 7-4 のス トレス増減平均の合計値と図 7-4 から、A の -5.5、E の +3 に対し て C の -15.2 と、差が顕著であり、応急仮設住宅入居後から現在ま でに大幅なストレス軽減が起きていることがわかる。つまり C は、 現状のストレスは依然として高いものの、顕著な回復傾向にあるこ とがわかる。また、項目別に見ると、増減の項目数は下記の表の通 りである。

表 7-5 ストレス増減項目数

この表より、項目数としては D が全ての項目、C がほぼ全ての項 目で減少しており、心理的に顕著な回復傾向にあることがわかる。 B は大きくストレスが減少しているとは言えないが、仮設入居時の ストレスが D に次いで少ないため、ストレスの減少度合いが多少 少なくても、心理的な回復は順調であると考えられる。A はストレ スの増減項目数としては減少しているものが比較的多いが、表 7-3 より現在のストレス状態が E に次いで強いため、まだ順調な回復傾 向にあるとは言い難い。E は、 (ストレスの増加項目数)―(ストレスの減少項目数)= 0 であり、A E の中で、ストレスの減少項目数がストレスの増加項目 数以下であった。したがって、心理的な回復が最も不順であること がわかる。  以上より、仮設入居時からのストレス変化から考えると D が心 理的な回復が最も順調であり、次いで C、B が順調である。A は現 在もストレスが B,C,D に比べて強く、心理的回復はやや不順である。 E はストレスの強さとストレス減少傾向の不順さから、最も心理的 な回復が不順である。

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076 第7章 ストレス・指数・空間改造欲求による分析

7-3-2. A E の指数による比較  6章で分類した A E について、指数の項目ごとに現在の状態の 比較と応急仮設住宅入居当時から現在に至るまでの指数の増減の比 較を行う。

表 7-6 現在の指数平均表(2013 年 10 月)

表 7-7 現在の指数増減平均表(2013 年 10 月)

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077 第7章 ストレス・指数・空間改造欲求による分析

図 7-5 現在の指数平均グラフ(2013 年 10 月)

図 7-6 現在の指数増減平均(2013 年 10 月)

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078 第7章 ストレス・指数・空間改造欲求による分析

図 7-10 より、現在の 3 指数の合計値を見てみると、B,C,D に比 べ A,E が非常に低いことがわかる。また、博報堂の生活インデック スレポートの全体平均結果と比べてみると、自立意欲指数の全体平 均 63.6 点に対して A,E は低い数値を、 B,C,D は高い数値を記録した。 また、図 7-13 より、自立意欲指数は A,C の増加が多く、C はⅡ期 の幻滅期の中で自立意欲を高めてきていることがわかる。A もその 増加具合から、現在の自立意欲は比較的低いながらも回復のしかた として入居当時より自立意欲が低下している E より回復が順調であ ると考えられる。家族の絆指数でも平均 68.4 点に比べ、A,E は低 い数値を、B,C,D は高い数値を記録した。これは、B,C,D に比べ A,D の方が一人暮らしの人が多いことも大きな原因と考えられる。世作 り意欲指数では、全体平均 40.5 点に比べ、A E 全ての分類で平均 点より高い得点が記録されたが、唯一 E は世作り意欲が入居当時 より低下している点から心理的な回復が不順であるように考えられ る。  にごり度については点数が高いほど心理的に負の要素が強い。図 7-5 と図 7-6 より現在 B が特に低くその減少程度も最も大きいため、 B の心理的な回復が非常に順調であると考えられる。C の現在のに ごり度が A に次いで高いことと入居当時より指数が高くなってい ることは、彼らがⅡ期の只中におり、幻滅期を超えていないため 妥当であると考えられる。A のにごり度は入居当時に比べると多少 減って入るものの、現在のにごり度が依然として突出して高いこと から、A の心理的な回復が不順であることがわかる。  以上4つの指数より、B,C,D の心理的な回復が A,E に比べて安定 して順調であることがわかる。

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079 第7章 ストレス・指数・空間改造欲求による分析

7-3-3. A E の空間改造欲求による比較  6章で分類した A E について、現在の空間改造欲求による比較 を行う。

図 7-7 空間改造欲求(2013 年 10 月)

ストレス及び指数のデータ分析より、D の心理的な回復が非常に 順調であり、B,C が順調、A がやや不順、E が不順であることがわ かった。これと図 7-7 の空間改造欲求のグラフを比べると、心理的 な回復が最も順調な D が空間改造欲求が最も高く、 次いで順調な B,C が高く、不順な A,D が空間改造欲求が B,C,D に比べ1point 以上の 差を付けて低い。

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080 第7章 ストレス・指数・空間改造欲求による分析

7-4. まとめ    以上より、心理的な回復傾向が順調な人と空間改造欲求が強い人 に相関関係があることがわかった。

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081 第8章 空間改造欲求の違いによるケーススタディ

第8章

空間改造欲求の違いによる        ケーススタディ

8-1. 空間改造欲求 5 と 4,3,2,1,0 の違いによる                 外観の比較 8-2 空間改造欲求 5,4 と 3,2,1,0 の違いによる       内観の空間的な事象に関する比較 8-3. 空間改造欲求 5,4,3 と 2,1,0 の違いに       よる内観の物質的な事象に関する比較 8-4. 空間改造欲求 5,4,3 と 2,1,0 の違いに             よる風除室の様子の比較

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082 第8章 空間改造欲求の違いによるケーススタディ

第 7 章、第8章で定義した A,B,C,D,E の分類と空間改造欲求の対応 は以下の表の通りである。

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083 第8章 空間改造欲求の違いによるケーススタディ

8-1. 空間改造欲求 5 と 4,3,2,1,0 の違いに              よる外観の比較    空間改造欲求が強い人は自らの生活を「仮の住まいとは言えど長 期的に住むのだからより使いやすい方がいい」と考え、外部から見 てとれるような改造をしている。以下にその事例を示す。

数 m 先は向かい の玄関

ベンチ

砂利

空間改造欲求 1 の人 一般的な掃出し窓側の様子

空間改造欲求 5 の人

掃出し窓の外にガレージを増築している

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084 第8章 空間改造欲求の違いによるケーススタディ

空間改造欲求5

空間改造欲求5

掃出し窓の下にレンガを敷き詰め、 「殺風景だった」

掃出し窓の外にサンルームを増築している

のを解消している。

空間改造欲求5

掃出し窓の外に新たに玄関を増築している

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085 第8章 空間改造欲求の違いによるケーススタディ

風除室は市によって 2011 年 11 月∼ 12 月に 徐々に増築された

空間改造欲求 1 4 の人 一般的な玄関側の様子

空間改造欲求5

市によって風除室が増築される以前に自ら風除室を増設している

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086 第8章 空間改造欲求の違いによるケーススタディ

空間改造欲求5

風除室の外に憩いの場を増築している

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087 第8章 空間改造欲求の違いによるケーススタディ

空間改造欲求5

増築された風除室を改築し繋げて室内のようにして 利用している

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088 第8章 空間改造欲求の違いによるケーススタディ

8-2. 空間改造欲求 5,4 と 3,2,1,0 の違いに    よる内観の空間的な事象に関する比較

空間改造欲求 0 の人

建具等は入居当時のままで、棚等も新たに取 り付けていない。家具もあくまで簡易的なも のが多い。

空間改造欲求 4 の人

建具を自ら取り外し、絨毯を続けて敷いて二間をワン ルームのようにして使っている。家具も簡易的なもので はなく、恒久住宅へ移行してからも使うつもりの高価な ものを買っている。 災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー


089 第8章 空間改造欲求の違いによるケーススタディ

空間改造欲求 4 の人

建具を自ら取り外し、絨毯を続けて敷いて二間をワン ルームのようにして使っている。持っている荷物の量に 対して収納が十分であり、整然とした部屋である。

空間改造欲求 4 の人

押し入れを開け放し部屋の一部として使用している。また、 新たにカーテンレールを設け、必要な時に部屋を仕切るな ど、空間をコントロールできている。

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090 第8章 空間改造欲求の違いによるケーススタディ

空間改造欲求 5 の人

市によって作られた方の通路

二続きの部屋のトイレの壁を自ら打ち抜き、新たな通路を作っている。これは中学 生の息子の部屋を通らなければ入浴、洗面台へ行けなかった間取りであったため、 年頃の息子のプライバシーを守るために講じた策である。この事実から、家族の中 でも震災前の人と人との関係性をなるべく保つように生活空間を再編しようとする 試みが読み取れる。

同様の事象として、(多くの家庭で真ん

玄関 トイレ

キッチン

中の四畳半の部屋を寝室とて使用してい るのだが)客を入れるときに寝室を見ら

風呂

れてしまうのでプライバシーがなく、こ 押入

四畳半居室

押入

の仮設の間取りが嫌であるという声を多 く聞いた。それらの人々も、外の人に対 しての応対という面で、人と人との関係

六畳居室

掃出し窓

性を生活する空間の中で震災前と同じよ うに保ちたいという意思が表れているも のと読み取れる。

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091 第8章 空間改造欲求の違いによるケーススタディ

8-3. 空間改造欲求 5,4,3 と 2,1,0 の違いに

よる内観の物質的な事象に関する比較

空間改造欲求 1 の人の内観

棚等の収納物を一切取り付けていないが、それに対して家具以外 の荷物の量が非常に多く、中央の4畳半の部屋の大半を洋服等の 荷物が埋め尽くし、部屋が通路になってしまっている。

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092 第8章 空間改造欲求の違いによるケーススタディ

空間改造欲求1の人の内観

棚等の収納物を一切取り付けていないが、それに対して家具以外 の荷物の量が非常に多く、中央の4畳半の部屋の大半を洋服等の 荷物が埋め尽くし、部屋が通路になってしまっている。

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093 第8章 空間改造欲求の違いによるケーススタディ

空間改造欲求1の人の内観

棚等の収納物を一切取り付けておらず、それに対して家具以外の荷物の量が非常に多く、 中央の4畳半の部屋の大半を洋服等の荷物が埋め尽くし、部屋が通路になってしまってい るまた、居室も 6 畳よいう空間に対して多くの家具や荷物を持ち込みすぎてほとんど通 る場所しかなくなっている。また、来客が寝室を通って居室に入るためプライバシーを保 てず、 「ご飯をつくってわざわざ部屋をまたいで居間まで持ってこなければ行けないのが ひどい。 」と部屋のレイアウトの悪さも指摘している。

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094 第8章 空間改造欲求の違いによるケーススタディ

空間改造欲求2の人の内観

部屋の広さに対して持ち込んでいる家具や荷物の量が多すぎて収拾のつかない状態になっ ている。4畳半の部屋は完全に荷物置き場となり、その通り道に辛うじて布団を敷いて寝 ている状態である。

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095 第8章 空間改造欲求の違いによるケーススタディ

空間改造欲求 3 の人の内観

空間改造欲求が 0,1,2 の人が平面的な空間の使い方をしているのに対して、カラーボック スを壁に打ち付けたり棚を取り付ける等、立体的な空間の使い方をしているため、部屋の 中も整然としている人が多数である。

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096 第8章 空間改造欲求の違いによるケーススタディ

空間改造欲求 4 の人の内観

空間改造欲求が 4 の人は、前述のように建具を取り外したり新たな間仕切りを設けたり 新たにただ掛けるだけでなくカーテンでしまってしまえるクローゼットをするなど、空間 改造欲求が 3 の人よりもさらに工夫を凝らした空間の使い方をしている。また、空間改 造欲求4,5 の人は入った時に必要で設置しただけではなく生活していく中で思いつく小 さな改造を継続的に行っている傾向がある。

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097 第8章 空間改造欲求の違いによるケーススタディ

空間改造欲求 5 の人の内観

空間改造欲求が 5 の人は、4 の人よりもさらに部屋の使い方が整然としており、まさに「自 分の好みの部屋」に作り上げている。タペストリーや飾り用の小テーブルや飾りの植栽な ど、 「どうやったら暮らしやすいか考えながらやってきた」というのが体現された部屋で ある。

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098 第8章 空間改造欲求の違いによるケーススタディ

8-4. 空間改造欲求 5,4,3 と 2,1,0 の違いに

よる風除室の様子の比較

空間改造欲求 0

空間改造欲求 1

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099 第8章 空間改造欲求の違いによるケーススタディ

空間改造欲求 2

空間改造欲求 0,1,2 ではいずれも風所室内が雑然とした様子が見受 けられる。これらの人々は風除室を屋外空間として利用している。

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100 第8章 空間改造欲求の違いによるケーススタディ

空間改造欲求 3

棚を取り付けることで室内の空間の延長として利用している

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101 第8章 空間改造欲求の違いによるケーススタディ

空間改造欲求 4

棚等を取り付けることで空間改造欲求 3 の人と同様に室内 の空間の延長として利用している。空間改造欲求 0,1,2 の人 に比べて整然としている。

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102 第8章 空間改造欲求の違いによるケーススタディ

空間改造欲求 5

砂利を除けてタイルを敷いたり新たに床を取り付けたりする ことで空間改造欲求 3,4 の人と同様に室内の空間の延長とし てより高度な使い方をしている。

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103 第8章 空間改造欲求の違いによるケーススタディ

8-5. まとめ    以上のケーススタディより、空間改造欲求の低い人は応急仮設住 宅という空間をそのもまま受け入れ、空間の使い方としても平面的 な使い方をしている人が多かった。一方、空間改造欲求の高い人ほ ど空間的に様々な工夫を凝らし、応急仮設住宅の空間を、家族内で の人間関係や利便性の上でより暮らしやすい空間に変えていること がわかった。

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104 第9章 早期に恒久住宅を確保できた人の心理的回復

第9章

早期に恒久住宅を確保できた人         の心理的回復

9-1. 早期に恒久住宅を確保できた人の           心理的回復プロセス 9-2. 自力再建の事例 9-3. まとめ

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105 第9章 早期に恒久住宅を確保できた人の心理的回復プロセス

9-1. 早期に恒久住宅を確保できた人の           心理的回復プロセス

応急仮設住宅に入らず、すでに恒久住宅を確保した人の心理的回 復プロセスは以下の通りである。第6章、第7章の心理的回復プロ セスとストレスの相関関係、および心理的回復プロセスの曲線が基 準線を安定して越えている点から、自力再建した人々の心理的な回 復が仮設居住者の心理的回復が順調な人よりもさらに良好であるこ とがわかる。これらの人々は、大半の応急仮設住宅居住者に共通し てある先の生活がどうなるか見えないことから来る不安感がないた めに、多くの仮設居住者に見られる幻滅期がほぼ全ての人に見られ ない。また、自力再建した人のほぼ全員が震災後すぐに、自宅再建 に向けてのやボランティア、経営している老人ホームの入居者の世 話など、積極的な行動を取っており、ハネムーン期の発揚的な気持 ちを保ったまま自力再建をして恒久住宅に移行できていることがわ かる。また、現在仮設に住んでいるが、すでに終の住処としてのト レーラーハウスを購入した人の心理的な回復も、すでに基準線を越 えて安定しており、まだ見通しの立たない多くの仮設居住者に比べ て順調であることがわかる。

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106 第9章 早期に恒久住宅を確保できた人の心理的回復プロセス

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

自宅補修 30 代男性震災後自営業          ( 漁業用資材 )

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

自宅補修 50 代男性(会社員)

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

2011.3.11

2011.9 半年

2012.3 1年

2012.9 1年半

2013.3 2年

2013.10 2年半

津波被害なし 50 代女性

学習塾経営 40 代男性

自宅補修 60 代女性自営業        (老人ホーム)

津波被害なし 30 代女性

自宅補修 30 代男性自営業    (震災後カフェ等経営)

自宅補修 60 代男性自営業

図 9-1 既に自力再建した人々の心理的回復プロセス一覧

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107 第9章 早期に恒久住宅を確保できた人の心理的回復プロセス

9-2. 自力再建の事例

現在応急仮設住宅に入居中で、恒久住宅としてトレーラーハウスを購入した人の事例。 なるべくお金をかけないようにと考えて、固定資産税が発生しないように基礎を打っ ていない。しかしそれ故に住宅再建支援金の 200 万円を受け取ることはできず、不満 を抱えていた。また、土地のかさ上げをすればかさ上げ金の半額が市から下りるとい う制度も彼女がトレーラーハウスを設置した後にできたため、全てが後手後手になっ ていて何のための補助かわかったものではないと不満を口にしていた。 (トレーラーハ ウス自体の金額が 500 万円、水道、ガス、電気の設置に 150 万円程度)

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108 第9章 早期に恒久住宅を確保できた人の心理的回復プロセス

被災直後の様子

再建後の様子

自力再建した人の事例その1。全壊扱いの地域。津波で基礎ごと元の場所からずれてし まっているが、生活に支障がないためそのままに。1ヶ月後∼2ヶ月半で元の状態に修復 した。直後だったため、工務店が値上がりする前で、ガス給湯器交換、配管、床の張り替 え、ガラスの張り替えの最低限のことのみに絞り、計 150 万弱で再建した。

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109 第9章 早期に恒久住宅を確保できた人の心理的回復プロセス

被災直後の様子

再建中の様子

再建後の様子  自力再建した人の事例その2。全壊扱いの地域。1階の天井まで波が来たが、構造に問 題がなかったためボランティアの協力を得て全て自らの力で 1 年半かけて再建した。工 務店に頼めば 1000 万円を超えるところを 580 万円で再建できた。

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110 第9章 早期に恒久住宅を確保できた人の心理的回復プロセス

被災直後の様子

再建後の様子

自力再建した人の事例その3。全壊扱いの地域。家の中に津波が 2m くらいまで入った。 瓦礫を片付け床をはがし、内装のクロス、断熱材まで自分で取り除いて3ヶ月ほど乾燥さ せた後、9月から3ヶ月ほどかけて工務店に頼んで修理した。1200 万円かかったと語っ た。

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111 第9章 早期に恒久住宅を確保できた人の心理的回復プロセス

9-3. まとめ    今回調査させていただいた自力再建者は皆、津波の進路や立地の おかげで運良く修理して再建することができた人々であった。しか し、同じような家の被害状況でも「解体に費用がかからないからと いって直せば住める状態の家を取り壊してしまったような人もい」 たそうだ。そういった人たちのことを自力再建した人たちは「自分 だったら絶対に直して住むのに」口を揃えていた。自ら早期恒久住 宅確保への道のりを閉ざしてしまった人もいるのに対して自力再建 した人たちは被災後非常に発揚的になり、そのままの流れで恒久住 宅を確保できたというケースが非常に多かった。

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112 第10章 総括

第10章

総括

10-1. 結論 10-2. 展望

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113 第10章 総括

10-1. 結論  本研究では応急仮設住宅に住まう人の心理的な回復と応急仮設住 宅内における空間改造欲求の関係を明らかにすることを目的として 進めてきた。応急仮設住宅入居者の心理的な回復プロセスは A:ハネムーン期がなく、ほぼ横ばいの人 B:ハネムーン期があり、幻滅期がなく、だんだん気持ちが落ち着いてきている人 C:ハネムーン期があり震災後2年半経ってまだ幻滅期の「底」に向かって落ち続けている人 D:ハネムーン期も幻滅期もあり、幻滅期から既に回復してきている人 E:ハネムーン期があり、幻滅期に入ったまま抜け出せない人

の5種類に分類された。さらに、ストレス、指数、と上記の5分類 との関係性が明らかになり、A,E に分類される人が心理的な回復と しては不順、B,C,D に分類される人が心理的な回復が順調であるこ とが得られた。空間面におけるケーススタディと合わせた分析の結 果、応急仮設住宅内で生活空間に関する様々な工夫をしている人ほ ど心理的な回復が順調な傾向にある。一方、応急仮設住宅という空 間をそのまま受け入れているは空間の使い方が平面的で室内空間が 雑然としており、心理的な回復も不順であるというケースが多々見 られた。また、仮設に住まずに恒久住宅へ移行できたケースと比較 しても早期恒久住宅確保が心理的な回復と大きな関係があることが わかった。

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114 第10章 総括

10-2. 展望  本研究では応急仮設住宅居住者の心理的な回復と空間改造欲求の 関係性が明らかになったが、この事実は建築を作る側からの新たな 提案として、空間改造欲求が満たされやすい空間を提供することが できれば、心理的に順調な回復を促進することを示唆するものであ る。また、空間改造欲求が満たされやすい空間の提案とは、その時 その状況にあわせて居住者が自由に変えられる可変的な建築を意味 するものであり、建築の可変性を体現することができれば応急仮設 住宅というプロセス自体を覆す可能性を有している。今回は応急仮 設住宅に住まう人に焦点を絞ったが、自立再建した人ほど心理的な 回復が早いという事実から応急仮設住宅に入居している以外の人に 対しても「避難所→仮設住宅→復興住宅→恒久住宅」という過程に おいて、より早い恒久住宅確保のためにどういった「もの」を提供 できるかを明らかにすることについては今後の課題としたい。

災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー


115 第10章 総括

謝辞    最後になりますが、本論文の執筆にあたりご指導くださった渡辺仁史先生、 中村良三先生、林田和人先生、何度も相談に乗ってくださりアイデアを出し てくださった小林恵吾先生、毎日添削してくださった馬淵さん他研究室の先 輩方に心より感謝致します。  また、調査にあたってご協力くださり、自治会長を始め多くの方々を紹介 してくださり、調査期間中最後までずっと気にかけてくださった阿部友一さ ん、調査を始めたばかりでまだ慣れない質問にも熱心にご協力くださった熊 谷きみ子さん、快くご協力くださった伊藤卓さん、集会所でご協力いただけ る方を募ってくださった阿部幹夫事務局長、ご協力くださる方を紹介してい ただき調査後も気にかけてくださった阿部達夫さんご夫妻、仮設団地の自治 会事情や被災当時のことを詳しくお話しくださった山崎信哉自治会長、報道 されていないけれども事実としてあった悲しい話を何時間も惜しみなく話し てくださった鈴木あけみさん、調査後に私のために石巻の美味しい魚をたく さん御馳走してくださった菅野さん、思い出したくないような悲しい話や他 の人には話さないようなことまでお話しくださった松本美由紀さん、仮設大 橋団地に住まいながら毎日宿泊先のホテルでおいしい朝ご飯を作ってくださ り調査にも快くご協力くださった武山美香さん、プレ調査でも本調査でも晩 御飯を御馳走してくださり、「石巻のお父さんとお母さんだよ」とまで言って くださった須田さんご夫妻他仮設大橋団地の皆様ならびに、自立再建した家 にお招きくださり何時間もお話いただき他の自立再建した方を何人もご紹介 くださった長井さん、調査にご協力いただき被災直後の救えなかった命の話 をしてくださった菊地さん、目に涙を浮かべながら復興の話をしてくださっ た蛤浜の亀山さん、何度も御馳走してくださり調査期間中自転車を貸してく ださって「もう石巻のお父さんとお母さんだね。2階空いてるんだからいつ でも泊まりにきたらいいよ」と言ってくださった石巻の2人目お父さんとお 母さんと言える齋藤ヨシ子さん喜久男さんご夫妻他、石巻でお話してくださっ た全ての方々に感謝致します。本研究を進めるにあたって、一人一人の「声」 をお聞きできたこと自体が何事にも代え難い価値あるものと思っております。  この経験を決して無駄にすることのないよう、私自身この研究を継続し、 たった一人でも心から笑えるようにするためのお手伝いができるよう努力し ていく所存です。

本当にありがとうございました。 2013 年 11 月 2 日 小野山 賀惠

災害時応急仮設住宅における被災者の空間改造欲求と心理的回復ー東日本大震災仮設大橋団地の調査からー


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